JP5730830B2 - 製パン用米フィリング - Google Patents

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本発明は、ペースト状素材である製パン用米フィリング、これを練り込み剤として使用した米配合パン、及びこれらの製造方法に関するものである。
近年の急激な小麦粉原料価格高騰により、パン類を代表とする小麦粉製品の価格も上昇している。そのため、小麦粉製品の原料小麦粉の一部又は全部を、小麦粉と同等の品質あるいは新規な品質が得られ、かつコストメリットのある小麦粉以外の穀物素材に置き換える取り組みが行われている。この小麦粉代替穀物原料として、特にパン類においては、米(米粉)が注目されている。
米(米粉)は、その栄養価が高いことや小麦粉と比較してカロリーが低いことから、以前よりパン原料として検討されていた。また、米(米粉)は日本では数少ない国内自給率の非常に高い穀物であるため、年々消費量の低下している米(米粉)の有効利用及び自国の食料自給率向上という観点からも、パン類への小麦粉代替品としての利用は重要な取り組みと考えられている。
しかし、米(米粉)にはグルテン様タンパク質がほとんど含まれないため、単にパン類の小麦粉全部又は一部を米粉に置き換えた場合、製パン性(膨張性等)が悪い、得られるパンの食感(ふっくら感等)が悪い、老化スピードが速い(パンが硬くなりやすい)などの点で、パン製造及び得られるパンの品質に不都合が生じていた。また、生米等を加水して炊き上げ、お粥状のペースト素材(米フィリング)としたものをそのままパンに練り込むことは、パン製造時の加水量が過剰になってしまうためほとんど配合できず、通常の炊飯米そのもの、又は米粒感が残る程度の水分含量が比較的少ないお粥素材を練り込むことしかできなかった。
これらの点を改善するため、米粉にグルテン粉(小麦グルテン剤)及び酵素製剤(トランスグルタミナーゼ、ペクチナーゼ、アミラーゼ等)、乳化剤、糖類等を添加したものが提案されている(特許文献1、2)。しかし、これはグルテン粒子と米粉の均一な混合を必須とし、その混合性向上のため、米粉の粒子径を小さくしてグルテン粉粒子に近くする必要がある。また、配合される酵素はパン発酵時に酵素活性を発揮させるものであるが、パン発酵と併行して酵素活性を制御するのは非常に困難な作業であり、そのため製造するパンの品質コントロールも非常に難しいものとなるため工業生産には適さない。
さらに、主として製パン性改善のため、米粉に増粘剤を配合する方法(特許文献3)なども提案されている。しかし、上述の通り米の澱粉は非常に老化しやすいため、製パン性については一定の水準を満たすものであっても、得られるパンの品質(食感や老化スピード等)は満足できるものではない。
これらの技術背景から、グルテン剤などの副剤を必要以上に添加しなくても製パン性に優れ、かつ、製造されたパンの食感が良好であり、そのパンの老化スピードが小麦粉パンと同等以上の米配合パンの製造方法、及びこれに使用する製パン用米練り込み剤の開発が強く求められていた。
特開2004−208561号公報 特開2004−267157号公報 特開2008−278827号公報
本発明は、上述の当業界の強い要望に鑑み、製パン性に優れ、製造されたパンの食感が良好であり、かつ老化スピードが小麦粉パンと同等かそれより遅い(つまり製パン性及び得られるパンの品質が小麦粉パンと遜色ない)米配合パンの製造方法、これに使用する新規な製パン用米練り込み剤、及びこの練り込み剤の製造方法を提供する目的でなされたものである。
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究の結果、米粉に加水して炊き上げ、炊き上げと同時に攪拌してアミラーゼ剤処理をすることで、通常の粥状米素材より少ない水分量のアルファ化したペースト状米フィリングが得られることをはじめて見出した。そして、この米フィリングを酵素失活処理してパンに練り込むことで、製パン性が良好であり、パン発酵時に酵素活性をコントロールする必要がなく、得られる米配合パンの品質が良好であることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)米粉に、その米粉重量に対して100〜200%加水し、40〜65℃で炊き上げと同時併行で10〜20分攪拌してアミラーゼ剤処理を行い、その後酵素失活処理を行うことを特徴とする、製パン用ペースト状米フィリングの製造方法。
