軽量で剛性が高く、かつ、せん断、曲げ、深絞り、張り出しなどの加工性に優れ、加工後の耐熱形状安定性がある鋼板は、CO2排出量削減から燃費の改善が要求される自動車部材や、家電の筐体、家具、OA機器部品で広く求められている。これらの解決策として樹脂シートや発泡性樹脂シートを鋼板間に積層した鋼板が提案されているが、上記のすべての性能を満足できるまでに至っていない。
具体的には、特許文献1〜5には、金属板間に、PP(ポリプロピレン)シートを積層する製法および金属板が開示されており、特許文献6には、鋼板間に、変性PP接着層を介してPA(ポリアミド)シートを積層した鋼板が開示されており、特許文献7には、鋼板間に、無機フィラー入りPPを積層した鋼板が開示されており、特許文献8には、鋼板間に、PET(ポリエステル)シートを積層した鋼板が開示されており、特許文献9には、金属板間に、熱硬化性樹脂を接着剤として含浸させた熱可塑性樹脂のポリマー繊維の布地シートを積層した金属板が開示されており、特許文献10には、降伏強度や厚みの異なる鋼板間に樹脂シートを積層した鋼板が開示されており、特許文献11には、鋼板間に、引っ張り弾性率が高い樹脂シートを積層した鋼板が開示されている。
以上のような鋼板の間に樹脂シートを積層した積層鋼板では、鋼板の厚みを鋼板間に積層した樹脂シートにて増加できるため、前記積層鋼板の曲げモーメントを大きくして高剛性が実現できる。かつ、樹脂シートにて厚みを稼げるので、同一剛性を有する鋼板やAl板に比較して、軽量化が可能になる。
しかし、これら従来の積層鋼板を切断すると、切断時の樹脂シートの変形に伴って、樹脂シートを積層している鋼板の変形により破断面の不良が生じる場合があった。また、従来の積層鋼板を曲げ加工する時には、樹脂シートの剛性が大きいため曲げ加工部の鋼板が座屈する場合があった。さらに、PPシートを積層した場合、PP樹脂の耐熱が不十分で、加熱加工する用途では、端面から樹脂が流出するという課題があった。また、PETやナイロンなどの耐熱の高い樹脂を使用しても、樹脂シートにするとクリープ変形力が大きかったり、高温においては接着層の耐久性が不十分で形状が安定しなかったりという課題あった。
一方、特許文献12には、ステンレス板間に、接着用樹脂フィルムを介して発泡ポリオレフィンシートを積層したステンレス鋼板が開示されており、特許文献13には、金属板間に、発泡する際に生じる面内方向の発泡力を抑制するシート状物を介して、ポリオレフィン系樹脂発泡体を積層した金属板が開示されており、特許文献14には、金属シート間に、無機フィラーを添加した発泡ポリオレフィンシートを積層した金属シートが開示されている。
当該発明の積層鋼板では、積層する樹脂シートに発泡樹脂シートを使用しているので、発泡してない樹脂シートを使用した積層金属板(特許文献1〜11)よりも、さらなる軽量化が可能である。さらに、鋼板を切断する時にも、発泡樹脂では発泡していない樹脂に比べて変形抵抗力が小さいので、破断面不良が生じにくい。
しかしながら、特許文献12〜14の積層鋼板では、ポリオレフィン発泡シートを積層しているため高温での耐久性が不十分で、加工品を加熱すると形状が不安定であり、オンライン塗装するような部材には適用が困難であった。
特許文献15、16には、金属板や箔の間に、接着層を使用しないで、結晶性ポリエステル系樹脂発泡体シートを積層する積層鋼板の製造法が開示されており、特許文献17、18には、金属板間に、接着層を使用しないで、熱可塑性樹脂の発泡シートを加熱プレスして積層する積層鋼板の別の製造法が開示されており、特許文献19には、鋼板上に複数発泡性樹脂層を施し、前記発泡性樹脂層面と鋼板とを接着樹脂フィルムで接合する積層鋼板の製造方法が開示されている。
前記特許文献15〜18の発明で製造した積層鋼板は、接着層を使用しておらず、耐熱性の高い発泡シートを積層するため、平板パネルでの高温耐久性が改善される。また、特許文献19の発明で製造した積層鋼板は、接合むらがなく、効率的に積層鋼板を製造できるとともに、耐熱性の高い発泡シートと接着樹脂フィルムを使用すると、平板パネルでの高温耐久性が改善される。
しかし、前記製造方法で製造される積層鋼板は、強加工を必要としない、床、壁、屋根など建築用パネルを意図しており、曲げ・深絞りなどの成形加工用途に応用すると、発泡樹脂シートと鋼板の接着力が十分ではなく、鋼板と発泡樹脂シートとの界面に発生するせん断応力によって、発泡樹脂シートが剥離する場合があった。また、曲げ・深絞りなどの成形加工用途に応用すると、発泡樹脂シートの気泡間距離が大きくて、発泡樹脂シートのせん断応力に対する強度が不足しているので、発泡樹脂シートが座屈破壊する場合あった。
また、特許文献20には、鋼板間に、接着剤を介さずに、加熱により発泡した発泡樹脂シートを積層した制振鋼板が開示されており、特許文献21には、鋼板間に、発泡ポリエステル系エラストマーを積層した制振鋼板が開示されている。
これらの鋼板は、制振機能発現を目的とするため、実施例に開示されているように通常の軽量積層鋼板に比較して、薄い発泡シートを積層することで薄い積層鋼板とすることを意図している。よって、前記積層鋼板を、鋼板に比して厚い発泡シートを積層する軽量高剛性鋼板と同じように使用すると、加工時のせん断応力が大きくなりすぎて剥離したり、クリープ変形したりする場合があった。
さらに、特許文献22には、金属板間に、発泡剤を含有する熱可塑性樹脂シートから形成される扁平状の独立気泡を有する発泡熱可塑性樹脂シートを積層した金属シートが開示されており、特許文献23には、金属板間に、金属や非金属などの繊維状や非繊維状ポーラス体を熱可塑性樹脂で被覆して積層した金属板が開示されている。
