JP5163672B2 - 樹脂シート積層鋼板 - Google Patents

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Description

本発明は、樹脂シートと鋼板とが積層された樹脂シート積層鋼板に関する。
軽量で剛性が高く、かつ、曲げ、深絞り、張り出し等の加工性に優れ、加工後の耐熱形状安定性がある鋼板は、CO排出量削減の観点から燃費の改善が要求される自動車用外内板や、家電の筐体、家具、OA機器部品等で広く求められている。これらの解決策として樹脂シートや発泡性樹脂シートを鋼板間に積層した鋼板が提案されているが、上記の全ての性能を満足できるまでに至っていない。
具体的には、特許文献1〜5には、金属板間に、PP(ポリプロピレン)シートを積層する製法及び金属板、特許文献6には、鋼板間に、変性PP接着層を介してPA(ポリアミド)シートを積層した鋼板、特許文献7には、鋼板間に、PET(ポリエステル)シートを積層した鋼板、特許文献8には、金属板間に、熱硬化性樹脂を接着剤として含浸させた熱可塑性樹脂のポリマー繊維の布地シートを積層した金属板、特許文献9には、降伏強度や厚みの異なる鋼板間に樹脂シートを積層した鋼板、特許文献10には、鋼板間に、引張り弾性率が高い樹脂シートを積層した鋼板が開示されている。
また、特許文献11には、ステンレス板間に、接着用樹脂フィルムを介して発泡ポリオレフィンシートを積層したステンレス鋼板、特許文献12には、金属板間に、発泡する際に生じる面内方向の発泡力を抑制するシート状物を介して、ポリオレフィン系樹脂発泡体を積層した金属板が開示されている。
以上のような鋼板の間に樹脂シートや発泡樹脂シートを積層した積層鋼板では、鋼板の厚みを鋼板間に積層した樹脂シートや発泡樹脂シートにて増加できるため、前記積層鋼板の曲げモーメントを大きくして高剛性が実現できる。かつ、樹脂シートにて厚みを稼げるので、同一曲げ剛性を有する鋼板やAl板に比較して、軽量化が可能になる。また、表層鋼板の曲げ強度が大きいため、曲げ変形支配の曲げ加工(例えば、変形支点間距離が積層鋼板厚みに対して10倍以上大きいような曲げ変形による加工)に対しては、良好な加工性を発現できる。
しかし、せん断変形が無視できないような曲げ加工(例えば、変形支点間距離が積層鋼板厚みに対して10倍未満の曲げ変形による加工)や、張出し、深絞りのような強加工では、皺が発生したり、コア層が座屈破壊する等の欠陥を生じ易かった。さらに、PPシートを積層した場合、PP樹脂の耐熱が不十分で、加熱加工する用途では、端面から樹脂が流出する課題があった。また、PETやナイロン等の耐熱の高い樹脂を使用しても、熱間塗装の温度に保持すると、加工による残留応力が解放されて、形状が変化する場合があった。
一方、特許文献13には、鋼板間に、無機フィラーが添加されたPPを積層した鋼板、及び、特許文献14には、金属シート間に、無機フィラーを添加した発泡ポリオレフィンシートを積層した金属シートが開示されている。当該発明の積層鋼板では、積層する樹脂もしくは発泡シートを無機フィラーで補強しているため、せん断変形が無視できないような領域での曲げ加工性、耐熱形状安定性が若干改善できる。
しかし、短繊維フィラーで補強しているため、補強層が不連続で、改善効果は十分でない場合があった。
また、特許文献15〜18には発泡樹脂を充填したハニカム状の板を金属板間に積層した金属板、特許文献19、20には樹脂に含浸したペーパーハニカムを鋼板間に積層した鋼板、特許文献21にはウレタン硬化物と無機質粒材やセメントで補強したハニカム板を積層した鋼板が開示されている。
しかし、当該鋼板はいずれも建築用の断熱パネルや遮音パネルを意図した金属板であり、積層後に強加工する用途を想定していない。したがって、当該鋼板では、弾性域では軽量・高剛性を兼備できるものの、ハニカム構造が適正でなく、張出し、絞り加工するとコア層がせん断破壊や圧縮破壊が生じ、欠陥となる場合が多い。さらに、コア層の補強に利用するハニカム板がコア層全体に分布しているため、曲げ変形時の中立軸となるコア層中心部近傍がハニカム板により十分に補強されていないため、ハニカム板のせん断変形により曲げ変形時に曲げ内側に中立軸が移動し、曲率が増加してしまうため、応力が集中し易かった。
特開昭51−84880号公報 特開昭51−84879号公報 特開昭64−45632号公報 特開平6−270325号公報 特開昭61−123537号公報 特開昭52−21089号公報 特開平4−299133号公報 特表2003−523853号公報 特開昭62−259839号公報 特開昭62−9951号公報 特開2000−225664号公報 特開2001−150616号公報 特開昭62−264941号公報 特開平5−245963号公報 特許2838982号 特開平8−82021号公報 特開平8−105127号公報 特開平8−20086号公報 特表2003−507212号公報 特開2003−181961号公報 特開2004−252083号公報
このように、現在までのところ、軽量で剛性及び耐衝撃性が高く、かつ、制振性能、加工性、形状安定性に優れ、熱間塗装部材にも好適に適用できる鋼板は得られていない、というのが実情であった。
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、軽量で剛性及び耐衝撃性が高く、かつ、制振性能、加工性及び形状安定性に優れ、熱間塗装部材にも好適に適用できる樹脂シート積層鋼板を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、樹脂基材からなるシート(樹脂シート)と鋼板とを積層させた樹脂シート積層鋼板において、金属板を包埋した樹脂シート(a)を樹脂シート積層鋼板の厚み方向の中央部に偏在させることにより、軽量で剛性及び耐衝撃性が高く、かつ、制振性能、加工性、形状安定性に優れ、さらには、延性に特に優れる鋼板が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明によれば、金属板を包埋した厚みtの樹脂シート(a)の上下両面に、前記樹脂シート(a)側から、厚みtの樹脂シート(b)と鋼板とが順次積層されており、下記(1)式で表されるA値が、0.1以上0.75以下であることを特徴とする、樹脂シート積層鋼板が提供される。
A値=t/(t+2t) ・・・(1)
ここで、前記樹脂シート積層鋼板において、前記(1)式のA値は、0.3以上0.6以下であることが好ましい。
また、前記樹脂シート積層鋼板において、前記金属板に形成された複数の細孔部の体積の合計が、前記金属板の全体積に対して30体積%以上であり、前記細孔部間のバーの幅が、当該バーの厚みの0.2倍以上かつ2倍以下であることが好ましい。
また、前記樹脂シート積層鋼板において、前記バーの幅が、当該バーの厚みの0.6倍以上1.3倍以下であることが好ましい。
また、前記樹脂シート積層鋼板において、前記樹脂シート(a)及び前記樹脂シート(b)の基材が、発泡体であることが好ましい。
この場合に、前記発泡体の最隣接気泡距離は、5μm以下であることが好ましい。
