JP5121029B2 - 無晒しまたは低晒しのミンチ状魚肉の冷凍品 - Google Patents
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Description
水晒し工程を行わない単なるミンチ状魚肉は、落し身、無晒し魚肉などと称され、冷凍保存性が非常に低い。これは、筋肉に含まれる不要な成分、例えば脂質や血液など脂質酸化・タンパク質劣化を促進する成分や、ホルムアルデヒド(以下、「FA」ともいう。)やジメチルアミン(以下、「DMA」ともいう。)を生成するTMAOなどが多量に含まれているためである。したがって、無晒し魚肉は練り製品用の冷凍原料としては流通していない。
しかし、すり身製造においては、水晒しと脱水の工程により排出される水溶性タンパク質はかなりの量であるにもかかわらず、その利用は十分なされておらず、動物性タンパク質の喪失となっているとともに、廃水処理エネルギーや晒し工程に必要な動力エネルギー、使用する清水の製造エネルギーなど多くのエネルギーを使用する結果となっている。このように動物タンパク質の喪失、エネルギー浪費などを解決する技術が、以前から強く望まれ開発されてきたが、残念ながら十分な成果は得られていなかった。
したがって、これらTMAOを多量に含有する魚種の冷凍保存には、水晒しによりTMAOを除去し、冷凍すり身とするしかなかった。冷凍すり身では、通常、もともとその魚が含有するTMAO量のうち80%程度は水晒しにより除かれる。
本発明は、通常水晒しをすることなしには使用されていない魚種について冷凍変性が抑制された無晒し又は低晒し魚肉の冷凍品を提供することを目的とする。
必要に応じ、撹拌の際に塩類を添加して撹拌した無晒しまたは低晒し魚肉の冷凍品も要旨とする。
本発明において魚肉を酸化するとは、詳細には魚肉の生体内鉄、鉄含有物質及び/又は生体内還元物質が酸化されることを意味している。
本発明は、スケトウダラ、ミナミダラ、ホキのいずれかのミンチ状に加工した魚肉、または、前記ミンチ状に加工した魚肉の脱水肉を原料とし、魚肉に対して5〜15%の糖又は糖アルコールからなる冷凍変性防止剤、さらにみりん、および/または、水もしくは食品素材が添加され、かつ、サイレントカッターを用いて魚肉を5〜30分間撹拌し空気又は酸素に接触させる酸化によりトリメチルアミン−N−オキシドの分解が抑制された、無晒しまたは低晒し魚肉の冷凍品(但し、脱水肉を原料とする場合、82%以下に脱水したものではなく、魚肉にアルカリ剤水溶液は添加しない)を要旨とする。
TMAOをわずかでも含むすべての魚種が対象となるが、通常晒し処理無しでは使用されていないTMAOを多く含有する魚種、スケトウダラ(Theragra chalcogram)、ミナミダラ(Micromesistius australis)、ホキ(Macruronus magellanicus)などで本発明の効果は発揮される。
従来のすり身では、水溶性物質を十分に除去しなければ冷凍耐性が低くなると考えられていたため、20%以下まで除去されているのが普通であり、多くても25〜30%程度の残存量であった。本発明は水溶性物質の残存量が30%以上でも冷凍変性が抑制されたものを可能にした。特に水溶性物質の残存量が50%以上のものでは、魚の自然な味が十分に残った練製品を製造することができる。
糖、糖アルコールの添加量は、魚肉100%に対し、1%〜20%好ましくは5〜15%、みりん添加量は0.01%〜5%、好ましくは0.1%〜3%である。
また筋肉中の鉄は、ヘモグロビンやミオグロビンといったヘム鉄として存在する以外に、非ヘム鉄としても存在する。これら非ヘム鉄を2価鉄(Fe)から3価鉄(Fe)に変えることも酸化という。
本発明はヘモグロビン、ミオグロビンに酸素を結合させ酸化することで、また2価鉄を3価鉄にすること、即ち酸化することでTMAOの分解を抑制するものである。
これまでTMAOの分解を抑制しタンパク質の変性を防止する有効な実用的な技術は無く、水晒しによってできるだけTMAOを除くしか手段がなかった。
本技術ではTMAO濃度が低い場合(TMAO濃度1〜30mmol/kg)はもちろん、高い場合でも(TMAO濃度30〜200mmol/kg)TMAOの分解を抑制しタンパク質の変性を抑制することか可能である。
