JP4983549B2 - ディーゼルエンジン車両の制振制御を行う駆動制御装置 - Google Patents

ディーゼルエンジン車両の制振制御を行う駆動制御装置 Download PDF

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Description

本発明は、自動車等の車両の駆動制御装置に係り、より詳細には、ディーゼルエンジン車両の駆動出力(駆動力又は駆動トルク)を制御して車体の振動を抑制する制振制御機能を有する駆動制御装置に係る。
車両の走行中のピッチ・バウンス等の振動は、車両の加減速時に車体に作用する制駆動力(若しくは慣性力)又はその他の車体に作用する外力により発生するところ、それらの力は、車輪(駆動時には、駆動輪)が路面に対して作用している「車輪トルク」(車輪と接地路面上との間に作用するトルク)に反映される。そこで、車両の制振制御の分野に於いて、車両のエンジン又はその他の駆動装置の駆動出力制御を通して車輪トルクを調節して、車両の走行中に於ける車体の振動を抑制することが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。かかる駆動出力制御による振動の制振制御に於いては、所謂車体のばね上振動又はばね上・ばね下振動の力学的モデルを仮定して構築された運動モデルを用いて、車両の加減速要求があった場合又は車体に外力(外乱)が作用して車輪トルクに変動があった場合に車体に生ずるピッチ・バウンス振動を予測し、その予測された振動が抑制されるように車両の駆動装置の駆動出力が調節される。このような形式の制振制御の場合、サスペンションによる制振制御の如く発生した振動エネルギーを吸収することにより抑制するというよりは、振動を発生する力の源を調節して振動エネルギーの発生が抑えられることになるので、制振作用が比較的速やかであり、また、エネルギー効率が良いなどの利点を有する。また、上記の如き制振制御に於いては、制御対象が車輪トルク又は車輪の制駆動力に集約されるので、制御の調節が比較的に容易である。
特開2004−168148 特開2006−69472 特開2000−170576 特開2006−63824
上記の駆動出力制御による制振制御が実行されると、駆動装置の出力は、車両のピッチ・バウンス振動を抑制するよう車輪トルクを制御すべく、通常の場合よりも頻繁に振動的に変動されることとなる。この点に関し、車両の駆動装置がディーゼルエンジンである場合、前記の如き制振制御による振動的な出力の変動があると、エンジンの「気筒間回転ばらつき補正制御」が良好に実行されない場合があることが見出された。
ディーゼルエンジンに於ける「気筒間回転ばらつき補正制御」とは、多気筒エンジンの気筒毎の回転速度又は回転出力のばらつきを抑制するべく、各気筒の燃料噴射量を調節する補正制御である。多気筒エンジンの場合、容易に理解される如く、気筒毎の燃焼状態が不均一であると、エンジンの回転速度又は出力にむらが生じ、このことがエンジン振動の発生要因の一つとなる。特に、ディーゼルエンジンは、一般的に、ガソリンエンジンに比べて相対的に振動が大きくなる傾向があるので、エンジンの製造又は調整時に、各気筒の燃焼状態の均一化が図られるだけでなく、エンジンの運転中にも気筒毎の回転速度又は回転出力を監視して、気筒毎の回転速度又は回転出力のばらつきの抑制するよう各気筒の燃料噴射量の学習補正が実行される場合がある。この「気筒間回転ばらつき補正制御」によれば、エンジンの使用開始後の経年劣化等に起因するエンジンの回転速度又は出力のばらつき又はむらが是正され、エンジン振動が良好に抑制されることが期待される(例えば、特許文献3、4参照)。
上記の如きディーゼルエンジンの「気筒間回転ばらつき補正制御」は、一般的には、エンジンの運転状態が定常状態にある場合或いは車両が定速走行状態にある場合が検出され(定常走行判定)、その定常走行状態に於ける各気筒の回転速度のばらつきが抑制されるように各気筒の燃料噴射量がそれぞれ補正される。しかしながら、駆動装置の駆動出力に、冒頭に述べた車両のピッチ・バウンス制振のための駆動出力制御による補償成分(駆動出力に於けるピッチ・バウンス振動を低減又は相殺するための修正量)が重畳している場合には、その補償成分による駆動出力の振動的な変化によって、車両が実質的に定常走行状態にあったとしても、その判定が為されない場合がある。また、駆動出力又はそのための制御指令に於いてピッチ・バウンス制振制御による補償成分が重畳していると、現在の設定されている各気筒の燃料噴射量に対応する回転速度又は出力が正確に把握されず、気筒間の回転速度又は出力のばらつきを是正するための燃料噴射量の補正の精度も悪化してしまう可能性がある。従って、気筒間回転ばらつき補正制御が確実に且つ精度よく実行されるためには、制振制御の補償成分を低減する必要があるが、そうなると、折角の制振効果が低減してしまうこととなる。
かくして、本発明の一つの課題は、駆動装置がディーゼルエンジンである車両に於いて、ピッチ・バウンス制振制御が実行されるよう構成されている場合に、上記の如き気筒間回転ばらつき補正制御が良好に実行できるようにすることである。
また、本発明のもう一つの課題は、駆動装置がディーゼルエンジンである車両に於いて、ピッチ・バウンス制振制御と気筒間回転ばらつき補正制御とが実行されるよう構成された駆動制御装置であって、気筒間回転ばらつき補正制御の精度がピッチ・バウンス制振制御の実行によって悪化されないよう構成された駆動制御装置を提供することである。
