つぎに、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。まず、この発明を適用できる車両のパワートレーン、およびその車両の制御系統を、図2に示す。図2に示す車両Veにおいては、駆動力源1と車輪2との間の動力伝達経路に、流体伝動装置3、ロックアップクラッチ4、前後進切り換え機構5、ベルト式無段変速機6などが設けられている。駆動力源1としては、例えば、エンジンまたは電動機の少なくとも一方を用いることができる。電動機としては、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを有するモータ・ジェネレータを用いることが可能である。この実施例では、駆動力源1として、エンジンが用いられている場合について説明する。このエンジンとしては、内燃機関、具体的には、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどを用いることが可能である。
また、流体伝動装置3およびロックアップクラッチ4は、駆動力源1と前後進切り換え機構5との間の動力伝達経路に設けられており、流体伝動装置3とロックアップクラッチ4とは相互に並列に配置されている。流体伝動装置3は、流体の運動エネルギにより動力を伝達する装置であり、ロックアップクラッチ4は、摩擦力により動力を伝達する装置である。前後進切り換え機構5は、入力部材に対する出力部材の回転方向を、選択的に切り換える装置である。
ベルト式無段変速機6は、前後進切り換え機構5と車輪2との間の動力伝達経路に設けられている。ベルト式無段変速機6は、相互に平行に配置されたプライマリシャフト7およびセカンダリシャフト8を有している。このプライマリシャフト7にはプライマリプーリ9が設けられており、セカンダリシャフト8にはセカンダリプーリ10が設けられている。プライマリプーリ9は、プライマリシャフト7に固定された固定シーブ11と、プライマリシャフト7の軸線方向に移動できるように構成された可動シーブ12とを有している。そして、固定シーブ11と可動シーブ12との間に溝M1が形成されている。
また、この可動シーブ12をプライマリシャフト7の軸線方向に動作させることにより、可動シーブ12と固定シーブ11とを接近・離隔させる油圧サーボ機構13が設けられている。この油圧サーボ機構13は、油圧室19と、油圧室19のオイル量または油圧に応じてプライマリシャフト7の軸線方向に動作し、かつ、可動シーブ12に接続されたピストン(図示せず)とを備えている。
一方、セカンダリプーリ10は、セカンダリシャフト8に固定された固定シーブ14と、セカンダリシャフト8の軸線方向に移動できるように構成された可動シーブ15とを有している。そして、固定シーブ14と可動シーブ15との間にはV字形状の溝M2が形成されている。また、この可動シーブ15をセカンダリシャフト8の軸線方向に動作させることにより、可動シーブ15と固定シーブ14とを接近・離隔させる油圧サーボ機構16が設けられている。この油圧サーボ機構16は、油圧室100と、油圧室100の油圧またはオイル量に応じてセカンダリシャフト8の軸線方向に動作し、かつ、可動シーブ15に接続されたピストン(図示せず)とを備えている。上記構成のプライマリプーリ9およびセカンダリプーリ10に、無端状のベルト17が巻き掛けられている。このベルト17は、金属製のリングに、円周方向に沿って金属製の駒(エレメント)を多数取り付けて構成されている。
一方、ベルト式無段変速機6の油圧サーボ機構13,16およびロックアップクラッチ4、および前後進切り換え機構5を制御する機能を有する油圧制御装置18が設けられている。さらに、駆動力源1、ロックアップクラッチ4、前後進切り換え機構5、ベルト式無段変速機6、油圧制御装置18を制御するコントローラとしての電子制御装置52が設けられており、この電子制御装置52は、演算処理装置(CPUまたはMPU)および記憶装置(RAMおよびROM)ならびに入出力インターフェースを主体とするマイクロコンピュータにより構成されている。
この電子制御装置52には、エンジン回転数、アクセルペダルの操作状態、ブレーキペダルの操作状態、スロットルバルブの開度、シフトポジション、プライマリシャフト7の回転数、セカンダリシャフト8の回転数、油圧制御装置18の油圧回路に供給されるオイルの油温、駆動力源1からプライマリシャフト7に入力されるトルク、油圧室19,100の油圧、油圧制御装置18のリニアソレノイドバルブ(後述する)のスプール(後述する)の位置、油圧室19,100に供給されるオイル量などを検知するセンサの信号が入力される。このセカンダリシャフト8の回転数に基づいて車速が求められる。また、基本的には、プライマリシャフト7の回転数およびセカンダリシャフト8の回転数に基づいて、ベルト式無段変速機6の変速比を算出することが可能である。電子制御装置52には各種のデータが記憶されており、電子制御装置52に入力される信号、および記憶されているデータに基づいて、電子制御装置52から、駆動力源1を制御する信号、ベルト式無段変速機6を制御する信号、前後進切り換え機構5を制御する信号、ロックアップクラッチ4を制御する信号、油圧制御装置18を制御する信号などが出力される。
つぎに、図2に示す車両Veの作用を説明する。ロックアップクラッチ4のトルク容量が所定値以下である場合は、駆動力源1の動力が、流体伝動装置3および前後進切り換え機構5を経由して、ベルト式無段変速機6のプライマリシャフト7に伝達される。プライマリシャフト7のトルクは、プライマリプーリ9、ベルト17、セカンダリプーリ10を介してセカンダリシャフト8に伝達される。そして、セカンダリシャフト8のトルクが車輪2に伝達されて駆動力が発生する。
つぎに、ベルト式無段変速機6の変速制御を説明する。前記油圧室19,100に供給されるオイル量または油圧を制御可能であるが、ここでは、油圧室19についてはオイル量を制御し、油圧室100については油圧を制御する場合を例として説明する。まず、油圧室19のオイル量に基づいて、プライマリプーリ9の可動シーブ12を軸線方向に動作させる推力が調整される。また、油圧室100の油圧により、セカンダリプーリ10の可動シーブ15を軸線方向に動作させる推力(挟圧力)が調整される。そして、可動シーブ12の軸線方向の動作に応じて溝M1の幅が変化し、可動シーブ15の軸線方向の動作に応じて溝M2の幅が変化する。
