JP4970641B2 - 光電変換素子およびこれを用いた光電池 - Google Patents

光電変換素子およびこれを用いた光電池 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は色素で増感された半導体微粒子を用いた光電変換素子に関し、特に高い開放電圧を有する光電変換素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
太陽光発電は単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池、テルル化カドミウムやセレン化インジウム銅等の化合物太陽電池が実用化もしくは主な研究開発の対象となっているが、普及させる上で製造コスト、原材料確保、エネルギーペイバックタイムが長い等の問題点を克服する必要がある。一方、大面積化や低価格化を指向した有機材料を用いた太陽電池もこれまでにも多く提案されているが、変換効率が低く、耐久性も悪いという問題があった。
【0003】
こうした状況の中で、Nature(第353巻、第737〜740頁、1991年)および米国特許4927721号、WO94/04497号等に、色素によって増感された半導体微粒子を用いた光電変換素子および太陽電池、ならびにこれを作成するための材料および製造技術が開示された。提案された電池は、ルテニウム錯体によって分光増感された二酸化チタン多孔質薄膜を作用電極とする湿式太陽電池である。この方式の第一の利点は二酸化チタン等の安価な酸化物半導体を高純度に精製することなく用いることができるため、安価な光電変換素子を提供できる点であり、第二の利点は用いられる色素の吸収がブロードなため、可視光線のほぼ全ての波長領域の光を電気に変換できることである。
【0004】
このような太陽電池において得られる開放電圧は理論的には酸化物半導体の伝導電子帯と用いられる電解質のレドックス準位で規定され、例えば酸化物半導体として酸化チタンを、電解質としてI-/I3 -を用いた場合、約1.1V以上である。しかしこのような高い開放電圧は報告されておらず、変換効率向上のためには、開放電圧の改良が望まれていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、より高い開放電圧を有する色素増感光電変換素子およびこれを用いた光電池を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、従来の導電性支持体、色素を吸着させた半導体微粒子層、電荷移動層および対極からなる光電変換素子において、窒素カチオンを含有する基を有する金属錯体色素を用いて色素増感することにより、開放電圧をより高めることができることを見出し、本発明に想到した。
【0007】
すなわち、本発明の光電変換素子は、半導体微粒子層の増感色素として、窒素カチオンを含有する基を有する金属錯体色素を用いたことを特徴とする。
【0008】
また、もう1つの本発明である光電池は、本発明の光電変換素子を用いたものである。
【0009】
本発明は下記条件を満たすことにより、一層優れた光電変換効率を有する光電変換素子及び光電池が得られる。
【0010】
(1)前記窒素カチオンを含有する基を有する金属錯体色素が、下記一般式(I):
M(La)m1(Lb)m2(X)m3・CI ・・・(I)
(ただし、Mは金属原子を表し、
Laは下記一般式(II):
【化4】
(ただし、Z1〜Z3は窒素カチオンを含有する基を表す。L1〜L3は連結基である。R1〜R3はそれぞれ独立にアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アミノ基、アルコキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、珪酸基を表す。a1〜a3は0又は1であり、a1〜a3の合計は1〜3である。n1〜n3は0〜4の整数であり、n1〜n3が2以上のときR1〜R3は同じでも異なってもよく、R1同士、R2同士、R3同士で互いに連結していても良い。l1は、0又は1であり、l1が0の場合、L2およびR2の置換位置は該ピリジン環の窒素に隣接する炭素上でもあり得る。)
により表される2座または3座の配位子であり、
Lbは下記一般式(III):
【化5】
(ただし、Za、Zb、Zcはそれぞれ独立に5または6員環を形成しうる非金属原子群を表し、l2は0または1を表す。)
により表される2座または3座の配位子であり、
Xは1座または2座配位子を表し、
CIは電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表し、
m1は1〜3の整数、m2は0〜2の整数、m3は0〜4の整数である。)により表されることが好ましい。
【0011】
(2)前記一般式(II) で表される配位子中のZ1〜Z3が、下記一般式(IV-1)〜(IV-3):
【化6】
(ただし、R4〜R11はそれぞれ独立に水素、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アミノ基、アルコキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、珪酸基を表す。ただし、R4およびR6のいずれか1つ、R5およびR7のいずれか1つ、ならびにR8〜R11のいずれか1つは、L1〜L3と連結するための2価基(単結合)となる。n4は1〜5の整数、n5は1〜3の整数で、n4、n5が2以上のときR4、R5は同じでも異なってもよく、R4同士、R5同士で連結していても良い。Eは酸素、硫黄または−NR12−を表し、R12は置換基である。)のいずれかにより表されることが好ましい。
【0012】
(3)前記一般式(II) で表される配位子中のL1〜L3が、炭素数1〜10のアルキレン鎖であることが好ましい。
【0013】
(4)前記一般式(II) で表される配位子中のR1〜R3のいずれか1つは、カルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸基または珪酸基であることが好ましい。
【0014】
(5)前記一般式(IV-1)〜(IV-3)におけるR4およびR6のいずれか1つ、R5およびR7のいずれか1つ、ならびにR8〜R11のいずれか1つは、カルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸基または珪酸基であることが好ましい。
【0015】
(6)前記一般式(I)におけるMがRuであることが好ましい。
【0016】
(7)前記一般式(I)におけるXがNCSであることが好ましい。
【0017】
(8)前記一般式(I)におけるm1が2、m2が0、m3が2であることが好ましい。
【0018】
【発明の実施の形態】
【0019】
[1] 金属錯体色素
本発明の光電変換素子に使用する金属錯体色素は、窒素カチオンを含有する基を有することを特徴とする。特に、金属錯体色素は、下記一般式(I)で表される化合物であることが好ましい。
M(La)m1(Lb)m2(X)m3・CI ・・・(I)
【0020】
以下に一般式(I)で表される本発明の金属錯体色素について詳しく説明する。なお、本発明の化合物がアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキレン基等を含む時、それらは直鎖状でも分岐鎖状でも良く、置換していても無置換でも良い。また、本発明の化合物がアリール基、ヘテロ環基、シクロアルキル基等を含む時、それらは置換していても無置換でも良く、単環でも縮環していても良い。
【0021】
(A) 金属原子M
Mは金属を表す。Mは好ましくは4配位または6配位が可能な金属を表し、好ましくはRu、Fe、Os、Cu、W、Cr、Mo、Ni、Pd、Pt、Co、Ir、Rh、Re、MnまたはZnであり、より好ましくはRu、Fe、OsまたはCuであり、さらに好ましくはRuである。
【0022】
(B)配位子 La
Laは、窒素カチオンを含有する2座または3座の配位子である。配位子Laの数を表すm1は、1〜3の整数であり、好ましくは2である。m1が2以上のとき、Laは同じでも異なっていてもよい。
【0023】
配位子Laは、下記一般式(II)により表される。
【0024】
【化7】
【0025】
一般式(II)中、R1〜R3はそれぞれ独立にアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アミノ基、アルコキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、珪酸基を表す。好ましくはアルキル基、アミノ基、アルコキシ基であり、もっとも好ましくはアルキル基である。また、R1〜R3のいずれか1つは、カルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸基または珪酸基であることが好ましい。