本発明によれば、ディーゼルエンジンを駆動装置とする車両のピッチ・バウンス制振制御のための駆動出力制御を実行する形式の駆動制御装置であって、気筒間回転ばらつき補正制御が、或る特定の車両の運転状態のときに実行されるようにするとともに、気筒間回転ばらつき補正制御が実行され得る運転状態のときには、駆動出力に於けるピッチ・バウンス制振制御の寄与を低減するか又はピッチ・バウンス制振制御の作動を停止し、これにより、気筒間回転ばらつき補正制御が良好に実行されるよう構成された駆動制御装置が提供される。
本発明の一つの態様に於いて、車両の駆動出力を制御して車両のピッチ又はバウンス振動を抑制する制振制御を実行する車両のディーゼルエンジンの駆動制御装置は、車両の車輪と路面との接地個所に於いて発生する車輪に作用する車輪トルクに基づいてピッチ又はバウンス振動振幅を抑制するようエンジンの駆動トルクを制御する制振制御部と、車両の定常走行時にエンジンの気筒間の回転速度又は出力のばらつきを抑制する気筒間補正制御部と、車両が定常走行状態であるか否かを判定する定常走行判定部とを含んでいる。そして、定常走行判定部は、車両が所定の運転状態にあるときに、車両が定常走行状態であるか否かの判定を実行し、その際、制振制御部が、制振制御のための車輪トルクを補償する補償成分を低減することを特徴とする。なお、上記の構成に於いて、「定常走行状態」とは、既に触れた通り、車速又はその目標値が略一定に保たれている状態又はエンジンの作動状態又はそのための制御指令値が略一定に保たれている状態のことである。また、気筒間補正制御部による気筒間の回転速度又は出力のばらつきの抑制制御は、典型的には、エンジンの各気筒の回転速度に基づいて各気筒の燃料噴射量を学習補正するものであってよいが、これに限定されず、公知の任意の手法の「気筒間回転ばらつき補正制御」であってよく、燃料の噴射率、噴射時期、噴射圧力等の各気筒の回転出力に影響を与える因子を学習補正するものであってもよい(ここで、「学習補正」とは、各気筒の回転速度、トルク又は出力を監視し、気筒間の回転速度、トルク又は出力のばらつきが無くなるように、各気筒の燃料噴射量等のパラメータの設定を変更することを意味としている。)。
更に、上記の「補償成分を低減すること」には、補償成分を0にする、即ち、制振制御の実行を中止する場合も含むものと理解されるべきである。かかる補償成分の低減は、補償成分の制御ゲインを低減することにより実行されてもよい。もっとも、その場合、補償成分の制御ゲインは0に設定されてよいが、0より大きい値に設定しておくことにより、たとえ気筒間回転ばらつき補正制御のための定常走行状態の判定をするべき運転状態であっても、大きなピッチ・バウンス振動を惹起する車輪トルク変動がある場合には、定常走行状態の判定を凌駕して、制振効果を或る程度発揮させることが可能となる。なお、補償成分の低減は、その他の手法、例えば、制振制御部への入力(運転者による加減速要求に対応する車輪トルク又は車輪トルクの実測値若しくは推定値)のゲインを低減することによって、又は、入力を遮断することによってなされてもよい。
上記の構成によれば、気筒間の回転ばらつきの補正制御の実行のための定常走行状態の判定が実行される場合には、駆動出力制御によるピッチ・バウンス制振制御による補償成分が低減されることとなるので、定常走行状態の判定が精度よく実行できることとなり、「気筒間回転ばらつき補正制御」が適時に実行されるようになる。換言すれば、本発明に於いては、制振制御の寄与を或る特定の時期に於いて低減して、その間に、定常走行状態判定を精度よく行い、気筒間回転ばらつき補正制御を適切に実行するとともに、制振制御の性能を常時下げる必要がないように、車両の運転状態に応じて、駆動制御装置に於ける各制御の実行の時期の調整が行われる。
上記の本発明の装置に於いて、気筒間回転ばらつき補正制御が実行されることとなる車両の所定の運転状態は、一つの態様に於いては、エンジンがPM再生モード又はS再生モードにて運転されている状態であるときであってよい。ここで、PM再生モードとは、PM、即ち、エンジンの排気ガスに含まれる粒子状物質(Particulate Matter)を吸着するための排気ガスフィルタの浄化(PMの燃焼)が実行される運転モードであり、その際には、エンジンの温度が所定の温度範囲にあり且つエンジン回転数と燃料噴射量とがそれぞれ所定の範囲になるようエンジンの運転状態が調整される。一方、S再生モードとは、排気系に備えられるPM還元式の触媒やNOx吸蔵式の触媒に吸着したSOxを還元し、SOとして吐出する運転モードであり、その際には、エンジンの温度が所定の温度範囲にあり且つ空燃比がリッチであるようエンジンの運転状態が調整される。従って、かかるPM再生モード又はS再生モードの実行中には、エンジンの駆動出力は、駆動出力の変動をできるだけ抑制し安定させることが望ましい。即ち、PM再生モード又はS再生モードに於いては、それぞれの目的を達成するためには、制振制御の実行は、控えるべきであるということとなる。また、PM再生モード又はS再生モードは、典型的には、定期的に、例えば、所定の走行距離毎に実行される運転モードである。そこで、本発明の駆動制御装置に於いては、制振制御の実行が控えられるべきPM再生モード又はS再生モードの実行中に於いて、気筒間回転ばらつき補正制御を実行するよう設定し、その間、制振制御の補償成分の低減又は制振制御の実行の中止をして、これにより、制振制御の制御効果が低減される期間をできるだけ抑えつつ、気筒間回転ばらつき補正制御が定期的に実行できるようになっていてよい。