上記のようにして、溝M1の幅が調整されると、プライマリプーリ9におけるベルト17の巻き掛け半径と、セカンダリプーリ10におけるベルト17の巻き掛け半径との比が変化する。その結果、プライマリシャフト7およびプライマリプーリ9の回転速度と、セカンダリシャフト8およびセカンダリプーリ10の回転速度との比、すなわち変速比が変化する。具体的には、油圧室19のオイル量が増加して溝M1の幅が狭められると、プライマリプーリ9におけるベルト17の巻き掛け半径が大きくなり、ベルト式無段変速機6の変速比が小さくなるように変速(増速)する。これに対して、油圧室19のオイル量が減少すると、ベルト17の張力により溝M1の幅が広げられて、プライマリプーリ9におけるベルト17の巻き掛け半径が小さくなり、ベルト式無段変速機6の変速比が大きくなるように変速(減速)する。
また、この変速制御に伴い溝M2の幅が調整されると、ベルト17に作用する挟圧力およびベルト17の張力が変化し、かつ、プライマリシャフト7とセカンダリシャフト8との間で伝達されるトルクの容量が制御される。具体的には、油圧室100の油圧が高められて、ベルト17に加えられる挟圧力が増加すると、ベルト17のトルク容量が増加する。これに対して、油圧室100の油圧が低下して、ベルト17に加えられる挟圧力が減少すると、ベルト17のトルク容量が低下する。
つぎに、油圧制御装置18における油圧回路の構成例を図3に基づいて説明する。図3において、オイルポンプ60から吐出されたオイルが油路61に供給される構成となっている。油路61はプライマリレギュレータバルブ62に接続されている。プライマリレギュレータバルブ62は、軸線方向に動作可能なスプール63と、スプール63を図3で下向きに付勢する弾性部材64と、ポート65,66,67,68とを有している。そして、ポート65,67と油路61とが接続されている。また、ポート68の油圧に応じて、スプール63を図3で下向きに付勢する力が生じる。これに対して、ポート67の油圧に応じて、スプール63を図3で上向きに付勢する力が生じる。
また、油路61はリニアソレノイドバルブSLRにも接続されている。リニアソレノイドバルブSLRは、流量制御部69と電磁部70とを有している。流量制御部69は、ケーシング71内で軸線方向に動作可能なスプール72と、スプール72を図3で下向きに付勢する弾性部材73と、スプール72に形成されたランド74,75と、ケーシング71に形成された入力ポート78と、ケーシング71に形成された出力ポート77と、ケーシング71に形成されたドレーンポート76とを有している。入力ポート78と油路61とが接続され、出力ポート77は、油路79を経由して油圧室19に接続されている。さらに、流量制御部69にはポート80が形成されており、ポート80の油圧により、スプール72を図3で上向きに付勢する付勢力が生じる。
前記電磁部70は、電力が供給される電磁コイル81と、電磁コイル81により生成される磁気吸引力により、軸線方向に付勢されるプランジャ82とを有している。磁気吸引力によりプランジャ82に加えられる付勢力は、弾性部材73の付勢力とは逆向きである。プランジャ82とスプール72とは同軸上に、かつ相互の端面同士が接触した状態で配置されている。上記構成のリニアソレノイドバルブSLRにおいては、スプール72が軸線方向に動作すると、入力ポート78と出力ポート77との連通面積がランド75により調整され、出力ポート77とドレーンポート76との連通面積がランド74により調整される。上記構成のリニアソレノイドバルブSLRは、電磁コイル81への通電電流値が零となった場合に、入力ポート78と出力ポート77とが連通され、出力ポート77とドレーンポート76とが遮断された状態となる、ノーマルオープン形式のリニアソレノイドバルブである。
つぎに、油圧室100にオイルを給排する油圧回路を説明する。油路61には油路182が接続されており、油圧室100には油路83が接続されている。そして、油路182と油路83との間にラインプレッシャモジュレータバルブ84が設けられている。ラインプレッシャモジュレータバルブ84は、軸線方向に動作可能なスプール85と、スプール85に形成されたランド86,87,88と、スプール85を図3で下向きに付勢する弾性部材89と、軸線方向に動作可能なプランジャ90と、入力ポート91および出力ポート92と、ドレーンポート93と、ポート94,95,96,121とを有している。ポート95は油路61に接続され、ポート92,96は油路83に接続され、入力ポート91は油路82に接続されている。プランジャ90とスプール85とは同軸上に配置されおり、ポート94,95の油圧に応じて、プランジャ90を図3で下向きに付勢する力が生じる。このプランジャ90の動作力はスプール85に伝達される。なお、ポート96,121の油圧に応じて、図3で上向きの付勢力がスプール85に加えられる。
前記油路61のオイルは、ラインプレッシャモジュレータバルブ(図示せず)および油路97を経由してリニアソレノイドバルブSLSに供給される構成となっている。油路97は前記ポート121にも接続されている。リニアソレノイドバルブSLSは、軸線方向に動作可能なスプール98と、スプール98を図3で上向きに付勢する弾性部材99と、スプール98を弾性部材99とは逆向きに付勢する磁気吸引力を形成する電磁コイル101と、入力ポート102および出力ポート103およびフィードバックポート104を有している。入力ポート102と油路97とが接続され、出力ポート103およびフィードバックポート104と、プライマリレギュレータバルブ62のポート68と、ラインプレッシャモジュレータバルブ84のポート94とが、油路105により接続されている。リニアソレノイドバルブSLSは、電磁コイル101への通電電流値が零となった場合に、スプール98が図3で上向きに動作して、入力ポート102と出力ポート103との連通面積が最大となる、ノーマルオープン形式のリニアソレノイドバルブである。
前記油路97にはデューティソレノイドバルブDSLが接続されている。デューティソレノイドバルブDSLは、電磁コイル106とポート107,108とを有している。このポート107と油路97とが接続されている。このデューティソレノイドバルブDSLは、電磁コイル106への通電(オン)と非通電(オフ)とを交互に繰り返すとともに、オン時間の割合とオフ時間の割合とを、零%ないし100%の範囲で任意に制御可能である。このデューティソレノイドバルブDSLは、電磁コイル106がオフである場合にポート107とポート108とが連通し、電磁コイル106がオンである場合にポート107とポート108とが遮断される、いわゆるノーマルクローズ形式のソレノイドバルブである。
