JP3813902B2 - タンディッシュの連続使用方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼を連続鋳造する際に用いるタンディッシュの連続使用方法に関し、より詳細には、タンディッシュ内のスラグ排出性を向上させることによって、タンディッシュを熱間で連続使用した際における溶鋼の汚染を可及的に低減し、介在物の混入量が少なく良好な品質の鋳片を製造し得る様に改善された方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鋼を連続鋳造するに際しては、溶鋼を溶解炉から溶鋼鍋へ出鋼し、該溶鋼鍋で成分調整や溶鋼温度を調整した後、溶鋼鍋底部に設けられた出鋼孔(ノズル)からタンディッシュへ注入される。タンディッシュに注入された溶鋼は、タンディッシュ内で一時的に滞留させた後、タンディッシュの底部に設けられた浸漬ノズルから鋳型へ注がれる。
【0003】
上述した工程では、タンディッシュの整備コストを低減し、あるいはタンディッシュの予備加熱コストを低減する為に、タンディッシュは熱間で繰り返し使用されている。タンディッシュを熱間で繰り返し使用する際には、前記溶鋼を鋳型へ注入した後、タンディッシュ内に残留する残鋼や残滓などの残留物を排出する必要がある。タンディッシュ内の残留物が時間の経過と共に大気中の酸素によって酸化され、次回のタンディッシュ再使用時に、タンディッシュへ注入される溶鋼を汚染する原因になるからである。そして、該溶鋼の汚染は鋳片品質を低下させる原因となる。
【0004】
ところで、タンディッシュ内の残留物を排出する手段としては、タンディッシュ内の溶鋼を鋳型へ注ぐ際に用いる浸漬ノズルから排出する方法や、タンディッシュ内の残留物を排出する為の専用ノズルから排出する方法がある。また、タンディッシュ内からの残留物の排出性を向上させる技術として、例えば、特開平1-107949号公報には、タンディッシュを傾倒させて残留物を排出する方法が開示されている。しかし、残鋼や残滓などは粘性が高いので、タンディッシュ壁面に付着した残留物はタンディッシュを傾倒しても充分に排出できないことがある。
【0005】
また、特開平7-241652号公報には、タンディッシュ内のスラグに該スラグの融点及び粘度を低下させる為の合成フラックスを添加すると共に、タンディッシュに設けた溶鋼加熱装置で溶鋼を加熱することによってスラグを軟質化し、排出性を向上させる技術が提案されている。しかし、スラグの加熱によって軟質化する方法では、全スラグを軟質化するのに時間がかかり、添加したフラックスによりタンディッシュ内耐火物が溶損されるといった不具合を生じる。
【0006】
さらに、特開平9-323142号公報には、タンディッシュからのスラグの排出性を向上させるための排滓用フラックスが開示されている。しかし、本発明者らが検討したところ、フラックスの成分組成を規定するだけでは、タンディッシュ内に存在する残留物を充分に排出できないことがある。
【0007】
一方、特開平6-142857号公報には、タンディッシュの連続使用方法として、タンディッシュの内張り耐火物に溶融フラックスを付着させることによって、耐火物の溶損を抑制しタンディッシュの劣化を抑えると共に、溶鋼の品質を向上させる技術が提案されている。しかし、本発明者らが確認したところでは、タンディッシュ内の溶鋼にフラックスを投入するだけでは、タンディッシュ内に残留する残鋼や残滓等の残留物の排出性を充分に向上させることができない。
【0008】
