以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
〔インクジェット記録装置の全体構成〕
図1は、本発明に係るインクジェット記録装置10の全体構成図である。同図に示すように、インクジェット記録装置10は、インクジェットヘッド12K,12C,12M,12Y(詳細は図2、図4に図示)を含む印字部12からインク(顔料インク)を打滴して記録媒体14にカラー画像を記録するインクジェット方式の画像記録装置である。
インクジェット記録装置10は、記録媒体14が収容される給紙部16と、記録媒体14の画像記録面に凝集処理液(以下、単に「処理液」と記載することがある。)を付与する処理液付与部18と、処理液が付与された記録媒体14に加熱処理(乾燥処理)を施して、記録媒体14の表面の溶媒を蒸発させるプレ加熱部20(第1の加熱手段)と、プレ加熱部20により加熱処理を施された記録媒体14に浸透した溶媒を除去する本加熱部22(第2の加熱手段)と、印字部12による画像記録後の記録媒体14に定着処理を施す定着部24と、定着処理後の記録媒体14を装置外に排出する排紙部26と、を備えて構成されている。
記録媒体14には、少なくともA4サイズのカット紙(枚葉紙)形態の印刷用コート紙が含まれる。なお、記録媒体14には印刷用コート紙などの紙類以外にも、所謂普通紙、樹脂シート、金属シートなどの様々な媒体を用いることができる。
給紙部16は、記録媒体14が積層装填された給紙トレイ(不図示)を備え、ピックアップローラ等を含む不図示の給紙機構によって給紙トレイに装填されている記録媒体は、1枚ずつ記録媒体搬送路28に送り出される。記録媒体搬送路28に送り出された記録媒体14は、搬送ローラ対30A〜30Gに支持されて搬送されるローラ搬送方式により所定の搬送方向に搬送される。なお、記録媒体14の搬送方式はローラ搬送方式に限定されず、搬送ベルトを用いたベルト搬送方式など、他の搬送方式を適用してもよい。
複数のサイズの記録媒体や、複数の種類の記録媒体を選択的に使用する場合には、サイズごと又は種類ごとに給紙トレイが設けられる。複数の給紙トレイを具備する態様では、オペレータによって操作パネル(図1中不図示、図8に符号187で図示)から、使用される記録媒体14が収容される給紙トレイが選択される。なお、各給紙トレイに収容している記録媒体のサイズ、種類等の情報を記憶した情報記憶体(例えば、ICタグ)などを取り付けておき、情報記憶体から画像記録に使用される記録媒体14の情報を取得するように構成してもよい。
給紙部16の後段(記録媒体搬送方向の下流側)には、処理液付与部18が設けられている。処理液付与部18は、印字部12から打滴される顔料インクを凝集反応させる機能を持つ凝集処理液をローラ塗布方式により記録媒体14の画像記録面に塗布する。すなわち、処理液付与部18は、凝集処理液が貯蔵される処理液貯蔵部32と、処理液貯蔵部32から凝集処理液をくみ上げる中間ローラ34と、中間ローラ34によりくみ上げられた凝集処理液を記録媒体14の画像記録面に塗布する塗布ローラ36と、を含んで構成されている。
また、塗布ローラ36の記録媒体搬送路28をはさんで反対側には、記録媒体14に凝集処理液を塗布する際に、記録媒体14を裏側面から支持する支持ローラ38が設けられている。
図1には、ローラ塗布方式により記録媒体14の全面にわたって均一に凝集処理液を塗布する態様を例示したが、インクジェット方式により選択的に凝集処理液を付与する態様も好ましい。また、記録媒体14の全面にわたって均一に凝集処理液を塗布する形態はローラ塗布方式に限定されず、ブレードを用いた塗布方式やスプレー方式など他の方式を適用してもよい。
処理液付与部18の後段には、IRプレヒータ40を含むプレ加熱部20が設けられている。プレ加熱部20は、凝集処理液が付与された記録媒体14の表面上に存在する凝集処理液層(図12(b)に符号200で図示)を乱すことなく蒸発させるための加熱手段として機能している。IRプレヒータ40は60℃〜110℃の範囲で温度調整が可能なものを用いるとよい。
プレ加熱部20における記録媒体14を搬送する方式として、ローラ42A,42Bに巻き掛けられた無端状のベルト44によって記録媒体14の裏側を吸着保持して搬送するベルト吸着搬送方式が適用される。プレ加熱部20では、記録媒体14の凝集処理液が塗布された画像記録面を輻射加熱(非接触の加熱方式、塗布面に風を吹き付けない加熱方式)により加熱することで、搬送ローラの接触等による凝集処理液層の乱れ(波打ち)が防止される。また、記録媒体14の全体を画像記録面の反対側面からベルト44によって支持することで、凝集処理液が塗布されている間の記録媒体14自体を平らに保持することができ、より安定した記録媒体14の搬送が可能となる。
IRプレヒータ40の記録媒体搬送路28と反対側には放射板46が設けられ、IRプレヒータ40は、記録媒体搬送路28と対向する面を除く周囲を放射板46で覆われるチャンバー構造を有している。放射板46はIRプレヒータ40から放射される熱を反射させて、記録媒体14の画像記録面に集中させる機能を有している。かかる構造によれば、特に記録媒体14の反対側に放射される熱を記録媒体14の方へ向けることができる。
また、図1に示すように、放射板46のIRプレヒータ40の反対側には、排気配管48が設けられ、さらに排気配管48の放射板46の反対側には吸引ファン50が設けられる。排気配管48及び吸引ファン50は、記録媒体14上に存在する凝集処理液層の蒸発による湿り空気を記録媒体14の周囲から除去し、乾燥した空気に置換する湿り空気除去手段として機能している。
本例では、記録媒体14には数μm程度の厚さで凝集処理液が塗布されており、この凝集処理液層を乱さないために凝集処理液層の表面における風速が0.3mm/sec以下になるように排気配管48及び吸引ファン50の風量が設定される。
排気配管48及び吸引ファン50を含む湿り空気の吸引構造は、記録媒体14の画像記録面に対して局所的に大きな風速を持つ対流が発生することを防止し、凝集処理液層の乱れを抑制するとともに湿り空気を効率よく置換することができ、好ましいプレ加熱処理が実行される。なお、ベルト44にヒータを内蔵して、記録媒体14の裏側面からの加熱を併用する態様も好ましい。
上述した構成を有するプレ加熱部20による加熱処理の詳細は後述する。
プレ加熱部20による加熱処理が施され、画像記録面に固体状の凝集処理液層が形成された記録媒体14は、記録媒体搬送路28の搬送ローラ対30Bと搬送ローラ対30Cの間で垂直上向きに搬送方向が変更され、本加熱部22に送られる。
本加熱部22は、記録媒体14の画像記録面側から80℃〜120℃の温風を吹き付ける熱風ヒータ51を備え、記録媒体14の内部に浸透した溶媒を蒸発させる手段として機能する。記録媒体14の内部に溶媒が浸透するとコックリングは発生し、コックリングの発生は記録媒体14とインクジェットヘッド(図2の符号12K,12C,12M,12Y)とのクリアランスのバラつきとなる。即ち、所定量以上のコックリングが発生すると、インクの着弾位置精度に影響を及ぼし画像品質の低下を招くおそれがある。したがって、高画質を得るにはコックリング量(平滑な記録媒体に対する浮き量及び沈み量)を所定量以下に抑える必要がある。
