JP4962292B2 - 開閉可能な屋根を有する車両の制振制御装置 - Google Patents
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Description
本発明は、自動車等の車両の制振制御装置に係り、より詳細には、車両の車輪と接地路面上との間に作用するトルク(以下、「車輪トルク」と称する。)を制御して車体のピッチ・バウンス振動等の車体振動を抑制する制振制御装置であって、手動式又は電動式に開閉可能又は着脱可能な屋根を有する車両(「コンバーチブル車両」又は「オープンカー」)に搭載される制振制御装置に係る。
車両の走行中のピッチ・バウンス振動等の車体振動は、車両の加減速時に車体に作用する制駆動力(若しくは慣性力)又はその他の車体に作用する外力により発生するところ、それらの力は、車輪トルクに反映される。そこで、車両の制振制御の分野に於いて、車両の制駆動力制御を通して車輪トルクを調節し、車両の走行中に於ける車体の振動を抑制することが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。かかる車輪トルク又は制駆動力制御による車体振動の制振制御に於いては、車両の加減速要求若しくは旋回要求による車輪トルクの変動が予想される場合又は車体に外力(路面上の凹凸又は異物、勾配又は摩擦状態の変化などの車両の走行路面上の状態変化による路面反力の変動や風等の力などの力学的な外乱)が作用して車輪トルクに変動があった場合に、所謂車体のばね上振動又はばね上・ばね下振動の力学的モデルなどを仮定して構築された車体振動の運動モデルを用いて、車体に生ずるピッチ・バウンス振動を予測し、その予測された振動が抑制されるように車輪のトルク又は制駆動力が調節される。このような形式の制振制御の場合、サスペンションによる制振制御の如く発生した振動エネルギーを吸収することにより抑制するというよりは、振動を発生する力の源を調節して振動エネルギーの発生が抑えられることになるので、制振作用が比較的速やかであり、また、エネルギー効率が良いなどの利点を有する。また、上記の如き制振制御に於いては、制御対象が車輪トルク又は車輪の制駆動力に集約されるので、制御の調節が比較的に容易である。
特開2004−168148
特開2006−69472
ところで、従来より、乗用車等に於いて、所謂「コンバーチブル」車両又は「オープンカー」、即ち、種々の形式にて車体の屋根が開閉又は着脱可能な構成を有する車両が知られている(例えば、“カブリオレ”、“幌型”車両など、呼称が異なる場合もあるが、そのような着脱可能な屋根を有する車両は、全て含まれるものと理解されるべきである。また、本明細書に於いては、屋根の一部が開放されるサンルーフを有する形式、Tバールーフを有する形式のものも包含するものとする。)。かかる“コンバーチブル車両”又は“オープンカー”は、車体の屋根の全部又は一部が開放されることにより、車両の乗員に解放感を与えるとともに、優れた車内換気性能を提供することができる。また、従前では、オープンカーの場合、屋根は、“ソフトトップ”、即ち、柔軟な幌状の構造を有し、屋根を開放する場合には、手動にて車両の後部に折り畳んで収容する形式であったが、近年では、屋根の収納は、電動式又は自動式に行われるようになり、また、“ハードトップ”、即ち、金属や樹脂から成る剛性を有する屋根の全体又は一部が収納可能な形式の車両も製造され使用されるようになっている。
上記の如き屋根が開閉又は着脱可能な車両に於いては、屋根を閉鎖又は装着した状態と屋根を開放又は取り外し若しくは収納した状態とでは、車両に於ける屋根の位置が移動し、これにより、重心の位置が変位することとなる。そうなると、前記の車輪トルク制御による制振制御を実行する場合、制振制御の精度が悪化してしまうことがある。車輪トルク制御による制振制御では、既に触れたように、車体のばね上振動又はばね上・ばね下振動モデルに基づいて車両の重心周りのピッチ方向の変位及び重心のバウンス方向の変位を予測し、その変位を抑制するよう車輪トルクに対する補償成分(車輪トルクの修正量)を算出して、その補償成分が車輪トルク制御を実行するアクチュエータ、即ち、エンジン又はモータ等の車両の駆動装置、制動装置又は操舵装置に対して制御指令として与えられる。しかしながら、車両に於いて、使用開始後又は運転中に屋根の位置の移動によって車両の重心が変位してしまうと、ばね上振動又はばね上・ばね下振動モデルで想定している重心位置が実際の車両の重心位置と相違することとなり、従って、モデルによるピッチ・バウンス方向の変位予測が不正確と成り得る。また、屋根の位置の移動によって車両の重量分布が変化することにより、モデルに於いて使用される車体の慣性モーメントの大きさも大きく変化し得る。かくして、車両に於ける屋根の状態によって、車体振動のモデルの誤差(モデル化誤差)が大きくなり、これにより、車輪トルクに対する補償成分の精度が悪化することとなる。
従って、本発明の解決しようとする主な課題は、屋根が開閉又は着脱可能な車両、即ち、所謂コンバーチブル車両に於いて車輪トルク制御による制振制御が実行される構成に於いて、屋根が開放されているか及び閉鎖されているかに応じて、いずれも場合にも、良好な制振効果が得られるようにすることである。なお、本明細書に於いては、屋根が開放されている状態とは、コンバーチブル形式の車両に於いては、屋根が取り外され、離脱され又は車両の所定位置(通常は、後部座席後方)に収納され、車体の上部が全開された状態(オープンカーの状態)を、サンルーフ形式の場合には、天窓が全開された状態を言うものとし、屋根が閉鎖されている状態とは、車両の屋根が装着され、又は、天窓が閉鎖された状態を言うものとする。
本発明によれば、車両の車輪と路面との接地個所に於いて発生する車輪トルクを制御することにより車両のピッチ・バウンス振動を抑制する車両の制振制御装置であって、開閉可能な屋根を有する車両に搭載され、屋根が開放されているか閉鎖されているかに対応して車体振動モデルの構成を変更することにより、屋根が開放されている場合及び閉鎖されている場合のいずれの場合にも、精度よく制振制御を実行できるよう構成された制振制御装置が提供される。
