JP5092695B2 - 車両の制振制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、自動車等の車両の制振制御装置に係り、より詳細には、車両の車輪と接地路面上との間に作用するトルク(以下、「車輪トルク」と称する。)を制御して車体の振動を抑制する制振制御装置に係る。
車両の走行中のピッチ・バウンス振動等の車体振動は、車両の加減速時に車体に作用する制駆動力(若しくは慣性力)又はその他の車体に作用する外力により発生するところ、それらの力は、車輪トルクに反映される。そこで、車両の制振制御の分野に於いて、車両の制駆動力制御を通して車輪トルクを調節し、車両の走行中に於ける車体の振動を抑制することが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。かかる車輪トルク又は制駆動力制御による車体振動の制振制御に於いては、車両の加減速要求若しくは旋回要求による車輪トルクの変動が予想される場合又は車体に外力(外乱)が作用して車輪トルクに変動があった場合に、所謂車体のばね上振動又はばね上・ばね下振動の力学的モデルなどを仮定して構築された車体振動の運動モデルを用いて、車体に生ずるピッチ・バウンス振動を予測し、その予測された振動が抑制されるように車輪のトルク又は制駆動力が調節される。このような形式の制振制御の場合、サスペンションによる制振制御の如く発生した振動エネルギーを吸収することにより抑制するというよりは、振動を発生する力の源を調節して振動エネルギーの発生が抑えられることになるので、制振作用が比較的速やかであり、また、エネルギー効率が良いなどの利点を有する。また、上記の如き制振制御に於いては、制御対象が車輪トルク又は車輪の制駆動力に集約されるので、制御の調節が比較的に容易である。
特開2004−168148 特開2006−69472 特開平09−51309 特開2005−178531 特開2005−182405
上記の如き車輪トルク制御による制振制御は、既に触れたように、車両の加減速要求若しくは旋回要求による車輪トルクの変動が予想される場合に、或いは、車体に外力(外乱)が作用して車輪トルクに変動があった場合に、それらの車輪トルク変動に起因する車体の振動を、車輪の制駆動力又は車輪トルクの調節により抑制しようとするものである。
上記の制振制御のうち、前者の、車両に対する加減速要求若しくは旋回要求による車輪トルクの変動に起因する振動を抑制する制御では、端的に述べれば、運転者又は自動走行制御(運動制御を含む)からの車両の駆動装置若しくは制動装置に与えられる加減速要求量(典型的には、要求制駆動トルク)及び/又は車両の操舵装置に与えられる旋回要求量(典型的には、目標舵角)を参照して、加減速要求量及び/又は旋回要求量中の車体の振動を惹起する振動成分を除去又は低減するべく、加減速要求量を補償し、しかる後に補償された加減速要求量に基づいて駆動装置又は制動装置の作動を制御する。従って、この制御に於いては、原理的には、車両に対する加減速要求が実現される際には、既に車体の振動を惹起する成分が除去又は低減されており、又、旋回要求が実現される際には、車体の振動を惹起する成分が相殺又は低減されることになるので、車体に於いて振動を惹起する力(起振力又は振動強制力)の発生自体が抑制されることが期待される(従って、しばしば、「フィードフォワード制振制御」と称される。)。
他方、後者の、車体に外乱が作用して車輪トルクに変動があった場合の制振制御は、車両の走行路面上の状態変化(路面上の凹凸又は異物、勾配又は摩擦状態の変化)に起因する路面反力の変動や風等の力などが力学的な外乱として車体に伝達され、その外乱が起振力又は振動強制力となって発生する振動を抑制するためのものである。かかる制振制御に於いては、上記の如き起振力又は振動強制力となる外乱の作用が、結局、車輪トルクに現れるので、具体的な制御手法としては、実際に車輪に作用している車輪トルク値又は車輪速等から推定される車輪トルク推定値が参照され、その車輪トルク値中の車体の振動を惹起する振動成分を除去又は低減するべく、加減速要求量が補償され、しかる後に補償された加減速要求量に基づいて駆動装置又は制動装置の作動が制御される(従って、実際の車輪トルクの変動を、車輪トルクを制御する制駆動力制御系に“フィードバック”して制振を行うので、しばしば、「フィードバック制振制御」と称される。)。
上記の如きフィードバック制振制御の場合、原理的に、車体に振動を惹起する外乱又はその外乱による抑制されるべき振動が発生し始めた後に、外乱又は振動を抑制するための車輪トルク又は制駆動力の調節が実行されることになる。従って、車体振動の抑制を良好に達成するためには、車輪トルク値の変化の検出から振動強制力(外乱)又は振動変位を相殺又は抑制するための制駆動力の変化の発生までの時間(制御の応答時間)を、可能な限り短縮し、車輪に与えられる制駆動力の変化が車体の振動の変位(振幅)の変化に追従できるようにする、即ち、制御の応答速度を可能な限り早くする必要がある。しかしながら、実際の車両の装置に於いては、信号の処理速度や制御指令に対する駆動装置(エンジンやモータ)又は制動装置の制駆動力の応答速度に限界があり、制御の応答時間を無限小にすることはできない。即ち、外乱の発生を待って制御が実行される従前のフィードバック制振制御では、信号処理装置又は駆動装置若しくは制動装置に於ける短縮可能な制御応答時間の限界により、外乱の発生から車輪トルクの調節実行までの時間を更に短縮したいという要求があっても、そのような要求に答えられない場合があり、車輪トルクの調節が抑制されるべき振動変位の変化に遅れてしまうことも有り得る。
かくして、本発明の一つの課題は、車輪トルク又は制駆動力制御により車体の振動を抑制する車両の制振制御装置であって、実際に車輪トルクの変化に現れた外乱の発生に応答して実行されるフィードバック制御とは異なった制御手法により、外乱に起因する車体の振動の抑制を実行する新規な制振制御装置を提供することである。
また、本発明のもう一つの課題は、車輪トルク又は制駆動力制御により車体の振動を抑制する車両の制振制御装置であって、従前のフィードバック制御よりも外乱の発生から制御の実行までの時間を短縮することができるよう構成された制振制御装置を提供することである。
更に、本発明のもう一つの課題は、車輪トルク又は制駆動力制御により車体の振動を抑制する車両の制振制御装置であって、車輪トルク又は制駆動力が、抑制されるべき振動強制力又は振動変位(強度)の変化に遅れることなく制御され、これにより、振動の抑制を良好に達成することを可能にする制振制御装置を提供することである。
本発明によれば、車両の車輪トルク制御により車体の振動を抑制する制振制御を実行する形式の制振制御装置であって、車体に作用する外乱による振動が発生することを、自車の前方を走行する車両(先行車)の走行状態から予測し、これにより、自車に於いて外乱による振動が発生する際に、その振動強度の変化に遅れることなく、制振のための制駆動力制御が実行されるよう構成された車両の制振制御装置が提供される。
本発明による車両の車輪と路面との接地個所に於いて発生する車輪トルクを制御することにより車両の車体振動を抑制する車両の制振制御装置は、車両の前方を走行する先行車から該先行車の車輪速若しくは車輪回転速、エンジン回転数、タービン回転速又は変速機回転速の値を表す情報のうちの少なくとも一つを受信する情報受信部と、それらの情報を用いて自車の車輪トルク推定値を推定し、その車輪トルク推定値に基づいて(自車の)車体振動の振幅を抑制するよう車輪トルクを補償する車輪トルク補償成分を算定して該車輪トルク補償成分を用いて車輪トルクを制御する制振制御部とを含むことを特徴とする。なお、上記の構成に於いて、抑制されるべき車体振動は、車輪トルクに現れる力学的な外乱が振動強制力又は起振力となる振動であって、車輪トルクの調節により、相殺又は低減される振動であり、例えば、車体のピッチ又はバウンス振動、車両の駆動系振動又は車両のエンジンのシェーク振動等であってよい。車輪トルクの制御は、典型的には、車両の駆動装置(エンジン・モータ等)の駆動出力の制御であり、この場合、車輪トルクは、駆動出力又は駆動トルク若しくは駆動力を調節することにより制御されることとなる。しかしながら、車輪トルクは、制動系装置又は操舵系装置の作動により車輪上の前後力(車軸周りの回転方向の力)を調節することにより制御されてもよい。また、本発明の装置の情報受信部は、好適には、自車両と先行車との車車間通信により先行車からの車輪速等の情報を受信するようになっていてよい。
