以下、添付図面に従って本発明の実施形態について詳細に説明する。
<インクジェット記録装置の構成例>
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置10の構成図である。図示のインクジェット記録装置10は、CMYK各色に対応するヘッド12C,12M,12Y,12Kを含むインク打滴部12から、記録媒体搬送部14にて搬送される記録媒体16に対して、各色のインクを打滴して所望のカラー画像を記録するオンデマンド方式の画像形成装置である。
インクジェット記録装置10は、記録媒体16を保持し所定の方向(記録媒体搬送方向S)に搬送する記録媒体搬送部14と、記録媒体16に浸透抑制剤を付与する浸透抑制剤付与部18と、浸透抑制剤中の溶媒を乾燥させる浸透抑制剤乾燥部20と、乾燥処理が施された樹脂膜(浸透抑制剤膜)に処理液を付与する処理液付与部22と、処理液中の溶媒を乾燥させる処理液乾燥部24と、上述したインク打滴部12と、インク打滴後に記録媒体16上のインク中の溶媒を乾燥させるインク乾燥部26と、インク色材を記録媒体16に定着させる処理を施す定着ローラ28と、を含んで構成されている。
記録媒体搬送部14の形態としては、複数のローラに巻き掛けられた無端状のベルトの表面に記録媒体16を保持して搬送するベルト搬送や、ドラム(胴)の外周面に記録媒体16を保持し、ドラムを所定の回動方向に回動させてドラムの外周面上で記録媒体16を搬送するドラム搬送などの方式が好適に用いられる。なお、記録媒体16を保持・搬送する手段は、複数の無端状ベルトによるベルト搬送部を組み合わせた構成、複数のドラムを組み合わせた構成、或いはベルト搬送部とドラムと適宜組み合わせた構成などで実現してもよい。
また、記録媒体搬送部14に記録媒体16を保持する方式には、エアの吸引によるエア吸着、静電気による静電吸着、用紙の端部をニップ保持する方式などの様々な方式を適用することができる。
記録媒体搬送部14に保持された記録媒体16は図1における左から右へ搬送され、先ず浸透抑制剤付与部18から浸透抑制剤が付与される。浸透抑制剤としては、有機溶剤にラテックスを分散した溶液、有機溶剤にポリマーを溶解した溶液、ワックス等が好適に用いられる。有機溶剤としては、メチルエチルケトン、石油類等の非水性溶剤(溶剤自体が紙のカールを発生させないもの)が好適に用いられる。
浸透抑制剤の付与方法としては、インクジェット方式による打滴や、スプレー塗布、ローラ塗布、バー塗布等が好適に用いられる。なお、インクジェット方式を適用する場合には、浸透抑制剤を後述する色材入りインクの打滴箇所及びその周辺のみに選択的に付与することができる。
本例に示す浸透抑制剤には、加熱により皮膜化される微粒子を含有しているので、浸透抑制剤を付与した後に、加熱処理を施して浸透抑制剤の溶媒成分を蒸発させるとともに、樹脂成分(ラテックス、溶解ポリマーなど)を皮膜化させることで、より好ましい浸透抑制層が形成される。
浸透抑制剤の付与後、浸透抑制剤付与部18の記録媒体搬送方向下流側に設けられる浸透抑制剤乾燥部20によって浸透抑制剤の乾燥処理が施される。
浸透抑制剤の乾燥処理の後に、浸透抑制剤乾燥部20の記録媒体搬送方向下流側に設けられる処理液付与部22から処理液が付与される。この処理液付与工程は、後述の色材入りインク中の色材(顔料もしくは染料)を凝集若しくは増粘させる成分を持つ物質を付与する工程である。
処理液の具体例として、インクと反応してインク中の色材を析出あるいは不溶化させる処理液や、インク中の色材を含む半固体状の物質(ゲル)を生成する処理液等が挙げられる。そして、インクと処理液との反応を引き起こす方法として、インク中のアニオン性の色材と処理液中のカチオン性の化合物を反応させる方法や、互いにpHの異なるインクと処理液を混合させることでインクのpHを変化させてインク中の顔料の分散破壊を起こし顔料を凝集させる方法、処理液中に含有する多価金属塩との反応によりインク中の顔料の分散破壊を起こし顔料を凝集させる方法などが挙げられる。
処理液の付与方法としては、浸透抑制剤の付与方法と同様に、インクジェット方式による打滴、スプレー塗布、ローラ塗布、バー塗布等を適用できる。
上述したように浸透抑制剤を予め付与している場所(浸透抑制剤層の上)に処理液を付与するため、処理液は記録媒体16の内部への浸透が抑制される。なお、後述のインク中の色材成分が凝集した後に、その色材凝集物が記録媒体16(浸透抑制剤層)と接着せず処理液層中に浮遊してしまうことを防止するために、処理液を付与した後(処理液層が形成された後)に処理液中の溶媒を乾燥(蒸発)させることが好ましい。
図1の例では、処理液付与部22から処理液が付与された後、処理液付与部22の記録媒体搬送方向下流側に設けられる処理液乾燥部24によって処理液の乾燥処理が施される。乾燥処理が施された処理液は、固体状の処理液層となる。
記録媒体16に浸透抑制剤層(樹脂膜)及び処理液層が形成されると、処理液乾燥部24の記録媒体搬送方向下流側に設けられるインク打滴部12から画像データに応じてインク液滴が打滴され、記録媒体16上に所望の画像が記録される。
インク打滴部12の各ヘッド12C,12M,12Y,12Kは、記録媒体16の画像形成領域の最大幅に対応する長さを有し(図2参照)、そのインク吐出面には画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズル(図2の符号51で図示)が複数配列されたフルライン型のヘッドとなっている。各ヘッド12C,12M,12Y,12Kは、記録媒体16の搬送方向に沿って上流側からシアン(C),マゼンタ(M),イエロー(Y),黒(K)の色順に配置され、各ヘッド12C,12M,12Y,12Kは、記録媒体16の搬送方向(副走査方向;矢印S方向)と直交する方向(主走査方向)に延在するように設置される。 記録媒体16の画像形成領域の全幅をカバーするノズル列を有するフルラインヘッドがインク色毎に設けられる構成によれば、記録媒体搬送部14によって記録媒体16を一定の速度で搬送し、この搬送方向(副走査方向)について、記録媒体16と各ヘッド12C,12M,12Y,12Kを相対的に移動させる動作を1回行うだけで(即ち1回の副走査で)、記録媒体16の画像形成領域に画像を記録することができる。かかるフルライン型(ページワイド)ヘッドによるシングルパス方式の画像形成は、記録媒体の搬送方向(副走査方向)と直交する方向(主走査方向)に往復動作するシリアル(シャトル)型ヘッドによるマルチパス方式を適用する場合に比べて高速印字が可能であり、プリント生産性を向上させることができる。
本例では、CMYKの4色の構成を例示したが、インク色や色数の組合せについては本実施形態に限定されず、必要に応じて、R(赤)、G(緑)、B(青)インク、淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するヘッドを追加する構成も可能であり、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
本実施形態に係るインクジェット記録装置10によれば、浸透抑制剤の機能によって処理液及びインクの溶媒成分の記録媒体16内への浸透が抑制され、画像記録後の記録媒体16におけるカールの発生が抑制される。さらに、処理液が記録媒体16に浸透せずに記録媒体16の表面に保持されるので、記録媒体16(処理液層)上に着弾したインク液滴は処理液の成分と反応して記録媒体16の表面にインク色材がすばやく固定され、色材流れなどが防止され、インクのにじみ等の画像異常の発生が防止される。なお、記録媒体16としてカールが発生し難い媒体を用いる場合や、非浸透性媒体(樹脂シートなど)を用いる場合には、浸透抑制剤の付与工程(付与手段)を省略することができる。
インク打滴部12による描画後は、インク打滴部12の記録媒体搬送方向下流側に設けられているインク乾燥部26によってインクの乾燥処理が施される。
本例の各乾燥部(20,24,26)には共通の構成を採用することができる。図1では各乾燥部(20,24,26)にハロゲンヒータが用いられており、記録媒体16の上方から(記録媒体16の画像形成面側から)乾燥処理が施される。
なお、乾燥処理は赤外線乾燥と乾燥風の併用が好ましく、ハロゲンヒータに加えて、記録媒体16に乾燥風や熱風を吹きつける送風手段を備える形態も好ましい。また、インク中の溶媒の乾燥処理と併用して、多孔質ローラ等による溶媒吸収を行ってもよい。更に、他の乾燥手段として、記録媒体16を保持する構造体(例えば、ベルトやドラムの内部)にヒータを内蔵する態様を適用することも可能である。
画像出力時(印刷時)には、インク打滴部12におけるインクの打滴量は浸透抑制剤の付与量や処理液の付与量よりも多くなるため、インク打滴部12の後段に設けられるインク乾燥部26は、他の乾燥部(20,24)よりも容量を大きくし、強力に乾燥させるように構成する態様が好ましい。