当該発明技術でも、接着層の高温での耐久性が不十分で、加工品を加熱するとクリープ変形して形状が変化したり、鋼板が剥離したりする場合がある。
特許文献24には、鋼板等の硬質板間に、未発泡状態の樹脂シートを積層した積層板とすることで、加工後発泡して発泡樹脂を積層した積層板にできる防音板が開示されており、特許文献25には、所定の形状を形成した鋼板間に、予備発泡粒子を充填し、ガラス転移温度以上に加熱して発泡させる芳香族ポリエステル系樹脂積層体の製法が開示されている。
これらの発明では、プレス加工等の加工前に鋼板を切断する場合には、未発泡樹脂シートや予備発泡粒子を積層しているので、鋼板切断不良を発生するという課題があった。また、成形した鋼板に予備発泡粒子を充填する特許文献25では、加工できる形状や生産性が限定されるなどの課題があった。
また、特許文献26には、熱可塑性樹脂を含む無延伸の発泡シートで気泡径や空隙率を特定の範囲にすることが開示され、前記発泡シートを鋼板ラミネート用材料として適用できることも記載されている。
しかし、当該発明は、液晶等の表示装置用バックライト機構に使用される面状光源用反射板として使用される発泡シートを意図しているので、可視光の反射率の観点から前記気泡径や空隙率を特定しており、鋼板間に積層するための発泡状態を設計する発想は示唆されていない。
特開昭51−84880号公報
特開昭51−84879号公報
特開昭64−45632号公報
特開平6−270325号公報
特開昭61−123537号公報
特開昭52−21089号公報
特開昭62−264941号公報
特開平4−299133号公報
特表2003−523853号公報
特開昭62−259839号公報
特開昭62−9951号公報
特開2000−225664号公報
特開2001−150616号公報
特開平5−245963号公報
特開平7−195642号公報
特開平9−39139号公報
特開2003−96969号公報
特開平10−305545号公報
特開平10−231580号公報
特開平8−142258号公報
特開H6−316017号公報
特開H6−182884号公報
国際公開第06/050610号パンフレット
特開2004−42649号公報
特開2001−334605号公報
特開2006−45259号公報
以下に詳細を説明する。
本発明を構成する発泡樹脂シートはポリエステル樹脂からなる。鋼板間に積層する発泡体をポリエステル樹脂シートで構成することにより、前記発泡体の耐熱性を確保でき、本発明の積層鋼板の加工部品をオンライン塗装のような加熱工程処理しても樹脂が流動しない。
さらに、発泡ポリエステル樹脂シート内の気泡は、最隣接気泡間距離が10μm以下になるように分散してなければならない。発泡樹脂シートにせん断応力が加わると、各気泡/マトリックスポリエステル界面に応力が集中し、前記応力集中点を起点にマトリックス内に塑性変形領域が形成される。前記塑性変形領域のみで変形エネルギーを吸収できない場合には、前記塑性変形領域の変形量の大きな先端から亀裂破壊する。ポリエステルの場合、前期塑性変形領域が成長する距離は、気泡−樹脂界面から数μm程度であるから、最隣接気泡間距離を10μm以下にすると、この塑性変形領域を連続的に形成でき、ポリエステルマトリックス内での亀裂破壊伝播を防止して、発泡シートの強度が確保できる。この結果、曲げ、深絞り、張り出し加工時に、鋼板間にせん断応力が加わっても亀裂破壊せず、健全な加工体を得られる。
最隣接気泡間距離は、好ましくは5μm未満であり、より好ましくは2μm未満であり、さらに好ましくは1.5μm未満である。近接するほど塑性変形領域は連続しやすい。しかしながら、最隣接気泡間距離は、0.1μm以上であることが望ましい。0.1μm未満にするためには発泡粒を微細する必要があり、気泡が小さすぎて気泡/ポリエステルマトリックス界面に応力を集中させて分散できず、脆化する場合がある。
ここで、最隣接気泡とは、隣接する気泡の中で、気泡間距離が最も短い気泡と定義する。気泡間距離とは、気泡の中心を結ぶ直線上の気泡周間の距離である。さらに、最隣接気泡間距離が10μm以下であるとは、任意に選んだ気泡の10個以上の気泡の80%以上の最隣接気泡間距離が10μm以下である気泡の分散状態として評価できる。
最隣接気泡間距離は、ポリエステル樹脂の結晶化度、発泡剤や発泡ガス含侵量、含侵温度と圧力、発泡温度、気泡成長時間などを制御して、発泡率と気泡径をコントロールすることにより10μm以下にできる。発泡率が大きく、気泡径が微細なほど気泡を密に分散でき、気泡間距離を小さくできる。ここで、発泡率は、発泡シートの比重ρ発泡と樹脂の比重ρ樹脂とから、次式で計算できる。
発泡率=(ρ樹脂−ρ発泡)/ρ樹脂
本発明で用いる発泡シートを構成するポリエステル樹脂とは、ヒドロキシカルボン酸化合物残基のみ、ジカルボン酸残基及びジオール化合物残基、又は、ヒドロキシカルボン酸化合物残基、ジカルボン酸残基及びジオール化合物残基、をそれぞれ構成ユニットとする熱可塑性ポリエステルである。また、これらの混合物であっても良い。
ヒドロキシカルボン酸化合物残基の原料となるヒドロキシカルボン酸化合物を例示すると、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシエチル安息香酸、2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(4’−カルボキシフェニル)プロパン等が挙げられ、これらは単独で使用しても、また、2種類以上を混合して使用しても良い。