また、特開平7-223053号公報には、鋳込み初期の溶鋼汚染を低減し、タンディッシュ内溶鋼の清浄化を図る技術として、タンディッシュ底部から不活性ガスを吹き込むと共に、湯面を溶融性保湿剤で被覆する方法が提案されている。しかしこの技術では、タンディッシュからのスラグの排出性については考慮されておらず、改善の余地が残されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、この様な状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、鋼を連続鋳造する際に用いるタンディッシュ内耐火物へのスラグの付着を抑制し、タンディッシュからのスラグ排出性を向上させることによって、タンディッシュを熱間で連続使用した際における溶鋼の汚染を可及的に低減することのできるタンディッシュの連続使用方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできたタンディッシュの連続使用方法とは、取鍋から注入された溶鋼を鋳型に排出するために用いるタンディッシュの連続使用方法であって、フラックスをタンディッシュ内のスラグに添加すると共に、非酸化性ガスを用いて前記タンディッシュ内のスラグと溶鋼とを攪拌することによって前記スラグの粘度を下げる点に要旨を有するものである。
【0011】
前記非酸化性ガスは、タンディッシュの注入孔から浸漬ノズル方向に沿って形成した吹込み用多孔質レンガから吹き込むことが好ましい。
【0012】
また、前記非酸化性ガスは、タンディッシュの平面視面積(m2)あたり、0.4〜8NL/minで吹き込むことが好ましい。
【0013】
本発明に係るタンディッシュの連続使用方法は、前回キャストの最終チャージにおけるスラグ中のT.Fe含有量が3質量%以上のときに実施することが好ましい。
【0014】
このとき、前記非酸化性ガスは、タンディッシュの平面視面積(m2)あたり、下記(1)または(2)式を満足する様に吹き込むことによって、一層の効果を奏する。
【0015】
【数2】
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、上記課題を解決すべく様々な角度から検討してきた。その結果、フラックスをタンディッシュ内のスラグに添加すると共に、非酸化性ガスを用いて前記タンディッシュ内のスラグと溶鋼を攪拌すると、上記課題が見事に解決されることを見出し、本発明を完成した。以下、本発明を完成した経緯に沿って説明する。
【0017】
先に説明した如く、タンディッシュ内のスラグにフラックスを投入してスラグを軟質化することによってスラグの排出性を向上させる技術では、フラックスの投入時期によって次の様な問題が生じてくる。すなわち、フラックスの投入時期が鋳込み初期であれば、前記フラックスはタンディッシュ内に長時間滞留することになるので、添加されたフラックスによって内張り耐火物の溶損が進行するという問題を生じる。また、タンディッシュ内のスラグが低融点組成になると、スラグ中の酸素ポテンシャルが高くなって、酸化物系介在物が生成しやすくなり、溶鋼の品質を低下させる原因となる。
【0018】
一方、フラックスの投入時期が、鋳造末期や溶鋼排出後であると、CH/CAST(CHとは、タンディッシュが取鍋から溶鋼を受鋼することを指し、以下「チャージ」と称する場合がある。また、CASTとは、連続鋳造においてダミーバーを挿入して鋳造を開始し、取鍋から溶鋼を受鋼して連々鋳が終了するまでを指し、以下「キャスト」と称する場合がある。)の大きい連続鋳造設備では、溶鋼鍋の詰め砂や取鍋で使用したスラグ、更にはタンディッシュ内へ投入したフラックスなどがタンディッシュ内で混合されることになり、タンディッシュ内のスラグ組成が大きく変動する。よって、フラックスを添加してスラグの排出性を向上させるには、タンディッシュ内に存在するスラグの組成に合わせてフラックスを投入しなければならず、スラグ組成の変動が大きいと、スラグ組成に応じた好適なフラックスを添加してスラグの融点や粘度を低下させることが困難になる。
【0019】
また、溶鋼上に形成されるスラグの厚みが薄いときは、溶鋼の熱がスラグ表面まで伝わるのでスラグが軟質化し易いが、該スラグの厚みが厚くなると、溶鋼からの熱がスラグ表面に伝わり難くなるので、スラグ組成によってはスラグの融点が非常に高くなり、スラグ表面が固体状になることもある。このようなときは、鋳造末期や溶鋼排出後のスラグにフラックスを添加したとしても、投入したフラックスがスラグ表面に留まるだけで、スラグとフラックスが殆ど混合されず反応しないか、反応したとしても反応速度が非常に遅くなり、スラグの排出性を充分に高めることができない。
【0020】
