JP5263651B2 - 半硬質磁性材料、磁気マーカ用バイアス材、磁気マーカ - Google Patents

半硬質磁性材料、磁気マーカ用バイアス材、磁気マーカ Download PDF

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Description

本発明は、磁石として作用する着磁状態と磁性を実質的に持たない脱磁状態との両方の状態を利用することができる半硬質磁性材料と磁気マーカ用のバイアス材、磁気マーカ用バイアス材を用いた磁気マーカに関するものである。
半硬質磁性材料は、硬質磁性材料と呼ばれる、いわゆる永久磁石と軟磁性材料の中間の保磁力を有する材料である。この半硬質磁性材料は、磁性を有するマトリックスだけでは軟磁性を示すが、ここに非磁性物質を分散させることで、外部から磁場が印加された際、分散された非磁性物質が磁壁移動の障害として働き、その分散の形態や量によって保磁力を調整することができるものである。
半硬質磁性材料は、先に述べたように着磁状態と脱磁状態の2つの状態を切り替えて使うことのできる磁性材料である。従って、電流の流れを切り替えるためのスイッチング素子や、駆動や流量制御などを掌るアクチュエータ、シャッタ、またはセンシング部品などに用いられてきた。
近年、盗難防止や物品の流れ、あるいは物品の種類を把握する等の目的で、磁気的なラベルを付与し、そのラベルをマーカとして検出する電子監視システムが提案されている。これは、特定の非晶質金属製の磁歪素子を交番磁場中で共鳴振動させることによって、磁界を変化させ、ピックアップコイルにより検出し、警報を作動させる仕組みである。
磁歪素子にバイアス磁界を与える素子をバイアス素子と呼ぶ。半硬質磁性材料を着磁させた状態でマーカを店舗内の物品に付与しておき、物品の代金が支払われた際に、磁場の向きを反転させながら次第に絶対値が小さくなるような減衰磁場を、マーカの外部から印加することにより、バイアス素子の磁力を完全に着磁した状態の半分以下の磁力にまで弱めて、磁歪素子の共振を小さくすることでマーカを不活性にし、警報を作動させないようにすることができる。
半硬質磁性材料を例えば磁気マーカに用いる場合、バイアス素子は、外部から不用意に与えられる磁場によって状態が変わってはならないので、その保磁力が小さ過ぎてはいけない。また、保磁力が大き過ぎては不活性化が困難となるため、適切な保磁力を有することが重要である。そこで、このような適切な保磁力を持たせることのできる半硬質磁性の材料として、本発明者等は、Fe−Cu族系の半硬質磁性材料を提案している。(特許文献1)
特許文献1のFe−Cu族系の半硬質磁性材料は、Fe中にCuを多く含有させ、非磁性物質であるCuを微細に析出させることにより、磁壁移動の障害の数を増加させ、保磁力を高めている。また、特許文献1には、Cuの微細析出に加えて、Nb等の炭化物を分散させる技術も開示されている。磁気マーカ用のバイアス素子として用いる際に、バイアス素子として好適とされる1600〜2000A/m程度の保磁力を得るためには、特許文献1においては、質量%で10〜20%程度のCuが必要と考えられていた。
しかしながら、特許文献1のFe−Cu合金は、FeとCuの凝固温度に大きな差があることから、溶解して鋳型に出湯して凝固させる溶製法では、造塊時にCuの凝固が遅れ、マクロ的には鋳塊中心部に偏析を生じ、ミクロ的にはマトリックスであるFeの粒界にCuが凝集してしまい、均一な組織を得ることが難しかった。
そこで、本発明者等は、溶製法で困難であった、Fe中へ多量のCuを微細分散させ、均一な組織を得る現実的な手段として、粉末を用いた熱間静水圧プレス法(以下、粉末HIP法という)(特許文献1)を提案してきた。ここで、粉末HIP法とは、急冷法によって得られる合金粉末を用い、これを缶に詰めて圧密加圧することで均一な材料を得る方法である。
この粉末HIP法は、Fe中にCuを微細分散させるために、MoやWなどの様々な元素を粉末状態で添加することにより、Cuと添加元素の複合作用より均一な組織を得る方法である。
