JP5158443B2 - 防眩フィルムおよびその製造方法、ならびに金型の製造方法 - Google Patents

防眩フィルムおよびその製造方法、ならびに金型の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、低ヘイズでありながら防眩特性に優れた防眩(アンチグレア)フィルム、その製造方法、かかる防眩フィルムを得るための金属金型の製造方法に関する。
液晶ディスプレイやプラズマディスプレイパネル、ブラウン管(陰極線管:CRT)ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイなどの画像表示装置は、その表示面に外光が映り込むと視認性が著しく損なわれてしまう。このような外光の映り込みを防止するために、画質を重視するテレビやパーソナルコンピュータ、外光の強い屋外で使用されるビデオカメラやデジタルカメラ、反射光を利用して表示を行う携帯電話などにおいては、従来から画像表示装置の表面に外光の映り込みを防止するフィルム層が設けられている。このフィルム層は、光学多層膜による干渉を利用した無反射処理が施されたフィルムからなるものと、表面に微細な凹凸を形成することにより入射光を散乱させて映り込み像をぼかす防眩処理が施されたフィルムからなるものとに大別される。このうち、前者の無反射フィルムは、均一な光学膜厚の多層膜を形成する必要があるため、コスト高になる。これに対して後者の防眩フィルムは、比較的安価に製造することができるため、大型のパーソナルコンピュータやモニタなどの用途に広く用いられている。
このような防眩フィルムは従来から、たとえば微粒子を分散させた樹脂溶液を基材シート上に塗布し、塗布膜厚を調整して微粒子を塗布膜表面に露出させることでランダムな凹凸をシート上に形成する方法などによって製造されている。しかしながら、このような微粒子を分散させることにより製造された防眩フィルムは、樹脂溶液中の微粒子の分散状態や塗布状態などによって凹凸の配置や形状が左右されてしまうため、意図したとおりの凹凸を得ることが困難であり、ヘイズが低いものでは十分な防眩効果が得られないという問題があった。さらに、このような従来の防眩フィルムを画像表示装置の表面に配置した場合、散乱光によって表示面全体が白っぽくなり、表示が濁った色になる、いわゆる「白ちゃけ」が発生しやすいという問題があった。また、最近の画像表示装置の高精細化に伴って、画像表示装置の画素と防眩フィルムの表面凹凸形状とが干渉し、結果として輝度分布が発生して見えにくくなる、いわゆる「ギラツキ」現象が発生しやすいという問題もあった。ギラツキを解消するために、バインダー樹脂と分散微粒子との間に屈折率差を設けて光を散乱させる試みもあるが、そのような防眩フィルムを画像表示装置の表面に配置した際には、微粒子とバインダー樹脂界面における光の散乱によって、コントラストが低下しやすいという問題もあった。
一方、微粒子を含有させずに、透明樹脂層の表面に形成された微細な凹凸だけで防眩性を発現させる試みもある。たとえば、特開2002−189106号公報(特許文献1)には、エンボス鋳型と透明樹脂フィルムとの間に電離放射線硬化性樹脂を挟んだ状態で当該電離放射線硬化性樹脂を硬化させることにより、三次元10点平均粗さおよび三次元粗さ基準面上における隣接する凸部どうしの平均距離が、それぞれ所定値を満足する微細な凹凸を形成させ、その凹凸が形成された電離放射線硬化性樹脂層を前記透明樹脂フィルム上に設けたかたちの防眩フィルムが開示されている。しかしながら、特許文献1に開示される防眩フィルムによっても、十分な防眩効果、白ちゃけの抑制、高コントラスト、およびギラツキの抑制を達成することは難しかった。
また、表示装置の表示面に配置される防眩フィルムではなく、液晶表示装置の背面側に配置される光拡散層として、表面に微細な凹凸が形成されたフィルムを用いることも、たとえば特開平6−34961号公報(特許文献2)、特開2004−45471号公報(特許文献3)、特開2004−45472号公報(特許文献4)などに開示されている。このうち特許文献3、4には、フィルムの表面に凹凸を形成する手法として、凹凸を反転させた形状を有するエンボスロールに電離放射線硬化性樹脂液を充填し、充填された樹脂にロール凹版の回転方向に同期して走行する透明基材を接触させ、透明基材がロール凹版に接触しているときに、ロール凹版と透明基材との間にある樹脂を硬化させ、硬化と同時に硬化樹脂と透明基材とを密着させた後、硬化後の樹脂と透明基材との積層体をロール凹版から剥離する方法が開示されている。
しかしながらこのような特許文献3、4に開示された方法では、用いることのできる電離放射線硬化性樹脂液の組成が限られ、また溶媒で希釈して塗布したときのようなレベリングが期待できないことから、膜厚の均一性に課題があることが予想される。さらに、特許文献3、4に開示された方法では、エンボスロール凹版に直接樹脂液を充填する必要があることから、凹凸面の均一性を確保するためには、エンボスロール凹版に高い機械精度が要求され、エンボスロールの作製が難しいという課題があった。
次に、表面に凹凸を有するフィルムの作製に用いられるロールの作製方法としては、たとえば、上述した特許文献2には、金属などを用いて円筒体を作り、その表面に電子彫刻、エッチング、サンドブラストなどの手法により凹凸を形成する方法が開示されている。
また、特開2004−29240号公報(特許文献5)には、ビーズショット法によってエンボスロールを作製する方法が開示されており、特開2004−90187号公報(特許文献6)には、エンボスロールの表面に金属めっき層を形成する工程、金属めっき層の表面を鏡面研磨する工程、さらに必要に応じてピーニング処理をする工程を経て、エンボスロールを作製する方法が開示されている。
しかしながら、このようにエンボスロールの表面にブラスト処理を施したままの状態では、ブラスト粒子の粒径分布に起因する凹凸径の分布が生じるとともに、ブラストにより得られるくぼみの深さを制御することが困難であり、防眩機能に優れた凹凸の形状を再現性よく得ることに課題があった。
また、上述した特許文献1には、好ましくは鉄の表面にクロムめっきしたローラを用い、サンドブラスト法やビーズショット法により凹凸型面を形成することが記載されている。さらに、このように凹凸が形成された型面には、使用時の耐久性を向上させる目的で、クロムめっきなどを施してから使用することが好ましく、それにより硬膜化および腐食防止を図ることができる旨の記載もある。一方、上述した特許文献3、4のそれぞれの実施例には、鉄芯表面にクロムめっきし、#250の液体サンドブラスト処理をした後に、再度クロムめっき処理して、表面に微細な凹凸形状を形成することが記載されている。
しかしながら、このようなエンボスロールの作製法では、硬度の高いクロムめっきの上にブラストやショットを行うため、凹凸が形成されにくく、しかも形成された凹凸の形状を精密に制御することが困難であった。また、特開2004−29672号公報(特許文献7)にも記載されるとおり、クロムめっきは、下地となる材質およびその形状に依存して表面が荒れることが多く、ブラストにより形成された凹凸上にクロムめっきで生じた細かいクラックが形成されるため、どのような凹凸ができるかの設計が難しいという課題があった。さらに、クロムめっきで生じる細かいクラックがあるため、最終的に得られる防眩フィルムの散乱特性が好ましくない方向に変化するという課題もあった。さらには、エンボスロール母材表面の材質とめっき種の組み合わせにより、仕上がりのロール表面が多種多様に変化するため、必要とする表面凹凸形状を精度よく得るためには、適切なロール表面の材質と適切なめっき種を選択しなければならないという課題もあった。さらにまた、望む表面凹凸形状が得られたとしても、めっき種によっては使用時の耐久性が不十分となることもあった。
特開2000−284106号公報(特許文献8)には、基材にサンドブラスト加工を施した後、エッチング工程および/または薄膜の積層工程を施すことが記載されているが、サンドブラスト工程前に金属めっき層を設けることについては記載も示唆もされていない。また、特開2006−53371号公報(特許文献9)には基材を研磨し、サンドブラスト加工を施した後、無電解ニッケルめっきを施すことが記載されている。また、特開2007−187952号公報(特許文献10)には基材に銅めっきまたはニッケルめっきを施した後、研磨し、サンドブラスト加工を施した後、クロムめっきを施してエンボス版を作製することが記載されており、さらに、特開2007−237541号公報(特許文献11)には銅めっきまたはニッケルめっきを施した後、研磨し、サンドブラスト加工を施した後、エッチング工程または銅めっき工程を施した後にクロムめっきを施してエンボス版を作製することが記載されている。これらのサンドブラスト加工を用いる製法では表面凹凸形状を精密に制御された状態で形成することが難しいため、表面凹凸形状に50μm以上の周期を持つ比較的大きい凹凸形状も作製されてしまう。結果として、それらの大きい凹凸形状と画像表示装置の画素が干渉し、輝度分布が発生して見にくくなる、いわゆるギラツキが発生しやすいという問題があった。
