JP5304416B2 - 電力変換回路 - Google Patents

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Description

本発明は電力変換回路に関し、特に従来のものと比較して、同じ耐圧・定格電流を有し、高速にスイッチング可能なスイッチング素子を用いた場合に、その高速性を有効に活用することができる電力変換回路に関する。
シリコン(以後、Siともいう)よりもバンドギャップがワイドな炭化珪素半導体(以後、SiCともいう)あるいはIII族窒化物半導体(以後、GaNまたはAlGaN等ともいう)を用いて高耐圧パワーデバイスを作製すると、オン抵抗を大幅に低減できる可能性がある。SiCを用いた耐圧1〜1.2kV級のMISFET(Metal-Insulator-Semiconductor Field Effect Transistor)によって、5mΩcm2以下のオン抵抗が得られており、これは、同じ耐圧クラスのSi製のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistors)に比較して、オン抵抗が半分以下である。今後、コスト開発と性能向上が進めば、インバータ部品としてSiCを用いたパワーデバイスがシリコン製IGBTの大半を置き換える可能性も考えられる。
SiCやAlGaN等を用いることでオン抵抗を大幅に低減できるのは、SiCやAlGaN等が高い絶縁破壊電界を有するので、同じ耐圧を実現するために、耐圧層を薄く、また、耐圧層のドーピング量を高くすることができることにより、耐圧層の抵抗をSiに比べて2桁以上低減できるためである。
こうした高耐圧パワーデバイスを用いる回路構成として、従来、IGBTを用いて構成されてきた回路、あるいは、小容量・(相対的に)低電圧用にSiのMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)を用いて構成されてきた回路を用いる検討がなされてきている。
図10は一般的なハードスイッチング方式による電力変換回路を示す回路図、図11は一般的なマルチレベル変換器の例を示す図、図12は一般的な電圧共振型ソフトスイッチング方式の回路の例を示す図、図13は一般的な電流共振型ソフトスイッチング方式の回路の例を示す図である。
図10に示す電力変換回路は、いわゆるハードスイッチング方式の回路であり、従来、IGBTを用いて広く構成されてきたものである。この電力変換回路は、直流電源V0の正負極間に、対になったスイッチング素子M1,M2が設けられ、これと並列に、還流ダイオードD1,D2が設けられる。スイッチング素子がIGBTの場合は、逆方向(図10の上向き)には電流が流れないため、外付けの還流ダイオードD1,D2が必要であるが、スイッチング素子がMOSFETの場合は、内蔵ボディーダイオードを還流ダイオードD1,D2として用いることができる。スイッチング素子M1,M2の中間点である出力点NMには、誘導性の負荷LLが接続される。なお、図10では簡単のため、1相分の回路のみを描いてあるので、負荷LLの反対側が切れてしまっているが、単相の負荷であれば、負荷LLの反対側は、同様の構成を有する電力変換回路の出力点が接続され、3相以上の負荷であれば、同様の構成を有する電力変換回路に接続された同様の負荷同士が1つにまとめて接続されることになる。
一般に、半導体素子は、移動度の関係でシリコンではn型というように半導体材料によってn型またはp型のどちらかの特性が優れているため、スイッチング素子M1,M2は、同極性のものが用いられる。そのため、図10に示したように、直流電源V0の負極側(下アームという)に接続されたスイッチング素子M2を制御する制御回路G2の基準電位は、直流電源V0の負極電位になるのに対し、直流電源V0の正極側(上アームという)に接続されたスイッチング素子M1を制御する制御回路G1の基準電位は、出力点NMになる。スイッチング速度を制御するため、スイッチング素子M1と制御回路G1、およびスイッチング素子M2と制御回路G2との間には、それぞれゲート抵抗R1,R2が設けられる。なお、スイッチング素子を阻止状態から導通状態に変えるターンオン時と、逆にスイッチング素子を導通状態から阻止状態に変えるターンオフ時とでは、ゲート抵抗の値が異なることが一般的であるが、簡単のため、図10では省略してある。
ところで、出力点NMの電位は、直流電源V0の負極電位から正極電位まで変化するため、制御回路G1およびG2に与えられる制御信号は、電気的に絶縁される必要があるので、高圧電力変換回路においては、フォトカプラのような絶縁性の信号伝達素子が用いられている。このような素子は、その基準電位が急激に変化すると誤動作する可能性があるので、一般に、出力点NMの電位の時間変化率(以後、電位・電圧を問わず、その時間変化率をdV/dtと略記することがある)は、たとえば10kV/μs以下である、という一定の制限が設けられている。
電力変換回路にあっては、スイッチング素子に流れる電流の時間変化率(以後、dI/dtともいう)の制約もある。スイッチング素子の種類(IGBT等)によっては、dI/dtが高すぎると、局所的に電流が集中して破壊する場合もあるが、回路上の理由による制約もある。そのひとつに、ターンオフ時に発生する電圧サージがある。たとえばスイッチング素子M2をターンオフする場合であれば、直流電源V0・負荷LL(スイッチング素子M2をターンオフする状況下では、この電力変換回路と反対側は、等価的に直流電源V0に接続されている)・スイッチング素子M2からなる閉回路には、図10には記載しない浮遊インダクタンスが存在している。スイッチング素子M2をターンオフすると、負荷LLを流れる電流は、還流ダイオードD1に流れるので、特に問題は起きないが、浮遊インダクタンスに流れる電流は、ターンオフに伴って減少するから、浮遊インダクタンスの値とdI/dtとに比例する誘導起電力を生じることになり、これが出力点NMに重畳して電圧サージとなる。電圧サージは、最悪は負荷側での絶縁破壊を引き起こすので、その値については一定の制約がある。この観点から、通常の電力変換回路にあっては、なるべくインダクタンスを生じないような注意が払われている。
ところで、図11に例示するようないわゆるマルチレベル変換器は、例外のように思われるかもしれない。このマルチレベル変換器は、非常に高い電源電圧を扱う用途に用いられている。この場合、直流電源V0の正極側と負極側とに対になって、多数のスイッチングユニットSUが直列に接続され、出力点NMとの間にはインダクタL1,L2が設けられている。このマルチレベル変換器が例外的に出力点NMに接続されるインダクタL1,L2を有するのは、スイッチングユニットSUがその両端電圧に関係なく定格内の任意の電流を流し得る性質を有することを要件としているためである。単独のパワーデバイスで、この要件を有効に満たすものは知られておらず、多くの場合には、スイッチングユニットSU自身が、また異なる電力変換回路から構成されている。たとえば、スイッチングユニットSUは、本発明に係る電力変換回路を含むこともできる。したがって、マルチレベル変換器は、本発明とは趣旨を異にするものと解するべきである。
