JP5014876B2 - 真空脱ガス工程における復硫現象を抑制する低硫鋼の二次精錬方法 - Google Patents
真空脱ガス工程における復硫現象を抑制する低硫鋼の二次精錬方法 Download PDFInfo
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Description
TL≧11667 L2-9117 L+3030・・・(1)
ただし、
TL[℃]:前記スラグの液相線温度
L[m]:前記スラグの厚み
先ず、本明細書中において用いられる各用語の定義を述べる。
「造滓剤」・・・生石灰(CaO)や軽焼ドロマイト(CaO・MgO)、アルミナ(Al2O3)のうち少なくとも何れか一の物質又はこの物質を主成分とする物質を意味する。
「不純物元素」・・・例えばCやN、H、Oなどを意味する。
「取鍋精錬工程の開始時点」・・・溶鋼に対する攪拌の開始時点に相当する。
「取鍋精錬工程の終了時点」・・・溶鋼に対する攪拌の終了時点に相当する。
「真空脱ガス工程の開始時点」・・・真空槽内部の雰囲気に対する減圧操作の開始時点に相当する。要するに、該雰囲気の気圧が下がり始めた時点である。
「真空脱ガス工程の終了時点」・・・真空槽内部の雰囲気の減圧状態に対する解除操作の開始時点に相当する。要するに、該雰囲気の気圧が上がり始めた時点である。
「攪拌動力」・・・下記式(2)で定義する。
ε=6.18・Q・T・ln(1+H/1.46×10-5・P)・・・(2)
ε[Watt/ton]:攪拌動力
Q[Nm3/(min・ton)]:Arガス吹込流量
T[K]:溶鋼の絶対温度
H[m]:静止状態における溶鋼−スラグ界面と、Arガス吹込位置(バブリングランスの吹き込み穴、或いは、取鍋下部に設置された吹き込み穴に相当する。)と、の鉛直方向における離間距離
P[Pa]:雰囲気圧力
次に、本明細書中において用いられる各物理量の測定方法を述べる。
「溶鋼の温度」・・・公知の手段による。例えば、消耗型熱電対を用いる測定手段が適用できる。
「スラグの厚み」・・・公知の手段による。例えば、(1)鉄パイプをスラグに対して垂直に貫通させて得られる、該鉄パイプの先端(下端)の溶損長さや色に基づく測定手段や、(2)数値計算に基づく推定手段、などが適用できる。
「スラグの組成」・・・公知の手段による。
「スラグの融点」及び「スラグの液相線温度」・・・公知の手段(計算ソフト名:ファクトセージ)により、上記「スラグの組成」に基づいて一義的に求める。なお、「スラグの融点」は「スラグの液相線温度」と同等のものと見做しても特に差支えない。
「真空脱ガス工程における溶鋼の還流の流量」・・・下記式(1)に基づいて求める。ただし、下記式(1)中、Qは環流量[ton/min]を、Sは真空槽溶鋼界面積[m2]を、Hはヒートサイズ[ton]を、Gは環流ガス量[Nm3/min]を、dは浸漬管口径[m]を、P1は大気圧(760)[torr]を、P2は真空槽内圧[torr]を、意味する。
「真空脱ガス工程における酸素の吹付量」・・・酸素供給装置の出力流量計の読取り値を参照する。
本明細書中において各単位に含まれる「ton」は、原則として、溶鋼の重量を指すものとする。
以下、本発明の実施の形態を説明する。図1は、低硫鋼の製鋼フローである。
先ず、高炉(S100)から溶銑脱硫設備(例えばトーピードカーなど)へ出銑した溶銑に対して、該溶銑脱硫設備において溶銑脱硫処理を為し、該溶銑中のS濃度[ppm]を約30とする。なお、溶銑脱硫処理終了時における溶銑の温度[℃]は、1300程度とされる。
次に、溶銑脱硫設備から転炉へ溶銑を移し、公知の酸素吹付操業により溶銑中のCをCOとせしめて除去し該溶銑中のC濃度[wt%]を約0.05とし溶鋼とする。
次に、転炉から取鍋へ上記溶鋼を出鋼し、取鍋を取鍋精錬設備へ搬送する。このとき、転炉内のすべての溶鋼が取鍋へ出鋼し尽くした直後に転炉と取鍋との間の流路を閉塞することとし、結果として取鍋内に収容される溶鋼の上側に、約50〜80mmの厚みのスラグの層が形成されるようにする。なお、転炉から取鍋へ流出した該スラグの組成は概ね以下の通りであって、本実施形態に係る取鍋は250tonの溶鋼を収容するのに適したサイズであり、出鋼の際の溶鋼の温度[℃]は約1660とされる。
