JP5116078B2 - 対向ターゲットスパッタ装置及び対向ターゲットスパッタ方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ターゲットが対向配置され、その表面に垂直な磁界を形成してスパッタ成膜を行うスパッタ装置及びスパッタ方法に関する。
半導体装置、FPD、光学薄膜などで使用する成膜プロセスとして、マグネトロンスパッタなどのスパッタ法が多く利用される。これは、成膜材料(ターゲット)が固体であるために装置構成上の制約が少なく、前記用途に適した装置構成が実現できること、また、Arイオンによりターゲットから原子単位でスパッタされた蒸気で成膜するため、ドロップレットのような大きな欠陥が皮膜に生じないためである。
しかし、スパッタ法にも以下の問題がある。すなわち、スパッタ法は、Ar等の放電ガス(スパッタリングガス)を真空チャンバに導入し、300〜700Vの負の電圧をターゲットに印加し、発生したグロー放電によりプラズマを生成し、そのプラズマ中のArイオンを印加電圧に相当する高エネルギー(数百eV)でターゲットに衝突させてスパッタを行う。このため、ターゲットに対向するように基板を配置してスパッタ成膜を行う場合、ターゲット表面で反射されたAr原子や、ターゲット表面で生成する負イオン(特に酸化物のスパッタリングで多く観察される。)は、いずれも高エネルギーを有することになる。このため、これらの粒子が成長中の皮膜に衝突すると、そのエネルギーの高さゆえに、成長中の皮膜結晶に欠陥を作り、膜質の劣化を招く。
かかる問題を解消するスパッタ装置及びその方法として、特開昭57−157511号公報(特許文献1)や特開2003−73822号公報(特許文献2)に記載されるように、対向ターゲットスパッタ装置及びその方法が知られている。このスパッタ装置では、ターゲットの表面(ターゲット面)が対向するように一対のターゲットが対向配置されており、両ターゲットが向かい合って対向する空間部の外側に基板を配置してスパッタリングが行われる。前記基板はターゲットの正面に対向して存在しないため、ターゲット面で発生する高エネルギーの粒子が照射され難く、ダメージの少ない皮膜を形成することができる。
前記対向ターゲットスパッタ装置において、一対のターゲットには、スパッタ電力としては直流電力、高周波電力あるいはこれらの両者が供給され、前記特許文献2には直流電力及びパルス状高周波電力をターゲットに供給する例(実施例2)が記載されている。
また、特表2005−504880号公報(特許文献3)には、一対の電極に対して垂直な方向に磁場を形成し、前記電極に電力を供給して電極間に放電プラズマを発生させると共に閉じ込めるペニング放電プラズマ源が記載され、これをスパッタに応用することが示唆されている(段落0043)。
特開昭57−157511号公報 特開2003−73822号公報 特表2005−504880号公報
上記対向ターゲットスパッタ装置を用いてスパッタ成膜することにより、結晶欠陥が抑制されたスパッタ皮膜が得られるが、皮膜の緻密性や結晶性が十分とは言えない。その理由は、成膜に寄与する、スパッタ蒸発した原子が殆どイオン化していないためである。これはスパッタを起こすグロー放電は、高電圧低電流放電であり、電子の供給が蒸気のイオン化には不十分となるからである。なお、特許文献3にはプラズマ源をスパッタに応用することが示唆されているが、単に示唆されているに過ぎず、また、ロール電極についての言及であるが、ロール同士が近づき過ぎるとホール電流が一方のロールから他方のロールへと移動できなくなり、プラズマが消失するため、ホール電流を通過させるには31.75〜50.8mm程度のある程度の間隔が必要であることが指摘されている(段落0029)。
本件発明はかかる問題に鑑みなされてもので、スパッタ蒸発した原子をイオン化することにより、緻密性、結晶性に優れた皮膜を成膜することができる対向ターゲットスパッタ装置及びその方法を提供することを目的とする。
本発明の対向ターゲットスパッタ装置は、真空チャンバと、真空チャンバ内に対向して設けられた一対のターゲット及び前記ターゲットの表面を通り、その垂直方向ないしほぼ垂直方向に互いに引き合う向きの磁界を形成する磁気発生源を備えたプラズマ源と、前記ターゲットにスパッタ電力を供給するスパッタ電源を備え、前記磁界を形成すると共に前記真空チャンバに導入したスパッタリングガス中で前記一対のターゲット間の空間部の外側に設けた基板にスパッタ成膜する対向ターゲットスパッタ装置であって、前記一対のターゲットは、対向配置されたターゲットの間隔が5〜30mmに設定され、前記スパッタ電源は、スパッタ成膜する際に前記一対のターゲットに投入される瞬時電力のピーク値であるピーク電力を前記空間部の体積で除した最大体積電力密度がスパッタされた原子を前記空間部内でイオン化することができる電力密度、例えばTiターゲットを用いる場合、83W/cm3 以上、好ましくは200W/cm3 以上、より好ましく500W/cm3 以上となるようにスパッタ電力を前記ターゲットに供給するものである。
上記対向ターゲットスパッタ装置によれば、減圧した真空チャンバ内で、対向するターゲット間に垂直ないし略垂直な磁界を与えてターゲットにスパッタ電力を供給すると、磁界に捕捉された電子によるぺニング放電とよばれるプラズマがターゲット間の空間に閉じ込められるように発生する。さらに、対向配置された前記ターゲットの間隔が5〜30mmに設定されるので、対向配置したターゲット間の狭い空間に電力密度の高い放電プラズマを容易に閉じ込めることができ、これによって最大体積電力密度がスパッタされた原子を前記空間部内でイオン化することができる電力密度、例えばTiの場合83W/cm3 以上となるように電力を容易に供給することができるので、前記ぺニング放電が強化され、ターゲットからスパッタされた原子イオン化を促進することができる。また、スパッタされた高エネルギー粒子が基板に直接到達し難いので、結晶欠陥のないスパッタ成膜を行うことができる。このため、ドロップレット(マクロパーティクル)を発生させることなく、緻密性、結晶性に優れた皮膜を成膜することができる。
前記スパッタ電源は、スパッタ成膜の際に、直流電力又は1kHz〜400kHzのパルス状高周波電力を0.1〜10Hzの周期で前記ターゲットに供給することができる。直流又は高周波のスパッタ電力を間欠的に供給することで、ターゲットで消費される熱量を低下させることができ、ターゲットの近傍に設けられる部材、例えば磁気発生源に熱損を生じるのを防止することができる。
