しかし、近年、熱処理が行われる被処理物の種類の増加に伴って、被処理物の種類によっては上記熱処理装置では消費電力が増加するといった問題が生じる場合があった。その一例としては、以下のようなものが挙げられる。
上記熱処理装置が開発された当時の被処理物としては、例えば、大きさがW370mm×L470mmのノートパソコン用のパネルであった。これに対し、現在の被処理物としては、大きさがW2160mm×L2460mmの液晶テレビ用のカラーフィルターが挙げられる。このように被処理物が大きくなると、それに伴ってこの被処理物の表面に塗布される前記特定の溶液の量が多くなる。そのため、熱処理の際に発生する昇華物の量が増加する。また、前記カラーフィルターは、発色を良くするためにその表面に塗布される前記特定の溶液の濃度がノートパソコン用のパネルに塗布する溶液と比べ非常に濃いものを塗布されている。このように被処理物の種類によっては、熱処理の際に昇華物が多く発生する濃い溶液が塗布される場合がある。このような被処理物を熱処理する場合には、同じ大きさの被処理物であっても熱処理に伴う昇華物の発生量が多くなってしまう。
以上のような被処理物を熱処理する場合、前記断熱炉内を循環する空気に含まれる昇華物の量が非常に多くなり、上記熱処理装置での換気量では、この循環する空気に含まれる昇華物の濃度を前記一定値以下とすることが難しい場合があった。そのような場合には、上記同様、循環する空気に含まれる昇華物が再結晶化し、熱処理装置の内部に付着したり、被処理物の品質を低下させる等の問題の発生が懸念された。
上記問題を解消するために前記循環する空気の換気量を増やし、前記昇華物の濃度を一定値以下にする熱処理装置が考えられた。このような熱処理装置においては、換気のために導入される空気は、通常、熱処理を行っている熱処理部の温度よりも低く、断熱炉内を循環する空気の温度を下げてしまう。そのため、熱処理に必要な温度に熱処理部の温度を維持するのに前記循環する空気を加熱して昇温させなければならず、加温のためのヒーターによる消費電力の増加や、換気装置等の換気設備による消費電力の増加といった問題が生じた。
そこで、本発明は、上記問題点を鑑みて、消費電力の増加を抑制すると共に断熱炉内を循環する空気に含まれる昇華物の量を低減させることができる熱処理装置を提供することを課題とする。
そこで、上記課題を解消すべく、本発明に係る熱処理装置は、被処理物を熱処理する熱処理部を有し、この熱処理部を通るように内部で空気が循環する断熱炉を備え、前記断熱炉は、前記熱処理部の温度調節のために前記循環する空気を加熱する発熱部と、前記熱処理部の温度を検出する第一温度検出手段と、この第一温度検出手段によって検出された温度に基づいて前記発熱部を制御する発熱部制御手段と、前記循環する空気の一部がその内部を上流側端部から下流側端部へ向けて流通する管路と、を具備し、前記発熱部は、前記管路内に収容されることを特徴とする。
かかる構成によれば、発熱部の発熱によって熱処理部内が温度調節される。この温度調節の際、発熱部が管路内の狭い空間で発熱するため、熱が発散せずに管路内の発熱部近傍の空気が加熱されて高温となる。このため、管路内に流入した空気は、当該管路内を流通して発熱部近傍を通過する際に高温となり、この高温になった空気に含まれている昇華物が熱分解される。このように昇華物を熱分解された空気が前記管路を通過後、再度循環する空気に合流する。そのため、前記循環する空気内に含まれる昇華物の量が減少する。即ち、断熱炉内のごく一部の空間を熱が閉じ込められた空間とすることで、その狭い空間内の温度を昇華物を熱分解可能な温度に昇温できる。このため、消費電力の増加を抑制すると共に循環する空気に含まれる昇華物の量を低減できる。
しかも、前記発熱部を熱処理部の温度調節のために発熱させることで昇華物が熱分解される。そのため、別途昇華物の熱分解のためだけに前記発熱部を発熱さる必要もなく、また、熱分解用の発熱部を別途設ける必要もないことからも消費電力の増加を抑制できる。
本発明の熱処理装置において、前記管路又は発熱部の少なくとも一方に前記管路内の蓄熱効果を高める蓄熱手段が設けられる構成であってもよい。
かかる構成によれば、ヒーターの発熱量を減らしても管路内に熱が蓄熱されるため当該管路内を高温に保つことができ、熱分解される昇華物の量を減らすことなく発熱部の消費電力をより低減できる。
