JP5287499B2 - 全固体型リチウムイオン二次電池 - Google Patents

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Description

本発明は、全固体型リチウムイオン二次電池に関する。
全固体型リチウムイオン二次電池は、非水電解液を用いるリチウム二次電池に比べて、固体電解質を用いるため発火の心配がない。こうした全固体型リチウムイオン二次電池としては、固体電解質にリチウムランタンチタン複合酸化物を採用したもの(特許文献1)やLi2S−P25系組成物を採用したもの(特許文献2)が提案されているが、未だ実用化には至っていない。この原因の一つに固体電解質自体の問題がある。固体電解質に求められる主な特性として、リチウムイオン伝導度が高いこと、化学的安定性に優れていること、電位窓が広いこと、の3つが挙げられるが、これらの特性を十分満足する固体電解質は見いだされていない。
ガーネット型酸化物は、こうした特性のうち、化学的安定性に優れ、電位窓が広いという利点を持つため、固体電解質の候補の一つであるが、一般的に伝導度が低いという欠点がある。しかし、近年、ウェップナー(Weppner)は、固相反応法で合成したガーネット型酸化物Li7La3Zr212につき、伝導度が1.9〜2.3×10-4Scm-1(25℃)で活性化エネルギーが0.34eVであったと報告している(非特許文献1)。この伝導度の値は、従来のガーネット型酸化物に比べて二桁近く高い。
特開2008−226639号公報 特開2008−84798号公報
アンゲバンテ・ヘミー・インターナショナル・エディション(Angew. Chem. Int. Ed.), 2007年、46巻、7778−7781頁
しかしながら、Li7La3Zr212の伝導度は従来のガーネット型酸化物に比べて高いものの、ガーネット型酸化物以外のリチウムイオン伝導性酸化物と比べると、さほど有意な差があるとはいえない。例えば、ガラスセラミックスLi1.5Al0.5Ge1.5(PO43(以下、LAGPという)の伝導度は7.0×10-4Scm-1程度であるため、これと同等に過ぎず、ガラスセラミックスLi1+XTi2SiX3-X12・AlPO4(以下、オハラ電解質という)の伝導度は1×10-3Scm-1であるため、これに比べるとまだ一桁程度低い。このため、より高い伝導度を有するガーネット型酸化物の開発が望まれている。なお、LAGPは0.5V以下(対リチウムイオン)で還元性を示し、オハラ電解質は1.5V以下(対リチウムイオン)で還元性を示すため、いずれも二次電池の固体電解質に要求される電位窓を満たさない。
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、固体電解質として、化学的安定性に優れ、電位窓が広く、リチウムイオン伝導度の高いガーネット型酸化物を用いた全固体型リチウムイオン二次電池を提供することを主目的とする。
上述した目的を達成するために、本発明者らは、ガーネット型酸化物Li7La3Zr212の組成検討を行っていたところ、Zrサイトを適切な量のNbで置換したときにLi7La3Zr212を上回る伝導度が得られることを見いだすと共に、このガーネット型酸化物が全固体型リチウムイオン二次電池の固体電解質として有用であることを見いだし、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の第1の全固体型リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出しうる正極活物質を有する正極とリチウムイオンを放出・吸蔵しうる負極活物質を有する負極とで固体電解質層を挟んだ構造の全固体型リチウムイオン二次電池であって、前記固体電解質層は、組成式Li5+XLa3(ZrX,A2-X)O12(式中、AはSc,Ti,V,Y,Nb,Hf,Ta,Al,Si,Ga及びGeからなる群より選ばれた1種類以上の元素、Xは1.4≦X<2)で表されるガーネット型酸化物の層である。