本発明の制振制御装置は、車両の車体振動モデルを用いて予測される車体の振動変位を低減するよう車輪トルクを補償するための補償成分を算出する補償成分決定部を含む。即ち、本発明の制振制御装置は、基本的には、車両の走行中に運転者又は自動運転制御による制駆動要求(又は旋回要求)又は車体に作用する外乱によって発生し得る車体のピッチ・バウンス等の車体振動を低減又は相殺するよう車輪トルクを補償する形式の制振制御装置である。かかる制振制御装置に於いては、典型的には、補償成分決定部にて算出された補償成分は、エンジン又はモータなどの車両の駆動装置へ与えられる駆動トルクの要求値(又は車両の制動装置若しくは操舵装置に対する要求値)に重畳され、これにより、駆動トルクの要求値に含まれている車体振動を惹起する成分が低減又は除去され、或いは、車体に作用する外乱に於ける車体振動を惹起する成分(起振力)の作用を相殺する方向に駆動トルクが制御され、車輪に於ける車輪トルクが補償される。
しかしながら、屋根が開閉可能な車両に於いては、既に述べた如く、屋根が開放されている状態と閉鎖されている状態とでは、車両に於ける屋根の位置が異なり、これにより、車両の重量又は質量分布が異なるので、振動予測のための車体振動モデルが異なることとなる。即ち、車体振動モデルが屋根が開放されている状態を仮定している場合には、実際の車両に於いて屋根が閉鎖されていると、車体振動モデルの精度(モデル化精度)が低下し、逆に、車体振動モデルが屋根が閉鎖されている状態を仮定している場合には、実際の車両に於いて屋根が開放されていると、モデル化精度が低下し、モデル化精度が低下すると、制振制御の精度が悪化することとなる。そこで、本発明の制御装置では、屋根が開放されているか閉鎖されているかに対応して車体振動モデルの構成が変更され、これにより、屋根が開放されている状態及び閉鎖されている状態の双方に於いて、良好な精度にて制振制御を実行することが試みられる。
上記の本発明に於ける車体振動モデルの構成の変更を実行する具体的な態様としては、例えば、制振制御装置に於いて、屋根が開放されている状態の車体振動モデルを用いて予測される車体の振動変位を決定するための第一の演算パラメータの組と、屋根が閉鎖されている状態の車体振動モデルを用いて予測される車体の振動変位を決定するための第二の演算パラメータの組とが準備され、補償成分決定部が、車両の屋根が開放されているときに第一の演算パラメータの組を用いて補償成分を算出し、車両の屋根が閉鎖されているときに第二の演算パラメータの組を用いて補償成分を算出するようになっていてよい。ここで、演算パラメータとは、要すれば、補償成分決定部に於いて補償成分の算出の際に用いられる種々の数値である。当業者に於いて理解される如く、車両の車体振動モデルを用いて車体の振動変位を予測しその予測された振動変位を低減する補償成分を算出するに当たっては、車両の構成又は状態が数値化され、その数値化により得られた値又はそれらの値から導出される数値(総じて、「演算パラメータ」と称することとする)を用いて、時々刻々に制御装置へ入力される状態を表すパラメータ(数値)に基づいて、随時、予想振動変位と補償成分とが算出される(後述の実施形態の説明の欄参照)。かかる構成に於いて、本発明の対象となっている屋根が開放されたときと閉鎖されたときの車体の状態の差異は、車両の構成又は状態を表すパラメータの値に於いて表すことが可能である。従って、上記の如く、一つの態様として、屋根が開放された状態の演算パラメータの組と、屋根が閉鎖された状態の演算パラメータの組とを準備し、実際の車両の状態に応じて、演算パラメータの組を使い分けることにより、屋根が開放されている状態及び閉鎖されている状態の双方に於いて、良好な精度にて制振制御が達成できることとなる。もっとも、車両の形式によっては、屋根の開放又は閉鎖状態の差異が、数値の変化だけで表されない場合には、それぞれの状態に合わせてそれぞれに固有の振動モデルを使い分けるようになっていてよい。
なお、実際の典型的な開閉可能な屋根を有する車両に於いて、屋根が開放されている状態と閉鎖されている状態との差異は、車両に於ける重心位置の差異として表されてよい。従って、典型的には、車体振動モデルの構成の変更は、車体振動モデルに於ける車両の重心の高さ、車両の前輪軸と重心との距離、車両の後輪軸と重心との距離及び車両のピッチ慣性モーメントのうちの少なくとも一つを変更することに相当する変更であってよい。実施の形態に於いては、屋根の開閉状態に応じて、上記の重心位置のずれにより変化する値の変化が車体振動モデルに於いて反映される。補償成分決定部の具体的な構成にもよるが、予想振動変位及び補償成分を算出する制御処理に於いて、実際の屋根の開閉状態に応じて、車両重心の高さ、前輪軸と重心との距離、後輪軸と重心との距離及びピッチ慣性モーメントのうちの少なくとも一つが変更されるようになっていてよい。或いは、前記の第一の演算パラメータの組を、屋根が開放されている状態の車体振動モデルに於ける車両の重心の高さ、車両の前輪軸と重心との距離、車両の後輪軸と重心との距離及び車両のピッチ慣性モーメントを用いて算出された値の組とし、前記の第二の演算パラメータの組を、屋根が閉鎖されている状態の車体振動モデルに於ける車両の重心の高さ、車両の前輪軸と重心との距離、車両の後輪軸と重心との距離及び車両のピッチ慣性モーメントを用いて算出された値の組として準備し、これらのパラメータの組を実際の車両の屋根の状態に応じて使い分けるようになっていてよい。
本発明によれば、開閉可能な屋根を有する車両に於いて車輪トルク制御による車体振動の制振制御を実行する場合に、屋根の状態に応じて、車体振動モデルの構成を変更することにより、屋根が開放されている状態及び閉鎖されている状態のいずれ場合に於いても、モデル化精度の低下を回避し、これにより、良好な精度にて制振制御が達成できることが期待される。下記の実施形態からも理解されるように、車体振動の制振制御装置による車輪トルクの補償成分は、発生し得る車体振動の振幅、位相及び周波数に対応して振動的に駆動装置(又は制動装置若しくは操舵装置)の出力を増減させる。従って、実際の車両に於いて構造(本件の場合には屋根の開閉状態)が変化し、その構造変化が車体振動モデルに反映されていない場合には、補償成分は、振幅だけでなく、その位相及び周波数が車体振動と適合しなくなり、これにより、抑制されるべき振動を増幅してしまう可能性がある。特に、屋根の状態により変化する重心位置は、重心高、慣性モーメント等の変化を介して、車体のピッチ・バウンス振動の共振周波数の決定に大きく寄与するものである。本発明では、そのような抑制されるべき振動の特性を大きく左右し得るパラメータの変化に対応して補償成分を決定する部分を修正することにより、屋根の開閉状態に関連する制振制御に於ける不具合が発生しないようにするものであるということができ、これにより、制振制御が適用可能な範囲(車両の種類・形式など)を拡大することができる。
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。図中、同一の符号は、同一の部位を示す。
装置の構成
