JP5263435B1 - 挿抜性に優れた錫めっき銅合金端子材 - Google Patents

挿抜性に優れた錫めっき銅合金端子材 Download PDF

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Abstract

【課題】優れた電気接続特性を発揮しながら動摩擦係数を0.3以下にまで低減して、挿抜性に優れた錫めっき銅合金端子材を提供する。
【解決手段】Cu合金からなる基材上の表面にSn系表面層が形成され、該Sn系表面層と基材との間にCuSn合金層が形成された錫めっき銅合金端子材であって、CuSn合金層は、CuSnを主成分とし、該CuSnのCuの一部がNi及びSiに置換した化合物を前記基材側界面付近に有する合金層であり、Sn系表面層の平均厚みが0.2μm以上0.6μm以下であり、CuSn合金層の油溜まり深さRvkが0.2μm以上であり、かつSn系表面層の表面に露出するCuSn合金層の面積率が10%以上40%以下であり、動摩擦係数が0.3以下である。
【選択図】 図1

Description

本発明は、自動車や民生機器等の電気配線の接続に使用されるコネクタ用端子、特に多ピンコネクタ用の端子として有用な錫めっき銅合金端子材に関する。
錫めっき銅合金端子材は、銅合金からなる基材の上にCuめっき及びSnめっきを施した後にリフロー処理することにより、表層のSn系表面層の下層にCuSn合金層が形成されたものであり、端子材として広く用いられている。
近年、例えば自動車おいては急速に電装化が進行し、これに伴い電気機器の回路数が増加するため、使用するコネクタの小型・多ピン化が顕著になっている。コネクタが多ピン化すると、単ピンあたりの挿入力は小さくても、コネクタを挿着する際にコネクタ全体では大きな力が必要となり、生産性の低下が懸念されている。そこで、錫めっき銅合金材の摩擦係数を小さくして単ピンあたりの挿入力を低減することが試みられている。
例えば、基材を粗らして、CuSn合金層の表面露出度を規定したもの(特許文献1)があるが、接触抵抗が増大する、ハンダ濡れ性が低下するといった問題があった。また、CuSn合金層の平均粗さを規定したもの(特許文献2)もあるが、さらなる挿抜性向上のため例えば動摩擦係数を0.3以下にすることができないといった問題があった。
特開2007−100220号公報 特開2007−63624号公報
錫めっき銅合金端子材の摩擦係数を低減させるには、表層のSn層を薄くし、Snに比べ硬いCuSn合金層の一部を表層に露出させると摩擦係数を非常に小さくすることができる。しかしながら、表層にCuSn合金層が露出するとCu酸化物が表層に形成され、その結果接触抵抗の増大、はんだ濡れ性の低下を引き起こしてしまう。またCuSn合金層の平均粗さを制御しても動摩擦係数を0.3以下にまで低減することはできない問題があった。
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたものであって、優れた電気接続特性を発揮しながら動摩擦係数を0.3以下にまで低減して、挿抜性に優れた錫めっき銅合金端子材を提供することを目的とする。
本発明者らは鋭意研究した結果、表層のSn層が薄く、その表面にわずかに下層のCuSn層が露出していることは、動摩擦係数の低下に有利であるとの認識の下、Sn層が薄くなることによる電気接続特性の低下を抑制するためには、CuSn合金層の表面露出を限られた範囲に制御することが必要であり、そのためには、Sn層とその下層のCuSn層との界面の形状が重要であるとの知見に至った。つまり、動摩擦係数は、表面から数百nmの深さの範囲の構造が大きな影響を与えており、研究の結果、表層付近をSnとCuSnの複合構造とすると、硬いCuSn合金層の間にある軟らかいSnが潤滑剤の作用を果たし動摩擦係数が下がることを見出した。この場合、Sn層とCuSn層との界面が急峻な凹凸形状であることが重要であり、その界面形状として油溜まり深さRvkに着目し
