JP2007198511A - トロイダル型無段変速機の変速制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】トロイダル型無段変速機に対する入力トルクが急激に増大した場合の変速を防止する。
【解決手段】入力ディスクと出力ディスクとの間にパワーローラを挟み込んだパワーローラを傾転させて変速比を設定し、かつ前記パワーローラを傾転させるべくパワーローラをその回転面に沿う方向に移動させる推力を生じさせる流体圧式のアクチュエータを有し、そのアクチュエータの流体圧を所定の元圧を調圧して設定するように構成されたトロイダル型無段変速機の変速制御装置において、入力トルクが増大する場合に、前記アクチュエータの調圧を行う制御ゲインを増大させるゲイン増大手段(ステップS3)を備えている。
【選択図】図1
【解決手段】入力ディスクと出力ディスクとの間にパワーローラを挟み込んだパワーローラを傾転させて変速比を設定し、かつ前記パワーローラを傾転させるべくパワーローラをその回転面に沿う方向に移動させる推力を生じさせる流体圧式のアクチュエータを有し、そのアクチュエータの流体圧を所定の元圧を調圧して設定するように構成されたトロイダル型無段変速機の変速制御装置において、入力トルクが増大する場合に、前記アクチュエータの調圧を行う制御ゲインを増大させるゲイン増大手段(ステップS3)を備えている。
【選択図】図1
Description
この発明は、入力ディスクと出力ディスクとの間に挟み込んだパワーローラを介して各ディスクの間でトルクを伝達するとともに、そのパワーローラを傾転させて変速比を変化させるトロイダル型無段変速機に関し、特にその変速を制御するための装置に関するものである。
トロイダル型無段変速機は、パワーローラを入力ディスクと出力ディスクとの間に挟み付け、これらのパワーローラと各ディスクとの間でトラクションオイルを介したトルクの伝達をおこなうように構成されている。なお、この発明では、トラクションオイルを介したパワーローラと各ディスクとの間のトルクの伝達状態を、パワーローラと各ディスクとの接触と言う。
そのパワーローラと各ディスクとの接触点(もしくは接触領域)におけるパワーローラの接線方向の速度と各ディスクの接触点半径での接線方向の速度とが一致していれば、これが中立位置であって、パワーローラに対してこれを傾ける力すなわち傾転力は生じない。その中立位置からパワーローラが変位(オフセット)すると、パワーローラと各ディスクとの接触点におけるそれぞれの接線方向速度が異なるので、いわゆるサイドスリップが生じ、それに起因して、パワーローラを傾けるいわゆる傾転力が生じる。
パワーローラを中立位置からオフセットさせて傾転させると、各ディスクに対する接触点の半径(各接触点の各ディスクの回転中心軸線からの距離)が変化して変速が生じる。このようにしてパワーローラを傾転させた後、パワーローラを中立位置に復帰させると、パワーローラが傾転した状態に維持されるとともに、その傾転角度に応じた変速比が設定される。
パワーローラを介して各ディスクとの間でトルクを伝達すると、パワーローラにはこれを接線方向に押す荷重すなわち接線力が作用する。したがって、パワーローラを傾転させるべくストロークさせるためには、その接線力より大きい推力もしくは小さい推力をパワーローラに作用させることになり、またパワーローラを傾転の生じない中立位置に保持するためには、その推力をパワーローラの接線力とバランスさせることになる。このような推力を生じさせる機構として、油圧シリンダが使用されており、油圧シリンダに油圧を供給もしくは排出することにより前記推力を増大もしくは減少させて変速を生じさせ、またパワーローラが中立位置にある状態で油圧の給排が生じないように制御することにより、一定の変速比に維持するように構成されている。
