図1は従来の定着装置の構成を示す概略図である。同図の(a)に示す従来の定着装置10では、定着液付与後のトナー層加圧手段として、トナー面に接した加圧ローラ11と、該加圧ローラ11に対峙する紙搬送ローラ12とを用いて、定着液が付与された用紙13上のトナー像14を加圧している。ここで、従来の定着装置10では、加圧ローラ11の周速度V1と紙搬送ローラ12の周速度V2が同じである。つまり、用紙13に対して加圧ローラ11の加圧する面の移動速度V3と用紙13の搬送速度V4が同じである。また、定着液中の軟化剤が不揮発性の場合、定着液付与後トナー粒子中の樹脂が軟化した状態が継続しており、比較的低い圧力でトナーは変形させることができる。このため、図1の(b)に示すように、加圧ローラ11が通過した後、トナー粒子の変形により、トナー粒子間の空隙は大幅に低減し、表面の凹凸が若干緩やかとなる。しかし、単なる加圧によるトナー層の平滑化は次のような問題点があることがわかった。
定着液付与時に軟化剤により十分にトナーが十分に柔らかい場合、図1の従来の定着装置10の加圧ローラ11によりトナーは容易に変形し、トナー層表面を平滑にすることは可能である。しかし、軟化剤が不揮発性である場合、トナー粒子中に長時間残存し、柔らかいトナーの状態が維持される、弱い加圧力でトナーが変形する程度の軟化状態は、トナー層表面を指で触った時に指に粘着感が生じたり、紙を重ねて放置した時に紙どうしが接着する恐れがある。このため、定着後に指で触っても粘着感がなく、紙どうしを重ねてもくっつかない程度にトナーを軟化させておく必要がある。その程度のトナー軟化状態において、逆に、弱い加圧力では、図10に示すように、トナーが十分に変形できず、トナー層表面を平滑にできない。加圧力を高めればトナーの変形は可能であるが、加圧手段の機械強度を維持するために定着装置が大型化・重量化してしまう不具合がある。
以上のごとく、今後、大気汚染防止の観点から、不揮発性の軟化剤を用いる限り、加圧手段のみではトナー層を十分に平滑することができず、光沢感が乏しく、トナー層中に若干の空隙を残した定着とならざるをえない。この問題点は、トナーに限らず、樹脂を含有した微粒子の媒体への定着に全て当てはまる問題点である。
この問題点を解決するために鋭意検討した結果、図12に示すように、定着液付与後、加圧だけでは、変形しない程度の樹脂を含有した微粒子であっても微粒子層表面を擦りながら加圧すると微粒子が変形し、表面が平滑となり、かつ微粒子間の空隙が大幅に低減することがわかった。
すなわち、樹脂分子マトリックスの分子間の隙間に軟化剤が分子レベルで分散した樹脂分子は、圧縮方向の力に対してズレにくく、樹脂は変形しにくいが、せん断方向の力に対しては、樹脂分子どうしは容易にずれることができるため、樹脂は容易に変形する。このため、弱い加圧だけでは変形しにくい程度に軟化した微粒子であっても、樹脂にせん断力が加わるように擦ると樹脂は容易に変形する。よって、定着液付与後の微粒子層内部の空隙が激減する理由も、微粒子層表面を擦るだけでも、層内部の微粒子中の樹脂にもせん断力が働き、層内部の微粒子が変形するからである。従って、本発明では、定着液付与後加圧ローラのような加圧手段の加圧面移動速度と媒体搬送速度とに速度差を生じさせ、樹脂含有微粒子層表面に擦りを生じさせながら加圧することで、加圧だけに比べ大幅に微粒子層表面の平滑性向上と微粒子層内部の空隙低減ができる。
図2は本発明の一実施の形態に係る定着装置の構成を示す概略図である。同図において、図1と同じ参照符号は同じ構成要素である。本実施の形態の定着装置20では、加圧部材としての加圧ローラ11の周速度V1を紙搬送ローラ12の周速度V2に対して速くしている。つまり、加圧ローラ11の加圧面移動速度V3を紙搬送ローラ12の搬送による用紙13の移動速度V4より速くしている。トナー層表面は、加圧ローラ11により圧力を受けながら、加圧ローラ11の周速度V1と紙搬送ローラ12の周速度V2の速度差により、つまり加圧ローラ11の加圧面移動速度V3と用紙13の移動速度V4の速度差により、加圧ローラ11が定着液付与後のトナー層を擦り、トナー層中の樹脂にせん断力を与えることで樹脂がずれて、図1の従来の定着装置10のような単なる加圧よりも更に樹脂が変形し、トナー層表面の平滑化とトナー層内部の空隙の低減を行う。
一方、本発明では、前記のごとく、樹脂を含有した微粒子がトナーの場合、定着液をトナー層に付与しただけでは、トナー粒子どうしは結合し動きにくい状態であるが、トナー粒子形状は維持されており、トナー粒子間には空隙があり、強く擦るとトナー粒子はトナー層から剥離しやすい状態である。定着液中の軟化剤は不揮発性であるため、軟化した樹脂中から軟化剤は容易には抜け出せず、定着液付与後しばらくは微粒子中の樹脂は柔らかい状態を保っている。このため、定着液付与後に加圧することで、軟化したトナーどうしが変形し強く結合することではじめて紙に強く定着する。その加圧の際に、媒体移動方向に沿ってトナー層にせん断力を加えることで、トナー粒子どうしを単なる加圧よりも著しくトナー変形させることができ、トナー層表面の平滑化とトナー粒子間の空隙をなくすことが可能となる。このせん断力を加える方法として、加圧部材としての加圧ローラ11の周速度に相当する加圧部材面の移動速度と、紙搬送ローラ12の周速度に相当する媒体面の移動速度との速度差を生じさせる方法が最も簡便で効果的である。
なお、従来のような熱定着でせん断力を加える方法ではむしろ画質を劣化することから定着部材面とトナー層との間の速度差を極力小さくしようとしているのに対し、本発明において、逆に速度差を設けることで高画質化ができるかというと、トナー層に対して速度差をつけて加圧を行う前に予め定着液を付与しており、既にトナー層は紙等の媒体に固着しており、その後、トナー層表面を擦っても(但し、過度に強くは擦らない)、トナー微粒子は移動することができず、画像の乱れは生じない。また、媒体面の搬送速度に対し加圧部材面の移動速度との速度差比率は、下記の式で求められる。