また、前記樹脂シート積層鋼板において、前記樹脂シート(b)と前記鋼板との間に、100〜160℃での貯蔵弾性率G’が0.05MPa以上100GPa以下である接着層が積層されていてもよい。
本発明に係る樹脂シート積層鋼板は、軽量で剛性及び耐衝撃性が高く、かつ、制振性能、加工性及び耐熱形状安定性に優れる。そのため、本発明に係る樹脂シート積層鋼板を、自動車や家電、家具、OA機器等の部材等の熱間塗装部材用として好適に適用することができる。
本発明の一実施形態に係る樹脂シート積層鋼板の全体構成の一例を示す説明図である。 同実施形態に係る金属板の構成の一例を示す上面図である。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
[樹脂シート積層鋼板の構成]
初めに、図1を参照しながら、本発明の一実施形態に係る樹脂シート積層鋼板の全体構成について説明する。図1は、本実施形態に係る積層鋼板の全体構成の一例を示す説明図である。
図1に示すように、本実施形態に係る樹脂シート積層鋼板は、金属板を包埋した厚みtの樹脂シート(a)の上下両面に、当該樹脂シート(a)側から、厚みtの樹脂シート(b)と鋼板とが順次積層された構造を有している。すなわち、樹脂シート(a)の上下両面に樹脂シート(b)が積層され、さらに、樹脂シート(b)の樹脂シート(a)と接する面の反対側の面に鋼板が積層されている。
このように、2枚の鋼板間に、軽量な樹脂を基材とする樹脂シート(a)及び樹脂シート(b)が積層されていることにより、同じ厚みの1枚の鋼板やAl板等よりも軽量化することができる。すなわち、鋼板のうち剛性・耐衝撃性への寄与の小さな中央部を樹脂シートのような軽量部材で置換することにより、鋼板の厚肉化及び軽量化を達成することができる。このように、鋼板を厚肉化することにより、剛性(Etに比例、E:ヤング率、t:板厚)及び耐衝撃性(σYに比例、σY:降伏強度)を保持しながら、軽量化が可能となる。また、本実施形態では、樹脂シート(a)の内部に金属板が包埋されていることにより、剛性及び耐衝撃性も確保することができる。
また、本実施形態に係る樹脂シート積層鋼板では、樹脂シート(a)が樹脂シート積層鋼板の厚み方向の中央部に偏在している。具体的には、本実施形態に係る樹脂シート積層鋼板では、下記(1)式で表されるA値が0.1以上0.75以下となるような範囲に、樹脂シート(a)が配置されている。
A値=t/(t+2t) ・・・(1)
このように、金属板を包埋する樹脂シート(a)が、樹脂シート積層鋼板の厚み方向の中央部に位置することにより、曲げ変形しても樹脂シート(a)のせん断変形による中立軸の移動がなくなる。そのため、本実施形態に係る樹脂シート積層鋼板では、広い範囲で圧縮変形及び引張り変形でき、応力を分散させることができる。従って、本実施形態に係る樹脂シート積層鋼板は、延性に優れたものとなるので、延性が特に求められる用途の鋼板として使用することが特に好適である。
以下、樹脂シート(a)、樹脂シート(b)、鋼板の順に、それぞれの構成を説明した後に、樹脂シート(a)が中央部に偏在する意義について説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて、本実施形態に係る樹脂シート積層鋼板を構成する樹脂シート(a)と樹脂シート(b)をまとめてコア層と称し、樹脂シート積層鋼板の表層側に積層された鋼板を表層鋼板と称する場合がある。
(樹脂シート(a)の構成)
本実施形態に係る樹脂シート(a)は、上述したように、金属板を包埋しているが、「金属板を包埋する」とは、当該金属板全体の体積の90%以上に相当する部分が樹脂シート内に包埋された状態(覆い包まれた状態)を意味する。樹脂で金属板を包埋することにより、樹脂シート(a)の弾性率や引張強度を増加させることができ、これにより、樹脂シート(a)の剛性や衝撃強度を増大させることができる。より詳細には、樹脂シートと鋼板を積層した樹脂シート積層鋼板においては、板厚方向に応力が加わる曲げ変形に対して、応力分布が不連続になる傾向にある。この結果、樹脂シート積層鋼板を曲げ変形した場合には、大変形、強加工時に特有の変形挙動(上下の表層鋼板のズレ、コア層の圧縮変形)を示すことがある。従って、樹脂シート積層鋼板の変形挙動は、単一鋼板の挙動から2枚板(2枚積層された鋼板)の挙動に近づく傾向となる。この傾向は、表層鋼板とコア層との降伏強度の差が大きいほど顕著となる。そこで、本実施形態では、樹脂シート(a)に金属板を包埋させ、樹脂シート基材を補強することとしている。このように、金属板を用いて樹脂シートを補強することにより、軽量性を保持しながら、表層鋼板とコア層との降伏強度の差を小さくし、上記のような2枚板の変形挙動を抑制することができる。
また、樹脂により包埋されていない鋼板やAl板等の金属板自体を使用する場合と比較して、樹脂で包埋された金属板を使用することにより、層全体の厚みを確保しながら軽量化することができる。さらに、軽量化の観点から、金属板として、細孔部を有する金属板を使用することもでき、この場合には、樹脂により金属板の細孔部を充填できる。従って、本実施形態に係る樹脂シート積層鋼板においては、樹脂シート(a)と樹脂シート(b)との接着面積を増大させ、樹脂シート(a)と樹脂シート(b)との密着力を増強させることができる。
本発明に使用する樹脂シート(a)の基材となる樹脂種を特に限定するものではないが、樹脂シート(a)の基材としては、例えば、ヤング率が50MPa以上で、かつ、180℃での貯蔵弾性率が1MPa以上の樹脂を使用することが好ましい。ここで、本実施形態において、ヤング率としては、ASTM−D638でのヤング率の値を用い、180℃での貯蔵弾性率としては、10Hzで変位もしくは荷重を振動させ、2〜5℃/分で常温から180℃以上に上昇したときの180℃における貯蔵弾性率の値を用いることができる。
基材樹脂のヤング率を50MPa以上とすることにより、曲げ変形した場合に、樹脂シート(a)が座屈することを抑制して、塑性変形域での曲げモーメントを向上させることで、樹脂シート積層鋼板が十分な耐衝撃性を発現することができる。また、せん断耐力が十分となるため、曲げ変形を加えた場合に、樹脂シート(a)のずり変形により樹脂シート積層鋼板が一体となって変形しない、即ち、内側鋼板が先に進み外側鋼板が遅れるような変形の相対ずれを引き起こすことを防止できる。この結果、樹脂層(a)、(b)、鋼板が各々独自の中立軸を持って変形することがなくなり、剛性の低下を抑制することができる。あるいは、ずれによって発生した残留応力により、スプリングバック、カモメ形状等の形状不良を誘発しにくくすることができる。また、180℃での貯蔵弾性率を1MPa以上とすることにより、熱間焼付け塗装した場合に軟化してクリープ変形し、残留応力への耐力が不足してスプリングバック等の形状不良を誘発することを抑制できる。