た。また、好ましい油溜まり深さRvkを得るためには、Ni及びSiの存在が重要であることも見出した。これらの知見の下、以下の解決手段とした。
すなわち、本発明の錫めっき銅合金端子材は、Cu合金からなる基材上の表面にSn系表面層が形成され、該Sn系表面層と前記基材との間にCuSn合金層が形成された錫めっき銅合金端子材であって、前記CuSn合金層は、CuSnを主成分とし、該CuSnのCuの一部がNi及びSiに置換した化合物を前記基材側界面付近に有する合金層であり、前記CuSn合金層の油溜まり深さRvkが0.2μm以上であり、かつ前記Sn系表面層の平均厚みが0.2μm以上0.6μm以下であり、前記Sn系表面層の表面に露出する前記CuSn合金層の面積率が10%以上40%以下であり、動摩擦係数が0.3以下であることを特徴とする。
CuSn合金層の油溜まり深さRvkを0.2μm以上、かつSn系表面層の平均厚みを0.2μm以上0.6μm以下、Sn系表面層の表面におけるCuSn合金層の露出面積率を10%以上40%以下とすることで、動摩擦係数の0.3以下を実現することができ、この場合、CuSn合金層の下部に形成されるCuの一部がNi及びSiに置換した(Cu,Ni,Si)Sn合金の存在により、CuSn合金層の凹凸を急峻にしてRvkを0.2μm以上にし、表面に露出する面積率を限られた範囲に抑制している。
CuSn合金層の油溜まり深さRvkが0.2μm未満ではCuSn間に存在するSnが少なく、動摩擦係数を0.3以下とすることができない。より好ましい油溜まり深さRvkは0.3μm以上である。
Sn系表面層の平均厚みが0.2μm以上0.6μm以下としたのは、0.2μm未満でははんだ濡れ性の低下、電気的接続信頼性の低下を招き、0.6μmを超えると表層をSnとCuSnの複合構造とすることができず、Snだけで占められるので動摩擦係数が増大するためである。より好ましいSn系表面層の平均厚みは0.25μm以上0.5μm以下である。
Sn系表面層の表面におけるCuSn合金層の露出面積率が10%未満では動摩擦係数を0.3以下とすることができず、40%を超えると、はんだ濡れ性等の電気接続特性が低下する。より好ましい面積率は、10%以上30%以下である。
また、Sn系表面層は、動摩擦係数測定時の垂直荷重が小さくなると動摩擦係数が増大することが知られているが、本発明品は、垂直荷重を下げても動摩擦係数が殆ど変化せず、小型端子に用いても効果が発揮できる。
本発明の錫めっき銅合金端子材において、前記Sn系表面層の表面に露出する前記CuSn合金層の各露出部の円相当直径が0.6μm以上2.0μm以下であるとよい。
Sn系表面層の表面に露出するCuSn合金層の各露出部の円相当直径が0.6μm未満では、Sn系表面層の厚みを所定の範囲に満足させながらCuSn合金層の露出面積率を10%以上とすることができず、2.0μmを超えると、硬いCuSn合金層の間にある軟らかいSnが十分に潤滑剤としての作用を果たすことができず、動摩擦係数を0.3以下とすることができない。より好ましくは0.6μm以上1.3μm以下である。
本発明の錫めっき銅合金端子材において、前記CuSn合金層の平均厚みが0.6μm以上1μm以下であるとよい。
CuSn合金層の平均厚みが0.6μm未満では油溜まり深さRvkを0.2μm以上とすることが難しく、1μm以上の厚みに形成するためにはSn系表面層を必要以上に厚くする必要があり不経済である。
本発明の錫めっき銅合金端子材において、前記基材が、0.5質量%以上5質量%以下のNi及び0.1質量%以上1.5質量%以下のSiを含有し、更に必要に応じてZn、Sn、Fe、Mgの群から選ばれた1種以上を合計で5質量%以下含有し、残部がCu及
び不可避不純物から構成されるものであるとよい。