さらに、直流電源の正極と負極との間の直流電流経路に、スイッチング素子およびリアクトルを直列に接続して構成される電力変換装置も知られている(たとえば、特許文献1参照)。リアクトルには、還流ダイオードが並列に接続されている。ただ、この電力変換装置においても、スイッチング素子に接続されるリアクトルを有するのは、直流電源の正極と負極との間の短絡異常を検出することを目的としている。そのために、スイッチング素子の短絡事故等によりリアクトルに過電流が流れると、還流ダイオードには逆電圧が印加されるが、その逆電圧を制御部が検出して異常と判断し、当該スイッチング素子をオフにする構成としている。したがって、この特許文献1に記載の電力変換装置は、リアクトルを主電流の過電流検出用に使用しているので、本発明とは趣旨をまったく異にするものである。
さて、前記のように、dV/dtおよびdI/dtに制限があるので、スイッチング素子の動作速度には、一般に上限がある。一方、スイッチング速度が遅くなりすぎると、一般にはスイッチング素子に0ではない電圧が印加されたまま電流が流れる時間が長く続くことになり、これによってスイッチング損失が増大するので、好ましくない。スイッチング速度の調整には、ゲート抵抗を調整することが、一般に行われている。
ここで、ゲート抵抗の調整について、簡単のため、図10のスイッチング素子M2がSiCのトレンチ型MOSFETである場合を例にとって説明する。
ターンオフに際しては、制御回路G2の出力電圧が下がると、ゲート抵抗R2を介してスイッチング素子M2のソース・ゲート間容量が放電するので、ソース・ゲート間電圧(以後、単にゲート電圧という)が減少する。すると、スイッチング素子M2のソース・ドレイン間を流れる電流(以後、単にドレイン電流という)が減少しようとする。この電流は、誘導性である負荷LLの電流と一致しなければならないので、電流の減少を抑えるために負荷LLに誘導起電力が生じ、これがスイッチング素子M2のソース・ドレイン間の電圧(以後、単にドレイン電圧という)として印加される。スイッチング素子M2のドレイン電圧に時間変化(dV/dt)が生じると、ゲート・ドレイン間の容量を介して、ゲート・ドレイン間の容量とドレイン電圧の時間変化との両方に比例する変位電流が流れる。この変位電流によって、ゲート抵抗R2に電圧降下を生じるので、スイッチング素子M2のゲート電圧は低下しなくなる。図10のハードスイッチング回路の場合、少なくともターンオフ前に流れていた電流を流し続けられるように、スイッチング素子M2のゲート電圧が維持され、その電圧を維持するように、dV/dtが決まる。ゲート抵抗R2の値が大きいか、スイッチング素子M2のゲート・ドレイン間の容量が大きいほど、同じ電圧を維持するためのdV/dtは小さくなる。出力点NMの電位が直流電源V0の正極側電位(より精密には、それに還流ダイオードD1のオン電圧を加えた値)よりも高くなると、還流ダイオードD1が導通するため、出力点NMの電位は、正極側電位に固定され、dV/dtは0となる。そうなると、スイッチング素子M2のゲート電圧は、もはや維持されず、ソース・ゲート間容量とゲート抵抗R2で決まる時定数で低下する。ゲート電圧が閾値電圧以下に下がるまでは、ゲート電圧に応じたドレイン電流が流れ続ける。ゲート抵抗R2が大きいほど、ドレイン電流の切れは一般に悪くなる。
ターンオンに際しては、負荷LLに所定の電流が流れているところから始まる。スイッチング素子M2のソース・ゲート間容量とゲート抵抗R2で決まる時定数でゲート電圧が上昇すると、それに応じてドレイン電流が増加する。しかし、ドレイン電流が負荷LLに流れている所定の電流に達するまでは、不足分が還流ダイオードD1を通って流れなければならないから、出力点NMの電位は、ドレイン電流の増加に伴って浮遊インダクタンスにより生じる誘導起電力を除いては、ターンオフしたときの電位のままとなる。スイッチング素子M2のドレイン電流が所定の電流に達すると、還流ダイオードD1(ショットキー障壁ダイオードのような逆回復の極めて少ないダイオードを用いるとする)は遮断し、スイッチング素子M2のドレイン電圧は低下する。ターンオフと同様に、ドレイン電流を維持するのに必要なゲート電圧を下回ることがないように、dV/dtは決まる。
以上のように、ゲート抵抗R2をスイッチング素子M2のゲート・ドレイン間容量に応じて高くすることで、dV/dtが高くなり過ぎないようにすることができる。一方で、ゲート抵抗R2は、スイッチング素子M2のソース・ゲート間容量とともに、ドレイン電圧がオフ状態の値(直流電源の電圧と還流ダイオードD1のオン電圧を加えた値)に達した後の電流の切れや達する前の電流の立ち上がりにも影響するから、あまり高い値にすると、電流の切れの悪さ、立ち上がりの遅さに起因して、スイッチング損失を増大させることに繋がる。
ところで、dV/dtを不用意に高くすることなく、ターンオフ損失を低減させられる回路として、図12のような電圧共振型ソフトスイッチング方式の電力変換回路が知られている。図10のハードスイッチング方式の回路との違いは、スイッチング素子M1,M2に並列に、キャパシタC1,C2を設けたことである(純粋な図12の回路の場合は、キャパシタC1,C2はどちらか片方だけでもよい)。
たとえばスイッチング素子M2をターンオフさせる場合、ハードスイッチング方式の回路と違って、スイッチング素子M2のドレイン電流とキャパシタC2を充電する電流の合計が負荷LLに流れる電流と一致すればよい。したがって、キャパシタC2が十分に大きい場合には、スイッチング素子M2のドレイン電圧(キャパシタC2の両端電圧に等しい)が有意に増加し始める前に、ゲート電圧は閾値電圧以下まで下がり、ドレイン電流は0となる。このとき、ターンオン損失は事実上0となるとともに、dV/dtは、負荷LLに流れる電流をキャパシタC2のキャパシタンスで除した値となり、これ以上のdV/dtが生じることはない。そこまで極端でなくても、キャパシタC2を充電する電流の分だけドレイン電流は少なくなるから、ターンオフ損失は減少する。ここで、dV/dtはその許容値を超えることはないので、dV/dtを不用意に高くすることなく、ターンオフ損失が低減することになる。