さらに、ポート108と、リニアソレノイドバルブSLRのポート80とを接続する油路109,110が設けられており、油路109と油路110との間にクラッチロックバルブ111が設けられている。クラッチロックバルブ111は、軸線方向に動作可能なスプール112と、ポート113,114,115と、スプール112を所定の向き(図3で上向き)に付勢する弾性部材116とを有している。さらに、クラッチロックバルブ111は、軸線方向に動作可能なスプール117と、ポート118およびドレーンポート120とを有している。スプール112とスプール117とは同心上に配置されており、ポート118と、プライマリレギュレータバルブ62のポート66とが、油路119により接続されている。また、油路105のオイルがポート115に供給される構成となっている。そして、ポート118の油圧に応じて、スプール117を、図3で下向きに付勢する力が生じる。これに対して、ポート115の油圧に応じてスプール112を、図3で上向きに付勢する力が生じる。なお、デューティソレノイドバルブDSLおよびリニアソレノイドバルブSLR,SLSに電力を供給する給電装置(図示せず)が設けられており、デューティソレノイドバルブDSLおよびリニアソレノイドバルブSLR,SLSに供給される電力の電流値は、電子制御装置52により制御される。
つぎに、電子制御装置52および油圧制御装置18の機能を説明する。まず、油圧制御装置18の機能が正常である場合について説明する。オイルポンプ60から吐出されたオイルが油路61に供給されると、油路61のオイルはプライマリレギュレータバルブ62のポート65,67に供給される。プライマリレギュレータバルブ62においては、弾性部材64の付勢力、およびポート68の油圧に応じた付勢力により、スプール63が図3において下向きに押圧されており、油路61の油圧が所定値以下である場合は、ポート65とポート66とが遮断される。したがって、油路61のオイルは油路119には排出されず、油路61の油圧が上昇する。
その後、油路61の油圧の上昇により、ポート67の油圧が高まると、スプール63が図3で上向きに動作し、ポート65とポート66とが連通する。その結果、油路61のオイルが油路119に排出されて、油路61の油圧の上昇が抑制される。この作用により油路61の油圧が低下すると、ポート67の油圧も低下して、スプール63が、再び図3において下向きに動作し、ポート65とポート66との連通面積を狭める。このようにして、油路61の油圧(ライン圧)が所定圧に調圧される。
この油路61のオイルは、ベルト式無段変速機6の油圧室19,100に供給されて、ベルト式無段変速機6の変速比およびトルク容量が制御される。まず、ベルト式無段変速機6の変速比の制御について説明する。前記油路61のオイルはリニアソレノイドバルブSLRの入力ポート78に供給されており、リニアソレノイドバルブSLRへの通電電流を制御することにより、油路61から油路79を経由して、プライマリプーリ9の油圧室19に供給されるオイル量が調整される。例えば、ベルト式無段変速機6で減速を実行する要求が生じた場合は、リニアソレノイドバルブSLRの電流値が高められて、スプール72が図3で上向きに動作する。すると、ドレーンポート76と出力ポート77との連通面積が拡大されて、油圧室19からドレーンポート76に排出されるオイル量が増加して、プライマリプーリ9におけるベルト17の巻き掛け半径が小さくなる。
これに対して、ベルト式無段変速機6で増速を実行する要求が生じた場合は、リニアソレノイドバルブSLRの電流値が低下されて、スプール72が図3で下向きに動作する。すると、出力ポート77と入力ポート78との連通面積が拡大されて、油圧室19に供給されるオイル量が増加し、プライマリプーリ9におけるベルト17の巻き掛け半径が大きくなる。
さらに、ベルト式無段変速機6の変速比を略一定に維持(固定)する要求が生じた場合は、リニアソレノイドバルブSLRの電流値の制御により、スプール72が軸線方向の所定位置で停止して、出力ポート77と、入力ポート78およびドレーンポート76とが遮断される。その結果、油圧室19に略一定量のオイルが保持され、プライマリプーリ9におけるベルト17の巻き掛け半径が略一定に制御される。このように、スプール72を軸線方向の所定位置で停止させて、出力ポート77と、入力ポート78およびドレーンポート76とを遮断することにより、油圧室19に略一定量のオイルを保持する制御を、この明細書では「とじ込み制御」と呼ぶ。
一方、リニアソレノイドバルブSLR,SLSおよびデューティソレノイドバルブDSLの機能が正常である場合は、リニアソレノイドバルブSLSに供給される電力の電流値が高められて、入力ポート102と出力ポート103との連通面積が狭められる。このようにして、リニアソレノイドバルブSLSの出力油圧、つまり、油路105の油圧が低圧に制御される。この油路105の油圧は、クラッチロックバルブ111のポート115にも伝達される。ポート115の油圧が低圧である場合は、ポート118の油圧により、スプール117が、図3において下向きに動作し、その動作力がスプール112に伝達されて、スプール112も図3において下向きに動作する。このスプール112の動作により、図3で右半分に示すように、ポート113とポート114とが遮断されるとともに、ポート114とドレーンポート120とが連通される。このため、ポート80のオイルは、油路110を経由してドレーンポート120に排出され、ポート80の油圧が低圧となる。
つぎに、ベルト式無段変速機6のトルク容量の制御を説明する。前記油路61のオイルは油路182を経由して、ラインプレッシャモジュレータバルブ84の入力ポート91に供給される。ラインプレッシャモジュレータバルブ84においては、ポート95,94の油圧に対応する下向きの押圧力、および弾性部材89の下向きの押圧力と、ポート96,121などの油圧に対応する上向きの押圧力との対応関係に応じてスプール87が動作し、入力ポート91およびドレーンポート93と、出力ポート92との連通面積が調整されて、油路182から油路83に供給されるオイルの油圧、油路83からドレーンポート93にドレーンされるオイル量が調整される。
油圧室100の油圧は、主としてリニアソレノイドバルブSLSの電流値により制御される。例えば、ベルト式無段変速機6のトルク容量を増加する要求が生じた場合は、リニアソレノイドバルブSLSに供給される電流値を低下し、油路105からポート94に伝達される油圧を高める。すると、スプール85が図3において下向きに動作して、入力ポート91と出力ポート92との連通面積が拡大され、油圧室100の油圧が上昇する。これに対して、ベルト式無段変速機6のトルク容量を低下させる要求が生じた場合は、リニアソレノイドバルブSLSに供給される電流値を増加し、油路105からポート94に伝達される油圧を低下させる。すると、スプール85が図3において上向きに動作して、出力ポート92とドレーンポート93との連通面積が拡大され、油圧室100の油圧が低下する。ベルト式無段変速機6のトルク容量を略一定に維持する場合は、リニアソレノイドバルブSLSに供給される電流値を略一定に維持し、油路105からポート94に伝達される油圧を一定に制御する。すると、スプール85が軸線方向の所定位置で停止し、入力ポート91およびドレーンポート93と、出力ポート92とが遮断され、油圧室100の油圧が略一定に制御される。
