本件出願に係る発明は、多層プリント配線板の製造方法及びその製造方法で得られた多層プリント配線板に関する。特に、内層コア材の内層回路を粗化処理することなく、プリプレグ等のプリント配線板の絶縁層構成基板との良好な張り合わせ密着性の確保可能な多層プリント配線板の製造方法に関する。
従来の多層プリント配線板の内層回路には、特許文献1に開示されているように酸化銅の微細粒を付着させる(所謂、「黒化処理」と称するものであり、以下「黒化処理」という。)ことで、有機剤で構成された内層絶縁層と内層回路との密着性を確保してきた。この黒化処理は、多層プリント配線板が半田リフロープロセス等で熱衝撃を受けたときに、内層回路の表面(銅箔をエッチング加工する事により形成される回路表面であり、通常は銅箔の表面に相当する。)と内層絶縁層との間でデラミネーションを起こすことを防止するためである。
ところが、この通常の黒化処理は、酸化銅の粒子で構成されているため、酸化されていない銅と比べエッチング腐食が素早く進行する。そのため、黒化処理後に内層回路エッチングを施すと、エッチング後の回路のエッジ部分の黒化処理部が溶解除去され、エッチング回路形状の周囲にハローイング現象を引き起こし、プリント配線板に加工されたときのランド部の外周部が変色して見える場合もあった。
そこで、このような初期の黒化処理の持つ問題点を解決する手法として、一旦、銅酸化物を内層回路を構成する銅箔表面に付着させ、その後特許文献2〜特許文献4に開示されているような手法で銅酸化物を還元処理して酸化銅微粒子の表面を銅に戻す処理(所謂、還元黒化処理であり、以下「還元黒化処理」と称することとする。)が一般化して来た。この手法により、上述のハロー現象の発生が防止されてきた。
ところが、黒化処理及び還元黒化処理を行って構成した微細な凹凸形状が回路表面に存在していると、その物理的形状から来る欠点が存在する。近年のコンピュータの制御に用いられるクロック周波数はGHzレベルに達しており、その回路には高周波特性に優れることが要求されるようになる。シグナル電流の伝達速度が高周波領域になるほど、その電流は回路の表層を流れる傾向がある。従って、シグナル伝達速度を速くするほど、シグナル電流は黒化処理及び還元黒化処理層の近傍を流れ、黒化処理及び還元黒化処理層の凹凸による影響を受け、層間のクロストーク特性等の高周波特性を劣化させ、プリント配線板の薄層化を阻害する要因となる。また、黒化処理を行うことだけで、回路表面が2〜3μm程度削られることになり、回路幅が細くなり回路幅のバラツキに繋がり、回路断面も小さくなることから電気抵抗の上昇を引き起こす要因ともなる。このような問題が存在することから、以下の特許文献5に開示の技術が提唱された。
特許文献5に開示の発明は、内層回路に黒化処理等を施すことなく、内層回路と絶縁層構成材との間に密着性を向上させるためのプライマ樹脂層を設けることを特徴とした多層プリント配線板を製造する技術であり、国際的な価格競争に晒されている我が国のプリント配線板業界にとって、極めて大きく生産効率を上げ、大幅なトータル生産コストの削減も可能となり、そのメリットは計り知れないものである。そして、この特許文献5に開示の発明では、内層回路の表面には、シランカップリング剤処理を施して用いる旨が開示されている。
特開昭64−37081号公報
特開平3−87092号公報
特開平4−217391号公報
特開平5−152740号公報
WO2005/060324号公報
しかしながら、特許文献5に開示の発明内容で製造された多層プリント配線板の場合には、品質の安定性に欠点が存在した。即ち、半田リフローのレベルを超えるヒートショックが負荷されると、プライマ樹脂層と内層回路との間での剥離現象(以下、単に「内層回路部剥離」と称する。)、プライマ樹脂層と内層コア材の内層回路間に位置する樹脂面との剥離現象(以下単に「基材樹脂間剥離」と称する。)のいずれかの発生する製品が一定の頻度で得られていた。
従って、特許文献5に開示の多層プリント配線板の製造方法を基礎として、更に内層回路部剥離と基材樹脂間剥離とを同時に防止して、半田リフロー条件レベルのヒートショックでのデラミネーション現象を完全に解消することが望まれ、同時に製造するプリント配線板の製造コストの削減及びプリント配線板サイズのダウンサイジング等が求められてきた。
そこで、本件発明者等は、鋭意研究の結果、本件発明に係る多層プリント配線板の製造方法等に想到したのである。以下、本件発明を説明する。
本件発明に係る多層プリント配線板の製造方法: 本件発明に係る多層プリント配線板の製造方法は、内層回路を表面に備える内層コア材の内層回路を粗化すること無く、その外層表面に絶縁樹脂層と導電層とを形成する多層プリント配線板の製造方法であって、以下の工程A〜工程Eを備えることを特徴としたものである。
工程A: 内層コア材の内層回路の表面に前記補助金属層は、1nm〜100nm厚さのニッケル、スズ、パラジウムのいずれか1種又は2種以上からなる無電解メッキ法で形成した補助金属層を形成するメッキ工程。
工程B: 内層回路表面に形成した補助金属層の表面にシランカップリング剤処理層を形成するシランカップリング処理工程。
工程C: 工程Bの終了した内層コア材の補助金属層付内層回路の表面に0.5μm〜12μm厚さのプライマ樹脂シートを載置して、更に絶縁層構成材、金属層の層構成が出来るよう必要材料を載置した積層体とするビルトアップ工程。
工程D: 前記積層体を熱間プレス加工することで、張り合わせを行い多層銅張積層板とするラミネート工程。
工程E: 前記多層銅張積層板の外層の金属層をエッチング加工することにより、外層回路を形成し多層プリント配線板とするエッチング加工工程。
本件発明に係る多層プリント配線板の製造方法において、前記工程Aでは、50℃未満の低温浴を用いて、表面に微細な凹凸形状を備えた補助金属層を形成することが好ましい。
本件発明に係る多層プリント配線板の製造方法において、前記シランカップリング剤処理層は、アミノ官能性シランカップリング剤、エポキシ官能性シランカップリング剤、メルカプト官能性シランカップリング剤のいずれか1種又は2種以上を用いて形成したものであることが好ましい。
そして、本件発明に係る多層プリント配線板の製造方法において用いる前記プライマ樹脂シートは、エポキシ樹脂、芳香族アミン系硬化剤、及び硬化促進剤を含有する樹脂組成物を用いて形成したものを用いることが好ましい。
そして、前記エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ブロム化エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ゴム変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、リン含有型エポキシ樹脂の群から選ばれた1種又は2種以上を用いる事が好ましい。
また、前記芳香族アミン系硬化剤としては、芳香族ポリアミン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド及びこれらをエポキシ樹脂や多価カルボン酸と重合或いは縮合させて得られるアミンアダクト体の群から選ばれた1種又は2種以上を用いることが好ましい。
更に、前記硬化促進剤は、3級アミン、イミダゾール、尿素系硬化促進剤の群から選ばれた1種又は2種以上を用いることが好ましい。
そして、前記樹脂組成物は、エポキシ樹脂と芳香族アミン系硬化剤との総量を100重量部としたとき、エポキシ樹脂が15重量部〜90重量部であり、硬化促進剤を0.01重量部〜1.0重量部含有する組成として用いることが好ましい。
また、前記樹脂組成物は、エポキシ樹脂と芳香族アミン系硬化剤との総量を100重量部としたとき、エポキシ樹脂が70重量部〜90重量部、ポリエーテルサルフォンが40重量部〜400重量部であり、硬化促進剤を0.02重量部〜5.0重量部含有するものを用いることも好ましい。
更に、前記樹脂組成物は、窒素の含有量が0.5wt%〜8.0wt%であるものを用いることが好ましい。
そして、本件発明に係る多層プリント配線板の製造方法で用いる前記プライマ樹脂シートは、MIL規格におけるMIL−P−13949Gに準拠して測定したときのレジンフローが5%以内であることが好ましい。
また、本件発明に係る多層プリント配線板の製造方法において、前記工程Cにおける、内層コア材の内層回路表面へのプライマ樹脂シートの載置は、支持フィルムの表面にプライマ樹脂シート層を設けた支持フィルム付プライマ樹脂シートを用いて、当該支持フィルム付プライマ樹脂シートのプライマ樹脂シート面を内層コア材の内層回路表面へ仮圧着し、支持フィルムを剥離して行うものであることが好ましい。
