JP5021097B2 - アルミニウム合金材の接合方法 - Google Patents
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Description
溶接法は、接合部を電気又は炎により加熱して溶融、合金化して接合を成すものである。接合部の隙間が大きい場合や接合強度が必要な場合は、接合時に溶加材を同時に溶融させて隙間を充填する。このように、接合部が溶融するため確実な接合がなされる。一方で、接合部を溶融して接合するため、接合部近傍の形状が大きく変形し、金属組織も局所的に大きく変化して別組織となり局所的な脆弱化が生じることがある。また、接合部のみを局所的に加熱していく必要があるために、同時に多点を接合するのが困難となるなどの問題もある。
拡散接合法は、母材同士を密着させ、基本的に母材の融点以下で塑性変形を生じない程度に加圧し、接合面間に生じる原子の拡散を利用して接合を成すものである。この接合方法では、被接合部材の変形を伴わずに同時に多点の接合や面接合が可能である。従って、微細な形状を有する被接合部材の接合が可能である。しかしながら、拡散現象を利用するために、溶接やろう付などと比べて接合に長時間を要する。通常、30分程度からそれ以上の時間、所定温度での保持が必要となる。また、接合に加圧が必要であるため、接合操作の煩雑化やコスト増加が避けられない。更に、アルミニウム合金材の場合には、その表面に安定で強固な酸化皮膜が存在しこれによって拡散が阻害されるために、固相拡散接合の適用が難しい。被接合部材にMgを0.5〜1.0mass%程度含有するアルミニウム合金材を用いる場合は、Mgの還元作用により酸化皮膜が破壊されて比較的容易に接合をすることが可能であるが、その他のアルミニウム合金材では、接合面の酸化皮膜を除去する清浄化処理が必要となり、アルゴンイオン衝撃、グロー放電、超音波付与など特殊な工程を要するなどの問題がある。
以上のように、本発明は従来にはない新規な接合方法を提供するものである。本発明に係る接合方法を、「しみ出し接合」(Bleed Bonding)と命名する。
A.被接合部材の組合せ
本発明に係るアルミニウム合金材のしみ出し接合では、アルミニウム合金材を一方の被接合部材とし、アルミニウム合金材及び純アルミニウム材のいずれかを他方の被接合部材として、一方の被接合部材と他方の被接合部材とを接合する。アルミニウム合金材同士を接合する場合は、合金組成が同一のもの同士でも、合金組成が異なるもの同士でもよい。
本発明に係るアルミニウム合金材のしみ出し接合では、一方の被接合部材であるアルミニウム合金材の全質量に対する当該アルミニウム合金材内に生成する液相の質量の比(以下、「液相率」と記す)が5%以上35%以下となる温度で接合する必要がある。液相率が35%を超えると、生成する液相の量が多過ぎてアルミニウム合金材が形状を維持できなくなり大きな変形をしてしまう。一方、液相率が5%未満では接合が困難となる。好ましい液相率は5〜30%であり、より好ましい液相率は10〜20%である。
液相が生じた後から接合に至るまでの金属組織の挙動を説明する。図4に示すように、液相を生成するアルミニウム合金材Aと、これと接合するアルミニウム合金材Bとを用いた逆T字型接合試験片を接合し、図に示す観察面を顕微鏡で観察した。前述のように、接合においてアルミニウム合金材Aの表面に生成するごく僅かな液相は、フラックス等の作用により酸化皮膜が破壊された相手のアルミニウム合金材Bとの隙間を埋める。次に、両合金材の接合界面付近にある液相がアルミニウム合金材B内へと移動していき、それに伴い接合界面に接しているアルミニウム合金材Aの固相α相の結晶粒がアルミニウム合金材B内に向かって成長していく。一方、アルミニウム合金材Bの結晶粒もアルミニウム合金材A側へと成長していく。
アルミニウム合金材の表層には酸化皮膜が形成されており、これによって接合が阻害される。従って、接合においては酸化皮膜を破壊する必要がある。本発明に係るしみ出し接合では、酸化被膜を破壊するために以下のD−1又はD−2に示すいずれかの方法が採用される。
