以下、図1〜図14に基づいて本発明を説明する。
図1は、実施例1による多層セラミック基板1を示す概略断面図である。図2は、図1の一部を拡大して示す概略断面図である。
多層セラミック基板1は、積層された複数の基材層2と特定の基材層の間に配置された層間拘束層3〜5とをもって構成された積層体6を備えている。実施例1では、層間拘束層3,4が互いに接するように配置されている。また、すべての隣り合う基材層2の間には、層間拘束層3,4または層間拘束層5が配置されている。層間拘束層3〜5は、基材層2に比べ、より薄くされる。
また、多層セラミック基板1は、いくつかの内蔵素子7を備えている。内蔵素子7は、典型的には、積層セラミックコンデンサのようなチップ状の積層セラミック電子部品であるが、その他のコンデンサ素子であっても、あるいは、インダクタ素子、抵抗素子等であってもよい。内蔵素子7は、図2に示すように、セラミック素体30と端子電極8を備えている。たとえば、端子電極8は、セラミック素体30の側面に引き出された内部電極と接続されるように、セラミック素体30の側面に断面コの字状に形成されている。また、内蔵素子7の端子電極は、図3に示すように、セラミック素体30の主面に引き出された内部電極と接続されるように、セラミック素体30の主面に形成される端子電極18であってもよい。
また、図1に示すように、多層セラミック基板1は、積層体6の内部に内部導体を備えている。多層セラミック基板1は、内部導体として、各層の表面に設けられた面内導体9と各層を貫通するように設けられた層間接続導体10を備えている。面内導体9は、図2によく示されているように、内蔵素子7の端子電極8に電気的に接続される部分を含んでいる。
なお、面内導体9は、内蔵素子7のセラミック素体30と端子電極8との界面を覆うように形成されている。これは、内蔵素子7にクラックが発生するのを抑制するためである。具体的には、次の通りである。内蔵素子7のセラミック素体30と端子電極8との界面は、内蔵素子7に端子電極8を形成した後に残留応力が最も集中しやすい部分である。そのため、内蔵素子7を積層体6の内部に配置するときに、面内導体9が内蔵素子7のセラミック素体30と端子電極8との界面に沿って形成されている場合、内蔵素子7のセラミック素体30と端子電極8との界面には応力が集中するため内蔵素子7にクラックが発生しやすい。そこで、内蔵素子7のセラミック素体30と端子電極8との界面を覆うように面内導体9が形成されていると、面内導体9が内蔵素子7の受ける応力を緩和し、内蔵素子7にクラックが発生するのを抑制することができるのである。
また、図1に示すように、多層セラミック基板1は、積層体6の一方および他方主面11,12にそれぞれ形成された外部導体13,14を備えている。層間接続導体10は、特定の面内導体9と電気的に接続され、さらに外部導体13,14と電気的に接続されるものもある。
積層体6の一方主面11上には、図示しないが、いくつかの表面実装部品が搭載されてもよい。外部導体13は、多層セラミック基板1を表面実装部品に電気的に接続するために用いられる。他方、積層体6の他方主面12上に形成された外部導体14は、この多層セラミック基板1を図示しないマザーボード上に実装するとき、多層セラミック基板1をマザーボードに電気的に接続するために用いられる。
後述する製造方法の説明から明らかになるように、基材層2はガラス材料と第1のセラミック材料との焼結体からなる。ガラス材料としては、当初から基材層用セラミックグリーン層がガラス粉末を含んでいてもよいし、焼成によってガラス材料を析出するものを含んでいてもよい。他方、層間拘束層3〜5は、上記基材層2の焼結温度では実質的に焼結しない第2のセラミック材料を含むとともに、基材層2に含まれていたガラス材料の一部が焼成時に層間拘束層3〜5へ浸透することによって、第2のセラミック材料が互いに固着された状態にある。
