以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
<第1実施形態>
〔インクジェット記録装置の全体構成〕
図1は、第1実施形態のインクジェット記録装置1の概略構成図である。同図に示すインクジェット記録装置1は、ドラム形状の搬送部材の周面に用紙13を固定して用紙13を搬送するドラム搬送方式が適用される。
図1に示すように、インクジェット記録装置1は、用紙(被描画媒体)13の片面のみに印刷可能な片面機であり、用紙13を供給する給紙部2と、用紙13に対して浸透抑制処理(浸透抑制層形成)を行う浸透抑制処理部(浸透抑制剤付与部)4と、用紙13に処理液を付与する処理液付与部6と、用紙13にインクを付与して画像記録を行う印字部(画像記録部、インク打滴部)8と、用紙13に記録された画像に定着処理を施す定着処理部10と、画像が形成された用紙13を搬送して排出する排紙部12とから主に構成される。
<給紙>
給紙部2には、用紙13を積載する給紙台20が設けられている。給紙台20の前方(図1において左側)にはフィーダボード22が接続されており、給紙台20に積載された用紙13(カット状のシート)は1番上から順に1枚ずつフィーダボード22に送り出される。フィーダボード22に送り出された用紙13は、渡し胴24aを介して、浸透抑制処理部4の圧胴26aの表面(周面)に給紙される。
なお、本例では用紙13としてマットコート紙(例えば、ユーライト(日本製紙社製商品名))を用いる場合について説明する。
<浸透抑制層形成>
浸透抑制処理部4には、圧胴26aの回転方向(図1において反時計回り方向)に関して上流側から順に、圧胴26aの表面に対向する位置に、用紙予熱ユニット28、浸透抑制剤ヘッド30、及び浸透抑制剤乾燥ユニット32がそれぞれ設けられている。
用紙予熱ユニット28及び浸透抑制剤乾燥ユニット32には、それぞれ所定の範囲で温度制御可能なヒータが設けられる。圧胴26aに保持された用紙13が、用紙予熱ユニット28や浸透抑制剤乾燥ユニット32に対向する位置を通過する際、これらユニットのヒータ(赤外線ヒータ)によって加熱される。
浸透抑制剤ヘッド30は、圧胴26aに保持される用紙13に対して浸透抑制剤を打滴するものであり、後述する印字部8の各ヘッド40C、40M、40Y、40Kと同一構成が適用される。
本例では、用紙13の表面に対して浸透抑制処理を行う手段として、インクジェットヘッドを適用したが、浸透抑制処理を行う手段については特に本例に限定されるものではない。例えば、スプレー方式、塗布方式などの各種方式を適用することも可能である。
浸透抑制剤には、溶液中に樹脂をエマルジョンの形で分散、もしくは樹脂を溶解させた液体が適用される。浸透処理剤を用紙13に付与する際に、用紙13の表面の温度T1を樹脂の最低造膜温度Tf1より高くしておくと、浸透抑制剤に含まれる樹脂が用紙13に付着すると、即座に良好な樹脂膜(浸透抑制剤層)を形成し、その後、用紙13に付与されるインク中の溶媒の用紙13内部への浸透を良好に抑制する。T1とTf1との差はおよそ10〜20℃が好ましい。
本例の浸透抑制剤として、例えば、熱可塑性樹脂ラテックス溶液が好適に用いられる。もちろん、浸透抑制剤は、熱可塑性樹脂ラテックス溶液に限定されるものではなく、例えば、平板粒子(雲母等)や撥水剤(フッ素コーティング剤)などを適用することも可能である。また、浸透抑制剤の溶媒としては、有機溶剤又は水を用いる。有機溶剤としては、メチルエチルケトン、石油類、等が好適に用いられる。
本例では、用紙13の温度調節に圧胴26aの表面に対向するヒータを用いる態様を例示したが、圧胴26aの内部にヒータ等の発熱体を設置する態様や、用紙13の上面から熱風(乾燥風)を当てる態様を適用してもよい。また、これらを組み合わせてもよい。
<凝集処理液付与>
浸透抑制処理部4に続いて処理液付与部6が設けられている。浸透抑制処理部4の圧胴26aと処理液付与部6の圧胴26bとの間には、これらに対接するようにして渡し胴24bが設けられている。これにより、浸透抑制処理部4の圧胴26aに保持された用紙13は、浸透抑制処理が行われた後に、渡し胴24bを介して処理液付与部6の圧胴26bに受け渡される。
即ち、ドラム状の圧胴26(26a〜26d)上にて用紙13の先端部がグリッパー15で保持されて圧胴26の周面上を用紙13が(図1における半時計周りに)回転する。所定の処理が施された用紙13の先端部は、渡し胴24(24a〜24d)にて受け渡しが行われる。本例では、1個の圧胴26に2個のグリッパー15(15a,15b)が設けられており、渡し胴24には1個のグリッパー16が設けられている。
渡し胴24もドラム状となっており、用紙13の先端部を上流側の圧胴26から受け渡されて、グリッパー16にて用紙13の先端部を保持して(図1における時計周りに)回転し、下流側の圧胴26に用紙13を受け渡す。
処理液付与部6には、圧胴26bの回転方向(図1において反時計回り方向)に関して上流側から順に、圧胴26bの表面に対向する位置に、用紙予熱ユニット34、処理液ヘッド36、及び処理液乾燥ユニット38がそれぞれ設けられている。
処理液付与部6の各部(用紙予熱ユニット34、処理液ヘッド36、及び処理液乾燥ユニット38)については、上述した浸透抑制処理部4の用紙予熱ユニット28、浸透抑制剤ヘッド30、及び浸透抑制剤乾燥ユニット32とそれぞれ同様の構成が適用されるため、ここでは説明を省略する。もちろん、浸透抑制処理部4と異なる構成を適用することも可能である。
本例で用いられる処理液(凝集処理剤)は、後段の印字部8に配置される各ヘッド40C、40M、40Y、40Kから用紙13に向かって吐出されるインクに含有される色材を凝集させる作用を有する酸性液である。
処理液付与部6に搬送された用紙13には、処理液ヘッド36により全面に対して処理液が5μmの厚みで付与される。本例では、インクジョット方式を適用しているので、処理液を画像信号(画像データ)に応じて選択的に打滴する態様も可能である。かかる態様は、乾燥時間の短縮や加熱エネルギーの削減が可能となる。
一方、処理液をインクジェット方式ではなく、ローラなどの塗設装置によって塗設する態様も可能ある。塗設方式では、インクジェット方式を用いた場合よりも処理液を薄層で塗設することができ、かかる態様においても乾燥時間の短縮や加熱エネルギーの削減が可能となる。
処理液乾燥ユニット38のヒータの加熱温度は、圧胴26bの回転方向上流側に配置される処理液ヘッド36の吐出動作によって用紙13の表面に付与された処理液を乾燥させて、用紙13上に固体状又は半固溶状の凝集処理剤層(処理液が乾燥した薄膜層)が形成されるような温度(例えば、70℃)に設定される。更に、印字部8への渡し胴24cにおいて追加乾燥処理(例えば、60℃)を施してもよい。
なお、ヒータによる加熱に代わり、又はこれと併用して乾燥風を用いて乾燥処理を行う態様も好ましい、例えば、70℃の熱風にて1秒間乾燥させて、用紙13上に固体状又は半固溶状の凝集処理剤層を形成してもよい。
ここでいう「固体状または半固溶状の凝集処理剤層」とは、以下に定義する含水率が0〜70%の範囲のものを言うものとする。
即ち、「含水率」は、処理液の単位面積あたりの重量X1(g/m2)に対する凝集処理剤中に含まれる水の単位面積あたりの重量X2(g/m2)の比(即ち、X2/X1)と定義する。
含水率の測定方法としては、100mm×100mmの大きさの用紙を切り出し、処理液付与後の総重量(用紙+乾燥前処理液)と乾燥後の総重量(用紙+乾燥後の処理液)を測定し、重量の減少分を測定することで、残水分量を計算した。また、乾燥前の水分量は処理液の調整処方からの計算値を用いた。