図1は、本発明の制振制御装置の好ましい実施形態が搭載される自動車等の車両を模式的に示している。同図に於いて、左右前輪12FL、12FRと、左右後輪12RL、12RRを有する車両10には、通常の態様にて、運転者によるアクセルペダル14の踏込みに応じて後輪に駆動力又は駆動トルクを発生する駆動装置20が搭載される。駆動装置20は、図示の例では、図1に例示されている如く、駆動トルク或いは回転駆動力が、エンジン22から、トルクコンバータ24、自動変速機26、差動歯車装置28等を介して、後輪12RL、12RRへ伝達されるよう構成される。しかしながら、駆動装置は、エンジン22に代えて電動機が用いられる電気式、或いは、エンジンと電動機との双方を有するハイブリッド式の駆動装置が用いられてもよい。なお、車両は、四輪駆動車又は前輪駆動車であってもよい。簡単のため図示していないが、車両10には、通常の車両と同様に、ブレーキペダル16の踏込みに応じて各輪に制動力を発生する制動系装置と前輪又は前後輪の舵角を制御するためのステアリング装置が設けられる。
図1は、本発明の制振制御装置の好ましい実施形態が搭載される自動車等の車両を模式的に示している。同図に於いて、左右前輪12FL、12FRと、左右後輪12RL、12RRを有する車両10には、通常の態様にて、運転者によるアクセルペダル14の踏込みに応じて後輪に駆動力又は駆動トルクを発生する駆動装置20が搭載される。駆動装置20は、図示の例では、図1に例示されている如く、駆動トルク或いは回転駆動力が、エンジン22から、トルクコンバータ24、自動変速機26、差動歯車装置28等を介して、後輪12RL、12RRへ伝達されるよう構成される。しかしながら、駆動装置は、エンジン22に代えて電動機が用いられる電気式、或いは、エンジンと電動機との双方を有するハイブリッド式の駆動装置が用いられてもよい。なお、車両は、四輪駆動車又は前輪駆動車であってもよい。簡単のため図示していないが、車両10には、通常の車両と同様に、ブレーキペダル16の踏込みに応じて各輪に制動力を発生する制動系装置と前輪又は前後輪の舵角を制御するためのステアリング装置が設けられる。
また、図示の車両10は、図2に模式的に例示されている如く、「コンバーチブル車」又は「オープンカー」であり、屋根10aが開閉又は着脱可能な車両である。屋根10aは、ソフトトップ及びハードトップのいずれであってもよい。また、屋根10aの着脱方式は、任意の形式の電動式及び手動式のいずれであってもよい。特に、電動式の場合には、運転者からアクセス可能な任意の位置にスイッチ(図示せず)が設けられ、スイッチの選択により、屋根10aは、屋根が閉鎖された状態(A)から開放された状態(B)へ又はその逆に自動的に移動する機構が設けられる((B)の状態に於いては、典型的には、屋根10aは折り畳まれて車両の後部座席(図示せず)の後方に、点線にて示されている如く、収納される。)。また、手動式にて、即ち、使用者により屋根の着脱が行われる場合には、車両の任意の部位、例えば、フロントガラス上部に屋根の有無を検出するためのセンサ10bが設けられていてよい(センサ10bは、例えば、屋根がスイッチに接触しているか否かによりON/OFFされるスイッチの如き接触型のセンサであってよい。)。なお、車両10に於いて、屋根の着脱の前後で、図示の如く、車両の重心Cgの位置が変位する。図から理解される如く、屋根が車両の後方に収納される形式の場合、屋根が閉鎖状態から開放状態に移動するときには、屋根の質量が車両上方から後方に移動するので、重心Cgは、後方及び下方へ移動することとなる。かかる重心の移動は、後に説明する制振制御に於いて用いられる車体振動モデルの精度に影響を与えることとなる。
駆動装置20の作動制御及びその他の車両の各部の作動制御は、電子制御装置50により制御される。電子制御装置50は、通常の形式の、双方向コモン・バスにより相互に連結されたCPU、ROM、RAM及び入出力ポート装置を有するマイクロコンピュータ及び駆動回路を含んでいてよい。電子制御装置50には、各輪に搭載された車輪速センサ30i(i=FL、FR、RL、RR)からの車輪速を表す信号Vwi(i=FL、FR、RL、RR)と、車両の各部に設けられたセンサからのエンジンの回転速ne、変速機の回転速no、アクセルペダル踏込量θa、ブレーキペダル踏込量θb等の信号が入力される(図1参照)。また、更に、本実施形態に於いては、屋根の開閉又は着脱状態を検出するために、運転者により操作される屋根の状態を選択するためのスイッチのON/OFF情報又はフロントガラス等にて屋根の有無を検出するスイッチ10bの出力が電子制御装置50へ入力されるようになっていてよい。なお、上記以外に、本実施形態の車両に於いて実行されるべき各種制御に必要な種々のパラメータを得るための各種検出信号、例えば、各輪に任意に設けられてよい荷重センサからの各輪荷重を表す信号、エンジン出力軸トルクなどが入力されてよいことは理解されるべきである。
本発明の制振制御装置は、上記の電子制御装置50に於いて実現される。図3は、かかる電子制御装置50の実施形態の内部の構成を制御ブロックの形式で表したものである。
図3を参照して、電子制御装置50は、エンジンの作動を制御する駆動制御装置50a、制動装置(図示せず)の作動を制御する制動制御装置50b、更に、公知の車両の電子制御装置に装備される各種の制御装置(図示せず)を含んでいてよい。なお、制振制御装置を含む駆動制御装置等の各種の制御装置の構成及び作動は、車両の運転中、電子制御装置50内のCPU等の処理作動に於いて実現されることは理解されるべきである。
制動制御装置50bには、図示の如く、各輪の車輪速センサ30i(i=FR、FL、RR、RL)からの、車輪が所定量回転する毎に逐次的に生成されるパルス形式の電気信号が入力され、かかる逐次的に入力されるパルス信号の到来する時間間隔を計測することにより車輪の回転速ωが算出され、これに車輪半径rが乗ぜられることにより、車輪速値r・ωが算出される。そして、その車輪速値r・ωは、後に詳細に説明する制振制御を実行するために、駆動制御装置50a(車輪トルク推定器52c)へ送信されて、車輪トルク推定値の算出に用いられる。なお、車輪回転速から車輪速への演算は、駆動制御装置50aにて行われてもよい。その場合、車輪回転速が制動制御装置50bから駆動制御装置50aへ与えられる。