特開2002−189106号公報 特開平6−34961号公報 特開2004−45471号公報 特開2004−45472号公報 特開2004−29240号公報 特開2004−90187号公報 特開2004−29672号公報 特開2000−284106号公報 特開2006−53371号公報 特開2007−187952号公報 特開2007−237541号公報
本発明は、優れた防眩性能を示しながら、白ちゃけによる視認性の低下が防止され、高精細の画像表示装置の表面に配置したときに、ギラツキを発生せずに高いコントラストを発現する防眩フィルムおよびその製造方法、ならびに、防眩フィルムを得るための金属金型の製造方法を提供することを目的とする。
本発明の防眩フィルムは、透明支持体上に、微細な凹凸表面を有する防眩層が形成されてなる防眩フィルムであって、前記微細凹凸表面の標高の空間周波数0.01μm-1におけるエネルギースペクトルH1 2と、空間周波数0.04μm-1におけるエネルギースペクトルH2 2の比H1 2/H2 2が3〜15の範囲内であることを特徴とする。
本発明の防眩フィルムは、前記微細凹凸表面の標高の空間周波数0.1μm-1におけるエネルギースペクトルH3 2と、空間周波数0.04μm-1におけるエネルギースペクトルH2 2の比H3 2/H2 2が0.01以下であることが、好ましい。
本発明の防眩フィルムは、微細凹凸表面の傾斜角度が5°以下である面の割合が95%以上であることが好ましい。
また本発明の防眩フィルムは、防眩層が0.4μm以上の微粒子を含まないことが好ましい。
本発明は、上述した本発明の防眩フィルムを製造する方法であって、エネルギースペクトルが0μm-1より大きく0.04μm-1以下に極大値を持たないパターンを用いることを特徴とする、防眩フィルムの製造方法についても提供する。
本発明の防眩フィルムの製造方法において、前記パターンを用いて金型を作製し、前記金型の凹凸面を透明支持体上に転写し、次いで凹凸面が転写された透明支持体を金型から剥がすことが、好ましい。
本発明はまた、上述した本発明の金型を製造する方法であって、金型用基材の表面に銅めっきまたはニッケルめっきを施す第1めっき工程と、第1めっき工程によってめっきが施された表面を研磨する研磨工程と、研磨された面に感光性樹脂膜を塗布形成する感光性樹脂膜塗布工程と、感光性樹脂膜上に前記パターンを露光する露光工程と、前記パターンが露光された感光性樹脂膜を現像する現像工程と、現像された感光性樹脂膜をマスクとして用いてエッチング処理を行い、研磨されためっき面に凹凸を形成する第1エッチング工程と、感光性樹脂膜を剥離する感光性樹脂膜剥離工程と、形成された凹凸面にクロムめっきを施す第2めっき工程とを含むことを特徴とする金型の製造方法についても提供する。
本発明の金型の製造方法は、前記感光性樹脂膜剥離工程と前記第2めっき工程の間に、形成された凹凸面をエッチング処理によって鈍らせる第2エッチング工程を含むことが好ましい。
本発明の金型の製造方法においては、クロムめっきを施した後、表面を研磨せず、そのままクロムめっき面を金型の凹凸面として用いることが、好ましい。
本発明の金型の製造方法においては、クロムめっきにより形成されたクロムめっき層が1〜10μmの厚みを有することが、好ましい。
本発明の防眩フィルムは、優れた防眩性能を示しながら、白ちゃけによる視認性の低下が防止され、また、高精細の画像表示装置の表面に配置したときに、ギラツキを発生させずに高いコントラストを発現するものとなる。また、本発明の防眩フィルムの製造方法および金型の製造方法によれば、優れた防眩性能を示す防眩フィルムを再現性よく製造することができる。
本発明の防眩フィルムの表面を模式的に示す斜視図である。 標高を表す関数h(x,y)が離散的に得られる状態を示す模式図である。 本発明の防眩フィルムの微細凹凸表面形状の標高を二次元の離散関数h(x,y)で表したものである。 図3に示した二次元関数h(x,y)を離散フーリエ変換して得られたエネルギースペクトルH2(fx,fy)を白と黒のグラデーションで示したものである。 図4に示したエネルギースペクトルH2(fx,fy)のfx=0における断面を示す図である。 微細凹凸表面の傾斜角度の測定方法を説明するための模式図である。 防眩フィルムの微細凹凸表面の傾斜角度分布のヒストグラムの一例を示すグラフである。 本発明の防眩フィルムを作製するために用いたパターンである画像データの一部を、階調の二次元離散関数g(x,y)で表した図である。 図8に示した階調の二次元離散関数g(x,y)を離散フーリエ変換して得られたエネルギースペクトルG2(fx,fy)を白と黒のグラデーションで示した図である。 図9に示したエネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を示す図である。 本発明の金型の製造方法の前半部分の好ましい一例を模式的に示す図である。 本発明の金型の製造方法の後半部分の好ましい一例を模式的に示す図である。 第1エッチング工程においてサイドエッチングが進行する状態を模式的に示す図である。 第1エッチング工程によって形成された凹凸面が第2エッチング工程によって鈍る状態を模式的に示す図である。 実施例2の金型作製の際に使用したパターンより得られた画像データの階調を二次元関数で表した図である。 比較例1の金型作製の際に使用したパターンより得られた画像データの階調を二次元関数で表した図である。 比較例2の金型作製の際に使用したパターンより得られた画像データの階調を二次元関数で表した図である。 防眩フィルムB〜Fの微細凹凸表面形状の標高の二次元関数より得られたエネルギースペクトルのfx=0における断面を表した図である。 実施例2、比較例1および比較例2に使用したパターンのエネルギースペクトルのfx=0における断面を表した図である。
<防眩フィルム>
以下、本発明の好適な実施形態について、詳細に説明する。
本発明の防眩フィルムは、透明支持体上に、微細な凹凸表面形状(微細凹凸表面)を有する防眩層が形成されたものであって、微細凹凸表面の標高の空間周波数0.01μm-1におけるエネルギースペクトルH1 2と、空間周波数0.04μm-1におけるエネルギースペクトルH2 2の比H1 2/H2 2が3〜15の範囲内であることを特徴とする。これまでに防眩フィルムの微細凹凸表面の周期についてはJIS B 0601に記載される粗さ曲線要素の平均長さRSm、断面曲線要素の平均長さPSm、およびうねり曲線要素の平均長さWSmなどで評価されていた。しかしながら、このような従来の評価方法では、微細凹凸表面に含まれる複数の周期を正確に評価することができなかった。よって、ギラツキと微細凹凸表面との相関および防眩性と微細凹凸表面との相関についても正確に評価することができず、ギラツキの抑制と十分な防眩性能を兼備する防眩フィルムを作製することが困難であった。
本発明者らは、透明支持体上に微細凹凸表面を有する防眩層が形成されてなる防眩フィルムにおいて、微細凹凸表面が特定の空間周波数分布を示すようにすれば、十分な防眩効果を発現しつつ、ギラツキが十分に防止されることを見出した。すなわち、本発明によれば、微細凹凸表面の標高の空間周波数0.01μm-1におけるエネルギースペクトルH1 2と、空間周波数0.04μm-1におけるエネルギースペクトルH2 2の比H1 2/H2 2を特定の範囲内とすることで、優れた防眩性能を示しながら、白ちゃけによる視認性の低下が防止され、また、高精細の画像表示装置の表面に配置したときに、ギラツキを発生させずに高いコントラストを発現する防眩フィルムが提供される。
まず、防眩フィルムの微細凹凸表面の標高のエネルギースペクトルについて説明する。図1は、本発明の防眩フィルムの表面を模式的に示す斜視図である。図1に示されるように、本発明の防眩フィルム1は、その表面に微細な凹凸2が形成された防眩層を有する。ここで、本発明でいう「微細凹凸表面の標高」とは、フィルム1表面の任意の点Pにおける、微細凹凸表面の最低点の高さにおいて当該高さを有する仮想的な平面(標高は基準として0μm)からのフィルムの主法線方向5(上記仮想的な平面における法線方向)における直線距離を意味する。図1に示すように、フィルム面内の直交座標を(x,y)で表示した際には、微細凹凸表面の標高は座標(x,y)の二次元関数h(x,y)と表すことができる。図1には、フィルム全体の面を投影面3で表示している。
微細凹凸表面の標高は、共焦点顕微鏡、干渉顕微鏡、原子間力顕微鏡(AFM)などの装置により測定される表面形状の三次元情報から求めることができる。測定機に要求される水平分解能は、少なくとも5μm以下、好ましくは2μm以下であり、また垂直分解能は、少なくとも0.1μm以下、好ましくは0.01μm以下である。この測定に好適な非接触三次元表面形状・粗さ測定機としては、New View 5000シリーズ(Zygo Corporation社製、日本ではザイゴ(株)から入手可能)、三次元顕微鏡PLμ2300(Sensofar社製)などを挙げることができる。測定面積は、標高のエネルギースペクトルの分解能が0.01μm-1以下である必要があるため、少なくとも200μm×200μm以上とするのが好ましく、より好ましくは、500μm×500μm以上である。