インク乾燥部26の記録媒体搬送方向下流側に設けられる定着ローラ28は、ヒータ(不図示)を内蔵した押圧ローラであり、所定のニップ圧及び温度で記録媒体16を加圧、加熱する手段である。この定着ローラ28により、記録媒体16上の色材凝集体に対して、0.05〜1MPa程度の圧力と温度T2(=70〜100℃)程度の加熱をかけ、インク中の分散ポリマー(樹脂成分)を溶融させ、記録媒体16との密着を強化することが好ましい。
なお、定着加圧部における加熱手段としてのヒータ部分を記録媒体搬送部14に内蔵することも可能である。
定着ローラ28の記録媒体搬送方向下流側には、記録媒体16上に記録された画像を読み取るためのセンサ30が設けられている。センサ30は、記録媒体16に記録された画像を撮像する撮像素子(CCD)を含んで構成される。本例のインクジェット記録装置10では、センサ30による撮像結果に基づいて、インク打滴部12の色ごとに異常(インクの吐出異常、濃度ムラ)の有無などが判断される。
センサ30には、カラー画像を読み取り可能に構成されている。例えば、RGBの各色に対応したフィルタRGBの各色に対応したセンサを別個に備えてもよいし、所定の配列で並べられたRGBの各色に対応したカラーフィルタ(色分解フィルタ)を備える構成でもよい。センサ30には、光電変換素子(画素セル)をライン状に並べたラインセンサを用いてもよいし、光電変換素子を2次元状に配列させたエリアセンサを用いてもよい。
また、図示は省略するが、インクジェット記録装置10には、記録媒体搬送部14に記録媒体16を供給する給紙部が設けられている。給紙部には、グロス紙やマット紙など紙種の異なるものや、サイズの異なるものなど、複数種類の記録媒体をそれぞれ区別して集積する複数の用紙トレイ(不図示)を備え、これら複数の用紙トレイの中から印刷に使用する用紙(記録媒体)を自動で切り換える態様も可能であるし、必要に応じてオペレータが用紙トレイを選択し、若しくは交換する態様も可能である。
複数種類の用紙(記録媒体)を利用可能な構成にした場合、紙の種類情報を記録したバーコード或いは無線タグなどの情報記録体を各用紙トレイ(マガジン)に取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される記録媒体の種類(メディア種)を自動的に判別し、メディア種に応じて適切なインク吐出及び処理液付与、浸透抑制剤の付与を実現するようにインク吐出制御及び処理液付与制御、浸透抑制剤付与制御を行うことが好ましい。
なお、本例では、記録媒体16として、枚葉紙(カット紙)を用いるが、連続用紙(ロール紙)から必要なサイズに切断して給紙する構成も可能である。連続用紙等を用いる場合には、浸透抑制剤付与部18の前段に記録媒体16を所定の長さにカットするカッターが設けられている。
また、図には示されていないが、本例のインクジェット記録装置10には、上記構成の他、各ヘッド12C,12M,12Y,12Kにインクを供給するインク貯蔵/装填部、浸透抑制剤付与部18に対して浸透抑制剤を供給する手段、処理液付与部22に対して処理液を供給する手段を備えるとともに、各ヘッド12C,12M,12Y,12Kのクリーニング(ノズル面のワイピング、パージ、ノズル吸引等)を行うヘッドメンテナンス部や、用紙搬送路上における記録媒体16の位置を検出する位置検出センサ、インク打滴部12の周辺など装置各部の温度を検出する温度センサ、画像記録後の記録媒体16を装置外部に排出する排紙部、上述した各部を用紙搬送路上と所定の退避位置との間を移動させる移動機構などを備えている。
<ヘッドの構造>
次に、ヘッドの構造について説明する。各ヘッド12C,12M,12Y,12Kの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号50によってヘッドを示すものとする。
図2(a) はヘッド50の構造例を示す平面透視図であり、図2(b) はその一部の拡大図である。また、図3はヘッド50の他の構造例を示す平面透視図、図4は記録素子単位となる1チャンネル分の液滴吐出素子(1つのノズル51に対応したインク室ユニット)の立体的構成を示す断面図(図2中のA−A線に沿う断面図)である。
図2に示したように、本例のヘッド50は、インク吐出口であるノズル51と、各ノズル51に対応する圧力室52等からなる複数のインク室ユニット(液滴吐出素子)53をマトリクス状に2次元配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(紙送り方向と直交する方向)に沿って並ぶように投影(正射影)される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
記録媒体16の送り方向(矢印S方向;副走査方向)と略直交する方向(矢印M方向;主走査方向)に記録媒体16の全幅Wmに対応する長さ以上のノズル列を構成する形態は本例に限定されない。例えば、図2(a) の構成に代えて、図3に示すように、複数のノズル51が2次元に配列された短尺のヘッドモジュール50’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせることで記録媒体16の全幅に対応する長さのノズル列を有するラインヘッドを構成してもよい。
各ノズル51に対応して設けられている圧力室52は、その平面形状が概略正方形となっており(図2(a)、(b) 参照)、対角線上の両隅部の一方にノズル51への流出口が設けられ、他方に供給インクの流入口(供給口)54が設けられている。なお、圧力室52の形状は、本例に限定されず、平面形状が四角形(菱形、長方形など)、五角形、六角形その他の多角形、円形、楕円形など、多様な形態があり得る。 各圧力室52は供給口54を介して共通流路55と連通されている。共通流路55はインク供給源たるインクタンク(不図示)と連通しており、インクタンクから供給されるインクは共通流路55を介して各圧力室52に供給される。
圧力室52の一部の面(図4において天面)を構成し、且つ、共通電極と兼用される振動板56には、個別電極57を備えた圧電素子58が接合されている。なお、樹脂などの非導電性材料によって振動板を形成する態様も可能であり、この場合は、振動板部材の表面に金属などの導電材料による共通電極層が形成される。
個別電極57に駆動電圧を印加することによって圧電素子58が変形して圧力室52の容積が変化し、これに伴う圧力変化によりノズル51からインクが吐出される。インク吐出後、圧電素子58が元の状態に戻る際、共通流路55から供給口54を通って新しいインクが圧力室52に再充填される。
かかる構造を有するインク室ユニット53を図2(b)に示す如く、主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向に沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。即ち、主走査方向に対してある角度θの方向に沿ってインク室ユニット53を一定のピッチdで複数配列する構造により、主走査方向については、実質的に各ノズル51が一定のピッチP=d× cosθで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。
なお、本例では、ヘッド50に設けられたノズル51から吐出させるインクの吐出力発生手段として圧電素子58を適用したが、圧力室52内にヒータを備え、ヒータの加熱による膜沸騰の圧力を利用してインクを吐出させるサーマル方式を適用することも可能である。
また、本発明の実施に際してヘッド50におけるノズル51の配列形態は図示の例に限定されず、様々なノズル配置構造を適用できる。例えば、図2で説明したマトリクス配列に代えて、一列の直線配列、V字状のノズル配列、V字状配列を繰り返し単位とするジグザク状(W字状など)のような折れ線状のノズル配列なども可能である。
<記録媒体の表面粗さとローラオフセットの関係について>
図5及び図6は、表面が比較的粗い2種類のマット紙(「紙A」、「紙B」と表記して区別する)について、それぞれカレンダーがけの処理(平滑化の処理)を施し、同じ紙種で表面粗さを変えてローラオフセットの状況を調べた実験結果である。
実験条件として、図5及び図6ともに、定着ローラのニップ厚は0.15MPa、定着ローラの温度は80℃とし、描画・乾燥後のインク中の残水量[g/m2]を変えて実験を行った。図中の乾燥3g条件、乾燥2g条件、乾燥1g条件とは、描画・乾燥後のインク中の残水量(定着ローラでニップする前の残水量)がそれぞれ3[g/m2]、2[g/m2]、1[g/m2]となる乾燥条件であることを示している。