この方法では、酸化皮膜を破壊する為に少なくとも接合部にフラックスを塗布する。フラックスはアルミニウム合金のろう付で用いるKAlF4やCsAlF4などのフッ化物系フラックス又はKClやNaClなどの塩化物系フラックスが用いられる。これらフラックスは、しみ出し接合において液相が溶融する前に又は接合温度に至る前に溶融し、酸化皮膜と反応して酸化皮膜を破壊する。
アルミニウム合金材にMgが所定量添加されている場合は、接合部にフラックスを塗布しなくても、酸化被膜が破壊されて接合が可能になる。この場合、真空フラックスレスろう付と同様に、アルミニウム合金が溶融し液相が表層に出てくるときに、アルミニウム合金中より蒸発するMgのゲッター作用によって酸化皮膜が破壊される。
本発明の接合において、接合部で酸化皮膜が破壊された後、両被接合部材の間に液相が充填され接合がなされる。この液相は、一方の被接合部材であるアルミニウム合金材中において生成する。液相が接合部に十分に充填される為には、液相率が5%以上である時間が30秒以上であるのが好ましい。より好ましくは、液相率5%以上の時間が60秒以上であると更に十分な充填が行われ確実な接合がなされる。なお、本接合では、液相は接合部の極近傍においてしか移動しないので、この充填に必要な時間は接合部の大きさには依存しない。なお、他方の被接合部材であるアルミニウム合金材中においても液相が生成してもよく、ここでの液相率が5%以上である時間も30秒以上であるのが好ましく、より好ましくは60秒以上である。
本発明において、液相を生じる一方の被接合部材であるアルミニウム合金材における液相率が5%以上である時間は、3600秒以内であるのが好ましい。3600秒を超えると、液相率が35%以下であっても被接合部材が大きく変形するおそれがある。より好ましくは、液相率が5%以上である時間が1800秒以内とすると形状変化を確実に抑制できる。なお、他方の被接合部材であるアルミニウム合金材中においても液相が生成する場合も、ここでの固相線温度以上である時間は3600秒以内であるのが好ましく、より好ましくは1800秒以内である。
液相を生成するアルミニウム合金材の主添加元素の含有量は、例えば2元系において平衡状態図から以下のように設定することができる。接合温度をT℃、アルミニウムに対する主添加元素の添加量をX(質量%)、共晶温度をTe(℃)、アルミニウムに対する主添加元素の固溶限をa(質量%)、共晶点における主添加元素の含有量をb(質量%)とすると、下記式(1)を満足する範囲で接合を実施することで、より良好な液相率を得ることができる。
(0.05/a+0.95/b)×(Te−660)×T+660<X<(0.35/a+0.65/b)×(Te−660)×T+660 (1)
Xが(0.05/a+0.95/b)×(Te−660)×T+660以下であると、発生する液相量が十分でない場合が生じ、この場合には接合が困難となる。一方、Xが(0.35/a+0.65/b)×(Te−660)×T+660以上であると、発生する液相の量が多過ぎる場合が生じ、この場合には接合後の大きな形状変化を引き起こす。従って、添加元素の添加量Xは式(1)を満足することが望ましい。
上述のように本発明に係る接合において、酸化皮膜の破壊にフラックスを用いる場合は、一方及び他方の被接合部材であるアルミニウム合金材に、Mg含有量が0.5質量%以下に規制されるアルミニウム合金が用いられる。また、酸化皮膜の破壊にフラックスを用いずMgのゲッター作用を利用する場合は、一方の被接合部材であるアルミニウム合金材に、Mg含有量が0.2質量%以上2.0質量%以下に規制されるアルミニウム合金が用いられ、他方の被接合部材であるアルミニウム合金材に、Mg含有量が2.0質量%以下に規制されるアルミニウム合金が用いられる。
本発明の接合においては、接合部で両被接合部材が接していれば接合面に圧力を加える必要は必ずしもない。しかしながら、実際の製品の製造過程では、被接合部材同士を固定したりクリアランスを縮めたりする為に、冶具等で両被接合部材に応力が加わる場合が多い。また、自重によっても被接合部材内に応力が発生する。