本例に示すインクジェット記録装置10は、記録媒体14のコックリングを所定のしきい値以下とする条件を満たす溶媒の浸透量に基づき(プレ加熱部20の加熱量よりも大きな加熱量で加熱処理するように)、本加熱部22の加熱処理が制御される。なお、本加熱部22における加熱処理の詳細は後述する。
本加熱部22により加熱処理が施された記録媒体14は、搬送ローラ対30Dと搬送ローラ対30Eの間で水平方向に搬送方向が変更され、搬送速度差吸収ループ52を介して印字部12に送られる。
印字部12は、KCMYの各色に対応するインクジェットヘッド12K,12C,12M,12Yを備え、所定の搬送速度で搬送ローラ対30F及び搬送ローラ対30Gによりニップ搬送される記録媒体14に各色のインクを打滴して所望の画像を形成する。
印字部12による画像記録済みの記録媒体14は、印字部12の後段に設けられた定着部24に送られ、加熱及び加圧による定着処理が施される。図1には、定着部24の一例として、ヒータ(不図示)が内蔵される加熱加圧ローラ54と、記録媒体14の裏側面を支持する支持ローラ56と、の間に記録媒体14をはさみ込み、記録媒体14の画像記録面に所定の温度及び所定の圧力を付与する態様を例示する。
定着部24による加熱温度は、インクに含有される熱可塑性ポリマー粒子の最低造膜温度以上とするとよく、さらに、該ポリマー粒子のガラス転移点以上とするとよい。
また、加圧圧力は1MPa〜5MPaとするとよい。なお、定着部24の加熱量及び加圧量は記録媒体14の種類や記録画像の内容(インク及び処理液の付与量)により適宜変更するとよい。
上述したように加熱処理及び加圧処理を施すことで、顔料の凝集体をバインダとして融着し、耐久性のよい画像を得ることができる。
定着部24による定着処理が施された記録媒体14は、排紙部26を介して装置外部に排出される。排紙部26には、オーダー別に画像を集積するソーター(不図示)が設けられる。
図1には、所定のサイズにカットされたカット紙を用いる態様を示したが、長尺の連続紙を用いることも可能である。連続紙を用いる場合には、給紙トレイに代わりロール状に巻かれた記録媒体を収容するストッカーと、連続紙を所定のサイズにカットするカッターが備えられる。
〔印字部の説明〕
次に、印字部12について詳細に説明する。
<シリアル方式の適用例>
図2は、印字部12に適用されるインクジェットヘッド12K,12C,12M,12Y(以下、インクジェットヘッドを単に「ヘッド」と記載することがある。)の構成例を示す概念図である。同図に示すインクジェットヘッド12K,12C,12M,12Yは、いわゆるシリアル型ヘッドであり。
すなわち、K(黒)、C(シアン)、M(マゼンダ)、Y(イエロー)の各色に対応する短尺のヘッド12K,12C,12M,12Yを記録媒体14の搬送方向と直交する主走査方向に走査させながら主走査方向への印字を行い、主走査方向への一列分の印字が終わると記録媒体14を副走査方向(記録媒体14の搬送方向と平行方向)に1搬送ピッチ分移動させて、主走査方向の次の列について印字を行い、この動作を繰り返して記録媒体14に所望の画像が記録される。
図2に示す印字部12は、ヘッド12K,12C,12M,12Yがキャリッジ60に支持され、さらに、キャリッジ60は軸方向が主走査方向と平行方向に沿って設けられるガイド軸62A,62Bに支持される。かかる構造により、キャリッジ60に支持されたヘッド12K,12C,12M,12Yは主走査方向に往復移動が可能となる。
また、図示を省略するが、各ヘッド12K,12C,12M,12YのそれぞれにKCMYの各色インクを供給するインク供給部が設けられている。インク供給部は、各色インクが収容されているインクタンクと、インクタンクから各ヘッド12K,12C,12M,12Yへのインクの流路となるチューブと、インク流路の開閉を行う開閉弁と、該インク流路内の圧力を可変させるポンプ等と、を含む態様がある。
インクタンクは、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段等)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。インクタンクをヘッド12K,12C,12M,12Yと着脱可能に構成し、インクタンク内のインクが空になると、新しいインクタンクに交換するカートリッジ方式が好ましい。
また、キャリッジ60にはヘッド12K,12C,12M,12Yの外部信号入力端子を介して各液室に設けられるヒータ(図3,図6参照)に駆動信号等を伝達するための電気接続部が設けられている。
ヘッド12K,12C,12M,12Yは、インクを吐出する複数のノズル(図2中不図示、図3に符号71で図示)が所定の配置パターンで並べられている。配置パターン例としては、副走査方向に沿って一列に並べるものや、ノズルを2次元状に配置するものが挙げられる。また、ノズルの2次元状配置の一例として千鳥配置が挙げられる。
図3(a)は、ヘッド12K,12C,12M,12Yの内部構造を示す平面図であり、図3(b)は、図3(a)のA−A線に沿う断面図である。なお、ヘッド12K,12C,12M,12Yの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号70によってヘッドを示すものとする。
図3(a)に示すヘッド70は、インクを吐出するノズル71が所定の配置パターンで並べられた構造を有している。各ノズル71は、インクが収容される液室72と連通し、更に、各液室72は共通流路75と連通する構造を有している。
図3に示すヘッド70は、液室72内のインクを加圧するヒータ78が液室72の内部に設けられ、ヒータ78により液室72内のインクを加熱し、インクの膜沸騰現象により生じた圧力が液室72内のインクに作用して、ノズル71からインクが吐出されるサーマル方式が適用される。
すなわち、画像データに基づく指令信号に応じてヒータ78を駆動することにより、ノズル71からインクが吐出され、ノズル71から所定量のインクが吐出されると共通流路75から液室72へ新たなインクが供給される。
図3(b)には、ノズル71と対向する上側面にヒータ78を備える態様を示したが、ヒータ78は他の位置に配置してもよい。
<フルライン方式の適用例>
また、図1に示す印字部12の他の態様として、主走査方向に記録媒体14の全幅に対応する長さにわたって複数のノズルが並べられたフルライン型ヘッドを備える構成例を示す。
図4に示す印字部120は、記録媒体14の送り方向(白抜き矢印線で図示)に沿って上流側から黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の色順に配置され、それぞれのヘッド120K,120C,120M,120Yが記録媒体14の搬送方向(紙送り方向)延在するように固定設置される。
所定の搬送方向に記録媒体14を搬送しつつ各ヘッド120K,120C,120M,120Yからそれぞれ異色のインクを吐出することにより記録媒体14上にカラー画像を形成し得る。