【0026】
一般式(II)中、Z1〜Z3は窒素カチオンを含有する基を表す。Z1〜Z3として例えばイミダゾリウム、ピリジニウム、四級アンモニウム、チアゾリウム、オキサゾリウム、キノリニウム、ベンゾイミダゾリウム、ベンゾチアゾリウム、ベンゾオキサゾリウムなどが挙げられるが、好ましくは一般式(IV-1)〜(IV-3) :
【化8】
により表される基である。
【0027】
一般式(IV-1)〜(IV-3)中、R4〜R11はそれぞれ独立に水素、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アミノ基、アルコキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、珪酸基を表し、好ましくはカルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、珪酸基であり、もっとも好ましくはカルボン酸基である。ただし、R4およびR6のいずれか1つ、R5およびR7のいずれか1つ、ならびにR8〜R11のいずれか1つは、L1〜L3と連結するための2価基(単結合)となる。
【0028】
n4は1〜5の整数、n5は1〜3の整数で、n4、n5が2以上のときR4、R5は同じでも異なってもよく、R4同士、R5同士で連結していても良い。
【0029】
一般式(IV-2)において、Eは酸素、硫黄または−NR12−を表し、R12は置換基である。置換基R12としては、R4〜R11で例示したものと同じでよい。Eとして最も好ましくは−NR12−である。
【0030】
一般式(II)中、L1〜L3は連結基である。L1〜L3の主鎖部分を形成するものとしてはアルキル基でもアリール基でも良く、L1〜L3とZ1〜Z3、L1〜L3とピリジン環との結合を形成する部分としては単結合、アミド結合、エステル結合、エーテル結合など挙げられるが、好ましくは単結合である。
【0031】
l1は、0又は1である。l1が0の場合2座配位子を、l1が1の場合3座配位子を表す。l1が0の場合、L2およびR2の置換位置は該ピリジン環の窒素に隣接する炭素上でもあり得る。
【0032】
a1〜a3は、0又は1である。1〜a3の合計は1〜3であり、好ましくは1又は2である。
【0033】
n1〜n3は、0〜4の整数であり、n1〜n3が2以上のときR1〜R3は同じでも異なってもよく、R1同士、R2同士、R3同士で互いに連結していても良い。
【0034】
配位子Laの具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
【化9】
【0036】
(C)配位子 Lb
一般式(I)中、Lbは2座または3座の配位子である。配位子Lbの数を表すm2は、0〜2の整数であり、好ましくは0または1、より好ましくは0である。m2が2のときLbは同じでも異なっていてもよい。
【0037】
配位子Lbは下記一般式(III):
【化10】
により表される。
【0038】
一般式(III)中、Za、Zb及びZcはそれぞれ独立に5または6員環を形成しうる非金属原子群を表し、炭素、水素、窒素、酸素、硫黄、リン、ハロゲン原子で構成されることが好ましく、芳香族環を形成することが好ましい。その際、5員環ならばイミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、トリアゾール環を形成することが好ましく、6員環ならばピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環等を形成することが好ましく、さらに好ましくはピリジン環、イミダゾール環を形成し、最も好ましくはピリジン環を形成する。
【0039】
配位子Lbを構成する各々の5または6員環は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えばカルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基(好ましくは炭素原子数1〜20、例えば―CONHOH、―CONCH3OH等)、ホスホリル基(例えば―OP(O)(OH)2等)、ホスホニル基(例えば―P(O)(OH)2等)、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、アシル基、スルホンアミド基、アシルオキシ基、カルバモイル基、アシルアミノ基、シアノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0040】
l2は0または1であり、l2が0の場合2座配位子を、l2が1の場合3座配位子を表す。好ましくはl1が0である。
【0041】
配位子Lbの具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
【化11】
【0043】
(D)配位子 X
一般式(I)中、Xは1座または2座配位子を表す。配位子Xの数を表すm3は0〜4の整数であり、m3が2以上の時、Xは同じでも異なってもよく、X同士連結していても良い。
【0044】
配位子Xは、アシルオキシ基(好ましくは炭素原子数(以下C数という)1〜20、例えばアセチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、オキザリレン基(−OC(O)C(O)O−) 等)、
アシルチオ基(好ましくはC数1〜20、例えばアセチルチオ、ベンゾイルチオ基等)、
アシルアミノオキシ基(好ましくはC数1〜20、例えば、N-メチルベンゾイルアミノオキシ基(PhC(O)N(CH3)O−)、アセチルアミノオキシ基(CH3C(O)NHO-)等)、
チオアシルオキシ基(好ましくはC数1〜20、例えば、チオアセチルオキシ基(CH3C(S)O−)等)、
チオアシルチオ基(好ましくはC数1〜20、例えば、チオアセチルチオ基(CH3C(S)S−)、チオベンゾイルチオ(PhC(S)CS−)等)、
チオカルボネート基(好ましくはC数1〜20、例えばエチルトリチオカルボネート基(C2H5SC(S)S−)、フェニルトリチオカルボネート基(PhSC(S)S−)等)、
ジチオカルボネート基(好ましくはC数1〜20、例えばエチルジチオカルボネート基(C2H5OC(S)S−)等)、
トリチオカルボネート基(好ましくはC数1〜20、例えばエチルトリチオカルボネート基(C2H5SC(S)S−)等)、
アルキルチオ基(好ましくはC数1〜20、例えばメタンチオ基、エチレンジチオ基等)、
アリールチオ基(好ましくはC数6〜20、例えばベンゼンチオ基、1,2-フェニレンジチオ基等)、
アルコキシ基(好ましくはC数1〜20、例えばメトキシ基、エチレンジオキシ基等)、
アリールオキシ基(好ましくはC数6〜20、例えばフェノキシ基、1,2-ベンゼンジオキシ基等)からなる群から選ばれた基で配位する1座または2座の配位子、あるいは
β-ジケトナート(好ましくはC数3〜20、例えばCH3C(O…)CH=C(O-)CH3等)、(…は配位結合を表す)、
β-ジチオケトナート(好ましくはC数3〜20、例えばCH3C(S…)CH=C(S-)CH3等)、
β-ケトチオナート(好ましくはC数3〜20、例えばCH3C(O…)CH=C(S-)CH3等)、
β-チオケトナート(好ましくはC数3〜20、例えばCH3C(S…)CH=C(O-)CH3等)、
ジアルキルケトン(好ましくはC数3〜20、例えばジメチルケトン((CH3)2CO…等)、
カルボンアミド(好ましくはC数1〜20)、
チオカルボンアミド(好ましくはC数1〜20)、
チオウレア(好ましくはC数1〜20)、
イソチオウレア(好ましくはC数1〜20)、
ハロゲン(好ましくは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、
水、イソシアナート、シアナート、イソチオシアナート、チオシアナートなどが挙げられるが、好ましくはハロゲン、イソシアナート、シアナート、イソチオシアナート、チオシアナートであり、もっとも好ましくはイソチオシアナートである。
【0045】
(E)対イオン Cl
一般式(I)にてCl は電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。ある色素が陽イオン、陰イオンであるか、あるいは正味のイオン電荷を持つかどうかは、その金属、配位子、及び置換基に依存する。置換基が解離性基を有する場合、解離して負電荷を持っても良く、この場合にも分子全体の電荷はCIによって中和される。
【0046】