魚肉を酸化させやすくするために添加する塩類としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、第一、第二、第三リン酸ナトリウム、炭酸カリウム、コハク酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム等が例示される。好ましくは食塩が使用できる。
練製品とは、プレーンかまぼこ、揚げかまぼこ、ゆでかまぼこ、竹輪、カニかまぼこ、さつま揚げ、魚肉ハム、ソーセージ、はんぺん等が例示される。
本発明では無晒し又は低晒しのミンチ状原料魚肉、またはその脱水肉に冷凍変性防止剤が添加され、そのまま、あるいは食塩を添加後、混合撹拌することによって酸化によりTMAOの分解を抑制し、タンパク質の変性を抑制する。このことにより冷凍耐性及びゲル形成能の高い無晒し又は低晒し魚肉の調製が可能となり、練り製品用冷凍原料の提供が可能になる。
Reece(非特許文献3)は、タラ(Gadus morhua)落し身を冷凍保存した場合、落し身の表面でTMAOの分解が抑制されていることを見いだしており、酸素がTMAO分解酵素の活性を阻害するということを示唆している。またGeorge Boer、Owen Fennema(非特許文献4)らも、撹拌によりTMAO分解酵素の活性を部分的に阻害すると推測している。これらの報告はいずれも、TMAOの分解反応はTMAO分解酵素によるものと推定しており、酸素が酵素活性を阻害すると説明している。
このように酸素により魚肉の変性が抑制されるかもしれないという知見があったにもかかわらず、落し身やフィレには脂質が多く含まれており、単純な酸素共存下に保管すると脂焼けなど脂質の酸化が進行し、その結果タンパク質の酸化的修飾が生じて品質劣化につながると考えられることから(非特許文献5)、酸素によるFA産生抑制の研究はそれ以上なされず、実用化に関する開発も全く行われてこなかった。
本願発明の詳細を実施例で説明する。本願発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
[方法]
筋肉中鉄含有物質の主要成分であるミオグロミン及び酸素通気して酸素化したミオグロビン(オキシミオグロビン)それぞれに、TMAO 50mM、0.1mM KCl−Tris緩衝液、1mMシステインを添加し25℃で反応を行い、経時的にTMAOが分解して生成するDMAを定量した。
FAの定量はTMAOが分解するとFAとDMAが等モル生成するため、本明細書ではすべてDMAを定量し、その量をFA量とみなしている。DMAの定量はDyer,Mounseyらの方法による銅−ジチオカルバメート法(非特許文献6)で行った。
[結果]
結果を第1図に示した。
本結果からミオグロビンはTMAOの分解を促進するが、酸素化したオキシミオグロビンはTMAOの分解を促進しないことが確認された。
スケトウダラを用いて、ミンチ状魚肉を調製。サンプル1はそのまま急速凍結。サンプル2は塩1%、砂糖10%、みりん1%を添加し、サイレントカッターで3分混合した後、急速凍結した。サンプル3は塩1%、砂糖10%、みりん1%を添加し、サイレントカッターで10分混合した後、急速凍結した。−20℃で3ヶ月保存後にDMA量と還元型グルタチオン(GSH)含量を定量した。
[結果]
結果を表1に示した。
得られた無晒し魚肉脱水肉をサンプル1はそのまま急速凍結した。サンプル2は魚肉100%に対し塩1%、砂糖10%、みりん1%、水5%を添加してサイレントカッターに投入し約10分撹拌した後、急速凍結した。サンプル3,4はサンプル2の加水量をそれぞれ10%、20%として同様に調製した。冷凍保存は、−10℃において3週間の虐待保存にてTMAOの分解、即ちDMAの生成量及びゲル強度を評価した。
通常冷凍魚肉は−20℃〜−25℃で保存されるが、本試験では−10℃で冷凍保存することにより、短期間で長期の冷凍保存性を評価した。
