つぎに、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。まず、この発明を適用できる車両のパワートレーン、およびその車両の制御系統を、図2に示す。図2に示す車両Veにおいては、駆動力源1と車輪2との間の動力伝達経路に、流体伝動装置3、ロックアップクラッチ4、前後進切り換え機構5、ベルト式無段変速機6などが設けられている。駆動力源1としては、例えば、エンジンまたは電動機の少なくとも一方を用いることができる。電動機としては、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを有するモータ・ジェネレータを用いることが可能である。この実施例では、駆動力源1として、主としてエンジンが用いられている場合について説明する。
また、流体伝動装置3およびロックアップクラッチ4は、駆動力源1と前後進切り換え機構5との間の動力伝達経路に設けられており、流体伝動装置3とロックアップクラッチ4とは相互に並列に配置されている。流体伝動装置3は、流体の運動エネルギにより動力を伝達する装置であり、ロックアップクラッチ4は、摩擦力により動力を伝達する装置である。前後進切り換え機構5は、入力部材に対する出力部材の回転方向を、選択的に切り換える装置である。
ベルト式無段変速機6は、前後進切り換え機構5と車輪2との間の動力伝達経路に設けられている。ベルト式無段変速機6は、相互に平行に配置されたプライマリシャフト7およびセカンダリシャフト8を有している。このプライマリシャフト7にはプライマリプーリ9が設けられており、セカンダリシャフト8にはセカンダリプーリ10が設けられている。プライマリプーリ9は、プライマリシャフト7に固定された固定シーブ11と、プライマリシャフト7の軸線方向に移動できるように構成された可動シーブ12とを有している。そして、固定シーブ11と可動シーブ12との間に溝M1が形成されている。
また、この可動シーブ12をプライマリシャフト7の軸線方向に動作させることにより、可動シーブ12と固定シーブ11とを接近・離隔させる油圧サーボ機構13が設けられている。この油圧サーボ機構13は、油圧室19と、油圧室19のオイル量または油圧に応じてプライマリシャフト7の軸線方向に動作し、かつ、可動シーブ12に接続されたピストン(図示せず)とを備えている。
一方、セカンダリプーリ10は、セカンダリシャフト8に固定された固定シーブ14と、セカンダリシャフト8の軸線方向に移動できるように構成された可動シーブ15とを有している。そして、固定シーブ14と可動シーブ15との間にはV字形状の溝M2が形成されている。
また、この可動シーブ15をセカンダリシャフト8の軸線方向に動作させることにより、可動シーブ15と固定シーブ14とを接近・離隔させる油圧サーボ機構16が設けられている。この油圧サーボ機構16は、油圧室100と、油圧室100の油圧またはオイル量に応じてセカンダリシャフト8の軸線方向に動作し、かつ、可動シーブ15に接続されたピストン(図示せず)とを備えている。上記構成のプライマリプーリ9およびセカンダリプーリ10に、無端状のベルト17が巻き掛けられている。このベルト17は、金属製のリングに、円周方向に沿って金属製の駒(エレメント)を多数取り付けて構成されている。
一方、ベルト式無段変速機6の油圧サーボ機構13,16およびロックアップクラッチ4、および前後進切り換え機構5を制御する機能を有する油圧制御装置18が設けられている。さらに、駆動力源1、ロックアップクラッチ4、前後進切り換え機構5、ベルト式無段変速機6、油圧制御装置18を制御するコントローラとしての電子制御装置52が設けられており、この電子制御装置52は、演算処理装置(CPUまたはMPU)および記憶装置(RAMおよびROM)ならびに入出力インターフェースを主体とするマイクロコンピュータにより構成されている。
この電子制御装置52に対しては、エンジン回転数、アクセルペダルの操作状態、ブレーキペダルの操作状態、スロットルバルブの開度、シフトポジション、プライマリシャフト7の回転数、セカンダリシャフト8の回転数、油圧制御装置18のソレノイドバルブのフェールの有無、エンジンの吸入空気量、登坂路か否かなどを検知するセンサの信号が入力される。このセカンダリシャフト8の回転数に基づいて車速が求められる。電子制御装置52には各種のデータが記憶されており、電子制御装置52に入力される信号、および記憶されているデータに基づいて、電子制御装置52から、駆動力源1を制御する信号、ベルト式無段変速機6を制御する信号、前後進切り換え機構5を制御する信号、ロックアップクラッチ4を制御する信号、油圧制御装置18を制御する信号などが出力される。
電子制御装置52に記憶されているデータとしては、変速機制御マップ、ロックアップクラッチ制御マップなどが挙げられる。この変速機制御マップには、変速比の制御マップ、トルク容量の制御マップ、流量制御と圧力制御との切り替えマップなどが含まれる。変速比制御マップは、車速、アクセル開度などに基づいて、ベルト式無段変速機6の変速比を設定するマップである。駆動力源1としてエンジンが用いられている場合は、ベルト式無段変速機6の変速比の制御により、エンジン回転数を最適燃費曲線に近づけるように制御できる。トルク容量制御マップは、変速比、伝達するべきトルクなどに基づいて、ベルト式無段変速機6のトルク容量を制御する場合に用いるマップである。さらに、流量制御と圧力制御との切り替えマップは、油圧室19,100の制御として、流量制御または圧力制御を選択的に切り替える場合に用いるマップである。また、ロックアップクラッチ制御マップは、車速、アクセル開度などに基づいて、ロックアップクラッチ4のトルク容量を設定するマップである。
つぎに、図2に示す車両Veの作用を説明する。まず、駆動力源1の動力を車輪2に伝達する場合、つまり、正駆動の場合について説明する。ロックアップクラッチ4のトルク容量が所定値以下である場合は、駆動力源1の動力が、流体伝動装置3および前後進切り換え機構5を経由して、ベルト式無段変速機6のプライマリシャフト7に伝達される。プライマリシャフト7のトルクは、プライマリプーリ9、ベルト17、セカンダリプーリ10を介してセカンダリシャフト8に伝達される。具体的には、プライマリプーリ9のトルクがベルト17に伝達されると、そのトルクはエレメント同士の圧縮力に変換され、その圧縮力がセカンダリプーリ10に伝達されてトルクに変換される。そして、セカンダリシャフト8のトルクが車輪2に伝達されて駆動力が発生する。
ここで、ベルト式無段変速機6の変速制御を説明する。まず、油圧サーボ機構13の油圧室19の油圧に基づいて、プライマリプーリ9の可動シーブ12を軸線方向に動作させる推力が調整される。また、油圧サーボ機構16の油圧室(図示せず)の油圧により、セカンダリプーリ10の可動シーブ15を軸線方向に動作させる推力(挟圧力)が調整される。そして、可動シーブ12の軸線方向の動作に応じて溝M1の幅が変化し、可動シーブ15の軸線方向の動作に応じて溝M2の幅が変化する。