また、本発明者等は、Fe中にCuを微細分散させる別の手段として、積層圧延法(特許文献2)を提案してきた。特許文献2に開示する積層圧延法とは、Feを主体とするA層と、Cu族非磁性金属を主体とするB層を、交互に積層して多層体を得、この多層体に加熱と塑性加工を施すことで、特に低融点のB層を分断して均一な材料を得る方法である。
特開平11−12698号公報 特開2000−150219号公報
特許文献1および2に開示されるHIP法や積層圧延法は、通常の溶製法に比して、原料である粉末や板材・箔材そのものの価格が高いことと、原料から素材を得るために多くの工程が必要とされるため、高コストの製法であることは否めない。工業的に安価にFe−Cu族系の半硬質磁性材料を製造するためには、工業的なスケールアップが有効で、溶製法が最も優れており、できるだけ大きな鋳塊を造塊して製造することが望ましい。
しかしながら、溶製法において、CuはFeに比して融点が低いため、特に熱間での加工時に、Cuの凝集部の流動性が増す(または液化する)ことから、Cuの凝集した部分から割れを発生し易く、熱間加工性の低下を引き起こす。特に、質量%で10.0%以上のCuを含む材料においては、熱間加工性が著しく悪く、大量生産に適した溶製法を困難にしているという課題がある。したがって、Cuの量はできるだけ減らすことが好ましいが、Cu量を減らすと保磁力が低下してしまうという問題があった。
本発明の目的は、Cuに起因する熱間加工性の問題を解決するとともに、従来よりも少量のCu量で高い保磁力を具備した半硬質磁性材料、磁気マーカ用バイアス材、磁気マーカを提供することである。
本発明者等は、Fe−Cu系半硬質磁性材料において、熱間加工性を損なわず、且つ所望の高い保磁力が得られるよう鋭意検討した。その結果、熱間加工温度に対して、Cuが単独の相として存在せず、マトリックスのFe中に固溶する一定量のCuを添加したFe−Cu系合金に特定範囲のNbを添加することにより、溶製法を適用しても熱間加工性を損なわず、また、均一且つ微細に分散したCu相およびFeとNbの金属間化合物の非磁性相により、高い保磁力が得られることを見出し本発明に到達した。
すなわち本発明は、質量%で、2.0≦Cu≦10.0%と0.1≦Nb≦5.0%を含み、不純物として質量%で、C≦0.02%、Si≦0.50%、Mn≦0.60%、P≦0.05%、S≦0.02%、Al≦0.05%、N≦0.05%、O≦0.05%に規制し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、Cu相とFeとNbの金属間化合物とが分散したミクロ組織を有し、マトリックスに分散しているFeとNbの金属間化合物の平均円相当径が、3μm以下である半硬質磁性材料である。
本発明の半硬質磁性材料は、質量%で、3.0≦Cu≦7.5%と0.5≦Nb≦3.0%を含有することが好ましい
た、本発明の半硬質磁性材料は、保磁力Hcが1600A/m以上であることが好ましい。
本発明の半硬質磁性材料は、磁気マーカ用のバイアス材として好適である。
また、本発明の磁気マーカ用バイアス材は、塑性加工により平板化もしくは線状化され、厚さtは10≦t≦500μmが好ましい。
また、上述した磁気マーカ用バイアス材を、磁気マーカ用の磁歪素子にバイアス磁界が印加されるように配置してなる磁気マーカを構成することができる。
本発明によれば、Fe−Cu系半硬質磁性材料の溶製材における、熱間加工性を飛躍的に改善することができるとともに、均一且つ微細に分散したCu相およびFeとNbの金属間化合物の非磁性相により高い保磁力を具備した半硬質磁性材料、磁気マーカ用のバイアス材、および磁気マーカを低コストで提供するためには欠くことのできない技術となる。
上述したように、本発明の重要な特徴は、Fe−Cu系半硬質磁性材料において、特定範囲の量のCuとNbを添加したことにある。