CaO[wt%]:50
SiO2[wt%]:14
MgO[wt%]:8
次に、上記のバブリングランスと昇熱装置を取鍋から退避させ、取鍋を、真空脱ガス設備へ所定の時間内に搬送する。即ち、取鍋内に収容されている溶鋼の、取鍋精錬工程の終了時点から真空脱ガス工程の開始時点に至るまでの間の待機時間[min]を所定時間内((b)詳しくは後述する。)とする。
上記の真空脱ガス工程は、成分調整して溶鋼が所定の成分になるとともに、前記発生するAl2O3などの介在物が溶鋼からスラグ中に浮上し吸収される時間を考慮して終了する。
次に、取鍋を真空脱ガス設備から連続鋳造設備へ搬送し、取鍋内の溶鋼をタンディッシュを介して鋳型へ注湯して冷却し、所定形状に凝固させる。
次に、真空脱ガス工程における復硫現象の抑制技術に関して説明する。本実施形態において該抑制技術は、きめ細かく条件設定された高度な二次精錬方法によって実現される。以下、この二次精錬方法に対して設定される多岐に渡る条件群について、順を追って詳細に説明する。
上記実施形態において溶鋼の温度[℃]は、取鍋精錬工程の開始時点から真空脱ガス工程の終了時点に至るまでの間、1560〜1660とする。この温度範囲の下限は、溶鋼が凝固するのを回避するために設けられる。なお、鋼種に依存するが溶鋼の凝固温度[℃]は概ね1520とされる。一方で、この温度範囲の上限は、取鍋の内壁面を構成する耐火物(以下、単に取鍋耐火物とも称する。)の溶損を抑制するために設けられる。なお、この温度範囲の上限の存在を理由として、鋳型へ注湯する際の溶鋼の温度を所定の温度とするためには、真空脱ガス設備における溶鋼の昇熱が必須とされる。
上記実施形態において取鍋内の溶鋼の、取鍋精錬工程の終了時点から真空脱ガス工程の開始時点に至るまでの間の待機時間[min]は60以下とする。簡単に言うと、取鍋精錬設備から真空脱ガス設備への搬送は短時間で終わらせるのである。このような時間制限を設けたのは、真空脱ガス設備の溶損の原因とされる該真空脱ガス設備における昇熱量を大きく確保しなくても済むように、搬送に伴う溶鋼の温度降下を抑えるためである。つまり、取鍋搬送の際の溶鋼の温度降下が小さければ、真空脱ガス設備における昇熱量も比較的小とでき、もって、該昇熱(テルミット反応)に起因する真空脱ガス設備の溶損を抑制できる。
上記実施形態において取鍋内の溶鋼に対する前記攪拌の攪拌動力[Watt/ton]は15〜110とする。この攪拌動力の下限は、溶鋼−スラグ界面反応を促進させて脱硫を進行させるために設けられる。また、この攪拌動力の上限は、溶鋼及びスラグの飛散を抑制するために設けられる。なお、取鍋精錬工程においては、取鍋の上端縁に取鍋蓋が載置され、飛散した溶鋼やスラグは、取鍋と取鍋蓋との間を連結してしまう原因とされる。
上記実施形態において前記取鍋の溶鋼の前記環流の流量[ton/min]は130〜195とする。この流量の下限は、(i)取鍋内の溶鋼を満遍なく昇熱させると共に、(ii)昇温のための熱を確実に拡散させることにより設備(真空脱ガス設備及び取鍋)の局所的な溶損を回避し、更に、(iii)次工程である連続鋳造の操業を見据えて真空脱ガス工程を早期に完了させる、の(i)〜(iii)のために設けられる。一方、この流量の上限は、Arガスの消費量(つまり、コストとの兼ね合い)の観点から設けられる。
上記実施形態において溶鋼に対するAlの投入量[kg/ton]は0.5〜2.0とする。この投入量の下限は、真空脱ガス工程において溶鋼を少なくとも10[℃]以上は昇温させたいという操業上の事情からである。一方、この投入量の上限は、過度の昇温に起因する真空脱ガス設備の耐火物の溶損を抑制するためである。なお、真空脱ガス設備(特に前記の環流浸漬管)の耐火物が溶損した場合は、該溶損量が所定の溶損量に到達する毎に該耐火物に対して不定形耐火物を吹付けて対応する。この不定形耐火物の吹付け作業が長時間に及ぶ程に真空脱ガス設備の耐火物が溶損すると、所定時間間隔毎に為される連続鋳造設備への取鍋の搬送が滞ってしまう。この意味でも、Alの投入量の上限の存在は有意とされる。