本発明の第2の全固体型リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出しうる正極活物質を有する正極とリチウムイオンを放出・吸蔵しうる負極活物質を有する負極とで固体電解質層を挟んだ構造の全固体型リチウムイオン二次電池であって、前記固体電解質層は、組成式Li7La3Zr212のZrサイトがZrとはイオン半径の異なる元素で置換され、XRDにおける(220)回折の強度を1に規格化したときの(024)回折の規格化後の強度が9.2以上のガーネット型酸化物の層である。
本発明の第1及び第2の全固体型リチウムイオン二次電池は、固体電解質として新規なガーネット型酸化物を採用している。この新規なガーネット型酸化物は、従来のガーネット型酸化物Li7La3Zr212に比べて、化学的安定性や電位窓の広さは同等でありながら、リチウムイオン伝導度が高く、該伝導度の温度に対する変化の割合が小さい。このため、このガーネット型酸化物を固体電解質として採用した全固体型リチウムイオン二次電池は、優れた電池特性を備えており、特に高出力が要求される自動車への適用が期待される。ここで、固体電解質として採用した新規なガーネット型酸化物では、リチウムイオン伝導度が高く、該伝導度の温度に対する変化の割合が小さいが、その理由は、以下のように推察される。すなわち、ガーネット型の結晶構造中には、4つの酸素イオンを頂点とする四面体を形成する四配位のリチウムイオンと、6つの酸素イオンを頂点とする六面体を形成する六配位のリチウムイオンが存在することが知られている。ここで、ZrサイトをZrとは異なるイオン半径を有する元素A(Aは前出のとおり)で置換すると、リチウムイオンの周りの酸素イオンの原子座標が変化する。このとき、置換する量を調整すると、リチウムイオンの周りの酸素イオンの距離が広くなり、リチウムイオンの移動が容易になる。その結果、伝導度が向上したり、活性化エネルギーが低下して温度に対する伝導度の変化の割合が小さくなったりしたと推察される。
実験例1,3,5,7のXRDパターンを示すグラフである。 実験例1〜7(4を除く)の格子定数のX値依存性を示すグラフである。 実験例1〜7のリチウムイオン伝導度のX値依存性を示すグラフである。 ガーネット型酸化物の結晶構造に含まれる部分構造の説明図である。 ガーネット型酸化物の結晶構造の説明図であり、(a)は全体像、(b)は六面体のLiO6(II)を露出させた様子を示す。 実験例1,3,5〜7のLiO4(I)結晶構造のX値依存性を示すグラフであり、(a)は酸素イオンが形成する三角形の辺a,bのX値依存性を示し、(b)は該三角形の面積のX値依存性を示す。 実験例1,3,5〜7の各回折強度を(220)回折強度で規格化したときの規格化後強度のX値依存性を示すグラフである。 実験例1,3,5〜7の(024)の規格化後強度のX値依存性を示すグラフである。 実験例1〜7のアレニウスプロットのグラフである。 実験例1〜7の活性化エネルギーのX値依存性を示すグラフである。 実験例5の室温大気中での化学的安定性を示すグラフである。 実験例5の電位窓の測定結果を示すグラフである。 正極活物質層112aを備えたペレット110の説明図であり、(a)は正面図、(b)は右側面図である。 全固体型リチウムイオン二次電池120の側面図である。 全固体型リチウムイオン二次電池120の充放電特性を表すグラフである。 全固体型リチウムイオン二次電池120の各サイクルでの電池容量を表すグラフである。 全固体型リチウムイオン二次電池20の構造の一例を示す説明図である。 全固体型リチウムイオン二次電池20の構造の一例を示す説明図である。 全固体型リチウムイオン二次電池20の作製例を示す説明図である。
本発明の第1の全固体型リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出しうる正極活物質を有する正極とリチウムイオンを放出・吸蔵しうる負極活物質を有する負極とで固体電解質層を挟んだ構造の全固体型リチウムイオン二次電池であって、前記固体電解質層は、組成式Li5+XLa3(ZrX,A2-X)O12(式中、AはSc,Ti,V,Y,Nb,Hf,Ta,Al,Si,Ga及びGeからなる群より選ばれた1種類以上の元素、Xは1.4≦X<2)で表されるガーネット型酸化物の層である。ここで用いるガーネット型酸化物は、Xが1.4≦X<2を満たすため、公知のガーネット型酸化物Li7La3Zr212(つまりX=2)と比べて、リチウムイオン伝導度が高くなり且つ活性化エネルギーも小さくなる。