上記のヤング率や貯蔵弾性率を有する基材樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム状弾性体からなる樹脂、あるいは、これらの樹脂の1種または2種類以上の混合物などがあるが、具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート等のポリエステル樹脂、6ナイロン、66ナイロン、12ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル等の縮重合系熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、ポリエステルメラミン系樹脂等の熱硬化樹脂や、これらの混合物等を挙げることができる。これらの樹脂のうち、特に、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、6ナイロンが、引張り強度、伸びが大きく、耐衝撃性や加工性に優れるので好ましい。また、これらの樹脂のシート成形性や耐衝撃性等を改質する目的で、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、硬質、軟質塩化ビニル等のハロゲン化ビニル樹脂、高密度、低密度もしくはリニア低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、アモルファスポリオレフィン等の汎用ビニル系樹脂、アイオノマー、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー等のエラストマー系樹脂、ポリカーボネート等の縮重合体を、上述した基材樹脂に混合してもよい。
また、樹脂シート(a)の基材は、前記金属板と樹脂シートとの密着力を確保するために、カルボキシル基、酸無水物基、リン酸基、スルホン基又はこれらの金属塩や活性基、エポキシ基、水酸基、アミノ基、カルボニル基、エステル結合基、カーボネート結合基、アミド結合基、イミド結合基等の極性基が導入されている樹脂を含有する樹脂シートであることが好ましい。上記の理由から最も好ましい樹脂基材は、ポリエステル樹脂もしくはポリアミド樹脂であり、より具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、6ナイロン、66ナイロン、12ナイロンが最も好ましい。耐熱性があり、かつ分子鎖中のエステル基、アミド基、あるいは末端カルボキシル基や、水酸基、アミノ基等の極性基により前記金属板と樹脂シート間に良好な密着性を確保できる。さらに強度と靭性等の機械特性バランスも良い。さらに好ましくは、分子鎖末端の70%以上にカルボキシル基を残留したポリエステル樹脂もしくはポリアミド樹脂からなる樹脂シートが好ましい。カルボキシル基が最も金属板との密着力が大きいので、カルボキシル基が多いほど密着力を強化できる。なお、これらの樹脂は、カルボキシル基含有モノマーを若干多く配合する、2官能以上のカルボキシル基を含有する化合物で末端封止する等により重合して得られる。また、末端カルボキシル基残留率は、親和性のある溶媒に溶解した樹脂シート基材をアルカリ溶液中和滴定して求めた末端基数とSEC(Size Extrusion Chromatography)で求めた数平均分子量から算出した末端基数との比から算出できる。
また、樹脂シート(a)に包埋する金属板の金属種は、特に制限するものではない。具体的には、樹脂シート(a)に包埋する金属板としては、鉄合金、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、銅板、マグネシウム合金板あるいはこれらの箔等が挙げられる。軽量性の面からはアルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム合金が特に好ましい。一方、加工性及び鋼板との接合の面からは、表層鋼板と同一材質の鋼板が前記金属板として特に好ましい。このように、樹脂シート(a)に包埋する金属板の金属種は、軽量性、加工性、接合性等の必要優先順位に応じて適宜選択できる。また、包埋する金属板は、単一であっても、複数の同一もしくは異なる金属板の積層体であってもよい。
また、樹脂シート(a)に包埋する金属板は、軽量化するために、金属板の全体積に対して30体積%以上の体積率を有する細孔部が形成されていることが好ましい。さらに、この細孔部の開孔凹みの細孔バーの大きさ(幅)がバー厚みの0.2倍以上かつ2倍以下であることが好ましい。ここで、細孔部とは、金属表面もしくは側面、あるいは表面及び側面の双方に設けられた細孔であり、完全に貫通した細孔でも、部分的に貫通した細孔でも、貫通してない凹み状の細孔であっても、あるいはこれらの組み合わせであってもよい。細孔部の体積率を30体積%以上とすることにより、金属板を軽量化し、かつ包埋効果により剛性も高めることができる。さらに、30体積%以上の体積率で細孔部を設けると、この細孔部に充填された樹脂により振動吸収能を高め、制振性を付与できる。細孔部の体積率は、軽量性の面から50体積%以上が好ましく、さらには60体積%以上、より好ましくは75体積%以上85体積%以下が望ましい。細孔部の体積率が85体積%超では、軽量効果は大きいが金属板自体の強度が小さく、補強効果が十分に発現できない場合がある。
ここで、図2に示すように、金属板の細孔のバーの幅Dは、最隣接細孔部間にある金属部の最小幅で定義される。具体的には、金属板の最端部に位置する細孔を除外して細孔部を任意に10個以上抽出し、最隣接細孔間にある金属部の最小幅測定して平均化することで測定できる。上記のように定義された細孔バーの大きさは、バー厚みの0.2倍以上、2倍以下が好ましい。0.2倍未満では、せん断変形し、曲げ剛性や、塑性域のモーメントが小さくなる場合がある。一方、2倍超では金属板の剛性が大きくなるため、樹脂シート積層鋼板の加工時にコア層がせん断変形に追従できずに、密着力不足により表層の鋼板とコア層のずれが発生して、同様にせん断変形し、曲げ剛性や、塑性域のモーメントが小さくなる場合がある。せん断によるコア層の変形およびズレを防止する観点から、細孔のバーの大きさは前記金属板の凹み加工前の厚みの0.6倍以上、1.5倍以下、より好ましくは、0.8倍以上、1.2倍以下である。
また、金属板の細孔部サイズ(細孔の形状を円に近似したときの細孔断面の直径)は、平均サイズが加工金型最小曲率の1/2以下であることが好ましい。1/2超では、金型との接触面が細孔サイズよりも小さくなるため、細孔部とバーの間で加工圧力が不均一に加わり、表層鋼板に凹凸模様が発生して意匠性が悪化したり、加工時に樹脂シート積層鋼板が滑り、所望の寸法で曲げ加工ができない場合がある。1/2以下であれば、接触面の大きさが細孔サイズよりも大きいため、当該欠陥は発生し難い。
細孔部の形状を具体的に例示すると、六角形状、四角形状、三角形状等の多角形状孔、不等辺多角形(ボロノイ多角形)孔等のハニカム溝、円状の丸孔、四角状の角穴の直列、45°もしくは60°千鳥配列、長孔のヘリボン、綾抜き配列、菱形、亀甲型溝等が挙げられる。中でも加工時に等方的に応力が加わる六角形状、四角形状、三角状の正多角形ハニカム溝、丸孔の直列、45°もしくは60°千鳥配列が最も好ましい。