そして、前記支持フィルム付プライマ樹脂シートは、支持フィルムとしてPETフィルム、熱可塑性フッ素樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルムのいずれかを用いる事が好ましい。
本件発明に係る多層プリント配線板: 本件発明に係る多層プリント配線板は、内層コア材の表面にある内層回路の表面に、プライマ樹脂層が回路形状に沿った形で存在することを特徴としたものである。
本件発明に係る多層プリント配線板の製造方法を用いる事で、内層回路剥離と基材樹脂間剥離の双方を防止して、内層コア材と外層材との密着性を改善した多層プリント配線板の提供が可能となる。その結果、内層回路の表面に黒化処理等に代表される密着性を向上させるための粗化処理を施さずとも、プリント配線板製造プロセスにおけるヒートショックを受けたときの内層コア材と外層材との間でのデラミネーション現象を効果的に防止することが出来る。
以上の製造方法で得られる多層プリント配線板の層構成を具体的に言えば、内層回路の表面に、少なくとも補助金属層を備え、且つ、内層回路の上に上記樹脂組成物を用いたプライマ樹脂層を備える。この層構成を備える事により、内層回路の表面の粗化を省略しても、内層回路の表面及び内層回路間の樹脂面が基材樹脂に対し十分な接着強度を得ることが出来る。
以下、本件発明に係る多層プリント配線板の製造方法及び本件発明に係る多層プリント配線板の実施形態に関して説明する。
本件発明に係る多層プリント配線板の製造形態: 本件発明に係る多層プリント配線板の製造は、以下の工程A〜工程Eを経て行われる。即ち、本件発明に係る多層プリント配線板の製造においては、内層コア材の内層回路を粗化すること無く、その外層表面に絶縁樹脂層と導電層とを形成するものであり、その内層回路に粗化処理を施すのではなく、絶縁層の構成材料である有機剤との密着性を改善するための、一定の補助金属層を設ける点に特徴を有する。
工程Aは、内層コア材の内層回路の表面に無電解メッキ法で形成した補助金属層を形成するメッキ工程である。ここで、内層コア材とは、多層プリント配線板を製造する際の中心に配置して、プレス加工に用いられるものである。即ち、図1(1)には、絶縁層の両面に内層回路31を形成した内層コア材30を示している。しかし、この内層コア材30は、内層コア材自体の内層にさらに回路を備えるものであっても構わない。一般的に内層回路の表面は滑らかで平滑であり、粗化処理を施さない限り、Rzjisの値で2μm以下である。このような表面に、樹脂層を直接張り合わせても、十分な密着性が得られないのが通常である。しかし、本件発明では内層回路の表面に、少なくとも後述する補助金属層を設け、且つ、内層回路の上に後述するプライマ樹脂層を設けることによって、内層回路の表面を粗化しなくとも、内層回路の表面が基材樹脂に対し十分な接着強度を得ることが出来るようになる。
そして、図1(2)に示すように、内層回路31の表面に無電解メッキ法で補助金属層32を形成する。この補助金属層32は、内層回路31の上に形成する外層絶縁層8(以下に述べるプライマ樹脂層とプリプレグ等で形成した絶縁層とを合わせた層のことである。)との密着性を改善するために用いる。ここで無電解メッキ法を用いたのは、補助金属層の形成にあたり、内層回路に電流を流す必要がないため、回路設計時に電解メッキを行うための電流導入を行うためのダミーランド等を形成する必要が無くなり、プリント配線板としての小型化が可能となる。しかも、補助金属層を薄膜として形成することが容易だからである。この点に関しては後述する。
そして、この補助金属層32は、1nm〜100nm厚さのニッケル、スズ、パラジウムのいずれか1種又は2種以上からなることが好ましい。即ち、1nm〜100nm厚さのニッケル、スズ、パラジウムのいずれかの単独金属層、上記金属成分を組み合わせて得られる複数層の金属層とすることも好ましい。ここで、ニッケル、スズ、パラジウムを選択的に用いたのは、外層絶縁層を構成する樹脂との濡れ性に優れ、密着性を顕著に向上させるからである。また、特に、薄い補助金属層としてのスズ層は、その構成成分であるスズが、銅やニッケルと比べて電気抵抗が大きく、高周波信号を伝達する際の表皮効果を小さくして、高周波特性の改善が可能になる。更に、薄い補助金属層としてのスズ層は、その厚さが厚い場合に比べ、デスミア処理液等に曝されたときの耐薬品性能が向上し、レーザー加工した際のスズ酸化物の形成量を低くして、エッチング性能に影響を与えないようにできる。ここで、補助金属層32の厚さが1nm未満の場合には、外層絶縁層を構成する樹脂との濡れ性を改善し得ず、密着性の向上が図れない。一方、補助金属層32の厚さが100nmを超えるものとしても、それ以上に、外層絶縁層を構成する樹脂との密着性を向上させることが出来ない。しかも、補助金属層の厚さが、この上限値を超えると、エッチング液に曝されたときの、耐薬品性劣化率及び耐吸湿劣化率が大きくなる傾向にあり、形成した補助金属層の表面形状が顕著に変化をし始め、樹脂基材と形成した内層回路との密着性が劣化する。そして、この補助金属層の厚さは、1nm〜50nm厚さの範囲にあることが、より安定した良好な耐薬品性劣化率及び耐吸湿劣化率を確保する観点から、より好ましい。
ここで言う無電解メッキ法に関しては、無電解メッキ液及びそのメッキ条件に関して特段の限定は無い。また、2層構造の補助金属層を設ける場合等にも、実施可能な無電解メッキ法を任意に選択して、メッキ層の形成を2回繰り返して行えば足りる。しかし、上述したように、形成した補助金属層の表面形状を問題とする場合には、一定の無電解メッキ条件を採用することが好ましい。例えば、一例として、図7には、外層絶縁層を構成する樹脂との良好な密着性を示す補助金属層(無電解スズ層)の走査型電子顕微鏡像を示す。これに対し、図8には、外層絶縁層を構成する樹脂との密着性に欠ける補助金属層(無電解スズ層)の走査型電子顕微鏡像を示す。これらを対比すると分かるように、補助金属層の表面形状が、微細な凹凸形状を備えることが、外層絶縁層を構成する樹脂との密着性を向上させるためには必要と考えられる。この無電解スズメッキを例に採り説明する。一般的に、置換スズメッキは、置換析出速度を速くするため、50℃以上の高温で行われる。しかし、本件発明の場合に必要な置換スズメッキは、50℃未満の低温浴を用いて、短時間で薄い置換スズメッキを形成することが好ましい。好ましくは15℃〜35℃の浴温とすることが好ましい。この範囲の浴温とすることで、所望の表面形状の補助金属層とすることが出来る。
前記補助金属層を、上記金属成分を組み合わせた複数層構成の金属層とすることも好ましい。例えば、ニッケル層/スズ層の組み合わせ等である。係る場合には、ニッケル層をnmオーダーの厚さに薄く形成し、スズ層を無電解析出させる際に、スズが銅と置換析出するようにすることが、補助金属層の銅箔に対する密着性を向上させる観点から好ましい。また、特に、パラジウムは、単体では使用せず、予めニッケル層を形成し、その後パラジウムを無電解法で析出して使用することが、密着安定性を高める観点から好ましい。
この複数層構成の金属層とする場合において、特に、1nm〜50nm厚さのニッケル層を形成し、更に1nm〜50nmのスズ又はパラジウムのいずれかの金属層からなるものを用いることが特に好ましい。ここで、ニッケル層は耐熱安定性に優れるため、内層回路の構成成分である銅が、加熱を受けることにより、外層絶縁層の方へ拡散して、樹脂劣化を引き起こさないように機能する。そして、ニッケル層の上に形成するスズ又はパラジウムの金属層は、樹脂成分との濡れ性の改善に大きな効果を発揮し、内層回路と外層絶縁層との密着改善に最も適しているからである。
この2層構造の補助金属層を設ける場合、ニッケルのバリア層の厚さが、1nm未満の場合には、プレス成形温度(180℃)以上の加熱を受けたときに拡散バリア層として機能し得ず、内層回路と外層絶縁層との密着性の安定化が図れない。一方、当該バリア層の厚さが50nmを超えるものとしても、熱拡散バリアとしての効果は、それ以上に向上しない。また、バリア層の上に形成するスズ又はパラジウムの金属層の厚さが1nm未満の場合には、安定した膜厚のスズ層又はパラジウム層を作り得ず、内層回路と外層絶縁層との密着性の安定化が図れない。これに対し、当該スズ又はパラジウムの金属層の厚さが50nmを超えるものとしても、それ以上に、外層絶縁層を構成する樹脂との密着性を向上させることが出来ないため、資源の無駄遣いとなる。
