JP5294059B2 - 低温糊化性コムギ由来の小麦粉を含む穀粉組成物及びこれを使用した食品 - Google Patents
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Description
このような特性や、アミロースとアミロペクチンの含量比は由来する植物種によって大きく異なることが知られている。コムギにおいては通常タイプのデンプンであれば、アミロース含量はおよそ30%前後であるが、含量が20%前後である低アミロース系統が知られている。低アミロース系コムギデンプンは通常タイプに比べてうどん等麺用粉としての利用に優れているとされ、商業的にも広く栽培されている。また、イネやトウモロコシではアミロース含量が極端に低いモチ性デンプンを蓄積するタイプが知られていたが、コムギでは中村らによって初めてモチ性コムギが育種された(特許文献1参照)。コムギにはアミロースを合成する酵素としてコムギ顆粒性澱粉合成酵素-A1(granule bound starch synthase-AI)、コムギ顆粒性澱粉合成酵素-B1(granule bound starch synthase-BI)およびコムギ顆粒性澱粉合成酵素-D1(granule bound starch synthase-DI)が知られているが、中村らはこれらを全て発現しない系統を選抜することによってモチ性コムギを作出した。このモチ性コムギでは通常タイプに比べて独特の加工性や食感を有しており、また老化耐性なども改善されるとされている(特許文献2〜8参照)。しかしながら、加工性あるいはその他の食感の問題から実用化されている例は少ない。
一方、アミロペクチンの合成に関与する酵素であるコムギ澱粉合成酵素II型タンパク質(コムギ澱粉合成酵素II型-A1(starch synthase II-A1)、コムギ澱粉合成酵素II型-B1(starch synthase II-B1)、コムギ澱粉合成酵素II型-D1(starch synthase II-D1)を欠損させたコムギも報告されている(非特許文献1、2参照。)。このタイプのコムギにおいては、アミロース含量が野生型に比べて顕著に増加していることが報告されているが、パンなどへの加工には向かず、これも未だ実用化には至っていない。
従って本発明は、3つのコムギ澱粉合成酵素II型タンパク質のうちのいずれか2つを発現せず、かつ3つのコムギ顆粒性澱粉合成酵素タンパク質を発現しないタイプのコムギから調製される小麦粉と、他の穀粉とを含有することを特徴とする、穀粉組成物である。ここでいう小麦粉とは、コムギを加工することによって得られる粉末状のものを言い、種子全体を粉砕して粉状にしたもの、あるいは篩を通すことによって粒度の違いによって分類したもの、あるいは通常の製粉工程を経て特定の取り口より回収される粉を所望の割合で混合することによって得られる粉末のものなどを指す。
従って、本発明の実施態様として、3つのコムギ澱粉合成酵素II型タンパク質のうちのいずれか2つを発現せず、かつ3つのコムギ顆粒性澱粉合成酵素タンパク質を発現しないタイプのコムギから調製される小麦粉を1〜50質量%含有する、上記穀粉組成物;3つのコムギ澱粉合成酵素II型タンパク質のうちのいずれか2つを発現せず、かつ3つのコムギ顆粒性澱粉合成酵素タンパク質を発現しないタイプのコムギから調製される小麦粉を1〜30質量%含有する、上記穀粉組成物がある。さらには、3つのコムギ澱粉合成酵素II型タンパク質のうちのいずれか2つを発現せず、かつ3つのコムギ顆粒性澱粉合成酵素タンパク質を発現しないタイプのコムギから調製される小麦粉を2〜20質量%含有する、上記穀粉組成物がある。
従って、本発明の実施態様として、3つのコムギ澱粉合成酵素II型タンパク質のうちコムギ澱粉合成酵素II型-A1タンパク質およびコムギ澱粉合成酵素II型-B1タンパク質を発現せず、かつ3つのコムギ顆粒性澱粉合成酵素タンパク質を発現しないタイプのコムギから調製される小麦粉と、他の穀粉とを含有する穀粉組成物がある。