このように、紙幅の全域をカバーするノズル列を有するフルライン型のヘッド120K,120C,120M,120Yを色別に設ける構成によれば、紙送り方向(副走査方向)について記録媒体14と印字部120を相対的に移動させる動作を1回行うだけで(すなわち1回の副走査で)、記録媒体14の全面に画像を記録することができる。これにより、図2で説明したヘッドが紙搬送方向と直交する方向に往復動作するシリアル方式の画像記録に比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
本例では、KCMYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するインクジェットヘッドを追加する構成も可能である。また、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
また、図4に示すように、ヘッド120K,120C,120M,120Yの後段に撮像素子を含むインラインセンサ124を備え、ヘッド120K,120C,120M,120Yによる印字結果を検出するとともに、検出結果に基づきヘッド120K,120C,120M,120Yのインク吐出を補正することが可能である。
次に、図4に示すヘッド120K,120C,120M,120Yの構造例について詳説する。なお、ヘッド120K,120C,120M,120Yの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号150によってヘッドを示す。
図5(a)はヘッド150の構造例を示す平面透視図であり、図5(b)はその一部の拡大図である。また、図5(c)はヘッド150の他の構造例を示す平面透視図、図6はヘッド150の立体的構成を示す断面図(図5(a),(b)中のB−B線に沿う断面図)である。
記録媒体14上に形成されるドットピッチを高密度化するためには、ヘッド150におけるノズルピッチを高密度化する必要がある。本例のヘッド150は、図5(a),(b)に示すように、インク滴の吐出孔であるノズル151と、各ノズル151に対応する圧力室152等からなる複数のインク室ユニット153を千鳥でマトリクス状に(2次元的に)配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(主走査方向)に沿って並ぶように投影される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
主走査方向に記録媒体14の全幅に対応する長さにわたり1列以上のノズル列を構成する形態は本例に限定されない。例えば、図5(a)の構成に代えて、図5(c)に示すように、複数のノズル151が2次元に配列された短尺のヘッドモジュール150’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせることで記録媒体14の全幅に対応する長さのノズル列を有するラインヘッドを構成してもよい。また、図示は省略するが、短尺のヘッドモジュールを一列に並べてラインヘッドを構成してもよい。
各ノズル151に対応して設けられている圧力室152は、その平面形状が概略正方形となっており、対角線上の両隅部にノズル151と供給口154が設けられている。
図6に示すように、各圧力室152は供給口154を介して共通流路155と連通されている。共通流路155はインク供給源たるインク供給タンク(図6中不図示、図7に符号160で図示)と連通しており、該インク供給タンクから供給されるインクは図6の共通流路155を介して各圧力室152に分配供給される。
圧力室152の天面を構成し共通電極と兼用される振動板156には個別電極157を備えた圧電素子158が接合されており、個別電極157に駆動電圧を印加することによって圧電素子158が変形してノズル151からインクが吐出される。インクが吐出されると、共通流路155から供給口154を通って新しいインクが圧力室152に供給される。
かかる構造を有するインク室ユニット153を図5(b)に示す如く、主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向に沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。
すなわち、主走査方向に対してある角度θの方向に沿ってインク室ユニット153を一定のピッチdで複数配列する構造により、主走査方向に並ぶように投影されたノズルのピッチPはd×cosθとなり、主走査方向については、各ノズル151が一定のピッチPで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。このような構成により、主走査方向に並ぶように投影されるノズル列が1インチ当たり2400個(2400ノズル/インチ)におよぶ高密度のノズル構成を実現することが可能になる。
〔供給系の構成〕
図7は、図5及び図6に示すフルライン型ヘッド150に対応するインク供給系の構成を示した概要図である。インク供給タンク160はヘッド150にインクを供給する基タンクである。インク供給タンク160の形態には、インク残量が少なくなった場合に不図示の補充口からインクを補充する方式と、タンクごと交換するカートリッジ方式とがある。使用用途に応じてインク種類を変える場合には、カートリッジ方式が適している。この場合、インクの種類情報をバーコード等で識別して、インク種類に応じた吐出制御を行うことが好ましい。
図7に示すように、インク供給タンク160とヘッド150の中間には、異物や気泡を除去するためにフィルタ162が設けられている。フィルタ・メッシュサイズは、ノズル径と同等若しくはノズル径以下(一般的には、20μm程度)とすることが好ましい。
なお、図7には示さないが、ヘッド150の近傍又はヘッド150と一体にサブタンクを設ける構成も好ましい。サブタンクは、ヘッドの内圧変動を防止するダンパー効果及びリフィルを改善する機能を有する。
〔メンテナンス機構の説明〕
次に、ヘッド150のメンテナンス機構について説明する。
インクジェット記録装置10には、ノズル151の乾燥防止又はノズル近傍のインク粘度上昇を防止するための手段としてのキャップ164と、ヘッド150のインク吐出面の清掃手段としてクリーニングブレード166が設けられている。
これらキャップ164及びクリーニングブレード166を含むメンテナンスユニットは、不図示の移動機構によってヘッド150に対して相対移動可能であり、必要に応じて所定の退避位置からヘッド150下方のメンテナンス位置に移動される。
キャップ164は、図示せぬ昇降機構によってヘッド150に対して相対的に昇降変位される。電源OFF時や印刷待機時にキャップ164を所定の上昇位置まで上昇させ、ヘッド150に密着させることにより、ノズル面をキャップ164で覆う。
印字中又は待機中において、特定のノズル151の使用頻度が低くなり、ある時間以上インクが吐出されない状態が続くと、ノズル近傍のインク溶媒が蒸発してインク粘度が高くなってしまう。このような状態になると、圧電素子158が動作してもノズル151からインクを吐出できなくなってしまう。