なお、液体状の処理液の上にインクを打滴すると、インクが処理液の液体層に着弾し、インクが凝集する際にインク(色材)が処理液中に浮遊(移動)してしまうことが判明した。このようなインク浮遊が発生すると、高画質化を追求する場合には画質が悪化してしまう。
処理液に対するインクの色材浮遊(移動)を防止するためには、処理液を付与した後、かつ、インクを打滴する前に、処理液を乾燥蒸発させて処理液を固体状または半固溶状にすることが有効であることが判明した。処理液の好ましい固体状又は半固溶状を処理液中の含水率で評価した結果、上記の〔数1〕で求められる処理液の含水率が70%以下になるように処理液を蒸発乾燥させると、インクの色材浮遊によるドット移動が目立たなくなる。
更に、処理液の含水率が50%以下になると、目視によるドット移動が確認できない程度に良好となり、インク浮遊による画像劣化の防止が可能である実験結果が得られた。下記〔表1〕に当該実験結果を示す。
本例の如く、用紙13上に処理液が付与される前に、用紙予熱ユニット34のヒータによって用紙13を予備加熱する態様が好ましい。この場合、処理液の乾燥に要する加熱エネルギーを低く抑えることが可能となり、省エネルギー化を図ることができる。
<画像記録(インク打滴、溶媒乾燥)>
処理液付与部6に続いて印字部8が設けられている。処理液付与部6の圧胴26bと印字部8の圧胴26cとの間には、これらに対接するようにして渡し胴24cが設けられている。これにより、処理液付与部6の圧胴26bに保持された用紙13は、処理液が付与されて固体状又は半固溶状の凝集処理剤層が形成された後に、渡し胴24cを介して印字部8の圧胴26cに受け渡される。
印字部8には、圧胴26cの回転方向(図1において反時計回り方向)に関して上流側から順に、圧胴26cの表面に対向する位置に、CMYKの4色のインクにそれぞれ対応したヘッド40C、40M、40Y、40Kと、溶媒乾燥ユニット42a、42bがそれぞれ設けられている。
各ヘッド40C、40M、40Y、40Kは、上述した浸透抑制剤ヘッド30や処理液ヘッド36と同様に、インクジェット方式の記録ヘッド(インクジェットヘッド)が適用される。即ち、各ヘッド40C、40M、40Y、40Kは、それぞれ対応する色インクの液滴を圧胴26cに保持された用紙13に向かって吐出する。
各ヘッド40C、40M、40Y、40Kは、図2に示すように、それぞれ圧胴26cに保持される用紙13における画像記録領域の最大幅に対応する長さを有し、そのインク吐出面には画像記録領域の全幅にわたってインク吐出用のノズル(図1中不図示、図3参照)が複数配列されたフルライン型のヘッドとなっている。各ヘッド40C、40M、40Y、40Kが圧胴26cの回転方向(用紙13の搬送方向)と直交する方向に延在するように固定設置される。
用紙13の画像記録領域の全幅をカバーするノズル列を有するフルラインヘッドがインク色毎に設けられる構成によれば、用紙13の搬送方向(副走査方向)について、用紙13と各ヘッド40C、40M、40Y、40Kを相対的に移動させる動作を1回行うだけで(即ち、1回の副走査で)、用紙13の画像記録領域に画像を記録することができる。
これにより、用紙13の搬送方向(副走査方向)と直交する方向(主走査方向)に往復動作するシリアル(シャトル)型ヘッドが適用される場合に比べて高速印字が可能であり、プリント生産性を向上させることができる。
また、本例では、CMYKの4色の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するヘッドを追加する構成も可能であり、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
本例に示すインクジェット記録装置1に適用される用紙13の最大サイズは菊半サイズであり、印字部8は、菊半サイズの幅720mmに対応した直径810mmのドラム(圧胴26c)を有している。インク打滴時のドラム回転周速度は530mm/secであり、1回のインク吐出体積は2pl、記録密度は主走査方向、副走査方向ともに1200dpiである。
溶媒乾燥ユニット42a、42bは、上述した用紙予熱ユニット28、34や浸透抑制剤乾燥ユニット32、処理液乾燥ユニット38と同様に、所定の範囲で温度制御可能なヒータを含んで構成される。後述するように、用紙13上に形成された固体状又は半固溶状の凝集処理剤層上にインク液滴が打滴されると、用紙13上にはインク凝集体(色材凝集体)が形成されるとともに、色材と分離されたインク溶媒が広がり、凝集処理剤が溶解した液体層が形成される。このようにして用紙13上に残った溶媒成分(液体成分)は、用紙13のカールだけでなく、画像劣化を招く要因となる。そこで、本例では、各ヘッド40C、40M、40Y、40Kからそれぞれ対応する色インクが用紙13上に打滴された後、溶媒乾燥ユニット42a、42bのヒータによって加熱を行い、溶媒成分を蒸発させ、乾燥を行っている。
本例に示すインクジェット記録装置1の溶媒乾燥処理は、25℃の渡し胴24cに用紙13を保持し、70℃の熱風にて2秒間乾燥処理を行い、次に、50℃の圧胴26cに用紙13を保持し、70℃の熱風にて1秒間乾燥処理を行い、更に、60℃の圧胴26dに用紙13を保持し、70℃の熱風にて2秒間乾燥処理を行うように構成されている。
<定着処理>
印字部8に続いて定着処理部10が設けられている、印字部8の圧胴26cと定着処理部10の圧胴26dとの間には、これらに対接するように渡し胴24dが設けられている。これにより、印字部8の圧胴26cに保持された用紙13は、各色インクが付与された後に、渡し胴24dを介して定着処理部10の圧胴26dに受け渡される。
定着処理部10には、圧胴26dの回転方向(図1において反時計回り方向)に関して上流側から順に、圧胴26dの表面に対向する位置に、印字部8による印字結果を読み取る印字検出部44、加熱ローラ48a,48bがそれぞれ設けられている。
印字検出部44は、印字部8の印字結果(各ヘッド40C、40M、40Y、40Kの打滴結果)を撮像するためのイメージセンサ(ラインセンサ等)を含み、該イメージセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まりその他の吐出不良をチェックする手段として機能する。
画像記録された用紙13は、60℃の圧胴26dに保持され、110℃に設定された加熱ローラ48a,48bにより1MPaのニップ圧で加熱定着処理が施される。本例では、浸透抑制剤又はインクにポリマー樹脂(微粒子)を含有させておき、そのポリマー樹脂の溶解温度に応じて加熱温度を設定して当該樹脂粒子を溶解させることで、当該樹脂微粒子の結合力が強化されるとともに、用紙13と樹脂微粒子の結合力が強化される。
なお、加熱加圧処理に代わり、又はこれと併用して透明UVインクを用いて用紙13に画像を定着させる態様も好ましい。即ち、画像記録済みの用紙13に透明UVインクを付与する透明UVヘッドと、透明UVインクが付与された用紙13にUV光を照射するUVランプと、を備え、用紙13に透明UVインクが打滴された後、この用紙13が第1のUVランプに対向する位置を通過する際、用紙13上の透明UVインクにUV光(紫外光)を照射して、透明UVインクを硬化させるように構成する態様も好ましい。
透明UVヘッドは、印字部8の各ヘッド40C、40M、40Y、40Kと同一構成が適用され、各ヘッド40C、40M、40Y、40Kによって用紙13上に打滴された色インクに重なるように透明UVインクを打滴する。もちろん、印字部8の各ヘッド40C、40M、40Y、40Kと異なる構成を適用することも可能である。