図5及び図6の横軸は表面粗さ(ここでは、インクによる画像記録が行われる記録面についての中心線平均線粗さRa)を示し、縦軸はオフセットの官能評価である。官能評価は、以下の表1に基づいて点数付けを実施し、「4」以上をOKとした。
図5及び図6の記載から、同じ乾燥条件に注目すると、表面粗さが小さいほどオフセットの官能評価が良好になることがわかる。また、乾燥条件の違いに注目すると、同じ表面粗さでも、残水量を小さくするとオフセットの官能評価が良好になる。紙種の異なる図5と図6の結果において、同じ傾向を示している。
参考のために、図7に「紙A」についてカレンダーがけの条件と表面粗さ(Ra)の関係を示し、図8にカレンダーがけの条件とローラオフセットの関係を示す。図7に示すように、カレンダーがけ処理によって用紙表面は平滑化され、カレンダーがけの条件が強いほど、ローラオフセットが良化する(図8参照)。
なお、図8において「室温ローラ*10MPa*4回」の官能評価が4に落ちている理由は、もともとコート層の厚みが薄いマット紙であるため、カレンダーがけをし過ぎるとコート層がもろくなってオフセットしやすくなるためと推定される。マット紙をカレンダーがけして平滑にしてオフセットを抑制する場合、カレンダーがけの条件として、好ましくは「室温ローラ*10MPa*4回以下」、より好ましくは、「室温ローラ*10MPa*2回以下」とする。
図5及び図6から、評価の点数が4以上になる条件をまとめたものが表2である。
表2に示されているように、表面が滑らかなものほど、ローラオフセットしにくいので残水量はやや多めでも許容される。その一方、粗い紙(Raが0.70以上)の場合には、十分に乾燥させ、残水量を1[g/m2]以下にする必要がある。
上記のとおり、本件の発明者は、定着時における定着ローラなどの画像面の接触による画像の壊れやすさに記録媒体の表面粗さが影響していることを解明した。そして、記録媒体の表面粗さに応じて残水量を変えることにより、定着時における画像の破壊を適切に防止できることを見出した。
かかる知見に基づき、本実施形態に係るインクジェット記録装置は、記録媒体の表面粗さを特定し、その特定した表面粗さに応じてインクの乾燥量(定着前における残水量)を適切に制御する。これにより、画像破壊を防止することができ、乾燥工程に要する電力消費の無駄も抑制することができる。
<記録媒体の種類について>
本発明の実施に際しては、A1グロス紙、A1アート紙、A1マット紙、A2グロス紙、A2マット紙、若しくはこれらと同等品質の紙のうち少なくとも1種の紙が用いられることが好ましい。なお、米国では、No1、No2、No3グレードがこれに相当する。
<記録媒体の表面粗さの情報を取得する手段について>
物体の表面粗さを測定する手段としては、接触式、非接触式を問わず、周知の手段を適用することができる。印刷に使用する記録媒体について、予め表面粗さを測定し、その情報をメモリ等に記憶させておく態様や、オペレータが必要に応じて所定の入力装置(ユーザインターフェース)を操作することで情報を入力する態様が可能である。
また、予め紙種に対応する表面粗さの情報をデータベース化してこれを記憶装置に保持しておき、入力された用紙の種類からデータベースを参照して表面粗さを判定するという形態を採用してもよい。
表面粗さを測定する手段は、インクジェット記録装置10とは別の外部装置として構成することができる。また、インクジェット記録装置10に表面粗さ測定器を組み込む態様も可能であり、必要に応じて適宜のタイミングでオペレータの指示を受けて、若しくは、自動制御のプログラムにしたがって(例えば、印刷を行うプロセスライン内で)表面粗さの測定を行ってもよい。
更に、表面粗さを直接的に測定する態様に限らず、表面粗さと相関のある物理量を測定・検出し、間接的に表面粗さの情報を取得してもよい。例えば、記録媒体の表面粗さを簡易的に調べる方法として、光沢度から表面粗さを推測することも可能である。
図9は、マット紙とグロス紙について表面粗さ(Ra)と光沢度(60度)の関係を調べた実験結果である。マット紙の白紙光沢度は概ね5.0〜15.6[%]の範囲であり、光沢度(60度)の値が大きいほど表面粗さ(Ra)の値が小さくなる傾向にある。図示のように、マット紙における光沢度と表面粗さの関係を一次関数で近似して、光沢度の測定結果から表面粗さの値に換算することができる。
また、グロス紙については、白色光沢度は概ね21.1〜60.6[%]の範囲であり、表面粗さ(Ra)は概ね0.19〜0.68[μm]の狭い範囲に分布する。図示のように、グロス紙における光沢度と表面粗さの関係を一次関数で近似して、光沢度の測定結果から表面粗さを算出(推定)することができる。或いはまた、グロス紙については、表面粗さのばらつきが少ないことから、一次関数による近似に代えて、平均的な値(例えば0.4程度)の定数に換算してもよい。
光沢度を測定する手段は、インクジェット記録装置10とは別の外部装置として構成することができる。また、インクジェット記録装置10に光沢度計を組み込む態様も可能である。光沢度計は表面粗さ計に比べて小型であることから、インクジェット記録装置に組み込み易いという利点がある。
記録媒体の表面粗さを検出する手法として、上述の他、記録媒体を吸引吸着するときの吸引圧から表面粗さを判断する態様も可能である。例えば、給紙部から記録媒体を1枚取り上げるときの給紙用吸盤の吸引圧を測定する。或いはまた、記録媒体を保持・搬送するベルトやドラム等に複数の吸引孔が形成され、吸引ポンプによってこれら吸引孔から空気を吸い込むことにより、記録媒体を吸着保持する構成において、吸着保持中の吸引圧を測定する態様を採用し得る。
表3は、紙の種類と吸引圧の関係を示している。
表3に示すとおり、紙種の違い(すなわち、表面粗さの違い)によって吸引圧が異なり、吸引圧が高いほど表面粗さ(Ra)の値は小さい傾向にある。
予め紙種と表面粗さ(Ra)の関係を調べておくとともに、紙種と吸引圧の相関を調べておき、その相関データを記憶装置に保存しておき、給紙用吸盤の吸引圧などを測定して、その測定した吸引圧から相関データに基づいて表面粗さを推定することができる。
<インクジェット記録装置の制御系の説明>
図10は、インクジェット記録装置10のシステム構成を示す要部ブロック図である。本実施形態のインクジェット記録装置10は、通信インターフェース70、システム制御部72、画像メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78、定着加圧制御部79、プリント制御部80、画像バッファメモリ(不図示)、ヘッドドライバ84、浸透抑制剤付与制御部90、処理液付与制御部92等を備えている。
通信インターフェース70は、ホストコンピュータ86から送られてくる画像データを受信する画像入力手段として機能するインターフェース部である。通信インターフェース70にはUSB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。ホストコンピュータ86から送出された画像データは通信インターフェース70を介してインクジェット記録装置10に取り込まれ、一旦画像メモリ74に記憶される。
画像メモリ74は、通信インターフェース70を介して入力された画像等を一旦格納する記憶手段であり、システム制御部72を通じてデータの読み書きが行われる。画像メモリ74は、書換不能な記憶手段であってもよいし、EEPROMのような書換可能な記憶手段であってもよい。また、画像メモリ74は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
システム制御部72は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従ってインクジェット記録装置10の全体を制御する制御装置として機能するとともに、各種演算を行う演算装置として機能する。即ち、システム制御部72は、通信インターフェース70、画像メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78等の各部を制御し、ホストコンピュータ86との間の通信制御、画像メモリ74の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ88やヒータ89を制御する制御信号を生成する。
プログラム格納部75には、システム制御部72のCPUが実行する各種制御プログラム及び必要な各種データなどが格納されている。システム制御部72の指令に応じて、制御プログラムが読み出され、実行される。プログラム格納部75はROMやEEPROMなどの半導体メモリを用いてもよいし、磁気ディスクなどを用いてもよい。
画像メモリ74は、画像データの一時記憶領域として利用されるとともに、プログラムの展開領域及びCPUの演算作業領域としても利用される。また、システム制御部72等を構成するプロセッサ類に内蔵されるメモリを画像メモリ74として用いてもよい。
