次に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。図8に示すように、トラックに搭載されたレンジ式変速機10は、主変速機11のクラッチ12とは反対側の面に設けられた副変速機13により、主変速機11の変速段数の2倍の段数で変速可能に構成された多段変速装置である。主変速機11は前進5速段と後進1速段とに変速可能に構成され、副変速機13は高速又は低速の2速段に変速可能に構成される。これによりレンジ式変速機10は前進9速段と後進1速段とに変速できるようになっている。クラッチケース12aには入力軸14が挿入され、この入力軸14は第1軸受21により回転可能に保持される。主変速ケース16には主軸17が挿入され、この主軸17は第2及び第3軸受22,23により回転可能に保持される。副変速ケース18には出力軸19が挿入され、この出力軸19は第4及び第5軸受24,25により回転可能に保持される。入力軸14の前端は図示しないがクラッチを介してクランク軸に接続される。主軸17の前端は入力軸14の後端に遊挿されて第2軸受22により回転可能に保持され、出力軸19の前端は主軸17の後端に遊嵌されて第4軸受24により回転可能に保持される。これにより主軸17は入力軸14に対して、出力軸19は主軸17に対してそれぞれ相対回転可能に構成される。また主変速ケース16には上記主軸17に平行にカウンタ軸33が第6及び第7軸受26,27を介して回転可能に挿入される。
一方、主変速機11の第1〜第5変速ギヤ41〜45及びバック用変速ギヤ46の上方には、第1〜第3ギヤシフト軸51〜53が第1〜第5変速ギヤ41〜45及びバック用変速ギヤ46の周囲に円周方向に間隔をあけかつ主軸17に平行にそれぞれ設けられる(図3〜図5及び図8)。これらのギヤシフト軸51〜53は右側から第1ギヤシフト軸51、第2ギヤシフト軸52及び第3ギヤシフト軸53の順に配設され(図3〜図5)、第1〜第3ギヤシフト軸51〜53には第1〜第3主シフトフォーク61〜63がそれぞれ嵌着される(図5及び図8)。また第1〜第3ギヤシフト軸51〜53の上方には、これらのギヤシフト軸51〜53に対して直角に立体交差するセレクトシフト軸66が設けられ、このセレクトシフト軸66にはセレクトシフトレバー67が取付けられる(図3〜図5)。セレクトシフトレバー67は、セレクトシフト軸66に対して相対回動不能であって軸方向に相対移動不能に、セレクトシフト軸66にセレーション又はスプライン(図示せず)により嵌合される。またセレクトシフトレバー67は、セレクトシフト軸66の所定の位置に嵌入された筒状の筒部67aと、この筒部67aから軸方向に間隔をあけて垂下された第1及び第2レバー部67b,67cとを有する。これらのレバー部67b,67cの先端部は第1ギヤシフト軸51と第3ギヤシフト軸53との間に進入するように構成される。なお、セレクトシフト軸はギヤシフト軸に対して立体交差すれば、直角でない角度で立体交差してもよい。
一方、第1〜第3ギヤシフト軸51〜53には第1〜第5係合片71〜75及びバック用係合片76がそれぞれ取付けられ、これらの係合片71〜76は全て第1ギヤシフト軸51から第3ギヤシフト軸53の間に配設される(図3〜図5及び図8)。即ち、第1〜第5係合片71〜75及びバック用係合片76は、ギヤシフト軸51〜53の軸方向に間隔をあけて2列であって、セレクトシフト軸66の軸方向に間隔をあけて3列に配設される。バック用係合片76及び第1係合片71は第1ギヤシフト軸51に取付けられ、第2及び第3係合片72,73は第2ギヤシフト軸52に取付けられ、第4及び第5係合片74,75は第3ギヤシフト軸53に取付けられる。具体的には、バック用係合片76及び第1係合片71は、第1ギヤシフト軸51に嵌着された第1ボス部81に設けられ、第1ギヤシフト軸51の軸方向に間隔をあけかつセレクトシフト軸66に向ってそれぞれ突出するように構成される。