かかる態様では、透明UVインク打滴量制御部(不図示)によって、UV光照射後の透明UVインクの層厚が5μm以下(好ましくは3μm以下、より好ましくは1〜3μm)となるように、透明UVヘッドのノズルから吐出される液滴量(透明UVインクの打滴量)を制御するとよい。なお「UV光照射後の透明UVインクの層厚」とは、UVランプによってUV光が照射された後の透明UVインクの層厚とする。即ち、複数のUVランプが設けられる場合は、用紙13の搬送方向に関して最下流側のUVランプによってUV光照射が行われた後の透明UVインクの層厚とする。
<排紙>
定着処理部10に続いて排紙部12が設けられている。排紙部12には、定着処理が施された用紙13を受ける排紙胴41と、該用紙13を積載する排紙台43と、排紙胴41に設けられたスプロケットと排紙台43の上方に設けられたスプロケットとの間に掛け渡され、複数の排紙用グリッパーを備えた排紙用チェーン45とが設けられている。
図1には、用紙13の片面に画像記録を行う片面機を図示したが、本発明は用紙13面に画像記録を行う両面機にも適用可能である。かかる両面機の構成としては、一方の面に画像が記録された用紙13の表裏を反転させる用紙反転機構と、表裏反転処理後の用紙13の他方の面に画像記録を行う構成(用紙13の一方の面に画像記録を行う構成と同一の構成を適用可能)と、備える態様が挙げられる。また、図1に示す処理液付与部6を省略する構成も可能である。
〔材料の説明〕
次に、本例に適用される浸透抑制剤、処理液(凝集処理剤)及びインクの材料について説明する。
<浸透抑制剤>
以下に、本例に適用される浸透抑制剤に用いられる材料について説明する。本例に適用される浸透抑制剤は熱可塑性樹脂を含有している。
本例の浸透抑制剤に用いられる熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgは、−10℃以上100℃以下が好ましく、10℃以上70℃以下がさらに好ましく、30℃以上50℃以下が更に好ましい。
熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgが低いと、吐出の際にノズル面近傍で皮膜を形成しやすくなってしまい、浸透抑制剤の吐出の安定性が低下するという問題がある。一方、熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgが高いと皮膜を形成する際に多大な熱をかける必要が発生するという問題がある。また、熱可塑性樹脂の形態は、樹脂が後述する溶媒に溶解若しくは粒子状態で分散されている形態があるが、浸透抑制剤を吐出する場合には粒子状態で分散させた方が溶液全体の粘度を下げることができ、好ましい。粒子の場合には粒子径は、0.01μm以上5μm以下の範囲が好ましく、0.05μm以上1μm以下の範囲がさらに好ましい。粒子径が小さすぎると紙の内部に粒子が浸透してしまって表面で皮膜が形成できないという問題があり、粒子径が大きすぎると熱をかけても十分な皮膜を形成できず、吐出時にノズルに粒子が詰まるという問題がある。熱可塑性樹脂の重量パーセント濃度は、1wt%以上40wt%以下の範囲が好ましく、5wt%以上30wt%以下の範囲がさらに好ましく、10wt%以上20wt%以下の範囲がさらに好ましい。
熱可塑性樹脂の濃度が低いと熱可塑性樹脂同士が十分に皮膜を形成せず、一部に欠陥ができてしまうという問題があり、濃度が高いと液の保存安定性が悪く(樹脂が析出する)、粘度が高すぎるという問題がある。
本例で用いる熱可塑性樹脂は、上述したガラス転移温度Tg、粒子径、重量パーセント濃度の各条件を満たすものであればいずれでもよく、具体的には、オレフィン重合体及び共重合体、塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン共重合体、アルカン酸ビニル重合体及び共重合体、アルカン酸アリル重合体及び共重合体、スチレン及びその誘導体の重合体及び共重合体、オレフィン−スチレンオレフィン−不飽和カルボン酸エステル共重合体、アクリロニトリル共重合体、メタクリロニトリル共重合体、アルキルビニルエ−テル共重合体、アクリル酸エステル重合体及び共重合体、メタクリル酸エステル重合体及び共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体、イタコン酸ジエステル重合体及び共重合体、無水マレイン酸共重合体、アクリルアミド共重合体、メタクリルアミド共重合体、水酸基変性シリコン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ケトン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコン樹脂、アミド樹脂、水酸基及びカルボキシル基変性ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、環化ゴム−メタクリル酸エステル共重合体、環化ゴム−アクリル酸エステル共重合体、複素環を含有する共重合体(複素環として例えば、フラン環、テトラヒドロフラン環、チオフェン環、ジオキサン環、ジオキソフラン環、ラクトン環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、1,3−ジオキセタン環等)、セルロース系樹脂、脂肪酸変性セルロース系樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
次に、上述した熱可塑性樹脂を溶解若しくは分散させる非水溶媒について述べる。本例に用いる非水溶媒としては、上述した熱可塑性樹脂を安定的に溶解若しくは分散させておくことができ、溶媒自身が紙に浸透してもカールを起こさない、若しくはカールが軽微であるものであればよい。具体的には、直鎖状もしくは分枝状の脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素又は芳香族炭化水素、及びこれらのハロゲン置換体を用いることができる。例えばオクタン、イソオクタン、デカン、イソデカン、デカリン、ノナン、ドデカン、イソドデカン、シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロデカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、アイソパーE、アイソパーG、アイソパーH、アイソパーL(アイソパー;エクソン社の商品名)、シェルゾール70、シェルゾール71(シェルゾール;シェルオイル社の商品名)、アムスコOMS、アムスコ460溶剤(アムスコ;スピリッツ社の商品名)等を単独あるいは混合して用いることができる。
(浸透抑制剤の組成例)
以下に、浸透抑制剤の組成例を挙げる。
下記〔化1〕に示す構造の分散安定用樹脂〔Q−1〕10g、酢酸ビニル100g及びアイソパーH(エクソン社商品名)384gの混合溶液を窒素気流下攪拌しながら温度70℃に加温した。重合開始剤として2,2′−アゾビス(イソバレロニトリル)(略称A.I.V.N.)0.8gを加え、3時間反応した。開始剤を添加して20分後に白濁を生じ、反応温度は88℃まで上昇した。更に、該開始剤を0.5g加え、2時間反応した後、温度を100℃に上げ2時間攪拌し未反応の酢酸ビニルを留去した。冷却後200メッシュのナイロン布を通し、得られた白色分散物は重合率90%で平均粒径0.23μmの単分散性良好なラテックスであった。粒径はCAPA−500(堀場製作所(株)製)で測定した。
上記白色分散物の一部を遠心分離機(回転数1×104 r.p.m.、回転時間60分)にかけて、沈降した樹脂粒子分を補集、乾燥し、該樹脂粒子分の重量平均分子量(Mw)とガラス転移点(Tg)、最低造膜温度(MFT)を測定したところ、Mwは2×105 (ポリスチレン換算GPC値)、Tgは38℃、MFTは28℃であった。