次に、二次元関数h(x,y)より標高のエネルギースペクトルを求める方法について説明する。まず、二次元関数h(x,y)より、式(1)で定義される二次元フーリエ変換によって二次元関数H(fx,fy)を求める。
ここでfxおよびfyはそれぞれx方向およびy方向の周波数であり、長さの逆数の次元を持つ。また、式(1)中のπは円周率、iは虚数単位である。得られた二次元関数H(fx,fy)を二乗することによって、エネルギースペクトルH2(fx,fy)を求めることができる。このエネルギースペクトルH2(fx,fy)は防眩フィルムの微細凹凸表面の空間周波数分布を表している。
以下、防眩フィルムの微細凹凸表面のエネルギースペクトルを求める方法をさらに具体的に説明する。上記の共焦点顕微鏡、干渉顕微鏡、原子間力顕微鏡などによって実際に測定される表面形状の三次元情報は一般的に離散的な値、すなわち、多数の測定点に対応する標高として得られる。図2は、標高を表す関数h(x,y)が離散的に得られる状態を示す模式図である。図2に示すように、フィルム面内の直交座標を(x,y)で表示し、フィルム投影面3上にx軸方向にΔx毎に分割した線およびy軸方向にΔy毎に分割した線を破線で示すと、実際の測定では微細凹凸表面の標高はフィルム投影面3上の各破線の交点毎の離散的な標高値として得られる。
得られる標高値の数は測定範囲とΔxおよびΔyによって決まり、図2に示すようにx軸方向の測定範囲をX=MΔxとし、y軸方向の測定範囲をY=NΔyとすると、得られる標高値の数は(M+1)×(N+1)個である。
図2に示すようにフィルム投影面3上の着目点Aの座標を(jΔx,kΔy)(ここでjは0以上M以下であり、kは0以上N以下である。)とすると、着目点Aに対応するフィルム面上の点Pの標高はh(jΔx,kΔy)と表すことができる。
ここで、測定間隔ΔxおよびΔyは測定機器の水平分解能に依存し、精度良く微細凹凸表面を評価するためには、上述したとおりΔxおよびΔyともに5μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。また、測定範囲XおよびYは上述したとおり、ともに200μm以上が好ましく、ともに500μm以上がより好ましい。
このように実際の測定では微細凹凸表面の標高を表す関数は(M+1)×(N+1)個の値を持つ離散関数h(x,y)として得られる。測定によって得られた離散関数h(x,y)と式(2)で定義される離散フーリエ変換によって離散関数H(fx,fy)が求まり、離散関数H(fx,fy)を二乗することによってエネルギースペクトルの離散関数H2(fx,fy)が求められる。式(2)中のlは−(M+1)/2以上(M+1)/2以下の整数であり、mは−(N+1)/2以上(N+1)/2以下の整数である。また、ΔfxおよびΔfyはそれぞれx方向およびy方向の周波数間隔であり、式(3)および式(4)で定義される。
図3は、本発明の防眩フィルムの微細凹凸表面の標高を二次元の離散関数h(x,y)で表したものである。図3において標高は白と黒のグラデーションで示している。図3に示した離散関数h(x,y)は512×512個の値を持ち、水平分解能ΔxおよびΔyは1.66μmである。
また、図4は図3に示した二次元関数h(x,y)を離散フーリエ変換して得られたエネルギースペクトルH2(fx,fy)を白と黒のグラデーションで示したものである。図4に示したエネルギースペクトルH2(fx,fy)も512×512個の値を持つ離散関数であり、水平分解能ΔfxおよびΔfyは0.0012μm-1である。
図3に示したように本発明の防眩フィルムの微細凹凸表面は凹凸がランダムに形成されているため、図4のエネルギースペクトルは原点を中心に対称となる。よって、空間周波数0.01μm-1におけるエネルギースペクトルH1 2と、空間周波数0.04μm-1におけるエネルギースペクトルH2 2は二次元関数であるエネルギースペクトルH2(fx,fy)の原点を通る断面より求めることができる。図5に図4に示したエネルギースペクトルH2(fx,fy)のfx=0における断面を示した。これより空間周波数0.01μm-1におけるエネルギースペクトルH1 2は4.8、空間周波数0.04μm-1におけるエネルギースペクトルH2 2は0.35であり、比H1 2/H2 2は14であることが分かる。
上述したように、本発明の防眩フィルムは、前記微細凹凸表面の標高の空間周波数0.01μm-1におけるエネルギースペクトルH1 2と、空間周波数0.04μm-1におけるエネルギースペクトルH2 2の比H1 2/H2 2が3〜15であることを特徴とする。エネルギースペクトルの比H1 2/H2 2が3を下回ることは、防眩フィルムの微細凹凸表面に含まれる100μm以上の長周期の凹凸形状が少なく、25μm未満の短周期の凹凸形状が多いことを示している。そのような場合には外光の映り込みを効果的に防止することができず、十分な防眩性能が得られない。またこれに対して、エネルギースペクトルの比H1 2/H2 2が15を上回ることは、微細凹凸表面に含まれる100μm以上の長周期の凹凸形状が多く、25μm未満の短周期の凹凸形状が少ないことを示している。そのような場合には、防眩フィルムは高精細の画像表示装置に配置した際にギラツキを発生させる傾向にある。また、微細凹凸表面に含まれる10μm未満の短周期成分は、防眩性に効果的に寄与せず、微細凹凸表面に入射した光を散乱させて白ちゃけの原因となるため、少ない方が好ましい。具体的には空間周波数0.1μm-1におけるエネルギースペクトルをH3 2とすると、エネルギースペクトルの比H3 2/H2 2は0.1以下であることが好ましく、0.01以下であることがより好ましい。図5に示したエネルギースペクトルでは、空間周波数0.1μm-1におけるエネルギースペクトルH3 2は0.00076である。これより比H3 2/H2 2は0.0022であることが分かる。
本発明者らはまた、防眩フィルムにおいて、微細凹凸表面が特定の傾斜角度分布を示すようにすれば、優れた防眩性能を示しつつ、白ちゃけを効果的に防止するうえで一層有効であることを見出した。すなわち、本発明の防眩フィルムは、微細凹凸表面の傾斜角度が5°以下である面の割合が95%以上であることが好ましい。微細凹凸表面の傾斜角度が5°以下である面の割合が95%を下回ったりすると、凹凸表面の傾斜角度が急峻になって、周囲からの光を集光し、表示面が全体的に白くなる白ちゃけが発生しやすくなる。このような集光効果を抑制し、白ちゃけを防止するためには、微細凹凸表面の傾斜角度が5°以下である面の割合が高ければ高いほどよく、97%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましい。
ここで、本発明でいう「微細凹凸表面の傾斜角度」とは、図1に示す防眩フィルム1表面の任意の点Pにおいて、フィルムの主法線方向5に対する、そこでの凹凸を加味した局所的な法線6のなす角度ψを意味する。微細凹凸表面の傾斜角度についても標高と同様に、共焦点顕微鏡、干渉顕微鏡、原子間力顕微鏡(AFM)などの装置により測定される表面形状の三次元情報から求めることができる。
ここで、図6は、微細凹凸表面の傾斜角度の測定方法を説明するための模式図である。具体的な傾斜角度の決定方法を説明すると、図6に示すように、点線で示される仮想的な平面FGHI上の着目点Aを決定し、そこを通るx軸上の着目点Aの近傍に、点Aに対してほぼ対称に点BおよびDを、また点Aを通るy軸上の着目点Aの近傍に、点Aに対してほぼ対称に点CおよびEをとり、これらの点B,C,D,Eに対応するフィルム面上の点Q,R,S,Tを決定する。なお図6では、フィルム面内の直交座標を(x,y)で表示し、フィルム厚み方向の座標をzで表示している。平面FGHIは、y軸上の点Cを通るx軸に平行な直線、および同じくy軸上の点Eを通るx軸に平行な直線と、x軸上の点Bを通るy軸に平行な直線、および同じくx軸上の点Dを通るy軸に平行な直線とのそれぞれの交点F,G,H,Iによって形成される面である。また図6では、平面FGHIに対して、実際のフィルム面の位置が上方にくるように描かれているが、着目点Aのとる位置によって当然ながら、実際のフィルム面の位置が平面FGHIの上方にくることもあるし、下方にくることもある。
そして、得られる表面形状データの傾斜角度は、着目点Aに対応する実際のフィルム面上の点Pと、その近傍にとられた4点B,C,D,Eに対応する実際のフィルム面上の点Q,R,S,Tの合計5点により張られるポリゴン4平面、すなわち、四つの三角形PQR,PRS,PST,PTQの各法線ベクトル6a,6b,6c,6dを平均して得られる平均法線ベクトル6の極角を求めることにより、得ることができる。各測定点について傾斜角度を求めた後、ヒストグラムが計算される。
図7は、防眩フィルムの微細凹凸表面の傾斜角度分布のヒストグラムの一例を示すグラフである。図7に示すグラフにおいて、横軸は傾斜角度であって、0.5°刻みで分割してある。例えば、一番左の縦棒は、傾斜角度が0〜0.5°の範囲にある集合の分布を示し、以下、右へ行くにつれて角度が0.5°ずつ大きくなっている。図では、横軸の2目盛毎に値の下限値を表示しており、例えば、横軸で「1」とある部分は、傾斜角度が1〜1.5°の範囲にある集合の分布を示す。また、縦軸は傾斜角度の分布を表し、合計すれば1になる値である。この例では、傾斜角度が5°以下である面の割合は略100%である。