また第2及び第3係合片72,73は、第2ギヤシフト軸52に嵌着された第2ボス部82に設けられ、第2ギヤシフト軸52の軸方向に間隔をあけかつバック用係合片76及び第1係合片71から比較的広い間隔をあけて隣接しセレクトシフト軸66に向ってそれぞれ突出するように構成される。また第4及び第5係合片74,75は第3ギヤシフト軸53に嵌着された第3ボス部83に設けられ、第3ギヤシフト軸53の軸方向に間隔をあけかつ第2及び第3係合片72,73から比較的狭い間隔をあけてそれぞれ隣接しセレクトシフト軸66に向ってそれぞれ突出するように構成される。
即ち、バック用係合片76と第2係合片72と第4係合片74がセレクトシフト軸66の軸方向に並んで設けられ、第1係合片71と第3係合片73と第5係合片75がセレクトシフト軸66の軸方向に並んで設けられる(図3〜図7)。またバック用係合片76及び第1係合片71の間隔と、第2及び第3係合片72,73の間隔と、第4及び第5係合片74,75の間隔は、セレクトシフトレバー67の第1及び第2レバー部67b,67cの先端部をそれぞれ遊挿できる間隔であり、セレクトシフトレバー67がセレクトシフト軸66の軸方向に移動して第1及び第2レバー部67b,67cの先端部が第1〜第5係合片71〜75及びバック用係合片76に選択的に係合するように構成される。
一方、副変速機13は遊星歯車機構84と副シンクロ機構86とを備える(図8)。遊星歯車機構84は、主軸17の後端部に嵌着された太陽歯車84aと、出力軸19に回転可能に嵌入された大径の略椀状の内部ケース84bと、内部ケース84bの大径部の内面に挿着された大径の内歯歯車84cと、出力軸19の前端部に設けられた略円板状の保持部84dと、この保持部84dに円周方向に間隔をあけて突設された複数のピン84eにそれぞれ回転可能に嵌入された複数の遊星歯車84fとを有する。また副シンクロ機構86は、内部ケース84bの小径部に嵌着され外周面に外スプラインが形成されたクラッチハブ86aと、出力軸19に固着され外周面に上記ハブ86aの外スプラインと同一の外スプラインが形成された高速側クラッチギヤ86bと、副変速ケース18に固着され上記ハブ86aの外スプラインと同一の外スプラインが形成された低速側クラッチギヤ86cと、上記ハブ86aの外スプラインに噛合する内スプラインが形成され上記ハブ86aに主軸17の軸方向に移動可能にかつ上記ハブ86aに対して相対回転不能に遊嵌されたスリーブ86dと、このスリーブ86dを出力軸19の軸方向に移動させて上記スリーブ86dの内スプラインを低速側クラッチギヤ86c又は高速側クラッチギヤ86bの外スプラインに噛合可能な副シフトフォーク86eとを有する。シフトフォーク86eの略中央がピン86fに枢着され、シフトフォーク86eはこのピン86fを中心に揺動するように構成される(図5及び図8)。
上記遊星歯車機構84の周囲には出力軸19に平行に単一のレンジロッド87が設けられ、このレンジロッド87に上記副シフトフォーク86eの上端が長溝及びピンにより係合し、シフトフォーク86eの下端がスリーブ86dに長溝及びピンにより係合するように構成される。また副変速機13は切換手段88により高速側又は低速側に切換えられる(図3〜図5)。この切換手段88は、レンジロッド87をその軸方向に駆動するエアシリンダ88aと、このエアシリンダ88aへの圧縮エアの給排を切換える第1及び第2切換弁88b,88cとを有する。第1及び第2切換弁88b,88cは、それぞれプランジャ88d,88eの出没によりオンオフ2位置に切換え可能な切換弁であり、主軸17の回転速度を高速又は低速の2段階に変速して出力軸19に伝達するための切換スイッチとしての機能を有する。即ち、これらの切換弁88b,88cのプランジャ88d,88eは、セレクトシフトレバー67の筒部67aの上面に向ってそれぞれ突設されるとともに、セレクトシフトレバー67の長手方向に並んで設けられる。セレクトシフトレバー67の筒部67aの上面中央には突出部67dが突設される。
