つぎに、この発明をより具体的に説明する。この発明で対象とするトロイダル型無段変速機は、入力側のディスクと出力側のディスクとを同一軸線上に対向させて配置するとともに、これらのディスクの間に、回転中心軸線が、各ディスクの回転中心軸線に対してほぼ直交するようにパワーローラを配置して挟み込み、そのパワーローラを介して各ディスクの間でトルクを伝達するように構成した無段変速機である。特に、各ディスクの対向面がトロイダル面を形成している無段変速機であり、対向するトロイダル面の曲率中心が各ディスクの外周縁の近辺もしくはその外側にあるいわゆるハーフトロイダル型のものや、その曲率中心が各ディスクの外周縁より内側にあるタイプのもののいずれであってもよい。さらに、一対のディスクを備えたいわゆるシングルキャビティ型の無段変速機に限らず、二対のディスクを備えたダブルキャビティ型の無段変速機であってもよい。そして、入力側のディスクと出力側のディスクとの間に挟み込むパワーローラは、ディスクの円周方向に等間隔に複数設けられていればよく、一対のパワーローラを備えた構成に限られない。
また、この発明で対象とするトロイダル型無段変速機は、パワーローラを挟み付けるいわゆる挟圧力を油圧によって発生させるように構成したものであってよい。あるいはパワーローラを中立位置から変位させ、また中立位置に復帰させる操作を、パワーローラの回転面に沿う方向に推力を発生するアクチュエータによって行うように構成したものであってよい。そのアクチュエータとしては、油圧シリンダや電動シリンダなどを採用することができ、その推力に応じてパワーローラが中立位置から変位させられてその傾転および変速が生じる。また、この発明では、パワーローラの変位もしくは傾転の制御のための構成として、機械的なフィードバック機構を使用せずに、圧油を直接フィードバック制御するように構成する。
図5および図6には、ダブルキャビティ式のハーフトロイダル型無段変速機の一例を模式的に示してあり、トロイダル面を対向させた入力ディスク1と出力ディスク2とが、二対、同一軸線上に配置されている。これらの図に示す例では、軸線方向での左右両端部に入力ディスク1が配置され、中央部に出力ディスク2が、いわゆる背合わせに配置され、これらの出力ディスク2の間に出力部材としての出力ギヤ3が配置されている。
各ディスク1,2および出力ギヤ3の中心部を入力軸4が貫通しており、各入力ディスク1はこの入力軸4に一体となって回転し、かつ軸線方向に移動できるように取り付けられている。これに対して出力ディスク2および出力ギヤ3は、入力軸4に対して回転自在に嵌合しており、かつ各出力ディスク2と出力ギヤ3とは一体となって回転するように連結されている。入力軸4の一方の端部(図5の左側の端部)には、入力ディスク1を抜け止めするためのロック部材としてのロックナット5が取り付けられている。これとは反対側の端部(図5での右側の端部)には、油圧シリンダ6が取り付けられている。この油圧シリンダ6は、各対の入力ディスク1と出力ディスク2とを互いに接近させる方向に押圧する挟圧力を生じさせるための挟圧力発生機構であって、シリンダ7が入力軸4に固定されるとともに、そのシリンダ7の内部に軸線方向に移動可能に収容したピストン8が、入力ディスク1の背面に当接させられている。したがって、そのシリンダ7とピストン8との間に油圧を供給することにより、ピストン8が一方の入力ディスク1をこれとは反対側に配置されている入力ディスク1側に向けて押圧するように構成されている。なお、この挟圧力発生機構は、油圧シリンダ6に替えて、トルクを軸線方向の推力に変化させるカム機構やネジ機構などの他の機構によって構成してもよい。
各対の入力ディスク1と出力ディスク2との間にそれぞれ複数のパワーローラ9が挟み込まれている。これらのパワーローラ9は、入力ディスク1と出力ディスク2との間でのトルクの伝達を媒介するいわゆる伝動部材であって、ほぼ円盤状をなし、入力ディスク1と出力ディスク2との間に、各ディスク1,2の円周方向に等間隔に配置されている。各パワーローラ9は、各ディスク1,2の回転に伴って自転し、また各ディスク1,2の間で傾く(傾転する)ように、それぞれトラニオン10によって保持されている。ここで、傾転とは、より詳しくは、パワーローラ9の各ディスク1,2に対する接触点を結んだ線と、各ディスク1,2の回転中心軸線とのなす角度(すなわち傾転角度)が変化する挙動である。