このようにして作製した浸透抑制剤溶液を用紙13上に付与した。付与時にはドラムにより用紙13を加熱し、付与後には熱風を送風してアイソパーHを蒸発させた。
<処理液(凝集処理剤)>
以下に、処理液の組成例を挙げる。
クエン酸(和光純薬製) :16.7%
ジエチレングリコールモノメチルエーテル(和光純薬製) :20.0%
Zonyl FSN−100(デュポン社製) : 1.0%
イオン交換水 :62.3%
上記反応液の物性値を測定したところ、粘度4.9mPa・s、表面張力24.3mN/m、pH1.5であった。
<インク>
以下に、インクの組成例を挙げる。
(ポリマー分散剤P−1の調製)
攪拌機、冷却管を備えた1000mlの3口フラスコにメチルエチルケトン88gを加え窒素雰囲気下で72℃に加熱し、ここにメチルエチルケトン50gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.85g、ベンジルメタクリレート60g、メタクリル酸10g、メチルメタクリレート30gを溶解した溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間反応した後メチルエチルケトン2gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.42gを溶解した溶液を加え、78℃に昇温し4時間加熱した。得られた反応溶液は大過剰量のヘキサンに2回再沈殿し、析出した樹脂を乾燥してポリマー分散剤P−1を96g得た。
得られた樹脂の組成は1H−NMRで確認し、GPCより求めた重量平均分子量(Mw)は44600であった。さらに、JIS規格(JISK0070:1992)記載の方法により、このポリマーの酸価を求めたところ、65.2mgKOH/gであった。
(シアン分散液の調製)
ピグメントブルー15:3(大日精化株式会社製 フタロシアニンブル−A220)を10部と、上記で得られたポリマー分散剤P−1を5部と、メチルエチルケトンを42部と、1mol/L NaOH水溶液を 5.5部と、イオン交換水87.2部とを混合し、ビーズミルで0.1mmΦジルコニアビーズを使い、2〜6時間分散した。
得られた分散物を減圧下55℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去することにより、顔料濃度が10.2質量%のシアン分散液を得た。
上記のようにして、色材としてのシアン分散液を調液した。
上記で得られた色材(シアン分散液)を用いて、下記インク組成となるように各成分を混合して、インク1(インクジェット記録液)を作製した。
(インクの組成例)
シアン顔料(ピグメントブルー15:3) :4%
ポリマー分散剤(上記、P−1) :2%
トリオキシプロピレングリセリルエーテル :15%
(サンニックスGP−250(三洋化成工業(株)製)
オルフィンE1010(日信化学製、界面活性剤) :1%
イオン交換水 :78%
なお、上記に挙げた各液体の組成はあくまでも一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能であることはいうまでもない。
〔ヘッドの構造〕
次に、ヘッド40C、40M、40Y、40Kの構造について説明する。なお、各ヘッド40C、40M、40Y、40Kの構造は共通しているので、以下では、これらを代表して符号50によってヘッドを示すものとする。
図3(a)は、ヘッド50の構造例を示す平面透視図であり、図3(b)は、その一部の拡大図である。また、図3(c)は、ヘッド50の他の構造例を示す平面透視図である。図4は、インク室ユニットの立体的構成を示す断面図(図3(a)、(b)中、4−4線に沿う断面図)である。また、図5は、ヘッド50内部の流路構造を示す流路構成図(図4中、A方向から見た平面透視図)である。
記録紙面上に形成されるドットピッチを高密度化するためには、ヘッド50におけるノズルピッチを高密度化する必要がある。本例のヘッド50は、図3(a)、(b)に示すように、インク滴の吐出孔であるノズル51と、各ノズル51に対応する圧力室52等からなる複数のインク室ユニット53を千鳥でマトリクス状に(2次元的に)配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(紙搬送方向と直交する主走査方向)に沿って並ぶように投影される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
紙搬送方向と略直交する方向に用紙13の全幅に対応する長さにわたり1列以上のノズル列を構成する形態は本例に限定されない。例えば、図3(a)の構成に代えて、図3(c)に示すように、複数のノズル51が2次元に配列された短尺のヘッドブロック(ヘッドチップ)50’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせることで用紙13の全幅に対応する長さのノズル列を有するラインヘッドを構成してもよい。また、図示は省略するが、短尺のヘッドを一列に並べてラインヘッドを構成してもよい。
図5に示すように、各ノズル51に対応して設けられている圧力室52は、その平面形状が概略正方形となっており、対角線上の両隅部にノズル51とインク流入口54が設けられている。各圧力室52はインク流入口54を介して共通流路55と連通されている。また、各圧力室52に連通するノズル流路60は個別流路62を介して循環共通流路64と連通されている。ヘッド50には供給口66及び排出口68が設けられており、供給口66は共通流路55と連通され、排出口68は循環共通流路64と連通されている。
換言すれば、ヘッド50の供給口66及び排出口68は、共通流路55、インク流入口54、圧力室52、ノズル流路60、個別流路62、及び循環共通流路64を含むインク流路を介して連通された構成となっている。このため、ヘッド外部から供給口66に供給されたインクの一部は各ノズル51から吐出されるとともに、残りのインクは共通流路55、ノズル流路60、個別流路62、及び循環共通流路64を順に経由して(即ち、ヘッド内部のインク流路を循環して)、排出口68からヘッド外部に排出される。
図4に示すように、ノズル流路60のノズル51近傍に個別流路62が接続される構成が好ましく、ノズル51近傍をインクが循環するようになるので、ノズル51内部のインク増粘が防止され、安定吐出が可能となる。
圧力室52の天面を構成し共通電極と兼用される振動板56には個別電極57を備えた圧電素子58が接合されており、個別電極57に駆動電圧を印加することによって圧電素子58が変形してノズル51からインクが吐出される。インクが吐出されると、共通流路55からインク流入口54を通って新しいインクが圧力室52に供給される。
本例では、ヘッド50に設けられたノズル51から吐出させるインクの吐出力発生手段として圧電素子58を適用したが、圧力室52内にヒータを備え、ヒータの加熱による膜沸騰の圧力を利用してインクを吐出させるサーマル方式を適用することも可能である。
かかる構造を有するインク室ユニット53を図3(b)に示す如く、主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向に沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。