また、ジカルボン酸残基を形成するジカルボン酸化合物を例示すると、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸及びアジピン酸、ビメリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等が挙げられ、これらは単独で使用しても、また、2種類以上を混合して使用しても良い。
次に、ジオール残基を形成するジオール化合物を例示すると、例えば、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」と略称する)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、o−ヒドロキシフェニル−p−ヒドロキシフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−ビフェノール、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン等の芳香族ジオール及びエチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ペンタメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、水添ビスフェノールA等の脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族ジオール等が挙げられ、これらは単独で使用することも、また、2種類以上を混合して使用することもできる。また、これらから得られるポリエステル樹脂を単独で使用しても、2種類以上混合して使用しても良い。
本発明に使用するポリエステル樹脂は、これらの残基又はその組み合わせにより構成されていれば良いが、中でも芳香族ジカルボン酸残基とジオール残基より構成される芳香族ポリエステル樹脂であることが、加工性、熱的安定性の観点から好ましい。
また、本発明に使用するポリエステル樹脂は、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールメタン、ペンタエリスリトール等の多官能化合物から誘導される構成単位を少量、例えば2モル%以下の量を含んでいても良い。
耐熱性や加工性の面から、これらのジカルボン酸化合物、ジオール化合物の組み合わせの中で最も好ましい組み合わせは、テレフタル酸50〜95モル%、イソフタル酸及び/又はオルソフタル酸50〜5モル%のジカルボン酸化合物と、炭素数2〜5のグリコールのジオール化合物との組み合わせである。
本発明に使用する好ましいポリエステル樹脂を例示すると、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレン−2,6−ナフタレート等が挙げられるが、中でも適度の機械特性、ガスバリア性、及び金属密着性を有するポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレン−2,6−ナフタレートが最も好ましい。
さらに、本発明を構成する発泡樹脂シートは、ポリエステル樹脂が主成分であれば、耐衝撃性や加工伸び、耐熱性などの改善を目的にポリエステル樹脂以外の樹脂と複合化していてもよい。主成分とは50質量部以上である。他の樹脂との複合化の具体例として、これらのポリエステルに、例えば、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、高密度、低密度、リニア低密度ポリエチレン、ポリプロピレンなどのビニル系汎用樹脂、アイオノマー、ポリオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、MBS(メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン)、MBA(ポリブチルアクリレート−ポリメチルメタクリレート)などのコアシェル型エラストマー、ナイロンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ウレタン系エラストマーなどのゴム、ナイロン、ポリアセタール、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリイミドなどの耐熱樹脂、ウレタン、ユリア樹脂などの熱硬化性樹脂などを複合化したものが挙げられ、これらの単体もしくは2種以上との複合化であってもよい。
また、発泡ポリエステル樹脂シートの導電性、剛性、線膨張特性などの改善を目的に、無機フィラーや無機チューブなどの無機物を添加することも、ポリエステルが主成分であれば可能である。
無機物を例示すると、例えば、ガラス繊維、金属繊維、チタン酸カリウムウィスカー、炭素繊維のような繊維強化剤、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、ガラスフレーク、ミルドファイバー、金属フレーク、金属粉末のようなフィラー系強化剤、ならびにシングルウォールもしくはマルチウォールのカーボンナノチューブ、カオリン、モンモリロナイト、合成マイカ、合成シリケート、ノントロナイトなどのクレーなどの高アスペクト比を有する無機分子などが挙げられる。これらの充填剤のうち、ガラス繊維、炭素繊維の形状としては、6〜60μmの繊維径と30μm以上の繊維長を有することが望ましい。また、これらの添加量としては、全樹脂組成物重量に対して5〜15質量部であることが望ましい。
