以下、本発明の一実施形態にかかるインクジェット記録装置について図面を参照しながら詳細に説明する。
<インクジェット記録装置の全体構造>
図1に示すインクジェット記録装置1は、外部のコンピュータから受信した画像情報に基づいて記録媒体の一例である用紙Pに画像を形成可能なインクジェットプリンタである。この記録装置1は、ケーシング2内に、記録部20、用紙収納部101、用紙搬送路5、搬送ユニット30、第1移動機構(昇降機構)40、排出部103、ワイプユニット50(図2)、及びこれらを制御する制御部131を備えている。なお、以下の説明において、用紙Pが搬送ユニット30上を搬送されるときの搬送方向を方向D1とし、これに垂直な方向(用紙Pの幅方向)を方向D2とする。
記録部20は、図1に示すように、方向D1の上流側から順にブラック、シアン、マゼンダ及びイエローの各色に対応したインクジェットヘッド22(22K、22C、22M、22Y)を備えている。各色のインクジェットヘッド22に対応して、図略の4台のインクタンクが備えられている。各色のインクは、前記インクタンクから各インクジェットヘッド22に補給される。なお、以下の説明において、特に限定する必要がある場合を除き、「K」「C」「M」「Y」の識別記号は省略する。
4つのインクジェットヘッド22は、搬送ユニット30の上方に並べて配置されている。各インクジェットヘッド22は、図略のヘッド支持部材により支持されている。各インクジェットヘッド22は、略直方体であり、その下面にノズル面22aを有している。ノズル面22aには、インクを吐出する複数のノズルが設けられている。ノズル面22aは、方向D2に長い矩形状に形成されている。各インクジェットヘッド22は、ノズル面22aのノズルから用紙Pの紙面に略垂直な方向にインクを吐出して画像を形成することが可能なラインタイプのヘッドである。
インクジェットヘッド22のインクの吐出方式としては、例えばピエゾ素子を用いてインクを押し出すピエゾ方式や、発熱体によって気泡を発生させ、圧力をかけてインクを吐出するサーマルインクジェット方式など、各種方式を適用することができる。
用紙収納部101は、用紙Pを収納可能であり、搬送ユニット30の下方に配置されている。用紙収納部101は、用紙が収納される給紙カセット3と、用紙搬送路5に用紙を供給するための用紙供給ローラ4とを有している。
用紙搬送路5は、この用紙搬送路5の上流側に配置されたローラ102と、用紙搬送路5の下流側に配置され、用紙Pを一旦停止させて斜め補正等を行った後、用紙Pを搬送ユニット30へ送り出すレジストローラ6とを有している。
搬送ユニット30は、記録部20の下方に配置されている。この搬送ユニット30は、用紙Pを記録部20に供給し、この記録部20により表面に画像が形成された用紙Pを排出部103に搬送する。搬送ユニット30は、フレーム36、ローラ32,33,34、搬送ベルト31、及び用紙保持機構35を有している。
ローラ32,33,34は、方向D1に所定の間隔を隔ててフレーム36に回転自在に支持されている。
搬送ベルト31は、無端ベルトになっており、ローラ32,33,34に架け渡されている。搬送ベルト31は、ローラ33とローラ32の間に位置する部分の上面が用紙Pの搬送面47として機能する。この搬送面47は、複数のインクジェットヘッド22のノズル面22aに対向している。
用紙保持機構35は、搬送ベルト31の搬送面47の下方において搬送面47に沿って記録部20に対向する位置に配置されている。この用紙保持機構35は、そのケースの上面に図略の多数の空気吸引用の孔を有し、これらの孔を通じて外部の空気をケースの内部に吸引することができる。また、搬送ベルト31にも、図略の多数の空気吸引用の孔が設けられている。したがって、用紙保持機構35により空気が吸引されると、用紙Pが搬送ベルト31の上面に吸着されるので、用紙Pを安定して搬送することができる。
第1移動機構40は、搬送ユニット30の下方に配置された一対の偏心カム41,42を有している。偏心カム41,42は、軸部41b,42bが図略の支持部材にそれぞれ支持されており、これらの軸部41b,42bを中心に図略の駆動モータによってそれぞれ回動する。偏心カム41,42は、複数のベアリング41a,42aをそれぞれ有しており、これらのベアリング41a,42aが搬送ユニット30のフレーム36に当接した状態で搬送ユニット30を支持している。搬送ユニット30は、偏心カム41,42が軸部41b,42bを中心に回動することにより上下方向に移動する。