速度差比率(%)=(加圧部材面の移動速度−媒体面の移動速度)/媒体面の移動速度×100
加圧部材面の移動速度が媒体面の搬送速度よりも速い場合、速度差比率の範囲は、+10%から+100%、即ち加圧部材面の移動速度は媒体面の移動速度の110%から200%の速度が望ましい。速度差比率+10%未満では、加圧部材による樹脂含有微粒子層表面への擦りが足らず、速度差比率+100%以上では、擦り時の摩擦音が大きくなり、定着装置や画像形成装置の騒音発生の不具合がある。
また、加圧部材面の移動速度が媒体面の搬送速度よりも遅い場合、速度差比率の範囲は、−10%から−50%、即ち加圧部材面の移動速度は媒体面の移動速度の50%から90%の速度が望ましい。速度差比率−10%未満では、加圧部材による樹脂含有微粒子層表面への擦りが足らず、速度差比率−50%以上では、紙等の媒体の厚みが薄い場合、媒体にしわが発生する不具合がある。
更に、加圧部材は板状でも構わないが、望ましくは図2の加圧ローラ11のような回転体が優れている。また、図3に示すような加圧ベルト15でもよい。この加圧ベルト15の材質は、軟化剤により膨潤や溶解を示さない材質であればなんでもよい。更に、加圧部でのニップ幅が広いほうが、長時間微粒子表面を加圧面で擦ることができ、微粒子層の平滑化や微粒子層内部の空隙低減により効果がある。
また、加圧ローラや加圧ベルトの加圧面は、なるべく鏡面であるほうが、微粒子層表面にスジ状の傷が発生しにくく定着品質が向上する。概ね鏡面の目安は、最大粗さRzで100μm以下が望ましい。更に、望ましくはRzが20μm以下が望ましい。
更に、微粒子層表面にスジ状の傷を発生しにくくするため、加圧ローラや加圧ベルトのごとき加圧部材の加圧面は、回転軸方向に平行に振動することが望ましい。振動させるには、回転軸に揺動カムを設けて回転軸を揺動させる方法や駆動モータで軸を揺動させる方法などが適する。
また、加圧部材表面の温度は室温よりも若干高くするほうが、トナー等の樹脂を含有した微粒子層の平滑化や層内部の空隙低減に更に効果がある。加圧部材の加圧面移動速度と媒体移動速度との速度差比率による擦りでも、摩擦熱が発生し、加圧部材表面が温まるが、強制的に加圧部材面を過熱してもよい。加熱温度としては、40℃から80℃程度が望ましい。80℃以上では樹脂が微粒子中軟化しすぎたり、加圧部材に樹脂が付着する恐れがある。
更に、樹脂を含有した微粒子がトナーで、媒体が記録紙の場合、写真調画像では、記録紙の光沢度と画像部の光沢度が一致することが望まれている。そこで、紙の光沢度に応じ(画像形成装置で、使用者が紙種選定、もしくは、画像形成装置内部に反射光から光沢度を算出する検出手段を配置)、速度差を調整してもよい。例えば、上質紙のごとく光沢度の低い紙では、速度差比率を少なくとも±10%程度とし、光沢の少ない画像としたり、アート紙のごとく光沢度の高い紙では、速度差比率を100%程度とし、光沢度の高い画像とすることが望ましい。加圧手段が加圧ローラや加圧ベルトでは、各々の駆動モータの回転数を紙の光沢度に応じて変化させ速度差比率を制御する。
また、定着液として液状や泡状のいずれでもよい。液状の場合は、定着液の付与手段として、媒体上の微粒子層を乱さないために定着液を微粒子化して噴射する手段が望ましい。泡状の場合、後述する図4のごとく、定着液付与手段として、定着液を泡化させる手段を用いて泡状となった定着液を塗布ローラで塗布する手段が望ましい。
また、定着液付与後の樹脂を含有した微粒子層への加圧のタイミングは、原理的には微粒子中の樹脂が軟化しはじめるタイミングでないと加圧効果が望めない。定着液付与後の樹脂の軟化開始時間は、樹脂の種類、定着液中の軟化剤の濃度により異なるが、概ね20m秒から100m秒程度である。従って、定着装置もしくは画像形成装置において、後述する図5に示すように定着液付与手段と加圧手段との間隔L(mm)は、媒体搬送速度V(mm/s)、軟化開始時間T(s)とすると、L≧V×Tとする必要がある。例えば、媒体搬送速度が200mm/sであるとすると定着液付与手段と加圧手段の間隔は、4mmから20mm以上離しておく必要がある。あるいは、定着液付与手段と加圧手段の間の搬送路に、媒体が軟化開始時間だけ待機する湾曲領域を設けて、定着液付与手段と加圧手段の間の空間体積を少なくすることでもよい。
図4は泡状定着液生成手段の一例の構成を示す概略構成図である。同図に示す泡状定着液生成手段30において、定着液容器31内の液状定着液32を搬送ポンプ33及び液搬送パイプ34等の液輸送手段を用いて気体・液体混合部35へ供給する。気体・液体混合部35には、空気口36が設けられ、液の流れとともに、空気口36に負圧が発生し、空気口36から気体が気体・液体混合部35に導入され、液体と気体が混合し、更に微小孔シート37を通過することで、泡径の揃った大きな泡を生成させることができる。
次に、大きな泡を分割して2つ以上に分泡化するために、大きな泡にせん断力を加えるための、図4に示すような泡状定着液生成手段30における微小な泡生成部38として、閉じた二重円筒で、内側円筒が回転可能な構成とし、外部円筒の一部より、大きな泡状定着液を供給し、内部の回転する円筒と外部円筒の隙間(ここが流路となる)を通過しながら、回転円筒によりせん断力を受ける。このせん断力により、大きな泡は微小な泡へと変化し、外側円筒に設けられた泡の出口より、所望の微小な泡径を有する泡状定着液を得ることができる。
このように、液状定着液を大きな泡径を有する液へと変化させる大きな泡生成部と、大きな泡にせん断力を加えて微小な泡を生成する微小な泡生成部を組み合わせることで、液状定着液を極めて短時間に5μmから50μm程度の微小な泡径を有する泡状定着液を生成させることができる。
