JP5257355B2 - 寸法が保持された細胞シート、その製造方法、及びそのための細胞培養担体 - Google Patents

寸法が保持された細胞シート、その製造方法、及びそのための細胞培養担体 Download PDF

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Description

本発明は細胞組織利用医薬品に関する分野、たとえば再生医療などの治療分野、創薬分野、診断分野、検査分野などで用いることができる、収縮が抑制され寸法が保持された細胞シート、かかる細胞シートの製造方法、及びかかる方法に用いる細胞培養担体に関する。
細胞シートを製造する技術はテッシュエンジニアリングの分野において重要な技術であるが、幾つかの問題点が存在する。
まず、細胞培養基板上で培養された細胞シートを基板から剥離することが困難であるという問題がある。また、細胞シートを基板から剥離することができたとしても、剥離後に細胞シートが収縮してしまい、以後の細胞シートの取り扱いが困難となるという問題もある。
例えば特許文献1には細胞シートの剥離を容易にするために細胞培養基材表面上に温度応答性ポリマーを配置し、細胞シート培養後に温度を変化させて細胞シートを剥離する技術が開示されている。しかしながらこの技術は全ての細胞種に適用できるわけではなく、剥離の困難な細胞種も存在する。また剥離後の細胞シートが収縮するという問題点は解決していない。また、この技術では厚い細胞シートを作ることが難しいという問題点もある。
特許文献2には、細胞シートの剥離を容易にする目的で、支持体表面をフィブリン糊でコーティングする技術が開示されている。特許文献2には、フィブリン糊は細胞の有する酵素により分解されて消失し、細胞がシート状に結合したまま宙吊り状態になり、容易に細胞シートを剥離できると記載されている。しかしながら特許文献2では細胞シートの剥離はスクレイパーを用いて行われていることから、十分な剥離性が達成されているとは言いがたい。また、細胞種によってはフィブリン糊を十分に分解できないものもあると考えられる。また、細胞シートが剥離後に収縮するという問題も解消されていない。
このほかにも、細胞シートと培養基板との接着力を制御することにより細胞シートの剥離を容易にする技術が開示されている(例えば特許文献3〜6参照)。しかしながらいずれの技術も全ての細胞種に適用できるとは限らない。また、細胞シートが収縮する問題点はこれらの技術では解決されない。
またより困難な技術として、細胞シートを多層化する技術がある。テッシュエンジニアリングの分野では、皮膚などの薄い組織や、軟骨などの細胞が占める割合の小さい組織を再生する技術は既に実用化されている。また治療に役立つ細胞を患部に注射する治療法も多く臨床試験がされている。しかしながら細胞が占める割合の大きい組織(多くの組織がそうである)についてはまだテッシュエンジニアリングの技術が確立していない。特に、酸素要求性が高い組織体(血管が張り巡らされた組織体)や、心臓や肝臓のような実質細胞からなる組織体を人工的に製造するには、細胞シートの厚みを200μm以上にする必要があるが、通常の細胞シートをこの厚さ以上に積層すると内部の細胞に酸素が行き渡らず壊死してしまう、という問題がある。
これまでに、細胞に酸素を供給する目的で、例えば生体吸収性材料からなる多孔性足場(担体)に細胞を播種し細胞組織体を形成する技術が多く検討されている。しかしながらこれらの技術は、細胞を均一に足場内部まで分布させることが難しく、また、移植組織が線維化しやすいという問題点がある。
また細胞シートを多層化すると単層の細胞シートと比較してより収縮が起こりやすい、という問題点もある。
一方、特許文献7及び8にはガラス化して形状維持力を高めたハイドロゲル薄膜上に細胞を培養する技術が開示されている。特許文献7及び8に記載のコラーゲン等のハイドロゲル薄膜は物理的に強固であるため、この薄膜上で培養された細胞シートは収縮する可能性は低いものと考えられる。しかしながら用いられるハイドロゲル層は非常に厚いことから、特許文献7及び8で得られたハイドロゲル層を伴う細胞層を複数積層したとしても、隣接する細胞層間の間隙が大きくなるため細胞層同士のネットワークが形成されにくく、また、液性因子の拡散等によるパラクライン的な細胞層間相互作用も得にくく、再生組織を製造するには適していない。
国際公開WO2002/008387号パンフレット 国際公開WO2005/028638号パンフレット 特開2006−346292号公報 特開2006−94799号公報 特開2005−261292号公報 特開2006−296896号公報 国際公開WO2005/014774号パンフレット 特開平8−228768号公報
上記のように、細胞シートの製造において細胞培養担体から細胞シートを容易に剥離でき、なお且つ細胞シートの収縮を回避する技術として満足できるものは未だ確立されていない。また、多層化するのに適した細胞シートも未だ提供されていない。
本発明はこれらの課題を解決することを目的とする。
本発明は以下の発明を包含する。
(1)細胞接着性を有し且つ生分解性を有する有機薄膜と、該有機薄膜の周縁部に固定された、前記有機薄膜の寸法を保持するための枠状の支持体とを備える支持体保持培養膜、及び、静的水接触角が45°以下である表面を有する基材を備え、前記支持体保持培養膜が前記基材表面上に剥離可能に設置されていることを特徴とする細胞培養担体。