ところで、リニアソレノイドバルブSLRの電気系統の機能が低下した場合は、以下のような制御が実行される。なお、リニアソレノイドバルブSLSおよびデューティソレノイドバルブDSLの機能は正常であるものとする。例えば、リニアソレノイドバルブSLRに電力を供給できなくなった場合(オフフェール)は、リニアソレノイドバルブSLSに供給される電流値を最低に制御し、リニアソレノイドバルブSLSの出力油圧を最大圧とする。油路105の油圧が最大圧になると、クラッチロックバルブ111のポート115の油圧が上昇し、スプール112が図3において上向きに動作する。その結果、スプール112が図3で左半分に示す位置で停止して、ポート113とポート114とが連通し、ポート113とドレーンポート120とが遮断される。
また、デューティソレノイドバルブDSLの出力油圧が高められて、その油圧が油路109,110を経由して、リニアソレノイドバルブSLRのポート80に伝達される。このポート80の油圧が制御されると、軸線方向におけるスプール72の位置が制御されて、油圧室19におけるオイル量が制御される。具体的には、ベルト式無段変速機6で減速が要求されている場合は、ポート80の油圧を高めてスプール72を図3で上向きに動作させる制御が実行され、ベルト式無段変速機6で増速が要求されている場合は、ポート80の油圧を低下させてスプール72を図3で下向きに動作させる制御が実行され、ベルト式無段変速機6の変速比を固定する要求がある場合は、ポート80の油圧が略一定に制御されて、スプール72が所定位置で停止する。
このように、リニアソレノイドバルブSLRに供給される電力の電流値が所定値以下となった場合は、第1のフェール対策制御、つまり、「デューティソレノイドバルブDSLおよびクラッチロックバルブ111の機能により、ポート80の油圧を制御して、ベルト式無段変速機6の変速比を制御すること」を実行可能である。
つぎに、第1のフェール対策制御を実行する場合に、ポート80の油圧の具体的な制御方法を説明する。図4は、油圧室19におけるオイルの制御流量Qin と、ポート80の油圧Pfと、所定のパラメータとの関係の一例を示すマップである。ここでは、所定のパラメータとして油路61の油圧PLを採り上げる。油路61の油圧が低圧である場合が実線A1に相当し、油路61の油圧が高圧である場合が破線B1に相当する。図4のマップにおいて、「零」は、油圧室19にオイルが供給されず、かつ、油圧室19のオイルが排出されないこと、つまり、前述の「とじ込み制御」が実行されていることを意味する。また、図3のマップにおいて、「正」は、油圧室19にオイルが供給されることを意味し、「負」は、油圧室19からオイルが排出されることを意味する。
この図4において、実線A1および破線B1は共に、ポート80の油圧が所定油圧Pf1 以下の範囲では、ポート80の油圧が低下することにともない油圧室19に供給されるオイル量が増加する傾向を示している。また、実線A1および破線B1は共に、ポート80の油圧が所定油圧Pf1 以上の範囲では、ポート80の油圧が上昇することにともない油圧室19から排出されるオイル量が増加する傾向を示している。
そして、ポート80の油圧が所定油圧Pf1 以下の範囲では、ポート80の油圧が同じであっても、高ライン圧に対応するオイル供給量の方が、低ライン圧に対応する供給量よりも少なくなる傾向を示す。その理由は、以下のとおりである。油路61のオイルを油圧室19に供給する場合、オイルが入力ポート78を経由して出力ポート77に至る過程で、オイルの流体力(運動エネルギ)がランド74の端面に加えられて、スプール72を図3において上向きに付勢する付勢力が働く。つまり、入力ポート78と出力ポート77との連通面積を減少させる向きにスプール72を動作させる付勢力が生じる。そして、ライン圧が高いほど、上記付勢力が強い。このため、ポート80の油圧が同じであっても、ライン圧の高低に応じてより、軸線方向におけるスプール72の位置が異なる。このような理由から、ポート80の油圧が同じであっても、ライン圧の高低に応じて、油圧室19に供給されるオイル量に差が生じる。
これに対して、ポート80の油圧が所定油圧Pf1 以上の範囲では、ポート80の油圧が同じであっても、高ライン圧に対応するオイル排出量の方が、低ライン圧に対応するオイル排出量よりも少なくなる傾向を示す。その理由は、以下のとおりである。油圧室19のオイルを排出する場合、オイルが出力ポート77を経由してドレーンポート76に至る過程で、オイルの流体力(運動エネルギ)がランド75の端面に加えられて、スプール72を図3において下向きに付勢する付勢力が働く。つまり、ドレーンポート76と出力ポート77との連通面積を減少させる向きにスプール72を動作させる付勢力が生じる。そして、油圧室19からリニアソレノイドバルブSLRの内部に流れ込むオイルの油圧が高いほど、上記付勢力が強い。このため、ポート80の油圧が同じであっても、油圧室19の油圧に応じて、軸線方向におけるスプール72の位置が異なる。このような理由から、ポート80の油圧が同じであっても、油圧室19から排出されるオイル量に差が生じる。なお、ライン圧が高くなるほど、油圧室19の油圧も高くなる傾向にあることは勿論である。また、高ライン圧の場合と低ライン圧の場合とでは、「とじ込み制御」がおこなわれる油圧Pfの範囲、および最低油圧、および最高油圧も異なる。なお、「とじ込み制御」がおこなわれる油圧Pfの範囲、および最低油圧、および最高油圧も異なる点は、以下に述べる各種のパラメータの場合にも当てはまる。
このように、ポート80の油圧が同じであっても、油圧室19に供給されるオイル量、および油圧室19から排出されるオイル量に相違が生じるため、図4に示すマップに基づいて、油圧室19の実際のオイル量を、目標変速比に相当する油圧室19のオイル量に近づけるように、ポート80の油圧をフィードバック制御する。つまり、ポート80の油圧をフィードバック制御する場合に、図4のマップに基づくフィードバックゲインを用いることにより、応答性に優れた変速制御を実行することが可能である。