図5は定着液付与手段及び本発明の定着装置の全体構成を示す概略構成図である。ここで、樹脂微粒子はトナー粒子である。同図の(a)に示す泡状定着液付与手段40は、上述した泡状定着液生成手段30によって生成された所望の微小な泡の泡状定着液を樹脂微粒子層(トナー粒子層)へ付与するための塗布ローラ41と、その対峙する位置に紙搬送ローラ43を設け、更に塗布ローラ面に液膜厚制御用ブレード42を圧接し、所望の微小な泡の泡状定着液の膜厚を制御し、よって泡状定着液の最適な膜厚の制御を行っている。同図の(b)に示すように、塗布ローラ41上には泡状定着液の層が液膜厚制御用ブレード42を通して形成されており、この液膜厚制御用ブレード42によって泡状定着液の気泡の大きさ、泡粘度及び塗布加圧力並びに未定着トナーの層厚に応じた泡状定着液の未定着トナー層での浸透時間に対して最適化した定着液層の膜厚となる。液膜厚制御用ブレード42によるギャップの制御はブレード端に駆動を有する回転軸を用い、トナー層厚さ、環境温度等により膜厚を制御する。
次に、定着液容器から液状定着液を泡化する機構に搬送する手段としては、図4及び図5では搬送ポンプを用いている。搬送ポンプとしては、ギヤポンプ、ベローズポンプ等があるが、チューブポンプが望ましい。ギヤポンプ等ごとく定着液中で振動機構や回転機構があると、ポンプ内で液が起泡し、液に圧縮性が出て、搬送能力が低下する恐れがある。また、上記の機構部品等が定着液を汚染したり、逆に機構部品を劣化させる恐れがある。一方、チューブポンプは、チューブ内の液を、チューブを変形させながら押し出す機構であるため、定着液と接する部材はチューブだけであり、定着液に対し耐液性を有する部材を用いることで、液の汚染やポンプ系部品の劣化がない。また、チューブを変形させるだけなので、液が起泡せず、搬送能力の低下を防止できる。
また、図5の液膜厚制御用ブレード42の他に、ワイヤーバーによって塗布ローラ上の泡状の定着液の厚みを制御し、泡状定着液は、上記のように、大きな泡を生成する構成とその大きな泡をせん断力で分泡する構成からなる泡状定着液生成手段で生成し、液供給口より、膜制御ワイヤーバーと塗布ローラの間に滴下する。ワイヤーバーを膜制御手段として用いることで、ブレードに比べ、塗布ローラ面の軸方向の泡状定着液膜均一性が向上する。
更に、図5において、泡状定着液付与手段40の後段に上述した本発明の定着装置20を設けている。加圧ローラ11の材質は、軟化剤により膨潤や溶解を示さない材質であればなんでもよい。加圧部では、1mmから5mm程度のニップ幅を有することが望ましく、加圧手段としての加圧ローラ11に対峙した紙搬送ローラ12は弾性を有するほうが望ましい。
なお、泡状定着液のかさ密度としては、0.01g/cm3〜0.1g/cm3程度の範囲が望ましい。更に、定着液は、紙等の記録媒体上のトナー等の樹脂含有微粒子の層への塗布時に泡状となっていればよく、保存容器内で泡状である必要はない。保存容器中では気泡を含有しない液体で、容器から液を供給する時点や、樹脂含有微粒子の層へ付与するまでの液搬送経路で泡状にする手段を設ける構成が望ましい。これは、保存容器では液体で、容器から液を取り出した後に泡状とする構成のほうが、容器の小型化ができるという大きな利点を有するためである。
図6は定着液付与手段の別の構成を示す概略構成図である。図6に示すごとく、図5に示す塗布ローラ41に代わりに、塗布ベルト51を用いて記録媒体上の未定着トナーに塗布する。上記のごとく、大きな泡を生成する構成とその大きな泡をせん断力で分泡する構成からなる泡状定着液生成手段で生成し、液供給口より、所望の泡径を有する泡状定着液を供給する。そして、液膜厚制御用ブレード42と塗布ベルト51のギャップを調整し、塗布ベルト51上の泡状定着液層膜厚を制御し、泡状定着液の最適膜厚の制御を行っている。なお、塗布ベルト51としては、例えばシームレスニッケルベルトやシームレスPETファイルなどの基体にPFAのような離型性フッ素樹脂をコートした部材を用いる。
このように、塗布ベルトを用いる構成では、ニップ幅を容易に広くすることが可能となる。なお、図7のように搬送側も搬送ベルト61とする構成でもよい。
以上のように、定着液付与手段が泡状定着液生成手段によって生成された泡状定着液を付与するものであったが、液状の定着液をそのまま用い、噴霧して樹脂を含有する微粒子層に付与する構成でもかまわない。
次に、定着液の液処方について説明する。泡状の定着液は、上述したように、軟化剤を含有した液体中に気泡を含有した構成である。軟化剤を含有した液体は、気泡を安定に含有し、なるべく均一な気泡の大きさからなる気泡層を構成する泡状とするため、起泡剤及び増泡剤を有することが望ましい。また、ある程度粘度が高いほうが、気泡が安定して液体中に分散するため、増粘剤を含有することが望ましい。
また、起泡剤としては、陰イオン界面活性剤、特に、脂肪酸塩が望ましい。脂肪酸塩は界面活性を有するため、水を含有する定着液の表面張力を下げ、定着液を発泡しやすくするとともに、泡表面で脂肪酸塩が層状ラメラ構造をとるため泡壁(プラトー境界)が他の界面活性剤よりも強くなり、泡沫安定性が極めて高くなるまた、脂肪酸塩の起泡性を効果的にするため、定着液には水を含有することが望ましい。脂肪酸としては、大気中での長期安定性の観点から酸化に強い飽和脂肪酸が望ましい。但し、飽和脂肪酸塩を含有する定着液に若干の不飽和脂肪酸塩を含有することで脂肪酸塩の水に対する溶解・分散性を助け、5℃〜15℃までの低気温において、優れた起泡性を有することができ、広い環境温度範囲において定着の安定を可能とし、また、定着液長期放置中の脂肪酸塩の定着液中分離を防止することができる。
