しかしながら、上記の加工方式では、放電加工用電極マスターモデルの製作から放電加工による歯形転写まで複雑で多くの加工工程を経るために能率が悪く、しかもCNC歯車研削盤とC軸制御仕様のNC放電加工機という共に高価な加工機を要して設備コストが非常に高く付き、また放電加工用電極マスターモデルには予め次の放電加工のための放電ギャップクリアランスや成形収縮率等を配慮した寸法設定が必要になる上、ハスバ歯車が樹脂部品の一部として壁面から突出するような構造では歯形切削のために前記マスターモデル自体を歯車部と他の部分とに分割構成する必要があり、これらによって設計段階でも多大な手間と時間を要し、もってギヤ駒の製作コストひいてはハスバ歯車の製品コストが高く付き、特に少量多品種生産では非常にコスト高にならざるを得なかった。
更に、樹脂製ハスバ歯車では成形後の硬化収縮が不可避であるため、成形金型の試作段階では、成形品の歯形部の精度が品質規格に合うか否かを検査し、合わなければ成形金型におけるギヤ駒の対応する逆ハスバ形状部の修正や金型自体の造り変えを行い、その改変後の成形金型による成形品を再度検査することになるが、当然に品質規格が厳しいほど修正や造り変えを何度も繰り返す場合が多くなる。しかるに、前記従来の加工方式では、放電加工用電極マスターモデルからの修正や造り変えを余儀なくされるから、その作業に多大な労力及び時間と費用を要することになる。
本発明は、上述の情況に鑑み、樹脂製ハスバ歯車の成形装置及び製造方法として、成形金型における逆ハスバ形状部について、従来のような放電加工用電極マスターモデルからの歯形転写を必要とせずに金型母材に直接に加工形成できる上、CNC歯車研削盤やC軸制御仕様のNC放電加工機のような高価な加工機を用いることなく、マシニングセンタやNCフライス等の安価な汎用機によるミーリング加工のみで形成可能にする手段を提供することを目的としている。
上記目的を達成するための手段を図面の参照符号を付して示せば、本発明の請求項1に係る樹脂製ハスバ歯車の成形装置は、樹脂製ハスバ歯車Gの射出成形金型におけるキャビティCの歯形形成周面部が周方向多数個に分割された歯形部用入れ子1…より構成されると共に、全部の歯形部用入れ子1…が取付ベース(ベース部材2,固定金型5)にねじ止めされ、各歯形部用入れ子1が少なくとも歯形1ピッチ分の逆ハスバ形状部11を備えることを特徴としている。
請求項2の発明は、上記請求項1の樹脂製ハスバ歯車の成形装置において、隣接する歯形部用入れ子1,1が逆ハスバ形状の歯底11b位置で分割されたものとしている。
請求項3の発明は、上記請求項1又は2の樹脂製ハスバ歯車の成形装置において、成形金型が外歯のハスバ歯車G用であるものとしている。
請求項4の発明は、上記請求項1〜3の何れかの樹脂製ハスバ歯車の成形装置において、各歯形部用入れ子1に脚部12が一体形成され、取付ベースに該入れ子1の脚部12を挿嵌する位置決め孔21を有してなるものとしている。
請求項5の発明は、上記請求項4の樹脂製ハスバ歯車の成形装置において、歯形部用入れ子1…が逆ハスバ形状部11を前として後部側に脚部12を備えると共に、少なくとも1個の該入れ子1Aの脚部12が後面側の切欠13によって先細に形成されてなるものとしている。
請求項6の発明は、上記請求項1〜5の何れかの樹脂製ハスバ歯車の成形装置において、取付ベースがギヤ駒K1〜K4のベース部材2であり、キャビティCの対向壁面を構成する可動金型4と固定金型5の一方に、該ギヤ駒K1〜K4の嵌合保持部50が設けられてなるものとしている。
請求項7の発明は、上記請求項1〜5の何れかの樹脂製ハスバ歯車の成形装置において、キャビティCの対向壁面を構成する可動金型4又は固定金型5を取付ベースとして、この取付ベースに全部の歯形部用入れ子1…が直接に取り付けられたものとしている。
請求項8の発明は、上記請求項1〜4,6及び7の何れかの樹脂製ハスバ歯車の成形装置において、歯形部用入れ子1の逆ハスバ形状部11を前として、取付ベースにおける少なくとも1個の入れ子1の配置部2bの後方に余剰空間部22が構成され、当該入れ子1を取付ベースに取り付ける際に、入れ子1を余剰空間部22を利用して後位からキャビティC設定位置へ前進させると共に、この前進後の余剰空間部22に該入れ子1の後退を阻止するスペーサー6を嵌着するように構成されてなるものとしている。