上記の本発明による装置に於いて注目されるべき構成は、自車の車輪にて現に発生している車輪トルクを参照する従前のフィードバック制御に代えて、自車両の前方を走行する先行車の車輪速若しくは車輪回転速、エンジン回転数、タービン回転速又は変速機回転速の値(以下、「車輪速等」と称する。)を参照して自車の将来の車輪トルクを推定するようになっている構成である。自車両の前方を走行する先行車は、例えば、路面の凹凸、勾配又は摩擦状態の変化などに起因する外乱を自車両よりも先に受けることとなり、従って、先行車に於いては、自車両に於いてその将来に発生する車輪トルクの変動が発生していると推定される。そこで、本発明の装置は、先行車の走行状態(「車輪速等」)を参照して自車両の将来に於いて外乱の発生を推定し、その推定された外乱に合わせて車輪トルクの補償制御が実行できるよう構成される。かかる構成によれば、従前のフィードバック制御の如く、外乱による実際の車輪トルクの変動を検出してから車輪トルクの補償成分を算出するのではなく、外乱が発生する前までに車輪トルクの補償の準備を完了することが容易となり、信号処理装置又は駆動装置若しくは制動装置に於ける短縮可能な制御応答時間の限界により、制御の実行が遅れるといった問題を解消することが可能となる。
上記の本発明の装置に於ける車輪トルクの制御の実行に関して、車両に対する外乱は、典型的には、路面の凹凸等又は横風、追い風若しくは向かい風などの力学的作用であり、車両の走行経路に於ける特定の位置に於いて発生することが多いので、一つの態様として、制振制御部は、車輪トルク補償成分の算定に用いた先行車の情報の発生時の先行車の位置に車両が到達するときに、その情報により推定された車輪トルク推定値に基づいて算定されたその車輪トルク補償成分が車輪に於いて反映されるよう車輪トルクの制御を実行するよう構成されていてよい。この場合、自車両に於いて外乱が発生するのと同時にその外乱の作用を相殺又は低減する車輪トルク補償成分が車輪に於いて発生させられることとなり、従って、良好な制振効果が得られることが期待される。
上記の如く車輪トルクの制御を実行する場合、その制振制御部による車輪トルクの制御実行時は、実施の形態の一つに於いては、先行車と自車両との相対距離と自車両の車速とに基づいて決定される制御遅延時間(或る車輪トルク補償成分の算定に用いた先行車の情報の発生時からその車輪トルク補償成分による車輪トルクの制御の実行時までの時間)により決定されるようになっていてよい。その際、好ましくは、先行車から送信される車輪速等の情報の情報量とその送信速度とに基づいて決定される時間(情報送信時間)、車両の制駆動力発生装置(エンジン、モータ又は制動装置等)が制御指令を受容してから車輪トルクの調節に要する時間(制駆動力発生応答時間)等が考慮され、制御遅延時間は、先行車の情報の発生時から該情報の発生時の先行車の位置に自車両が到達する時までの時間から情報送信時間及び/又は制駆動力発生応答時間を差し引いた値により決定されるようになっていてもよい。
更に、情報受信部が、先行車からの車輪速等の情報から車輪トルク補償成分の算定に不用な成分を除去するフィルタ処理を行うフィルタ処理部を含む場合、そのフィルタ処理のために信号処理時間がかかるので、制御遅延時間は、先行車の情報の発生時から該情報の発生時の先行車の位置に自車両が到達する時までの時間から、フィルタ処理部に於けるフィルタ処理に要するフィルタ処理時間を差し引いた値により決定されるようになっていてもよい。かかる構成によれば、車輪トルク推定値の推定又は車輪トルク補償成分の算出に不要な情報を除去するとともに、制振制御を外乱の発生のタイミングに合わせて実行することが可能となる。このような構成が可能となるのは、本発明の装置が先行車の作動状態を参照して、外乱の発生を推定し、制御を実行するよう構成されているためであることは理解されるべきである。
本発明は、車輪トルク制御により車体振動の制振を行う制振制御装置の作動に於いて、車両に作用する外乱の発生を先行車の状態から検知し又は推定し、その外乱に対する車輪トルクの補償を行うもの、即ち、“車輪トルクの外乱のプレビュー制御”であるということができる。かかる本発明の装置のその制御思想に於いては、概して述べれば、先行車の状態は、自車両の将来の(例えば、数秒後の)状態であるとの仮定に基づくものであり、現に発生した車輪トルクの変動を検知して、その変動に対する補償を行うフィードバック制御とは、制御思想が全く異なっていることは理解されるべきである。本発明の制御によれば、車輪トルクの変動を予め推定し、その推定された車輪トルク中の車体振動を惹起する振動成分を相殺又は低減するべく、加減速要求量を補償し、しかる後に補償された加減速要求量に基づいて駆動装置又は制動装置の作動を制御することになるので、本発明の装置に於いては、車両に作用する外乱に起因する振動も「フィードフォワード制振制御」に類似した制御思想により抑制されることとなる。なお、特許文献3〜5に於いて、先行車に於いてCCDカメラ等を用いて得た路面の凹凸等の情報又は自車両がCCDカメラ等により撮影された先行車の動きから得た路面の凹凸等の情報に基づいて、サスペンション制御を実行することが提案されているが、本発明は、自車両がその将来に於いて先行車と同様の外乱の作用を受けるとの仮定の下、先行車に於ける車輪トルクの変動を表す車輪速等を用いて自車両の車輪トルクを外乱の作用を受ける前に推定可能とするものであり、特許文献3〜5のものとは、その技術思想が異なることは理解されるべきである。
理解されるべきことは、本発明の先行車の車輪速等の作動状態から自車両の将来の車輪トルク変動を推定するという構成によれば、車輪トルク補償成分の算出のための情報の取得時から車輪トルク補償成分を制駆動力発生装置にて実現するまでの時間的余裕が得られるという点である。既に述べた如く、実際の車両に於いて制振制御のための制駆動力制御を実行する場合には、信号処理装置又は駆動装置若しくは制動装置に於ける短縮可能な制御応答時間の限界があるために、自車両での外乱の発生からその抑制制御を実行するまでの時間は限られている。従って、本来であれば、車輪トルク補償成分の算定に必要のない車輪トルク推定値に含まれている成分、例えば、ピッチ・バウンス振動の制振の場合であれば、その制振制御に寄与しない周波数成分、例えば、ピッチ・バウンス振動の共振周波数(通常、1〜2Hz程度)からずれた振動成分や真の車輪トルクの振動ではない振動成分(センサによる誤差、アーチファクト(偽信号)等)は、車輪トルク補償成分の算定時には除去されるべきであるところ、その除去のためのフィルタ処理に時間を要するため、フィードバック制御では、フィルタ処理を実行できなかったり、或いは、フィルタ処理のために制御が遅れるなどの問題があった。しかしながら、本発明によれば、上記の如く、外乱に対する制振制御がフィードフォワード的に実行され、従前に比して、信号処理のための時間を確保できるので、上記の如き車輪トルク補償成分の算定のために不用な成分を除去する又は必要な成分を抽出するといった信号処理の自由度が増大され、良好な制振制御の達成が期待される。
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。図中、同一の符号は、同一の部位を示す。
装置の構成
図1は、本発明の制振制御装置の好ましい実施形態が搭載される自動車等の車両を模式的に示している。同図に於いて、左右前輪12FL、12FRと、左右後輪12RL、12RRを有する車両10には、通常の態様にて、運転者によるアクセルペダル14の踏込みに応じて後輪に駆動力又は駆動トルクを発生する駆動装置20が搭載される。駆動装置20は、図示の例では、駆動トルク或いは回転駆動力が、エンジン22から、トルクコンバータ24、自動変速機26、差動歯車装置28等を介して、後輪12RL、12RRへ伝達されるよう構成される。しかしながら、駆動装置は、エンジン22に代えて電動機が用いられる電気式、或いは、エンジンと電動機との双方を有するハイブリッド式の駆動装置が用いられてもよい。また、車両は、四輪駆動車又は前輪駆動車であってもよい。なお、簡単のため図示していないが、車両10には、通常の車両と同様に各輪に制動力を発生する制動系装置と前輪又は前後輪の舵角を制御するためのステアリング装置が設けられる。