上記のようにして、溝M1の幅が調整されると、プライマリプーリ9におけるベルト17の巻き掛け半径と、セカンダリプーリ10におけるベルト17の巻き掛け半径との比が変化する。その結果、プライマリシャフト7とセカンダリシャフト8との間の回転速度の比、すなわち変速比が変化する。具体的には、油圧サーボ機構13の油圧室19のオイル量が増加するか、または油圧室19の油圧が高められて溝M1の幅が狭められると、プライマリプーリ9におけるベルト17の巻き掛け半径が大きくなり、ベルト式無段変速機6の変速比が小さくなるように変速する。これに対して、油圧サーボ機構13の油圧室19のオイル量が減少するか、または油圧室19の油圧が低下すると、ベルト17の張力により溝M1の幅が広げられて、プライマリプーリ9におけるベルト17の巻き掛け半径が小さくなり、ベルト式無段変速機6の変速比が大きくなるように変速する。
また、この変速制御に伴い溝M2の幅が調整されると、ベルト17に作用する挟圧力およびベルト17の張力が変化し、かつ、プライマリシャフト7とセカンダリシャフト8との間で伝達されるトルクの容量が制御される。具体的には、油圧サーボ機構16の油圧室100の油圧が高められるか、または油圧室100のオイル量が増加して、ベルト17に作用する挟圧力が増加すると、ベルト17のトルク容量が増加する。これに対して、油圧サーボ機構16の油圧室100の油圧が低下するか、または油圧室100のオイル量が減少して、ベルト17に作用する挟圧力が減少すると、ベルト17のトルク容量が低下する。
このように、正駆動の場合は、ベルト式無段変速機6の変速比を、主としてプライマリプーリ9におけるベルト17の巻き掛け半径に基づいて制御することが可能であるが、ベルト式無段変速機6の変速比は、プライマリプーリ9の回転速度と、セカンダリプーリ10の回転速度との比であるため、セカンダリプーリ10におけるベルト17の巻き掛け半径も、ベルト式無段変速機6の変速比に事実上は影響を及ぼす。言い換えれば、セカンダリプーリ10の油圧室100のオイル量または油圧を制御することにより、ベルト式無段変速機6の変速比を制御することも可能である。
また、ベルト式無段変速機6のトルク容量は、主としてセカンダリプーリ10からベルト17に作用する挟圧力に基づいて制御することが可能であるが、ベルト17はプライマリプーリ9およびセカンダリプーリ10に巻き掛けられているため、プライマリプーリ9からベルト17に作用する挟圧力も、ベルト式無段変速機6のトルク容量に事実上は影響を及ぼす。言い換えれば、プライマリプーリ9の油圧室19の油圧を制御することにより、ベルト式無段変速機6のトルク容量を制御することも可能である。
ここで、エンジントルクがプライマリプーリ9を経由してセカンダリプーリ10に伝達される場合において、主としてセカンダリプーリ10でベルト式無段変速機6のトルク容量を制御する理由は、以下のとおりである。前述のように、ベルト17は、エレメント同士の圧縮力により動力伝達をおこなうものであるため、ベルト17の回転方向において、プライマリプーリ9から離れてセカンダリプーリ10に巻き付く部分では、エレメント同士に作用する圧縮力が高く、セカンダリプーリ10から離れてプライマリプーリ9に巻き付く部分では、エレメント同士の圧縮力は低い。このため、ベルト17の円周方向(回転方向)において、エレメント同士に所定値以上の圧縮力が作用する部分の長さは、プライマリプーリ9に巻き付いている部分よりもセカンダリプーリ10に巻き付いている部分の方が長くなり、プライマリプーリ9よりもセカンダリプーリ10の方が、トルク容量の管理および制御を、容易、かつ、高精度に実行できるからである。
つぎに、車両Veが惰力走行し、かつ、車両Veの運動エネルギが、車輪2からベルト式無段変速機6を経由して駆動力源1に伝達される場合、つまり、逆駆動の場合について説明する。駆動力源1としてエンジンを用いている場合は、逆駆動によりエンジンブレーキ力が発生する。また、駆動力源1として電動機を用いている場合は、車両Veの運動エネルギを電動機に伝達して、電動機を発電機として機能させ、その電力を蓄電装置に蓄電することも可能である。このような制御により、いわゆる回生制動力が生じる。
ところで、図2に示す車両Veにおいては、油圧制御装置18のうち、油圧室19にオイルを供給する油圧回路として各種の構成を採用することができる。以下、これらの油圧回路の構成例を順次説明する。
(第1の構成例)
この第1の構成例に相当する油圧回路を、図1に基づいて説明する。まず、オイルポンプ(図示せず)から吐出されたオイルが供給される油路20が形成されている。上記オイルポンプは、駆動力源1の動力、または、駆動力源1とは別個に設けられた電動機(図示せず)により駆動される。一方、油圧サーボ機構13の油圧室19には、油路21が接続されている。そして、油路20と油路21との間には、レシオコントロールバルブ22が設けられている。
このレシオコントロールバルブ22は、入力ポート23と、出力ポート24と、第1の制御ポート25および第2の制御ポート26と、ポート27と、スプール(図示せず)を所定方向に付勢する弾性部材28とを有している。そして、入力ポート23と油路20とが接続され、出力ポート24と油路21とが接続されている。また、第1の制御ポート25および第2の制御ポート26に入力される油圧により、弾性部材28の付勢力とは逆向きに、スプールを付勢する力が発生する。
さらに、第1の制御ポート25には油路29が接続され、油路29は、第1のソレノイドバルブ30に接続されている。この第1のソレノイドバルブ30は、スプール(図示せず)と、スプールを所定方向に付勢する弾性部材31と、入力ポート32と、出力ポート33と、ドレーンポート34とを有し、出力ポート33と油路29とが接続されている。また、出力ポート33にはフィードバック油路35が接続されており、フィードバック油路35の油圧により、弾性部材31の付勢力と同じ向きの力が、第1のソレノイドバルブ30のスプールに作用するように構成されている。この第1のソレノイドバルブ30は、非通電状態では、入力ポート32と出力ポート33とが遮断され、出力ポート33の油圧Psol1が零となる一方、通電電流が増加することに伴い、入力ポート32と出力ポート33との開度が増して、油圧Psol1が上昇する特性を備えたバルブ、いわゆる、ノーマルクローズ形式のソレノイドバルブである。
前記油路20には油路36が接続されている一方、レシオコントロールバルブ22のポート27に接続する油路37が設けられている。そして、油路36と油路37との間に、シーブ圧コントロールバルブ38が設けられている。シーブ圧コントロールバルブ38は、スプール(図示せず)と、スプールを所定方向に付勢する弾性部材39と、入力ポート40と、出力ポート41と、ドレーンポート42と、制御ポート44とを有している。そして、入力ポート40と油路36とが接続され、出力ポート41と油路37とが接続されている。