本発明の別の実施態様として、上記の他の穀粉をウルチ性コムギ由来の小麦粉、米粉、デンプン、そば粉、大麦粉、トウモロコシ粉、及びオーツ粉末からなる群から選択することができる。中でも、ウルチ性コムギ由来の小麦粉が好ましく使用される。
従って本発明はまた、上記穀粉組成物を使用することを含む食品の製造方法である。本発明はまた、3つのコムギ澱粉合成酵素II型タンパク質のうちのいずれか2つを発現せず、かつ3つのコムギ顆粒性澱粉合成酵素タンパク質を発現しないタイプのコムギから調製される小麦粉と他の穀粉とを配合することを含む、食品の製造方法にも向けられている。3つのコムギ澱粉合成酵素II型タンパク質のうちのいずれか2つを発現せず、かつ3つのコムギ顆粒性澱粉合成酵素タンパク質を発現しないタイプのコムギから調製される小麦粉(A)と他の穀粉(B)との配合割合は、質量比でA:Bが1:99〜50:50の範囲が適当であり、さらに1:99〜30:70の範囲であり、さらには2:98〜20:80の範囲である。
本発明はさらに、上記穀粉組成物を使用して製造された食品に向けられている。上記食品の例としてベーカリー類、麺類、揚げ物類、焼き物類、ルーやソース、練り物などが挙げられる。
上記の優れた食感は、食品の製造後、室温で保存した後も、あるいは冷蔵又は冷凍保存した後もなお、維持されている。
上記コムギは、コムギ澱粉合成酵素II型-A1、澱粉合成酵素II型-B1、及び澱粉合成酵素II型-D1タンパク質のうち2つの発現を欠き、かつコムギ顆粒性澱粉合成酵素-A1、顆粒性澱粉合成酵素-B1、及び顆粒性澱粉合成酵素-D1タンパク質の発現の発現を欠くコムギであればいかなるものでも良い。好ましくはコムギ澱粉合成酵素II型-A1、澱粉合成酵素II型-B1タンパク質の発現を欠き、かつコムギ顆粒性澱粉合成酵素-A1、顆粒性澱粉合成酵素-B1、及び顆粒性澱粉合成酵素-D1タンパク質の発現の発現を欠く(以下、LTG-SDコムギとも称する)である。
交配および選抜方法はこれに限定されるものではなく、放射線照射あるいは化学的変異原処理などによって得られたもの、あるいは遺伝子組換えによって得られたもの、さらにはこれらを交配の母本として育成されたコムギの中から上記タンパク質の発現を欠く個体を、DNA上の変異を検出する方法あるいは、逆転写反応およびそれに続くPCR法によるmRNAの定性および定量して確認する方法、あるいはSDS-PAGEによる種子に含まれるタンパク質の定性あるいは定量を行って確認する方法などを用いて選抜されるものでも良い。
また取得した上記コムギをさらに他の有用品種と交配し得られた後代から、上記タイプのコムギを選抜して取得したものでも良い。
PCR法は、特に限定されず、公知である種々の改良方法を用いることができるが、一例を挙げれば、プライマーのペアー、鋳型(被検)DNAの他にTris-HCl、KCl、MgCl2、各dNTP、TaqDNAポリメラーゼ等の試薬類を混合してPCR反応液とする。PCRの1サイクルは、熱変性、プライマーのアニーリング、DNAポリメラーゼによるDNA合成反応の3つのステップからなっている。各ステップはそれぞれ異なった反応温度と反応時間を必要とするので増幅しようとするDNA領域の塩基配列とその長さによって適切な範囲とする。このような操作のためのthermal cyclerが市販されている。TaqDNAポリメラーゼ、MgCl2の濃度や反応サイクル数等好適なPCR条件の検討、あるいはnestedPCRを用いれば、さらに検出感度を向上させることができる。
PCR反応物は、免疫反応を用いて同定しても、どのように同定してもよいが、電気泳動させて、必要な場合は陽性コントロールや、陰性コントロールを用いて電気泳動像で明瞭なバンドが認められれば、被検物質中に検出物質(タンパク質をコードする遺伝子および遺伝子変異コムギ)が存在することが確認できる。