以上に述べてきた補助金属層の形成方法に関して説明する。この補助金属層は、内層コア材の内層回路を形成した後に、最終的に内層回路の表面に存在するように形成する。従って、回路形成後にメッキアップを必要とする場合には、当該メッキ後に補助金属層を形成する。これに対し、内層回路の形成に使用した銅箔の表面が直接的に内層回路表面となる場合には、銅箔の表面処理として当該補助金属層を銅箔表面に設けることも可能である。しかし、エッチングにより内層回路を形成すると、当該内層回路の表面(回路トップ)には、補助金属層が残留するが、回路の側壁部(エッチングにより形成される回路の側壁面)には、補助金属層が無いことになる。従って、内層回路の側壁部と外層絶縁層と界面での密着性が劣ることになり、ヒートショックを受けた場合に係る部位から剥離してブリスターが発生する場合がある。これに対し、内層回路の形成後に補助金属層を形成すると、内層回路の側壁面にも補助金属層を形成出来るため好ましい。なお、上記補助金属層の厚さは、内層回路を酸溶液中で全溶解し、ここに含まれた補助金属層構成成分を発光分析分光装置(ICP)等で定量分析し、この補助金属層を構成する各金属成分量及び算出した被メッキ対象面積を用いて、換算して得られる換算厚さである。
工程Bは、内層回路表面に形成した補助金属層の表面にシランカップリング剤処理層を形成するシランカップリング処理工程である。そして、本件発明に係る多層プリント配線板の製造方法において、前記シランカップリング剤処理層は、アミノ官能性シランカップリング剤、エポキシ官能性シランカップリング剤、メルカプト官能性シランカップリング剤のいずれか1種又は2種以上を用いて形成したものであることが好ましい。このシランカップリング剤処理層は、オレフィン官能性シラン、アクリル官能性シラン等種々のものを用いることも可能である。これらを用いるとFR−4プリプレグに対する張り合わせを行い引き剥がし強さを測定すると1.0kgf/cm前後の引き剥がし強さが得られる。ところが、アミノ官能性シランカップリング剤又はメルカプト官能性シランカップリング剤を用いると、この引き剥がし強さをより高めることが可能であり、特に好ましい。プリント配線板の回路の引き剥がし強さは、従来から高いほどよいと言われた。ところが、近年は、エッチング技術の精度の向上によりエッチング時の回路剥離は無くなり、プリント配線板業界におけるプリント配線板の取り扱い方法が確立され、回路を誤って引っかけて起こる断線や回路剥離の問題も解消されてきた。そのため、近年は少なくとも0.8kgf/cm以上の引き剥がし強さがあれば、現実の使用が可能といわれ、1.0kgf/cm以上あれば何ら問題ないと言われている。
そして、シランカップリング剤処理層の形成は、一般的に用いられる浸漬法、シャワーリング法、噴霧法等、特に方法は限定されない。工程設計に合わせて、最も均一に銅箔とシランカップリング剤を含んだ溶液とを接触させ吸着させることのできる方法を任意に採用すれば良いのである。
ここで用いることの出来るシランカップリング剤を、より具体的に明示しておくことにする。プリント配線板用にプリプレグのガラスクロスに用いられると同様のカップリング剤を中心にビニルトリメトキシシラン、ビニルフェニルトリメトキシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、4−グリシジルブチルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−3−(4−(3−アミノプロポキシ)プトキシ)プロピル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールシラン、トリアジンシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を用いることが可能である。
これらのシランカップリング剤は、溶媒としての水に0.5〜10g/l溶解させて、室温レベルの温度で用いるものである。シランカップリング剤は、内層回路の表面の補助金属層から突きだしたOH基と縮合結合することにより、被膜を形成するものであり、いたずらに濃い濃度の溶液を用いても、その効果が著しく増大することはない。従って、本来は、工程の処理速度等に応じて決められるべきものである。但し、0.5g/lを下回る場合は、シランカップリング剤の吸着速度が遅く、一般的な商業ベースの採算に合わず、吸着も不均一なものとなる。また、10g/lを超える濃度であっても、特に吸着速度が速くなることもなく不経済となるのである。なお、図面中に於いて、シランカップリング剤処理層は極めて薄いため、その記載は省略している。
工程Cは、工程Bの終了した内層コア材の補助金属層付内層回路33の表面に0.5μm〜12μm厚さのプライマ樹脂シートを載置して、更に絶縁層構成材、導電層の層構成が出来るよう必要材料を載置した積層体とするビルトアップ工程である。この工程では、図1(3)〜図3(6)に示すように、補助金属層付内層回路33に、プライマ樹脂シート3を当接させて重ね合わせ、更に、プライマ樹脂シート3の表面に、プリプレグ等の絶縁層構成材5及び導電層を構成する金属箔6を配置して積層した状態とする。この場合に、絶縁層構成材及び導電層を構成する金属箔を、それぞれ独立したものとして用いるのではなく、予め金属箔の表面に絶縁層構成樹脂層を備える樹脂付銅箔を用いることも可能である。そして、この樹脂付銅箔の絶縁層構成樹脂層には、ガラスクロス、アラミド不織布等の骨格材を含むことも好ましい。絶縁層の厚さバラツキを少なくし且つプリント配線板としての強度を確実に向上させる事が出来るからである。
そして、ここで言うプライマ樹脂シートは、以下に述べる樹脂組成物で形成された樹脂フィルムである。即ち、ここで言う樹脂組成物の基本組成としては、エポキシ樹脂、芳香族アミン系硬化剤及び硬化促進剤を含有するものと言える。この組成を用いることで、ヒートショックによる内層回路部剥離と基材樹脂間剥離とを同時に防止することが可能となる。なお、ここで言う芳香族アミン系硬化剤は、芳香族アミン由来の誘導体を含む概念として記載している。
そして、前記エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ブロム化エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ゴム変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、リン含有型エポキシ樹脂の群から選ばれた1種又は2種以上を用いる事が好ましい。特に、沸点200℃以上のエポキシ樹脂を選択的に用いることが好ましい。銅張積層板のプレス成形加工で負荷される温度が170℃以上であり、沸点が200℃未満の場合には、バブル発生等が顕著となり好ましくない。そして、更に線形(2官能)のエポキシ樹脂を選択的に用いることが、内層コア材と外層材との間での密着性を高く維持し、内層回路部剥離と基材樹脂間剥離とを同時に防止する観点からより好ましい。
前記芳香族アミン系硬化剤としては、芳香族ポリアミン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド及びこれらをエポキシ樹脂や多価カルボン酸と重合或いは縮合させて得られるアミンアダクト体の群から選ばれた1種又は2種以上を用いることが好ましい。エポキシ樹脂硬化剤としては、ジシアンジアミド、イミダゾール類、芳香族アミン等のアミン類、ビスフェノールA、ブロム化ビスフェノールA等のフェノール類、フェノールノボラック樹脂及びクレゾールノボラック樹脂等のノボラック類、無水フタル酸等の酸無水物等を用いることが可能である。しかしながら、エポキシ樹脂の場合と同様に、銅張積層板製造のプレス成形温度を考慮すると、沸点200℃以上のアミン系エポキシ樹脂硬化剤を用いることが最も好ましい。プレス成形温度が180℃付近であり、このプレス成形温度付近に硬化剤の沸点があると、プレス成形によりエポキシ樹脂硬化剤が沸騰するため硬化した絶縁樹脂層内にバブルが発生しやすくなる。そして、内層回路の表面に上記補助金属層を設けた場合、アミン系エポキシ樹脂硬化剤を用いると最も安定した密着性が得られる。
そして硬化促進剤は、3級アミン、イミダゾール、尿素系硬化促進剤の群から選ばれた1種又は2種以上を用いることが好ましい。一般的に硬化促進剤は、プレス加工時の加熱条件等を考慮して、製造者が任意に選択的に添加量を定めて良いものであるが、本件発明において使用する樹脂組成物の構成には好ましい。この硬化促進剤の添加を行わないと、通常のプレス加工条件に於いて基材樹脂間の密着性を向上させ得ないのである。
また、前記樹脂組成物は、上述の樹脂組成を基本組成として、ポリエーテルサルフォンを用いない場合とポリエーテルサルフォンを用いる場合の2種類の使用が可能である。