駆動制御装置50aは、基本的な構成として、アクセルペダルセンサからのアクセルペダル踏込量又はアクセル開度θaに基づいて運転者の要求するエンジンの駆動トルク要求値を決定する駆動トルク要求値決定部51と、車輪トルク(駆動トルク)制御による車体のピッチ/バウンス振動制振制御を実行するための補償成分を算出して駆動トルク要求値を補償(修正)する補償成分決定部52と、かかる補償成分決定部により算出された補償成分により補償された駆動トルク要求値に基づいてその要求値を達成するよう、公知の任意の形式にてエンジン各部の制御指令を生成し、対応する制御器(図示せず)へ送信する制御指令決定部53を含んでいる。
かかる基本構成に於いて、駆動トルク要求値決定部51は、公知の任意の手法によりアクセル開度θaに対応して駆動トルク要求値(補償前)を決定して出力するようになっていてよい。なお、「アクセル開度」とは、車両の運転者によるアクセルペダルの踏込量若しくは操作量、又は、自動走行制御装置(図示せず)が装備されている車両の場合には自動走行制御装置による駆動トルク若しくは駆動出力の要求量を表す量であり、車両に対する加減速力又は制駆動トルクの要求量を表す。駆動トルク要求値の単位は、基本的には、エンジンに於ける駆動トルクであってよいが、ガソリンエンジンであれば、吸入空気量又はスロットル開度、ディーゼルエンジンであれば、燃料噴射量、モータであれば、電流値であってよい(以下、特に断らない限り、駆動トルク要求値の単位は、エンジンに於ける駆動トルクであるものとする。)。
補償成分決定部52は、図示の如く、駆動トルク要求値決定部51に於いて決定された駆動トルク要求値(補償前)を車輪トルクに変換した値(車輪トルク要求値)と、車輪トルク推定器52cにて車輪速r・ωから推定される現に車輪に作用している車輪トルクの推定値とを受信し、後に詳細に説明される態様により、車体振動モデル(車輪トルク要求値及び推定値を入力(トルク入力)として車体のピッチ・バウンス方向の振動変位を出力するモデル)を用いて、車輪トルク要求値及び推定値に於ける車体にピッチ・バウンス振動を惹起し得る振動成分を低減又は相殺する補償成分(K・X)を算出する。なお、車輪トルク推定器52cからの車輪トルクTwの入力に際しては、車体振動モデルに於ける運転者要求車輪トルクTw0と車輪トルク推定値Twとの寄与のバランスを調整するために、車輪トルクTwは、フィードバック制御ゲイン(入力ゲイン)λinが乗ぜられてから、補償成分決定部に入力されるようになっていてよい(乗算器52d)。また更に、補償成分決定部は、運転者によるブレーキ操作又はステアリング操作により車輪に生ずる車輪トルクの変化に起因するピッチ・バウンス振動を制振するための補償成分を算出するようになっていてよい。その場合には、図中点線にて示されている如く、車輪トルク推定器52xにてブレーキ操作量又はステアリング操作量に基づいて推定される車輪トルク推定値が補償成分決定部に入力され、車輪トルク要求値等と同様に処理されて、補償成分が算出される。ブレーキ操作量又はステアリング操作量に基づく車輪トルクの変化量の推定は、任意の方法により為されてよい。
また、本発明の補償成分決定部52は、図2(A)、(B)に例示の如き屋根の二状態に対応して、補償成分の算出処理が変更されるよう構成される。既に触れたように、車両10に於いて、屋根が開放されている状態と閉鎖されている状態とでは、屋根の質量が移動するため、重心Cgの位置が変化する。車体振動モデルに於いては、通常、車両の重心Cgの位置、車両の慣性モーメントが車両の構成を表すパラメータとして用いられているので、上記の如き屋根の開閉によって重心位置が車体振動モデルで想定している位置と相違することとなると、算出される補償成分の精度が低下し得る。そこで、補償成分決定部52は、屋根の開閉を制御する装置(屋根開閉制御)又は屋根スイッチ10bから屋根の開閉情報を受信するよう構成される。そして、屋根の開閉情報に対応して、屋根が開放状態にあるときには、開放状態に於ける車体振動モデルを用いた処理を用い、屋根が閉鎖状態にあるときには、閉鎖状態に於ける車体振動モデルを用いた処理を用いるよう、補償成分の算出処理の切換が行われる(図では、説明の目的で、二つのモデル部分が構成され、トルク入力の入力先のモデルが切り換えられるように示されているが、実際には、使用するモデルの切り換えは、トルク入力から補償成分を算出するまでに使用される演算子又は演算パラメータの置き換えにより達成されてもよい。)。
かくして、補償成分決定部52で算出された補償成分(K・X)は、駆動トルク要求値の単位に変換されて(補償成分U)、加算器a1へ向けて送信され、加算器a1に於いて駆動トルク要求値(補償前)に補償成分が重畳されることにより、駆動トルク要求値が補償される(図示の例では、駆動トルク要求値から補償成分Uが差し引かれるよう構成されている。)。なお、補償成分決定部52から補償成分(K・X)を出力する際に、補償成分の寄与を任意の目的で調節するために、制御ゲインλoutを補償成分K・Xに乗ずる乗算器52fが設けられていてよい(即ち、補償成分は、λout・K・Xの状態で加算器a1へ送られる。)。そして、制御指令決定部53に於いて、補償後の駆動トルク要求値に基づいて、そのときのエンジン回転数及び/又はエンジン温度等を参照して、予め実験的に又は理論的に定められたマップを用いて、公知の態様にて、駆動トルクを達成するように、エンジンの各部の駆動器(図示せず)への制御指令の決定及び各駆動器への制御指令の送信が為される。
従って、上記の構成によれば、車両に於いて、図2(A)の如く屋根が閉鎖され又は装着されている状態及び図2(B)の如く屋根が開放され又は脱離されている状態のいずれの場合にも、それぞれの状態に対応した車体振動モデルを用いて補償成分が算出され、これにより、屋根の開閉又は着脱状態に応じて、車両の重心の位置が変化しても、精度よく制振制御が実行可能となることが期待される。
装置の作動
以下、図3に例示の装置で実行される制振制御の構成及び作動の詳細について説明する。なお、制振制御装置は、図示の例では、駆動制御装置に於いて、補償成分決定部52を主要な構成要素として実現されることは理解されるべきである。補償成分決定部52にて算出される補償成分によるピッチ・バウンス制振制御は、以下の如き態様にて行われてよい。
以下、図3に例示の装置で実行される制振制御の構成及び作動の詳細について説明する。なお、制振制御装置は、図示の例では、駆動制御装置に於いて、補償成分決定部52を主要な構成要素として実現されることは理解されるべきである。補償成分決定部52にて算出される補償成分によるピッチ・バウンス制振制御は、以下の如き態様にて行われてよい。
(制振制御の原理)