このような状態になる前に(圧電素子158の動作により吐出が可能な粘度の範囲内で)圧電素子158を動作させ、その劣化インク(粘度が上昇したノズル近傍のインク)を排出すべくキャップ164(インク受け)に向かって予備吐出(パージ、空吐出、つば吐き、ダミー吐出)が行われる。
また、ヘッド150内のインク(圧力室152内)に気泡が混入した場合、圧電素子158が動作してもノズルからインクを吐出させることができなくなる。このような場合にはヘッド150にキャップ164を当て、吸引ポンプ167で圧力室152内のインク(気泡が混入したインク)を吸引により除去し、吸引除去したインクを回収タンク168へ送液する。
この吸引動作は、初期のインクのヘッドへの装填時、或いは長時間の停止後の使用開始時にも粘度上昇(固化)した劣化インクの吸い出しが行われる。なお、吸引動作は圧力室152内のインク全体に対して行われるので、インク消費量が大きくなる。したがって、インクの粘度上昇が小さい場合には予備吐出を行う態様が好ましい。
クリーニングブレード166はゴムなどの弾性部材で構成されており、図示せぬブレード移動機構によりヘッド150のインク吐出面に摺動可能である。インク吐出面にインク液滴または異物が付着した場合、クリーニングブレード166をインク吐出面に摺動させることでインク吐出面を拭き取り、インク吐出面を清掃する。
なお、図2に示すシリアル型ヘッドのメンテナンス機構の構成例を挙げると、例えば、ヘッド12K,12C,12M,12Yに対応するキャップ及びクリーニングブレード等を備えたメンテナンスユニットを備え、ヘッド12K,12C,12M,12Yをメンテナンスユニットの位置に移動させて、予備吐出、吸引、ワイピング等の処理を行う構成が挙げられる。また、メンテナンスユニットの配設位置をヘッド12K,12C,12M,12Yのホームポジションとし、印刷終了後はヘッド12K,12C,12M,12Yをホームポジションに移動させるように構成するとともに、印刷開始前に、ホームポジションにおいてヘッド12K,12C,12M,12Yのメンテナンスを行った後に印刷を開始するように構成するとよい。
〔制御系の説明〕
図8は、インクジェット記録装置10のシステム構成を示す要部ブロック図である。図8には、図5(a)〜(c)に示すライン型ヘッドを適用し、図6に示すピエゾ方式を適用した場合のシステム構成を示す。
インクジェット記録装置10は、通信インターフェース170、システムコントローラ172、メモリ174、モータドライバ176、ヒータドライバ178、プリント制御部180、画像バッファメモリ182、画像バッファメモリ182、ヘッドドライバ184、処理液付与制御部185等を備えている。
通信インターフェース170は、ホストコンピュータ186から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース170にはUSB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。ホストコンピュータ186から送出された画像データは通信インターフェース170を介してインクジェット記録装置10に取り込まれ、一旦メモリ174に記憶される。
メモリ174は、通信インターフェース170を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ172を通じてデータの読み書きが行われる。メモリ174は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
システムコントローラ172は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従ってインクジェット記録装置10の全体を制御する制御装置として機能するとともに、各種演算を行う演算装置として機能する。すなわち、システムコントローラ172は、通信インターフェース170、メモリ174、モータドライバ176、ヒータドライバ178等の各部を制御し、ホストコンピュータ186との間の通信制御、メモリ174の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ188やヒータ189を制御する制御信号を生成する。
メモリ174には、システムコントローラ172のCPUが実行するプログラム及び制御に必要な各種データなどが格納されている。なお、メモリ174は、書換不能な記憶手段であってもよいし、EEPROMのような書換可能な記憶手段であってもよい。メモリ174は、画像データの一時記憶領域として利用されるとともに、プログラムの展開領域及びCPUの演算作業領域としても利用される。また、システムコントローラ172等を構成するプロセッサ類に内蔵されるメモリをメモリ174として用いてもよい。
モータドライバ176は、システムコントローラ172からの指示にしたがってモータ188を駆動するドライバである。図8には、装置内の各部に配置されるモータ(アクチュエータ)を代表して符号188で図示されている。例えば、図8に示すモータ188には、図1の搬送ローラ対30A〜30Gを駆動するモータや、処理液付与部18の中間ローラ34や塗布ローラ36を回転させるモータ、プレ加熱部20のローラ42A(42B)を駆動するモータなどが含まれる。
ヒータドライバ178は、システムコントローラ172からの指示にしたがって、ヒータ189を駆動するドライバである。図8には、インクジェット記録装置10に備えられる複数のヒータを代表して符号189で図示されている。例えば、図8に示すヒータ189には、定着部24の加熱加圧ローラ54に内蔵されるヒータなどが含まれている。
プリント制御部180は、システムコントローラ172の制御にしたがい、メモリ174内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字データ(ドットデータ)をヘッドドライバ184に供給する制御部である。プリント制御部180において所要の信号処理が施され、該画像データに基づいて、ヘッドドライバ184を介してヘッド150のインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
プリント制御部180には画像バッファメモリ182が備えられており、プリント制御部180における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリに一時的に格納される。また、プリント制御部180とシステムコントローラ172とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
ヘッドドライバ184は、プリント制御部180から与えられる画像データに基づいてヘッド150の圧電素子158に印加される駆動信号を生成するとともに、該駆動信号を圧電素子158に印加して圧電素子158を駆動する駆動回路を含んで構成される。なお、図8に示すヘッドドライバ184には、ヘッド150の駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