樹脂シート(a)に包埋される金属板の細孔部は、公知の穿孔加工、エキスパンドメタル加工やハニカムセル加工、エッチング等で付与することができる。具体的に例示すると、打ち抜きプレス加工で厚み方向に開孔する加工、表面に凹凸を有する金属板をプレス加工し、これらの凸部同士を接合して側面部及び表面に開孔する加工、あるいは、薄肉ハニカムセルを一定間隔で折曲させた壁材を積層して相互に接着した後、当該壁材を機械的に牽引して厚み方向に開孔する加工、形状を印刷した細孔部を開孔した耐酸性膜を金属板両面に塗布したのちに酸性液でエッチング開孔する方法等が挙げられる。中でも、コストや生産効率、表面の平坦性から、パンチングによる穿孔加工が最も好ましい。
また、本実施形態に係る樹脂シート(a)の基材は、軽量効果を発現するため、発泡体であることが好ましい。この場合の発泡体の発泡倍率は、2倍以上、4倍以下が好ましい。発泡倍率が4倍超では弾性率やせん断強度が低下し、加工時にせん断破壊、座屈し易い。一方、発泡倍率が2倍未満では軽量効果が小さい。
樹脂シート(a)の基材として発泡体を使用する場合には、隣接する気泡間の距離(隣接気泡間距離)が0.1μm以上5μm以下になるように気泡が分散していることが好ましい。隣接気泡間距離を0.1μm以上にすることにより、応力を各気泡/樹脂界面に集中させることにより分散できる。また、隣接気泡間距離を5μm以下に制御することにより、気泡/マトリックスポリエステル界面に集中した応力により形成された塑性変形領域を連続させることができ、亀裂伝播を阻止して樹脂シートの靭性を向上できる。この結果、冷間強加工しても発泡樹脂層での破壊を防止し易い。より好ましくは、隣接気泡間距離が、2.0μm以下、さらに好ましくは1.0μm以下である。小さいほど塑性変形領域を連続させ、靭性を向上し易い。さらに、平均気泡径は0.1μm以上、10μm以下、好ましくは、5μm以下、より好ましくは3μm以下に制御することが好ましい。気泡径が0.1μm未満の場合、応力を気泡/マトリックスポリエステル界面に集中させ難い。気泡径が10μm超では、隣接気泡間距離を上記の好ましい範囲に制御し難い。ここで、気泡径、隣接気泡間距離は、発泡シートの断面を走査型電子顕微鏡などで観察し、画像処理することなどで評価できる。具体的には断面顕微鏡像を2値化し、円の面積として置き換えた場合の直径である等価円直径の平均値で気泡径を算出できる。さらに、気泡の中心を結ぶ直線上の気泡周間の距離から最隣接気泡間距離を見積もれる。
また、樹脂シート(a)に包埋する金属板と樹脂基材との体積比は、特に制限するものではないが、包埋した金属板の樹脂シート内の体積占有率(=金属板体積(開孔部除外)/(樹脂シート体積+金属板体積(開孔部除外))×100)が、3体積%以上、90体積%以下であることが好ましい。3体積%未満では、十分な補強効果が発現し難い。一方、90体積%超では、包埋して厚みを稼ぐ効果が小さくなり、十分な剛性、衝撃強度が発現できない場合がある。
(樹脂シート(b)の構成)
本実施形態に係る樹脂シート(b)の基材となる樹脂種を特に限定するものではないが、樹脂シート(b)の基材としては、上述した樹脂シート(a)と同様の理由から、例えば、ヤング率が50MPa以上で、かつ、180℃での貯蔵弾性率が1MPa以上の樹脂を使用することが好ましい。ここで、本実施形態において、ヤング率としては、ASTM−D638でのヤング率の値を用い、180℃での貯蔵弾性率としては、10Hzで変位もしくは荷重を振動させ、2〜5℃/分で常温から180℃以上に上昇したときの180℃における貯蔵弾性率の値を用いることができる。また、樹脂シート(b)の基材は、上述した樹脂シート(a)と同一であっても、異なってよいが、樹脂シート(a)と樹脂シート(b)との間の密着力の確保、せん断のずれ変形を防止する観点から、樹脂シート(a)と樹脂シート(b)の基材とは同一樹脂、もしくは、同一樹脂をマトリックスにした樹脂混合物であることが好ましい。異なる場合は、FedorsやSmallの方法により見積もった溶解度パラメーターとヤング率の差が各々2MJ/m以下、20MPa以下であることが、密着性、加工時の変形の均一性から好ましい。
樹脂シート(b)の基材となる樹脂種としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム状弾性体からなる樹脂、あるいは、これらの樹脂の1種または2種類以上の混合物などがあるが、具体例としては、上記ヤング率及び貯蔵弾性率を有する樹脂として、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート等のポリエステル樹脂、6ナイロン、66ナイロン、12ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル等の縮重合系熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、ポリエステルメラミン系樹脂等の熱硬化樹脂や、これらの混合物等を挙げることができる。これらの樹脂のうち、特に、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、6ナイロンが、引張り強度、伸びが大きく、耐衝撃性や加工性に優れるので好ましい。また、これらの樹脂のシート成形性や耐衝撃性等を改質する目的で、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、硬質、軟質塩化ビニル等のハロゲン化ビニル樹脂、高密度、低密度もしくはリニア低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、アモルファスポリオレフィン等の汎用ビニル系樹脂、アイオノマー、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー等のエラストマー系樹脂、ポリカーボネート等の縮重合体を、上述した基材樹脂に混合してもよい。
また、樹脂シート(b)の基材も軽量化のため、発泡体であることが好ましい。発泡体の場合は、上述の樹脂シート(a)と同様、既述の気泡径、隣接気泡径距離に気泡が分布していることが好ましい。
(樹脂シート(a)と樹脂シート(b)の積層)
樹脂シート(b)を樹脂シート(a)に積層する際には、直接積層しても接着剤を介して積層してもよい。樹脂シート(a)と樹脂シート(b)もしくは接着剤層との密着力を増加するために、樹脂シート(a)もしくは樹脂シート(b)の表面は、コロナ処理、プラズマ処理、UV処理等の公知の表面処理を施して、臨界表面張力を増加させ、樹脂層(b)や接着剤との密着性を改善してもよい。また、樹脂シート(b)と表層鋼板との密着性確保の観点から、積層前に上記の表面処理により臨界表面張力を45dyn/cm(mN/m)以上に制御することが好ましい。また、接着剤を介して積層する場合は、後述の接着剤を使用することが、密着性と耐熱形状安定性から好ましい。
(鋼板について)
本実施形態に係る樹脂シート積層鋼板を構成する鋼板(表層鋼板)の種類については、特に制限するものではない。具体的には、表層鋼板の鋼板種としては、Alキルド極低炭素鋼板、Alキルド低炭素鋼板、Al−キルド中炭素鋼板、Al−Siキルド鋼板、Siキルド鋼板、ステンレス鋼板等が挙げられ、熱延鋼板、冷延鋼板のいずれであっても良い。
