JP6196448B2 - 低温糊化変異米の選抜方法及び低温糊化変異米の生産方法 - Google Patents

低温糊化変異米の選抜方法及び低温糊化変異米の生産方法 Download PDF

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Description

本発明は、低温糊化変異米の生産方法、米加工品、及び食品に関する。
日本人が常食としている米は、わが国では数少ない国内自給率の非常に高い穀物である。わが国の食糧自給率向上の観点から、国の施策として、米の消費拡大が推進されている。
消費者のライフスタイルの変化により、コンビニエンスストア、スーパーマーケット等で購入した食品を持ち帰り、家庭の食卓で食べる食事の形態、いわゆる「中食」が定着しつつある。一般的な中食としては、弁当、おにぎり、寿司等が挙げられ、それらには、炊飯米が用いられる。
近年、小麦アレルギーの問題が顕在化し、それを回避するために、小麦の代わりに米粉を用いたパン(以下、米粉パンという)が普及しつつある。米は栄養価が高くかつ小麦と比較してカロリーが低いという点からも、米粉パンは注目されている。
前述のような炊飯米を用いた弁当等は、冷蔵状態で配送されて店内に陳列されるため、配送及び陳列中に炊飯米が硬くなりやすく、また、米粉パンは、焼成後に硬くなりやすいという問題が存在していた。また、糯米を用いた餅製品についても、搗いて成型した後、経時的に硬くなるため、食感が損なわれるという問題が存在していた。米に含まれるデンプンは、炊飯及び加熱加工によって糊化し、その後冷却されると老化するからである。このような問題を解決する方法がいくつか見出され、報告されている。
米の炊飯時に、トレハロースといった保水性の高い糖類(特許文献1)、酵素(アミラーゼ及びパパイン)(特許文献2)、ジグリセリン脂肪酸エステル(特許文献3)、又は食用油脂を主成分とする添加剤(特許文献4)を加えることにより、炊飯米が硬くなることを抑制する方法が報告されている。また、アミラーゼを添加することにより、硬くなりにくい米粉パンを製造する方法が報告されている(特許文献5)。さらに、アミロース含量15%以下の粘りの強い低アミロース米を使用することにより、低温保存中の食感劣化が少ない炊飯米を得る方法が報告されている(特許文献6)。加えて、糊化開始温度の低い米の品種として旱不知Dが知られている(非特許文献1)。また、餅製品については、天然多糖類のプルラン、二糖類、乳化剤を餅類の硬化防止剤として用いることが報告されている(特許文献7)。
特開平7−147916号公報 特開平7−31396号公報 特開平7−39325号公報 特開平4−141052号公報 特開2010−187559号公報 特開平9−322725号公報 特開平5−84046号公報
岡本和之 他,育種学研究,6(別2),p316,2004
しかしながら、特許文献1〜5、7に記載の方法では、多糖類、酵素等を添加するため、製造コスト及び作業手順が増えるという難点が存在するばかりでなく、食品添加物の低減を望む消費者ニーズに逆行していた。また、特許文献6に記載の方法では、粘りの強い低アミロース米を用いるため、炊飯米の中食用容器へのパッキングラインにおいて、機械に炊飯米が付着することで製造効率が低下するという課題を残していた。さらに、非特許文献1に記載の旱不知Dは、消費者のニーズに合致する炊飯米及び米粉パンという観点においては、糊化特性に関して課題を残していた。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、柔らかさが維持される米加工品及び食品、並びに糊化しやすく老化しにくい低温糊化変異米の生産方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る低温糊化変異米の生産方法は、
旱不知Dを突然変異させる工程と、
尿素溶液を用いて低温糊化変異米を選抜する工程と、
を含む、
ことを特徴とする。
前記低温糊化変異米の生産方法は、
前記低温糊化変異米を選抜する工程に次いで、
前記低温糊化変異米と、糯性イネと、を交配させる工程と、
前記交配後代のF世代の個体から糯性個体を選抜する工程と、
前記糯性個体由来の試料に含まれる第6染色体のデンプン枝付け酵素I遺伝子のコアプロモーター領域における変異を検出することで糊化易性個体を選抜する工程と、
を含んでいてもよい。
前記低温糊化変異米の生産方法は、
前記糯性個体由来の試料中のDNAを鋳型として、HvSSR11−27マーカー(Forward Primer:配列番号3、Reverse Primer:配列番号4)及びHvSSR11−28マーカー(Forward Primer:配列番号5、Reverse Primer:配列番号6)のうち少なくとも1つ、並びにHvSSR11−48マーカー(Forward Primer:配列番号7、Reverse Primer:配列番号8)及びHvSSR11−50マーカー(Forward Primer:配列番号9、Reverse Primer:配列番号10)のうち少なくとも1つ、を用いて糊化易性個体を選抜する工程をさらに含んでいてもよい。
本発明の第2の観点に係る米加工品は、本発明の第1の観点に係る低温糊化変異米の生産方法で得られた低温糊化変異米からなる。
本発明の第3の観点に係る食品は、本発明の第2の観点に係る米加工品を含む。
本発明の第4の観点に係る米加工品は、旱不知Dを突然変異させることで得られた低温糊化変異米からなる。
前記低温糊化変異米のアミロペクチン短鎖指標値は、旱不知Dのアミロペクチン短鎖指標値の110%以上であってもよい。
前記低温糊化変異米の糊化温度は、旱不知Dの糊化温度よりも2℃以上低くてもよい。
前記低温糊化変異米は、低温糊化変異米と糯性イネとを交配することで得られた糯性低温糊化変異米であってもよい。
本発明の第5の観点に係る食品は、本発明の第4の観点に係る米加工品を含む。
本発明によれば、柔らかさが維持される米加工品及び食品、並びに糊化しやすく老化しにくい低温糊化変異米の生産方法を提供することができる。
尿素溶液を用いて低温糊化変異米を選抜する工程で使用されたマイクロプレートのひとつを示す図である。 各米品種のアミロペクチン鎖長分布及びDP9/DP17を示す図である。 各米品種の炊飯米の硬さを示す図である。 各米品種のグルテン添加米粉パンの焼成後の硬さを示す図である。 新規糊化易性遺伝子のマッピングを示す図である。 本実施例による糯性低温糊化変異米による餅の硬さを示す図である。(a)は、札幌材料の結果の図であり、(b)は、福山材料の結果の図である。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
(1.低温糊化変異米)
本発明による米加工品に用いられる低温糊化変異米について、以下に詳細に説明する。
本発明による低温糊化変異米は、陸稲品種である旱不知Dを突然変異させることで得られる。本明細書において低温糊化変異米とは、旱不知Dよりも糊化しやすく老化しにくい特徴を有する突然変異米をいう。突然変異処理の方法については、後に詳述する。
本発明による低温糊化変異米のアミロペクチン短鎖指標値は、例えば、旱不知Dのそれの110%以上である。本明細書においてアミロペクチン短鎖指標値とは、以下のように算出される。米デンプンのアミロペクチン側鎖のグルコース重合度(以下、DPという)5からDP35までの総検出モル数を算出し、総検出モル数に対するDP9の側鎖が占めるモル比率(A)、及び総検出モル数に対するDP17の側鎖が占めるモル比率(B)を求める。AをBで除した数値を、アミロペクチン短鎖指標値(以下、DP9/DP17という)とする。DP9/DP17の値が高いほど、米におけるアミロペクチン短鎖含有量が高くなる。