また、前記スパッタ電源は、Tiターゲットを用いたスパッタ成膜の際に、最大体積電力密度が1000W/cm3 以上となるようにスパッタ電力を前記ターゲットに供給することが好ましい。これにより、スパッタされた原子の半数程度以上がイオン化し、これらの粒子が成膜に寄与するようになり、緻密性、結晶性が改善され、優れた品質のスパッタ皮膜を容易に成膜することができる。
さらに、4000W/cm3 以上の最大体積電力密度となるようにスパッタ電力を供給することにより、Tiターゲットからスパッタされた放電中のTi原子がほとんどイオン化するようになるため、イオンを主体としたスパッタ成膜を効果的に行うことができ、優れた緻密性、結晶性を備えた皮膜を得ることができる。
また、前記対向ターゲットスパッタ装置において、前記一対のターゲットをターゲットの間隔が基板側に向かって開くように傾けながら対向配置することができる。このように配置することにより、スパッタされた粒子が基板に向かう確率が増大し、成膜レートを向上させることができる。
また、前記一対のターゲットを一方のターゲット表面と他方のターゲット表面とが平行に配置されると共に表面方向にずらせて対向配置することができる。このように配置することにより、ずれた部分のターゲット表面から飛び出したスパッタ粒子は対向するターゲットに阻害されることなく外部へ飛散することができるので、成膜レートを向上させることができる。
また、前記一対のターゲットは、それぞれ異なる材料で形成することができる。これにより、スパッタリングによって複数の材料をミキシングした皮膜を成膜することができる。
また、上記対向ターゲットスパッタ装置において、前記磁気発生源の一端を一対のターゲットの裏面側にそれぞれ隣接配置し、その他端を磁気通路部材によって磁気的に接続することが好ましい。前記磁気通路部材を設けることにより、対向配置されたターゲットの対向空間と反対側に発生した一方のターゲットの磁場を他方のターゲットに誘引することができる。これによりマグネットの持つ磁力をターゲット間に閉じ込めたプラズマに効果的に与えることができる。また、放電領域以外に漏れる浮遊磁場を抑制することができ、磁場の漏れによる異常放電を抑制することができる。
また、前記磁気発生源は、それぞれ絶縁部材を介してターゲットの裏面に隣接配置することができる。前記絶縁部材を設けることにより、磁気発生源への通電を防止することができるので、磁気発生源あるいはさらに磁気通路部材近傍での異常放電を抑制することができる。さらに、磁気発生源などは給電されないため、真空チャンバと同電位に設計できるなどの利点がある。
また、前記磁気発生源は、それぞれ磁性部材を介してターゲットの裏面に隣接配置することができる。前記磁性部材を設けることにより、スパッタリングによって高温になったターゲットが磁気発生源に直接触れないため、熱的に弱い磁気発生源の過熱を防止することができる。さらに、前記磁性部材に冷却手段を設けることにより、磁気発生源の過熱をより一層防止することができる。勿論、前記磁性部材を設ける場合においても、磁性部材とターゲットとの間に絶縁部材を介在させて、これらを隣接配置することにより、磁気発生源や磁気通路部材への通電を防止することができる。特に、磁性部材に冷却手段を設ける場合、冷却手段もターゲットから絶縁されるため、冷却水系などを含む冷却手段の設計が容易になる。
また、前記磁気通路部材を設ける場合、前記一対のターゲットと磁気発生源と磁気通路部材に囲まれた空間の内側に基板を配置するように基板を支持する支持部材を設けることができる。このように基板を配置することができれば、ターゲットから飛び出すスパッタ粒子を効率よく基板に付着させることができる。この場合、真空チャンバを磁気通路部材の主要部材として利用することができる。
また、上記対向ターゲットスパッタ装置において、前記プラズマ源を2つ設け、前記スパッタ電源の一方の出力端を一つのプラズマ源のターゲットに接続し、前記スパッタ電源の他方の出力端を他のプラズマ源のターゲットに接続することができる。本発明に係るプラズマ源をカソードおよびアノードとして用いることにより、DMS(デュアルマグネトロンスパッタ)としての動作が可能となり、ターゲットの酸化によるポイゾニングなどの影響を抑制することができる。
さらに、上記対向ターゲットスパッタ装置において、前記プラズマ源を複数設け、各プラズマ源のターゲットにスパッタ電源から電力を供給することができる。複数のプラズマ源を設けることにより、互いに電気的に絶縁したプラズマ源を各々独立して動作させることができるので、各プラズマ源への供給電力を調整することによって、プラズマの分布を調整することができ、ひいては大面積の基板に対して均一な成膜を行うことができる。
プラズマ源を複数設ける場合、それぞれのプラズマ源にスパッタ電力を供給又は停止する開閉スイッチを各プラズマ源に対応して設けることが好ましい。前記開閉スイッチを設けることにより、成膜面積が大きい場合でも容量の小さいスパッタ電源を用いることができ、コストや設置スペースを低減することができる。また、一つのスパッタ電源の出力を分岐し、各分岐に開閉スイッチを設けるなどの構成を採ることができ、複数のプラズマ源を1台の電源で駆動することができるようになる。
プラズマ源を複数設ける場合、プラズマ源の配置については直線状に配置することができる。直線状に配置することにより、長いライン状のプラズマ源を形成することができるので、基板をプラズマ源に沿って移動させることにより、大きな成膜面積を容易に確保することができる。また、複数のプラズマ源をそれらのターゲット間の空間が円状、楕円状あるいはレーストラック状になるように配置することができる。このように配置することにより、プラズマ中の電子を周回させるルートが形成されるため、プラズマの密度が均一になり、成膜の安定性、膜品質を向上させることができる。
また、本発明のスパッタ方法は、対向して設けられた一対のターゲットを備える真空チャンバにスパッタリングガスを導入し、前記ターゲットの垂直方向ないしほぼ垂直方向に磁界を形成した状態で前記一対のターゲットにスパッタ電力を供給し、前記ターゲット間の空間部の外側に設けた基板にスパッタ成膜する方法であり、前記一対のターゲットは、対向配置されたターゲットの間隔が5〜30mmに設定され、前記一対のターゲットに投入される瞬時電力のピーク値であるピーク電力を前記空間部の体積で除した最大体積電力密度がスパッタされた原子を前記空間部内でイオン化することができる電力密度、例えばTiターゲットを用いる場合、83W/cm3 以上、好ましくは200W/cm3 以上、より好ましく500W/cm3 以上となるようにスパッタ電力を前記ターゲットに供給する。スパッタ成膜の際に、直流電力又は1kHz〜400kHzのパルス状高周波電力を0.1〜10Hzの周期で前記ターゲットに供給することができる。