ただし、図12のままでは、ターンオンの際にキャパシタC2(およびキャパシタC1)を放電する電流がすべてひとつのスイッチング素子(M2またはM1)にかかるから、スイッチング素子の負担が重くなるとともに、スイッチング(ターンオン)損失も増大する。とりわけ、ターンオン損失は、一般に、ハードスイッチング方式の回路において同じゲート抵抗R2を用いてターンオンさせる場合のターンオン損失と、キャパシタC2(およびキャパシタC1)に蓄積されていたエネルギーとの和よりも大きい。これは、キャパシタC2(およびキャパシタC1)を放電する電流を維持するために、dV/dtが小さくなってしまうためである。
逆に、ターンオン損失を減らす回路としては、電流共振型ソフトスイッチング方式の電力変換回路が知られている。種々の問題を無視すれば、最も簡単には、たとえば図13のような回路となる。図10のハードスイッチング回路との違いは、直流電源V0との間に、インダクタL0を設けたことである。インダクタL0は、必ずしも直流電源V0とスイッチング素子M1との間にある必要はなく、たとえばスイッチング素子M2のターンオン損失を減らすためには、スイッチング素子M2を含み、負荷LLと還流ダイオードD1を含まない閉回路のどこかにあればよい。ターンオンに際して、インダクタL1のインダクタンスが十分に大きければ、スイッチング素子M2のドレイン電流が0から増加する際にインダクタL0に発生する誘導起電力は、(その他の小さな電圧を無視すれば)最大で直流電源V0の電圧に等しくなることができ、スイッチング素子M2のドレイン電圧は、ほぼ0となる。その後、直流電源V0の電圧をインダクタL0のインダクタンスで除した電流増加率で、スイッチング素子M2の電流が増加する。このとき、ターンオン損失は、事実上0となる。ここまで極端でなくても、インダクタL0に発生する誘導起電力がスイッチング素子M2とともに直流電源V0の電圧を分担するから、それだけスイッチング素子M2のドレイン電圧が低くなり、その分ターンオン損失は減少する。
一方、図13の回路のままでは、これはハードスイッチング回路において浮遊インダクタンスが著しく増大したのと等価であるから、ターンオフの際に著しく大きなサージ電圧を生じるのは避けられない。
ここで、参考のために、以上のようなハードスイッチング方式の電力変換回路(図10の電力変換回路)およびソフトスイッチング方式の電力変換回路(代表して図12の電力変換回路)のスイッチング損失の具体例について説明する。
図14はハードスイッチング方式による電力変換回路のターンオフ損失の一例を示す図、図15はハードスイッチング方式による電力変換回路のターンオン損失の一例を示す図、図16はソフトスイッチング方式による電力変換回路のターンオフ損失の一例を示す図、図17はソフトスイッチング方式による電力変換回路のターンオン損失の一例を示す図である。
ここでは、スイッチング素子M1,M2の一例として、定格ゲート電圧が42V、定格電流が75AのSiCのトレンチ型MOSFETを使用し、電源電圧が600Vの直流電源V0をスイッチングさせたものとしている。図14および図16は、異なるゲート抵抗についてターンオフ損失(P_off)を破線で、最大dV/dt(スイッチングの際のdV/dtの最大値)を実線でそれぞれプロットしたものである。図15および図17は、異なるゲート抵抗についてターンオン損失(P_on)を破線で、最大dV/dtを実線でそれぞれプロットしたものである。
まず、図14および図15を参照し、ハードスイッチング方式の電力変換回路におけるスイッチング損失について説明する。dV/dtは、ゲート抵抗を大きくすると、低下していくが、ターンオフ時では、ゲート抵抗を50Ωにした場合でも、最大dV/dtをその許容値であるたとえば10kV/μs以下に抑えることはできていない。一方、ゲート抵抗を大きくすると、ターンオフ損失およびターンオン損失ともに増加していき、たとえばゲート抵抗が50Ωの場合には、ターンオフ損失は、約2mJ/pulse、ターンオン損失は、約4mJ/pulseとなり、これらを合わせると、約6mJ/pulseとなる。
通常、この電圧・電流定格のIGBTの場合、還流ダイオードにショットキーバリアダイオードを用いることにすれば、種々の回路条件にもよるが、ターンオフ損失とターンオン損失とを合わせても、スイッチング損失は10mJ/pulse以下、たとえば5mJ/pulse程度である。MOSFETは、IGBTに比べてスイッチング速度が速いという利点を有しているが、図10のようなハードスイッチング方式の電力変換回路では、MOSFETを用いると、かえってスイッチング損失を増大させることになっている。
次に、ソフトスイッチング方式の電力変換回路におけるスイッチング損失について説明する。図12に示した電力変換回路のように、MOSFETに並列にたとえば7.5nFのコンデンサを設けた場合に、同じようなプロットを行った結果を、図16および図17に示す。図16より、ターンオフの場合には、ゲート抵抗を50Ωとすると、最大dV/dtを10kV/μs以下とすることができ、その際のターンオフ損失は、1mJ/pulseよりも大幅に小さくなっている。ゲート抵抗が小さい場合に最大dV/dtが高くなっているのは、MOSFETの配線(キャパシタC1またはC2との分岐よりもMOSFET側)における浮遊インダクタンスの影響と考えられる。
しかし、図17より、ターンオンの場合に最大dV/dtをたとえば10kV/μs以下とするためには、ゲート抵抗をたとえば50Ωとする必要があり、そのときにはスイッチング損失が5mJ/pulseを大きく上回る結果となる。ゲート抵抗をたとえば30Ω程度にしておけば、グラフ上は、ターンオン損失は、3〜4mJ/pulse程度になるかもしれないが、より詳細に調べると、キャパシタC1およびC2と浮遊インダクタンスとの共振により、ターンオン損失がやや低めに出ることがあり(たとえばゲート抵抗が5Ωの場合、ターンオン損失が1.2mJ/pulse程度で、これはターンオンによりキャパシタC2が放出するはずのエネルギーが1.35mJ/pulseよりも小さい)、常にターンオン損失が3〜4mJ/pulse程度で済まされるとは限らない。
すなわち、スイッチング素子にMOSFETを用いる場合、図12のような電圧共振型ソフトスイッチング方式の電力変換回路を用いても、スイッチング損失はほとんど低減できないこととなる。
特開2009−11117号公報
以上のように、ハードスイッチング方式の電力変換回路では、ゲート抵抗を調節してもスイッチング時の電圧変化率を所定の値以下に抑制することができず、電圧共振型ソフトスイッチング方式のものは、スイッチング素子のターンオンの場合にスイッチング損失を低減することができないという問題点があった。