更に、飽和脂肪酸塩に用いる脂肪酸としては、炭素数12、14、16及び18の飽和脂肪酸、具体的にはラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸が適する。炭素数が11以下の飽和脂肪酸塩は臭気が大きくなり、当該定着液を用いるオフィス・家庭で用いる画像形成機器に適さない。また、炭素数19以上の飽和脂肪酸塩は、水に対する溶解性が低下し、定着液の放置安定性を著しく低下させてしまう。これらの飽和脂肪酸による飽和脂肪酸塩を単独もしくは混合して起泡剤として用いる。
また、不飽和脂肪酸塩を用いてもよく、炭素数18で2重結合数が1から3の不飽和脂肪酸が望ましい。具体的には、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸が適する。2重結合が4以上では反応性が強いため、定着液の放置安定性が劣ってしまう。これらの不飽和飽和脂肪酸による不飽和脂肪酸塩を単独もしくは混合して起泡剤として用いる。また、上記飽和脂肪酸塩と不飽和脂肪酸塩を混合して起泡剤として用いても構わない。
更に、上記飽和脂肪酸塩又は不飽和脂肪酸塩において、当該定着液の起泡剤として用いる場合、ナトリウム塩、カリウム塩もしくはアミン塩であることが望ましい。定着装置に電源を投入後、素早く定着可能な状態にすることは定着装置の商品価値として重要な要素である。定着装置において定着可能な状態とするためには、定着液が適切な泡状となっていることが必須であるが、上記の脂肪酸塩は素早く起泡することで、電源投入後定着可能な状態を短時間でつくることができる。特に、アミン塩とすることで、定着液にせん断力を加えたときに最も短時間で起泡し、泡状定着液を容易に作製することが可能であり、定着装置への電源投入後の定着可能な状態を最も短時間でつくることができる。
樹脂を溶解又は膨潤することで軟化させる軟化剤は、脂肪族エステルを含む。この脂肪族エステルは、トナー等に含まれる樹脂の少なくとも一部を溶解又は膨潤させる溶解性又は膨潤性に優れている。この軟化剤は、定着液が液状や泡状のいずれの形態においても適する。
また、軟化剤については、人体に対する安全性の観点から、その急性経口毒性LD50が3g/kgよりも大きい、更に好ましくは5g/kgであることが好ましい。脂肪族エステルは、化粧品原料として多用されているように、人体に対する安全性が高い。
更に、記録媒体に対するトナーの定着は、密封された環境において頻繁に使用される機器で行われ、軟化剤はトナーの記録媒体への定着後にもトナー中に残留するため、記録媒体に対するトナーの定着は揮発性有機化合物(VOC)及び不快臭の発生を伴わないことが好ましい。すなわち、軟化剤は揮発性有機化合物(VOC)及び不快臭の原因となる物質を含まないことが好ましい。脂肪族エステルは、一般に汎用される有機溶剤(トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、酢酸エチルなど)と比較して、高い沸点及び低い揮発性を有し、刺激臭を持たない。
なお、オフィス環境等における臭気を高い精度で測定することができる実用的な臭気の測定尺度として、官能測定である三点比較式臭袋法による臭気指数(10×log(物質の臭気が感じられなくなるまでの物質の希釈倍率))を臭気の指標とすることができる。また、軟化剤に含まれる脂肪族エステルの臭気指数は、10以下であることが好ましい。この場合には、通常のオフィス環境では、不快臭を感じなくなる。更に、軟化剤のみならず、定着液に含まれる他の液剤も同様に、不快臭及び刺激臭を有さないことが好ましい。
本発明における定着液において、好ましくは、上記の脂肪族エステルは、飽和脂肪族エステルを含む。上記の脂肪族エステルが、飽和脂肪族エステルを含む場合には、軟化剤の保存安定性(酸化、加水分解などに対する耐性)を向上させることができる。また、飽和脂肪族エステルは、人体に対する安全性が高く、多くの飽和脂肪族エステルは、トナーに含まれる樹脂を1秒以内で溶解又は膨潤させることができる。更に、飽和脂肪族エステルは、記録媒体に提供されたトナーの粘着感を低下させることができる。これは、飽和脂肪族エステルが、溶解又は膨潤したトナーの表面に油膜を形成するためであると考えられる。
よって、本発明における定着液において、好ましくは、上記の飽和脂肪族エステルの一般式は、
R1COOR2
で表される化合物を含み、R1は、炭素数が11以上14以下のアルキル基であり、R2は、炭素数が1以上6以下の直鎖型もしくは分岐型アルキル基である。R1及びR2の炭素数がそれぞれ所望の範囲よりも少ないと臭気が発生し、所望の範囲よりも多いと樹脂軟化能力が低下する。
即ち、上記の飽和脂肪族エステルが、一般式R1COOR2で表される化合物を含み、R1は、炭素数が11以上14以下のアルキル基であり、R2は、炭素数が1以上6以下の直鎖型もしくは分岐型のアルキル基である場合には、トナーに含まれる樹脂に対する溶解性又は膨潤性を向上させることができる。また、上記の化合物の臭気指数は、10以下であり、上記の化合物は、不快臭及び刺激臭を有さない。
上記の化合物である脂肪族モノカルボン酸エステルとしては、例えば、ラウリン酸エチル、ラウリン酸ヘキシル、トリデシル酸エチル、トリデシル酸イソプロピル、ミリスチン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル等が挙げられる。上記の化合物であるこれらの脂肪族モノカルボン酸エステルの多くは、油性溶媒に溶解するが、水には溶解しない。よって、上記の化合物である脂肪族モノカルボン酸エステルの多くについては、水性溶媒では、グリコール類を溶解助剤として定着液に含有し、溶解又はマイクロエマルジョンの形態とする。