また、上記の本発明の装置に於いて、気筒間回転ばらつき補正制御が実行されることとなる車両の所定の運転状態は、別の態様に於いては、車両が有段変速機を有している場合には、有段変速機が所定の変速段にて作動している状態であってよい。即ち、有段変速機の変速段が或る特定の変速段にあるときには、制振制御の補償成分の低減又は制振制御の実行の中止をし、気筒間回転ばらつき補正制御の適切な実行が保証されることとなる。気筒間の回転ばらつき補正は、エンジンの回転を平滑化するためのものであり、そこに於ける学習補正による噴射量の制御パラメータの補正量は、端的に言えば、エンジンの回転数と燃料噴射量によって決定されるエンジンの運転状態に応じて決定されればよい。即ち、いずれかの変速段に於いて学習補正により決定された補正量は、その決定時のエンジンの運転状態と同じ運転状態であれば、その他の変速段に於いても、概ね良好に適用できることとなる。従って、駆動制御装置に於いて、気筒間回転ばらつき補正制御を、車両の運転状態の全域に於いて実行するのではなく、或る特定の変速段のときに実行し、その間は、制振制御の駆動制御に対する寄与を低減するよう設定し、これにより、制振制御の制御効果が低減される期間をできるだけ抑えつつ、気筒間回転ばらつき補正制御が定期的に実行できるようになっていてよい。なお、制振制御は、車速が低いときには、さほどに重要ではない場合が多いことから、気筒間回転ばらつき補正制御を実行するための変速段は、第1速から第3速までのいずれかから選択されてよい。
なお、上記の本発明の駆動制御装置の有利な構成は、車両のピッチ又はバウンス振動を抑制する車両の制振制御装置が、駆動制御装置と独立に構成されている場合にも同様にされてよい。従って、本発明によれば、もう一つの態様として、ディーゼルエンジン車両の駆動出力を制御して車両の車輪と路面との接地個所に於いて発生する車輪トルクを制御することにより車両のピッチ又はバウンス振動を抑制する車両の制振制御装置であって、車両の車輪と路面との接地個所に於いて発生する車輪に作用する車輪トルクに基づいてピッチ又はバウンス振動振幅を抑制するようエンジンの駆動トルクを制御する制振制御部を含み、エンジンがPM再生モード又はS再生モードにて運転されている状態であるときに、制振制御部が制振制御のための車輪トルクを補償する補償成分の大きさを低減することを特徴とする装置が提供される。
ディーゼルエンジンの気筒間回転ばらつき補正制御は、常に実行されなければならないわけではない。本発明では、そのことに鑑み、駆動出力制御によるピッチ・バウンス制振制御を実行するディーゼルエンジン車両の駆動制御装置に於いて、車両の運転状態に応じて、気筒間回転ばらつき補正制御を実行する場合と制振制御を実行する場合とを振り分けることにより、両者が干渉することが回避されるようになっている。気筒間回転ばらつき補正制御は、限定的な運転状態に於いては適切に実行されることとなるので、制振制御の駆動トルクの補償成分を常に低減しなくてもよくなる。かくして、ピッチ・バウンス制振制御を実行するディーゼルエンジン車両に於いても、気筒間回転ばらつき補正制御が適切に実行されるようになれば、エンジンの回転ばらつきによる振動の発生が抑制されることとなる(エンジンの気筒間の回転ばらつきが低減されると、ピッチ・バウンス振動の制振にも効果があることが見出されている。)。また、制振制御の補償成分が重畳した状態で無理に気筒間回転ばらつき補正を実行することが回避されるので、排気ガス状態又は燃費の悪化が回避されることとなる。
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。図中、同一の符号は、同一の部位を示す。
装置の構成
図1は、本発明の制振制御を実行する駆動制御装置の好ましい実施形態が搭載される自動車等の車両を模式的に示している。同図に於いて、左右前輪12FL、12FRと、左右後輪12RL、12RRを有する車両10には、通常の態様にて、運転者によるアクセルペダル14の踏込みに応じて後輪に駆動力又は駆動トルクを発生する駆動装置20が搭載される。駆動装置20は、図示の例では、エンジン22から、トルクコンバータ24、自動変速機26、差動歯車装置28等を介して、駆動トルク或いは回転駆動力が後輪12RL、12RRへ伝達されるよう構成される。エンジン22は、公知の態様のディーゼルエンジンであり、燃料装置22aの作動が、アクセルペダルの踏み込み量及び下記に説明する制御量に応じて決定される要求駆動トルクを達成するよう、エンジンの各気筒の燃料噴射装置22bからの燃料噴射量及び/又はその他のパラメータ(噴射時期、噴射率(単位時間当たりの燃料噴射量)、噴射圧力など。以下、総じて「燃料噴射制御量」と称する。)を調節すべく制御される。また、簡単のため図示していないが、車両10には、通常の車両と同様に各輪に制動力を発生する制動装置と前輪又は前後輪の舵角を制御するためのステアリング装置が設けられる。なお、車両は、四輪駆動車又は前輪駆動車であってもよい。