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、通常行われるゲート抵抗を高くする方法によっては、スイッチング時の電圧変化率を有効に抑制することができず、その電圧変化率が過大となるようなスイッチング素子を用いる場合に、スイッチング損失を著しく増大させることなく、電圧変化率を抑制できる電力変換回路を提供することを目的とする。
本発明では上記の課題を解決するために、特許請求の範囲の請求項1に記載の発明では、直流電源を変換して誘導性の負荷へ交流電力を送る電力変換回路において、前記直流電源の正極側に接続されて電流の導通状態と阻止状態とを有する第1のスイッチング素子および前記直流電源の負極側に接続されて電流の導通状態と阻止状態とを有する第2のスイッチング素子と、前記第1のスイッチング素子と前記誘導性の負荷との間に設けられた第1のインダクタおよび前記第2のスイッチング素子と前記誘導性の負荷との間に設けられた第2のインダクタと、前記第2のスイッチング素子と前記第2のインダクタとの接続点から前記第1のスイッチング素子と前記第1のインダクタとの接続点に導通する向きに接続されたクランプダイオードと、を備え、前記第1および第2のスイッチング素子は、母材にシリコンよりも大きなバンドギャップを有する半導体を用いたMOSFETであって、半導体基体の第1の主面に設けた第1の主電極と、前記半導体基体の前記第1の主面とは反対側の第2の主面に設けた第2の主電極と、前記半導体基体の前記第2の主面に設けられ、絶縁膜によって前記半導体基体と電気的に絶縁された制御電極と、を有し、前記半導体基体の絶縁破壊電界と比誘電率との積が、前記絶縁膜の常用絶縁破壊電界と比誘電率との積よりも大きいことを特徴とする電力変換回路が提供される。
このような電力変換回路によれば、第1および第2のインダクタをクランプダイオードで短絡しているので、ターンオフに際して、大きなサージ電圧を発生させることはない。一方、ターンオンに際しては、第1および第2のインダクタのために、主回路はいわゆる電流共振型ソフトスイッチング方式の回路と同様の動作をし、ターンオンしつつある第1または第2のスイッチング素子に流れる電流は、ゆっくり増加する。これにより、電圧変化率が抑制される。また、第1および第2のインダクタンスは、大きな主電流が流れ始める立ち上がりのタイミングを遅らせるような値を選ぶことにより、スイッチング損失を減らすことができる。
また、特許請求の範囲の請求項2に記載の発明では、前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子に並列にそれぞれキャパシタを接続したことを特徴としている。
キャパシタを設けたことにより、電力変換回路は、電圧共振型ソフトスイッチング方式の回路として動作するので、電圧変化率を抑制してもターンオフ損失が増加しないという利点を維持することができる。
上記構成の電力変換回路は、出力点側にインダクタを設け、ターンオフ時にこれらに発生する電圧をクランプするようにダイオードを設けたことにより、スイッチング素子のターンオンに際して、インダクタとダイオードとによりスイッチング素子に急に大きな主電流が流れることが抑制されるため、比較的大きなゲート抵抗を用いて電圧変化率を抑制しても、ターンオン損失の増加を最小限に食い止めることができるので、通常行われるゲート抵抗を高くする方法によっては、スイッチング時の電圧変化率を有効に抑制することができず、電圧変化率が過大となるようなスイッチング素子を用いたとしても、スイッチング損失を著しく増大させることなく、電圧変化率を抑制できるという利点がある。
また、第1および第2のスイッチング素子に並列にそれぞれキャパシタを接続したことにより、電圧共振型ソフトスイッチング方式の回路のように、ゲート抵抗を調整して電圧変化率を抑制してもターンオフ損失が増加しないという利点がある。
第1の実施の形態に係る電力変換回路を示す回路図である。 第2の実施の形態に係る電力変換回路を示す回路図である。 第2の実施の形態に係る電力変換回路のターンオフ損失の一例を示す図である。 第2の実施の形態に係る電力変換回路のターンオン損失の一例を示す図である。 第3の実施の形態に係る電力変換回路を示す回路図である。 第4の実施の形態に係る電力変換回路を示す回路図である。 第4の実施の形態に係る電力変換回路のターンオフ損失の一例を示す図である。 第4の実施の形態に係る電力変換回路のターンオン損失の一例を示す図である。 スイッチング素子の構造例を示す部分断面図である。 一般的なハードスイッチング方式による電力変換回路を示す回路図である。 一般的なマルチレベル変換器の例を示す図である。 一般的な電圧共振型ソフトスイッチング方式の回路の例を示す図である。 一般的な電流共振型ソフトスイッチング方式の回路の例を示す図である。 ハードスイッチング方式による電力変換回路のターンオフ損失の一例を示す図である。 ハードスイッチング方式による電力変換回路のターンオン損失の一例を示す図である。 ソフトスイッチング方式による電力変換回路のターンオフ損失の一例を示す図である。 ソフトスイッチング方式による電力変換回路のターンオン損失の一例を示す図である。
以下、本発明の電力変換回路の実施の形態につき、図面を参照して詳細に説明する。
図1は第1の実施の形態に係る電力変換回路を示す回路図である。
この電力変換回路は、直流電源V0の正極側(上アームという)および負極側アーム(下アームという)にそれぞれ一対のスイッチング素子M1,M2が接続されている。このスイッチング素子M1,M2は、ここではそれぞれ1つのNチャネルMOSFETとしているが、1素子ではなく、複数素子からなる素子群で構成してもよい。スイッチング素子M1,M2は、これらに並列に還流ダイオードD1,D2がそれぞれ接続されている。スイッチング素子M1,M2のゲートには、ゲート抵抗R1,R2を介して制御回路G1,G2がそれぞれ接続されている。スイッチング素子M1,M2は、同極性のものが用いられているので、制御回路G1,G2の少なくとも1つは、フォトカプラを用いて基準電位を電気的に絶縁している。この電力変換回路は、電気的に絶縁された外部信号に依存して、たとえばPWM(Pulse Width Modulation)制御のインバータとして動作する。
上アームのスイッチング素子M1と下アームのスイッチング素子M2との間には、直列に接続されたインダクタL1,L2が挿入され、スイッチング素子M1,M2側のインダクタL1,L2の端子には、下アームから上アームに向かう向きに導通するように、クランプダイオードD0が接続されている。インダクタL1,L2の接続点は、この電力変換回路の出力点NMを構成し、これには負荷LLが接続されている。
このようにクランプダイオードD0を設ければ、出力点NMにインダクタL1,L2を設けたにもかかわらず、次のような動作により、ターンオフに際してハードスイッチング方式の回路よりも著しく大きなサージ電圧を生じることはない。