このとき、各被接合部材内の各部位に発生する応力は、形状と荷重から求められる。例えば、構造計算プログラムなどを用いて計算する。本発明では、接合時において液相を生じる被接合部材の各部位に発生する応力のうち最大のもの(最大応力)をP(kPa)とし、当該被接合部材であるアルミニウム合金での液相率をVとしたときに、P≦460−12Vを満たすよう接合することが好ましい。この式の右辺で示される値は限界応力であり、これを超える応力が液相を生じる被接合部材に加わると、液相率が35%以内であっても被接合部材に大きな変形が発生するおそれがある。
なお、両被接合部材から液相が発生する場合は、両被接合部材各々に対して、各々の応力P、液相率Vを用いてP≦460−12Vを算出し、両被接合部材とも前記式を同時に満たすよう接合を行う。
本発明の接合においては一方の被接合部材での液相生成量が微量である為、接合部では両被接合部材が接するように配置される必要がある。しかしながら、材料の反りやうねりにより、両被接合部材の間に僅かな隙間が生じる場合がある。特に、凹凸の波長が25〜2500μmのうねりは隙間として無視できる大きさではなく、また冶具の押さえなどで矯正することも困難である。
本発明に係るしみ出し接合では、液相を生成するアルミニウム合金材の固相線温度と液相線温度の差を10℃以上とするのが好ましい。固相線温度を超えると液相の生成が始まるが、固相線温度と液相線温度の差が小さいと、固体と液体が共存する温度範囲が狭くなり、発生する液相の量を制御することが困難となる。従って、この差を10℃以上とするのが好ましい。例えば、この条件を満たす組成を有する2元系の合金としては、Al−Si系合金、Al−Cu系合金、Al−Mg系合金、Al−Zn系合金、Al−Ni系合金などが挙げられる。この条件を満たすには、前述のような共晶型合金が固液共存領域を大きく有するので有利である。しかしながら、他の全率固溶型、包晶型、偏晶型などの合金であっても、固相線温度と液相線温度の差が10℃以上であれば良好な接合が可能となる。また、上記の2元系合金は主添加元素以外の添加元素を含有することができ、実質的には3元系や4元系合金、更に5元以上の多元系の合金も含まれる。例えばAl−Si−Mg系やAl−Si−Cu系、Al−Si−Zn系、Al−Si−Cu−Mg系などが挙げられる。
なお、固相線温度と液相線温度の差は大きくなるほど適切な液相量に制御するのが容易になる。従って、固相線温度と液相線温度の差に上限は特に設けない。また、液相を生成するアルミニウム合金は、液相率が5%〜35%の温度が10℃以上であることがより好ましく、液相率が5〜35%の温度が20℃以上であることが更に好ましい。
液相を生成するアルミニウム合金材においては、接合温度で加熱した後のマトリクスの結晶粒径を50μm以上とするのが好ましい。通常、アルミニウム合金は、高温、低応力下では結晶粒自体の塑性変形に優先して結晶粒界でずれる粒界すべりによって変形する。
本発明の接合方法においては、通常、被接合部材は炉中で加熱される。炉の形状に特に制限はなく、例えば1室構造のバッチ炉、自動車用熱交換器の製造などに用いられる連続炉などを用いることができる。なお、炉中の雰囲気に制限はないが、前述の通り非酸化性雰囲気中で行うことが好ましい。
表1に接合に用いたAl−Si合金(合金番号1〜5)及びAl−Cu合金(合金番号6、7)の組成を示す。これらの合金(合金番号1〜7)は、請求項1に規定されるMg含有量が0.5質量%以下に規制されるものである。表1には、請求項4、6で規定される温度範囲を示す一方の不等式における上下限の数値、ならびに、580〜635℃の各温度での平衡液相率も示した。なお、平衡液相率は、Thermo−Calcによる計算値である。表1に示す合金鋳塊を調製した後、熱間圧延及び冷間圧延により厚さ1mmの圧延板を得た。この圧延板をレベラーに掛けた後に380℃で2時間焼鈍して、圧延板試料とした。このようにして作成した圧延板試料を用いて、接合率と変形率を評価した。