上記実施形態において溶鋼に対する酸素の吹付量[Nm3/ton]は0.4〜2.0とする。この吹付量の下限及び上限は、上記Al投入量の下限及び上限に係る理由と同様の理由により設けられる。
上記実施形態において、取鍋精錬工程の終了時点から真空脱ガス工程の終了時点に至るまでの間のスラグの厚み[mm]は200〜400とする。このスラグ厚みの下限は、(i)S濃度が30ppm程度の溶鋼(250ton)を更に脱硫して該S濃度を10ppm未満とするには、石灰アルミナ系スラグではスラグ厚みに換算して200mm以上のスラグ量(なお、取鍋の内径は約3.6[m])を確保しなければならず、また、(ii)真空脱ガス工程における復硫現象を抑制するには該真空脱ガス工程においてスラグの上方部分が固化する必要があるからである(スラグの厚みがないと、スラグの全体が溶融してしまう。)。一方、このスラグ厚みの上限は、以下の理由に因る。ここで、図2を参照されたい。図2は、真空脱ガス装置の正面断面図である。本図に示すように前記の環流浸漬管は真空槽の下部と一体で形成される環流管と、該環流管の下側にフランジを介して保密状に連結される浸漬管と、から構成される。そして、(i)該フランジがスラグからの輻射熱により熱変形し、環流管と浸漬管との保密状態の維持が困難となることを防止するために、該フランジとスラグとの間の距離を確保すると共に、(ii)スラグが真空槽の中に混入するのを防止するために、環流浸漬管の下端とスラグとの間の距離を確保し、更に、(iii)コスト上の問題で浸漬管の長さを極力短くする、の(i)〜(iii)の理由からである。なお、本図に示すように、真空脱ガス工程において溶鋼は上方へ1.4m程度吸い上げられるとされ、浸漬管の長さは概ね800[mm]とされる。
上記実施形態において、取鍋精錬工程の終了時点から真空脱ガス工程の終了時点に至るまでの間のスラグの厚みは、下記式(1)を満足させることとする。
TL≧11667 L2-9117 L+3030・・・(1)
ただし、
TL[℃]:スラグの液相線温度
L[m]:スラグの厚み
上記実施形態において、取鍋精錬工程中のスラグ組成は、本工程の終了時点において、CaO/Al2O3≧1.4、MgO[wt%]≧4、CaO[wt%]=45〜60、Al2O3[wt%]=25〜40、SiO2[wt%]<15とする。(i)「CaO/Al2O3≧1.4」とするのは、高い脱硫能(脱硫能とは、スラグ中のS濃度を溶鋼中のS濃度で除した値に相当する。)のスラグとするためである。(ii)「MgO[wt%]≧4」とするのは、真空脱ガス設備及び取鍋の耐火物の溶損を抑制すると共に、スラグの固さを適切とするためである。(iii)「SiO2[wt%]<15」とするのは、SiO2自体がスラグの脱硫能を低下させる方向へ作用するからである。(iv)その他、「CaO[wt%]=45〜60」や「Al2O3[wt%]=25〜40」とするのは、上記(i)を実現すると共に、コスト面の兼ね合いからである。
上記実施形態において、取鍋精錬工程中のスラグ融点は、少なくとも本工程の終了時点において溶鋼の温度以下とする。これは、溶鋼に対する脱硫を進行させるには溶鋼−スラグ界面反応を要し、この反応は、スラグが溶融していることを要するからである。もし、取鍋精錬工程中のスラグ融点が溶鋼の温度よりも高いとすると、例えスラグが溶鋼によって加熱されたとしても、スラグは(多かれ少なかれ)溶融することなく固化された状態を維持してしまい、その結果、溶鋼−スラグ界面反応が阻害され、溶鋼に対する脱硫が殆ど進行することはないだろうし、進行したとしても脱硫の効率(時間に対するS成分の濃度の低下速度)が低いので長時間を要することとなり、前後の工程である脱炭処理や連続鋳造との関連において操業上、無理を生じる。
次に、スラグ厚みとスラグ融点との関係について説明する。図3は、スラグ厚みとスラグ融点(液相線温度)との関係の一例に係るグラフである。本図に示すように、スラグ厚みは取鍋精錬工程の終了時点から真空脱ガス工程の終了時点に至るまでの間の種々の上記理由群により上限及び下限が決定され、スラグ融点は取鍋精錬工程における上記理由群により上限が決定され、スラグ厚みとの関係により下限が決定される。付言するならば、このスラグ融点(スラグの液相線温度)は、当請求項の範囲内のスラグ組成でスラグの大半を占める成分CaO、Al2O3、SiO2、MgO、FeO、MnOを用いて該スラグ融点の算出に用いた公知の手段(計算ソフト名:ファクトセージ)を用いて計算すれば、このソフトとの兼ね合いで、実際のところ、その下限は概ね1440[℃]とされる。従って、スラグ融点の実際の下限は、スラグ厚みと、算出に用いた公知の手段と、の両者との兼ね合いにより決定されると言える。