モータドライバ76は、システム制御部72からの指示にしたがってモータ88を駆動するドライバである。図10には、装置内の各部に配置されるモータ(アクチュエータ)を代表して符号88で図示されている。例えば、図10に示すモータ88には、図1の記録媒体搬送部14の駆動源として機能するモータや、定着ローラ28の駆動モータ、各部の移動機構のモータなどが含まれる。
ヒータドライバ78は、システム制御部72からの指示にしたがって、ヒータ89を駆動するドライバである。図10には、インクジェット記録装置10に備えられる複数のヒータを代表して符号89で図示されている。例えば、図10に示すヒータ89には、図1の浸透抑制剤乾燥部20のヒータや、処理液乾燥部24のヒータ、インク乾燥部26のヒータなどが含まれている。
プリント制御部80は、システム制御部72の制御に従い、画像メモリ74内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字データ(ドットデータ)をヘッドドライバ84及び浸透抑制剤付与制御部90、処理液付与制御部92に供給する制御部である。プリント制御部80において所要の信号処理が施され、該画像データに基づいて、ヘッドドライバ84を介してヘッド50のインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。また、当該画像データに基づいて浸透抑制剤付与制御部90を介して浸透抑制剤付与部18の浸透抑制剤付与量及び付与タイミングが制御されるとともに、処理液付与制御部92を介して処理液付与部22の処理液付与量や付与タイミングが制御される。
プリント制御部80には不図示の画像バッファメモリが備えられており、プリント制御部80における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリに一時的に格納される。また、プリント制御部80とシステム制御部72とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
インクジェット記録装置10では、インク(色材)による微細なドットの打滴密度やドットサイズを変えることによって、人の目に疑似的な連続階調の画像を形成するため、入力されたデジタル画像の階調(画像の濃淡)をできるだけ忠実に再現するようなドットパターンに変換する必要がある。そのため、通信インターフェース70を介して画像メモリ74に蓄えられた元画像のデータ(印刷すべき画像のデータ、例えば、RGBの画像データ)は、システム制御部72を介してプリント制御部80に送られ、該プリント制御部80において、色変換処理や閾値マトリクスや誤差拡散法などを用いたハーフトーニング処理によってインク色ごとのドットデータに変換される。こうして、プリント制御部80で生成されたドットデータは、不図示の画像バッファメモリに蓄えられる。
ヘッドドライバ84は、プリント制御部80から与えられる画像データ(ドットデータ)に基づいてヘッド50の各ノズル51に対応する圧電素子58(図4参照)に印加される駆動信号を生成するとともに、該駆動信号を圧電素子58に印加して圧電素子58を駆動する駆動回路を含んで構成される。なお、図10に示すヘッドドライバ84には、ヘッド50の駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
ヘッドドライバ84から出力された駆動信号がヘッド50に加えられることによって、該当するノズル51からインクが吐出される。記録媒体16を所定の速度で搬送しながらヘッド50からのインク吐出を制御することにより、記録媒体16上に画像が形成される。
データベース格納部94は、当該装置の制御に用いられる各種データベースが格納されている記憶領域である。データベース格納部94は、紙種データ格納領域や、紙種と表面粗さの関係、紙種と吸引圧の関係などが記憶されたデータベースの記憶領域などを含んで構成されている。なお、データベース格納部94は、プログラム格納部75の記憶領域を利用して構成してもよい。
また、ユーザインターフェースとしての操作部96は、オペレータ(ユーザ)が各種入力を行うための入力装置97と表示部(ディスプレイ)98を含んで構成される。入力装置97には、キーボード、マウス、タッチパネル、ボタンなど各種形態を採用し得る。オペレータは、入力装置97を操作することにより、印刷条件の入力や付属情報の入力・編集、情報の検索などを行うことができ、入力内容や検索結果など等の各種情報は表示部98の表示を通じて確認することができる。
上記の構成により、記録媒体の表面粗さに応じて適切な乾燥条件に設定され、乾燥処理が行われた後に定着ローラ28による定着処理が行われる。
<浸透抑制剤、インク、処理液の具体例について>
図1の実施形態で用いた浸透抑制剤、処理液、及びインクの具体例を以下に示す。
(浸透抑制剤A)
浸透抑制剤Aは、以下に示す処方によって作製した。
下記〔化1〕に示す構造の分散安定剤〔Q−1〕10g、酢酸ビニル100g及びアイソパーH(エクソン社製商品名)384gの混合溶液を窒素気流下で攪拌しながら温度70℃に加熱した。
重合開始剤として、2,2−アゾビス(イソバレロニトリル;略称A.I.V.N.)0.8gを加え、3時間反応した。重合開始剤を添加して20分後に白濁を生じ、反応温度は88℃まで上昇した。
更に、該重合開始剤を0.5g加え、2時間反応した後、温度を100℃まで上げ、2時間攪拌し、未反応の酢酸ビニルを留去した。冷却後、200メッシュのナイロン布を通し、得られた白色分散物は、重合率90%で平均粒径0.23μmの単分散性が良好なラテックスである。なお、該ラテックスの粒径は、粒子径計測装置CAPA−500(堀場製作所製)で測定した。
上記白色分散物(ラテックス)の一部を遠心分離機(回転数1×104r.p.m、回転時間60分)にかけて、沈降した樹脂粒子分を捕集し、乾燥し、該樹脂粒子分の重量平均分子量(Mw)とガラス転移点温度(Tg)、最低造膜温度(MFT)を測定した。Mw=2×105(ポリエチレン換算GPC値)、Tg=38℃、MFT=28℃であった。
また、浸透抑制剤には、加熱により皮膜化する微粒子(熱可塑性樹脂)を含有しており、浸透抑制剤の付与後の乾燥処理時において熱可塑性樹脂が皮膜化し、浸透抑制剤層が形成される。
浸透抑制剤に用いられる熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgは、−10℃以上100℃以下が好ましく、10℃以上70℃以下がさらに好ましく、30℃以上50℃以下が更に好ましい。
熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgが低いと、吐出の際にノズル面近傍で皮膜を形成しやすくなってしまい、浸透抑制剤の吐出の安定性が低下するという問題がある。一方、熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgが高いと皮膜を形成する際に多大な熱をかける必要が発生するという問題がある。また、熱可塑性樹脂の形態は、樹脂が後述する溶媒に溶解若しくは粒子状態で分散されている形態があるが、浸透抑制剤を吐出する場合には粒子状態で分散させた方が溶液全体の粘度を下げることができ、好ましい。粒子の場合には粒子径は、0.01μm以上5μm以下の範囲が好ましく、0.05μm以上1μm以下の範囲がさらに好ましい。粒子径が小さすぎると紙の内部に粒子が浸透してしまって表面で皮膜が形成できないという問題があり、粒子径が大きすぎると熱をかけても十分な皮膜を形成できず、吐出時にノズルに粒子が詰まるという問題がある。熱可塑性樹脂の重量パーセント濃度は、1wt%以上40wt%以下の範囲が好ましく、5wt%以上30wt%以下の範囲がさらに好ましく、10wt%以上20wt%以下の範囲がさらに好ましい。
熱可塑性樹脂の濃度が低いと熱可塑性樹脂同士が十分に皮膜を形成せず、一部に欠陥ができてしまうという問題があり、濃度が高いと液の保存安定性が悪く(樹脂が析出する)、粘度が高すぎるという問題がある。