また、前記管路内に流入する空気量を調節可能な第一空気量調節手段が当該管路の上流側端部に設けられる構成であってもよい。
かかる構成によれば、熱処理部の温度低下が少ないために発熱部の発熱量が少ないような場合であっても、管路内に流入する空気量を少なくすることで、ヒーター近傍の空気の温度を高温に保つことができる。そのため、熱分解される昇華物の量が減少するのを抑えることができる。
また、管路内を流通する空気量を少なくすることで、発熱部は、流通する空気量が多いときよりも少ない発熱量で管路内の空気を高温にできる。そのため、出力の小さな発熱部を用いることが可能となる。
また、前記発熱部の下流側には、前記発熱部を通過した空気の温度を検出する第二温度検出手段が配置されている構成であってもよい。
かかる構成によれば、管路内を流通して発熱部を通過した後の空気の温度が昇華物を熱分解できる温度まで昇温されているか否かが分かる。そのため、管路内を流通する空気の温度管理が精度良く行われ、効率良く昇華物が熱分解される。
また、前記第一空気量調節手段を制御する空気量制御手段が設けられ、前記空気量制御手段は、前記第二温度検出手段によって検出された温度に基づいて前記管路内に流入する空気量を調節する構成であってもよい。
かかる構成によれば、検出された温度に基づき管路に流入する空気量が自動で調節されて管路内を流通する空気の温度が管理されるため、効率よく昇華物が熱分解され、また、省電力化が図られる。
また、断熱炉外から空気を導入する吸気部と、前記循環する空気の一部を断熱炉外に排出する排気部とが設けられ、これら吸気部と排気部とによって前記循環する空気の一部が換気される構成であってもよい。
かかる構成によれば、管路内で昇華物が熱分解されると共に断熱炉内を循環する空気の一部が換気されるため、より循環する空気に含まれる昇華物の量が低減される。
また、断熱炉外から吸気部を通じて熱処理部の温度よりも低い温度の空気が導入されるため、管路出口側での空気の温度が高温になり過ぎた場合でも、前記吸気部から低い温度の空気を導入することで容易に熱処理部の温度が抑制できる。
さらに、循環する空気の一部を換気することだけで循環する空気に含まれる昇華物を低減する熱処理装置と比べると、当該熱処理装置では管路内で昇華物が熱分解されるため空気の換気量を減らすことができる。そのため、循環する空気の温度低下が抑制され、熱処理部の温度を維持するために必要となる加熱のための電力が低減されると共に換気に必要な電力も低減される。
また、前記吸気部は、前記管路の下流側且つ前記第一温度検出手段の上流側に配置され、前記排気部は、前記熱処理部で被処理物を熱処理する際の当該被処理物の下流側且つ前記管路の上流側に配置される構成であってもよい。
かかる構成によれば、管路内で加熱された空気によって熱処理部に到達する空気の温度が高温になり過ぎた場合でも、管路から熱処理部までの間で効率よく温度を抑制することができると共に循環する空気に含まれる昇華物を効率よく低減することができる。
即ち、管路を通過した最も温度の高い空気に吸気部から導入される温度の低い空気を合流させることで効率よく温度の抑制が図られる。また、熱処理の際に被処理物を通過した最も昇華物の濃度の高い空気が排出されるために昇華物が効率良く断熱炉外に排出され、循環する空気に含まれる昇華物の低減が図られる。
また、前記吸気部に設けられ、導入される空気量を調節する第二空気量調節手段と、前記排気部に設けられ、排出される空気量を調節する第三空気量調節手段と、が設けられる構成であってもよい。
かかる構成によれば、吸気部から導入される断熱炉外からの空気量及び排出部から排出される断熱炉外への空気量がそれぞれより容易に調節可能となる。そのため、熱処理部における温度調節が精度良く行われる。また、換気量を調節することで循環する空気に含まれる昇華物の量の調節がより精度よく行われる。
また、前記断熱炉は、前記熱処理部と前記循環する空気の温度を調整する空気調整部とで構成され、前記空気調整部には、前記管路の下流側に前記吸気部と前記熱処理部に空気を送風することで空気を循環させる送風機とが順に配置され、前記管路からの空気と前記吸気部から導入された空気と前記循環する空気とが前記送風機によって撹拌混合されて前記熱処理部に送風される構成であってもよい。
かかる構成によれば、管路を通過した空気と、吸気部から導入された空気と、循環する空気とが撹拌混合されて熱処理部に送風されるため、熱処理部に送風される空気の温度が均一となり、熱処理部の温度分布に偏りがなくなる。