駆動装置20の作動は、電子制御装置50により制御される。電子制御装置50は、通常の形式の、双方向コモン・バスにより相互に連結されたCPU、ROM、RAM及び入出力ポート装置を有するマイクロコンピュータ及び駆動回路を含んでいてよい。電子制御装置50には、各輪に搭載された車輪速センサ30i(i=FL、FR、RL、RR)からの車輪速を表す信号Vwi(i=FL、FR、RL、RR)と、Gセンサ32からの車両の前後方向加速度α、車両の各部に設けられたセンサからのエンジンの回転速ne、変速機の回転速no、アクセルペダル踏込量θa等の信号が入力される。また、上記以外に、本実施形態の車両に於いて実行されるべき各種制御に必要な種々のパラメータを得るための各種検出信号、例えば、各輪に任意に設けられてよい荷重センサからの各輪荷重を表す信号、エンジン出力軸トルクなどが入力されてよいことは理解されるべきである。また、更に、車両10には、その前方又は周囲を走行する車両との間で、走行・運転状態等の任意の情報を相互に通信することのできる車車間通信システム70、GPS人工衛星と通信して自車の位置情報等の種々の情報を取得するGPS装置(カーナビゲーションシステム)72及び/又は車両の前方の停止物・先行車両等との相対距離・相対速度を計測するための検出器(ミリ波センサ(FMCW方式)、レーダー装置、ソナー装置等)74が設けられていてよく、これらの機器のデータ出力も電子制御装置50へ送信される。車車間通信システム70、GPS装置72又は検出器74は、公知の任意の形式のものであってよく、これらのシステム又は装置から、本発明の制御に於いて車輪トルク外乱のプレビューを行うため及びそこで用いられる車両の絶対車速(路面に対する車速)Vsを取得するために利用される種々の情報、即ち、先行車の位置、車速、車輪速等、ギヤ段、ギヤ比等の先行車の走行状態を表す値・信号、自車の車速が適宜利用可能であるものとする。なお、自車の車速及び先行車の車速は、それぞれ、従動輪の車輪速を参照するなど、任意の手法で決定されてよいが、下記のいずれかの方法により取得されてもよい。
(a)GPS情報による検出:GPS装置72からの各車両の位置情報の時間微分値から絶対車速Vsを算出する。
(b)ソナー装置、レーダー装置74等(例えば、ミリ波センサを採用したFMCW方式レーダー装置)又はビデオカメラ画像により取得される自車両前方の停止物、路面マーカー、先行車との相対速度から絶対車速Vxを算出する(先行車との相対速度が検出される場合には、先行車との車車間通信により先行車の車速が取得される。)。
(c)Gセンサ等の前後加速度の車両発進時から時間積分値より絶対車速Vsを決定する。
本発明の制振制御装置は、上記の電子制御装置50に於いて実現される。図2は、かかる電子制御装置50の実施形態の内部の構成を制御ブロックの形式で表したものである。
図2を参照して、電子制御装置50は、エンジンの作動を制御する駆動制御装置50aと、制動装置(図示せず)の作動を制御する制動制御装置50bと、更に、公知の車両の電子制御装置に装備される各種の制御装置(図示せず)から構成されてよい。なお、制振制御装置を含む駆動制御装置等の各種の制御装置の構成及び作動は、車両の運転中、電子制御装置50内のCPU等の処理作動に於いて実現されることは理解されるべきである。
制動制御装置50bには、図示の如く、各輪の車輪速センサ30i(i=FR、FL、RR、RL)からの、車輪が所定量回転する毎に逐次的に生成されるパルス形式の電気信号が入力され、かかる逐次的に入力されるパルス信号の到来する時間間隔を計測することにより車輪の回転速ωが算出され、これに車輪半径rが乗ぜられることにより、車輪速値r・ωが算出される。そして、その車輪速値r・ωは、後に詳細に説明する制振制御を実行するために、駆動制御装置50aへ送信されて、車輪トルク推定値の算出に用いられる。なお、車輪回転速から車輪速への演算は、駆動制御装置50aにて行われてもよい。その場合、車輪回転速が制動制御装置50bから駆動制御装置50aへ与えられる。
駆動制御装置50aは、基本的な構成として、アクセルペダルセンサからのアクセルペダル踏込量θaに基づいて運転者の要求するエンジンの要求駆動トルク値を決定する要求駆動トルク決定部51と、車輪トルク(駆動トルク)制御による車体のピッチ/バウンス振動制振制御を実行するための要求駆動トルク補償成分を算出して要求駆動トルク値を補償(修正)するフィードフォワード制振制御部52a及びフィードバック制振制御部52bと、上記二つの制振制御部により補償された要求駆動トルク値に基づいてその要求駆動トルクを達成するよう、公知の任意の形式にてエンジン各部の制御指令を生成し、対応する制御器へ送信するエンジン制御指令部53を含んでいる。[制御指令は、ガソリンエンジンであれば、目標スロットル開度、ディーゼルエンジンであれば、目標燃料噴射量、モータであれば、目標電流量などである。]
かかる基本構成に於いて、要求駆動トルク決定部51は、公知の任意の手法によりアクセルペダル踏込量θa(及び/又は任意の自動走行制御による要求)から要求駆動トルク値を決定するようになっていてよい。フィードフォワード制振制御部52aは、図示の如く、要求駆動トルク決定部51にて決定された要求駆動トルク値(補償前)を受信し、後に詳細に説明される態様により、要求駆動トルク値(補償前)に於ける車体にピッチ・バウンス振動を惹起し得る振動成分を低減又は相殺する補償成分を算出する。かかる補償成分は、加算器a1に於いて要求駆動トルク値(補償前)に重畳される。[なお、フィードフォワード制振制御部は、更に、運転者によるブレーキ操作又はステアリング操作により車輪に生ずる車輪トルクの変化に起因するピッチ・バウンス振動を制振するための補償成分を算出するようになっていてよい。その場合には、図中点線にて示されている如く、フィードフォワード制振制御部にブレーキ操作量又はステアリング操作量に基づいて推定される車輪トルク推定値が入力され、要求駆動トルク値と同様に処理されて、補償成分が算出される。]
一方、フィードバック制振制御部52bは、後に詳細に説明される態様により、車輪トルク推定器52cにて車輪速r・ωから推定される車輪トルクの推定値を受信し、かかる車輪トルク推定値に於いて車体にピッチ・バウンス振動を惹起し得る振動成分、即ち、車輪トルクに於ける外乱振動成分、を低減又は相殺する補償成分を算出する。かかるフィードバック制振制御部の補償成分は、後に説明される出力遅延器54a及び制御ゲイン乗算器52dを経て、加算器a2にて、要求駆動トルク値に重畳される。
上記までの基本構成に加えて、本発明の制振制御装置を組み込んだ電子制御装置に於いては、車輪トルク外乱の先行車プレビュー制御のための構成、即ち、「発明の開示」の欄に於いて述べた如く、車体に作用する外乱による振動が発生することを、自車の前方を走行する車両(先行車)の走行状態から予測し、これにより、自車に於いて外乱による振動が発生する際に、その振動強度の変化に遅れることなく、制振のための制駆動力制御が実行されるようにするための構成が設けられる。即ち、本発明の制振制御装置では、先行車プレビュー制御を実行する際には、車輪トルク外乱に対する制振制御が、自車の車輪速等から推定される車輪トルクの変動に基づいて行われるのではなく、先行車の車輪速等から推定される車輪トルクの変動を用いて実行できるよう構成される。かかる先行車プレビュー制御のための構成として、具体的には、先行車からの車輪速の値を表す情報を受信し車輪トルク推定器52cへ車輪速値を与える情報受信部70(車車間通信システム)と、車車間通信システム70、GPS装置72及び/又は車載レーダー装置若しくはソナー装置74からの情報に基づいて、自車が先行車の軌跡に追従して走行しているか否かを判定して先行車プレビュー制御が実行可能か否かを判定するプレビュー判定部54bと、先行車プレビュー制御を実行する際に先行車車輪速に基づいてフィードバック制振制御部52bにて算定された車輪トルク補償成分の出力の時期を計る出力遅延器54aと、先行車プレビュー制御の実行時に先行車と自車両に於ける車速差及び/又は車輪径の違いによる車輪トルク補償成分の大きさのずれを補正するための制御ゲイン54cとが設けられる。これらの先行車プレビュー制御のための各制御部の詳細な構成及び作動は、後述される。
更に、制振制御装置に於いては、車輪トルク推定器52cへ本制御に於いて不用な振動成分が入力されることを回避するために、ローパスフィルター(LPF)、ハイパスフィルター(HPF)又はバンドパスフィルター(BPF)55が設けられていてよい。LPF処理は、主として、ピッチ・バウンス振動の共振周波数(通常、1〜2Hz程度)からずれた振動成分や真の車輪トルクの振動ではない振動成分(センサによる誤差、アーチファクト(偽信号)等)を除去するために用いられる。また、HPF処理は、特に、先行車の車輪速等が用いられる場合に、先行車に於ける運転者のアクセル又はブレーキ操作による変動成分を除去するために用いられる。
なお、本実施形態に於いては、車輪トルクの制御は、駆動装置からの車輪へ伝達される駆動トルクの制御により実行されるが、更に制動装置又は操舵装置を作動して車輪トルクが制御されるようになっていてもよいことは理解されるべきである。
装置の作動
(i)ピッチ・バウンス制振制御
上記の構成に於いて、図2のフィードフォワード制振制御部52a及びフィードバック制振制御部52bによるピッチ・バウンス制振制御は、以下の如き態様にて行われてよい。