また、当該表層鋼板には、適正なめっきや、密着力や防錆等の目的で化成処理が施されていても良い。具体的にめっき種を例示すると、錫めっき、薄錫めっき、電解クロム酸処理、ニッケルめっき等の缶用鋼板の表面処理や、溶融亜鉛めっき、溶融亜鉛−鉄合金めっき、溶融亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき、溶融アルミニウム−シリコン合金めっき、溶融鉛−錫合金めっき等の溶融めっきや、電気亜鉛めっき、電気亜鉛−ニッケルめっき、電気亜鉛−鉄合金めっき、電気亜鉛−クロム合金めっき等の電気めっき等が挙げられる。また、化成処理を例示すると、クロメート処理(反応型、塗布型、電解)、リン酸塩処理、有機樹脂処理等が挙げられる。化成処理は、めっき上でも鋼板表面に直接施していてもよい。さらに、本実施形態で使用する鋼板は、塗装鋼板、プリント鋼板、フィルムラミネート鋼板のような表面処理鋼板であっても良い。
さらに、異なる鋼種の表層鋼板間に、樹脂シート(a)と樹脂シート(b)とからなるコア層を積層してもよい。具体的には、曲げ加工、絞り加工する用途では、強度が異なる鋼板間に本実施形態に係る樹脂シート(a)及び樹脂シート(b)を積層し、加工性を改善することが可能である。より詳細には、加工曲率rが小さく加工の厳しい面に軟鋼を使用し、他面には強度確保のため、高張力鋼を使用すること等も可能である。
(樹脂シート(b)と鋼板との接合)
本実施形態に係る樹脂シート(b)と表層鋼板との接合方法としては、表層鋼板に直接樹脂シート(b)を積層して接合しても、表層鋼板と樹脂シート(b)との間に接着剤層を積層して接合してもよい。接着剤層を積層する場合、接着剤としては、樹脂シート(b)(以下、樹脂シート(a)の場合も同様である。)と表層鋼板の双方に親和性を有するものを使用する。樹脂シート(b)との接着剤との親和性は、接着剤と樹脂シート(b)との溶解度パラメーターの差が所定値以下であること、もしくは、極性基がある樹脂シートの場合には、この極性基と共有結合、水素結合、イオン相互作用、配位結合等の化学結合、又は、電荷の移動を伴わない物理結合等を形成できる官能基(結合基を含む)が接着剤に導入されていることが目安となる。溶解度パラメーターは、構成するユニットの化学構造等からFedorsやSmallの方法等で推定することができる。接着剤と樹脂シート(b)との溶解度パラメーターの差は、好ましくは6MJ/m以下であり、より好ましくは3MJ/m以下、さらに好ましくは2MJ/m以下である。接着剤と樹脂シート(b)との溶解度パラメーターの差が小さいほど両者の相溶性が向上し、初期密着性が向上する。一方、実用上の樹脂シート(b)/接着剤間の適正な密着力は、2枚の前記樹脂シートを接着剤で接着し、Tピール強度で評価できる。Tピール強度は、20N/cm以上が好ましく、より好ましくは30N/cm以上であり、更に好ましくは45N/cm以上であり、更により望ましくは60N/cm以上である。Tピール強度が20N/cm未満では、鋼板積層直後の初期密着強度が小さく、加工時や加工後の加熱で前記樹脂シートと接着剤との界面で剥離する場合がある。
鋼板との実用的な親和性は、2枚の鋼板間を接着剤で接着した試験片のTピール試験(JIS Z 0238)により評価できる。樹脂シート/接着剤間と同様の強度範囲にあることが、望ましい。樹脂シート/接着剤界面と同様に、Tピール強度が20N/cm以上が好ましく、20N/cm未満では、鋼板−接着剤界面が密着力ネックになり、加工時や加熱時に剥離する場合がある。より好ましくは30N/cm以上であり、更に好ましくは45N/cm以上であり、更により望ましくは60N/cm以上である。
また、加工後にも耐熱形状安定性を保持するため、接着剤の100〜160℃での貯蔵弾性率G’は、0.05MPa以上100GPa以下であることが好ましい。0.05MPa未満では、樹脂シート積層鋼板を成形する場合に発生した鋼板/接着剤界面の残留応力により、樹脂シート積層鋼板の成形品を当該温度に加熱すると、接着剤層がクリープ変形し、接着剤層が破壊したり、接着剤層を起点とした剥離を引き起こす場合がある。好ましくは、接着剤の貯蔵弾性率G’は、G’>1.0MPa、より好ましくはG’>5MPaが望ましい。一方、接着剤の貯蔵弾性率G’が100GPa超の場合、常温のG’はより大きくなるので、加工追従性が低下して加工時に破壊し、接着剤層を起点とした剥離を生じ易くなるおそれがある。なお、接着剤層の貯蔵弾性率G’は、周波数0.1〜10Hzで測定した接着剤層の貯蔵弾性率の最大値で評価できる。熱硬化性接着剤の場合は、積層条件と同一の熱履歴を付与して架橋硬化した接着剤フィルム、熱可塑性接着剤の場合は接着剤フィルムを公知の動的粘弾性測定装置で測定できる。
さらに、接着剤層の100〜160℃での損失弾性率G”と貯蔵弾性率G’の比tanδ(=G”/G’)は、tanδ<1が好ましく、より好ましくはtanδ<0.8、より好ましくはtanδ<0.5、さらに好ましくはtanδ<0.1が望ましい。tanδが小さいほど、加熱しても残留応力による接着剤層のクリープ変形を抑制し、形状を安定化できる。一方、tanδ≧1では、100〜160℃に加工品を加熱すると、接着剤層が粘性流動し、形状が不安定になったり、クリープ変形破壊して剥離したりする場合がある。
接着剤層に使用可能な接着剤の具体例としては、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアミド系、ポリベンズイミダゾール系、アクリレート系等の熱硬化樹脂系接着剤、酢酸ビニル樹脂系、ポリビニルアセタール系、エチレン−酢酸ビニル系樹脂系、塩ビ系、アクリル、アクリレート樹脂系、ポリアミド系、セルロース系、ポリエステル系、ポリオレフィン系等の熱可塑性樹脂系接着剤、アスファルト、天然ゴム、たんぱく、でんぷん系等の天然接着剤、ニトリルゴム、スチレン系ゴム、ポリサルファイド系、ブチルゴム系、シリコンゴム系、アクリルゴム系、変性シリコンゴム系、ウレタンゴム系、シリル化ウレタンゴム系等のエラストマー系接着剤、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランあるいは、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤、チタンカップリング剤等の無機系接着剤等が挙げられ、樹脂シートの種類に応じて適宜選択できる。樹脂シートがポリアミド系樹脂もしくはポリエステル系樹脂の場合、樹脂シート及び鋼板双方への親和性から、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系の接着剤が好ましい。さらに、接着剤の耐熱性から、これらの接着剤基材に架橋剤を添加した反応型ホットメルト接着剤が好ましく、中でもポリエステル系接着剤基材に架橋剤を添加したポリエステル系反応型ホットメルト接着剤が、ハンドリング性の面から特に好ましい。