上記のDP9/DP17測定に供される米の試料は、例えば、米から冷アルカリ浸漬法(山本ら,澱粉科学,20,p99−104,1973)を参考に精製デンプンを調製し、精製デンプンを糊化させ、イソアミラーゼによりアミロペクチンを限定分解し、側鎖を直鎖成分とする方法により事前調製される。該試料は、例えば、8−アミノピレン−1,3,6−トリスルホン酸(8−aminopyrene−1,3,6−trisulfonic acid:ATPS)で蛍光ラベルされ、キャピラリー電気泳動装置(機種名:P/ACE system MDQ、ベックマンコールター社)により直鎖検出に供される。
本発明による低温糊化変異米のDP9/DP17は、前述の通り、旱不知Dのそれの110%以上であり、好ましくは111%以上である。したがって、本発明による低温糊化変異米のアミロペクチン短鎖含有量は、旱不知Dに比して高い。本発明による低温糊化変異米のDP9/DP17は、例えば、1.45以上であり、好ましくは1.50以上、より好ましくは1.55以上である。なお、いわゆる低アミロース米では、アミロース含量を低下させることで低温保存中の食感劣化が抑制される一方で、本発明による低温糊化変異米は、アミロペクチン短鎖含有量が高く、糊化しやすく老化しにくい特性を有する。
本発明による低温糊化変異米の糊化温度は、旱不知Dのそれよりも低く、例えば、2℃以上低い。本明細書において糊化温度とは、示差走査熱量計(例えば、機種名:DSC6100(セイコーインスツル社製))を用いて25℃から130℃まで2℃/minの昇温速度を測定した値より算出される。具体的には、示差走査熱量計で糊化吸熱ピークを測定し、この糊化吸熱ピークが頂点を示した時点での温度を糊化温度とする。
上記の糊化温度測定に供される米の試料は、例えば、前述と同様の冷アルカリ浸漬法を参考に米から調製された精製デンプンを用いることができる。
本発明による低温糊化変異米の糊化温度は、前述の通り、旱不知Dのそれよりも低く、例えば、2℃以上、好ましくは2.2℃以上低い。したがって、本発明による低温糊化変異米は、旱不知Dに比して糊化しやすく老化しにくい特徴を有する。本発明による低温糊化変異米の糊化温度は、例えば、66℃以下、好ましくは65℃以下、より好ましくは64.5℃以下である。
(2.低温糊化変異米の生産方法)
本発明による低温糊化変異米の生産方法は、旱不知Dを突然変異させる工程と、尿素溶液を用いて低温糊化変異米を選抜する工程と、を含む。
旱不知Dを突然変異させる工程において、突然変異処理は、例えば、旱不知Dの種子を、アジ化ナトリウム、メチルニトロソウレア(MNU)、N−ビス(2−ヒドロキシプロピル)ニトロソアミン(DHPN)等を含む溶液に浸漬することで行われる。例えば、コバルト60等の放射線による突然変異処理の方法を用いてもよい。本発明の効果を奏する突然変異処理の方法であれば適宜選択され得る。
尿素溶液を用いて低温糊化変異米を選抜する工程について、以下に説明する。低温で糊化しやすいデンプンは、低濃度の尿素溶液に溶解する性質を有する。低温でより糊化しやすい低温糊化変異米を得るためには、まず、旱不知Dの玄米を様々な濃度の尿素溶液に浸して、旱不知Dの玄米が溶解しない尿素限界濃度を設定する。例えば、2.5M尿素溶液では溶解せず、2.6M尿素溶液でも溶解せず、2.7M尿素溶液では溶解した場合、尿素限界濃度は「2.6M」となる。次に、設定された尿素限界濃度の尿素溶液に、旱不知Dを突然変異させて得られた変異米の玄米を浸す(例えば、20℃で18時間浸す)。この尿素限界濃度の尿素溶液に溶解する変異米は、旱不知Dよりも糊化しやすい低温糊化変異米の候補となり得る。なお、変異米が尿素溶液に溶解したことは、例えば、変異米を浸した尿素溶液にヨウ素溶液を加え、ヨウ素デンプン反応により赤褐色や青紫色に染まるのを目視することで確認することができる。このような工程を世代毎に繰り返して行うことにより、低温糊化性が遺伝かつ固定した個体を低温糊化変異米として選別することができる。
尿素溶液を用いて低温糊化変異米を選抜する工程の具体例について、以下に説明する。前述の通り突然変異処理した旱不知D種子を育苗後、水田にて栽培し、稲一個体毎に種子を収穫する。得られた種子の玄米を、片刃カミソリを用いて、胚芽を有する半粒と、胚芽を有しない半粒と、に二分する。2.6M(尿素限界濃度)尿素水溶液に胚芽を有しない半粒を浸し、2.6M尿素水溶液に溶解した半粒の種子を低温糊化変異米の候補として選抜する。選抜された種子の玄米の胚芽を有する半粒を播種、栽培し、次世代の種子を収穫する。前述と同様に、尿素溶液による低温糊化変異米の候補の選抜を世代毎に繰り返し、低温糊化性が遺伝かつ固定した個体を低温糊化変異米とすることができる。
尿素溶液を用いて低温糊化変異米を選抜する工程では、特殊な試薬、装置及び手法を用いること無く簡便に行うことができ、かつ確実に低温糊化変異米を選別することができる。
(3.低温糊化変異米からなる米加工品及び食品)
本発明による低温糊化変異米からなる米加工品としては、例えば、米粉、炊飯米、加工米飯等が例示される。
本発明による米粉は、例えば、前述の低温糊化変異米を粉砕することにより得られる。例えば、前述の低温糊化変異米を白米又は玄米とし、気流粉砕機、杵、スタンプミル、ロール製粉機、石臼(乾式製粉又は湿式製粉)、ハンマーミル(乾式製粉又は湿式製粉)等の製粉装置を用いて、例えば、中央値200μm以下、中央値100μm以下、又は中央値50μm以下程度の粒度に粉砕することで得られる。異なる製粉装置により得られた米粉を混合してもよい。製粉装置による粉砕前には洗米を行ってもよく、洗米した場合には製粉装置で粉砕する前又は後に米を乾燥させてもよい。また、製粉装置による粉砕前に、ペクチナーゼ等を含む酵素液で米を処理してもよい。さらに、製粉装置により得られた米粉を篩にかけてもよい。本発明の効果を奏する米粉の調製方法であれば、適宜選択され得る。
本発明による米粉は、製粉装置により得られた米粉をさらに精製デンプンとしたものも含む。精製デンプンの調製を、例えば、冷アルカリ浸漬法(山本ら,澱粉科学,20,p99−104,1973)により行う場合、前述の低温糊化変異米を、例えば0.5mm以下程度の粒度に粉砕した後に精製を行ってもよい。本発明の効果を奏する精製デンプンの調製方法であれば、適宜選択され得る。
本発明による米粉には、米粉の製品に通常用いられる保存剤、賦形剤等を適宜含有させてもよい。
本発明による低温糊化変異米は、糊化しやすく老化しにくい特徴を有するため、この低温糊化変異米を含む米粉を用いたパン等の食品は、加熱加工後でも硬くなりにくく、柔らかさが維持される。
本発明による炊飯米は、例えば、前述の低温糊化変異米を公知の炊飯器で炊飯することで得られる。前述の通り、本発明による低温糊化変異米は、糊化しやすく老化しにくい特徴を有するため、この低温糊化変異米による炊飯米は、炊飯及び冷蔵後でも硬くなりにくく、柔らかさが維持される。
本明細書において炊飯米の硬さは、硬さ・粘り計(例えば、製品名:RHS1A(サタケ社製))を用いて測定され得る。本発明による炊飯米の炊飯放熱後の硬さに対する4℃で24時間冷蔵後の硬さの増加率は、旱不知Dのそれよりも小さく、例えば、50%未満、好ましくは45%以下、より好ましくは43%以下である。
本発明による炊飯米は、炊飯及び冷蔵後でも柔らかさが維持されるため、中食用の弁当、おにぎり等に好適に用いられ得る。また、添加剤を用いることなく炊飯及び冷蔵後でも柔らかさが維持されるため、弁当、おにぎり等の製造コスト及び作業手順を低減することができる。さらに、低アミロース米を用いることなく炊飯及び冷蔵後でも柔らかさが維持されるため、弁当、おにぎり等の容器へのパッキングラインにおいて、機械への炊飯米の付着が低減され、製造効率を向上させることができる。
本発明による加工米飯は、例えば、本発明による炊飯米をレトルトパウチ、トレイ等に無菌的に充填したものである。本発明による炊飯米は、前述の通り、炊飯及び冷蔵後でも柔らかさが維持されるため、加工米飯に好適に用いられ得る。また、前述と同様に、加工米飯の製造コスト及び作業手順を低減することができ、製造効率を向上させることができる。