エンジン22の駆動出力の制御パラメータ(基本的には、各気筒への燃料噴射量を含む燃料噴射制御量)は、電子制御装置50の指令によって調節される。電子制御装置50は、通常の形式の、双方向コモン・バスにより相互に連結されたCPU、ROM、RAM及び入出力ポート装置を有するマイクロコンピュータ及び駆動回路を含んでいてよい。電子制御装置50には、各輪に搭載された車輪速センサ30i(i=FL、FR、RL、RR)からの車輪速Vwi(i=FL、FR、RL、RR)を表す信号と、車両の各部に設けられたセンサからのエンジンの回転速ne、アクセルペダル踏込量θa、エンジン冷却水温度(図示せず)、エンジン潤滑油温度(図示せず)、変速機の出力回転速no、潤滑油温度(図示せず)、運転者のシフトレバー位置等の信号が入力される。なお、上記以外に、本実施形態の車両に於いて実行されるべき各種制御に必要な種々のパラメータを得るための各種検出信号が入力されてよいことは理解されるべきである。
電子制御装置50は、図2に於いてより詳細に模式的に示されているように、エンジンの作動を制御する駆動制御装置50aと、制動装置(図示せず)の作動を制御する制動制御装置50bとを含み、更に、変速機制御装置50c等の公知のディーゼルエンジン車両の電子制御装置に装備される各種の制御装置から構成されてよい。なお、駆動制御装置等の各種の制御装置の構成及び作動は、車両の運転中、電子制御装置50内のマイクロコンピュータ等の処理作動に於いて実現されることは理解されるべきである。
まず、制動制御装置50bには、図示の如く、各輪の車輪速センサ30FR、FL、RR、RLからの、車輪が所定量回転する毎に逐次的に生成されるパルス形式の電気信号が入力され、かかる逐次的に入力されるパルス信号の到来する時間間隔を計測することにより車輪の回転速が算出され、これに車輪半径が乗ぜられることにより、車輪速値r・ωが算出される。そして、その車輪速値r・ωは、後に詳細に説明する制振制御を実行するために、駆動制御装置50aへ送信されて、車輪トルク推定値の算出に用いられる。なお、車輪回転速から車輪速への演算は、駆動制御装置50aにて行われてもよい。その場合、車輪回転速が制動制御装置50bから駆動制御装置50aへ与えられる。また、簡単のため図示していないが、変速機制御装置50cには、車輪速値等から任意の手法で算出される車速、エンジン回転数ne、変速機出力回転数no、各装置の温度等の情報が入力され、変速機の変速段等が制御される。
駆動制御装置50aは、アクセルペダル踏込量θaに基づいて運転者の要求するエンジンの要求駆動トルクを決定する要求駆動トルク決定部51と、駆動トルク制御による車体のピッチ/バウンス振動制振制御を実行するための要求駆動トルク補償成分を算出して要求駆動トルクを修正する制振制御部52とを含んでいる。ピッチ/バウンス振動制振制御に於いては、後でより詳細に説明される如く、(1)駆動輪に於いて路面との間に作用する力による駆動輪の車輪トルク推定値の算出、(2)車体振動の運動モデルによるピッチ/バウンス振動状態量の演算、(3)ピッチ/バウンス振動状態量を抑制する車輪トルクの補償成分(修正量)の算出とこれに基づく要求駆動トルクの補償が実行される。そして、制振制御部52により補償された要求駆動トルクの指令値は、その要求駆動トルクを達成するエンジン又は燃料装置の各部の駆動器(図示せず)の制御指令を決定するためのエンジン制御指令決定部53へ送られる。
エンジン制御指令決定部53に於いては、エンジンに於いて要求駆動トルクを実現する燃料噴射量及びその他の燃料噴射制御量を決定する燃料噴射制御指令決定部53aと、気筒間回転ばらつき補正制御のための定常走行判定部54a及び補正量演算部54と、排気ガス中のPM、NOx、SOx等の成分を除去するための排気フィルタ又は触媒装置の再生を実行するための種々のエンジンの運転モードの実行の決定を行う運転モード決定部55とが含まれる。燃料噴射制御指令決定部53aは、要求駆動トルクと、そのときのエンジン回転数及び/又はエンジン温度を参照して、予め実験的に又は理論的に定められたマップを用いて、公知の態様にて、燃料噴射量及びその他の燃料噴射制御量の目標値を決定し、しかる後に、かかる目標値を達成するためのエンジン又は燃料装置の各部の駆動器(図示せず)の制御指令の決定及び各駆動器への制御指令の送信を行う。
定常走行判定部54aと補正量演算部54は、「発明の開示」の欄に於いて述べた如き、「気筒間回転ばらつき補正制御」、即ち、エンジン22の運転状態が定常状態にある場合或いは車両10が定速走行状態にある場合を検出すると、気筒毎の回転速度(回転トルクであってもよい。)を検出して、かかる回転速度の大きさ及び変化の態様が全気筒に亙って均等になるよう燃料噴射制御量を調節する制御を実行する。かかる補正制御に於いては、まず、車両が定常走行状態にあるか否かの判定が、定常走行判定部54aにより、公知の任意の態様にて行われる。具体的には、例えば、車速、燃料噴射量の実行量、燃料噴射実行時の燃料噴射制御量、エンジン回転速及び温度等の任意に選択されてよいエンジンの運転状態の指標値を参照し、各指標値の変化量が、所定の期間以上、所定の範囲内に収まっている場合に、車両が定常走行状態にあると判定されてよい。そして、車両が定常走行状態にあると判定された際には、補正量演算部54に於いて、公知の任意の態様にて各気筒の燃料噴射制御量の補正量が算出される。例えば、まず、気筒毎に検出された回転速度の最大値と最小値との差が全気筒で均等になるよう燃料噴射量の増減量が算出され、かかる増減量により、燃料噴射制御指令決定部53aで用いられる、要求駆動トルクとエンジン回転数及び/又は温度を入力変数とする燃料噴射量のマップの値が修正されるようになっていてよい(従って、入力変数に対する燃料噴射量は、気筒毎に決定される。)。