また、上記コムギ顆粒性澱粉合成酵素-A1、コムギ顆粒性澱粉合成酵素-B1、コムギ顆粒性澱粉合成酵素-D1タンパク質が発現していないことを確認する方法として、特開平6−125669号公報に記載の方法を使用することもできる。
よって、LTGコムギから得られる小麦粉は公知のモチ性コムギより得られた小麦粉よりも、低温で調理することが可能で、老化耐性が強い。これにより製品の老化を低減することができ、製品に口溶けの良さを与えることができる。
以上のことより、LTGコムギから得られる小麦粉は、従来モチ性コムギとして知られていたコムギから得られる小麦粉とは全く異なった加工方法が採用でき、また著しく特性や食感などが異なった製品を製造することができる。
本発明の穀粉組成物には、LTGコムギから得られた小麦粉を一般的には1〜50質量%含有させ、好ましくは1〜30質量%含有させる。さらに好ましい範囲は2〜20質量%である。
ベーカリー類とはいわゆるベーカリーにおいて通常製造、販売されている小麦粉等をベースとする生地をイースト等を使用して膨化させることにより製造されるものを言い、例えば食パン、フランスパン、ロールパン、菓子パンなどのパン類、イーストドーナツなどの揚げパン類、蒸パン類、ピザパイ等のピザ類、スポンジケーキなどのケーキ類、クッキー、ビスケットなどの焼き菓子類などが挙げられる。
麺類とは、小麦粉等をベースとして塩、水などを混合して捏ね上げた生地を、ロール機などを用いて圧延した麺帯を用途に応じて切断、型抜き後、茹で上げ、蒸しなどの工程を経て製造されるものを言い、うどん、中華麺、パスタ、そうめん、ひやむぎ、餃子の皮、シュウマイの皮などが挙げられる。
揚げ物類としては、小麦粉などに必要に応じて食塩、調味料、膨化剤、卵、水などを混合し、野菜類、肉類、魚介類などの素材にまぶして油で揚げるものを言い、天ぷら、から揚げ、かき揚げ、フライ、竜田揚げ、などが挙げられる。
さらに、焼き物類としては大判焼き、たこ焼き、お好み焼き、どら焼き、など小麦粉と増粘剤、膨化剤、卵、水、具などを必要に応じて混合し、流動性のある生地とした後に鉄板などで焼成するものが挙げられる。
また、LTGコムギから得られた小麦粉と他の穀粉とを配合してルーやソースに増粘剤として加えることができる。ルーやソースとしては、カレー、ハヤシ、シチュー、ホワイトソースなどが挙げられる。また、LTGコムギから得られた小麦粉と他の穀粉とを配合して練り物のつなぎとして使用することができる。練り物としてはハンバーグあるいはちくわ、かまぼこといった食品が挙げられる。
焼き物類では一般的に、LTGコムギから得られた小麦粉を1〜30質量%、好ましくは2〜20質量%の範囲で含む穀粉組成物を用いることが適当である。例えば、大判焼きでは、LTGコムギから得られた小麦粉を特に1〜30質量%、好ましくは2〜20質量%の範囲で含む穀粉組成物を用いることで、好ましい食感(もっちり感、軽い食感など)と好ましい口溶けが得られる。たこ焼きでは、LTGコムギから得られた小麦粉を1〜40質量%の範囲、好ましくは1〜30質量%、さらに好ましくは2〜20質量%で含む穀粉組成物を用いることで、好ましい食感(もっちり感、やわらかさ、香りなど)及び好ましい口溶けが得られ、内部がクリーミーになる。
ベーカリー類であれば、例えば、本発明の穀粉組成物にイースト、重曹などの化学膨張剤、イーストフード、食塩、糖類、油脂類、卵、乳製品、水などの一般にベーカリー食品の製造に使用される各種副原料を配合したものを混練して生地を作り、これを発酵などにより膨化させ、あるいはそのまま焼成又は油揚げすることにより製造される。