また、多層セラミック基板1では、基材層2と内蔵素子7の間に層間拘束層3,4が設けられ、層間拘束層3,4は内蔵素子7の全周囲を覆うように設けられている。すなわち、図2に示されているように、内蔵素子7を挟むように位置する2つの層間拘束層3,4は、内蔵素子7の側方において空隙15を形成しながらも、内蔵素子7の側方において互いに一体化されている。
このように、基材層2と機能素子7との間に、機能素子7の全周囲を覆うように層間拘束層3,4を設けることによって、焼成工程において内蔵素子7に及ぼされる圧縮応力が層間拘束層3,4によって有利に緩和され、内蔵素子7にクラックが発生するのを効果的に抑制することができる。具体的には、層間拘束層3,4は焼成工程では実質的に焼結しないセラミック材料を含んでいるため、層間拘束層3,4は焼成工程において平面方向のみならず積層方向にも実質的に収縮しない。そのため、層間拘束層3,4に全周囲を覆われた内蔵素子7は、基材層2の積層方向の収縮により生じる圧縮応力の影響を実質的に受けずに焼成工程を終えることができるのである。
なお、図1においては、すべての内蔵素子7の側方に空隙15が形成されているが、空隙15は内蔵素子7の側方に形成されていなくてもよい。このように、内蔵素子7の側方に空隙15が形成されていないと、積層体6にクラックが発生するのを抑制することができる点で好ましい。なぜなら、空隙15が形成されていないと内蔵素子7の側方が焼成時に大きく収縮することはないため、面内導体9が内蔵素子7の側方で一体化される部分に応力が集中するのを抑制できるからである。
また、図2に示されているように、層間拘束層3,4と内蔵素子7のセラミック素体30との間に空隙25が形成されている。空隙25は、後述する製造方法の説明から明らかになるように、焼成時に空隙形成材層が焼失して形成される。
このように、層間拘束層3,4と内蔵素子7のセラミック素体30との間に空隙25が形成されることで、焼成工程において基材層2から層間拘束層3,4に浸透したガラス材料とセラミック素体30を構成するセラミック材料との接触が避けられる。そのため、その後の冷却工程において内蔵素子7のセラミック素体30が比較的大きく収縮しても、内蔵素子7はセラミック素体30よりも収縮しない層間拘束層3,4のガラス材料に引っ張られることはない。その結果、内蔵素子7にクラックが発生することを効果的に抑制することができる。
なお、空隙25は、層間拘束層3,4と内蔵素子7のセラミック素体との間の少なくとも一部に形成されていれば、層間拘束層3,4のガラス材料とセラミック素体30のセラミック材料との接触を回避し、内蔵素子7にクラックが発生するのを抑制できる。ただし、層間拘束層3,4のガラス材料とセラミック素体30のセラミック材料との接触をより確実に回避し、内蔵素子7にクラックが発生するのをより確実に抑制するためには、空隙25はセラミック素体30の全周に形成されているのが好ましい。
また、図2に示されているように、内蔵素子7の端子電極8に電気的に接続されるべき層間接続導体10は、内蔵素子7の端子電極8に直接接続されるのではなく、内蔵素子7の端子電極8に電気的に接続された面内導体9の、内蔵素子7の側方にまで引き出された部分に接続されるように設けられている。
これは、層間接続導体10を内蔵素子7の端子電極8に直接接続すると、内蔵素子7にクラックが発生する場合があるからである。すなわち、焼成工程において、層間接続導体10を構成する材料の収縮率が多層セラミック基板1を構成するセラミック材料の収縮率よりも小さい場合、焼成時に、積層工程の前に既に焼成済の内蔵素子7の端子電極8に向かって層間接続導体10が突出するように挙動するため、内蔵素子7にクラックが発生する虞があるのである。