車両に於いて、運転者の駆動要求に基づいて駆動装置が作動して車輪トルクの変動が生ずると、図4(A)に例示されている如き車体10に於いて、車体の重心Cgの鉛直方向(z方向)のバウンス振動と、車体の重心周りのピッチ方向(θ方向)のピッチ振動が発生し得る。また、車両の走行中に路面状態の変化や風の影響により車輪上に力又はトルク(外乱)が作用すると、その外乱が車両に伝達され、やはり車体にバウンス方向及びピッチ方向の振動が発生し得る。そこで、ここに例示するピッチ・バウンス振動制振制御に於いては、車体のピッチ・バウンス振動の運動モデルを構築し、そのモデルに於いて駆動トルク要求値を車輪トルクに換算した値(車輪トルク要求値)及び/又は現在の車輪トルク推定値を入力した際の車体の変位z、θとその変化率dz/dt、dθ/dt、即ち、車体振動の状態変数を算出し、モデルから得られた状態変数が0に収束するように、即ち、ピッチ/バウンス振動が抑制されるよう駆動装置(エンジン)の駆動トルクが調節される(駆動トルク要求値が補償される。)。
車両に於いて、運転者の駆動要求に基づいて駆動装置が作動して車輪トルクの変動が生ずると、図4(A)に例示されている如き車体10に於いて、車体の重心Cgの鉛直方向(z方向)のバウンス振動と、車体の重心周りのピッチ方向(θ方向)のピッチ振動が発生し得る。また、車両の走行中に路面状態の変化や風の影響により車輪上に力又はトルク(外乱)が作用すると、その外乱が車両に伝達され、やはり車体にバウンス方向及びピッチ方向の振動が発生し得る。そこで、ここに例示するピッチ・バウンス振動制振制御に於いては、車体のピッチ・バウンス振動の運動モデルを構築し、そのモデルに於いて駆動トルク要求値を車輪トルクに換算した値(車輪トルク要求値)及び/又は現在の車輪トルク推定値を入力した際の車体の変位z、θとその変化率dz/dt、dθ/dt、即ち、車体振動の状態変数を算出し、モデルから得られた状態変数が0に収束するように、即ち、ピッチ/バウンス振動が抑制されるよう駆動装置(エンジン)の駆動トルクが調節される(駆動トルク要求値が補償される。)。
かくして、まず、制振制御に於ける車体のバウンス方向及びピッチ方向の力学的運動モデルとして、例えば、図4(B)に示されている如く、車体を質量M及び慣性モーメントIの剛体Sとみなし、かかる剛体Sが、弾性率kfと減衰率cfの前輪サスペンションと弾性率krと減衰率crの後輪サスペンションにより支持されているとする(車体のばね上振動モデル)。この場合、車体の重心のバウンス方向の運動方程式とピッチ方向の運動方程式は、下記の数1の如く表される。
ここに於いて、Lf、Lrは、それぞれ、重心から前輪軸及び後輪軸までの水平方向距離であり、rは、車輪半径であり、hは、重心の路面からの高さ(即ち、重心の車高)である。なお、式(1a)に於いて、第1、2項は、前輪軸から、第3、4項は、後輪軸からの力の成分であり、式(1b)に於いて、第1項は、前輪軸から、第2項は、後輪軸からの力のモーメント成分である。式(1b)に於ける第3項は、駆動輪に於いて発生する車輪トルクTが車体の重心周りに与える力のモーメント成分である。
上記の式(1a)及び(1b)は、車体の変位z、θとその変化率dz/dt、dθ/dtを状態変数ベクトルX(t)として、下記の式(2a)の如く、(線形システムの)状態方程式の形式に書き換えることができる。
dX(t)/dt=A・X(t)+B・u(t) …(2a)
ここで、X(t)、A、Bは、それぞれ、
であり、行列Aの各要素a1-a4及びb1-b4は、それぞれ、式(1a)、(1b)のz、θ、dz/dt、dθ/dtの係数をまとめることにより与えられ、
a1=-(kf+kr)/M、a2=-(cf+cr)/M、
a3=-(kf・Lf-kr・Lr)/M、a4=-(cf・Lf-cr・Lr)/M、
b1=-(Lf・kf-Lr・kr)/I、b2=-(Lf・cf-Lr・cr)/I、 …(2b)
b3=-(Lf2・kf+Lr2・kr)/I、b4=-(Lf2・cf+Lr2・cr)/I
である。また、u(t)は、
u(t)=T
であり、状態方程式(2a)にて表されるシステムの入力である。従って、式(1b)より、行列Bの要素p1は、
p1=h/(I・r)
である。
dX(t)/dt=A・X(t)+B・u(t) …(2a)
ここで、X(t)、A、Bは、それぞれ、
a1=-(kf+kr)/M、a2=-(cf+cr)/M、
a3=-(kf・Lf-kr・Lr)/M、a4=-(cf・Lf-cr・Lr)/M、
b1=-(Lf・kf-Lr・kr)/I、b2=-(Lf・cf-Lr・cr)/I、 …(2b)
b3=-(Lf2・kf+Lr2・kr)/I、b4=-(Lf2・cf+Lr2・cr)/I
である。また、u(t)は、
u(t)=T
であり、状態方程式(2a)にて表されるシステムの入力である。従って、式(1b)より、行列Bの要素p1は、
p1=h/(I・r)
である。
状態方程式(2a)に於いて、
u(t)=−K・X(t) …(2c)
とおくと、状態方程式(2a)は、
dX(t)/dt=(A−BK)・X(t) …(2d)
となる。従って、X(t)の初期値X0(t)をX0(t)=(0,0,0,0)と設定して(トルク入力がされる前には振動はないものとする。)、状態変数ベクトルX(t)の微分方程式(2d)を解いたときに、X(t)、即ち、バウンス方向及びピッチ方向の変位及びその時間変化率、の大きさを0に収束させるゲインKが決定されれば、ピッチ・バウンス振動を抑制するトルク値u(t)が決定されることとなる。かかるトルク値u(t)をエンジンの駆動トルク要求値に変換した値が制振制御によりエンジンに与えられる補償成分である。
u(t)=−K・X(t) …(2c)
とおくと、状態方程式(2a)は、
dX(t)/dt=(A−BK)・X(t) …(2d)
となる。従って、X(t)の初期値X0(t)をX0(t)=(0,0,0,0)と設定して(トルク入力がされる前には振動はないものとする。)、状態変数ベクトルX(t)の微分方程式(2d)を解いたときに、X(t)、即ち、バウンス方向及びピッチ方向の変位及びその時間変化率、の大きさを0に収束させるゲインKが決定されれば、ピッチ・バウンス振動を抑制するトルク値u(t)が決定されることとなる。かかるトルク値u(t)をエンジンの駆動トルク要求値に変換した値が制振制御によりエンジンに与えられる補償成分である。
ゲインKは、所謂、最適レギュレータの理論を用いて決定することができる。かかる理論によれば、2次形式の評価関数
J=1/2・∫(XTQX+uTRu)dt …(3a)
(積分範囲は、0から∞)
の値が最小になるとき、状態方程式(2a)に於いてX(t)が安定的に収束し、評価関数Jを最小にする行列Kは、
K=R−1・BT・P …(3b)
により与えられることが知られている。ここで、Pは、リカッティ方程式
-dP/dt=ATP+PA+Q−PBR−1BTP