虐待試験は通常の保存より苛酷な条件で保存することにより、短期間で保存安定性をみるための試験方法である。FA量を指標として比較すると−10℃で2週間の保存と−20℃で1年間保存とほぼ同程度の変化を示すことをすでに確認しているが、−20℃、1年以上の保存を考慮し、虐待試験は3週間目まで評価した。
[結果]
結果を表2に示した。
スケトウダラをフィレ加工、ミンチ処理した後、常法に従い2回水晒しした後に脱水した後、サンプル1は塩2.25%、砂糖10%を添加しサイレントカッターで3分間撹拌した。サンプル2は同じ副原料を添加し、10分撹拌した。それぞれ急速凍結後、−10℃3週間保存後にDMA量、タンパク質性状は塩溶解性タンパク質の溶解性を指標にして評価した。方法は魚肉タンパク質の半分以上を占めるアクトミオシンの塩溶液〔0.5MNaCl20mMTris−HCl(pH7.5)緩衝液〕に対する溶解性で評価した。
[結果]
結果を表3に示した。
[方法]
落し身はスケトウダラをフィレ加工後に採肉し、スクリュープレスで水分約81%まで脱水して調製した。この落し身を用いて(1)そのまま凍結したもの、(2)魚肉に対し食塩3%を添加し10分間混合後に急速凍結したもの、(3)塩3%を添加し10分間混合したものにキシロース2%添加、急速凍結したもの、(4)塩3%を添加し10分間混合したものに砂糖10%添加、急速凍結したもの、(5)塩3%を添加し10分間混合したものにみりん3%を加え、急速凍結したもの、以上5種を調製した。
調製したサンプルは、虐待試験にてTMAOの分解、即ちFAの生成量を経時的に評価した。
虐待試験は−10℃で2週間と4週間の冷凍保存でおこなった。
[結果]
各サンプルの保存前後のDMA量(単位:mmol/魚肉kg)を表4に示す。
表4の結果から、落し身に塩とキシロースまたは砂糖等の糖及びみりんを添加することでTMAOの分解抑制が可能となることが明らかとなった。
[方法]
実施例5と同様にスケトウダラから落し身を調製し、サンプル1はそのまま急速凍結したもの、サンプル2は落し身に対し砂糖を10%添加しサイレントカッターで10分撹拌したもの、サンプル3は砂糖10%及びみりん1%を添加し、サイレントカッターで10分撹拌したもの。サンプル4は落し身に対し食塩を3%添加しサイレントカッターで10分間混合し、更に砂糖10%、みりん1%を添加後5分撹拌したもの。調製した練り肉は急速凍結後、−10℃で虐待保存を行い、冷凍中のホルムアルデヒド生成量及びタンパク質性状を経時的に測定評価した。
タンパク質性状は塩溶解性タンパク質の塩溶解性を指標にして測定した。方法は魚肉タンパク質の半分以上を占めるアクトミオシンの塩溶液〔0.5M NaCl 20mM Tris−HCl(pH7.5)緩衝液〕に対する溶解性で評価した。
[結果]
表5に添加物とDMA量(単位:mmol/魚肉kg)を、表6に添加物と塩溶解性タンパク質の塩溶解性との関係(単位:%)をそれぞれ示す。
表5および表6から明らかなように、塩、砂糖、みりん全てを添加した物でTMAOの分解が強く抑制され、また塩を添加してもタンパク質の変性は抑制されていた。
[方法]
実施例5と同様にスケトウダラから落し身を調製し、サンプル1はそのまま急速凍結したもの、サンプル2は落し身に対し塩3%を添加しサイレントカッターで約10分混合後、ソルビトール10%、みりん1%を添加し更に5分撹拌した。調製した練り肉は急速凍結した。サンプル3はサンプル2の砂糖をソルビトールに置き換えたもの、サンプル4はトレハロースに置き換えたものである。調製したサンプルは−10℃で4週間虐待保存しTMAOの分解を経時的に測定評価した。
[結果]
結果を表7に示す。表7より明らかなように、糖の種類により多少差はあるものの、TMAOの分解抑制効果が認められた。
[方法]
落し身、落し身脱水肉それぞれに塩3%を添加し、サイレントカッターで約10分塩摺り後、20%の加水を行い更に約10分撹拌し練り肉を調製した。直接加熱単品は練り肉を折径48mmの塩化ビニリデンチューブに充填し90℃,40分加熱し調製した。坐り単品は同様に充填した練り肉を30℃,60分坐り加熱後に90℃,40分加熱し調製した。調製した単品は保水性、ゲル強度を測定評価した。
保水性は調製した単品を約5mmに細断し、3000rpmで10分間遠心して流出するドリップ量を単品の水分当りで表した。