また、出力ポート41に接続されたフィードバック油路43が設けられており、フィードバック油路43の油圧により、弾性部材39の付勢力と同じ向きの力が、シーブ圧コントロールバルブ38のスプールに作用する。また、制御ポート44に作用する油圧により、弾性部材39の付勢力とは逆向きの力が、シーブ圧コントロールバルブ38のスプールに作用する。
一方、制御ポート44には油路45を介して第2のソレノイドバルブ46が接続されている。第2のソレノイドバルブ46は、スプール(図示せず)と、スプールを所定方向に付勢する弾性部材47と、入力ポート48と、出力ポート49と、ドレーンポート50とを有し、出力ポート49と油路45とが接続されている。また、出力ポート49にはフィードバック油路51が接続されており、フィードバック油路51の油圧により、弾性部材47の付勢力とは逆向きの力が、第2のソレノイドバルブ46のスプールに作用するように構成されている。この第2のソレノイドバルブ46は、非通電状態では、入力ポート48と出力ポート49との開度が増加して高い油圧Psol2を発生する一方、通電電流が増加することに伴い、入力ポート48と出力ポート49との開度が低下して、油圧Psol2が低下する特性を備えたバルブ、いわゆる、ノーマルオープン形式のソレノイドバルブである。
つぎに、図1に示す油圧回路を図2のシステムに用いた場合の作用を説明する。まず、オイルポンプから吐出されたオイルの油圧が、調圧弁(図示せず)により所定の油圧、すなわち、ライン圧PLに調圧されるとともに、そのオイルが油路20を経由して、レシオコントロールバルブ22の入力ポート23に供給される。ここで、図1の油圧回路においては、第1のモードおよび第2のモードを選択可能である。この第1のモードは、通常走行時、例えば、第1のソレノイドバルブ30の機能が正常である場合に選択される。第1のモードが選択されると、第1のソレノイドバルブ30および第2のソレノイドバルブ46に通電される。すると、第1のソレノイドバルブ30では、通電電流に応じた磁気押圧力が発生して、弾性部材31の付勢力に抗してスプールが動作し、入力ポート32と出力ポート33とが連通される。
ここで、第1のソレノイドバルブ30の入力ポート32には、モジュレータ圧Pmodに調圧されたオイルが供給されており、入力ポート32のオイルが、出力ポート33を経由して油路29に供給される。なお、モジュレータ圧Pmodは、例えば、車速およびアクセル開度などに基づいて調圧される。また、フィードバック油路35の油圧により、弾性部材31の弾性力と同じ向きの力が、第1のソレノイドバルブ30のスプールに作用する。そして、油路29の油圧が上昇すると、入力ポート32と出力ポート33との連通面積が狭められる。
このようにして、第1のソレノイドバルブ30の出力ポート33の油圧Psol1が調圧され、その油圧Psol1が、レシオコントロールバルブ22の第1の制御ポート25に作用する。なお、第1のモードが選択された場合は、第2の制御ポート26のフェール圧Pfail は零に制御される。
一方、第2のソレノイドバルブ46では、通電電流に応じた磁気押圧力が発生して、弾性部材47の付勢力に抗してスプールが動作し、入力ポート48と出力ポート49とが遮断され、出力ポート49とドレーンポート50とが連通される。このため、入力ポート48のオイルは、油路45には供給されないとともに、油路45のオイルがドレーンポート50を経由してオイルパン53にドレーンされて、油路45の油圧Psol2は零となっている。
前記レシオコントロールバルブ22においては、第1の制御ポート25の油圧Psol1に対応する付勢力と、弾性部材28の付勢力とが、スプール(図示せず)に逆向きに作用しており、2つの付勢力同士の相対関係により、スプールが動作する。このスプールの動作により、出力ポート24から出るオイルの流量が制御される。例えば、油圧Psol1が低下するほど、入力ポート23と出力ポート24との連通面積が拡大される。その結果、油路20から油路21に供給されるオイル量が増加し、油圧室19の油圧が高められて、プライマリプーリ9におけるベルト17の巻き掛け半径が大きくなる。すなわち、ベルト式無段変速機6の変速比が小さくなるように変速する。
これに対して、油圧Psol1が高くなるほど、出力ポート24とドレーンポート27との連通面積が拡大される。また、前述のように第2のソレノイドバルブ46に対する通電制御により、油路45から制御ポート44に作用する油圧Psol2が零となっている。このため、シーブ圧コントロールバルブ38においては、弾性部材39の付勢力によりスプールが動作して、出力ポート41とドレーンポート42とが連通され、入力ポート40が閉じられている。したがって、油圧室19のオイルは、油路21、レシオコントロールバルブ22、油路37、シーブ圧コントロールバルブ38を経由して、オイルパン53にドレーンされる。
このようにして、油圧室19のオイル量が減少して油圧室19の油圧が低下し、プライマリプーリ9におけるベルト17の巻き掛け半径が小さくなる。すなわち、ベルト式無段変速機6の変速比が大きくなるように変速する。なお、この第1のモードが選択されている場合において、油圧室19のオイル量を略一定量に制御すれば、プライマリプーリ9におけるベルト17の巻き掛け半径が略一定に維持される。すなわち、ベルト式無段変速機6の変速比が略一定に制御される。このように、第1のモードが選択された場合は、レシオコントロールバルブ22が流量制御弁として機能し、そのレシオコントロールバルブ22の流量制御機能により、ベルト式無段変速機6の変速比が制御される。
つぎに、前記第2のモードについて説明する。この第2のモードは、例えば、第1のソレノイドバルブ30の機能が低下した場合(フェールした場合)に選択される。第1のソレノイドバルブ30がフェールすると、入力ポート32と出力ポート33とが遮断されるため、第1の制御ポート25に作用する油圧Psol1は零となる。また、第2のモードが選択されると、第2の制御ポート26にフェール圧Pfail が入力される。
さらに、第2のモードが選択されると、第1のモードが選択された場合よりも、制御ポート44に作用する油圧Psol2が高くなるように、第2のソレノイドバルブ46に対する通電電流が制御される。この第2のソレノイドバルブ46への通電電流の制御により、レシオコントロールバルブ22および油路21を経由して油圧室19に供給されるオイルの油圧Pin が制御される。すなわち、シーブ圧コントロールバルブ38が、いわゆる圧力制御弁として機能する。