運転者が操作レバーを低速側の第1速段位置から第5速段位置の間で操作しているとき(図9の『1』〜『5』の間で操作しているとき)、或いは後進位置に操作したとき(図9の『R』に操作したとき)、第1切換弁88bのプランジャ88dが突出部67dによりケース内に押し込められて第1切換弁88bがオンの状態に保たれるとともに、第2切換弁88cのプランジャ88eが突出部67dから離れてケースから突出し第2切換弁88cがオフの状態に保たれる(図3(a))。また運転者が操作レバーを第5速段位置から第6速段位置に操作するとき(図9のLo(低速側)からHi(高速側)へ切換え操作するとき)、第1切換弁88bのプランジャ88dが突出部67dから離れてケースから突出し第1切換弁88bがオフの状態になるとともに、第2切換弁88cのプランジャ88eが突出部67dによりケース内に押し込められて第2切換弁88cがオンの状態になる(図3(b)及び(c))。一方、運転者が操作レバーを高速側の第6速段位置から第9速段位置の間で操作しているとき(図9の『6』〜『9』の間で操作しているとき)、第1切換弁88bのプランジャ88dが突出部67dから離れてケースから突出し第1切換弁88bがオフの状態に保たれるとともに、第2切換弁88cのプランジャ88eが突出部67dによりケース内に押し込められて第2切換弁88cがオンの状態に保たれる(図4(a))。また運転者が操作レバーを第6速段位置から第5速段位置に操作するとき(図9のHi(高速側)からLo(低速側)へ切換え操作するとき)、第1切換弁88bのプランジャ88dが突出部67dによりケース内に押し込められて第1切換弁88bがオンの状態になるとともに、第2切換弁88cのプランジャ88eが突出部67dから離れてケースから突出し第2切換弁88cがオフの状態になる(図4(b)及び(c))。
運転者が操作レバーを第6速段位置から第5速段位置に操作して、高速から低速への切換位置(図4(b))に達すると、エアシリンダ88aがレンジロッド87を図8の右方向に移動させて、副シンクロ機構86のスリーブ86dがクラッチハブ86aと低速側クラッチギヤ86cとを接続することにより、内部ケース84b及び内歯歯車84cが副変速ケース18に固定されるので、主軸17の回転速度が所定の減速比(Z1/(Z1+Z2)、Z1:太陽歯車84aの歯数、Z2:内歯歯車84cの歯数)で減速されて出力軸19に伝達されるように構成される。また運転者が操作レバーを第5速段位置から第6速段位置に操作して、低速から高速への切換位置(図3(b))に達すると、エアシリンダ88aがレンジロッド87を図8の左方向に移動させて、副シンクロ機構86のスリーブ86dがクラッチハブ86aと高速側クラッチギヤ86bとを接続することにより、内部ケース84b及び出力軸19が互いに固定されて同一の回転速度で回転するので、主軸17の回転速度が同一に保たれたまま出力軸19に伝達されるように構成される。更にトラックの運転席には運転者が操作する操作レバー(図示せず)が設けられ、この操作レバーは図9に示すように前進9速段位置及び後進位置に切換えられるようになっている。