(2)アミラーゼ剤が、αアミラーゼ、βアミラーゼ、グルコアミラーゼの少なくとも1つを含む製剤及び/又はモルトエキス及び/又は米麹であることを特徴とする、(1)に記載の方法。
(3)(1)又は(2)に記載の方法により米粉より製造された、製パン用ペースト状米フィリング。
(4)(3)に記載の製パン用ペースト状米フィリングを練り込み剤として使用することを特徴とする、米粒感のない米配合パンの製造方法。
(5)(1)又は(2)に記載の方法により米粉より製造された製パン用ペースト状米フィリングを配合して製パンすることを特徴とする、米粒感のない米配合パンの製パン性及び品質向上方法。
本発明によれば、本発明の製パン用米フィリングをパン練り込み剤として使用することで、グルテン剤などの副剤を必要以上に添加しなくても、パン製造時の製パン性に優れ、ソフトでモッチリ、しっとりとした良好な食感であり、かつ老化スピードが小麦粉パンと同等かそれより遅い米配合パンを工業的に製造することができる。さらに、得られた米配合パンはお米本来のやさしい自然な甘味があり、のどごし、口溶けが良く食べやすい。その上、パンを焼いたときの香ばしさ等の風味も非常に良好である。
なお、上述の通り、米粒感の全くない一般的な粥状米素材をパンに使用することは、加水過剰となることから、わずかな量しか添加することができなかった。しかし、本発明の米フィリングは一般的な粥状米素材と性状は同等でありながら水分量が劇的に少ないため、製パン性等に影響を与えずにパン生地中に米フィリングを多量配合することが可能であることも特徴である。
標準食パン生地、湯種製法パン生地、及び製パン用米フィリング30%配合パン生地の製パン性比較グラフを示す。 標準食パン、湯種製法パン、及び製パン用米フィリング30%配合パンの官能評価比較グラフを示す。 米粉パンと製パン用米フィリング30%配合パンの焼成後1日目、及び3日目の老化データを示す。パンが硬くなるほど老化していることを表す。
本発明の米フィリングの原料となる米粉は特に銘柄等は限定されず、また、うるち米100%、もち米100%のいずれでも使用することができる。さらに、うるち米ともち米のブレンド米も使用することができる。なお、米粉は、精白米粉、玄米粉のいずれでも使用できるが、色調が白いパン(食パンなど)に使用する米フィリング製造の場合には、精白米粉を用いることが好ましい。
本発明においては、米粉に加水してペースト状に炊き上げ、フィリング状の製パン練り込み剤とする。この際の原料米粉への加水量は、好ましくは原料重量に対して100〜300%である。特に、米粉の場合には100〜200%が好ましい。通常、酵素を使用せず、生米から炊き上げのみによって米粒感がないペースト状米フィリングとするには、生米の5〜10倍(500〜1000%)の加水量が必要であるが、本発明ではその半分から1/3程度の加水量しか必要としない。
この原料米粉の炊き上げ時において、アミラーゼ剤による処理を行う。アミラーゼ剤は、αアミラーゼ、βアミラーゼ、グルコアミラーゼの少なくとも1つを含む製剤(市販品を含む)を使用することができる。また、モルトエキス、米麹などのアミラーゼを含有する素材を用いることもでき、また、これらを2以上併用してもよいし、さらにこれらをあらかじめ混合しておき得られた混合物も使用することができる。添加量は原料や素材の酵素量等により適宜設定できるが、0.1〜0.5%程度が好ましい。なお、アミラーゼ剤としてβアミラーゼを選択することで、マルトース生成等により製造するパン類に糖類添加では得られない米本来の自然な甘味を付与することができるため、より好適である。
このアミラーゼ剤の反応は40〜65℃で10〜60分間行うのが好適である。特に、米粉を原料とした場合には、加水して40〜65℃で炊き上げと同時併行で10〜20分酵素反応を行うことが好ましいが、生米での製法と同様に20〜40分酵素反応を炊き上げ後に別に行っても差し支えない。