図1は、偏心カム41,42がほぼ鉛直方向に起立して搬送ユニット30が持ち上げられた状態を示している。この状態から偏心カム41,42が互いに内側に向いて回転すると、搬送ユニット30が下降する。この第1移動機構40は、後述するワイプユニット50の第1ブレード521及び第2ブレード522とインクジェットヘッド22のノズル面22aとの距離を調節する役割も果たす。すなわち、第1移動機構40は、第1ブレード521の上端部及び第2ブレード522の上端部とノズル面22aとの距離を調節するためにトレイ51をノズル面22aに離接する方向に移動可能である。
記録部20により用紙Pに画像が形成される画像形成モードにおいては、搬送ユニット30は、第1移動機構40により持ち上げられて、図1に示すようにインクジェットヘッド22のノズル面22aに近接した位置に配置される。この近接位置は、ノズル面22aと用紙Pとの間が印刷に適した間隔となるように調整されている。一方、後述する吐出回復モード、第1ワイプモード、及び第2ワイプモードにおいては、搬送ユニット30は、第1移動機構40によって図1の状態から下降して、インクジェットヘッド22に対して下方に離隔した位置に移動する。搬送ユニット30の高さは、偏心カム41,42の回転角度を調節することによって適宜調節することができる。
排出部103は、乾燥装置7、排出ローラ8、排出口9、及び排出トレイ10を有している。乾燥装置7は、搬送ユニット30の方向D1の下流側に配置されている。記録部20において用紙Pに吐出されたインクは乾燥装置7によって乾燥する。インクが乾燥した用紙Pは、排出ローラ8によって排出口9に送られ、ケーシング2の側面から外部に延設された排出トレイ10に排出される。
制御部131は、中央処理装置(CPU)、プログラムなどのデータが記憶されているメモリ(ROM)、プログラム実行時にデータを一時的に記憶するためのメモリ(RAM)などで構成されている。この制御部131は、第1移動機構40、後述する第2移動機構などの動作を制御する。
<ワイプユニット>
次にワイプユニット50について説明する。図2は、後述するワイプモードにおけるインクジェットヘッド22とワイプユニット50の位置関係を示す斜視図である。
図2に示すように、ワイプユニット50は、方向D2に延びる支持台54と、この支持台54の長手方向に沿って支持台54の上面に延設された一対のガイドレール53と、これらのガイドレール53に沿ってスライド移動可能なトレイ51と、このトレイ51に支持されたワイプ部材52とを備えている。
記録装置1は、図2に示すのと同様のワイプユニット50を4つ備えている。これらのワイプユニット50は、各インクジェットヘッド22のノズル面22aをワイプするためにそれぞれ設けられたものである。図2では、一つのインクジェットヘッド22と一つのワイプユニット50のみを描いているが、後述するワイプモードにおいては、他のワイプユニット50も同様に、対応するインクジェットヘッド22の下方にそれぞれ配置される。各ワイプユニット50は、搬送ユニット30に支持されている。したがって、各ワイプユニット50は、上述した第1移動機構40の偏心カム41,42の回動に伴って上下方向に移動可能である。
また、各ワイプユニット50は、図1に示す画像形成モードにおいては、インクジェットヘッド22によるインクの吐出を妨げないように、ノズル面22aと搬送面47との間からは外れた位置にて待機するようになっている。具体的には、各ワイプユニット50は、各インクジェットヘッド22の下方ではなく、例えば記録部20の上流側又は下流側に記録部20に隣接して設けられた図略の退避位置に退避している。記録装置1は、図略のモード変更機構を備えている。このモード変更機構は、画像形成モード、吐出回復モード、ワイプモードなどの各モードへの変更時において、前記退避位置とインクジェットヘッド22の下方の所定位置との間で各ワイプユニット50を移動可能である。
図2に示すように、支持台54は、ワイプモードにおいてインクジェットヘッド22のノズル面22aに対向して配置される上面54aを有する長尺状の板状部材である。この上面54aは、方向D2においてノズル面22aの両端よりもさらに外側まで延びている。なお、本実施形態では、支持台54がワイプユニット50毎に設けられている場合を例に挙げて説明しているが、支持台54は、4つのワイプユニット50を支持可能な扁平な連続した一つの板状部材であってもよい。
一対のガイドレール53は、互いの間にトレイ51を配置可能な幅をあけて方向D2に沿って支持台54の上面54aにそれぞれ配設されている。各ガイドレール53は、方向D2に沿って延びる長孔53aを有している。各長孔53aには後述するトレイ51の突起部51aが挿入される。