このように、第1の構成例によれば、ベルト式無段変速機6の変速比を制御する場合に、油圧室19に供給されるオイルの流量を制御して変速比を制御する第1のモードと、油圧室19の油圧を制御して変速比を制御する第2のモードとを、選択的に切り換えることができる。したがって、第1のソレノイドバルブ30がフェールした場合でも、第2のモードを選択することにより、ベルト式無段変速機6の変速比を変更できる。したがって、車両Veの駆動力の過不足を抑制できドライバビリティが向上する。言い換えれば、圧力制御によりベルト式無段変速機6の変速比を制御して車両Veが走行すること、つまり、リンプフォーム走行をおこなうことができ、ドライバビリティが向上する。
また、第1のソレノイドバルブ30のフェールが発生した場合は、第2の制御ポート26にフェール圧Pfail を入力して、ベルト式無段変速機6の変速比が大きくなるように変速する。
(第2の構成例)
つぎに、油圧室19にオイルを供給する油圧回路の他の構成例を、図3に基づいて説明する。なお、図3の構成を示す符号において、図1の構成の符号と同じものは、図1および図3の構成が同じであることを意味している。
図3に示す第1のソレノイドバルブ30においては、フィードバック油路35Aの油圧により、第1のソレノイドバルブ30のスプールを、弾性部材31の付勢力とは逆向きに付勢する力が発生するように構成されている。第1のソレノイドバルブ30が非通電状態である場合に、入力ポート32と出力ポート33とが開かれて、最大の油圧Psol1が発生する一方、第1のソレノイドバルブ30に供給される電力の電流が低下するほど、油圧Psol1が上昇する特性を備えたバルブ、いわゆるノーマルオープン形式のバルブである。また、レシオコントロールバルブ22には第1の制御ポート25が設けられており、前述した第2の制御ポート26は設けられていない。図3のその他の構成は、図1の構成と同じである。
つぎに、図3の油圧回路を、図2のシステムに用いる場合の作用を説明する。この図3の油圧回路においては、第1のモードおよび第3のモードを選択できる。第1のモードは、車両Veの車速が、車速センサにより検知できるような車速以上である場合に選択される。この第1のモードが選択された場合は、第1のソレノイドバルブ30および第2のソレノイドバルブ46に対する通電がおこなわれる。第1のソレノイドバルブ30に対する通電電流を制御して、油路29の油圧Psol1を制御することにより、油路20から油圧室19に供給されるオイルの流量を制御する作用と、これらの作用によりベルト式無段変速機6の変速比が制御される作用は、第1の構成例と同じである。また、第2のソレノイドバルブ46への通電電流に基づいて、油路45の油圧Psol2が零に制御される点も、第1の構成例と同じである。
つぎに、第3のモードが選択された場合について説明する。この第3のモードは、例えば、車両Veの車速が、車速センサにより検知できないような極低車速である場合に選択される。この第3のモードが選択された場合は、第1のソレノイドバルブ30の出力油圧Psol1が高められて、レシオコントロールバルブ22の入力ポート23と出力ポート24とが遮断され、かつ、出力ポート24とポート27とが連通される。このため、油路20のオイルは、入力ポート23を経由しては油路21には供給されない。
さらに、第3のモードが選択された場合は、第2のソレノイドバルブ46の出力ポート49の油圧Psol2が変化させられて、その油圧Psol2に応じてシーブ圧コントロールバルブ38のスプールが動作し、油路36から油路37に供給されるオイルの油圧が調圧される。油路37に供給されたオイルは、レシオコントロールバルブ22のポート27および出力ポート24を経由して油路21に流れ込み、ついで、油路21のオイルが油圧室19に供給される。このように、第3のモードが選択された場合は、まず、レシオコントロールバルブ22の状態が、油圧室19のオイルをポート27からドレーンされ、ベルト式無段変速機6の変速比が大きくなるような変速が実行される場合に対応する状態(減速側)となる。そして、油路36のライン圧PLを、シーブ圧コントロールバルブ38により調圧して油圧室19に供給することにより、ベルト式無段変速機6の変速比を制御している。
以上のように、第2の構成例においても、ベルト式無段変速機6の変速比を制御する場合に、油圧室19に供給されるオイルの流量を制御して変速を実行する第1のモードと、油圧室19に供給されるオイルの油圧を制御して変速を実行する第3のモードとを、選択的に切り換えることができる。したがって、第1の構成例と同様の効果を得られる。
ところで、流量制御によりベルト式無段変速機6の変速比を制御する場合と、油圧制御によりベルト式無段変速機6の変速比を制御する場合とを比較すると、油圧制御によりベルト式無段変速機6の変速比を制御する場合の方が、プライマリプーリ9に与えられる推力が安定し、ベルト17のトルク容量の制御安定性が高い。そこで、車両Veの車速が極低車速である場合に第3のモードを選択すれば、伝達するべきトルクが大きい場合でも、ベルト17が滑ることを抑制でき、ベルト17、プライマリプーリ9、セカンダリプーリ10の耐久性の低下を抑制できるとともに、車両Veの発進時における駆動力不足または駆動力変化を抑制でき、ドライバビリティが向上する。
(第3の構成例)
つぎに、油圧室19にオイルを供給する油圧回路の他の構成例を、図4に基づいて説明する。この第3構成例においては、第1のソレノイドバルブ30としてノーマルオープン形式のソレノイドバルブが用いられており、レシオコントロールバルブ22には第2の制御ポート26は設けられていない。なお、図4の構成を示す符号において、図1および図3の構成の符号と同じものは、図4の構成と、図1および図3の構成とが同じであることを意味している。
この図4に示す油圧回路は、ロックアップクラッチ4のトルク容量を制御する油圧室54を有している。また、油圧室54の油圧を制御するロックアップリレーバルブ55が設けられている。このロックアップリレーバルブ55は、弾性部材56により所定方向に付勢されるスプール(図示せず)と、入力ポート57と、第1の出力ポート58および第2の出力ポート59と、ドレーンポート60と、スプールに対して弾性部材56の付勢力とは逆向きの付勢力を与える制御ポート61とを有している。
そして、入力ポート57と、シーブ圧コントロールバルブ38の出力ポート41とが油路37により接続されている。また、第1の出力ポート58と油圧室54とが油路62により接続されている。さらに、第2の出力ポート59と、レシオコントロールバルブ22のポート27とが油路63により接続されている。さらに、ドレーンポート60はオイルパン53に接続されている。