各トラニオン10は、パワーローラ9を自転かつ傾転自在に保持するためのものであって、中心側を向く面を平坦面とした保持部11の上下両側にトラニオン軸12が延びて形成されている。図6での上側のトラニオン軸12が軸受を介してアッパーヨーク13に嵌合させられ、また図6での下側のトラニオン軸12が軸受を介してロアーヨーク14に嵌合させられている。したがって各トラニオン10は、それぞれトラニオン軸12を中心にして回転できるように各ヨーク13,14によって互いに連結されている。したがってトラニオン軸12の中心軸線が傾転軸となっている。
各パワーローラ9は各トラニオン10における前記保持部11に取り付けたピボットシャフト15によって回転自在に保持され、また各パワーローラ9とそれぞれのトラニオン10との間にはスラスト軸受16が介装されている。これらトラニオン10やピボットシャフト15、スラスト軸受16などが、パワーローラを傾転可能に保持する保持部材になっている。
各トラニオン10における図6での下側のトラニオン軸12は、直線的な前後動作を行うアクチュエータに連結されている。そのアクチュエータは、流体圧シリンダや、トルクを推力に変化させて出力する電動シリンダなどによって構成されており、図に示す例では、油圧シリンダ17が採用されている。具体的には、前記トラニオン軸12は、各パワーローラ9に対応して設けた油圧シリンダ17のピストン18に連結されている。これらの油圧シリンダ17は、一方のパワーローラ9を図6での上側に移動させると同時に他方のパワーローラ9を図6での下側に移動させるように構成されている。例えば、図6での左側の油圧シリンダ17におけるピストン18より上側の油圧室が変速比の小さい高速側に変速させるためのハイ油室17Hであり、これとは反対の下側の油圧室が変速比の大きい低速側に変速させるためのロー油室17Lとなっている。また、図6での右側の油圧シリンダ17におけるピストン18より上側の油圧室が変速比の大きい低速側に変速させるためのロー油室17Lであり、これとは反対の下側の油圧室が変速比の小さい高速側に変速させるためのハイ油室17Hとなっている。そして、ハイ油室17H同士、およびロー油室17L同士が互いに連通されている。
上記のパワーローラ9を中立位置からアップシフト側あるいはダウンシフト側に変位(オフセット)させて変速を実行するための機構について説明すると、その機構は前記油圧シリンダ17などのアクチュエータを動作させるように構成された機構であり、図に示す例では、デューティ制御される電磁弁19によって構成されている。なお、この種の制御弁は、前述したハイ油室17Hに対する油圧の給排を制御する弁とロー油室17Lに対する油圧の給排を制御する弁との二本を設けてもよく、あるいは一本の制御弁で各油室17H,17Lに対する油圧の給排を同時に制御するように構成してもよい。
図に示す電磁弁19は、前記ハイ油室17Hに連通するハイ側ポート20と、前記ロー油室17Lに連通するロー側ポート21と、ライン圧が入力される入力ポート22と、二つのドレーンポート23,24と、ソレノイド25およびその反対側に配置されたスプリング26によって軸線方向に移動させられてこれらのポートの連通状態を切り替えるスプール27とを有している。そして、そのスプール27は、入力ポート22および各ドレーンポート23,24をハイ側ポート20およびロー側ポート21のいずれに対しても閉じた状態、入力ポート22をハイ側ポート20に連通させると同時にロー側ポート21をドレーンポート24に連通させたアップシフト状態、これとは反対にロー側ポート21を入力ポート22に連通させると同時にハイ側ポート20をドレーンポート23に連通させたダウンシフト状態とに切り替えるように構成されている。