本発明の防眩フィルムはまた、画像表示装置の表面に配置したときに、高いコントラストを効果的に発現し得る観点から、防眩層中に0.4μm以上の微粒子を含まないことが好ましい。従来の防眩フィルムは微粒子を分散させた樹脂溶液を基材シート上に塗布し、塗布膜厚を調整して微粒子を塗布膜表面に露出させることでランダムな凹凸をシート上に形成する方法などによって製造されている。このような微粒子を分散させることにより製造された防眩フィルムは、ギラツキを解消するために、バインダー樹脂と微粒子との間に屈折率差を設けて光を散乱させていることが多い。そのような防眩フィルムを画像表示装置の表面に配置した際には、微粒子とバインダー樹脂界面における光の散乱によって、コントラストが低下する。本発明の防眩フィルムにおいては、微細凹凸表面の周波数分布を適切に設計しているため、光を散乱させてギラツキを解消する必要がない。従って、コントラストの低下の原因となる0.4μm以上の微粒子は含まないことが好ましい。
<防眩フィルムの製造方法>
本発明の防眩フィルムは、上記した周波数分布を持つ微細凹凸表面を精度よく形成するために、エネルギースペクトルが0μm-1より大きく0.04μm-1以下に極大値を持たないパターンを用いて作製することが好ましい。ここで、「パターン」とは、本発明の防眩フィルムの微細凹凸表面を形成するための画像データや透光部と遮光部を有するマスクのことなどを意味する。
パターンのエネルギースペクトルは、たとえば画像データであれば、画像データを256階調のグレースケールに変換した後、画像データの階調を二次元関数g(x,y)で表し、得られた二次元関数g(x,y)をフーリエ変換して二次元関数G(fx,fy)を計算し、得られた二次元関数G(fx,fy)を二乗することによって求められる。また、透光部と遮光部を有するマスクであれば、透過率を二次元関数t(x,y)で表し、得られた二次元関数t(x,y)をフーリエ変換して二次元関数T(fx,fy)を計算し、得られた二次元関数T(fx,fy)を二乗することによって求められる。ここで、xおよびyは画像データ面内もしくはマスク面内の直交座標を表し、fxおよびfyはx方向の周波数およびy方向の周波数を表している。
微細凹凸表面の標高のエネルギースペクトルを求める場合と同様に、パターンのエネルギースペクトルを求める場合についても、階調の二次元関数g(x,y)や透過率の二次元関数t(x,y)は離散関数として得られる場合が一般的である。その場合は、微細凹凸表面の標高のエネルギースペクトルを求める場合と同様に、離散フーリエ変換によって、エネルギースペクトルを計算すれば良い。
図8は、本発明の防眩フィルムを作製するために用いたパターン(後述する実施例1の金型作製の際に使用したパターン)である画像データの一部を、階調の二次元離散関数g(x,y)で表わした図である。図8に示した二次元離散関数g(x,y)は512×512個の値を持ち、水平分解能ΔxおよびΔyは2μmである。また、図8に示したパターンである画像データは2mm×2mmの大きさで、12800dpiで作成した。
図9は、図8に示した階調の二次元離散関数g(x,y)を離散フーリエ変換して得られたエネルギースペクトルG2(fx,fy)を白と黒のグラデーションで示した図である。図8に示した離散関数G2(fx,fy)も512×512個の値を持ち、水平分解能ΔfxおよびΔfyは0.0010μm-1である。図8に示したように本発明の防眩フィルムを製造するために作成したパターンはランダムであるため、図9のエネルギースペクトルは原点を中心に対称となる。よって、パターンのエネルギースペクトルの極大値はエネルギースペクトルの原点を通る断面より求めることができる。図10は、図9に示したエネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を示す図である。これより図8に示したパターンは空間周波数0.045μm-1に極大値を持つが、0μm-1より大きく0.04μm-1以下には極大値を持たないことが分かる。
防眩フィルムを作製するためのパターンのエネルギースペクトルが0μm-1より大きく0.04μm-1以下に極大値を持つ場合には、結果として得られる防眩フィルムの微細凹凸表面の周波数分布が、本発明の要件を満たさなくなるため、ギラツキの解消と十分な防眩性を兼備することができない。
エネルギースペクトルが0μm-1より大きく0.04μm-1以下には極大値を持たないパターンを作成するためには、20μm未満のドット径をランダムかつ均一に配置すればよい。ランダムに配置するドット径は1種類でも良いし、複数種類でも良い。
上述したパターンを用いた微細凹凸表面を有する防眩フィルムは、印刷法、パターン露光法、エンボス法などによって製造することができる。たとえば、印刷法では、光硬化性樹脂もしくは熱硬化性樹脂を用いたフレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷などによって、上述したパターンを透明支持体上に印刷して作製した後、乾燥、または、活性光線もしくは加熱により硬化させることによって、本発明の防眩フィルムを製造することができる。また、パターン露光法では光硬化性樹脂を透明支持体上に塗布した後、上述したパターンを用いたレーザによる直描露光や、上述したパターンを有するマスクを介しての全面露光により、パターン露光を行い、必要に応じて現像した後、活性光線もしくは加熱により硬化させることによって、本発明の防眩フィルムを製造することができる。さらにエンボス法では、上述したパターンを用いて微細凹凸表面を有する金型を製造し、製造された金型の凹凸面を透明支持体上に転写し、次いで凹凸面が転写された透明支持体を金型から剥がすことによって、本発明の防眩フィルムを製造することができる。ここで、本発明の防眩フィルムは、微細凹凸表面を精度よく、かつ、再現性よく製造する観点から、エンボス法によって製造されることが好ましい。
ここで、エンボスとしては、光硬化性樹脂を用いるUVエンボス法、熱可塑性樹脂を用いるホットエンボス法が例示され、中でも、生産性の観点から、UVエンボス法が好ましい。
UVエンボス法は、透明支持体の表面に光硬化性樹脂層を形成し、その光硬化性樹脂層を金型の凹凸面に押し付けながら硬化させることで、金型の凹凸面が光硬化性樹脂層に転写される方法である。具体的には、透明支持体上に紫外線硬化型樹脂を塗工し、塗工した紫外線硬化型樹脂を金型の凹凸面に密着させた状態で透明支持体側から紫外線を照射して紫外線硬化型樹脂を硬化させ、その後金型から、硬化後の紫外線硬化型樹脂層が形成された透明支持体を剥離することにより、金型の形状を紫外線硬化型樹脂に転写する。
UVエンボス法を用いる場合、透明支持体としては、実質的に光学的に透明なフィルムであればよく、たとえばトリアセチルセルロースフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ノルボルネン系化合物をモノマーとする非晶性環状ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂の溶剤キャストフィルムや押出フィルムなどの樹脂フィルムが挙げられる。
またUVエンボス法を用いる場合における紫外線硬化型樹脂の種類は特に限定されないが、市販の適宜のものを用いることができる。また、紫外線硬化型樹脂に適宜選択された光開始剤を組み合わせて、紫外線より波長の長い可視光でも硬化が可能な樹脂を用いることも可能である。具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどの多官能アクリレートをそれぞれ単独で、あるいはそれら2種以上を混合して用い、それと、イルガキュアー907(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)、イルガキュアー184(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)、ルシリンTPO(BASF社製)などの光重合開始剤とを混合したものを好適に用いることができる。
一方、ホットエンボス法は、熱可塑性樹脂で形成された透明支持体を加熱状態で金型に押し付け、金型の表面形状を透明支持体に転写する方法である。ホットエンボス法に用いる透明支持体としては、実質的に透明なものであればいかなるものであってもよく、たとえば、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ノルボルネン系化合物をモノマーとする非晶性環状ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂の溶剤キャストフィルムや押出フィルムなどを用いることができる。これらの透明樹脂フィルムはまた、上で説明したUVエンボス法における紫外線硬化型樹脂を塗工するための透明支持体としても好適に用いることができる。