ポリエステル樹脂が結晶性である場合は、融点が160℃以上、好ましくは180℃以上、より好ましくは200℃以上であることが耐熱性から望ましい。また、発泡ポリエステル樹脂シートの結晶化率は、高温での流動や変形を防止したり、加熱工程での再結晶による形状変化を防止したりするために、例えば、20%以上が好ましく、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは35%以上である。ポリエステル樹脂がアモルファス性樹脂である場合は、ガラス転移温度が上記の温度範囲であることが望ましい。また、結晶化率は60%以下であることが好ましい。60%超になると結晶粒界表面積が増加し、脆化する場合がある。
さらに、発泡ポリエステル樹脂シートの気泡の形状、発泡率(気泡率)、気泡径は、最隣接気泡間距離が10μm以下で分散していれば、特に制限するものではない。球状独立気泡でも扁平独立気泡でも良い。一部の気泡が接したり重なったりして連続していても良いが、加工の等方性、強度確保の目的から、球状独立気泡であることが好ましい。また、発泡率は、軽量性の確保又は気泡間距離の制御性の観点より、例えば、60%以上が好ましい。好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上が好ましい。また、95%以下であることが好ましい。95%超では気泡が多すぎて機械強度が低下し、鋼板加工時に発泡シートが脆性破壊する場合がある。
また、平均気泡径は、例えば、5μm以下であり、さらに好ましくは3μm以下である。平均気泡径が、小さいほど最隣接気泡間距離を小さく制御しやすい。一方、平均気泡径は1μm以上であることが好ましい。1μm未満では気泡径が微細すぎて、気泡/樹脂界面が応力集中点となりにくい。ここで、気泡径は、断面顕微鏡像で観察される、円の面積として置き換えた場合に直径である等価円直径であり、平均気泡径とは、20個以上の気泡径の数平均値である。通常は、50個の気泡径の数平均値を、平均気泡径とする。
発泡シートの気泡径と最隣接気泡間距離は、発泡シートの断面を走査型電子顕微鏡などで観察し、画像処理することにより算出することができる。具体的には断面顕微鏡像を2値化し、円の面積として置き換えた場合の直径である等価円直径の平均値で気泡径を算出できる。さらに、気泡の中心を結ぶ直線上の気泡周間の距離から最隣接気泡間距離を見積もれる。
また、本発明に使用する発泡ポリエステル樹脂シートは、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、UV処理などの公知表面処理をして、発泡ポリエステル樹脂シートの臨界表面張力を増加し、接着剤との密着性を改善してもよい。発泡ポリエステル樹脂シートの表面には凹凸がある場合が多く、アンカー効果が発現しにくいので、積層前にこれらの表面処理により臨界表面張力を45dyn/cm(mN/m)以上に制御することが好ましい。
本発明を構成する発泡ポリエステル樹脂シートには、鋼板と前記発泡ポリエステル樹脂シートとの間に接着剤を積層しなければならない。接着層が積層されない場合、発泡ポリエステル樹脂シートの表面凹凸により鋼板表面との接触面積を十分に確保できず、加工時に働く、鋼板/発泡ポリエステル樹脂シート間のせん断応力により、剥離しやすい。さらに接着剤層の100℃〜160℃の全温度範囲で貯蔵弾性率G’は、0.05MPa以上100GPa以下でなければならない。貯蔵弾性率G’が0.05MPa未満では、積層鋼板を成形する場合に発生した鋼板/接着剤層界面の残留応力により、積層鋼板の成形品を当該温度に加熱すると接着剤層がクリープ変形し、形状不良や密着不良を引き起こす。好ましくはG’>1.0MPa、より好ましくはG’>5MPaが望ましい。一方、100GPa超の場合、室温のG’はより大きくなり、加工追従性が低下して加工時に破壊しやすくなるので、100GPa以下でなければならない。
ここで、接着層の貯蔵弾性率G’は、周波数0.1〜10Hzで測定した接着剤層の貯蔵弾性率の最大値で評価できる。熱硬化性接着剤の場合は、積層条件と同一の熱履歴を付与して架橋硬化した接着剤フィルム、熱可塑性接着剤の場合は接着剤フィルムを公知の動的粘弾性測定装置で測定できる。
さらに本発明の接着剤層の当該温度での損失弾性率G”と貯蔵弾性率G’の比tanδ(=G”/G’)は、tanδ<1が好ましく、より好ましくはtanδ<0.8、より好ましくはtanδ<0.5、さらに好ましくはtanδ<0.1が望ましい。tanδが小さいほど、加熱しても残留応力による接着剤層のクリープ変形を抑制し、形状を安定できる。tanδ≧1では、当該温度に加工品を加熱すると、接着層が粘性流動し、形状が不安定になったり、クリープ変形破壊して剥離したりする場合がある。
また、本発明を構成する接着層に用いる接着剤は、発泡ポリエステル樹脂シートを構成するポリエステル樹脂と鋼板との双方に親和性があり、かつ100℃〜160℃の全温度範囲で貯蔵弾性率G’が0.05MPa以上100GPa以下であればよく、公知の熱硬化性樹脂系、熱可塑性樹脂系、天然系、エラストマー系、無機系接着剤を広く適用できる。