例えば、AがNbの場合、伝導度が2.5×10-4Scm-1以上、活性化エネルギーが0.34eV以下になる。したがって、この酸化物を固体電解質として採用した本発明の第1の全固体型リチウムイオン二次電池によれば、リチウムイオンが伝導しやすくなるため、電解質抵抗が低くなり、電池の出力が向上する。また、活性化エネルギーが小さい、つまり温度に対する伝導度の変化の割合が小さいため、電池の出力が安定する。また、Xが1.6≦X≦1.95を満たせば、伝導度がより高く、活性化エネルギーがより低くなるため、より好ましい。更に、Xが1.65≦X≦1.9を満たせば、伝導度がほぼ極大、活性化エネルギーがほぼ極小となるため、一層好ましい。なお、Aとしては、NbやNbとイオン半径が同等のTaが好ましい。
本発明の第2の全固体型リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出しうる正極活物質を有する正極とリチウムイオンを放出・吸蔵しうる負極活物質を有する負極とで固体電解質層を挟んだ構造の全固体型リチウムイオン二次電池であって、前記固体電解質は、組成式Li7La3Zr212のZrサイトがZrとはイオン半径の異なる元素で置換され、XRDにおける(220)回折の強度を1に規格化したときの(024)回折の規格化後の強度が9.2以上のガーネット型酸化物の層である。(024)回折の規格化後の強度が9.2を超えると、LiO4(I)の四面体の酸素イオンが形成する三角形が正三角形に近づき、その三角形の面積が大きくなるため、公知のガーネット型酸化物Li7La3Zr212(つまりX=2)と比べて、伝導度が高くなり且つ活性化エネルギーも小さくなる。例えば、AがNbの場合、伝導度が2.5×10-4Scm-1以上、活性化エネルギーが0.34eV以下になる。したがって、この酸化物を全固体型リチウムイオン二次電池に用いた場合、リチウムイオンが伝導しやすくなるため、電池の出力が向上する。また、活性化エネルギーが小さい、つまり温度に対する伝導度の変化の割合が小さいため、電池の出力が安定する。また、(024)回折の規格化後の強度が10.0以上であれば、伝導度がより高く、活性化エネルギーがより低くなるため、より好ましい。更に、(024)回折の規格化後の強度が10.2以上であれば、伝導度がほぼ極大、活性化エネルギーがほぼ極小となるため、一層好ましい。なお、Aとしては、NbやNbとイオン半径が同等のTaが好ましい。
本発明の第1及び第2の全固体型リチウムイオン二次電池において、固体電解質層と電極(正極又は負極)との間にポリマー電解質層が介在していてもよい。こうすれば、固体電解質層と電極との密着性が向上するため、電池特性が良好になる。
本発明の第1及び第2の全固体型リチウムイオン二次電池において、正極に含まれる正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、LiMnO2、LiMn24などのリチウムマンガン複合酸化物、LiCoO2などのリチウムコバルト複合酸化物、LiNiO2などのリチウムニッケル複合酸化物、LiMnCoO4などのリチウムマンガンコバルト複合酸化物、LiFeO2などのリチウム鉄複合酸化物、LiFePO4などのリチウム鉄リン酸化合物、LiV22などのリチウムバナジウム複合酸化物、V25などの遷移金属酸化物などを用いることができる。
本発明の第1及び第2の全固体型リチウムイオン二次電池において、負極に含まれる負極活物質としては、金属リチウムのほか、リチウムイオンを放出・吸蔵可能な炭素質材料、LiAlやLiZnなどのリチウム含有合金、InSbやCu−In−Snなどのインジウム含有合金、Li4Ti512やWO2などの酸化物、La3Ni2Sn7などのランタン−ニッケル系合金、導電性ポリマーなどが挙げられるが、このうち炭素質材料が安全性の面から見て好ましい。この炭素質材料は、特に限定されるものではないが、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であり電解質塩としてリチウム塩を使用した場合に自己放電を抑え、且つ充電時おける不可逆容量を少なくできるため、好ましい。