また、本発明における定着液において、好ましくは、上記の脂肪族エステルは、脂肪族ジカルボン酸エステルを含む。上記の脂肪族エステルが、脂肪族ジカルボン酸エステルを含む場合には、より短い時間でトナーに含まれる樹脂を溶解又は膨潤させることができる。例えば、60ppm程度の高速印字では、記録媒体における未定着のトナーに定着液を付与し、トナーが記録媒体に定着するまでの時間は、1秒以内であることが望ましい。上記の脂肪族エステルが、脂肪族ジカルボン酸エステルを含む場合には、記録媒体における未定着のトナー等に定着液を付与し、トナーが記録媒体に定着するのに要する時間を、0.1秒以内にすることが可能となる。更に、より少量の、軟化剤の添加によって、トナーに含まれる樹脂を溶解又は膨潤させることができるため、定着液に含まれる、軟化剤の含有量を低減することができる。
よって、本発明における定着液において、好ましくは、上記の脂肪族ジカルボン酸エステルの一般式は、
R3(COOR4)2
で表される化合物を含み、R3は、炭素数が3以上8以下のアルキレン基であり、R4は、炭素数が3以上5以下の直鎖型又は分岐型アルキル基である。R1及びR2の炭素数がそれぞれ所望の範囲よりも少ないと臭気が発生し、所望の範囲よりも多いと樹脂軟化能力が低下する。
即ち、上記の脂肪族ジカルボン酸エステルが、一般式R3(COOR4)2で表される化合物を含み、R3は、炭素数が3以上8以下のアルキレン基であり、R4は、炭素数が3以上5以下の直鎖型又は分岐型アルキル基である場合には、トナーに含まれる樹脂に対する溶解性又は膨潤性を向上させることができる。また、上記の化合物の臭気指数は、10以下であり、上記の化合物は、不快臭及び刺激臭を有さない。
上記の化合物である脂肪族ジカルボン酸エステルとしては、例えば、コハク酸2エチルヘキシル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジイソデシル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジブチル等が挙げられる。上記の化合物であるこれらの脂肪族ジカルボン酸エステルの多くは、油性溶媒に溶解するが、水には溶解しない。よって、水性溶媒では、グリコール類を溶解助剤として定着液に含有し、溶解又はマイクロエマルジョンの形態とする。
更に、本発明における定着液において、好ましくは上記の脂肪族エステルは、脂肪族ジカルボン酸ジアルコキシアルキルを含む。上記の脂肪族エステルが、脂肪族ジカルボン酸ジアルコキシアルキルを含む場合には、記録媒体に対するトナーの定着性を向上させることができる。
本発明における定着液において、好ましくは、上記の脂肪族ジカルボン酸ジアルコキシアルキルの一般式は、
R5(COOR6−O−R7)2
で表される化合物を含み、R5は、炭素数が2以上8以下のアルキレン基であり、R6は、炭素数が2以上4以下のアルキレン基であり、R7は、炭素数が1以上4以下のアルキル基である。R1及びR2の炭素数がそれぞれ所望の範囲よりも少ないと臭気が発生し、所望の範囲よりも多いと樹脂軟化能力が低下する。
即ち、上記の脂肪族ジカルボン酸ジアルコキシアルキルは、一般式R5(COOR6−O−R7)2で表される化合物を含み、R5は、炭素数が2以上8以下のアルキレン基であり、R6は、炭素数が2以上4以下のアルキレン基であり、R7は、炭素数が1以上4以下のアルキル基である場合には、トナーに含まれる樹脂に対する溶解性又は膨潤性を向上させることができる。また、上記の化合物の臭気指数は、10以下であり、上記の化合物は、不快臭及び刺激臭を有さない。
上記の化合物である脂肪族ジカルボン酸ジアルコキシアルキルとしては、例えば、コハク酸ジエトキシエチル、コハク酸ジブトキシエチル、アジピン酸ジエトキシエチル、アジピン酸ジブトキシエチル、セバシン酸ジエトキシエチル等が挙げられる。これらの脂肪族ジカルボン酸ジアルコキシアルキルを水性溶媒では、グリコール類を溶解助剤として定着液に含有し、溶解又はマイクロエマルジョンの形態とする。
また、脂肪酸エステルではないが、クエン酸エステルや炭酸エチレンや炭酸プロピレンも軟化もしくは膨潤剤として適する。
なお、定着の対象となる樹脂を含有する微粒子は、トナーに限定されず、樹脂を含有する微粒子であれば何れでもよい。例えば、導電性部材を含有した樹脂含有微粒子でもよい。また、記録媒体は、記録紙に限定されず、金属、樹脂、セラミックス等何れでもよい。但し、媒体は定着液に対し浸透性を有することが望ましく、媒体基板が液浸透性を持たない場合は、基板上に液浸透層を有する媒体が望ましい。記録媒体の形態もシート状に限定されず、平面及び曲面を有する立体物でもよい。例えば、紙のごとき媒体に透明樹脂微粒子を均一に定着させ紙面を保護する(所謂、ニスコート)用途においても、本発明は適用できる。
上記の樹脂を含有する微粒子のうち、電子写真プロセスで用いるトナーは、本発明の定着液との組合せにおいて最も定着への効果が高い。トナーは、色剤と帯電制御剤と結着樹脂や離型剤などのような樹脂を含む。トナーに含まれる樹脂は、特に限定されないが、好適な結着樹脂としては、ポリスチレン樹脂、スチレン−アクリル共重合体樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられ、離型剤としては、例えばカルバナウワックスやポリエチレンなどのワックス成分などが挙げられる。トナーは、結着樹脂の他に、公知の着色剤、電荷制御剤、流動性付与剤、外添剤などを含んでもよい。また、トナーは、メチル基を有する疎水性シリカ及び疎水性酸化チタンのような疎水性微粒子をトナーの粒子の表面に固着させることによって、撥水性処理されていることが好ましい。媒体のうち、記録媒体は、特に限定されず、例えば、紙、布、及び液体透過層を有するOHP用シートのようなプラスチックフィルムなどが挙げられる。本発明における油性とは、室温(20℃)における水に対する溶解度が、0.1重量%以下である性質を意味する。