<防眩フィルム製造用の金型の製造方法>
以下では、本発明の防眩フィルムの製造に用いる金型を製造する方法について説明する。本発明の防眩フィルムの製造に用いる金型の製造方法については、上述したパターンを用いた所定の表面形状が得られる方法であれば、特に制限されないが、微細凹凸表面を精度よく、かつ、再現性よく製造するために、〔1〕第1めっき工程と、〔2〕研磨工程と、〔3〕感光性樹脂膜塗布工程と、〔4〕露光工程と、〔5〕現像工程と、〔6〕第1エッチング工程と、〔7〕感光性樹脂膜剥離工程と、〔8〕第2めっき工程とを基本的に含むことが好ましい。図11は、本発明の金型の製造方法の前半部分の好ましい一例を模式的に示す図である。図11には各工程での金型の断面を模式的に示している。本発明の金型の製造方法は以下、図11を参照しながら、本発明の金型の製造方法の各工程について詳細に説明する。
〔1〕第1めっき工程
本発明の金型の製造方法ではまず、金型に用いる基材の表面に、銅めっきまたはニッケルめっきを施す。このように、金型用基材の表面に銅めっきまたはニッケルめっきを施すことにより、後の第2めっき工程におけるクロムめっきの密着性や光沢性を向上させることができる。すなわち、背景技術として上述したように、鉄などの表面にクロムめっきを施した場合、あるいはクロムめっき表面にサンドブラスト法やビーズショット法などで凹凸を形成してから再度クロムめっきを施した場合には、表面が荒れやすく、細かいクラックが生じて、金型の表面の凹凸形状が制御しにくくなる。これに対して、まず、基材表面に銅めっきまたはニッケルめっきを施しておくことにより、このような不都合をなくすことができる。これは、銅めっきまたはニッケルめっきは、被覆性が高く、また平滑化作用が強いことから、金型用基材の微小な凹凸や巣などを埋めて平坦で光沢のある表面を形成するためである。これらの銅めっきまたはニッケルめっきの特性によって、後述する第2めっき工程においてクロムめっきを施したとしても、基材に存在していた微小な凹凸や巣に起因すると思われるクロムめっき表面の荒れが解消され、また、銅めっきまたはニッケルめっきの被覆性の高さから、細かいクラックの発生が低減される。
第1めっき工程において用いられる銅またはニッケルとしては、それぞれの純金属であることができるほか、銅を主体とする合金、またはニッケルを主体とする合金であってもよく、したがって、本明細書でいう「銅」は、銅および銅合金を含む意味であり、また「ニッケル」は、ニッケルおよびニッケル合金を含む意味である。銅めっきおよびニッケルめっきは、それぞれ電解めっきで行っても無電解めっきで行ってもよいが、通常は電解めっきが採用される。
銅めっきまたはニッケルめっきを施す際には、めっき層が余り薄いと、下地表面の影響が排除しきれないことから、その厚みは50μm以上であるのが好ましい。めっき層厚みの上限は臨界的でないが、コストなどとのからみから、一般的には500μm程度までで十分である。
なお、本発明の金型の製造方法において、基材の形成に好適に用いられる金属材料としては、コストの観点からアルミニウム、鉄などが挙げられる。さらに取扱いの利便性から、軽量なアルミニウムがより好ましい。ここでいうアルミニウムや鉄も、それぞれ純金属であることができるほか、アルミニウムまたは鉄を主体とする合金であってもよい。
また、基材の形状は、当分野において従来より採用されている適宜の形状であれば特に制限されず、平板状であってもよいし、円柱状または円筒状のロールであってもよい。ロール状の基材を用いて金型を作製すれば、防眩フィルムを連続的なロール状で製造することができるという利点がある。
〔2〕研磨工程
続く研磨工程では、上述した第1めっき工程にて銅めっきまたはニッケルめっきが施された基材表面を研磨する。本発明の金型の製造方法では、当該工程を経て、基材表面を、鏡面に近い状態に研磨することが好ましい。これは、基材となる金属板や金属ロールは、所望の精度にするために、切削や研削などの機械加工が施されていることが多く、それにより基材表面に加工目が残っており、銅めっきまたはニッケルめっきが施された状態でも、それらの加工目が残ることがあるし、また、めっきした状態で、表面が完全に平滑になるとは限らないためである。すなわち、このような深い加工目などが残った表面に後述する工程を施したとしても、各工程を施した後に形成される凹凸よりも加工目などの凹凸の方が深いことがあり、加工目などの影響が残る可能性があり、そのような金型を用いて防眩フィルムを製造した場合には、光学特性に予期できない影響を及ぼすことがある。図11(a)には、平板状の金型用基材7が、第1めっき工程において銅めっきまたはニッケルめっきをその表面に施され(当該工程で形成した銅めっきまたはニッケルめっきの層については図示せず)、さらに研磨工程によって鏡面研磨された表面8を有するようにされた状態を模式的に示している。
銅めっきまたはニッケルめっきが施された基材表面を研磨する方法については特に制限されるものではなく、機械研磨法、電解研磨法、化学研磨法のいずれも使用できる。機械研磨法としては、超仕上げ法、ラッピング、流体研磨法、バフ研磨法などが例示される。研磨後の表面粗度は、JIS B 0601の規定に準拠した中心線平均粗さRaが0.1μm以下であることが好ましく、0.05μm以下であることがより好ましい。研磨後の中心線平均粗さRaが0.1μmより大きいと、最終的な金型表面の凹凸形状に研磨後の表面粗度の影響が残る可能性があるので好ましくない。また、中心線平均粗さRaの下限については特に制限されず、加工時間や加工コストの観点から、おのずと限界があるので、特に指定する必要性はない。
〔3〕感光性樹脂膜塗布工程
続く感光性樹脂膜塗布工程では、上述した研磨工程によって鏡面研磨を施した基材7の表面8に、感光性樹脂を溶媒に溶解した溶液として塗布し、加熱・乾燥することにより、感光性樹脂膜を形成する。図11(b)には、基材7の表面8に感光性樹脂膜9が形成された状態を模式的に示している。
感光性樹脂としては従来公知の感光性樹脂を用いることができる。たとえば、感光部分が硬化する性質をもったネガ型の感光性樹脂としては分子中にアクリル基またはメタアクリル基を有するアクリル酸エステルの単量体やプレポリマー、ビスアジドとジエンゴムとの混合物、ポリビニルシンナマート系化合物などを用いることができる。また、現像により感光部分が溶出し、未感光部分だけが残る性質をもったポジ型の感光性樹脂としてはフェノール樹脂系やノボラック樹脂系などを用いることができる。また、感光性樹脂には、必要に応じて、増感剤、現像促進剤、密着性改質剤、塗布性改良剤などの各種添加剤を配合してもよい。
これらの感光性樹脂を基材7の表面8に塗布する際には、良好な塗膜を形成するために、適当な溶媒に希釈して塗布することが好ましく、セロソルブ系溶媒、プロピレングリコール系溶媒、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、高極性溶媒などを使用することができる。
感光性樹脂溶液を塗布する方法としては、メニスカスコート、ファウンティンコート、ディップコート、回転塗布、ロール塗布、ワイヤーバー塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、カーテン塗布などの公知の方法を用いることができる。塗布膜の厚さは乾燥後で1〜6μmの範囲とすることが好ましい。
〔4〕露光工程
続く露光工程では、前記したエネルギースペクトルが0μm-1より大きく0.04μm-1以下には極大値を持たないパターンを上述した感光性樹脂膜塗布工程で形成された感光性樹脂膜9上に露光する。露光工程に用いる光源は塗布された感光性樹脂の感光波長や感度等に合わせて適宜選択すればよく、たとえば、高圧水銀灯のg線(波長:436nm)、高圧水銀灯のh線(波長:405nm)、高圧水銀灯のi線(波長:365nm)、半導体レーザ(波長:830nm、532nm、488nm、405nmなど)、YAGレーザ(波長:1064nm)、KrFエキシマーレーザ(波長:248nm)、ArFエキシマーレーザ(波長:193nm)、F2エキシマーレーザ(波長:157nm)等を用いることができる。
本発明の金型の製造方法において表面凹凸形状を精度良く形成するためには、露光工程において、上述したパターンを感光性樹脂膜上に精密に制御された状態で露光することが好ましい。本発明の金型の製造方法においては、上述したパターンを感光性樹脂膜上に精度よく露光するために、コンピュータ上でパターンを画像データとして作成し、その画像データに基づいたパターンを、コンピュータ制御されたレーザヘッドから発するレーザ光によって描画することが好ましい。レーザー描画を行うに際しては印刷版作成用のレーザー描画装置を使用することができる。このようなレーザー描画装置としては、たとえばLaser Stream FX((株)シンク・ラボラトリー製)などが挙げられる。