(2)前記基材表面が細胞接着阻害性である、(1)記載の細胞培養担体。
(3)前記有機薄膜が生体由来材料である、(1)又は(2)記載の細胞培養担体。
(4)前記有機薄膜が人工的に合成された生体由来材料模倣材料により形成されている、(1)又は(2)記載の細胞培養担体。
(5)前記有機薄膜が高分子化合物により形成されており、該高分子化合物の単位面積当たりの乾燥重量が5〜100μg/cmである、(1)〜(4)のいずれかに記載の細胞培養担体。
(6)前記有機薄膜がパターンニングされたものである、(1)〜(5)のいずれかに記載の細胞培養担体。
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の細胞培養担体の前記有機薄膜上で細胞を培養してシート状の細胞層を形成した後、該細胞層を前記支持体保持培養膜ごと前記基材から剥離して、前記支持体保持培養膜と細胞層とからなる支持体保持細胞シートを得ることを特徴とする、支持体保持細胞シートの製造方法。
(8)(7)記載の方法により製造された支持体保持細胞シート。
(9)(8)記載の支持体保持細胞シートの、細胞層が形成された表面上に、細胞接着性を有し且つ生分解性を有する有機薄膜を被覆してなる、有機薄膜被覆支持体保持細胞シート。
(10)(7)記載の方法により製造された支持体保持細胞シートを複数積層してなる多層支持体保持細胞シート。
(11)(10)記載の多層支持体保持細胞シートの、細胞層が形成された表面上に、細胞接着性を有し且つ生分解性を有する有機薄膜を被覆してなる、有機薄膜被覆多層支持体保持細胞シート。
(12)(8)記載の支持体保持細胞シート、(9)記載の有機薄膜被覆支持体保持細胞シート、(10)記載の多層支持体保持細胞シート、又は(11)記載の有機薄膜被覆多層支持体保持細胞シートと、十分な強度を有し且つ細胞接着性である生分解性シートとを積層して接着させ、その後に前記支持体を取り除くことを特徴とする、収縮抑制細胞シートの製造方法。
(13)(12)記載の方法により製造された収縮抑制細胞シート。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2007−126677号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
図1(a)は本発明の細胞培養担体の上面図である。
図1(b)は図1(a)に示す本発明の細胞培養担体のA−A’断面図である。
図2は、細胞培養担体の使用方法を示す模式図である。
図3は、支持体保持細胞シート8を複数積層して得た多層支持体保持細胞シート9を示す。
図4は、収縮抑制細胞シートの製造方法を示す模式図である。
図5は、パターンニングされた有機薄膜を有する細胞培養担体の上面図である。
図6は、ウシ大動脈血管内皮細胞の支持体保持細胞シートの位相差顕微鏡写真を示す。
図7は、ウシ大動脈血管内皮細胞の支持体保持細胞シートの共焦点顕微鏡写真を示す。図7中(1)は細胞核を指し、(2)はコラーゲン薄膜を指す。
図8は、ウシ大動脈血管内皮細胞の支持体保持細胞シートを積層したものをカルセインにより染色した場合の共焦点顕微鏡写真を示す。
図9は、ウシ大動脈血管内皮細胞の支持体保持細胞シートを積層したものをカルセインにより染色した場合の共焦点顕微鏡の断面観察の結果(図9下)、及び断面の模式図(図9上)を示す。
図10は、ウシ大動脈血管内皮細胞の支持体保持細胞シートに支持体保持培養膜を積層し2日培養した後の位相差顕微鏡写真(図10下)、及び断面の模式図(図10上)を示す。
図11は、繊維芽細胞の支持体保持細胞シートを積層したものの位相差顕微鏡写真である。
図12は、血管内皮細胞と繊維芽細胞の支持体保持細胞シートの共積層を行い3日培養した後、位相差顕微鏡により観察した結果を示す。
図13は、パターンニングされた支持体保持細胞シートの観察結果を示す。
図14は、支持体保持細胞シート8の細胞層が形成された表面上に、支持体保持培養膜4の有機薄膜2を被覆してなる、有機薄膜被覆支持体保持細胞シート12を示す。
図15は、多層支持体保持細胞シート9の細胞層が形成された表面上に、支持体保持培養膜4の有機薄膜2を被覆してなる、有機薄膜被覆多層支持体保持細胞シート13を示す。
符号の説明
1・・細胞培養担体
2・・有機薄膜
3・・支持体
4・・支持体保持培養膜
5・・静的水接触角が45°以下である表面
6・・基材
7・・シート状の細胞層
8・・支持体保持細胞シート
9・・多層支持体保持細胞シート
10・・生分解性シート
11・・収縮抑制細胞シート
12・・有機薄膜被覆支持体保持細胞シート
13・・有機薄膜被覆多層支持体保持細胞シート
(細胞培養担体の構造)
本発明の細胞培養担体の構造を図1に基づいて説明する。図1(a)は細胞培養担体1の上面図、図1(b)はA−A’断面図である。細胞培養担体1は、細胞接着性を有し且つ生分解性を有する有機薄膜2と、有機薄膜2の周縁部に固定された、有機薄膜2の寸法を保持するための枠状の支持体3とを備える支持体保持培養膜4、及び、静的水接触角が45°以下である表面5を有する基材6を備える。支持体保持培養膜4は、基材6の表面5上に剥離可能に設置されている。
(細胞培養担体の使用方法)