そこで、本発明者らは、フラックスの添加に伴うタンディッシュの溶損を抑制しつつ、タンディッシュからのスラグ排出性をより効果的に向上させることのできるタンディッシュの連続使用方法について検討したところ、タンディッシュ内のスラグに、スラグの粘度を低下させるフラックスを添加すると共に、タンディッシュ内に非酸化性ガスを吹き込んで溶鋼とスラグを攪拌すれば、スラグとフラックスとの反応が著しく促進され、スラグの排出性が著しく向上することをつきとめた。つまり、鋳造を続けることによってタンディッシュ内スラグの成分組成が変動してスラグの粘度が高くなり固体状になったとしても、タンディッシュ内の溶鋼を攪拌することで溶鋼の熱が常に供給されるので、スラグが軟質化しやすくなる。また、非酸化性ガスによって溶鋼とスラグとの界面が攪拌されるので、固体状になったスラグにも溶鋼の熱が伝わり易くなる。さらに、スラグとフラックスとの混合および、それに伴うスラグの低粘度化も促進され、タンディッシュ内のスラグを効率良く排出させることができる。よって、タンディッシュ内の残留スラグ量が可及的に少なくなるので、タンディッシュを熱間で再使用しても溶鋼の汚染が抑えられ、鋳片の品質を確保することができる。
【0021】
また、タンディッシュ内へ非酸化性ガスを吹き込むと、前回キャストにおいてタンディッシュ壁面に付着した残留スラグの浮上を促進させることができる。よって、タンディッシュを熱間で連続使用してもタンディッシュの壁面にはスラグが殆ど残っていないので、溶鋼の汚染は生じない。尚、本発明者らは、スラグ壁面に付着している残留スラグの厚みが20mm以下、好ましくは10mm以下であれば、該残留スラグによる溶鋼の汚染は殆ど無いことを確認している。
【0022】
さらに、本発明によれば、スラグとフラックスとの反応(混合)を促進することができるので、フラックスを添加してから短時間のうちに低粘度のスラグに改質でき、タンディッシュ内耐火物の溶損も抑制できる。つまり、従来の様にタンディッシュ内のスラグを加熱によって軟質化する方法や、単にフラックスを添加する方法では、スラグを改質するまでに相当の時間がかかり、スラグとの接触時間の延長に伴なってタンディッシュ内耐火物の溶損が進むが、本発明ではスラグとの接触時間の短縮により耐火物の溶損を最小限に抑えることができる。尚、本発明において非酸化性ガスを用いる理由は、タンディッシュ内溶鋼が酸化されて酸化物を生成させない為である。
【0023】
本発明において、タンディッシュ内へ非酸化性ガスを吹き込む手段は特に限定されないが、例えば、タンディッシュの底面部から吹き込む方法が挙げられる。具体的には、タンディッシュの底面に多孔質(ポーラス)のレンガを施工し、該レンガから非酸化性のガスを吹き込めば良い。
【0024】
但し、多孔質レンガは、タンディッシュ内に投入する前記フラックスによって溶損し易いので、タンディッシュの底面全体に多孔質レンガを施工することは適切ではない。よって、該非酸化性ガス吹き込み用の多孔質レンガは、タンディッシュへの溶鋼の注入孔から浸漬ノズル方向に沿って形成するのが良く、それにより多孔質レンガの施工面積を少なくでき、多孔質レンガの補修作業も簡素化できる。つまり、タンディッシュの底面に、例えば長方形の多孔質レンガを施工する際には、タンディッシュから溶鋼を排出するときに生じる溶鋼の流れ方向に対して、多孔質レンガの長辺が垂直になる様に多孔質レンガを施工するよりも、溶鋼の流れ方向と多孔質レンガの長辺が並行になる様に多孔質レンガを施工した方が、タンディッシュ内の溶鋼やスラグに対して非酸化性ガスの吹き込みによる攪拌効率を高めることができ、スラグとフラックスとの反応をより促進できるからである。尚、タンディッシュ底面に設ける多孔質レンガの形状は特に限定されないが、例えば、長方形や正方形、楕円形などの形状が挙げられる。
【0025】
次に、タンディッシュ内に吹き込む非酸化性ガスの流量とスラグ排出性との関係について検討した。スラグ排出性は、タンディッシュ内に存在する全残留スラグ量と、タンディッシュから排出されたスラグ量から下記式によってスラグ排滓効率(%)を算出して評価した。
【0026】
【数3】
【0027】