本発明の第1及び第2の全固体型リチウムイオン二次電池において、正極や負極を作製する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、気相法や固相法を採用することができる。気相法としては、PLD(パルスレーザー堆積)やスパッタリング、蒸着、CVD(MO−CVDなどを含む)などが挙げられる。固相法としては、焼結法やゾルゲル法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法、スラリーキャスト法、粉体の圧着などが挙げられる。ドクターブレード法などでスラリーを作製する場合、その溶媒としては例えばトルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、エタノールやプロパノールなどのアルコール系溶媒を用いることができる。また、スラリーに樹脂バインダーを添加する場合、その樹脂バインダーとしては例えばポリビニル系高分子樹脂を用いることができる。また、粉体の圧着により二次電池を作製する場合、正極活物質と負極活物質と固体電解質の3つとも粉末であってもよいし、固体電解質が固形物で正極及び負極活物質が粉末であってもよいし、固体電解質が粉末で正極及び負極活物質が固形物であってもよい。
本発明の第1及び第2の全固体型リチウムイオン二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、こうした全固体型リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して電気自動車用電源としてもよい。電気自動車としては、例えば、電池のみで駆動する電池電気自動車や内燃機関とモータ駆動とを組み合わせたハイブリッド電気自動車、燃料電池で発電する燃料電池自動車等が挙げられる。
本発明の第1及び第2の全固体型リチウムイオン二次電池の構造は、特に限定されないが、例えば図17や図18に示す構造が挙げられる。図17の全固体型リチウムイオン二次電池20は、ガーネット型酸化物からなる固体電解質層10と、この固体電解質層10の片面に形成された正極12と、この固体電解質層10のもう片面に形成された負極14とを有する。このうち、正極12は、固体電解質層10に接する正極活物質層12a(正極活物質を含む層)とこの正極活物質層12aに接する集電体12bとからなり、負極14は、固体電解質層10に接する負極活物質層14a(負極活物質を含む層)とこの負極活物質層14aに接する集電体14bとからなる。この全固体型リチウムイオン二次電池は、気相法により作製してもよいし、固相法により作製してもよいし、気相法と固相法とを組み合わせて作製してもよい。例えば、ブロック状の固体電解質層10の両面に気相法か固相法かその両方の手法を適宜組み合わせて正極・負極を積層してもよいし、負極側の集電体14bの上に気相法か固相法かその両方の手法を適宜組み合わせて負極活物質層14a、固体電解質層10、正極活物質層12a及び正極側の集電体12bをこの順に積層してもよい。あるいは、図19に示すように、筒状の絶縁性容器30の中に負極側の集電体14bを配置し、その上に負極活物質、固体電解質、正極活物質(いずれも粉末)をこの順に積層し、その上に正極側の集電体12bを配置し、両集電体12b,14bが互いに接近するようにプレスしてもよい。一方、図18の全固体型リチウムイオン二次電池20は、ガーネット型酸化物からなる固体電解質層10と、この固体電解質層10の片面にポリマー電解質層16を介して形成された正極12と、この固体電解質層10のもう片面にポリマー電解質層18を介して形成された負極14とを有する。このうち、正極12は、先ほどと同様、正極活物質層12aと集電体12bとからなり、負極14は、先ほどと同様、負極活物質層14aと集電体14bとからなる。この全固体型リチウムイオン二次電池20を作製するには、例えば、片面に正極活物質層12aを積層した集電体12bと、片面に負極活物質層14aを積層した集電体14bとを用意し、正極活物質層12a及び負極活物質層14aの上にゲル状のポリマー電解質を塗布したあと、固体電解質層10を挟み込んで作製してもよい。なお、ポリマー電解質層16,18は両方設けてもよいが、片方のみ設けてもよい。
[ガーネット型酸化物の作製]