つぎに、ポート80の油圧を制御する場合のパラメータとして、入力回転数(プライマリシャフト7の回転数)Nin を採り上げる場合を、図4に基づき説明する。図4のマップにおいては、実線A1が低入力回転数に対応するオイル量の特性を示し、破線B1が高回転数に対応するオイル量の特性を示している。まず、油圧室19にオイルを供給する場合について説明する。ポート80の油圧が所定油圧Pf1 以下の範囲では、ポート80の油圧が同じであっても、低入力回転数に対応するオイル供給量の方が、高入力回転数に対応するオイル供給量よりも多くなる。その理由は、以下のとおりである。油圧室19はプライマリプーリ9の回転部分に設けられており、プライマリプーリ9の回転による遠心力が油圧室19に作用する。そして、入力回転数が高いほど遠心力は強くなり、油圧室19における油圧(遠心油圧)が高まる。
ところで、油圧室19にオイルを供給する場合、入力ポート78と出力ポート77との圧力差によりオイル供給量が変動する。ここで、前述したように、入力回転数が高いほど、遠心力の影響により可動シーブ12が動作し易くなり、前記圧力差が大きくなるとともに、油路61から油圧室19に供給されるオイル量が少なくなる。したがって、油圧室19に供給されるオイル量が、図4のマップに示すような特性となる。
これに対して、油圧室19のオイルをドレーンポート76に排出する場合を説明する。ポート80の油圧が所定油圧Pf1 以上の範囲では、ポート80の油圧が同じであっても、低入力回転数に対応するオイル排出量の方が、高入力回転数に対応するオイル排出量よりも少なくなる。その理由は、以下のとおりである。油圧室19からオイルを排出する場合、出力ポート77とドレーンポート76との圧力差によりオイル排出量が変動する。具体的には、入力回転数が高いほど油圧室19の油圧が高くなり、可動シーブ12が動作し易くなり、油圧室19から排出されるオイル量が多くなる。したがって、油圧室19から排出されるオイル量が、図4のマップで示すような特性となる。そこで、図4に示すマップに基づき、入力回転数をパラメータとしてポート80の油圧を制御することにより、ベルト式無段変速機6の変速制御性が向上する。
つぎに、ポート80の油圧を制御するパラメータとして、油圧回路に供給されるオイルの温度を採り上げる場合を説明する。すなわち、高油温の場合の方が低油温の場合に比べてオイルの粘度が低く、オイルの流動性が高くなる。このため、油圧室19にオイルを供給する場合に、ポート80の油圧が同じであっても、高油温におけるオイル供給量の方が、低油温におけるオイル供給量よりも多くなる。また、油圧室19からオイルを排出する場合に、ポート80の油圧が同じであっても、高油温におけるオイル排出量の方が、低油温におけるオイル排出量よりも多くなる。そこで、オイルの油温をパラメータとしてポート80の油圧を制御することにより、ベルト式無段変速機6の変速制御性が向上する。
つぎに、ポート80の油圧を制御するパラメータとして変速比を採り上げる場合を説明する。この場合も図4のマップにより説明する。ここで、実線B1が大変速比の場合に相当し、破線A1が小変速比の場合に相当する。具体的には、油圧室19にオイルを供給する場合は、ポート80の油圧が同じであっても、大変速比に相当するオイル供給量の方が、小変速比に相当するオイル供給量よりも少なくなっている。これは、変速比が大きくなることにともない、セカンダリプーリ10の油圧室100の油圧が高められてベルト17の張力が高められており、ベルト17の張力に抗してプライマリプーリ9におけるベルトの巻き掛け半径を維持するためには、小変速比の場合よりも大変速比の方が油圧室19の油圧を高く制御する必要があり、入力ポート78と出力ポート77との差圧は、小変速比の場合よりも大変速比の場合の方が大きいからである。
これに対して、油圧室19からオイルを排出する場合は、ポート80の油圧が同じであっても、大変速比に相当するオイル排出量の方が、小変速比に相当するオイル排出量よりも多くなっている。これは、前述の理由により、小変速比の場合よりも大変速比の方が油圧室19の油圧が高く制御されており、出力ポート77とドレーンポート76との差圧は、小変速比の場合よりも大変速比の場合の方が大きいからである。
前述までのポート80の油圧の制御は、変速比が既知である場合におこなわれる制御であるが、ここでは、変速比が未知である場合にポート80の油圧を制御する場合を説明する。変速比が未知である場合としては、車速が所定値以下である場合、または各回転数センサがフェールしている場合が挙げられる。このように、変速比が未知である場合は、変速比を変動させることなく、固定するために「とじ込み制御」が実行される。変速比が未知である場合に実行されるとじ込み制御は、以下の不都合を回避するためである。
すなわち、ベルト式無段変速機6の変速比が最大変速比よりも小さい変速比である場合に、油圧室19のオイルをドレーンすると、ベルト17が滑る可能性があり、このベルト17の滑りを回避するために、とじ込み制御が実行される。また、変速比が未知である場合に、油圧室19のオイルを排出すると、急激にダウンシフト(変速比が大きくなる)して、車両の挙動が急激に変化する可能性があり、その不都合を回避するために、とじ込み制御が実行される。
このように、変速比が未知である場合は、入力トルクTin と推力比κとに基づいて、変速比γを推定することが可能である。まず、推力比κは、下記式により算出することが可能である。
κ=Wpri/Wsec
上記式において、Wpriは、プライマリプーリ9の可動シーブ12に加えられる軸線方向の第1の推力であり、Wsecは、セカンダリプーリ10の可動シーブ15に加えられる軸線方向の第2の推力である。そして、第1の推力Wpriは、油圧室19の油圧Pin から算出可能であり、第2の推力Wsecは、ライン圧PL、または油圧室100の油圧Pdから算出可能である。
一方、電子制御装置52には、図5に示すマップが記憶されている。このマップは、変速比γと入力トルクTin と推力比κとの関係を3次元的に示すものである。このマップでは、変速比γが大きくなるほど、推力比κが小さくなっている。また、入力トルクTin が大きくなるほど、推力比κが大きくなっている。また、この図5のマップは、入力トルクおよび変速比に基づいて、推力比を設定する場合に用いることが可能である。そして、前述のようにして算出された推力比γと、入力トルクTin と、図5に示すマップとに基づいて、変速比γが推定される。このようにして変速比γを推定し、その変速比および図4に示すマップに基づいて、ポート80の油圧を制御することも可能である。なお、上記のように、各種のパラメータに基づいて、とじ込み制御を実行する場合におけるスプール72の停止位置を設定する場合の概念図を図6に示す。