典型的な陽イオンは無機または有機のアンモニウムイオン(例えばテトラアルキルアンモニウムイオン、ピリジニウムイオン)およびアルカリ金属イオンであり、一方、陰イオンは具体的に無機陰イオンあるいは有機陰イオンのいずれであってもよく、例えば、ハロゲン陰イオン(例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン)、置換アリールスルホン酸イオン(例えば、p-トルエンスルホン酸イオン、p-クロロベンゼンスルホン酸イオン)、アリールジスルホン酸イオン(例えば、1,3-ベンゼンジスルホン酸イオン、1,5-ナフタレンジスルホン酸イオン、2,6-ナフタレンジスルホン酸イオン)、アルキル硫酸イオン(例えば、メチル硫酸イオン)、硫酸イオン、チオシアン酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、ピクリン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオンが挙げられる。
【0047】
さらに電荷均衡対イオンとしてイオン性ポリマーあるいは、色素と逆電荷を有する他の色素を用いてもよいし、金属錯イオン(例えば、ビスベンゼン-1,2-ジチオラトニッケル(III) )も可能である
【0048】
(F)結合基
一般式(I)により表される金属錯体色素は、半導体微粒子の表面に対する適当な結合基(interlocking group)を少なくとも1つ以上有するのが好ましく、1〜6個有するのがより好ましく、1〜4個有するのが特に好ましい。好ましい結合基はカルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基(例えば―CONHOH等)、ホスホリル基(例えば―OP(O)(OH)2等)、ホスホニル基(例えば―P(O)(OH)2等)等の酸性基(解離性のプロトンを有する置換基)である。
【0049】
(G)金属錯体色素の具体例
以下に一般式(I)で表される金属錯体色素の具体例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0050】
【化12】
【0051】
本発明に用いられる一般式(I)で表される化合物の合成は、Inorganic Chemistry, 37, 5251, (1998)等の文献中に引用された方法を参考にして行える。
【0052】
本発明の錯体色素と公知の色素、例えばルテニウム錯体色素、フタロシアニン系色素、有機色素(メチン色素など)等を併用して用いてもよい。
【0053】
[2] 光電変換素子
本発明の光電変換素子は、少なくとも導電層、色素を吸着させた半導体微粒子層、電荷移動層および対極を有し、好ましくは図1に示すように、導電層10、下塗り層60、感光層20、電荷移動層30、対極導電層40の順に積層し、前記感光層20を前述の金属錯体色素22によって増感された半導体微粒子21と当該半導体微粒子21の間の空隙に浸透した電荷輸送材料23とから構成する。電荷輸送材料23は、電荷移動層30に用いる材料と同じ成分からなる。光電変換素子に強度を付与するため、導電層10および/または対極導電層40の下地として基板50を設けてもよい。以下本発明では、導電層10および任意で設ける基板50からなる層を「導電性支持体」、対極導電層40および任意で設ける基板50からなる層を「対極」と呼ぶ。
【0054】
この光電変換素子を外部負荷に接続して電気的仕事をさせる目的(発電)で作られたものが光電池であり、光学的情報のセンシングを目的に作られたものが光センサーである。なお、図1中の導電層10、対極導電層40、基板50は、それぞれ透明導電層10a、透明対極導電層40a、透明基板50aであっても良い。
【0055】
図1に示す本発明の光電変換素子において、色素22により増感された半導体微粒子21を含む感光層20に入射した光は色素22等を励起し、励起された色素22等中の高エネルギーの電子が半導体微粒子21の伝導帯に渡され、さらに拡散により導電層10に到達する。このとき色素22等の分子は酸化体となっている。光電池においては、導電層10中の電子が外部回路で仕事をしながら対極導電層40および電荷移動層30を経て色素22等の酸化体に戻り、色素22が再生する。感光層20は負極として働く。それぞれの層の境界(例えば導電層10と感光層20との境界、感光層20と電荷移動層30との境界、電荷移動層30と対極導電層40との境界等)では、各層の構成成分同士が相互に拡散混合していてもよい。
【0056】
以下、光電変換素子を構成する各層について詳細に説明する。
【0057】
(A)感光層
感光層において、半導体はいわゆる感光体として作用し、光を吸収して電荷分離を行い、電子と正孔を生ずる。色素増感された半導体微粒子では、光吸収およびこれによる電子および正孔の発生は主として色素において起こり、半導体微粒子はこの電子を受け取り、伝達する役割を担う。本発明で用いる半導体は光励起下で伝導体電子がキャリアーとなり、アノード電流を与えるn型半導体であることが好ましい。
【0058】
(1)半導体微粒子
半導体微粒子としては、シリコン、ゲルマニウムのような単体半導体、III-V系化合物半導体、金属のカルコゲニド(例えば酸化物、硫化物、セレン化物等)、またはペロブスカイト構造を有する化合物(例えばチタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム等)等を使用することができる。
【0059】
好ましい金属のカルコゲニドとして、チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、またはタンタルの酸化物、カドミウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモンまたはビスマスの硫化物、カドミウムまたは鉛のセレン化物、カドミウムのテルル化物等が挙げられる。他の化合物半導体としては亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウム等のリン化物、ガリウム−ヒ素または銅−インジウムのセレン化物、銅−インジウムの硫化物等が挙げられる。
【0060】
本発明に用いる半導体の好ましい具体例は、Si、TiO2、SnO2、Fe2O3、WO3、ZnO、Nb2O5、CdS、ZnS、PbS、Bi2S3、CdSe、CdTe、GaP、InP、GaAs、CuInS2、CuInSe2等であり、より好ましくはTiO2、ZnO、SnO2、Fe2O3、WO3、Nb2O5、CdS、PbS、CdSe、InP、GaAs、CuInS2またはCuInSe2であり、特に好ましくはTiO2またはNb2O5であり、最も好ましくはTiO2である。
【0061】
本発明に用いる半導体は単結晶でも多結晶でもよい。変換効率の観点からは単結晶が好ましいが、製造コスト、原材料確保、エネルギーペイバックタイム等の観点からは多結晶が好ましく、半導体微粒子からなる多孔質膜が特に好ましい。
【0062】
半導体微粒子の粒径は一般にnm〜μmのオーダーであるが、投影面積を円に換算したときの直径から求めた一次粒子の平均粒径は5〜200nmであるのが好ましく、8〜100nmがより好ましい。また分散液中の半導体微粒子(二次粒子)の平均粒径は0.01〜10μmが好ましい。
【0063】
粒径分布の異なる2種類以上の微粒子を混合してもよく、この場合小さい粒子の平均サイズは5nm以下であるのが好ましい。入射光を散乱させて光捕獲率を向上させる目的で、粒径の大きな、例えば300nm程度の半導体粒子を混合してもよい。
【0064】
半導体微粒子の作製法としては、作花済夫の「ゾル−ゲル法の科学」アグネ承風社(1998年)、技術情報協会の「ゾル−ゲル法による薄膜コーティング技術」(1995年)等に記載のゾル−ゲル法、杉本忠夫の「新合成法ゲル−ゾル法による単分散粒子の合成とサイズ形態制御」、まてりあ,第35巻,第9号,1012〜1018頁(1996年)に記載のゲル−ゾル法が好ましい。またDegussa社が開発した塩化物を酸水素塩中で高温加水分解により酸化物を作製する方法も好ましい。
【0065】
半導体微粒子が酸化チタンの場合、上記ゾル−ゲル法、ゲル−ゾル法、塩化物の酸水素塩中での高温加水分解法はいずれも好ましいが、さらに清野学の「酸化チタン 物性と応用技術」技報堂出版(1997年)に記載の硫酸法および塩素法を用いることもできる。さらにゾル−ゲル法として、バーブらのジャーナル・オブ・アメリカン・セラミック・ソサエティー,第80巻,第12号,3157〜3171頁(1997年)に記載の方法や、バーンサイドらのケミストリー・オブ・マテリアルズ,第10巻,第9号,2419〜2425頁に記載の方法も好ましい。
【0066】
(2)半導体微粒子層の形成
半導体微粒子を導電性支持体上に塗布するには、半導体微粒子の分散液又はコロイド溶液を導電性支持体上に塗布する方法の他に、前述のゾル−ゲル法等を使用することもできる。光電変換素子の量産化、半導体微粒子液の物性、導電性支持体の融通性等を考慮した場合、湿式の製膜方法が比較的有利である。湿式の製膜方法としては塗布法及び印刷法が代表的である。
【0067】
半導体微粒子の分散液を作製する方法としては、前述のゾル−ゲル法の他に、乳鉢ですり潰す方法、ミルを使って粉砕しながら分散する方法、半導体を合成する際に溶媒中で微粒子として析出させそのまま使用する方法等が挙げられる。