一方で、一般的に、面内導体9は層間接続導体10と同じ材料からなり、同時に形成されるものである。そのため、層間接続導体10が内蔵素子7の側方にまで引き出された面内導体9に接続されるように設けられていると、仮に層間接続導体10が面内導体9に向かって突出するように挙動したとしても、面内導体9と一体化するため、内蔵素子7のみならず、積層体6にクラックが発生することを抑制することができる。
なお、面内導体9に厚みをもたせると、層間接続導体10が突出するように挙動したとしても、内蔵素子7のクラックが発生するのを抑制することができる。そのため、層間接続導体10は面内導体9の内蔵素子7の側方に引き出された部分に接続する必要はなく、内蔵素子7の端子電極8に接している部分に接続してもよい。
また、多層セラミック基板1は、内蔵素子7を挟むように面内導体9が設けられている。このように、面内導体9が内蔵素子7を積層方向に挟むように設けられる部分を含んでいると、面内導体9と内蔵素子7の端子電極8との接触面積が大きくなるため、両者の接続信頼性が向上する。また、面内導体9と内蔵素子7の接触面積が大きくなっても、内蔵素子7および積層体6でのクラックの発生をより確実に抑制することができる。なぜなら、面内導体9ではガラス材料が浸透しにくいため、層間拘束層3,4と内蔵素子7の端子電極8の間に面内導体9が形成されていると、基材層2から層間拘束層3,4に浸透したガラス材料と内蔵素子7の端子電極8とが接するのを回避できるからである。そのため、その後の冷却工程において内蔵素子7の端子電極8が比較的大きく収縮しても、内蔵素子7は端子電極8よりも収縮しない層間拘束層3,4のガラス材料に引っ張られることはない。その結果、内蔵素子7にクラックが発生することを効果的に抑制することができる。
なお、内蔵素子7の側方にまで引き出された面内導体9は、必ずしも内蔵素子7を挟むように設けられている必要はなく、内蔵素子7の一方主面内にのみ電気的に接続されるように形成されていてもよい。面内導体9が内蔵素子7の一方主面のみに形成されている場合であっても、端子電極8と層間接続導体10とを電気的に接続させることができるからである。
次に、図4〜図7に基づいて、多層セラミック基板1の製造方法を説明する。
多層セラミック基板1は、図4に示すような未焼成の積層体6aを焼成することによって得られ、未焼成の積層体6aは、図5および図6に示すような工程を経て作製される。
図4に示すように、未焼成の積層体6aは、図1に示した焼成後の積層体6に備える要素に対応する要素を備えている。具体的には、未焼成の積層体6aは、基材層2となるべき基材層用セラミックグリーン層2aと、層間拘束層3〜5となるべき層間拘束層用セラミックグリーン層3a〜5aと、内部導体たる面内導体9となるべき未焼成の面内導体9aと、内部導体たる層間接続導体10となるべき未焼成の層間接続導体10aと、外部導体13,14となるべき未焼成の外部導体13a,14aとを備えている。また、未焼成の積層体6aは、内蔵素子7を備えている。上述したように、内蔵素子7は、セラミック素体30と端子電極8を備えている。
また、未焼成の積層体6aは、図1に示した空隙25となるべき、層間拘束層用セラミックグリーン層3a,4aと内蔵素子7のセラミック素体30との接する箇所に空隙形成材20を備えている。
また、図4に示すように、未焼成の積層体6aの少なくとも一方主面、好ましくは両主面上に、未焼成の状態にある外側拘束層用セラミックグリーン層19aが積層される。
このような未焼成の積層体6aおよび外側拘束層用セラミックグリーン層19aを作製するためには、まず、内蔵素子7、基材層用セラミックグリーン層2a、層間拘束層用セラミックグリーン層3a〜5aおよび外側拘束層用セラミックグリーン層19aをそれぞれ準備する。
まず、内蔵素子7の作製方法を説明する。
