JP5056367B2 - 車両の制振制御装置 - Google Patents
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図1は、本発明の制振制御装置の好ましい実施形態が搭載される自動車等の車両を模式的に示している。同図に於いて、左右前輪12FL、12FRと、左右後輪12RL、12RRを有する車両10には、通常の態様にて、運転者によるアクセルペダル14の踏込みに応じて後輪に駆動力又は駆動トルクを発生する駆動装置20が搭載される。駆動装置20は、図示の例では、駆動トルク或いは回転駆動力が、エンジン22から、トルクコンバータ24、自動変速機26、差動歯車装置28等を介して、後輪12RL、12RRへ伝達されるよう構成される。しかしながら、駆動装置は、エンジン22に代えて電動機が用いられる電気式、或いは、エンジンと電動機との双方を有するハイブリッド式の駆動装置が用いられてもよい。また、車両は、四輪駆動車又は前輪駆動車であってもよい。更に、簡単のため図示していないが、車両10には、通常の車両と同様に、ブレーキペダル16の踏込みに応じて各輪に制動力を発生する制動系装置と前輪又は前後輪の舵角を制御するためのステアリング装置が設けられる。
以下、図2に例示の制御装置の制御ブロックについて、それらの作動の詳細について説明する。
上記の構成に於いて、図2の補償成分決定部52にて算出される補償成分によるピッチ・バウンス制振制御は、以下の如き態様にて行われてよい。
車両に於いて、運転者の駆動要求に基づいて駆動装置が作動して車輪トルクの変動が生ずると、図3(A)に例示されている如き車体10に於いて、車体の重心Cgの鉛直方向(z方向)のバウンス振動と、車体の重心周りのピッチ方向(θ方向)のピッチ振動が発生し得る。また、車両の走行中に路面状態の変化や風の影響により車輪上に力又はトルク(外乱)が作用すると、その外乱が車両に伝達され、やはり車体にバウンス方向及びピッチ方向の振動が発生し得る。そこで、ここに例示するピッチ・バウンス振動制振制御に於いては、車体のピッチ・バウンス振動の運動モデルを構築し、そのモデルに於いて駆動トルク要求値を車輪トルクに換算した値(車輪トルク要求値)及び/又は現在の車輪トルク推定値を入力した際の車体の変位z、θとその変化率dz/dt、dθ/dt、即ち、車体振動の状態変数を算出し、モデルから得られた状態変数が0に収束するように、即ち、ピッチ/バウンス振動が抑制されるよう駆動装置(エンジン)の駆動トルクが調節される(駆動トルク要求値が修正される。)。
dX(t)/dt=A・X(t)+B・u(t) …(2a)
ここで、X(t)、A、Bは、それぞれ、
a1=-(kf+kr)/M、a2=-(cf+cr)/M、
a3=-(kf・Lf-kr・Lr)/M、a4=-(cf・Lf-cr・Lr)/M、
b1=-(Lf・kf-Lr・kr)/I、b2=-(Lf・cf-Lr・cr)/I、
b3=-(Lf2・kf+Lr2・kr)/I、b4=-(Lf2・cf+Lr2・cr)/I
である。また、u(t)は、
u(t)=T
であり、状態方程式(2a)にて表されるシステムの入力である。従って、式(1b)より、行列Bの要素p1は、
p1=h/(I・r)
である。
u(t)=−K・X(t) …(2b)
とおくと、状態方程式(2a)は、
dX(t)/dt=(A−BK)・X(t) …(2c)
となる。従って、X(t)の初期値X0(t)をX0(t)=(0,0,0,0)と設定して(トルク入力がされる前には振動はないものとする。)、状態変数ベクトルX(t)の微分方程式(2c)を解いたときに、X(t)、即ち、バウンス方向及びピッチ方向の変位及びその時間変化率、の大きさを0に収束させるゲインKが決定されれば、ピッチ・バウンス振動を抑制するトルク値u(t)が決定されることとなる。かかるトルク値u(t)をエンジンの駆動トルク要求値に変換した値が制振制御によりエンジンに与えられる補償成分である。
J=1/2・∫(XTQX+uTRu)dt …(3a)
(積分範囲は、0から∞)
の値が最小になるとき、状態方程式(2a)に於いてX(t)が安定的に収束し、評価関数Jを最小にする行列Kは、
K=R−1・BT・P
により与えられることが知られている。ここで、Pは、リカッティ方程式
-dP/dt=ATP+PA+Q−PBR−1BTP
の解である。リカッティ方程式は、線形システムの分野に於いて知られている任意の方法により解くことができ、これにより、ゲインKが決定される。