CuSn系表面層の油溜まり深さRvkを0.2μm以上とするためには、CuSn合金層中にNi及びSiが固溶することが必要である。この場合、Ni及びSiを含有している基材を用いれば、リフロー時に基材よりNi及びSiをCuSn合金層中に供給することができる。ただし、基材中のこれらNi及びSiの含有量は、Niが0.5質量%未満、Siが0.1質量%未満では、それぞれNi又はSiの効果が現れず、Niでは5質量%を越えると鋳造や熱間圧延時に割れを生じるおそれがあり、Siでは1.5質量%を超えると導電性が低下するため、Niは0.5質量%以上5質量%以下、Siは0.1質量%以上1.5質量%以下が好ましい。
Zn、Snは、強度、耐熱性向上のために添加するとよく、また、Fe、Mgは、応力緩和特性向上のために添加するとよいが、合計で5質量%を超えると導電率が低下するので好ましくない。
本発明の錫めっき銅合金端子材の製造方法は、Cu合金からなる基材上に、Cuめっき層及びSnめっき層をこの順で形成した後に、リフロー処理することにより、前記基材の上にCuSn合金層を介してSn系表面層を形成した錫めっき銅合金端子材を製造する方法であって、前記基材として、0.5質量%以上5質量%以下のNi、0.1質量%以上1.5質量%以下のSiを含有し、更に必要に応じてZn、Sn、Fe、Mgの群から選ばれた1種以上を合計で5質量%以下含有し、残部がCu及び不可避不純物から構成されるものを用い、前記Cuめっき層の厚みを0.03μm以上0.14μm以下とし、前記Snめっき層の厚みを0.6μm以上1.3μm以下とし、前記リフロー処理を基材の表面温度が240℃以上360℃以下になるまで昇温後、当該温度に以下の(1)〜(3)に示す時間保持した後、急冷することにより行うことを特徴とする。
(1)Snめっき層の厚みが0.6μm以上0.8μm未満に対して、Cuめっき層の厚みが0.03以上0.05μm未満の場合は1秒以上3秒以下、Cuめっき層の厚みが0.05μm以上0.08μ未満の場合は1秒以上6秒以下、Cuめっき層の厚みが0.08μm以上0.14μm以下の場合は6秒以上9秒以下
(2)Snめっき層の厚みが0.8μm以上1.0μm未満に対して、Cuめっき層の厚みが0.03以上0.05μm未満の場合は3秒以上6秒以下、Cuめっき層の厚みが0.05μm以上0.08μ未満の場合は3秒以上9秒以下、Cuめっき層の厚みが0.08μm以上0.14μm以下の場合は6秒以上12秒以下
(3)Snめっき層の厚みが1.0μm以上1.3μm以下に対して、Cuめっき層の厚みが0.03以上0.05μm未満の場合は6秒以上9秒以下、Cuめっき層の厚みが0.05μm以上0.08μ未満の場合は6秒以上12秒以下、Cuめっき層の厚みが0.08μm以上0.14μm以下の場合は9秒以上12秒以下
前述したように基材にNi及びSiを含有することにより、リフロー処理後のCuSn合金層の下部に(Cu,Ni,Si)Sn合金を介在させ、これによりCuSn合金層の凹凸が急峻になってCuSn合金層の油溜まり深さRvkを0.2μm以上とすることができる。Cuめっき層の厚みが0.03μm未満では、基材から供給されるNi及びSiの影響が大きくなり、Sn系表面層の厚み及びCuSn合金層の油溜まり深さRvkの場所によるばらつきが大きく、はんだ濡れ性が低下してしまい、0.14μmを超えると、基材からのNi及びSiがCuSn合金層に供給されにくいために、CuSn合金層の油溜まり深さRvkを0.2μm以上に形成することが難しくなる。Snめっき層の厚みが0.6μm未満であると、リフロー後のSn系表面層が薄くなって電気接続特性が損なわれ、1.3μmを超えると、表面へのCuSn合金層の露出が少なくなって動摩擦係数を0.3以下にすることが難しい。リフロー処理においては、基材の表面温度が240℃以上360℃以下になるまで昇温後、当該温度に1秒以上12秒以下の時間保持した後、急冷することが重要である。この場合、保持時間は(1)〜(3)に示したようにCuめっき層及びSnめっき層のそれぞれの厚みに応じて1秒以上12秒以下の範囲で適切な