即ち、主走査方向に対してある角度θの方向に沿ってインク室ユニット53を一定のピッチdで複数配列する構造により、主走査方向に並ぶように投影されたノズルのピッチPはd× cosθとなり、主走査方向については、各ノズル51が一定のピッチPで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。このような構成により、主走査方向に並ぶように投影されるノズル列が1インチ当たり2400個(2400ノズル/インチ)におよぶ高密度のノズル構成を実現することが可能になる。
なお、本発明の実施に際してノズルの配置構造は図示の例に限定されず、副走査方向に1列のノズル列を有する配置構造など、様々なノズル配置構造を適用できる。
また、本発明の適用範囲はライン型ヘッドによる印字方式に限定されず、用紙13の幅方向(主走査方向)の長さに満たない短尺のヘッドを用紙13の幅方向に走査させて当該幅方向の印字を行い、1回の幅方向の印字が終わると用紙13を幅方向と直交する方向(副走査方向)に所定量だけ移動させて、次の印字領域の用紙13の幅方向の印字を行い、この動作を繰り返して用紙13の印字領域の全面にわたって印字を行うシリアル方式を適用してもよい。
〔制御系の説明〕
図6は、インクジェット記録装置1の制御系を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置1は、通信インターフェース70、システムコントローラ72、メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78、プリント制御部80、画像バッファメモリ82、ヘッドドライバ84等を備えている。
通信インターフェース70は、ホストコンピュータ86から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース70にはUSB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。
ホストコンピュータ86から送出された画像データは通信インターフェース70を介してインクジェット記録装置1に取り込まれ、一旦メモリ74に記憶される。メモリ74は、通信インターフェース70を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ72を通じてデータの読み書きが行われる。メモリ74は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
システムコントローラ72は、通信インターフェース70、メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78等の各部を制御する制御部である。システムコントローラ72は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、ホストコンピュータ86との間の通信制御、メモリ74の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ88やヒータ89を制御する制御信号を生成する。
また、システムコントローラ72は、インク供給系のポンプP1、P2、P3の駆動を制御する制御部である。特に、後述するように、システムコントローラ72の圧力制御部72aは、圧力センサS1の検出結果に応じて、供給サブタンク120の液体室124内部が所定の圧力となるように第1サブポンプP1の駆動を制御するとともに、圧力センサS2の検出結果に応じて、回収サブタンク130の液体室134内部が所定の圧力となるように第2サブポンプP2の駆動を制御する(図7参照)。
また、後述するように、システムコントローラ72の弾性率制御部72cは、絞り機構152(図13参照)や気体室容量制御機構154(図15参照)を制御して、可撓膜122,132の弾性率を制御する。
メモリ74には、システムコントローラ72のCPUが実行するプログラム及び制御に必要な各種データなどが格納されている。なお、メモリ74は、書換不能な記憶手段であってもよいし、EEPROMのような書換可能な記憶手段であってもよい。メモリ74は、画像データの一時記憶領域として利用されるとともに、プログラムの展開領域及びCPUの演算作業領域としても利用される。
モータドライバ76は、システムコントローラ72からの指示に従ってモータ88を駆動するドライバ(駆動回路)である。ヒータドライバ78は、システムコントローラ72からの指示に従って、ヒータを駆動するドライバである。
また、ポンプドライバ79は、システムコントローラ72の圧力制御部72a,72bからの指示に従って、インク供給系のポンプP1、P2、P3を駆動するドライバである。
プリント制御部80は、システムコントローラ72の制御に従い、メモリ74内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字制御信号(ドットデータ)をヘッドドライバ84に供給する制御部である。プリント制御部80において所要の信号処理が施され、該画像データに基づいてヘッドドライバ84を介してヘッド50のインク滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
プリント制御部80には画像バッファメモリ82が備えられており、プリント制御部80における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ82に一時的に格納される。なお、図6において画像バッファメモリ82はプリント制御部80に付随する態様で示されているが、メモリ74と兼用することも可能である。また、プリント制御部80とシステムコントローラ72とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
ヘッドドライバ84は、プリント制御部80から与えられるドットデータに基づいて各色のヘッド50の圧電素子58(図4参照)を駆動するための駆動信号を生成し、圧電素子58に生成した駆動信号を供給する。ヘッドドライバ84にはヘッド50の駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
印字検出部44は、図1で説明したように、ラインセンサを含むブロックであり、用紙13に印字された画像を読み取り、所要の信号処理などを行って印字状況(吐出の有無、打滴のばらつきなど)を検出し、その検出結果をプリント制御部80に提供する。
プリント制御部80は、必要に応じて印字検出部44から得られる情報に基づいてヘッド50に対する各種補正を行う。
プログラム格納部90には各種制御プログラムが格納されており、システムコントローラ72の指令に応じて、制御プログラムが読み出され、実行される。プログラム格納部90はROMやEEPROMなどの半導体メモリを用いてもよいし、磁気ディスクなどを用いてもよい。外部インターフェースを備え、メモリカードやPCカードを用いてもよい。もちろん、これらの記録媒体のうち、複数の記録媒体を備えてもよい。なお、プログラム格納部90は動作パラメータ等の記録手段(不図示)と兼用してもよい。
〔インク供給系の構成〕
次に、インクジェット記録装置1のインク供給系の構成について説明する。
図7は、インクジェット記録装置1のインク供給系の構成を示した概略図である。なお、図7では、説明の便宜上、1色についてのインク供給系のみを示しているが、複数色の場合には同一構成のものが複数備えられる。
図7に示すインクジェット記録装置1には、メインタンク100から供給されるインクが貯留されるバッファタンク110と、バッファタンク110に連通する1対のサブタンク120、130(供給サブタンク120、回収サブタンク130)と、各サブタンク120、130に連通するヘッド50と、各サブタンク120、130の内部圧力を検出する圧力センサS1、S2と、各サブタンク120、130、及びバッファタンク110間でインクを移動させることにより、各サブタンク120、130の内部をそれぞれ所定の圧力に調整するポンプP1、P2とから主に構成される。