タンディッシュ内のスラグにフラックスを添加すると共に、タンディッシュ底面に設けた多孔質レンガから非酸化性ガスを吹き込むことによってタンディッシュ内の溶鋼とスラグを攪拌した。図1は、実験に用いたタンディッシュの底面を示す概略図である。図中1はタンディッシュ、3は溶鋼排出ノズル孔、4は多孔質レンガ、5は溶鋼の流れ方向を夫々示している。なお、溶鋼の注入ノズルは、タンディッシュの天井部に設けられているが、溶鋼排出ノズル孔4との位置関係を明確にするため溶鋼注入ノズル孔2として図中に示した。また、タンディッシュの形状は図7に示している。
【0028】
図1に示す様に、タンディッシュ底面には、溶鋼注入ノズル孔2と溶鋼排出ノズル孔3の間に多孔質レンガ4を施工している。タンディッシュの平面視面積は5m2であり、非酸化性ガスはArガスを用いた。また、フラックスの投入量は150kgである。タンディッシュ内に吹き込む非酸化性ガスの流量(Ar攪拌流量)を適宜変化させたときのスラグ排滓効率(%)を図2に示す。
【0029】
図2から明らかな様に、タンディッシュ内の溶鋼を攪拌するために吹き込むArガスの流量とスラグ排滓効率との間には明らかに相関関係が認められる。つまり、Arガスの吹き込み量が少なければ、タンディッシュ内の溶鋼やスラグの攪拌が不充分となり、スラグとフラックスが充分に反応せず、スラグの改質が遅れる。従って、図2からも明らかな如く、スラグの改質を短時間で効率良く進めて満足のいくスラグ排滓効果を得る為には、非酸化性ガスの吹き込み量をタンディッシュの平面視面積(m2)あたり、0.4NL/min以上にすることが推奨される。但し、ガス吹き込み流量が過剰になると、溶鋼とスラグとの界面で波立ちが激しくなり過ぎてスラグの巻き込みや大気中の酸素による溶鋼の酸化が生じて、溶鋼品質がかえって低下するといった問題が生じるので、非酸化性ガスの吹き込み量の上限はタンディッシュの平面視面積(m2)あたり、8NL/minとするのが良い。より好ましくは2.0NL/min・m2以上、4.0NL/min・m2以下である。
【0030】
次に、タンディッシュ内に残留しているスラグの成分組成と、該スラグを排出した後のタンディッシュを連続使用したときの溶鋼品質との関係について検討した。タンディッシュへフラックスを添加し、非酸化性ガスの吹き込みの有無が溶鋼品質に及ぼす影響について調べた。
【0031】
スラグの成分組成は、前回キャストの最終チャージにおけるタンディッシュ内スラグを採取し、該スラグ中のT.Fe含有量(質量%)を測定することによって、スラグが溶鋼を酸化するポテンシャルを判断する指標とした。非酸化性ガスとしてはArガスを用い、Arガスの吹き込み量は、タンディッシュの平面視面積(m2)あたり、4.0NL/minとした。溶鋼品質は酸素含有量([O]t:単位ppm)で評価した。
【0032】
なお、スラグ中のT.Fe含有量とは、スラグ中における酸化鉄含有量を指し、スラグを成分分析して求めた。前回キャストの最終チャージにおけるタンディッシュスラグ中のT.Fe含有量と、該スラグを排出した後のタンディッシュを連続使用したときの溶鋼品質との関係を図3に示す。
【0033】
タンディッシュ内の溶鋼にArガスを吹き込まない場合は、フラックスを投入してもフラックスとスラグとの反応が充分に進まず、スラグは高粘度のままとなりタンディッシュからの排出が不充分となった。その結果、多量のスラグがタンディッシュ内に残り、この様なタンディッシュを熱間で連続使用すると、図3から明らかな様に溶鋼中の[O]t濃度が高くなって、溶鋼の品質が低下している。
【0034】
一方、タンディッシュ内の溶鋼にArガスを吹き込んだ場合は、スラグとフラックスが容易に接触反応し、添加したフラックスによってスラグの粘度が低くなり、固体状にならないので、スラグは効率良く改質される。その結果、改質されたスラグはタンディッシュから効率良く排出されるので、この様なタンディッシュを熱間で連続使用しても図3から明らかな様に溶鋼中の[O]t濃度が低く、溶鋼の品質は良好に保たれる。
【0035】