上記圧延板試料から幅20mm×長さ50mmの二枚の板を切り出し、それぞれの端面をフライスにより平滑にしてアルミニウム合金材の上板と下板として組み合わせ、図6に示す逆T字型接合試験片を作製した。試験片の上板と下板には、表1に示す組成のアルミニウム合金板を用いた。表2に、各試験片の上板と下板の組み合わせを示す。上板と下板のアルミニウム合金の組成は同一であり、これら例は、同一組成のアルミニウム合金材同士の接合である。この接合試験片の接合面には、フッ化カリウム系の非腐食性フラックスを塗布した。図6に記載には、上板と下板の寸法も示す。なお、両接合部材の表面の算術平均うねりWa1、Wa2はいずれの試験片でも1.0μm以下であった。また、上板の接合面となる端面における算術平均うねりWaは、いずれの試験片でも1.0μm以下であった。このような算術平均うねりWa1、Wa2、Waは、後述する実施例II、III、IV、VIにおいても同じである。
上記圧延板試料から幅10mm×長さ30mmの板を切り出して、変形率測定用の試験片とした。図7(a)に示すように、この試験片を突き出し長さ20mmをもってサグ試験用冶具に取り付けてセットした(図には、3枚の試験片がセットされている)。サグ試験のような片持ち梁の形状での最大応力P(N/m2)は、曲げモーメントMと断面係数Zより、以下のように求めた。
P=M/Z=(W×I2/2)/(bh2/6)
=[(g×ρ×I×b×h/I)×I2/2]/(bh2/6)
=3×g×ρ×I2/h
M:曲げモーメント(N・m)
等分布荷重の片持ち梁の場合 W×I2/2
Z:断面係数(m3)
断面形状が長方形の場合 bh2/6
W:等分布荷重(N/m)
g:重力加速度(m/s2)
ρ:アルミニウムの密度(kg/m3)
I:突き出し長さ(m)
b:板幅(m)
h:板厚(m)
なお、最大応力Pは、突き出し部の根元に掛かる。この試験で試験片にかかる最大応力Pは、上式に数値を代入して計算した結果、31kPaであった。このような応力Pは、後述する実施例II、III、VIにおいても同じである。この試験片を、窒素雰囲気中で所定の温度まで加熱しその温度(表2に示す接合温度)に180秒保持した後に、炉中で自然冷却した。窒素雰囲気は、酸素濃度100ppm以下で露点−45℃以下に管理した。昇温速度は、520℃以上において、10℃/分とした。
以上の結果より、各評価の判定に対して◎を5点、○を3点、△を0点、×を−5点として点数をつけ、合計点が10点を◎とし、6点以上9点以下を○とし、1点以上5点以下を△とし、0点以下を×として総合判定を行った。総合判定が◎、○、△を合格とし、×を不合格とした。接合率、変形率及び総合判定の結果を、接合条件(温度、平衡液相率の計算値)と共に表2に示す。
比較例28〜31、33では、液相率が高過ぎたために変形率が大きくなり総合判定が不合格となった。
比較例32では、液相が生成しなかったために接合がなされず総合判定が不合格となった。
表3に接合に用いたAl−Si−Mg合金(合金番号8〜12)及びAl−Cu−Mg合金(合金番号13、14)の組成を示す。これらの合金(合金番号8〜14)は、請求項2に規定される、一方の被接合部材のアルミニウム合金のMg含有量が0.2質量%以上2.0質量%以下に規制されるものである。表3には、請求項4、6で規定される温度範囲を示す一方の不等式における上下限の数値、ならびに、580〜635℃の各温度での平衡液相率も示した。なお、平衡液相率は、Thermo−Calcによる計算値である。表3に示す合金鋳塊を調製した後、熱間圧延及び冷間圧延により厚さ1mmの圧延板を得た。この圧延板をレベラーに掛けた後に380℃で2時間焼鈍して、圧延板試料とした。このようにして作成した圧延板試料を用いて、接合率と変形率を評価した。