最初に、ポリエーテルサルフォンを用いない場合の樹脂組成物に関して述べる。この樹脂組成物の組成は、エポキシ樹脂と芳香族アミン系硬化剤との総量を100重量部としたとき、エポキシ樹脂が15重量部〜90重量部であり、硬化促進剤を0.01重量部〜1.0重量部含有する組成として用いることが好ましい。この樹脂組成物の中で、エポキシ樹脂が15重量部未満の場合には、基材樹脂間の密着性を十分に得ることが出来なくなる。一方、エポキシ樹脂が90重量部を越える場合は、基材樹脂間の密着性を十分に得るために、エポキシ当量が大きいエポキシ樹脂の使用が避けられなくなる。このようにエポキシ当量が大きいエポキシ樹脂の場合、架橋可能な官能基間の距離が長く、Tgが低い硬化物が得られるため好ましくない。また、架橋可能な官能基間に大きな分子が存在し、硬化剤との反応の制御が困難となる。
従って、残部である10重量部〜85重量部が芳香族アミン系硬化剤の配合量となる。通常、エポキシ樹脂に対する硬化剤の添加量は、それぞれの当量から自ずと導き出されるものであるため、本来厳密にその配合割合を明記する必要性はない。しかし、硬化剤の量により、硬化速度が変動するため基材樹脂間の密着性を安定的に確保するための硬化速度を制御するという観点から、エポキシ樹脂と硬化剤との配合バランスを決定したのである。
また、厳密に言えば、使用する芳香族アミン系硬化剤の種類によって、エポキシ樹脂と硬化剤との配合バランスを考えるべきである。例えば、硬化剤としてポリアミドを用いた場合には、エポキシ樹脂が20重量部〜80重量部、硬化剤が80重量部〜20重量部の配合バランスとすることが好ましい。そして、このポリアミドには、樹脂としての反応性及び接着性を得るためには、フェノール性水酸基を含有したものを選択的に用いることが好ましい。
次に、ポリエーテルサルフォンを用いた場合の樹脂組成物に関して述べる。当該樹脂組成物は、エポキシ樹脂と芳香族アミン系硬化剤との総量を100重量部としたとき、エポキシ樹脂が70重量部〜90重量部、ポリエーテルサルフォンが40重量部〜400重量部であり、硬化促進剤を0.02重量部〜5.0重量部含有するものである。ここで言うポリエーテルサルフォンは、透明琥珀色の非晶質樹脂であり、特に耐熱性、寸法安定性、耐薬品性に優れた熱可塑性プラスチックである。このポリエーテルサルフォンを用いることで、当該樹脂組成物で構成するプリント配線板の絶縁樹脂層に、良好な耐ヒートショック性を付与し、半田耐熱特性等の高温特性の信頼性が向上する。
このポリエーテルサルフォンを用いた場合の樹脂組成物において、エポキシ樹脂が70重量部未満の場合には、基材樹脂間の密着性を十分に得ることが出来なくなる。一方、エポキシ樹脂が90重量部を越える場合は、基材樹脂間の密着性を十分に得るために、エポキシ当量が大きいエポキシ樹脂の使用が避けられなくなる。このようにエポキシ当量が大きいエポキシ樹脂の場合、架橋可能な官能基間の距離が長く、Tgが低い硬化物が得られるため好ましくない。また、架橋可能な官能基間に大きな分子が存在し、硬化剤との反応の制御が困難となる。そして、より安定した基材樹脂間の密着性を得るためには、エポキシ樹脂が70重量部〜80重量部の範囲であることが好ましい。
このポリエーテルサルフォン樹脂を用いた場合の樹脂組成物において、ポリエーテルサルフォン樹脂が40重量部未満の場合には、ポリエーテルサルフォン樹脂を添加する効果が得られず、基材樹脂間の密着性を十分に得ることが出来なくなる。一方、ポリエーテルサルフォン樹脂が400重量部を越える場合は、上記エポキシ樹脂の配合量とのバランスが適正では無くなり、基材樹脂間の密着性を十分に得ることが出来なくなる。そして、このポリエーテルサルフォン樹脂の添加効果をより確実に得るためには、ポリエーテルサルフォン樹脂を80重量部〜200重量部含有することが、より好ましい。
そして、ポリエーテルサルフォンを用いた場合の樹脂組成物における芳香族アミン系硬化剤の配合量は、10重量部〜30重量部、より好ましくは10重量部〜20重量部となる。上述と同様に、エポキシ樹脂に対する硬化剤の添加量は、それぞれの当量から自ずと導き出されるものであるため、本来厳密にその配合割合を明記する必要性はないが、上述したと同様の理由から、エポキシ樹脂と硬化剤との配合バランスを決定した。
以上に述べてきたポリエーテルサルフォンを用いない場合の樹脂組成物においては、硬化促進剤は0.01重量部〜1.0重量部含有することが好ましい。この硬化促進剤の量も、硬化速度を決定づける要素となる。この硬化促進剤の配合量は、上記エポキシ樹脂と芳香族アミン系硬化剤との配合バランスにより、その添加量が定められる。即ち、上記エポキシ樹脂と芳香族アミン系硬化剤との配合バランスを採用する場合に於いて、硬化促進剤の配合量が0.01重量部未満の場合には、硬化促進の効果が得られない。そして、硬化促進剤の配合量が1.0重量部を超える場合には、硬化促進の効果が顕著に向上しないばかりか、硬化速度が速く成りすぎて内層回路部剥離と基材樹脂間剥離とを同時に防止し得ない。これに対し、ポリエーテルサルフォンを用いた場合の樹脂組成物においては、ポリエーテルサルフォンを用いない場合の樹脂組成物と同様の理由から、硬化促進剤は0.02重量部〜5.0重量部含有することが好ましい。
更に、前記樹脂組成物は、窒素の含有量が0.5wt%〜8.0wt%の範囲となる組成を選択することが好ましい。この窒素成分は、芳香族アミン系硬化剤に由来するものである。この窒素含有量が0.5wt%未満の場合には、密着性が低下し内層回路部剥離と基材樹脂間剥離とを同時に防止し得ない。一方、窒素含有量が8.0wt%を超える場合には、耐水性が低下して溶液からの吸湿が顕著となり、ヒートショックを受けた際にブリスター発生が起こりやすく内層回路部剥離と基材樹脂間剥離とが起こりやすくなる。そして、これらの効果をより効果的に得ようとすると、窒素の含有量が1.0wt%〜6.0wt%の範囲となる組成を選択することが最も好ましい。
以上に述べてきた樹脂組成の内でも、芳香族アミンを重合して得られるポリアミドイミドを使用すると、内層回路の凹凸に対する樹脂層の追従性が良好となる。当然、ポリアミドイミドとその前駆体の芳香族アミンとを併用することは可能である。ポリアミドイミドが多すぎると、樹脂溶液の粘度が高く、PETフィルムへの塗工が困難となる。ポリアミドイミドを使用しないで低分子のみの樹脂組成の場合は、レジンフローが大きくなる。硬化させることにより分子量を高めることは可能であるが、管理が煩雑となる。
次に、プライマ樹脂シート層の形成に用いる樹脂溶液の調製に関して説明する。上記樹脂組成物に対し、有機溶剤としてメチルエチルケトン、シクロペンタノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のいずれか1種の溶剤又はこれらの混合溶剤を用いて前記樹脂混合物を溶解し、樹脂固形分5wt%〜40wt%の樹脂溶液とする。樹脂固形分が5wt%未満の場合には、粘度が低すぎて、プライマ樹脂シートを形成するための樹脂膜を形成しても塗布直後に流れて膜厚均一性を確保しにくい。これに対して、樹脂固形分が40wt%を越えると、粘度が高くなり、薄いプライマ樹脂シートの形成が困難となる。
しかし、溶解が困難なポリマー成分の場合には、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等を溶媒として用いる。特に、これらの溶媒を複数種混合した溶媒を用いると、得られる樹脂溶液の品質安定性の長期確保が可能となる傾向にある。かかる溶媒を用いる場合も、樹脂溶液の樹脂固形分は、同様の理由で上記5wt%〜40wt%とする事が好ましい。以上のようにして得られる樹脂溶液を用いて、プライマ樹脂シートを製造する。
そして、このプライマ樹脂シートは、0.5μm〜12μm厚さの薄い樹脂フィルムである。このような薄い樹脂フィルムとしたのは、プリプレグ等の樹脂基材に張り合わせる熱間プレス加工時のレジンフローが殆ど起こらない状態を確実に作り出すためである。この極薄プライマ樹脂シートの厚さが0.5μm未満となると、内層コア材の表面で凹凸をもって存在する内層回路の表面を均一な厚さで被覆することが困難となる。これ対して、プライマ樹脂シートの厚さ12μmを超えると、内層回路若しくは外層絶縁層との界面剥離を起こしやすくなる。なお、この極薄プライマ樹脂層の厚さは、1m2あたりの完全平面に塗布したと考えたときの換算厚さである。
プライマ樹脂シートは、離型性を備える支持フィルムを選択的に用いることが好ましい。そして、この支持フィルムは、乾燥工程で負荷される熱に対する耐熱性を有するフィルムであれば、特に材質及び厚さ等は限定されないが、耐熱性及び熱可塑性を備えるものが好ましい。中でも、PETフィルム、熱可塑性フッ素樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルムのいずれかの上に、上記樹脂組成物を用いて樹脂膜を形成し、加熱して半硬化状態にした支持フィルム付プライマ樹脂シートの状態で製造することが好ましい。そして、0.5μm〜12μmの換算厚さ分を精度良く塗布しなければならないため、薄い樹脂層形成に有利なグラビアコーター等を用いることが好ましい。そして、本件発明に係る多層プリント配線板の製造方法において、前記工程Cにおける、内層コア材の内層回路表面へのプライマ樹脂シートの載置は、支持フィルムの表面にプライマ樹脂シート層を設けた支持フィルム付プライマ樹脂シートを用いて、当該支持フィルム付プライマ樹脂シートのプライマ樹脂シート面を内層コア材の内層回路表面へ仮圧着し、支持フィルムを剥離して行うことが好ましい。