本例で用いる熱可塑性樹脂は、上述したガラス転移温度Tg、粒子径、重量パーセント濃度の各条件を満たすものであればいずれでもよく、具体的には、オレフィン重合体及び共重合体、塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン共重合体、アルカン酸ビニル重合体及び共重合体、アルカン酸アリル重合体及び共重合体、スチレン及びその誘導体の重合体及び共重合体、オレフィン−スチレンオレフィン−不飽和カルボン酸エステル共重合体、アクリロニトリル共重合体、メタクリロニトリル共重合体、アルキルビニルエ−テル共重合体、アクリル酸エステル重合体及び共重合体、メタクリル酸エステル重合体及び共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体、イタコン酸ジエステル重合体及び共重合体、無水マレイン酸共重合体、アクリルアミド共重合体、メタクリルアミド共重合体、水酸基変性シリコン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ケトン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコン樹脂、アミド樹脂、水酸基及びカルボキシル基変性ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、環化ゴム−メタクリル酸エステル共重合体、環化ゴム−アクリル酸エステル共重合体、複素環を含有する共重合体(複素環として例えば、フラン環、テトラヒドロフラン環、チオフェン環、ジオキサン環、ジオキソフラン環、ラクトン環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、1,3−ジオキセタン環等)、セルロース系樹脂、脂肪酸変性セルロース系樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
次に、上述した熱可塑性樹脂を溶解若しくは分散させる非水溶媒について述べる。本例に用いる非水溶媒としては、上述した熱可塑性樹脂を安定的に溶解若しくは分散させておくことができ、溶媒自身が紙に浸透してもカールを起こさない、若しくはカールが軽微であるものであればよい。具体的には、直鎖状もしくは分枝状の脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素又は芳香族炭化水素、及びこれらのハロゲン置換体を用いることができる。例えばオクタン、イソオクタン、デカン、イソデカン、デカリン、ノナン、ドデカン、イソドデカン、シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロデカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、アイソパーE、アイソパーG、アイソパーH、アイソパーL(アイソパー;エクソン社の商品名)、シェルゾール70、シェルゾール71(シェルゾール;シェルオイル社の商品名)、アムスコOMS、アムスコ460溶剤(アムスコ;スピリッツ社の商品名)等を単独あるいは混合して用いることができる。
<処理液について>
本発明の実施に際して用いる処理液(凝集処理液)として、インクのpHを変化させることにより、インクに含有される顔料及びポリマー微粒子を凝集させ、凝集物を生じさせるような処理液が好ましい。
処理液の成分として、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ビリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩等の中から選ばれることが好ましい。
また、処理液の好ましい例として、多価金属塩あるいはポリアリルアミンを添加した処理液を挙げることができる。これらの化合物は、1種類で使用されてもよく、2種類以上併用されてもよい。
本発明の実施に用いる処理液はインクとのpH凝集性能の観点からpHは1〜6であることが好ましく、pHは2〜5であることがより好ましく、pHは3〜5であることが特に好ましい。
処理液の中における、インクの顔料及びポリマー微粒子を凝集させる成分の添加量としては、液体の全重量に対し、0.01重量%以上20重量%以下であることが好ましい。0.01重量%以下の場合は処理液とインクが接触時に、濃度拡散が十分に進まずpH変化による凝集作用が十分に発生しないことがある。また20重量%以上であると、インクジェットヘッドからの吐出性が悪化することがある。
本発明の実施に用いる処理液は、乾燥によってインクジェットヘッドのノズルが詰まるのを防止する目的から、水、その他添加剤溶性有機溶媒を含有することが好ましい。このような水、その他添加剤溶性有機溶媒には、湿潤剤及び浸透剤が含まれる。
これらの溶媒は、水,その他添加剤と共に単独若しくは複数を混合して用いることができる。
水、その他添加剤溶性有機溶媒の含有量は処理液の全重量に対し、60重量%以下であることが好ましい。60重量%以上よりも多い場合は処理液の粘度が増加し、インクジェットヘッドからの吐出性が悪化することがある。
処理液には、定着性及び耐擦性を向上させるため、樹脂成分を更に含有してもよい。樹脂成分は、処理液をインクジェット方式によって打滴する場合ヘッドからの吐出性を損なわないもの、保存安定性があるものであればよく、水溶性樹脂や樹脂エマルジョンなどを自由に用いることができる。
樹脂成分としては、アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系、ビニル系、スチレン系等が考えられる。定着性向上といった機能を充分に発現させるには、比較的高分子のポリマーを高濃度1重量%〜20重量%に添加することが必要である。しかし、上記材料を液体に溶解させて添加しようとすると高粘度化し、吐出性が低下する。適切な材料を高濃度に添加し、かつ粘度上昇を抑えるには、ラテックスとして添加する手段が有効である。ラテックス材料としては、アクリル酸アルキル共重合体、カルボキシ変性SBR(スチレン−ブタジエンラテックス)、SIR(スチレン−イソプレン)ラテックス、MBR(メタクリル酸メチル−ブタジエンラテックス)、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンラテックス)、等が考えられる。ラテックスのガラス転移点Tgはプロセス上、定着時に影響の強い値で、常温保存時の安定性と加熱後の転写性を両立するために、50℃以上120℃以下であることが好ましい。更に最低造膜温度MFTはプロセス上、定着時に影響の強い値で、低温で充分な定着を得る為に100℃以下、更に好ましくは50℃以下である。
インクと逆極性のポリマー微粒子を処理液に含ませ、インク中の顔料及びポリマー微粒子と凝集させることによって更に凝集性を高めてもよい。
また、インクに含まれるポリマー微粒子成分に対応した硬化剤を処理液に含有し、二液が接触後、インク成分中の樹脂エマルジョンが凝集するとともに架橋又は重合するようにして、凝集性を高めてもよい。
本発明の実施に用いる処理液は、界面活性剤を含有することができる。表面張力を下げて記録媒体上でのぬれ性を高めるのに効果がある。また、インクを先立って打滴する場合においてもインク上でのぬれ性を高め、二液の接触面積の増加により効果的に凝集作用がすすむ。
本発明の実施に用いる処理液の表面張力は、10〜50mN/mであることが好ましく、浸透性記録媒体への浸透性、液滴の微液滴化、及び吐出性の両立の観点からは、15〜45mN/mであることが更に好ましい。
本発明の実施に用いる処理液の粘度は、1.0〜20.0cPであることが好ましい。
その他必要に応じ、pH緩衝剤、酸化防止剤、防カビ剤、粘度調整剤、導電剤、紫外線、吸収剤、等も添加することができる。
<インクについて>
本発明の実施に用いられるインクは、溶媒不溶性材料として、色材(着色剤)である顔料やポリマー微粒子などを含有する水性顔料インクが用いられる。
溶媒不溶性材料の濃度は、吐出に適切な粘度20mPa・s以下を考慮して1wt%以上20wt%以下であることが好ましい。より好ましくは画像の光学濃度を得るために4wt%以上の顔料濃度である。
インクの表面張力は、吐出安定性を考慮して20mN/m以上40mN/m以下であることが好ましい。
インクに使用される色材は、顔料あるいは染料と顔料とを混合して用いることができる。処理液との接触時における凝集性の観点から、インク中で分散状態にある顔料の方がより効果的に凝集するため好ましい。顔料の中でも、分散剤により分散されている顔料、自己分散顔料、樹脂により顔料表面を被覆された顔料(マイクロカプセル顔料)、及び高分子グラフト顔料が特に好ましい。また、顔料凝集性の観点から、解離度の小さいカルボキシル基によって修飾されている形態がより好ましい。
マイクロカプセル顔料の樹脂は、限定されるものではないが、水に対して自己分散能又は溶解能を有し、かつアニオン性基(酸性)を有する高分子の化合物であるのが好ましい。この樹脂は、通常、数平均分子量が1,000〜100,000範囲程度のものが好ましく、3、000〜50、000範囲程度のものが特に好ましい。また、この樹脂は有機溶剤に溶解して溶液となるものが好ましい。樹脂の数平均分子量がこの範囲であることにより、顔料における被覆膜として、又はインク組成物における塗膜としての機能を十分に発揮することができる。