つぎに、図4の油圧回路を図2のシステムに適用した場合の作用を説明する。この図4の油圧回路においては、第1のモードおよび第3のモードを選択可能である。第1のモードは、車両Veの車速が、車速センサにより検知できる所定車速以上である場合に選択される。この第1のモードが選択された場合は、第1のソレノイドバルブ30および第2のソレノイドバルブ46に通電される。すると、第2の構成例と同様の作用により油圧Psol1が制御され、レシオコントロールバルブ22の流量制御機能により、ベルト式無段変速機6の変速比が制御される。
一方、第2のソレノイドバルブ46に対する通電電流の制御により、油路45のPsol2が高められる。このため、シーブ圧コントロールバルブ38のスプールが、弾性部材39の付勢力に抗して動作し、入力ポート40と出力ポート41とが連通される。したがって、油路20のオイルは、油路36、シーブ圧コンロトールバルブ38を経由して油路37に供給される。
また、第1のモードが選択された場合は、ロックアップリレーバルブ55の制御ポート61に入力される油圧Psl が高められる。その結果、ロックアップリレーバルブ55のスプールが、弾性部材56の付勢力に抗して動作し、入力ポート57と第1の出力ポート58とが連通される一方、第2の出力ポート59とドレーンポート60とが連通される。すると、油路37のオイルがロックアップリレーバルブ55、油路62を経由して油圧室54に供給される。このようにして、油圧室54の油圧が上昇し、ロックアップクラッチ4の係合圧が高められる。
なお、第3の構成例で第1のモードが選択されている場合に、油圧Psol1が低下されると、レシオコントロールバルブ22は第1の構成例で第1のモードが選択された場合と同様に動作し、ベルト式無段変速機6の変速比が小さくなるように変速される。
これに対して、第3のモードは、車両Veの車速が、車速センサにより検知することが不可能な極低車速以下である場合に選択される。この第3のモードが選択された場合は、第1のソレノイドバルブ30およびレシオコントロールバルブ22の状態が、第2の構成例と同じに制御される。その結果、油路36から油路37に供給されるオイルの油圧が、第2の構成例と同様にシーブ圧コントロールバルブ38で調圧される。
また、第3のモードが選択された場合は、油圧Psl が低下させられて、入力ポート57と第2の出力ポート59とが連通される。すると、油路37のオイルがロックアップリレーバルブ55、油路63、レシオコントロールバルブ22、油路21を経由して油圧室19に供給される。このようにして、シーブ圧コントロールバルブ38により調圧された油圧Pin により、ベルト式無段変速機6の変速比が制御される。一方、油圧室54のオイルは、油路62、ロックアップリレーバルブ55を経由してオイルパン53にドレーンされて、ロックアップクラッチ4の係合圧が低下する。
以上のように、第3の構成例においても、レシオコントロールバルブ22の機能により、油圧室19に供給するオイルの流量を制御して、ベルト式無段変速機6の変速比を制御する第1のモードと、シーブ圧コントロールバルブ38により、油圧室19に供給するオイルの油圧Pin を制御して、ベルト式無段変速機6の変速比を制御する第3のモードとを、選択的に切り換えることができる。したがって、第1の構成例と同様の効果を得られる。また、車両Veの車速が極低車速である場合に、第3のモードを選択すれば、第2の構成例と同様の理由により、第2の構成例と同様の作用効果を得られる。
また、電子制御装置52から出力される信号により第2のソレノイドバルブ46の油圧Psol2が制御されるように構成されており、その油圧Psol2が作用する制御ポート44を有するシーブ圧コントロールバルブ38は、ロックアップクラッチ4の油圧室54に供給されるオイルの油圧を制御する機能と、プライマリプーリ9の油圧室19に供給されるオイルの油圧を制御する機能とを兼備している。したがって、油圧室19の油圧を制御するために、新たな部品を設ける必要がなく、装置の大型化・大重量化を抑制できるとともに、油圧制御装置18の製造コストの上昇を抑制できる。
(第4の構成例)
つぎに、油圧室19にオイルを供給する油圧回路の他の構成例を、図5に基づいて説明する。この第4の構成例において、第2の構成例と同じ構成については、第2の構成例と同じ符号を付してその説明を省略する。
この第4の構成例においては、レシオコントロールバルブ22の状態として、油路21と油路20および油路37とを遮断する第1の状態と、油路21と油路20とを遮断し、かつ、油路21と油路37とを連通する第2の状態と、油路20と油路21とを連通し、かつ、油路21と油路37とを遮断する第3の状態とを選択することができる。上記第2の状態において、レシオコントロールバルブ22の第1の制御ポート25に作用する油圧Psol1を略一定圧に制御して、油路21とポート27との連通面積(開度)を略一定に制御することができる。すなわち、油路21とポート27との連通面積を、全開と全閉との間に制御することができる。そして、シーブ圧コントロールバルブ38の制御ポート44に作用する油圧Psol2を制御して、油路37の油圧PMを変化させる制御を実行することができる。このような制御を実行し、かつ、油圧室19の油圧Ps>油路37の油圧PMに制御すれば、油圧室19のオイルが、油路21、油路37を経由してオイルポンプ53にドレーンされる。
この第4の構成例においては、油圧室19の油圧Psから油路37の油圧PMを除した差圧を変化させることにより、油圧室19から排出されるオイルの流量を制御することができる。すなわち、この第4の構成例では、レシオコントロールバルブ22およびシーブ圧コントロールバルブ38の両方を制御することにより、油圧室19からドレーンされるオイル量を、高精度に制御することができる。
なお、上記の各構成例および図1、図3ないし図5においては、プライマリプーリ9の油圧室19のオイル量を制御するモードと、油圧室19の油圧を制御するモードとを選択的に切り換える例について説明しているが、この発明を、セカンダリプーリ10の油圧室100の油圧を制御するモードと、油圧室100のオイル量を制御するモードとを選択的に切り換える場合にも適用できる。このセカンダリプーリ10は、主としてベルト式無段変速機6のトルク容量を制御する機能を有している。このため、この発明をセカンダリプーリ10の油圧室100のオイル供給状態の制御に用いる場合は、例えば、主として圧力制御により油圧室100の油圧を制御するモードを選択し、圧力制御により油圧室100の油圧を制御できないような場合、または圧力制御により油圧室100の油圧を制御することが適当でない場合に、油圧室100のオイル量を制御するモードを選択することも可能である。
つぎに、上記の油圧回路を用いて、油圧室のオイル量を制御する流量制御モードと、油圧室の油圧を制御する圧力制御モードとを選択的に切り換える制御例を、順次説明する。
(第1の制御例)