【0068】
分散媒としては、水又は各種の有機溶媒(例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジクロロメタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル等)が使用可能である。分散の際、必要に応じてポリマー、界面活性剤、酸、キレート剤等を分散助剤として用いてもよい。
【0069】
塗布方法としては、アプリケーション系としてローラ法、ディップ法等、メータリング系としてエアーナイフ法、ブレード法等、またアプリケーションとメータリングを同一部分にできるものとして、特公昭58-4589号に開示されているワイヤーバー法、米国特許2681294号、同2761419号、同2761791号等に記載のスライドホッパー法、エクストルージョン法、カーテン法等が好ましい。また汎用機としてスピン法やスプレー法も好ましい。湿式印刷方法としては、凸版、オフセット及びグラビアの3大印刷法をはじめ、凹版、ゴム版、スクリン印刷等が好ましい。これらの中から、液粘度やウェット厚さに応じて、好ましい製膜方法を選択する。
【0070】
半導体微粒子の分散液の粘度は半導体微粒子の種類や分散性、使用溶媒種、界面活性剤やバインダー等の添加剤により大きく左右される。高粘度液(例えば0.01〜500Poise)ではエクストルージョン法、キャスト法、スクリン印刷法等が好ましい。また低粘度液(例えば0.1Poise以下)ではスライドホッパー法、ワイヤーバー法又はスピン法が好ましく、均一な膜にすることが可能である。なおある程度の塗布量があれば低粘度液の場合でもエクストルージョン法による塗布は可能である。このように塗布液の粘度、塗布量、支持体、塗布速度等に応じて適宜湿式製膜方法を選択すればよい。
【0071】
半導体微粒子の層は単層に限らず、粒径の違った半導体微粒子の分散液を多層塗布したり、種類が異なる半導体微粒子(或いは異なるバインダー、添加剤)を含有する塗布層を多層塗布したりすることもできる。一度の塗布で膜厚が不足の場合にも多層塗布は有効である。多層塗布にはエクストルージョン法又はスライドホッパー法が適している。また多層塗布をする場合は同時に多層を塗布してもよく、数回から十数回順次重ね塗りしてもよい。さらに順次重ね塗りする場合にはスクリン印刷法も好ましく使用できる。
【0072】
一般に半導体微粒子層の厚さ(感光層の厚さと同じ)が厚くなるほど単位投影面積当たりの担持色素量が増えるため、光の捕獲率が高くなるが、生成した電子の拡散距離が増すため電荷再結合によるロスも大きくなる。したがって、半導体微粒子層の好ましい厚さは0.1〜100μmである。太陽電池に用いる場合、半導体微粒子層の厚さは1〜30μmが好ましく、2〜25μmがより好ましい。半導体微粒子の支持体1m2当たり塗布量は0.5〜100gが好ましく、3〜50gがより好ましい。
【0073】
半導体微粒子を導電性支持体上に塗布した後で半導体微粒子同士を電子的に接触させるとともに、塗膜強度の向上や支持体との密着性を向上させるために、加熱処理するのが好ましい。好ましい加熱温度の範囲は40℃以上700℃未満であり、より好ましくは100℃以上600℃以下である。また加熱時間は10分〜10時間程度である。ポリマーフィルムのように融点や軟化点の低い支持体を用いる場合、高温処理は支持体の劣化を招くため好ましくない。またコストの観点からもできる限り低温であるのが好ましい。低温化は先に述べた5nm以下の小さい半導体微粒子の併用や鉱酸の存在下での加熱処理等により可能となる。
【0074】
加熱処理後半導体微粒子の表面積を増大させたり、半導体微粒子近傍の純度を高め色素から半導体粒子への電子注入効率を高める目的で、例えば四塩化チタン水溶液を用いた化学メッキや三塩化チタン水溶液を用いた電気化学的メッキ処理を行ってもよい。
【0075】
半導体微粒子は多くの色素を吸着することができるように表面積の大きいものが好ましい。このため半導体微粒子の層を支持体上に塗布した状態での表面積は、投影面積に対して10倍以上であるのが好ましく、さらに100倍以上であるのが好ましい。この上限は特に制限はないが、通常1000倍程度である。
【0076】
(3)半導体微粒子への色素の吸着
半導体微粒子に、金属錯体色素を吸着させるには、色素の溶液中に良く乾燥した半導体微粒子層を有する導電性支持体を浸漬するか、色素の溶液を半導体微粒子層に塗布する方法を用いることができる。前者の場合、浸漬法、ディップ法、ローラ法、エアーナイフ法等が使用可能である。浸漬法の場合、色素の吸着は室温で行ってもよいし、特開平7-249790号に記載されているように加熱還流して行ってもよい。また後者の塗布方法としては、ワイヤーバー法、スライドホッパー法、エクストルージョン法、カーテン法、スピン法、スプレー法等がある。色素を溶解する溶媒として好ましいのは、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、t-ブタノール、ベンジルアルコール等)、ニトリル類(アセトニトリル、プロピオニトリル、3-メトキシプロピオニトリル等)、ニトロメタン、ハロゲン化炭化水素(ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等)、ジメチルスルホキシド、アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセタミド等)、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、3-メチルオキサゾリジノン、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭酸エステル類(炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等)、ケトン類(アセトン、2-ブタノン、シクロヘキサノン等)、炭化水素(へキサン、石油エーテル、ベンゼン、トルエン等)やこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0077】
色素の全吸着量は、多孔質半導体電極基板の単位表面積(1m2)当たり0.01〜100mmolが好ましい。また色素の半導体微粒子に対する吸着量は、半導体微粒子1g当たり0.01〜1mmolの範囲であるのが好ましい。このような色素の吸着量とすることにより半導体における増感効果が十分に得られる。これに対し、色素が少なすぎると増感効果が不十分となり、また色素が多すぎると半導体に付着していない色素が浮遊し、増感効果を低減させる原因となる。色素の吸着量を増大させるためには、吸着前に加熱処理を行うのが好ましい。加熱処理後、半導体微粒子表面に水が吸着するのを避けるため、常温に戻さずに40〜80℃の間で素早く色素を吸着させるのが好ましい。また、色素間の凝集などの相互作用を低減する目的で、無色の化合物を色素に添加し、半導体微粒子に共吸着させてもよい。この目的で有効な化合物は界面活性な性質、構造をもった化合物であり、例えば、カルボキシル基を有するステロイド化合物(例えばケノデオキシコール酸)や下記のスルホン酸塩類が挙げられる。
【0078】
【化13】
【0079】
未吸着の色素は、吸着後速やかに洗浄により除去するのが好ましい。湿式洗浄槽を使い、アセトニトリル等の極性溶剤、アルコール系溶剤のような有機溶媒で洗浄を行うのが好ましい。色素を吸着した後にアミン類を用いて半導体微粒子の表面を処理してもよい。好ましいアミン類としてはピリジン、4-t-ブチルピリジン、ポリビニルピリジン等が挙げられる。これらが液体の場合はそのまま用いてもよいし、有機溶媒に溶解して用いてもよい。
【0080】
(B)導電性支持体
導電性支持体は(1)導電層の単層又は(2)導電層及び基板の2層からなる。強度や密封性が十分に保たれるような導電層を使用すれば、基板は必ずしも必要でない。
【0081】
(1)の場合、導電層として金属のように十分な強度が得られ、かつ導電性があるものを用いる。
【0082】
(2)の場合、感光層側に導電剤を含む導電層を有する基板を使用することができる。好ましい導電剤としては金属(例えば白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等)、炭素、導電性金属酸化物(インジウム−スズ複合酸化物、酸化スズにフッ素をドープしたもの等)等が挙げられる。導電層の厚さは0.02〜10μm程度が好ましい。
【0083】
導電性支持体は表面抵抗が低い程よい。好ましい表面抵抗の範囲は100Ω/□以下であり、さらに好ましくは40Ω/□以下である。表面抵抗の下限には特に制限はないが、通常0.1Ω/□程度である。
【0084】
導電性支持体側から光を照射する場合には、導電性支持体は実質的に透明であるのが好ましい。実質的に透明であるとは光の透過率が10%以上であることを意味し、50%以上であるのが好ましく、70%以上が特に好ましい。