の解である。リカッティ方程式は、線形システムの分野に於いて知られている任意の方法により解くことができ、これにより、ゲインKが決定される。
J=1/2・∫(XTQX+uTRu)dt …(3a)
(積分範囲は、0から∞)
の値が最小になるとき、状態方程式(2a)に於いてX(t)が安定的に収束し、評価関数Jを最小にする行列Kは、
K=R−1・BT・P …(3b)
により与えられることが知られている。ここで、Pは、リカッティ方程式
-dP/dt=ATP+PA+Q−PBR−1BTP
の解である。リカッティ方程式は、線形システムの分野に於いて知られている任意の方法により解くことができ、これにより、ゲインKが決定される。
上記の評価関数J及びリカッティ方程式中のQ、Rは、それぞれ、任意に設定される半正定対称行列、正定対称行列であり、システムの設計者により決定される評価関数Jの重み行列である。例えば、ここで考えている運動モデルの場合、Q、Rは、
などと置いて、式(3a)に於いて、状態ベクトルの成分のうち、特定のもの、例えば、dz/dt、dθ/dt、のノルム(大きさ)をその他の成分、例えば、z、θ、のノルムより大きく設定すると、ノルムを大きく設定された成分が相対的に、より安定的に収束されることとなる。また、Qの成分の値q1〜q4を大きくすると、過渡特性重視、即ち、状態ベクトルの値が速やかに安定値に収束し、Rの値ρを大きくすると、消費エネルギーが低減される。
なお、車体のバウンス方向及びピッチ方向の力学的運動モデルとして、例えば、図4(C)に示されている如く、図4(B)の構成に加えて、前輪及び後輪のタイヤのばね弾性を考慮したモデル(車体のばね上・下振動モデル)が採用されてもよい。前輪及び後輪のタイヤが、それぞれ、弾性率ktf、ktrを有しているとすると、図4(C)から理解される如く、車体の重心のバウンス方向の運動方程式とピッチ方向の運動方程式は、下記の数4の如く表される。
ここに於いて、xf、xrは、前輪、後輪のばね下変位量であり、mf、mrは、前輪、後輪のばね下の質量である。式(4a)−(4b)は、z、θ、xf、xrとその時間微分値を状態変数ベクトルとして、図4(B)の場合と同様に、式(2a)の如き状態方程式を構成し(ただし、行列Aは、8行8列、行列Bは、8行1列となる。)、最適レギュレータの理論に従って、状態変数ベクトルの大きさを0に収束させるゲイン行列Kを決定することができる。
(車輪トルクの推定)
図4(B)、(C)に於ける運動モデルに対してトルク入力Tとして、入力されるトルクのうち、外乱の作用として入力される現に発生している車輪トルクの値Twは、理想的には、各輪にトルクセンサを設け、実際に検出されればよいが、通常の車両の各輪にトルクセンサを設けることは困難である。そこで、図示の例では、車輪トルクの外乱入力として、走行中の車両に於けるその他の検出可能な値から車輪トルク推定器52c(図3)にて推定された車輪トルク推定値が用いられる。車輪トルク推定値Twは、典型的には、駆動輪の車輪速センサから得られる車輪回転速ω又は車輪速値r・ωの時間微分を用いて、
Tw=M・r2・dω/dt …(5)
と推定することができる。ここに於いて、Mは、車両の質量であり、rは、車輪半径である。[駆動輪が路面の接地個所に於いて発生している駆動力の総和が、車両の全体の駆動力M・G(Gは、加速度)に等しいとすると、車輪トルクTwは、
Tw=M・G・r …(5a)
にて与えられる。車両の加速度Gは、車輪速度r・ωの微分値より、
G=r・dω/dt …(5b)
で与えられるので、車輪トルクは、式(5)の如く推定される。]なお、車輪トルク推定値は、車輪速ではなく、エンジン回転速、変速機回転速、タービン回転速など、駆動輪に作動的に連結した駆動系の回転軸の回転速から推定されるようになっていてもよい。駆動装置のエンジン又はモータの出力軸の回転速neを用いる場合には、駆動輪の車輪回転速は、
ωe=ne×トランスミッション(変速機)ギア比×デフ(差動装置)ギア比 …(6)
により与えられる。また、変速機の出力軸の回転速noを用いる場合には、
ωo=no×デフギア比 …(7)
により与えられる。そして、式(6)又は(7)の駆動輪の車輪回転速ωの推定値は、式(5)に代入され、車輪トルク推定値が算出される。
図4(B)、(C)に於ける運動モデルに対してトルク入力Tとして、入力されるトルクのうち、外乱の作用として入力される現に発生している車輪トルクの値Twは、理想的には、各輪にトルクセンサを設け、実際に検出されればよいが、通常の車両の各輪にトルクセンサを設けることは困難である。そこで、図示の例では、車輪トルクの外乱入力として、走行中の車両に於けるその他の検出可能な値から車輪トルク推定器52c(図3)にて推定された車輪トルク推定値が用いられる。車輪トルク推定値Twは、典型的には、駆動輪の車輪速センサから得られる車輪回転速ω又は車輪速値r・ωの時間微分を用いて、
Tw=M・r2・dω/dt …(5)
と推定することができる。ここに於いて、Mは、車両の質量であり、rは、車輪半径である。[駆動輪が路面の接地個所に於いて発生している駆動力の総和が、車両の全体の駆動力M・G(Gは、加速度)に等しいとすると、車輪トルクTwは、
Tw=M・G・r …(5a)
にて与えられる。車両の加速度Gは、車輪速度r・ωの微分値より、
G=r・dω/dt …(5b)
で与えられるので、車輪トルクは、式(5)の如く推定される。]なお、車輪トルク推定値は、車輪速ではなく、エンジン回転速、変速機回転速、タービン回転速など、駆動輪に作動的に連結した駆動系の回転軸の回転速から推定されるようになっていてもよい。駆動装置のエンジン又はモータの出力軸の回転速neを用いる場合には、駆動輪の車輪回転速は、
ωe=ne×トランスミッション(変速機)ギア比×デフ(差動装置)ギア比 …(6)
により与えられる。また、変速機の出力軸の回転速noを用いる場合には、
ωo=no×デフギア比 …(7)
により与えられる。そして、式(6)又は(7)の駆動輪の車輪回転速ωの推定値は、式(5)に代入され、車輪トルク推定値が算出される。
(補償成分決定部の構成)