以上より、本発明によれば、消費電力の増加を抑制すると共に断熱炉内を循環する空気に含まれる昇華物の量を低減すことができる熱処理装置を提供することができるようになる。
以下、本発明の一実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
図1に示されるような熱処理装置10は、FPDの製造工程等に用いられるものであり、クリーンルーム内に設置されるいわゆるクリーンオーブンと呼ばれるものである。
この熱処理装置10は、断熱壁(炉壁)で空間が囲繞された断熱炉11を備えている。この断熱炉11は、被処理物を熱処理する熱処理部20と断熱炉11内を循環する空気の温度を調整する空気調整部30とで構成されている。これら熱処理部20と空気調整部30との境界には、断熱炉11の内部空間を仕切っている仕切り壁12が設けられている。この仕切り壁12には、熱処理部20の空気を空気調整部30に導入するための吸い込み口13と、空気調整部30の空気を後述する送風機35によって熱処理部20に吹き出すための吹き出し口14とが形成されている。
これら吸い込み口13と吹き出し口14とは、吹き出し口14から空気調整部30の空気が熱処理部20側に吹き出され、これに伴って吸い込み口13から熱処理部20の空気が空気調整部30に導入されることで、断熱炉11内に空気の循環流Cを形成することができるような位置にそれぞれ設けられる。尚、本実施形態においては、前記循環流(又は循環する空気)Cの流れを基準に上流と下流とが定められる。即ち、本実施形態において、上流側とは前記循環流Cにおける上流側をいい、下流側とは、前記循環流Cにおける下流側をいう。
熱処理部20には、ワーク(被処理物)Wを保持するためのワーク保持部21と、ワークWを出し入れするためのワーク出入用開口23と、循環する空気Cの一部を断熱炉11外に排気する排気口25と、熱処理部20の温度を検出する温度検出手段27とが設けられている。
ワーク保持部21は、上下に並ぶ多数の棚を備えたラックであって、ガラス基板等の複数の被処理物(以下、単に「ワーク」と称する。)Wを上下に並んだ状態で保持可能なものである。このワーク保持部21にワークWが保持されることにより、当該ワークWが熱処理部20内に収納・保持される。このワーク保持部21の下部には、当該ワーク保持部21を上下動させるための高さ合わせ手段22が接続されている。この高さ合わせ手段22は、ワーク保持部21を上下動して、ワークWの当該ワーク保持部21における保持される位置、即ち、出し入れしようとするワークWが保持され、又は保持されようとする棚の高さが後述のワーク出入用開口23と同じ高さ位置となるよう、その高さ位置を合わせる。
ワーク出入用開口23は、ワーク保持部21の下流側の断熱壁(図1における左側の断熱壁)に穿設された開口である。このワーク出入用開口23を形成する断熱壁の内側の開口縁部には、このワーク出入用開口23を開閉するためのシャッター24が設けられている。
尚、熱処理装置10は、ワーク保持部21が固定されてワーク出入用開口23が上下動可能に構成されてもよく、また、ワーク保持部21及びワーク出入用開口23がそれぞれ上下動可能に構成されていてもよい。即ち、ワーク保持部21とワーク出入用開口23とが高さ方向において相対移動可能に構成されることで、ワークWの当該ワーク保持部21における保持される位置とワーク出入用開口23とを同じ高さ位置とすることができる。
さらには、上下に複数のワーク出入用開口23,23,…を穿設し、ワークWの当該ワーク保持部21における保持される位置に対応する高さのワーク出入用開口23のシャッター24を開くようにしてもよく、また、上下に長いワーク出入用開口23に上下に複数のシャッター24,24,…を設け、ワークWの当該ワーク保持部21における保持される位置に対応する高さのシャッター24を開くようにしてもよい。この場合、ワーク保持部21とワーク出入用開口23とは、固定されていてもよい。
排気口(排気部)25は、循環する空気Cの一部を断熱炉11外に排気するためのもので、ワーク保持部21の下流側の断熱壁であって、ワーク出入用開口23が穿設されている部位以外の部位(図1における下側の断熱壁)に設けられている。この排気口25内には、排気する空気量(排気量)を調節するために排気口25の開口量を調節する空気量調節手段26が設けられている。この空気量調節手段26は、排気用ダンパー26であり、手動で開口量を調節して排気量を調節することができる手動ダンパーで構成されている。