なお、本発明の効果を奏する米加工品であれば、米粉、炊飯米及び加工米飯以外にも適宜選択され得る。
次に、本発明による食品は、前述の米加工品を含む。食品としては、例えば、グルテン添加米粉パン、米粉ブレンドパン等が例示される。
本発明によるグルテン添加米粉パンは、例えば、本発明による米粉に小麦活性グルテンを配合させて作られる。配合比は、例えば、米粉80%:小麦活性グルテン20%である。前述の低温糊化変異米は、糊化しやすく老化しにくい特徴を有するため、この低温糊化変異米による米粉を用いたグルテン添加米粉パンは、焼成後でも硬くなりにくく、柔らかさが維持される。
本明細書において、グルテン添加米粉パン(配合比=米粉80%:小麦活性グルテン20%)の硬さは、1.4cmの厚さにスライスしたパンを、直径3.6cmのプランジャーで厚さの25%押し込み、その際の応力をテクスチャーアナライザー(例えば、機種名:TA.XTplus(Stable Micro System社製))を用いて測定した値(g)で表される。本発明によるグルテン添加米粉パンの焼成後3日目の硬さの値は、例えば、旱不知Dの米粉を用いた同様のグルテン添加米粉パンよりも顕著に低く、例えば、200g以下である。本発明によるグルテン添加米粉パンの、焼成後1日目の硬さに対する焼成後3日目のそれの増加率は、例えば、30%以下、好ましくは26%以下である。このように、本発明によるグルテン添加米粉パンは、他の添加剤を用いることなく、焼成後においても柔らかさが維持される。
本発明による米粉ブレンドパンは、例えば、本発明による米粉に超強力小麦品種「ゆめちから」の小麦粉を配合させて作られる。配合比は、例えば、米粉20%:ゆめちから80%である。前述の低温糊化変異米は、糊化しやすく老化しにくい特徴を有するため、この低温糊化変異米による米粉を用いた米粉ブレンドパンは、焼成後でも硬くなりにくく、柔らかさが維持される。
本明細書において、米粉ブレンドパン(配合比=米粉20%:ゆめちから80%)の硬さは、室温まで放冷したパンをポリエチレン製の袋に入れて密封し、3日間室温状態で保管し、その後、パンを2cmの厚さにスライスし、各スライスの中央部から3cm×3cmの正方形のサンプルを切り出し、該サンプルをレオメーター(例えば、機種名:model RE33005(山電社製))を用いて、1cmまで圧縮した際の応力(N/m)として表され得る。焼成3日後の本発明による米粉ブレンドパンの硬さは、旱不知Dのそれに比して低く、例えば、4600N/m以下、好ましくは4500N/m以下である。このように、本発明による米粉ブレンドパンは、添加剤を用いることなく、焼成後においても柔らかさが維持される。
本発明による食品として、上記のグルテン添加米粉パン及び米粉ブレンドパンの他に、菓子、麺、餃子の皮、ライスペーパー、離乳食(レトルト)等が例示される。前述の低温糊化変異米は、糊化しやすく老化しにくい特徴を有するため、本発明による菓子、麺等は、加工後においても硬くなりにくく、柔らかさが維持される。なお、本発明の効果を奏する食品であれば、適宜選択され得る。
(4.糯性低温糊化変異米)
本発明による低温糊化変異米は、低温糊化変異米(粳性)と糯性イネとを交配して得られた糯性低温糊化変異米であってもよい。本発明による糯性低温糊化変異米について、以下に詳細に説明する。
本発明による糯性低温糊化変異米は、前述の低温糊化変異米(粳性)と糯性イネとを交配し、交配後代のF世代の個体から糯性かつ糊化易性個体を選抜することで得られる。その方法については、後に詳述する。
本発明による糯性低温糊化変異米を搗いて餅にすると、その餅は、硬化が遅い(つまり、柔らかさが維持される)特性を有する。具体的には、本発明による糯性低温糊化変異米を搗いて餅にした場合では、交配する糯性イネ由来の米を搗いて餅にした場合、又は前述の低温糊化変異米と糯性イネとを交配して低温糊化変異米のデンプン特性(後述)を受け継がなかったイネ個体の米を搗いて餅にした場合と比較して、硬化が遅くなる(つまり、柔らかさが維持される)。餅の硬さは、例えば、搗いてから24時間5℃に置いた後、テクスチャーアナライザーで測定され得る。
(5.糯性低温糊化変異米の生産方法)
本発明による糯性低温糊化変異米の生産方法は、旱不知Dを突然変異させる工程と、尿素溶液を用いて低温糊化変異米を選抜する工程と、その後の、低温糊化変異米(粳性)と糯性イネとを交配させる工程と、交配後代のF世代の個体から糯性個体を選抜する工程と、糯性個体由来の試料に含まれる第6染色体のデンプン枝付け酵素I遺伝子のコアプロモーター領域における変異を検出することで糊化易性個体を選抜する工程と、を含む。旱不知Dを突然変異させる工程と、尿素溶液を用いて低温糊化変異米を選抜する工程と、については、前述同様である。
低温糊化変異米(粳性)と糯性イネを交配させる工程において、糯性イネとして、例えば、きたゆきもち、こがねもち、ヒヨクモチ、はくちょうもち、ヒメノモチ、マンゲツモチ、新羽二重糯、カグラモチ、喜寿糯、モチミノリ、クレナイモチ、ヒデコモチ、もちひかり、峰の雪もち等の品種を用いることができる。餅品質の良さの観点から、きたゆきもちを好適に用いることができる。本発明の効果を奏する糯性イネであれば適宜選択され得る。
交配後代のF世代の個体から糯性個体を選抜する工程において、糯性イネを選抜する方法としては、例えば、玄米の外観から糯性と判断できるものを選抜してもよいし、イネの葉からDNAを抽出し、糯性を選抜し得る既知のDNAマーカー(例えば、Wanchana 他,Plant Science,165,p1193−1199,2003に記載のマーカー)を用いてPCR法により糯性個体を選抜してもよい。本発明の効果を奏する糯性個体の選抜方法であれば適宜選択され得る。
糯性個体由来の試料に含まれる第6染色体のデンプン枝付け酵素I遺伝子(Sbe1遺伝子)のコアプロモーター領域における変異を検出することで糊化易性個体を選抜する工程において、「糯性個体由来の試料」とは、例えば、糯性と判断されたイネ(例えばイネの葉)から抽出したDNA試料をいう。また、この変異の検出方法としては、例えば、糯性個体由来の試料中のDNAを鋳型として、Sbe1遺伝子のコアプロモーター領域にある挿入・欠失に基づくマーカー(Forward Primer:配列番号1、Reverse Primer:配列番号2)(以下、本明細書において「Sbe1マーカー」という)を用いてPCR法により増幅させ、PCR産物をアガロースゲルによる電気泳動により分離し、バンドの位置により変異を検出する方法が挙げられる。低温糊化変異米の原品種である旱不知Dが持つアミロペクチン短鎖比率が高いというデンプン特性は、1つの遺伝子で決まっていると判断され、その座乗染色体領域は、第6染色体のSbe1遺伝子座近傍であることが報告されている(梅本ら、日本作物学会紀事、第77巻、別号1、2008、p284−285)。したがって、Sbe1マーカーによりSbe1遺伝子のコアプロモーター領域における変異(挿入・欠失)を検出することで、旱不知D由来の糊化易性のデンプン特性(アミロペクチン短鎖比率が高い)を受け継いだイネ個体と、受け継がなかったイネ個体と、を明確に区別することができ、糊化易性のデンプン特性を受け継いだイネ個体(糊化易性個体)を確実に選抜することができる。