揚げ物類であれば、本発明の穀粉組成物にデンプン、塩、水、膨化剤などの副資材を適宜混合し、野菜、肉、魚介類などの具材にまぶして高温の油で揚げる工程により製造される。焼き物類であれば、本発明の穀粉組成物に塩、砂糖、デンプン、膨化剤、増粘剤、色素、卵、具材などを必要に応じて混合し、流動性のある生地とした後、加熱した鉄板やホットプレート上で焼き上げることにより製造される。ルーやソースなどであれば、本発明の穀粉組成物をバターやマーガリンと混合して炒め、これにスープあるいは牛乳などを加えて煮詰めることで製造される。
1.LTG-SDコムギの作出、選別及び製粉
本発明に使用したLTG-SDコムギは次のように作成した。まず、一般に知られている系統である関東79号(コムギ澱粉合成酵素II型-B1タンパク質欠損系統)および外国産品種であるTurkey116(コムギ澱粉合成酵素II型-D1タンパク質欠損系統)、Chosen 57(コムギ澱粉合成酵素II型-A1タンパク質欠損系統)の3品種を順次交配し、その後代よりコムギ澱粉合成酵素II型タンパク質を全て欠損した系統(コムギ顆粒性澱粉合成酵素は全て発現している)を選抜し、これを一方の親系統とした。また、コムギ系統「モチ乙女」と外来品種を交配し、そのF5世代から選抜したモチ性コムギ(コムギ顆粒性澱粉合成酵素タンパク質は全て発現しないが、コムギ澱粉合成酵素II型タンパク質は全て発現している)をもう一方の親系統および比較例として用いた。
この2つの系統を親系統として交配を行いF1世代を得た。これを自家受精させてF2以降の世代を得、この中からPCR法によるコムギ澱粉合成酵素II型タンパク質の発現の確認(特開2005-333832号公報参照)を行った。また特開平6-125669号公報に示されている方法に従い、2次元電気泳動によるコムギ顆粒性澱粉合成酵素タンパク質の発現の確認を行い、コムギ澱粉合成酵素II型-A1およびコムギ澱粉合成酵素II型-B1タンパク質を発現せず、かつコムギ顆粒性澱粉合成酵素タンパク質を全て発現しない系統を選抜した。全てのコムギの栽培、交配は定法に従った。
こうして選抜した種子を十分量増殖し試験用原料とした。収穫したコムギは水分が14%になるように加水し一晩放置した後、ビューラー社製テストミルにて挽砕した。1B、2B、3B、1M、2M、3Mの取り口から得られた粉を全て混合してストレート粉とした。この挽砕の歩留りは61%であった。このようにして得られた粉を使用した。
強力粉のイーグル(日本製粉社製)、薄力粉のハート(日本製粉社製)、薄力粉のクラブ(日本製粉社製)、中力粉のさぬき菊(日本製粉社製)
3.2006年群馬県産の農林61号1等麦(N61)(コムギ顆粒性澱粉合成酵素タンパク質、コムギ澱粉合成酵素II型タンパク質ともに全て発現しているタイプ、以下、N61コムギと称する。)からの小麦粉
上記LTG-SDコムギからの手法と同様にして、挽砕した。歩留りは63%であった。
4.モチ性コムギからの小麦粉
東北農業研究センターにて栽培された上記モチ性コムギを、上記LTG-SDコムギからの手法と同様にして、挽砕した。歩留りは58%であった。
5.ワキシーコーンスターチ
モチ性デンプンとして広く使用されている。
上記のように調製した粉を用いてラピッドビスコアナライザー(RVA)を用いた糊化特性の測定を行った。装置にはNEWPORT SCIENTIFIC社製 model RVA-4を用い、測定法はアメリカ穀物学会の定める公定法(AACC法76-21)に従った。調製した小麦粉から乾燥重量で3.5 gの粉を計り取り、25 mlの1 mM 硝酸銀を加え、スターラーで上下に10回攪拌を行った後、装置にセットした。測定条件は次のとおりである。サンプル温度50℃で回転速度をいったん960 rpmまで上げたあと、50℃のまま160 rpmまで回転数を落とし1分間その状態を継続した。その後回転数を維持しながら3℃/minの割合で95℃まで加熱し、10分間95℃を維持した後、再度3℃/minの速度で50℃まで冷却した。この間の粘度(cP)の変化を測定し、グラフを作成した。そのグラフを図1に示す。また各サンプルの糊化ピーク温度は次のとおりであった。