ポリエステル接着剤基材を例示すると、先に挙げたジオール残基とジカルボン酸残基からなる飽和ポリエステルが挙げられる。中でも、複数のジオール残基または複数のジカルボン酸残基、あるいはこれらの組み合わせからなる共重合ポリエステルが、結晶化度を下げて接着性を向上できるので好ましい。具体的には、1,4−ブタジオールとテレフタル酸残基を主成分にして他のジオール残基やジカルボン酸残基を共重合したポリエステルが好ましく、より具体的に例示すると、東洋紡績製“バイロン(登録商標)”、旭日化成製“ハーデック(登録商標)”、東レ製“ケミット(登録商標)”、東亜合成製“アロンメルト(登録商標)PES”、日本合成化学工業製“ポリエスター(登録商標)”等が挙げられ、非晶質グレードよりも結晶グレードの方が、耐熱性の面から好ましい。
架橋剤を例示すると、イミダゾール、イソシアネート、エポキシ樹脂、フェノールノボラック化合物、メラミン化合物等が挙げられる。中でも、架橋反応速度制御性からイソシアネート化合物が最も好ましい。イソシアネート化合物とは、2個以上のイソシアネート官能基を有する芳香族もしくは脂肪族イソシアネート化合物、及びこれらの混合物である。具体的には、ジフェニルメタンジイソシアネート化合物(MDI)、カルボジイミド変性MDI、ジフェニルメタン4,4−ジイソヒアネート、ジフェニルメタン−2,2’−ジイソシアネート、ジフェニル−メタン−2,4’−ジイソシアネート、オリゴマーフェニルメチレンイソシアネート(TDI)、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)、ナフチレンジイソシアネート、トリファニルメタントリイソシアネート等の芳香族イソシアネート化合物、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水素化芳香族ジイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート等の脂肪族のジイソシアネート、トリイソシアネート、ポリイソシアネートを挙げることができる。
(コア層内における樹脂シート(a)の配置)
本実施形態に係る樹脂シート積層鋼板を構成するコア層は、金属板を包埋する樹脂シート(a)が厚み方向の中央部に偏在する構造を有している。このように、樹脂シート積層鋼板の厚み方向の中央部に、ヤング率や降伏強度の大きな金属板を包埋する樹脂シート(a)を偏在させることにより、樹脂シート積層鋼板の曲げ変形時に、コア層のせん断変形による中立軸の移動を抑制することができる。この結果、樹脂シート積層鋼板の撓み量が大きくなっても、内側の表層鋼板の曲げ曲率をほぼ一定に保持でき、内側の表層鋼板の破断を抑制することができる。一方、樹脂シート積層鋼板の厚み方向の中央部に樹脂基材が位置している場合には、コア層の中央部が金属板等により補強されていないため、樹脂シート積層鋼板の撓み量の増大に伴い、コア層のせん断変形により中立軸が内側に移動することとなる。この結果、内側の表層鋼板の曲率が小さくなり、小さな撓みで破断してしまうこととなる。以上のように、本実施形態に係る樹脂シート積層鋼板では、コア層の中央部が樹脂基材が位置している樹脂シート積層鋼板と比較して、広い範囲で圧縮変形及び引張り変形でき、応力を分散させることができ、本実施形態に係る樹脂シート積層鋼板の延性を向上させることができる。従って、延性が特に求められる用途の鋼板としては、本実施形態に係る樹脂シート積層鋼板を使用することが好適である。また、本実施形態のように、必要最低限の部位のみに、樹脂シートを補強するための金属板を配置することにより、更なる軽量化が可能となる。
ここで、本実施形態において、「樹脂シート(a)が中央部に偏在する」とは、下記(1)式で表されるA値が、0.1以上0.75以下であることを意味している。
A値=t/(t+2t) ・・・(1)
A値が0.1未満の場合には、コア層内に占める非補強部位(金属板が配置されていない部位)が大きい。そのため、当該非補強部位が圧縮変形・せん断変形し、コア層の断面が変形する結果、上下の鋼板のズレが発生してしまう。また、金属板によるコア層(樹脂シート)の補強効果が小さく、耐熱性の低いポリオオレフィン樹脂などを使用した場合には、オンライン塗装時に変形する場合がある。一方、A値が0.75を超える場合には、樹脂シート積層鋼板全体の厚みを確保できないため、剛性や耐衝撃性が不十分となる。
また、樹脂シート(b)のせん断変形及び圧縮変形の防止効果と、樹脂シート積層鋼板の軽量化とのバランスを考慮すると、A値は、0.3以上0.6以下であることが好ましい。
(その他)
本発明の樹脂シート積層鋼板の総厚み、表層鋼板、コア層の構成厚み比は、特に限定するものではなく、加工性及び曲げ剛性D、塑性域での曲げモーメント(耐衝撃性の評価指標)と軽量化のバランスによって決定できる。
Figure 0005163672
Figure 0005163672
Figure 0005163672
ここで、t:積層鋼板トータル厚み、Es1、Es2、Eb1、Eb2、E:下面・上面鋼板、下面・上面樹脂シート(b)、樹脂シート(a)のヤング率、TSs1、TSs2、TSb1、TSb2、TS:下面・上面鋼板、下面・上面樹脂シート(b)、樹脂シート(a)の引張り強度、ρs1、ρs2、ρb1、ρb2、ρ:下面・上面鋼板、下面・上面樹脂シート(b)、樹脂シート(a)の密度、ts1、ts2、tb1、tb2、t:下面・上面鋼板、下面・上面樹脂シート(b)、樹脂シート(a)の厚み、vs1、vs2、vb1、vb2、v:下面・上面鋼板、下面・上面樹脂シート(b)、樹脂シート(a)の体積率である。
好ましい鋼板の厚みは0.2〜2.0mmである。鋼板厚みが0.2mm未満では、加工時に表層鋼板が座屈する場合がある。一方、鋼板厚みが2.0mmを超えると、軽量化効果が不十分になり易く、かつ、積層鋼板の曲げ剛性が大き過ぎて加工性が低下し易い。軽量化及び加工性の観点から、鋼板厚みは1.0mm以下が好ましい。また、加工性を改善するために、上層と下層との鋼板厚みを変更することも可能である。例えば、曲げ加工時に曲率が小さく、より厳格な加工性が要求される内周側の鋼板厚みを外周側よりも厚くすることも可能である。
また、好ましいコア層の厚みは0.01mm〜30mmである。コア層の厚みが0.01mm未満では、積層鋼板トータルの厚みが稼げないため、軽量性を維持して耐衝撃性を大きくすることが困難となる場合がある。また、コア層の厚みが30mmを超えると、積層鋼板自体の剛性が大きくなるため、樹脂シート層(コア層)に加わるせん断変形が大きくなり、加工時にせん断破壊し易い。
また、接着剤層を介して前記樹脂シートを鋼板に積層する場合は、接着層厚みは経済性から、30μm以下が好ましい。また、接着層の効果を十分発揮するためには、接着層の厚さは1μm以上であるのがより好ましい。
[樹脂シート積層鋼板の製造方法]
本実施形態に係る樹脂シート積層鋼板は、公知の鋼板ラミネート方法を適用して製造することが可能である。具体的には、以下の工程等で製造することができる。
(1) Tダイスから押し出す際に、可塑化した樹脂に金属板を圧着して包埋して樹脂シート(a)を製造する。
(2) 樹脂シート(a)及び樹脂シート(b)の両面に必要に応じて接着剤を塗布し、鋼板、樹脂シート(b)、樹脂シート(a)、樹脂シート(b)、鋼板の順に積層し、常温もしくは加熱しながら加圧する。