細胞培養担体1の使用方法を図2に基づいて説明する。まず図2(a)に示すように所望の細胞を有機薄膜2上で培養してシート状の細胞層7を形成する。次に、細胞層7を支持体保持培養膜4ごと基材6から剥離して(図2(b))、支持体保持培養膜4とこの膜4上に形成された細胞層7とからなる支持体保持細胞シート8を得る(図2(c))。
支持体保持細胞シート8は、例えば図3に示すように複数積層して多層支持体保持細胞シート9としてもよい。こうして製造された支持体保持細胞シート8又は多層支持体保持細胞シート9は、周縁部が支持体3で保持されているため基材6から剥離しても収縮がなく、容易に扱うことができる。支持体保持細胞シート8又は多層支持体保持細胞シート9は生体等に移植した後に支持体3を切り離すことができる。また支持体3を生分解性材料で形成すれば、移植後に支持体3を切り離す必要は無い。多層支持体保持細胞シートを製造する際の個々の支持体保持細胞シートは、同種の細胞の細胞シートであってもよいし、異種の細胞の細胞シートであってもよい。支持体保持細胞シート8又は多層支持体保持細胞シート9の細胞層が形成された表面を更に、細胞接着性を有し且つ生分解性を有する有機薄膜で被覆してもよい。被覆に使用される有機薄膜は、支持体保持培養膜を構成する有機薄膜と同一のものであってよい。また、被覆に使用される有機薄膜としては、その周縁部が枠状の支持体で保持された、図1等に示す支持体保持培養膜の形態のものが好適に使用できる。図14には、支持体保持細胞シート8の細胞層が形成された表面上が、支持体保持培養膜4の有機薄膜2により被覆された、有機薄膜被覆支持体保持細胞シート12の例を示す。図15には、多層支持体保持細胞シート9の細胞層が形成された表面上が、支持体保持培養膜4の有機薄膜2により被覆された、有機薄膜被覆多層支持体保持細胞シート13の例を示す。
また図4に示すように、支持体保持細胞シート8又は多層支持体保持細胞シート9は更に収縮抑制細胞シート11に加工することもできる。すなわち十分な強度を有し且つ細胞接着性である生分解性シート10を多層支持体保持細胞シート9に積層し(図4(b))、一定時間維持して両者を接着させる。次いで、支持体3を取り除くことにより収縮抑制細胞シート11を得る(図4(c))。図4では多層支持体保持細胞シート9を用いた例を示したが、単層の支持体保持細胞シートも同様に収縮抑制細胞シートに加工することができる。また生分解性シートは複数用いても良い。また収縮抑制細胞シートを更に複数積層したものも本発明の収縮抑制細胞シートに包含される。
また有機薄膜はパターンニングされていてもよい。例えば図5では、有機薄膜2’は開口部を二箇所有するようにパターンニングされており、基材6’の表面5’が露出している。基材6’の表面5’は静的水接触角が45°以下であり親水性であるため細胞は接着せず、有機薄膜2’のパターンに沿った細胞層(図示せず)が形成される。このようにパターンニングされた有機薄膜2’を有する細胞培養担体1’を用いて製造された支持体保持細胞シートは所望の位置に孔を有するものとなる。かかる支持体保持細胞シートを複数積層して得られる多層細胞シートは所望の位置に空隙を有しているため、厚みのある細胞シート内部にまで酸素等を供給することができ、細胞が壊死するなどの問題点を解消することができると期待される。
次に本発明の構成について詳細に説明する。
(有機薄膜)
有機薄膜は、細胞接着性を有し且つ生分解性を有するものであれば特に限定されないが、好ましくは生体由来材料からなるものである。具体的な材料としては各種コラーゲン、ペプチドハイドロゲル、ラミニン、コンドロネクチン、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、プロテオグリカン、上記記載以外の細胞外マトリックス成分タンパク質、マウスEHS腫瘍抽出物より再構成された基底膜成分(商品名:マトリゲル)、ゼラチン、アガロース、オリゴ核酸、ポリ核酸などの高分子化合物によるゲルが挙げられる。
また、将来、動物由来の生体由来材料の治療的使用が制限される可能性を考慮すると、生体から抽出したものではなく、人工的に合成された生体由来材料模倣材料も好ましい。例えば、各種の人工ペプチド及びその誘導体、人工オリゴペプチド及びその誘導体、人工ポリペプチド及びその誘導体、人工多糖類及びその誘導体等が挙げられる。
有機薄膜の厚さは、例えば高分子化合物の単位面積当たりの乾燥重量が5〜100μg/cm、好ましくは20〜40μg/cmとなる厚さである。このように有機薄膜の厚さが非常に薄いため、本発明により製造される細胞シートを積層すると、細胞層間にネットワークが形成され易いと考えられ、またパラクライン的な細胞層間相互作用を期待することもできる。本発明で得られる支持体保持細胞シートは周縁部の支持体によって細胞シートの収縮等による有機薄膜の寸法変化が抑制されるため、このように有利な効果が期待できる薄い有機薄膜を用いても取り扱いが容易である。また本発明で用いられる、静的水接触角が45°以下である表面を有する基材は有機薄膜との接着力が十分に弱い(ただし、通常の細胞培養条件では自然に剥がれることはない程度の接着力はある)ため、非常に薄い有機薄膜であっても、基材表面からの剥離時に損傷することなく回収することができる。