運転モード決定部55は、既に触れた通り、エンジンの排気ガス中に含まれる大気中に排出すべきない成分、PM、NOx、SOx等を除去するためのフィルタ又は触媒装置を再生するための運転モードにて、エンジンを運転するよう指令を与える制御部である。本実施形態は、少なくともPM再生モードと、S再生モードとが実行されるよう構成される。運転モード決定部55は、車両の走行中、定期的に、例えば、車両が所定距離走行する度に、PM再生モード又はS再生モードの実行を決定するよう、走行距離を監視し、これらのモードを実行する際には、燃料噴射制御指令決定部53aにモード実行指令を与える。燃料噴射制御指令決定部53aは、PM再生モード又はS再生モードの実行指令を受信すると、エンジンの運転条件を、各々の再生モードに適合する範囲となるよう燃料噴射量又は燃料噴射制御量を調整し(図5(A)、(B)及びその説明を参照)、これにより、PM再生モード又はS再生モードが実行される(PM再生モードとS再生モードとに於ける具体的な実行の態様及びエンジンの運転条件は、搭載されている再生システムに応じて公知の任意の方式によるものであってよい。)。
上記の駆動制御装置50aの構成に於いて、従前では、以下に詳細に説明される制振制御部52による要求駆動トルクの補償制御と、気筒間回転ばらつき補正制御とは、完全に独立して実行されるようになっていた。その場合、既に述べた如く、燃料噴射制御指令決定部へ与えられる要求駆動トルクが、制振制御部52による補償制御により振動的に変動すると、車速等が略一定で、本来であれば、車両が定常走行状態であると判定されるべきときでも、定常走行判定部54aが「定常走行中」との判定をしないこととなり、従って、気筒間回転ばらつき補正制御が実行されにくくなっていた。又、定常走行判定部54aが「定常走行中」との判定をした場合でも、補正量算出部54が、各気筒の燃料噴射量の実行量と回転速度又はトルクとの関係とを参照し、その実行量に対する補正量を算出する場合に、制振制御部52による補償制御による振動的な要求駆動トルクの変動があると、ばらつき補正のための補正量が精度良く算出できないこととなる。
そこで、本発明に於いては、「発明の開示」に於いて記載されている如く、一つの実施形態としては、PM再生モード又はS再生モードの実行が為されている期間に於いて、制振制御部52の出力する補償成分の制御ゲインを低減し、気筒間回転ばらつき補正制御のための定常走行判定部54による判定が実行できるよう構成される。なお、定常走行判定部54の作動もPM再生モード又はS再生モードの実行が為されている期間にのみ限定されてよい。かかる作動を実現するために、運転モード決定部55から、PM再生モード又はS再生モードのいずれかの実行が指示されている間には、同時に制振制御部52と定常走行判定部54へモード実行指令が送信されるよう構成される。
また、本発明のもう一つの実施形態としては、エンジンの運転モードによる制振制御の制御態様の変更に代えて、変速機が或る特定の変速段のとき、例えば、第一段から第三段のうちのいずれかであるときに、制振制御部52の出力する補償成分の制御ゲインを低減し、気筒間回転ばらつき補正制御のための定常走行判定部54による判定が実行できるよう構成されてもよい。その場合には、図中、破線にて示されている如く、変速機制御装置50cから、同時に制振制御部52と定常走行判定部54へ変速段情報(例えば、或る特定の変速段にて変速機が作動していることを示す信号)が送信されるよう構成されていてもよい。
以下、上記の本発明の駆動制御装置に於ける制振制御と、かかる制振制御による駆動トルク補償成分の制御ゲインの低減の制御について説明する。
ピッチ・バウンス制振制御と制御ゲインの低減制御
(i)制御の概要
車両に於いて、運転者の駆動要求に基づいて駆動装置が作動して車輪トルクの変動が生ずると、図3(A)に例示されている如き車体10に於いて、車体の重心Cgの鉛直方向(z方向)のバウンス振動と、車体の重心周りのピッチ方向(θ方向)のピッチ振動が発生し得る。また、車両の走行中に路面から車輪上に外力又はトルク(外乱)が作用すると、その外乱が車両に伝達され、やはり車体にバウンス方向及びピッチ方向の振動が発生し得る。そこで、ここに例示するピッチ・バウンス振動制振制御に於いては、車体のピッチ・バウンス振動の運動モデルを構築し、そのモデルに於いて要求駆動トルク(を車輪トルクに換算した値)と、現在の車輪トルク(の推定値)とを入力した際の車体の変位z、θとその変化率dz/dt、dθ/dt、即ち、車体振動の状態変数を算出し、モデルから得られた状態変数が0に収束するように、即ち、ピッチ/バウンス振動が抑制されるよう駆動装置(エンジン)の駆動トルクが調節される(要求駆動トルクが修正される。)。
(ii)制振制御部52の構成と作動
図3(B)は、制振制御部52の構成をより詳細に示した本発明の実施形態に於ける駆動制御装置50aの作動を制御ブロックの形式で模式的に示したものである。図3(B)を参照して、駆動制御装置50aに於いては、運転者の駆動要求、即ち、アクセルペダルの踏み込み量(C0)が、通常の態様にて、要求駆動トルクに換算された後(C1)、既に述べた如く、要求駆動トルクに基づいて、燃料噴射量及び/又は燃料噴射制御量の目標値が決定され、かかる目標値を達成する制御指令が生成されて(C2)、駆動装置(C3)へ送信される。