前記樹脂は、自己分散能あるいは溶解するものであっても、又はその機能が何らかの手段によって付加されたものであってもよい。例えば、有機アミンやアルカリ金属を用いて中和することにより、カルボキシル基、スルホン酸基、またはホスホン酸基等のアニオン性基を導入されてなる樹脂であってもよい。また、同種または異種の一又は二以上のアニオン性基が導入された樹脂であってもよい。本例にあっては、塩基をもって中和されて、カルボキシル基が導入された樹脂が好ましくは用いられる。
本発明の実施に用いる着色インク液には、処理液と反応する成分として、着色剤を含まないポリマー微粒子を添加することが好ましい。ポリマー微粒子は、処理液との反応によりインクの増粘作用、凝集作用を強め、画像品位の向上させることができる。特に、アニオン性のポリマー微粒子をインクに含有せしめることにより、安全性の高いインクが得られる。
処理液と反応して、増粘・凝集作用を起こすポリマー微粒子をインクに用いることにより、画像の品位を高めることができると同時に、ポリマー微粒子の種類によっては、ポリマー微粒子が記録媒体で皮膜を形成し、画像の耐擦性、耐水性をも向上させる効果を有する。
ポリマーインクでの分散方法はエマルジョンに限定するものではなく、溶解していても、コロイダルディスパージョン状態で存在していてもよい。
ポリマー微粒子は、乳化剤を用いてポリマー微粒子を分散させたものであっても、また、乳化剤を用いないで分散させたものであってもよい。乳化剤としては、通常、低分子量の界面活性剤が用いられているが、高分子量の界面活性剤を乳化剤として用いることもできる。外殻がアクリル酸、メタクリル酸などにより構成されたカプセル型のポリマー微粒子(粒子の中心部と外縁部で組成を異にしたコア・シェルタイプのポリマー微粒子)を用いることも好ましい。
分散手法として、低分子量の界面活性剤を用いていないポリマー微粒子は、高分子量の界面活性剤を用いたポリマー微粒子、乳化剤を使用しないポリマー微粒子を含めてソープフリーラテックスと呼ばれている。例えば上記に記述した、スルホン酸基、カルボン酸基等の水に可溶な基を有するポリマー(可溶化基がグラフト結合しているポリマー、可溶化基を持つ単量体と不溶性の部分を持つ単量体とから得られるブロックポリマー)を乳化剤として用いたポリマー微粒子もこれに含まれる。
本実施形態では、特にこのソープフリーラテックスを用いることが好ましく、ソープフリーラテックスは従来の乳化剤を用いて重合したポリマー微粒子にくらべ、乳化剤がポリマー微粒子の反応凝集や造膜を阻害したり、遊離した乳化剤がポリマー微粒子の造膜後に表面に移動し、顔料とポリマー微粒子の混合した凝集体と記録媒体との接着性を低下させる懸念がない。
インクにポリマー微粒子として添加する樹脂成分としては、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン系樹脂などが挙げられる。
ポリマー微粒子への高速凝集性付与の観点から、解離度の小さいカルボン酸基を有するものがより好ましい。カルボン酸基はpH変化によって影響を受けやすいので、分散状態が変化しやすく、凝集性が高い。
ポリマー微粒子のpH変化に対する分散状態の変化は、アクリル酸エステルなどのカルボン酸基を有する、ポリマー微粒子中の構成成分の含有割合によって調整することができ、分散剤として用いるアニオン性の界面活性剤によっても調整可能である。
ポリマー微粒子の樹脂成分は、親水性部分と疎水性部分とを併せ持つ重合体であるのが好ましい。疎水性部分を有することで、ポリマー微粒子の内側に疎水部分が配向し、外側に親水部分が効率よく外側に配向され、液体のpH変化に対する分散状態の変化がより大きくなる効果があり、凝集がより効率よく行われる。
顔料に対するポリマー微粒子添加量の重量比率は2:1から1:10が好ましい、より好ましくは1:1から1:3である。顔料に対するポリマー微粒子添加量の重量比率は2:1より少ないと、樹脂の融着による凝集体の凝集力が効果的に向上しない。また、添加量が1:10より多くてもインクの粘度が高くなりすぎ、吐出性などが悪化する。
インクに添加するポリマー微粒子の分子量は融着したときの付着力を鑑みて、5,000以上が好ましい。5,000未満だと、凝集したときのインク凝集体の内部凝集力向上や記録媒体に画像の定着性に効果が不足し、また画質改善効果が不足する。
ポリマー微粒子の体積平均粒子径は、10nm〜1μmの範囲が好ましく、10〜500nmの範囲がより好ましく、20〜200nmの範囲が更に好ましく、50〜200nmの範囲が特に好ましい。10nm以下では、凝集しても画質の改善効果、転写性の向上に効果があまり期待できない。1μm以上では、インクのヘッドからの吐出性や保存安定性が悪化するおそれがある。また、ポリマー粒子の体積平均粒子径分布に関しては、特に制限は無く、広い体積平均粒子径分布を持つもの、又は単分散の体積平均粒子径分布を持つもの、いずれでもよい。
また、ポリマー微粒子を、インク内に2種以上混合して含有させて使用してもよい。
本発明のインクに添加するpH調整剤としては中和剤として、有機塩基、無機アルカリ塩基を用いることができる。pH調整剤はインクジェット用インクの保存安定性を向上させる目的で、該インクジェット用インクがpH6〜10となるように添加するのが好ましい。
本発明の実施に用いるインクは、乾燥によってインクジェットヘッドのノズルが詰まるのを防止する目的から、水溶性有機溶媒を含有することが好ましい。このような水溶性有機溶媒には、湿潤剤及び浸透剤が含まれる。
水溶性有機溶媒としては、処理液の場合と同様に、例えば、多価アルコール類、多価アルコール類誘導体、含窒素溶媒、アルコール類、含硫黄溶媒等が挙げられる。本発明の実施に用いるインクには、界面活性剤を含有することができる。表面張力を下げて固体状又は半固溶状の凝集処理剤層上でのぬれ性を高め、拡がり率を増加させることができる。
本発明の実施に用いるインクの表面張力は、10〜50mN/mであることが好ましく、浸透性記録媒体への浸透性、液滴の微液滴化、及び吐出性の両立の観点からは、15〜45mN/mであることが更に好ましい。
本発明の実施に用いるインクの粘度は、1.0〜20.0cPであることが好ましい。
その他必要に応じ、pH緩衝剤、酸化防止剤、防カビ剤、粘度調整剤、導電剤、紫外線吸収剤、等も添加することができる。
なお、ここに説明した浸透抑制剤、処理液、インクの組成はあくまでも一例であり、他の組成を有するものを適宜適用することが可能である。
<インクジェット記録装置の他の構成例>
図1で説明したインクジェット記録装置10は、記録媒体16をベルト搬送方式により搬送する構成を例示したが、記録媒体の搬送方法にはドラム搬送方式などの他の搬送方式を適用してもよい。また、浸透抑制剤付与、処理液付与、インク打滴、乾燥等の各処理を独立した搬送ドラム(圧胴)を用いて行い、各圧胴間の記録媒体の受け渡しを渡し胴によって行う搬送方式にも適用可能である。
図11は、本発明の他の実施形態に係るインクジェット記録装置の構成図である。図示のように、インクジェット記録装置100は、主として、給紙部112、処理液付与部114、描画部116、乾燥部118、定着部120、及び排出部122を備えて構成される。
(給紙部)
給紙部112は、記録媒体124を処理液付与部114に供給する機構である。給紙部112には、給紙トレイ150が設けられ、この給紙トレイ150から記録媒体124が一枚ずつ処理液付与部114に給紙される。
本例のインクジェット記録装置100では、記録媒体124として、紙種や大きさ(用紙サイズ)の異なる複数種類の記録媒体124を使用することができる。給紙部112において各種の記録媒体をそれぞれ区別して集積する複数の用紙トレイ(不図示)を備え、これら複数の用紙トレイの中から給紙トレイ150に送る用紙を自動で切り換える態様も可能であるし、必要に応じてオペレータが用紙トレイを選択し、若しくは交換する態様も可能である。
なお、本例では、記録媒体124として、枚葉紙(カット紙)を用いるが、連続用紙(ロール紙)から必要なサイズに切断して給紙する構成も可能である。
(処理液付与部)
処理液付与部114は、記録媒体124の記録面に処理液を付与する機構である。処理液は、描画部116で付与されるインク中の色材(本例では顔料)を凝集させる色材凝集剤を含んでおり、この処理液とインクとが接触することによって、インクは色材と溶媒との分離が促進される。
図11に示すように、処理液付与部114は、給紙胴152、処理液ドラム154、及び処理液塗布装置156を備えている。処理液ドラム154は、記録媒体124を保持し、回転搬送させるドラムである。処理液ドラム154は、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)155を備え、この保持手段155の爪と処理液ドラム154の周面の間に記録媒体124を挟み込むことによって記録媒体124の先端を保持できるようになっている。処理液ドラム154は、その外周面に吸引孔を設けるとともに、吸引孔から吸引を行う吸引手段を接続してもよい。これにより記録媒体124を処理液ドラム154の周面に密着保持することができる。