この結果から、LTG-SDコムギの糊化特性は、通常タイプのN61コムギやモチ性コムギに比べて糊化温度が明らかに低いことがわかる。これまでモチ性コムギ由来の小麦粉は通常タイプに比べて糊化ピーク温度が低くなることが知られていたが、LTG-SDコムギ由来の小麦粉ではさらにこれを下回る糊化ピーク温度を示すことが明らかになった。また、糊化ピーク温度における粘度も著しく高くなっていた。糊化ピーク温度が低くなれば、低温での加工が可能になり他の材料への加熱による影響を軽減させることができるようになる、あるいは従来品と比較してより糊化程度の進んだ食品を作成することができるなど、特性に応じた加工方法を選択することにより、食感などが大きく異なる製品を製造することができる。
上記のモチ性コムギ、LTG-SDコムギより得られた小麦粉からデンプンを精製し、デンプン糊化後の老化耐性の検討を行った。
各サンプルとも、上記ビューラー社製テストミルにて挽砕して得たストレート粉から、デンプンを精製した。ストレート粉100 gに対して48 mlの蒸留水を加えて室温で生地を捏ね上げた。この生地を平たく延ばして適当な大きさに切り分けた後、蒸留水中に浸して1時間放置した。蒸留水中で生地をまとめつつ、大部分のデンプンが水中に分散するまでよく揉み出した。デンプンを含む懸濁液を500 ml遠心管に移し、TOMY精工製遠心機(CS210、ローター番号17N)で2500 rpm、10分間の遠心を行った。上清を捨て、残りの懸濁液を加えて同様の操作を行うことで沈殿物を回収した。得られた沈殿物のうち、上層に沈殿するペントザン等の不純物をスパーテルで取り除き、再度蒸留水を加えて懸濁、遠心を行った。この操作を繰り返すことで、不純物を可能な限り除去しデンプン画分を得た。このデンプン画分を再度少量の蒸留水に懸濁して-80℃にて凍結後、凍結乾燥して精製デンプンを得た。精製デンプンの水分含量を測定した後、14%水分換算で 3.0gに相当するサンプルをカップに測り取り、これに総量が28 gになるように蒸留水を加え、RVAによるデンプンの糊化を行った。糊化条件は、サンプル温度50℃で回転速度をいったん960 rpmまで上げたあと、50℃のまま160 rpmまで回転数を落とし1分間その状態を継続した。その後回転数を維持しながら3℃/minの割合で95℃まで過熱し、10分間95℃を維持した後、再度3℃/minの割合で50℃まで冷却した。この糊化液をグライナー社製50 mlプラスチックチューブに回収し、密封状態で4℃にて保管した。このように糊化したサンプルの糊化直後、および低温(4℃)にて4日間保存しておいたサンプルの粘度をB型粘度計(TOKIMEC VISCOMETER model B8L)を用いて測定した。測定には4番ローターを用い、回転数は30 rpmで行った。サンプルは25℃に1時間保温した後に、ローターの先端から3.5cmまでサンプルに浸るようにセットし、ローターを回転させて30秒後の粘度を測定した。この結果を次に示す。
各サンプルを1.5 mlチューブに適当量量り取り、サンプル重量に対して100倍の水を加えてよく懸濁し、372 nmにおける吸光度を光路長1cmのセルを用いて測定した。5日目の吸光度の値から糊化直後の吸光度の値を差し引きして、低温保存中に増加した吸光度の値を求めた。この結果を次に示す。
この結果から、LTG-SDコムギ由来デンプン糊液は、低温保存期間中の吸光度の上昇が抑制されており、デンプン糊液の透明性が維持されていることがわかる。
これら結果は、モチ性コムギ由来のデンプンに比べてLTG-SDコムギの糊化液は明らかに老化耐性が高いことを示している。老化耐性の度合いは食品の食感に大きく影響を与えることになる。また食品の食感の劣化を防ぐことが可能となり、より長期間の保存が可能となる。