トレイ51は、支持台54の上面54aに対向して配置された長方形の底板511と、この底板511の4つの周縁から上方に立設された側壁512,513,514,515とを備え、上面が開口した箱状の部材である。このトレイ51の底板511及び側壁512,513,514,515により囲まれた空間は、後述するワイプモードにおいてワイプ部材52によって拭き取られたノズル面22aのインクを受け入れて、一時的に貯留するためのものである。トレイ51の底板511には、図略の貫通孔が設けられている。貯留されたインクは、この貫通孔を通じてトレイ51の外部に排出される。トレイ51の底板511には、ワイプ部材52を挟持して固定する一対の挟持部材51bが設けられている。このようにトレイ51は、ワイプ部材52を支持する支持部材として機能する。
トレイ51は、方向D1側の側壁512の外側面と、方向D1の反対側の側壁513の外側面とに、2つの突起部51aをそれぞれ有している。なお、側壁512の2つの突起部51aは、後述する図3(b)に図示している。側壁512の2つの突起部51aは、方向D1側のガイドレール53の長孔53a内に挿入されている。側壁513の2つの突起部51aは、方向D1の反対側のガイドレール53の長孔53a内に挿入されている。これにより、トレイ51は、一対のガイドレール53の長孔53aに沿って方向D2にスライド移動可能に支持台54に支持されている。トレイ51は、例えば、図略のモータに接続されたシャフトSが回転するのに伴って方向D2の一方側の方向(第1方向D21)又は他方側の方向(第2方向D22)にスライド移動する。ガイドレール53、突起部51a、シャフトS及び図略のモータは、トレイ51をノズル面22aに沿って移動させる第2移動機構60として機能する。
ワイプ部材52は、第1弾性体としての第1ブレード521及び第2弾性体としての第2ブレード522を有している。第1ブレード521及び第2ブレード522は、方向D2に向かって見たときの形状が略長方形であり、方向D1に向かって見たときの形状が扁平である板状部材である。第1ブレード521及び第2ブレード522は、各ブレード521,522の主面が方向D2に向くように方向D2に積層されて配置されており、底板511から上方に立設されている。各ブレード521,522は、その下端部(基端部)近傍が一対の挟持部材51bによって挟まれることにより下端部近傍が支持台54に固定されている。
第1ブレード521及び第2ブレード522は、互いにほぼ接した状態でそれぞれ配置されている。互いにほぼ接した状態とは、第1ブレード521と第2ブレード522の互いに対向する面同士が接するか、又はわずかな隙間をあけた状態でそれぞれ配置されていることをいう。
各ブレード521,522の幅(方向D1の寸法)は、各ブレード521,522の上端部(先端部)がノズル面22aの全体に当接するように、ノズル面22aの幅(方向D1の寸法)よりも若干大きく設計されている。第1ブレード521は、第2ブレード522よりも厚み(方向D2の寸法)が大きく、高さ(上下方向の寸法)が小さい。第2ブレード522は、第1ブレード521よりも上方に突出している。言い換えると、第2ブレード522の上端部とノズル面22aとの距離は、第1ブレード521の上端部とノズル面22aとの距離よりも小さい。
各ブレード521,522の具体例を挙げると次のようになるが、各ブレード521,522は、次の形状に限定されるものではない。例えば、第1ブレード521として、厚み1.5mm、高さ10mmのものを用い、第2ブレード522として、厚み1mm、高さ12mmのものを用いることができる。この場合、第1ブレード521よりも第2ブレード522の方がノズル面22a側に2mm突き出ることになる。
第1ブレード521及び第2ブレード522は、撓み変形可能な弾性部材である。具体的には、各ブレード521,522の材料としては、例えば合成ゴム、合成樹脂などを用いることができる。合成ゴムとしては、例えばシリコーンゴム、ウレタンゴムなどが挙げられる。
また、第1ブレード521は、第2ブレード522よりも剛性が高く変形しにくい。本実施形態では、第1ブレード521の厚みを第2ブレード522よりも大きくすることによって第1ブレード521の剛性を第2ブレード522よりも高くして第2ブレード522よりも変形しにくくしている。なお、本実施形態のように厚みを大きくする方法の他、例えば第1ブレード521の材料として第2ブレード522の材料よりも弾性率が大きいものを使うことによって第1ブレード521の剛性を第2ブレード522よりも高くすることもできる。
詳細は後述するが、図4に示すように、各ブレード521,522は、ノズル面22aをワイプするときには、ノズル面22aとの摩擦によってノズル面22aから受ける力により進行方向とは反対側に撓んだ状態で、主にエッジ部521a,522aがノズル面22aに当接しながらノズル面22aのインクをかき取る。
<画像形成モード>
次に、記録装置1の画像形成モードの動作について説明する。