処理液ドラム154の外側には、その周面に対向して処理液塗布装置156が設けられる。処理液塗布装置156は、処理液が貯留された処理液容器と、この処理液容器の処理液に一部が浸漬されたアニックスローラと、アニックスローラと処理液ドラム154上の記録媒体124に圧接されて計量後の処理液を記録媒体124に転移するゴムローラとで構成される。この処理液塗布装置156によれば、処理液を計量しながら記録媒体124に塗布することができる。
本実施形態では、ローラによる塗布方式を適用した構成を例示したが、これに限定されず、例えば、スプレー方式、インクジェット方式などの各種方式を適用することも可能である。
処理液付与部114で処理液が付与された記録媒体124は、処理液ドラム154から中間搬送部126を介して描画部116の描画ドラム170へ受け渡される。
(描画部)
描画部116は、描画ドラム170、用紙抑えローラ174、及びインクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yを備えている。描画ドラム170は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)171を備える。描画ドラム170に固定された記録媒体124は、記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面にインクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yからインクが付与される。
描画部116で画像が形成された記録媒体124は、描画ドラム170から中間搬送部128を介して乾燥部118の乾燥ドラム176へ受け渡される。
(乾燥部)
乾燥部118は、色材凝集作用により分離された溶媒に含まれる水分を乾燥させる機構であり、図11に示すように、乾燥ドラム176、及び溶媒乾燥装置178を備えている。
乾燥ドラム176は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)177を備え、この保持手段177によって記録媒体124の先端を保持できるようになっている。記録媒体124は、保持手段によって先端が保持された状態で、乾燥ドラム176を回転させることによって回転搬送される。その際、記録媒体124の記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面に対して溶媒乾燥装置178による乾燥処理が行われる。なお、乾燥ドラム176は、その外周面に吸引孔を設けるとともに、吸引孔から吸引を行う吸引手段を接続してもよい。これにより記録媒体124を乾燥ドラム176の周面に密着保持することができる。
溶媒乾燥装置178は、乾燥ドラム176の外周面に対向する位置に配置され、複数のハロゲンヒータ180と、各ハロゲンヒータ180の間にそれぞれ配置された温風噴出しノズル182とで構成される。
各温風噴出しノズル182から記録媒体124に向けて吹き付けられる温風の温度と風量、各ハロゲンヒータ180の温度を適宜調節することにより、様々な乾燥条件を実現することができる。
このように構成される溶媒乾燥装置178によって、乾燥ドラム176に保持された記録媒体124の記録面のインク溶媒に含まれる水分が蒸発され、乾燥処理が行われる。その際、乾燥部118の乾燥ドラム176は、描画部116の描画ドラム170に対して構造上分離しているので、インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yにおいて、熱乾燥によるヘッドメニスカス部の乾燥によるインクの不吐出を低減することができる。また、乾燥部118の温度設定に自由度があり、最適な乾燥温度を設定することができる。
また、乾燥ドラム176の表面温度は50℃以上に設定されている。記録媒体124の裏面から加熱を行うことによって乾燥が促進され、定着時における画像破壊を防止することができる。このとき、乾燥ドラム176の外周面に記録媒体124を密着させる手段を具備するとさらに効果的である。記録媒体124を密着させる手段としては、真空吸着、静電吸着など様々な方式を適用することが可能である。
なお、乾燥ドラム176の表面温度の上限については、特に限定されるものではないが、乾燥ドラム176の表面に付着したインクをクリーニングするなどのメンテナンス作業の安全性(高温による火傷防止)の観点から75度以下(より好ましくは60℃以下)に設定されることが好ましい。
このように構成された乾燥ドラム176の外周面に、記録媒体124の記録面が外側を向くように(即ち、記録媒体124の記録面が凸側となるように湾曲させた状態で)保持し、回転搬送しながら乾燥することで、記録媒体124のシワや浮きの発生を防止でき、これらに起因する乾燥ムラを確実に防止することができる。
乾燥部118で乾燥処理が行われた記録媒体124は、乾燥ドラム176から中間搬送部130を介して定着部120の定着ドラム184へ受け渡される。
(定着部)
定着部120は、定着ドラム184(「媒体保持手段」に相当)、ハロゲンヒータ186、定着ローラ(「定着部材」に相当)188、及びインラインセンサ190で構成される。定着ドラム184は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)185を備え、この保持手段185によって記録媒体124の先端を保持できるようになっている。記録媒体124は、保持手段185によって先端が保持された状態で定着ドラム184を回転させることによって、回転搬送される。その際、記録媒体124の記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面に対して、ハロゲンヒータ186による予備加熱と、定着ローラ188による定着処理と、インラインセンサ190による検査が行われる。なお、上記の定着ドラム184は、その外周面に吸引孔を設けるとともに、吸引孔から吸引を行う吸引手段を接続してもよい。これにより記録媒体124を定着ドラム184の周面に密着保持することができる。
ハロゲンヒータ186は、所定の温度(たとえば180℃)に制御される。これにより、記録媒体124の予備加熱が行われる。
定着ローラ188は、乾燥させたインクを加熱加圧することによってインク中の自己分散性ポリマー微粒子を溶着し、インクを被膜化させるためのローラ部材であり、記録媒体124を加熱加圧するように構成される。具体的には、定着ローラ188は、定着ドラム184に対して圧接するように配置されており、定着ドラム184との間でニップローラを構成するようになっている。これにより、記録媒体124は、定着ローラ188と定着ドラム184との間に挟まれ、所定のニップ圧(たとえば0.15MPa)でニップされ、定着処理が行われる。
また、定着ローラ188は、熱伝導性の良いアルミなどの金属パイプ内にハロゲンランプを組み込んだ加熱ローラによって構成され、所定の温度(たとえば60〜80℃)に制御される。この加熱ローラで記録媒体124を加熱することによって、インクに含まれるラテックスのTg温度(ガラス転移点温度)以上の熱エネルギーが付与され、ラテックス粒子が溶融される。これにより、記録媒体124の凹凸に押し込み定着が行われるとともに、画像表面の凹凸がレベリングされ、光沢性が得られる。
なお、図1の実施形態では、定着ローラ188を1つだけ設けた構成となっているが、画像層厚みやラテックス粒子のTg特性に応じて、複数段設けた構成でもよい。また、定着ドラム184の表面を所定の温度(たとえば60℃)に制御するようにしてもよい。
一方、インラインセンサ190は、記録媒体124に定着された画像について、チェックパターンや水分量、表面温度、光沢度などを計測するための計測手段であり、CCDラインセンサなどが適用される。
上記の如く構成された定着部120によれば、乾燥部118で形成された薄層の画像層内のラテックス粒子が定着ローラ188によって加熱加圧されて溶融されるので、記録媒体124に固定定着させることができる。また、定着部120によれば、定着ドラム184が他のドラムに対して構造上分離されているので、定着部120の温度設定を、描画部116や乾燥部118と分離して自由に設定することができる。
また、定着ドラム184の表面温度は50℃以上に設定されている。定着ドラム184の外周面に保持された記録媒体124を裏面から加熱することによって乾燥が促進され、定着時における画像破壊を防止することができるとともに、画像温度の昇温効果によって画像強度を高めることができる。
(排出部)