温度検出手段27は、熱処理部20の温度を検出する温度センサー27で、ワーク保持部21の上流側に配置されている。具体的には、温度検出手段27は、仕切り壁12に形成された吹き出し口14から吹き出される熱風(循環する空気)Cの温度を検出する吹き出し口温度センサー27であり、吹き出し口14の直下流に配置されている。この吹き出し口温度センサー27は、後述のヒーター31の発熱部31aの制御を行うヒーター制御手段28に接続されており、検出した温度データをこのヒーター制御手段28に伝達する。
空気調整部30には、熱処理部20の温度調節のために循環空気を加熱する発熱部31aを具備するヒーター31と、このヒーター31の少なくとも発熱部31aが収容されるダクト(管路)32と、空気調整部30内の空気を熱処理部20に吹き出すことで断熱炉11内に空気の循環流Cを形成する送風機35とが設けられている。
ヒーター31は、当該ヒーター31の発熱部31aの周囲に存在する空気を加熱昇温させる加熱器であり、本実施形態においては、シーズヒーターが用いられている。このヒーター31は、ヒーター制御手段28に接続されており、このヒーター制御手段28によってオンオフ制御されている。そして、このヒーター31は、直管状のダクト32内に収容されている。尚、ヒーター制御手段28は、本実施形態においては、オンオフ制御によって制御されているが、これに限定される必要はなく、発熱部31aの出力(発熱量)が可変するような制御であってもよい。
ヒーター制御手段28は、吹き出し口温度センサー27で検出した温度に基づいてヒーター31の発熱部31aのオンオフ制御を行う。具体的には、ヒーター制御手段28は、吹き出し口温度センサー27で検出された吹き出し口14から吹き出される空気(循環する空気)Cの温度がワークWの熱処理に必要な温度か否かを判断し、ヒーター発熱部31aのオンオフ制御を行う。より詳細には、ヒーター発熱部31aの発熱時においては、発熱部31aへの通電が3秒間隔でオンオフされ、これを1サイクルとし、このサイクルが繰り返されることで、発熱部31aの発熱温度が一定に保たれるように制御される。
ダクト32は、断熱炉内の一部の空間を熱が閉じ込められるような空間とするための直管である。即ち、ダクト32は、内部に収容された発熱部31aが発熱した際、この熱が直ぐに発散せずに内部に留まるようにすることで内部を高温に保つことができる。このダクト32は、内部を高温に保ち易い素材(例えば、断熱性を有する素材)で形成されており、内部に収容する発熱部31aの大きさや発熱量等に基づいて肉厚や直径、長さ等が設定されている。ダクト32は、一方側端部を吸い込み口13側に、他方側端部を吹き出し口14側に位置するように、即ち、一方側端部が上流側に、他方側端部が下流側に位置するように、循環する空気Cの流れに沿って(図1においては、左右方向に)配設されている。このように配設することで、空気調整部30内を流れる空気(循環する空気)Cの一部がダクト32の上流側の開口から流入し、ダクト32内を流通して下流側の開口から流出し、前記空気調整部30内を流れる空気と合流する。このように配置されたダクト32には、その上流側(前記一方側)端部に、空気量調節手段33が設けられ、下流側(前記他方側)端部に、温度検出手段34が設けられている。
尚、ダクト32は、本実施形態においては直管であるが、これに限定される必要はない。即ち、内部に発熱部31aを収容でき、上流側端部から下流側端部に向けて前記循環する空気Cの一部が流通するような管状体であれば、湾曲等していてもよい。
空気量調節手段33は、ダクト32の上流側端部から流入する空気(循環する空気Cの一部)の流入量を調節するためのものである。本実施形態においては、シャッターを開閉することで開口量を変化させて流入量を調節する、いわゆるダンパーで構成された流入量調節ダンパー33である。この流入量調節ダンパー33は、手動でダクト32内に流入する空気量を調節することができる手動ダンパーであり、断熱炉11の外部から操作できるようにハンドルを有する。