本発明による糯性低温糊化変異米の生産方法においては、糯性個体由来の試料中のDNAを鋳型として、HvSSR11−27マーカー(Forward Primer:配列番号3、Reverse Primer:配列番号4)(表1)及びHvSSR11−28マーカー(Forward Primer:配列番号5、Reverse Primer:配列番号6)(表1)のうち少なくとも1つ、並びにHvSSR11−48マーカー(Forward Primer:配列番号7、Reverse Primer:配列番号8)(表1)及びHvSSR11−50マーカー(Forward Primer:配列番号9、Reverse Primer:配列番号10)(表1)のうち少なくとも1つ、の計2つ以上を用いて糊化易性個体を選抜する工程をさらに含んでいてもよい。具体的には、糯性個体由来の試料中のDNAを鋳型として、上記マーカーを用いてPCR法により増幅させ、PCR産物を、例えばアガロースゲルによる電気泳動により分離し、バンドの位置により塩基配列の多型を検出する。本発明者らは、鋭意検討した結果、HvSSR11−27マーカーで増幅される領域とHvSSR11−50マーカーで増幅される領域との間に、新規糊化易性遺伝子が座乗することを見出した(以下、この新規糊化易性遺伝子座を「Lgt(t)座」という)。その結果、Sbe1マーカーに加えてこのようなマーカーを用いることで、より糊化易性に優れたデンプン特性を受け継いだイネ個体(糊化易性個体)を選抜できることがわかった。
本発明による糯性低温糊化変異米の生産方法の具体例について、以下に説明する。前述の通り得られた低温糊化変異米(粳性)と糯性イネの品種である「きたゆきもち」を交配し、その後代F種子を得る。F種子を玄米にし、外観から糯性と判断できる個体を選抜する。この個体を育苗し、葉からDNAを抽出する。このDNAを鋳型としてPCR法により、Sbe1マーカー、HvSSR11−27マーカー及びHvSSR11−28マーカーのうち少なくとも1つ、並びにHvSSR11−48マーカー及びHvSSR11−50マーカーのうち少なくとも1つを用いて(例えば、Sbe1マーカーと、HvSSR11−28マーカーと、HvSSR11−48マーカーと、を用いて)、Sbe1座が低温糊化変異米(変異系統)と同じ遺伝子型(sbe1)である個体、Lgt(t)座が低温糊化変異米(変異系統)と同じ遺伝子型(lgt)である個体、及びSbe1座、Lgt(t)座ともに低温糊化変異米(変異系統)と同じ遺伝子型(sbe1/lgt)である個体を選別する。このようにして得られた糯性イネ(糯性低温糊化変異米)は、糊化易性の特性を有し、搗いた餅は柔らかさが維持される。なお、Sbe1座、Lgt(t)座ともに低温糊化変異米(変異系統)と同じ遺伝子型(sbe1/lgt)の個体では、Sbe1座又はLgt(t)座のいずれか一方が低温糊化変異米(変異系統)と同じ遺伝子型である個体に比べて、搗いた餅がより柔らかくなる。
(6.糯性低温糊化変異米からなる米加工品及び食品)
本発明による糯性低温糊化変異米からなる米加工品としては、例えば、糯米、糯米粉(白玉粉等)、餅製品(例えば、搗いた餅、切り餅)等が例示される。例えば、糯米は、本発明による糯性低温糊化変異米を精米することで得られ、餅粉は、本発明による糯性低温糊化変異米を(例えば精米後に)粉砕することで得られ、餅製品は、前述の糯米を蒸して餅搗き器等で搗いて成型することで得られる。このようにして得られた餅製品は、硬化が遅い特性を有する糯性低温糊化変異米を用いているため、搗いてから一定時間経過後でも硬くなりにくく、糖類等の添加剤(硬化防止剤)を加えることなく、柔らかさが維持される。
上述の米加工品を含む食品としては、大福餅などの生菓子、白玉団子、米粉ブレンドパン等が例示される。このような食品は、硬化が遅い特性を有する糯性低温糊化変異米を用いているため、加工後一定時間経過後でも硬くなりにくく、柔らかさが維持される。このため、大福餅などの生菓子では糖類等の添加剤(硬化防止剤)を加えることなく柔らかさが維持され、白玉団子では冷やしても硬くなりにくく、米粉ブレンドパンでは焼成後においても柔らかさが維持され得る。
これらの米加工品には、通常用いられる保存剤、賦形剤等を適宜含有させてもよい。なお、本発明の効果を奏する米加工品及び食品であれば、適宜選択され得る。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
(突然変異処理及び低温糊化変異米の選抜)
陸稲品種「旱不知D」の種子(茨城県農業総合センター生物工学研究所より分譲)40gを、1mMアジ化ナトリウム溶液(アジ化ナトリウム(製品名:アジ化ナトリウム、和光純薬工業社)の水溶液(100mM)を100mMリン酸緩衝液(pH3.0)で希釈)400mLに25℃で6時間浸漬し、突然変異処理を行った。突然変異処理後の種子を、400mLの蒸留水で2回洗浄した後、常温で乾燥させた(突然変異処理の詳細については、Hasegawa and Inoue,Japanese Journal of Breeding 30,p301−308,1980を参照)。
前述の通り突然変異処理した種子を育苗後、水田にて栽培し、稲一個体毎に種子を収穫した。得られた種子を、籾殻を除去して玄米とした。稲一個体につき16粒の玄米を、片刃カミソリを用いて、胚芽を有する半粒と、胚芽を有しない半粒と、に二分した。胚芽を有する半粒と、胚芽を有しない半粒と、を各々異なる96穴のマイクロプレートの対応する位置の穴に入れた。胚芽を有しない半粒を入れたマイクロプレートの各穴に、2.6M(尿素限界濃度)尿素水溶液(pH7.0)(尿素(製品名:尿素、和光純薬工業社製)を水溶液としたもの)200μL加え、20℃で18時間静置した。その後、尿素水溶液を加えた各穴に、さらにヨウ素溶液(0.1%ヨウ素(製品名:よう素、和光純薬工業社製)/1%ヨウ化カリウム(製品名:よう化カリウム、ナカライテスク社製)水溶液)を20μL滴下し、玄米の尿素水溶液への溶解性を確認した。該ヨウ素溶液によって赤褐色又は青紫色に染まった玄米(図1の低温糊化変異米候補のカラム)を、低温糊化変異米の候補として選抜した。
前述の通り低温糊化変異米の候補として選抜された玄米の、胚芽を有する半粒を播種、栽培し、次世代の種子を収穫した。尿素水溶液を用いた前述の方法により低温糊化変異米の候補の選抜を世代毎に繰り返し、最終的に、低温糊化変異米としてM5世代の種子を得た。得られた低温糊化変異米を「変異系統202」と名付けた。
〔実施例2〕
(DP9/DP17の測定)
上述の通り得られた変異系統202のアミロペクチン短鎖比率を評価するために、DP9/DP17を測定した。比較として、原品種である旱不知D及び基準品種であるコシヒカリのDP9/DP17も併せて測定した。
変異系統202、旱不知D、及びコシヒカリを精米し、白米をとした。該白米を、サンプルミル(CYCLOTEC 1093、FOSS TECATOR社製)を用いて0.5mm以下の粒度に粉砕し、白米粉を得た。この白米粉を用いて、冷アルカリ浸漬法(山本ら,澱粉科学,20,p99−104,1973)を参考に、以下の方法で精製デンプンを調製した。該白米粉200gに、4℃に冷却した0.1%水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム(製品名:水酸化ナトリウム、ナカライテスク社製)を水溶液としたもの)1,600mLを加えて、4℃で3時間攪拌し、その後4℃で15時間静置した。上清の水酸化ナトリウム水溶液を廃棄後、沈殿物を蒸留水に懸濁し、洗浄した。該懸濁液を、150μmの篩にかけた。篩通過物を、2,000rpm、4℃で3分間遠心分離した。上清を廃棄し、沈殿物に、4℃に冷却した0.1%水酸化ナトリウム水溶液(上記と同様)1,600mLを加えて懸濁し、再度上述の通り4℃での攪拌及び静置を行った。その後、蒸留水を用いた沈殿物の洗浄を、上清がpH7となるまで繰り返した。懸濁液を100μm、引き続き75μmの篩にかけ、篩通過物を25℃で通風乾燥させた。乾燥後の篩通過物を乳鉢及び乳棒を用いて粉末化し、これを精製デンプンとした。
上述の通り調製した変異系統202、旱不知D、及びコシヒカリの精製デンプンのアミロペクチン側鎖の鎖長分布を測定した。測定は、既報(O’Shea and Morell;Carbohydrate Research,307,p1−12,1998、及びFujita et al;Plant Science,160,p595−602,2001)を参考に、以下の方法で行った。