図11に示すように、定着部120に続いて排出部122が設けられている。排出部122は、排出トレイ192を備えており、この排出トレイ192と定着部120の定着ドラム184との間に、これらに対接するように渡し胴194、搬送ベルト196、張架ローラ198が設けられている。記録媒体124は、渡し胴194により搬送ベルト196に送られ、排出トレイ192に排出される。
このようなドラム搬送型のインクジェット記録装置100についても、図1の例と同様に図と同様の制御系を適用することができ、記録媒体の表面粗さに応じて適切な残水量となるように乾燥部118における乾燥条件が制御される。
<他の装置構成への適用例>
上記の実施形態では、印刷用のインクジェット記録装置への適用を例に説明したが、本発明の適用範囲はこの例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
<付記>
上記に詳述した実施形態についての記載から把握されるとおり、本明細書では以下に示す発明を含む多様な技術思想の開示を含んでいる。
(発明1):記録媒体の表面粗さを特定する表面粗さ特定手段と、前記記録媒体に付着させるインクを吐出するインクジェットヘッドと、前記記録媒体上に付着させたインクを乾燥させる乾燥手段と、前記乾燥手段による乾燥処理後に前記記録媒体の前記インクの付着面に接触する定着部材と、前記表面粗さ特定手段で特定した表面粗さに応じて前記乾燥手段による乾燥条件を決定する乾燥条件決定手段と、前記決定した乾燥条件に基づき前記乾燥手段を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
表面粗さ特定手段は、ユーザが所定の入力装置(ユーザインターフェース)等を操作して入力する構成も可能であるし、センサなどによって自動的に情報を取得する形態のものであってもよい。また、表面粗さの情報を直接的に取得する態様に限らず、表面粗さと相関のある情報から表面粗さを推定してもよい。
定着部材には、ローラ部材(定着ローラ)が好適である。また、ベルト部材(定着ベルト)など、ローラ以外の形態も可能である。
乾燥条件を変える方法として、例えば、乾燥手段における加熱温度、乾燥時間、乾燥風の風量のうち少なくとも1つを変える態様がある。所望の残水量となるように、乾燥手段における乾燥能力を可変することが好ましい。
「記録媒体」は、連続用紙、カット紙、シール用紙、OHPシート等の樹脂シート、フイルム、布、配線パターン等が形成されるプリント基板、中間転写媒体、その他材質や形状を問わず、様々な媒体を含む。
記録媒体を保持、搬送する手段として、例えば、円筒形状を有し、所定の回転軸の周りを回転可能に構成されたドラム、ローラ間に巻き掛けられた無端状のベルトなどの形態が挙げられる。
(発明2):発明1に記載のインクジェット記録装置において、前記乾燥条件決定手段は、表面粗さが粗いものほど前記記録媒体上のインクの残水量を減らすように、前記乾燥条件を変更することを特徴とするインクジェット記録装置。
表面粗さが異なる複数の記録媒体について同一条件でインクを打滴し、同じ乾燥条件で乾燥処理を実施した場合の定着部材に対するインクのオフセットを比較したところ、表面粗さが粗いもののほどオフセットが発生しやすい傾向にあることが判明した。かかる知見から、表面粗さが粗い記録媒体ほど、より十分に乾燥を行うことにより、オフセットを確実に防止することができる。
また、表面粗さが比較的小さいものについては、インクのオフセット(画像の破壊)を発生させないという目的において必要な範囲で適切な乾燥条件を設定することにより、乾燥工程における無駄な電力の消費を抑えることができる。
(発明3):発明1又は2に記載のインクジェット記録装置において、前記表面粗さ特定手段として、記録媒体の表面粗さの情報をユーザが入力するための表面粗さ情報入力手段が用いられることを特徴とするインクジェット記録装置。
表面粗さ特定手段の一態様として、ユーザが直接、表面粗さの情報(例えば、表面粗さの数値)を所定のユーザインターフェースから入力する態様を採用し得る。
(発明4):発明1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置において、記録媒体の種類を特定する媒体種特定手段を備える一方、予め記録媒体の種類に対応する表面粗さの情報を保持したデータベースが用意され、前記表面粗さ特定手段は、前記媒体種特定手段で特定された記録媒体の種類から前記データベースに基づき当該記録媒体の表面粗さを特定することを特徴とするインクジェット記録装置。
表面粗さ特定手段の他の態様として、記録媒体の種類を特定し、記録媒体の種類と表面粗さの対応関係を規定したデータベースを参照して、当該記録媒体の表面粗さの情報を取得してもよい。媒体種特定手段は、ユーザが所定の入力装置(情報入力手段)を操作して記録媒体の種類の情報を入力する構成に限らず、用紙カセットや供給マガジン等に付された識別符号(ID)や無線タグ等などから情報読取手段によって自動的に情報を読み取る形態も可能である。
なお、データベースを格納した記憶手段は、本発明のインクジェット記録装置内に備えてもよいし、外部の装置(ホストコンピュータなど)に備えてもよい。
(発明5):発明1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置において、前記表面粗さ特定手段として、前記記録媒体の表面粗さを検出する検出手段を有することを特徴とするインクジェット記録装置。
表面粗さ特定手段の他の態様として、記録媒体の表面粗さを検出する手段をインクジェット記録装置に組み込む態様を採用し得る。
(発明6):発明5に記載のインクジェット記録装置において、前記検出手段として、前記記録媒体の光沢度を検出する光沢度検出手段が用いられる一方、予め記録媒体の光沢度と表面粗さの相関に基づき光沢度を表面粗さに換算するための換算テーブルが用意され、前記光沢度検出手段で検出した光沢度から前記換算テーブルに基づいて当該記録媒体の表面粗さを特定することを特徴するインクジェット記録装置。
光沢度と表面粗さには相関があるため、光沢度を検出することで、表面粗さに換算することが可能である。換算テーブルを格納した記憶手段は、本発明のインクジェット記録装置内に備えてもよいし、外部の装置(ホストコンピュータなど)に備えてもよい。
(発明7):発明5に記載のインクジェット記録装置において、前記記録媒体を吸着保持するための負圧を発生させる吸引手段を有し、前記検出手段として、前記吸引手段による吸引圧を検出する吸引圧検出手段が用いられる一方、予め記録媒体の前記吸着保持時における吸引圧と表面粗さの対応関係を示すテーブルが用意され、前記吸引圧検出手段で検出した吸引圧から前記テーブルに基づいて当該記録媒体の表面粗さを特定することを特徴するインクジェット記録装置。
記録媒体の種類によって吸着保持時における吸引圧が異なるため、吸着圧の検出から記録媒体の種類を判別できる。また、記録媒体の種類からその媒体の表面粗さを対応付けることが可能であるため、吸引圧から表面粗さを推定(特定)することが可能である。
吸引圧と表面粗さを対応付けたテーブルを格納した記憶手段は、本発明のインクジェット記録装置内に備えてもよいし、外部の装置(ホストコンピュータなど)に備えてもよい。
なお、発明3乃至7で特定した表面粗さ特定手段の構成は、複数組み合わせて用いることが可能である。
(発明8):発明1乃至7のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置において、前記記録媒体の表面粗さが中心線平均粗さ(Ra)で0.70[μm]よりも粗い場合、前記乾燥処理後のインク中の残水量が1[g/m2]以下となる乾燥条件に設定されることを特徴とするインクジェット記録装置。
かかる条件により、画像破壊が防止され、良好な画像定着が可能である。
(発明9):発明1乃至8のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置において、前記記録媒体として、A1グロス紙、A1アート紙、A1マット紙、A2グロス紙、A2マット紙、若しくはこれらと同等品質の紙のうち少なくとも1種の紙が用いられることを特徴とするインクジェット記録装置。
(発明10):記録媒体の表面粗さを特定する表面粗さ特定工程と、インクジェットヘッドから吐出したインクを記録媒体に付着させて前記記録媒体上に画像を形成するインクジェット画像形成工程と、前記記録媒体上に付着させたインクを乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程による乾燥処理後に前記記録媒体の前記インクの付着面に定着部材を接触させる定着工程と、前記表面粗さ特定工程で特定した表面粗さに応じて前記記録媒体上のインクの残水量を変えるように前記乾燥工程における乾燥条件を決定する乾燥条件決定工程と、を含み、前記決定した乾燥条件に基づき前記乾燥工程を実施することを特徴とするインクジェット記録方法。