メインタンク100は、ヘッド50に供給するためのインクが貯蔵される基タンク(インク供給源)である。メインタンク100とバッファタンク110は供給流路102を介して連通している。供給流路102には、上流側(メインタンク100側)から順に、フィルタ104、及びメインポンプP3が設けられている。メインポンプP3を駆動することによって、メインタンク100内のインクが供給流路102及びフィルタ104を経由してバッファタンク110に供給される構成となっている。
バッファタンク110は、メインタンク100から供給されるインクが貯留される液体貯留部(液体バッファ室)である。また、バッファタンク110は、各サブタンク120、130と連通しており、後述するように、第1及び第2サブポンプP1、P2によって、各サブタンク120、130との間でインク移動が行われる。なお、バッファタンク110の鉛直上方部に大気連通口を設け、バッファタンク110内部は大気開放された状態としてもよい。これにより、各サブタンク120、130との間でインク移動を行う際、各サブタンク120、130からバッファタンク110側に流出したインクが行き場を失うことなく、各サブタンク120、130の内部圧力を独立して制御することが可能となる。
供給サブタンク120は、密閉容器の内部が可撓膜122によって2つの空間部(液体室124及び気体室126)に仕切られた構成となっており、液体室124及び気体室126はいずれも内部が密閉された状態となっている。また、供給サブタンク120には、液体室124の内部圧力を検出する圧力センサS1が設けられている。
また、供給サブタンク120の液体室124には、バッファタンク110との間を連通する第1連通流路140の一端が接続されており、該流路140には、上流側(バッファタンク110側)から順に、フィルタ142及び脱気装置143及び第1サブポンプP1が設けられる。
第1サブポンプP1の回転方向(駆動方向)や回転量を変化させることにより、バッファタンク110及び供給サブタンク120の液体室124間でインク移動が行われ、供給サブタンク120の液体室124内部を所定の圧力に調整することができる。例えば、第1サブポンプP1を正転駆動すると、バッファタンク110側から供給サブタンク120の液体室124内にインクが流入し、供給サブタンク120の液体室124の内部圧力を高くすることができる。一方、第1サブポンプP1を逆転駆動すると、供給サブタンク120の液体室124内のインクがバッファタンク110側に流出し、供給サブタンク120の液体室124の内部圧力を低くすることができる。
供給サブタンク120の内部空間を2つの空間部(液体室124及び気体室126)に仕切る可撓膜122は、弾性膜(例えば、ゴムなど)で構成されることが好ましい。第1サブポンプP1又はヘッド50のインク吐出による急峻な圧力変動を可撓膜(弾性膜)122の弾性力及び気体室126の圧縮性による適度な弾性力によって減衰させることができる。なお、本例の気体室126には空気が充填されているが、気体室126に充填される気体については特に限定されるものではない。
回収サブタンク130は、供給サブタンク120と同一構成が適用される。即ち、回収サブタンク130は、密閉容器の内部が可撓膜132によって2つの空間部(液体室134及び気体室136)に仕切られた構成となっており、液体室134及び気体室136はいずれも内部が密閉された状態となっている。また、回収サブタンク130には、液体室134の内部圧力を検出する圧力センサS2が設けられている。可撓膜132は、弾性膜(例えば、ゴムなど)で構成されることが好ましい。
回収サブタンク130の液体室134には第2連通流路160の一端が接続されている。第2連通流路160には、第2サブポンプP2が設けられている。
第2サブポンプP2の回転方向(駆動方向)や回転量を変化させることにより、バッファタンク110(又は供給サブタンク120)及び回収サブタンク130間でインク移動が行われ、回収サブタンク130の液体室134内部を所定の圧力に調整することができる。
例えば、第2サブポンプP2を正転駆動すると、バッファタンク110側(第1連通流路140側)からフィルタ142を通過したインクが第2連通流路160を経由して回収サブタンク130の液体室134内に流入し、回収サブタンク130の液体室134の内部圧力を高くすることができる。
一方、第2サブポンプP2を逆転駆動すると、回収サブタンク130の液体室134内のインクが第2連通流路160を経由してバッファタンク110側(第2連通流路160側)に流出し、回収サブタンク130の液体室134の内部圧力を低くすることができる。回収サブタンク130の液体室134から第2連通流路160を経由して第1連通流路140側に流れ込んだインクは、バッファタンク110に移動するか、そのままフィルタ142を通過して供給サブタンク120の液体室124に移動する。つまり、バッファタンク110内のインクや、後述するように供給サブタンク120からヘッド50を経由して回収サブタンク130に循環したインクは、フィルタ142によって増粘成分等の異物が除去されてから、各サブタンク120に供給される構成となっている。このため、ヘッド50には異物を含まない良好なインクが循環するようになり、吐出安定性が向上する。
各サブタンク120、130はヘッド50の鉛直上方の近傍に配置され、ヘッド50と第1及び第2循環流路144、146を介して連通している。具体的には、供給サブタンク120の液体室124とヘッド50の供給口66(図5参照)が第1循環流路144を介して連通し、回収サブタンク130の液体室134とヘッド50の排出口68(図5参照)が第2循環流路146を介して連通している。ヘッド50の供給口66及び排出口68は、ヘッド内部に設けられるインク流路(共通流路55、圧力室52、循環共通流路64等)を介して連通している(図5参照)。換言すれば、供給サブタンク120の液体室124及び回収サブタンク130の液体室134は、ヘッド50のインク流路を介して連通された構成となっている。なお、各循環流路144、146には、それぞれの流路を開閉する開閉弁V1、V2が設けられている。
システムコントローラ72の圧力制御部72a(図6参照)は、圧力センサS1の検出結果に基づいて、供給サブタンク120の液体室124内部が所定の圧力に調整されるように第1サブポンプP1の駆動を制御するとともに、システムコントローラ72の圧力制御部72b(図6参照)は、圧力センサS2の検出結果に基づいて、回収サブタンク130の液体室134の内部圧力が所定値になるように第2サブポンプP2の駆動を制御する。
供給サブタンク120の液体室124及び回収サブタンク130の液体室134と連通するバッファタンク110の内部を大気開放すれば、供給サブタンク120の液体室124や回収サブタンク130の液体室134から流出するインクが行き場を失うことがなく、供給サブタンク120の液体室124及び回収サブタンク130の液体室134の内部圧力を互いに独立して制御することが可能である。即ち、2系統の圧力調整手段を用いて2つの密閉された液体室124、134の内部圧力を互いに独立制御するアクティブな密閉背圧制御を行うことができる。
更に、システムコントローラ72の圧力制御部72a,72bは、供給サブタンク120の液体室124の内部圧力が回収サブタンク130の液体室134の内部圧力よりも相対的に高くなるように各液体室124、134間に所定の圧力差が設定され、且つ、ヘッド50のノズル51内部のインクに所定の背圧(負圧)が付与されるように、第1サブポンプP1及び第2サブポンプP2の駆動を制御して各液体室124、134の内部圧力を調整する。