したがって、電磁弁19によってハイ油室17Hおよびロー油室17Lに圧油を適宜に給排することにより、これらの油室17H,17Lに差圧が生じ、その差圧に応じた推力が油圧シリンダ17からトラニオン10に作用する。具体的には、その差圧とピストン18の受圧面積との積が推力となる。一方、パワーローラ9には、トルクを伝達することに伴う接線力が作用し、その合力が前記推力に対向する方向の荷重となる。したがって、前記推力と前記荷重とのいずれかが大きければ、パワーローラ9が変位し、両者がバランスすれば、パワーローラ9が変位せずに所定の位置に維持される。
上記の電磁弁19を使用した変速制御を電気的に実行するように構成されている。すなわち、各パワーローラ9の位置をトラニオン10の位置もしくは変位量として検出するためにストロークセンサ28が設けられている。このストロークセンサ28は一例として、一方のトラニオン10のトラニオン軸12に取り付けられており、その軸線方向の変位量を電気的に検出して検出信号として出力するように構成されている。ここで変位量とは、パワーローラ9に対してサイドスリップ力もしくは傾転力が作用しない中立位置からの前記傾転軸方向の移動量である。
さらに、いずれかの入力ディスク1の回転数を検出して電気的な信号を出力する入力回転数センサ30と、いずれかの出力ディスク2の回転数を検出して電気的な信号を出力する出力回転数センサ31とが設けられている。したがって、これらの回転数センサ30,31で検出された各回転数に基づいて、実際の変速比を求めることができる。また、特には図示しないが、上記のロー油室17Lの油圧およびハイ油室17Hの油圧を検出する油圧センサが設けられている。
これら各センサ28,30,31は、変速比や前述した挟圧力を制御するための電子制御装置(ECU)32に電気的に接続されている。この電子制御装置32は、マイクロコンピュータを主体として構成されたものであって、入力された信号および予め記憶しているデータならびにプログラムに従って各種の演算を行い、その演算結果に基づいて制御指令信号を出力するように構成されている。上記のトロイダル型無段変速機は、車両に搭載することができ、その場合、この電子制御装置32には、上記の各センサ28,30,31からの信号に加えて、アクセル開度や車速、エンジン回転数などの各種の検出信号が入力される。
上記のトロイダル型無段変速機によるトルクの伝達および変速について説明する。エンジンなどの動力源から入力ディスク1にトルクが入力されると、その入力ディスク1にトラクションオイルを介して接触しているパワーローラ9にトルクが伝達され、さらにそのパワーローラ9から出力ディスク2にトラクションオイルを介してトルクが伝達される。その場合、トラクションオイルは加圧されることによりガラス転移し、それに伴う大きい剪断力によってトルクを伝達するので、各ディスク1,2は入力トルクに応じた圧力がパワーローラ9との間に生じるように押圧される。
また、パワーローラ9の周速と各ディスク1,2のトルク伝達点(パワーローラ9がトラクションオイルを介して接触している点)の周速とが実質的に同じであるから、パワーローラ9が傾転して入力ディスク1との間のトルク伝達点の回転中心軸線からの半径と、出力ディスク2との間のトルク伝達点の回転中心軸線からの半径とに応じて各ディスク1,2の回転数(回転速度)が異なり、その回転数(回転速度)の比率が変速比となる。
このようにして変速比を設定するパワーローラ9の傾転は、パワーローラ9を図6の上下方向に移動させることにより生じる。例えば、前記電磁弁19を制御して油圧シリンダ17のハイ油室17Hにライン圧を供給すると、各油室17H,17Lの圧力差に基づく推力とパワーローラ9の接線力との差によって、図6の左側のパワーローラ9が下側に移動し、かつ図6の右側のパワーローラ9が上側に移動する。その結果、各パワーローラ9にはこれを傾転させる力(サイドスリップ力)がディスク1,2との間に生じ、各パワーローラ9が傾転する。パワーローラ9の変位量は、実際の傾転角と目標とする傾転角との偏差に基づいて制御され、したがってパワーローラ9が次第に傾転して目標傾転角に一致すると、パワーローラ9は中立位置に復帰させられ、その傾転が止まる。その結果、目標とする変速比が設定される。この中立位置では、前記差圧は、これに基づく推力とパワーローラ9の接線力とがバランスするように制御される。