時間があり、めっき厚が薄いほど保持時間は少なく、厚くなると長い保持時間が必要になる。240℃未満あるいは保持時間が短すぎる場合にはSnの溶解が進まず所望のCuSn合金層を得ることができず、360℃を超えあるいは保持時間が長すぎるとCuSn合金が成長し過ぎて表面への露出率が大きくなり過ぎ、またSn系表面層の酸化が進行して好ましくない。
本発明によれば、動摩擦係数を低減したので、低接触抵抗、良好なはんだ濡れ性と低挿抜性を両立させることができ、また低荷重でも効果があり小型端子に最適である。特に、自動車および電子部品等に使用される端子において、接合時の低い挿入力、安定した接触抵抗、良好なはんだ濡れ性を必要とする部位において優位性を持つ。
実施例の銅合金端子材の走査イオン顕微鏡(SIM)写真であり、(a)が縦断面、(b)が表面状態を示す。 実施例の銅合金端子材の基材とCuSn合金層との界面付近を示す走査透過型電子顕微鏡(STEM)による断面写真である。 図2の矢印部分に沿ってEDSにより分析した組成プロファイルである。 比較例の銅合金端子材の走査イオン顕微鏡(SIM)写真であり、(a)が縦断面、(b)が表面状態を示す。 比較例の銅合金端子材の基材とCuSn合金層との界面付近を示す走査透過型電子顕微鏡(STEM)による断面写真である。 比較例の銅合金端子材の表面状態の走査イオン顕微鏡(SIM)写真である。 導電部材の動摩擦係数を測定するための装置を概念的に示す正面図である。
本発明の一実施形態の錫めっき銅合金端子材を説明する。
本実施形態の錫めっき銅合金端子材は、銅合金からなる基材の上に、Sn系表面層が形成され、Sn系表面層と基材との間にCuSn合金層が形成されている。
基材は、Cu−Ni−Si系合金、Cu−Ni−Si−Zn系合金等、Ni及びSiを含有し、更に必要に応じてZn、Sn、Fe、Mgの群から選ばれた1種以上を合計で5質量%以下含有し、残部がCu及び不可避不純物から構成される銅合金である。Ni及びSiを必須成分としたのは、後述するリフロー処理により形成されるCuSn合金層の油溜まり深さRvk0.2μm以上にするために、リフロー時に基材よりNi及びSiを供給し、CuSn合金層中にNi及びSiを固溶させるためである。基材中のNiの含有量としては0.5質量%以上5質量%以下が、Siの含有量としては0.1質量%以上1.5質量%以下が好ましい。Niが0.5質量%未満ではNiの効果、Siが0.1質量%未満ではSiの効果がそれぞれ現れず、Niが5質量%を越えると鋳造や熱間圧延時に割れを生じるおそれがあり、Siが1.5質量%を超えると導電性が低下するためである。
また、Zn、Snは、強度、耐熱性を向上させ、Fe、Mgは、応力緩和特性を向上させる。これらZn、Sn、Fe、Mgのいずれか1種以上を添加する場合は、その合計の含有量が5質量%を超えると導電性が低下するので好ましくない。特に、Zn、Sn、Fe、Mgの全てを含むことが好ましい。特に、Zn、Sn、Fe、Mgの全てを含むことが好ましい。
CuSn合金層は、後述するように基材の上にCuめっき層とSnめっき層とを形成してリフロー処理することにより形成されたものであり、その大部分はCuSnであるが、基材との界面付近に、基材中のNi及びSiとCuの一部が置換した(Cu,Ni,
Si)Sn合金が薄く形成される。また、このCuSn合金層とSn系表面層との界面は、凹凸状に形成され、CuSn合金層の一部(CuSn)がSn系表面層に露出し、その露出面積率が10%以上かつCuSn合金層の油溜まり深さRvkが0.2μm以上に形成される。また、各露出部の円相当直径が0.6μm以上2.0μm以下に形成される。
この油溜まり深さRvkは、JIS B0671−2で規定される表面粗さ曲線の突出谷部平均深さであり、平均的な凹凸よりも深い部分がどの程度あるかを示す指標とされ、この値が大きければ、非常に深い谷部分の存在により、急峻な凹凸形状となっていることを示す。