ところで、前述した図5のマップによれば、変速比が同じ場合でも入力トルクが、小さいほど推力比は小さくなる。ここで、推力比は、第1の推力を第2の推力で除した値であり、入力トルクが高いほど第1の推力が大きくなることを意味する。この第1の推力は、油圧室19の油圧と、ピストンの受圧面積との積であり、入力トルクが高いほど油圧室19の油圧が高くなる。そして、油圧室19の油圧が高いほど、出力ポート77とドレーンポート76との差圧が大きくなる。その結果、とじ込み制御の実行中に、ランド74とケーシング71との接触部分、つまり、シール面から漏れるオイル量が増加する。そこで、この実施例においては、入力トルクが高いほど、ポート80の油圧を低く設定する制御をおこなう。その結果、入力トルクが高いほど、ランド74により形成されるシール面のシール面積が拡大されて、オイル漏れ量の増加が抑制される。したがって、とじ込み制御時において、ベルト式無段変速機6の変速比の変動を確実に抑制できる。
つぎに、ポート80の油圧を制御する場合のパラメータとして、セカンダリプーリ10の油圧室100の油圧Pdを選択する場合について説明する。ベルト式無段変速機6で同じ変速比を設定する場合でも、油圧Pdが大きくなるほど油圧室19の油圧Pin を高める必要がある。その理由は前述したとおりである。したがって、油圧Pdまたは油圧Pin の少なくとも一方に基づいて、ポート80の油圧を制御することにより、ベルト式無段変速機6の変速制御性が向上する。以上のように、各種のパラメータと、ポート80の油圧との対応関係を示すマップに基づいて、第1のフェール対策制御を実行するということは、マップに記憶されているポート80の油圧のデータに基づき、ポート80の実際の油圧を制御していることになる。なお、第1のフェール対策制御を実行する場合、単数のパラメータ、または複数のパラメータのいずれを用いて制御を実行してもよい。
つぎに、リニアソレノイドバルブSLSの機能が低下した場合について説明する。ここでは、リニアソレノイドバルブSLRおよびデューティソレノイドバルブDSLの機能は正常であるものとする。例えば、リニアソレノイドバルブSLSに電力を供給することができなくなった場合(オフフェール)は、弾性部材99の付勢力でスプール98が図3で上向きに動作し、入力ポート102と出力ポート103との連通面積が最大となる。その結果、油路105の油圧が最大となり、プライマリレギュレータバルブ62のポート68の油圧も最大となる。すると、プライマリレギュレータバルブ62のスプール63が図3で上向きに動作しにくくなり、油路61の油圧が最大圧となる。また、油路105の油圧はラインプレッシャモジュレータバルブ84のポート94にも伝達されており、ポート94の油圧が最大になることにより、入力ポート91と出力ポート92との連通面積が最大となり、油路182から油路83に供給されるオイルの油圧も最大となる。このような作用により、ベルト式無段変速機6のトルク容量が最大となる。
一方、リニアソレノイドバルブSLSがオフフェールした場合は、ポート115の油圧が最大となり、クラッチロックバルブ111のスプール112が図3において上向きに動作し、ポート113とポート114とが連通する。ここで、デューティソレノイドバルブDSLの出力油圧を最低値に制御し、デューティソレノイドバルブDSLから、リニアソレノイドバルブSLRのポート80に伝達される油圧が上昇することを防止する。つまり、リニアソレノイドバルブSLSがオフフェールして最大ライン圧に固定される場合は、第2のフェール対策制御、つまり、「リニアソレノイドバルブSLRの電流値の制御により、ベルト式無段変速機6の変速比を制御すること」が実行される。
この第2のフェール対策制御を実行する場合におけるリニアソレノイドバルブSLRの電流値の制御例を、具体的に説明する。図7は、油圧室19におけるオイルの制御流量Qin と、リニアソレノイドバルブSLRの電流値Islrと、所定のパラメータとの関係の一例を示すマップである。ここでは、所定のパラメータとして油路61の油圧PLを採り上げる。油路61の油圧が高圧である場合が実線D1に相当し、油路61の油圧が低圧である場合が破線E1に相当する。図7のマップにおいて、「零」は、油圧室19にオイルが供給されず、かつ、油圧室19のオイルが排出されないこと、つまり、「とじ込み制御」が実行されていることを意味する。また、図7のマップにおいて、「正」は、油圧室19にオイルが供給されることを意味し、「負」は、油圧室19からオイルが排出されることを意味する。
この図7において、実線D1および破線E1は共に、電流値が所定値Islr1 以下の範囲では、電流値が低下することにともない油圧室19に供給されるオイル量が増加する傾向を示している。また、実線D1および破線E1は共に、電流値が所定値Islr1 以上の範囲では、電流値が上昇することにともない油圧室19から排出されるオイル量が増加する傾向を示している。
そして、電流値が所定値Islr1 以下の範囲では、電流値が同じであっても、高ライン圧(最大圧)に対応するオイル供給量の方が、低ライン圧に対応するオイル供給量よりも少なくなる傾向を示す。これに対して、電流値が所定値Islr1 以上の範囲では、電流値が同じであっても、高ライン圧に対応するオイル排出量の方が、低ライン圧に対応するオイル排出量よりも少なくなる傾向を示す。その理由は、第1のフェール対策制御において、油路61の油圧と、軸線方向におけるスプール72の位置との対応関係で説明した理由と同じである。そして、とじ込み制御を実行している場合に、増速要求が生じて電流値を低下させると、低ライン圧の方が、高ライン圧に比べて増速し易い。これに対して、とじ込み制御を実行している場合に、減速要求が生じて電流値を上昇させると、高ライン圧の方が、低ライン圧に比べて減速し易い。したがって、第2のフェール対策制御を実行する場合は、ライン圧に基づいてリニアソレノイドバルブSLRの電流値を制御することにより、ベルト式無段変速機6の変速制御性の低下を抑制できる。
つぎに、第2のフェール対策制御を実行する場合のパラメータとして、入力回転数(プライマリシャフト7の回転数)Nin を採り上げる場合を説明する。前述の第1のフェール対策制御例で説明したように、入力回転数に応じて油圧室19のオイル量が変化する傾向にある。このため、最大ライン圧に固定され、かつ、同じ電流値が設定された場合でも、油圧室19に供給されるオイル量、および油圧室19から排出されるオイル量は、共に入力回転数に応じて異なる特性を示す。この特性を図7のマップにより説明すると、高入力回転数の特性が線分D1で示され、低入力回転数が線分E1で示されている。つまり、電流値が同じであっても、高入力回転数におけるオイル供給量の方が、低入力回転数におけるオイル供給量よりも少ない特性となる。また、電流値が同じであっても、高入力回転数におけるオイル排出量の方が、低入力回転数におけるオイル排出量よりも多い特性となる。したがって、第2のフェール対策制御を実行する場合は、入力回転数に基づいてリニアソレノイドバルブSLRの電流値を制御することにより、ベルト式無段変速機6の変速制御性の低下を抑制できる。