有機薄膜は所望の形状にパターンニングされたものであってよい。パターンニング方法としては、有機薄膜を作製後に有機薄膜を特定の領域のみ溶解剤によりエッチングする、液状の有機物をインクジェットなどで直接基板上にパターン状に塗布し乾燥させる、予めレジストをパターン状に基板に接着させておきその後有機薄膜を作製しレジストを除去する、穴の開いたマスクを介して基板に液状の有機物を塗布し乾燥させるなどの方法がある。
(支持体)
有機薄膜の周縁部には、有機薄膜の寸法を保持するための枠状の支持体が固定される。支持体の材料は、有機薄膜と結合し得るものであれば特に限定されないが、例えばポリイミド、ポリエステル、ナイロンなどの高分子や、ポリ乳酸などの生分解性高分子である。支持体の厚さは細胞層の横方向の収縮に耐えられる強度を確保できる厚さであれば特に限定されないが、培養される細胞層の厚さよりも薄いことが好ましく、具体的には、1〜20μmが好ましい。また支持体が生分解性であればそのまま移植できより好ましい。
(支持体保持培養膜)
本発明では、上記有機薄膜とその周縁部に固定された上記支持体とを含む全体を支持体保持培養膜と称する。支持体保持培養膜は基材上に剥離可能に設置されており、有機薄膜上での細胞培養後にピンセット等を用いて支持体の部分を摘み、基材から剥離することができる。
(基材)
基材は、静的水接触角が45°以下である表面を有し、この表面上に前記支持体保持培養膜が接触している。このような静的水接触角を有する基材表面は一般に細胞接着阻害性を有する傾向がある。基材表面が細胞接着性であると、有機薄膜を上述のように非常に薄くした場合には培養された細胞が有機薄膜を介して基材表面に接着してしまったり、細胞が有機薄膜を酵素で分解して基材表面に接着してしまい支持体保持細胞シートの基材からの剥離が困難となるが、基材表面が細胞接着阻害性であればこのような問題が無く、有機薄膜を上述のように非常に薄くした場合であっても支持体保持細胞シートを基材から容易に剥離することができる。このような細胞接着阻害性の表面は、炭素酸素結合を有する有機化合物の皮膜を基材の表面上に形成することにより得ることができる。
基材の材料は、その表面に炭素酸素結合を有する有機化合物の皮膜を形成することが可能な材料であることが好ましい。具体的には、金属、ガラス、セラミック、シリコン等の無機材料、エラストマー、プラスチック(例えば、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂)で代表される有機材料を挙げることができる。その形状も限定されず、例えば、平板、平膜、フィルム、多孔質膜等の平坦な形状や、シリンダ、スタンプ、マルチウェルプレート、マイクロ流路等の立体的な形状が挙げられる。フィルムを使用する場合、その厚さは特に制限されないが、通常0.1〜1000μm、好ましくは1〜500μm、より好ましくは10〜200μmである。
細胞接着阻害性表面は、炭素酸素結合を有する有機化合物により形成される、静的水接触角が45°以下である親水性膜により形成することができる。
本発明において炭素酸素結合とは、炭素と酸素との間に形成される結合を意味し、単結合に限らず二重結合であってもよい。炭素酸素結合としてはC−O結合、C(=O)−O結合、C=O結合が挙げられる。
親水性膜の主原料としては、水溶性高分子、水溶性オリゴマー、水溶性有機化合物、界面活性物質、両親媒性物質等の親水性有機化合物が挙げられる。これらが相互に物理的または化学的に架橋し、基材と物理的または化学的に結合することにより親水性膜となる。
具体的な水溶性高分子材料としては、ポリアルキレングリコールおよびその誘導体、ポリアクリル酸およびその誘導体、ポリメタクリル酸およびその誘導体、ポリアクリルアミドおよびその誘導体、ポリビニルアルコールおよびその誘導体、双性イオン型高分子、多糖類、等を挙げることができる。分子形状は、直鎖状、分岐を有するもの、デンドリマー等を挙げることができる。より具体的には、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体、例えば、Pluronic F108、Pluronic F127、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(メタクリロイルオキシエチルフォスフォリルコリン)、メタクリロイルオキシエチルフォスフォリルコリンとアクリルモノマーの共重合体、デキストラン、およびヘパリンが挙げられるがこれらには限定されない。
具体的な水溶性オリゴマー材料や水溶性低分子化合物としては、アルキレングリコールオリゴマーおよびその誘導体、アクリル酸オリゴマーおよびその誘導体、メタクリル酸オリゴマーおよびその誘導体、アクリルアミドオリゴマーおよびその誘導体、酢酸ビニルオリゴマーの鹸化物およびその誘導体、双性イオンモノマーからなるオリゴマーおよびその誘導体、アクリル酸およびその誘導体、メタクリル酸およびその誘導体、アクリルアミドおよびその誘導体、双性イオン化合物、水溶性シランカップリング剤、水溶性チオール化合物等を挙げることができる。より具体的には、エチレングリコールオリゴマー、(N−イソプロピルアクリルアミド)オリゴマー、メタクリロイルオキシエチルフォスフォリルコリンオリゴマー、低分子量デキストラン、低分子量ヘパリン、オリゴエチレングリコールチオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、2−〔メトキシ(ポリエチレンオキシ)〕プロピルトリメトキシシラン、およびトリエチレングリコール−ターミネーティッド−チオールが挙げられるがこれらには限定されない。