図11(c)には、感光性樹脂膜9にパターンが露光された状態を模式的に示している。感光性樹脂膜をネガ型の感光性樹脂で形成した場合には、露光された領域10は露光によって樹脂の架橋反応が進行し、後述する現像液に対する溶解性が低下する。よって、現像工程において露光されていない領域11が現像液によって溶解され、露光された領域10のみ基材表面上に残りマスクとなる。一方、感光性樹脂膜をポジ型の感光性樹脂で形成した場合には、露光された領域10は露光によって樹脂の結合が切断され、後述する現像液に対する溶解性が増加する。よって、現像工程において露光された領域10が現像液によって溶解され、露光されていない領域11のみ基材表面上に残りマスクとなる。
〔5〕現像工程
続く現像工程においては、感光性樹脂膜9にネガ型の感光性樹脂を用いた場合には、露光されていない領域11は現像液によって溶解され、露光された領域10のみ金型用基材上に残存し、続く第1エッチング工程においてマスクとして作用する。一方、感光性樹脂膜9にポジ型の感光性樹脂を用いた場合には、露光された領域10のみ現像液によって溶解され、露光されていない領域11が金型用基材上に残存して、続く第1エッチング工程におけるマスクとして作用する。
現像工程に用いる現像液については従来公知のものを使用することができる。たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、アンモニア水などの無機アルカリ類、エチルアミン、n−プロピルアミンなどの第一アミン類、ジエチルアミン、ジ−n−ブチルアミンなどの第二アミン類、トリエチルアミン、メチルジエチルアミンなどの第三アミン類、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルコールアミン類、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシドなどの第四級アンモニウム塩、ピロール、ピヘリジンなどの環状アミン類などのアルカリ性水溶液、キシレン、トルエンなどの有機溶剤などを挙げることができる。
現像工程における現像方法については特に制限されず、浸漬現像、スプレー現像、ブラシ現像、超音波現像などの方法を用いることができる。
図11(d)には、感光性樹脂膜9にネガ型の感光性樹脂を用いて、現像処理を行った状態を模式的に示している。図11(c)において露光されていない領域11が現像液によって溶解され、露光された領域10のみ基材表面上に残りマスク12となる。図11(e)には、感光性樹脂膜9にポジ型の感光性樹脂を用いて、現像処理を行った状態を模式的に示している。図11(c)において露光された領域10が現像液によって溶解され、露光されていない領域11のみ基材表面上に残りマスク12となる。
〔6〕第1エッチング工程
続く第1エッチング工程では、上述した現像工程後に金型用基材表面上に残存した感光性樹脂膜をマスクとして用いて、主にマスクの無い箇所の金型用基材をエッチングする。図12は、本発明の金型の製造方法の後半部分の好ましい一例を模式的に示す図である。図12(a)には第1エッチング工程によって、主にマスクの無い箇所13の金型用基材7がエッチングされる状態を模式的に示している。マスク12の下部の金型用基材7は金型用基材表面からはエッチングされないが、エッチングの進行とともにマスクの無い領域13からのエッチングが進行する。よって、マスク12とマスクの無い領域13の境界付近では、マスク12の下部の金型用基材7もエッチングされる。このようなマスク12とマスクの無い領域13の境界付近において、マスク12の下部の金型用基材7もエッチングされることを、以下ではサイドエッチングと呼ぶ。図13にはサイドエッチングの進行を模式的に示した。図13の点線14はエッチングの進行とともに変化する金型用基材の表面を段階に示している。
第1エッチング工程におけるエッチング処理は、通常、塩化第二鉄(FeCl3)液、塩化第二銅(CuCl2)液、アルカリエッチング液(Cu(NH34Cl2)などを用いて、金属表面を腐食させることによって行われるが、塩酸や硫酸などの強酸を用いることもできるし、電解めっき時と逆の電位をかけることによる逆電解エッチングを用いることもできる。エッチング処理を施した際の金型用基材に形成される凹形状は、下地金属の種類、感光性樹脂膜の種類およびエッチング手法などによって異なるため、一概にはいえないが、エッチング量が10μm以下である場合には、エッチング液に触れている金属表面から略等方的にエッチングされる。ここでいうエッチング量とは、エッチングにより削られる基材の厚みである。
第1エッチング工程におけるエッチング量は好ましくは1〜50μmである。エッチング量が1μm未満である場合には、金属表面に凹凸形状がほとんど形成されずに、ほぼ平坦な金型となってしまうので、防眩性を示さなくなってしまう。また、エッチング量が50μmを超える場合には、金属表面に形成される凹凸形状の高低差が大きくなり、得られた金型を使用して作製した防眩フィルムが白ちゃけることとなるため好ましくない。第1エッチング工程におけるエッチング処理は1回のエッチング処理によって行ってもよいし、エッチング処理を2回以上に分けて行ってもよい。ここでエッチング処理を2回以上に分けて行う場合には、2回以上のエッチング処理におけるエッチング量の合計が1〜50μmであることが好ましい。
〔7〕感光性樹脂膜剥離工程
続く感光性樹脂膜剥離工程では、第1エッチング工程でマスクとして使用した残存する感光性樹脂膜を完全に溶解し除去する。感光性樹脂膜剥離工程では剥離液を用いて感光性樹脂膜を溶解する。剥離液としては、上述した現像液と同様のものを用いることができて、pH、温度、濃度および浸漬時間などを変化させることによって、ネガ型の感光性樹脂膜を用いた場合には露光部の、ポジ型の感光性樹脂膜を用いた場合には非露光部の感光性樹脂膜を完全に溶解して除去する。感光性樹脂膜剥離工程における剥離方法についても特に制限されず、浸漬現像、スプレー現像、ブラシ現像、超音波現像などの方法を用いることができる。
図12(b)は、感光性樹脂膜剥離工程によって、第1エッチング工程でマスクとして使用した感光性樹脂膜を完全に溶解し除去した状態を模式的に示している。感光性樹脂膜によるマスク12とエッチングによって、第1の表面凹凸形状15が金型用基材表面に形成される。
〔8〕第2めっき工程
続いて、クロムめっきを施すことによって、表面の凹凸形状を鈍らせる。図12(c)には、上述したように第1エッチング工程のエッチング処理によって形成された表面凹凸形状にクロムめっき層16を形成し、表面17を鈍らせた状態が示されている。
本発明では、平板やロールなどの表面に、光沢があって、硬度が高く、摩擦係数が小さく、良好な離型性を与え得るクロムめっきを採用する。クロムめっきの種類は特に制限されないが、いわゆる光沢クロムめっきや装飾用クロムめっきなどと呼ばれる、良好な光沢を発現するクロムめっきを用いることが好ましい。クロムめっきは通常、電解によって行われ、そのめっき浴としては、無水クロム酸(CrO3)と少量の硫酸を含む水溶液が用いられる。電流密度と電解時間を調節することにより、クロムめっきの厚みを制御することができる。
上述した特開2002−189106号公報、特開2004−45472号公報、特開2004−90187号公報などには、クロムめっきを採用することが開示されているが、金型のめっき前の下地とクロムめっきの種類によっては、めっき後に表面が荒れたり、クロムめっきによる微小なクラックが多数発生したりすることが多く、その結果、作製される防眩フィルムの光学特性が好ましくない方向へと進む。めっき表面が荒れた状態の金型は、防眩フィルムの製造用に適していない。何故ならば、一般的にざらつきを消すためにクロムめっき後にめっき表面を研磨することが行われているが、後述するように、本発明ではめっき後の表面の研磨が好ましくないからである。本発明では、下地金属に銅めっきまたはニッケルめっきを施すことにより、クロムめっきで生じ易いこのような不都合を解消している。
なお、第2めっき工程において、クロムめっき以外のめっきを施すことは好ましくない。何故なら、クロム以外のめっきでは、硬度や耐摩耗性が低くなるため、金型としての耐久性が低下し、使用中に凹凸が磨り減ったり、金型が損傷したりする。そのような金型から得られた防眩フィルムでは、十分な防眩機能が得られにくい可能性が高く、また、フィルム上に欠陥が発生する可能性も高くなる。
また、上述した特開2004−90187号公報などに開示されているようにめっき後の表面を研磨することも、やはり本発明では好ましくない。研磨することにより、最表面に平坦な部分が生じるため、光学特性の悪化を招く可能性があること、また、形状の制御因子が増えるため、再現性のよい形状制御が困難になることなどの理由による。
このように本発明では、クロムめっきを施した後、表面を研磨せず、そのままクロムめっき面を金型の凹凸面として用いることが好ましい。微細表面凹凸形状が形成された表面にクロムめっきを施すことにより、凹凸形状が鈍らせられるとともに、その表面硬度が高められた金型が得られるためである。この際の凹凸の鈍り具合は、下地金属の種類、第1エッチング工程より得られた凹凸のサイズと深さ、まためっきの種類や厚みなどによって異なるため、一概にはいえないが、鈍り具合を制御するうえで最も大きな因子は、やはりめっき厚みである。クロムめっきの厚みが薄いと、クロムめっき加工前に得られた凹凸の表面形状を鈍らせる効果が不十分であり、その凹凸形状を透明フィルムに転写して得られる防眩フィルムの光学特性があまり良くならない。一方で、めっき厚みが厚すぎると、生産性が悪くなるうえに、ノジュールと呼ばれる突起状のめっき欠陥が発生してしまうため好ましくない。そこで、クロムめっきの厚みは1〜10μmの範囲内であるのが好ましく、3〜6μmの範囲内であるのがより好ましい。