一方、請求項9の発明に係る樹脂製ハスバ歯車の製造方法は、上記請求項6のギヤ駒K1〜K4を備える成形金型S1のキャビティCに樹脂材料Rを充填し、この樹脂材料Rが硬化したハスバ歯車成形物Mをギヤ駒K1〜K4と一体に成形金型S1から取り出し、該ギヤ駒K1〜K4の固定下で成形物Mに離型用治具7を押接することにより、ハスバ歯車成形物Mをギヤ駒K1〜K4から離脱させることを特徴としている。
上記構成に基づく発明の効果を図面の参照符号を付して示せば、請求項1の発明に係る樹脂製ハスバ歯車の成形装置によれば、射出成形金型におけるキャビティCの歯形形成周面部が、各々少なくとも歯形1ピッチ分の逆ハスバ形状部11を備える多数個の歯形部用入れ子1…に分割構成されるから、個々の入れ子1の逆ハスバ形状部11を加工形成する際、切削工具側の動作自由度が少なくて済み、例えば当該入れ子1について対応する歯車軸心位置を小径のボールエンドミル等の切削工具の基点とし、その切刃側を入れ子1側に向けて送るミーリング加工によって逆ハスバの歯形を形成できる。しかも、分割構成した多数の歯形部用入れ子1…は同一形状でよいから、マシニングセンタにおいて、それらの複数ないし全数の原材を小ピッチで配列させておき、ミーリング加工パスによる一括加工によって同時に逆ハスバ形状部11…を加工形成することも可能となる。
従って、この射出成形金型におけるキャビティCの歯形形成周面部の製作では、従来の放電加工用電極マスターモデルからの歯形転写による放電加工に比較し、加工工程が大幅に簡略化し、加工に要する労力及び時間を著しく軽減できる上、CNC歯車研削盤やC軸制御仕様のNC放電加工機のような高価な加工機を必要とせず、マシニングセンタやNCフライス等の安価な汎用機を採用できるから、設備コストを大幅に低減できる。加えて、全部の歯形部用入れ子1…が取付ベースにねじ止めされるため、これらの取付強度を高めて成形金型としての精度を確保できると共に、これら入れ子1…の着脱交換を容易に行える。
また、樹脂製ハスバ歯車ひいては成形金型の試作段階では、成形品の歯形部の精度が品質規格に合わなかった場合に、その不適合な部分に対応する歯形部用入れ子1のみを修正したり造り変えればよいから、金型の歯形形成周面部全体の修正や造り変えを行ったり、更には放電加工用電極マスターモデルからの修正や造り変えを行う場合に比較して、労力及び時間と費用を格段に低減でき、高い歯形歯筋精度を持つハスバ歯車を成形し得る最終的な成形金型構成に早期に到達できる。更に、この成形金型では歯形部用入れ子1…の交換によってキャビティCの歯形形成部のみを簡単に変更できるから、ハスバ形状部の転位係数が異なる複数種のハスバ歯車Gを必要とする場合に、各転位係数に対応した歯形部用入れ子1…を用意するだけで、他の金型構成部を共通化することにより、最低限の費用で該複数種のハスバ歯車Gが製作可能となる。
請求項2の発明によれば、上記の成形金型における隣接する歯形部用入れ子1,1が逆ハスバ形状の歯底部11b位置で分割されることから、各入れ子1の逆ハスバ形状部11は両側に歯筋側面が臨む形になり、その逆ハスバ形状部11の加工形成において両側での切削工具の可動空間を広く確保でき、それだけ該加工形成が容易になる。
請求項3の発明によれば、成形金型は需要の多い外歯のハスバ歯車G用として利用価値が高いことに加え、歯形部用入れ子1…がキャビティCを取囲むように環状配置する形になるため、その各々の内向きになる逆ハスバ形状部11に対して外側を幅広に設定でき、この幅広の外側部を利用して取付ベースへの取付状態を安定化し易くなる。
請求項4の発明によれば、各歯形部用入れ子1はその脚部12を取付ベースの位置決め孔21に挿嵌することで自動的に位置決めされるから、成形金型の組み立てを容易に精度よく能率的に行える。
請求項5の発明によれば、隣接する歯形部用入れ子1,1同士で相互に密接すべき両側面部10e,10fがハスバの歯筋に沿う分割で傾斜していることにより、これら入れ子1…を取付ベースの位置決め孔21…に脚部12を挿嵌して順次取り付けてゆく場合の最終段階において、先に取り付けた該入れ子1,1同士の間に残る入れ子1を同様に嵌め込むことが極めて困難になるが、その残る入れ子1として脚部12が後面側の切欠13によって先細に形成された入れ子1Aを用い、該脚部12の後面側を取付ベースの位置決め孔21…の後側内面に接当させる形で当該入れ子1Aを斜めに構え、その逆ハスバ形状部11側を先に取り付けた該入れ子1,1同士の間に割り込ませ、次いで該脚部12の全体を位置決め孔21内に嵌入させることにより、当該入れ子1Aの取り付けを容易に行える。