なおこの試験には、市販の小麦粉として強力粉のイーグル(日本製粉)を用いた。配合表のうち、ショートニング以外のものまで混合し、ミキサー(エスケーミキサー TYPE SK21C)で低速2分間、中速3分間、高速1分間のミキシングを行った(27℃)。ミキサーを止めてショートニングを加えた後、再度低速1分、中速3分、高速5分間のミキシングを行い、捏ね上げた生地を27℃、湿度75%で60分間醗酵させた。パンチ後、再度同条件で30分間醗酵し、230 gに分割して丸め、25分間のベンチを行った。モルダーにて整形した後、成型用型に入れ38℃、湿度85%の醗酵室にて生地高さが型の80%程度に膨らむまでホイロを行った後焼成した(205℃、35分間)。焼成した食パンは室温で1時間放冷した後、ビニール袋に入れて16時間室温で放置後、厚さ25mmにスライスして試食を行った。
香り
5.香ばしくて強い香りがある。
4.やや強めの香りがある。
3.香りは感じられる。
2.香りはしない。
1.好ましくない香りがある。
口溶け
5.口溶けが非常に良い。
4.口溶けが良い。
3.口溶けは普通。
2.口溶けがやや悪い。
1.口溶けが悪く、口の中に残る。
硬さ
5.柔らかい
4.やや柔らかい
3.普通
2.やや硬い
1.硬い
食感
5.非常にもっちりとしている。
4.もっちり感が強い。
3.さくさくしているが、ややもっちり感がある。
2.ややさくさくしている。
1.さくさくしている。
スポンジケーキの製造
以下に示す配合(質量部)を用いて、スポンジケーキを製造した。
上記配合のうちの小麦粉分は市販の小麦粉、上記で調製したLTG-SDコムギからの小麦粉、N61コムギからの小麦粉、モチ性コムギからの小麦粉、及びワキシーコーンスターチを使用して、以下の表3の組成(質量%)で構成した。
なおこの試験には市販の小麦粉には薄力粉のハート(日本製粉社製)を用いた。製造工程は次のとおりである。あらかじめ試験に必要な量の全卵をほぐし25℃に保温した。この全卵175 gにグラニュー糖125 gを加えてミキサーにて低速1分、高速10分、低速1分のミキシングを行った。表3の組成に従ってあらかじめ混合し篩っておいた粉を加えて、低速30秒間のミキシングを行った。ミキサーの壁についた粉を掻き落とした後、再度低速で30秒間のミキシングを行った。360 gの生地を型に流し込み、上火185℃、下火180℃にて30分間焼成した。焼きあがったスポンジケーキを型から取り出し室温で30分間放冷した後、そのまま室温にて放置し、翌日官能評価を行った。官能評価は以下の項目と評価基準に基づき、10名のパネラーによる評価を行い、各項目について平均値を算出した。また製造されたスポンジケーキを4℃の冷蔵庫に24時間保存した後、同様の評価を行った。表3に室温保存後の結果を、表4に冷蔵保存後の結果を示す。
5.香ばしくて強い香りがある。
4.やや強めの香りがある。
3.香りは感じられる。
2.香りはしない。
1.好ましくない香りがある。
口溶け
5.口溶けが非常に良い。
4.口溶けが良い。
3.口溶けは普通。
2.口溶けがやや悪い。
1.口溶けが悪く、口の中に残る。
甘み
5.甘みが非常に強い。
4.甘みが強い。
3.やや甘みが強い。
2.甘みがある。
1.甘みが少ない。
もっちり感
5.ソフトでもっちり感が強い。
4.もっちり感が強い。
3.ややもっちり感がある。
2.もっちり感が少ない。
1.もっちり感がない。
LTG-SDコムギからの小麦粉の配合量が高くなるにつれモッチリ感は強くなるものの、口どけは悪くなり、製品の体積も小さくなるという現象が見られた。これらの観点から、小麦粉全体に対して1〜40質量%の範囲、特に1〜30質量%の範囲の配合、さらに好ましくは2〜20質量%の範囲の配合が好適と見られた。
クッキーの製造
以下に示す配合(質量部)を用いて、クッキーを製造した。