制振制御部52は、上記の要求駆動トルク算出部C1から制御指令決定部C3へ渡される要求駆動トルクを、ピッチ・バウンス振動を惹起しないように、補償又は修正するよう機能する。具体的には、制振制御部52は、図示の如く、フィードフォワード制御部分とフィードバック制御部分とから構成される。フィードフォワード制御部分は、所謂、最適レギュレータの構成を有し、ここでは、下記に説明される如く、C1の要求駆動トルクを車輪トルクに換算した値(運転者要求車輪トルクTw0)が車体のピッチ・バウンス振動の運動モデル部分(C4)に入力され、運動モデル部分(C4)では、入力されたトルクに対する車体の状態変数の応答が算出され、その状態変数を最小に収束する要求駆動車輪トルクの修正量(補償成分)が算出される(C5)。他方、フィードバック制御部分に於いては、車輪トルク推定器(C6)にて、後に説明される如く車輪トルク推定値Twが算出され、車輪トルク推定値は、フィードバック制御ゲインFB(運動モデルに於ける運転者要求車輪トルクTw0と車輪トルク推定値Twとの寄与のバランスを調整するためのゲイン)が乗ぜられた後、外乱入力として、要求車輪トルクに加算されて運動モデル部分(C4)へ入力され、これにより、外乱に対する要求車輪トルクの補償成分も算出される。そして、C5の要求車輪トルクの補償成分は、駆動装置の要求トルクの単位に換算されて(要求駆動トルク補償成分)、加算器(C1a)に送信され、かくして、要求駆動トルクは、ピッチ・バウンス振動が発生しないように補償された後、制御指令に変換されて(C2)、駆動装置(C3)へ与えられることとなる。
しかしながら、既に述べた如く、上記の構成による制振制御の補償成分の要求駆動トルクへの寄与は、気筒間回転ばらつき補正制御が確実に実行されるように、エンジンのPM再生モード若しくはS再生モードの実行中(又は、変速機が或る特定の変速段に設定されている間)に於いて低減される。そのために、本実施形態に於いては、制振制御部52から加算器C1aへ要求駆動トルク補償成分が渡される前に制御ゲイン調節器C7を設けられる。制御ゲイン調節器C7は、運転モード決定部55からPM再生モード又はS再生モードのモード実行指令を受信している間(又は変速機制御装置50cから或る特定の変速段に設定されていることを示す信号を受信している間)、要求駆動トルク補償成分に乗ぜられる制御ゲイン(λ)を低減し、これにより、要求駆動トルクに於ける補償成分の寄与が低減される。
(iii)制振制御の原理
本発明の実施形態に於ける制振制御に於いては、既に触れたように、まず、車体のバウンス方向及びピッチ方向の力学的運動モデルを仮定して、運転者要求車輪トルクTw0と車輪トルク推定値Tw(外乱)とを入力としたバウンス方向及びピッチ方向の状態変数の状態方程式を構成する。そして、かかる状態方程式から、最適レギュレータの理論を用いてバウンス方向及びピッチ方向の状態変数を0に収束させる入力トルク値(即ち、要求駆動トルク補償成分)を決定し、得られたトルク値に基づいて要求駆動トルクが修正される。
車体のバウンス方向及びピッチ方向の力学的運動モデルとして、例えば、図4(A)に示されている如く、車体を質量M及び慣性モーメントIの剛体Sとみなし、かかる剛体Sが、弾性率kfと減衰率cfの前輪サスペンションと弾性率krと減衰率crの後輪サスペンションにより支持されているとする(車体のばね上振動モデル)。この場合、車体の重心のバウンス方向の運動方程式とピッチ方向の運動方程式は、下記の数1の如く表される。
Figure 0004983549
ここに於いて、Lf、Lrは、それぞれ、重心から前輪軸及び後輪軸までの距離であり、rは、車輪半径であり、hは、重心の路面からの高さである。なお、式(1a)に於いて、第1、第2項は、前輪軸から、第3、4項は、後輪軸からの力の成分であり、式(1b)に於いて、第1項は、前輪軸から、第2項は、後輪軸からの力のモーメント成分である。式(1b)に於ける第3項は、駆動輪に於いて発生する車輪トルクT(=Tw0+Tw)が車体の重心周りに与える力のモーメント成分である。
上記の式(1a)及び(1b)は、車体の変位z、θとその変化率dz/dt、dθ/dtを状態変数ベクトルX(t)として、下記の式(2a)の如く、(線形システムの)状態方程式の形式に書き換えることができる。
dX(t)/dt=A・X(t)+B・u(t) …(2a)
ここで、X(t)、A、Bは、それぞれ、
Figure 0004983549
であり、行列Aの各要素a1-a4及びb1-b4は、それぞれ、式(1a)、(1b)のz、θ、dz/dt、dθ/dtの係数をまとめることにより与えられ、
a1=-(kf+kr)/M、a2=-(cf+cr)/M、
a3=-(kf・Lf-kr・Lr)/M、a4=-(cf・Lf-cr・Lr)/M、
b1=-(Lf・kf-Lr・kr)/I、b2=-(Lf・cf-Lr・cr)/I、
b3=-(Lf2・kf+Lr2・kr)/I、b4=-(Lf2・cf+Lr2・cr)/I
である。また、u(t)は、
u(t)=T
であり、状態方程式(2a)にて表されるシステムの入力である。従って、式(1b)より、行列Bの要素p1は、
p1=h/(I・r)
である。
状態方程式(2a)に於いて、
u(t)=−K・X(t) …(2b)
とおくと、状態方程式(2a)は、
dX(t)/dt=(A−BK)・X(t) …(2c)
となる。従って、X(t)の初期値X0(t)をX0(t)=(0,0,0,0)と設定して(トルク入力がされる前には振動はないものとする。)、状態変数ベクトルX(t)の微分方程式(2c)を解いたときに、X(t)、即ち、バウンス方向及びピッチ方向の変位及びその時間変化率、の大きさを0に収束させるゲインKが決定されれば、ピッチ・バウンス振動を抑制するトルク値u(t)が決定されることとなる。