(制振制御の原理)
車両に於いて、運転者の駆動要求に基づいて駆動装置が作動して車輪トルクの変動が生ずると、図3(A)に例示されている如き車体10に於いて、車体の重心Cgの鉛直方向(z方向)のバウンス振動と、車体の重心周りのピッチ方向(θ方向)のピッチ振動が発生し得る。また、車両の走行中に路面状態の変化や風の影響により車輪上に力又はトルク(外乱)が作用すると、その外乱が車両に伝達され、やはり車体にバウンス方向及びピッチ方向の振動が発生し得る。そこで、ここに例示するピッチ・バウンス振動制振制御に於いては、車体のピッチ・バウンス振動の運動モデルを構築し、そのモデルに於いて要求駆動トルク(を車輪トルクに換算した値)又は現在の車輪トルク推定値(若しくは、先行車車輪速から推定される将来の車輪トルク)を入力した際の車体の変位z、θとその変化率dz/dt、dθ/dt、即ち、車体振動の状態変数を算出し、モデルから得られた状態変数が0に収束するように、即ち、ピッチ/バウンス振動が抑制されるよう駆動装置(エンジン)の駆動トルクが調節される(要求駆動トルクが修正される。)。なお、要求駆動トルクを入力した場合に算出される駆動トルクの調節量がフィードフォワード制振制御部からの補償成分であり、現在の車輪トルクを入力した場合に算出される駆動トルクの調節量がフィードバック制振制御部からの補償成分である。
かくして、まず、制振制御に於ける車体のバウンス方向及びピッチ方向の力学的運動モデルとして、例えば、図3(B)に示されている如く、車体を質量M及び慣性モーメントIの剛体Sとみなし、かかる剛体Sが、弾性率kfと減衰率cfの前輪サスペンションと弾性率krと減衰率crの後輪サスペンションにより支持されているとする(車体のばね上振動モデル)。この場合、車体の重心のバウンス方向の運動方程式とピッチ方向の運動方程式は、下記の数1の如く表される。
Figure 0005092695
ここに於いて、Lf、Lrは、それぞれ、重心から前輪軸及び後輪軸までの距離であり、rは、車輪半径であり、hは、重心の路面からの高さである。なお、式(1a)に於いて、第1、第2項は、前輪軸から、第3、4項は、後輪軸からの力の成分であり、式(1b)に於いて、第1項は、前輪軸から、第2項は、後輪軸からの力のモーメント成分である。式(1b)に於ける第3項は、駆動輪に於いて発生する車輪トルクTが車体の重心周りに与える力のモーメント成分である。
上記の式(1a)及び(1b)は、車体の変位z、θとその変化率dz/dt、dθ/dtを状態変数ベクトルX(t)として、下記の式(2a)の如く、(線形システムの)状態方程式の形式に書き換えることができる。
dX(t)/dt=A・X(t)+B・u(t) …(2a)
ここで、X(t)、A、Bは、それぞれ、
Figure 0005092695
であり、行列Aの各要素a1-a4及びb1-b4は、それぞれ、式(1a)、(1b)のz、θ、dz/dt、dθ/dtの係数をまとめることにより与えられ、
a1=-(kf+kr)/M、a2=-(cf+cr)/M、
a3=-(kf・Lf-kr・Lr)/M、a4=-(cf・Lf-cr・Lr)/M、
b1=-(Lf・kf-Lr・kr)/I、b2=-(Lf・cf-Lr・cr)/I、
b3=-(Lf2・kf+Lr2・kr)/I、b4=-(Lf2・cf+Lr2・cr)/I
である。また、u(t)は、
u(t)=T
であり、状態方程式(2a)にて表されるシステムの入力である。従って、式(1b)より、行列Bの要素p1は、
p1=h/(I・r)
である。
状態方程式(2a)に於いて、
u(t)=−K・X(t) …(2b)
とおくと、状態方程式(2a)は、
dX(t)/dt=(A−BK)・X(t) …(2c)
となる。従って、X(t)の初期値X0(t)をX0(t)=(0,0,0,0)と設定して(トルク入力がされる前には振動はないものとする。)、状態変数ベクトルX(t)の微分方程式(2c)を解いたときに、X(t)、即ち、バウンス方向及びピッチ方向の変位及びその時間変化率、の大きさを0に収束させるゲインKが決定されれば、ピッチ・バウンス振動を抑制するトルク値u(t)が決定されることとなる。かかるトルク値u(t)をエンジン駆動トルクの単位に変換した値が制振制御によりエンジンに与えられる補償成分である。
ゲインKは、所謂、最適レギュレータの理論を用いて決定することができる。かかる理論によれば、2次形式の評価関数
J=1/2・∫(XQX+uRu)dt …(3a)
(積分範囲は、0から∞)
の値が最小になるとき、状態方程式(2a)に於いてX(t)が安定的に収束し、評価関数Jを最小にする行列Kは、
K=R−1・B・P
により与えられることが知られている。ここで、Pは、リカッティ方程式
-dP/dt=AP+PA+Q−PBR−1
の解である。リカッティ方程式は、線形システムの分野に於いて知られている任意の方法により解くことができ、これにより、ゲインKが決定される。
上記の評価関数J及びリカッティ方程式中のQ、Rは、それぞれ、任意に設定される半正定対称行列、正定対称行列であり、システムの設計者により決定される評価関数Jの重み行列である。例えば、ここで考えている運動モデルの場合、Q、Rは、
Figure 0005092695
などと置いて、式(3a)に於いて、状態ベクトルの成分のうち、特定のもの、例えば、dz/dt、dθ/dt、のノルム(大きさ)をその他の成分、例えば、z、θ、のノルムより大きく設定すると、ノルムを大きく設定された成分が相対的に、より安定的に収束されることとなる。また、Qの成分の値を大きくすると、過渡特性重視、即ち、状態ベクトルの値が速やかに安定値に収束し、Rの値を大きくすると、消費エネルギーが低減される。
なお、車体のバウンス方向及びピッチ方向の力学的運動モデルとして、例えば、図3(C)に示されている如く、図3(B)の構成に加えて、前輪及び後輪のタイヤのばね弾性を考慮したモデル(車体のばね上・下振動モデル)が採用されてもよい。前輪及び後輪のタイヤが、それぞれ、弾性率ktf、ktrを有しているとすると、図3(C)から理解される如く、車体の重心のバウンス方向の運動方程式とピッチ方向の運動方程式は、下記の数4の如く表される。
Figure 0005092695
ここに於いて、xf、xrは、前輪、後輪のばね下変位量であり、mf、mrは、前輪、後輪のばね下の質量である。式(4a)−(4b)は、z、θ、xf、xrとその時間微分値を状態変数ベクトルとして、図3(B)の場合と同様に、式(2a)の如き状態方程式を構成し(ただし、行列Aは、8行8列、行列Bは、8行1列となる。)、最適レギュレータの理論に従って、状態変数ベクトルの大きさを0に収束させるゲイン行列Kを決定することができる。
(制振制御部の構成)
上記のピッチ・バウンス制振制御のための補償成分Uを算出するフィードフォワード制振制御部52aとフィードバック制振制御部52bの制御構成は、それぞれ、図4(A)及び(B)に示されている。まず、図4(A)を参照して、図2のフィードフォワード制振制御部52aに於いては、要求駆動トルク決定部51からの要求駆動トルク値が、車輪トルクTwoに換算された後、車輪トルク入力Tとして、運動モデルへ入力され(ブレーキ操作量又はステアリング操作量に対応する車輪トルク推定値も合わせて入力されてよい。)、運動モデルに於いて、そのトルク入力値Twoを用いて式(2a)の微分方程式を解くことにより、状態変数ベクトルX(t)が算出される。次いで、その状態ベクトルX(t)に、上記の如く状態変数ベクトルX(t)を0又は最小値に収束させるべく決定されたゲインKを乗じた値u(t)が算出され、そのu(t)がエンジンの駆動トルク単位の補償成分U(t)に換算されて加算器a1へ送信される。そして、加算器a1に於いて、要求駆動トルク値から補償成分U(t)が差し引かれる。式(1a)及び(1b)からも理解される如く、車体のピッチ・バウンス振動システムは、共振システムであり、任意の入力に対して状態変数ベクトルの値は、実質的には、システムの固有振動数(1〜5Hz程度)を概ね中心とした或るスペクトル特性を有する帯域の周波数成分のみとなる。かくして、U(t)が要求駆動トルクから差し引かれるよう構成することにより、要求駆動トルクのうち、システムの固有振動数の成分、即ち、車体に於いてピッチ・バウンス振動を引き起こす成分が低減又は除去され、車体に於けるピッチ・バウンス振動が抑制されることとなる。