ガーネット型酸化物Li5+XLa3(ZrX,Nb2-X)O12(X=0〜2)は、Li2CO3、La(OH)3、ZrO2、およびNb25を出発原料に用いて合成を行った。ここで、実験例1〜7のXの値は、それぞれX=0,1.0,1.5,1.625,1.75,1.825,2.0とした(表1参照)。はじめに、出発原料を化学量論比になるように秤量し、エタノール中にて遊星ボールミル(300rpm/ジルコニアボール)で1時間、混合・粉砕を行った。出発原料の混合粉末をボールとエタノールから分離したのち、Al23製のるつぼ中にて、950℃、10時間大気雰囲気で仮焼を行った。その後、本焼結でのLiの欠損を補う目的で、仮焼した粉末に、Li5+XLa3(ZrX,Nb2-X)O12(X=0〜2)の組成中のLi量に対して Li換算で10at.%になるようにLi2CO3を過剰添加した。この混合粉末を、混合のためエタノール中にて遊星ボールミル(300rpm/ジルコニアボール)で1時間処理した。得られた粉末を再び950℃、10時間大気雰囲気の条件下で再度仮焼した。その後、成型したのち、1200℃、36時間大気中の条件下で本焼結を行い、試料(実験例1〜7)を作製した。
[ガーネット酸化物の物性の測定及び結果]
1.相対密度
電子天秤にて測定した乾燥重量をノギスを用いて測定した実寸から求めた体積で除算することにより、各試料の測定密度を算出した。また、理論密度を算出し、測定密度を理論密度で除算し100を乗算した値を相対密度(%)とした。実験例1〜7の相対密度は、88〜92%であった。
2.相及び格子定数
各試料の相及び格子定数は、XRDの測定結果から求めた。XRDの測定は、XRD測定器(ブルカー(Buruker)製、D8ADVANCE)を用いて、試料粉末をCuKα、2θ:10〜120°,0.01°step/1sec.の条件で測定した。結晶構造解析は、結晶構造解析用プログラム:Rietan−2000(Mater. Sci. Forum, p321−324(2000),198)を用いて解析を行った。代表例として実験例1,3,5,7つまりLi5+XLa3(ZrX,Nb2-X)O12(X=0,1.5,1.75,2)のXRDパターンを図1に示す。図1から、各試料は不純物を含まず単相であることがわかる。また、実験例1〜3,5〜7につき、XRDパターンより求めた格子定数のX値依存性を図2に示す。図2から、Zrの割合が増えるほど格子定数が増大することがわかる。これは、Zr4+のイオン半径(rZr4+=0.79Å)がNb5+のイオン半径(rNb5+=0.69Å)よりも大きいためである。格子定数が連続的に変化していることから、NbはZrサイトに置換されていると考えられる(全率固溶が可能と考えられる)。
3.伝導度
伝導度は、恒温槽中にてACインピーダンスアナライザーを用い(周波数:0.1Hz〜1MHz、振幅電圧:100mV)、ナイキストプロットの円弧より抵抗値を求め、この抵抗値から算出した。ACインピーダンスアナライザーで測定する際のブロッキング電極にはAu電極を用いた。Au電極は市販のAuペーストを850℃、30分の条件で焼き付けることで形成した。実験例1〜7つまりLi5+XLa3(ZrX,Nb2-X)O12(X=0〜2)の25℃での伝導度のX値依存性を図3に示す。図3から、伝導度は、Xが1.4≦X<2のとき、公知のLi7La3Zr212(つまりX=2、実験例7)に比べて高くなり、Xが1.6≦X≦1.95のとき、実験例7に比べて一段と高くなり、Xが1.65≦X≦1.9の範囲のとき、ほぼ極大値(6×10-4Scm-1以上)を取ることがわかる。上記1.で述べたとおり、各試料の相対密度は88〜92%であったことから、伝導度がX値に応じて変化するのは、密度による影響ではないと考えられる。