一方、図1、図2及び図5に詳しく示すように、レンジロッド87とセレクトシフト軸66は立体交差するように構成され、セレクトシフト軸66を挟むように高速側及び低速側ロックピン89,90が互いに平行に設けられる。これらのロックピン89,90の先端は高速側圧縮コイルばね89a及び低速側圧縮コイルばね90aによりレンジロッド87の外周面にそれぞれ圧接される。また本実施の形態のレンジ式多段変速機10は、レンジロッド87の外周面に溝状(凹状)に形成されたロッド側段差部87aと、セレクトシフト軸66にこの軸の長手方向にそれぞれ延びて形成された高速側長溝66a及び低速側長溝66bと、高速側ロックピン89に形成された高速側ピン溝89bと、低速側ロックピン90に形成された低速側ピン溝90bとを更に備える。ロッド側段差部87aには、副変速機13の高速側への切換え時に高速側ロックピン89が圧接されて係合し、副変速機13の低速側への切換え時に低速側ロックピン90が圧接されて係合するように構成される。またセレクトシフト軸66に形成された高速側長溝66aは、副変速機13が高速側に切換えられた範囲で高速側ロックピン89の外周面の一部を収容するように構成される。更にセレクトシフト軸66に形成された低速側長溝66bは、副変速機13が低速側に切換えられた範囲で低速側ロックピン90の外周面の一部を収容するように構成される。なお、上記高速側長溝66a及び低速側長溝66bは横断面が直線状ではなく、横断面が所定の曲率で湾曲するように形成される。これは、セレクトシフト軸66がその軸心を中心に回動してシフト動作を可能にするためである。
上記高速側ピン溝89bは、セレクトシフト軸66の半径と略同一の曲率半径を有するように高速側ロックピン89の外周面の一部に形成される。この高速側ピン溝89bは、高速側ロックピン89がロッド側段差部87aに係合しないときにセレクトシフト軸66の外周面の一部を収容する位置であって、高速側ロックピン89がロッド側段差部87aに係合したときにセレクトシフト軸66の外周面に対して下方にずれる位置に形成される。これにより、高速側ロックピン89がロッド側段差部87aに係合せず、高速側ピン溝89bがセレクトシフト軸66に対して下方にずれているとき、セレクトシフトレバー67の第2レバー部67cが第2係止片72及び第3係止片73の間(第1凹部)に位置した状態と、セレクトシフトレバー67の第2レバー部67cが第4係止片74及び第5係止片75の間(第3凹部)に位置した状態との間でのみ移動できるように構成されるとともに、高速側ロックピン89がロッド側段差部87aに係合して、セレクトシフト軸66の外周面の一部が高速側ピン溝89bに収容された状態で、ロッド側段差部87aが高速側ロックピン89の先端に対向する位置にレンジロッド87が移動しても、セレクトシフト軸66の外周面の一部が高速側ピン溝89bに収容された状態に保持されているため、高速側ロックピン89の先端がロッド側段差部87aに圧接されないように構成される。
更に低速側ピン溝90bは、セレクトシフト軸66の半径と略同一の曲率半径を有するように低速側ロックピン90の外周面の一部に形成される。この低速側ピン溝90bは、低速側ロックピン90がロッド側段差部87aに係合しないときにセレクトシフト軸66の外周面の一部を収容する位置であって、低速側ロックピン90がロッド側段差部87aに係合したときにセレクトシフト軸66の外周面に対して下方にずれる位置に形成される。これにより、低速側ピン溝90bがセレクトシフト軸66に対して下方にずれているとき、セレクトシフトレバー67の第2レバー部67cがバック用係止片76及び第1係止片71の間(第1凹部)に位置した状態と、セレクトシフトレバー67の第1レバー部67bが第4係止片74及び第5係止片75の間(第3凹部)に位置した状態との間でのみ移動できるように構成されるとともに、低速側ロックピン90がロッド側段差部87aに係合して、セレクトシフト軸66の外周面の一部が低速側ピン溝90bに収容された状態で、ロッド側段差部87aが低速側ロックピン90の先端に対向する位置にレンジロッド87が移動しても、セレクトシフト軸66の外周面の一部が低速側ピン溝90bに収容された状態に保持されているため、低速側ロックピン90の先端がロッド側段差部87aに圧接されないように構成される。