印刷すべき画像のデータは、通信インターフェース170を介して外部から入力され、メモリ174に蓄えられる。この段階では、RGBの画像データがメモリ174に記憶される。
メモリ174に蓄えられた画像データは、システムコントローラ172を介してプリント制御部180に送られ、該プリント制御部180においてインク色ごとのドットデータに変換される。すなわち、プリント制御部180は、入力されたRGBのラスターデータをKCMYの4色のドットデータに変換するRIP処理を行う。プリント制御部180で生成されたドットデータは、不図示の画像バッファメモリに蓄えられる。また、処理液のドットデータも同様に形成することができる。
また、プリント制御部180は、操作パネル187を介してオペレータにより入力された記録媒体の種類(サイズ)や通信インターフェース170を介して入力された画像データに基づき、凝集処理液の付与量及び付与領域を決定するとともに、凝集処理液の付与量及び付与領域を示す指令信号を処理液付与制御部185に送出する。処理液付与制御部185は、プリント制御部180から送られた指令信号に応じて処理液付与部18による凝集処理液の付与量及び付与領域を制御する。
操作パネル187には、タッチパネルを適用してもよいし、操作ボタンと表示装置とを組み合わせた構成を適用してもよい。また、マウスやキーボードなどのユーザインターフェースと表示装置(モニタ)を組み合わせた構成も可能である
プログラム格納部190には各種制御プログラムが格納されており、システムコントローラ172の指令に応じて制御プログラムが読み出され実行される。プログラム格納部190はROMやEEPROMなどの半導体メモリを用いてもよいし、磁気ディスクなどを用いてもよい。外部インターフェースを備え、メモリカードやPCカードを用いてもよい。もちろん、これらの記録媒体のうち、複数の記録媒体を備えてもよい。なお、プログラム格納部190は動作パラメータ等の記憶手段(不図示)と兼用してもよい。
図1に示すプレ加熱部20(IRプレヒータ40及び吸引ファン50)は、プレ加熱制御部191を介してシステムコントローラ172により制御される。システムコントローラ172は、テーブル格納部192に格納されているデータテーブル(詳細後述)を参照してIRプレヒータ40の乾燥条件を決定し、該乾燥条件を表す指令信号をプレ加熱制御部191に送出する。プレ加熱制御部191は指令信号に基づき、IRプレヒータ40の発熱量を制御するとともに、吸引ファン50の風量を制御する。
同様に、図1に示す本加熱部22(熱風ヒータ51)は、図8の本加熱制御部193を介してシステムコントローラ172により制御される。すなわち、操作パネル187により入力された記録媒体14の情報に基づきテーブル格納部192のデータテーブル(詳細後述)を参照して熱風ヒータ51の加熱条件(乾燥条件)を決定し、該乾燥条件を表す指令信号を本加熱制御部193に送出する。本加熱制御部193は指令信号に基づき、熱風ヒータ51の発熱量及び熱風の風量を制御する。なお、プレ加熱部20及び本加熱部22の制御の詳細については後述する。
〔加熱(乾燥)処理の説明〕
次に、図1に示すプレ加熱部20及び本加熱部22による乾燥処理について詳細に説明する。
図9は、本例に適用される乾燥処理の流れを示すフローチャートである。同図に示す乾燥制御では、まず、記録媒体14の表面に残存する凝集処理液(溶媒)の量(溶媒残存量)が求められる(ステップS10)。
図1に示す処理液付与部18の凝集処理液塗布条件(塗布ローラ36のニップ圧、記録媒体14の搬送速度、凝集処理液の粘度及び表面張力、塗布ローラ36の表面及び記録媒体14の表面の表面自由エネルギー等)により、記録媒体14に塗布される凝集処理液の量(塗布量a;図12(a)〜(c)参照)が決められる。
上述した凝集処理液塗布条件は、図8のシステムコントローラ172によって管理される。なお、実用的には、所定の塗布量となるように各種条件を実験的に求め、データテーブル化して、図8に示すテーブル格納部192に記憶しておく。
図10には、データテーブルの構成例を示す。同図に示すデータテーブルは、記録媒体14の種類、記録媒体14の搬送速度、装置内の環境温度をパラメータとして、塗布量aが記憶されている。即ち、図10に示すデータテーブルによれば、用紙Xを用いる場合に、記録媒体の搬送速度がV1mm/s、装置内環境温度がT1℃の条件では、塗布量aはA1g/m2になる。
図9のステップS10において、図10に示すデータテーブルを参照して塗布量aが求められると、塗布量aに基づいてプレ加熱部20の乾燥条件が決められる(図9のステップS12)。ステップS12では、まず、記録媒体14がプレ加熱部20の入口(乾燥処理開始位置)を通過する時点において、記録媒体14の内部に浸透した凝集処理液の溶媒の量(浸透量b)と、凝集処理液の溶媒の蒸発量(蒸発量d)に基づき、記録媒体14の表面に残存している凝集処理液の溶媒の量(残存量c)が求められる。
浸透量bは、記録媒体14の浸透受容容量と、凝集処理液の記録媒体14に対する浸透速度と、凝集処理液が塗布されてからの経過時間に基づいて求めることができる。記録媒体14の浸透受容容量は、記録媒体14の材質及び構造により異なり、凝集処理液の記録媒体14に対する浸透速度は、記録媒体14の空孔径、凝集処理液の粘度及び表面張力、記録媒体14に対する凝集処理液の接触角により異なる値となる。また、蒸発量は、環境温度、湿度、凝集処理液の溶媒の沸点により異なる値となる。
残存量cは、塗布量a、浸透量b、蒸発量dを用いて、c=a−b−dと表すことができる。実用的には、予め残存量cを蒸発又は浸透させるための各種条件を実験的に求めておき、図11に示すようなデータテーブルを作成して、図8のテーブル格納部192に記憶しておく。
図11に示すデータテーブルは、記録媒体14の種類、記録媒体14の搬送速度(乾燥処理時間)、装置内温度をパラメータとした残存量cが記憶されている。具体的には、用紙Xを用いる場合には、記録媒体の搬送速度がV1mm/s、装置内の環境温度がT1℃の条件では、残存量はC1g/m2になる。
図11に示すデータテーブルを参照して残存量cが求められると、図1のプレ加熱部20の入口から出口までの間に(プレ加熱部20の処理領域内で)、残存量cを蒸発させるために必要な熱量(加熱条件)が決められる。具体的には、加熱温度(熱量)に対する溶媒の蒸発量を実験又はシミュレーションにより求めておき、データテーブル化して記憶しておき、該データテーブルを参照してプレ加熱部20の加熱条件が決められる。もちろん、加熱温度(熱量)に対する溶媒の蒸発量から演算により求めることも可能である。
図12(a)〜(c)には、図1に示すプレ加熱部20により乾燥処理が施される記録媒体14の状態変化を模式的に図示する。
図12(a)は、記録媒体14に凝集処理液が塗布された直後の状態である。同図に示すように、凝集処理液を塗布した直後は、記録媒体14の表面に液体の凝集処理液層200が形成される。このときの記録媒体14上の凝集処理液の量が塗布量aである。