請求項6の発明によれば、取付ベースがギヤ駒Kのベース部材2であり、キャビティCの対向壁面を構成する可動金型4と固定金型5の一方に、該ギヤ駒K1〜K4の嵌合保持部50を備えるから、ギヤ駒K1〜K4として複数種を交換使用することにより、可動金型4及び固定金型5を共通にして複数種のハスバ歯車の成形が可能となる。
請求項7の発明によれば、キャビティCの対向壁面を構成する可動金型4又は固定金型5を取付ベースとして、この取付ベースに全部の歯形部用入れ子1…が直接に取り付けられることから、成形金型の全体として部品点数が少なく構造的にも簡素になる。
請求項8の発明によれば、既述のように歯形部用入れ子1…を取付ベースに順次取り付けてゆく場合の最終段階において、先に取り付けた該入れ子1,1同士の間に残る入れ子1を嵌め込むことが極めて困難になるが、該取付ベースにおける少なくとも1個の入れ子1の配置部の後方に余剰空間部22が構成されているから、この余剰空間部22のある配置部を最終段階の入れ子1用として、当該入れ子1を余剰空間部22にかかる後位側に配置し、この後位側からキャビティC設定位置へ前進させることにより、当該入れ子1を先に取り付けた該入れ子1,1同士の間に適嵌配置できると共に、この前進後の余剰空間部22にスペーサー6を嵌着することにより、該入れ子1の後退を阻止できる。
請求項9の発明に係る樹脂製ハスバ歯車の製造方法によれば、ギヤ駒K1〜K4を備える成形金型S1のキャビティCに樹脂材料Rを充填し、この樹脂材料Rが硬化したハスバ歯車成形物Mをギヤ駒K1〜K4と一体に成形金型から取り出し、該ギヤ駒K1〜K4の固定下で成形物Mに離型用治具7を押接することにより、ハスバ歯車成形物Mをギヤ駒K1〜K4から離脱させるようにしているから、成形金型S1にはギヤ駒K1〜K4を回転させる軸受を組み込む必要がなく、それだけ成形金型S1が構造的に簡素になると共に、成形金型S1外において成形物Mが充分に冷却硬化あるいは反応硬化した状態でギヤ駒K1〜K4から離型させることになるから、離型時の応力による成形物Mの寸法変化を防止できる。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。図1〜図10は第一実施形態、図11〜図13は第二実施形態、図14は第三実施形態、図15及び図16は第四実施形態、図17〜図20は第一〜第四実施形態の成形装置による樹脂製ハスバ歯車の成形操作、図21は第五実施形態、図22は第六実施形態、をそれぞれ示す。
図1及び図2は第一実施形態の成形装置に用いるギヤ駒K1を示す。図示の如く、このギヤ駒K1は、短円筒形のベース部材2の内側に、成形すべきハスバ歯車の歯数(図示では26歯)に対応する多数個(図示は26個)の歯形部用入れ子1…が相互に内側部分で密接する状態で環状に配置し、その内周側でハスバ歯車成形用キャビティCの歯形形成周面部を構成している。
このギヤ駒K1のベース部材2は、図3及び図4に示すように、内周側に周壁部2aから段下して環状の入れ子配置部2bを有しており、この入れ子配置部2bに歯形部用入れ子1…の各々に対応した矩形の位置決め孔21…が開口すると共に、下面側に各位置決め孔21に臨んで円形のボルト頭配置孔23が形成されており、各位置決め孔21と各ボルト頭配置孔23の底部間が径小のボルト挿通孔24を介して連通している。また、周壁2aの内周は各位置決め孔21の矩形の一辺に対応した平面部25によって全体として平面視多角形(図示では26角形)に構成されている。更に、中央穴20は、後述する固定金型5のコア凸部51(図17,18参照)との嵌合のために僅かに下方へ向けて拡径するテーパー穴になっている。
各歯形部用入れ子1は、図5及び図6に示すように、前端に歯形1ピッチ分の逆ハスバ形状部11を備える横長の本体部10と、該本体部10の後端部から垂下する角柱状の脚部12とで側面視略逆L字形に構成され、脚部12には下面側に開くねじ孔14が形成されており、本体部10側を上として、後端面1aが本体部10から脚部12にわたって連続した垂直面をなしている。そして、前端の逆ハスバ形状部11は、傾斜状の1本の歯山11aを中央にして、その両側に各々1/2幅の歯底部11bが配置した形であり、ハスバの歯筋が蔓巻き線(螺旋)に沿うため、正面からの見掛けの傾きが歯山11aよりも歯底部11bで大きくなっている。