上記のピッチ・バウンス制振制御のための補償成分Uを算出する図3の補償成分決定部52内部の制御処理の基本構成は、図4(D)に於いて、制御ブロックの形式にて示されている。図4(D)の制御構成に於いては、まず、運動モデル(車体振動モデル)の車輪トルク入力端へ、駆動トルク要求決定部51からの駆動トルク要求値を車輪トルクに換算して得られる車輪トルク要求値Twoと現に車輪に於いて発生している車輪トルク(の推定値)Twが、それぞれ、入力される(更に、図中点線の如く、ブレーキ操作量又はステアリング操作量に対応する車輪トルク推定値が入力されるようになっていてよい。)。次いで、運動モデルに於いて、そのトルク入力値T(=Two+Tw)を用いて式(2a)の微分方程式を解くことにより、状態変数ベクトルX(t)が算出される。そして、その状態ベクトルX(t)に、上記の如く状態変数ベクトルX(t)を0又は最小値に収束させるべく決定されたゲインKを乗じた値K・X(=−u(t))が算出され、そのK・Xがエンジンの駆動トルク要求値単位の補償成分Uに換算される。かくして算出された補償成分は、加算器a1へ送信され、加算器a1に於いて、駆動トルク要求値に重畳され、これにより、K・X(t)の値に相当する成分が駆動トルク要求値から差し引かれることとなる。車体のピッチ・バウンス振動システムは、式(1a)及び(1b)からも理解される如く、共振システムであり、任意の入力に対して状態変数ベクトルX(t)の値は、実質的には、システムの固有振動数を概ね中心とした或るスペクトル特性を有する帯域(通常、1〜5Hz程度)の周波数成分のみとなっている。従って、上記の如く、駆動トルク要求値からK・X(t)を差し引く構成により、駆動トルク要求値或いは現に発生している車輪トルクのうち、システムの固有振動数の成分、即ち、車体に於いてピッチ・バウンス振動を引き起こす成分が低減又は除去され、車体に於けるピッチ・バウンス振動が抑制されることとなる。
上記のピッチ・バウンス制振制御のための補償成分Uを算出する図3の補償成分決定部52内部の制御処理の基本構成は、図4(D)に於いて、制御ブロックの形式にて示されている。図4(D)の制御構成に於いては、まず、運動モデル(車体振動モデル)の車輪トルク入力端へ、駆動トルク要求決定部51からの駆動トルク要求値を車輪トルクに換算して得られる車輪トルク要求値Twoと現に車輪に於いて発生している車輪トルク(の推定値)Twが、それぞれ、入力される(更に、図中点線の如く、ブレーキ操作量又はステアリング操作量に対応する車輪トルク推定値が入力されるようになっていてよい。)。次いで、運動モデルに於いて、そのトルク入力値T(=Two+Tw)を用いて式(2a)の微分方程式を解くことにより、状態変数ベクトルX(t)が算出される。そして、その状態ベクトルX(t)に、上記の如く状態変数ベクトルX(t)を0又は最小値に収束させるべく決定されたゲインKを乗じた値K・X(=−u(t))が算出され、そのK・Xがエンジンの駆動トルク要求値単位の補償成分Uに換算される。かくして算出された補償成分は、加算器a1へ送信され、加算器a1に於いて、駆動トルク要求値に重畳され、これにより、K・X(t)の値に相当する成分が駆動トルク要求値から差し引かれることとなる。車体のピッチ・バウンス振動システムは、式(1a)及び(1b)からも理解される如く、共振システムであり、任意の入力に対して状態変数ベクトルX(t)の値は、実質的には、システムの固有振動数を概ね中心とした或るスペクトル特性を有する帯域(通常、1〜5Hz程度)の周波数成分のみとなっている。従って、上記の如く、駆動トルク要求値からK・X(t)を差し引く構成により、駆動トルク要求値或いは現に発生している車輪トルクのうち、システムの固有振動数の成分、即ち、車体に於いてピッチ・バウンス振動を引き起こす成分が低減又は除去され、車体に於けるピッチ・バウンス振動が抑制されることとなる。
(使用モデルの切り換え)
図3及びそれに関連する説明から理解される如く、本実施形態に於いては、屋根が開放されている状態にあるときと、屋根が閉鎖されている状態にあるときとで車両の重心の位置が変化することから、屋根の開閉又は着脱状態に応じて使用する車体振動モデルが切り換えられる。この切り換えに於いては、屋根がいずれの状態にあっても、車体振動モデルの基本構成は、図4(B)又は(C)に例示のものが使用され、重心の位置の変化は、車体振動モデルに於いて重心の高さh、重心から前輪軸までの距離Lf、重心から後輪軸までの距離Lr、ピッチ慣性モーメントIを変更することにより、補償成分の算出処理に於いて反映されるようになっていてよい。この点に関し、前記の値h、Lf、Lr、Iは、通常、予め(車両の設計・組立時又は調整時)調べられた定数値(車両の諸元)が用いられ、制振制御の実行中に於いては、これらの値から式(2b)、(3b)を用いて予め演算された行列演算子A、B、Kの各成分の値(演算パラメータの組)が、補償成分の算出に用いられる。従って、モデルの切換を行う補償成分決定部内のアルゴリズムに於いては、行列演算子A、B、Kの各成分の値の組が、屋根が開放状態の場合と、屋根が閉鎖状態の場合とのそれぞれについて、それぞれのh、Lf、Lr、Iを用いて算出されたものが準備されていてよい(任意の記憶装置に保存されていてよい。)。そして、制振制御の実行時には、屋根の開閉情報が参照され、屋根が開放状態であると判定されるときには、屋根が開放状態の場合について予め算出された行列演算子A、B、Kの各成分の値の組を用いて(記憶装置から呼び出される)、図4(D)に例示の処理に従って、車輪トルク要求値及び推定値Tから補償成分K・Xが算出される。他方、屋根が閉鎖状態であると判定されるときには、屋根が閉鎖状態の場合について予め算出された行列演算子A、B、Kの各成分の値の組を用いて、同様に図4(D)に例示の処理に従って、車輪トルク要求値及び推定値Tから補償成分K・Xが算出される。
図3及びそれに関連する説明から理解される如く、本実施形態に於いては、屋根が開放されている状態にあるときと、屋根が閉鎖されている状態にあるときとで車両の重心の位置が変化することから、屋根の開閉又は着脱状態に応じて使用する車体振動モデルが切り換えられる。この切り換えに於いては、屋根がいずれの状態にあっても、車体振動モデルの基本構成は、図4(B)又は(C)に例示のものが使用され、重心の位置の変化は、車体振動モデルに於いて重心の高さh、重心から前輪軸までの距離Lf、重心から後輪軸までの距離Lr、ピッチ慣性モーメントIを変更することにより、補償成分の算出処理に於いて反映されるようになっていてよい。この点に関し、前記の値h、Lf、Lr、Iは、通常、予め(車両の設計・組立時又は調整時)調べられた定数値(車両の諸元)が用いられ、制振制御の実行中に於いては、これらの値から式(2b)、(3b)を用いて予め演算された行列演算子A、B、Kの各成分の値(演算パラメータの組)が、補償成分の算出に用いられる。従って、モデルの切換を行う補償成分決定部内のアルゴリズムに於いては、行列演算子A、B、Kの各成分の値の組が、屋根が開放状態の場合と、屋根が閉鎖状態の場合とのそれぞれについて、それぞれのh、Lf、Lr、Iを用いて算出されたものが準備されていてよい(任意の記憶装置に保存されていてよい。)。そして、制振制御の実行時には、屋根の開閉情報が参照され、屋根が開放状態であると判定されるときには、屋根が開放状態の場合について予め算出された行列演算子A、B、Kの各成分の値の組を用いて(記憶装置から呼び出される)、図4(D)に例示の処理に従って、車輪トルク要求値及び推定値Tから補償成分K・Xが算出される。他方、屋根が閉鎖状態であると判定されるときには、屋根が閉鎖状態の場合について予め算出された行列演算子A、B、Kの各成分の値の組を用いて、同様に図4(D)に例示の処理に従って、車輪トルク要求値及び推定値Tから補償成分K・Xが算出される。