つぎに、第2のフェール対策制御において、リニアソレノイドバルブSLRの電流値を制御するパラメータとして、油圧回路に供給されるオイルの温度を採り上げる場合を説明する。前述したように、高油温の場合の方が低油温の場合に比べてオイルの粘度が低く、オイルの流動性が高いため、最大ライン圧に固定され、かつ、電流値が同じであっても、油圧室19に供給されるオイル量、および油圧室19から排出されるオイル量は、温度により異なる。具体的には、高温時におけるオイル供給量は、低温時におけるオイル供給量よりも多くなり、高温時におけるオイル排出量は、低温時におけるオイル排出量よりも多くなる。したがって、第2のフェール対策制御を実行する場合は、油温に基づいてリニアソレノイドバルブSLRの電流値を制御することにより、ベルト式無段変速機6の変速制御性の低下を抑制できる。
つぎに、第2のフェール対策制御を実行するパラメータとして変速比を採り上げる場合を説明する。第1のフェール対策制御で説明したように、変速比に応じて油圧室19の油圧を高く制御する必要がある。このため、ライン圧が固定され、かつ、電流値が同じであっても、油圧室19に供給されるオイル量、および油圧室19から排出されるオイル量は、変速比に応じて変化する。これを、図7のマップに基づいて説明する。線分D1が大変速比に相当し、線分E1が小変速比に相当する。ここで、油圧室19にオイルを供給する場合は、電流値が同じであっても、大変速比に相当するオイル供給量の方が、小変速比に相当するオイル供給量よりも少なくなっている。その理由は、入力ポート78と出力ポート77との差圧は、小変速比の場合よりも大変速比の場合の方が大きいからである。
これに対して、油圧室19からオイルを排出する場合は、電流値が同じであっても、大変速比に相当するオイル排出量の方が、小変速比に相当するオイル排出量よりも多くなっている。これは、前述の理由により、小変速比の場合よりも大変速比の方が油圧室19の油圧が高く制御されており、出力ポート77とドレーンポート76との差圧は、小変速比の場合よりも大変速比の場合の方が大きいからである。
前述までの説明は、変速比が既知であり、かつ、第2のフェール対策制御を実行する場合に、リニアソレノイドバルブSLRの電流値を制御する例である。これに対して、変速比が未知である場合に第2のフェール対策制御を実行し、リニアソレノイドバルブSLRの電流値を制御する例を説明する。このように、変速比が未知である場合は、変速比を変動させることなく、固定するために「とじ込み制御」が実行される。
このとじ込み制御の実行時には、変速比が同じであっても、入力トルクに応じて油圧室19の油圧が変化し、リニアソレノイドバルブSLRのシール面から漏れるオイル量が異なる。その理由は、第1のフェール対策制御で説明した理由と同じである。そこで、第2のフェール対策制御を実行する場合は、入力トルクが高いほど、リニアソレノイドバルブSLRの電流値を低く設定する制御をおこなう。その結果、入力トルクが高いほど、ランド74により形成されるシール面のシール面積が拡大されて、オイル漏れ量の増加が抑制される。したがって、とじ込み制御時にリニアソレノイドバルブSLSのオフフェールが生じた場合でも、ベルト式無段変速機6の変速比の変動を確実に抑制できる。
つぎに、第2のフェール対策制御を実行する場合に、セカンダリプーリ10の油圧室100の油圧Pdをパラメータとして選択する場合を説明する。前述のように、リニアソレノイドバルブSLSの出力油圧が最大となった場合は、ラインプレッシャモジュレータバルブ84のポート94の油圧が最大となり、入力ポート91と出力ポート92との連通面積が最大となるとともに、油圧Pdが最大圧となる。一方、プライマリプーリ9におけるベルト17の巻き掛け半径を制御する場合は、ベルト17の張力に応じて油圧室19の油圧Pin を制御する必要がある。その理由は前述したとおりである。したがって、変速比を固定する場合に、油圧Pdに応じた目標油圧Pin となるように、油圧室19のオイル量を制御することにより、ベルト式無段変速機6の変速制御性の低下を抑制することができる。具体的には、油圧Pdが高いほど、目標油圧Pin も高くなり、油圧室19に保持されるオイル量を増加する実行される。
なお、第2のフェール対策制御において、各パラメータに応じて電流値を制御するということは、マップに記憶されているデータ上の電流値に基づいて、実際の電流値を制御しているとも言える。また、第2のフェール対策制御を実行する場合、単数のパラメータ、または複数のパラメータのいずれを用いて制御を実行してもよいが、ライン圧が最大であることが前提となる。
また、第2のフェール対策制御において、ポート80の油圧制御に用いるパラメータを、リニアソレノイドバルブSLSが正常であり、かつ、リニアソレノイドバルブSLRの電流値により変速比を制御する場合のパラメータとして用いることも可能である。このような制御を実行することにより、リニアソレノイドバルブSLSのオフフェールが生じた場合、またはリニアソレノイドバルブSLSが正常である場合のいずれにおいても、増速、減速、変速比の固定などの変速制御全般にわたり、車両の運転条件に関わりなく、変速制御性の低下または変速応答性の低下を抑制することが可能である。
ここで、各種のパラメータに基づく制御例を包括するルーチンの一例を、図1に基づいて説明する。まず、リニアソレノイドバルブSLRがオフフェールしているか否かが判断され(ステップS1)、ステップS1で肯定的に判断された場合は、第1のフェール対策制御が実行されて、ポート80に油圧が導入される(ステップS2)。ここで、ポート80の油圧は、前述したパラメータとオイル量との関係を示すマップに基づいて制御され(ステップS3)、ポート80の油圧制御による変速制御性の向上が図られ(ステップS4)、図1の制御ルーチンを終了する。
前記ステップS1で否定的に判断された場合は、ステップS5に進む。このステップS5の処理は、リニアソレノイドバルブSLSが正常である場合、またはリニアソレノイドバルブSLSがオフフェールである場合に関わりなく、実行可能である。このステップS5においては、第2のフェール対策制御の説明したパラメータと、リニアソレノイドバルブSLRの電流値との関係を定めたマップに基づいて、リニアソレノイドバルブSLRの電流値を制御する。このステップS5の処理により、車両の運転状態に関わりなく、リニアソレノイドバルブSLRの電流値を適正に制御でき、ベルト式無段変速機6の変速制御性が向上し(ステップS6)、図1のルーチンを終了する。ここで、図1に示された機能的手段と、請求項1および請求項2の発明との関係を説明すれば、ステップS1,S2,S3,S4が、請求項1の外力制御手段に相当し、ステップS1,S5,S6が、請求項2の第2の外力制御手段に相当する。