各精製デンプン1mgをマイクロチューブに秤量し、脱イオン蒸留水285μLを加え攪拌後、15μLの5規定 水酸化ナトリウムを加え再度攪拌した。このマイクロチューブを5分間沸騰水中に置き、デンプンを糊化させた。放冷後、100%酢酸9.6μLを加えて中和し、600mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.6)50μL、2%アジ化ナトリウム10μL、及び脱イオン蒸留水690.4μLを加え混和した。その後、イソアミラーゼ(Pseudomonas amyloderamosaの培養液から得られたイソアミラーゼ、林原生化学研究所)5μL(約700unit)を反応させ、アミロペクチンを限定分解し、側鎖を直鎖成分とした。これに8−アミノピレン−1,3,6−トリスルホン酸(8−aminopyrene−1,3,6−trisulfonic acid:ATPS)(製品名:Labeling Dye(ATPS)、ベックマンコールター社製)を反応させ、蛍光ラベルした。ラベルした直鎖の検出は、キャピラリー電気泳動装置(機種名:P/ACE system MDQ、ベックマンコールター社)を用いて行った。各精製デンプンのDP5からDP35までの総検出モル数を算出し、総検出モル数に対するDP9の側鎖が占めるモル比率(A)、及び総検出モル数に対するDP17の側鎖が占めるモル比率(B)を求め、AをBで除した数値(DP9/DP17)を算出した。
結果を図2に示す。図中、モル比率の差分は、変異系統202又は旱不知Dの各アミロペクチン側鎖のモル比率から、対応するコシヒカリの各アミロペクチン側鎖のモル比率を減じて算出した値を表す。旱不知D及び変異系統202はコシヒカリに比してアミロペクチン短鎖モル比率が高かったが、変異系統202ではさらに旱不知Dに比してもアミロペクチン短鎖モル比率が高かった。DP9/DP17は、変異系統202ではコシヒカリに対して143%、旱不知Dに対して111%であった。
以上より、変異系統202のアミロペクチン短鎖比率は、旱不知Dのアミロペクチン短鎖比率に比して高いことが示された。
〔実施例3〕
(糊化温度の測定)
上述の通り得られた変異系統202の糊化温度を測定した。比較として、原品種である旱不知D及び基準品種であるコシヒカリの糊化温度も併せて測定した。
糊化温度の測定は、示差走査熱量計(機種名:DSC6100、セイコーインスツル社製)を用いて行った。変異系統202、旱不知D、及びコシヒカリから、実施例2と同様に精製デンプンを調製した。各々の精製デンプン10mgを、70μL容量の密封試料容器(銀製)(商品コード:560−003、DSC100系用、エポリードサービス社)に秤量し、蒸留水を加えて、デンプン濃度30%(w/w)(乾物重換算)とした。密封試料容器を密閉後、蒸留水のみを入れた密封試料容器をブランクとして、25℃から130℃まで2℃/minの昇温速度で糊化温度を測定した。得られたデータを上記示差走査熱量計に付属のソフトウェアで解析し、糊化温度を算出した。具体的には、上記示差走査熱量計で糊化吸熱ピークを測定し、この糊化吸熱ピークが頂点を示した時点での温度を糊化温度とした。
結果を表2に示す。変異系統202の糊化温度は、コシヒカリのそれより6.1℃、及び旱不知Dのそれより2.2℃低かった。
以上より、変異系統202の糊化温度は、旱不知D及びコシヒカリの糊化温度よりも低いことが示された。したがって、変異系統202は、旱不知Dよりも糊化しやすく老化しにくいことが明らかとなった。
〔実施例4〕
(炊飯米の評価)
変異系統202、旱不知D、及びコシヒカリの炊飯米の硬さを、以下の通り測定した。
変異系統202、旱不知D、及びコシヒカリを精米して白米とし、電気炊飯器(品番:SR−W180、ナショナル社製)で炊飯した。炊飯米の硬さの測定は、硬さ・粘り計(機種名:RHS1A、サタケ社製)を用いて、既報(越智ら,美味技術研究会,6,p16−19,2005)の方法に準じて行った。炊飯米8.0gを秤量し、上記硬さ・粘り計付属の試料用リングに詰めて整形後、硬さ測定に供した。上記硬さ・粘り計に付属のプログラムを用いて、硬さの解析を行った。炊飯米の硬さの測定は、炊飯放熱後及び4℃で24時間冷蔵後に行った。
結果を図3に示す。炊飯放熱後において、変異系統202の炊飯米は、旱不知Dと同程度の硬さであり、コシヒカリよりも硬い傾向にあった。しかし、4℃で24時間冷蔵後では、変異系統202の炊飯米は、旱不知Dに比して柔らかく、さらにコシヒカリに比して顕著に柔らかかった。4℃で24時間冷蔵後の硬さの増加率は、コシヒカリ137%及び旱不知D50%に比して、変異系統202では42%であり、変異系統202の硬さの増加率は、コシヒカリ及び旱不知Dに比して小さいことが示された。
以上より、変異系統202の炊飯米は、冷蔵後においても、旱不知Dのそれに比して硬くなりにくく柔らかさが維持されることが示された。
〔実施例5〕
(グルテン添加米粉パンの評価)
米粉に加工された変異系統202、旱不知D、及びコシヒカリを用いて、グルテン添加米粉パンを作り、焼成後の硬さ及び食味を評価した。
まず、変異系統202、旱不知D、及びコシヒカリから、以下の通り米粉を調製した。酵素処理を加えた湿式の気流粉砕法により、以下のように米粉を調製した。各品種の米を精米して白米サンプルとした。各白米サンプル1700gを水道水で4回洗浄し、その後、米の温度を上げて添加される酵素(後述)の作用を良くするために、40℃前後の湯で1回洗浄した。水を切った後、クエン酸三ナトリウム二水和物(製品名:くえん酸三ナトリウム二水和物、ナカライテスク社製)(0.3%)及びペクチナーゼ(製品名:ペクチナーゼG「アマノ」、天野エンザイム社製)(0.05%)を含む酵素液(約40℃)5Lに白米サンプルを漬け、45℃の培養器内に1時間静置した。処理後、白米サンプルを水道水で洗浄し、脱水後、ジェットミル(機種名:SPM−R290、西村製作所製)を用いて粉砕した。粉砕機の回転数の設定は50Hzとした。
次に、前述にて得られた各米品種の米粉を用い、ノータイム法(Yamauchi et al,Food Sci.Technol.Res.10,p247−253,2004)に準じて、以下の通り製パンを行った(配合比=米粉80%:小麦活性グルテン20%)。配合は水分含量を14%換算とした重量比で、各米粉80%、活性グルテン(製品名:エマソフトEX−100、理研ビタミン社製)15%、及びグルテン製剤(製品名:ドウマスターFR、理研ビタミン社製)5%とした。以上を100%として、これに対し、砂糖7%、脱脂粉乳3%、食塩1.5%、ショートニング8%、ドライイースト1.5%の比率で混合した。加水量は、米粉、活性グルテン、及びグルテン製剤の重量に対し75%とし、14%の水分補正についても加水量を調節することで行った。以上の割合に基づき、加水後の重量が1250gとなるように上記各材料の使用量を調節して混合した。パン生地はカントーミキサー(機種名:HPi−20M、関東混合機工業社製)を用いて捏ね、400gのパン生地をフッ素樹脂加工のパン型(スルトン食パン型、1斤用、長さ190mm、幅90mm、高さ90mm)に入れ、38℃、湿度80%で生地の高さが型の上端に届くまで(約1時間)発酵させた。引き続き185℃に予熱したガスオーブンにパン生地の入った型を入れ、28分間焼いた。焼成後のパンを型から取り出し、室温まで冷やした。
焼成後のパンを厚さ1.4cmにスライスし、パンの中心部を直径3.6cmのプランジャーで厚さの25%押し込み、その際の応力をテクスチャーアナライザー(機種名:TA.XTplus、Stable Micro System社製)を用いて測定し、その測定値をパンの硬さとした。パンの硬さの測定は、焼成後1日目、2日目、及び3日目に行った。
結果を図4に示す(図中、エラーバーはSD(n=3)である)。変異系統202のパンの硬さは3日目においても200g以下であり、コシヒカリ及び旱不知Dに比して顕著に柔らかかった。また、焼成後1日目のパンの硬さに対する焼成後3日目のそれの増加率は、コシヒカリ119%に対し、変異系統202で26%、旱不知Dで21%であった。このように、焼成後の変異系統202の硬さ増加率は、コシヒカリのそれよりも顕著に低く、旱不知Dのそれと同程度であった。