本発明は、熱間加工温度に対して、Cuが単独の相として存在させないように、マトリックスのFe中に固溶する所定量のCuを10質量%以下に調整することで、Cuの熱間脆性に起因する熱間加工性の低下を飛躍的に改善できる。また、本発明は、CuとNbの相互作用によって、溶製法において造塊後の凝固状態で、磁性を有するマトリックス中にCu相およびFeとNbの金属間化合物という従来にない組合せの非磁性相を極めて微細に分散させることに成功したものである。これにより、本発明の半硬質磁性材料は、磁壁移動の障害となる非磁性相の微細分散化により、高い保磁力を具備したFe−Cu系半硬質磁性材料の安定生産が可能となったものである。
本発明の半硬質磁性材料は、用途によって求められる保磁力に合わせてCuの量を変えることができる。Cu量が少な過ぎると、保磁力を1600A/m以上にすることができなくなるため、Cu量は質量%で2.0%以上含むことが好ましい。より好ましくは質量%で3.0%以上である。
Cu量が多過ぎると、従来の溶製材のように鋳塊中心部やFe粒界への凝集を起こしてしまうため、Cu量は質量%で10.0%以下が好ましく、より好ましくは、質量%で7.5%以下である。
本発明の半硬質磁性材料に含まれるNb量は、少な過ぎると十分な効果が得られないため、質量%で0.1%以上が好ましい。より望ましくは質量%で0.5%以上が好ましい。
一方、Nb量が多過ぎると、加工性を損なうため、質量%で5.0%以下の添加が好ましい。より望ましくは質量%で3.0%以下が好ましい。
また、本発明の半硬質磁性材料は、熱間および冷間加工における加工性の低下を抑制するため、不純物としてのC、Si、Mn、P、S、Al、N、Oを、質量%で、C≦0.02%、Si≦0.50%、Mn≦0.60%、P≦0.05%、S≦0.02%、Al≦0.05%、N≦0.05%、O≦0.05%に規制する。
本発明の半硬質磁性材料の断面ミクロ組織は、マトリックス中に分散しているFeとNbの金属間化合物の平均円相当径が、3μm以下にする。これは、マトリックス中にFeとNbの金属間化合物を微細に分散させれば、各粒子がそれぞれ磁壁移動の障害となるため、少ないCu量で大きな保磁力を得ることができるためである。ここで、FeとNbの金属間化合物の平均円相当径とは、半硬質磁性材料の断面ミクロ観察におけるFeとNbの金属間化合物を円形に近似したときの平均直径をいう。
本発明の半硬質磁性材料は、保磁力が1600A/m以上であることが好ましい。保磁力を1600A/m以上とすることにより、不用意な外部磁場によって減磁されにくいという効果を奏する。また、本発明の半硬質磁性材料は、完全に着磁させた状態から、磁場の向きを反転させながら、次第に絶対値が小さくなるような減衰磁場の印加により脱磁した状態へ変化させることが可能である。このような磁気特性は、リレー回路の部材やスイッチング素子、アクチュエータなどに望ましい特性で、特に磁気マーカ用のバイアス材に好適である。
本発明の半硬質磁性材料は、非磁性相としてCu相およびFeとNbの金属間化合物を用いている。このCu相およびFeとNbの金属間化合物は、室温でマトリックス中にほとんど固溶しないことから、マトリックスが本来持っている磁束密度を維持できるという効果がある。磁性材料が周囲に作る磁界の大きさは、材料の磁束密度に断面積をかけたものであるので、磁性材料を何かの部材としてある大きさの磁界を作りたい場合には、磁束密度の大きい材料ほど、断面積が小さくて済み、部材の小型化・薄型化に非常に有効である。したがって、例えば磁気マーカ用のバイアス素子に用いる場合には、商品に付けても目立たず邪魔にならないため、非常に有効である。
本発明の磁気マーカ用バイアス材は、磁歪素子と組合せることで磁気マーカとして利用することができる。本発明の半硬質磁性材料を、例えば圧延加工によって平板化し薄片とし、所望の磁界を作り出せる寸法に切り出し、バイアス材とする。バイアス材を例えば樹脂製のパックに挟み込んでバイアス素子とし、磁歪素子を近接するように配置して、例えば樹脂製のケースに入れ、磁気マーカとすることができる。
本発明の磁気マーカ用バイアス材は、薄過ぎると、マーカとして組立てる際のハンドリングが困難となるため、厚さは10μm以上が好ましい。