ここで、ニオブを適量添加することで、伝導度が向上した理由について考察する。ガーネット型酸化物の結晶構造には、図4に示すように、リチウムイオンが酸素イオンと4配位してなる四面体のLiO4(I)と、リチウムイオンが酸素イオンと6配位してなる八面体のLiO6(II)と、ランタンイオンが酸素イオンと8配位してなる十二面体のLaO8(I)と、ジルコニウムイオンが酸素イオンと6配位してなる八面体のZrO6とが含まれている。この結晶構造の全体像を図5(a)に示す。この図5(a)の結晶構造では、六面体のLiO6(II)は八面体のZrO6と十二面体のLaO8とによって囲まれているため見えない状態となっている。図5(b)は、図5(a)の結晶構造からLiO8(I)を削除して六面体のLiO6(II)を露出させた様子を示す。このように、6配位しているリチウムイオンは、6個の酸素イオンと、3個のランタンイオンと、2個のジルコニウムイオンに囲まれた位置にあり、恐らく、伝導性にはほとんど寄与していないと考えられる。一方、4配位しているリチウムイオンは、酸素イオンを頂点とする四面体を形成している。リートベルド(Rietveld)構造解析より求めたLiO4(I)四面体構造の変化を図6に示す。LiO4(I)四面体を形成する酸素イオン間距離は二つの長さがある。ここでは長尺の二辺をa、短尺の一辺をbとする。図6(a)に示すように、長尺の辺aは、Nbの置換量によらずほとんど一定の値を示すのに対し、短尺の辺bは、Nbを適量置換することで長くなっている。つまり、酸素イオンが形成する三角形はNbを適量置換することで、正三角形に近付きつつ面積は増大している(図6(b)参照)。このことから、適量のNbをZrと置換すると、伝導するリチウムイオン周りの構造(酸素イオンが形成している四面体)が最適となり、リチウムイオンの移動を容易にする効果があると考えられる。なお、Zrと置換する元素は、Nb以外の元素、たとえばSc,Ti,V,Y,Hf,Taなどであっても、同様の構造変化が見込まれることから、同様の効果が得られる。
ここで、XRDの回折ピークの強度は、LiO4(I)四面体構造を反映して変化する。すなわち、ZrサイトをNbで置換することによりLiO4(I)四面体をなす三角形が上述したように変化するため、当然、XRDの各回折ピークの強度比も変化するのである。実験例1〜3,5,7の各試料の(220)回折の強度を1に規格化したときの各回折の規格化後強度のX値依存性を図7に示す。代表的なピークとして(024)回折の規格化後強度に注目する(図8参照)。(024)回折に関して言えば、公知のLi7La3Zr212(つまりX=2、実験例7)に比べて伝導度が高くなる1.4≦X<2に対応する規格化後強度は9.2以上であり、一段と伝導度が高くなる1.6≦X≦1.95に対応する規格化後強度は10.0以上であり、伝導度がほぼ極大値を取る1.65≦X≦1.9に対応する規格化後強度は10.2以上であることがわかる。
4.活性化エネルギー(Ea)
活性化エネルギー(Ea)はアレニウス(Arrhenius)の式:σ=Aexp(−Ea/kT)(σ:伝導度、A:頻度因子、k:ボルツマン定数、T:絶対温度)を用い、アレニウスプロットの傾きより求めた。代表例として実験例1〜7のLi5+XLa3(ZrX,Nb2-X)O12(X=0〜2)の伝導度の温度依存性(アレニウスプロット)を図9に示す。図9には、併せてLiイオン伝導性酸化物の中でも特に高い伝導度を示すガラスセラミックスLi1+XTi2SiX3-X12・AlPO4(オハラ電解質、X=0.4)とLi1.5Al0.5Ge1.5(PO43(LAGP)の伝導度の温度依存性(いずれも文献値)を示す。実験例1〜7につき、アレニウスプロットより求めた活性化エネルギーEa(25℃)のX値依存性を図10に示す。図10から、Xが1.4≦X<2のとき、Li7La3Zr212(つまりX=2、実験例7)より低い活性化エネルギーEa(つまり0.34eV未満)を示すことから、広い温度域で伝導度が安定した値をとるといえる。また、Xが1.5≦X≦1.9のときには活性化エネルギーが0.32eV以下となり、特にXが1.75のときに極小値0.3eVとなった。0.3eVという値は既存のLiイオン伝導性酸化物中で最も低い値と同等の値である(オハラ電解質:0.3eV、LAGP:0.31eV)。
5.化学的安定性
ガーネット型酸化物Li6.75La3Zr1.75Nb0.2512(つまりX=1.75、実験例5)の室温大気中での化学的安定性を調べた。具体的には、大気中に放置したLi6.75La3Zr1.75Nb0.2512の伝導度の経時変化(0〜7日)の有無を確認することで行った。その結果を図11に示す。バルクの抵抗成分が大気中に放置していた時間によらず一定であることから、ガーネット型酸化物は室温大気中でも安定と言える。
6.電位窓