上記配合のうちの小麦粉分は市販の小麦粉、上記で調製したLTG-SDコムギからの小麦粉、N61コムギからの小麦粉、モチ性コムギからの小麦粉、及びワキシーコーンスターチを使用して、以下の表5の組成(質量%)で構成した。
なおこの試験には、市販の小麦粉として薄力粉のハート(日本製粉社製)を用いた。製造工程は次のとおりである。ミキサー内で必要量のグラニュー糖、脱脂粉乳、塩、ショートニング、重曹、重炭酸アンモニウム、水を混ぜ合わせ低速で1分間混合した。高速に切り替え、4分間ミキシングを行い、壁面の粉を掻き落とした後さらに4分間のミキシングを行った。計量した小麦粉を加えて低速30秒のミキシングを行った後、粉を掻き落として再度低速で30秒のミキシングを行った。ミキサーより生地を取り出してまとめて棒状にした。この棒状の生地を6分割してアルミプレート上で厚みが6 mmになるように延ばした。直径6 cmの円形の抜き型で型抜きを行い焼成した(上火200℃、下火210℃、12分間)。室温で片面を15分間ずつ放冷後、ビニール袋に入れて室温で保存し、翌日官能評価を行った。10名のパネラーにより以下に挙げた項目と評価基準に従って5段階評価し、各項目における平均値を算出した。結果を表5に示す。
5.香ばしくて強い香りがある。
4.やや強めの香りがある。
3.香りは感じられる。
2.香りはしない。
1.好ましくない香りがある。
口溶け
5.口溶けが非常に良い。
4.口溶けが良い。
3.口溶けは普通。
2.口溶けがやや悪い。
1.口溶けが悪く、口の中に残る。
味
5.通常の味に加えて甘みがかなり感じられる。
4.通常の味に加えて甘みが少し強調されている。
3.味は普通。
2.やや味が薄い。
1.味が薄い。
歯ごたえ
5.かなり柔らかい。
4.少し柔らかい。
3.適度の硬さ。
2.やや硬い。
1.硬くてぼろぼろしている。
なおこの試験には、市販の小麦粉として薄力粉のクラブ(日本製粉)を用いた。製造工程は次のとおりである。上記配合のとおりに混合し、ホイッパーで攪拌し生地を作った。180℃に設定した大判焼き用鉄板に生地を流し込み、餡を載せ5.5分間焼成した後、反転してさらに5.5分間の焼成を行った。焼きあがった大判焼きを焼成直後、あるいは焼成後冷蔵庫にて24時間保存後にレンジアップしたものについて、官能評価を行った。10名のパネラーにより以下に挙げた項目と評価基準に従って5段階評価し、各項目における平均値を算出した。表6に焼成直後の結果を、表7に冷蔵保存後の結果を示す。
5.香ばしくて強い香りがある。
4.やや強めの香りがある。
3.香りは感じられる。
2.香りはしない。
1.好ましくない香りがある。
口溶け
5.口溶けが非常に良い。
4.口溶けが良い。
3.口溶けは普通。
2.口溶けがやや悪い。
1.口溶けが悪く、口の中に残る。
歯切れ
5.歯切れが良く、さっくりとしている。
4.やや歯切れが良い。
3.歯切れは普通。
2.やや歯切れが悪く、少しねちゃつく。
1.歯切れが悪くねちゃつく。
もっちり感
5.ソフトでもっちり感が強い。
4.もっちり感が強い。
3.ややもっちり感がある。
2.もっちり感が少ない。
1.もっちり感がない。
なおこの試験には、市販の小麦粉として薄力粉のクラブ(日本製粉社製)を用いた。製造工程は次のとおりである。配合表のとおりに混合し、ホイッパーで攪拌し生地を作った。180℃に設定したたこ焼き用鉄板に生地を流し込み、4分間焼成した後、上から180℃に加熱した鉄板を重ねさらに1分間焼成した。焼きあがったたこ焼きを焼成直後、あるいは焼成後−20℃の冷凍庫にて24時間保存後にレンジアップしたものについて、官能評価を行った。10名のパネラーにより以下に挙げた項目と評価基準に従って5段階評価し、各項目における平均値を算出した。表8に製造直後の結果を、表9に冷凍保存後の結果を示す。
5.香ばしくて強い香りがある。
4.やや強めの香りがある。
3.香りは感じられる。
2.香りはしない。