本発明の対向ターゲットスパッタ装置及びその方法によれば、スパッタ成膜の際にターゲット間の空間部にペニング放電を生じさせると共に対向配置されたターゲットの間隔が5〜30mmに設定されるため、対向配置したターゲット間の狭い空間に電力密度の高い放電プラズマを容易に閉じ込めることができ、これによって最大体積電力密度がスパッタされた原子を前記空間部内でイオン化することができる電力密度、例えば、Tiの場合83W/cm3 以上となるようにスパッタ電源から対向配置されたターゲットにスパッタ電力を容易に供給することができるため、アーク放電を生じさせることなく、強力なペニング放電が得られる。これにより、ターゲットからスパッタされた原子イオン化を促進することができ、ドロップレット(マクロパーティクル)を発生させることなく、緻密性、結晶性に優れた皮膜を成膜することができる。
本発明を成すに際して、対向ターゲットスパッタ装置を用いて行ったスパッタ粒子のイオン化実験について説明する。発明者らは、真空チャンバ内にスパッタ面が直径10cmのTiターゲットを10cmの間隔で平行に対向配置し、Arガスを導入し、30kHzのパルス状電圧を間欠的にターゲットに印加して、前記両ターゲットに200W〜4kWのパルス状直流電力を供給し、放電させた。イオン化の有無を判断するため、分光機を用いて、2枚のターゲットの間の空間部のプラズマ発光を分光分析した。その結果、Tiイオンに相当する322,367nmの波長に有意なスペクトルは観察されず、主にAr、Arイオンからの発光が観察された。
本発明者は、かかる観察結果より以下のことを考察した。すなわち、対向スパッタの放電を目視観察すると、放電プラズマの主たる発光は対向する2枚のターゲットの間の空間部で発生している。このため、投入した電力はターゲットのスパッタに用いられるとともに、一定割合で、前記ターゲット間の空間部に存在する放電ガスや蒸気のイオン化に用いられる。ターゲット間の空間部には、放電ガスであるArと、スパッタされた原子(この例ではTi)の両方が存在するにも拘わらず、主にArからの発光が観察されたということは、投入電力が主にArの励起に使われ、Tiの励起やイオン化に不十分であったためである。これより、ターゲット間の単位空間あたりに投入する電力を増加させ、Tiの励起に寄与するエネルギーを供給できれば、スパッタされた原子のイオン化が促進できる。本発明はかかる考察を基に、両ターゲット間の空間部に供給すべきイオン化に必要なスパッタ電力を検討することによってなされたものである。
以下、本発明に係る対向ターゲットスパッタ装置の実施形態を図を参照して説明する。第1実施形態に係る対向ターゲットスパッタ装置は、図1に示すように、真空チャンバ1と、該真空チャンバ1内に設けられ、平行に対向配置された一対のターゲット2A,2Bと、該ターゲット2A,2Bの背面に隣接して設けられたマグネット3A,3Bと、前記ターゲット2A,2Bにスパッタ電力を供給するスパッタ電源5を備えている。処理対象である基板Wは、前記対向配置されたターゲット2A,2Bの間からスパッタ粒子が飛び出すので、これを捕捉できる位置、典型的には図1に示すように、ターゲット間に形成される空間部の側方に配置される。前記基板Wは図示省略した基板ホルダなどの基板を支持する支持部材によって支持され、作業者によって、あるいは基板搬送手段などによって真空チャンバ1内外に搬入、搬出される。なお、前記ターゲット2A,2Bとマグネット3A,3Bの一組を一つのプラズマ源という場合がある。
前記一対のターゲット2A,2Bは、平行ないしほぼ平行に対向配置されている。後述するように、対向配置したターゲット2A,2Bの間隔は、5〜30mmに設定するのがよい。また、ターゲットの間隔が基板側に開くように、一方の側端から他方の側端に渡ってハの字形に開いた形態で対向配置してもよく、ターゲット表面が部分的にずれて対向配置されてもよい。
またターゲット面は、図例のように平面に限らず、凸面、凹面などの曲面形状でもよく、ターゲット面の平面形状は、一般的には円形や矩形のものが用いられる。また、ターゲットの材料としては、Ti、Cu、Al、Zn、Cr、Ag、Feなどの金属材の他、C、Si、ITOなども利用することができる。ターゲットは透磁率の高い材料のはうがプラズマ発生領域の磁場を強く保てる点で適しているが、透磁率の小さい材料でもよい。また、ターゲット2A,2Bは、同じ材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。異なる材料とした場合、両者の材料が混合した皮膜を成膜することができる。
前記マグネット3A,3Bは、図示のように、互いに引き合う向きの磁界(磁場)をターゲット2A,2B間に発生させるように設置される。図例では、2個のマグネット3A,3Bを向かい合わせるように配置しているが、複数のマグネットを分散配置して、ターゲット面の磁場分布を調整可能な構成としてもよい。かかる構成を採ることにより放電分布を調整、改善することができる。なお、前記マグネット3A,3Bは、本発明の磁気発生源を構成している。
また、マグネットの材料としては、サマリウムコバルトやネオジマグネットなどの残留磁束密度の大きいマグネットが好ましいが、フェライトマグネットや超伝導マグネットなどの他種のマグネットや電磁石も使用することができる。また永久マグネットと電磁石を組み合わせるなど、複数の磁気発生源を組み合わせた構成としてもよい。なお、図例では省略されているが、ターゲット2A,2Bやマグネット3A,3Bには、その自体あるいはその近傍に水冷などを行うための冷却手段が設けられる。
前記真空チャンバ1には、該真空チャンバ1内を所定のガス圧に維持するための減圧装置とスパッタリングガス供給装置とが接続されているが、いずれも周知な機構であるため図示省略されている。前記ターゲット2A,2Bをスパッタ動作させる際は、真空チャンバ1内にアルゴンガスなどのスパッタリングガス(放電ガス)が通常0.01〜10Pa程度で導入される。
前記スパッタ電源5は、直流電源6と、該直流電源6を基にパルス状電圧を出力するパルス生成装置7を備える。前記パルス生成装置7の陰極側出力端がターゲット2A,2Bに接続され、その陽極側出力端が導電材で形成された真空チャンバ1に接続される。すなわち、前記ターゲット2A,2Bはカソード電極部材を構成し、前記真空チャンバ1はアノード電極部材を構成する。なお、専用のアノード電極部材を設け、陽極側出力端をこれに接続するようにしてもよい。