ガーネット型酸化物Li6.75La3Zr1.75Nb0.2512(つまりX=1.75、実験例5)の電位窓を調べた。電位窓は、Li6.75La3Zr1.75Nb0.2512のバルクペレットの片面に金を、もう片面にLiメタルを貼り付け、0〜5.5V(対Li+)および−0.5V〜9.5V(対Li+)の範囲で電位をスイープ(1mV/sec.)させることで調べた。その測定結果を図12に示す。電位を0〜5.5Vの範囲で走査しても、電流は全く流れなかった。このことからLi6.75La3Zr1.75Nb0.2512は0〜5.5Vの範囲で安定と言える。走査する電位を−0.5 〜9Vに広げると、0Vを境にして、酸化・還元電流が流れた。これはリチウムの酸化・還元に起因すると思われる。また、約7V以上でわずかに酸化電流が流れ始めた。しかし、流れる酸化電流量が非常に微弱であること、目視で色に変化が無いことなどから、流れる酸化電流は電解質の分解ではなく、セラミックス中に含まれている微量の不純物や粒界の分解が原因だと考えている。
[全固体型リチウムイオン二次電池の作製]
ガーネット型酸化物Li6.75La3Zr1.75Nb0.2512(つまりX=1.75、実験例5)を固体電解質とする全固体型リチウムイオン二次電池を作製した。図13は、正極活物質層112aを備えたガーネット型酸化物製のペレット110の説明図、図14は、全固体型リチウムイオン二次電池120の側面図である。まず、実験例5のガーネット型酸化物を直径13mm、厚さ2mmのペレット110とし、その片面に、PLD法(パルスレーザー堆積法)にてLiCoO2を堆積させ、正極活物質層112aとした。PLD法では、Nd−YAGレーザー(λ=266nm,E=〜1Jcm-2pls-1)を用い、製膜時のチャンバー酸素圧PO2を10Paとし、温度を常温とした。正極活物質層112aは直径6mm,厚さ500nmであった。その後、正極活物質層112aを備えたペレット110を電気炉中にて500℃、1時間の条件(大気雰囲気)でアニール処理したのち、正極活物質層112aの上にAuペースト112cを塗布し、400℃、30分の条件で正極集電体であるAu金属板112bを焼きつけた。正極活物質層112aとAu金属板112bとAuペースト112cとが正極112に相当する。その後、この正極112の付いたペレット110をグローブボックス(Ar雰囲気)中に導入後、正極112の付いていない面に負極114としてのLiメタルを押し付けることで全固体型リチウムイオン二次電池120を完成した。このLiメタルは、負極であると同時に参照極の役割を持つ。
[全固体型リチウムイオン二次電池の充放電特性]
作製した二次電池120をグローブボックス(Ar雰囲気)中にて密閉容器に入れ、シールしたリードを取り出すことで充放電測定を行った。二次電池120の開放電圧は3.0Vであった。この二次電池120を3〜4.3Vの走査範囲で定電圧(スイープ速度:0.2mV/min)にて充放電を行った(1サイクル)。その後、電流値1mAにてスイープ電位3〜4.3V(対Li)の範囲で3サイクル充放電を行った。更にその後、電流値2mAにてスイープ電位3〜4.3V(対Li)の範囲で3サイクル充放電を行った。その後、電流値1mAにてスイープ電位3〜4.4V(対Li)の範囲で3サイクル充放電を行った(つまり、定電圧にて1サイクル、定電流にて合計9サイクル)。なお、充放電条件や各サイクル間には充放電の休止期間はとらなかった。その結果を図15に示す。図15は、充放電特性を表すグラフである。図15から明らかなように、全固体型リチウムイオン二次電池120の充放電特性は、可逆的な充放電曲線を描いたことから、二次電池として作動することが確認できた。なお、サイクルでの電池容量を図16にまとめた。
以下に従来のリチウムイオン二次電池と本実施例の全固体型リチウムイオン二次電池120との相違点をまとめて説明する。
(1)非水リチウムイオン二次電池との対比