上述のようにプライマ樹脂シートの厚さが、プライマ樹脂シートを構成する樹脂組成物が熱間プレス加工によって再流動化した場合のレジンフローを定める一定の指標となるが、現実には、上記樹脂組成物の本来持つレジンフローが重要であることは当然である。通常、銅箔と絶縁層構成材との張り合わせを行う場合、銅箔の張り合わせ面は粗化され凹凸がありエアーの噛み混み等を起こす。従って、このエアー抜きを兼ねて1m2サイズの銅張積層板で端部から5mm〜15mm程度のレジンフローを意図的に起こさせてきた。ところが、本件発明で用いる極薄プライマ樹脂シートの場合には、このレジンフローが殆ど起こらないことが、粗化処理の無い内層回路表面であっても、基材樹脂に対する良好な密着性を確保する上で最も重要な要因となる。
本件明細書において、レジンフローはMIL規格のMIL−P−13949Gに準拠して測定したときの値で判断している。即ち、レジンフローの測定精度を確保するため、上記樹脂組成物を40μm厚さで電解銅箔の表面に意図的に形成し、10cm角試料を4枚製造する。そして、この4枚の10cm角試料を重ねた状態でプレス温度171℃、プレス圧14kgf/cm2、プレス時間10分の条件で張り合わせ、そのときのレジンフロ−を数1に従って計算して求めた。なお、通常のプリプレグを用いたとき及び通常の樹脂付銅箔(40μm厚さ樹脂層)のレジンフローは、20%前後である。
工程Dは、前記積層体を熱間プレス加工することで、張り合わせを行い多層銅張積層板とするラミネート工程である。この工程で得られる多層銅張積層板7は、図3(7)に示す状態のもので、金属箔6が両最外層にある。そして、この段階で、加熱により再流動化したプライマ樹脂シートの構成樹脂が、補助金属層付内層回路33の形状に沿った形でプライマ樹脂層10を形成する。このときの熱間プレス加工は、特段の限定はなく、公知の手法の全てを採用することが可能である。
工程Eは、前記多層銅張積層板の外層の導電層をエッチング加工することにより、外層回路を形成し多層プリント配線板とするエッチング加工工程である。このエッチング加工は、必要に応じて、外層金属箔と内層回路との間にスルーホール、ビアホール等の層間導通経路を形成する工程を含むものである。そして、この層間導通経路の形成方法、エッチング方法に関しては、公知の手法の全てを使用できる概念として記載しており、特段の限定は要さない。図4(8)には、本件発明に係る多層プリント配線板1を示しているが、スルーホール、ビアホール等の層間導通手段の記載は省略している。これらは必要に応じて、穴明け加工後にメッキを行い層間導通メッキを行う等、広く知られた手法を用いる事が出来る。そして、外層の金属箔6の上にエッチングレジスト層を設け、レジストパターンを露光現像してエッチングレジストパターンを形成し、エッチング液を用いて不要な金属箔部を溶解除去して、外層回路11を形成する。以上のようにして本件発明に係る多層プリント配線板1が製造される。
以上のことから分かるように本件発明に係る多層プリント配線板の特徴は、内層コア材の表面にある内層回路の表面にプライマ樹脂層が回路形状に沿った形で存在し、且つ、その内層回路の表面にプライマ樹脂層との密着性を向上させるための補助金属層を備える点である。以下に、実施例及び比較例とを示す。
本実施例においては、内層コア材を製造し、最終的に多層プリント配線板を製造した。しかし、多層プリント配線板に加工した後での評価の困難な、内層回路と絶縁樹脂層との間での密着性評価及びレジンフローに関しては別個の試験を施した。以下、工程毎に説明する。
内層コア材の製造: 最初に、120μm厚さのFR−4プリプレグの両面に18μm厚さの表面処理電解銅箔を180℃×60分の条件で張り合わせて、両面銅張積層板を製造した。そして、この両面銅張積層板にスルーホール孔を形成し、層間導通メッキを行い、両面の電解銅箔層の電気的導通を確保した。その後、両面をエッチング加工して、信号回路部が50μmピッチの試験回路を形成し、これを内層コア材とした。なお、図1(1)に示す内層コア材30には、図面の簡素化を図るため、スルーホール及びメッキ層の記載を省略し、内層回路31のみを記載している。なお、この実施例での内層回路のピッチは、100μmピッチ(ライン幅50μm/スペース幅50μm)の回路である。そして、各図面における層の厚さは、説明を分かりやすくするために記載された厚さであり、現実の製品の層厚を反映させたものではない。
プライマ樹脂シートの製造: ここでは、ポリエーテルサルフォンを用いない場合の樹脂組成物として、エポキシ樹脂にビスフェノールA型エポキシ樹脂、硬化剤として4,4’−ジアミノジフェニルサルホン、硬化促進剤としてイミダゾールを用いた。このときのエポキシ樹脂は85重量部、硬化剤15重量部、硬化促進剤0.4重量部の配合割合を採用した。なお、このときの硬化促進剤の配合量は、エポキシ樹脂と硬化剤との合計を100重量部としたときのものである。具体的には、以下の表1に示している。
表1に示す樹脂組成物を、メチルエチルケトンとジメチルアセトアミドとを用いて樹脂固形分を30wt%に調整することで樹脂溶液とした。以上に述べた樹脂組成物の窒素含有量は、1.7wt%であった。そして、この樹脂溶液を、グラビアコーターを用いて、PETフィルムの片面に塗布した。そして、5分間の風乾を行い、その後140℃の加熱雰囲気中で3分間の乾燥処理を行い、半硬化状態の1.5μm厚さのプライマ樹脂シート3を備える支持フィルム付プライマ樹脂シート2を得た。
このときに得られた樹脂のレジンフローの測定は、上記プライマ樹脂シートの形成に用いた樹脂を40μm厚さとして銅箔の片面に設けた樹脂付銅箔を製造して、これをレジンフロー測定用試料とした。そして、このレジンフロー測定用試料から10cm角試料を4枚採取し、上述したMIL−P−13949Gに準拠してレジンフローの測定を行った。その結果、レジンフローは1.5%であった。
工程A: 上述の方法で得られた内層コア材30の両面にある内層回路31の表面に、市販の無電解メッキ液を用いて、無電解メッキ法で補助金属層32を形成し、補助金属層付内層回路33として図1(2)に示す状態とした。ここで補助金属層は、スズ、パラジウム、ニッケルの単独層とした3種類の内層コア材を製造した。また、ニッケル層を形成し、スズ層を形成した2層構造の内層コア材を1種類製造した。
補助金属層として、スズ層を形成する場合について説明する。最初に、ローム&ハース社製のNEUTRA CLEAN 7Lを用いて内層コア材を脱脂洗浄し、水洗後、10%硫酸水溶液で酸洗した。そして、十分に水洗し、エアーブロアして乾燥させた。その後、無電解スズメッキ液としてローム&ハース社製のLT34Gを用いて、液温25℃で30秒間の無電解メッキ処理を行い、補助金属層としてのスズメッキ層厚さが33nmの内層コア材(Sn)を得た。なお、このスズメッキ層厚さは、付着した単位重量(mg/m2)を分析し、換算した厚さである。
補助金属層として、パラジウム層を形成する場合について説明する。最初に、ローム&ハース社製のNEUTRA CLEAN 7Lを用いて内層コア材を脱脂洗浄し、水洗後、10wt%硫酸水溶液で酸洗した。そして、無電解パラジウムメッキ液としてローム&ハース社製のOMNISHIELD 1573 ACTIVATORを用いて、液温25℃で10分間の無電解メッキ処理を行い、補助金属層としてのパラジウムメッキ層厚さが1nmの内層コア材(Pd)を得た。なお、このパラジウムメッキ層厚さは、付着した単位重量(mg/m2)を分析し、換算した厚さである。
補助金属層として、ニッケル層を形成する場合について説明する。最初に、ローム&ハース社製のNEUTRA CLEAN 7Lを用いて内層コア材を脱脂洗浄し、水洗後、10wt%硫酸水溶液で酸洗した。そして、無電解パラジウム処理としてローム&ハース社製のOMNISHIELD 1573 ACTIVATORを用いて、液温25℃で1分間の処理を行い極微量のパラジウムを付着させ、水洗後、無電解ニッケルメッキ液としてローム&ハース社製のNIPOSIT 468(Ni−B型)を用いて、液温50℃で1分間の無電解メッキ処理を行い、補助金属層としてのニッケルメッキ層厚さが50nmの内層コア材(Ni)を得た。なお、このニッケルメッキ層厚さは、付着した単位重量(mg/m2)を分析し、換算した厚さである。