内蔵素子7は、たとえば積層セラミックコンデンサであれば、誘電体セラミック材料を含み、表面に面内導体を形成したセラミックグリーン層を積層し、焼成した後、端部に露出した面内導体に電気的に接続される断面コの字状の一対の端子電極を積層体の両端部に形成し、焼き付けることによって予め作製しておく。なお、内蔵素子7は、その他のコンデンサ素子であっても、あるいは、インダクタ素子、抵抗素子等であってもよい。
次に、基材層用セラミックグリーン層2aの作製方法を説明する。
基材層用セラミックグリーン層2aは、ガラス材料と第1のセラミック材料とを含んでいる。基材層用セラミックグリーン層2aに含まれるガラス材料としては、たとえば、ホウケイ酸系ガラスが用いられる。なお、ガラス材料は、基材層用セラミックグリーン層2aに当初から含まれていなくても、焼成によってガラス材料を析出するものが含まれていればよい。また、第1のセラミック材料としては、たとえば、アルミナが用いられる。
また、基材層用セラミックグリーン層2aは、1050℃以下の温度で焼結する低温焼結セラミック材料を主成分とするセラミックグリーン層を用いることが好ましい。ここで、低温焼結セラミック材料とは、1050℃以下の温度で焼結可能であって、比抵抗の小さな銀や銅などと同時焼成が可能なセラミック材料である。低温焼結セラミックとしては、具体的には、アルミナやフォルステライトなどのセラミック粉末にホウ珪酸ガラスを混合してなるガラス複合系低温焼結セラミック材料、ZnO−MgO−Al2O3−SiO2系の結晶化ガラスを用いた結晶化ガラス系低温焼結セラミック材料、Al2O3−CaO−SiO2−MgO−B2O3系のセラミック粉末を用いた非ガラス系低温焼結セラミック材料などが挙げられる。
また、一例として、基材層用セラミックグリーン層2aは、平均粒径約4μmのホウケイ酸系ガラス粉末60重量部と、平均粒径0.35μmのアルミナ粉末40重量部と、分散媒としての水50重量部と、バインダとしてのポリビニルアルコール20重量部と、分散剤としてのポリカルボン酸系分散剤1重量部とを混合してスラリーとし、このスラリーから気泡を除去した後、ドクターブレード法によってスラリーをシート状に成形し、乾燥することによって得られる。基材層用セラミックグリーン層2aの厚みはたとえば20〜200μm程度とされる。
なお、基材層用セラミックグリーン層2aには、必要に応じて、層間接続導体用孔を形成し、内部導体として未焼成の層間接続導体10aと未焼成の面内導体9aを、外部導体として未焼成の外部導体13a,14aを形成する。
次に、層間拘束層用セラミックグリーン層3a〜5aの作製方法を説明する。
層間拘束層用セラミックグリーン層3a〜5aは、第1のセラミック材料の焼結温度では実質的に焼結しない第2のセラミック材料を含んでいる。なお、層間拘束層用セラミックグリーン層3a〜5aは、特に要求されない限り、互いに同じ組成および同じ厚みを有している。層間拘束層用セラミックグリーン層3a〜5aには、拘束力に影響を与えない範囲で、ガラス材料または焼成によってガラス材料を析出するものを含んでいてもよい。
層間拘束層用セラミックグリーン層3a〜5aに含まれる第2のセラミック材料としては、たとえば、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、酸化チタンのいずれかが用いられる。
また、層間拘束層用セラミックグリーン層3a〜5aは、一例として、平均粒径0.4μmのアルミナ粉末100重量部と、分散媒としての水50重量部と、バインダとしてのポリビニルアルコール20重量部と、分散剤としてのポリカルボン酸系分散剤1重量部とを混合してスラリーとし、このスラリーから気泡を除去した後、基材層用セラミックグリーン層2aの一方主面上に、直接、スクリーン印刷法等によって形成する。層間拘束層用セラミックグリーン層3a〜5aを基材層用セラミックグリーン層2aの一方主面上に直接形成するのは、層間拘束層用セラミックグリーン層3a〜5aの厚みが基材層用セラミックグリーン層2aに比べて薄いからである。層間拘束層用セラミックグリーン層3a〜5aの厚みはたとえば1〜10μm程度とされる。