ゲル強度(以下「GS」と略称することがある)は単品を2.5cmで切断し、その断面を5mm球プランジャーで1mm/secの速度で押し込み、破断したとき時の荷重(w値:g)と破断までの距離(L値:cm)の積で表した。
[結果]
結果を表8(練り肉性状)および表9(単品物性)に示す。これらの各表より明らかなように、本結果から、脱水した落し身に加水し、脱水前の落し身と水分を揃えても、脱水した落し身の方が保水性、ゲル強度とも高いことが示された。
スケトウダラをフィレ加工後、皮を除き採肉し、落し身を調製した。調製した落し身をスクリュープレスで水分約81%まで脱水したものを以下の試験に供した。
サンプル1は、調製した魚肉に砂糖10%、みりん1%、塩1%添加後サイレントカッターで1分撹拌し、急速冷凍した。
サンプル2は、調製した魚肉に砂糖10%、みりん1%、塩1%添加後サイレントカッターで10分撹拌し、急速冷凍した。
調製したサンプルは、虐待保存にてTMAOの分解即ち、FAの生成量及びゲル強度を評価した。ゲル強度は、直接加熱単品を調製して評価した。即ち魚肉が半解凍の状態(約−2〜−1℃)で塩を2%添加し、約10分サイレントカッターで撹拌後、折径48mmの塩化ビニリデンチューブに充填し、90℃、40分加熱後に流水で冷却した。測定方法は単品を2.5cmで切断し、その断面を5mm球のプランジャーを1mm/秒の速度で押し込んだ時の破断荷重と破断までの距離の積で表した。
[結果]
結果を表10に示す。この結果より、塩添加後に十分撹拌し、塩溶性タンパク質を十分に溶かした方が、冷凍保存中のTMAOの分解が抑制され、ゲル強度の低下が小さいことが示された。
[方法]
スケトウダラをフィレ加工後、皮を除き採肉し、落し身を調製した。調製した落し身をスクリュープレスで水分約81%まで脱水したものを以下の試験に供した。
調製した魚肉に食塩3%添加後サイレントカッターで10分間撹拌し、表11の添加物をそれぞれ添加し、急速冷凍した。
調製したサンプルは、−10℃4週間の虐待保存にてTMAOの分解、即ちFAの産生量を評価した。
[結果]
表12に冷凍変性剤の種類及び添加量とTMAO分解の関係を示す。
表12の結果から、落し身に食塩を加えて撹拌し、酸化させ、塩溶性タンパク質を溶解させたものに糖、みりんを添加することでTMAOの分解抑制が示された。
[方法]
サンプル1は実施例5と同様にスケトウダラから落し身を調製。調製した落し身に塩1%を添加し、サイレントカッターで10分混合し、更に砂糖10%、みりん1%添加後5分混合し、冷凍した。
−20℃で2ヶ月間冷凍保存後、塩、砂糖、澱粉、調味料などを添加しサイレントカッターで混合した後、成型、油ちょうしてさつま揚げを調製した。
サンプル2は一般的な市販品を購入し評価した。
[結果]
サンプル1、サンプル2のさつま揚げ品質を表13に示す。
表13の結果から、TMAOの分解を抑制した落し身から調製したさつま揚げは、現状使用されている冷凍すり身から調製したさつま揚げより破断距離が長く、しなやかな食感であることがあきらかとなった。
Claims (5)
- スケトウダラ、ミナミダラ、ホキのいずれかのミンチ状に加工した魚肉、または、前記ミンチ状に加工した魚肉の脱水肉を原料とし、魚肉に対して5〜15%の糖又は糖アルコールからなる冷凍変性防止剤が添加され、かつ、サイレントカッターを用いて魚肉を5〜30分間撹拌し空気又は酸素に接触させる酸化によりトリメチルアミン−N−オキシドの分解が抑制された、無晒しまたは低晒し魚肉の冷凍品。但し、脱水肉を原料とする場合、82%以下に脱水したものではなく、魚肉にアルカリ剤水溶液は添加しない。
- 塩類を添加して撹拌する請求項1の無晒しまたは低晒し魚肉の冷凍品。
- 冷凍変性防止剤としてさらにみりんを用いる請求項1または2の無晒しまたは低晒し魚肉の冷凍品。
- さらに、水もしくは食品素材を添加して、魚肉を希釈することにより冷凍変性を抑制した請求項1ないし3いずれかの無晒しまたは低晒し魚肉の冷凍品。
- 請求項1ないし3いずれかの無晒しまたは低晒し魚肉の冷凍品を原料とする練り製品。
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