ここで、ポリエステルとの親和性とは、接着剤とポリエステルとの溶解度パラメーターの差が5MJ/m3以下であること、もしくは、ポリエステルの末端官能基もしくはエステル基と、共有結合、水素結合、イオン相互作用、配位結合等の化学結合、又は、電荷の移動を伴わない物理結合等を形成できる官能基(結合基を含む)の有無が目安となる。溶解度パラメーターは、構成するユニットの化学構造などからFedorsやSmallの方法などで推定することができる。接着剤とポリエステルとの溶解度パラメーターの差は、好ましくは6MJ/m3以下であり、より好ましくは3MJ/m3以下、さらに好ましくは2MJ/m3以下である。接着剤とポリエステルとの溶解度パラメーターの差が小さいほど両者の相溶性が向上し、初期密着性が向上する。さらに、ポリエステル樹脂と化学結合を形成する官能基の具体例としては、例えば、カルキシル基、ヒドロキシル基、アミド基、酸無水物基、エポキシ基、イソシアネート基、エステル結合、アミド結合、イミド結合、カーボネート結合、ぺプチド基などの極性を有する結合などが挙げられる。また、ポリエステル樹脂と物理結合をする官能基や結合の具体例としては、上記極性結合やカルボン酸、スルホン酸などの金属塩などが挙げられる。
また、実用上のポリエステル/接着剤間の適正な密着力は、2枚の発泡ポリエステル樹脂シートを接着剤で鋼板積層条件と同一条件で接着し、Tピール強度で評価できる。Tピール強度は、20N/cm以上が好ましく、より好ましくは30N/cm以上であり、更に好ましくは45N/cm以上であり、更により望ましくは60N/cm以上である。Tピール強度が20N/cm未満では、鋼板積層直後の初期密着強度が小さく、130℃〜180℃の全温度範囲で接着剤の貯蔵弾性率を0.5MPa以上に制御しても、加工時や加工後の加熱で発泡ポリエステル樹脂シートと接着剤との界面で剥離する場合がある。
鋼板との実用的な親和性は、2枚の鋼板間を接着剤で接着した試験片のTピール試験により評価できる。ポリエステル/接着剤間と同様の強度範囲にあることが、望ましい。発泡ポリエステル/接着剤界面と同様に、Tピール強度が20N/cm未満では、鋼板−接着剤界面が密着力ネックになり、加工時や加熱時に剥離する場合がある。
具体的な接着剤を例示すると、例えば、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアミド系、ポリベンズイミダゾール系、アクリレート系などの熱硬化樹脂系接着剤、酢酸ビニル樹脂系、ポリビニルアセタール系、エチレン一酢酸ビニル系樹脂系、塩ビ系、アクリル、アクリレート樹脂系、ポリアミド系、セルロース系、ポリエステル系、ポリオレフィン系の熱可塑性樹脂系接着剤、アスファルト、天然ゴム、たんぱく、でんぷん系の天然接着剤、ニトリルゴム、スチレン系ゴム、ポリサルファイド系、ブチルゴム系、シリコンゴム系、アクリルゴム系、変性シリコンゴム系、ウレタンゴム系、シリル化ウレタンゴム系などのエラストマー系接着剤、γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシランあるいは、β―(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤、チタンカップリング剤などの無機系接着剤などが挙げられる。さらに、発泡ポリエステル樹脂シートや鋼板と親和力の強い熱硬化、熱可塑性樹脂フィルムやシートを接着剤として積層することも可能である。具体的には、PET,PEN,PBTなどのポリエステルフィルムやPC、ナイロンなどのフィルムなどが挙げられる。これらの樹脂シートは発泡、無発泡いずれでもよい。
発泡ポリエステル樹脂シート、鋼板双方への親和性から、例えば、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系接着剤が好ましい。さらに、高温で100℃〜160℃の全温度範囲で貯蔵弾性率G’を0.05MPa以上100GPa以下に制御するため、これらの接着剤機材に架橋剤を添加した反応型ホットメルト接着剤が好ましい。中でもポリエステル系接着剤基材に架橋剤を添加したポリエステル系反応型ホットメルト接着剤が、最も好ましい。
ポリエステル基材を例示すると、先に挙げたジオール残基とジカルボン酸残基からなる飽和ポリエステルが挙げられる。中でも、複数のジオール残基もしくは複数のジカルボン酸残基、あるいはこれらの組み合わせからなる共重合ポリエステルが、結晶化度を下げて接着性を向上できるので好ましい。具体的には、1,4−ブタジオールとテレフタル酸残基を主成分にして他のジオール残基やジカルボン酸残基を共重合したポリエステルが好ましく、より具体的に例示すると、東洋紡績製“バイロン”、旭日化成製“ハーデック”、東レ製“ケミット”、東亜合成製“アロンメルトPES”、日本合成化学工業製“ポリエスター”などが挙げられ、非晶質グレードよりも結晶グレードの方が、貯蔵弾性率が制御しやすいので、好ましい。
架橋剤を例示すると、例えば、イミダゾール、イソシアネート、エポキシ樹脂、フェノールノボラック化合物、メラミン化合物などが挙げられる。中でも架橋反応速度制御性からイソシアネート化合物が最も好ましい。イソシアネート化合物とは、2個以上のイソシアネート官能基を有する芳香族もしくは脂肪族イソシアネート化合物およびこの混合物である。具体的には、ジフェニルメタンジイソシアネート化合物(MDI)、カルボジイミド変性MDI、ジフェニルメタン4,4−ジイソヒアネート、ジフェニルメタン−2,2’−ジイソシアネート、ジフェニル−メタン−2,4’−ジイソシアネート、オリゴマーフェニルメチレンイソシアネート(TDI)、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)、ナフチレンジイソシアネート、トリファニルメタントリイソシアネートなどの芳香族イソシアネート化合物、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水素化芳香族ジイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネートなどの脂肪族のジ、トリ、ポリイソシアネートを挙げることができる。