【0085】
透明導電性支持体としては、ガラス又はプラスチック等の透明基板の表面に導電性金属酸化物からなる透明導電層を塗布又は蒸着等により形成したものが好ましい。なかでもフッ素をドーピングした二酸化スズからなる導電層を低コストのソーダ石灰フロートガラスでできた透明基板上に堆積した導電性ガラスが好ましい。また低コストでフレキシブルな光電変換素子又は太陽電池とするには、透明ポリマーフィルムに導電層を設けたものを用いるのがよい。透明ポリマーフィルムの材料としては、テトラアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シンジオクタチックポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAr)、ポリスルフォン(PSF)、ポリエステルスルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、環状ポリオレフィン、ブロム化フェノキシ等が使用可能である。十分な透明性を確保するために導電性金属酸化物の塗布量はガラス又はプラスチックの支持体1m2当たり0.01〜100gとするのが好ましい。
【0086】
透明導電性支持体の抵抗を下げる目的で金属リードを用いるのが好ましい。金属リードの材質はアルミニウム、銅、銀、金、白金、ニッケル等の金属が好ましく、特にアルミニウム及び銀が好ましい。金属リードは透明基板に蒸着、スパッタリング等で設置し、その上にフッ素をドープした酸化スズ又はITO膜からなる透明導電層を設けるのが好ましい。また透明導電層を透明基板に設けた後、透明導電層上に金属リードを設置するのも好ましい。金属リード設置による入射光量の低下は好ましくは10%以内、より好ましくは1〜5%とする。
【0087】
(C)電荷移動層
電荷移動層は色素の酸化体に電子を補充する機能を有する電荷輸送材料を含有する層である。本発明で用いることのできる代表的な電荷輸送材料の例としては、▲1▼イオン輸送材料として、酸化還元対のイオンが溶解した溶液(電解液)、酸化還元対の溶液をポリマーマトリクスのゲルに含浸したいわゆるゲル電解質、酸化還元対イオンを含有する溶融塩電解質、さらには固体電解質が挙げられる。また、イオンがかかわる電荷輸送材料のほかに、▲2▼固体中のキャリアー移動が電気伝導にかかわる材料として、電子輸送材料や正孔(ホール)輸送材料を用いることもできる。これらは、併用することができる。
【0088】
(1)溶融塩電解質
溶融塩電解質は、光電変換効率と耐久性の両立という観点から好ましい。本発明の光電変換素子に溶融塩電解質を用いる場合は、例えばWO95/18456号、特開平8-259543号、電気化学,第65巻,11号,923頁(1997年)等に記載されているピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、トリアゾリウム塩等の既知のヨウ素塩を用いることができる。
【0089】
好ましく用いることのできる溶融塩としては、下記一般式(Y-a)、(Y-b)及び(Y-c)のいずれかにより表されるものが挙げられる。
【0090】
【化14】
【0091】
一般式(Y-a)中、Qy1は窒素原子と共に5又は6員環の芳香族カチオンを形成しうる原子団を表す。Qy1は炭素原子、水素原子、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群から選ばれる1種以上の原子により構成されるのが好ましい。
【0092】
Qy1により形成される5員環は、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、イソオキサゾール環、チアジアゾール環、オキサジアゾール環又はトリアゾール環であるのが好ましく、オキサゾール環、チアゾール環又はイミダゾール環であるのがより好ましく、オキサゾール環又はイミダゾール環であるのが特に好ましい。Qy1により形成される6員環は、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環又はトリアジン環であるのが好ましく、ピリジン環であるのがより好ましい。
【0093】
一般式(Y-b)中、Ay1は窒素原子又はリン原子を表す。
【0094】
一般式(Y-a)、(Y-b)及び(Y-c)中のRy1〜Ry6はそれぞれ独立に置換又は無置換のアルキル基(好ましくは炭素原子数1〜24、直鎖状であっても分岐状であっても、また環式であってもよく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、t-オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、2-ヘキシルデシル基、オクタデシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等)、或いは置換又は無置換のアルケニル基(好ましくは炭素原子数2〜24、直鎖状であっても分岐状であってもよく、例えばビニル基、アリル基等)を表し、より好ましくは炭素原子数2〜18のアルキル基又は炭素原子数2〜18のアルケニル基であり、特に好ましくは炭素原子数2〜6のアルキル基である。
【0095】
また、一般式(Y-b)中のRy1〜Ry4のうち2つ以上が互いに連結してAy1を含む非芳香族環を形成してもよく、一般式(Y-c)中のRy1〜Ry6のうち2つ以上が互いに連結して環構造を形成してもよい。
【0096】
一般式(Y-a)、(Y-b)及び(Y-c)中のQy1及びRy1〜Ry6は置換基を有していてもよく、好ましい置換基の例としては、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I等)、シアノ基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等)、アリーロキシ基(フェノキシ基等)、アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基等)、アルコキシカルボニル基(エトキシカルボニル基等)、炭酸エステル基(エトキシカルボニルオキシ基等)、アシル基(アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等)、スルホニル基(メタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基等)、アシルオキシ基(アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等)、スルホニルオキシ基(メタンスルホニルオキシ基、トルエンスルホニルオキシ基等)、ホスホニル基(ジエチルホスホニル基等)、アミド基(アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等)、カルバモイル基(N,N-ジメチルカルバモイル基等)、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、2-カルボキシエチル基、ベンジル基等)、アリール基(フェニル基、トルイル基等)、複素環基(ピリジル基、イミダゾリル基、フラニル基等)、アルケニル基(ビニル基、1-プロペニル基等)等が挙げられる。
【0097】
一般式(Y-a)、(Y-b)又は(Y-c)により表される化合物は、Qy1又はRy1〜Ry6を介して多量体を形成してもよい。
【0098】
これらの溶融塩は、単独で使用しても、2種以上混合して使用してもよく、また、ヨウ素アニオンを他のアニオンで置き換えた溶融塩と併用することもできる。ヨウ素アニオンと置き換えるアニオンとしては、ハロゲン化物イオン(Cl-、Br-等)、NSC-、BF4 -、PF6 -、ClO4 -、(CF3SO2)2N-、(CF3CF2SO2)2N-、CF3SO3 -、CF3COO-、Ph4B-、(CF3SO2)3C-等が好ましい例として挙げられ、(CF3SO2)2N-又はBF4 -であるのがより好ましい。また、LiIなど他のヨウ素塩を添加することもできる。
【0099】
本発明で好ましく用いられる溶融塩の具体例を以下に挙げるが、これらに限定されるわけではない。
【0100】
【化15】
【0101】
【化16】
【0102】
【化17】
【0103】
【化18】
【0104】
【化19】
【0105】
【化20】
【0106】
【化21】
【0107】
上記溶融塩電解質には、溶媒を用いない方が好ましい。後述する溶媒を添加しても構わないが、溶融塩の含有量は電解質組成物全体に対して50質量%以上であるのが好ましい。また、塩のうち、50質量%以上がヨウ素塩であることが好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。
【0108】
電解質組成物にヨウ素を添加するのが好ましく、この場合、ヨウ素の含有量は、電解質組成物全体に対して0.1〜20質量%であるのが好ましく、0.5〜5質量%であるのがより好ましい。