1.好ましくない香りがある。
口溶け
5.口溶けが非常に良い。
4.口溶けが良い。
3.口溶けは普通。
2.口溶けがやや悪い。
1.口溶けが悪く、口の中に残る。
もっちり感
5.ソフトでもっちり感が強い。
4.もっちり感が強い。
3.ややもっちり感がある。
2.もっちり感が少ない。
1.もっちり感がない。
うどんの製造
以下の配合(質量部)により、うどんを製造した。
上記配合のうちの小麦粉分は市販の小麦粉、上記で調製したLTG-SDコムギからの小麦粉、N61コムギからの小麦粉、及びモチ性コムギからの小麦粉を使用して、以下の表10の組成(質量%)で構成した。
なおこの試験には、市販の小麦粉として中力粉のさぬき菊(日本製粉社製)を用いた。製造工程は次のとおりである。ミキサーで小麦粉を攪拌しつつ、塩を溶かした水を加えて5分間捏ね上げる。捏ね上げたそぼろ状の生地を製麺ロールに通し成形を行った。成形した生地を折りたたんで再度ロールに通して複合を行った後、生地の厚さが2.5 mmになるように圧延を行った。この後10番角刃ロールで裁断し、4℃で保存した。PHを調製した水を沸騰させ、麺を21分間茹で上げた後、冷水中で麺をほぐし、ざるに上げラップをかぶせた状態で室温で30分間放置した。このようにして製造したうどんを、以下に示す評価項目及び評価基準に従って、小麦粉として市販の小麦粉を100質量%用いた例6-1を基準にして、10名のパネラーによる官能評価を行った。各項目における平均値を算出した。表10に結果を示す。
5.柔らかい。
4.やや柔らかい。
3.中程度の柔らかさ。
2.やや硬い。
1.硬い。
粘弾性
5.粘弾性に優れる。
4.やや粘弾性に優れる。
3.中程度の粘弾性。
2.やや粘弾性に劣る。
1.粘弾性に劣る。
滑らかさ
5.滑らかさに優れる。
4.やや滑らかさに優れる。
3.中程度の滑らかさである。
2.やや滑らかさに劣る
1.滑らかさに劣る
Claims (8)
- コムギ澱粉合成酵素II型-A1タンパク質およびコムギ澱粉合成酵素II型-B1タンパク質を発現せず、かつコムギ顆粒性澱粉合成酵素-A1、顆粒性澱粉合成酵素-B1及び顆粒性澱粉合成酵素-D1の3つのコムギ顆粒性澱粉合成酵素タンパク質を発現しないタイプのコムギから調製される小麦粉と、他の穀粉とを含有することを特徴とする、穀粉組成物。
- コムギ澱粉合成酵素II型-A1タンパク質およびコムギ澱粉合成酵素II型-B1タンパク質を発現せず、かつ3つのコムギ顆粒性澱粉合成酵素タンパク質を発現しないタイプのコムギから調製される小麦粉を1〜50質量%含有する、請求項1記載の穀粉組成物。
- コムギ澱粉合成酵素II型-A1タンパク質およびコムギ澱粉合成酵素II型-B1タンパク質を発現せず、かつ3つのコムギ顆粒性澱粉合成酵素タンパク質を発現しないタイプのコムギから調製される小麦粉を1〜30質量%含有する、請求項1記載の穀粉組成物。
- コムギ澱粉合成酵素II型-A1タンパク質およびコムギ澱粉合成酵素II型-B1タンパク質を発現せず、かつ3つのコムギ顆粒性澱粉合成酵素タンパク質を発現しないタイプのコムギから調製される小麦粉を2〜20質量%含有する、請求項1記載の穀粉組成物。
- 他の穀粉がウルチ性コムギ由来の小麦粉、デンプン、米粉、そば粉、大麦粉、トウモロコシ粉、及びオーツ粉末からなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか1項記載の穀粉組成物。
- 請求項1〜5のいずれか1項記載の穀粉組成物を使用することを含む、食品の製造方法。
- 請求項1〜5のいずれか1項記載の穀粉組成物を使用して製造された食品。
- 該食品がベーカリー類、麺類、揚げ物類、焼き物類、ルーやソース、練り物から選ばれる、請求項7記載の食品。
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