なお、層間拘束層用セラミックグリーン層3a〜5aには、必要に応じて、層間接続導体用孔を形成し、内部導体として未焼成の層間接続導体10aと未焼成の面内導体9aを形成する。
次に、外側拘束層用セラミックグリーン層19aの作製方法を説明する。
外側拘束層用セラミックグリーン層19aは、基材層用セラミックグリーン層2aに含まれる第1のセラミック材料の焼結温度では焼結しない第3のセラミック材料を含む組成とされる。通常、外側拘束層用セラミックグリーン層19aは、層間拘束層用セラミックグリーン層3a〜5aと同じ組成とされ、第3のセラミック材料は第2のセラミック材料と同様のものを用いる。
また、外側拘束層用セラミックグリーン層19aは、一例として、平均粒径0.4μmのアルミナ粉末100重量部と、分散媒としての水50重量部と、バインダとしてのポリビニルアルコール20重量部と、分散剤としてのポリカルボン酸系分散剤1重量部とを混合してスラリーとし、このスラリーから気泡を除去した後、ドクターブレード法によってスラリーをシート状に形成し、乾燥することによって得られる。外側拘束層用セラミックグリーン層3a〜5aの厚みはたとえば20〜200μm程度とされ、層間拘束層用セラミックグリーン層3a〜5aに比べて厚く形成される。このように外側拘束層用セラミックグリーン層19aを厚く形成するのは、未焼成の積層体6aの収縮や反り等を抑制するためである。
次に、基材層用セラミックグリーン層2aと、層間拘束層用セラミックグリーン層3aと、内蔵素子7と、層間拘束層用セラミックグリーン層4aと、基材層用セラミックグリーン層2aとを、この順に積み重ねて未焼成の積層体6aを作製する。
まず、上述のように、基材層用セラミックグリーン層2aの一方主面上に、直接、層間拘束層用セラミックグリーン層3aを形成することによって、図5に示すような、第1の複合セラミックグリーン層16を作製する。また、同様に、基材層用セラミックグリーン層2aの一方主面上に、直接、層間拘束層用セラミックグリーン層4aを形成することによって、図5に示すような、第2の複合セラミックグリーン層17を作製する。
図5に示すように、第1の複合セラミックグリーン層16と第2の複合セラミックグリーン層17には、必要に応じて、層間接続導体用孔が形成され、内部導体として未焼成の面内導体9aと未焼成の層間接続導体10aが形成される。
実施例1では、未焼成の面内導体9aは、後述する積層時に、内蔵素子7の側方にまで引き出されるように、内蔵素子7の端子電極8よりも長く形成する。また、未焼成の層間接続導体10aは、後述する積層後に、未焼成の面内導体9aの内蔵素子7の側方にまで引き出された部分に電気的に接続されるように、内蔵素子7の端子電極8の部分ではなく、内蔵素子7の側方に形成する。
なぜなら、層間接続導体10が内蔵素子7の側方にまで引き出された部分において面内導体9と接続されるように設けられていると、焼成時における層間接続導体10の突出による内蔵素子7および積層体6のクラック発生を回避することができるからである。
また、未焼成の面内導体9aは、内蔵素子7を挟むように位置する2つの層間拘束層用セラミックグリーン層3a,4aの各々の互いに対向する各主面上にそれぞれ形成している。
なぜなら、面内導体にはガラス材料が浸透しにくいため、層間拘束層用セラミックグリーン層3a,4aと内蔵素子7の端子電極8の間に未焼成の面内導体9aが形成されていると、基材層用セラミックグリーン層2aから層間拘束層用セラミックグリーン層3a,4aに浸透したガラス材料と内蔵素子7の端子電極8とが接するのを抑制できるからである。そのため、焼成工程および冷却工程において大きく膨張および収縮する層間拘束層3,4のガラス材料と、既に焼結しているためほとんど膨張および収縮しない端子電極8の電極材料との熱膨張係数差の影響を内蔵素子7が受けることはなくなる。その結果、内蔵素子7にクラックが発生することを効果的に抑制することができる。