図4(B)に示されているフィードバック制振制御部52bの構成は、現に車輪に於いて発生している車輪トルク(の推定値)又は後述の如く先行車プレビュー制御の実行時については先行車の車輪速等に基づいて推定される(将来の)車輪トルク推定値Twが、車輪トルク入力Tとして入力される点を除いて、フィードフォワード制振制御部と同様である。ただし、車輪トルクTwの入力に際しては、フィードバック制御ゲインFB(運動モデルに於ける運転者要求車輪トルクTw0と車輪トルク推定値Twとの寄与のバランスを調整するためのゲイン)が乗ぜられるようになっていてよい。また、図2に示されているように、フィードバック制振制御部の出力である補償成分は、出力遅延器54aと制御ゲイン調節器52dとを経て加算器a2にて要求駆動トルクに重畳され、車輪トルク外乱に起因するピッチ・バウンス振動を抑制するようエンジンの駆動出力を調節することとなる。
(ii)車輪トルクの推定
図4(B)に於いて入力される車輪トルクの値は、外乱の作用が反映された値であるので、かかる車輪トルクは、理想的には、各輪にトルクセンサを設け、実際に検出されればよいが、通常の車両の各輪にトルクセンサを設けることは困難である。そこで、図示の例では、車輪トルクの外乱入力として、走行中の車両に於けるその他の検出可能な値から車輪トルク推定器52c(図2)にて推定された車輪トルク推定値が用いられる。車輪トルク推定値Twは、典型的には、駆動輪の車輪速センサから得られる車輪回転速ω又は車輪速値r・ωの時間微分を用いて、
Tw=M・r・dω/dt …(5)
と推定することができる。ここに於いて、Mは、車両の質量であり、rは、車輪半径である。[駆動輪が路面の接地個所に於いて発生している駆動力の総和が、車両の全体の駆動力M・G(Gは、加速度)に等しいとすると、車輪トルクTwは、
Tw=M・G・r …(5a)
にて与えられる。車両の加速度Gは、車輪速度r・ωの微分値より、
G=r・dω/dt …(5b)
で与えられるので、車輪トルクは、式(5)の如く推定される。]なお、車輪トルク推定値は、車輪速ではなく、エンジン回転速、変速機回転速、タービン回転速など、駆動輪に作動的に連結した駆動系の回転軸の回転速から推定されるようになっていてよい。駆動装置のエンジン又はモータの出力軸の回転速neを用いる場合には、駆動輪の車輪回転速は、
ωe=ne×トランスミッション(変速機)ギア比×デフ(差動装置)ギア比 …(6)
により与えられる。また、変速機の出力軸の回転速noを用いる場合には、
ωo=no×デフギア比 …(7)
により与えられる。そして、式(6)又は(7)の駆動輪の車輪回転速ωの推定値は、式(5)に代入され、車輪トルク推定値が算出される。
下記に説明される先行車プレビュー制御実行時に於いて、車輪トルクを先行車の車輪速から推定する場合には、先行車から送信されてきた車輪速から車輪回転速ωを算出し、車輪径は、自車両の値が用いられる。従って、先行車車輪速からその車輪回転速を得るために、先行車からその車輪径の値も取得される。また、先行車から送信されてきたエンジン回転速、変速機回転速、タービン回転速から車輪トルクを推定する場合には、変速機ギア比、デフギア比等の値も取得される。
(iii)先行車プレビュー制御
図5(A)を参照して、同図に示されている如く、自車両の前方の距離L(厳密には、駆動輪間の距離である。)の位置に先行車が走行している場合、先行車に路面の凹凸等による車輪トルクの変動が生ずるとすると、自車両が、時間τ移動(=L/Vs:Vsは、自車両の車速)後にかかる車輪トルクの変動が生じた位置に到達したとき、自車両に於いても同様の路面の凹凸等による車輪トルクの変動が生ずると予想される。即ち、概して述べれば、先行車に現に作用している外乱は将来に於いて自車両に作用する、或いは、先行車の状態は自車の将来の状態であると予想することができる。そこで、先行車プレビュー制御では、自車にその将来に作用する外乱が自車両の前方を走行する先行車に既に作用しているとの仮定の下、先行車との車車間通信、先行車等との相対距離・速度を検出するレーダー又はソナー装置、GPSといった近年急速に発達しつつある車両の情報化技術又は知能化技術を用いて先行車の位置及び車輪速等を取得し、先行車の車輪速等の変動から自車両に作用する外乱の発生を自車両がその外乱の発生位置に到達する前に予測することにより、その外乱の発生時期に合わせて外乱の起振力としての作用又はそれによる振動を抑制するよう車輪トルク又は制駆動力の制御が実行される(図5(B))。
上記の先行車プレビュー制御に於いては、まず、プレビュー判定部54bにて、車両の走行中に、車車間通信システム(先行車情報受信部)70、GPS装置72、レーダー又はソナー装置74にて取得される情報から先行車の有無及び上記の如き先行車プレビュー制御が許されるか否かの判定が実行される。そして、先行車プレビュー制御の実行が決定されると、その情報が車輪トルク推定器52cへの入力の切換部52eと、フィードバック制振制御部の出力側に設けられる出力遅延器52aと、フィードバック制振制御部の制御ゲイン乗算器52dの制御ゲインの大きさを調節する制御ゲイン調節器54cのそれぞれへ送信され、先行車プレビュー制御が実行される。以下、先行車プレビュー制御の具体的な実施形態について説明する。
(a)先行車プレビュー制御実行可否判定−プレビュー判定部の構成及び作動
先行車プレビュー制御実行可否判定は、上記の如く、プレビュー判定部54bにて実行されるようになっていてよい。図6は、プレビュー判定部に於ける作動をフローチャートの形式にて表したものである。同図を参照して、プレビュー判定部では、まず、車両の走行中、図5(A)に例示されている如き、先行車が存在するか否かが判定され(ステップ100)、先行車が存在する場合には、先行車の軌跡に自車が追従して走行しているか否か及び/又は自車の車輪速の位相が、先行車が自車の位置にいたときの先行車の車輪速の位相に概ね一致しているか否かが検出される(ステップ120)。そして、自車が先行車の軌跡に追従して走行していること及び/又は自車と先行車の車輪速の位相が一致していることが判定されれば、プレビュー可能と判定され(ステップ130)、プレビュー制御の実行が指示される(ステップ140)。一方、先行車が存在しないか或いは存在してもプレビュー可能でないと判定されるときには、プレビュー制御の不実行又は中止が指示される(ステップ110)。
上記のステップ100の先行車の有無は、公知の任意の形式の判定手法、例えば、GPS装置72又は車載レーダー若しくはソナー装置74の情報により実行されてよい。なお、かかる判定は、ステップ120の判定と同時に実行されてもよい。
ステップ120の自車が先行車の軌跡を追従しているか否かの検出は、LKA等で利用されている検出方法と同様であってよい。或いは、先行車がGPS装置を搭載していれば、GPS装置の情報から、先行車の位置座標と自車の位置座標とを比較して、自車の位置座標が先行車の位置座標により決定される軌跡に一致している場合に、自車が先行車に追従していると検出又は判定されてよい。
また、ステップ120に於いて、先行車と自車の軌跡の一致の判定に代えて又はその判定とともに、自車の車輪速の位相が、先行車が自車の位置に在ったときの車輪速の位相と概ね一致しているか否か、即ち、車輪速の位相差の検出が実行されてよい。図7(A)は、かかる車輪速の位相差を検出するための処理を制御ブロック図の形式で表したものである。同図を参照して、まず、先行車の車輪速について、先行車が自車よりも時間τ移動だけ先に走行していることを考慮し、先行車の車輪速値a1が遅延器に通される。遅延器は、その入力を、τ移動=L/Vsだけ遅延させて出力するよう構成されたものであってよく、その出力は、先行車が現在の自車の位置に在ったときの車輪速の値となる(ここでの遅延時間は、先行車が信号を発信した位置に自車が何時到達するかであるので、先行車の車速には依らない。)。なお、より厳密には、遅延時間は、後述の如く、先行車から車輪速情報の送受信に要する時間τ送信を差し引いた値、τ移動−τ送信としてよい。
かくして、自車と先行車との車輪速の時間の調整が為されると、両者の車輪速は、BPF処理され、車輪速値から車輪速に於ける変動成分が抽出される(図7(B)参照)。ここで、除去される成分は、車輪速値中のDC成分(平均値に相当する成分)とノイズ成分である。DC成分を除去するのは、先行車と自車とで車速が異なる場合があるためである。そして、両者の車輪速のBPF処理を透過した変動成分は、それぞれ、零点検出器へ送信される。零点検出器は、変動成分の値が負値から正値となったこと、即ち、変動成分が零点を通過したことを検出すると、タイマへそのことを表す信号を与える。タイマは、自車車輪速又は先行車車輪速のいずれか一方の零点通過の検出に応答して計時を開始し、他方の零点通過の検出に応答して計時を停止し、計時を停止した時に、計時結果Δtを出力する。かくして、零点通過の時間間隔Δtが所定値toより小さいときには、図7(B)の右図に示されている如く、自車と先行車の車輪速の位相差が小さいこととなるので(振幅は、異なる場合が有り得る)、両者の車輪速の位相が概ね一致していることが検出されることとなる。なお、所定値toは、実験的に又は理論的に適宜設定されてよい。