上記圧延板試料から幅20mm×長さ50mmの二枚の板を切り出し、それぞれの端面をフライスにより平滑にしてアルミニウム合金材の上板と下板として組み合わせ、図6に示す逆T字型接合試験片を作製した。試験片の上板と下板には、表3に示す組成のアルミニウム合金板を用いた。表4に、各試験片の上板と下板の組み合わせを示す。上板と下板のアルミニウム合金の組成は同一であり、これら例は、同一組成のアルミニウム合金材同士の接合である。この接合試験片の接合面には、フラックスを塗布しなかった。
上記圧延板試料から幅10mm×長さ30mmの板を切り出して、変形率測定用の試験片とした。図7(a)に示すように、この試験片を突き出し長さ20mmをもってサグ試験用冶具に取り付けてセットした。この試験片を、真空雰囲気中で所定の温度まで加熱しその温度(表4に示す接合温度)に180秒保持した後に、炉中で自然冷却した。真空雰囲気は、10−5torrに管理した。昇温速度は、520℃以上において、10℃/分とした。
比較例63〜66及び68では、液相率が高過ぎたために変形率が大きくなり総合判定が不合格となった。
比較例67では、生成した液相率が低過ぎたために接合率が低くなり総合判定が不合格となった。
表1、3に示す合金に加えて、表5に示す組成の合金を用いて接合を行った。これらの合金は、請求項1に規定されるMg含有量が0.5質量%以下に規制されるもの、ならびに、請求項2に規定されるMg含有量が0.2質量%以上2.0質量%以下に規制されるものである。これらの合金鋳塊を調製した後、熱間圧延及び冷間圧延により厚さ1mmの圧延板を得た。この圧延板をレベラーに掛けた後に380℃で2時間焼鈍して、圧延板試料とした。このようにして作成した圧延板試料を用いて、接合率と変形率を評価した。
上記圧延板試料から幅20mm×長さ50mmの二枚の板を切り出し、それぞれの端面をフライスにより平滑にしてアルミニウム合金材の上板と下板として組み合わせ、図6に示す逆T字型接合試験片を作製した。試験片の上板と下板には、表3に示す組成のアルミニウム合金板を用いた。表6〜8に、各試験片の上板と下板の組み合わせを示す。上板と下板のアルミニウム合金の組成は同一であり、これら例は、同一組成のアルミニウム合金材同士の接合である。この接合試験片の接合面には、フッ化カリウム系又はフッ化セシウム系の非腐食性フラックスを塗布するか、或いは、フラックスを塗布しなかった。フラックス塗布の有無と種類を表6〜8に示す。これらの表において、「F」はフッ化カリウム系非腐食性フラックス(KAlF4)を、「Cs」はフッ化セシウム系の非腐食性フラックス(CsAlF4)を、「−」はフラックスを塗布しなかった場合を示す。
上記圧延板試料から幅10mm×長さ30mmの板を切り出して、変形率測定用の試験片とした。図7(a)に示すように、この試験片を突き出し長さ20mmをもってサグ試験用冶具に取り付けてセットした。試験片を、表6〜8に示す雰囲気中で所定の温度まで加熱しその温度(各表に示す接合温度)に各表に示す所定の時間保持した後に、炉中で自然冷却した。窒素雰囲気及びアルゴン雰囲気は、酸素濃度100ppm以下で露点−45℃以下に管理した。真空雰囲気は、10−5torrに管理した。いずれの雰囲気中においても昇温速度は、520℃以上において、10℃/分とした。
比較例122、126〜129、132、136、138〜141では、液相率が高過ぎたために変形率が大きくなり総合判定が不合格となった。
比較例133、142〜144では、合金に含有されるMg量が多すぎたために、MgOが成長し過ぎて接合がなされず総合判定が不合格となった。
比較例145、146、147では、アルミニウム合金中のMgがフラックスと反応し無効化されて酸化皮膜が破壊できなかった。これにより、接合がなされず総合判定が不合格となった。
比較例148では、Al−Si合金を用いたがフラックスを塗布しなかったために酸化皮膜が破壊できなかった。これにより、接合がなされず総合判定が不合格となった。
比較例149では、液相率が5%以上である時間が短過ぎたために液相が十分に生成せず、接合が不十分となって総合判定が不合格となった。
比較例150では、液相率が5%以上である時間が長過ぎたために変形率が大きくなり総合判定が不合格となった。