図12(b)には、プレ加熱部20の入口を通過するときの記録媒体14の状態を図示する。凝集処理液が塗布された記録媒体14が処理液付与部18からプレ加熱部20まで移動する間に、凝集処理液層200の一部は蒸発し(符号200’を付して破線で図示した部分、蒸発量d)、一部は記録媒体14の内部に浸透する(浸透量b)。図12(b)に図示した凝集処理液200が残存量cとなる。
図12(c)は、プレ加熱部20の出口(プレ加熱部20による乾燥処理終了位置)を通過した記録媒体14の状態である。プレ加熱部20による乾燥処理後は、記録媒体14に付与された凝集処理液の溶媒は蒸発(一部は記録媒体14へ浸透)により記録媒体14の表面には残留せず、記録媒体14の表面には固体状又は半固体状の凝集処理層200”が形成される。
すなわち、図9のステップS12では、図12(c)に図示する状態を得るために、図12(b)に図示する状態の記録媒体14に対する乾燥条件(プレ加熱部20によって付与される熱エネルギー量)が求められる。
図9のステップS12において、図1のプレ加熱部20による乾燥処理が終了すると、図9のステップS14に進み、図1の本加熱部22による記録媒体14のコックリング量を低減化するための熱風乾燥条件が決められる。上記浸透量bが大きくなるとコックリング量は大きくなる。コックリング量と浸透量bとの関係は実験的に求めることができ、例えば、記録媒体14の種類ごとに浸透量bを変化させたときにコックリング量を実測すればよい。
本例では、コックリング量の観点からインクジェット方式において高精度の打滴が可能となる浸透量bのしきい値を求めておき、記録媒体14の種類をパラメータとして所定の記憶部(例えば、図8のテーブル格納部192)に記憶しておく。図8のシステムコントローラ172は、浸透量bが使用される記録媒体14の種類のしきい値以下となるように図1の本加熱部22の熱風乾燥条件を設定する。
本加熱部22の熱風ヒータ51は設定された熱風乾燥条件に基づいて熱風乾燥処理を施し、浸透量bがしきい値以下になるように記録媒体14の内部に浸透した凝集処理液の溶媒が蒸発により除去される。
このようにして、記録媒体14の表面に残存する溶媒を完全に蒸発させることで、固体状又は半固体状の凝集処理層200”を形成し、後段の本加熱部22による熱風の噴射により凝集処理層200”が波立つことで発生するムラ(インク濃度ムラ、光沢ムラ)を解消することが可能となる。
図13は、図1のプレ加熱部20及び本加熱部22による乾燥処理に関連する構成を示すブロック図である。同図に示すように、記録媒体特性情報210、処理液物性値情報212、処理液塗布条件情報214、IRプレヒータ40及び熱風ヒータ51(図1参照)の配置情報216は、装置固有の固定情報(凝集処理液は1種類使用)であり所定の記憶手段にパラメータとして記憶されている。
一方、記録媒体14の種類情報(コックリング特性情報)220は、図8の操作パネル187からユーザーにより選択され、また、装置内環境情報222は使用条件により変動し、装置内に設けられた温度センサによって検出される。これらの情報は変動情報である。
そこで、図13に示す制御部230内のIRプレヒート乾燥条件設定部232では、記録媒体種類情報220及び装置内環境情報222に基づき、記録媒体14の表面上の凝集処理液(図13の記録媒体表面残存処理液演算部234で求められる残存量c)を蒸発させることが可能な必要最小限の加熱エネルギーとして、IRプレヒータ40(図1参照)の乾燥条件を設定することが可能となる。
図13のIRプレヒート乾燥条件設定部232により設定された乾燥条件に基づき、制御部230はIRプレヒータ駆動部236を介して、図1のIRプレヒータ40を駆動する。同様に、図13のコックリング量低減のための熱風乾燥条件設定部238により設定された熱風乾燥条件に基づき、制御部230は熱風ヒータ駆動部240を介して、図1の熱風ヒータ51を駆動する。
なお、図13の制御部230は図8のシステムコントローラ172に対応し、IRプレヒータ駆動部236は図8のプレ加熱制御部191に対応し、図13の熱風ヒータ駆動部240は図8の本加熱制御部193に対応している。
〔具体的な実験例〕
次に、上述した実施形態に基づく具体的な実験例について説明する。
<記録媒体>
本実験例に使用される記録媒体は印刷用コート紙であり、記録媒体全体の厚さは71μm、コート層の厚さは13μmである、また、コート層の主成分は、炭酸カルシウム、カオリン、SBR、酸化澱粉、滑剤、界面活性剤である。
<インク>
本実験例に使用されるインクは以下のとおりである。
(樹脂分散剤P−1の合成)
下記スキームにしたがって、樹脂分散剤P−1を合成した。下記〔化1〕に、樹脂分散剤P−1の化学構造式を示す。
攪拌機、冷却管を備えた1000mlの三口フラスコに、メチルエチルケトン88gを加え窒素雰囲気下で72℃に加熱し、ここにメチルエチルケトン50gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.85g、ベンジルメタクリレート60g、メタクリル酸10g、メチルメタクリレート30gを溶解した溶液を3時間かけて滴下した。そして、滴下終了後、さらに1時間反応した後、メチルエチルケトン2gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.42gを溶解した溶液を加え、78℃に昇温し4時間加熱した。得られた反応溶液は大過剰量のヘキサンに2回再沈殿し、析出した樹脂を乾燥して樹脂分散剤P−1を96g得た。
得られた樹脂分散剤P−1の組成は、H−NMRで確認し、GPCより求めた重量平均分子量(Mw)は44600であった。さらに、JIS規格(JISK0070:1992)記載の方法により、このポリマーの酸価を求めたところ、65.2mgKOH/gであった。
(自己分散性ポリマー微粒子B−01の合成)
下記スキームにしたがって、自己分散性ポリマー微粒子(C)の1態様である自己分散性ポリマー微粒子B−01を合成した。
すなわち、攪拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた2リットルの三口フラスコで形成された反応容器に、メチルエチルケトン360.0gを仕込んで、75℃まで昇温した。
次に、反応容器内の温度を75℃に保ちながら、フェノキシエチルアクリレート180.0g、メチルメタクリレート162.0g、アクリル酸18.0g、メチルエチルケトン72g、及び「V−601」(和光純薬(株)製)1.44gからなる混合溶液を、2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。
滴下完了後、「V−601」0.72g、メチルエチルケトン36.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌後、さらに「V−601」0.72g、イソプロパノール36.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌した後、85℃に昇温して、さらに2時間攪拌を続けた。