本発明を構成する鋼板は、特に制限するもではないが、具体的には以下の鋼板が挙げられる。すなわち、ブリキ、薄錫めっき鋼板、電解クロム酸処理鋼板(ティンフリースチール)、ニッケルめっき鋼板等の缶用鋼板や、溶融亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛−鉄合金めっき鋼板、溶融亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板、溶融アルミニウム−シリコン合金めっき鋼板、溶融鉛−錫合金めっき鋼板等の溶融めっき鋼板や、電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛−ニッケルめっき鋼板、電気亜鉛−鉄合金めっき鋼板、電気亜鉛−クロム合金めっき鋼板等の電気めっき鋼板等の表面処理鋼板、冷延鋼板、熱延鋼板、ステンレス鋼板等が挙げられる。また、塗装鋼板、フィルムラミネート鋼板などの表面処理鋼板であってもよい。
さらに、異なる鋼種の鋼板間に、発泡ポリエステル樹脂シートを積層することも可能である。具体的には、曲げ加工、絞り加工する用途では、強度が異なる鋼板間に発泡ポリエステル樹脂シートを積層し、曲率rが小さく加工の厳しい面に軟鋼を使用し、他面には強度確保のため、高張力鋼を使用することなども可能である。
また、本発明を構成する鋼板表面に、密着力や耐食性向上のため、公知の表面処理を施すことも可能である。具体的には、クロメート処理(反応型、塗布型、電解)、燐酸塩処理、有機樹脂処理などが挙げられるが、これらに限定するものではない。
本発明の発泡シート積層鋼板の総厚み、構成厚み比は特に限定するものではなく、鋼板厚みおよび剛性Dと軽量のバランスによって決定できる。具体的には以下の式により、所望の剛性と板密度(鋼板比重ρ)から、必要な発泡シートと鋼板の厚みを決定できる。
D=1/3[(E1-E2)(y1-ye)3+(E2-E3)(y2-ye)3+E1ye 3+E3(h-ye)3] ・・・式(1)
ye=[(e1-E2)y1 2+(E2-E3)y2 2+E3h2]/[2((E1-E2)y1+(E2-E3)y2+E3h)] ・・・式(2)
ρ=[7.8(h-y2+y1)+ρ発泡シート(y2-y1) ]/h ・・・式(3)
ここで、E1:下面鋼板のヤング率、E2:発泡ポリエステル樹脂シートのヤング率、E3:上面鋼板のヤング率、y1:鋼板厚、y2:y1+発泡ポリエステル樹脂シート厚、ye:中立軸位置、h:y2+上鋼板厚、である。
好ましい鋼板厚み及び発泡ポリエステル樹脂シート厚みは、各々0.2〜2.0mm及び0.4〜3.0mmである。鋼板厚みが0.2mm未満では曲げ加工時に座屈しやすい場合がある。一方、鋼板厚みが2.0mmを超えると軽量化効果が不十分になりやすい。軽量化の観点から鋼板厚みは1.0mm以下が好ましい。一方、発泡ポリエステル樹脂シート厚みが0.4mm未満では、積層鋼板トータルの厚みが稼げないため、軽量性を維持して剛性を大きくすることは困難となる場合がある。また、発泡ポリエステル樹脂シート厚みが3.0mmを超えると、積層鋼板自体の厚みが大きくなるため、表層鋼板に加わる曲げ応力が大きくなって、鋼板が座屈しやすくなる。
さらに、本発明の発泡ポリエステル樹脂シート積層鋼板では、厚みの異なる鋼板間に発泡ポリエステル樹脂シートを積層しても良い。従って、厚い鋼板面を曲率が大きい部位にして加工し、加工性を改善することも可能である。また、接着層厚みは、100℃〜160℃の全温度範囲で貯蔵弾性率G’が0.05MPa以上100GPa以下であれば、厚みを小さくしても接着層に十分な耐熱耐久性を付与できるので、特に制限はない。但し、経済性から、接着層の厚さは、30μm以下が好ましい。また、接着層の効果を十分発揮するためには、接着層の厚さは1μm以上であるのがより好ましい。
また、鋼板間に積層する発泡ポリエステル樹脂シートは、鋼板全面に積層してなくても良い。より軽量化するために一定間隔を設けてストライプ状に積層するなど、発泡ポリエステル樹脂シートを積層する配置を、用途と要求特性に応じて種々にデザインできる。
本発明の発泡ポリエステル樹脂シート積層鋼板は、公知の鋼板ラミネート方法を適用して製造することが可能である。具体的には、(1)シート状の発泡ポリエステルを鋼板間に積層する方法、(2)発泡剤を含侵した未発泡ポリエステル樹脂シートを熱圧着で積層し、当該積層工程で発泡させる方法、(3)Tダイスから発泡ポリエステル樹脂シートを直接金属に積層する方法などが挙げられる。中でも最も好ましい製造方法は、作業性、密着性の制御しやすさから、(1)である。