特に樹脂シート(a)もしくは樹脂シート(b)の基材が発泡体である場合は、事前に発泡したシートを積層したり、化学発泡剤(熱分解型発泡剤等)や物理発泡剤(ハロゲン化水素やエーテル化合物等)、COやN等の不活性ガスを含侵した樹脂シートを積層して、圧着時に軟化温度以上に加熱して発泡させても良い。また、上記発泡剤を樹脂シートに含侵させ、(2)の常温圧着の工程で積層させ、所定の形状に積層鋼板を成形した後に、加熱発泡して所定の厚みに制御することもできる。中でも加工後に加熱発泡する方法が最も好ましい。加工時に表層鋼板に加わる負荷を軽減し、表層鋼板の割れや剥離等の成形不良を防止し易い。
本実施形態に係る樹脂シート積層鋼板は、金属板を包埋した樹脂シート(a)の上下両面に樹脂シート(b)、鋼板を順次積層してなる積層鋼板である。金属板を包埋した樹脂シート(a)の上下両面に樹脂シート(b)を積層することにより、樹脂シート積層鋼板の曲げ変形時における中立軸の移動を抑制することができる。この結果、樹脂シート積層鋼板の撓み量が大きくなっても、内側の表層鋼板の曲げ曲率を一定に保持でき、内側の表層鋼板の破断を抑制することが可能となる。
さらに、樹脂シート(a)及び樹脂シート(b)基材のヤング率を50MPa以上にすることにより、コア層のせん断変形に対する耐力を増加でき、曲げ変形しても積層鋼板が一体となって変形し、剛性を保持できる。また、曲げ変形の際にコア層の座屈を防止し、耐衝撃性に必要な塑性域での曲げモーメントを確保できる。そして、180℃での貯蔵弾性率を1MPa以上にすることにより、加工後に熱間焼付け塗装をしても、クリープ変形を防止し、形状を保持できる。この結果、軽量で剛性、耐衝撃性が高く、かつ、加工性及び形状安定性に優れ、熱間塗装部材にも好適に適用できる樹脂シート積層鋼板として好適に使用することが可能である。さらに、樹脂シートの粘弾性効果や断熱機能により、防振、遮音したり、保温性も付与できる。
この結果、本発明の樹脂シート積層鋼板は、自動車や家電、家具、OA機器等の部材用として好適に適用できる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。
(樹脂シートの作成)
ユニチカ製ポリエチレンテレフタレート(PET)(1346P)、東レ製ポリブチレンテレフタレート(PBT)(トレコン1401)、宇部興産製6−ナイロン(1013A)、三井デシュポン製アイオノマー(ハイミラン1702)、JSR製エチレンブテンゴムEBMを原料として、Tダイス付押し出し機(押し出し温度230〜250℃)で、0.4〜0.7mm厚みのPET、PBT、PET/EBM/アイオノマー=90/10/10(質量比)としたアロイポリマー(ポリエステル系樹脂シート)、ナイロンの各種樹脂シートを作成した。さらに、ホモポリプロピレン(PP)(MFR(Melt Flow Rate)=1.5g/10分、Tm(融点)=159℃)の樹脂シートを、Tダイス付押し出し機(押し出し温度220℃)で、同様にして作成した。
上記のポリエステル系樹脂シート、ナイロンシート及びPPシートに、20MPa、32℃の超臨界COを含侵した。圧力を解放した後、当該含侵ポリエステル系樹脂シート、PPシートを各々260℃、200℃で加熱して発泡させた。加熱後、0℃まで冷却し、気泡の成長を停止させ、発泡シートを得た。含浸時間、加熱時間、冷却速度により発泡率、発泡径を制御し、ポリエステル系樹脂及び6ナイロンの発泡樹脂シートを得た。気泡径は、発泡樹脂シートの断面を走査型電子顕微鏡で観察し、断面顕微鏡画像を画像処理で2値化し、円の面積として置き換えた場合の直径である等価円直径の平均値で気泡径を算出した。平均気泡径は、50個の気泡径の平均値とした。また、最隣接気泡間距離も、前記断面顕微鏡画像を使用して、気泡の中心を結ぶ直線上の気泡周間の距離から最隣接気泡間距離を求めた。以上のようにして作成した樹脂シート及び発泡シートの詳細を下記表1に示す。
Figure 0005163672
(樹脂シート(a)の製造)
下記表2のティンフリースチール(TFS)、SUS箔(SUS304)、冷延鋼板(JISG3141、SPCC)、Al箔(3003)、Al板(A1050P−H24 相当)を使用し、樹脂シート(a)を製造した。金属板3〜9では、表2に示す加工で細孔部を付与した。なお、ハニカム製法加工では、Al箔上に、表3の接着剤をプリントロールで条線状に塗布し、所定のサイズに裁断した。この後、条線状接着剤が半ピッチずれるように多数枚数重ね合わせ、250℃、1MPaで2分間加熱硬化させた。当該ブロックを所定厚みに水流ジェットを利用してスライスし、展伸してAlハニカムを得た。
Figure 0005163672
Figure 0005163672
295mm×295mmの各金属板の両面に300×300mmの樹脂シートを積層して所定温度(ナイロン:250℃、PP:210℃、その他:240℃)に加熱し、10MPaで5分間加熱した後室温まで冷却し、樹脂シート(a)を得た。なお、積層した樹脂シートの金属板と接触する側には、上記表3の接着剤を積層し、金属板/樹脂基材間の密着強度を向上させた。得られた樹脂シート(a)の詳細を表4に示す。
Figure 0005163672
(樹脂シート積層鋼板の製造)
表層鋼板として、TFS(板厚0.18mm、引張り破断伸び35%)、GIめっき鋼板(板厚0.3mm、Znめっき量120g/m、引張り破断伸び45%)、ハイテン鋼板(板厚0.7mm、引張り破断伸び%)を用いた。鋼板、樹脂シート(b)、樹脂シート(a)、樹脂シート(b)、鋼板の順に積層し、前述の樹脂シートが可塑化する温度まで加熱した。加熱後、圧着力10kgf/cm(0.98MPa)で2分間加熱圧着し、この後室温まで冷却して樹脂シート積層鋼板を得た。なお、各層の界面には表4の接着層(厚み3μm)を設けた。各々の樹脂シート積層鋼板の板密度ρを(4)式により算出した。
ρ=vρ+vρ+vρ ・・・(4)
ここで、v、v、v、ρ、ρ、ρは、各々樹脂シート(a)、(b)、表層鋼板の体積分率及び密度である。なお、接着層の厚みは、樹脂シート積層鋼板全体の厚みに比べて、非常に薄いため、その影響は無視できるものとして扱う。
さらに、(7)式で求めた剛性Dから、(5)式で樹脂シート積層鋼板と同一の曲げ剛性を発現するのに必要な表層鋼板単独での板厚みtを算出し、この板比重を(6)式で求めた。樹脂シート積層鋼板の板比重と(6)式の鋼板板比重との比で、曲げ剛性を一定とした場合の軽量度を評価した。
t=(12D/E1/3 ・・・(5)
ρ=ρt ・・・(6)
ここで、Eは表層鋼板のヤング率で180GPaである。
(曲げ剛性、耐衝撃性、延性、加工後耐熱形状安定性、制振性の評価)
上記樹脂シート積層鋼板からASTM D−790に準じて試験片を加工(25×150mm)し、支点間距離50mm、速度5mm/minで3点曲げ試験を実施した。実測撓み−荷重曲線の傾きδ(最大荷重の1/3の荷重までの荷重を使用して算出)を(7)式に代入して、曲げ剛性Dを算出した。
δ=P/48D ・・・(7)
ここで、P:実測荷重、δ:撓み量、l:支点間距離である。