また、フラックスの投入とArガス吹き込みを併用すると、前回キャストの最終チャージにおけるスラグ中のT.Fe含有量が3質量%以上であってもスラグとフラックスとの反応が充分に進行するので、タンディッシュからのスラグ排出性は良好となる。よって、本発明に係る方法は、前回キャストの最終チャージにおけるタンディッシュ内スラグのT.Fe(トータルFe)含有量が3質量%以上のときに実施することが好適である。
【0036】
次に、タンディッシュスラグ中のT.Fe含有量と非酸化性ガスの吹き込み量との関係について検討した。タンディッシュスラグを採取してスラグ中のT.Fe量を測定した後、溶鋼を供給すると共に、スラグにフラックスを投入し、且つタンディッシュ底面から非酸化性ガス(Arガス)を吹き込むことによってタンディッシュ内を攪拌した。攪拌後タンディッシュから溶鋼およびスラグを排出し、取鍋から新たな溶鋼を注入してタンディッシュを熱間で連続使用した。このときの溶鋼品質を蛍光X線で測定し、溶鋼中の酸素含有量([O]t:単位ppm)で評価した。
【0037】
タンディッシュスラグ中に含まれるFeO量(T.Fe量)とAr攪拌流量(Arガス吹き込み量)の関係を図4に示す。図中○は、タンディッシュ再使用時の溶鋼中における酸素含有量が20ppm以下で溶鋼品質が良好であることを示し、△はタンディッシュ再使用時の溶鋼中における酸素含有量が20超〜40未満ppmであることを示し、×はタンディッシュ再使用時の溶鋼中における酸素含有量が40ppm以上で溶鋼品質が不良であることを示している。
【0038】
図4から明らかな様に、タンディッシュを再使用したときの溶鋼品質は、スラグ中におけるT.Fe含有量とAr吹き込み量に影響を受けることが分かる。そして、タンディッシュを再使用した際に良好な溶鋼品質を実現するには、スラグ中のT.Fe量に応じて、下記(1)式または(2)式を満足する様に非酸化性ガスを吹き込むのが好ましいことが分かる。
【0039】
【数4】
【0040】
尚、T.Fe含有量が0質量%以上、3質量%未満のスラグは、酸化ポテンシャルが低く、タンディッシュ内に非酸化性ガス(Arガス)を吹き込まずにタンディッシュを熱間で連続使用しても溶鋼の品質は良好である。
【0041】
本発明で用いるフラックスは、スラグの融点を下げて、粘度を低下させるものであればその成分組成は特に限定されない。つまり、従来ではフラックスを添加してスラグを改質するまでに時間がかかるので、この間の耐火物の溶損が問題となっていたが、本発明では非酸化性ガスの吹き込みによってスラグとフラックスとの反応時間を短縮できるので、タンディッシュ内における耐火物の溶損といった問題を生じない。よって、従来では耐火物の溶損の観点から用いることのできなかった成分組成のフラックスであっても、本発明では採用することができる。
【0042】
フラックスの成分としては、例えばCaO、SiO2およびAl2O3を夫々含有する三元系のものが挙げられ、特に塩基度[CaO/SiO2]が1程度のアノーサイト組成のものが好ましい。また、スラグの低融点化および低粘性化を促進する観点からCaF2やNaFなどのフッ素含有化合物を添加することも推奨される。本発明に係るフラックスの成分組成の具体例を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
上述した様にタンディッシュ内のスラグ組成やスラグ量は変化しやすいので、タンディッシュにフラックスを添加するに際しては、フラックス添加後のスラグが低融点で、且つ低粘性となる様に添加フラックスの成分組成やフラックスの量を適宜調整することが好ましい。
【0045】
本発明で採用することのできる非酸化性ガスの種類は特に限定されず、N2ガスやArガスが例示できる。但し、鋼種によっては窒素含有量の増大が嫌われることがあるので、Arガスなどを用いるのが好ましい。
【0046】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に基づいて設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0047】
実施例1