親水性膜の平均厚さは、0.8nm〜500μmが好ましく、0.8nm〜100μmがより好ましく、1nm〜10μmがより好ましく、1.5nm〜1μmが最も好ましい。平均厚さが0.8nm以上であれば、タンパク質の吸着や細胞の接着において、基板表面の親水性膜で覆われていない領域の影響を受けにくいため好ましい。また、平均厚さが500μm以下であればコーティングが比較的容易である。
基材表面への親水性膜の形成方法としては、基材へ親水性有機化合物を直接吸着させる方法、基材へ親水性有機化合物を直接コーティングする方法、基材へ親水性有機化合物をコーティングした後に架橋処理を施す方法、基材への密着性を高めるために多段階式に親水性膜を形成させる方法、基材との密着性を高めるために基材上に下地層を形成し、次いで親水性有機化合物をコーティングする方法、基板表面に重合開始点を形成し、次いで親水性ポリマーブラシを重合する方法等を挙げることができる。
上記成膜方法のうち特に好ましい方法としては、多段階式に親水性膜を形成させる方法、並びに、基材との密着性を高めるために基材上に下地層を形成し、次いで親水性有機化合物をコーティングする方法を挙げることができる。これらの方法を用いると、親水性有機化合物の基材へ密着性を高めることが容易だからである。本明細書では「結合層」という用語を用いる。結合層とは、多段階式に親水性有機化合物の皮膜を形成する場合には最表面の親水性膜層と基板との間に存在する層を意味し、基材表面に下地層を設け当該下地層の上に親水性膜層を形成する場合には当該下地層を意味する。結合層は、結合部分(リンカー)を有する材料を含む層であることが好ましい。リンカーとリンカーに結合させる材料の末端の官能基の組み合わせとしては、エポキシ基と水酸基、フタル酸無水物と水酸基、カルボキシル基とN−ハイドロキシスクシイミド、カルボキシル基とカルボジイミド、アミノ基とグルタルアルデヒド等が挙げられる。それぞれの組み合わせにおいて、いずれがリンカーであっても良い。これらの方法においては、親水性材料によるコーティングを行う前に、基板上にリンカーを有する材料により結合層を形成する。結合層における前記材料の密度は結合力を規定する重要な因子である。前記密度は、結合層の表面における水の接触角を指標として簡便に評価することができる。例えば、エポキシ基を末端に有するシランカップリング剤(エポキシシラン)を例にとると、エポキシシランを付加した基板表面の水接触角が典型的には45°以上、望ましくは47°以上であれば、次に酸触媒存在下エチレングリコール系材料等を付加することによって十分な細胞接着阻害性を有する基板を作ることができる。
(生分解性シート)
収縮抑制細胞シートを製造するための生分解性シートは、細胞シートの収縮によっては変形しない強度、すなわち細胞シートの収縮による変形に耐えられる十分な強度(本発明では「十分な強度」と称する)を有し且つ細胞接着性であるものであれば特に限定されない。たとえばポリ乳酸、ポリ(乳酸−酪酸)共重合体、ポリ酪酸、ポリグリコール酸、コラーゲンやその架橋体、ゼラチンやその架橋体、人工ポリペプチドやその架橋体などがある。
(細胞培養担体の製造方法)
本発明の細胞培養担体の製造方法は特に限定されないが、例えば、前記基材の表面上に前記有機薄膜を形成するための溶液を塗布し、次いでこの溶液の塗膜上に支持体を載置し、支持体を載置した状態でゲル化等の有機薄膜の形成工程を完了させることにより製造することができる。
(細胞)
本発明の細胞培養担体を用いて培養する細胞としては、血球系細胞やリンパ系細胞などの浮遊細胞でもよいし接着性細胞でもよいが、本発明は、接着性を有する細胞に対して好適に使用される。そのような細胞としては、例えば、肝臓の実質細胞である肝細胞、クッパー細胞、血管内皮細胞や角膜内皮細胞などの内皮細胞、繊維芽細胞、骨芽細胞、砕骨細胞、歯根膜由来細胞、表皮角化細胞などの表皮細胞、気管上皮細胞、消化管上皮細胞、子宮頸部上皮細胞、角膜上皮細胞などの上皮細胞、乳腺細胞、ペリサイト、平滑筋細胞や心筋細胞などの筋細胞、腎細胞、膵ランゲルハンス島細胞、末梢神経細胞や視神経細胞などの神経細胞、軟骨細胞、骨細胞などが挙げられる。これらの細胞は、組織や器官から直接採取した初代細胞でもよく、あるいは、それらを何代か継代させたものでもよい。さらにこれら細胞は、未分化細胞である胚性幹細胞、多分化能を有する間葉系幹細胞などの多能性幹細胞、単分化能を有する血管内皮前駆細胞などの単能性幹細胞、分化が終了した細胞の何れであっても良い。また、細胞は単一種を培養してもよいし二種以上の細胞を共培養してもよい。
(培養)
これらの細胞を播種した細胞培養担体を培養液中で培養することにより、シート状の細胞層を形成することができる。培養液としては、当技術分野で通常用いられる細胞培養用培地であれば特に制限なく用いることができる。例えば、用いる細胞の種類に応じて、MEM培地、BME培地、DME培地、αMEM培地、IMDM培地、ES培地、DM−160培地、Fisher培地、F12培地、WE培地およびRPMI1640培地等の基礎培地(例えば、朝倉書店発行「日本組織培養学会編 組織培養の技術第三版」581頁に記載されている基礎培地)を用いることができる。さらに、基礎培地に血清(ウシ胎児血清等)、各種増殖因子、抗生物質、アミノ酸などを加えてもよい。また、Gibco無血清培地(インビトロジェン社)等の市販の無血清培地等を用いることができる。最終的に得られる細胞組織体の臨床応用を考えると動物由来成分を含まない培地を使用することが好ましい。