上記のピッチ・バウンス制振制御のための補償成分Uを算出する図2の補償成分決定部52内部の制御処理の構成は、図3(C)に於いて、制御ブロックの形式にて示されている。図3(C)の制御構成に於いては、まず、運動モデルの車輪トルク入力端へ、駆動トルク要求決定部51からの駆動トルク要求値を車輪トルクに換算して得られる車輪トルク要求値Twoと現に車輪に於いて発生している車輪トルク(の推定値)Twが、それぞれ、入力される(更に、図中点線の如く、ブレーキ操作量又はステアリング操作量に対応する車輪トルク推定値が入力されるようになっていてよい。)。次いで、運動モデルに於いて、そのトルク入力値T(=Two+Tw)を用いて式(2a)の微分方程式を解くことにより、状態変数ベクトルX(t)が算出される。そして、その状態ベクトルX(t)に、上記の如く状態変数ベクトルX(t)を0又は最小値に収束させるべく決定されたゲインKを乗じた値K・X(=−u(t))が算出され、そのK・Xがエンジンの駆動トルク要求値単位の補償成分Uに換算される。かくして算出された補償成分は、加算器a1へ送信され、加算器a1に於いて、駆動トルク要求値に重畳され、これにより、K・X(t)の値に相当する成分が駆動トルク要求値から差し引かれることとなる。車体のピッチ・バウンス振動システムは、式(1a)及び(1b)からも理解される如く、共振システムであり、任意の入力に対して状態変数ベクトルX(t)の値は、実質的には、システムの固有振動数(通常、1〜2Hz程度)を概ね中心とした或るスペクトル特性を有する帯域の周波数成分のみとなっている。従って、上記の如く、駆動トルク要求値からK・X(t)を差し引く構成により、駆動トルク要求値或いは現に発生している車輪トルクのうち、システムの固有振動数の成分、即ち、車体に於いてピッチ・バウンス振動を引き起こす成分が低減又は除去され、車体に於けるピッチ・バウンス振動が抑制されることとなる。
図3(C)に於ける運動モデルに対して、外乱の作用として入力される現に発生している車輪トルクの値Twは、理想的には、各輪にトルクセンサを設け、実際に検出されればよいが、通常の車両の各輪にトルクセンサを設けることは困難である。そこで、図示の例では、車輪トルクの外乱入力として、走行中の車両に於けるその他の検出可能な値から車輪トルク推定器52c(図2)にて推定された車輪トルク推定値が用いられる。車輪トルク推定値Twは、典型的には、駆動輪の車輪速センサから得られる車輪回転速ω又は車輪速値r・ωの時間微分を用いて、
Tw=M・r2・dω/dt …(4)
と推定することができる。ここに於いて、Mは、車両の質量であり、rは、車輪半径である。[駆動輪が路面の接地個所に於いて発生している駆動力の総和が、車両の全体の駆動力M・G(Gは、加速度)に等しいとすると、車輪トルクTwは、
Tw=M・G・r …(4a)
にて与えられる。車両の加速度Gは、車輪速度r・ωの微分値より、
G=r・dω/dt …(4b)
で与えられるので、車輪トルクは、式(4)の如く推定される。]なお、車輪トルク推定値は、車輪速ではなく、エンジン回転速、変速機回転速、タービン回転速など、駆動輪に作動的に連結した駆動系の回転軸の回転速から推定されるようになっていてもよい。駆動装置のエンジン又はモータの出力軸の回転速neを用いる場合には、駆動輪の車輪回転速は、
ωe=ne×トランスミッション(変速機)ギア比×デフ(差動装置)ギア比 …(5)
により与えられる。また、変速機の出力軸の回転速noを用いる場合には、
ωo=no×デフギア比 …(6)
により与えられる。そして、式(5)又は(6)の駆動輪の車輪回転速ωの推定値は、式(4)に代入され、車輪トルク推定値が算出される。
上記の制振制御は、状態変数X(t)の各変数、即ち、車体の変位z、θとその変化率dz/dt、dθ/dtを0に収束される方向に作用することとなる。かかる作用に於いて、変位を起こす力、つまり、起振力又は振動強制力は、弾性的に吸収されるのではなく、除去、相殺又は低減されることとなるので、結局、かかる制振制御は、図4に模式的に示されている如く、サスペンションのダンパの減衰率を増大したことと等価であるということができる。[なお、車輪トルク制御による制振制御の場合、変位が低減される点でダンパを硬くすることと等価となるのであり、発生した振動のエネルギーを吸収するダンパを付与するわけではない。]
図2に関連して説明されている如く、本発明の実施形態の制御装置に於いては、補償成分決定部52から加算器a1へ渡される補償成分に制御ゲインλoutを乗ずる乗算器52eと、その乗算器に対して制御ゲインλoutの値の指示を与える制御ゲイン調節器52fとが設けられている。制御ゲイン調節器52fは、車両の走行状況に応じて、制御ゲインλoutの値を、λnormal、λhigh、λlowのいずれかに設定する。
(a)補償成分K・X
(b)車体の変位z、θとその変化率dz/dt、dθ/dtのいずれか
(c)車両の前後方向加速度の振動成分
(d)アクセル開度の振動成分
(e)サスペンションのストローク量の振動成分
(f)サスペンションの位置に於ける上下方向加速度の振動成分