また、泡状となった定着液は、好ましくは、撥水性処理されたトナーの粒子に対して、十分な親和性を有することが望ましい。ここで、親和性とは、液体が固体に接触したときに、固体の表面に対する液体の拡張濡れの程度を意味する。すなわち、泡状となった定着液は、撥水性処理されたトナーに対して十分な濡れ性を示すことが好ましい。疎水性シリカ及び疎水性酸化チタンのような疎水性微粒子で撥水性処理されたトナーの表面は、疎水性シリカ及び疎水性酸化チタンの表面に存在するメチル基によって覆われており、おおよそ20mN/m程度の表面エネルギーを有する。現実には撥水性処理されたトナーの表面の全面が疎水性微粒子によって完全に覆われてはいないため、撥水性処理されたトナーの表面エネルギーは、おおよそ、20〜30mN/mであると推測される。よって、撥水性トナーに対して親和性を有する(十分な濡れ性を有する)ためには、泡状となった定着液の表面張力は、20〜30mN/mであることが好ましい。
水性溶媒を用いる場合、界面活性剤を添加することで、表面張力を20〜30mN/mとすることが好ましい。また、水性溶媒の場合、単価もしくは多価アルコールを含有していることが望ましい。これらの材料は、泡状の定着液における気泡の安定性を高め、破泡しにくくする利点を有する。例えばセタノールなどの単価アルコールや、グリセンリン、プロピレングリコール、1,3ブチレングリコールなどの多価アルコールが望ましい。また、これらの単価又は多価のアルコール類を含有することで紙等の媒体のカール防止に効果を有する。
また、定着液中に浸透性改善や紙等媒体のカール防止のために油性成分を含有してO/WエマルジョンやW/Oエマルジョンを形成する構成も望ましく、その場合、具体的な分散剤としては、ソルビタンモノオレエートやソルビタンモノステレートやソルビタンセスキオレートなどのソルビタン脂肪酸エステルやショ糖ラウリン酸エステルやショ糖ステアリン酸エステルなどのショ糖エステルなどが望ましい。
なお、定着中での軟化剤を溶解もしくはマイクロエマルジョン分散させるため方法としては、例えば、回転羽根によるホモミキサーやホモジナイザーのような機械的に攪拌する手段、及び超音波ホモジナイザーのような振動を与える手段が挙げられる。いずれにしても、強いせん断応力を定着液中の軟化剤に加えることで溶解もしくはマイクロエマルジョン分散させる。
上述した本発明による画像形成方法を用いて、樹脂を含むトナーの画像を記録媒体に形成する。よって、この別の発明の一実施の形態例の画像形成装置によれば、それぞれ、上述したように、より効率的にトナーを記録媒体に定着させることが可能な画像形成方法及び画像形成装置を提供することができる。
次に、画像形成方法及び画像形成装置において、媒体への画像記録は、トナーを用いた静電記録プロセスを用いた記録が望ましい。静電記録プロセスは、静電潜像を書き込んだ静電記録紙への直接トナー現像による直接記録や静電潜像を書き込んだ感光体へのトナー現像・記録紙へのトナー転写による間接記録のいずれでもよい。以下は、静電記録プロセスの例として間接記録方式の具体例を示す。
図8は別の発明の画像形成装置の構成を示す概略図である。同図に示す画像形成装置は複写機又はプリンタであってもよい。図8の(a)はカラー電子写真のタンデム方式の画像形成装置全体の概略図であり、図8の(b)は図8の(a)の画像形成装置の1つの画像形成ユニットの構成を示す図である。図8の(a),(b)に示す画像形成装置70はトナー像担持体として中間転写ベルト71を有する。この中間転写ベルト71は、3つの支持ローラ72〜74に張架されており、図中の矢印Aの方向に回転する。この中間転写ベルト71に対しては、ブラック、イエロー、マゼンタ及びシアンの各画像形成ユニット75〜78が配列されている。これら画像形成ユニットの上方には、図示していない露光装置が配置されている。例えば、画像形成装置が複写機である場合には、スキャナで原稿の画像情報を読み込み、この画像情報に応じて、各感光体ドラム上に静電潜像を書き込むための各露光L1〜L4が露光装置により照射される。中間転写ベルト71を挟んで中間転写ベルト71の支持ローラ74に対向する位置には、二次転写装置79が設けられている。二次転写装置79は、2つの支持ローラ80,81の間に張架された二次転写ベルト82で構成されている。なお、二次転写装置79としては、転写ベルト以外に転写ローラを用いてもよい。また、中間転写ベルト71を挟んで中間転写ベルト71の支持ローラ72に対向する位置には、ベルトクリーニング装置83が配置されている。ベルトクリーニング装置83は、中間転写ベルト71上に残留するトナーを除去するために配置されている。
記録媒体としての記録紙84は、一対の給紙ローラ85で二次転写部へ導かれ、トナー像を記録紙84に転写する際に、二次転写ベルト82を中間転写ベルト71に押し当てることによって、トナー像の転写を行う。トナー像が転写された記録紙84は、二次転写ベルト82によって搬送され、記録紙84に転写された未定着のトナー像は、図示していない露光装置からの画像情報に基づいて、本発明の定着装置によって定着される。すなわち、記録紙84に転写された未定着のトナー像には、図示していない露光装置からの画像情報、例えばカラー画像又は黒ベタ画像に基づいて泡状の定着液層の膜厚が制御された泡状定着液が付与され、泡状の定着液に含まれる、トナーに含まれる樹脂の少なくとも一部を溶解又は膨潤させる部剤(軟化剤)によって、未定着のトナー像を、記録紙84に定着させる。