【0109】
(2)電解液
電荷移動層に電解液を使用する場合、電解液は電解質、溶媒、および添加物から構成されることが好ましい。本発明の電解質はI2とヨウ化物の組み合わせ(ヨウ化物としてはLiI、NaI、KI、CsI、CaI2 などの金属ヨウ化物、あるいはテトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイドなど4級アンモニウム化合物のヨウ素塩など)、Br2と臭化物の組み合わせ(臭化物としてはLiBr、NaBr、KBr、CsBr、CaBr2 などの金属臭化物、あるいはテトラアルキルアンモニウムブロマイド、ピリジニウムブロマイドなど4級アンモニウム化合物の臭素塩など)のほか、フェロシアン酸塩−フェリシアン酸塩やフェロセン−フェリシニウムイオンなどの金属錯体、ポリ硫化ナトリウム、アルキルチオール−アルキルジスルフィドなどのイオウ化合物、ビオロゲン色素、ヒドロキノン−キノンなどを用いることができる。この中でもI2とLiIやピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイドなど4級アンモニウム化合物のヨウ素塩を組み合わせた電解質が本発明では好ましい。上述した電解質は混合して用いてもよい。
【0110】
好ましい電解質濃度は0.1M以上15M以下であり、さらに好ましくは0.2M以上10M以下である。また、電解質にヨウ素を添加する場合の好ましいヨウ素の添加濃度は0.01M以上0.5M以下である。
【0111】
本発明で電解質に使用する溶媒は、粘度が低くイオン移動度を向上したり、もしくは誘電率が高く有効キャリアー濃度を向上したりして、優れたイオン伝導性を発現できる化合物であることが望ましい。このような溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート化合物、3-メチル-2-オキサゾリジノンなどの複素環化合物、ジオキサン、ジエチルエーテルなどのエーテル化合物、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテルなどの鎖状エーテル類、メタノール、エタノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルなどのアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル化合物、ジメチルスルフォキシド、スルフォランなど非プロトン極性物質、水などを用いることができる。
【0112】
また、本発明では、J. Am. Ceram. Soc .,80 (12)3157-3171(1997)に記載されているようなter-ブチルピリジンや、2-ピコリン、2,6-ルチジン等の塩基性化合物を添加することもできる。塩基性化合物を添加する場合の好ましい濃度範囲は0.05M以上2M以下である。
【0113】
(3)ゲル電解質
本発明では、電解質はポリマー添加、オイルゲル化剤添加、多官能モノマー類を含む重合、ポリマーの架橋反応等の手法によりゲル化(固体化)させて使用することもできる。ポリマー添加によりゲル化させる場合は、“Polymer Electrolyte Reviews-1および2”(J.R.MacCallumとC.A. Vincentの共編、ELSEVIER APPLIED SCIENCE)に記載された化合物を使用することができるが、特にポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデンを好ましく使用することができる。オイルゲル化剤添加によりゲル化させる場合はJ. Chem Soc. Japan, Ind. Chem.Sec., 46,779(1943), J. Am. Chem. Soc., 111,5542(1989), J. Chem. Soc., Chem. Com mun., 1993, 390, Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 35,1949(1996), Chem. Lett., 1996, 885, J. Chm. Soc., Chem. Commun., 1997,545に記載されている化合物を使用することができるが、好ましい化合物は分子構造中にアミド構造を有する化合物である。
【0114】
また、ポリマーの架橋反応により電解質をゲル化させる場合、架橋可能な反応性基を含有するポリマーおよび架橋剤を併用することが望ましい。この場合、好ましい架橋可能な反応性基は、含窒素複素環(例えば、ピリジン環、イミダゾール環、チアゾール環、オキサゾール環、トリアゾール環、モルホリン環、ピペリジン環、ピペラジン環など)であり、好ましい架橋剤は、窒素原子に対して求電子反応可能な2官能以上の試薬(例えば、ハロゲン化アルキル、ハロゲン化アラルキル、スルホン酸エステル、酸無水物、酸クロライド、イソシアネートなど)である。
【0115】
(4)正孔輸送材料
本発明では、電解質の替わりに有機または無機あるいはこの両者を組み合わせた正孔輸送材料を使用することができる。
【0116】
(a)有機正孔輸送材料
本発明に適用可能な有機正孔輸送材料としては、J.Hagen et al.,Synthetic Metal 89(1997)215-220、Nature,Vol.395, 8 Oct. 1998,p583-585およびWO97/10617、特開昭59−194393号公報、特開平5−234681号公報、米国特許第4,923,774号、特開平4−308688号公報、米国特許第4,764,625号、特開平3−269084号公報、特開平4−129271号公報、特開平4−175395号公報、特開平4−264189号公報、特開平4−290851号公報、特開平4−364153号公報、特開平5−25473号公報、特開平5−239455号公報、特開平5−320634号公報、特開平6−1972号公報、特開平7−138562号、特開平7−252474号、特開平11−144773等に示される芳香族アミン類や特開平11−149821、特開平11−148067、特開平11−176489等に記載のトリフェニレン誘導体類を好ましく用いることができる。
【0117】
また、Adv. Mater. 1997,9,N0.7,p557、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1995, 34, No.3,p303-307、JACS,Vol120, N0.4,1998,p664-672等に記載されているオリゴチオフェン化合物、K. Murakoshi et al.,;Chem. Lett. 1997, p471に記載のポリピロール、“Handbook of Organic Conductive Molecules and Polymers Vol.1,2,3,4”(NALWA著、WILEY出版)に記載されているポリアセチレンおよびその誘導体、ポリ(p-フェニレン) およびその誘導体、ポリ( p-フェニレンビニレン) およびその誘導体、ポリチエニレンビニレンおよびその誘導体、ポリチオフェンおよびその誘導体、ポリアニリンおよびその誘導体、ポリトルイジンおよびその誘導体等の導電性高分子を好ましく使用することができる。
【0118】
正孔(ホール)輸送材料にはNature,Vol.395, 8 Oct. 1998,p583-585に記載されているようにドーパントレベルをコントロールするためにトリス(4-ブロモフェニル)アミニウムヘキサクロロアンチモネートのようなカチオンラジカルを含有する化合物を添加したり、酸化物半導体表面のポテンシャル制御(空間電荷層の補償)を行うためにLi[(CF3SO2)2N]のような塩を添加しても構わない。
【0119】
(b)無機正孔輸送材料
無機正孔輸送材料としては、p型無機化合物半導体を用いることができる。この目的のp型無機化合物半導体は、バンドギャップが2eV以上であることが好ましく、さらに2.5eV以上であることが好ましい。また、p型無機化合物半導体のイオン化ポテンシャルは色素の正孔を還元できる条件から、色素吸着電極のイオン化ポテンシャルより小さいことが必要である。使用する色素によってp型無機化合物半導体のイオン化ポテンシャルの好ましい範囲は異なってくるが、一般に4.5eV以上5.5eV以下であることが好ましく、さらに4.7eV以上5.3eV以下であることが好ましい。好ましいp型無機化合物半導体は一価の銅を含む化合物半導体であり、一価の銅を含む化合物半導体の例としてはCuI, CuSCN, CuInSe2, Cu(In,Ga)Se2, CuGaSe2, Cu2O, CuS, CuGaS2, CuInS2, CuAlSe2などが挙げられる。この中でもCuIおよび CuSCNが好ましく、CuIが最も好ましい。このほかのp型無機化合物半導体として、GaP、NiO、CoO、FeO、Bi2O3、MoO2、Cr2O3等を用いることができる。