前記パルス生成装置7によって出力されたパルス状の電圧は前記ターゲット2A,2Bに印加され、ターゲット2A,2Bに直流パルス状電力が供給される。前記ターゲット2A,2Bには、直流電力あるいは直流パルス状電力を0.1〜10Hz程度の低い周波数で間欠的に供給することが好ましい。かかる方法で電力を供給することにより、ターゲットの温度上昇を抑制することができる。このためより大きな電力を供給でき、スパッタ原子のイオン化を促進することができる。
一対のターゲットからスパッタリングされた原子をターゲット間の空間部内でイオン化するポイントは、前記空間部における単位体積あたりの電力密度を増加させるところにある。そのためには、供給電力を増加させることや、プラズマを閉じ込める空間の体積を小さくすることが有効である。本発明では、減圧した真空チャンバ内で対向するターゲット(電極)の間に垂直ないし略垂直な磁界を与えてターゲットに電力を印加するので、磁界に捕捉された電子によるニング放電が生じ、これによって生じたプラズマがターゲット間の空間に閉じ込められる。ターゲットの間の距離を小さくすることで閉じ込める空間の体積を小さくすることができ、電力密度を容易に増大することができる。これにより、前記ペニング放電を強化することができ、スパッタ原子のイオン化を促進することができる。
前記ターゲット2A,2B間の距離については、5〜30mmが望ましい。発明者は、スパッタ電源として、一般的な耐電圧が1000V強のIGBTやMOS−FETなどの半導体素子で構成された、出力電圧が1000V強のパルスを発生できるパルス電源を用いて放電実験したところ、ターゲット間距離が30mmでは放電が観察され、スパッタ原子のイオン化も観察された。しかし、40mmでは放電は観察されたが、イオン化は観察されなかった。これより、一般的なリーズナブルなパルス電源を使用する環境においては、ターゲット間の間隔を30mm以下にすることが好ましい。もっとも、ターゲット間の距離が5mm未満では、放電がターゲットの間に挟まれた極めて狭い空間で発生するため、発生したスパッタ原子は対向するターゲットに再吸収される確率が高くなり、ターゲット間からイオンを引き出すことが困難になる。電磁場やガス流を用いてイオンを引き出す方法も考えられるが、装置構成が複雑化する。よって、これらの方法を用いず、簡単な装置構成でスパッタ粒子のイオン化を実現するには、ターゲット間の距離を5mm以上とすることが好ましい。また、ターゲット間の距離を40mm程度以上にする場合、最大電圧がより大きなパルス電源を使用することでスパッタ原子のイオン化を実現することができる。かかる電源については、耐電圧が1000V強の一般的なIGBTやMOS−FETなどの半導体素子を直列に接続するなど、保護回路も含めて回路を工夫することにより実現することができる。
次に、スパッタされた原子がイオン化されるのに必要な、ターゲット間の空間に投入されるべき単位体積あたりの電力密度について説明する。上記対向ターゲットスパッタ装置を用いて、スパッタされた原子がイオン化されるのに必要な体積電力密度を以下の要領で調べた。ターゲット面を2×6cmの矩形とし、1cmの間隔でTi製のターゲット2A,2Bを対向配置した。この場合、ターゲット2A,2B間の空間部の体積は12cm3 である。この構成で、Arガスを導入して7 mTorr(約1Pa)とし、30kHzのパルス状電圧を間欠的にターゲットに印加して、前記両ターゲットに200W〜4kWのパルス状直流電力を投入して放電させた。その結果、アーク放電を生じさせることなく、図2に示すように、前記空間部が1kW以上の電力、すなわち83W/cm3 の最大体積電力密度でTiイオンからの発光を示す、369nmの明確な発光スペクトルを観察することができた。前記ターゲットに投入した電力は、電圧、電流の瞬時値を乗じた瞬時電力の最大値であるピーク電力を意味し、最大体積電力密度はターゲットへ投入したピーク電力(W)を対向配置されたターゲット間に形成された空間部の体積(cm3 )で除した値である。
スパッタされたTi原子がイオン化するメカニズムは、完全に解明されていないが、放電プラズマが発生する空間を縮小したことにより、ArだけではなくTiを励起、イオン化するに十分なパワーが空間部に投入できたこと、および単位空間体積あたりのAr原子数は同じ(すなわち同一圧力)なのに対して、投入する電力を増したことでスパッタされたTi原子数の空間密度が増えたことの2点が相乗的に作用したものと推測される。
一般のスパッタのイオン化率は小さく、成膜にはほとんどイオンが寄与しないとされているが、本発明に係る対向ターゲットスパッタ装置を用いることで、イオン化が促進されたプラズマを利用することができ、イオン化プロセスであるアークイオンプラズマで成膜することで得られる膜と類似した膜質が得られる。また、イオン化が促進されたプロセスでありながら、マクロパーティクルとよばれるドロップレットの発生が極めて小さいため、表面粗度の優れた膜が得られる。
次に、第2実施形態に係る対向ターゲットスパッタ装置を図3を参照して説明する。第2実施形態は第1実施形態に対してスパッタ電源5の構成が異なっており、これを中心に説明し、第1実施形態の装置と同部材は同符号を付してその説明を簡略ないし省略する。
第2実施形態におけるスパッタ電源5は、充電電源として用いる直流電源6と、開閉スイッチとして示した電流制限素子8と、コンデンサ9と、半導体スイッチング素子11,12を備えたスイッチング部10を有し、直流電源6の負極側端子は電流制限素子8を介してスイッチング部10に入力され、スイッチング部10の負極側端子がターゲット2A,2Bに接続される。直流電源6の正極側端子はスイッチング部10を介して真空チャンバ1に接続される。また、スイッチング部10の入力側端子にはコンデンサ9が並列に接続される。ここでは電流制限素子8として開閉スイッチ8を示したが、電流制限素子としては抵抗や高周波インピーダンスの大きいインダクタを用いることができる。また、前記コンデンサ9と並列に設けられたスイッチング素子12は必要に応じて設けることができる。なお、スイッチング素子としては、IGBTのほか、MOS−FET、トランジスタ、サイリスタなどの半導体スイッチング素子の他、機械式の高電圧スイッチ、真空管、スパークギャップなどの放電スイッチング素子などを用いることができる。