ゲインKは、所謂、最適レギュレータの理論を用いて決定することができる。かかる理論によれば、2次形式の評価関数
J=1/2・∫(XQX+uRu)dt …(3a)
(積分範囲は、0から∞)
の値が最小になるとき、状態方程式(2a)に於いてX(t)が安定的に収束し、評価関数Jを最小にする行列Kは、
K=R−1・B・P
により与えられることが知られている。ここで、Pは、リカッティ方程式
-dP/dt=AP+PA+Q−PBR−1
の解である。リカッティ方程式は、線形システムの分野に於いて知られている任意の方法により解くことができ、これにより、ゲインKが決定される。
なお、評価関数J及びリカッティ方程式中のQ、Rは、それぞれ、任意に設定される半正定対称行列、正定対称行列であり、システムの設計者により決定される評価関数Jの重み行列である。例えば、ここで考えている運動モデルの場合、Q、Rは、
Figure 0004983549
などと置いて、式(3a)に於いて、状態ベクトルの成分のうち、特定のもの、例えば、dz/dt、dθ/dt、のノルム(大きさ)をその他の成分、例えば、z、θ、のノルムより大きく設定すると、ノルムを大きく設定された成分が相対的に、より安定的に収束されることとなる。また、Qの成分の値を大きくすると、過渡特性重視、即ち、状態ベクトルの値が速やかに安定値に収束し、Rの値を大きくすると、消費エネルギーが低減される。
実際の制振制御部の作動は、図4(B)のブロック図に示されている如く、運動モデルC4に於いて、トルク入力値を用いて式(2a)の微分方程式を解くことにより、状態変数ベクトルX(t)が算出される。次いで、C5にて、上記の如く状態変数ベクトルX(t)を0又は最小値に収束させるべく決定されたゲインKを運動モデルC4の出力である状態ベクトルX(t)に乗じた値U(t)が、(駆動装置のトルクに換算され、制御ゲインが乗ぜられた後)加算器(C1a)に於いて、要求駆動トルクから差し引かれる。式(1a)及び(1b)で表されるシステムは、共振システムであり、任意の入力に対して状態変数ベクトルの値は、実質的には、システムの固有振動数を概ね中心とした或るスペクトル特性を有する帯域の周波数成分のみとなる。かくして、U(t)の換算値、即ち、要求駆動トルク補償成分が要求駆動トルクから差し引かれるよう構成することにより、要求駆動トルクのうち、システムの固有振動数の成分、即ち、車体に於いてピッチ・バウンス振動を引き起こす成分が修正され、車体に於けるピッチ・バウンス振動が抑制されることとなる。車輪トルク推定器から送信されてくるTw(外乱)に於いてピッチ・バウンス振動を引き起こす変動が発生した場合には、そのTw(外乱)による振動が収束するよう駆動装置へ入力される要求トルク指令が−U(t)を用いて修正される。上記の−U(t)が制振制御による補償成分である。
なお、車体のバウンス方向及びピッチ方向の力学的運動モデルとして、例えば、図4(B)に示されている如く、図4(A)の構成に加えて、前輪及び後輪のタイヤのばね弾性を考慮したモデル(車体のばね上・下振動モデル)が採用されてもよい。前輪及び後輪のタイヤが、それぞれ、弾性率ktf、ktrを有しているとすると、図3(B)から理解される如く、車体の重心のバウンス方向の運動方程式とピッチ方向の運動方程式は、下記の数4の如く表される。
Figure 0004983549
ここに於いて、xf、xrは、前輪、後輪のばね下変位量であり、mf、mrは、前輪、後輪のばね下の質量である。式(4a)−(4b)は、z、θ、xf、xrとその時間微分値を状態変数ベクトルとして、図4(A)の場合と同様に、式(2a)の如き状態方程式を構成し(ただし、行列Aは、8行8列、行列Bは、8行1列となる。)、最適レギュレータの理論に従って、状態変数ベクトルの大きさを0に収束させるゲイン行列Kを決定することができる。実際の制振制御の構成及び作動は、図4(A)の場合と同様である。
なお、上記のフィードフォワード制御部分へ外乱として入力される車輪トルクについて、かかる車輪トルクは、理想的には、各輪にトルクセンサを設け、実際に検出されればよいが、通常の車両の各輪にトルクセンサを設けることは困難である。そこで、図示の例では、車輪トルクの外乱入力として、走行中の車両に於けるその他の検出可能な値から車輪トルク推定器(C6)にて推定された車輪トルク推定値が用いられる。車輪トルク推定値Twは、典型的には、駆動輪の車輪速センサから得られる車輪回転速ω又は車輪速値r・ωの時間微分を用いて、
Tw=M・r・dω/dt …(5)
と推定することができる。ここに於いて、Mは、車両の質量であり、rは、車輪半径である。[駆動輪が路面の接地個所に於いて発生している駆動力の総和が、車両の全体の駆動力M・G(Gは、加速度)に等しいとすると、車輪トルクTwは、
Tw=M・G・r …(5a)
にて与えられる。車両の加速度Gは、車輪速度r・ωの微分値より、
G=r・dω/dt …(5b)
で与えられるので、車輪トルクは、式(5)の如く推定される。]
(iv)制御ゲインの低減制御(C7)
要求駆動トルクの補償成分Uは、上記の制振制御の原理の説明から理解される如く振動を抑制する成分であるので、それ自体が振動成分である。従って、かかる補償成分が要求駆動トルクに重畳すると、図3(B)のブロックC1からブロックC2へ直接渡される要求駆動トルクに変化がなくても、ブロックC2が受信する要求駆動トルクが振動的に変化する場合が有り得る。そうなると、既に述べた如く、車両が定常走行状態であったとしても、定常走行判定部54aがそのように判定されない事態が生じ得る。そこで、本実施形態の一つに於いては、エンジンに於いて定期的に実行されるPM再生モード又はS再生モードが実行されている間又は変速機が或る特定の変速段のときは、制御ゲイン調節器C7にて補償成分に乗ぜられる制御ゲインλを低減し、ブロックC2が受信する要求駆動トルクに於ける補償成分Uの寄与が低減される。