このCuSn合金層の平均厚みは0.6μm以上1μm以下であるとよく、0.6μm未満ではCuSn合金層の油溜まり深さRvkを0.2μm以上とすることが難しく、1μm以下と規定したのは、1μm以上の厚みに形成するためにはSn系表面層を必要以上に厚くする必要があり不経済である。
Sn系表面層は平均厚みが0.2μm以上0.6μm以下に形成される。その厚みが0.2μm未満でははんだ濡れ性の低下、電気的接続信頼性の低下を招き、0.6μmを超えると表層をSnとCuSnの複合構造とすることができず、Snだけで占められるので動摩擦係数が増大するためである。より好ましいSn系表面層の平均厚みは0.25μm以上0.5μm以下である。
そして、このSn系表面層の表面に、下層のCuSn合金層の一部が露出しており、その露出部分の面積率が10%以上40%以下とされる。露出面積率が10%未満では動摩擦係数を0.3以下とすることができず、40%を超えると、はんだ濡れ性等の電気接続特性が低下する。より好ましい面積率は、10%以上30%以下である。この場合、各露出部の円相当直径が0.6μm以上2.0μm以下とされており、各露出部の円相当直径が0.6μm未満では、Sn系表面層の厚みを所定の範囲に満足させながらCuSn合金層の露出面積率を10%以上とすることが難しく、2.0μmを超えると、硬いCuSn合金層の間にある軟らかいSnが十分に潤滑剤としての作用を果たすことができず、動摩擦係数を0.3以下とすることが難しくなる。より好ましくは0.6μm以上1.3μm以下である。
このような構造の端子材は、CuSn合金層とSn系表面層との界面が急峻な凹凸形状に形成されていることにより、Sn系表面層の表面から数百nmの深さの範囲で、硬いCuSn合金層の急峻な谷部に軟らかいSnが介在し、かつ表面においては、その硬いCuSn合金層の一部がSn系表面層にわずかに露出した状態とされ、谷部に介在する軟らかいSnが潤滑剤の作用を果たし、動摩擦係数0.3以下とされる。しかも、CuSn合金層の露出面積率は10%以上40%以下の限られた範囲であるから、Sn系表面層の持つ優れた電気接続特性を損なうことはない。
次に、この端子材の製造方法について説明する。
基材として、Cu−Ni−Si系合金、Cu−Ni−Si−Zn系合金等、Ni及びSiを含有し、更に必要に応じてZn、Sn、Fe、Mgの群から選ばれた1種以上を合計で5質量%以下含有し、残部がCu及び不可避不純物から構成される銅合金からなる板材を用意する。この板材に脱脂、酸洗等の処理をすることによって表面を清浄にした後、Cuめっき、Snめっきをこの順序で施す。
Cuめっきは一般的なCuめっき浴を用いればよく、例えば硫酸銅(CuSO)及び硫酸(HSO)を主成分とした硫酸銅浴等を用いることができる。めっき浴の温度は20℃以上50℃以下、電流密度は1A/dm以上20A/dm以下とされる。このCuめっきにより形成されるCuめっき層の膜厚は0.03μm以上0.14μm以下とされる。0.03μm未満では合金基材の影響が大きく、表層にまでCuSn合金層が成
長して光沢度、はんだ濡れ性の低下を招き、0.14μmを超えると、リフロー時に基材よりNiが十分に供給されず、所望のCuSn合金層の凹凸形状を得られないためである。
Snめっき層形成のためのめっき浴としては、一般的なSnめっき浴を用いればよく、例えば硫酸(HSO)と硫酸第一錫(SnSO)を主成分とした硫酸浴を用いることができる。めっき浴の温度は15℃以上35℃以下、電流密度は1A/dm以上30A/dm以下とされる。このSnめっき層の膜厚は0.6μm以上1.3μm以下とされる。Snめっき層の厚みが0.6μm未満であると、リフロー後のSn系表面層が薄くなって電気接続特性が損なわれ、1.3μmを超えると、表面へのCuSn合金層の露出が少なくなって動摩擦係数を0.3以下にすることが難しい。