図8に戻って、主変速機11は主軸17に回転可能に嵌入された第1〜第4変速ギヤ41〜44及びバック用変速ギヤ46と、入力軸14の後端に固着された第5変速ギヤ45と、カウンタ軸33に固着された第1〜第5カウンタギヤ91〜95及びバック用カウンタギヤ96と、第1変速ギヤ41及びバック用変速ギヤ46間に設けられた第1シンクロ機構101と、第2変速ギヤ42及び第3変速ギヤ43間に設けられた第2シンクロ機構102と、第4変速ギヤ44及び第5変速ギヤ45間に設けられた第3シンクロ機構103とを有する。第1〜第4変速ギヤ41〜44は第8〜第11軸受28〜31を介して、バック用変速ギヤ46は第12軸受32を介してそれぞれ主軸17に回転可能に嵌入される。第1〜第5変速ギヤ41〜45は第1〜第5カウンタギヤ91〜95にそれぞれ噛合し、バック用変速ギヤ46とバック用カウンタギヤ96とはアイドル軸に固着されたアイドルギヤ(図示せず)を介して噛合するように構成される。また第1〜第3シンクロ機構101〜103は略同一に構成されるので、第1シンクロ機構101を代表して説明し、第2及び第3シンクロ機構102,103の説明は省略する。第1シンクロ機構101は、主軸17の後部に嵌着され外周面に外スプラインが形成されたクラッチハブ101aと、第1変速ギヤ41に固着され外周面に上記ハブ101aの外スプラインと同一の外スプラインが形成された第1クラッチギヤ101bと、バック用変速ギヤ46に固着され上記ハブ101aの外スプラインと同一の外スプラインが形成されたバック用クラッチギヤ101cと、上記ハブ101aの外スプラインに噛合する内スプラインが形成され上記ハブ101aに主軸17の軸方向に移動可能にかつ上記ハブ101aに対して相対回転不能に遊嵌されたスリーブ101dと、このスリーブ101dを主軸17の軸方向に移動させて上記スリーブ101dの内スプラインを第1クラッチギヤ101b又はバック用クラッチギヤ101cの外スプラインに噛合可能な第1主シフトフォーク61とを有する。クラッチハブ101aと第1クラッチギヤ101bとの間や、クラッチハブ101aとバック用クラッチギヤ101cとの間には、スリーブ101dと第1クラッチギヤ101b又はバック用クラッチギヤ101cとの噛合をスムーズに行うための、公知のシンクロナイザリング(図示せず)がそれぞれ設けられる。
このように構成されたレンジ式変速機10の動作を説明する。先ず運転者は操作レバーをニュートラル位置に維持した状態でエンジンを始動する。次に運転者が操作レバーを第1速段位置(図9の『1』の位置)に操作すると、セレクトシフトレバー67の第2レバー部67cが図6(a)で示すようにバック用係止片76及び第1係合片71の間の第1凹部に位置した後に、図6(b)に示すように第1ギヤシフト軸51をその軸方向に移動させる。このときセレクトシフトレバー67の第1レバー部67bは第1〜第3凹部のいずれにも位置せず、また第1切換弁88bのプランジャ88dが突出部67dによりケース内に押し込められて第1切換弁88bがオンの状態にあり、第2切換弁88cのプランジャ88eがセレクトシフトレバー67の突出部67dから離れてケースから突出し第2切換弁88cはオフの状態にある(図3(a))。これによりエアシリンダ88aは駆動されず、副変速機13の副シンクロ機構86のクラッチハブ86aと低速側クラッチギヤ86cとが接続された状態で、第1主シフトフォーク61が第1シンクロ機構101のクラッチハブ101aと第1変速ギヤ41とを接続する。この結果、入力軸14の回転力は第5変速ギヤ45及び第5カウンタギヤ95により減速された後に、第1カウンタギヤ91及び第1変速ギヤ41により比較的大きな減速比で減速されて主軸17に伝達されるとともに、副変速機13の遊星歯車機構84により減速されて出力軸19に伝達される。