温度検出手段34は、ダクト32内の温度、より詳細にはダクト32内を流通する空気であって、ヒーター31の発熱部31aが収容された部位を通過した空気の温度を検出するダクト内温度センサー34である。このダクト内温度センサー34は、表示部Mに接続されている。表示部Mは、ダクト内温度センサー34で検出した温度を表示するモニター等の表示手段である。
送風機35は、ダクト32の下流側であって吹き出し口14の上流側に設けられている。この送風機35は、ダクト32内を通った空気と、それ以外の空気調整部30内を流れる空気と、必要に応じて後述の吸気用開口38から導入される断熱炉11外からの空気とを撹拌混合し、吹き出し口14から熱処理部20へ吹き出す(送風する)ことで断熱炉11内に循環流Cを形成するものである。送風機35は、空気を送り出すためのファン36と、このファン36を回転駆動するためのモータ37とで構成されている。本実施形態においては、ファン36は、シロッコファン36が用いられている。
さらに、空気調整部30には、ダクト32の下流側であって送風機35の上流側の断熱壁に、断熱炉11の外部から空気を導入する吸気用開口(吸気部)38が穿設されている。この吸気用開口38を形成する断熱壁の外側の開口縁部には、吸気用開口38の開口量を調節するための空気量調節手段39が設けられている。この空気量調節手段39は、断熱炉11の断熱壁外面に沿ってスライド可能なスライド板39で構成されている。このスライド板39は、手動でスライドさせることで吸気用開口38の開口量を調節できる。
本実施形態に係る熱処理装置10は、以上の構成からなり、次に、この熱処理装置10の動作について説明する。
送風機35によって熱処理部20側に空気調整部30の空気が送り込まれると、熱処理部20の空気は、吸い込み口13を通じて空気調整部30に戻される。そして、空気調整部30に戻された空気は、その一部が発熱部31aによって加熱・昇温され、吹き出し口14を通じて熱処理部20側に吹き出される。この空気の循環が繰り返され、所定温度にまで加熱された空気(熱風)に、熱処理部20内に収容されたワークWが晒されることで、熱処理(焼成)が行われる。
詳細には、送風機35によって吹き出し口14から熱処理部20側に空気調整部30の空気が送り込まれる。そうすると、熱処理部20の空気は、吸い込み口13を通じて空気調整部30に戻される。このようにして、断熱炉11内に熱処理部20を通るような空気の循環流Cが形成される。
空気の循環流Cが形成された状態でダクト32の上流側端部に設けられた流入量調節ダンパー33が開かれると、循環流Cの一部がダクト32内に流入する。そして、ヒーター制御手段28によってヒーター31に通電されることでダクト32内に収容されている発熱部31aが発熱する。この発熱部31aの発熱によって、後述するようにダクト32内を流通する空気が高温に加熱され、この加熱された空気がダクト32通過後に循環流Cと合流し、送風機35のファン36によって撹拌混合されて熱処理部20に吹き出される。このように循環流Cがその一部をダクト32内で加熱されつつ断熱炉11内を循環し続けることで、循環する空気全体の温度が上昇する。その結果、熱処理部20の温度も上昇する。
このとき、吹き出し口温度センサー27は、吹き出し口14から吹き出される空気(循環する空気)の温度を検出している。この検出された温度データは、ヒーター制御手段28に送信される。ヒーター制御手段28は、この検出された温度データに基づいて、吹き出し口14から吹き出される空気の温度が熱処理に必要な熱処理温度(本実施形態においては、約220℃)となるように、ヒーター31の発熱部31aを制御する。具体的には、ヒーター制御手段28は、吹き出し口14から吹き出される空気の温度が熱処理温度よりも低ければ、ヒーター31に通電して循環する空気Cを加熱し、熱処理温度よりも高ければ、ヒーター31への通電を遮断して循環する空気Cへの加熱を停止するようにヒーター31を制御する。このように、ヒーター制御手段28は、吹き出し口温度センサー27によって検出された温度のみに基づいて、ヒーター31の発熱部31aを制御する。
このように循環する空気Cの一部が加熱されて熱処理部20の温度が熱処理温度に到達すると、ワークWが熱処理部20に搬入される。より詳細には、吹き出し口温度センサー27によって検出する吹き出し口14からの空気の温度が熱処理温度に到達すると断熱炉11内にワークWが搬入される。