この第1の制御例は、プライマリプーリ9の油圧室19の制御として、圧力制御または流量制御を選択する制御例であり、セカンダリプーリ10の油圧室100の制御は、油圧制御に限定されるものとする。また、この第1の制御例は正駆動時におこなわれる。この第1の制御例を図6のフローチャートに基づいて説明する。図6のフローチャートにおいては、まず、現在の実車速が所定車速V0 以下であるか否かが判断される(ステップS1)。ここで、所定車速V0 としては、車速センサによる読み取り下限車速が挙げられる。このステップS1で否定的に判断された場合はフラグをオフする(ステップS2)。このフラグとは、圧力制御を実行するためのフラグである。このステップS2についで、油圧室19に供給されるオイルの流量制御を実行し(ステップS3)、前述のステップS1に戻る。
前記ステップS1で肯定的に判断された場合は、車両Veが位置する(走行する)道路が登坂路であるか否かが判断される(ステップS4)。道路が平坦路または降坂路であれば、ステップS4で否定的に判断される。この場合は、プライマリプーリ9でベルト17の滑りが生じる可能性が低いため、ステップS2に進む。これに対して、ステップS4で肯定的に判断された場合は、圧力制御を実行するフラグがオンされているか否かが判断される(ステップS5)。
このステップS5で否定的に判断された場合は、
T0 (n)=T0 (n−1)+ΔT0
の処理を実行する(ステップS6)。ここで、“T0 ”は、後述する図7のマップを用いて流量制御または圧力制御を選択的に切り替える際のタービントルクのしきい値、具体的には、駆動力源1からプライマリシャフト7に伝達されるトルクのしきい値であり、“n”は、図6の制御ルーチンの実行回数のカウンタであり、“ΔT0 ”は、圧力制御を実行するべき領域の増加分であり、“T0 (n−1)”は、前回の制御ルーチン実行時におけるタービントルクのしきい値である。上記のステップS6についで、圧力制御を実行するフラグがオンされ(ステップS7)、かつ、油圧室19の圧力制御を実行し(ステップS8)、ステップS1に戻る。
一方、前記ステップS5で肯定的に判断された場合は、
T0 (n)=T0 (n−1)
の処理を実行するとともに(ステップS9)、ステップS7に進み、圧力制御を実行するフラグのオンを継続する。
上記の制御において、制御ルーチンの初回実行時におけるnの初期値は
n=1
に設定され、制御ルーチンの初回実行時におけるフラグはオフに設定され、制御ルーチンの初回実行時におけるタービントルクのしきい値は、
T0 (1)=T0_int
に設定される。
上記の制御例において、流量制御または圧力制御を選択的に切り換える場合に用いるマップの一例を、図7に示す。図7に示すマップにおいては、車速およびタービントルクをパラメータとして、流量制御領域A1と圧力制御領域B1とが設定されている。具体的には、車速V0 以下であり、かつ、タービントルクのしきい値T0 以下である領域に圧力制御領域B1が設定され、圧力制御領域B1以外の領域に流量制御領域A1が設定されている。そして、圧力制御領域B1を決めるタービントルクのしきい値T0 は、前述の増加分ΔT0 に応じて変化する。
以上のように、図6の制御例において、ステップS1で肯定的に判断された場合は、プライマリシャフト7の回転数を検知することが困難であり、油圧室19の制御として流量制御を実行したのでは、プライマリプーリ9でベルト17の滑りが生じる可能性がある。そこで、第1の制御例によれば、ステップS1で肯定的に判断されてステップS8に進み、油圧制御を選択することが可能である。したがって、ベルト17の滑りを可及的に抑制することができる。一方、ステップS4で肯定的に判断された場合は、車両Veの走行負荷により、プライマリプーリ9でベルト17の滑りが生じる可能性がある。そこで、ステップS8で油圧制御を選択することにより、ベルト式無段変速機6のトルク容量を増加させれば、ベルト17の滑りを可及的に抑制することができる。
なお、ステップS1で肯定的に判断された場合に、ステップS4,S5,S6,S9を省略し、ステップS7に進む制御ルーチンを採用することも可能である。また、ステップS1を省略する制御ルーチンを採用することも可能である。
(第2の制御例)
この第2の制御例も、正駆動時に実行される制御である。また、プライマリプーリ9の油圧室19の制御として、圧力制御または流量制御を選択する制御例であり、セカンダリプーリ10の油圧室100の制御は、油圧制御に限定されるものとする。この第2の制御例を、図8に基づいて説明する。まず、ベルト式無段変速機6の変速比γが、所定変速比γ0 以上であるか否かが判断される(ステップS11)。このステップS11で否定的に判断された場合は、プライマリプーリ9でベルト17が滑る可能性が低いため、油圧室19の制御として流量制御を選択し(ステップS12)、かつ、圧力制御を実行するフラグをオフし(ステップS13)、ステップS11に戻る。
一方、前記ステップS11で肯定的に判断された場合は、圧力制御を実行するフラグがオンされているか否かが判断され(ステップS14)、ステップS14で否定的に判断された場合は、油圧室19の制御として圧力制御を選択し(ステップS15)、かつ、圧力制御を実行するフラグをオンし(ステップS16)、ステップS11に戻る。また、ステップS14で肯定的に判断されるということは、現在、圧力制御が実行されていることになるため、ステップS11に戻る。
この第2の制御例によれば、ベルト式無段変速機11の変速比が所定変速比以上である場合、つまり、ベルト式無段変速機11で伝達するトルクが所定値以上となる場合は、油圧室19の制御として圧力制御を実行し、プライマリプーリ9におけるベルト17の滑りを抑制することができる。
なお、図8のステップS11において、ベルト式無段変速機6の変速比γが、所定変速比γ0 以上であるか否かの判断以外に、減速中、つまり、変速比を大きくするような変速を実行中であるか否かを判断することも可能である。この場合、これら2種類の判断のうち、少なくとも一方を実行することが可能である。ステップS11で、ベルト式無段変速機6の減速中であるか否かの判断を実行する場合は、ステップS11で肯定的に判断された場合はステップS14に進み、ステップS11で否定的に判断された場合はステップS12に進む。このように、ステップS11で減速中であるか否かを判断すれば、減速中には油圧室19が圧力制御されるため、“プライマリプーリ9の溝M1の幅が急激に広がってベルト17が滑る不具合”を抑制することが可能である。
(第3の制御例)
この第3の制御例は、プライマリプーリ9の油圧室19の制御として、圧力制御または流量制御を選択可能であり、かつ、セカンダリプーリ10の油圧室100の制御として、圧力制御または流量制御を選択可能な場合に相当する制御例である。この第3の制御例を図9のフローチャートに基づいて説明する。まず、変速速度要求が所定値V以上であるか否かが判断される(ステップS21)。