製造方法(1)を具体的に例示すると、接着剤を積層した鋼板の接着層を発泡ポリエステル樹脂シートの両面に積層、もしくは発泡ポリエステル樹脂シートの両面に接着剤を積層したのち、両面から鋼板を積層する製法が挙げられる。発泡ポリエステル樹脂シートの具体的な製法を例示すると、例えば、高圧でCO2やN2などの不活性ガスをポリエステル樹脂シートに含侵させたのち、圧力を加熱解放して発泡させる方法、化学発泡剤(熱分解型発泡剤など)や物理発泡剤(ハロゲン化水素やエーテル化合物など)を含有したポリエステル樹脂シートをポリエステル軟化温度以上に加熱して発泡する方法、Tダイス付押し出し機に当該ガスを吹き込んだり、発泡剤とポリエステルの混合物を当該押し出し機で押し出したりしてTダイス直下で発泡させる方法などが挙げられる。中でも最も好ましいのは、超臨界CO2や超臨界N2を含侵したポリエステル樹脂シートをTm(融点)以上に加熱して発泡する方法である。超臨界ガスは液体と気体との両方の性質を有するので、溶解度が高く、発泡率を大きくできる。さらに、圧力を解放しても緩やかに発泡するため、気泡を微細化しやすい。この結果、平均気泡径が1μm以上5μm以下で、かつ、最隣接気泡間距離を10μm以下に制御しやすい。また、液体的性質により溶媒キャストと同様な効果があるので、発泡後の結晶化度を大きくでき、熱安定性を確保しやすい。
鋼板への積層方法は、発泡ポリエステル樹脂シートの両面に接着剤を積層したのち、両面から鋼板を積層する方法が好ましい。発泡ポリエステル樹脂シートの表面の凹凸に接着剤を十分に浸透させ、密着力を確保できる。
積層温度は特に制限するものでは無い。一方、本発明を構成する発泡ポリエステル樹脂シートは、平均気泡径が1μm以上5μm以下で、かつ、最隣接気泡間距離が10μm以下であり、密に気泡が充填されているため、隣接気泡間距離が10μmを超える発泡ポリエステル樹脂シートに比較して、気泡界面積が大きい。この結果、高温で積層しても、気泡が凝集したり、気体がぬけて発泡相が喪失したりするなどの形状不良は起こりにくく、積層温度を発泡ポリエステル樹脂シートが可塑化してアンカー効果が十分発現できる温度まで上昇することができる。従って、好ましい積層温度は、結晶ポリエステルの場合は(Tm+10℃)>T>(Tm−40℃)、ガラス状ポリエステルの場合は(Tg+10)>T>(Tg+40℃)である。ここで、Tgは、ガラス転移温度である。
(2)の製造方法の具体例としては、不活性ガスや上記の発泡剤を含侵した未発泡ポリエステル樹脂シートの両面に、接着剤を積層した鋼板の接着層を熱圧着して積層する方法が挙げられ、(3)の製造方法の具体例としては、Tダイス直下で発泡したシートの両面に、接着剤を積層した加熱鋼板の接着層を積層する方法が挙げられる。しかし、これらに限定されるものではない。
本発明は、鋼板間に接着剤層と発泡ポリエステル樹脂シートを積層した鋼板であって、発泡ポリエステル樹脂中の最隣接気泡間距離が10μm以下、かつ、接着層の100〜160℃の全温度範囲で貯蔵弾性率が0.05MPa以上100GPa以下であることを特徴とする発泡ポリエステル樹脂シート積層鋼板である。前記発泡ポリエステル樹脂シートを積層することにより軽量と剛性を両立し、かつ切断時の破面不良、加熱時の樹脂の流動防止などの耐熱性を改善できる。さらに、接着層により、加工に耐える初期密着力が保持できる。また、発泡ポリエステル樹脂中の最隣接気泡間距離が10μm以下に制御することにより、加工してもせん断応力により発泡ポリエステル樹脂シートが破壊することなく、良好な曲げ、絞り加工性を発現できる。さらに、接着層の100〜160℃の全温度範囲で貯蔵弾性率を0.05MPa以上100GPa以下に制御することにより、加工後に高温に保持しても接着層のクリープ変形を抑制して、形状安定性を保持できる。
本発明の発泡ポリエステル樹脂シート積層鋼板は、軽量で剛性が高く、かつ、せん断、曲げ、深絞り、張り出しなどの加工性、加工後の耐熱形状安定性に優れた鋼板であり、自動車や家電、家具、OA機器などの部材用として好適に適用できる。
さらに、積層した発泡ポリエステル樹脂シートにより、単一鋼板に比較して良好な断熱性、制振性も発現できる。
以下に、実施例により本発明を具体的に説明する。
(発泡ポリエステル、ナイロン、PP、発泡PPシートの製造)
ユニチカ製PET(1346P)、東レ製PBT(トレコン1401)、宇部興産製6―ナイロン(1013A)を原料に、Tダイス付押し出し機で(押し出し温度230〜250℃)、0.4〜0.7mm厚みのPET、PBT,PET/PBTアロイ、ナイロンの各種樹脂シートを作成した。さらに、ホモPP(MFR=1.5g/10分,Tm=159℃)の樹脂シートを同様にして作成した(押し出し温度220℃)。
上記のポリエステル樹脂シートおよびPPシートを、20MPa、32℃の超臨界CO2を含侵した。圧力を解放した後、当該含侵ポリエステル、PPシートを各々260℃、200℃で加熱して発泡させた。加熱後、0℃まで冷却し、気泡の成長を停止させ、発泡シートを得た。含浸時間、加熱時間、冷却速度により発泡率、発泡径を制御し、表1の各種樹脂シートを得た。
ここで、発泡率は、発泡樹脂シートの質量とサイズを測定して、比重ρ発泡を算出し、一方、発泡させていない同樹脂(気泡のない同樹脂)の質量とサイズを測定して、比重ρ樹脂を算出し、発泡率=(ρ樹脂−ρ発泡)/ρ樹脂として求めた。
気泡径は、発泡樹脂シートの断面を走査型電子顕微鏡で観察し、断面顕微鏡像を画像処理で2値化し、円の面積として置き換えた場合の直径である等価円直径の平均値で気泡径を算出した。平均気泡径は、50個の気泡径の平均値とした。また、最隣接気泡間距離も、前記画像を使用して、気泡の中心を結ぶ直線上の気泡周間の距離から最隣接気泡間距離を求めた。
<実施例1−6、9、11−22、参考例7、8、10、比較例1−12>
(発泡シート積層鋼板の製造)