以下に実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明の内容は実施例の内容には限定されない。
支持体保持細胞シートの回収
1−1.静的水接触角が45°以下でかつ細胞接着阻害性である基材の作製
トルエン39.0g、TSL8350(GE東芝シリコーン製)0.8gを混合し、攪拌しながらトリエチルアミンを450μl添加した。そのまま室温で数分間攪拌した後、全量をガラス皿へ移した。ここにUV洗浄済みの10cm角のガラス基板を浸漬し、室温で16時間放置した。その後、ガラス基板をエタノールと水で洗浄し、窒素ブローで乾燥させた。次に50gのテトラエチレングリコール(TEG)を攪拌しながら25μlの濃硫酸を一滴ずつ添加した。そのまま数分間攪拌してから、全量をガラス皿に移した。ここに上記の基板を浸漬し、80℃で20分間反応させた。反応後、基板をよく水洗し、窒素ブローで乾燥させた。これにより、ガラス基板表面にTEGを含む皮膜が形成された。表面の静的水接触角はおよそ30°であった。この基板を25mm×15mmの大きさに切断し、静的水接触角が45°以下でかつ細胞接着阻害性である基材として使用した。基材をオートクレーブ滅菌後、5%ウシ胎児血清入りMEM培地を適量添加し、基材一枚あたり2.0×10個のウシ大動脈血管内皮細胞を播種しインキュベーター内(37℃、5%CO)で24時間培養したところ基材表面には細胞がまったくに接着しなかった。
1−2.コラーゲン薄膜の作製と厚み測定
支持体としてはポリエチレンテレフタラートフィルム(厚み16μm、外寸25mm×15mm、内寸20mm×9mm、帝人デュポンフィルム)を用いた。コラーゲンゲル培養キット(Cellmatrix I−A、新田ゼラチン)を用いて氷上でコラーゲン溶液を最終濃度2.4mg/mlに調製した.このうち40μlを1−1で作製した基材上に加え支持体とともに37℃で1時間ゲル化させ、その後クリーンベンチ内で3時間乾燥させコラーゲン薄膜を作製した。触針式表面形状測定器(Dektak FPD−650、日本真空技術)によりコラーゲン薄膜の厚みを測定した結果770±191nmであった。この様に作製したコラーゲン薄膜はPBSを加え水和させた後も基材に接着していた。
1−3.支持体保持細胞シートの回収
1−2で作製したコラーゲン薄膜に5%ウシ胎児血清入りMEM培地を適量添加した。ここに、基材一枚あたり2.0×10個のウシ大動脈血管内皮細胞を播種した。インキュベーター内で24時間培養したところ,細胞はコラーゲン薄膜に接着・増殖を起こしコンフルエントになっていた。その後、支持体をピンセットで摘み引き上げることで、コラーゲン薄膜上に保持された支持体保持細胞シートを基材から脱着回収することができた。このように作製した支持体保持細胞シートを位相差顕微鏡(IX71、オリンパス)により観測した結果(図6)、支持体保持細胞シートは細胞収縮を起こさず、そのままの形状を維持しつつ支持体によりハンドリングすることが可能であった。コラーゲン薄膜を免疫染色し(1次抗体:rabbit anti type I collagen、2次抗体:alexa fluor 488 goat anti rabbit)細胞の核をhoechstにより染色し、共焦点顕微鏡(Axiovert 200M、zeiss)により2重染色観測した結果(図7)、作製した細胞層がコラーゲン薄膜に保持されていた。
基材単位面積あたりのコラーゲン含有量と基材の種類の比較例
基材単位面積あたりのコラーゲン含有量を5〜150μg/cmの範囲で変化させ、また基材についてポリスチレン(細胞培養ディッシュ、FALCON)、ガラス、実施例1の1−1の方法で化学処理した基材で比較し、それ以外は実施例1と同様に実験を行った。支持体保持細胞シートを基材から脱着させる際にコラーゲン薄膜が破れるなどして細胞の大部分が基材に残ったままになるか、あるいはコラーゲン薄膜が破れず大部分の細胞が細胞シートとして得られるかを判断指標にし、不良品と良品の関係を表1と表2に示した。実験に使用したポリスチレン、ガラス、実施例1の1−1の方法で化学処理した基材の静的水接触はそれぞれ51°、ほぼ0°(測定不能な程度)、30°であった。
支持体保持細胞シートの積層
実施例1で作製した支持体保持細胞シートの上に同様の方法で作製した支持体保持細胞シートをコラーゲン薄膜と細胞が接触するように重ね、支持体保持細胞シートがわずかに培地に漬かる程度に培地を吸い取り、支持体保持細胞シート同士を表面張力で接触させた。4時間重ねた後に多層支持体保持細胞シートが培地に十分漬かるように培地を加えると支持体保持細胞シート同士が接着しており片方の支持体保持細胞シートを動かすと一緒に動いた。同じ操作により4層積層し2日培養した後に、細胞をカルセインにより染色し共焦点顕微鏡により観測した結果(図8)、ウシ大動脈血管内皮細胞がネットワーク状に形体変化していた。また共焦点顕微鏡の断面観察の結果(図9)、細胞に比べて非常に薄いコラーゲン薄膜が細胞層間に存在しているため、細胞層間には非常に薄い蛍光に染まらない領域があった。
支持体保持培養膜を回収後、1層の支持体保持細胞シートに積層