リフロー処理条件としては、還元雰囲気中で基材の表面温度が240℃以上360℃以下となる条件で1秒以上12秒以下の時間加熱し、急冷とされる。さらに望ましくは260℃以上300℃以下で5秒以上10秒以下の加熱後急冷である。この場合、保持時間は以下に示すようにCuめっき層及びSnめっき層のそれぞれの厚みに応じて1秒以上12秒以下の範囲で適切な時間があり、めっき厚が薄いほど保持時間は少なく、厚くなると長い保持時間が必要になる。
<基材温度を240℃以上360℃以下まで昇温後の保持時間>
(1)Snめっき層の厚みが0.6μm以上0.8μm未満に対して、Cuめっき層の厚みが0.03以上0.05μm未満の場合は1秒以上3秒以下、Cuめっき層の厚みが0.05μm以上0.08μ未満の場合は1秒以上6秒以下、Cuめっき層の厚みが0.08μm以上0.14μm以下の場合は6秒以上9秒以下
(2)Snめっき層の厚みが0.8μm以上1.0μm未満に対して、Cuめっき層の厚みが0.03以上0.05μm未満の場合は3秒以上6秒以下、Cuめっき層の厚みが0.05μm以上0.08μ未満の場合は3秒以上9秒以下、Cuめっき層の厚みが0.08μm以上0.14μm以下の場合は6秒以上12秒以下
(3)Snめっき層の厚みが1.0μm以上1.3μm以下に対して、Cuめっき層の厚みが0.03以上0.05μm未満の場合は6秒以上9秒以下、Cuめっき層の厚みが0.05μm以上0.08μ未満の場合は6秒以上12秒以下、Cuめっき層の厚みが0.08μm以上0.14μm以下の場合は9秒以上12秒以下
240℃未満の温度、保持時間がこれら(1)〜(3)に示す時間未満の加熱ではSnの溶解が進まず、360℃を超える温度、保持時間が(1)〜(3)に示す時間を超える加熱ではCuSn合金結晶が大きく成長してしまい所望の形状を得られず、またCuSn合金層が表層にまで達し、表面に残留するSn系表面層が少なくなり過ぎる(CuSn合金層の表面への露出率が大きくなり過ぎる)ためである。また、加熱条件が高いとSn系表面層の酸化が進行して好ましくない。
板厚0.25mmの銅合金(Ni;0.5質量%以上5.0質量%以下−Zn;1.0質量%−Sn;0質量%以上0.5質量%以下―Si;0.1質量%以上1.5質量%以下−Fe;0質量%以上0.03質量%以下−Mg;0.005質量%)を基材とし、Cuめっき、Snめっきを順に施した。この場合、Cuめっき及びSnめっきのめっき条件は実施例、比較例とも同じで、表1に示す通りとした。表1中、Dkはカソードの電流密度、ASDはA/dmの略である。
めっき処理後、実施例、比較例ともリフロー処理として、還元雰囲気中で、基材表面温度が240℃以上360℃以下の温度になるまで昇温し、その後、めっき厚みに応じて前述した(1)〜(3)に示す範囲内の時間加熱後、水冷した。
前述の(1)〜(3)の保持時間を表にすると次の表2の通りとなる。
比較例として、基材のNi及びSi濃度や、Cuめっき厚、Snめっき厚を変量したものも作製した。
これら試料の条件を表3に示す。
これらの試料について、リフロー後のSn系表面層の厚み、CuSn合金層の厚み、CuSn合金層の油溜まり深さRvk、CuSn合金層のSn系表面上の露出面積率及び各露出部の円相当直径を測定するとともに、動摩擦係数、はんだ濡れ性、光沢度、電気的信頼性を評価した。
リフロー後のSn系表面層及びCuSn合金層の厚みは、エスエスアイ・ナノテクノロジー株式会社製蛍光X線膜厚計(SFT9400)にて測定した。最初にリフロー後の試料の全Sn系表面層の厚みを測定した後、例えばレイボルド株式会社製のL80等の、純SnをエッチングしCuSn合金を腐食しない成分からなるめっき被膜剥離用のエッチング液に数分間浸漬することによりSn系表面層を除去し、その下層のCuSn合金層を露出させ純Sn換算におけるCuSn合金層の厚みを測定した後、(全Sn系表面層の厚み−純Sn換算におけるCuSn合金層の厚み)をSn系表面層の厚みと定義した。