図8は、インク充填動作の一例を示したフローチャート図である。ここでは、説明の便宜上、メインポンプP3の駆動によってメインタンク100からバッファタンク110に所定量のインクが既に供給されているものとして説明する。また、インク充填動作が開始される段階では開閉弁V1、V2は閉じられているものとする。
図8において、まず、ステップS100として、第1循環流路144の開閉弁V1を開いた状態にして、第1サブポンプP1を正転駆動して、バッファタンク110から供給サブタンク120の液体室124に対してインク供給を行う。供給サブタンク120の液体室124にインクが充填されたら、第1循環流路144の開閉弁V1を閉じた状態にする。
次に、ステップS102として、第2循環流路146の開閉弁V2を開いた状態にして、第2サブポンプP2を正転駆動して、バッファタンク110から第2連通流路160を経由して回収サブタンク130の液体室134に対してインク供給を行う。回収サブタンク130の液体室134にインクが充填されたら、第2循環流路146の開閉弁V2を閉じた状態にする。
次に、ステップS104として、第1サブポンプP1を正転駆動して、供給サブタンク120の液体室124内部が所定の圧力となるように加圧する。その後、第1循環流路144の開閉弁V1を開いて、ヘッド50及び第1循環流路144にインクを充填する。
次に、ステップS106として、第2サブポンプP2を正転駆動して、回収サブタンク130の液体室134の内部が所定の圧力となるように加圧する。その後、第2循環流路146の開閉弁V2を開いて、回収サブタンク130の液体室134及びヘッド50間の第2循環流路146にインクを充填する。こうしてインク充填動作が完了する。
本実施形態では、図7に示したように、1対のサブタンク120、130に対して1つのヘッド50が設けられる構成を一例として示したが、本発明の実施に際してはこれに限定されるものではなく、複数のヘッド50が設けられていてもよい。
〔可撓膜弾性率制御の説明〕
次に、可撓膜弾性率制御の説明をする。なお、前記の供給サブタンク120および回収サブタンク130は同じ構成を有しているので、ここでは、供給サブタンク120を代表して説明する。
図9は、本発明の可撓膜弾性率制御についての基本概念図である。図9に示すように、本発明の可撓膜弾性率制御の基本概念は、液体室124に対し弾性係数が可変である任意の弾性体と仕切り部材から成る負圧発生部150を設けることである。
図10は、ヘッド50からのインクの吐出による液体室124の圧力変化を示す図である。図10に示すように、液体室124内の圧力はインクの吐出により一旦減少し、その後インク吐出前の圧力に戻った後も、圧力の変動が生じている。そこで、前記の図9に示すように負圧発生部150を設けることにより、図10に示されるような液体室124の圧力の変動を吸収しようとするものである。
ここで、負圧発生部150の弾性体の特性を示すものとして負圧特性(液体室124のインクの供給排出量と液体室124内の圧力の関係)がある。そして、この負圧特性について、一方の軸に液体室124のインクの供給排出量を取り、他方の軸に液体室124内の圧力を取ったグラフに表わしたときに、負圧特性として表わされる線の傾きは負圧発生部150の弾性体の弾性率に比例し、負圧発生部の弾性体の弾性率に応じて一様に決まる。
図11は、図9に示される負圧発生部150の弾性体の弾性率を、本実施形態における可撓膜122の弾性率と捉え、当該弾性率を気体室126の容量で規定した場合の負圧特性を表わした図である。図11では、気体室126の容量としてV=200ml,700mlと規定した場合を示している。図11に示すように、気体室126の容量V=200mlのときよりもV=700mlのときのほうが、負圧特性を表わす曲線の傾きが小さくなり、液体室124のインクの供給排出量(図中、液体排出量に相当)に対する液体室124の圧力変化が小さくなっていることが分かる。
また、液体室124に、図10のような圧力変化が加わった時の液体室124内の時間ごとの圧力変化の様子を図12に示す。
図12において、ヘッド50の個別電極57(図4参照)に駆動電圧を印加してインクが吐出されるまで応答時間を(π/ωn)で表すと、このときの固有角周波数ωnは図11で示した負圧特性の曲線の傾き(可撓膜122の弾性率)の平方根に比例する。そのため、図11で示した負圧特性の曲線の傾き(可撓膜122の弾性率)が大きいほど、インクの吐出の応答時間が短くなり、インク吐出の応答性が向上する。
一方、図11で示した負圧特性の曲線の傾き(可撓膜122の弾性率)が大きいほど、図12に示すように減衰比ζは小さくなって(例えば、ζ=1.0に対してζ=0.1)対数減衰率e−ζωntが大きくなり、インク吐出時の液体室124内の圧力変化に伴う圧力変動の減衰時間が長くなってしまう。
ここで、図11で示した負圧特性の曲線の傾き(可撓膜122の弾性率)の大小による、液体室124の圧力の制御への精度影響度(制御精度影響度)と、インクの吐出の応答性を以下の表2にまとめる。
表2に示すように、ヘッド50からのインクの吐出の応答性を向上させる観点からは、図11で示した負圧特性の曲線の傾き(可撓膜122の弾性率)を大きく保つ方がよい。しかし、前記の図12に示すように減衰比ζが小さくなり、ポンプP1により液体室124にインクを送り込むことによる液体室124の圧力変化の影響度が大きくなってしまい、液体室124の圧力の制御精度影響度が高くなる為、インクの吐出量が多くなると液体室124内を所定の負圧に制御することが困難となり、背圧制御の制御精度への悪影響が心配される。
そのため、ヘッド50からのインクの吐出量が多い時は、図11で示した負圧特性の曲線の傾き(可撓膜122の弾性率)を小さくして減衰比ζを大きくし、前記の制御精度影響度を下げて背圧制御の制御精度を向上させる。一方、ヘッド50からのインクの吐出量が少ない時は、図11で示した負圧特性の曲線の傾き(可撓膜122の弾性率)を大きくして前記の図12に示す固有角周波数ωnを大きくすることで、ヘッド50からのインクの吐出の応答性の向上を図ることが望ましい。
そこで、図11で示した負圧特性の曲線の傾き(以下、「可撓膜122の弾性率」に置き換えて表現する)を変化させる方法として、本発明では具体的に、(1)可撓膜122が撓む面積を制御する方法、(2)気体室126の容量を制御する方法、を提案する。
(1)可撓膜122が撓む面積を制御する方法
まず、可撓膜122が撓む面積を制御する方法について説明する。図13は、可撓膜122が撓む面積を制御する方法において使用する具体的な手段として、絞り機構152を示す。図13(a)は絞り機構152を持つ供給サブタンク120の構成図を示し、図13(b)は絞り機構152の絞りを開けた状態を示し、図13(b)は絞り機構152の絞りを閉めた状態を示す。なお、可撓膜122が撓む面積とは、可撓膜122が液体室124のインクおよび気体室126の気体に接して当該インクおよび当該気体の圧力を受けた時に撓む部分の面積である。
図13に示すように、絞り機構152は、6枚の絞り羽根170を具備する。絞り羽根170には長孔の軸受け孔172が形成され、この軸受け孔172にはピン174が挿入されている。そして、絞り羽根170は支点176を中心に軸受け孔172に挿入されたピン174に沿って回動することで、絞りを開けた状態(図13(b))、絞りを閉めた状態(図13(c))にすることができる。