また、歯形部用入れ子1の本体部10は、同幅の後半部に対して前半部が前方へ向かって幅狭になると共に、逆ハスバ形状部11の歯筋の傾斜に対応して縦断面が平行四辺形をなすように、全体が片側(逆ハスバ形状部11側から見て右側)に傾いており、その上下面10a,10bと脚部12の底面12aとが平行して且つ垂直な後端面1aに対して直交し、また後部側の両側面10c,10dも平行している。一方、該本体部10の前部側の両側面10e,10fは、当該本体部10が前方へ向かって幅狭になる形態であることと、逆ハスバ形状部11の両側縁が歯底部11bの中央線として螺旋方向(蔓巻き線方向)に沿うことから、捩じれた3次元曲面をなしている。
しかして、各歯形部用入れ子1は、図4で示すように、その脚部12をベース部材2の位置決め孔21に挿嵌することにより、本体部10が前端の逆ハスバ形状部11を内向きにして該ベース部材2の入れ子配置部2b上に載った状態に位置決めされ、この状態で該ベース部材2の下面側からキャップボルト15をボルト挿通孔24を通して脚部12のねじ孔14に螺合緊締することにより、当該ベース部材2に固着されている。そして、該入れ子1…とベース部材2とは、この固着状態において、入れ子1の上面10aがベース部材2の周壁部2aの頂面と面一になると共に、後端面1aが該周壁部2aの内面側の平面部25に密接し、前端の逆ハスバ形状部11が該ベース部材2の中央穴20の周縁よりも内側へ突出するように寸法設定されている。なお、キャップボルト15のボルト頭部15aはボルト挿通孔24よりも径大であり、これによってボルト頭配置孔23の内底がボルト座面を構成している。
ギヤ駒K1において、ベース部材2に固着された全部の歯形部用入れ子1…は、図1及び図2に示すように、隣接する入れ子1,1同士で本体部10の前部側の捩じれた両側面10e,10fが相互に密接しており、ハスバ歯車成形用キャビティCの歯形形成周面部を当該側面10e,10fを分割面として周方向多数個に分割した形になっている。すなわち、図2及び図7に示すように、各入れ子1において、ギヤ駒K1の中心Oと逆ハスバ形状部11の上端中央を結ぶ上面センターラインP1が側面10fの下端縁方向に一致すると共に、同中心Oと逆ハスバ形状部11の下端中央を結ぶ上面センターラインP2が側面10eの上端縁方向に一致しており、側面10e,10fはセンターラインP1からセンターラインP2へ移行する捩れた三次元面内にある。
ギヤ駒K1の組立てにおいては、各歯形部用入れ子1の本体部10が縦断面平行四辺形状に傾いた形態であることから、これら入れ子1…をベース部材2に組み付ける際、脚部12を上方からベース部材2の位置決め孔21に挿入する上で、図8に示すように一周方向(反時計回り方向)に沿って順次に重ねてゆく形になる。しかるに、これら入れ子1…の組み付け順で最後になった一個は、単に上方位置から下降させる形では先に装着している両側の入れ子1,1の一方(組み付け順で最初の入れ子1)に干渉するために、脚部12を位置決め孔21に挿入できず、組み付け不能になる。
そこで、本第一実施形態においては、図9に示すように、上記の組み付け順で最後になる入れ子1Aは、他の入れ子1…とは異なって、後面側の斜めの切欠13によって脚部12を先細にした形態とする。すなわち、この入れ子1Aは、上記の組み付け順の最後において、図10の仮想線で示すように、斜めになった後端面をベース部材2の周壁部2a内面側の平面部25に沿わせる形で、前端側が下がる傾き姿勢として、その前端側を先に装着している両側の入れ子1,1の間に入り込ませ、この状態から矢印の如く斜め前方へしゃくるようにして全体を押し下げることにより、本体部10全体を両側の入れ子1,1の間に嵌入すると同時に脚部12を位置決め孔21に挿入し、もって他の入れ子1…と同様に位置決めした上でキャップボルト15を介して当該ベース部材2に固着する。