非水リチウムイオン二次電池で用いる電解液は、本実施例の全固体型リチウムイオン二次電池120で用いたガーネット型酸化物と比べて高いリチウムイオン伝導度を有する。しかし、電解液は、高温(60℃)において分解による劣化や発火による危険性がある。このため高温では使用できない、もしくは、温度が上がらないよう、なんらかの冷却設備が必要である。これに対して、本実施例で用いたガーネット型酸化物は高温でも安定であり、発火の心配もない。そのため、安全性が高く、冷却設備が不要というメリットがある。また、これまでに報告されている電解液のほとんどは、高電位(4.5V以上)で分解してしまうため、高電位の正極活物質を使うのは困難である。これに対して、本実施例で用いたガーネット型酸化物は、8Vでも安定であるため(図12参照)、これまでに報告されているほぼ全ての正極活物質を利用することができる。
(2)硫化物系電解質を用いる全固体型リチウムイオン二次電池との対比
硫化物系電解質(例えばLi3.25Ge0.250.254など)の伝導度と本実施例で用いたガーネット型酸化物の伝導度との間にはほとんど差がないため、両者の間では電解質抵抗の差はほとんどない。また、硫化物系電解質の電位窓は広い(0〜10V程度)という報告が多く、その点でも大きな差はない。しかし、硫化物系電解質は大気中の水分などと反応して硫化水素ガスを発生させるという化学的安定性の点で問題があるのに対し、本実施例で用いたガーネット型酸化物はそのような問題がない。
(3)他の酸化物を用いる全固体型リチウムイオン二次電池との対比
本実施例で用いたガーネット型酸化物は、従来のガーネット型酸化物に比べてリチウムイオン伝導度が数倍大きい。そのため電解質抵抗は数分の1程度に低減できる。また、従来より知られているオハラ電解質(ガラスセラミックス)は、リチウムイオン伝導度が本実施例で用いたガーネット型酸化物と同等であるが、オハラ電解質は1.5V付近で還元されて絶縁性が低下してしまうため、高電圧の電池を作製するのが困難である(例えば、現在の電池の主流であるカーボン系の負極活物質を用いることができない)。これに対して、本実施例で用いたガーネット型酸化物は8Vでも還元されることなく安定なため(図12参照)、高電圧の電池を作製することができる。
本発明は、各種産業機器の電源や家庭用機器の電源に利用可能である。例えば、燃料電池自動車やハイブリッド自動車、電気自動車などの車両搭載用電源に利用することもできるし、携帯電話やノートパソコンに代表されるモバイル機器の駆動用電源などに利用することもできる。
10 固体電解質層、12 正極、12a 正極活物質層、12b 集電体、14 負極、14a 負極活物質層、14b 集電体、16,18 ポリマー電解質層、20 全固体型リチウムイオン二次電池、30 絶縁性容器、110 ペレット、112 正極、112a 正極活物質層、112b Au金属板、112c Auペースト、114 負極、120 全固体型リチウムイオン二次電池。

Claims (6)

  1. リチウムイオンを吸蔵・放出しうる正極活物質を有する正極とリチウムイオンを放出・吸蔵しうる負極活物質を有する負極とで固体電解質層を挟んだ構造の全固体型リチウムイオン二次電池であって、
    前記固体電解質層は、組成式Li5+XLa3(ZrX,A2-X)O12(式中、AはNb及びTaからなる群より選ばれた1種類以上の元素、Xは1.4≦X<2)で表されるガーネット型酸化物の層である、全固体型リチウムイオン二次電池。
  2. Xは1.6≦X≦1.95である、請求項1に記載の全固体型リチウムイオン二次電池。
  3. Xは1.65≦X≦1.9である、請求項1に記載の全固体型リチウムイオン二次電池。
  4. リチウムイオンを吸蔵・放出しうる正極活物質を有する正極とリチウムイオンを放出・吸蔵しうる負極活物質を有する負極とで固体電解質層を挟んだ構造の全固体型リチウムイオン二次電池であって、
    前記固体電解質層は、組成式Li7La3Zr212のZrサイトがZrとはイオン半径の異なる元素であるNb及びTaからなる群より選ばれた1種類以上の元素で置換され、XRDにおける(220)回折の強度を1に規格化したときの(024)回折の規格化後の強度が9.2以上のガーネット型酸化物の層である、全固体型リチウムイオン二次電池。
  5. 前記(024)回折の規格化後の強度が10.0以上である、請求項4に記載の全固体型リチウムイオン二次電池。
  6. 前記(024)回折の規格化後の強度が10.2以上である、請求項4に記載の全固体型リチウムイオン二次電池。
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