ベルト式無段変速機6の変速速度は、可動シーブ12に加えられる軸線方向の推力(Pin)の偏差と、変速時におけるプライマリシャフト7の回転数とで決まる。このため、変速速度要求は、たとえば、次式により算出することが可能である。
dx/dt=(B(γ)K(γ)tanθ)/Ain×Nin×(Win−Win* )
ここで、“dx/dt”は、可動シーブ12の軸線方向の移動量の時間微分値であり、この時間微分値を変速速度要求として取り扱うことが可能である。また、“B(γ)”、“K(γ)”は変速比の係数であり、“Ain”は、可動シーブ12のベルト接触面の面積であり、“Nin”はプライマリシャフト7の回転数であり、“Win”は油圧室19の油圧である。そして、前記推力は、
Pin=Win/Ain
で算出される。なお、変速速度要求は、プライマリシャフト7の回転数の目標値(Nin)と、プライマリシャフト7の実回転数との偏差から判断することも可能である。
このベルト式無段変速機6の変速応答性を、図10の線図を参照して説明する。図10の線図は、ソレノイドバルブにより制御されるオイルの流量または油圧と、ソレノイドバルブを制御するデューティ比の指示値との関係を示す線図である。図10において、流量が実線で示され、油圧が破線で示されている。油圧については、デューティ比の増加にともない油圧も増加する特性を有しており、デューティ比の変化割合に対する油圧の変化割合が略一定となっている。これに対して、流量は、デューティ比が増加しても流量が変化しない領域がある。つまり、デューティ比の変化割合に対応する圧力(油圧)の変化割合の方が、デューティ比の変化割合に対応する流量の変化割合よりも多い。
そして、ステップS21で否定的に判断された場合は、油圧室19を流量制御し、かつ、油圧室100を圧力制御する(ステップS22)。このステップS22についで、フラグをオフし(ステップS23)、ステップS21に戻る。ここで、“フラグのオフ”とは、ステップS22の処理が選択されていることを意味する。
これに対して、ステップS21で肯定的に判断された場合は、フラグがオンされているか否かが判断される(ステップS24)。このステップS24で否定的に判断された場合は、油圧室19を圧力制御し、かつ、油圧室100を圧力制御する(ステップS25)。このステップS25についで、フラグをオンし(ステップS26)、ステップS21に戻る。前記ステップS24で肯定的に判断された場合は、ステップS21に戻る。なお、“フラグのオン”とは、ステップS25の処理が選択されていることを意味する。また、第3の制御例において、ルーチン初回実行時における初期フラグはオフが設定される。
図9の制御例によれば、ステップS25に進んだ場合は、油圧室19の制御として圧力制御が選択される。特に、ダウンシフトによりプライマリプーリ9の溝M1の幅を広げる際に、溝幅M1が急激に広がってベルト17が滑ることを抑制できる。より具体的には、アクセル開度が急激に減少して車両Veが惰力走行する際に、ステップS25に進んだ場合は、車両Veの運動エネルギが車輪2からベルト式無段変速機6を経由してエンジンに伝達されてエンジンブレーキ力が発生する。また、駆動力源として電動機を用いている場合は、車両Veの運動エネルギを電動機に伝達して、電動機を発電機として機能させ、その電力を蓄電装置に蓄電することも可能である。
そして、ベルト17のエレメント同士に圧縮力が生じる長さ(周長)は、プライマリプーリ9に巻き掛けられている部分の方が長くなる。このため、ステップS25のように、油圧室19の圧力制御を実行して、ベルト式無段変速機6のトルク容量を制御すれば、ベルト17の滑りを抑制できる。なお、変速速度要求が所定値未満である場合は、油圧室19の制御として流量制御を選択することで、変速比の制御精度が低下することを抑制できる。
また、各構成例において、第2のモードまたは第3のモードが選択された場合も、レシオコントロールバルブ22を経由してオイルが油圧室19に供給され、かつ、出力ポート24から流れるオイルの流量が所定流量に固定される。この意味で、第2のモードまたは第3のモードが選択された場合は、シーブ圧コントロールバルブ38およびレシオコントロールバルブ22が、共に機能しているということもできる。その意味で、第2のモードまたは第3のモードが選択された場合は、流量制御装置および圧力制御装置により、油圧室に供給されるオイルの状態が制御されると言える。
なお、特に図示しないが、シーブ圧コントロールバルブによりオイルの調圧をおこなう場合に、調圧されたオイルがレシオコントロールバルブを経由することなく、油圧室に供給される油圧回路を構成することもできる。この構成の油圧回路を採用した場合は、流量制御装置または圧力制御装置のいずれか一方により、油圧室に供給されるオイルの状態が制御されることとなる。また、上記実施例では、変速機としてベルト式無段変速機6が挙げられているが、他の無段変速機、例えば、トロイダル式無段変速機にも、この発明を適用できる。
このトロイダル式無段変速機は、トロイダル面を有する入力ディスクおよび出力ディスクと、各ディスクに対して接触するパワーローラとを有する変速機である。入力ディスクは入力回転部材に連結され、出力ディスクは出力回転部材に連結される。各ディスクとパワーローラとの接触面には潤滑油が存在する。そして、パワーローラを、各ディスクの軸線に直交する平面内で直線状に移動させて、パワーローラと各ディスクとの接触半径を調整することにより、入力回転部材と出力回転部材との間の変速比が制御される。また、各ディスクとパワーローラとの接触面圧を調整することにより、入力回転部材と出力回転部材との間で伝達されるトルクの容量が制御される。
すなわち、各ディスクとパワーローラとの接触面圧を高圧にすると、潤滑油がガラス状になり、いわゆるトラクション伝動により、入力回転部材と出力回転部材との間で動力の伝達がおこなわれる。そして、各ディスクを回転軸線方向に付勢して、各ディスクとパワーローラとの接触面圧を調整する第1の油圧サーボ機構が設けられている。第1の油圧サーボ機構は、各ディスクを回転軸線方向に動作させるピストンと、ピストンを動作させる第1の油圧室とを有している。また、パワーローラを各ディスクの軸線に直交する平面内で直線状に移動させる第2の油圧サーボ機構が設けられている。この第2の油圧サーボ機構は、パワーローラを動作させる第2の油圧室を有している。そして、この発明を、トロイダル式無段変速機に適用する場合は、第1の油圧室および第2の油圧室に供給されるオイルの状態が、流量制御装置および圧力制御装置により制御される。
このように、この発明をトロイダル式無段変速機の油圧制御装置に用いる場合は、トロイダル式無段変速機がこの発明の変速機に相当し、各ディスクおよびパワーローラが、この発明の動作部材に相当し、第1の油圧室および第2の油圧室が、この発明の油圧室に相当する。なお、この発明は、変速比を段階的(不連続的)に制御することのできる有段変速機にも適用可能である。