タンディッシュ内のスラグにフラックスを添加する場合(比較例)と、タンディッシュ内のスラグにフラックスを添加すると共にタンディッシュ内に非酸化性ガスを吹き込む場合(本発明例)について、タンディッシュから溶鋼を排出した後に残留するスラグの厚みと、該スラグの表面性状を調べた。
【0048】
比較例:炭素を0.05質量%含有する鋼を連続鋳造するに際して、取鍋からタンディッシュへ注がれた溶鋼に、前記表1に示したフラックスNo.2を80kg添加した後、13CH連々鋳を実施し、タンディッシュ内のスラグの厚みの変化を毎CH測定した。上記連々鋳造を三回行い、結果を図5に示した。尚、一回目の実験結果を○で、二回目の実験結果を□で、三回目の実験結果を△で夫々示した。
【0049】
本発明例:炭素を0.05質量%含有する鋼を連続鋳造するに際して、取鍋からタンディッシュへ注がれた溶鋼に、前記表1に示したフラックスNo.2を80kg添加すると共に、タンディッシュの底面部から非酸化性ガス(Arガス)を吹き込んで溶鋼を攪拌しながら13CH連々鋳を行った。溶鋼排出後のスラグ厚みを毎CH測定した。結果を図6にプロットした。
【0050】
また、上記比較例および本発明例において、溶鋼排出後のスラグの表面性状を観察し、スラグ表面に固体が析出しているか否かを調べた。結果は、前記図5(比較例)および図6(本発明例)に示したプロット点を、スラグ表面に固体が析出していない場合を白抜きで示し、スラグ表面が固体状となる場合を塗りつぶすことによって示した。
【0051】
図5から明らかな様に、比較例では、タンディッシュ内にArガスを吹き込まず溶鋼を攪拌していないので、スラグにフラックスを添加してもスラグとフラックスが充分に反応せず、CH数(スラグ厚み測定回数)が9回以上になるとスラグ表面が固体状となった。
【0052】
一方、図6から明らかな様に、本発明例では、タンディッシュ内の溶鋼にフラックスを添加すると共に、Arガスを吹き込んで溶鋼やスラグ、フラックスを攪拌しているので、スラグとフラックスが充分に反応している。また、攪拌によって溶鋼からスラグへ熱が充分に供給されるので、タンディッシュを連続使用してもスラグ表面に固体は析出しなかった。
【0053】
実施例2
タンディッシュ内へ非酸化性ガスを吹き込む際の吹き込み方が溶鋼の品質に及ぼす影響を、モデル実験によって検討した。非酸化性ガスとしてはArガスを用い、溶鋼の代わりに水を用いた。溶鋼中の介在物に相当する粒子径は50μm程度である。実験に用いたタンディッシュの形状を図7に示す。
【0054】
図7は、モデル実験に用いたタンディッシュの縦断面図であり、図中10はタンディッシュ、11はタンディッシュへ懸濁液を注ぐ際に用いる注入ノズル、12はタンディッシュから懸濁液を排出する際に用いる排出ノズルを夫々示している。タンディッシュの上部に設けられた注入ノズル11から懸濁液をタンディッシュ10へ注ぎ、タンディッシュ10底面に設けられた排出ノズル12から排出した。
【0055】
タンディッシュ10底面には多孔質レンガ13を設けて、該多孔質レンガ13からArガスを懸濁液へ吹き込んだ。このとき、多孔質レンガ13の形状を変えることによってArガスの吹き込み方を変化させた。図8は、実験に用いた多孔質レンガの形状と、該多孔質レンガの配置を説明する図であり、タンディッシュを上方から見たときの透視図である。図中10はタンディッシュ、11aは注入ノズル孔、12aは排出ノズル孔、13b〜13dはタンディッシュ底面に設けられた多孔質レンガ(ポーラス断面積は0.01m2)を夫々示している。また、図中に示した矢印14は、懸濁液の流れ方向を示している。なお、溶鋼注入ノズルは、タンディッシュの天井部に設けられているが、排出ノズル孔との位置関係を明確にするために図中に「注入ノズル孔」として示した。
【0056】
図8(a)は、タンディッシュ底面に多孔質レンガを設けず、Arガスを懸濁液へ吹き込まない例である。図8(b)は、タンディッシュ底面に円形の多孔質レンガを設けた例である。図8(c)および図8(d)は、タンディッシュ底部に長方形の多孔質レンガを設けた例であり、図8(c)は多孔質レンガの長辺が懸濁液の流れ方向に垂直となる様に設置されており、図8(d)は多孔質レンガの長辺が懸濁液の流れ方向に並行となる様に設置されている。尚、図8(b)に用いた多孔質レンガの面積は0.01m2であり、図8(c)および図8(d)に用いた多孔質レンガの面積は0.01m2である。また、Arガスの吹き込み量はタンディッシュの平面視面積(m2)あたり10NL/minである。