上記の電子制御装置32は、スロットル開度などで代表される要求駆動量や車速などに基づいて目標とする変速比に対応する傾転角度を求め、その傾転角度を達成するように電磁弁19に指令信号を出力する。その目標傾転角度は、パワーローラ9をトラニオン10と共にストロークさせることにより達成できるので、パワーローラ9のオフセット量を前記ストロークセンサ28によって検出し、その検出したオフセット量とストローク指令量との偏差を制御偏差として電磁弁19に対する指令信号(例えばデューティ比)がフィードバック制御される。
上記の基本的な変速制御を図7にブロック図によって概念的に示してある。図7において、先ず、目標変速比に相当する目標傾転角度φoと実際の傾転角度φとの偏差が求められる。その目標変速比およびこれに対応する目標傾転角度の算出は、従来、トロイダル型無段変速機での変速制御で実行されているのと同様にしておこなうことができる。例えば、アクセル開度などで表される要求駆動量と車速とに基づいて要求駆動力が算出され、その要求駆動力と車速とから目標出力が求められ、その目標出力を最小の燃費で達成する内燃機関の回転数が求められ、無段変速機の入力回転数がその内燃機関の回転数に相当する回転数となるように目標変速比および目標傾転角度φoが求められる。
その偏差に所定のゲインK1による処理を施してパワーローラ9のオフセット量(一例として中立点からのオフセット量)Xoが求められる。そのオフセット量Xoと実際のオフセット量Xとの偏差に所定のゲインK2による処理が施されて、前記電磁弁19について指令信号(例えばデューティ比)が求められ、その電磁弁19の出力する油圧によってパワーローラ9が変位し、かつそれに伴ってパワーローラ9が傾転することにより、無段変速機(CVT)が変速動作する。
上述した目標変速比や目標傾転角度は、要求駆動力などに基づいて求められるのに対して、実際の変速比や傾転角度は、パワーローラ9が各ディスク1,2のトロイダル面に接触している範囲で設定される。そこで、パワーローラ9が各ディスク1,2のトロイダル面を外れて傾転しないようにするために、目標変速比もしくは目標傾転角度に制御上の制限が設定しており、また機構上、パワーローラ9の過度な傾転を制限するストッパー33が設けられている。図8にその一例を模式的に示してあり、ストッパー33はトラニオン10の外面を当接させてその傾転動作を制限するように構成されている。より具体的には、前述した上下いずれか、もしくは上下両方のヨーク13,14にトラニオン10の外面を当接させる突起を設け、これをストッパー33とすることができる。
前述したように、上記のトロイダル型無段変速機での変速比もしくは傾転角度の制御は、目標値と実際値との偏差に基づいて前記油圧シリンダ17に対する圧油の給排を制御して実行される。したがって、変速比もしくは傾転角度の制御には、実際の変速比や傾転角度を求めておく必要がある。これに対して、変速比やこれに対応する傾転角度を各ディスク1,2などの入力側および出力側の回転部材の回転数に基づいて求める構成では、上記のトロイダル型無段変速機を搭載している車両が停止していたり、その車速が低車速の場合には、前述した各回転数センサ30,31による回転数の検出精度が低下し、その結果、実際の変速比や傾転角度を正確に検出することができず、これが要因となって変速比もしくは傾転角度の制御を精度よく実行することができなくなる。このような不都合を解消するために、この発明の制御装置は、以下に述べる制御を実行するように構成されている。
図1は、上述したトロイダル型無段変速機が搭載された車両の発進制御が実行された場合の制御の一例を示しており、先ず、発進制御の信号が入力される(ステップS1)。したがって図1に示す制御は、パワーローラ9が中立位置にある場合に実行される。ついで、その時点の車速Vが、予め定めた基準車速V0より低車速か否かが判断される(ステップS2)。その基準車速V0は、低車速であることによるいずれかのディスク1,2の回転数が低く、そのために前記回転数センサ30,31による回転数の検出精度が、変速比もしくは傾転角度の検出精度に影響を及ぼす程度に低い車速として設定した値であり、その目的の範囲で、任意にもしくは実験的に基づいて定めることができる。したがって、このステップS2は、いずれかのディスク1,2もしくはこれらと一体となって回転する部材の回転数を判定するステップに置き換えることができる。