(g)車輪トルク推定値Twの振動成分
なお、上記の値に於いて、(a)、(b)、(g)は、補償成分決定部に於ける算出値が用いられてよい。また、(c)−(f)は、それぞれ、対応する値を検出するセンサによるセンサ値が用いられてよい。(c)−(g)の値は、直流成分を含むので、図2に示されている如く、直流成分を除去するためのハイパスフィルタ処理された値が使用される。フィルタ処理は、それぞれの値に対して、即時的に処理後の値を出力することが可能な公知の任意の形式のアナログ又はデジタルフィルタ技術を用いて実行されてよい。また、実際には、上記のいずれか一つの値が参照されてもよく、いくつかの値の組み合わせが参照されてもよい。例えば、複数の値の振幅の全てが一定期間大きい状態が継続した場合にλlowが使用されるようになっていてよい。更に、これらの値以外に、例えば、車両が砂利道上などを走行する間に振幅が増大する任意の値が、乗り心地が悪化している状況を判定するために参照されてよい。(なお、上記に於いて、「振幅」とは、振動成分の極大又は極小変位の大きさのことを意味している。)
λlow<λnormal<λhigh
の関係が成立していることである。これにより、λlowが設定されたときは、制振制御により付与される減衰率が通常時よりも低減され、これにより、運転性能の向上が犠牲になるが、乗り心地の悪化が抑制される。他方、λhighが設定されたときには、乗り心地が犠牲になるが、運動性能の向上が図られることとなる。
λout・K・X
の値が、単位の変換の後、駆動トルク要求値に重畳される。
12FL、FR、RL、RR…車輪
14…アクセルペダル
20…駆動装置
22…ディーゼルエンジン
22a…燃料装置
30FL、FR、RL、RR…車輪速センサ
50…電子制御装置
50a…駆動制御装置
50b…制動制御装置
Claims (8)
- 車両の車輪と路面との接地個所に於いて発生する車輪トルクを制御することにより前記車両のピッチ・バウンス振動を抑制する車両の制振制御装置であって、車体振動の力学的な運動モデルに基づいて予測又は推定されたピッチ・バウンス振動変位を抑制するよう前記車輪トルクを補償するための補償成分を算出する補償成分決定部と、前記補償成分を前記車輪トルクを制御する車輪トルク制御手段へ与える際の前記補償成分の制御ゲインを調節する制御ゲイン調節部とを含み、前記制御ゲイン調節部が、前記補償成分、前記車両の前後方向若しくは上下方向振動又は前記ピッチ・バウンス振動の振動振幅が所定振幅以上となる状態が所定時間に渡って継続したときには、前記補償成分、前記車両の前後方向若しくは上下方向振動又は前記ピッチ・バウンス振動の振動振幅が前記所定振幅より小さいときに比して、前記制御ゲインを低減することを特徴とする装置。
- 請求項1の装置であって、前記車両に車両挙動安定化制御を実行する装置が搭載されており、前記車両挙動安定化制御の実行中に於いては、前記車両挙動安定化制御が実行されていないときに比して、前記制御ゲインが増大されることを特徴とする装置。
- 請求項1又は2の装置であって、前記車両の前後方向若しくは上下方向振動が前記車両の前後方向加速度、前記車両のアクセル開度、前記車両のサスペンションストローク量及び前記サスペンションの上下方向加速度からなる群から選択される少なくとも一つの値の振動成分であることを特徴とする装置。
- 請求項2又は請求項2を引用する請求項3の装置であって、前記車両挙動安定化制御がABS制御、横滑り防止制御、トラクションコントロール、衝突回避制御からなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする装置。
- 請求項1乃至4の装置であって、前記車両の運転者による制動操作量が所定値を超えるときには、前記所定値を超えないときに比して、前記制御ゲインが増大されることを特徴とする装置。
- 請求項1乃至5の装置であって、前記車両の運転者により前記制御ゲインの大きさを少なくとも二段階のいずれかに設定可能なゲイン切換スイッチが設けられていることを特徴とする装置。
- 請求項1乃至6の装置であって、前記車両の運転者により設定可能なオン状態とオフ状態とを有する第一のスイッチを有し、該第一のスイッチがオン状態に設定されたときには、前記制御ゲインが前記第一のスイッチがオフ状態である場合に比して低減されることを特徴とする装置。
- 請求項1乃至7の装置であって、前記車両の運転者により設定可能なオン状態とオフ状態とを有する第二のスイッチを有し、該第二のスイッチがオン状態に設定されたときには、前記制御ゲインが前記第二のスイッチがオフ状態である場合に比して増大されることを特徴とする装置。
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