まず、外部に接続されたコンピュータから画像を形成するための命令が出されると、用紙収納部101から搬送ユニット30へと用紙が送り出される。そして、用紙が、搬送ユニット30の搬送ベルト31で搬送されているときに、インクジェットヘッド22からインクが吐出され、用紙上に画像が形成される。そして、画像が形成された用紙は、排出部103のローラ8によって搬送され、排出口9から排出トレイ10に排出される。
<吐出回復モード>
次に、吐出回復モードの動作について説明する。
上記した画像形成モードが終了した後、長時間、画像形成動作が実行されなかった場合などには、インクを吐出するノズルに粘性が高くなったインクや紙粉などの塵が詰まったり、気泡が残存したりすることがあるので、インクを強制的に吐出させて、塵、気泡などを含む粘性の高いインクを取り除く吐出回復モードを実行する。
この吐出回復モードでは、ノズル面22aのノズルからインクを強制的に吐出させてノズルに詰まった前記インクを取り除く。吐出したインクの大半は、インクジェットヘッド22の下方に配置される図略のトレイなどに収容されて回収される。なお、本実施形態におけるワイプユニット50のトレイ51は、ノズル面22a全体をカバーするような大きさではないが、ワイプユニット50のトレイ51は、ノズル面22aの下方においてノズル面22a全体をカバーするような開口を有する箱状部材であってもよい。この場合には、このトレイ51を吐出回復モードで吐出されるインクを受けるトレイとして用いることができる。
吐出回復モードで吐出したインクの一部は、ノズル面22aに付着してノズル面22aに残存する。ノズル面22aに付着したインクは、後述するワイプモードにおいて除去される。
<ワイプモード>
(第1実施形態)
次に、本発明の第1実施形態にかかる記録装置1のワイプモードの動作について説明する。なお、以下の説明では、4つのうち1つのインクジェットヘッド22に対するワイプモードについて説明するが、残りのインクジェットヘッド22についても同様のワイプモードが実行される。この第1実施形態では、第1ワイプモードと第2ワイプモードの2種類のワイプモードを実行可能である。
第1ワイプモードは、第1ブレード521の上端部及び第2ブレード522の上端部をノズル面22aに当接させた状態で、第2ブレード522よりも第1ブレード521が先行する方向に、トレイ51をノズル面22aに沿って移動させる。
第2ワイプモードは、第1ブレード521をノズル面22aから離隔させ、かつ、第2ブレード522の上端部をノズル面22aに当接させた状態で、トレイ51をノズル面22aに沿って移動させる。また、第2ワイプモードは、トレイ51を移動させる方向によってさらに2種類のモードに分けることができる。
以下、第1ワイプモード及び第2ワイプモードについて詳細に説明する。まず、第1ワイプモードについて説明する。
まず、上記した吐出回復モードが終了した後、制御部131は、前記した図略のモード変更機構を制御して前記退避位置にあるワイプユニット50をインクジェットヘッド22の下方へ移動させる。
次に、制御部131は、第1移動機構40を制御してノズル面22aに対するワイプ部材52の位置(高さ)を調整する。具体的には、例えば、第1ブレード521がほぼ直立した状態で第1ブレード521の上端部がノズル面22aに当接する程度、又は第1ブレード521がわずかに撓んだ状態で第1ブレード521の上端部がノズル面22aに当接する程度に、ノズル面22aに対するワイプ部材52の高さが調整される。高さ調整がされたワイプユニット50は、例えば図2に示す位置(以下、初期位置という。)にある。
次に、制御部131は、第2移動機構60を制御してトレイ51を前記初期位置から第1方向D21にスライド移動させる。具体的には、前記した図略のモータに接続されたシャフトSが回転するのに伴ってトレイ51が前記初期位置から第1方向D21に移動する。トレイ51がしばらく移動すると、第1ブレード521がノズル面22aに当接し、ついで第2ブレード522がノズル面22aに当接する。
図3(a)は、第1ワイプモードにおいて第1ブレード521及び第2ブレード522がノズル面22aに当接しながら第1方向D21に向かって移動している状態を示す側面図であり、図3(b)は、その正面図である。図4は、図3(a)の一部を拡大した側面図である。
図3(a),(b)及び図4に示すように、第1ワイプモードのワイピング中には、第1ブレード521及び第2ブレード522は共に進行方向(第1方向D21)の反対側である第2方向D22に撓んだ状態で第1方向D21に移動する。特に、ノズル面22a側への突出長さが大きく剛性の低い第2ブレード522の方が大きく撓んでいる。