一方、厚さが厚過ぎると、バイアス磁界を磁気マーカの小型化するのに不向きであり、厚さは500μm以下であることが好ましい。
本発明の磁気マーカ用バイアス材は、薄いバイアス材を2枚以上重ねて貼り付けて用いることも可能であり、平板化した薄片を丸めて用いることもできる。
また、本発明の磁気マーカ用バイアス材は、熱間および冷間の塑性加工によって、マトリックスの集合組織を形成することが好ましい。
集合組織化した材料は、材料を構成する結晶の方位が揃っている状態にあり、その中に存在する磁区も方向が揃っており、外部から磁場を与える際の各磁区の挙動も揃う。すなわち、外部から与える磁場の大きさを徐々に大きくしていくとき、その材料の保磁力の近傍で、磁壁の移動も一斉に起こる。つまり、脱磁状態から着磁状態へ、なだらかに切り替わるのではなく、瞬時に切り替わるため、オンとオフを切り替えて使う用途に非常に適している。特に磁気マーカ用のバイアス素子に好適である。
本発明の磁気マーカ用バイアス材の製造方法は、素材の厚さが厚い加工工程の初期おいて、大きな加工率で加工するために、変形能が高くなる熱間の塑性加工をすることが望ましい。このとき、材料内部に歪が蓄積され、変形能が低下する場合は、中間工程として熱処理(焼鈍)により歪を取り除いてもよい。また、本発明の磁気マーカ用バイアス材の製造方法は、材料内部にマトリックスの集合組織を得るために、加工工程の後期において、同一方向に変形を加える繰り返しの冷間の塑性加工をすることが望ましい。
また、本発明の磁気マーカ用バイアス材は、例えば引抜きなどによって細い線状に加工することでも得ることができる。
従来のCuを多量に含む半硬質磁性材料の製造方法では、大きな非磁性相が存在していたために、高温での熱処理によってマトリックスに一旦固溶させて、塑性加工を加えた後の熱処理で微細に析出させるという手法を取っていた。しかしながら、本発明の半硬質磁性材料では、凝固組織の段階で十分に微細であるために、固溶化のための高温での熱処理の省略も期待できる。このため、熱処理のためのエネルギーや冷却のための時間などが掛からなくなるため、製造コストの低減にも大きな効果がある。
表1に示す組成に質量調整した原料を真空中にて溶解し、鋳型に鋳造して溶製材の鋳塊を得た。
本発明例および比較例の真空溶解(凝固)後における鋳塊の断面を走査型電子顕微鏡により観察した。図1に実験例1(本発明例)、図2に実験例4(本発明例)および図3にNbを含まない実験例18(比較例)のミクロ組織写真を示す。ミクロ組織中の白色部は、Cu相である。
図1および図2より、本発明の半硬質磁性材料では、凝固段階からCu相およびFeとNbの金属間化合物の非磁性相が微細且つ均一に分散していることが確認できた。このFeとNbの金属間化合物をX線回折分析したところ、FeNbが検出された。
一方、比較例を示す図3では、凝固段階ではCu相が微細且つ均一には分散しておらずNbがCu相の微細化にも効果があることが推測された。
得られた鋳塊を900℃に加熱して鍛伸した後、表1に示す各組成に合わせて850〜1050℃に加熱して熱間圧延し、800〜950℃に加熱して歪取り熱処理を行った。次いで、グラインダー加工で酸化皮膜を除去し、厚さ0.1〜0.2mmまで冷間圧延を施して半硬質磁性材料を得た。
加工性については、熱間での鍛伸、圧延の2つの工程について評価した。鍛伸と熱間圧延の2つの工程においては、割れの程度を示し、割れのない良好なものを○、多少割れを生じたものを△、割れがひどく、以降の工程に進めなかったものを×とした。
本発明例である実験例1〜12は、表1に示すCuと、Nbを添加したもので、鍛伸、熱間圧延のいずれの工程でも加工による疵の発生は認められず、酸化皮膜除去においても問題なく、冷間圧延で厚さ0.1〜0.2mmまで圧延することができた。また、最終形状の重量は、鋳塊重量対比で8割以上であり、歩留まりも優れていることが確認できた。