次に、画像形成ユニットについて説明する。図8の(b)に示すように、画像形成ユニット75〜78には、感光体ドラム86の周辺に、帯電装置87、現像装置88、クリーニング装置89及び除電装置90が配置されている。また、中間転写ベルト71を介して、感光体ドラム86に対向する位置に、一次転写装置91が設けられている。また、帯電装置87は、帯電ローラを採用した接触帯電方式の帯電装置である。帯電装置87は、帯電ローラを感光体ドラム86に接触させて、感光体ドラム86に電圧を印加することにより、感光体ドラム86の表面を一様に帯電する。この帯電装置87としては、非接触のスコロトロン等を採用した非接触帯電方式の帯電装置を採用することもできる。また、現像装置88は、現像剤中のトナーを感光体ドラム86上の静電潜像に付着させ、静電潜像を可視化させる。ここで、各色に対応するトナーは、それぞれの色に着色された樹脂材料からなり、これらの樹脂材料は、本発明における定着液により溶解又は膨潤する。なお、現像装置88は、図示しない攪拌部及び現像部を有し、現像に使用されなかった現像剤は、攪拌部に戻され、再利用される。攪拌部におけるトナーの濃度は、トナー濃度センサによって検出され、トナーの濃度が、一定であるように制御されている。更に、一次転写装置91は、感光体ドラム86上で可視化されたトナーを中間転写ベルト71に転写する。ここでは、一次転写装置91としては、転写ローラを採用しており、転写ローラを、中間転写ベルト71を挟んで感光体ドラム86に押し当てている。一次転写装置91としては、導電性ブラシ、非接触のコロナチャージャー等を採用することもできる。また、クリーニング装置89は、感光体ドラム86上の不要なトナーを除去する。クリーニング装置89としては、感光体ドラム86に押し当てられる先端を備えたブレードを用いることができる。ここで、クリーニング装置89によって回収されたトナーは、図示しない回収スクリュー及びトナーリサイクル装置によって、現像装置88に回収され、再利用される。更に、除電装置90は、ランプで構成されており、光を照射して感光体ドラム86の表面電位を初期化する。
次に、本発明における定着液及び定着の具体例について説明する。
[具体例1]
<定着液の処方>
◇軟化剤を含有する液体
希釈溶媒:イオン交換水 53wt%
軟化剤:コハク酸ジエトキシエチル(クローダ社 クローダDES)
10wt%
炭酸プロピレン 20wt%
増粘剤:プロピレングリコール 10wt%
増泡剤:ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド(1:1)型(松本油脂 マーポンMM) 0.5wt%
起泡剤:パルミチン酸アミン 2.5wt%
ミリスチン酸アミン 1.5wt%
ステアリン酸アミン 0.5wt%
分散剤:POE(20)ラウリルソルビタン(花王 レオドールTW−S120V) 1wt%
ポリエチレングリコールモノステアレート(花王 エマノーン3199) 1wt%
なお、分散剤は、軟化剤の希釈溶媒への溶解性を助長するために用いた。脂肪酸アミンは、脂肪酸とトリエタノールアミンにより脂肪酸アミンを合成した。
上記成分比にて、先ずは、液温120℃にて軟化剤を除いて混合攪拌し溶液を作製した。次に、軟化剤を混合し、超音波ホモジナイザーを用いて軟化剤が溶解した定着液(泡化する前の原液)を作製した。
<塗布装置>
◇大きな泡生成部
図4を基に作製した。
上記の液状定着液保存容器:PET樹脂からなるボトル
液搬送ポンプ:チューブポンプ(チューブ内径2mm、チューブ材質:シリコーンゴム)
搬送流路:内径2mmのシリコーンゴムチューブ
大きな泡を作るための微細孔シート:#400のステンレス製メッシュシート(開口部約40μm)
◇微小な泡生成部
図4を基に作製した。
2重円筒の内側円筒は、回転軸に固定され、図示していない回転駆動モータにより回転する。2重円筒の材質は、PET樹脂とした。外側円筒内径:10mm・長さ120mm、内側円筒外形:8mm・長さ100mmとした。回転数は、1000rpmから2000rpmの範囲で可変とした。
◇泡状定着液付与手段
図5を基に作製した。上記の微小な泡を生成する微小な泡生成部を用い、泡状の定着液を作成し液膜厚制御用ブレードに供給する構成とした。液膜厚制御用ブレードと塗布ローラとのギャップは40μmとした。
紙搬送ローラ:アルミ合金製ローラ(φ10mm)を芯金とし、外径Φ50mmのポリウレタン泡材(イノアック社商品名「カラー泡EMO」)を形成したスポンジローラ
塗布ローラ:PFA樹脂を焼付け塗装したSUS製ローラ(φ30mm)
液膜厚制御用ブレード:アルミ合金製支持板に厚み1mmの並板ガラスを接着。ガラス面を塗布ローラ側に向け、10μmから100μmの範囲で塗布ローラとガラス面の隙間を制御できるようにした。
紙搬送速度:200mm/s
◇定着液付与後の加圧手段
図2及び図5の加圧ローラ11による定着液付与後のトナー層の加圧手段について説明する。
加圧ローラ:長さ210mm・Φ20mmアルミ合金を芯金とし、その表面にゴム硬度30度のNBRゴムを厚み10mm形成し、更にその表面に表面粗さRz5μm以下のシームレスPFAフィルム(厚み50μm)をかぶせた。加圧ローラ回転時の周速度は紙搬送ローラ12の周速度に対する速度差比率を−60%から+110%の範囲で変化するようにした。
紙搬送ローラ:長さ210mm・Φ30mmのアルミ合金とした。紙搬送ローラ回転時の周速度は200mm/sと固定した。加圧ローラと紙搬送ローラとの加圧力は、軸間の片側加重10kgfとした。
<実施結果>
電子写真方式のプリンタ(リコー社製 IpsioColorCX8800)を用い、未定着トナーのカラー画像が形成されたPPC用紙(リコーT−6200)を定着装置に挿入し、塗布量0.16g/A4にてトナー画像に定着液を付与し、その後、直ちに加圧ローラに通した。各速度差における色再現及び光沢度を下記の表1に示す。
なお、色再現性は、X-rite938によるLa*b*値、光沢度はハンディー光沢度計の入射角20度における値とした。画像は、緑色ベタ画で、紙上にシアントナー層、イエロートナー層が下から順に積層した画像を用いた。また、定着装置(筐体カバーなし)の騒音測定(騒音計 リオン社 NL-21)をあわせて実施した。