また、(4)式で算出した樹脂シート積層鋼板同一板比重ρを有するTFSの剛性Dを(8)式で算出した。(7)式で求めた樹脂シート積層鋼板の剛性との比を算出し、樹脂シート積層鋼板の剛性を評価した(D/D>1であれば、合理的に増大している)。
=Es/12(ρ/ρ ・・・(8)
また、鋼板の耐衝撃性は、塑性域の曲げモーメントと相関があることが知られていることから、樹脂シート積層鋼板の塑性域の曲げモーメントMを(9)式で算出した。曲げ剛性の評価と同様に、同一板比重のTFSの曲げモーメントMを(10)式で算出し、(9)式で求めた曲げモーメントMとの比で、樹脂シート積層鋼板の耐衝撃性の大きさを評価した(M/M>1であれば合理的に増大している)。
M=Pl/4b ・・・(9)
=T/4(ρ/ρs) ・・・(10)
ここで、P:曲げ最大荷重、T:420(MPa)=鋼板の引張強度、l:支点間距離、b:試験片幅である。
また、延性は3点曲げ試験の破断撓みにより評価した。撓み量が大きいほど、延性は良好である。ただし、試験装置の制約から、撓み量を30mm以上した場合でも破断しない場合は、定量評価せず、非常に良好と記載した。
上記樹脂シート積層鋼板から125×30mmの試験片を切り出し、エリクセン社製20T総合試験機の角型深絞り実験装置(r=100mm、BHF(ブランクホールドフォース):2ton)にて、U型ハット曲げ試験片を作成した。当該加工片を180℃に加熱したオーブンに装入し、2分保持後、オーブンから取り出し、室温まで冷却した。加工後の加熱形状安定性を以下のように評価した。樹脂シート積層鋼板の総板厚と同じ板厚の鋼板(上記表層鋼板と同一鋼種、引張り破断伸び35%)を用いて、同一条件で加工した試験片の幅と上記加工片の幅とを比較し、スプリングバックの大きさを(11)式で評価した(小さいほどスプリングバックが小さい)。
SR=(H鋼板−H樹脂シート積層鋼板)/H鋼板 ・・・(11)
ここで、SR:スプリングバック率、H樹脂シート積層鋼板:樹脂シート積層鋼板ハット曲げ片の高さ、H鋼板:表層鋼板単体のハット曲げ片の高さである。表層鋼板単体よりも樹脂シート複合鋼板のスプリングスプリングバックが大きいと、H樹脂シート積層鋼板<H鋼板となり、SRが大きくなる。
(制振性能の評価)
また、JIS G0602に準拠した片持ち梁共振法により、実施例1及び実施例36の樹脂シート積層鋼板サンプルの制振性能を評価した。ここで、制振性能は、2次共振周波数での損失係数で評価した(大きいほど制振性能が良好)。
以上のようにして得られた各樹脂シート積層鋼板の構成を表5に、表5に示した樹脂シート積層鋼板の物性の評価結果を表6及び表7にそれぞれ示す。
Figure 0005163672
Figure 0005163672
Figure 0005163672
表6,7に示すように、実施例1〜36の評価結果を見ると、本発明の樹脂シート積層鋼板は、同一の剛性を有する単一の鋼板と比較して比重が小さく、軽量性に優れていることがわかる。また、本発明の樹脂シート積層鋼板は、同一の板比重を有する鋼板と比較して曲げ剛性及び塑性域の曲げモーメントが大きく、高剛性かつ耐衝撃特性に優れていることがわかる。
また、比較例1と、実施例3、5、11〜28との比較から、本発明の樹脂シート積層鋼板は、樹脂シート(a)のみをコア層とする同一の総厚みの樹脂シート積層鋼板よりも高い曲げ剛性、耐衝撃性及び延性を発現できることがわかる。これは、樹脂シート(a)が金属板で補強されていることにより、曲げ剛性及び耐衝撃性を向上できるためである、と考えられる。この理由に加えて、本実施例の樹脂シート積層鋼板は、t/(t+2t)(A値)を適正範囲に制御しているため、厚み方向の中央部に、ヤング率Eや降伏強度σの大きな補強金属板を含む樹脂シート(a)が偏在している。これにより、樹脂シート積層鋼板の曲げ変形時の中立軸の移動を抑制できる。この結果、樹脂シート積層鋼板の撓み量が大きくなっても、内側の表層鋼板の曲げ曲率を一定に保持でき、内側の表層鋼板の破断を抑制できたため、樹脂シート(a)のみをコア層とする同一の総厚みの樹脂シート積層鋼板よりも高い曲げ剛性、耐衝撃性及び延性を発現できた、と推定される。
さらに、比較例2と実施例1との比較により、本発明の樹脂シート積層鋼板は、t/(t+2t)≧0.1に制御して樹脂シート(a)と樹脂シート(b)とを積層しているため、高い延性を発現できることがわかる。また、比較例3と実施例32との比較から、本発明の樹脂シート積層鋼板は、t/(t+2t)>0.75に制御して樹脂シート(a)と樹脂シート(b)とを積層すると、厚みが十分に確保できず、剛性及び耐衝撃性に劣ることがわかる。
さらに、比較例4と実施例35との比較から、本発明の樹脂シート積層鋼板は、耐熱性の低い樹脂機材を使用しても、高温に加工サンプルを放置した場合に、加工後の形状を安定して保持できる。これは、樹脂シート(a)と樹脂シート(b)とを、t/(t+2t)が適正範囲になるように制御して積層しているためと推定される。
また、実施例36の樹脂シート積層鋼板の制振性は、実施例1の樹脂シート積層鋼板の制振性よりも優れていた。これは、実施例36の樹脂シート積層鋼板では、金属板の細孔部が樹脂で包埋されているため、制振性が実施例1よりも向上したためと推定される。
以上のことから、本発明によれば、軽量で剛性および耐衝撃性が高く、かつ、加工性、及び加工後の耐熱形状安定性、さらには制振性に優れた樹脂シート積層鋼板を効率的に提供できることが明らかとなった。

Claims (7)

  1. 金属板を包埋した厚みtの樹脂シート(a)の上下両面に、前記樹脂シート(a)側から、厚みtの樹脂シート(b)と鋼板とが順次積層されており、
    下記(1)式で表されるA値が、0.1以上0.75以下であることを特徴とする、樹脂シート積層鋼板。
    A値=t/(t+2t) ・・・(1)
  2. 前記(1)式のA値が、0.3以上0.6以下であることを特徴とする、請求項1に記載の樹脂シート積層鋼板。
  3. 前記金属板に形成された複数の細孔部の体積の合計が、前記金属板の全体積に対して30体積%以上であり、
    前記細孔部間のバーの幅が、当該バーの厚みの0.2倍以上かつ2倍以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の樹脂シート積層鋼板。
  4. 前記バーの幅が、当該バーの厚みの0.6倍以上1.3倍以下であることを特徴とする、請求項3に記載の樹脂シート積層鋼板。
  5. 前記樹脂シート(a)及び前記樹脂シート(b)の基材が、発泡体であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂シート積層鋼板。
  6. 前記発泡体の最隣接気泡距離が、5μm以下であることを特徴とする、請求項5に記載の樹脂シート積層鋼板。
  7. 前記樹脂シート(b)と前記鋼板との間に、100〜160℃での貯蔵弾性率G’が0.05MPa以上100GPa以下である接着層が積層されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂シート積層鋼板。

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