このステップS2で肯定的に判断された場合、すなわち車速Vが基準車速V0より低車速(停止していることを含む)の場合、入力トルクTinが読み込まれる(ステップS3)。図1に示す制御例は、発進時の制御であるから、図示しない動力源から前記入力ディスク1に入力されるトルクTinが読み込まれる。その動力源がガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関の場合には、吸入空気量や燃料噴射量などに基づいて推定されたトルクもしくはこれを補正したトルクが入力トルクTinとされ、また電動機が動力源として使用されている場合には、その電動機の電流値に基づいて求められたトルクもしくはこれを補正したトルクが入力トルクTinとされ、さらにハイブリッド車にあっては内燃機関のトルクと電動機もしくは発電機のトルクとから求められたトルクもしくはその補正値が入力トルクTinとされる。
さらに、前述したハイ油室17Hとロー油室17Lとの差圧Pabが読み込まれる(ステップS4)。この差圧Pabは、各油室17H,17Lの油圧を検出し、その検出値の差であってよく、あるいはライン圧や前記電磁弁19のデューティ比などの制御値から演算して求めた値であってもよい。
そして、上記の入力トルクTinと差圧Pabとに基づいて、変速比γが推定もしくは検出される(ステップS5)。ここで、入力トルクTinと差圧Pabと変速比γとの三者の関係を説明すると、一方の油室(例えばハイ油室17H)の油圧をPaとし、他方の油室(例えばロー油室17L)の油圧をPbとすると、差圧Pabはこれらの油圧の差(Pa−Pb)であり、これとピストン18の受圧面積Aとの積が、油圧シリンダ17で発生する推力となる。また、パワーローラ9が中立位置にあって変速が生じていない状態では、パワーローラ9を介してトルクを伝達することに伴ってパワーローラ9に作用する接線方向の荷重Ftが、油圧シリンダ17による推力と釣り合うことになる。すなわち、
Ft=A・(Pa−Pb)
一方、パワーローラ9と入力ディスク1との接触点の半径をr1とすると、パワーローラ9の接線方向の荷重Ftは、
Ft=Tin/2r1
の関係にある。さらに、その接触点半径r1は、トロイダル面の曲率半径r0などの諸元および変速比γなどをパラメータとして所定の関数で表される関係にあり、
r1=f(γ,r0,…)
となる。
したがって、入力トルクTinと差圧Pabと変速比γとの三者は一定の関係にあるので、入力トルクTinと差圧Pabとから変速比γを求めることができる。その変速比γの算出は、入力トルクTinと差圧Pabとを使用して演算によって求めることができ、あるいは上記の三者の値をマップとして予め求めておき、そのマップに基づいて変速比γを求めることもできる。図1に示す例では、マップから変速比γを推定することとしている。
なお、図1のステップS2で否定的に判断された場合、すなわち車速Vが基準車速V0以上である場合には、前述した各回転数センサ30,31で検出された入力回転数Ninと出力回転数Noutとの比として変速比γが算出される(ステップS6)。回転数の検出精度が特には低下しないからである。
したがって、図1に示す制御を行うように構成されたこの発明に係る制御装置によれば、回転数に基づかずに変速比を求めることができ、またその変速比に相当するパワーローラ9の傾転角度を求めることができる。そのため、車両が停止していたり、低車速であったりしても、変速比や傾転角度を精度よく求めることができ、ひいては変速制御を正確に行うことができる。例えば、発進の際の変速比γを最大変速比γMAXに設定して、必要十分な駆動力を得ることができる。また、パワーローラ9の傾転角度を検出する傾転角度センサを必要としないので、構成部材を少なくして全体としての構成を簡素化し、またコストの低廉化を図ることができる。