なお、層間拘束層用セラミックグリーン層3a〜5aは、ドクターブレード法によって上述したスラリーをシート状に成形し、乾燥することによって作製してもよい。
この場合、第1の複合セラミックグリーン層16は、基材層用セラミックグリーン層2a上に層間拘束層用セラミックグリーン層3aを積み重ねることによって作製され、第2の複合セラミックグリーン層17は、基材層用セラミックグリーン層2a上に層間拘束層用セラミックグリーン層4aを積み重ねることによって作製される。
また、この場合、未焼成の面内導体9aと未焼成の層間接続導体10aは、必要に応じて、第1の複合セラミックグリーン層16と第2の複合セラミックグリーン層17を作製する前に、基材層用セラミックグリーン層2aと層間拘束層用セラミックグリーン層3a〜5aに形成しておいてもよい。
次に、層間拘束層用セラミックグリーン層3a,4a上の内蔵素子7のセラミック素体30と接する箇所に、空隙形成材からなる空隙形成材層20をスクリーン印刷法等によってそれぞれ形成する。
空隙形成材としては、焼成後には焼失して層間拘束層用セラミックグリーン層3a,4aと内蔵素子7のセラミック素体30との間に空隙を形成する材料が用いられる。たとえば、カーボンや樹脂等の焼失材料を空隙形成材として用いることができる。
なお、カーボンの焼失時期は、焼成雰囲気を変更することによってコントロールすることができる。そのため、面内導体9の短絡を抑制し、絶縁信頼性を高めるためには、空隙形成材としてカーボンを用いることが好ましい。一般的に、短絡の原因となるマイグレーションは、酸素濃度が高い方が起こりやすい。カーボンは焼成時に酸素と結合し、二酸化炭素を発生させるため、空隙形成材としてカーボンを用いると面内導体9の周囲の酸素濃度を下げることができる。そのため、空隙形成材としてカーボンを用いると面内導体9の短絡を抑制することができるのである。
また、空隙形成材層20は、内蔵素子7の主面上に形成してもよい。ただし、空隙形成材層20は、層間拘束層用セラミックグリーン層3a,4a上に形成する方が、未焼成の面内導体9と同様の印刷工程で形成することができ、空隙形成材層20のための特別な工程や設備を必要としない点で好ましい。
なお、空隙形成材層20の厚みは、層間拘束層用セラミックグリーン層3a,4aの厚みや後述する焼成条件によって異なるが、焼成後に層間拘束層と内蔵素子7のセラミック素体30との間に空隙25が残存する程度の厚みが必要である。
次に、図5に示すように、層間拘束層用セラミックグリーン層3a上に内蔵素子7が配置される。より正確には、内蔵素子7は、その端子電極8が未焼成の面内導体9a上に、また、そのセラミック素体30が空隙形成材層20上に載るように配置される。
そして、図5に示すように、層間拘束層用セラミックグリーン層4aが内蔵素子7に接するように、より正確には、内蔵素子7の端子電極8が未焼成の面内導体9に、また、そのセラミック素体30が空隙形成材層20に接するように、第1の複合セラミックグリーン層16と第2の複合セラミックグリーン層17とが互いに近接され、かつ、互いに圧着される。
その結果、図6に示すように、第1の複合セラミックグリーン層16と第2の複合セラミックグリーン層17とが積み重ねられた状態が得られる。この状態において、層間拘束層用セラミックグリーン層3aと層間拘束層用セラミックグリーン層4aとは、内蔵素子7の周囲に空隙15を残しつつも、内蔵素子7の側方において、未焼成の面内導体9aを挟んで一体化される。また、未焼成の層間接続導体10aは、内蔵素子7の端子電極8に電気的に接続される未焼成の面内導体9aの、内蔵素子7の側方にまで引き出された部分に接続される。