図4に示すように、ノズル面22aには多数のノズル221の吐出口が設けられている。このノズル面22aには、主に、第1ブレード521のエッジ部521a(第1方向D21側のエッジ部)、及び第2ブレード522のエッジ部522a(第1方向D21側のエッジ部)が当接している。このように各ブレード521,522がノズル面22aに当接した状態で、トレイ51がノズル面22aの第1方向D21側の端部まで移動して第1ワイプモードが終了する。これにより、ノズル面22aに付着したインクが第1ブレード521により拭き取られる。
次に、第2ワイプモードについて説明する。
この第2ワイプモードは、前述したようにトレイ51をノズル面22aに沿って移動させる方向によってさらに2種類のモードに分けることができる。すなわち、一方は、第1方向D21に向かってトレイ51を移動させるモードであり、他方は、第2方向D22に向かってトレイ51を移動させるモードである。
まず、前者のモードから説明する。このモードは、例えば、上述した第1ワイプモードが終了した後に、ノズル面22aをさらに清浄に仕上げるために実行される(以下、このモードを仕上げモードという。)。
この仕上げモードでは、第1ワイプモードが終了した後、制御部131は、第1ブレード521及び第2ブレード522がともにノズル面22aから離隔するように、第1移動機構40を制御してワイプ部材52の高さを調整する。
ついで、制御部131は、第2移動機構60を制御してトレイ51を第2方向D22にスライドさせ、トレイ51をノズル面22aの第2方向D22側の端部まで移動させる。
次に、制御部131は、第1移動機構40を制御してノズル面22aに対するワイプ部材52の位置(高さ)を調整する。ワイプ部材52の高さは、第1ワイプモードのときよりも下方に調整される。具体的には、例えば、第2ブレード522がほぼ直立した状態で第2ブレード522の上端部がノズル面22aに当接する程度、又は第2ブレード522がわずかに撓んだ状態で第2ブレード522の上端部がノズル面22aに当接する程度に、ノズル面22aに対するワイプ部材52の高さが調整される。この状態では、第1ブレード521はノズル面22aから離隔している。
次に、制御部131は、第2移動機構60を制御してトレイ51を第1方向D21にスライド移動させる。トレイ51がしばらく移動すると、第2ブレード522がノズル面22aに当接する。
図5(a)は、仕上げモードにおいて第2ブレード522がノズル面22aに当接しながら第1方向D21に向かって移動している状態を示す側面図であり、図5(b)は、その一部を拡大した側面図である。
図5(a),(b)に示すように、仕上げモードのワイピング中には、第2ブレード522は進行方向(第1方向D21)の反対側である第2方向D22に撓んだ状態で第1方向D21に移動する。このとき、第1ブレード521はほぼ直立した状態である。
図5(b)に示すように、ノズル面22aには、主に、第2ブレード522のエッジ部522aが当接している。このように第2ブレード522がノズル面22aに当接した状態で、トレイ51がノズル面22aの第1方向D21側の端部まで移動して仕上げモードが終了する。
制御部131は、第1ワイプモードにおけるトレイ51のノズル面22aに沿った移動速度が仕上げモードにおけるトレイ51の移動速度よりも低くなるように第2移動機構60を制御する。具体的には、第1ワイプモードにおける移動速度は、例えば50mm/秒程度に調整され、仕上げモードにおける移動速度は、例えば100mm/秒程度に調整される。
次に、第2ワイプモードの他方のモード(後者のモード)について説明する。このモードは、例えば、インクをフレッシュに保つために少量のインクをノズルから強制的に吐出させる定期的なメンテナンスの後にノズル面22aをワイピングするために実行される(以下、定期メンテナンスモードという。)。
この定期メンテナンスモードは、上記したように少量のインクをノズルから強制的に吐出させた後、次のような順序で実行される。
まず、制御部131は、第1ブレード521及び第2ブレード522がともにノズル面22aから離隔するように、第1移動機構40を制御してワイプ部材52の高さを調整する。
ついで、制御部131は、第2移動機構60を制御してトレイ51を第1方向D21にスライドさせ、トレイ51をノズル面22aの第1方向D21側の端部まで移動させる。
次に、制御部131は、第1移動機構40を制御してノズル面22aに対するワイプ部材52の位置(高さ)を調整する。ワイプ部材52の高さは、仕上げモードとほぼ同程度に調整される。具体的には、例えば、第2ブレード522がほぼ直立した状態で第2ブレード522の上端部がノズル面22aに当接する程度、又は第2ブレード522がわずかに撓んだ状態で第2ブレード522の上端部がノズル面22aに当接する程度に、ノズル面22aに対するワイプ部材52の高さが調整される。この状態では、第1ブレード521はノズル面22aから離隔している。