得られた共重合体の重量平均分子量(Mw)は64000であり、酸価は38.9(mgKOH/g)であった。重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で算出した。使用カラムはTSKgel SuperHZM−H、TSKgel SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ200(東ソー社製)を用いた。
次に、共重合体の重合溶液668.3gを秤量し、イソプロパノール388.3g、1mol/L NaOH水溶液145.7mlを加え、反応容器内温度を80℃に昇温した。次に蒸留水720.1gを20ml/minの速度で滴下し、水分散化せしめた。その後、大気圧下にて反応容器内温度80℃で2時間、85℃で2時間、90℃で2時間保った後、反応容器内を減圧にし、イソプロパノール、メチルエチルケトン、蒸留水を合計で913.7g留去した。これにより、固形分濃度28.0%の自己分散性ポリマー微粒子(B−01)の水分散物(エマルジョン)を得た。
下記[化2]に自己分散性ポリマー微粒子B−01の化学構造式を示す。各構成単位の
数字は質量比を表す。
(シアン顔料含有樹脂粒子の分散物の作成)
ピグメントブルー15:3(大日精化株式会社製 フタロシアニンブル−A220)10質量部と、表1に記載の樹脂分散剤(P−1)5質量部と、メチルエチルケトン42質量部と、1規定NaOH水溶液5.8質量部と、イオン交換水86.9質量部を混合し、ビーズミルで0.1mmΦジルコニアビーズを使い、2〜6時間分散した。
得られた分散物を減圧下55℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去することにより、顔料濃度が10.2質量%のシアン顔料含有樹脂粒子の分散物を得た。
(シアンインク組成物C−1の調製)
次に、得られたシアン顔料含有樹脂粒子の分散物、自己分散性ポリマー微粒子(B−01)の水分散物(エマルジョン)を使い、以下の組成で水溶性のシアンインク組成物C−1を調製した。
顔料含有樹脂粒子の分散物 39.2質量部
自己分散性ポリマー微粒子(B−01)の水分散物 28.6質量部
グリセリン 20質量部
ジエチレングリコール 10質量部
オルフィンE1010(日信化学工業(株)製) 1質量部
イオン交換水 1.2質量部
(マゼンタインク組成物M−1の調製)
シアン顔料分散物の調製の際に使用したピグメントブルー15:3(大日精化株式会社製 フタロシアニンブル−A220)を、チバ・スペシャリティーケミカルズ社のCromophtal Jet Magenta DMQ(PR-122)に代えた以外はシアンインク組成物の調製と同様にしてマゼンタインク組成物M−1を調製した。
(イエローインク組成物Y−1の調製)
シアン顔料分散物の調製の際に使用したピグメントブルー15:3(大日精化株式会社製 フタロシアニンブル−A220)を、チバ・スペシャリティーケミカルズ社のIrgalite Yellow GS(PY74)に代えた以外はシアンインク組成物の調製と同様にしてイエローインク組成物Y−1を調製した。
(ブラックインク組成物K−1の調製)
シアン顔料分散物の調製の際に使用したピグメントブルー15:3(大日精化株式会社製 フタロシアニンブル−A220)を、三菱化学社製カーボンブラック MA100に代えた以外はシアンインク組成物の調製と同様にしてブラックインク組成物K−1を調製した。
<処理液の調製>
下記組成となるように各成分を混合することで処理液を調製した。
処理液の組成
クエン酸(和光純薬製) :16.7%
ジエチレングリコールモノメチルエーテル(和光純薬製) :20.0%
Zonyl FSN−100(デュポン社製) :1.0%
イオン交換水 :62.3%
上記処理液の物性値を測定したところ、粘度4.9mPa・s、表面張力24.3mN/m、pH1.5であった。
<装置の条件>
印刷用コート紙(A4サイズ)を縦送りで給紙し、給紙部(図1参照)から処理液塗布終了までは搬送速度5mm/secで連続搬送し、凝集処理液を塗布条件5g/m2で塗布した。IRプレヒータ40(図1参照)を20W、熱風ヒータ51(図1参照)を80Wで駆動した。
印字部12(図1参照)には、配置密度1200npiの1024個のノズルを有するKCMY4色シリアルヘッドが設けられ、打滴量2plで印字した。
次に、比較例として、IRプレヒータ40をオフにして、他の条件は上記条件と同一として印字を行った。
<評価結果>
図14に上述した評価実験の結果を示す。同図に示すように、本発明に係る実験例(図14のIRヒータオン)では、出力画像の濃度ムラ、光沢ムラとも視認されず、好ましい画像記録が行われた。一方、比較例に係る実験例(図14のIRヒータオフ)では、濃度ムラ、光沢ムラがともに視認され、本発明に係る実験例と比較して明らかに品質が低下した記録画像が得られたと認められる。
すなわち、図14に示す濃度ムラ及び光沢ムラは、いずれも記録媒体14の表面上に存在する凝集処理液層が、熱風乾燥時における熱風により膜厚の分布に乱れが生じることによって発生したと考察される。記録媒体14の表面の凝集処理液層(図12(a)の符号200)の膜厚分布のバラつきでインクの凝集の度合いのバラつきが発生し、濃度ムラになると推測される。また、記録媒体14の表面の凝集処理液層の膜厚分布のバラつきに依存して凝集処理液の表面反射率がバラつき、光沢ムラが発生したと推測される。
上記の如く構成されたインクジェット記録装置10は、記録媒体14に凝集処理液を付与した後に、プレ加熱部20の輻射加熱による乾燥処理が施されることで、記録媒体14の表面に残存する溶媒が除去され、さらにその後に、本加熱部22の熱風の吹き付けによる乾燥処理が施されることで、所定のコックリング量以下になるように記録媒体14に浸透した溶媒が除去されるので、凝集処理液の乾燥ムラによる濃度ムラ及び光沢ムラが防止される。また、凝集処理液に乾燥処理を施した後の記録媒体14はコックリングが低減化されているので、インクジェット方式による高精度打滴が可能となる。
以上、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置及び画像記録方法を詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
〔付記〕
上記に詳述した発明の実施形態についての記載から把握されるとおり、本明細書は少なくとも以下に示す発明を含む多様な技術思想の開示を含んでいる。
(発明1):インクを凝集させる機能を有する処理液を記録媒体に付与する処理液付与手段と、前記処理液が付与された記録媒体の表面に存在する溶媒量を特定するとともに、前記記録媒体の表面に存在する溶媒を蒸発させるための加熱条件を決める第1の加熱条件決定手段と、前記第1の加熱条件決定手段によって決められた加熱条件に基づき、前記記録媒体表面に存在する溶媒を蒸発させるように前記記録媒体の表面を輻射加熱する第1の加熱手段と、前記記録媒体への溶媒の浸透量が前記記録媒体のコックリング量が所定量以下となる溶媒の前記記録媒体に対する浸透量しきい値以下となるように加熱条件を決める第2の加熱条件決定手段と、前記第2の加熱条件決定手段によって決められた加熱条件に基づき、前記記録媒体を加熱する第2の加熱手段と、前記第1の加熱手段及び前記第2の加熱手段による加熱処理が施された後の記録媒体にインクを打滴するインクジェットヘッドと、を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