・「取鍋精錬工程における攪拌動力」は、該工程における攪拌動力の平均値を意味する。
・「真空脱ガス工程における環流流量」は、該工程における環流流量の平均値を意味する。
・「取鍋精錬終了〜真空脱ガス終了のスラグ厚みL」は、取鍋精錬工程の終了時点におけるスラグ厚みLと真空脱ガス工程の終了時点におけるスラグ厚みLとを測定してその測定値を平均化したものを意味する。
・各「取鍋精錬工程におけるスラグ組成」は、取鍋精錬工程終了時点におけるスラグ組成を意味する。
・「取鍋精錬工程におけるスラグ融点TL」は、取鍋精錬工程終了時点におけるスラグ融点TLを意味する。
・「スラグ量」は、取鍋精錬終了時点におけるスラグの重量を意味する。
・「取鍋精錬工程の終了時点におけるS濃度」は、取鍋精錬工程の終了時点における溶鋼のS濃度を意味する。
・「製品段階におけるS濃度」は、連続鋳造後の鋳片又は鋼片の成分分析により得られたS濃度を意味する。
・「復S」は、取鍋精錬工程の終了時点から製品段階に至る過程における溶鋼中S濃度の上昇幅を意味する。
TL≧11667 L2-9117 L+3030・・・(1)
ただし、
TL[℃]:前記スラグの液相線温度
L[m]:前記スラグの厚み
Claims (1)
- 転炉から取鍋へ出鋼した溶鋼に対して造滓剤を添加して該溶鋼の上側にスラグを生成せしめると共に、該溶鋼内にArガスを吹き込んで上記の溶鋼及びスラグを攪拌することにより該溶鋼を脱硫する取鍋精錬工程と、
取鍋内に収容されている溶鋼に対してAlを投入し且つ酸素を吹き付けることで該溶鋼を昇温せしめると共に、減圧装置を備える真空槽と該真空槽の下部に連結される一対の環流浸漬管とから成る真空脱ガス装置を用いて該溶鋼を前記一対の環流浸漬管のうち何れか一方の環流浸漬管と、前記真空槽と、他方の環流浸漬管と、にこの順に環流させて真空雰囲気に曝すことにより該溶鋼に溶存している不純物元素を除去する真空脱ガス工程と、
をこの順に含む、低硫鋼の二次精錬方法において、
(a)一の取鍋内に収容されている溶鋼の、前記取鍋精錬工程の開始時点から前記真空脱ガス工程の終了時点に至るまでの間の温度[℃]を1560〜1660とし、
(b)前記取鍋内に収容されている溶鋼の、前記取鍋精錬工程の終了時点から前記真空脱ガス工程の開始時点に至るまでの間の待機時間[min]を60以下とし、
(c)前記取鍋精錬工程において、前記取鍋内に収容されている溶鋼に対する前記攪拌の攪拌動力[Watt/ton]を15〜110とし、
(d)前記真空脱ガス工程において、前記取鍋内に収容されている溶鋼の前記環流の流量[ton/min]を130〜195とし、
(e)前記真空脱ガス工程において、前記取鍋内に収容されている溶鋼に対する前記Alの投入量[kg/ton]を0.5〜2.0とし、
(f)前記真空脱ガス工程において、前記取鍋内に収容されている溶鋼に対する前記酸素の吹付量[Nm3/ton]を0.4〜2.0とし、
(g)(g1)前記取鍋精錬工程の終了時点から前記真空脱ガス工程の終了時点に至るまでの間の前記スラグの厚み[mm]を200〜400とすると共に(g2)下記式(1)を満足せしめ、
(h)(h1)前記取鍋精錬工程において前記スラグは、その組成をCaO/Al2O3≧1.4、MgO[wt%]≧4、CaO[wt%]=45〜60、Al2O3[wt%]=25〜40、SiO2[wt%]<15とし、(h2)その融点を前記取鍋内に収容されている溶鋼の温度以下とする、
ことを特徴とする、低硫鋼の二次精錬方法。
TL≧11667 L2-9117 L+3030・・・(1)
ただし、
TL[℃]:前記スラグの液相線温度
L[m]:前記スラグの厚み
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