一方、比較例である実験例13は、質量%で10%のCuと、5.3%のNbを含有するもので、鍛伸で割れを少し生じ、残った部分に熱間圧延を施したところ、割れが生じた。これは、Nb添加量の過多により、素材そのものの加工性が損なわれたことによる複合作用の結果、引き起こされたものと思われる。
また、比較例である実験例14は、質量%で4.9%のCuと、10%のNbを含有するもので、鍛伸でひどく割れが生じた。これはNb添加量が多過ぎたため、素材そのものの加工性が損なわれた結果と思われる。
また、比較例である実験例15〜22は、Nbを添加しない、Fe−Cu系溶製材である。Cu添加量の少ない実験例15〜19は、鍛伸、熱間圧延のいずれの工程でも疵や割れの発生はなく、製造上の問題はなかった。
また、質量%で9.0%以上のCuを含有する実験例20〜22は、鍛伸、熱間圧延で著しい疵や割れが発生し、最終形状の重量は、鋳塊重量対比で8割に満たず、中には5割程度のものもあり、歩留まりは著しく低かった。
また、比較例である実験例23は、Cuを添加せず、Nbのみを質量%で2.8%添加した溶製材であり、鍛伸、熱間圧延のいずれの工程でも疵や割れの発生は確認されなかった。
また、比較例である実験例24は、Nbに代えてZrを質量%で0.8%添加した溶製材であり、熱間圧延の際に割れを生じたが、健全な部分を次工程に進め、0.1〜0.2mmまで圧延した。
また、質量%で5.2%のZrを添加した実験例25は、鍛伸の際にひどい割れを生じ、次工程に進めることができなかった。
また、比較例である実験例26、27は、Nbに代えてTiを添加した溶製材であり、質量%で1.1%のTiを添加した実験例26と2.0%のTiを添加した実験例27ともに、鍛伸と熱間圧延は可能であった。しかし、酸化皮膜が強固で堅く、酸洗いやグラインダーでも除去できなかったため、冷間圧延工程に進めることができなかった。
次に、0.1〜0.2mmまで冷間圧延した後の半硬質磁性材料を走査型電子顕微鏡により観察した。組織観察は全て、薬液で腐食して実施した。図4に実験例1(本発明例)、図5に実験例4(本発明例)、および図6に実験例18(比較例)の断面ミクロ組織写真を示す。
図4および図5より、本発明の半硬質磁性材料では、マトリックスであるFeに繊維状のCu相および粒状のFeとNbの金属間化合物の非磁性相が微細に分散していることが確認できた。
一方、比較例である図6では、マトリックスであるFeにCu相のみが圧延方向に展伸され分散していることを確認した。
次に、得られた半硬質磁性材料を磁気マーカ用バイアス材として用いることを想定し、表1に示す各組成に合わせて450〜550℃の時効処理を施した。得られた半硬質磁性材料をヨーク法により磁気特性を測定した。測定結果を表2に示す。
ここで、ヨーク法とは、薄く加工した半硬質磁性材料を、1次線を巻いたコイルに差し込み、この1次線に電流を流すことで半硬質磁性材料に外部磁場を印加し、半硬質磁性材料がコイルの一部となっている2次コイルに巻かれた2次線に流れる電流の変化で、半硬質磁性材料の作る磁場を測定する方法である。
磁気特性については、磁気マーカ用のバイアス材に重要な保磁力Hc(単位はA/m)を測定した。加えて、残留磁束密度Br(単位はT)と、Br/B8000(無単位)についても測定した。ここで、Br/B8000は、材料に8000A/mの外部磁場を印加した際の磁束密度をB8000として、この数値で残留磁束密度を割った値であり、この数値が1に近いほど、半硬質磁性材料として外部からの不用意な磁場に対して減磁を受けにくい傾向にあり、磁気マーカ用のバイアス材として適している。
本発明例である実験例1〜12では、磁気マーカ用のバイアス材として用いるのに十分な保磁力が得られた。Brも1.0T以上であり、小型・薄型化しても必要なバイアス磁界が得られることからも、磁気マーカ用バイアス材として適している。さらに、Br/B8000も0.8以上であり、外部からの不用意な磁場に対して減磁を受けにくく、磁気マーカ用のバイアス材として適していることが確認できた。
また、比較例である実験例15〜19のNbを無添加の従来のFe−Cu系半硬質磁性材料(溶製材)と比較して、少ないCu量で高い保磁力を得られることが確認できた。