このワークWを搬入するには、シャッター24が開いてワーク出入用開口23からワークWがワーク保持部21に向けて搬入される。このとき、ワーク保持部21は、搬入されるワークWを保持する棚がワーク出入用開口23と同じ高さ位置となるよう、高さ合わせ手段22によって上下動される。そして、高さが合った状態でワークWがワーク保持部21の前記棚に搬入されて保持される。これを連続又は所定時間毎に繰り返すことで、ワーク保持部21に上下に並んだ状態で複数のワークWが保持される。
ワークWは、このように熱処理部20に搬入されて所定時間循環する空気Cに晒された後、熱処理部20から搬出される。その際には、上記ワーク保持部21への搬入・保持と逆の手順で搬出される。即ち、ワーク保持部21は、搬出するワークWを保持している棚がワーク出入用開口23と同じ高さ位置となるよう、高さ合わせ手段22によって上下動される。そして、シャッター24が開いてワーク出入用開口23からワークWが搬出される。
以上のようにして、熱処理温度まで昇温された空気が循環する熱処理部20に、複数のワークWが順次搬入又は搬出され続けることで、複数のワークWの熱処理が連続して行われる。このように連続して熱処理が行われる場合、断熱炉11内にワークWが搬入・搬出される際にワーク出入用開口23から外部の空気が熱処理部20内に入ってしまうため、熱処理部20の温度が低下する。そのため、ワークWが次々に搬入・搬出されて、熱処理が連続的に行われる場合は、熱処理部20の温度を熱処理温度に保つために、発熱部31aは、発熱状態を維持される。
ワークWがワーク保持部21に保持されて熱処理温度の空気(循環する空気C)に晒されると、その表面に塗布された溶液から昇華物が発生し、この昇華物は循環する空気Cと共に断熱炉11内を循環する。
循環する空気Cに含まれた昇華物は、ダクト32内を通過することで熱分解される。具体的には、空気調整部30において、循環する空気Cの一部は、ダクト32内に流入する。このとき、発熱部31aが熱処理部20の温度を熱処理温度に維持するために発熱しているので、ダクト32内を流通する空気が加熱され高温(昇華物が熱分解される程度の温度)となる。これは発熱部31aがダクト内32のような狭い空間で発熱するために、熱が閉じ込められるからである。つまり、発生した熱がダクト32内で径方向においては閉じ込められて発散しないため、ダクト32内に熱が留まり高温となるからである。
このとき、ダクト32内のヒーター31の発熱部31aが収容された部位を通過した直後の空気の温度が熱分解温度(本実施形態においては600℃程度)となるよう、ダクト32内を流通する空気量が調節されている。即ち、流入量調節ダンパー33によって、ダクト32の上流側の開口量が調節されることで、ダクト32内に流入する空気量を調節して前記発熱部31a通過後の空気の温度が600℃程度となるように流入量調節ダンパー33の開口量が調節されている。このとき、空気の温度は、ダクト内温度センサー34によって検出され、この検出された温度がモニターMによって表示される。作業者は、この表示に基づいて流入量調節ダンパー33を操作することで容易に空気量を調節することができる。
また、この流入量調節ダンパー33を調節する際、同時に、吸気用開口38のスライド板39及び排気口25の排気用ダンパー26も調節する。そうすることで、断熱炉11内に導入される外部の空気の量と断熱炉11内を循環する空気の一部を排気する排気量とが調節される。即ち、循環する空気の一部を換気する際の換気量が調節される。上記ダクト32内で昇華物を熱分解することに加え、このように循環する空気Cの一部が換気されることで、ワークWから多くの昇華物が発生しても、循環する空気に含まれる昇華物の量を所望の量以下に低減できる。換言すると、ダクト32によって熱分解のみ行っているものに比べ、循環する空気Cに含まれる昇華物の量をより少なくすることができる。
また、前記換気によって熱処理部20の温度調節も容易となる。即ち、本実施形態においては、ダクト32内部を通過した後の空気は、約600℃となるように調節されている。これに対し、熱処理に必要な熱処理温度は、約220℃である。そのため、本実施形態においては、ダクト32で加熱された空気及び空気調整部30を流通する空気に、断熱炉11外の常温の空気を吸気用開口38から導入することで、吹き出し口14から吹き出される空気が熱処理温度となるようにスライド板39をスライドさせて吸気用開口38の開口量を調節する。このとき、熱処理部20の温度は、吹き出し口温度センサー27によって検出され、ヒーター制御手段28等に設けられた表示手段に表示される。この表示に基づいて、作業者等がスライド板39のスライドによる吸気用開口38の開口量を変化させることで調節する。また、吸気用開口38の開口量の変化に合わせて、断熱炉11内の圧力が所定の圧力となるように排気口25に設けられた排気用ダンパー26の開口量が調節される。