図11〜図13に示す第二実施形態の成形装置に用いるギヤ駒K2では、ベース部材2における周壁部2aの肉厚が大きく設定されると共に、該周壁部2aの周方向一カ所に、上方に開放して且つ内側が一つの位置決め孔21に連通した矩形孔からなる余剰空間部22を設けており、該ベース部材2の下面側には余剰空間部22に臨んで円形のボルト頭配置孔26が形成され、下面側に各位置決め孔21に臨んで円形のボルト頭配置孔23が形成されており、該余剰空間部22とボルト頭配置孔26の底部間が径小のボルト挿通孔27を介して連通している。そして、該ベース部材2の内側には、全部が前記第一実施形態で用いたものと同一構成である歯形形成用入れ子1…を相互に内側部分で密接する状態で環状に配置し、その内周側でハスバ歯車成形用キャビティCの歯形形成周面部を構成している。
この第二実施形態におけるギヤ駒K2のの組立てにおいては、前記第一実施形態と同様に、各歯形形成用入れ子1の脚部12を上方からベース部材2の位置決め孔21に挿入する形で、全部の入れ子1…をベース部材2の入れ子配置部2bに一周方向(反時計回り方向)に沿って順次に重ねて配置してゆくが、やはり各歯形部用入れ子1の本体部10が縦断面平行四辺形状に傾いた形態であることから、これら入れ子1…の組み付け順で最後になった一個は単に上方位置から下降させる方法では組み付け不能になる。しかるに、この第二実施形態ではベース部材2の周壁部2aの周方向一カ所に余剰空間部22を有するから、前記第一実施形態のように異なる入れ子1Aを用いる代わりに、入れ子配置部2bの該余剰空間部22に臨む位置を最後になった入れ子1の組み付け部位として、他と同一構成の入れ子1を、まず図12(A)の仮想線で示すように余剰空間部22にかかる後位側に配置し、この後位側から図12(B)の実線で示す如くキャビティC設定位置へ前進させることにより、当該入れ子1を先に取り付けた該入れ子1,1同士の間に適嵌配置できる。
しかして、上述のように組み付け順で最後になった入れ子1をキャビティC設定位置へ前進させたのち、再び空所になった余剰空間部22に角軸状のスペーサー6を嵌着することにより、当該入れ子1が後退不能に位置決めされる。また、該スペーサー6として下面側に開くねじ孔6aを備えるものを用いることにより、該ベース部材2の下面側からキャップボルト16をボルト挿通孔27を通して当該ねじ孔6aに螺合緊締することにより、図13に示すように、最後になった入れ子1と共に当該スペーサー6をベース部材2に固着できる。なお、このスペーサー6の頂面は、上記の固着状態においてベース部材2の周壁部2aの頂面と面一になるように寸法設定されている。
図14に示す第三実施形態の成形装置に用いるギヤ駒K3は、前記第一及び第二実施形態のように歯形形成用入れ子1…をベース部材2にねじ止めする代わりに、ベース部材2と、これにキャップボルト17…を介してねじ止めする円環状厚板からなる押さえ部材3との間で、歯形形成用入れ子1…を挟持するようになっている。そして、入れ子1…及びベース部材2は、前記第一及び第二実施形態で用いたものと同様の外形を有し、各入れ子1の脚部12をベース部材2の位置決め孔21に挿入して位置決めするようになっているが、当然にねじ孔やボルト挿通孔のない構造でよい。また、ベース部材2に対する組み付け順で最後になる入れ子1は、第二実施形態と同様に、ベース部材2の周壁部2aの周方向一カ所に設けた余剰空間部22を利用して、後位側からキャビティC設定位置へ前進させて組み付ける構成であるが、この入れ子1の前進で空所になった余剰空間部22に嵌着するスペーサー6としても、当然にねじ孔のないものが使用される。
このような第三実施形態のギヤ駒K3では、ベース部材2に対して歯形形成用入れ子1…及びスペーサー6を個々にねじ止めする必要がないから、当該ギヤ駒K3の組立操作を容易に且つ短時間で行える。また、これら入れ子1…やスペーサー6並びにベース部材2についても、ねじ孔やボルト挿通孔が不要であるため、構造的に簡素化して製作容易になる。
上述した第一〜第三実施形態では各歯形形成用入れ子1として前端に歯形1ピッチ分の逆ハスバ形状部11を備えるものを例示したが、本発明で用いる歯形部用入れ子は、例えば図15及び図16で示す第四実施形態の成形装置に用いるギヤ駒K4の入れ子1のように、逆ハスバ形状部11が同歯形の複数ピッチ分を備えるものでもよい。