このスパッタ電源の基本的な動作は、直流電源6によってコンデンサ9を充電し、スイッチング素子11でパルス状電圧を発生させる。すなわち、直流電源6は常時給電を行っており、スイッチング部10のスイッチング素子11が断路の下で、電流制限素子8を閉路すると、直流電源6から供給された電荷によってコンデンサ9が充電される。コンデンサ9が充電された後、電流制限素子8を断路した後、スイッチング素子12を断路した状態でスイッチング素子11を閉路すると、コンデンサ9に充電された電荷はスイッチング素子11を通してターゲット2A,2Bに供給される。ターゲット2A,2Bは電荷の供給を得て真空チャンバ1に対して電位を有するようになり、スイッチング素子11の閉路から数マイクロ秒経過したあと真空チャンバ1内の放電ガスでプラズマが発生する。
前記コンデンサ9に充電された電荷をパルス供給用として用いるメリットは、何らかの理由で大電流のアーキング(アーク放電)が発生したとき、アーキングを比較的容易に、かつ即時性よく抑制することができる。これは、アーキングによる電流によってコンデンサに蓄えられていた電荷が急速に消費され、コンデンサの電圧が急減することに伴い、ターゲットに供給される電圧が速やかに下がることによる。コンデンサの容量は、イオン化スパッタで必要な1パルスあたりの電荷量を元に定めるとよい。あまり大きな容量にすると、アーキングの抑制ができないし、容量が小さいと、イオン化するのに必要な電荷を供給できないので、適切な値を選定する。もちろん、電流検出などの能動的な方法でアーキングを検知して電力供給を遮断する機構をスパッタ電源に設けてもよい。なお、一般的に処理能力を上げるためにターゲットに大電流を流すと、アーキングが発生して安定した運転を妨げることがある。アーキングの発生は電圧を印加してから概ね数マイクロ秒〜数十マイクロ秒で起きるので、上記のように供給電流を検出して、アーキングが発生する前に電力供給を停止することで、未然にアーキングを防止することができる。上記のように、コンデンサ9を設けることにより、かかる制御を行わなくてもアーキングを抑制することができる。
前記最大体積電力密度は、電力供給源となる直流電源6の電圧を調整することにより簡単に調整することができる。供給電圧を増大すると、プラズマの励起が活発化するため急峻に電流が立ち上がり、大電力を投入できるようになる。なお、供給電圧やスイッチング素子11の閉路時間やコンデンサ9の容量を調整することによっても最大体積電力密度を調整することができる。
前記ターゲットに印加するパルス状電圧のパルス幅については、1〜100μ秒程度、好ましくは3〜50μ秒程度、より好ましくは3〜30μ秒程度に設定するのがよい。パルス幅を過度に大きく設定すると、パルスの周期が不規則になったり、アーキングが発生するようになるので、30〜50μ秒程度が上限として適切な範囲である。一方、パルス幅が3μ秒以下になると、イオンの発生量が十分でなくなり、1μ秒以下になるとスイッチング素子のスイッチング動作自体が十分でなくなるので、3〜1μ秒程度が下限として好ましい。
図4は、ターゲット2A,2Bに印加された直流電圧とターゲットに供給される電流の典型的な時間波形を示し、時間t=0で直流電圧をインパルス状に印加した例である。供給する電圧は300〜1700V程度である。電圧を印加したあと、数μ秒〜数10μ秒の遅延を経て、図中のS点付近で電流が増加し始める。負荷の状態や電圧を供給する時間によって異なるが、ターゲット面が12cm2 の対向配置されたターゲットでは、電流値は数A〜数百A程度となる。電流が流れ始めると、その一方でコンデンサ9に充電された電荷が放電するため電圧が低下し始める。供給電圧が低くなると放電し難くなるので、あるところから電流は減少に転じ、図4に示すような波形を呈する。図中のP点は、瞬時電力の最大値すなわちピーク電力が生じる時点である。
次に、最大体積電力密度とスパッタ粒子のイオン化傾向との関係について説明する。まず、イオン化傾向の定量化について説明する。図5は、典型的なTiターゲット放電での400nm近傍の発光スペクトルの模式図である。400nm近傍には390〜392nmに現れるTiイオンによる発光と、394〜400nmに現れるTiによる発光スペクトルが存在する。これらのスペクトルはデータブックによって同じ程度の光強度で発光するものであるため、下記のTiイオン発光スペクトル強度割合によってイオン化傾向を判断することができる。
Tiイオン発光強度割合=I[Ti+]/(I[Ti+]+I[Ti])
I[Ti+]:Tiイオン発光スペクトル強度
I[Ti]:Ti発光スペクトル強度
第二実施形態の対向ターゲットスパッタ装置を用いて、ターゲット面が2×6cmの矩形のターゲットを1cmの間隔で対向配置し、Arガスを導入して7mTorr(約1Pa)とし、0.5〜5kHzの周波数でパルス状電圧を印加し、ターゲット間の空間部にプラズマを発生させた。この際、供給電圧、コンデンサ容量、スイッチング時間などを変えて最大体積電力密度(W/cm3 )を調整し、各最大体積電力密度に対して、ターゲット間の空間部に発生したプラズマを分光分析し、発光スペクトルを調べて前記Tiイオン発光強度割合を求めた。その結果を図6に示す。
図6より、最大体積電力密度を増すにつれてTiイオンの発光強度割合は増加し、最大体積電力密度が1000W/cm3 以下の領域では供給した電力が効率よくTi原子のイオン化に寄与するため、急激にチタンイオン発光強度割合が増加する。しかし、1000W/cm3 を超えたあたりで、供給した電力が有効にイオン化に利用され難くなり、Tiイオンの発光強度割合の増加が鈍くなる。1000W/cm3 でのチタンイオン発光強度割合は0.55を超えており、概ねTiに比べてTiイオンが支配的に存在する状態にある。この状態ではTiイオンが支配的な成膜プロセスを成すことができる。さらに最大体積電力密度が4000W/cm3 においてTiイオンの発光強度割合が0.88の最大値を示したあとは、最大体積電力密度を増してもTiイオンの発光強度割合は増加しない。これは4000W/cm3 を超えると、ほとんどのTi原子がイオン化していると推察される結果である。これより、4000W/cm3 以上の体積電力密度を与えることで、イオン化されたTiによるプロセスに支配された成膜を実現できることが確認された。なお、最大体積電力密度の上限は特に限定されないが、10000W/cm3 以上の体積電力密度を投入するには非常に大規模な電源装置が必要となるので、実用的には10000W/cm3 程度である。