このように、ダクト32の流入量調節ダンパー33と、吸気用開口38のスライド板39と、排気口25の排気用ダンパー26とを用いて、ダクト内温度センサー34で検出される温度が熱分解温度、吹き出し口温度センサー27で検出される温度が熱処理温度となるように各温度センサー34,27で検出した温度を見つつ、それぞれを調節する。
次に、本実施形態に係る熱処理装置10の作用及び効果を説明する。
熱処理装置10は、ダクト32内に発熱部31aを収容している。このように発熱部31aがダクト32内の狭い空間で発熱するため、熱が発散せずに留まり、ダクト32内の発熱部31a近傍の空気が加熱されて高温となる。このため、ダクト32内に流入した空気は高温となって昇華物が熱分解される。このように昇華物を熱分解された空気がダクト32を通過後、再度循環する空気Cに合流する。即ち、断熱炉11内のごく一部の空間を熱が閉じ込められた空間とすることで、その狭い空間内を昇華物の熱分解可能な温度に昇温できる。このため、循環する空気C内に含まれる昇華物の量が減少する。その結果、消費電力の増加を抑制すると共に循環する空気に含まれる昇華物の量を低減できる。
このことは、図1に記載の熱処理装置10とこの熱処理装置10からダクト32のみを除いた熱処理装置とで比較検証したところ、以下の結果が得られたことからも裏付けられる。熱処理装置10では、ヒーター容量159kW、換気量17m3/minであるのに対し、ダクトを備えない前記熱処理装置では、ヒーター容量252kW、換気量36m3/minで、循環する空気Cに含まれる昇華物の量が同じになった。即ち、熱処理装置10においては、ダクトを備えない前記熱処理装置に比べ、換気量が1/2以下となり、消費電力も大幅に低減することができた。
また、ダクト32の上流側端部に流入量調節ダンパー33が設けられていることから、ワークWの搬入出が少なく、熱処理部20の温度低下が少ないために発熱部31aの発熱量が少ないような場合であっても、ダクト32内に流入する空気量を少なくすることで、発熱部31a近傍の空気の温度を高温に保つことができる。そのため、熱分解される昇華物の量が減少するのを抑えることができる。
尚、ワークWの熱処理部20への搬入・搬出がほとんど行われず、当該熱処理部20の温度低下が非常に少ない場合には、ヒーター31の発熱部31aは、ほとんど発熱しない。このような場合には、ダクト32内の温度が昇華物を熱分解できる温度まで昇温されないが、ワークWの出入りが少ないため、発生する昇華物も少ない。そのため、昇華物がダクト32内で熱分解されなくても循環する空気内に含まれる昇華物の量が所望の量以下となるため問題が生じない。または、循環する空気の一部を換気することだけで、上記所望の量以下とすることができる。
また、ダクト32内を流通する空気量を少なくすることで、発熱部31aは、流通する空気量が多いときよりも少ない発熱量でダクト32内の空気を高温にできる。そのため、流入量調節ダンパー33が設けられることで、出力の小さな発熱部31aを用いることが可能となる。
また、断熱炉11に吸気用開口38と排気口25とが設けられ、これら吸気用開口38と排気口25とによって循環する空気Cの一部が換気されるため、ダクト32内で昇華物が熱分解されると共に断熱炉11内を循環する空気Cの一部が換気されるため、より循環する空気Cに含まれる昇華物の量が低減される。
また、断熱炉11外から吸気用開口38を通じて常温の空気が導入されるため、管路32出口側での温度が高温になり過ぎた場合でも容易に熱処理部20の温度が抑制できる。
さらに、循環する空気Cの一部を換気することだけで循環する空気に含まれる昇華物を低減する熱処理装置と比べると、当該熱処理装置10ではダクト32内で昇華物が熱分解されるため、空気の換気量を減らすことができる。そのため、循環する空気Cの温度低下が抑制され、熱処理部20の温度を維持するために必要となる加熱のための電力が低減される。