補助金属層として、ニッケル層/スズ層の2層構造のものを形成する場合について説明する。最初に、ローム&ハース社製のNEUTRA CLEAN 7Lを用いて内層コア材を脱脂洗浄し、水洗後、10wt%硫酸水溶液で酸洗した。そして、十分に水洗し、エアーブロアして乾燥させた。その後、無電解パラジウム処理としてローム&ハース社製のOMNISHIELD 1573 ACTIVATORを用いて、液温25℃で1分間の処理を行い極微量のパラジウムを付着させ、水洗後、無電解ニッケルメッキ液としてローム&ハース社製のNIPOSIT 468(Ni−B型)を用いて、液温50℃で20秒間の無電解メッキ処理を行い水洗した。続いて、無電解スズメッキ液としてローム&ハース社製のLT34Gを用いて、液温25℃で3分間の無電解メッキ処理を行い、補助金属層としてのニッケルメッキ層厚さが12nm、スズメッキ層厚さが14nmの内層コア材(Ni/Sn)を得た。なお、このニッケルメッキ層及びスズメッキ層厚さは、付着した単位重量(mg/m2)を分析し、換算した厚さである。
工程B: 上記内層コア材(Sn)、内層コア材(Pd)、内層コア材(Ni)、内層コア材(Ni/Sn)の各補助金属層の上にシランカップリング剤処理層を形成した。そして、ここで用いたシランカップリング剤溶液は、イオン交換水に5g/lの濃度となるようエポキシ官能シラン(3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン)を分散させた溶液である。これを液温20℃としてシャワーリングで、上記各内層コア材表面に10秒間当て、シランカップリング剤の吸着処理をした。そして、電熱器で180℃雰囲気に調整した炉内で4秒かけて、水分をとばし、シランカップリング剤の縮合反応を行いシランカップリング剤処理層を形成した。
工程C: この工程では、図1(3)に示すように、工程Bで得られた内層コア材の補助金属層付内層回路33の表面に、支持フィルム付プライマ樹脂シート2を内層コア材30の補助金属層付内層回路33の形成面に対し、プライマ樹脂シート3の面を当接させ積層した。そして、PETフィルムFを剥離して図2(4)に示すように、内層コア材30の両面にプライマ樹脂シート3が載置された状態とした。
次に、図2(5)に示すように、絶縁層構成材5(ガラスクロス等の骨格材4を含むものとして記載している。)、導電層の層構成が出来るよう金属箔6を載置して、図3(6)に示すような積層体とする。ここで用いる絶縁層構成材5には、ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸させたFR−4グレードのガラス−エポキシプリプレグ、ガラスポリイミドプリプレグ等を用いる。また、金属箔6としては、電解銅箔、圧延銅箔等の電子材料用途の金属箔を用いる。ここでは、厚さ50μmのガラス−エポキシプリプレグと、金属箔として厚さ12μmのグレード3の電解銅箔を用いた。
工程D: ここでは、前記積層体を熱間プレス加工することで、張り合わせを行い多層銅張積層板とした。この工程で得られる多層銅張積層板7は、図3(7)に示す状態のもので、内層コア材30の両面に外層樹脂層8と金属箔6とがある。このときのプレス加工条件は、プレス温度180℃、プレス圧力20kg/cm2、硬化時間90分とした。そして、この段階で、加熱により再流動化したプライマ樹脂シートの構成樹脂が、補助金属層付内層回路33の形状に沿い、且つ、外層樹脂層8と内層コア材30の露出基材部9との間にプライマ樹脂層10を形成した。
工程E: 前記多層銅張積層板7の両面にある金属箔6(銅箔)の表面にエッチングレジスト層(ドライフィルムを使用)を設け、外層回路のエッチングパターンを露光、現像、回路エッチング、エッチングレジスト剥離、洗浄、乾燥を行うことで、図4に示すものと同様の外層回路11を備える多層プリント配線板1を得たのである。なお、この実施例での多層プリント配線板1には、通常の多層プリント配線板に施されるスルーホールやビアホール加工等の層間導通手段の形成は省略した。このときの内層回路の様子を示したのが、図5に示した金属顕微鏡による断面写真であり、補助金属層付内層回路33の周囲及び露出基材部9を薄いプライマ樹脂層10が被覆しているのが明瞭に観察される。ここで、内層コア材(Sn)、内層コア材(Pd)、内層コア材(Ni)、内層コア材(Ni/Sn)の4種類を用いた多層プリント配線板を製造した。従って、内層コア材の補助金属層の種類に応じて、各プリント配線板をPWB1(Sn)、PWB1(Pd)、PWB1(Ni)、PWB1(Ni/Sn)と称する。
多層プリント配線板の性能評価: 以上のようにして得られた多層プリント配線板1に、260℃の半田バスに3秒間浸漬し、移送時間10秒とし、常温のシリコンオイルに20秒間浸漬する耐熱衝撃試験を2回施し、目視検査をおこなった。その結果、内層回路に浮きが生じたように見える箇所は確認出来なかった。
また、内層回路の密着性の指標となる引き剥がし強さを直接測ることは困難であるため、次の代替え手法を用いて、内層回路の引き剥がし強さをモニターした。即ち、図6(A)に示すように、銅箔6’の上に、50μm厚さのプリプレグ5を重ね、そのプリプレグ5の上に、前記支持フィルム付プライマ樹脂シート2を重ね支持フィルムFを除去することでプライマ樹脂シート3を重ね、更に内層回路形成に使用したと同一ロットの電解銅箔6の光沢面に、上述と同様の補助金属層32を形成し、その光沢面と当該プライマ樹脂シート3とが当接するように重ねて、熱間プレス成形して図6(B)に示す試験用銅張積層板12を製造した。そして、電解銅箔6の表面にエッチングレジスト層(ドライフィルムを使用)を設け、エッチングパターンを露光、現像、回路エッチング、エッチングレジスト剥離、洗浄、乾燥を行うことで、図6(3)に示す引き剥がし強さ測定用の0.2mm幅の直線回路20を備える引き剥がし強さの測定用試料21を製造したのである。そして、このときの引き剥がし強さを測定した結果を表5に纏めて示す。表5には、単に引き剥がし強さと記載している。
本実施例においては、実施例1のプライマ樹脂シートの製造に用いる樹脂組成物を以下のものに変更して、最終的に多層プリント配線板を製造した。従って、重複した説明は省略して、異なる部分に関してのみ詳説する。
内層コア材の製造: シランカップリング剤をアミノ官能性シラン(3−アミノプロピルトリエトキシシラン)に変更した以外は、実施例1と同様である。
プライマ樹脂シートの製造: ここでは、ポリエーテルサルフォンを用いない場合の樹脂組成物として、エポキシ樹脂にビスフェノールA型エポキシ樹脂、硬化剤としてポリアミドイミド、硬化促進剤としてイミダゾールを用いた。このときのエポキシ樹脂は30重量部、硬化剤70重量部、硬化促進剤0.2重量部の配合割合を採用した。なお、このときの硬化促進剤の配合量は、エポキシ樹脂と硬化剤との合計を100重量部としたときのものである。具体的には、以下の表2に示す。
ここで用いた硬化剤(ポリアミドイミド)は、以下の方法で製造した。即ち、反応容器に、192gの無水トリメリット酸、211gのo−トリジンジイソシアネート、50gの4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、365gのN−メチル−2−ピロリドン(蒸留されたもの)を入れて混合し、更に1LのN,N−ジメチルアセトアミドを入れて混合し、窒素雰囲気下で、攪拌しながら70℃で約2時間、さらに100℃で約3時間反応させた。その後、N,N−ジメチルアセトアミドを1リットル加え、約2時間かけて160℃まで昇温し、さらに160℃で約1時間攪拌して反応を停止することで硬化剤として用いるポリアミドイミド溶液を得た。
そして、表2に示す樹脂組成物を、メチルエチルケトンとジメチルアセトアミドとの混合溶媒([メチルエチルケトン]:[ジメチルアセトアミド]=2:8)を用いて樹脂固形分を20wt%に調整ですることで樹脂溶液とした。以上に述べた樹脂組成物の窒素含有量は、5.4wt%であった。そして、この樹脂溶液を、グラビアコーターを用いて、PETフィルムの片面に塗布した。そして、5分間の風乾を行い、その後140℃の加熱雰囲気中で3分間の乾燥処理を行い、半硬化状態の1.5μm厚さのプライマ樹脂シート3を備える支持フィルム付プライマ樹脂シート2を得た。
このときに得られた樹脂のレジンフローの測定を実施例1と同様に行った。その結果、レジンフローは0.3%であった。
工程A: 実施例1の工程Aと同様にして、内層コア材30の両面にある内層回路31の表面に補助金属層32を形成し、補助金属層付内層回路33として図1(2)に示す状態とした。ここで補助金属層は、スズ、パラジウム、ニッケルの単独層とした3種類の内層コア材(内層コア材(Sn)、内層コア材(Pd)、内層コア材(Ni))を製造した。また、ニッケル層を形成し、スズ層を形成した2層構造の内層コア材を1種類(内層コア材(Ni/Sn))製造した。