前述したように、回転数から変速比もしくは傾転角度を求めるように構成されたトロイダル型無段変速機では、これが搭載された車両が低車速もしくは停車しているなどの場合には、回転数の検出精度が低くなって変速比もしくは傾転角度を正確に求めることができず、変速制御を所期通りに実行できない場合がある。このような不都合を回避することを目的として、以下に述べる制御を実行するように制御装置を構成することができる。さらに、変速比を増大させる方向の制御が過度に生じたり、それに伴ってトラニオン10がストッパー33に当接したりするなどの事態を未然に回避することができる。
図2は、その制御の一例を示しており、ここに示す例は、回転数の検出精度が変速比の制御に影響を及ぼす場合に変速を禁止するように構成した例である。すなわち、前述した図1に示す制御例と同様に、先ず、車速Vが基準車速V0より低車速か否かが判断される(ステップS11)。このステップS11で肯定的に判断された場合には、実際の変速比を正確に検出できないことになるので、パワーローラ9の最終目標ストローク量Xcが、パワーローラ中立点X0に設定される(ステップS12)。すなわち、パワーローラ9を傾転の生じない中立位置に設定するストローク量が、目標値とされる。言い換えれば、パワーローラ9のオフセット量がゼロとされる。
一方、車速Vが基準車速V0以上であることによりステップS11で肯定的に判断された場合には、要求駆動力や車速などから求められた目標オフセット量Xtをパワーローラ中立点X0に加えたストローク量が目標ストローク量Xcとされる(ステップS13)。このようにしてステップS12もしくはステップS13で求められた目標ストローク量Xcを達成するように変速指令が行われる(ステップS14)。具体的には、前述した電磁弁19に制御信号を出力していずれかの油室17H,17Lに対する圧油の給排を行い、それに伴う油圧シリンダ17の推力の変化に応じてパワーローラ9をストロークさせる。
したがって、図2に示す制御を行うように構成した場合には、回転数の検出精度が低いために、変速比を正確に制御できない状態では、パワーローラ9を傾転の生じない中立位置に保持する。そのため、パワーローラ9が過度に傾転したり、それに伴ってトラニオン10がストッパー33に当接したりするなどの事態を未然に回避することができる。そして、ストッパー33に当接する心配がないため、変速比幅を広く取ることが可能になり、それに伴って燃費を向上させることが可能になる。また、トロイダル型無段変速機は変速速度が速いために、これを搭載した車両が停止する場合には、変速比が最大値に設定されているのが通常であり、したがって図2に示すように制御すれば、発進時の変速比を最大変速比に維持でき、円滑な発進を行うことができる。
すなわち、図2に示す制御を実行するように構成した制御装置は、変速比を制御するためのアクチュエータもしくはパワーローラ9をストロークさせるための油圧シリンダ17に給排する流体圧もしくは油圧を、機械的なフィードバック機構によらずに、電気的にフィードバック制御するように構成されたトロイダル型無段変速機を対象とし、変速比に応じて回転数が変化する回転部材の回転数の検出精度が、低回転数であること、あるいはセンサに異常が生じたことなどによって低下した場合に、予期しない変速が生じることを防止もしくは抑制することを目的とする制御装置である。そして、この制御装置は、前記回転数を検出できないことを含めて回転数の検出精度が低下した場合に、変速を禁止し、あるいはパワーローラ9をその傾転が生じない中立位置に保持するように前記アクチュエータもしくは油圧シリンダ17に給排する流体圧もしくは油圧をフィードバック制御するように構成された装置である。換言すれば、回転数の検出精度が低下した場合に、中立位置を目標オフセット量とした制御を行うように構成された装置である。