アミラーゼ剤の反応後は、酵素失活処理を行う。この酵素失活処理方法は特に限定はされないが、例えば、70〜95℃への加熱昇温による方法、高圧処理(超高圧処理を含む)による方法などが例示される。設備規模やコスト等から、工業的には加熱昇温方法が好ましい。このようにして米フィリングが得られるが、更に容器等に充填してもよい。
すなわち、酵素失活処理後の米フィリングは、冷却後そのままパン練り込み剤として使用することもできるが、所定の容器、包材等に充填し殺菌処理を行うことで汎用素材として流通させることも可能である。殺菌処理は、想定される流通温度(常温、冷蔵、冷凍)、品質保持期間等により、レトルト殺菌、低温殺菌など適宜設定できる。
上述の方法により、本発明の製パン用米フィリングを得ることができる。なお、本発明の米フィリングにおいては、米フィリング中への製パン性、パン品質を向上させるための副剤(グルテン剤、増粘剤、乳化剤、活性を維持した酵素剤、糖類等)の配合、及びこれらの副剤配合のための米フィリングの特殊な加工などを必須としない(つまり必要としない)ことも大きな特徴である。
この製パン用米フィリングを練り込み剤として使用して、米配合パン(米フィリング練り込みパン)の製造を行う。製パン方法は、ストレート製法、中種製法のいずれでも良いが、中種製法の場合には本捏工程で練り込み剤を使用することが好ましい。また、この練り込み剤使用に際して、特殊な工程(原料前処理、予備混合など)は全く必要ない。
製パン用米フィリングの配合量は、パン生地捏上に最低必要な水の量(小麦粉100部に対して38〜40重量%)を差し引いた残りの加水量を基準とする。例えば、中種製法の場合、本捏工程の加水量がそれにあたり、小麦粉100部に対して25〜30重量%である。これを基準として米フィリングの水分量から換算すればよく、好適な配合量は10〜50重量%、更に好適には15〜30重量%である。
製パン工程は、例えば中種製法の場合、小麦粉にパン酵母(イースト)を所定量添加して均一に混和し、水を用いて混捏し(中種を調製し)、20〜40℃で120〜240分一次発酵した後、残りの小麦粉、本発明の米フィリング及びその他副原料を所定量添加して、水を用いて混捏し、所定の形状に成形し、所定の温度、時間二次発酵し、焼成する。
これにより、米が配合された食パン、クロワッサン、バゲット、フランスパン、ロールパン、あんぱん、揚げパン、クリームパン、ジャムパン、ピザパン、カレーパン等各種の米配合パン類を製造することができる。
この製法による米配合パン生地は、特に生地の安定性に非常に優れ、また得られた米配合パンは、ソフト感、しっとり感、モッチリ感に優れている。この食感は、湯種製法による小麦粉パンの傾向に近いものであるが、これより品質は優れたものである。また、単に糖類を添加するのみでは得ることが難しい自然な甘味をもち、さらにパサツキがなく、のどごし、口溶けが良く食べやすい。その上、トースト時にカリッとした良好な香ばしさが付与される。
つまり、本発明によって、米を配合したパンでありながら、小麦粉パン(特に湯種製法によるパン)と同等かそれ以上の品質のパンを得ることができ、かつ製パン性は何ら問題がない。これは、従来の米(米粉)配合パンでは考えられなかったものであり、本発明は、言い換えれば、米(米粉)配合パンの製パン性及び品質の向上方法を提供することができる。これにより、パン類の新規小麦粉代替原料の提供、及び、米の有効利用及び食料自給率向上を図ることができる。
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内においてこれらの様々な変形が可能である。
(米粉からの製パン用米フィリングの製造)
うるち米の米粉200gに対し300gの加水、及びβアミラーゼ製剤(天野エンザイム社製、商品名:ビオザイムMD)0.2%添加を行い、ゆっくり攪拌を行いながら50℃まで加熱した。50℃に達温したら10分間攪拌を行いながら温度を保ち、反応終了後、75℃まで加熱昇温して酵素を失活した後冷却し、軟包材に充填後低温殺菌(90℃60分)を行い、製パン用米フィリングを得た。
(参考例1:生米からの製パン用米フィリングの製造)