次に、制御部131は、第2移動機構60を制御してトレイ51を第2方向D22にスライド移動させる。トレイ51がしばらく移動すると、第2ブレード522がノズル面22aに当接する。
図6(a)は、定期メンテナンスモードにおいて第2ブレード522がノズル面22aに当接しながら第2方向D22に向かって移動している状態を示す側面図であり、図6(b)は、その一部を拡大した側面図である。
図6(a),(b)に示すように、定期メンテナンスモードのワイピング中には、第2ブレード522は進行方向(第2方向D22)の反対側である第1方向D21に撓んだ状態で第2方向D22に移動する。このとき、第1ブレード521は、第2ブレード522の第1方向D21側において第2ブレード522と面接触した状態で第2ブレード522を支持している。したがって、この定期メンテナンスモードにおいては、仕上げモードのときよりも第2ブレード522の撓み量は小さくなり、ノズル面22aに対する線圧は大きくなる。
図6(b)に示すように、ノズル面22aには、主に、第2ブレード522のエッジ部522b(第2方向D22側のエッジ部)が当接している。このように第2ブレード522がノズル面22aに当接した状態で、トレイ51がノズル面22aの第2方向D22側の端部まで移動して定期メンテナンスモードが終了する。
この定期メンテナンスモードにおいては、トレイ51のノズル面22aに沿った移動速度は、第1ワイプモードにおけるトレイ51の移動速度よりも高くなるように第2移動機構60を制御する。具体的には、定期メンテナンスモードにおける移動速度は、例えば100mm/秒程度に調整される。
以上説明したように、本実施形態では、前記第1ワイプモードにおいては、ノズル面22aに第1ブレード521及び第2ブレード522の各上端部が当接しているが、第1ブレード521が先行する方向にワイピングされるので、ノズル面22aの付着物は、第1ブレード521によって拭き取られる。したがって、第2ブレード522がノズル面22aに当接しながら移動しても、前記付着物は、第2ブレード522にはほとんど付着しない。
一方、第2ワイプモードでは、第1移動機構40により第1ブレード521をノズル面22aから離隔させ、かつ、第2ブレード522の上端部を当接させた状態でワイピングする。したがって、仮に、第1ワイプモードにおいて第1ブレード521に前記付着物が付着していたとしても、第1ブレード521はノズル面22aから離隔しているので、第1ブレード521に付着した前記付着物がノズル面22aに再付着するのを抑制することができる。
なお、ノズル面22aのワイピングによって第1ブレード521又は第2ブレード522に付着した前記付着物は、これを除去するために別途設けられるインク除去部材などによって取り除かれ、回収される。したがって、本実施形態では、第1ブレード521に付着した前記付着物がノズル面22aに再付着するのを抑制することができるとともに、インク除去部材などによる前記除去作業の頻度を低減することもできる。
また、本実施形態では、第1ブレード521と第2ブレード522を比較すると、第1ブレード521の剛性が高く、第2ブレード522の剛性が低い。したがって、第1ワイプモードにおいて第1ブレード521の上端部をノズル面22aに対して押し付ける圧力(線圧)を大きくし、第2ワイプモードにおいて第2ブレード522の上端部をノズル面22aに対して押し付ける圧力(線圧)を小さくすることができる。したがって、上述したように種々のモードで各ブレード521,522を使い分けることができる。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態にかかる記録装置1のワイプモードの動作について説明する。この第2実施形態では、ワイプ部材52の形状が第1実施形態と異なっており、それに伴って第1ワイプモードにおけるワイプ部材52の挙動が第1実施形態と異なっている。以下では、これらの相違点について重点的に説明する。なお、第1実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。
この第2実施形態では、第1ワイプモードにおいて、図7(a)に示すように、第1ブレード521と第2ブレード522をノズル面22aに当接させた初期位置から、トレイ51を第1方向D21にスライド移動させて、図7(b)に示すように、各ブレード521,522を撓み変形させる。このとき、剛性の低い第2ブレード522は、第1ブレード521よりも撓み量が大きくなる(図7(b))。また、この第2実施形態では、後述する具体例に示すように、前記初期位置から前記撓み変形後までの間、第1ブレード521,第2ブレード522及びノズル面22aで囲まれる空間Nは、ほぼ密閉された状態が維持される。