工程B: 実施例1と同様にして、上記内層コア材(Sn)、内層コア材(Pd)、内層コア材(Ni)、内層コア材(Ni/Sn)の各補助金属層の上にシランカップリング剤処理層を形成した。
工程C: この工程では、実施例1と同様にして、図1(3)に示すように、工程Bで得られた内層コア材の補助金属層付内層回路33の表面に、プライマ樹脂シート3を積層した。そして、PETフィルムFを剥離して図2(4)に示すように、内層コア材30の両面にプライマ樹脂シート3が載置された状態とした。
次に、図2(5)に示すように、実施例1と同様に、絶縁層構成材5(ガラスクロス等の骨格材4を含むものとして記載している。)、導電層の層構成が出来るよう、厚さ50μmのガラス−エポキシプリプレグと、金属箔として厚さ12μmのグレード3の電解銅箔を用い、図3(6)に示すような積層体とした。
工程D: ここでは、前記積層体を実施例1と同様に熱間プレス加工することで、張り合わせを行い、図3(7)に示す状態の多層銅張積層板7を得た。この段階で、加熱により再流動化したプライマ樹脂シートの構成樹脂が、補助金属層付内層回路33の形状に沿い、且つ、外層樹脂層8と内層コア材30の露出基材部9との間にプライマ樹脂層10を形成した。
工程E: 実施例1と同様に、前記多層銅張積層板7の両面にある金属箔6(銅箔)の表面にエッチングレジスト層(ドライフィルムを使用)を設け、外層回路のエッチングパターンを露光、現像、回路エッチング、エッチングレジスト剥離、洗浄、乾燥を行うことで、図4に示すものと同様の外層回路11を備える多層プリント配線板1を得た。ここでも、通常の多層プリント配線板に施されるスルーホールやビアホール加工等の層間導通手段の形成は省略した。このときの内層回路の様子は、図5に示した金属顕微鏡写真と同様であり、補助金属層付内層回路33の周囲及び露出基材部9を薄いプライマ樹脂層10が被覆しているのが明瞭に観察できる。ここで、内層コア材(Sn)、内層コア材(Pd)、内層コア材(Ni)、内層コア材(Ni/Sn)の4種類を用いた多層プリント配線板を製造した。従って、内層コア材の補助金属層の種類に応じて、各プリント配線板をPWB2(Sn)、PWB2(Pd)、PWB2(Ni)、PWB2(Ni/Sn)と称する。
多層プリント配線板の性能評価: 以上のようにして得られた多層プリント配線板1に、260℃の半田バスに3秒間浸漬し、移送時間10秒とし、常温のシリコンオイルに20秒間浸漬する耐熱衝撃試験を2回施し、目視検査をおこなった。その結果、内層回路に浮きが生じたように見える箇所は確認出来なかった。
また、内層回路の密着性の指標となる引き剥がし強さを直接測ることは困難であるため、実施例1と同様の代替え手法を用いて、内層回路の引き剥がし強さをモニターした。このとき測定した引き剥がし強さを表5に纏めて示す。表5には、単に引き剥がし強さと記載している。
本実施例においては、実施例1のプライマ樹脂シートの製造に用いる樹脂組成物を以下のものに変更して、最終的に多層プリント配線板を製造した。従って、重複した説明は省略して、異なる部分に関してのみ詳説する。
内層コア材の製造: シランカップリング剤をアミノ官能性シラン(3−アミノプロピルトリエトキシシラン)に変更した以外は、実施例1と同様である。
プライマ樹脂シートの製造: ここでは、ポリエーテルサルフォンを用いない場合の樹脂組成物として、エポキシ樹脂にビスフェノールA型エポキシ樹脂、硬化剤として2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン及びフェノール性水酸基を含有するポリアミド、硬化促進剤としてイミダゾールを用いた。このときのエポキシ樹脂は50重量部、硬化剤50重量部、硬化促進剤0.2重量部の配合割合を採用した。なお、このときの硬化促進剤の配合量は、エポキシ樹脂と硬化剤との合計を100重量部としたときのものである。具体的には、以下の表3に示す。
表1に示す樹脂組成物を、ジメチルアセトアミドを用いて樹脂固形分を20wt%に調整することで樹脂溶液とした。以上に述べた樹脂組成物の窒素含有量は、4.9wt%であった。そして、この樹脂溶液を、グラビアコーターを用いて、PETフィルムの片面に塗布した。そして、5分間の風乾を行い、その後150℃の加熱雰囲気中で2分間の乾燥処理を行い、半硬化状態の2.0μm厚さのプライマ樹脂シート3を備える支持フィルム付プライマ樹脂シート2を得た。
このときに得られた樹脂のレジンフローの測定は、上記プライマ樹脂シートの形成に用いた樹脂を40μm厚さとして銅箔の片面に設けた樹脂付銅箔を製造して、これをレジンフロー測定用試料とした。そして、このレジンフロー測定用試料から10cm角試料を4枚採取し、上述したMIL−P−13949Gに準拠してレジンフローの測定を行った。その結果、レジンフローは0.1%であった。
工程A: 実施例1の工程Aと同様にして、内層コア材30の両面にある内層回路31の表面に補助金属層32を形成し、補助金属層付内層回路33として図1(2)に示す状態とした。ここで補助金属層は、スズ、パラジウム、ニッケルの単独層とした3種類の内層コア材(内層コア材(Sn)、内層コア材(Pd)、内層コア材(Ni))を製造した。また、ニッケル層を形成し、スズ層を形成した2層構造の内層コア材を1種類(内層コア材(Ni/Sn))製造した。
工程B: 実施例1と同様にして、上記内層コア材(Sn)、内層コア材(Pd)、内層コア材(Ni)、内層コア材(Ni/Sn)の各補助金属層の上にシランカップリング剤処理層を形成した。
工程C: この工程では、実施例1と同様にして、図1(3)に示すように、工程Bで得られた内層コア材の補助金属層付内層回路33の表面に、プライマ樹脂シート3を積層した。そして、PETフィルムFを剥離して図2(4)に示すように、内層コア材30の両面にプライマ樹脂シート3が載置された状態とした。
次に、図2(5)に示すように、実施例1と同様に、絶縁層構成材5(ガラスクロス等の骨格材4を含むものとして記載している。)、導電層の層構成が出来るよう、厚さ50μmのガラス−エポキシプリプレグと、金属箔として厚さ12μmのグレード3の電解銅箔を用い、図3(6)に示すような積層体とした。
工程D: ここでは、前記積層体を実施例1と同様に熱間プレス加工することで、張り合わせを行い、図3(7)に示す状態の多層銅張積層板7を得た。この段階で、加熱により再流動化したプライマ樹脂シートの構成樹脂が、補助金属層付内層回路33の形状に沿い、且つ、外層樹脂層8と内層コア材30の露出基材部9との間にプライマ樹脂層10を形成した。
工程E: 実施例1と同様に、前記多層銅張積層板7の両面にある金属箔6(銅箔)の表面にエッチングレジスト層(ドライフィルムを使用)を設け、外層回路のエッチングパターンを露光、現像、回路エッチング、エッチングレジスト剥離、洗浄、乾燥を行うことで、図4に示すものと同様の外層回路11を備える多層プリント配線板1を得た。ここでも、通常の多層プリント配線板に施されるスルーホールやビアホール加工等の層間導通手段の形成は省略した。このときの内層回路の様子は、図5に示した金属顕微鏡写真と同様であり、補助金属層付内層回路33の周囲及び露出基材部9を薄いプライマ樹脂層10が被覆しているのが明瞭に観察できる。ここで、内層コア材(Sn)、内層コア材(Pd)、内層コア材(Ni)、内層コア材(Ni/Sn)の4種類を用いた多層プリント配線板を製造した。従って、内層コア材の補助金属層の種類に応じて、各プリント配線板をPWB3(Sn)、PWB3(Pd)、PWB3(Ni)、PWB3(Ni/Sn)と称する。
多層プリント配線板の性能評価: 以上のようにして得られた多層プリント配線板1に、260℃の半田バスに3秒間浸漬し、移送時間10秒とし、常温のシリコンオイルに20秒間浸漬する耐熱衝撃試験を2回施し、目視検査をおこなった。その結果、内層回路に浮きが生じたように見える箇所は確認出来なかった。
また、内層回路の密着性の指標となる引き剥がし強さを直接測ることは困難であるため、実施例1と同様の代替え手法を用いて、内層回路の引き剥がし強さをモニターした。このとき測定した引き剥がし強さを表5に纏めて示す。表5には、単に引き剥がし強さと記載している。
本実施例においては、実施例1のプライマ樹脂シートの製造に用いる樹脂組成物を以下のものに変更して、最終的に多層プリント配線板を製造した。従って、重複した説明は省略して、異なる部分に関してのみ詳説する。
内層コア材の製造: シランカップリング剤をアミノ官能性シラン(3−アミノプロピルトリエトキシシラン)に変更した以外は、実施例1と同様である。