当該発泡シートの両面に表2の接着剤1−5、8−10をメチルエチルケトンに溶解してバーコーターで塗布し(30μm)、120℃で2分間乾燥した。接着剤1−5に関しては、100〜160℃の全温度範囲での接着層の弾性率は、基材に応じて適正な硬化剤(官能基量、官能基種など)を適正量配合して、0.05MPa以上100GPa以下に制御した。また、接着剤8−11に関しては、比較例とするために、100〜160℃の全温度範囲での接着層の弾性率を、基材に応じて適正な硬化剤(官能基量、官能基種など)を適正量配合して、本発明の範囲外に調製した。溶媒乾燥後、当該接着剤を積層した発泡樹脂シートを脱脂(3%弱アルカリ脱脂剤使用)した鋼板間に挿入し、240℃、10kgf/cm2(0.98MPa)、2分間熱圧着した後、当該鋼板を水槽で冷却して発泡樹脂シート積層鋼板を得た。また、接着剤6−7、12のフィルム(30μm)接着層に関しては、鋼板、接着シート、当該発泡シート、接着シート、鋼板の順に積層したのち、上記の条件で熱圧着、冷却して発泡ポリエステル樹脂シート積層鋼板を得た。フィルム状接着剤では、適正な融点(Tm>160℃)もしくはガラス転移温度(>160℃)を有する樹脂基材を選択することにより、100〜160℃の全温度範囲での弾性率を0.05MPa以上100GPa以下に制御した。フィルム状接着剤の比較例としても、融点もしくはガラス転移温度の前記範囲外となる樹脂基材を選択することにより、100〜160℃の全温度範囲での弾性率を本発明の範囲外にした。表3に実施例1−6、9、11−22、参考例7、8、10および比較例1−12の製造例を示す。
なお、接着層のG’およびtanδは、配合した接着剤をテフロンシート上にバーコートで塗布し、上記と同一の熱履歴(120℃で2分、240℃で2分加熱)を与えた後、剥離し、10Hz、加熱速度2℃/分で加熱して100〜160℃の全温度範囲でのG’、tanδを測定し、最小値〜最大値で示した。
(物性の評価)
各積層鋼板の板密度は、積層鋼板の質量を板体積で割り算出した。さらにASTMD−790に従い、3点曲げ試験結果から曲げ強度を換算して剛性を評価した。また、鋼板と発泡樹脂シートとの初期密着強度を90°Tピール試験で評価した。
表3に実施例1−6、9、11−22、比較例1−12の物性評価結果を示す。実施例1−6、9、11、14−19、22と比較例9−12との比較から、本発明の発泡ポリエステル樹脂積層鋼板は、樹脂シートを鋼板間にサンドウィッチした鋼板と同一の剛性を、より軽量化して達成できる。
(加工および加工性評価)
片持ちはり式せん断装置を使用して、平均加工速度0.1m/sで鋼板を切断した。図1の破断面の不良の有無により、せん断加工性を評価した。また、R=6mmでV字に曲げた後、プレスして鋼板を180度曲げた(0−T)。当該外面鋼板のわれや皺の有無にて、曲げ加工性を評価した(×:割れもしくは皺あり、○:なし)。エリクセン社製20T総合試験機にて、r=100mm、BHF:2t(ブランクホールドフォース)で円筒絞り加工をし、限界絞り値(表層鋼板の限界絞り値を1としたときの相対比)、皺発生状況で各々深絞り性と形状を評価した(×:皺発生あり、○:なし)。さらに50×50mmの板を切り出し、張り出し加工をした。表皮鋼板と発泡樹脂シート積層鋼板との限界張り出し値の比で加工性(○:1以上、△:0.8〜1.0、×:0.8未満)、皺発生状況(○:皺発生なし、で形状を評価した。120mmL×25mmWの試験片エリクセン社製20T総合試験機にて、ハット状成形物を得た。本成形体を160℃のオーブンに30分間保持し、成形体の形状変化(高さ方向の変形歪εH、幅方向の変形歪εW)により加工後耐熱形状安定性を評価した。表4に実施例1−6、9、11−22、参考例7、8、10、比較例1−11の加工性および加熱形状安定性評価結果を示す。
実施例1−6、9、11−22と比較例1−3の比較から、再隣接気泡間距離を10μm以下に制御した本発明の発泡ポリエステル樹脂シート積層鋼板は、機械強度が強く、曲げ、深絞り、張り出し加工をしても発泡ポリエステル樹脂シートが破断することなく成形加工できる。また、実施例1−6、9、11−22と比較例4−8との比較から、本発明の発泡ポリエステル樹脂シート積層鋼板は、100〜160℃の全温度範囲での貯蔵弾性率が0.05MPa以上100GPa以下である接着層を使用しているので、160℃にハット曲げ成形品を加熱しても形状を安定することができる。また、実施例1−6、9、11−22と比較例9−10、12との比較により、本発明の発泡ポリエステル樹脂シート積層鋼板は、発泡シートを積層しているため、樹脂シートサンドウィッチ鋼板に比較して加工性が良好である。さらに、実施例1−6、9、11−22と比較例11との比較から、発泡ポリエステル樹脂シート積層鋼板は、耐熱性の良好なポリエステルを基材とする発泡シートを積層しているため、発泡PPシート積層鋼板に比較して耐熱性に優れる。
また、本発明は、両面に接着剤層を積層した発泡ポリエステル樹脂シートを、ポリエステルのTm+5>T>Tm−40に加熱した鋼板に圧着積層することを特徴とする上記発泡ポリエステル樹脂シート積層鋼板の製法であるので、密着性を制御しやすく、作業性も良好に本鋼板を製造できる。
(実施例23)
接着剤1を発泡ポリエステル樹脂シート1でなくTFSに塗布した後積層した以外は、すべて同一条件で発泡ポリエステル樹脂シート積層鋼板を製造した。当該鋼板の物性、加工特性を同様に評価した。
鋼板に接着剤を塗布したため、初期密着力の低下や曲げ加工後に端部剥離が認められたサンプルもあったが、実施例1−6、9、11−22と同様、軽量と剛性の兼備、良好な加工特性、耐熱形状安定性がある。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。