また、上述した時効処理を施す前の半硬質磁性材料の磁気特性を測定した結果、十分な保磁力が得られており、本発明の半硬質磁性材料は、時効処理を施すことなく磁気マーカ用バイアス材に用いることができることを確認した。
一方、比較例である実験例15〜19は、保磁力が1300A/m以下と低いことを確認した。また、実験例20〜22は、健全な部分を次工程に進めて、磁気特性を測定した結果、十分な保磁力を得ることができたが、鍛伸後の健全な部分が少ないため、実用的ではないことがわかった。
また、実験例23は、保磁力が1000A/m以下と低いことを確認した。
また、実験例24は、健全な部分を次工程に進めて、磁気特性を測定した結果、Zrの添加のない実験例18と比較して、保磁力の増大が認められるが、Nbをほぼ同量添加した本発明の実験例2と比べるとその効果は乏しかった。
次に、時効処理を行った後の半硬質磁性材料を走査型電子顕微鏡により観察した。組織観察は全て、薬液で腐食して実施した。図7に実験例1(本発明例)、図8に実験例4(本発明例)、および図9に実験例18(比較例)の冷間圧延後に500℃の時効処理を行った後の走査型電子顕微鏡により観察した断面ミクロ組織写真を示す。
図7および図8より、本発明の半硬質磁性材料では、マトリックスであるFeに細かく分断された繊維状または粒(片)状のCu相および粒状のFeとNbの金属間化合物の非磁性相が微細に分散していることが確認できた。
一方、比較例である図9では、マトリックスであるFeにCu相のみが圧延方向に展伸され分散していることを確認した。
また、図10に実験例4(本発明例)の冷間圧延後に525℃の時効処理を行った後の走査型電子顕微鏡により観察した断面ミクロ組織写真を示す。図10より、本発明の半硬質磁性材料では、マトリックスであるFeに粒(片)状のCu相および粒状のFeとNbの金属間化合物の非磁性相が微細に分散していることが確認できた。なお、本発明例におけるFeとNbの金属間化合物の平均円相当径は、各図に示す通り、何れも3μm以下であった。
図11に本発明例と比較例の磁気特性を示す。横軸にCu量、縦軸に保磁力をとったものである。Fe−Cu系半硬質磁性材料となるNbを含まない比較例の実験例15〜22を+(その内、熱間加工性の悪いものは×)で示した。
ここで、Fe−Cu系半硬質磁性材料(溶製材)にNbを添加した本発明例の質量%で2.6%のCuに質量%でNbを2.8%添加した実験例1を△で示した。
また、質量%で5.0%のCuに質量%でNbをそれぞれ0.9%、2.0%、2.7%、3.1%、および4.9%添加した実験例2〜6を◇で示した。
また、質量%で6.0%のCuに質量%でNbを1.5%添加した実験例7、および質量%で6.1%のCuに質量%でNbを2.1%添加した実験例8を□で示した。
また、質量%で7.0%のCuに質量%でNbを1.0%および1.6%添加した実験例9および10、質量%で6.9%のCuに質量%でNbを2.1%添加した実験例11を○で示した。
本発明の半硬質磁性材料では、Nbを添加した効果により、Nbを添加しない比較例に比べて、熱間加工性を損なわないCuの添加量で所望の高い保磁力が得られることがわかる。
図12に本発明例と比較例の磁気特性を示す。横軸にNb量、縦軸に保磁力をとったものである。Fe−Cu系半硬質磁性材料(溶製材)となるNbを含まない比較例の内、質量%で5.1%のCuを添加した実験例18を◆、質量%で7.0%のCuを添加した実験例19を●で示した。また、Cuを含まない比較例として、質量%で2.8%のNbを添加した実験例23を▲で示した。
また、図17同様に、Fe−Cu系半硬質磁性材料(溶製材)にNbを添加した本発明例の質量%で2.6%のCuに質量%でNbを2.8%添加した実験例1を△で示した。
また、質量%で5.0%のCuに質量%でNbをそれぞれ0.9%、2.0%、2.7%、3.1%、および4.9%添加した実験例2〜6を◇で示した。