当該第2めっき工程で形成されるクロムめっき層は、ビッカース硬度が800以上となるように形成されていることが好ましく、1000以上となるように形成されていることがより好ましい。クロムめっき層のビッカース硬度が800未満である場合には、金型使用時の耐久性が低下するうえに、クロムめっきで硬度が低下することはめっき処理時にめっき浴組成、電解条件などに異常が発生している可能性が高く、欠陥の発生状況についても好ましくない影響を与える可能性が高いためである。
また、本発明の防眩フィルムを作製するための、金型の製造方法においては上述した〔7〕感光性樹脂膜剥離工程と〔8〕第2めっき工程との間に、第1エッチング工程によって形成された凹凸面をエッチング処理によって鈍らせる第2エッチング工程を含むことが好ましい。第2エッチング工程では、感光性樹脂膜をマスクとして用いた第1エッチング工程によって形成された第1の表面凹凸形状15を、エッチング処理によって鈍らせる。この第2エッチング処理によって、第1エッチング処理によって形成された第1の表面凹凸形状15における表面傾斜が急峻な部分がなくなり、得られた金型を用いて製造された防眩フィルムの光学特性が好ましい方向へと変化する。図14には、第2エッチング処理によって、基材7の第1の表面凹凸形状15が鈍化し、表面傾斜が急峻な部分が鈍らされ、緩やかな表面傾斜を有する第2の表面凹凸形状18が形成された状態が示されている。
第2エッチング工程のエッチング処理も、第1エッチング工程と同様に、通常、塩化第二鉄(FeCl3)液、塩化第二銅(CuCl2)液、アルカリエッチング液(Cu(NH34Cl2)などを用い、表面を腐食させることによって行われるが、塩酸や硫酸などの強酸を用いることもできるし、電解めっき時と逆の電位をかけることによる逆電解エッチングを用いることもできる。エッチング処理を施した後の凹凸の鈍り具合は、下地金属の種類、エッチング手法、および第1エッチング工程により得られた凹凸のサイズと深さなどによって異なるため、一概にはいえないが、鈍り具合を制御する上で最も大きな因子は、エッチング量である。ここでいうエッチング量も、第1エッチング工程と同様に、エッチングにより削られる基材の厚みである。エッチング量が小さいと、第1エッチング工程により得られた凹凸の表面形状を鈍らせる効果が不十分であり、その凹凸形状を透明フィルムに転写して得られる防眩フィルムの光学特性があまり良くならない。一方で、エッチング量が大きすぎると、凹凸形状がほとんどなくなってしまい、ほぼ平坦な金型となってしまうので、防眩性を示さなくなってしまう。そこで、エッチング量は1〜50μmの範囲内であることが好ましく、4〜20μmの範囲内であることがより好ましい。第2エッチング工程におけるエッチング処理についても、第1エッチング工程と同様に、1回のエッチング処理によって行ってもよいし、エッチング処理を2回以上に分けて行ってもよい。ここでエッチング処理を2回以上に分けて行う場合には、2回以上のエッチング処理におけるエッチング量の合計が1〜50μmであることが好ましい。
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す%および部は、特記ない限り重量基準である。また、以下の例における金型または防眩フィルムの評価方法は、次のとおりである。
〔1〕防眩フィルムの表面形状の測定
三次元顕微鏡PLμ2300(Sensofar社製)を用いて、防眩フィルムの表面形状を測定した。サンプルの反りを防止するため、光学的に透明な粘着剤を用いて凹凸面が表面となるようにガラス基板に貼合してから、測定に供した。測定の際、対物レンズの倍率は10倍として測定を行った。水平分解能ΔxおよびΔyはともに1.66μmであり、測定面積は850μm×850μmであった。
(エネルギースペクトルの比H1 2/H2 2およびH3 2/H2 2
上で得られた測定データから、防眩フィルムの微細凹凸表面の標高を二次元関数h(x,y)として求め、得られた二次元関数h(x,y)を離散フーリエ変換して二次元関数H(fx,fy)を求めた。二次元関数H(fx,fy)を二乗してエネルギースペクトルの二次元関数H2(fx,fy)を計算し、fx=0の断面曲線であるH2(0,fy)より、空間周波数0.01μm-1におけるエネルギースペクトルH1 2および空間周波数0.04μm-1におけるエネルギースペクトルH2 2を求め、エネルギースペクトルの比H1 2/H2 2を計算した。また、空間周波数0.1μm-1におけるエネルギースペクトルH3 2を求め、エネルギースペクトルの比H3 2/H2 2についても計算した。
(微細凹凸表面の傾斜角度)
上で得られた測定データをもとに、前述のアルゴリズムに基づいて計算し、凹凸面の傾斜角度のヒストグラムを作成し、そこから傾斜角度毎の分布を求め、傾斜角度が5°以下である面の割合を計算した。
〔2〕防眩フィルムの光学特性の測定
(ヘイズ)
防眩フィルムのヘイズは、JIS K 7136に規定される方法で測定した。具体的には、この規格に準拠したヘイズメータHM−150型(村上色彩技術研究所製)を用いてヘイズを測定した。防眩フィルムの反りを防止するため、光学的に透明な粘着剤を用いて凹凸面が表面となるようにガラス基板に貼合してから、測定に供した。一般的にヘイズが大きくなると、画像表示装置に適用したときに画像が暗くなり、その結果、正面コントラストが低下しやすくなる。それ故に、ヘイズは低い方が好ましい。
〔3〕防眩フィルムの防眩性能の評価
(映り込み、白ちゃけの目視評価)
防眩フィルムの裏面からの反射を防止するために、凹凸面が表面となるように黒色アクリル樹脂板に防眩フィルムを貼合し、蛍光灯のついた明るい室内で凹凸面側から目視で観察し、蛍光灯の映り込みの有無、白ちゃけの程度を目視で評価した。映り込み、白ちゃけおよび質感は、それぞれ1から3の3段階で次の基準により評価した。
映り込み 1:映り込みが観察されない。
2:映り込みが少し観察される。
3:映り込みが明瞭に観察される。
白ちゃけ 1:白ちゃけが観察されない。
2:白ちゃけが少し観察される。
3:白ちゃけが明瞭に観察される。
(ギラツキの評価)
ギラツキは、以下の方法で評価した。すなわち、市販の液晶テレビ(LC−32GH3(シャープ(株)製)から表裏両面の偏光板を剥離した。それらオリジナル偏光板の代わりに、背面側および表示面側とも、偏光板スミカラン SRDB31E(住友化学(株)製)を、それぞれの吸収軸がオリジナルの偏光板の吸収軸と一致するように粘着剤を介して貼合し、さらに表示面側偏光板の上には、以下の各例に示す防眩フィルムを凹凸面が表面となるように粘着剤を介して貼合した。この状態で、サンプルから約30cm離れた位置から、目視観察することにより、ギラツキの程度を7段階で官能評価した。レベル1はギラツキが全く認められない状態、レベル7はひどくギラツキが観察される状態に該当し、レベル3はごくわずかにギラツキが観察される状態である。
〔4〕防眩フィルム製造用のパターンの評価
作成したパターンデータを256階調のグレースケールの画像データとし、階調を二次元の離散関数g(x,y)で表した。離散関数g(x,y)の水平分解能ΔxおよびΔyはともに2μmとした。得られた二次元関数g(x,y)を離散フーリエ変換して、二次元関数G(fx,fy)を求めた。二次元関数G(fx,fy)を二乗してエネルギースペクトルの二次元関数G2(fx,fy)を計算し、fx=0の断面曲線であるG2(0,fy)より、空間周波数が0μm-1より大きく、かつ、絶対値が最も小さい空間周波数での極大値を求めた。
<実施例1>
直径200mmのアルミロール(JISによるA5056)の表面に銅バラードめっきが施されたものを用意した。銅バラードめっきは、銅めっき層/薄い銀めっき層/表面銅めっき層からなるものであり、めっき層全体の厚みは、約200μmとなるように設定した。その銅めっき表面を鏡面研磨し、研磨された銅めっき表面に感光性樹脂を塗布、乾燥して感光性樹脂膜を形成した。ついで、図8に示すパターンを繰り返し並べたパターンを感光性樹脂膜上にレーザ光によって露光し、現像した。レーザ光による露光、および現像はLaser Stream FX((株)シンク・ラボラトリー製)を用いて行った。感光性樹脂膜にはポジ型の感光性樹脂を使用した。
その後、塩化第二銅液で第1のエッチング処理を行った。その際のエッチング量は7μmとなるように設定した。第1のエッチング処理後のロールから感光性樹脂膜を除去し、再度、塩化第二銅液で第2のエッチング処理を行った。その際のエッチング量は18μmとなるように設定した。その後、クロムめっき加工を行い、金型Aを作製した。このとき、クロムめっき厚みが4μmとなるように設定した。