運転者が操作レバーを第2速段位置(図9の『2』の位置)に操作すると、セレクトシフトレバー67の第1レバー部67bが図7(a)で示すように第2及び第3係合片72,73の間の第2凹部に位置した後に第2ギヤシフト軸52をその軸方向に移動させる。このときセレクトシフトレバー67の第2レバー部67cは第1〜第3凹部のいずれにも位置せず、また第1切換弁88bのプランジャ88dが突出部67dによりケース内に押し込められて第1切換弁88bがオンの状態にあり、第2切換弁88cのプランジャ88eがセレクトシフトレバー67の突出部67dから離れてケースから突出し第2切換弁88cがオフの状態にある(図3(a))。これによりエアシリンダ88aは駆動されず、副変速機13の副シンクロ機構86のクラッチハブ86aと低速側クラッチギヤ86cとが接続された状態で、第2主シフトフォーク62が第2シンクロ機構102のクラッチハブ102aと第2変速ギヤ42とを接続する。この結果、入力軸14の回転力は第5変速ギヤ45及び第5カウンタギヤ95により減速された後に、第2カウンタギヤ92及び第2変速ギヤ42により比較的小さい減速比で減速されて主軸17に伝達されるとともに、副変速機13の遊星歯車機構84により減速されて出力軸19に伝達される。運転者が操作レバーを第3速段位置(図9の『3』の位置)に操作したり(図7(b))、第4速段位置(図9の『4』の位置)に操作したり(図7(c))、或いは第5速段位置(図9の『5』の位置)に操作する(図7(d))場合の動作は上記第2速段位置(図9の『2』の位置)に操作する場合の動作と略同様であるので、繰返しの説明を省略する。
運転者が操作レバーを第5速段位置(図9の『5』の位置)から第6速段位置(図9の『6』の位置)に移動するように操作すると、セレクトシフト軸66と低速側ロックピン90とが干渉して、一時的にセレクトシフト軸66のセレクト動作を禁止する、即ち一時的にセレクトシフト軸66の第6速段への移動を阻止する(図1(a)及び図2(a))。具体的には、低速側ロックピン90の先端がロッド側段差部87aに圧接されて係合しており、低速側ピン溝90bがセレクトシフト軸66の外周面に対して下方にずれているため、セレクトシフト軸66の低速側長溝66bの端部(角度45度程度の傾斜部)が低速側ロックピン90の外周面に干渉して、セレクトシフト軸66の移動を途中で一時的に停止させる(図1(a)及び図2(a))。このとき第1切換弁88bのプランジャ88dがセレクトシフトレバー67の突出部67dから離れてケースから突出し第1切換弁88bがオフの状態になるとともに、第2切換弁88cのプランジャ88eがセレクトシフトレバー67の突出部67dによりケース内に押し込められて第2切換弁88cがオンの状態になる(図3(b)及び(c))。これによりエアシリンダ88aはレンジロッド87を図8の左側に移動させるので、低速側ロックピン90の先端がロッド側段差部87aから離脱してレンジロッド87の外周面により押上げられロッド側段差部87aに係合しなくなり、セレクトシフト軸66の外周面の一部が低速側ピン溝90bに収容された状態になる(図1(b)及び図2(b))。このときロッド側段差部87aが高速側ロックピン89の先端に対向する位置にレンジロッド87が移動するとともに、セレクトシフト軸66の外周面の一部が高速側ピン溝89bに収容された状態に保持される。