この第四実施形態におけるギヤ駒K4は、円形の中央穴20を有する矩形のベース部材2と、その中央穴20に臨んで環状に配置した13個(図15は1個を外した状態で示している)の歯形部用入れ子1…とからなり、これら入れ子1…の内周側でハスバ歯車成形用キャビティCの歯形形成周面部を構成している。そして、各入れ子1は、本体部10の前端に歯形3ピッチ分の逆ハスバ形状部11を備えると共に、該本体部10の後端側に各角部をアールにした略角柱状の脚部12が一体形成されている。また、ベース部材2は、中央穴20に臨んで周囲より段下した環状の入れ子配置部2bが形成され、この配置部2bに各入れ子1の脚部12を挿嵌させる矩形の位置決め孔21…を有すると共に、該配置部2bの外周が各位置決め孔21の矩形の一辺に対応した平面部25によって13角形に構成されている。
更に、このギヤ駒K4にあっても、前記第一〜第三実施形態と同様に、隣接する入れ子1,1同士が本体部10の前部側の捩じれた両側面10e,10fで相互に密接すると共に、各入れ子1の後端面1aがベース部材2側の平面部25に密接し、また各入れ子1の上面10aがベース部材2の上面と面一になっている。
なお、図示を省略しているが、このギヤ駒K4における各入れ子1の固定には、前記第一及び第二実施形態と同様のねじ止め手段や、前記第三実施形態と同様のベース部材2と押さえ部材3とによる挟持手段を採用できる。また、ベース部材2に対する組み付け順で最後になる入れ子1の組み付け手段として、前記第一実施形態のように脚部12側を変形したり、前記第二及び第三実施形態のように余剰空間部22とスペーサー6を利用することが可能である。
上述した第一〜第四実施形態の成形装置に用いるギヤ駒K1〜K4では、キャビティCの歯形形成周面部が多数個の歯形部用入れ子1…に分割構成されているから、金型としての逆ハスバの歯形を形成する際に、個々の入れ子1毎に逆ハスバ形状部11を加工形成すればよい。そして、各入れ子1における逆ハスバ形状部11は、歯形の1ピッチから数ピッチ程度の狭い幅になるため、歯筋の両側面部を含む歯形面のほぼ全体を対向方向からの切削で成形でき、切削工具側の動作自由度が少なくて済む。従って、例えば当該入れ子1について対応する歯車軸心位置を小径のボールエンドミル等の切削工具の基点とし、その切刃側を入れ子1側に向けて送るミーリング加工によって逆ハスバの歯形を形成できる。なお、この切刃の送り方向でアンダーカットを生じる歯形の場合は、シャンク径よりも径大の球状歯先を持つボールエンドミルを用いたり、更には5軸制御によるミーリング加工で対応すればよい。また、これら分割構成した多数の歯形部用入れ子1…は同一形状でよいから、マシニングセンタにおいて、それらの複数ないし全数の原材を小ピッチで配列させておき、ミーリング加工パスによる一括加工によって同時に逆ハスバ形状部11…を加工形成することも可能となる。
従って、このキャビティCの歯形形成周面部の製作では、従来の放電加工用電極マスターモデルからの歯形転写による放電加工に比較し、加工工程が大幅に簡略化し、加工に要する労力及び時間を著しく軽減できる上、CNC歯車研削盤やC軸制御仕様のNC放電加工機のような高価な加工機を必要とせず、マシニングセンタやNCフライス等の安価な汎用機を採用できるから、設備コストを大幅に低減できる。
また、樹脂製ハスバ歯車ひいては成形金型の試作段階では、成形品の歯形部の精度が品質規格に合わなかった場合に、その不適合な部分に対応する歯形部用入れ子1のみを修正したり造り変えればよいから、金型の歯形形成周面部全体の修正や造り変えを行ったり、更には放電加工用電極マスターモデルからの修正や造り変えを行う場合に比較して、労力及び時間と費用を格段に低減でき、高い歯形歯筋精度を持つハスバ歯車を成形し得る最終的な成形金型構成に早期に到達できる。更に、この成形金型では歯形部用入れ子1…の交換によってキャビティCの歯形形成部のみを簡単に変更できるから、ハスバ形状部の転位係数やモジュール等の諸元が異なる複数種のハスバ歯車Gを必要とする場合に、各種類に対応した歯形部用入れ子1…を用意するだけで、他の金型構成部を共通化することにより、最低限の費用で該複数種のハスバ歯車の製作が可能となる。
なお、キャビティCの歯形形成周面部を周方向多数個の歯形形成用入れ子1…に分割構成する際、その分割位置を逆ハスバ形状におけるハスバ歯山(歯先)11a位置にすることも可能であるが、前記第一〜第四実施形態で用いる歯形形成用入れ子1のように歯底部11b位置で分割する構成にすれば、各入れ子1の逆ハスバ形状部11は両側に歯筋側面が臨む形になり、その逆ハスバ形状部11の加工形成において両側での切削工具の可動空間を広く確保でき、それだけ該加工形成が容易になる。