次に、第3実施形態に係る対向ターゲットスパッタ装置を図7を参照して説明する。第3実施形態は第2実施形態に対して磁気発生源を含むように磁気回路が設けられた点が異なっており、これを中心に説明し、第2実施形態の装置と同部材は同符号を付してその説明を簡略ないし省略する。
第3実施形態においては、対向配置された一対のターゲット2A,2Bの裏面にマグネット3A,3Bの一端が隣接配置され、このマグネット3A,3Bの他端に磁気通路部材(シャント)30が隣接配置され、マグネット3A,3B同士が磁気的に連結されている。前記磁気通路部材30は、マグネット3A,3Bに連結された側部31,31と、側部31,31の他端を連結する下部32によって構成されている。前記磁気通路部材30は、コスト低減の点からは一般的にSS400などの鋼材が用いられるが、フェライト、パーマロイなどの高磁性材料など透磁率の高い材料を使うと磁気抵抗をより低下させることができる。
対向配置されたターゲット2A,2Bの間の空間には、ニング放電を発生させる磁場が発生しているが、対向する領域とは反対側にも磁場が発生する。マグネットの反対側に発生した磁力線は、前記磁気通路部材30を通して一方のマグネットから他方のマグネットに誘引される。すなわち、前記磁気通路部材30を設けることにより、マグネット3Bから発した磁力線がターゲット2B、ターゲット間のギャップ、ターゲット2A、マグネット3A、磁気通路部材30を通ってマグネット3Bに戻る磁気回路が形成される。
前記磁気回路によって得られる効果は以下のとおりである。前述のように一方のターゲットの裏面に隣接配置されたマグネットの背面に発生する磁力線を対向するターゲット側のマグネットに誘引することにより、磁場を効果的にプラズマに与えることができる。また、ターゲット間の放電領域以外に漏れる浮遊磁場を抑制することができるため、異常放電などを防止することができる。単にスパッタ原子のイオン化を図るためだけであれば、対向するターゲット間に十分な磁場を形成できるようにマグネットを設ければ足りるが、より効率よく磁力を利用し、不要な放電を抑制するためには、前記磁気通路部材30を設けることが好ましく、その実用上のメリットは大きい。
図8は第3実施形態に係る対向ターゲットスパッタ装置の変形例であり、この装置においては、ターゲット2A,2Bはその間隔が基板W側に向かってハの字形に開くように対向配置されている。ターゲット2A,2Bから飛び出した粒子はターゲット面に垂直な方向へ飛散する量が多いことが一般的であるため、ターゲット表面を基板側に向けて傾けることで、基板側に進むスパッタ粒子が増え、逆にターゲットに衝突吸収されるスパッタ粒子が減少する。その結果として成膜レートが向上する。なお、このようにターゲットを傾けて配置した場合、ターゲット間の間隔が5〜30mmに入っておればよい。
また、ターゲットの対向配置については、図9に示すように、ターゲット表面は平行として、その中心位置を偏位させ、部分的にずれるように配置してもよい。かかるターゲットの配置によれば、ターゲット面に垂直な方向に飛び出したスパッタ粒子が対向したターゲットによってその進路を妨げられることがない。このため、スパッタ効率を向上させることができる。図9は、ターゲット2A,2Bを紙面上下に偏位させた場合であるが、紙面に対して垂直な方向に偏位させてもよい。また、図9では、ターゲットを部分的にずらせて対向配置したが、ターゲットの表面に垂直な方向から見てターゲット表面が互いに重なり合わないように、ターゲットを表面方向に完全にずらせて平行に配置するようにしてもよい。なお、これらのターゲットの配置については、磁気通路部材を設けない場合においても当然適用することができる。
上記第3実施形態では、ターゲット2A,2Bにマグネット3A,3B及び磁気通路部材30が電気的に接続されて同電位とされているが、ターゲットとマグネット等は必ずしも同じ電位である必要はない。図10に示す変形例ように、ターゲット2A,2Bとマグネット3A,3Bとを図例に示すようにセラミックなどの絶縁部材15を介在させて隣接配置し、ターゲット2A,2Bと、マグネット3A,3Bや磁気通路部材30とは電気的に絶縁し、ターゲット2A,2Bのみに給電するようにすることができる。磁気回路に電力が付加されないようにすることにより、マグネットや磁気通路部材周辺の漏れ磁場による放電を抑制することができる。また絶縁部材15を設けた場合、その断熱性によってターゲットの熱がマグネットに伝達され難くなり、マグネットの熱損保護としても有用である。前記絶縁体としてセラミックスを用いる場合、セラミックは透磁率が小さいので、できるだけ薄いものが好ましい。なお、ターゲットを電気的に絶縁する方法は、磁気通路部材を設けていない場合においても当然適用することができる。
また、上記第3実施形態では、ターゲット2A,2Bのすぐ裏側にマグネット3A,3Bを隣接配置したが、このように配置した場合、マグネットがターゲットに触れ、ターゲットの熱がマグネットに直接伝達されるため、熱に弱いマグネットが熱損するおそれがある。このような問題を解消するには、図11の変形例に示すように、ターゲット2A,2Bとマグネット3A,3Bの間に高透磁率材料で形成された磁性部材16を介在させてターゲット2A,2Bとマグネット3A,3Bを配置することが好ましい。このように磁性部材16を介在させてマグネット3A,3Bをターゲット2A,2Bに隣接配置することにより、ターゲットの熱は磁性部材16を介してマグネットに伝達する際、真空中ではターゲット2A,2Bと磁性部材16の間、および磁性部材16とマグネット3A,3Bの間の熱伝達は小さいので、ターゲットの熱がマグネットに伝達され難い。このため、ターゲットで発生した熱によるマグネットの損傷を防止することができる。前記磁性部材16は磁力線を良く通すので、磁気通路部材の構成部材としても機能する。なお、磁性部材16を用いてターゲットからの熱伝導を抑制する方法は、磁気通路部材を設けていない場合においても当然適用することができる。
さらにマグネット3A,3Bが受ける熱影響を抑制するには、図例のように、磁性部材16に冷却流路等の冷却手段17を設けることが好ましい。磁性部材16に冷却手段17を設けると、放電によって加熱するターゲット2A,2Bと、熱に弱いマグネット3A,3Bとの間に冷却手段17が挟まれる構造となり、効率よくマグネットの冷却を行うことができる。さらに、ターゲット2A,2Bと磁性部材16の間にセラミックス等で形成された絶縁部材(図10の15参照)を設けることにより、冷却流路などの冷却手段17をターゲットと電気的に絶縁することができ、冷却手段の設計が容易になる。