光硬化性樹脂組成物GRANDIC 806T(大日本インキ化学工業(株)製)を酢酸エチルにて溶解して、50重量%濃度の溶液とし、さらに、光重合開始剤であるルシリンTPO(BASF社製、化学名:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)を、硬化性樹脂成分100重量部あたり5重量部添加して塗布液を調製した。厚み80μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム上に、この塗布液を乾燥後の塗布厚みが10μmとなるように塗布し、60℃に設定した乾燥機中で3分間乾燥させた。乾燥後のフィルムを、先に得られた金型Aの凹凸面に、光硬化性樹脂組成物層が金型側となるようにゴムロールで押し付けて密着させた。この状態でTACフィルム側より、強度20mW/cm2の高圧水銀灯からの光をh線換算光量で200mJ/cm2となるように照射して、光硬化性樹脂組成物層を硬化させた。この後、TACフィルムを硬化樹脂ごと金型から剥離して、表面に凹凸を有する硬化樹脂とTACフィルムとの積層体からなる、透明な防眩フィルムAを作製した。
<実施例2>
レーザ光によって露光するパターンとして図15に示すパターンを用いたこと以外は実施例1と同様にして金型Bを得た。図15に示したパターンである画像データは1mm×1mmの大きさで、6400dpiで作成した。得られた金型Bを用いたこと以外は、実施例1と同様にして防眩フィルムBを作製した。
<比較例1>
レーザ光によって露光するパターンとして図16に示すパターンを用いたこと以外は実施例1と同様にして金型Cを得た。図16に示したパターンである画像データは2mm×2mmの大きさで、12800dpiで作成した。得られた金型Cを用いたこと以外は、実施例1と同様にして防眩フィルムCを作製した。
<比較例2>
レーザ光によって露光するパターンとして図17に示すパターンを用い、第1のエッチング処理のエッチング量は10μmとなるように設定し、第2のエッチング処理のエッチング量は30μmとなるように設定したこと以外は実施例1と同様にして金型Dを得た。図17に示したパターンである画像データは20mm×20mmの大きさで、3200dpiで作成した。得られた金型Dを用いたこと以外は、実施例1と同様にして防眩フィルムDを作製した。
<比較例3>
直径200mmのアルミロール(JISによるA5056)の表面に銅バラードめっきが施されたものを用意した。銅バラードめっきは、銅めっき層/薄い銀めっき層/表面銅めっき層からなるものであり、めっき層全体の厚みは、約200μmとなるように設定した。その銅めっき表面を鏡面研磨し、研磨された銅めっき面に、ブラスト装置((株)不二製作所製)を用いて、ジルコニアビーズTZ−SX−17(東ソー(株)製、平均粒径:20μm)を、ブラスト圧力0.05MPa(ゲージ圧、以下同じ)、ビーズ使用量8g/cm2(ロールの表面積1cm2あたりの使用量、以下同じ)でブラストし、表面に凹凸をつけた。得られた凹凸つき銅めっきアルミニウムロールにクロムめっき加工を行い、金属金型Eを作製した。このとき、クロムめっき厚みが6μmとなるように設定した。得られた金型Eを用いたこと以外は、実施例1と同様にして防眩フィルムEを作製した。
<比較例4>
直径300mmのアルミロール(JISによるA5056)の表面を鏡面研磨し、研磨されたアルミ面に、ブラスト装置((株)不二製作所製)を用いて、ジルコニアビーズTZ−SX−17(東ソー(株)製、平均粒径:20μm)を、ブラスト圧力0.1MPa(ゲージ圧、以下同じ)、ビーズ使用量8g/cm2(ロールの表面積1cm2あたりの使用量、以下同じ)でブラストし、表面に凹凸をつけた。得られた凹凸つきアルミロールに対し、無電解ニッケルめっき加工を行い、金型Fを作製した。このとき、無電解ニッケルめっき厚みが15μmとなるように設定した。得られた金型Fを用いたこと以外は、実施例1と同様にして防眩フィルムFを作製した。
結果を表1に示す。また、図18に防眩フィルムB〜Fの微細凹凸表面の標高を示す二次元関数から得られたエネルギースペクトルのfx=0における断面を示した。さらに、図19に防眩フィルムB〜Dの作製に使用したパターンより得られたエネルギースペクトルのfx=0における断面を示した。図19より防眩フィルムBの作製に使用したパターンのエネルギースペクトルは空間周波数が0μm-1より大きく0.04μm-1以下に極大値を持たないことが分かる。対して、防眩フィルムCおよびDの作製に使用したパターンのエネルギースペクトルは空間周波数が0μm-1より大きく0.04μm-1以下に極大値を持つことが分かる。
表1に示す結果から、本発明の要件を全て満たす防眩フィルムAおよびBは、ギラツキが発生せず、十分な防眩性を示し、白ちゃけも発生しなかった。また、ヘイズも低いため、画像表示装置に配置した際にもコントラストの低下を引き起こすことが無い。エネルギースペクトルが0μm-1より大きく0.04μm-1以下に極大値を持つパターンより作成された防眩フィルムCおよびDは、エネルギースペクトルの比H1 2/H2 2が本発明の要件を満たさないため、十分な防眩性を示し、白ちゃけも発生しなかったがギラツキが発生していた。また、所定のパターンを用いずに作成した防眩フィルムEおよびFは、エネルギースペクトルの比H1 2/H2 2が本発明の要件を満たさないため、十分な防眩性とギラツキの抑制を両立することができなかった。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 防眩フィルム、2 フィルム表面に形成された凹凸、3 フィルムの投影面、5 フィルムの主法線、6 凹凸を加味した局所的な法線、6a〜6d ポリゴン面の法線ベクトル、ψ 表面傾斜角度、7 金型用基材、8 研磨工程によって研磨された基材の表面、9 感光性樹脂膜、10 露光工程において露光された感光性樹脂膜、11 露光工程において露光されない感光性樹脂膜、12 マスクとして作用する感光性樹脂膜、13 マスクの無い箇所、14 エッチングによって段階的に形成される表面、15 第1エッチング工程後の基材表面(第1の表面凹凸形状)、16 クロムめっき層、17 クロムめっきの表面、18 第2エッチング工程後の基材表面(第2の表面凹凸形状)。

Claims (10)

  1. 透明支持体上に、微細な凹凸表面を有する防眩層が形成されてなる防眩フィルムであって、前記微細凹凸表面の標高の空間周波数0.01μm-1におけるエネルギースペクトルH1 2と、空間周波数0.04μm-1におけるエネルギースペクトルH2 2の比H1 2/H2 2が3〜15の範囲内である、防眩フィルム。
  2. 前記微細凹凸表面の標高の空間周波数0.1μm-1におけるエネルギースペクトルH3 2と、空間周波数0.04μm-1におけるエネルギースペクトルH2 2の比H3 2/H2 2が0.01以下である、請求項1に記載の防眩フィルム。
  3. 前記微細凹凸表面の傾斜角度が5°以下である面の割合が95%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の防眩フィルム。
  4. 前記防眩層が0.4μm以上の微粒子を含まないことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の防眩フィルム。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の防眩フィルムを製造する方法であって、
    エネルギースペクトルが0μm-1より大きく0.04μm-1以下に極大値を持たないパターンを用いることを特徴とする、防眩フィルムの製造方法。
  6. 前記パターンを用いて金型を作製し、前記金型の凹凸面を透明支持体上に転写し、次いで凹凸面が転写された透明支持体を金型から剥がすことを特徴とする請求項5に記載の防眩フィルムの製造方法。
  7. 請求項6に記載の金型を製造する方法であって、
    金型用基材の表面に銅めっきまたはニッケルめっきを施す第1めっき工程と、
    第1めっき工程によってめっきが施された表面を研磨する研磨工程と、
    研磨された面に感光性樹脂膜を塗布形成する感光性樹脂膜塗布工程と、
    感光性樹脂膜上に前記パターンを露光する露光工程と、
    前記パターンが露光された感光性樹脂膜を現像する現像工程と、
    現像された感光性樹脂膜をマスクとして用いてエッチング処理を行い、研磨されためっき面に凹凸を形成する第1エッチング工程と、
    感光性樹脂膜を剥離する感光性樹脂膜剥離工程と、
    形成された凹凸面にクロムめっきを施す第2めっき工程とを含むことを特徴とする金型の製造方法。
  8. 前記感光性樹脂膜剥離工程と前記第2めっき工程の間に、形成された凹凸面をエッチング処理によって鈍らせる第2エッチング工程を含むことを特徴とする請求項7に記載の金型の製造方法。
  9. クロムめっきを施した後、表面を研磨せず、そのままクロムめっき面を金型の凹凸面として用いる、請求項7または8に記載の金型の製造方法。
  10. クロムめっきにより形成されたクロムめっき層が1〜10μmの厚みを有する、請求項7〜9のいずれかに記載の金型の製造方法。
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