【0057】
タンディッシュ内へ非酸化性ガスを吹き込む際の吹き込み方が、溶鋼の品質へ及ぼす影響は、粒子径が50μm以上の粒子が浮上した割合(粒子の浮上率)で評価した。結果を図9に示す。
【0058】
図9から明らかな様に、懸濁液中へArガスを吹き込む方が[図9(b〜d)]、50μm以上の粒子の浮上率が高いことがわかる。しかし、図9(b)の様に多孔質レンガの形状が円形で、タンディッシュ内の懸濁液に対してArガスの吹き込み部が局所的に集中している場合では、多孔質レンガの直上を通過する懸濁液しか攪拌されない。よって、多孔質レンガが配置されている箇所以外の懸濁液は、Arガスによって殆ど攪拌されないので、粒子径が50μm以上の粒子はあまり浮上せず、溶鋼の清浄化効果が得られない。
【0059】
一方、図9(c)や図9(d)の様に多孔質レンガの形状が長方形であると、タンディッシュ内の懸濁液全体をArガスによって攪拌することができるので、粒子径が50μm以上の粒子は効率良く浮上することが分かる。すなわち、溶鋼の清浄化効果が得られる。特に図9(d)の様に長方形の多孔質レンガを、タンディッシュ内の注入孔から浸漬ノズル方向に沿って配置し、懸濁液の流れ方向に並行となる様にArガスを吹き込むと、懸濁液に長時間Arガスを吹き込むことができるので、タンディッシュ内の溶鋼を効率良く攪拌することができ、フラックスとスラグの反応を促進することができる。よって、溶鋼の清浄化効果が得られると共に、スラグの排出性を一層向上させることができる。
【0060】
実施例3
タンディッシュ内スラグへのフラックスの添加と、タンディッシュ内への非酸化性ガスの吹き込みが、タンディッシュからのスラグ排出性へ与える影響について検討した。
【0061】
加古川製鉄所の2ストランド湾曲型No.3スラブ連続鋳造機を用いて、1チャージ当たり240トンの溶鋼を使用し、炭素含有量を0.04〜0.15質量%に調整したアルミキルド炭素鋼を図7に示す容量60トンのタンディッシュ(1ストランドは30トン)に注入した。このタンディッシュを用いて、幅1200〜1600mm、厚み230mmのスラブを10〜13チャージ鋳造後、タンディッシュ内の残留鋼および残留スラグを排出した。ここで、鋳造終了後タンディッシュに残留している残鋼とスラグの量を、タンディッシュに設けられた秤量機を用いて測定したところ、約1トン(1000kg)であった。また、実験で用いたタンディッシュには、傾倒させる機能は付いておらず、残留溶鋼や残留スラグの排出には、タンディッシュ底面部に設けた浸漬ノズルを使用した。
【0062】
Arガスの吹き込み量は、タンディッシュの平面視面積(m2)あたり20NL/minとし、鋳造初期のタンディッシュに投入する大気酸化防止用フラックス、溶鋼鍋のスラグ、詰め砂、およびスラグの融点および粘性を低下させるためのフラックスの成分組成は、表2に夫々示した通りである。
【0063】
【表2】
【0064】
前記タンディッシュにおいて、次に示す条件▲1▼〜▲4▼の場合について鋳造した後のスラグ排出性を比較し、タンディッシュから排出されたスラグの質量(残留物排出量)を図10に示す。
【0065】
<条件>
▲1▼スラグの粘度を低下させるフラックスを添加せず、Arガスも吹き込まない場合。
▲2▼スラグの粘度を低下させるフラックスを添加する場合。
▲3▼スラグの粘度を低下させるフラックスを添加せず、Arガスを吹き込む場合。
▲4▼スラグの粘度を低下させるフラックスを添加すると共に、Arガスを吹き込む場合。
【0066】
また、タンディッシュから残留鋼および残留スラグ排出後のタンディッシュ壁面に付着しているスラグ厚みを測定した。その結果を図11に示す。
【0067】
さらに、上記条件▲1▼〜▲4▼の場合についてタンディッシュから排出されるスラグの成分組成を蛍光X線(島津製作所社製)で夫々測定した。その結果を表3に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