具体的には、制御ゲイン調節器C7に於いて、補償成分は、制御ゲインλが乗ぜられて、
λ・U …(6)
として加算器C1aへ渡される。制御ゲインλは、通常時は、
λ=1 (7)
に設定される。しかしながら、PM再生モード又はS再生モードの実行指令を受信している間は、
λ=λo(<1) (7a)
に設定される。ここで、λoの値は、実験的又は理論的に予め決定されてよい。なお、λoは、λo=0に設定されてもよい。その場合、制振制御は、実質的に実行されないこととなる。一方、λo>0を満たす値に設定すると、Uの絶対値が特に大きいとき、即ち、大きなピッチ・バウンス振動が予測される場合には、PM再生モード又はS再生モードの実行指令があるとき又は変速機が或る特定の変速段のときでも、制振制御の実行が優先される利点が得られる。
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。
例えば、上記の実施形態に於ける車輪トルク推定値が車輪速から推定されるものであるが、車輪トルク推定値が車輪速から以外のパラメータから推定されるものであってもよい。また、上記の実施形態に於ける制振制御は、運動モデルとしてばね上又はばね上・ばね下運動モデルを仮定して最適レギュレータの理論を利用した制振制御であるが、本発明の概念は、車輪トルクを利用するものであれば、ここに紹介されているもの以外の運動モデルを採用したもの或いは最適レギュレータ以外の制御手法により制振を行うものにも適用され、そのような場合も本発明の範囲に属する。
図1は、本発明による駆動制御装置の好ましい実施形態が実現される自動車の模式図を示している。 図2は、図1の電子制御装置の内部構成をより詳細な模式図である。図示していないが、定常走行判定部54a及び補正量演算部54には、その判定又は演算に用いる車速、燃料噴射実行量、アクセルペダル踏込み量、エンジン回転数、エンジン温度等の種々のパラメータが入力される。また、運転モード決定部55には、PM再生モード又はS再生モードの実行の時期を決定するべく走行履歴の監視に必要な任意のパラメータが入力されてよい。 図3Aは、本発明の好ましい実施形態の一つである駆動制御装置の制振制御部の作動に於いて抑制される車体振動の状態変数を説明する図である。図3Bは、本発明の好ましい実施形態に於ける制振制御の構成を制御ブロック図の形式で表した図である。 図4は、本発明の好ましい実施形態の制振制御部に於いて仮定される車体振動の力学的運動モデルを説明する図である。図4Aは、ばね上振動モデルを用いた場合であり、図4Bは、ばね上・ばね下振動モデルを用いた場合である。 図5Aは、PM再生モードの実行をするための運転条件の範囲を示したグラフ図である。PM再生モードでは、燃料噴射量が調節されて、排気ガス温度を上昇し、フィルタで回収されたPMの焼却が実行される。図5Bは、S再生モードの実行をするための運転条件の範囲を示したグラフ図である。S再生モードでは、燃料噴射量と空気量が調節されて、運転中のエンジンの温度と空燃比が制御され、フィルタ又は触媒に残留する硫黄酸化物を還元してSOにして排出する。いずれも再生モードも典型的には所定の走行距離毎に実行される。その間、制振制御の補償成分の制御ゲインが低減されるので、エンジンの運転状態を図示の範囲に留まるよう制御することは、公知の態様にて任意に実行されてよい。
符号の説明
10…車体
12FL、FR、RL、RR…車輪
14…アクセルペダル
20…駆動装置
22…ディーゼルエンジン
22a…燃料装置
30FL、FR、RL、RR…車輪速センサ
50…電子制御装置
50a…駆動制御装置
50b…制動制御装置

Claims (3)

  1. 車両の駆動出力を制御して前記車両のピッチ又はバウンス振動を抑制する制振制御を実行する車両のディーゼルエンジンの駆動制御装置であって、前記車両の車輪と路面との接地個所に於いて発生する前記車輪に作用する車輪トルクに基づいて前記ピッチ又はバウンス振動振幅を抑制するよう前記エンジンの駆動トルクを制御する制振制御部と、前記車両の定常走行時に前記エンジンの気筒間の回転速度又は出力のばらつきを抑制する気筒間補正制御部と、前記車両が前記定常走行状態であるか否かを判定する定常走行判定部とを含み、前記エンジンがPM再生モード又はS再生モードにて運転されている状態であるときに、前記定常走行判定部が前記車両が前記定常走行状態であるか否かの判定を実行すると共に、前記制振制御部が前記制振制御のための前記車輪トルクを補償する補償成分の大きさを低減することを特徴とする車両の駆動制御装置。
  2. 請求項1の装置であって、前記車両が前記エンジンがPM再生モード又はS再生モードにて運転されている状態であるときの前記制振制御部に於ける前記制振制御のための前記補償成分の大きさの低減が、前記補償成分の制御ゲインを低減することにより実行されることを特徴とする装置。
  3. 請求項1の装置であって、前記気筒間補正制御部が前記エンジンの各気筒の回転速度に基づいて前記各気筒の燃料噴射量を学習補正することを特徴とする装置。
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