速度差比率−60%では、紙にしわが発生し、紙ジャムを起こしてしまい、テスト不能であった。速度差比率110%では気になる程度の騒音が発生した。速度差比率−5%から+5%の範囲では従来熱圧力定着に比べ光沢度が低く、色再現性に劣っている。速度差比率−50%から−10%の範囲、及び、+10%から100%の範囲では、熱圧力定着に近い光沢度と色再現性(a*値)を示しており、速度差を持たせた効果が出ている。
[具体例2]
<定着液の処方>
具体例1と同じ
<塗布装置>
◇泡状定着液付与手段
具体例1と同じ
◇定着液付与後の加圧手段
図2及び図5の加圧ローラ11による定着液付与後のトナー層加圧手段に基づく構成とした。
加圧ローラ:長さ210mm・Φ20mmアルミ合金を芯金とし、その表面にゴム硬度30度のNBRゴムを厚み10mm形成し、更にその表面に表面粗さRz5μm以下のシームレスPFAフィルム(厚み50μm)をかぶせた。アルミ合金の芯金の軸を揺動カムに固定し、ストローク10mmで軸に並行に軸を揺動した。加圧ローラ回転時の周速度は紙搬送ローラ12の周速度に対する速度差比率が+110%となる速度差をもたせた。
紙搬送ローラ:長さ210mm・Φ30mmのアルミ合金とした。紙搬送ローラ回転時の周速度は200mm/sと固定した。加圧ローラと紙搬送ローラとの加圧力は、軸間の片側加重10kgfとした。
<実施結果>
電子写真方式のプリンタ(リコー社製 IpsioColorCX8800)を用い、未定着トナーのカラー画像が形成されたPPC用紙(リコーT−6200)を定着装置に挿入し、塗布量0.16g/A4にてトナー画像に定着液を付与し、その後、直ちに加圧ローラに通した。加圧ローラへの揺動有無における色再現及び光沢度を下記の表2に示す。
なお、色再現性は、X-rite938によるLa*b*値、光沢度はハンディー光沢度計の入射角20度における値とした。画像は、緑色ベタ画で、紙上にシアントナー層、イエロートナー層が下から順に積層した画像を用いた。また、定着装置(筐体カバーなし)の騒音測定(騒音計 リオン社 NL-21)をあわせて実施した。
このように、加圧ローラに揺動を加えることで、色再現は熱定着並みに、光沢度は、熱圧力定着よりも向上させる効果があることがわかった。
[具体例3]
<定着液の処方>
具体例1と同じ
<塗布装置>
◇泡状定着液付与手段
具体例1と同じ
◇定着液付与後の加圧手段
図2及び図5の加圧ローラ11による定着液付与後のトナー層加圧手段に基づく構成とした。
加圧ローラ:長さ210mm・Φ20mmアルミ合金を芯金とし、その表面にゴム硬度30度のNBRゴムを厚み10mm形成し、更にその表面に表面粗さRz5μm以下のシームレスPFAフィルム(厚み50μm)をかぶせた。また、吹き出し口の温度を60℃として温風を加圧ローラと紙との間に風速0.2m/sにて吹き付けた。加圧ローラ回転時の周速度は紙搬送ローラ12の周速度に対する速度差比率が+110%となる速度差をもたせた。
紙搬送ローラ:長さ210mm・Φ30mmのアルミ合金とした。紙搬送ローラ回転時の線速度は200mm/sと固定した。加圧ローラと紙搬送ローラとの加圧力は、軸間の片側加重10kgfとした。
<実施結果>
電子写真方式のプリンタ(リコー社製 IpsioColorCX8800)を用い、未定着トナーのカラー画像が形成されたPPC用紙(リコーT−6200)を定着装置に挿入し、塗布量0.16g/A4にてトナー画像に定着液を付与し、その後、直ちに加圧ローラに通した。温風有無における色再現及び光沢度を下記の表3に示す。
なお、色再現性は、X-rite938によるLa*b*値、光沢度はハンディー光沢度計の入射角20度における値とした。画像は、緑色ベタ画で、紙上にシアントナー層、イエロートナー層が下から順に積層した画像を用いた。また、定着装置(筐体カバーなし)の騒音測定(騒音計 リオン社 NL-21)をあわせて実施した。
このように、加圧ローラに温風を吹き付けで、若干騒音は増えるものの、少し加圧面を温めることで、色再現は熱定着並みに、光沢度は、熱圧力定着よりも向上させる効果があることがわかった。
[具体例4]
<定着液の処方>
具体例1と同じ
<塗布装置>
◇泡状定着液付与手段
具体例1と同じ
◇定着液付与後の加圧手段
図6の加圧ベルト51による定着液付与後のトナー層加圧手段に基づく構成とした。
加圧ベルト:幅210mm・Φ100mmのシームレスニッケル円筒をベルト基板とし、その表面に表面粗さRz50μm以下のPFAを焼き付けた。加圧ベルト回転時の周速度は紙搬送ローラ12の周速度に対する速度差比率が+150%となる速度差をもたせた。
紙搬送ローラ:長さ210mm・Φ50mmのアルミ合金とした。紙搬送ローラ回転時の線速度は200mm/sと固定した。加圧面にニップ幅15mmとなるように紙搬送ローラを加圧ベルトに押し付けた。加圧ベルトと紙搬送ローラとの加圧力は、軸間の片側加重1.5kgfとした。
<実施結果>
電子写真方式のプリンタ(リコー社製 IpsioColorCX8800)を用い、未定着トナーのカラー画像が形成されたPPC用紙(リコーT−6200)を定着装置に挿入し、塗布量0.16g/A4にてトナー画像に定着液を付与し、その後、直ちに加圧ベルトに通した。速度差なしと速度差比率150%における色再現及び光沢度を下記の表4に示す。
なお、色再現性は、X-rite938によるLa*b*値、光沢度はハンディー光沢度計の入射角20度における値とした。画像は、緑色ベタ画で、紙上にシアントナー層、イエロートナー層が下から順に積層した画像を用いた。また、定着装置(筐体カバーなし)の騒音測定(騒音計 リオン社 NL-21)をあわせて実施した。
このように、加圧ベルトとし、加圧面のニップ幅を広げることで、色再現及び光沢度は熱定着並みに向上させる効果があることがわかった。
なお、本発明は上記各実施の形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載であれば多種の変形や置換可能であることは言うまでもない。