図10、図11および表3から次の様に考察できる。上記条件▲1▼の場合は、スラグの排出性が悪く、タンディッシュ内壁面に多くの残留物が付着している。よって、この様なタンディッシュを熱間で連続使用すると、タンディッシュ内壁面に付着した残留スラグによる溶鋼の汚染が発生する。
【0070】
タンディッシュ内に単にフラックスを添加しただけの場合(上記条件▲2▼)や、タンディッシュ内をArガスで攪拌しただけの場合(上記条件▲3▼)では、条件▲1▼の場合よりもスラグの排出性は向上しているものの、未だ多くの残留物がタンディッシュ壁面に付着している。よって、この様なタンディッシュを熱間で連続使用すると、該残留物が酸化して溶鋼の品質を低下させる原因となる。
【0071】
一方、本発明例(上記条件▲4▼)では、従来法に比べてタンディッシュ内残留物の排出量を約3倍に高めることができ、タンディッシュ壁面への残留物の付着量を大幅に低減し得ることが分かる。すなわち、スラグ排出後のタンディッシュ壁面に付着しているスラグの厚みは20mm以下となっているので、タンディッシュを熱間で連続使用しても、タンディッシュに注入された溶鋼品質を低下を最小限に抑えることができる。
【0072】
ここで、上記条件▲2▼と上記条件▲4▼のスラグ組成を比較すると、両者は殆ど等しい。このことから、タンディッシュ内をArガスで攪拌すれば、スラグの温度を高温のまま保持することができ、スラグが同一組成であってもスラグの粘度を小さくできることが分かる。
【0073】
【発明の効果】
本発明によれば、タンディッシュを用いて鋼を連続鋳造するに際し、タンディッシュからのスラグ排出性を飛躍的に向上させて残留スラグ量を大幅に低減できるので、タンディッシュを熱間で連続使用しても、溶鋼品質に殆ど悪影響を及ぼすことが無い。よって、本発明に係るタンディッシュの連続使用方法を採用することによって、高品質の鋼鋳片を生産性良く製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実験に用いたタンディッシュの底面を示す概略図である。
【図2】 タンディッシュ内に吹き込む非酸化性ガスの流量とスラグ排滓効率との関係を示すグラフである。
【図3】 前回キャストの最終チャージにおけるタンディッシュスラグ中のT.Fe含有量と溶鋼中の酸素含有量との関係をプロットした図である。
【図4】 タンディッシュ内スラグ中に含有されるT.Fe量とAr攪拌流量との関係を示す図である。
【図5】 タンディッシュ内のスラグにフラックスを添加する場合におけるスラグ厚みを観察した結果である。
【図6】 タンディッシュ内のスラグにフラックスを添加すると共にタンディッシュ内に非酸化性ガスを吹き込む場合におけるスラグ厚みを観察した結果である。
【図7】 実施例に用いたタンディッシュの縦断面図である。
【図8】 タンディッシュの上方から見た透視図である。
【図9】 懸濁液中へArガスを吹き込む方法の違いによる粒子の浮上率の変化を示すグラフである。
【図10】 フラックスの添加とArガスの吹き込みが、タンディッシュからの残留物排出量に与える影響を示したグラフである。
【図11】 フラックスの添加とArガスの吹き込みが、タンディッシュ壁面に付着するスラグ厚みに与える影響を示したグラフである。
【符号の説明】
1 タンディッシュ 2 溶鋼注入ノズル孔
3 溶鋼排出ノズル孔 4 多孔質レンガ
5 溶鋼の流れ方向 10 タンディッシュ
11 注入ノズル 11a 注入ノズル孔
12 排出ノズル 12a 排出ノズル孔
13a〜13d 多孔質レンガ 14 懸濁液の流れ方向
Claims (3)
- 前記非酸化性ガスを、タンディッシュの注入孔から浸漬ノズル方向に沿って形成した吹込み用多孔質レンガから吹き込む請求項1に記載のタンディッシュの連続使用方法。
- 前記非酸化性ガスを、タンディッシュの平面視面積(m2)あたり、0.4〜8NL/minで吹き込む請求項1または2に記載のタンディッシュの連続使用方法。
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