つぎに目標傾転角度を制限する制御について説明する。上述したトロイダル型無段変速機の変速制御は、要求駆動力などに基づいて目標変速比すなわちパワーローラ9の目標傾転角度を求め、実際の傾転角度とその目標傾転角度との偏差から目標オフセット量を算出し、実際のオフセット量との偏差がなくなるようにパワーローラ9をストロークさせ、その結果、傾転角度が目標値になった状態でパワーローラ9を中立点に復帰させることにより行われる。そのパワーローラ9のオフセット量は、傾転の生じない中立点からの変位量であるから、制御上の中立点に誤差がある場合、それに基づいたオフセット量は、実際の中立点からのオフセット量にはならず、そのためにパワーローラ9が大きく傾転したり、反対に傾転角度が不足したりする。これは、傾転角度の制御上の限界値を設定してある場合であっても同様である。そこで、以下に説明する制御例では、実際に設定されている傾転角度に基づいて傾転角度の制限値を変更する。
図3はその制御例を示しており、実傾転角度φが、制御上(制御ソフト上)設定されている上限値φmaxと下限値φminとの間に入っているか否かが判断される(ステップS21)。その実傾転角度φは、図1を参照して説明した制御例で求められたものであってもよく、また車速が前述した基準車速V0以上であれば、入力回転数と出力回転数との比に基づいて求めた傾転角度であってもよく、さらに傾転角度センサを使用している場合には、その傾転角度センサで得られたものであってもよい。このステップS21で否定的に判断されれば、実傾転角度φが制御上の上限値φmaxあるいは下限値φminを超えていることになる。その場合、実傾転角度φが目標傾転角度φcに設定される(ステップS22)。
上記のステップS21で肯定的に判断された場合、あるいはステップS22で実傾転角度φが目標傾転角度φcに設定された後、目標傾転角度φcが制御上の上限値φmaxと下限値φminとの間に入っているか否かが判断される(ステップS23)。その目標傾転角度φcは、上記のステップS21で肯定的に判断された場合には要求駆動力や車速などに基づいて求められた目標値であり、これとは反対にステップS21で否定的に判断されることによりステップS22の制御が実行された場合には、実傾転角度φが目標傾転角度φcとなっている。
このステップS23で否定的に判断された場合には、目標傾転角度φcが上限値φmaxもしくは下限値φminを超えているので、目標傾転角度φcがその上限値φmaxもしくは下限値φminに設定される(ステップS24)。言い換えれば、目標傾転角度φcによって制御上の上限値φmaxもしくは下限値φminが変更される。その場合、実傾転角度φが上限値φmaxもしくは下限値φminを超えていることによりステップS22でその実傾転角度φが目標傾転角度φcとされていれば、ステップS24においてその実傾転角度φが制御上の上限値φmaxもしくは下限値φminとされる。
そして、ステップS23で肯定的に判断された場合、あるいはステップS24の制御が実行された後、その目標傾転角度φcに基づいた変速指令が出力される(ステップS25)。これは、前述した図2におけるステップS14における制御と同様である。
したがって図3に示す制御によれば、実際に設定されている傾転角度が制御上の上限値φmaxもしくは下限値φminを超えている場合、その実傾転角度φを上限値φmaxもしくは下限値φminとするとともに目標傾転角度φcとするので、パワーローラ9の制御上の中立点にくるいがあっても、ストッパー33に当接するまでパワーローラ9が傾転することを回避することができる。
したがって、図3に示す制御を実行するように構成された制御装置は、トロイダル型無段変速機の動作状態もしくはトロイダル型無段変速機が搭載された車両の走行状態などに基づいて、パワーローラ9の目標傾転角度を求め、その目標傾転角度を達成するように制御指令を出力するとともに、傾転角度の制御上の上下限値を設定してある制御装置であって、中立点のくるいなどに起因する変速の過不足を防止もしくは抑制することを目的として、実際の傾転角度に基づいて上下限値を変更し、あるいは実際の傾転角度が上限値もしくは下限値を超えている場合には、実際の傾転角度を目標値として変速制御を行うように構成されていることを特徴とする制御装置である。