プライマ樹脂シートの製造: ここでは、ポリエーテルサルフォンを用いた場合の樹脂組成物として、エポキシ樹脂にビスフェノールA型エポキシ樹脂、硬化剤として2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ポリエーテルサルフォン樹脂、硬化促進剤としてイミダゾールを用いた。このときのエポキシ樹脂は2官能エポキシ樹脂を30重量部及び耐熱性エポキシ樹脂を10重量部、ポリエーテルサルフォン樹脂は100重量部、硬化剤10重量部、硬化促進剤1重量部の配合割合を採用した。なお、このときの硬化促進剤の配合量は、エポキシ樹脂と硬化剤との合計を100重量部としたときのものである。具体的には、以下の表4に示す。
表1に示す樹脂組成物を、ジメチルアセトアミドを用いて樹脂固形分を25wt%に調整することで樹脂溶液とした。以上に述べた樹脂組成物の窒素含有量は、0.7wt%であった。そして、この樹脂溶液を、グラビアコーターを用いて、PETフィルムの片面に塗布した。そして、5分間の風乾を行い、その後150℃の加熱雰囲気中で2分間の乾燥処理を行い、半硬化状態の2.0μm厚さのプライマ樹脂シート3を備える支持フィルム付プライマ樹脂シート2を得た。
このときに得られた樹脂のレジンフローの測定は、上記プライマ樹脂シートの形成に用いた樹脂を40μm厚さとして銅箔の片面に設けた樹脂付銅箔を製造して、これをレジンフロー測定用試料とした。そして、このレジンフロー測定用試料から10cm角試料を4枚採取し、上述したMIL−P−13949Gに準拠してレジンフローの測定を行った。その結果、レジンフローは0.2%であった。
工程A: 実施例1の工程Aと同様にして、内層コア材30の両面にある内層回路31の表面に補助金属層32を形成し、補助金属層付内層回路33として図1(2)に示す状態とした。ここで補助金属層は、スズ、パラジウム、ニッケルの単独層とした3種類の内層コア材(内層コア材(Sn)、内層コア材(Pd)、内層コア材(Ni))を製造した。また、ニッケル層を形成し、スズ層を形成した2層構造の内層コア材を1種類(内層コア材(Ni/Sn))製造した。
工程B: 実施例1と同様にして、上記内層コア材(Sn)、内層コア材(Pd)、内層コア材(Ni)、内層コア材(Ni/Sn)の各補助金属層の上にシランカップリング剤処理層を形成した。
工程C: この工程では、実施例1と同様にして、図1(3)に示すように、工程Bで得られた内層コア材の補助金属層付内層回路33の表面に、プライマ樹脂シート3を積層した。そして、PETフィルムFを剥離して図2(4)に示すように、内層コア材30の両面にプライマ樹脂シート3が載置された状態とした。
次に、図2(5)に示すように、実施例1と同様に、絶縁層構成材5(ガラスクロス等の骨格材4を含むものとして記載している。)、導電層の層構成が出来るよう、厚さ50μmのガラス−エポキシプリプレグと、金属箔として厚さ12μmのグレード3の電解銅箔を用い、図3(6)に示すような積層体とした。
工程D: ここでは、前記積層体を実施例1と同様に熱間プレス加工することで、張り合わせを行い、図3(7)に示す状態の多層銅張積層板7を得た。この段階で、加熱により再流動化したプライマ樹脂シートの構成樹脂が、補助金属層付内層回路33の形状に沿い、且つ、外層樹脂層8と内層コア材30の露出基材部9との間にプライマ樹脂層10を形成した。
工程E: 実施例1と同様に、前記多層銅張積層板7の両面にある金属箔6(銅箔)の表面にエッチングレジスト層(ドライフィルムを使用)を設け、外層回路のエッチングパターンを露光、現像、回路エッチング、エッチングレジスト剥離、洗浄、乾燥を行うことで、図4に示すものと同様の外層回路11を備える多層プリント配線板1を得た。ここでも、通常の多層プリント配線板に施されるスルーホールやビアホール加工等の層間導通手段の形成は省略した。このときの内層回路の様子は、図5に示した金属顕微鏡写真と同様であり、補助金属層付内層回路33の周囲及び露出基材部9を薄いプライマ樹脂層10が被覆しているのが明瞭に観察できる。ここで、内層コア材(Sn)、内層コア材(Pd)、内層コア材(Ni)、内層コア材(Ni/Sn)の4種類を用いた多層プリント配線板を製造した。従って、内層コア材の補助金属層の種類に応じて、各プリント配線板をPWB4(Sn)、PWB4(Pd)、PWB4(Ni)、PWB4(Ni/Sn)と称する。
多層プリント配線板の性能評価: 以上のようにして得られた多層プリント配線板1に、260℃の半田バスに3秒間浸漬し、移送時間10秒とし、常温のシリコンオイルに20秒間浸漬する耐熱衝撃試験を2回施し、目視検査をおこなった。その結果、内層回路に浮きが生じたように見える箇所は確認出来なかった。
また、内層回路の密着性の指標となる引き剥がし強さを直接測ることは困難であるため、実施例1と同様の代替え手法を用いて、内層回路の引き剥がし強さをモニターした。このとき測定した引き剥がし強さを表5に纏めて示す。表5には、単に引き剥がし強さと記載している。
比較例
[比較例1]
この比較例は、実施例1の多層プリント配線板製造プロセスにおいて、内層コア材の補助金属層を設けず、プライマ樹脂シートを用いたプライマ樹脂層の形成も省略し、多層プリント配線板を得た。この比較用の多層プリント配線板をPWB(1)と称する。そこで、重複した記載を避けるため、多層プリント配線板の製造方法に関する説明は省略する。
多層プリント配線板の性能評価: 実施例と同様にして、耐熱衝撃試験を施し、目視検査をおこなった。その結果、内層回路に浮きが生じて白く見える箇所が確認出来た。また、内層回路の密着性を実施例と同様にして測定した。その結果を表5に纏めて示す。
[比較例2]
この比較例は、実施例1の多層プリント配線板製造プロセスにおいて、内層コア材の補助金属層を設けず、プライマ樹脂シートを用いたプライマ樹脂層を形成した多層プリント配線板を得た。この比較用の多層プリント配線板をPWB(2)と称する。そこで、重複した記載を避けるため、多層プリント配線板の製造方法に関する説明は省略する。
多層プリント配線板の性能評価: 実施例と同様にして、耐熱衝撃試験を施し、目視検査をおこなった。その結果、内層回路に浮きが生じて白く見える箇所が確認出来た。また、内層回路の密着性を実施例と同様にして測定した。その結果を表5に纏めて示す。
[比較例3]
この比較例は、実施例1の多層プリント配線板製造プロセスにおいて、内層コア材の内層回路の表面にニッケルの補助金属層を設け、プライマ樹脂シートを用いたプライマ樹脂層の形成を省略して多層プリント配線板を得た。この比較用の多層プリント配線板をPWB(3)と称する。そこで、重複した記載を避けるため、多層プリント配線板の製造方法に関する説明は省略する。
多層プリント配線板の性能評価: 実施例と同様にして、耐熱衝撃試験を施し、目視検査をおこなった。その結果、内層回路に浮きが生じて白く見える箇所が確認出来た。また、内層回路の密着性を実施例と同様にして測定した。その結果を表5に纏めて示す。
本件発明に係る多層プリント配線板の製造方法を用いる事で、内層回路の表面に、少なくとも補助金属層を備え、且つ、内層コア材と接するプライマ樹脂層を備える多層プリント配線板が製造できる。この多層プリント配線板は、内層回路の表面に従来の黒化処理のような粗化処理を施していないが、内層コア材と外層材との密着性を改善したものであり、プリント配線板製造プロセスでヒートショックを受けたときの内層回路剥離と基材樹脂間剥離の双方の防止ができる。従って、内層回路の表面に黒化処理等に代表される密着性向上処理工程が省略できるため、安価な製造コストで高品質のプリント配線板の提供が可能となる。
多層プリント配線板の製造フローを表す断面模式図である。
多層プリント配線板の製造フローを表す断面模式図である。
多層プリント配線板の製造フローを表す断面模式図である。
多層プリント配線板の製造フローを表す断面模式図である。
本件発明に係る多層プリント配線板の内層回路近傍の金属顕微鏡観察写真である。
プライマ樹脂層と内層回路との密着性評価のための引き剥がし強さ測定用試料の製造フローを示す模式図である。
外層絶縁層を構成する樹脂との良好な密着性を示す補助金属層(無電解スズ層)の走査型電子顕微鏡像である。
外層絶縁層を構成する樹脂との密着性に欠ける補助金属層(無電解スズ層)の走査型電子顕微鏡像である。
符号の説明
1 多層プリント配線板
2 支持フィルム付プライマ樹脂シート
3 プライマ樹脂シート
4 骨格材
5 絶縁層構成材
6,6’金属箔(銅箔)
7 多層銅張積層板
8 外層樹脂層
9 露出基材部
10 プライマ樹脂層
11 外層回路
12 試験用銅張積層板
20 直線回路
21 引き剥がし強さ測定用試料
30 内層コア材
31 内層回路
32 補助金属層
33 補助金属層付内層回路
F PETフィルム