また、質量%で6.0%のCuに質量%でNbを1.5%添加した実験例7、および質量%で6.1%のCuに質量%でNbを2.1%添加した実験例8を□で示した。
また、質量%で7.0%のCuに質量%でNbを1.0%および1.6%添加した実験例9および10、質量%で6.9%のCuに質量%でNbを2.1%添加した実験例11を○で示した。
本発明の半硬質磁性材料では、Nbを添加した効果により、Nbを添加しない比較例に比べて、高い保磁力が得られることがわかる。
また、Cuを添加しない比較例に比べても、高い保磁力が得られており、一定量のCuを添加したFe−Cu系合金に特定範囲のNbを添加することにより、高い保磁力が得られることがわかる。
図13に本発明の半硬質磁性材料を磁気マーカとして用いる際の構成図の一例を示す。本発明の半硬質磁性材料を、圧延加工によって平板化し薄片とし、所望の磁界を作り出せる寸法に切り出し、バイアス材1とする。これを樹脂製のパック2に挟み込んでバイアス素子とし、磁歪素子3を近接するように配置して、樹脂製のケース4に入れ、磁気マーカとすることができる。
本発明の半硬質磁性材料は、リレー回路、スイッチング素子やアクチュエータなどに用いることができ、磁気マーカ用のバイアス素子の材料として最も好適な材料である。
本発明の真空溶解後の一例を示す走査型電子顕微鏡による断面ミクロ組織写真である。 本発明の真空溶解後の一例を示す走査型電子顕微鏡による断面ミクロ組織写真である。 比較例の真空溶解後の一例を示す走査型電子顕微鏡による断面ミクロ組織写真である。 本発明の冷間圧延後の一例を示す走査型電子顕微鏡による断面ミクロ組織写真である。 本発明の冷間圧延後の一例を示す走査型電子顕微鏡による断面ミクロ組織写真である。 比較例の冷間圧延後の一例を示す走査型電子顕微鏡による断面ミクロ組織写真である。 本発明の時効処理後の一例を示す走査型電子顕微鏡による断面ミクロ組織写真である。 本発明の時効処理後の一例を示す走査型電子顕微鏡による断面ミクロ組織写真である。 比較例の時効処理後の一例を示す走査型電子顕微鏡による断面ミクロ組織写真である。 本発明の時効処理後の一例を示す走査型電子顕微鏡による断面ミクロ組織写真である。 本発明と比較例の磁気特性比較の一例を示すグラフである。 本発明と比較例の磁気特性比較の一例を示すグラフである。 本発明の磁気マーカとして用いる際の一例を示す構成図である。
符号の説明
1.バイアス材、2.パック、3.磁歪素子、4.ケース

Claims (7)

  1. 質量%で、2.0≦Cu≦10.0%と0.1≦Nb≦5.0%を含み、不純物として質量%で、C≦0.02%、Si≦0.50%、Mn≦0.60%、P≦0.05%、S≦0.02%、Al≦0.05%、N≦0.05%、O≦0.05%に規制し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、Cu相とFeとNbの金属間化合物とが分散したミクロ組織を有し、マトリックスに分散しているFeとNbの金属間化合物の平均円相当径が、3μm以下であることを特徴とする半硬質磁性材料。
  2. 質量%で、3.0≦Cu≦7.5%を含むことを特徴とする請求項1に記載の半硬質磁性材料。
  3. 質量%で、0.5≦Nb≦3.0%を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の半硬質磁性材料。
  4. 保磁力Hcが1600A/m以上であることを特徴とする請求項1ないしのいずれかに記載の半硬質磁性材料。
  5. 請求項1ないしのいずれかに記載の半硬質磁性材料からなることを特徴とする磁気マーカ用バイアス材。
  6. 塑性加工により平板化もしくは線状化され、厚さtが10≦t≦500μmであることを特徴とする請求項に記載の磁気マーカ用バイアス材。
  7. 請求項またはに記載の磁気マーカ用バイアス材を、磁気マーカ用の磁歪素子にバイアス磁界が印加されるように配置してなることを特徴とする磁気マーカ。
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