グルテン添加米粉パンの食味評価を以下の方法で行った。市販の米粉(製品名:薄力米粉、波里社製)を用いたパンを基準として、変異系統202、旱不知D、及びコシヒカリのパンを評価した。評価項目は、「外観」、「香り」、「柔らかさ」、「しっとり感」、及び「総合評価」の5項目であった。市販の米粉のパンと比較して、非常に優れる「3」、優れる「2」、やや優れる「1」、差がない「0」、やや劣る「−1」、劣る「−2」、又は非常に劣る「−3」の7段階で評価した。パンの食味評価は、焼成約24時間後に行った。評価者数は、20名であった。
結果を表3に示す。表3に示す値は、各評点と評価者数との積の合計を総評価者数で割った平均値である。変異系統202のパンでは、「柔らかさ」、「しっとり感」及び「総合評価」において、旱不知D及びコシヒカリのパンよりも優れていた。
以上より、変異系統202を用いたグルテン添加米粉パンは、旱不知D及びコシヒカリを用いたそれに比して、焼成の1日後でも柔らかさが維持され、また食味においても優れることが示された。
〔実施例6〕
(米粉ブレンドパンの評価)
米粉に加工された変異系統202、旱不知D、及びコシヒカリを用いて、超強力小麦粉と混合させた米粉ブレンドパンを作り、焼成後のふくらみ及び硬さ、並びに食味を評価した。
まず、変異系統202、旱不知D、及びコシヒカリから、実施例2と同様に精製デンプンを調製した。ブレンド適性の高い超強力小麦品種「ゆめちから」(江別製粉社より入手(小麦産年:2010年))の小麦粉160g、前述にて得られた各米品種の精製デンプン40g、グラニュー糖10g、ショートニング10g、食塩4g、ドライイースト4g、100ppmアスコルビン酸1mLを混合し、以下の通り製パンした(配合比=米粉20%:ゆめちから80%)。加水量は、133mLであった。ミキサー(200g用ピンミキサー、National MFG社製)のモーターにかかる負荷をモニタリングしながらパン生地を捏ね、負荷がピークになってから約10秒後にミキサーを止めた。パン生地は100gずつに分割し、30℃で20分間発酵器に置いた後、38℃、湿度85%で70分間発酵させた。その後、パン型(長さ123mm、幅70mm、高さ50mm)を用いて、200℃に予熱したオーブンで25分間焼いた。また、米粉を使用せず「ゆめちから」の小麦粉200gを用いて上記同様に製パン及び焼成したものを、比較用パン(配合比=米粉0%:ゆめちから100%)とした。
パンのふくらみを、比容積により評価した。比容積は、焼成後のパンを1時間室温で冷ました後、パンの体積及び重量を測定し、体積を重量で除して算出した。
パンの硬さの測定は、既報(山内ら,日本食品科学工学会誌;46,p212−219,1999)の方法に準じて行った。室温まで放冷したパンをポリエチレン製の袋に入れて密封し、3日間室温状態で保管した。その後、パンを2cmの厚さにスライスし、各スライスの中央部から3cm×3cmの正方形のサンプルを切り出した。切り出したサンプルをレオメーター(機種名:model RE33005、山電社製)を用いて、1cmまで圧縮した際の応力をパンの硬さとした。パンの硬さの測定は、焼成3日後に行った。
結果を表4に示す。表中、同じアルファベットの数値間にはTurkeyの検定による有意差が無いことを示す(p<0.05)。また、括弧内は、比較用パン(配合比=米粉0:ゆめちから100)を100とした場合の比率を表す。パンのふくらみ(比容積)において、旱不知Dとコシヒカリとの間で差が見られなかったが、変異系統202では旱不知D及びコシヒカリに比して高かった。特に、変異系統202での比容積は、コシヒカリでのそれに比して有意に高く、目視でも変異系統202のパンの膨らみの良さが確認された。また、パンの硬さについては、変異系統202のパンでは旱不知D及びコシヒカリのそれに比して柔らかく、特に、コシヒカリのそれに対しては有意に柔らかいことが示された。
米粉ブレンドパンの食味評価は以下の方法で行われた。比較用パン(配合比=米粉0%:ゆめちから100%)を基準として、変異系統202、旱不知D、及びコシヒカリの米粉ブレンドパンを評価した。評価項目は「焼き色」(評点:1〜10)、「形均整」(評点:1〜5)、「皮質(焼き色のついた部分にブツブツが見られないか、ひび割れが見られないか等を評価)」(評点:1〜5)、「すだち」(評点:1〜10)、「色相」(評点:1〜5)、「触感」(評点:1〜5)、「香り」(評点:1〜15)、「味」(評点:1〜15)、及び「総合評価」(最高評点:70)の9項目であった。各項目において、比較用パンの評点を満点の8割とし、それを基準に各米粉ブレンドパンを評価した。食味評価は、焼成後1日後及び3日後に実施した。評価者数は、焼成1日後で2名、焼成3日後で2名であった。
結果を表5に示す。表5に示す値は、各評点と評価者数との積の合計を総評価者数で割った平均値である。旱不知Dでは、コシヒカリよりも劣る評価項目があったのに対して、変異系統202の焼成3日後の「香り」以外では、コシヒカリと差が無い、又はコシヒカリに比較して優れていた。また、変異系統202では、「皮質」、「触感」、「香り」(焼成1日後)、「味」(焼成3日後)、及び「総合評価」において、旱不知Dよりも優れていた。特に、「触感」において、旱不知Dでは焼成1日後「3.75」に対して3日後では「3.5」に低下したが、変異系統202では焼成1日後「4.25」であり、3日後でも「4」に維持されていた。さらに、「味」において、旱不知Dでも変異系統202でも焼成1日後「11.75」であったが、旱不知Dでは3日後に「9」に低下したのに対して、変異系統202では3日後でも「9.25」に維持されていた。
以上より、変異系統202を用いた米粉ブレンドパンは、旱不知Dを用いたそれに比して、焼成時のふくらみが良好であり、焼成後でも柔らかさが維持され、また食味においても優れることが示された。
〔実施例7〕
(変異系統202と糯性品種との交配)
糊化易性の糯性イネ(糯性低温糊化変異米)を得るために、変異系統202と糯米品種「きたゆきもち」(北海道立総合研究機構農業研究本部・上川農業試験場より分譲)とを交配し、その交配後代のF世代個体の種子を確保した。
(新規低温糊化変異遺伝子座の決定)
前述のF世代個体の中から、糊化易性の個体を選抜するために、まず、以下の通り、新規低温糊化変異遺伝子座を決定した。
新規低温糊化変異遺伝子座を決定するために、材料として変異系統202とコシヒカリとを交配した後代のF世代200個体を用いた。このF世代200個体について、変異系統202が持つ既知の糊化易性遺伝子(デンプン枝付け酵素1、Sbe1)の遺伝子型を調べ、変異系統202ホモ型、又はコシヒカリホモ型に固定されたものを選んだ。方法は以下の通りである。
まず、変異系統202とコシヒカリとを交配した後代のF世代の個体を慣行法により栽培し、成葉1〜2枚を50℃で一晩乾燥した。乾燥した葉(約5cm)を解剖用ハサミで裁断し、ガラスビーズとともに2mLのマイクロチューブに入れ、フタを開けた状態で50℃、一晩乾燥した。乾燥サンプルを粉砕機(シェークマスター、バイオメディカルサイエンス)に2分間かけることで、粉末状に粉砕した。