また、吸気用開口38がダクト32の下流側且つ吹き出し口用温度センサー27の上流側に配置され、排気口25がワーク保持部21の下流側且つダクト32の上流側に配置される。そのため、ダクト32内で加熱された空気によって熱処理部20に到達する空気の温度が高温になり過ぎた場合でも、ダクト32を通過した約600℃の高温の空気に吸気用開口38から導入される常温の空気を合流させることで効率よく熱処理に必要な約220℃の温度まで下げることができる。また、排気口25から、熱処理の際にワークWを通過した最も昇華物の濃度の高い空気が断熱炉11外に排気されるために昇華物が効率良く断熱炉11外に排出され、効率良く循環する空気に含まれる昇華物の低減が図られる。
また、スライド板39を吸気用開口38に設け、排気用ダンパー26を排気口25に設けることで、断熱炉11外からの空気量及び断熱炉11外への空気量がそれぞれより容易に調節可能となる。そのため、熱処理部20における温度調節が精度良く行われる。また、換気量を調節することで循環する空気に含まれる昇華物の量の調節がより精度よく行われる。
また、吸気用開口38がダクト32の下流且つ送風機35の上流に設けられていることから、熱処理部20へ送風される空気、即ち、吹き出し口14から吹き出される空気に温度の偏りがなくなる。これは、吸気用開口38から導入される温度の低い空気と、循環する空気と、ダクト32を通過して加熱された高温の空気とが送風機35のファン36によって撹拌混合された後に熱処理部20に送風されるため、温度分布に偏りが生じないからである。
尚、本発明の熱処理装置10は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
例えば、ダクト32に断熱部材を設けて内部の熱を外に伝え難くしてもよく、発熱部31aの表面に蓄熱効果の高い部材を設けても良い。このようにすることで、ダクト32内に熱が蓄熱され、より少ない発熱量によってダクト32内を高温に保つことができる。
また、図2に示すように、ダクト内温度センサー34によって検出した温度に基づいて、ダクト32の上流側端部の空気量調節手段33aを制御するダクト部制御手段50を備えても良い。この場合、空気量調節手段33aは、ダクト部制御手段50によって自動でダンパーの開度を調節してダクト32内に流入する空気量を調節することができる自動ダンパー等で構成される。このように、ダクト32内の温度に基づいてダクト32内に流入する空気量が自動で調節されてダクト32内を流通する温度が管理されることで、効率よく昇華物の熱分解が行われる。
また、図3(a)及び(b)に示されるように、ダクト32の上流側端部に、ダンパーの代わりにダクト32外の空気を強制的に内部に吸気する吸気手段、例えば、吸気用の送風機33b、33cを設けてもよい。この場合、ダクト内温度センサー34によって検出された温度データが、送信され、この温度データに基づいて、前記送風機33bにおけるシロッコファン36a又は送風機33cにおけるプロペラファン36bの回転数を制御できるダクト用送風機制御手段50aが設けられる。このようにすることで、循環する空気Cの流速等にかかわらずダクト32内に流入する空気量の調節が容易に行え、循環する空気Cに含まれる昇華物を効率よく熱分解することができる。
尚、前記ダクト用送風機制御手段50aに代えて、ダクト内温度センサー34で検出された温度がモニター等の温度表示手段で表示され、この温度表示に基づいて作業者がモータ回転数を調節し、ダクト32内に流入する空気量を調節してもよい。
また、本実施形態においては、ダクト32は断熱炉11内に設けられているが、これに限定される必要はない。即ち、ダクト32が断熱炉11外に配置されると共に、ダクト32内と断熱炉11内とが連通するようにダクト32の上流側端部と下流側端部とが断熱炉11に接続されてもよい。
また、本実施形態においては、吸気用開口38及び排気口25から吸排気される空気の量(吸排気量)は、手動でスライド板39及び排気用ダンパー26を操作することで調節しているが、これに限定される必要もなく、自動調節するように構成してもよい。
また、ダクト内温度センサー(第二温度検出手段)34で検出した温度に基づき、吸気用開口38及び排気口25からの空気の吸排気量を調節することで、熱処理部20の温度調節及びダクト(管路)32内の両方の温度調節を行うようにしてもよい。この場合、流入量調節ダンパー(第一空気量調節手段)33は、設けられなくてもよい。