また、上記第3実施形態およびその変形例では、主にマグネット3B、ターゲット3B、ターゲット間のギャップ、ターゲット2A、マグネット2A、磁気通路部材30、マグネット3Bで構成された磁気回路の外側に成膜対象である基板Wが配置されているが、図12に示すように、磁気通路部材30をターゲット2A,2Bおよびマグネット3A,3Bを取り囲むように設け、図例では上下の磁気回路の内側に基板を支持する支持部材を設け、これにより基板Wを磁気回路の内側に配置するようにしてもよい。このように配置することにより、対向するターゲット2A,2Bの間から上下方向に飛散するスパッタ粒子を効率よく基板Wに衝突させることができ、成膜レートを向上することができる。図例では、磁気通路部材30は、外枠部33と、外枠部33とマグネット3A,3Bとをつなぐ連結部34,34とで構成されているが、外枠部33としては磁性材で形成した真空チャンバ1を利用することができる。
また、上記第1〜3実施形態においては、ターゲット2A,2Bをカソードとし、真空チャンバ1をアノードとしてスパッタ電源5に接続したが、アノードとして真空チャンバ1を用いることなく、真空チャンバ1内に専用の電極を設けてもよい。また、図13に示すように、スパッタ電源5のカソード出力端に接続されるターゲットを備えた一つのプラズマ源20とは別に、他のプラズマ源20Aを設け、このプラズマ源20Aのターゲットをアノード電極としてスパッタ電源5のアノード出力端に接続するようにしてもよい。図例では、二つのプラズマ源を区別するように、アノードとされる他のプラズマ源を20Aで示した。
このように構成することにより、DMS(デュアルマグネトロンスパッタ)と同じように動作させることができる。DMS動作させることで、交番の電力を有効に活用することができ、成膜レートなどを改善することができるほか、ターゲットが酸化や窒化して絶縁膜が形成されるような成膜条件においても安定な放電を維持することができる。
次に、第4実施形態に係る対向ターゲットスパッタ装置を図14を参照して説明する。第4実施形態は第3実施形態に対して、一対のターゲット2A,2Bとマグネット3A,3Bとからなるプラズマ源20が複数設けられ、またスパッタ電源5との接続についてはコンデンサ9から各々スイッチング素子11を介して各プラズマ源20のターゲットに接続される。他の点は第3実施形態の装置と同様であり、同部材は同符号を付してその説明を簡略ないし省略する。
スパッタリングの処理面積を大きくするには、プラズマ源自体を大きくすればよいが、プラズマ源を大きくするとニング放電を開始するために必要な電流量が増すため、大きな容量の電源が必要になる。これに対して、この実施形態のように複数のプラズマ源を互いに絶縁し、個別に独立した電位状態に保つようにして用いることにより、一つのプラズマ源に対して小さな電力で放電を開始することができ、各プラズマ源を独立して放電させることが可能になる。
この場合、個々のプラズマ源20には、図例のように、個別に電力を供給停止できるように、それぞれスイッチング素子11を介してスパッタ電力を供給するようにすることが好ましい。これによって、任意のプラズマ源を動作させることができ、またスイッチング素子の閉時間を調整することで、プラズマ処理の分布を調整することができる。これによって、大面積で均一な処理が可能となる。図例では、直流電源6及びコンデンサ9を各々一つ設け、スイッチング素子11をプラズマ源20ごとに設けたが、これに限らず、いくつかのプラズマ源からなる群に対して1組の直流電源およびコンデンサを用いるようにしてもよい。プラズマ源ごとにスパッタ電源を準備し、個々のプラズマ源に与える電圧や電流や電力を独立に設定することにより、プラズマの分布などをより精密に調整することができるが、上記のように充電電源やコンデンサを一組あるいは複数組にまとめることにより、装置の構成を簡単化することができる。
複数のプラズマ源の配列形状については、直線状、楕円状、レーストラック状など種々の形態を採ることができる。インライン型のプラズマ処理やロールフィルムへの処理など、基板を移動させながら、大きな面積を成膜するには、図15に示すように、基板Wに対して複数のプラズマ源20を直線状に配列すればよい。
図16及び図17(図15のA−A矢視)は、基板側から見たプラズマ源のレーストラック状の配列を示し、外周部に配置されたマグネット3Xと中央部に配置されたマグネット3Yとは、側部35,35、上部36及び下部37からなる磁気通路部材30によって磁気的に連結され、またマグネット3Xの内側にはターゲット2Xが、マグネット3Yに連結された磁気通路部材30の上部36の両端にはターゲット2Yが隣接配置されている。プラズマ源を楕円や図例のレーストラック状に配列した場合、ターゲット間の空間が閉じた形状の放電空間になり、放電空間を周回する電子(図15中、「e」で表示)によってプラズマの分布を均一にすることができる。
上記第4実施形態において、プラズマ源20は基本的に第3実施形態のものと同様であり、個々のプラズマ源20に対して、第3実施形態の変形例として説明した図10〜12の各構造を適用することができる。
第1実施形態に係る対向ターゲットスパッタ装置の説明図である。 対向ターゲットスパッタにおける投入電力と分光スペクトルとの関係を示す図である。 第2実施形態に係る対向ターゲットスパッタ装置の説明図である。 対向配置したターゲットに単一パルスを印加した際の電圧、電流、電力の経過時間に伴う波形図である。 典型的なTi及びTiイオンの発光スペクトルの概念図である。 Tiイオン発光強度割合と最大体積電力密度との関係図である。 第3実施形態に係る対向ターゲットスパッタ装置の一部断面説明図である。 第3実施形態に係る対向ターゲットスパッタ装置においてターゲット配置変形例を示す一部断面説明図である。 第3実施形態に係る対向ターゲットスパッタ装置において他のターゲット配置変形例を示す一部断面説明図である。 第3実施形態に係る対向ターゲットスパッタ装置においてマグネットとターゲットとを絶縁した変形例を示す一部断面説明図である。 第3実施形態に係る対向ターゲットスパッタ装置においてマグネットを磁性部材を介してターゲットに配置した変形例を示す一部断面説明図である。 第3実施形態に係る対向ターゲットスパッタ装置においてマグネットを囲むように枠状の磁気通路部材を設けた変形例を示す一部断面説明図である。 第3実施形態に係る対向ターゲットスパッタ装置においてアノードとしてプラズマ源を設けた変形例を示す一部断面説明図である。 第4実施形態に係る対向ターゲットスパッタ装置の一部断面説明図である。 第4実施形態に係る対向ターゲットスパッタ装置においてプラズマ源を直線状に配置した斜視図である。 第4実施形態に係る対向ターゲットスパッタ装置においてプラズマ源をレーストラック状に配置した平面図である。 図16のA−A線矢視図である。