サグ試験を行い、加熱中に被接合部材が耐えられる応力Pを評価した。この評価は、実施例Iの評価において、総合評価が合格となる条件(合金、加熱条件)を選んで、変形率の評価のみを更に詳細に行なったものである。試験片には、表1のアルミニウム合金を選んで用いた。試験片は、板厚1mm、幅15mm、長さ60mmとした。この試験片について突き出し長さを20〜50mmに変化させて、図7に示すサグ試験用冶具に取り付けてセットした。最大応力Pは突き出し長さより計算される。結果を表9に示した。
これに対して、参考例182〜186では応力Pが限界応力(460−12V)よりも大きくなった。その結果、いずれも垂下量が突き出し長さに対して70%以上となり、変形率が大きかった。
以上の結果より、被接合部材に加わる応力Pが460−12V以下であれば、部材の接合前後での変形が5%以内に抑えられ、精度の高い構造物が作製できる。
クリアランス試験を行い、被接合部材のうねりを評価した。この評価は、実施例Iの評価において、総合評価が合格となる条件(合金、加熱条件)を選んで、接合率の評価のみを更に詳細に行なったものである。試験片には、表1、3及び5のアルミニウム合金を選んで用いた。これら合金鋳塊を調製した後、熱間圧延及び冷間圧延により厚さ3mmの圧延板を得た。この圧延板をレベラーに掛けた後、380℃で2時間焼鈍した。この圧延板を150×100mmに切り出し、片面をフライスにより平滑となるよう切削加工し、更に30×30mmに切り出したものを試験片とした。
これに対して、参考例205〜213では、算術平均うねりWa1とWa2の和が10μmを超え、未接合部分が多かった。
表1、3に示す合金に加えて、表5に示す組成の合金を一方の被接合部材とし、一方の被接合部材と別の合金をもう一方の被接合部材として接合を行った。これらの合金は、請求項1に規定されるMg含有量が0.5質量%以下に規制されるもの、ならびに、請求項2に規定されるMg含有量が0.2質量%以上2.0質量%以下に規制されるものである。これらの合金鋳塊を調製した後、熱間圧延及び冷間圧延により厚さ1mmの圧延板を得た。この圧延板をレベラーに掛けた後に380℃で2時間焼鈍して、圧延板試料とした。このようにして作成した圧延板試料を用いて、接合率を評価した。
上記圧延板試料から幅20mm×長さ50mmの一枚の板を切り出し、それぞれの端面をフライスにより平滑にした。そして、表11に示したアルミニウム合金材をそれぞれ上板、下板として組み合わせ、図6に示す逆T字型接合試験片を作製した。上板と下板のアルミニウム合金の組成は異なっており、実施例214〜227は、他方の被接合部材のアルミニウム合金が溶融しない場合のアルミニウム合金材の接合である。また、実施例228〜230は異なる合金の組み合わせでいずれの被接合部材も溶融する場合のアルミニウム合金材の接合である。この接合試験片の接合面には、フッ化カリウム系の非腐食性フラックス又はフッ化セシウム系の非腐食性フラックスを塗布するか、或いは、フラックスを塗布しなかった。フラックス塗布の有無と種類を表11に示す。この表において、「F」はフッ化カリウム系非腐食性フラックス(KAlF4)を、「Cs」はフッ化セシウム系の非腐食性フラックス(CsAlF4)を、「−」はフラックスを塗布しなかった場合を示す。
c1・・Si濃度
c2・・Si濃度
T・・温度
T1・・Teを超えた温度
T2・・T1より更に高い温度
T3・・Ts2を超えた温度
Te・・固相線温度
Ts2・・固相線温度
Claims (10)
- アルミニウム合金材を一方の被接合部材とし、アルミニウム合金材及び純アルミニウム材のいずれかを他方の被接合部材として、前記一方の被接合部材と他方の被接合部材とを接合する方法において、前記一方の被接合部材と他方の被接合部材のアルミニウム合金材は、Mg:0.5質量%以下を含有するアルミニウム合金からなり、前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金材の全質量に対する当該アルミニウム合金材内に生成する液相の質量の比が5%以上35%以下となる温度において、フッ化物系もしくは塩化物系のフラックスが接合部材間に塗布された状態で非酸化性雰囲気中で接合することを特徴とするアルミニウム合金材の接合方法。