たとえば、インダクタL2を図1の下向きに所定の負荷電流が流れている状態から、スイッチング素子M2をターンオフするに際しては、スイッチング素子M2を流れる電流が減少しようとすると、その際の電流変化率dI/dtにより、インダクタL2には図1の下向きに誘導起電力が発生する。また、負荷LLのインダクタンスがインダクタL1,L2のインダクタンスに比べて十分大きい場合には、この際の電流変化率dI/dtは、インダクタL1に流れなければならないから、インダクタL1にも図1の下向きに誘導起電力が発生する。したがって、インダクタL1,L2とクランプダイオードD0とからなる閉回路には、クランプダイオードD0を導通させる向きに起電力が発生するから、クランプダイオードD0が導通し、インダクタL1,L2にはそれ以上の誘導起電力は生じない。この時点で、スイッチング素子M2とインダクタL2との結節点の電位が直流電源V0の正極側の電位よりも高くなっていれば(実際、ハードスイッチング方式の回路と同様に、この条件が満たされるまでは電流は実質的に変化しない)、同時に還流ダイオードD1も導通するので、スイッチング素子M2を流れる電流は、所定の負荷電流とは独立となり、その後、電流が減衰してスイッチング素子M2のターンオフが完了する。電圧サージを生じるのは、直流電源V0・還流ダイオードD1・クランプダイオードD0・スイッチング素子M2からなる閉回路の浮遊インダクタンスとなるので、出力側に浮遊インダクタンスよりもかなり大きなインダクタンスがあるとしても、図10のハードスイッチング方式の回路と同等の電圧サージしか生じない。ただし、もちろん、クランプダイオードD0の配線インダクタンスが加わるので、その配線をなるべく短くする等の配慮が必要であるのは、ハードスイッチング方式の回路におけるスイッチング素子や還流ダイオードと同様である。
スイッチング素子M2のターンオフと並行して、クランプダイオードD0のオン電圧により、電流はインダクタL2からインダクタL1へ次第に移行する。その移行する速さdi/dtは、クランプダイオードD0のオン電圧を、インダクタL1,L2のインダクタンスの和で除したものとなる。なお、クランプダイオードD0のオン電圧は、高くても差し支えない(あまり高すぎるとサージ電圧に加わるので、好ましくないが、通常は、サージ電圧に影響が出るほどオン電圧が高いことはない)。たとえば、SiCのショットキーバリアダイオードは、オン電圧が1.5〜2V程度となるような設計がされていることが多い。簡単のため、仮にインダクタL1,L2のインダクタンスをそれぞれ0.35μHとすると、2.1〜2.9A/μsのほぼ一定のペースで電流が移行する。仮に、所定の負荷電流が75Aであるならば、長く見積もっても40μs以内に、電流の移行は完了する。したがって、PWM制御インバータのキャリア周波数にもよるが、スイッチング素子M2が次にターンオンするときには、電流の移行は完了するようにすることができる。なお、それまでインダクタL2に流れていた分に相当するエネルギー(所定の負荷電流の2乗と、インダクタL2のインダクタンスとの積の半分)は、ターンオフに際してクランプダイオードD0により消費されるので、スイッチング損失となる。たとえば仮に、所定の負荷電流およびインダクタL2のインダクタンスに上記の値を用いるならば、スイッチング損失は、たとえば約0.98mJ/pulseとなる。
次に、スイッチング素子M2をターンオンする場合には、インダクタL2には電流が流れていないので、いわゆる電流共振型ソフトスイッチング方式の回路と同様に、電流がゆっくり増加する。この場合、負荷LLを流れる電流は、インダクタL1から次第に移行してくるが、ターンオフの場合と違って、ダイオード等による電圧降下はないので、インダクタL1に蓄積されていたエネルギーは、単にインダクタL2に移行するだけであり、追加の損失は生じない。インダクタL2に大きな電流が流れ始めるまでに時間的余裕があるので、ゲート抵抗を大きくしてdV/dtを抑制しても、ハードスイッチング方式の回路よりはターンオン損失を低減できる余地がある。
なお、スイッチング素子M1,M2の負荷側に設けられるインダクタL1,L2は、そのインダクタンスが、上記の例では、0.35μHと小さいので、受動素子を別途付加することなく回路配線による浮遊インダクタンスで実現することも可能である。
図2は第2の実施の形態に係る電力変換回路を示す回路図、図3は第2の実施の形態に係る電力変換回路のターンオフ損失の一例を示す図、図4は第2の実施の形態に係る電力変換回路のターンオン損失の一例を示す図である。
第2の実施の形態に係る電力変換回路は、第1の実施の形態に係る電力変換回路におけるターンオフのdV/dtを低減して、ターンオフ損失を増大させることがないようにしたものである。
この電力変換回路は、スイッチング素子M1,M2に並列に、キャパシタC1,C2を接続している。この場合、通常の電圧共振型ソフトスイッチング方式の回路と違って、ターンオンに際してドレイン電圧が下降しても、負荷電流はすぐには流れ始めないから、適切なゲート抵抗を選ぶことにより、ターンオン損失を増大することなく、ターンオンのdV/dtを低減することができる。すなわち、簡単のため、スイッチング素子M2がMOSFETであるとして、スイッチング素子M2をターンオンする場合を考える。
スイッチング素子M2をターンオンしようとすると、インダクタL2にはすぐには大きな電流が流れないので、キャパシタC2が先に放電し、概ねその際の電流により、dV/dtが決まる。インダクタL2に大きな電流が流れ始める頃には、キャパシタC2の放電が進んでおり、ドレイン電圧はある程度低下しているので、ターンオン損失が低減する。インダクタL2に大きな電流が流れ始めるまでに時間的余裕があるので、その間にキャパシタC2がある程度放電する程度に、大きなゲート抵抗を選んでおけば、ターンオンのdV/dtを相応に低減することができる。
より具体的なスイッチング損失を、たとえば、スイッチング素子M1,M2として、定格ゲート電圧が42V、定格電流が75AのMOSFETを使用し、電源電圧が600Vの直流電源V0をスイッチングさせた例で示す。ただし、キャパシタC1,C2のキャパシタンスは、7.5nF、インダクタL1,L2のインダクタンスは、0.35μHとした。また、クランプダイオードD0には、SiCのショットキーバリアダイオード(オン電圧約1.5V)を用いた。