CuSn合金層の油溜まり深さRvkは、Snめっき被膜剥離用のエッチング液に浸漬してSn系表面層を除去し、その下層のCuSn合金層を露出させた後、株式会社キーエンス製レーザ顕微鏡(VK−9700)を用い、対物レンズ150倍(測定視野94μm×70μm)の条件で、長手方向で5点、短手方向で5点、計10点測定したRvkの平均値より求めた。
CuSn合金層の露出面積率及び各露出部の円相当直径は、表面酸化膜を除去後、100×100μmの領域を走査イオン顕微鏡により観察した。測定原理上、最表面から約20nmまでの深さ領域にCuSnが存在すると、白くイメージングされるので、画像
処理ソフトを使用し、測定領域の全面積に対する白い領域の面積の比率をCuSn合金の露出率とみなし、個々の白い領域からそれぞれ円相当直径を算出し、その平均値をCuSn合金の各露出部の円相当直径とみなした。
動摩擦係数については、嵌合型のコネクタのオス端子とメス端子の接点部を模擬するように、各試料について板状のオス試験片と内径1.5mmの半球状としたメス試験片とを作成し、株式会社トリニティーラボ製の摩擦測定機(μV1000)を用い、両試験片間の摩擦力を測定して動摩擦係数を求めた。図7により説明すると、水平な台11上にオス試験片12を固定し、その上にメス試験片13の半球凸面を置いてめっき面同士を接触させ、メス試験片13に錘14によって100gf以上500gf以下の荷重Pをかけてオス試験片12を押さえた状態とする。この荷重Pをかけた状態で、オス試験片12を摺動速度80mm/分で矢印により示した水平方向に10mm引っ張ったときの摩擦力Fをロードセル15によって測定した。その摩擦力Fの平均値Favと荷重Pより動摩擦係数(=Fav/P)を求めた。表3には、荷重を0.98N(100gf)としたときと、4.9N(500gf)としたときの両方を記載した。
はんだ濡れ性については、試験片を10mm幅に切り出し、ロジン系活性フラックスを用いてメニスコグラフ法にてゼロクロスタイムを測定した。(はんだ浴温230℃のSn−37%Pbはんだに浸漬させ、浸漬速度2mm/sec、浸漬深さ2mm、浸漬時間10secの条件にて測定した。)はんだゼロクロスタイムが3秒以下を○と評価し、3秒を超えた場合を×と評価した。
光沢度は、日本電色株式会社製光沢度計(型番:PG−1M)を用いて、JIS Z 8741に準拠し、入射角60度にて測定した。
電気的信頼性を評価するため、大気中で150℃×500時間加熱し、接触抵抗を測定した。測定方法はJIS−C−5402に準拠し、4端子接触抵抗試験機(山崎精機研究所製:CRS−113−AU)により、摺動式(1mm)で0から50gまでの荷重変化−接触抵抗を測定し、荷重を50gとしたときの接触抵抗値で評価した。
これらの測定結果、評価結果を表4に示す。
この表3から明らかなように、実施例はいずれも動摩擦係数が0.3以下と小さく、はんだ濡れ性が良好で、光沢度も高く外観が良好で接触抵抗も10mΩ以下を示した。これに対し比較例2,5,6,7,8,9,12は、CuSn合金層の油溜まり深さRvkが0.2μm未満のため、また、比較例1は合金基材の影響を大きく受けるためにはんだ濡れ性、光沢度が悪く、比較例3,4,10,11は動摩擦係数が0.3以下だが、Sn厚が薄いためにはんだ濡れ性が悪く光沢度も低く、接触抵抗も10mΩを超え電気的信頼性が低下した。
図1及び図2は実施例2の試料の顕微鏡写真であり、図3は実施例2の断面をEDS(エネルギー分散型X線分析装置)により分析した組成プロファイルである。図2及び図3の(i)が基材、(ii)が(Cu,Ni,Si)Sn層、(iii)がCuSn層である。図4及び図5は比較例2の顕微鏡写真であり、図6は比較例3の顕微鏡写真である。これらの写真を比較してわかるように、実施例のものは、CuSn合金層の凹凸