次に、F世代の個体からDNAを抽出した。DNAの抽出には、CTAB(Cetyl trimethyl ammonium bromide)法をスケールダウンした方法を用いた。前述の粉末状の乾燥サンプルをマイクロチューブに入れ、1.5倍濃度のCTAB溶液(1.5% CTAB、75mM Tris−HCl(pH8.0)、15mM EDTA(pH8.0)、1.05M NaCl)800μLを加え、よく攪拌した後、56℃の恒温水槽に30分間置いた。その後、クロロホルム・イソアミルアルコール(24:1、v/v)500μLを加え、マイクロチューブを寝かせた状態で、75ストローク/分の速度で20分間振とうした。その後、10,000gで5分間遠心し、上清700μLを別の2mLマイクロチューブに移し、クロロホルム・イソアミルアルコール500μLを加えて75ストローク/分の速度で20分間振とうした。遠心(10,000g×5分間)後、上清650μLを別の2mLマイクロチューブに移し、CTAB沈殿バッファー(1% CTAB、50mM Tris−HCl(pH8.0)、10mM EDTA(pH8.0))650μLを加えて混和し、DNAを析出させた。析出したDNAを遠心(10,000g×5分)することでペレットにし、上清を捨てた。ペレットを99.5%の氷冷エタノール、引き続き70%の氷冷エタノールで各1回洗浄した後、60℃で約20分、DNAを乾燥させた。その後、DNAに1/10濃度のTE溶液を100μL加えて穏やかに攪拌することでDNAを溶かした。DNAの濃度を測定し、1/10濃度のTE溶液を用いて20ng/μLに希釈した。
次に、DNAマーカーを用いて、PCRによりSbe1座遺伝子型を判定した。DNAマーカーには、Sbe1遺伝子のコアプロモーター領域にある挿入・欠失変異に基づいたマーカー(挿入・欠失マーカー)であるプライマー対、Sbe1_5end_12I/D_U(配列番号1)及びSbe1_5end_12I/D_L(配列番号2)を用いた(梅本ら作成(2008年))。
PCR反応液(10μL)の組成は、以下の通りである。
GoTaq mix(プロメガ社) 5.0μL
滅菌水 4.0μL
鋳型DNA(20ng/μL) 0.8μL
プライマー混合液(20μM) 0.2μL
PCRの条件は、以下の通りである。
1.DNA変性:95℃、2分間
2.DNA変性:94℃、30秒間
3.アニーリング:60℃、30秒間
4.伸長反応:72℃、30秒間
(上記2〜4を35サイクル)
5.伸長反応:72℃、5分間
増幅したPCR産物を、3%アガロースゲル用いた電気泳動によって分離し、バンドの位置により、変異系統202とコシヒカリとの交配後代F世代200個体について、Sbe1座の遺伝子型(変異系統202ホモ型、コシヒカリホモ型、又はヘテロ型)を判定した。このF世代の個体から、変異系統202が持つ新規糊化易性の遺伝解析を容易にするために、ヘテロ型については棄却し、変異系統202ホモ型及びコシヒカリホモ型のみを選抜した。
上記の通り選抜した各々のF個体に実ったF種子24粒を用いて、実施例1と同様の尿素水溶液を用いた方法により、F個体の新規糊化易性の遺伝子型を調べた。尿素水溶液を用いた方法により糊化性の結果が曖昧な個体については、遺伝解析の対象とはしなかった。その上で、Sbe1座がコシヒカリホモ型5個体、変異系統202ホモ型12個体、及びヘテロ型16個体の計33個体のF個体を、遺伝解析の対象とした。
前述の33個体のF個体について、DNAマーカーを用いて新規糊化易性遺伝子の予備的なマッピングを行った。このDNAマーカーとしては、HvSSRマーカー(Singh 他,Molecular Breeding,25,p359−364,2010)のうち、遺伝解析集団の両親である変異系統202とコシヒカリとの間で明瞭な多型が確認できた46マーカー(表6)を用いた。PCR反応液の組成、PCRの条件、及び増幅産物の解析については、上記と同様である。増幅したPCR産物を、3%アガロースゲル用いた電気泳動によって分離し、バンドの位置により、遺伝子型を判定した。
解析に用いたF世代33個体の遺伝子型のマッピングデータを図5に示す。新規糊化易性遺伝子の座乗染色体領域では、糊化易性の遺伝子型とDNAマーカーの遺伝子型との一致率が高くなる。解析の結果、第11番染色体のHvSSR11−27で増幅される領域とHvSSR11−50で増幅される領域との間に新規糊化易遺伝子の存在が示唆された。そこで、この2つのマーカー間に位置するSSRマーカー202−9(Forward Primer:配列番号99、Reverse Primer:配列番号100)及び202−16(Forward Primer:配列番号101、Reverse Primer:配列番号102)(表7)を追加して解析を実施した結果、さらに一致率が高くなった。このことからHvSSR11−27で増幅される領域とHvSSR11−50で増幅される領域との間に新規糊化易性遺伝子が座乗することがほぼ確定された。したがって、変異系統202が持つ新規糊化易性のDNAマーカー選抜は、HvSSR11−27で増幅される領域とHvSSR11−50で増幅される領域との間に位置する塩基配列の多型に基づくDNAマーカーを用いることで実施可能であることがわかった。
(糊化易性の糯性イネ個体の選抜)
前述の通り変異系統202と糯米品種「きたゆきもち」とを交配して得たF世代個体の材料を2集団に分け、その後の栽培を北海道札幌市と広島県福山市とで別個に行った(以下、各々、「札幌材料」又は「福山材料」という)。
(札幌材料の栽培及び選抜)
上記の交配後代のF世代1109個体(種子)を玄米にし、外観から糯性と判断できる240個体を選抜した。これらを慣行法により育苗し、北海道農業研究センター(北海道札幌市)の水田圃場に植え、その葉からDNAを簡易調整した。DNAの簡易調整法は以下の通りである。イネの成葉1〜2枚を50℃で一晩乾燥した。乾燥した葉(約2cm)を解剖用ハサミで裁断し、ガラスビーズとともに2mLのマイクロチューブに入れ、フタを開けた状態で50℃、一晩乾燥した。乾燥サンプルを粉砕機(シェークマスター、バイオメディカルサイエンス)に2分間かけることで粉末状に粉砕した。サンプル粉末の入ったマイクロチューブに400μLの抽出バッファー(100mM Tris−HCl pH8.0、10mM EDTA pH8.0、1M NaCl)を加え、激しく攪拌した後、10,000gで10分間遠心し、上清350μLを新しい1.5mLマイクロチューブに移した。そこにイソプロパノールを350μL加えて良く反転混和し、10,000gで10分間遠心してDNAを沈殿させた。上清を捨てた後、マイクロチューブのフタを開けたままにして、1時間ほど室温でペレットを乾燥させた。その後、30μLの1/10TE溶液にペレットを溶かした。この溶液0.8μLをPCR反応に用いた。
この調整されたDNAを鋳型に用いて、既知の糊化易性遺伝子座であるSbe1座及び前述の新規糊化易性遺伝子座の遺伝子型を調べた。DNAマーカーとして、Sbe1遺伝子のコアプロモーター領域にある挿入・欠失変異に基づくマーカー(挿入・欠失マーカー)であるプライマー対、Sbe1_5end_12I/D_U(配列番号1)及びSbe1_5end_12I/D_L(配列番号2)、HvSSR11−28マーカー(Forward Primer:配列番号5、Reverse Primer:配列番号6)、並びにHvSSR11−48マーカー(Forward Primer:配列番号7、Reverse Primer:配列番号8)を用いた。DNAマーカー解析のためのPCR反応液の組成、PCR条件、増幅産物の解析は上記と同様である。増幅したPCR産物を、3%アガロースゲル用いた電気泳動によって分離し、バンドの位置により、遺伝子型を判定した。
このDNAマーカー選抜によって、F集団の中からSbe1座及び新規糊化易性遺伝子座(Lgt(t)座)の遺伝子型がともに糯性親品種「きたゆきもち」ホモ型の個体(遺伝子型:SBE1/LGT)、Sbe1座が変異系統202ホモ型でLgt(t)座が「きたゆきもち」ホモ型(遺伝子型:sbe1/LGT)、Sbe1座が「きたゆきもち」ホモ型でLgt(t)座が変異系統202ホモ型(遺伝子型:SBE1/lgt)、両方の遺伝子座が変異系統202ホモ型(遺伝子型:sbe1/lgt)を選抜した。これらの遺伝子型について、下記の表にまとめた。
これらの選抜個体を収穫し白米を調整したところ、餅の硬化性試験に必要な8gの白米を得られた個体は、SBE1/LGTが6個体、sbe1/LGTが4個体、SBE1/lgtが5個体、sbe1/lgtが5個体であった。
(福山材料の栽培及び選抜)