図3では、異なるゲート抵抗についてターンオフ損失(P_off)を破線で、最大dV/dt(スイッチングの際のdV/dtの最大値)を実線でそれぞれプロットし、図4では、異なるゲート抵抗についてターンオン損失(P_on)を破線で、最大dV/dtを実線でそれぞれプロットしている。これらの図から、ターンオフ・ターンオンともに、ゲート抵抗としてたとえば15Ωを選べば、最大dV/dtをその許容値である10kV/μs以下に抑制することができ、そのときのターンオフ損失は、約1.2mJ/pulse、ターンオン損失が、約1.4mJ/pulseであるので、スイッチング損失は、合計で2.6mJ/pulse程度となる。このスイッチング損失は、同じ定格クラスでIGBTを用いた従来の回路の場合に比べて、たとえば半分程度である。
より詳細に見ると、ターンオフの場合(図3)、インダクタによる損失(約0.98mJ/pulse)が加わった以外、dV/dtは、従来の電圧共振型ソフトスイッチング方式の回路の場合(図16)と大差ない(詳細には、dV/dtは僅かに減少する)のに対して、ターンオンの場合(図4)は、従来の電圧共振型ソフトスイッチング方式の回路の場合(図17)に比べて、スイッチング損失が大幅に低減している。これは、ターンオンに際して、インダクタL1および/またはL2によって、MOSFETのスイッチング素子M1,M2に急に大きな主電流が流れることが抑制されているので、その間にキャパシタC1またはC2が放電する余裕があるためと考えられる。つまり、インダクタL1,L2は、キャパシタC1,C2が放電完了後に、大きな主電流が流れ始めるように立ち上がりのタイミングを遅らせており、キャパシタC1,C2の放電完了がターンオン損失の低減に寄与している。
以上のように、この実施の形態によれば、出力点NMの側にインダクタL1,L2を設け、ターンオフ時にこれらに発生する電圧をクランプするようにクランプダイオードD0を設けたことにより、ターンオフに際しては、従来の電圧共振型ソフトスイッチング方式の回路と同様に、dV/dtを抑制してもターンオフ損失が増加しないという利点を維持することができる。同時に、ターンオンに際しては、インダクタL1,L2によりMOSFETのスイッチング素子M1,M2に急に大きな主電流が流れることが抑制されているため、比較的大きなゲート抵抗R1,R2を用いてdV/dtを抑制しても、ターンオン損失の増加を最小限に食い止めることができるので、通常行われるゲート抵抗を高くする方法によっては、スイッチング時のdV/dtを有効に抑制することができず、dV/dtが過大となるようなスイッチング素子を用いても、スイッチング損失を著しく増大させることなく、dV/dtを抑制することができる回路構成となっている。
図5は第3の実施の形態に係る電力変換回路を示す回路図である。
この電力変換回路は、第2の実施の形態に係る電力変換回路に対して、クランプダイオードD0に直列に抵抗R0を挿入し、スイッチング素子M2のターンオフに際して、インダクタL2からインダクタL1への電流の移行に時間がかかるのを改善している。
すなわち、負荷電流に比べてインダクタL1,L2のインダクタンスが比較的大きい場合、ターンオフに際して、電流の移行に時間がかかる。たとえば、第2の実施の形態に係る電力変換回路の場合、40μs弱の時間が必要である。スイッチングのキャリア周波数が12kHz程度よりも高くなると、ターンオン損失(ターンオン1回あたりの損失をいう。)が増加した。その理由としては、ターンオフの後、電流の移行が追いつかず、引き続くターンオンの際に最初から大きな電流がMOSFETのスイッチング素子M1,M2に流れてしまったためと考えられる。
そこで、クランプダイオードD0に直列に0.1Ωの抵抗R0を挿入したところ、キャリア周波数が25kHzでも、第2の実施の形態に係る電力変換回路の場合のようなターンオン損失の増加は顕著には見られなかった。これは、電流の移行が速くなったためと考えられる。
なお、クランプダイオードD0を1つのダイオードとせずに、同様のダイオード2つを直列に設けた場合でも、キャリア周波数が25kHz程度までは、ターンオン損失の増加は顕著には見られなかった。しかし、高耐圧・大電流のダイオードは一般に高価であるので、抵抗を挿入するほうが安価である。
以上のように、クランプダイオードD0に直列に抵抗R0を挿入すると、第2の実施の形態に係る電力変換回路の利点に加えて、ターンオフに際して電流の移行が速くなるので、キャリア周波数が高くても、有効に動作する利点がある。ただし、この抵抗R0に発生する電圧は、サージ電圧に加わるので、あまり大きな値の抵抗を用いることは避けるべきである。所定の負荷電流が75Aであるならば、サージ電圧の観点からはせいぜい1Ω程度までである。一方、インダクタL1,L2、スイッチングのキャリア周波数および負荷電流が上記の値を用いる場合、抵抗値が0.1Ωもあれば、電流の99%が移行するのに要する時間は、16μs程度まで短くなる。
図6は第4の実施の形態に係る電力変換回路を示す回路図、図7は第4の実施の形態に係る電力変換回路のターンオフ損失の一例を示す図、図8は第4の実施の形態に係る電力変換回路のターンオン損失の一例を示す図である。
この第4の実施の形態に係る電力変換回路では、第2および第3の実施の形態に係る電力変換回路にあるクランプダイオードを、直列接続した2つのダイオードD3,D4で構成し、これらダイオードD3,D4の接続点に上アームおよび下アームのキャパシタC1,C2を接続する構成にしている。なお、このように接続されるキャパシタC1およびキャパシタC2は、電気的には片方だけでも、目的の動作はするので、片方だけでもよい。ただし、合計のキャパシタンスは同じにする必要がある。しかし、直流電源V0の正・負の両方にそれぞれ接続されている方が、電源電圧が変動したときの動作が安定すると考えられるので、両方に設けておく方が好ましい。
以上の構成の電力変換回路において、ターンオフに際しては、ターンオフしつつある側のアームに接続されたダイオードD3またはD4が導通するので、キャパシタC1,C2は、事実上ターンオフしつつあるスイッチング素子M1,M2に並列接続された状態となり、いわゆる電圧共振型ソフトスイッチング方式の回路と同様に、スイッチング損失を増加させることなく、dV/dtを抑制することができる。
ターンオンに際しては、ターンオンしつつある側のアームに接続されたダイオードD3またはD4が導通するので、いわゆる電流共振型ソフトスイッチング方式の回路と同様に、ターンオンしつつあるスイッチング素子M1,M2に流れる電流はゆっくり増加する。第2および第3の実施の形態に係る電力変換回路と異なり、キャパシタC1,C2は、インダクタL1,L2を介してターンオンしつつあるスイッチング素子M1,M2に接続されるので、その充放電電流は、主電流と同様に、ゆっくり増加することになるから、ゲート抵抗R1,R2を適切に選ぶことにより、dV/dtを抑制しつつ、スイッチング損失を低減することができる。