実施例1の1−1、1−2で作製したコラーゲン薄膜を含む細胞培養担体に5%ウシ胎児血清入りMEM培地を適量添加し、水和後に支持体をピンセットで摘み引き上げることで支持体保持培養膜(コラーゲン薄膜)を基材から脱着回収した。この支持体保持培養膜を実施例1で作製した支持体保持細胞シートに積層し2日培養して有機薄膜被覆支持体保持細胞シートを形成した後、位相差顕微鏡により観測した結果(図10)、ウシ大動脈血管内皮細胞がネットワーク状に形体変化していた。
繊維芽細胞の細胞シートの回収と積層
実施例1の1−1、1−2で作製したコラーゲン薄膜を含む細胞培養担体に10%ウシ胎児血清入りDMEM培地を適量添加した。ここに、基材一枚あたり2.0×10個のマウス繊維芽細胞を播種した。インキュベーター内で24時間培養したところ、細胞はコラーゲン薄膜に接着・増殖を起こしコンフルエントになっていた。実施例1の1−3と同様の方法で支持体保持細胞シートを基材から脱着回収することがき、支持体保持細胞シートは細胞収縮を起こさず支持体によるハンドリングが可能であった。実施例3と同様の方法で支持体保持細胞シートを積層し、3層積層し2日培養した後に位相差顕微鏡により観察した結果(図11)、細胞層同士が接着しておりウシ大動脈血管内皮細胞の様なネットワーク状への形体変化は起こさなかった。
血管内皮細胞と繊維芽細胞の細胞シートの共積層
実施例1で作製したウシ大動脈血管内皮細胞の支持体保持細胞シートの上に実施例5で作製したマウス繊維芽細胞の支持体保持細胞シートを細胞とコラーゲン薄膜が接着するように重ね、培地を完全に吸い取った後に支持体保持細胞シートが僅かに培地に漬かる程度に10%ウシ胎児血清入りDMEM培地を添加し、実施例3と同様の方法で積層した。さらに実施例1で作製したウシ大動脈血管内皮細胞の支持体保持細胞シートを同様の方法で積層して血管内皮細胞と繊維芽細胞の支持体保持細胞シートの共積層を行い3日培養した後、位相差顕微鏡により観察した結果(図12)、細胞層同士が接着していた。
支持体の細胞シートからの分離
実施例3で2層積層した支持体保持細胞シートの上に強度のあるコラーゲンシート(厚み:30μm、ニッピ)を実施例4と同じ方法で積層した後に支持体を超音波カッターにより分離した結果、細胞シートは細胞収縮を起こさなかった。
パターンニングしたコラーゲン薄膜を有する、パターンニングされた支持体保持細胞シート
実施例1で作製したコラーゲン薄膜を含む細胞培養担体の一部位にコラゲナーゼを加えると、その部位のコラーゲンが分解され、分解したコラーゲンが基材から脱着することで、パターンニングしたコラーゲン薄膜を含む細胞培養担体を作製した。ここに基材一枚あたり2.0×10個のウシ大動脈血管内皮細胞を播種した。24時間培養することにより、コラーゲンが脱着した部位に細胞は接着せず、コラーゲン薄膜が存在する部位のみ細胞が接着した。支持体をピンセットで摘み引き上げることでパターンニングされた支持体保持細胞シートを基材から脱着回収した(図13)。
支持体保持細胞シートの回収
9−1.静的水接触角が45°以下でかつ細胞接着阻害性である基材の作製
トルエン39.0g、TSL8350(GE東芝シリコーン製)0.8gを混合し、攪拌しながらトリエチルアミンを450μl添加した。そのまま室温で数分間攪拌した後、全量をガラス皿へ移した。ここにUV洗浄済みの10cm角のガラス基板を浸漬し、室温で16時間放置した。その後、ガラス基板をエタノールと水で洗浄し、窒素ブローで乾燥させた。次に50gのテトラエチレングリコール(TEG)を攪拌しながら25μlの濃硫酸を一滴ずつ添加した。そのまま数分間攪拌してから、全量をガラス皿に移した。ここに上記の基板を浸漬し、80℃で20分間反応させた。反応後、基板をよく水洗し、窒素ブローで乾燥させた。これにより、ガラス基板表面にTEGを含む皮膜が形成された。表面の静的水接触角はおよそ30°であった。この基板を25mm×15mmの大きさに切断し、静的水接触角が45°以下でかつ細胞接着阻害性である基材として使用した。基材をオートクレーブ滅菌後、5%ウシ胎児血清入りMEM培地を適量添加し、基材一枚あたり2.0×10個のウシ大動脈血管内皮細胞を播種しインキュベーター内(37℃、5%CO)で24時間培養したところ基材表面には細胞がまったくに接着しなかった。
9−2.コラーゲン薄膜の作製と厚み測定
支持体としてはポリエチレンテレフタラートフィルム(厚み16μm、外寸25mm×15mm、内寸20mm×9mm、帝人デュポンフィルム)を用いた。抗原性を除去したコラーゲンであるアテロコラーゲン(コラーゲン酸性溶液I−PC、高研)をHepesバッファー及びNaHCOにより中性に調整し最終濃度が1.2mg/mlのコラーゲン溶液を作製し、このうち20μlを9−1で作製した基材上に加え支持体とともに37℃で4時間ゲル化させ、その後クリーンベンチ内で3時間乾燥させUV架橋してコラーゲン薄膜を作製した。触針式表面形状測定器(Dektak FPD−650、日本真空技術)によりコラーゲン薄膜の厚みを測定した結果103±9nmであった。この様に作製したコラーゲン薄膜はPBSを加え水和させた後も基材に接着していた。
9−3.支持体保持細胞シートの回収