かくして、ステップ120に於いて、自車が先行車の軌跡を追従して走行し、或いは、自車と先行車の(両者が同じ位置にいたときの)車輪速の位相が概ね一致している場合には、既に触れたように、ステップ130に於いて、プレビュー可能と判定され、ステップ140制御の実行が指示される。ステップ140では、まず、プレビュー判定部54bは、車輪トルク推定器52cに対して、先行車情報受信部70からの先行車の車輪速等が入力されるように、入力切換部52eを設定する(図2)。これにより、車輪トルク推定器52cは、先行車の車輪速等を用いて、上記の如く車輪トルク推定値を算出し、その値がフィードバック制振制御部52bへ送信される。そして、フィードバック制振制御部52bは、入力された車輪トルク推定値を用いて車輪トルク補償成分を算出することとなる。また、プレビュー判定部54bは、出力遅延器54aと制御ゲイン調節器54cに対して、プレビュー制御が実行されることを表す信号を送信し、これにより、出力遅延器54aと制御ゲイン調節器54cは、それぞれ以下に説明する態様にて作動することとなる。
他方、先行車が存在しないか、先行車が存在しても、自車が先行車の軌跡を追従していない場合又は両者の車輪速の位相差が大きい場合、或いは、先行車からプレビュー制御に必要な情報を取得できず、プレビュー制御の実行ができないときは、ステップ110に於いて、プレビュー判定部54bは、入力切換部52e、出力遅延器54a及び制御ゲイン調節器54cに対して、プレビュー制御が実行されない旨の信号を送信する。その場合、入力切換部52eは、車輪トルク推定器52cへの入力を自車両の車輪速に切り換えるか、入力自体を遮断するようになっていてよい。
(b)先行車プレビュー制御実行中の制振制御−出力遅延器の構成と作動
既に述べた如く、先行車に於いて発生した外乱は、その発生後、
τ移動=L/Vs …(8)
により与えられる時間の経過後に、自車両に於いて発生するものと推測される。従って、概して述べれば、自車両に於いては、先行車からの車輪速等の発生時又は検出時からτ移動時間後に車輪トルクに於いて車輪トルク補償成分が実現されるように駆動装置に対し制御指令を与えることにより、自車両に於ける外乱の発生に合わせて車輪トルクを補償し、良好に制振が達成されることが期待される。そこで、本発明の制御装置に於いては、先行車からの車輪速等を用いて算出された車輪トルク補償成分は、出力遅延器54aへ送られ、先行車プレビュー制御が実行される場合、出力遅延器54aは、受容した車輪トルク補償成分を、車輪トルク補償成分の実現時期が外乱の発生時に一致するよう下記の態様により決定される制御遅延時間τ遅延だけ遅延させてエンジン制御指令決定部53へ送信する。
図5(B)は、先行車に於いて車輪速等の値の発生時(検出時)から自車両に於いて車輪トルク制御を達成するまでの時間を説明するものであり、制御遅延時間τ遅延の決定に於いて考慮されるべき時間の例が示されている。同図から理解される如く、先行車からの車輪速等の発生時から車輪トルク補償成分が実現されるまでの時間τ移動に於いては、情報の送受信に要する時間τ送信、受信した情報から車輪トルク補償成分を算出するまでの時間τ信号処理、及び駆動装置(エンジン等)に制御指令を与えてからその制御指令の要求駆動トルク又は車輪トルクが実現されるまでの時間τ応答の各時間が必要となる(即ち、これらの時間が費やされる)。従って、自車に外乱が発生するのに合わせて車輪トルク補償成分が実現されるようにするためには、出力遅延器54aは、時間τ移動からそれらの処理に要する時間を差し引いた制御遅延時間τ遅延、即ち、
τ遅延=τ移動−τ送信−τ信号処理−τ応答 …(9)
により与えられる時間だけ、エンジン制御指令決定部への車輪トルク補償成分の送信を遅延させる。
上記の時間τ移動から差し引かれる時間について、まず、送受信時間τ送信は、先行車に於いて車輪速等の値が検出された後から、その検出値情報が先行車と自車両との車車間通信システムにより自車へ送信されるまでの時間である。車車間通信システムに於いては、典型的には、送受信される情報は、ディジタル化された情報であるので、車輪速等検出値情報の送受信時間τ送信は、車車間通信システムに於ける送信速度K[bit/sec]と、車輪速等検出値の情報量A[bit](一つの車輪速値を表すための信号量)から、
τ送信=A/K …(10)
により与えられる。Kの値は、送受信中に得ることができ、Aの値は、送受信の完了時に得られる。
信号処理時間τ信号処理は、図2に関連した説明に於いて触れた如き先行車からの車輪速等の情報に含まれる外乱以外の成分(DC成分、ピッチ・バウンス振動に寄与しない成分)、即ち、制振制御に使用しない成分を車輪速等の値から除去するフィルタ処理に要する時間と、車輪トルク推定・補償成分の算定に要する時間との和である(一般には、信号のHPF又はLPF処理がより多くの処理時間を必要する。)。かかる信号処理時間τ信号処理は、典型的には、信号処理量から推定されるので、処理されるべき信号量から予め決定されていてよい。或いは、先行車からの一つの車輪速等の検出値の受信完了時から車輪トルク補償成分の算出までの時間を計測することにより与えられてもよい。
更に、実現系応答時間τ応答は、上記の如く、駆動装置が制御指令を受容してから車輪トルクの調節に要する応答時間であり、かかる応答時間は、エンジンの場合には、エンジン回転数と発生トルクとにより決定することができる。従って、予め、エンジン回転数と発生トルクとを入力パラメータとする応答時間のマップが準備され、エンジン回転数と発生トルクの実際値からマップより応答時間が取得されるようになっていてよい。
作動に於いて、先行車プレビュー制御が実行される場合には、上記から理解される如く、先行車の車輪速等の検出値が、LPF・HPF55を透過した後、車輪トルク推定器52cへ入力され、更に、車輪トルク推定値がフィードバック制振制御部52bに入力されて車輪トルク補償成分が算定される。出力遅延器54aは、車輪トルク補償成分を受信したとき、時間τ送信+τ信号処理前の先行車との距離Lと自車の車速Vsとからτ移動を算出し、トルク実現までの残り時間τ残り
τ残り=τ移動−(τ送信+τ信号処理) …(11)
を算定する。かかる残り時間τ残りは、算定後、時間とともに減少する時間値であり、即時のエンジン回転数とエンジントルク値とから与えられる実現系応答時間τ応答と比較され、
残り時間τ残り≦実現系応答時間τ応答 …(12)
が成立した時点で、車輪トルク補償成分が(制御ゲイン乗算器52d)を経て、エンジン制御指令決定部53へ送信される。かくして、式(9)で与えられる制御遅延時間にて、車輪トルク補償成分が遅れてエンジン制御指令決定部53へ送信されることとなる。
出力遅延器54aの具体的な構成は、上記の作動を実現するよう電子制御装置に於いて適宜構成されたプログラムにより達成されてよい。例えば、車輪トルク補償成分は、逐次的に出力遅延器に到来するので、車輪トルク補償成分の各値は、その補償成分に固有の残り時間τ残りに関連付けられて、一旦メモリに格納される。メモリに格納された残り時間τ残りは、時々刻々と低減するよう更新されるとともに、それぞれについて、条件(12)が成立するか否かが判定され、条件(12)が成立した残り時間の値に関連付けられた車輪トルク補償成分が送信されるようになっていてよい。また、既に述べた如く、本発明の制御装置は、ディジタル処理であるので、所定の制御サイクル時間毎に処理が進行する。従って、上記の各時間を制御サイクル時間Tcにより除した値、即ち、制御サイクル回数を参照して、
残り時間τ残り/Tc<実現系応答時間τ応答/Tc+1 …(12a)
が成立したときに車輪トルク補償成分が送出されるようになっていてもよい。右辺に1が加算されているのは、両辺が整数となるためである。
なお、先行車プレビュー制御が実行されない場合(プレビュー判定部からプレビュー制御の中止の指示を受けたとき)には、上記の如く、自車両の車輪速等を用いたフィードバック制振制御が実行される(或いは、外乱に対する制振制御が中止される)。その場合には、出力遅延器は、車輪トルク補償成分を遅延させることなく送信する(素通しする)。