より具体的なスイッチング損失を、たとえば、スイッチング素子M1,M2として、定格ゲート電圧が42V、定格電流が75AのMOSFETを使用し、電源電圧が600Vの直流電源V0をスイッチングさせた例で示す。ただし、キャパシタC1,C2のキャパシタンスは、7.5nF、インダクタL1,L2のインダクタンスは、0.35μHとした。また、還流ダイオードD1,D2およびダイオードD3,D4には、SiCのショットキーバリアダイオードを用いた。
図7では、異なるゲート抵抗についてターンオフ損失(P_off)を破線で、最大dV/dt(スイッチングの際のdV/dtの最大値)を実線でそれぞれプロットし、図8では、異なるゲート抵抗についてターンオン損失(P_on)を破線で、最大dV/dtを実線でそれぞれプロットしている。これらの図から、ターンオフ・ターンオンともに、ゲート抵抗R1,R2としてたとえば30Ωを選べば、最大dV/dtをその許容値である10kV/μs以下に抑制することができ、そのときのターンオフ損失は、約1.4mJ/pulse、ターンオン損失が、約0.5mJ/pulseであるので、スイッチング損失は、合計で1.9mJ/pulse程度となる。このスイッチング損失は、第2の実施の形態に係る電力変換回路の場合と比べて、2割以上小さくなっている。
より詳細に見ると、ターンオフ損失(図7)は、第2の実施の形態に係る電力変換回路の場合と大差ないが、ターンオン損失(図8)は、半分以下と大幅に低減されている。キャパシタC1およびC2がMOSFETのスイッチング素子M1,M2に直接、並列接続されていないので、ターンオンに際して、充放電電流がMOSFETのスイッチング素子M1,M2に急に流れることが抑制されているためと考えられる。
以上のように、この実施の形態によれば、出力点NMの側にインダクタL1,L2を設け、ターンオフ時にこれらに発生する電圧をクランプするようにダイオードD3,D4を設け、そのダイオードD3,D4の間の接続点にキャパシタC1,C2を接続したので、ターンオフに際しては、従来の電圧共振型ソフトスイッチング方式の回路と同様に、dV/dtを抑制してもターンオフ損失が増加しないという利点を維持することができる。同時に、ターンオンに際しては、インダクタL1,L2とダイオードD3,D4によりMOSFETのスイッチング素子M1,M2に急に大きな主電流が流れることが抑制されているため、比較的大きなゲート抵抗R1,R2を用いてdV/dtを抑制しても、ターンオン損失の増加を最小限に食い止めることができるので、通常行われるゲート抵抗を高くする方法によっては、スイッチング時のdV/dtを有効に抑制することができず、dV/dtが過大となるようなスイッチング素子を用いても、スイッチング損失を著しく増大させることなく、dV/dtを抑制できる回路構成となっている。
以上の回路構成は、特に、スイッチング素子として、絶縁破壊電界が大きいワイドギャップ半導体を母材とするMOSFETを用いた電力変換回路に好適に適用することができる。それは、通常行われるゲート抵抗を高くする方法によっては、スイッチング時の電圧変化率を有効に抑制することができず、電圧変化率が過大となってしまう傾向が強いからである。そのようなスイッチング素子を用いる場合に、上記の実施の形態に係る電力変換回路に適用することで、スイッチング損失を著しく増大させることなく、電圧変化率を抑制することができる。
SiCまたはAlGaN等は、絶縁破壊電界が大きいため、オフ時において、ゲート絶縁膜に用いている二酸化珪素の酸化膜に過大な電界が印加される。より詳細には、半導体とゲート絶縁膜の界面では電束密度が保存されなければならないので、半導体の比誘電率と絶縁破壊電界との積が、ゲート絶縁膜の比誘電率と常用最大電界との積よりも大きい場合に、ゲート絶縁膜に何の保護もなされないと、半導体がアバランシェ降伏するような高電界が印加されたときには、ゲート絶縁膜に印加されている電界は、その常用最大電界よりも高くなる。具体的には、SiCの比誘電率は、10程度、絶縁破壊電界は、1.5〜2.5MV/cm程度であるので、比誘電率と絶縁破壊電界との積が15〜25MV/cm程度となる。AlGaN等は、比誘電率は、SiCと同等で、絶縁破壊電界はさらに高いとされている。これに対し、ゲート絶縁膜としてよく用いられる二酸化珪素の比誘電率は、4弱、常用最大電界はせいぜい3MV/cmしかないので、比誘電率と常用最大電界との積は、12MV/cmしかない。
そこで、何らかの形で、ゲート絶縁膜を保護する必要がある。ここでは、スイッチング素子として、トレンチゲート型のMOSFETであって、トレンチ底のゲート絶縁膜に過大な電界が印加されないようにゲート絶縁膜を保護した構造のものを例示する。
図9はスイッチング素子の構造例を示す部分断面図である。
この図9に示すスイッチング素子は、トレンチゲート型Nチャネル縦型MOSFETを示している。このMOSFETは、半導体基板11の一方の主面に第1の主電極であるドレイン電極12が設けられている。半導体基板11のドレイン電極12がある側とは反対側の面に耐圧層13および導電層14が積層形成されて半導体基体になっている。この半導体基体の他方の主面には、第2の主電極であるソース電極15が設けられている。半導体基体には、他方の主面から導電層14を貫通する形で複数の第1のトレンチ16が掘り込まれており、その第1のトレンチ16の内面は、二酸化珪素のゲート絶縁膜17によって被覆され、半導体基体と電気的に絶縁している。第1のトレンチ16には、制御電極であるゲート電極18が埋め込まれている。導電層14の表面側には、ソース領域19およびコンタクト領域20が形成されている。そして、導電層14には、第1のトレンチ16に隣接して、半導体基体の他方の主面からその導電層14を貫通する形で第1のトレンチ16よりも深い第2のトレンチ21が複数掘り込まれ、その第2のトレンチ21にショットキー電極22を埋め込んで半導体基体との間にショットキー接合を形成している。半導体基体がSiCの場合には、ショットキー電極22として、たとえば白金を好ましく用いることができる。
つまり、このスイッチング素子は、ゲート絶縁膜17を介してゲート電極18を埋め込んだ第1のトレンチ16よりも深い第2のトレンチ21を設け、この第2のトレンチ21にショットキー電極22を埋め込んだ構造とし、スイッチング素子がアバランシェ降伏した際の最大電界が、ゲート絶縁膜17とは離れた場所で生じるようにして、ゲート絶縁膜17を保護している。複数の第2のトレンチ21の間の半導体部分は、ショットキー電極22から伸びる空乏層により、低い印加電圧においてピンチオフ(チャネルを遮断)する領域となるように設計されている。これにより、それ以降に加えられた電圧に伴う電気力線は、その多くがショットキー電極22の方に引き込まれるから、第1のトレンチ16の底部には、ピンチオフするときの電界を著しく超えた電界が印加されることはなくなる。したがって、第1のトレンチ16の内壁面を覆うゲート絶縁膜17は、その常用絶縁破壊電界よりも低い電界しか印加されないことになる。