9−2で作製したコラーゲン薄膜に5%ウシ胎児血清入りMEM培地を適量添加した。ここに、基材一枚あたり2.0×10個のウシ大動脈血管内皮細胞を播種した。インキュベーター内で24時間培養したところ,細胞はコラーゲン薄膜に接着・増殖を起こしコンフルエントになっていた。その後、支持体をピンセットで摘み引き上げることで、コラーゲン薄膜上に保持された支持体保持細胞シートを基材から脱着回収することができた。このように作製した支持体保持細胞シートを位相差顕微鏡(IX71、オリンパス)により観測した結果、支持体保持細胞シートは細胞収縮を起こさず、そのままの形状を維持しつつ支持体によりハンドリングすることが可能であった。
基材単位面積あたりのコラーゲン含有量の比較例
基材単位面積あたりのコラーゲン含有量を4〜23μg/cmの範囲で変化させ、それ以外は実施例9と同様に実験を行った。支持体保持細胞シートを基材から脱着させる際にコラーゲン薄膜が破れるなどして細胞の大部分が基材に残ったままになるか、あるいはコラーゲン薄膜が破れず大部分の細胞が細胞シートとして得られるかを判断指標にし、不良品と良品の関係を表3に示した。
支持体保持細胞シートの積層
実施例9で作製した支持体保持細胞シートの上に同様の方法で作製した支持体保持細胞シートをコラーゲン薄膜と細胞が接触するように重ね、支持体保持細胞シートがわずかに培地に漬かる程度に培地を吸い取り、支持体保持細胞シート同士を表面張力で接触させた。4時間重ねた後に多層支持体保持細胞シートが培地に十分漬かるように培地を加えると支持体保持細胞シート同士が接着しており片方の支持体保持細胞シートを動かすと一緒に動いた。
繊維芽細胞の細胞シートの回収と積層
実施例9の9−1、9−2で作製したコラーゲン薄膜を含む細胞培養担体に10%ウシ胎児血清入りDMEM培地を適量添加した。ここに、基材一枚あたり2.0×10個のマウス繊維芽細胞を播種した。インキュベーター内で24時間培養したところ、細胞はコラーゲン薄膜に接着・増殖を起こしコンフルエントになっていた。実施例9の9−3と同様の方法で支持体保持細胞シートを基材から脱着回収することがき、支持体保持細胞シートは細胞収縮を起こさず支持体によるハンドリングが可能であった。
本発明により、細胞培養担体からの剥離が容易であり、なお且つ剥離後の収縮が抑制された細胞シートが提供される。本発明による細胞シートの剥離は細胞と基材との結合性の変化を利用していないため、細胞種を選ばず適用可能である。また本発明の細胞培養担体において有機薄膜を適宜パターンニングすれば、細胞の分布を容易に制御することができ、厚い組織体を形成することが可能である。また、本発明により得られる有機薄膜と細胞層とからなる細胞シートは、有機薄膜層の部分を特許文献7及び8記載の技術よりも薄くすることができるため、積層時に隣接する細胞シートがネットワークを形成し易いと考えられ、またパラクライン的な細胞層間相互作用を期待することもできる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。

Claims (12)

  1. 細胞接着性を有し且つ生分解性を有する有機薄膜と、該有機薄膜の周縁部に固定された、前記有機薄膜の寸法を保持するための枠状の支持体とを備える支持体保持培養膜、及び、静的水接触角が45°以下である表面を有する基材を備え、前記支持体保持培養膜が前記基材表面上に剥離可能に設置されていることを特徴とする細胞培養担体。
  2. 前記基材表面が細胞接着阻害性である、請求項1記載の細胞培養担体。
  3. 前記有機薄膜が生体由来材料である、請求項1又は2記載の細胞培養担体。
  4. 前記有機薄膜が人工的に合成された生体由来材料模倣材料により形成されている、請求項1又は2記載の細胞培養担体。
  5. 前記有機薄膜が高分子化合物により形成されており、該高分子化合物の単位面積当たりの乾燥重量が5〜100μg/cmである、請求項1〜4のいずれか1項記載の細胞培養担体。
  6. 前記有機薄膜がパターニングされたものである、請求項1〜5のいずれか1項記載の細胞培養担体。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項記載の細胞培養担体の前記有機薄膜上で細胞を培養してシート状の細胞層を形成した後、該細胞層を前記支持体保持培養膜ごと前記基材から剥離して、前記支持体保持培養膜と細胞層とからなる支持体保持細胞シートを得ることを特徴とする、支持体保持細胞シートの製造方法。
  8. 請求項7記載の方法により製造された支持体保持細胞シート。
  9. 請求項8記載の支持体保持細胞シートの、細胞層が形成された表面上に、細胞接着性を有し且つ生分解性を有する有機薄膜を被覆してなる、有機薄膜被覆支持体保持細胞シート。
  10. 請求項7記載の方法により製造された支持体保持細胞シートを複数積層してなる多層支持体保持細胞シート。
  11. 請求項10記載の多層支持体保持細胞シートの、細胞層が形成された表面上に、細胞接着性を有し且つ生分解性を有する有機薄膜を被覆してなる、有機薄膜被覆多層支持体保持細胞シート。
  12. 請求項8記載の支持体保持細胞シート、請求項9記載の有機薄膜被覆支持体保持細胞シート、請求項10記載の多層支持体保持細胞シート、又は請求項11記載の有機薄膜被覆多層支持体保持細胞シートと、十分な強度を有し且つ細胞接着性である生分解性シートとを積層して接着させ、その後に前記支持体を取り除くことを特徴とする、収縮抑制細胞シートの製造方法。
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