そこで、ヘッド50からのインクの吐出量が多いときは、弾性率制御部72c(図6参照)により、図13(b)に示すように、絞り機構152の絞りを開けて可撓膜122が撓む面積を大きくする。これにより、可撓膜122の弾性率を小さくすることができる。そのため、前記の表2に示すように制御精度影響度を下げることができ、背圧制御の制御精度を向上させることができる。したがって、ヘッド50からのインクの吐出量が多いときであっても、安定した背圧制御を行なうことができる。
一方、ヘッド50からのインクの吐出量が少ないときは、弾性率制御部72c(図6参照)により、図13(c)に示すように、絞り機構152の絞りを閉めて可撓膜122が撓む面積を小さくする。これにより、可撓膜122の弾性率を大きくすることができる。そのため、前記の表2に示すように応答性を向上させることができ、ヘッド50からのインクの吐出量が少ないときには、インクの吐出の応答性を向上させることができる。
なお、図14は、各々面積(本実施形態の可撓膜122が撓む面積に相当)が異なる可撓膜122について、可撓膜122の変位量(撓み量)と液体室124の圧力の関係を示す図である。図14に示すように、可撓膜122の面積が大きいほど、可撓膜122の変位量に対する液体室124の圧力変化量が小さく、可撓膜122の弾性率が小さくなることが分かる。
具体的には、液体室124の圧力が6000Paの時に、面積が140mm×140mmの場合の変位量は9.7mmとなり、面積が80mm×80mmの場合の変位量は7.1mmとなり、面積が50mm×50mmの場合の変位量は5.0mmとなった。
このような絞り機構152を用いることで、1枚の用紙13に画像を記録する間に、制御系のプリント制御部80(図6参照)にて予測したインクの吐出量に応じて可撓膜122の弾性率を変えることができ、安定した背圧制御を維持できる。
(2)気体室126の容量を制御する方法
次に、気体室126の容量を制御する方法について説明する。図15は、気体室126の容量を制御する方法において使用する具体的な手段として、気体室容量制御機構154を示す図である。
図15に示すように、気体室容量制御機構154はピストン面が気体室126に面したピストン部材であり、当該ピストン部材のシャフト部分を不図示のアクチュエータの作用で図面の左右方向に移動させることにより、気体室126の容積を変更する。
そして、このような気体室容量制御機構154を弾性率制御部72c(図6参照)により、図16に示すフローチャート図に従い気体室126の容量を制御する。
図16において、まず、ステップS200として、大気開放弁128を開いた状態にして気体室126を大気開放する。
次に、ステップS202として、用紙13への画像の記録を開始する前に、制御系のプリント制御部80(図6参照)にてヘッド50からのインクの吐出量を予測する。例えば、複数枚の用紙13について画像の記録を行なう場合には、1枚ごとの平均したインクの吐出量を予測する。
次に、ステップS202で予測したインクの吐出量に応じて、制御系の弾性率制御部72c(図6参照)にて気体室容量制御機構154を制御して、気体室126の容量を制御する。そして、予測したインクの吐出量が小さい場合には、気体室容量制御機構154を制御して気体室126の容量を小さく保つ(ステップS204)。一方、予測したインクの吐出量が大きい場合には、気体室容量制御機構154を制御して気体室126の容量を大きく保つ(ステップS206)。
ここで、例えば、前記の図11に示すような負圧特性を実現した場合を想定する。図11に示すように、インクが吐出され液体室124のインクの供給排出量(図中、液体排出量に相当)が10ml変化すると、気体室126の容量を700mlとしたときには液体室124の圧力は2000Pa変化する一方、気体室126の容量を200mlとしたときには液体室124の圧力は7500Pa変化する。
次に、ステップS208として、大気開放弁128を閉じた状態にして気体室126を密閉する。このように、インクの吐出量に応じて気体室126の容量を制御する。
(3)液体室124を加圧するときの応用例
次に、前記の(1)可撓膜122が撓む面積を制御する方法や(2)気体室126の容量を制御する方法に示されるような、可撓膜122の弾性率を変化させる方法の応用例として、液体室124に混入した気泡をノズル51から排出させたり、ノズル51の洗浄を行ったり、ノズル51の吐出安定性の回復を行なうなどのメンテナンス時において、液体室124を加圧する場合を説明する。
図17は、液体室124を加圧するときの理想的な加圧曲線を示す図である。図17に示すように、液体室124を加圧するときの理想的な加圧曲線は、加圧時間は出来るだけ短くする一方、圧力開放時間は出来るだけ長くすることが望ましい。その理由として、加圧時間を出来るだけ短くすることにより、メンテナンス時間の短縮が図れるからである。また、圧力開放時間は出来るだけ長くすることにより、ノズル51の破損などのダメージを低減できるからである。
ここで、図17に示すような理想的な加圧曲線とは、加圧時間よりも圧力開放時間が長い曲線である。
そして、このような理想的な加圧曲線を得るために、液体室124を加圧する時には可撓膜122の弾性率を大きくし、液体室124の単時間当たりの圧力変化を大きくして、加圧時間をできるだけ短くする。具体的には、絞り機構152により可撓膜122が撓む面積を小さくしたり、気体室容量制御機構154により気体室126の容量を小さくしたりする。
一方、このような理想的な加圧曲線を得るために、液体室124の圧力開放を行う時には可撓膜122の弾性率を小さくし、液体室124の単時間当たりの圧力変化を小さくして、圧力開放をできるだけ長くする。具体的には、絞り機構152により可撓膜122が撓む面積を大きくしたり、気体室容量制御機構154により気体室126の容量を大きくしたりする。
本実施形態によれば、絞り機構152や気体室容量制御機構154により可撓膜122の弾性率を制御するので、液体室124,134の圧力の制御への精度影響度を低減させることにより液体室124,134の圧力の制御精度を向上させて安定した背圧制御を行なうことができ、また、インクの吐出の応答性を向上させることができる。
また、予測したヘッド50からのインクの吐出量に応じて可撓膜122の弾性率を制御することにより、より確実に、液体室124,134の圧力の制御への精度影響度を低減させることにより液体室124,134の圧力の制御精度を向上させて安定した背圧制御を行なうことができ、また、インクの吐出の応答性を向上させることができる。
また、メンテナンス時などに液体室124を加圧した後圧力開放するときに、絞り機構152や気体室容量制御機構154により加圧時間に対して開放時間を長く制御するので、ヘッド50からインクを吐出して液体室124を圧力開放する時に液体室124内の圧力変化を低減させることができる。そのため、例えば、メンテナンス時にヘッド50からインクを吐出させて液体室124内に混入した気泡をともに排出させる際に、液体室124内に気泡が入り込むことなく、確実に液体室124内に混入した気泡を排出させることができる。また、インクの排出量を低減させることができる。また、加圧時間の短縮によりメンテナンス時間の短縮を図ることができる。また、開放時間を長くするので、液体室124内の圧力変化が低減でき、ノズル51の破損などのダメージが低減される。
以上、本発明のインクジェット記録装置、インクジェット記録方法について詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
1…インクジェット記録装置、50…ヘッド、72a、72b…圧力制御部、72c…弾性率制御部、120…供給サブタンク、122…可撓膜、124…液体室、126…気体室、130…回収サブタンク、132…可撓膜、134…液体室、136…気体室