上記レンジロッド87の移動により、副シフトフォーク86eがピン86fを中心に回転して、副変速機13の副シンクロ機構86のクラッチハブ86aと高速側クラッチギヤ86bとが接続される。同時にセレクトシフト軸66の低速側長溝66bの端部の低速側ロックピン90の外周面への干渉が解除されて、セレクトシフト軸66のセレクト動作が可能となり、即ちセレクトシフト軸66をその軸方向に移動できるようになり、セレクトシフトレバー67の第1レバー部67bが第4及び第5係合片74,75の間の第3凹部から離脱するとともに、セレクトシフトレバー67の第2レバー部67cが第2及び第3係合片72,73の間の第2凹部に達する。次に第2主シフトフォーク62が第2シンクロ機構102のクラッチハブ102aと第2変速ギヤ42とを接続する(図7(e))。この結果、入力軸14の回転力は第5変速ギヤ45及び第5カウンタギヤ95により減速された後に、第2カウンタギヤ92及び第2変速ギヤ42により比較的小さい減速比で減速されて主軸17に伝達されるとともに、副変速機13の遊星歯車機構84により減速も増速もされずに出力軸19に伝達される。従って、副変速機13の高速側への切換え動作の伴う変速時における変速機10のオーバラン現象を確実に防止できる。なお、この状態になると、高速側ロックピン89の外周面の一部がセレクトシフト軸66の高速側長溝66a内に位置するため、高速側ロックピン89が高速側圧縮コイルばね89aの弾性力によりロッド側段差部87aに圧接されて係合する(図1(c)及び図2(c))。
運転者が操作レバーを第7速段位置(図9の『7』の位置)に操作すると、セレクトシフトレバー67の第2レバー部67cが図7(f)で示すように第2及び第3係合片72,73の間の第2凹部に位置した後に第2ギヤシフト軸52をその軸方向に上記とは反対方向に移動させる。このときセレクトシフトレバー67の第1レバー部67bは第1〜第3凹部のいずれにも位置せず、また第1切換弁88bのプランジャ88dがセレクトシフトレバー67の突出部67dから離れてケースから突出し第1切換弁88bはオフの状態にあり、第2切換弁88cのプランジャ88eが突出部67dによりケース内に押し込められて第2切換弁88cがオンの状態にある(図4(a))。これによりエアシリンダ88aは駆動されず、副変速機13の副シンクロ機構86のクラッチハブ86aと高速側クラッチギヤ86bとが接続された状態で、第2主シフトフォーク62が第2シンクロ機構102のクラッチハブ102aと第3変速ギヤ43とを接続する。この結果、入力軸14の回転力は第5変速ギヤ45及び第5カウンタギヤ95により減速された後に、第3カウンタギヤ93及び第3変速ギヤ43により殆ど減速されずに主軸17に伝達されるとともに、副変速機13の遊星歯車機構84により減速も増速もされずに出力軸19に伝達される。運転者が操作レバーを第8速段位置(図9の『8』の位置)に操作したり(図7(g))、或いは第9速段位置(図9の『9』の位置)に操作する(図7(h))場合の動作は上記第7速段位置(図9の『7』の位置)に操作する場合の動作と略同様であるので、繰返しの説明を省略する。
一方、運転者が操作レバーを第6速段位置(図9の『6』の位置)から第5速段位置(図9の『5』の位置)に移動するように操作すると、セレクトシフト軸66と高速側ロックピン89とが干渉して、一時的にセレクトシフト軸66のセレクト動作が禁止され、即ち一時的にセレクトシフト軸66の第5速段への移動を阻止する(図1(c)及び図2(c))。具体的には、高速側ロックピン89の先端がロッド側段差部87aに圧接されて係合しており、高速側ピン溝89bがセレクトシフト軸66の外周面に対して下方にずれているため、セレクトシフト軸66の高速側長溝66aの端部(角度45度程度の傾斜部)が高速側ロックピン89の外周面に干渉して、セレクトシフト軸66の移動を途中で一時的に停止させる(図1(c)及び図2(c))。このとき第1切換弁88bのプランジャ88dがセレクトシフトレバー67の突出部67dによりケース内に押し込められて第1切換弁88bがオンの状態になるとともに、第2切換弁88cのプランジャ88eがセレクトシフトレバー67の突出部67dから離れてケースから突出し第2切換弁88cがオフの状態になる(図4(b)及び(c))。これによりエアシリンダ88aはレンジロッド87を図8の右側に移動させるので、高速側ロックピン89の先端がロッド側段差部87aから離脱してレンジロッド87の外周面により押上げられロッド側段差部87aに係合しなくなり、セレクトシフト軸66の外周面の一部が高速側ピン溝89bに収容された状態になる。このときロッド側段差部87aが低速側ロックピン90の先端に対向する位置にレンジロッド87が移動するとともに、セレクトシフト軸66の外周面の一部が低速側ピン溝90bに収容された状態に保持される。