【0120】
p型無機化合物半導体を含有する電荷移動層の好ましいホール移動度は10-4cm2/V・sec以上104cm2/V・sec以下であり、さらに好ましくは10-3cm2/V・sec以上103cm2/V・sec以下である。また、電荷移動層の好ましい導電率は10-8S/cm以上102S/cm以下であり、さらに好ましくは10-6S/cm以上10S/cm以下である。
【0121】
(5)電荷移動層の形成
電荷移動層の形成方法に関しては2通りの方法が考えられる。1つは増感色素を担持させた半導体微粒子含有層の上に先に対極を貼り合わせておき、その間隙に液状の電荷移動層を挟み込む方法である。もう1つは半導体微粒子含有層上に直接電荷移動層を付与する方法で、対極はその後付与することになる。
【0122】
前者の場合の電荷移動層の挟み込み方法として、浸漬等による毛管現象を利用する常圧プロセスと常圧より低い圧力にして気相を液相に置換する真空プロセスが利用できる。
【0123】
後者の場合、湿式の電荷移動層においては未乾燥のまま対極を付与し、エッジ部の液漏洩防止措置も施すことになる。またゲル電解質の場合には湿式で塗布して重合等の方法により固体化する方法もあり、その場合には乾燥、固定化した後に対極を付与することもできる。電解液のほか湿式有機正孔輸送材料やゲル電解質を付与する方法としては、半導体微粒子含有層や色素の付与と同様に、浸漬法、ローラ法、ディップ法、エアーナイフ法、エクストルージョン法、スライドホッパー法、ワーヤーバー法、スピン法、スプレー法、キャスト法、各種印刷法等が考えられる。
【0124】
固体電解質や固体の正孔(ホール)輸送材料の場合には真空蒸着法やCVD法等のドライ成膜処理で電荷移動層を形成し、その後対極を付与することもできる。有機正孔輸送材料は真空蒸着法,キャスト法,塗布法,スピンコート法、浸漬法、電解重合法、光電解重合法等の手法により電極内部に導入することができる。無機固体化合物の場合も、キャスト法,塗布法,スピンコート法、浸漬法、電解メッキ法等の手法により電極内部に導入することができる。
【0125】
量産化を考える場合、固体化できない電解液や湿式の正孔輸送材料の場合には、塗設後速やかにエッジ部分を封止することで対応も可能であるが、固体化可能な正孔輸送材料の場合は湿式付与により正孔輸送層を膜形成した後、例えば光重合や熱ラジカル重合等の方法により固体化することがより好ましい。このように膜付与方式は液物性や工程条件により適宜選択すればよい。
【0126】
なお、電荷移動層中の水分としては10,000ppm以下が好ましく、さらに好ましくは2,000ppm以下であり、特に好ましくは100ppm以下である。
【0127】
(D)対極
対極は、光電変換素子の正極として作用するものである。対極は前記の導電性支持体と同様に、導電性材料からなる対極導電層の単層構造でもよいし、対極導電層と支持基板から構成されていてもよい。対極導電層に用いる導電材としては、金属(例えば白金、金、銀、銅、アルミニウム、マグネシウム、ロジウム、インジウム等)、炭素、または導電性金属酸化物(インジウム−スズ複合酸化物、酸化スズにフッ素をドープしたもの等)が挙げられる。この中でも白金、金、銀、銅、アルミニウム、マグネシウムを対極層として好ましく使用することができる。対極の好ましい支持基板の例は、ガラスまたはプラスチックであり、これに上記の導電剤を塗布または蒸着して用いる。対極導電層の厚さは特に制限されないが、3nm〜10μmが好ましい。対極導電層が金属製である場合は、その厚さは好ましくは5μm以下であり、さらに好ましくは5nm〜3μmの範囲である。対極層の表面抵抗は低い程よい。好ましい表面抵抗の範囲としては80Ω/□以下であり、さらに好ましくは20Ω/□以下である。
【0128】
導電性支持体と対極のいずれか一方または両方から光を照射してよいので、感光層に光が到達するためには、導電性支持体と対極の少なくとも一方が実質的に透明であれば良い。発電効率の向上の観点からは、導電性支持体を透明にして、光を導電性支持体側から入射させるのが好ましい。この場合対極は光を反射する性質を有するのが好ましい。このような対極としては、金属または導電性の酸化物を蒸着したガラスまたはプラスチック、あるいは金属薄膜を使用できる。
【0129】
対極は、電荷移動層上に直接導電材を塗布、メッキまたは蒸着(PVD、CVD)するか、導電層を有する基板の導電層側を貼り付ければよい。また、導電性支持体の場合と同様に、特に対極が透明の場合には、対極の抵抗を下げる目的で金属リードを用いるのが好ましい。なお、好ましい金属リードの材質および設置方法、金属リード設置による入射光量の低下等は導電性支持体の場合と同じである。
【0130】
(E)その他の層
電荷移動層に電子輸送材料や正孔輸送材料を用いる場合、対極と導電性支持体の短絡を防止するため、予め導電性支持体と感光層の間に緻密な半導体の薄膜層を下塗り層として塗設しておくことが好ましい。下塗り層として好ましいのはTiO2、SnO2、Fe2O3、WO3、ZnO、Nb2O5であり、さらに好ましくはTiO2である。下塗り層はElectrochimi. Acta 40, 643-652(1995)に記載されているスプレーパイロリシス法により塗設することができる。下塗り層の好ましい膜厚は5〜1000nm以下であり、10〜500nmがさらに好ましい。
【0131】
また、電極として作用する導電性支持体および対極の一方または両方に、保護層、反射防止層等の機能性層を設けても良い。このような機能性層を多層に形成する場合、同時多層塗布法や逐次塗布法を利用できるが、生産性の観点からは同時多層塗布法が好ましい。同時多層塗布法では、生産性および塗膜の均一性を考えた場合、スライドホッパー法やエクストルージョン法が適している。これらの機能性層の形成には、その材質に応じて蒸着法や貼り付け法等を用いることができる。
【0132】
(F)光電変換素子の内部構造の具体例
上述のように、光電変換素子の内部構造は目的に合わせ様々な形態が可能である。大きく2つに分ければ、両面から光の入射が可能な構造と、片面からのみ可能な構造が可能である。図2〜図9に本発明に好ましく適用できる光電変換素子の内部構造を例示する。
【0133】
図2は、透明導電層10aと透明対極導電層40aとの間に、感光層20と、電荷移動層30とを介在させたものであり、両面から光が入射する構造となっている。図3は、透明基板50a上に一部金属リード11を設け、さらに透明導電層10aを設け、下塗り層60、感光層20、電荷移動層30および対極導電層40をこの順で設け、さらに支持基板50を配置したものであり、導電層側から光が入射する構造となっている。図4は、支持基板50上にさらに導電層10を有し、下塗り層60を介して感光層20を設け、さらに電荷移動層30と透明対極導電層40aとを設け、一部に金属リード11を設けた透明基板50aを、金属リード11側を内側にして配置したものであり、対極側から光が入射する構造である。図5は、透明基板50a上に一部金属リード11を設け、さらに透明導電層10a、透明対極導電層40aを設けたものの間に下塗り層60と感光層20と電荷移動層30とを介在させたものであり、両面から光が入射する構造である。図6は、透明基板50a上に透明導電層10aを有し、下塗り層60を介して感光層20、電荷移動層30および対極導電層40を設け、この上に支持基板50を配置したものであり導電層側から光が入射する構造である。図7は、支持基板50上に導電層10を有し、下塗り層60を介して感光層20を設け、さらに電荷移動層30および透明対極導電層40aを設け、この上に透明基板50aを配置したものであり、対極側から光が入射する構造である。図8は、透明基板50a上に透明導電層10aを有し、下塗り層60を介して感光層20を設け、さらに電荷移動層30および透明対極導電層40aを設け、この上に透明基板50aを配置したものであり、両面から光が入射する構造となっている。図9は、支持基板50上に導電層10を設け、下塗り層60を介して感光層20を設け、さらに固体の電荷移動層30を設け、この上に一部対極導電層40または金属リード11を有するものであり、対極側から光が入射する構造となっている。
【0134】
[3]光電池
本発明の光電池は、上記光電変換素子に外部負荷で仕事をさせるようにしたものである。光電池のうち、電荷輸送材料が主としてイオン輸送材料からなる場合を、特に光電気化学電池と呼び、また、太陽光による発電を主目的とする場合を太陽電池と呼ぶ。光電池は構成物の劣化や内容物の揮散を防止するために、側面をポリマーや接着剤等で密封するのが好ましい。導電性支持体および対極にリードを介して接続される外部回路自体は公知のもので良い。本発明の光電変換素子を太陽電池に適用する場合、そのセル内部の構造は基本的に上述した光電変換素子の構造と同じである。また、本発明の色素増感型太陽電池は、従来の太陽電池モジュールと基本的には同様のモジュール構造をとりうる。太陽電池モジュールは、一般的には金属、セラミック等の支持基板の上にセルが構成され、その上を充填樹脂や保護ガラス等で覆い、支持基板の反対側から光を取り込む構造をとるが、支持基板に強化ガラス等の透明材料を用い、その上にセルを構成してその透明の支持基板側から光を取り込む構造とすることも可能である。具体的には、スーパーストレートタイプ、サブストレートタイプ、ポッティングタイプと呼ばれるモジュール構造、アモルファスシリコン太陽電池などで用いられる基板一体型モジュール構造等が知られており、本発明の色素増感型太陽電池も使用目的や使用場所および環境により、適宜これらのモジュール構造を選択できる。具体的には、特願平11-8457号に記載の構造や態様とすることが好ましい。