ところで、上記の例では、制御遅延時間の決定に於いて考慮されるべき例として、τ送信、τ信号処理、τ応答の各時間が挙げられているが、長さの短いものは考慮しなくてもよい(図5(B)は、説明のため、各時間を誇張した長さで示している。)。現在の一般的な車両のピッチ・バウンス振動の制振制御に於いて、ピッチ・バウンス振動の共振周波数は、1〜2Hz程度であり、この程度の振動の場合、従前のフィードバック制振制御を実行しても、実現系応答時間τ応答の遅れは問題にならないほど小さいことが分かっている(制御が間に合う。)。しかしながら、本発明の上記のプレビュー制御の制御手法によれば、実現系応答時間τ応答だけではなく、HPF等の周波数弁別処理等の処理時間を、制御遅延時間の調節によって“吸収”することが可能となり(処理時間が長くなれば、制御遅延時間を短くすればよい。)、従って、より精密な車輪トルク推定・補償成分の算出を実行する時間が与えられる点で有利である。また、ピッチ・バウンス振動の共振周波数よりも高い共振周波数を有する種々の車体振動(駆動系の振動、エンジンのシェーク振動など)を制振する場合には、従前のフィードバック制振制御では、制御が間に合わない場合があるが、本発明によるプレビュー制御によれば、制御遅延時間を調節することにより、外乱の発生又はその振動変位の変化に間に合うように制駆動力又は車輪トルクを制御することが可能となることは理解されるべきである。更に、制御遅延時間の決定に於いて考慮すべき時間は、上記以外のものであってもよいことは理解されるべきであり、そのような場合も本発明の範囲に属する。
(c)制御ゲインの調節−制御ゲイン調節器の構成及び作動
出力遅延器54aから送出される車輪トルク補償成分は、加算器a2にて要求駆動トルクに重畳される前に、制御ゲイン乗算器52dに通されて、その寄与の調節が行われる(図示していないが、フィードフォワード制振制御の出力にも同様の制御ゲイン乗算器が設けられていてよい。)。かかる制御ゲイン調節器52dでは、制振制御の補償成分Uに、制御ゲインλが乗算され、
λ・U …(13)
が加算器a2へ送出される。制御ゲインλの値は、通常、駆動装置に無理な要求を送出しないように出力を制限するために調節される。しかしながら、本発明に於いて、先行車プレビュー制御が実行される場合には、更に、先行車の車輪速等を用いて与えられる車輪トルク補償成分を自車両の制振制御に適合するために、制御ゲイン調節器54cにより、下記の態様にて制御ゲインλが算定され、その結果の制御ゲインλが式(13)の制御ゲイン乗算器52dに於ける乗算処理に用いられる。
具体的には、制御ゲイン調節器54cに於いて、制御ゲインλは、
λ=λ車速差・λ車輪径・λo …(14)
により与えられる。ここで、λoは、基本値であり、通常は、λo=1に設定されるが、任意の理由により、λo<1に設定されてもよい。
上記の制御ゲインλの因子のうち、λ車速差は、先行車と自車との車速の違いによる外乱の作用の大きさを補正するためのものである。本発明の発明者による研究によれば、或る車両が或る外乱の作用を受けたとき、例えば、或る車両が路面上の突起上を通過したとき、それによる車輪速又は車輪トルクの変動量は、車速に依存して変化することが見出された。従って、先行車の車輪速等の情報を用いて、自車両の将来の車輪トルクを推定し、その推定された車輪トルクに基づいて制振制御を実行する際、自車両が先行車と同様の外乱の作用を受けたとしても、先行車の車速が自車両のものと異なる場合には、先行車の車輪速等の変動量が、自車両で実際に発生する変動量と異なり、従って、車輪トルク補償成分の大きさにずれが生じ得ることとなる。そこで、本発明に於いては、先行車の車輪速等を用いて算出された車輪トルク補償成分を先行車の車速と自車の車速とに基づいて補正し、算出された車輪トルク補償成分が自車の制振制御に適合したものにすることが試みられる。
より詳細には、制御ゲインλ車速差は、
λ車速差=νv(自車)/νv(先行車) …(15)
により与えられてよい。ここで、νv(自車)、νv(先行車)は、それぞれ、自車両及び先行車の車速の関数として決定される「制御ゲイン係数」であり、図8のマップにより与えられる。同図のマップの制御ゲイン係数νvは、要すれば、車両に或る外乱を作用させたときに生ずる車輪トルク補償成分の大きさであり、実験的に又は理論的に与えられてよい。制振制御の実行中に於いては、制御ゲイン調節器54cでは、自車の車速Vsと、送出されるべき車輪トルク補償成分の基となる先行車の車輪速等の発生時の先行車の車速、即ち、時間(τ遅延+τ送信+τ信号処理)前の車速が参照され、それぞれの車速に対応する制御ゲイン係数νv(自車)、νv(先行車)がマップから選択される。そして、制御ゲインλ車速差が上記の式(15)により与えられてよい。
上記の制御ゲインλの因子のうち、λ車輪径は、先行車と自車との車輪径(ここで、車輪径は、駆動輪径である。)の違いによる外乱の作用の大きさを補正するためのものである。車速の違いの場合と同様に、本発明の発明者による研究によれば、或る車両が或る外乱の作用を受けたとき、例えば、或る車両が路面上の突起上を通過したとき、それによる車輪速又は車輪トルクの変動量は、車輪径に依存して変化することが見出された。従って、先行車の車輪速等の情報を用いて制振制御を実行する際、先行車の車輪径が自車両のものと異なる場合には、先行車の車輪速等の変動量が、自車両で実際に発生する変動量と異なり、従って、車輪トルク補償成分の大きさにずれが生じ得ることとなる。そこで、本発明に於いては、上記の先行車と自車との車速に違いがある場合と概ね同様の手法にて、先行車の車輪速等を用いて算出された車輪トルク補償成分を先行車の車輪径と自車の車輪径とに基づいて補正し、算出された車輪トルク補償成分が自車の制振制御に適合したものにすることが試みられる。
より詳細には、制御ゲインλ車輪径は、
λ車輪径=νr(自車)/νr(先行車) …(16)
により与えられてよい。ここで、νs(自車)、νs(先行車)は、それぞれ、自車両及び先行車の車輪径の関数として決定される制御ゲイン係数であり、図9(A)のマップにより与えられる。同図のマップの制御ゲイン係数νsは、要すれば、車両に或る外乱を作用させたときに生ずる車輪トルク補償成分の大きさであり、実験的に又は理論的に与えられてよい。ただし、車輪径は、車速の如く、時々刻々と変化する値ではない。従って、基本的には、先行車プレビュー制御の実行が指示された段階で、先行車の車輪径は、先行車との車車間通信より、自車の車輪径は、電子制御装置内に記憶されている諸元の値を取得し、それぞれの車輪径の値を入力として図9(A)のマップより制御ゲイン係数νsを決定することにより、制御ゲインλ車輪径が決定されてよい。
しかしながら、車両の車輪径は、使用者によるタイヤ交換により変更されている場合があり、その変更後の値が各車両の電子制御装置内の諸元の値に反映されていない場合がある。そのような場合に備えて、本発明の装置に於いては、制御ゲイン調節器54cにて、車両の走行中に、先行車と自車両の車輪径を検出し、その検出値から制御ゲインλ車輪径が決定されるようになっていてよい。図9(B)は、かかる制御ゲインλ車輪径の決定処理をフローチャートの形式にて表したものである。同図を参照して、制御ゲインλ車輪径の決定処理では、まず、先行車が在るか否かが判定される(ステップ200)。なお、ここで、先行車プレビュー制御が実行されているか否かが判定されるようになっていてよい。先行車が在る場合には、自車と先行車の車速差が所定値ΔVsより小さいか否か、即ち、自車と先行車の車速が概ね一致するか否かが判定される(ステップ220)。かかる条件が参照されるのは、車輪径の決定及び制御ゲイン係数の選択に於いて、車速のずれによる誤差を排除するためである(従って、制御ゲインλ車輪径の値の設定又は変更は、常時ではなく、自車と先行車の車速差が所定値ΔVsより小さいときのみ実行されることとなる。)。
かくして、自車と先行車の車速が概ね一致すると判定されると、各車両の車輪速の取込と周波数解析が実行される(ステップ220)。ここでは、図9(C)に模式的に示されている如く、車輪速のFFTによる周波数解析が実行され、車輪速のパワースペクトルが算出される。そして、その算出されたスペクトルに於いて、車輪速の回転一次成分の周波数の検出(通常、回転一次成分は、スペクトル中のピークとして現れるので、任意の公知のピーク検出法により、検出可能である。)が実行される。回転一次成分は、車輪が一回転する毎に発生する車輪速の変動であるので、その周波数Fは、回転数に相当し、車輪径rは、
r[m]=Vs[km/hours]/(3.6[k・hour/sec]×2πF[Hz]) …(17)
として与えられる。そして、自車両と先行車とのそれぞれについて、式(17)により車輪径が算出されると、上記の図9(A)のマップを用いて、制御ゲイン係数がそれぞれ決定され、式(16)により、制御ゲインλ車輪径が決定される。