上記レンジロッド87の移動により、副シフトフォーク86eがピン86fを中心に回転して、副変速機13の副シンクロ機構86のクラッチハブ86aと低速側クラッチギヤ86cとが接続される。同時にセレクトシフト軸66の高速側長溝66aの端部の高速側ロックピン89の外周面への干渉が解除されて、セレクトシフト軸66のセレクト動作が可能となり、即ちセレクトシフト軸66をその軸方向に移動できるようになり、セレクトシフトレバー67の第2レバー部67cが第2及び第3係合片72,73の間の第2凹部から離脱するとともに、セレクトシフトレバー67の第1レバー部67bが第4及び第5係合片74,75の間の第3凹部に達する。次に第3主シフトフォーク63が第3シンクロ機構103のクラッチハブ103aと第5変速ギヤ45とを接続する(図7(d))。この結果、入力軸14の回転力は減速も増速もされずに主軸17に伝達されるとともに、副変速機13の遊星歯車機構84により減速されて伝達される。従って、副変速機13の高速側への切換え動作の伴う変速時における変速機10のトルク不足による失速現象を確実に防止できる。この状態になると、低速側ロックピン90の外周面の一部がセレクトシフト軸66の低速側長溝66b内に位置するため、低速側ロックピン90が低速側圧縮コイルばね90aの弾性力によりロッド側段差部87aに圧接されて係合する(図1(a)及び図2(a))。
なお、上記実施の形態では、本発明のレンジ式変速機を搭載した車両としてトラックを挙げたが、バス又はその他の車両でもよい。また、上記実施の形態では、ロッド側段差部をレンジロッドの外周面に溝状(凹状)に形成したが、ロッド側段差部をレンジロッドの外周面に突起状(凸状)に形成してもよい。また、上記実施の形態では、セレクトシフトレバーにレバー部を2つ設けたが、セレクトシフトレバーにレバー部を1つ設けてもよい。この場合、前進9段後進1段とすると、係合片を10個(2列×5個)設ける必要がある。また、上記実施の形態では、流体圧シリンダとしてエアシリンダを挙げたが、油圧シリンダを用いてもよい。また、上記実施の形態では、副変速機を主変速機のクラッチ取付面とは反対側の面に設けたが、副変速機をクラッチと主変速機との間に設けてもよい。この場合、副変速機はエンジンのクランク軸の回転速度を高速又は低速の2段階に変速して主軸に伝達するように構成される。また、上記実施の形態では、副変速機を遊星歯車機構と副シンクロ機構とにより構成したが、カウンタ軸を後方に延びて設け、このカウンタ軸の後部と出力軸にそれぞれ歯車を取付けて所定の減速比を得る歯車機構と副シンクロ機構とにより構成してもよい。また、上記実施の形態では、切換手段が第1及び第2切換弁を有する構成としたが、切換手段が第1及び第2切換センサを有し、これらのセンサの検出出力に基づいてコントローラがエアシリンダを制御するように構成してもよい。更に、上記実施の形態では、変速機を前進9速段及び後進1速段に変速可能に構成したが、変速機を前進13速段及び後進1速段に変速可能に構成したり、変速機を前進8速段及び後進2速段に構成したり、或いは変速機を前進12速段及び後進2速段に構成してもよく、更にギヤシフト軸を5本設けて変速機を前進16速段及び後進2速段に構成したり、或いはギヤシフト軸を6本以上設けて変速機の段数を更に増やしてもよい。