図7は、図6に示したA―A断面を示した概略断面図である。内蔵素子7は、図示しない側方の空隙15を除き、未焼成の面内導体9aと空隙形成材層20によって覆われる。ここで、内蔵素子7は、両主面のみならず側面においても面内導体9と空隙形成材層20に覆われているため、層間拘束層用セラミックグリーン層3a,4aと直接接することはない。このように、層間拘束層3,4のガラス材料とセラミック素体30のセラミック材料との接触をより確実に回避し、内蔵素子7にクラックが発生するのをより確実に抑制するためには、空隙形成材層20がセラミック素体30の全周に形成されるのが好ましい。
なお、空隙形成材層20は、層間拘束層3,4と内蔵素子7のセラミック素体30との接する箇所の少なくとも一部に形成されていればよい。層間拘束層3,4のガラス材料とセラミック素体30のセラミック材料との接触を回避し、内蔵素子7にクラックが発生するのを抑制できるからである。
以上、未焼成の積層体6aの特定的な部分でのセラミックグリーン層の積み重ね工程について詳細に説明したが、この積み重ね工程においては、未焼成の積層体6aの他の部分でのセラミックグリーン層の積み重ねも同時に実施される。
次に、上述したとおり、図4に示すように、未焼成の積層体6aの少なくとも一方主面、好ましくは両主面上に、未焼成の状態にある外側拘束層19を積層する工程が実施される。
次に、上述のように外側拘束層19を形成した未焼成の積層体6aが焼成される。焼成条件は、基材層用セラミックグリーン層2aに含まれる第1のセラミック材料を焼結させるとともに、基材層用セラミックグリーン層2aからガラス材料の一部を層間拘束層用セラミックグリーン層3a〜5aへ浸透させることによって、層間拘束層用セラミックグリーン層3a〜5aに含まれる第2のセラミック材料を、実質的に焼結させずに互いに固着させるように選ばれる。具体的には、セラミック材料として低温焼結セラミック材料を用いた場合には、800℃〜1050℃で焼成するのが好ましい。
また、焼成条件は、空隙形成材層20が焼失され、焼成後に層間拘束層用セラミックグリーン層3a,4aと内蔵素子のセラミック素体30との間に空隙25が形成されるように選ばれる。なお、上述のように、層間拘束層用セラミックグリーン層3a,4aは、焼成後に、第2のセラミック粉末が互いに固着された状態にあり、層間拘束層3,4となる。
たとえば、空隙形成材としてカーボンを用い、空気雰囲気中で焼成した場合には、約600℃から約650℃で空隙形成材層が完全に焼失する。基材層用セラミックグリーン層2aの積層方向の収縮は約700℃から始まるため、この場合、基材層用セラミックグリーン層2aが積層方向に収縮し始める前に空隙25が形成されることとなる。そうすると、基材層用セラミックグリーン層2aの積層方向への収縮に伴い、層間拘束層用セラミックグリーン層3a,4aは空隙25の部分に押し出され、空隙25は徐々に狭くなる。この場合、内蔵素子7のセラミック素体30と層間拘束層用セラミックグリーン層3a,4aの接触による内蔵素子7のクラックを回避するためには、焼成後にも空隙25が残存する程度の厚みをもって空隙形成材層20を形成しておく必要がある。
たとえば、層間拘束層用セラミックグリーン層3a,4aの厚みをそれぞれ3.5μmとし、約900℃で焼成した場合、空隙形成材層25を形成しない場合は100%の確立で内蔵素子7にクラックが発生したのに対し、同じ条件で、層間拘束層用セラミックグリーン層3a,4aと内蔵素子7のセラミック素体30との接する箇所に13μmの空隙形成材層25を形成した場合には内蔵素子7にクラックは発生しなかった。これは、基材層用セラミックグリーン層2aのガラス材料が層間拘束層用セラミックグリーン層3a,4aと内蔵素子7のセラミック素体30との接する箇所に浸透しているけれども、空隙が形成されるために接触が回避されたからだと考えられる。そのため、焼成温度を約900℃よりも高くする場合には、約900℃の場合に比べて、空隙形成材層25の厚みをさらに厚くすることが必要になる。