したがって、空間Nはほぼ密閉された状態でトレイ51の移動に伴ってその容積が大きくなるので、初期位置の状態に比べて空間Nを負圧にすることができる。したがって、この負圧を利用してノズル221に詰まったインクなどを効果的に吸引することができる。
以下、第2実施形態の具体例について説明する。図8(a)は、第2実施形態におけるワイプ部材52とこれを支持するトレイ51とを示す平面図であり、図8(b)は、ワイプ部材51及びトレイ51を方向D1に向かってみたときの側面図である。
ワイプ部材52は、第1ブレード521及び第2ブレード522を有している。第1ブレード521及び第2ブレード522は、方向D2に向かって見たときの形状が略長方形であり、方向D1に向かって見たときの形状が扁平である板状部材である。第1ブレード521及び第2ブレード522は、各ブレード521,522の主面が方向D2に向くように方向D2に積層されて配置されており、底板511から上方に立設されている。各ブレード521,522は、その下端部(基端部)近傍が一対の挟持部材51bによって挟まれることにより下端部近傍が支持台54に固定されている。
第1ブレード521及び第2ブレード522は、互いにほぼ接した状態でそれぞれ配置されている。互いにほぼ接した状態とは、第1ブレード521と第2ブレード522の互いに対向する面同士が接するか、又はわずかな隙間をあけた状態でそれぞれ配置されていることをいう。
第1ブレード521は、第1実施形態と同様に、第2ブレード522よりも高さ(上下方向の寸法)が小さい。第2ブレード522は、第1ブレード521よりも上方に突出している。言い換えると、第2ブレード522の上端部とノズル面22aとの距離は、第1ブレード521の上端部とノズル面22aとの距離よりも小さい。
第2ブレード522は、方向D1に平行な幅方向(第2ブレード522の上端辺の延びる方向)の中央部の厚みが両端部の厚みよりも小さくなるように形成されている。具体的には、第2ブレード522は、第2方向D22側の主面が第1ブレード521側(第1方向D21側)に円弧状に凹むように中央部の厚みが両端部よりも小さくなっている。すなわち、第2ブレード522は、この第2ブレード522を水平面で切ったときの断面が円弧状の凹部522cを有している。これにより、第2ブレード522の上端辺の剛性は、前記幅方向の中央部が両端部よりも低くなるように構成されている。
図9は、このワイプ部材52を用いて第1ワイプモードを実行したときのワイプ部材52とノズル面22aとの位置関係を示す底面図である。図9では、第1ワイプモードにおいて、初期位置にあるワイプ部材52の上端辺52A、及び第1方向D21に向かって移動した移動後のワイプ部材52の上端辺52Bをそれぞれ二点鎖線で示している。
図9に示すように、第1ワイプモードにおいては、第1ブレード521の上端辺及び第2ブレード522の上端辺がノズル面22aに当接した状態で第1方向D21にトレイ51をノズル面22aに沿って移動させたときに、他の部位よりも剛性が低い第2ブレード522の前記中央部が最も変形しやすい。すなわち、前記移動時には、第1ブレード521の上端辺及び第2ブレード522の上端辺とノズル面22aとの間には摩擦抵抗が生じるので、前記摩擦抵抗によって第1ブレード521及び第2ブレード522が弾性変形するが、中でも剛性の低い第2ブレード522の前記中央部が他の部位よりも大きく変形する。
したがって、トレイ51の移動の初期においては、第2ブレード522の前記中央部が変形して前記中央部と第1ブレード521との隙間が広がる一方で、第2ブレード522の前記両端部はほとんど変形せず第1ブレード521と隣接した状態を維持している。この状態では、第1ブレード521、第2ブレード522、及びノズル面22aで囲まれた空間Nは、ほぼ密閉された状態で前記移動に伴ってその容積が大きくなる。これにより、初期位置に比べて空間Nを負圧にすることができる。したがって、この負圧を利用してノズル221に詰まったインクなどを効果的に吸引することができる。
また、記録装置1は、インクジェットヘッド22に供給するインクを貯留する図略のインクタンクをさらに備えている。制御部131は、第2実施形態における第1ワイプモードにおいては、トレイ51をノズル面22aに沿って移動させるときに、前記インクタンクからインクジェットヘッド22にインクを供給可能な状態に制御する。具体的には、前記インクタンクとインクジェットヘッド22の間の流路に設けられた開閉弁を開いた状態にし、必要に応じてポンプなどの送液手段を用いてインクを送液する。これにより、第1ワイプモードにおいて負圧を利用してノズル221に詰まったインクなどを吸引する場合に、負圧により吸引されたインクが再びノズル221内に逆戻りするのを抑制することができる。