この実施例に記載されている特徴的な構成を列挙すれば、以下のとおりである。第1の構成は、変速機の変速を制御する動作部材の動作を制御する油圧室を有し、その油圧室に供給されるオイルの状態を制御して、前記変速機の変速を制御する変速機の油圧制御装置(油圧制御方法)において、前記油圧室に供給されるオイルの流量を制御する流量制御手段(流量制御ステップ)と、前記油圧室に供給されるオイルの圧力を制御する圧力制御手段(圧力制御ステップ)とを有することを特徴とする変速機の油圧制御装置(油圧制御方法)である。
第2の構成は、変速機の変速を制御する動作部材の動作を制御する油圧室を有し、その油圧室に供給されるオイルの状態を制御して、前記変速機の変速を制御する変速機の油圧制御装置(油圧制御方法)において、前記油圧室に供給されるオイルの流量を制御する流量制御手段(流量制御ステップ)と、前記油圧室に供給されるオイルの圧力を制御する圧力制御手段(圧力制御ステップ)と、前記油圧室に供給されるオイルの状態を制御する場合に、前記流量制御手段(流量制御ステップ)または前記圧力制御手段(圧力制御ステップ)の少なくとも一方により制御するオイル供給状態制御手段(オイル供給状態制御ステップ)とを有することを特徴とする変速機の油圧制御装置(油圧制御方法)である。
第3の構成は、第1の構成または第2の構成における流量制御手段(流量制御ステップ)が、電磁弁により前記油圧室に供給するオイルの流量を制御する機能を有していることを特徴とするものである。
第4の構成は、第1の構成ないし第3の構成のいずれかにおいて、前記動作部材の動作により、前記変速機の変速比が制御される構成であるとともに、前記圧力制御装置から出るオイルが、前記流量制御装置を経由して前記油圧室に供給される構成であり、前記圧力制御装置から出るオイルを、前記流量制御装置を経由させて前記油圧室に供給する場合は、前記流量制御装置の状態を、前記油圧室のオイルを排出して前記変速機の変速比が大きくなる変速を実行する場合に対応する状態となるように制御するオイル供給状態制御手段(オイル供給状態制御ステップ)とを有していることを特徴とするものである。
第5の構成は、第3の構成のオイル供給状態制御手段(オイル供給状態制御ステップ)が、前記電磁弁の機能に基づいて、前記流量制御手段(流量制御ステップ)または前記圧力制御手段(圧力制御ステップ)の少なくとも一方を選択する機能を、更に備えていることを特徴とするものである。
第6の構成は、第5の構成のオイル供給状態制御手段(オイル供給状態制御ステップ)が、前記電磁弁の機能が低下している場合に、前記流量制御手段(流量制御ステップ)により供給されるオイルの供給形態を、前記変速機の変速比が小さくなるように変速されるオイルの供給形態に制御する機能を、更に備えていることを特徴とするものである。
第7の構成は、第5または第6の構成のオイル供給状態制御手段(オイル供給状態制御ステップ)が、前記電磁弁の機能が低下した場合に、前記油圧室に供給されるオイルの状態を、前記圧力制御手段(圧力制御ステップ)により制御する機能を、更に備えていることを特徴とするものである。
第8の構成は、第2の構成または第3の構成のオイル供給状態制御手段(オイル供給状態制御ステップ)が、前記変速機を有する移動体の車速に関連する情報に基づいて、前記流量制御手段(流量制御ステップ)または前記圧力制御手段(圧力制御ステップ)の少なくとも一方により、前記油圧室に供給されるオイルの状態を制御する機能を、更に備えていることを特徴とするものである。
第9の構成は、第8の構成のオイル供給状態制御手段(オイル供給状態制御ステップ)が、前記変速機を有する移動体の車速が所定車速以下である場合に、前記圧力制御手段(圧力制御ステップ)により、前記油圧室に供給されるオイルの状態を制御する機能を、更に備えていることを特徴とするものである。
第10の構成は、第2の構成ないし第9の構成のいずれかのオイル供給状態制御手段(オイル供給状態制御ステップ)が、前記変速用動作部材以外の油圧制御対象に供給されるオイルの状態を制御する機能を、更に兼備していることを特徴とするものである。
第11の構成は、第10の構成を前提としており、変速機に入力される動力の伝達経路にクラッチが設けられており、前記油圧制御対象は前記クラッチを含むことを特徴とするものである。
第12の構成は、第2の構成または第3の構成を前提とし、前記変速機に入力される動力の伝達経路にクラッチが設けられており、前記オイル供給状態制御手段(オイル供給状態制御ステップ)は、前記クラッチのトルク容量を制御するクラッチ用油圧室の油圧を制御する機能と、前記クラッチ用油圧室の油圧を高める場合に前記流量制御手段(流量制御ステップ)を選択する機能と、前記クラッチ用油圧室の油圧を低下させる場合に前記圧力制御手段(圧力制御ステップ)を選択する機能とを、更に備えていることを特徴とするものである。
第13の構成は、第1ないし12のいずれかの構成の変速機が、複数のプーリにベルトを巻き掛けたベルト式無段変速機であり、前記動作部材は、いずれかのプーリにおけるベルトの巻き掛け状態を調整する可動シーブであることを特徴とするものである。なお、上記第1の構成ないし第13の構成において、各機能的手段および制御ステップは、電子制御装置52により達成される。
第14の構成は、第1の構成において、前記油圧室に供給されるオイルの流量を前記流量制御装置により制御する流量制御モード、または前記油圧室に供給されるオイルの圧力を前記圧力制御装置により制御する圧力制御モードのいずれを選択するかを、前記変速機を搭載した車両の運転状態に基づいて判断するモード選択器(モード選択用コントローラ)を備えていることを特徴とする油圧制御装置である。ここで、電子制御装置52が、モード選択器(モード選択用コントローラ)に相当する。
第15の構成は、第1の構成において、前記油圧室に供給されるオイルの流量を前記流量制御装置により制御する流量制御モード、または前記油圧室に供給されるオイルの圧力を前記圧力制御装置により制御する圧力制御モードのいずれを選択するかを、前記変速機を搭載した車両の運転状態に基づいて判断するモード選択ステップを備えていることを特徴とする油圧制御方法である。
第16の構成は、前述した各構成の油圧制御装置は、駆動力源の動力が変速機を経由して車輪に伝達される構成の車両、または、車両の運動エネルギが変速機を経由して駆動力源に伝達される構成の車両のいずれにも適用可能である。
4…ロックアップクラッチ、 6…ベルト式無段変速機、 9…プライマリプーリ、 12…可動シーブ、 17…ベルト、 18…油圧制御装置、 19,54…油圧室、 22…レシオコントロールバルブ、 30…第1のソレノイドバルブ、 38…シーブ圧コントロールバルブ、 46…第2のソレノイドバルブ、 55…ロックアップリレーバルブ、 Ve…車両。