が急峻であり、CuSn合金層の基材側の界面付近(図2の破線より下方)にCuの一部がNi及びSiに置換した化合物(Cu,Ni,Si)Snがわずかに認められ、Sn系表面層にCuSn合金層の一部が分散して露出し、その円相当直径も小さい。比較例のものは、図5に示されるように、CuSn合金層の下部に比較的厚いCuSn層が認められ、その上にCuSn層が積層した構造とされており、CuSn合金層の凹凸も粗く緩やかで、表面への露出も少ない。また、図6に示されるように、CuSn合金層の各露出部の円相当直径が大きい。
11 台
12 オス試験片
13 メス試験片
14 錘
15 ロードセル

Claims (5)

  1. Cu合金からなる基材上の表面にSn系表面層が形成され、該Sn系表面層と前記基材との間にCuSn合金層が形成された錫めっき銅合金端子材であって、前記CuSn合金層は、CuSnを主成分とし、該CuSnのCuの一部がNi及びSiに置換した化合物を前記基材側界面付近に有する合金層であり、前記CuSn合金層の油溜まり深さRvkが0.2μm以上であり、かつ前記Sn系表面層の平均厚みが0.2μm以上0.6μm以下であり、前記Sn系表面層の表面に露出する前記CuSn合金層の面積率が10%以上40%以下であり、動摩擦係数が0.3以下であることを特徴とする銅合金端子材。
  2. 前記Sn系表面層の表面に露出する前記CuSn合金層の各露出部の円相当直径が0.6μm以上2.0μm以下であることを特徴とする請求項1記載の銅合金端子材。
  3. 前記CuSn合金層の平均厚みが0.6μm以上1μm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の銅合金端子材。
  4. 前記基材が、0.5質量%以上5質量%以下のNi、0.1質量%以上1.5質量%以下のSiを含有し、更に必要に応じてZn、Sn、Fe、Mgの群から選ばれた1種以上を合計で5質量%以下含有し、残部がCu及び不可避不純物から構成されるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の銅合金端子材。
  5. Cu合金からなる基材上に、Cuめっき層及びSnめっき層をこの順で形成した後に、リフロー処理することにより、前記基材の上にCuSn合金層を介してSn系表面層を形成した錫めっき銅合金端子材を製造する方法であって、前記基材として、0.5質量%以上5質量%以下のNi、0.1質量%以上1.5質量%以下のSiを含有し、更に必要に応じてZn、Sn、Fe、Mgの群から選ばれた1種以上を合計で5質量%以下含有し、残部がCu及び不可避不純物から構成されるものを用い、前記Cuめっき層の厚みを0.03μm以上0.14μm以下とし、前記Snめっき層の厚みを0.6μm以上1.3μm以下とし、前記リフロー処理を基材の表面温度が240℃以上360℃以下になるまで昇温後、当該温度に以下の(1)〜(3)に示す時間保持した後急冷することにより行うことを特徴とする銅合金端子材の製造方法。
    (1)Snめっき層の厚みが0.6μm以上0.8μm未満に対して、Cuめっき層の厚みが0.03以上0.05μm未満の場合は1秒以上3秒以下、Cuめっき層の厚みが0.05μm以上0.08μ未満の場合は1秒以上6秒以下、Cuめっき層の厚みが0.08μm以上0.14μm以下の場合は6秒以上9秒以下
    (2)Snめっき層の厚みが0.8μm以上1.0μm未満に対して、Cuめっき層の厚みが0.03以上0.05μm未満の場合は3秒以上6秒以下、Cuめっき層の厚みが0.05μm以上0.08μ未満の場合は3秒以上9秒以下、Cuめっき層の厚みが0.08μm以上0.14μm以下の場合は6秒以上12秒以下
    (3)Snめっき層の厚みが1.0μm以上1.3μm以下に対して、Cuめっき層の厚みが0.03以上0.05μm未満の場合は6秒以上9秒以下、Cuめっき層の厚みが0.05μm以上0.08μ未満の場合は6秒以上12秒以下、Cuめっき層の厚みが0.08μm以上0.14μm以下の場合は9秒以上12秒以下
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