符号の説明
1 真空チャンバ
2A,2B,2X,2Y ターゲット
3A,3B,3X,3Y マグネット(磁気発生源)
5 スパッタ電源
20 プラズマ源
30 磁気通路部材
W 基板

Claims (22)

  1. 真空チャンバと、
    真空チャンバ内に対向して設けられた一対のターゲット及び前記ターゲットの表面を通り、その垂直方向ないしほぼ垂直方向に互いに引き合う向きの磁界を形成する磁気発生源を備えたプラズマ源と、
    前記ターゲットにスパッタ電力を供給するスパッタ電源を備え、
    前記磁界を形成すると共に前記真空チャンバに導入したスパッタリングガス中で前記一対のターゲット間の空間部の外側に設けた基板にスパッタ成膜する対向ターゲットスパッタ装置であって、
    前記一対のターゲットは、対向配置されたターゲットの間隔が5〜30mmに設定され、
    前記スパッタ電源は、スパッタ成膜する際に前記一対のターゲットに投入される瞬時電力のピーク値であるピーク電力を前記空間部の体積で除した最大体積電力密度がスパッタされた原子を前記空間部内でイオン化することができる電力密度となるようにスパッタ電力を前記ターゲットに供給する、対向ターゲットスパッタ装置。
  2. 前記スパッタ電源は、スパッタ成膜の際に、直流電力又は1kHz〜400kHzのパルス状高周波電力を0.1〜10Hzの周期で前記ターゲットに供給する、請求項1に記載した対向ターゲットスパッタ装置。
  3. 前記ターゲットとしてTiターゲットを用い、前記最大体積電力密度が83W/cm3 以上となるようにスパッタ電力を前記ターゲットに供給する、請求項1又は2に記載した対向ターゲットスパッタ装置。
  4. 前記スパッタ電源は、スパッタ成膜の際に、最大体積電力密度が1000W/cm3 以上となるようにスパッタ電力を前記ターゲットに供給する、請求項3に記載した対向ターゲットスパッタ装置。
  5. 前記スパッタ電源は、スパッタ成膜の際に、最大体積電力密度が4000W/cm3 以上となるようにスパッタ電力を前記ターゲットに供給する、請求項3に記載した対向ターゲットスパッタ装置。
  6. 前記一対のターゲットは、ターゲットの間隔が基板側に向かって開くように傾けながら対向配置した、請求項1からのいずれか1項に記載した対向ターゲットスパッタ装置。
  7. 前記一対のターゲットは、一方のターゲット表面と他方のターゲット表面とが平行に配置されると共に表面方向にずれて対向配置された、請求項1からのいずれか1項に記載した対向ターゲットスパッタ装置。
  8. 前記一対のターゲットは、それぞれ異なる材料で形成された、請求項1からのいずれか1項に記載した対向ターゲットスパッタ装置。
  9. 前記磁気発生源は、その一端が一対のターゲットの裏面側にそれぞれ隣接配置され、その他端が磁気通路部材によって磁気的に接続された、請求項1からのいずれか1項に記載した対向ターゲットスパッタ装置。
  10. 前記磁気発生源は、それぞれ絶縁部材を介してターゲットの裏面に隣接配置された、請求項1からのいずれか1項に記載した対向ターゲットスパッタ装置。
  11. 前記磁気発生源は、それぞれ磁性部材を介してターゲットの裏面に隣接配置された、請求項1からのいずれか1項に記載した対向ターゲットスパッタ装置。
  12. 前記磁性部材は冷却手段を備える、請求項11に記載した対向ターゲットスパッタ装置。
  13. 前記磁性部材は絶縁部材を介してターゲットの裏面に隣接配置された、請求項11又は12に記載した対向ターゲットスパッタ装置。
  14. 前記一対のターゲットと磁気発生源と磁気通路部材に囲まれた空間の内側に基板を配置するように前記基板の支持部材を設けた、請求項から13のいずれか1項に記載した対向ターゲットスパッタ装置。
  15. 請求項1に記載した対向ターゲットスパッタ装置において、
    前記プラズマ源を2つ設け、前記スパッタ電源の一方の出力端が一つのプラズマ源のターゲットに接続され、前記スパッタ電源の他方の出力端が他のプラズマ源のターゲットに接続された、対向ターゲットスパッタ装置。
  16. 請求項1に記載した対向ターゲットスパッタ装置において、
    前記プラズマ源を複数設け、各プラズマ源のターゲットにスパッタ電源から電力を供給するようにした、対向ターゲットスパッタ装置
  17. 前記プラズマ源のそれぞれにスパッタ電力を供給又は停止する開閉スイッチを各プラズマ源に対応して設けた、請求項16に記載した対向ターゲットスパッタ装置。
  18. 前記複数のプラズマ源を直線状に配置した、請求項16又は17に記載した対向ターゲットスパッタ装置。
  19. 前記複数のプラズマ源をそれらのターゲット間の空間が円状、楕円状あるいはレーストラック状になるように配置した、請求項16又は17に記載した対向ターゲットスパッタ装置。
  20. 対向して設けられた一対のターゲットを備える真空チャンバにスパッタリングガスを導入し、前記ターゲットの垂直方向ないしほぼ垂直方向に磁界を形成した状態で前記一対のターゲットにスパッタ電力を供給し、前記ターゲット間の空間部の外側に設けた基板にスパッタ成膜する対向ターゲットスパッタ方法であって、
    前記一対のターゲットは、対向配置されたターゲットの間隔が5〜30mmに設定され、前記一対のターゲットに投入される瞬時電力のピーク値であるピーク電力を前記空間部の体積で除した最大体積電力密度がスパッタされた原子を前記空間部内でイオン化することができる電力密度となるようにスパッタ電力を前記ターゲットに供給する、対向ターゲットスパッタ方法。
  21. スパッタ成膜の際に、直流電力又は1kHz〜400kHzのパルス状高周波電力を0.1〜10Hzの周期で前記ターゲットに供給する、請求項20に記載した対向ターゲットスパッタ方法。
  22. 前記ターゲットとしてTiターゲットを用い、前記最大体積電力密度が83W/cm3 以上となるようにスパッタ電力を前記ターゲットに供給する、請求項20又は21に記載した対向ターゲットスパッタ方法。
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