ところで、前述したストッパー33は、パワーローラ9もしくはこれを保持しているトラニオン10を当接させて、それ以上の傾転を阻止するためのものである。このストッパー33は、万が一、パワーローラ9が過度に傾転してディスク1,2のトロイダル面を外れることを防止するために設けられており、通常は、これに当接しないように、制御上の制限が設定されている。そのために、その制限を超えて傾転してしまった場合には、ストッパー33に当接しているか否かを検出することができないのが通常であり、そのままトロイダル型無段変速機を動作させると、動力循環やそれに伴う摩耗などが生じる可能性がある。このような不都合を解消するために、以下の制御を実行するように制御装置を構成することができる。
図4はその制御例を示しており、先ず、パワーローラ中立点X0と実ストローク量Xとの偏差が生じているか否か、すなわち両者の値の差の絶対値がゼロより大きいか否かが判断される(ステップS31)。このステップS31で否定的に判断された場合には、変速を実行しないので、リターンする。これとは反対にステップS31で肯定的に判断された場合には、傾転角度φの変化速度がゼロか否か、すなわち傾転角度φが変化しているか否かが判断される(ステップS32)。その傾転角度φは、図1を参照して説明した制御例で求められたものであってもよく、また車速が前述した基準車速V0以上であれば、入力回転数と出力回転数との比に基づいて求めた傾転角度であってもよく、さらに傾転角度センサを使用している場合には、その傾転角度センサで得られたものであってもよい。
前述したように、パワーローラ9が中立位置からオフセットすると、サイドスリップ力が発生するためにパワーローラ9が傾転する。したがって、ステップS32で肯定的に判断されれば、変速が正常に生じていることになるので、リターンする。これとは反対にステップS32で否定的に判断されれば、パワーローラ9に対してこれを傾転させるサイドスリップ力が生じているにも拘わらず、その傾転角度が変化しないことになる。このような事態は、傾転を阻止する力が外部から作用している場合に発生し、具体的には前記ストッパー33に当接して傾転が阻止されている状態である。すなわち、ステップS32ではストッパー33に当接しているか否かを判定していることになる。
ストッパー33に当接していることによりステップS32で否定的な判断がなされた場合には、ストッパー33とは反対方向に傾転するように目標オフセット量Xtが設定される。すなわち、パワーローラ中立点X0にその目標オフセット量Xtを加算し、あるいは減算してストローク量が求められ、それに基づく変速指令が出力される(ステップS33)。
したがって、図4に示す制御を行うように構成した場合には、パワーローラ9を中立点からオフセットさせたのにも拘わらずその傾転角度が変化しないことによって、パワーローラ9を保持しているトラニオン10がストッパー33に当接していることを検出することができる。すなわち、特別なセンサを追加することなく、既存の装置によってストッパー33に当接していることを検出できるので、装置の簡素化あるいは低コスト化を図ることができる。また、ストッパー33に当接していることが検出もしくは判定された場合には、ストッパー33から離れる方向にパワーローラ9を傾転させるようにストロークさせるので、パワーローラ9と各ディスク1,2との間の過度の滑りやそれに起因する摩耗などを回避もしくは抑制することができる。
ここで、この発明と上記の具体例との関係を簡単に説明すると、図1に示すステップS5の機能的手段が、この発明の推定手段に相当し、また図4に示すステップS32の機能的手段が、この発明の傾転判定手段および傾転規制判定手段に相当し、さらに図4に示すステップS33の機能的手段が、この発明の反転指示手段に相当する。
1…入力ディスク、 2…出力ディスク、 4…入力軸、 9…パワーローラ、 10…トラニオン、 17…油圧シリンダ、、 17H…ハイ油室、 17L…ロー油室、 19…電磁弁、 30…入力回転数センサ、 31…出力回転数センサ、 32…電子制御装置(ECU)、 33…ストッパー。