一方で、ゲート絶縁膜17を保護することは、ゲートをドレインの高電圧から遮蔽することを意味するから、このような方法は、本質的に、ゲート・ドレイン間容量を著しく低減させることとなる。一般的には、ゲート・ドレイン間容量を低減させることは好ましいことのように思われているが、高耐圧パワーデバイスでゲート・ドレイン間容量が小さ過ぎると、dV/dtが異常に高い値となってしまう。しかし、このような高耐圧パワーデバイスをスイッチング素子として上記の電力変換回路に適用することで、dV/dtを抑制することができる。
また、ゲート絶縁膜の保護に係る問題は、いわゆるトレンチMOSFETに限らず、プレーナMOSFET(DMOSFETとも呼ばれる)に関しても同様であり、pウェル間に存在するJFET領域が、耐圧に比べて十分低い電圧でピンチオフするような設計となっていると、ゲート絶縁膜に関する限りは、トレンチMOSFETと同様に、その常用絶縁破壊電界よりも低い電界しか印加されないようにすることができる。
なお、ゲート絶縁膜の保護を必要とするのは、本質的に半導体の絶縁破壊電界と半導体の比誘電率との積がゲート絶縁膜の常用絶縁破壊電界とゲート絶縁膜の比誘電率との積よりも大きいケースである。このようなケースは、何らかの方法でゲートをドレイン側の高電圧から隔離する必要があり、その結果、ゲート・ドレイン間容量が不可避的に小さく、dV/dtが異常に高い値となってしまうからである。ただし、いわゆるプレーナMOSの場合には、問題になるのはゲート絶縁膜ではなく、上にゲート電極が乗っているJFET領域の上の酸化膜となる。
また、上記の例では、スイッチング素子として、炭化珪素(SiC)または窒化ガリウム(GaN)と窒化アルミニウム(AlN)との混晶(AlGaN)の半導体を用いたパワーデバイスについて詳述したが、半導体としては、GaNまたはAlNでもよく、しかも、構造上、ゲート・ドレイン間容量が小さくなって、dV/dtが異常に高くなってしまうパワーデバイスであれば、Si等の他の半導体を用いたものでもよい。さらに、上記の例では、第2のトレンチ21にショットキー電極22を埋め込んで半導体基体との間にショットキー接合を形成しているが、金属の代わりに半導体を埋め込んでpn接合を形成するようにしてもよく、または、ショットキー接合およびpn接合の両方が存在してもよい。
11 半導体基板
12 ドレイン電極
13 耐圧層
14 導電層
15 ソース電極
16 第1のトレンチ
17 ゲート絶縁膜
18 ゲート電極
19 ソース領域
20 コンタクト領域
21 第2のトレンチ
22 ショットキー電極
C1,C2 キャパシタ
D0 クランプダイオード
D1,D2 還流ダイオード
D3,D4 ダイオード
G1,G2 制御回路
L1,L2 インダクタ
LL 負荷
M1,M2 スイッチング素子
NM 出力点
R0 抵抗
R1,R2 ゲート抵抗
V0 直流電源

Claims (9)

  1. 直流電源を変換して誘導性の負荷へ交流電力を送る電力変換回路において、
    前記直流電源の正極側に接続されて電流の導通状態と阻止状態とを有する第1のスイッチング素子および前記直流電源の負極側に接続されて電流の導通状態と阻止状態とを有する第2のスイッチング素子と、
    前記第1のスイッチング素子と前記誘導性の負荷との間に設けられた第1のインダクタおよび前記第2のスイッチング素子と前記誘導性の負荷との間に設けられた第2のインダクタと、
    前記第2のスイッチング素子と前記第2のインダクタとの接続点から前記第1のスイッチング素子と前記第1のインダクタとの接続点に導通する向きに接続されたクランプダイオードと、
    を備え
    前記第1および第2のスイッチング素子は、
    母材にシリコンよりも大きなバンドギャップを有する半導体を用いたMOSFETであって、
    半導体基体の第1の主面に設けた第1の主電極と、
    前記半導体基体の前記第1の主面とは反対側の第2の主面に設けた第2の主電極と、
    前記半導体基体の前記第2の主面に設けられ、絶縁膜によって前記半導体基体と電気的に絶縁された制御電極と、
    を有し、
    前記半導体基体の絶縁破壊電界と比誘電率との積が、前記絶縁膜の常用絶縁破壊電界と比誘電率との積よりも大きいことを特徴とする電力変換回路。
  2. 前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子に並列にそれぞれキャパシタを接続したことを特徴とする請求項1記載の電力変換回路。
  3. 前記クランプダイオードに直列に抵抗を設けたことを特徴とする請求項2記載の電力変換回路。
  4. 前記クランプダイオードを直列に接続された一対のダイオードとし、
    前記直流電源の正極側および負極側と前記一対のダイオード間の接続点とにそれぞれキャパシタを接続したことを特徴とする請求項1記載の電力変換回路。
  5. 前記半導体は、炭化珪素、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、または窒化ガリウムと窒化アルミニウムとの混晶であることを特徴とする請求項1記載の電力変換回路。
  6. 前記第1および第2のスイッチング素子は、当該第1および第2のスイッチング素子がアバランシェ降伏した際の最大電界が、前記絶縁膜とは離れた場所で生じるようにして、前記絶縁膜を保護していることを特徴とする請求項1記載の電力変換回路。
  7. 前記第1および第2のスイッチング素子は、保護すべき前記絶縁膜を含む1断面において、離間した複数のpn接合および/またはショットキー接合から伸びる空乏層により、前記第1および第2の主電極間に電圧を印加したときに、その間隙に存在する半導体部分がピンチオフするようにして、前記絶縁膜を保護するようにしたことを特徴とする請求項6記載の電力変換回路。
  8. 前記第1および第2のスイッチング素子は、
    前記半導体基体の前記第2の主面から掘り込まれ、内面が前記絶縁膜によって被覆され、中に前記制御電極が設けられた第1のトレンチと、
    前記第2の主面から掘り込まれ、前記第1のトレンチよりも深い複数の第2のトレンチと、
    を有し、
    複数の前記第2のトレンチの間の半導体部分をピンチオフする領域にして、前記絶縁膜を保護するようにしたことを特徴とする請求項6記載の電力変換回路。
  9. 前記第1および第2のスイッチング素子の少なくとも一方は、フォトカプラを用いて電気的に絶縁された信号に依存して動作する制御回路によって制御されることを特徴とする請求項1記載の電力変換回路。
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