具体的には、図4(D)中の演算子行列A、B、Kは、屋根の開閉情報が開放状態を表すときには、
A←Ao;B←Bo;K←Ko
と設定される。ここで、Ao、Bo、Koは、屋根が開放された状態での重心高等の値h、Lf、Lr、Iを用いて、それぞれ、式(2b)及び式(3b)により成分が算出された行列である。他方、屋根の開閉情報が閉鎖状態を表すときには、演算子行列A、B、Kは、
A←Ac;B←Bc;K←Kc
と設定される。ここで、Ac、Bc、Kcは、屋根が閉鎖された状態での重心高等の値h、Lf、Lr、Iを用いて、それぞれ、式(2b)及び式(3b)により成分が算出された行列である。なお、行列演算子A、B、Kの各成分の値は、屋根の状態の変化があったときに、変化後の重心高等の値h、Lf、Lr、Iを用いて随時演算するようになっていてもよい(その場合、開放状態及び閉鎖状態のそれぞれの重心高等の値h、Lf、Lr、Iの組が“演算パラメータの組”として解される。)。
A←Ao;B←Bo;K←Ko
と設定される。ここで、Ao、Bo、Koは、屋根が開放された状態での重心高等の値h、Lf、Lr、Iを用いて、それぞれ、式(2b)及び式(3b)により成分が算出された行列である。他方、屋根の開閉情報が閉鎖状態を表すときには、演算子行列A、B、Kは、
A←Ac;B←Bc;K←Kc
と設定される。ここで、Ac、Bc、Kcは、屋根が閉鎖された状態での重心高等の値h、Lf、Lr、Iを用いて、それぞれ、式(2b)及び式(3b)により成分が算出された行列である。なお、行列演算子A、B、Kの各成分の値は、屋根の状態の変化があったときに、変化後の重心高等の値h、Lf、Lr、Iを用いて随時演算するようになっていてもよい(その場合、開放状態及び閉鎖状態のそれぞれの重心高等の値h、Lf、Lr、Iの組が“演算パラメータの組”として解される。)。
かくして、上記の構成によれば、屋根が装着又は閉鎖された状態と脱離又は開放された状態とのそれぞれに於いて、重心の位置の変化に対応した車体振動モデルにより補償成分が算出されることにより、屋根の状態がいずれの状態であっても良好な制振制御を達成することが可能となる。
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。
例えば、上記の実施形態に於ける車輪トルク推定値が車輪速から推定されるものであるが、車輪トルク推定値が車輪速から以外のパラメータから推定されるものであってもよい。また、上記の実施形態に於ける制振制御は、運動モデルとしてばね上振動モデル又はばね上・ばね下振動モデルを仮定して最適レギュレータの理論を利用したピッチ・バウンス振動の制振制御であるが、本発明の概念は、車輪トルクを利用するものであれば、ここに紹介されているもの以外の車体振動の運動モデルを採用したもの或いは最適レギュレータ以外の制御手法により任意の車体振動の制振を行うものにも適用され、そのような場合も本発明の範囲に属する。
また、図示の実施形態では、屋根が脱着される形式(屋根全体が開閉される形式)について例示しているが、本発明は、屋根に天窓が構成され、その天窓が開閉する形式のものにも同様に適用されてよい。
10…車体
10a…屋根
10b…屋根接触判定センサ
12FL、FR、RL、RR…車輪
14…アクセルペダル
20…駆動装置
22…ディーゼルエンジン
22a…燃料装置
30FL、FR、RL、RR…車輪速センサ
50…電子制御装置
50a…駆動制御装置
50b…制動制御装置
10a…屋根
10b…屋根接触判定センサ
12FL、FR、RL、RR…車輪
14…アクセルペダル
20…駆動装置
22…ディーゼルエンジン
22a…燃料装置
30FL、FR、RL、RR…車輪速センサ
50…電子制御装置
50a…駆動制御装置
50b…制動制御装置
Claims (4)
- 開閉可能な屋根を有する車両に於いて車輪と路面との接地個所に於いて発生する車輪トルクを制御することにより前記車両のピッチ・バウンス振動を抑制する車両の制振制御装置であって、前記車両の車体振動モデルを用いて予測される車体の振動変位を低減するよう前記車輪トルクを補償するための補償成分を算出する補償成分決定部を含み、前記車両の前記屋根が開放されているか閉鎖されているかに対応して前記車体振動モデルの構成が変更されることを特徴とする装置。
- 請求項1の装置であって、前記屋根が開放されている状態の前記車体振動モデルを用いて予測される車体の振動変位を決定するための第一の演算パラメータの組と、前記屋根が閉鎖されている状態の前記車体振動モデルを用いて予測される車体の振動変位を決定するための第二の演算パラメータの組とが準備され、前記補償成分決定部が、前記車両の前記屋根が開放されているときに前記第一の演算パラメータの組を用いて前記補償成分を算出し、前記車両の前記屋根が閉鎖されているときに前記第二の演算パラメータの組を用いて前記補償成分を算出することを特徴とする装置。
- 請求項1又は2の装置であって、前記車体振動モデルの構成の変更が前記車体振動モデルに於ける前記車両の重心の高さ、前記車両の前輪軸と前記重心との距離、前記車両の後輪軸と前記重心との距離及び前記車両のピッチ慣性モーメントのうちの少なくとも一つを変更することに相当する変更であることを特徴とする装置。
- 請求項2又は請求項2を引用する請求項3の装置であって、前記第一の演算パラメータの組が前記屋根が開放されている状態の前記車体振動モデルに於ける前記車両の重心の高さ、前記車両の前輪軸と前記重心との距離、前記車両の後輪軸と前記重心との距離及び前記車両のピッチ慣性モーメントを用いて算出された値の組であり、前記第二の演算パラメータの組が前記屋根が閉鎖されている状態の前記車体振動モデルに於ける前記車両の重心の高さ、前記車両の前輪軸と前記重心との距離、前記車両の後輪軸と前記重心との距離及び前記車両のピッチ慣性モーメントを用いて算出された値の組であることを特徴とする装置。
Priority Applications (1)
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