上記の交配後代のF世代780個体(種子)を近畿中国四国農業研究センター(広島県福山市)の水田圃場に慣行栽培し、その葉からDNAを簡易調整した(DNAの簡易調整法は上記と同様)。糯性個体の選抜は、玄米外観による判定ではなく、Wanchana 他,Plant Science,165,p1193−1199,2003に記載のDNAマーカーを用いる方法で行った。Sbe1座およびLgt(t)座の選抜は、HvSSR11−48マーカーの代わりにHvSSR11−50マーカー(Forward Primer:配列番号9、Reverse Primer:配列番号10)を用いた以外、上記の札幌材料の場合と同様に行った。
これらの選抜個体を収穫し白米を調整したところ、餅の硬化性試験に必要な白米8gを調整できた個体は、SBE1/LGTが2個体、sbe1/LGTが3個体、SBE1/lgtが2個体、sbe1/lgtが3個体であった。
(餅の硬化性測定)
札幌材料及び福山材料の各サンプルの白米8gを吸水させ、蒸した後、試験用小型餅つき器「ミニうさぎ」(応用栄養学食品研究所)で餅に搗き上げ、餅生地を厚さ7mmに成形した。24時間5℃に置いた後、テクスチャーアナライザー(Stable Micro System社製、TA−XT2i)に直径2mmの円筒形プローブを装着し、2mm/秒の速さで3mm貫入した際の正の最大荷重(g)を硬さとして測定した。なお、札幌材料、福山材料とも同様の方法で硬化性測定を行った。なお、札幌材料の解析には、同様に札幌で栽培した糯性親品種「きたゆきもち」のサンプルも加えた上で行った(5反復測定)(福山市では「きたゆきもち」の成熟が極端に早くなるため、「きたゆきもち」の栽培を行わなかった)。
(札幌材料の結果)
札幌材料の結果を図6(a)に示す。硬さ測定の結果、「きたゆきもち」の餅の硬さと、SBE1/LGT(Sbe1座とLgt(t)座がともに「きたゆきもち」遺伝子型)の餅の硬さと、の間で有意な差は認められなかった。一方、SBE1/lgt及びsbe1/LGT(Sbe1座又はLgt(t)座が変異系統202遺伝子型)の餅では、「きたゆきもち」の餅に比して、柔らかい傾向にあった。また、sbe1/lgt(Sbe1座及びLgt(t)座がともに変異系統202遺伝子型)では、SBE1/lgt及びsbe1/LGTの餅よりも柔らかい傾向にあり、さらには「きたゆきもち」の餅及びSBE1/LGTの餅よりも有意に柔らかい結果となった。
(福山材料の結果)
福山材料の結果を図6(b)に示す。札幌材料の結果と同様に、SBE1/lgt及びsbe1/LGTの餅では、SBE1/LGTの餅に比して柔らかい傾向にあり、sbe1/lgtの餅ではさらに柔らかい傾向にあった。
これらのことから、Sbe1座に加えて新規糊化易性遺伝子座(Lgt(t)座)が変異系統202遺伝子型となった個体を選抜することで、硬化しにくい糯性個体を確実に選抜できることが明らかとなったとともに、本実施例により得られた糯性低温糊化変異米による餅は、搗いた後一定時間が経過した後でも、硬くなりにくく、柔らかさが保たれることが示された。
以上説明したように、本発明により、柔らかさ及び食味が維持される米加工品及び食品、並びに糊化しやすく老化しにくい低温糊化変異米の生産方法が提供される。
本発明による低温糊化変異米を用いて、例えば、炊飯米、加工米飯、グルテン添加米粉パン、米粉ブレンドパン、菓子、麺、餃子の皮、ライスペーパー、離乳食(レトルト)等の、加工後においても硬くなりにくく、柔らかさが維持される食品を製造することができる。また、本発明による糯性低温糊化変異米を用いて、例えば、餅製品、大福餅などの生菓子、白玉団子、米粉ブレンドパン等の、加工後一定時間経過後でも硬くなりにくく、柔らかさが維持される食品を製造することができる。本発明により、これらの食品の食味向上、品質保持等がはかられるため、消費者にとってメリットがあるだけでなく、製造業者や販売業者にとっても食品のシェルフライフが長くなる等の利点がある。

Claims (5)

  1. (a)旱不知Dを突然変異させる工程と、
    (b)旱不知Dの玄米が溶解しない尿素限界濃度の尿素溶液に、前記工程(a)において旱不知Dを突然変異させて得られた変異米の玄米の胚芽を有しない半粒を浸す工程と、
    (c)前記工程(b)において前記尿素溶液に溶解した前記変異米の玄米の胚芽を有する半粒を播種及び栽培し、種子を収穫する工程と、
    (d)前記尿素溶液に、前工程において収穫された種子の玄米の胚芽を有しない半粒を浸す工程と、
    (e)前記工程(d)において前記尿素溶液に溶解した種子の玄米の胚芽を有する半粒を播種及び栽培し、種子を収穫する工程と、
    を含み、
    工程(a)、工程(b)、工程(c)、工程(d)及び工程(e)をこの順に行い、
    前記工程(e)の後、工程(d)及び工程(e)をこの順に繰り返して行うことで、アミロペクチン短鎖指標値が旱不知Dのアミロペクチン短鎖指標値の110%以上であり、糊化温度が旱不知Dの糊化温度よりも2℃以上低い低温糊化変異米を選抜する工程を含む
    ことを特徴とする糊化温度が旱不知Dの糊化温度よりも2℃以上低い低温糊化変異米の選抜方法。
  2. 前記低温糊化変異米を選抜した後に、
    前記低温糊化変異米と、糯性イネと、を交配させる工程と、
    前記交配後代のF世代の個体から糯性個体を得る工程と、
    前記糯性個体由来の試料に含まれる第6染色体のデンプン枝付け酵素I遺伝子のコアプロモーター領域における変異を検出することで糊化易性個体を得る工程と、
    を含む、
    ことを特徴とする請求項1に記載の低温糊化変異米の選抜方法。
  3. 前記糯性個体由来の試料中のDNAを鋳型として、HvSSR11−27マーカー(Forward Primer:配列番号3、Reverse Primer:配列番号4)及びHvSSR11−28マーカー(Forward Primer:配列番号5、Reverse Primer:配列番号6)のうち少なくとも1つ、並びにHvSSR11−48マーカー(Forward Primer:配列番号7、Reverse Primer:配列番号8)及びHvSSR11−50マーカー(Forward Primer:配列番号9、Reverse Primer:配列番号10)のうち少なくとも1つ、を用いて糊化易性個体を得る工程をさらに含む、
    ことを特徴とする請求項2に記載の低温糊化変異米の選抜方法。
  4. 旱不知Dを突然変異させる工程と、
    尿素溶液を用いて低温糊化変異米を選抜する工程と、
    を含み、
    前記低温糊化変異米を選抜する工程に次いで、
    前記低温糊化変異米と、糯性イネと、を交配させる工程と、
    前記交配後代のF世代の個体から糯性個体を選抜する工程と、
    前記糯性個体由来の試料に含まれる第6染色体のデンプン枝付け酵素I遺伝子のコアプロモーター領域における変異を検出することで糊化易性個体を選抜する工程と、
    を含む、
    ことを特徴とする糊化温度が旱不知Dの糊化温度よりも2℃以上低い低温糊化変異米の生産方法。
  5. 前記糯性個体由来の試料中のDNAを鋳型として、HvSSR11−27マーカー(Forward Primer:配列番号3、Reverse Primer:配列番号4)及びHvSSR11−28マーカー(Forward Primer:配列番号5、Reverse Primer:配列番号6)のうち少なくとも1つ、並びにHvSSR11−48マーカー(Forward Primer:配列番号7、Reverse Primer:配列番号8)及びHvSSR11−50マーカー(Forward Primer:配列番号9、Reverse Primer:配列番号10)のうち少なくとも1つ、を用いて糊化易性個体を選抜する工程をさらに含む、
    ことを特徴とする請求項に記載の低温糊化変異米の生産方法。
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