なお、上記の式(14)の制御ゲインλの各因子は、λoを除き、使用者又は設計者の選択により、任意に考慮されればよく、全てを制御ゲインλの値に反映させなくてもよい。また、車速差又は車輪径差以外の要因によって先行車プレビューによる補償成分の誤差を補正するための制御ゲイン因子が乗算されるようになっていてもよい。プレビュー判定部にてプレビューが可能ではないと判定される場合には、式(14)の演算は、実行されず、制御ゲインλを低減するようになっていてよい。特に、λ=0と設定されてもよく、その場合には、外乱に対する制振制御が完全に中止されることとなる。
かくして、上記までの説明により、先行車プレビュー制御の実行時には、自車に外乱が発生するのに先立って、その発生が予測され、その発生時期に合わせて外乱の影響による振動の発生又は起振力を相殺又は低減するよう制駆動力制御又は車輪トルク制御が実行可能となる。
また、上記の実施形態に於いて、プレビュー判定部が設けられることにより、先行車プレビュー制御の実行の可否が判定され、その判定により、先行車プレビュー制御による制振制御と通常のフィードバック制振制御とを選択的に実行できるようになっている場合には、適当な先行車が存在しなくても、制振制御が継続されることは理解されるべきである。更に、別の態様として、自車が先行車の軌跡を追従しておらず、適切な先行車プレビュー制御による制振制御が実行できないと判定される場合(図6(A)のステップ130)、更に、先行車の前方を走行する車両(先々行車)又は更にその先を走行する車両の中から、適切な先行車プレビュー制御が達成可能な車両を検索するようになっていてもよい。
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。
例えば、上記の実施形態に於ける制振制御は、運動モデルとしてばね上又はばね上・ばね下運動モデルを仮定して最適レギュレータの理論を利用した制振制御であるが、本発明の概念は、車輪トルクを利用するものであれば、ここに紹介されているもの以外の運動モデルを採用したもの或いは最適レギュレータ以外の制御手法により制振を行うものにも適用され、そのような場合も本発明の範囲に属する。本発明の車輪トルク外乱の先行車プレビューによる制振制御の制御思想は、ピッチ・バウンス振動だけでなく、駆動系の振動、エンジンのシェーク振動等の駆動輪に於ける車輪トルクの変動に起因して或いは車輪トルクに現れる種々の振動の制振制御に於いても適用可能であり、そのような場合も本発明の範囲に属すると理解されるべきである。更に、制振制御の修正は、例示されている以外の方法・アルゴリズムにより実行されてもよく、そのような場合も本発明の範囲に属すると理解されるべきである。
図1は、本発明による制振制御装置の好ましい実施形態が実現される自動車の模式図を示している。 図2は、図1の電子制御装置の内部構成を制御ブロック図の形式で表したものである。先行車情報受信部、レーダー、GPS装置は、それぞれ、電子制御装置内に信号処理装置を有し、本発明の制御に必要な情報又は信号を適宜出力するよう構成されている。図示していないが、各制御部に於いて必要なパラメータは、適宜入力される。 図3Aは、本発明の好ましい実施形態の一つである駆動制御装置の制振制御部の作動に於いて抑制される車体振動の状態変数を説明する図である。図3Bは、本発明の好ましい実施形態の制振制御部に於いて仮定される車体振動の力学的運動モデルの一つである「ばね上振動モデル」について説明する図であり、図3Cは、「ばね上・ばね下振動モデル」について説明する図である。 図4は、本発明の好ましい実施形態に於ける制振制御部の構成を制御ブロック図の形式で表した図である。図4A及び4Bは、それぞれ、図2のフィードフォワード制振制御部52a、フィードバック制振制御部52bの構成である。 図5Aは、本発明に於いて先行車プレビュー制御を実行する際の自車両と先行車との位置の関係を示した模式図である。車間距離は、実際よりも縮小して描かれている。図5Bは、先行車の車輪速等の情報が自車に送信され、その車輪速に基づく車輪トルク補償成分が自車に於いて実現されるまでの時間経過を表したものである。 図6は、本発明の先行車プレビュー制御の実行の可否を判定するプレビュー判定部の制御処理作動をフローチャートの形式にて表したものである。 図7Aは、図6のプレビュー判定部に於ける自車と先行車との車輪速の位相のずれを検出するための制御構成をブロック図の形式で表したものである。図7Aの処理は、図6の制御処理とは、独立に実行されてよい。図7Bは、図7Aに於いて処理される車輪速の時間変化を模式的に表したものである。同左図の各車両の車輪速は、BPF処理されてその変動成分のみが抽出され、その変動成分の零点通過により、両者の位相のずれ量が検出される。 図8は、制御ゲインの決定に用いられる車速の関数として制御ゲイン係数を決定するためのマップをグラフの形式にて表した図である。 図9Aは、制御ゲインの決定に用いられる車輪径の関数として制御ゲイン係数を決定するためのマップをグラフの形式にて表した図である。図9Bは、車両の走行中に車両の車輪径を検出して制御ゲインを決定するための制御ゲイン調節器の制御処理の一部をフローチャートの形式に表したものである。図9Cは、図9Bのステップ220の車輪速値を周波数解析して、車輪径を算出する過程を説明する図である。
符号の説明
10…車体
12FL、FR、RL、RR…車輪
14…アクセルペダル
20…駆動装置
30FL、FR、RL、RR…車輪速センサ
32…Gセンサ
50…電子制御装置
70…車車間通信システム
72…GPS装置
74…車載レーダー装置又はソナー装置

Claims (9)

  1. 車両の車輪と路面との接地個所に於いて発生する車輪トルクを制御することにより前記車両の車体振動を抑制する車両の制振制御装置であって、前記車両の前方を走行する先行車から該先行車の車輪速若しくは車輪回転速、エンジン回転数、タービン回転速又は変速機回転速の値を表す情報のうちの少なくとも一つを受信する情報受信部と、前記情報を用いて前記車両の車輪トルク推定値を推定し、前記車輪トルク推定値に基づいて前記車体振動の振幅を抑制するよう前記車両の車輪トルクを補償する車輪トルク補償成分を算定して該車輪トルク補償成分を用いて前記車輪トルクを制御する制振制御部とを含むことを特徴とする装置。
  2. 請求項1の装置であって、前記制振制御部による前記受信された先行車の情報を用いた前記車両の車輪トルク推定値の推定、前記車輪トルク推定値に基づく前記車輪トルク補償成分の算定及び該車輪トルク補償成分を用いた前記車輪トルクの制御が、前記先行車が前記車両の位置にいたときの先行車の車輪速と前記車両の車輪速との位相差が所定値を下回るときに、実行されることを特徴とする装置
  3. 請求項1又は2の装置であって、前記車体振動が前記車体のピッチ又はバウンス振動、前記車両の駆動系振動又は前記車両のエンジンのシェーク振動であることを特徴とする装置。
  4. 請求項1又は2の装置であって、前記情報受信部が前記車両と前記先行車との車車間通信により前記先行車からの前記情報を受信することを特徴とする装置。
  5. 請求項1又は2の装置であって、前記制振制御部が、前記車輪トルク補償成分の算定に用いた前記先行車の情報の発生時の前記先行車の位置に前記車両が到達するときに前記情報により推定された前記車輪トルク推定値に基づいて算定された前記車輪トルク補償成分が前記車輪に於いて反映されるよう前記車輪トルクの制御を実行することを特徴とする装置。
  6. 請求項の装置であって、前記制振制御部による前記車輪トルクの制御実行時が、前記先行車と前記車両との相対距離と前記車両の車速とに基づいて決定される制御遅延時間により決定されることを特徴とする装置。
  7. 請求項の装置であって、前記制御遅延時間が、前記先行車の情報の発生時から該情報の発生時の前記先行車の位置に前記車両が到達する時までの時間から前記先行車から送信される前記情報の情報量と送信速度とに基づいて決定される情報送信時間を差し引いた値により決定されることを特徴とする装置。
  8. 請求項6又は7の装置であって、前記制御遅延時間が、前記先行車の情報の発生時から該情報の発生時の前記先行車の位置に前記車両が到達する時までの時間から前記車両の制駆動力発生装置が制御指令を受容してから車輪トルクの調節に要する制駆動力発生応答時間を差し引いた値により決定されることを特徴とする装置。
  9. 請求項6乃至8のいずれかの装置であって、前記情報受信部が、前記先行車からの前記情報から前記車輪トルク補償成分の算定に不用な成分を除去するフィルタ処理を行うフィルタ処理部を含み、前記制御遅延時間が、前記先行車の情報の発生時から該情報の発生時の前記先行車の位置に前記車両が到達する時までの時間から前記フィルタ処理部に於ける前記フィルタ処理に要するフィルタ処理時間を差し引いた値により決定されることを特徴とする装置。
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