次に、前記のギヤ駒K1〜K4を用いた射出成形金型による樹脂製ハスバ歯車の製造方法について、図17〜図19を参照して具体的に説明する。なお、図ではギヤ駒の代表として前記第一実施形態で用いたギヤ駒K1を示している。また、この射出成形金型G1のキャビティCは、図20で示すように、外周にハスバ歯形100を設けた円筒状リム101と、中心の円筒状のボス102とがデイスク部103で一体化したハスバ歯車Gを成形対象とする構成になっている。
図17に示す射出成形金型S1は、上位に配置して昇降動作する可動金型4と、下位に配置した固定金型5と、該固定金型5のコア部5aの上面側に設けた環状凹部からなる嵌合保持部50に嵌装されるギヤ駒K1とで構成されている。そして、可動金型4のコア部4aには、その下面中央に円環状凸部41が設けられると共に、この円環状凸部41の近接位置に開くスプールゲート42が設けられている。一方、固定金型5のコア部5aには、嵌合保持部50の内側で上方へ突出した円錐台状のコア凸部51が形成され、このコア凸部51の頂面に、可動金型4側の円環状凸部41と対向する円環状凸部52と、該円環状凸部52の内側の中心位置から当該固定金型5の上端位置まで突出したボス孔用突軸部53とが設けられている。そして、固定金型5には、頂端が円環状凸部52に臨む成形物用エジェクタピン8a…と、頂端がギヤ駒K1のベース部2の下面に臨むギヤ駒用エジェクタピン8b…とが上下方向に挿通配置している。
しかして、ギヤ駒K1を固定金型5の嵌合保持部50に嵌装した状態では、図18(A)に示すように、ギヤ駒K1側の中央穴20に固定金型5側のコア凸部51が適嵌し、当該ギヤ駒K1の上面と固定金型5の上端面とが面一になると共に、ギヤ駒K1の歯形形成用入れ子1…に包囲されたキャビティC用空間に、コア凸部51の頂面の円環状凸部52とボス孔用突軸部53が入り込んでキャビティCの下端面を構成する。また、可動金型4を下降させて固定金型5に接合した際、該可動金型4側の円環状凸部41もキャビティC用空間に入り込んでキャビティCの上端面を構成する。すなわち、ギヤ駒K1の環状配置した歯形形成用入れ子1…の内側がハスバ歯車Gのハスバ歯形100を有する円筒状リム101、ボス孔用突軸部53の周囲がボス102、両金型4,5の円環状凸部41,52間がデイスク部103、のそれぞれの形成部となる。
ハスバ歯車Gの成形は、図18(A)に示すように、可動金型4を固定金型5に接合させた状態で、溶融したポリアセタール等の樹脂材料Rをスプールゲート42を通してキャビティC内に注入充填し、該樹脂材料Rを硬化させればよい。そして、このキャビティC内の樹脂材料Rが硬化すれば、可動金型4の上昇によって両金型4,5をパーティング面で分離した上で、図18(B)に示すように、成形物用エジェクタピン8a…及びギヤ駒用エジェクタピン8b…を同時に上方へ突き出すことにより、ハスバ歯車成形物Mをギヤ駒K1と一体に持ち上げて固定金型5から取り出す。
次に、図19に示すように、環状の離型枠71上に成形物Mを保持したギヤ駒K1を位置決め載置し、このギヤ駒K1上に貫通孔72a付きのを載せ、該押さえ板72の貫通孔72aが成形物Mに臨む状態で、当該貫通孔72aに上方から丸軸状の離型用治具7を挿入して下方へ突き出させる。これにより、ギヤ駒K1の内側に保持されていた成形物Mは、ハスバ歯形の捩れた歯筋の誘導で回転を伴ってギヤ駒K1から離脱し、離型枠71の内側空間71aに落ち込むことになる。なお、離型枠71の上面側と押さえ板72の下面側には、ギヤ駒K1の位置決めを容易にするための凹面部71b、72bが設けてある。また、離型用治具7の上端にはフランジ状のストッパー7aが設けてあり、図示仮想線で示すように、該ストッパー7aが押さえ板72の貫通孔72aの周縁に係嵌することにより、離型用治具7がより以上に落ち込むのを防止するようになっている。
しかして、このように樹脂材料Rが硬化したハスバ歯車成形物Mをギヤ駒K1と一体に成形金型S1から取り出し、外部で離型用治具7を押接して成形物Mを離型させる方式では、成形金型Gにはギヤ駒K1を回転させる軸受を組み込む必要がなく、それだけ成形金型G1が構造的に簡素になると共に、成形物Mが充分に冷却硬化あるいは反応硬化した状態でギヤ駒K1から離型させることになるから、離型時の応力による成形物Mの寸法変化も防止される。