【0135】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0136】
(1)二酸化チタン分散液の調製
内側をテフロンコーティングした内容積200mlのステンレス製ベッセルに二酸化チタン(日本アエロジル社 Degussa P-25)15g、水45g、分散剤(アルドリッチ社製、Triton X-100)1g、直径0.5mmのジルコニアビーズ(ニッカトー社製)30gを入れ、サンドグラインダーミル(アイメックス社製)を用いて1500rpmにて2時間分散した。分散物からジルコニアビーズをろ過して除いた。この場合の二酸化チタンの平均粒径は2.5μmであった。このときの粒径はMALVERN社製マスターサイザーにて測定したものである。
【0137】
(2)色素を吸着したTiO2電極の作製
フッ素をドープした酸化スズをコーティングした導電性ガラス(旭硝子製TCOガラス-Uを20mm×20mmの大きさに切断加工したもの)の導電面側にガラス棒を用いて上記の分散液を塗布した。この際、導電面側の一部(端から3mm)に粘着テープを張ってスペーサーとし、粘着テープが両端に来るようにガラスを並べて一度に8枚ずつ塗布した。塗布後、粘着テープを剥離し、室温で1日間風乾した。次に、このガラスを電気炉(ヤマト科学製マッフル炉FP-32型)に入れ、450℃にて30分間焼成し、TiO2電極を得た。この電極を取り出し冷却した後、表1に示す色素のメタノール溶液(いずれの色素も3×10-4mol/L)に15時間浸漬した。色素の染着したTiO2電極を4-tert-ブチルピリジンに15分間浸漬した後、エタノールで洗浄し自然乾燥させた。このようにして得られる感光層の厚さは10μmであり、半導体微粒子の塗布量は20g/m2とした。なお、導電性ガラスの表面抵抗は約30Ω/□であった。
【0138】
(3)光電気化学電池作製
上述のようにして作製した色増感されたTiO2電極基板(20mm×20mm)をこれと同じ大きさの白金蒸着ガラスと重ね合わせた。次に、両ガラスの隙間に毛細管現象を利用して電解液(3-メトキシプロピオニトリルに電解質として1-メチル-3-ヘキシルイミダゾリウムのヨウ素塩0.65mol/Lおよびヨウ素0.05mol/Lを加えたもの)をしみこませ、TiO2電極中に導入し、光電気化学電池を得た。本実施例により、導電性ガラス(ガラス上に透明導電剤層が設層されたもの)、色素増感TiO2層、電荷移動層、白金対極および ガラスを順に積層し、エポキシ系封止剤で封止された光電池が作製された。
【0139】
(4)光電変換効率の測定
光電変換効率は次のようにして測定した。500Wのキセノンランプ(ウシオ製)の光を分光フィルター(Oriel社製AM1.5)およびシャープカットフィルター(Kenko L-42)を通すことにより紫外線を含まない模擬太陽光を発生させた。この光の強度は86mW/cm2であった。作製した光電気化学電池に模擬太陽光を照射し、発生した電気を電流電圧測定装置(ケースレーSMU238型)にて測定した。これにより求められた光電気化学電池の開放電圧(V)を表1に記載した。
【0140】
【表1】
【化22】
【0141】
公知の比較色素1を用いた比較例1に対し、本発明の色素からなる実施例1〜9の光電変換素子は、開放電圧が高いことがわかる。
【0142】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明の金属錯体色素を用いることによって、高い開放電圧を有する色素増感光電変換素子が得られる。かかる光電変換素子からなる光電池は太陽電池として極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の好ましい光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図2】 本発明の好ましい光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図3】 本発明の好ましい光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図4】 本発明の好ましい光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図5】 本発明の好ましい光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図6】 本発明の好ましい光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図7】 本発明の好ましい光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図8】 本発明の好ましい光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図9】 本発明の好ましい光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【符号の説明】
10・・・導電層
10a・・・透明導電層
11・・・金属リード
20・・・感光層
21・・・半導体微粒子
22・・・色素
23・・・電荷輸送材料
30・・・電荷移動層
40・・・対極導電層
40a・・・透明対極導電層
50・・・基板
50a・・・透明基板
60・・・下塗り層

Claims (7)

  1. 下記一般式(I):
    M(La)m1(Lb)m2(X)m3・・・(I)
    (Mはルテニウムを表し、
    Laは下記一般式(II):
    (ただし、Z1〜Z3は窒素カチオンを含有する基を表す。L1〜L3は連結基である。R1〜R3はそれぞれ独立にアルキル基、又はアルコキシ基を表す。a1〜a3は0又は1であり、a1〜a3の合計は1〜2である。n1〜n3は0又は1である。l1は、0又は1である。)により表される2座または3座の配位子であり、
    Lbは下記一般式(III):
    (ただし、Za、Zb、Zcは窒素原子と共にピリジン環を表し、l2は0または1を表す。)により表される2座または3座の配位子であり、
    Xは1座または2座配位子を表し、
    m1は1、m2は1、m3は0〜2の整数である。)により表される金属錯体色素によって増感された半導体微粒子を含むことを特徴とする光電変換素子。
  2. 請求項1に記載の光電変換素子において、前記一般式(II) で表される配位子中のZ1〜Z3が、下記一般式(IV-1)〜(IV-3):
    (ただし、Eは−NR12−を表し、R 4 〜R 12 はそれぞれ独立に水素、アルキル基、アルコキシアルキル基、カルボンアミド基、又はカルボン酸基を表す。ただし、R4およびR6のいずれか1つ、R5およびR7のいずれか1つ、ならびにR8〜R11のいずれか1つは、L1〜L3と連結するための単結合となる。n4は1、n5は0である。)のいずれかにより表されることを特徴とする光電変換素子。
  3. 請求項1又は2に記載の光電変換素子において、前記一般式(II) で表される配位子中のL1〜L3が、炭素数1〜10のアルキレン鎖であることを特徴とする光電変換素子。
  4. 請求項2又は3に記載の光電変換素子において、前記一般式(IV-1)〜(IV-3)におけるR4およびR6のいずれか1つ、R7およびR12のいずれか1つ、ならびにR8〜R11のいずれか1つは、カルボン酸基であることを特徴とする光電変換素子。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の光電変換素子において、前記一般式(I)におけるXがNCSであることを特徴とする光電変換素子。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の光電変換素子において、色素によって増感された半導体微粒子が、酸化チタン微粒子であることを特徴とする光電変換素子。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載の光電変換素子を用いることを特徴とする光電池。
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