- アルミニウム合金材を一方の被接合部材とし、アルミニウム合金材及び純アルミニウム材のいずれかを他方の被接合部材として、前記一方の被接合部材と他方の被接合部材とを接合する方法において、前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金材は、Mg:0.2質量%以上2.0質量%以下を含有するアルミニウム合金からなり、他方の被接合部材であるアルミニウム合金材はMg:2.0質量%以下を含有するアルミニウム合金からなり、前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金材の全質量に対する当該アルミニウム合金材内に生成する液相の質量の比が5%以上35%以下となる温度において、フラックスを用いずに真空中又は非酸化性雰囲気中で接合することを特徴とするアルミニウム合金材の接合方法。
- 前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金材において、アルミニウム合金材の全質量に対する当該アルミニウム合金材内に生成する液相の質量の比が5%以上である時間が30秒以上3600秒以内である、請求項1又は2に記載のアルミニウム合金材の接合方法。
- 前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金材が、Si:0.6〜3.5質量%を更に含有するアルミニウム合金からなり、Si元素の含有量をX(質量%)とした場合に、接合時における当該アルミニウム合金材の温度T(℃)が、660−39.5X≦T≦660−15.7X、且つ、T≧577で規定される、請求項3に記載のアルミニウム合金材の接合方法。
- 前記アルミニウム合金が、Cu:0.05〜0.5質量%、Fe:0.05〜1.0質量%、Zn:0.2〜1.0質量%、Mn:0.1〜1.8質量%、Ti:0.01〜0.3質量%から選択される1種又は2種以上を更に含有する、請求項4に記載のアルミニウム合金材の接合方法。
- 前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金材が、Cu:0.7〜15.0質量%を更に含有するアルミニウム合金からなり、Cu元素の含有量をY(質量%)とした場合に、接合時における当該アルミニウム合金材の温度T(℃)が、660−15.6Y≦T≦660−6.9Y、且つ、T≧548で規定される、請求項3に記載のアルミニウム合金材の接合方法。
- 前記アルミニウム合金が、Si:0.05〜0.8質量%、Fe:0.05〜1.0質量%、Zn:0.2〜1.0質量%、Mn:0.1〜1.8質量%、Ti:0.01〜0.3質量%から選択される1種又は2種以上を更に含有する、請求項6に記載のアルミニウム合金材の接合方法。
- 液相を生じる被接合部材に発生する最大応力をP(kPa)とし、当該被接合部材であるアルミニウム合金材の全質量に対する当該アルミニウム合金材内に生成する液相の質量の比をV(%)としたときに、P≦460−12Vを満たす条件で接合される、請求項1〜7のいずれか一項に記載のアルミニウム合金材の接合方法。
- 両被接合部材の接合前の接合表面における凹凸から求められる算術平均うねりWa1とWa2の和が、Wa1+Wa2≦10(μm)である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のアルミニウム合金材の接合方法。
- 前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金材において、固相線温度と液相線温度の差が10℃以上である、請求項1〜9のいずれか一項に記載のアルミニウム合金材の接合方法。
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