次に、第2実施形態における変形例について説明する。図10(a)は、第2実施形態のワイプ部材52の変形例を示す平面図であり、(b)は、その斜視図であり、(c)は、このワイプ部材52をトレイ51に装着した状態を示す平面図である。図11は、第1ワイプモードにおけるワイプ部材52とノズル面22aとの位置関係を示す底面図である。
このワイプ部材52は、第1ブレード521及び第2ブレード522がその両サイドにおいて上下方向に互いに連結されている。すなわち、図10(a),(b)に示すように、ワイプ部材52は、平面視で環状の形状を有する筒状の部材である。
各ブレード521,522の下端部(基端部)近傍を一対の挟持部材51bによって挟んで、ワイプ部材52をトレイ51に固定すると、図10(c)に示すように、第1ブレード521及び第2ブレード522は、互いの内面がほぼ接するようになる。この状態においては、第1ブレード521及び第2ブレード522は、方向D2に向かって見たときの形状が略長方形である。また、この状態においては、第1ブレード521及び第2ブレード522は、各ブレード521,522の主面が方向D2に向くように方向D2に積層配置された状態となり、底板511から上方に立設されている。
第1ブレード521は、第1実施形態と同様に、第2ブレード522よりも高さ(上下方向の寸法)が小さい。第2ブレード522は、第1ブレード521よりも上方に突出している。言い換えると、第2ブレード522の上端部とノズル面22aとの距離は、第1ブレード521の上端部とノズル面22aとの距離よりも小さい。
また、第2ブレード522は、方向D2の厚みが第1ブレード521よりも小さく、第1ブレード521よりも剛性が低い。
図11は、このワイプ部材52を用いて第1ワイプモードを実行したときのワイプ部材52とノズル面22aとの位置関係を示す底面図である。図11では、第1ワイプモードにおいて、初期位置にあるワイプ部材52の上端辺52A、及び第1方向D21に向かって移動した移動後のワイプ部材52の上端辺52Bをそれぞれ二点鎖線で示している。
図11に示すように、第1ワイプモードにおいては、第1ブレード521の上端辺及び第2ブレード522の上端辺がノズル面22aに当接した状態で第1方向D21にトレイ51をノズル面22aに沿って移動させたときに、第1ブレード521よりも剛性が低い第2ブレード522は、第1ブレード521よりも変形しやすい。しかも、この変形例では、第1ブレード521と第2ブレード522は前記両サイドにおいて互いに連結されているので、この両サイドは変形しにくくなる一方で、前記両サイドの間(中央部)は、前記両サイドよりも変形しやすくなる。
したがって、トレイ51の移動の初期においては、第2ブレード522の前記両サイドの変形は比較的小さい一方で、第2ブレード522の前記中央部は比較的大きく変形して前記中央部と前記第1ブレード521との隙間が広がる。その結果、第1ブレード521、第2ブレード522、及びノズル面22aで囲まれた空間Nは、ほぼ密閉された状態で前記移動に伴ってその容積が大きくなるので、初期位置に比べて空間Nを負圧にすることができる。したがって、この負圧を利用してノズル221に詰まったインクなどを効果的に吸引することができる。
なお、本発明は、前記実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更、改良等が可能である。例えば、前記実施形態では、4色フルカラーのインクジェット記録装置を例に挙げて説明したが、本発明は、5色以上又は単色のインクを用いたインクジェット記録装置に適用することもできる。
また、前記実施形態では、第1弾性体及び第2弾性体が扁平な形状を有する場合を例に挙げて説明したが、第1弾性体及び第2弾性体は、棒状などの他の形状であってもよい。
また、前記第2実施形態では、第2ブレードが円弧状の凹部を有する場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。第2ブレードは、その先端辺の中央部の剛性が両端部よりも低いものであれば、他の形態であってもよい。
また、前記第2実施形態では、ワイプ部材が環状の部材である場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、第1弾性体と第2弾性体が別体として成形されたのち、両サイドが接合されたものであってもよい。
また、前記実施形態では、ワイプ部材がインクジェットヘッドの長手方向(方向D2)にインクジェットヘッドに対して相対移動する場合を例に挙げて説明したが、ワイプ部材は用紙の搬送方向(方向D1)にインクジェットヘッドに対して相対移動してもよい。