うるち米の生米200gに対し400g加水を行い、ゆっくり攪拌を行いながら90℃まで加熱した。90℃に達温したら20分間攪拌を行いながら温度を保ち、お粥を作製した。そして、冷水100gを添加、攪拌し、品温を50℃に冷却した。そして、βアミラーゼ製剤(天野エンザイム社製、商品名:ビオザイムMD)を0.2%添加し、50℃に保ちながら攪拌して酵素反応30分間を行った。酵素反応終了後、75℃まで加熱昇温して酵素を失活した後冷却し、軟包材に充填後低温殺菌(90℃60分)を行い、製パン用米フィリングを得た。
(参考例2:米配合パンの製造)
参考例1で製造した製パン用米フィリングを練り込み剤として使用し、米配合パン(米フィリング70%配合品、米フィリング30%配合品)を中種製法により製造した。対照として、中種製法による標準的な食パン、湯種製法による食パンを製造した。それぞれの配合を表1に、製造条件を表2に示した。
Figure 0005730830
Figure 0005730830
得られた米配合パン(米フィリング30%配合品)及び対照品(標準食パン、湯種製法パン)のパン生地の製パン性評価(図1)及びパンの官能評価(図2)を行った。米配合パン生地は、湯種製法パン生地とほぼ同等の製パン性を有していた。特に、米配合パン生地は、生地の安定性において湯種製法パン生地より優れていた。パンの風味・食感については、甘さ、のどごし、ソフト感、しっとり感、モッチリ感の各項目において、米配合パンが湯種製法パンより優れ、標準食パンとの比較では、上述の項目に加えて口溶けの項目でも優れていた。
(参考例3:米粉パンとの老化スピード比較試験)
参考例2で得られた米フィリング30%配合パン、及びこの米フィリング30%配合パンの配合において、米フィリングを米粉100gと加水200gに置き換え、他は同じ配合で製造した米粉パンの焼成後の硬さの変化(老化の程度)をそれぞれレオメーター(不動工業株式会社製、型番:NRM−2002J)にて測定した。
焼成後1日目においては、米フィリング30%配合パンが米粉パンよりややソフトであり、焼成後3日目においては、米粉パンが急激に硬くなる(老化する)のに対し、米フィリング30%配合パンの硬さ変化(老化)は非常に緩やかで、通常の小麦粉パン並であった(図3)。この結果から、老化の激しい米粉パンと比較して、米フィリング練り込みパンは老化スピードが非常に緩やかであることが明らかとなった。
以上の結果から、新規な製パン用米フィリングを練り込み剤として使用することにより、従来の米(米粉)配合パンには見られなかった良好な品質のパンが得られ、かつ製パン性も全く問題がなく工業生産が可能であることが示された。
本発明を要約すれば、以下の通りである。
本発明は、製パン性に優れ、製造されたパンの食感が良好であり、かつ老化スピードが小麦粉パンと同等以上の米配合パンの製造方法、これに使用する新規な製パン用米練り込み剤、及びこの練り込み剤の製造方法を提供することを目的とする。
そして、米粉に、その米粉重量に対して100〜200%加水し、40〜65℃で炊き上げと同時併行で10〜20分攪拌してアミラーゼ剤処理を行い、その後酵素失活処理を行って製パン用米フィリングを製造する。そして、得られた製パン用米フィリングをパン練り込み剤として使用することで、米配合パン製造時の製パン性に影響を与えず、食感が良好であり、かつ老化スピードが小麦粉パンと同等以上の米配合パンを製造することができる。

Claims (3)

  1. 米粉に、その米粉重量に対して100〜200%加水、及びβアミラーゼ0.1〜0.5%添加を行い、40〜65℃で炊き上げと同時併行で10〜20分攪拌してβアミラーゼ処理を行い、その後70〜95℃への加熱昇温による酵素失活処理を行うことを特徴とする、小麦粉代替原料としての製パン用ペースト状米フィリングの製造方法。
  2. 請求項1に記載の方法により米粉より製造された製パン用ペースト状米フィリングを小麦粉代替原料として小麦粉100部に対して10〜50重量%使用することを特徴とする、米粒感のない米配合パンの製造方法。
  3. 請求項1に記載の方法により米粉より製造された製パン用ペースト状米フィリングを小麦粉代替原料として小麦粉100部に対して10〜50重量%配合して製パンすることを特徴とする、米粒感のない米配合パンの製パン性及び品質向上方法。
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