また、空隙形成材としてカーボンを用いた場合には、焼成条件を調整することによってカーボンが焼失する温度をコントロールすることができる。たとえば、カーボンは低酸素雰囲気では焼失しない。
ここで、低酸素雰囲気とは、大気などに比べて酸素分圧が相当に低い雰囲気を指すものであり、具体的には、常圧下で酸素分圧が、10-2atm程度以下(すなわち、雰囲気中の酸素濃度が1重量%程度以下)であるような雰囲気が例示される。この低酸素雰囲気のより好ましい条件としては、例えば、常圧下で酸素分圧が、10-3〜10-6atm(酸素濃度0.1〜0.0001重量%)というような条件が例示される。
また、カーボンを焼失させる焼成条件としては、たとえば、常圧下で酸素分圧が10-1atm以上(すなわち、雰囲気中の酸素濃度が10重量%以上)であるような雰囲気が挙げられる。
そこで、焼成条件として、基材層用セラミックグリーン層2aが焼結する時点では低酸素雰囲気とし、その後、酸素濃度を上昇させることによって、空隙形成材層20を焼失させることができる。これにより、層間拘束層用セラミックグリーン層3a,4aのセラミック材料が互いに固着された後に、空隙25を形成させることができるため、層間拘束層3,4と内蔵素子7のセラミック素体30との間に確実に空隙25を形成させることができる。この場合、層間拘束層用セラミックグリーン層3a,4aの厚みは、上述した空気雰囲気中のみで焼成する場合に比べて、薄くてもよい。
また、たとえば、空隙形成材として樹脂を用いた場合には、空気雰囲気中約900℃で焼成することで空隙形成材層を完全に焼失させることができる。
上述の焼成工程において、外側拘束層用セラミックグリーン層19aに含まれる第3のセラミック材料は実質的に焼結しない。そのため、外側拘束層用セラミックグリーン層19aは、焼成工程の後、外側拘束層となり除去される。他方、層間拘束層用セラミックグリーン層3a〜5aは、第2のセラミック材料が互いに固着した状態にある層間拘束層3〜5となり、焼成後の積層体6に残される。
上述した焼成工程において、層間拘束層3〜5および外側拘束層は各々が接する基材層2に対して収縮抑制作用を及ぼし、得られた積層体6の寸法精度を高めることができる。
また、基材層2と内蔵素子7との間に、内蔵素子7の全周囲を覆うように層間拘束層3,4を設けることによって、焼成工程において内蔵素子7に及ぼされる圧縮応力が層間拘束層3,4によって有利に緩和され、内蔵素子7にクラックが発生するのを効果的に抑制することができる。具体的には、層間拘束層3,4は焼成工程では実質的に焼結しないセラミック材料を含んでいるため、層間拘束層3,4は焼成工程において平面方向のみならず積層方向にも実質的に収縮しない。そのため、層間拘束層3,4に全周囲を覆われた内蔵素子7は、基材層2の積層方向の収縮による圧縮応力の影響を実質的に受けずに焼成工程を終えることができるのである。
また、層間拘束層3,4と内蔵素子7のセラミック素体30との接する箇所に空隙25が形成されることで、焼成工程において基材層用セラミックグリーン層2aから層間拘束層用セラミックグリーン層3a,4aに浸透したガラス材料とセラミック素体30を構成するセラミック材料との接触が避けられる。そのため、その後の冷却工程において内蔵素子7のセラミック素体30が比較的大きく収縮しても、内蔵素子7はセラミック素体30よりも収縮しない層間拘束層用セラミックグリーン層3a,4aのガラス材料に引っ張られることはない。その結果、内蔵素子7にクラックが発生することを効果的に抑制することができる。