ここで、請求項1の発明と実施例の構成との対応関係を説明すれば、油路79が、請求項1の発明の油路に相当し、油圧室19が、請求項1の発明の油圧室に相当し、スプール72が、請求項1の発明のスプールに相当し、流量制御部69が、請求項1の発明の変速制御弁に相当し、電磁部70が、請求項1の発明の第1の外力付与装置に相当し、デューティソレノイドバルブDSLおよびクラッチロックバルブ111が、請求項1の発明の第2の外力付与装置に相当する。
つぎに、請求項2の発明の構成と、実施例の構成との対応関係を説明すれば、油圧室19が、請求項2の発明の第1の油圧室に相当し、油圧室100が、請求項2の発明の第2の油圧室に相当し、プライマリレギュレータバルブ62が、請求項2の発明の油圧制御弁に相当し、リニアソレノイドバルブSLSが、請求項2の発明のリニアソレノイドバルブに相当し、スプール72が、請求項2の発明の第1スプールに相当し、電磁部70が、請求項2の発明の外力付与装置に相当し、スプール85が、請求項2の発明の第2スプールに相当し、ポート94およびポート95が、この発明の第1ポートに相当し、ポート96が、請求項2の発明の第2ポートに相当する。請求項2の発明の他の構成と、実施例の構成との対応関係は、請求項1の発明の構成と、実施例の構成との対応関係と同じである。
また、電磁部70により形成される磁気吸引力に応じた付勢力が、請求項1の発明の「第1の外力付与装置により生成される外力」、および請求項2の発明の「外力付与装置により生成される外力」に相当し、ポート80に伝達される油圧に応じた付勢力が、請求項1の発明の「第2の外力付与装置により生成される外力」に相当する。また、プライマリプーリ9とセカンダリプーリ10との間における変速比、油路61の油圧(ライン圧)、プライマリシャフト7の入力回転数、油圧回路に供給されるオイルの油温、駆動力源1からプライマリプーリ9に伝達される入力トルク、油圧室19,100の油圧などのパラメータが、請求項1および請求項2の発明の「外力付与装置により生成される外力が同じであっても前記第1油圧室に供給されるオイル量または前記第1油圧室から排出されるオイル量を変化させる条件」に相当する。また、ポート80の油圧が、請求項1の発明の「外力付与装置により生成される外力が同じであっても前記第1油圧室に供給されるオイル量または前記第1油圧室から排出されるオイル量を変化させる条件」に相当し、リニアソレノイドバルブSLRの電流値が、請求項2の発明の「外力付与装置により生成される外力が同じであっても前記第1油圧室に供給されるオイル量または前記第1油圧室から排出されるオイル量を変化させる条件」に相当する。
また、請求項1の発明においては、第1の外力付与装置による外力の生成原理(磁気吸引力を付勢力に変換)と、第2の外力付与装置による外力の生成原理(油圧を付勢力に変換)とが異なる。
さらに、この実施例に開示された特徴的な構成を記載すると以下のとおりである。まず、第1の特徴的な構成は、プライマリプーリおよびセカンダリプーリに巻き掛けられたベルトと、プライマリプーリとセカンダリプーリとの間における変速比を制御する第1の油圧室と、プライマリプーリとセカンダリプーリとの間におけるトルク容量、もしくはベルトに加えられる挟圧力を制御する第2の油圧室と、前記第1の油圧室または第2の油圧室のうちの少なくとも一方に供給されるオイルの状態を制御する変速制御弁と、この変速制御弁を制御する外力を生成する第1の外力付与装置とを有するベルト式無段変速機の制御装置において、前記変速制御弁を制御する外力を生成する第2の外力付与装置が、前記第1の外力付与装置とは別に設けられており、前記第1の外力付与装置の機能が低下した場合に、前記第2の外力付与装置により生成される外力により前記変速制御弁を制御するとともに、この第2の外力付与装置により生成される外力を、前記第1の油圧室または第2の油圧室の少なくとも一方の油圧室におけるオイルの状態に影響を及ぼす条件に基づいて制御する外力制御手段を有することを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置である。ここで、第1の油圧室のオイルの状態としてはオイル量が挙げられ、第2の油圧室のオイルの状態としては油圧が挙げられる。
つぎに、第2の特徴的な構成は、プライマリプーリおよびセカンダリプーリに巻き掛けられたベルトと、プライマリプーリとセカンダリプーリとの間における変速比を制御する第1の油圧と、プライマリプーリとセカンダリプーリとの間におけるトルク容量、もしくはプライマリプーリからベルトに加えられる挟圧力を制御する第2の油圧室と、前記第1の油圧室に供給されるオイル量を制御する変速制御弁と、前記第2の油圧室に供給されるオイルの油圧を制御する油圧制御弁と、この油圧制御弁を制御する外力を生成する第3の外力付与装置と、前記変速制御弁を制御する外力を生成する第4の外力付与装置とを有するベルト式無段変速機の制御装置において、前記第3の外力付与装置の機能が低下して、第3の外力付与装置により生成される外力が最大値となる場合は、第4の外力付与装置により生成される外力を、前記第1の油圧室におけるオイル量に影響を及ぼす条件に基づいて制御する第2の外力制御手段を有することを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置である。
なお、特許請求の範囲に記載されている外力制御手段を、外力制御器または外力制御用コントローラと読み替えることも可能である。また、特許請求の範囲に記載されている第2の外力制御手段を、第2の外力制御器または第2の外力制御用コントローラと読み替えることも可能である。この場合、電子制御装置52が、外力制御器、外力制御用コントローラ第2の外力制御器、第2の外力制御用コントローラに相当する。また、特許請求の範囲に記載されている外力制御手段および第2の外力制御手段を、外力制御ステップおよび第2の外力制御ステップと読み替え、ベルト式無段変速機の制御装置を、ベルト式無段変速機の制御方法と読み替えることも可能である。さらに特許請求の範囲に記載されているベルト式無段変速機の制御装置を、ベルト式無段変速機の変速制御装置またはベルト式無段変速機の油圧制御装置と読み替えることも可能である。
6…ベルト式無段変速機、 9…プライマリプーリ、 10…セカンダリプーリ、 17…ベルト、 19,100…油圧室、 52…電子制御装置、 62…プライマリレギュレータバルブ、 69…流量制御部、 70…電磁部、 SLR,SLS…リニアソレノイドバルブ、 DSL…デューティソレノイドバルブ、 111…クラッチロックバルブ。