なお、前記の第一〜第四実施形態の成形装置では、キャビティCの歯形形成周面部を分割構成する歯形部用入れ子1…の取付ベースをギヤ駒K1〜K4のベース部材2に設定しているが、ギヤ駒を用いない金型構成では、例えば図21及び図22で示す第五及び第六実施形態の射出成形金型S2,S3のように、キャビティCの対向壁面を構成する可動金型4又は固定金型5を取付ベースとして歯形部用入れ子1…を直接に取り付けるようにすればよい。
図21で示す第五実施形態の成形装置に用いる射出成形金型S2は、上位の可動金型4と下位の固定金型5とで構成され、両金型4,5の中央部間にハスバ歯車G用のキャビティCを形成し、このキャビティCに可動金型4側のコア部4aのスプールゲート42を通して樹脂材料を充填するようになっている。そして、このキャビティCの歯形形成周面部は前記第一及び第二実施形態におけるものと同様の周方向多数個の歯形部用入れ子1…にて構成されているが、これら入れ子1…は、固定金型5のコア部5aの上面に凹設した入れ子配置部52に嵌合配置されると共に、該コア部5aの下面側から挿通したキャップボルト18によって当該固定金型5にねじ止め固着されている。また、固定金型5のコア部5aには頂端がキャビティCに臨む成形物用エジェクタピン8a…が上下方向に挿通配置している。6はスペーサーであり、前記の第二実施形態における最後の入れ子の組み付け方式と同様にして余剰空間部22に挿嵌され、キャップボルト19を介して固定金型5にねじ止めされている。
この射出成形金型S2によれば、キャビティC内に充填された樹脂材料の硬化後、可動金型4を上昇させて型開きし、成形物用エジェクタピン8a…を突き出すことにより、ハスバ歯車成形物Mがハスバ歯形の捩れた歯筋の誘導による回転を伴って固定金型5から離脱する。
図22で示す第六実施形態の成形装置に用いる射出成形金型S3は、前記第五実施形態における成形金型S2と同様に、可動金型4と固定金型5の中央部間にハスバ歯車G用のキャビティCが形成され、該キャビティCの歯形形成周面部を構成する周方向多数個の歯形部用入れ子1…が固定金型5側の入れ子配置部52に嵌合配置されている。しかるに、これら入れ子1…は前記第五実施形態のように固定金型5にねじ止めされず、代わりに固定金型5には各入れ子1に対応した入れ子用エジェクタピン8c…が挿通配置している。また、スペーサー6についても同様にねじ止めする代わりにスペーサー用エジェクタピン8dを配置している。
この射出成形金型S3によれば、キャビティC内に充填された樹脂材料の硬化後、可動金型4を上昇させて型開きし、成形物用エジェクタピン8a…、入れ子用エジェクタピン8c…、スペーサー用エジェクタピン8dを同時に突き出すことにより、スペーサー6は分離するが、ハスバ歯車成形物Mは周囲に歯形部用入れ子1…を付着した状態で取り出されるから、その取り出し後に成形物Mから各入れ子1を放射方向に引き離す。そして、引き離した入れ子1…及びスペーサー6を再び固定金型5に装着し、次の成形に備えることになる。
なお、例示した各実施形態では歯形形成用入れ子1…の取付ベースへの組み付け順で最後になる1個について、その組み付けを可能にするために、脚部12を先細にしたり、余剰空間部22を設けたりしているが、本発明においては、組み付け順の最後の1個に限らず、複数個の入れ子1…に対しても同様の組み付け手段を講じるようにしてもよい。また余剰空間部22を設ける方式では、入れ子配置部2bの全周にわたって余剰空間部22を設け、全部の入れ子1…を後位から前進させる形で密接させたのち、残る環状の余剰空間部22にリング状のスペーサーを嵌め込むようにしてもよい。
更に、歯形形成用入れ子1…を取付ベースに対して一周方向にそって順次に組み付けてゆく代わりに、適当な治具を利用して全部の入れ子1…を予め環状に組んでおき、この環状配置形態のままで一挙に取付ベースに装着することも可能である。
なお、本発明の成形装置野呼び成形方法で成形対象とするハスバ歯車は、図20で例示したような単体としての歯車形態に限らず、ハスバ歯車が種々の機能部と一体化した様々な樹脂部品を包含すると共に、実用面より歯数が14以上であるものが望ましい。従ってて、本発明においてキャビティCの歯形形成周面部を分割構成する歯形部用入れ子の数(分割数)は14個以上とするのがよく、また歯形形成周面部を一周360度として、該入れ子1個が受け持つ角度幅は26度(≒360度/14)以下が望ましい。