本発明によれば、記録媒体に付与された処理液の乾燥ムラを防止し、かつ、処理液の浸透によるコックリングを低減するので、高精度のインク打滴による画像記録が可能となる。
換言すると、主として記録媒体上の溶媒を蒸発させることを目的とする第1の加熱手段による加熱処理では、輻射加熱により処理液層を乱すことがないので、処理液の乾燥ムラを防止し得る。また、主として、記録媒体に浸透した溶媒を除去する(蒸発させる)第2の加熱手段による加熱処理では、熱風を利用した強力加熱により記録媒体のコックリングを防止し得る。
「輻射加熱」とは、空間や媒体を通して熱エネルギーが伝搬されることを意味し、その例として、電磁波の流れ(電磁放射)が挙げられる。
インクジェットヘッドには、記録媒体の搬送方向と直交する主走査方向に走査しながら主走査方向へのインク打滴を行い、主走査方向への1回のインク打滴が終わると記録媒体を搬送方向(副走査方向)へ搬送し、次の主走査方向へのインク打滴を行うことで記録媒体の全面にわたってインク打滴を行うシリアル型ヘッドを適用してもよいし、記録媒体の幅方向(主走査方向)に対応する長さのノズル列を有するフルライン型ヘッドを適用してもよい。
インクを凝集させる処理液には、インクのpHを上げることでインクの色材分散状態を破壊する酸性液が好適に用いられる。
インクには、溶媒中に顔料色材を分散させた顔料系インクが好適に用いられる。
(発明2):発明1に記載のインクジェット記録装置において、前記第1の加熱条件決定手段は、前記記録媒体の種類及び装置内の環境条件に応じて加熱条件を決めることを特徴とするインクジェット記録装置。
かかる態様によれば、記録媒体の種類や装置の環境条件に応じた好ましい加熱処理が行われる。
装置の環境条件には、温度や湿度が含まれる。また、加熱条件を決める際に、記録媒体の搬送速度等の装置稼動条件を考慮する態様も好ましい。
例えば、処理液の付与量と処理液の記録媒体に対する浸透速度に基づき、第1の加熱手段による加熱処理直前における記録媒体の表面に残存する溶媒量を求め、当該残存する溶媒量を蒸発させるために必要な熱量を加熱条件とすることができる。また、装置の温度に基づき、処理液の付与から第1の加熱手段による加熱処理直前までの処理液(溶媒)の蒸発量を算出して、第1の加熱手段による加熱処理直前における記録媒体の表面に残存する溶媒量を求めてもよい。
(発明3):発明1又は2に記載のインクジェット記録装置において、前記第1の加熱手段による加熱により記録媒体の近傍に発生する湿り空気を除去する湿り空気除去手段を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
かかる態様によれば、第1に加熱手段による加熱処理の際に記録媒体に表面に発生する湿り空気を置換(除去)することで、第1の加熱手段による加熱処理の効率を向上させることができる。
湿り空気除去手段には、湿り空気を吸引する吸引手段と、湿り空気の排気配管を含む態様が挙げられる。また、記録媒体の下面側に第1の加熱手段を配設し、さらに第1の加熱手段の下側から吸引を行う態様が好ましい。
(発明4):発明1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置において、前記第1の加熱手段は、赤外線ヒータを含むことを特徴とするインクジェット記録装置。
かかる態様によれば、赤外線ヒータにより好ましい輻射加熱処理を施すことが可能である。
(発明5):発明1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置において、前記第1の加熱手段の周囲を覆うとともに、前記記録媒体に対向する側を開口した構造を有する放射部材を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
かかる態様によれば、第1の加熱手段により発生した熱を分散させることなく、放射部材によって記録媒体の方へ向けることができ、効率のよい加熱処理が行われる。
(発明6):発明1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置において、前記第2の加熱手段は、記録媒体に対して加熱された空気を送風する送風手段を含むことを特徴とするインクジェット記録装置。
かかる態様によれば、記録媒体に加熱された空気を吹き付ける強力加熱を施すことで、記録媒体の内部に浸透した溶媒を効率よく蒸発させることができる。
(発明7):発明1乃至6のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置において、前記第1の加熱条件決定手段は、記録媒体の表面に残留する溶媒量と該溶媒量を蒸発させるために必要な熱量との関係が予め求められて記憶されているデータテーブルを含むことを特徴とするインクジェット記録装置。
かかる態様によれば、記録媒体の表面に残留する溶媒量と該溶媒量を蒸発させるために必要な熱量との関係が記憶されたデータテーブルを参照することで、好ましい加熱条件が求められる。
(発明8):発明7に記載のインクジェット記録装置において、前記データテーブルは、記録媒体の種類ごとに複数設けられることを特徴とするインクジェット記録装置。
かかる態様によれば、記録媒体の種類を変更する場合にも好ましい加熱条件を求めることができる。
(発明9):インクを凝集させる機能を有する処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程と、前記処理液が付与された記録媒体の表面に存在する溶媒量を特定するとともに、前記記録媒体の表面に存在する溶媒を蒸発させるための加熱条件を決める第1の加熱条件決定工程と、前記第1の加熱条件決定工程によって決められた加熱条件に基づき、前記記録媒体表面に存在する溶媒を蒸発させるように前記記録媒体の表面を輻射加熱する第1の加熱工程と、前記記録媒体への溶媒の浸透量が前記記録媒体のコックリング量が所定量以下となる溶媒の前記記録媒体に対する浸透量しきい値以下となるように加熱条件を決める第2の加熱条件決定工程と、前記第2の加熱条件決定工程によって決められた加熱条件に基づき、前記記録媒体を加熱する第2の加熱工程と、前記第1の加熱工程及び前記第2の加熱工程による加熱処理が施された後の記録媒体にインクを打滴する打滴工程と、を含むことを特徴とする画像記録方法。
記録媒体の表面に残留する溶媒量と、該溶媒量を蒸発させるために必要な熱量と、の関係をデータテーブルに記憶する記憶工程を含み態様が好ましい。
10…インクジェット記録装置、12…印字部、14…記録媒体、18…処理液付与部、20…プレ加熱部、22…本加熱部、50…吸引ファン、51…熱風ヒータ、172…システムコントローラ、185…処理液付与制御部、191…プレ加熱制御部、192…テーブル格納部、193…本加熱制御部