パワーローラが中立位置にある状態での推力は、その時点で伝達されているトルクに応じた接線力とバランスする推力であるから、接線力が急激に増大した場合には、力のバランスが崩れてパワーローラがストロークし、その結果、変速が生じてしまう。トロイダル型無段変速機を搭載した車両が発進する場合、アクセルペダルが踏み込まれることによってエンジンの出力が増大し、それに伴ってトロイダル型無段変速機の入力トルクが急激に増大することがあり、このような場合の変速を防止するように構成した変速機が、特許文献1に記載されている。すなわち、特許文献1に記載されたトロイダル型無段変速機は、前記推力を生じる油圧シリンダに対する油圧の給排を制御するスプール弁を備え、そのスプール弁にライン圧回路から油圧を供給する管路の途中に逆止弁が設けられ、伝達するべきトルクが増大した場合に、油圧の逆流を阻止することにより、前記油圧シリンダに油圧を閉じ込めた状態とし、その結果、トルクの増大に伴う変速を防止するように構成されている。
また、上述した入力トルクの増大に伴う変速(すなわちトルクシフト)を防止もしくは抑制するために、入力トルクに対して目標傾転角度を補正するように構成された装置が、特許文献2に記載されている。
特開平9−166192号公報
特許第2956418号公報
上記の特許文献1に記載された構成では、入力トルクが急激に増大した場合、ライン圧を供給する管路が逆止弁によって閉じられてしまう。そのため、その状態ではライン圧を供給できないから、ライン圧による変速制御もしくは傾転角の制御を行えなくなり、変速比の修正の自由度が低下する可能性がある。
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、パワーローラの接線力に対抗する推力を生じさせる油圧の給排を行える状態を維持しつつ入力トルクの変化に伴う変速比の変化を抑制することのできる変速制御装置を提供することを目的とするものである。
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、同一軸線上に互いに対向して配置されて回転する入力ディスクと出力ディスクとの間にパワーローラを挟み込み、そのパワーローラが各ディスクにトルク伝達可能に接する接点を結んだ線と前記各ディスクの中心軸線とのなす角度が変化するように前記パワーローラを傾転させて変速比を設定し、かつ前記パワーローラを傾転させるべくパワーローラをその回転面に沿う方向に移動させる推力を生じさせる流体圧式のアクチュエータを有し、そのアクチュエータの流体圧を所定の元圧を調圧して設定するように構成されたトロイダル型無段変速機の変速制御装置において、入力トルクが増大する場合に、前記アクチュエータの調圧を行う制御ゲインを増大させるゲイン増大手段を備えていることを特徴とする変速制御装置である。
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記元圧は、前記トロイダル型無段変速機の全体の元圧であるライン圧を含み、前記ゲイン増大手段は、前記ライン圧を増大させる手段を含むことを特徴とするトロイダル型無段変速機の変速制御装置である。
請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記ゲイン増大手段は、前記トロイダル型無段変速機が搭載された車両の車速が予め定めた基準車速より低車速でかつ前記入力トルクもしくは要求駆動力が予め定めた基準値より大きい場合に、前記制御ゲインを増大させる手段を含むことを特徴とするトロイダル型無段変速機の変速制御装置である。
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記ゲイン増大手段は、前記車両が発進する際に前記制御ゲインを増大させる手段を含むことを特徴とするトロイダル型無段変速機の変速制御装置である。
請求項5の発明は、同一軸線上に互いに対向して配置されて回転する入力ディスクと出力ディスクとの間にパワーローラを挟み込み、そのパワーローラが各ディスクにトルク伝達可能に接する接点を結んだ線と前記各ディスクの中心軸線とのなす角度が変化するように前記パワーローラを傾転させて変速比を設定し、かつ前記パワーローラを傾転させるべくパワーローラをその回転面に沿う方向に移動させる推力を生じさせる流体圧式のアクチュエータを有し、そのアクチュエータの流体圧を所定の元圧を調圧して設定するように構成されたトロイダル型無段変速機の変速制御装置において、入力トルクが増大する場合に、前記トロイダル型無段変速機の全体の元圧である前記ライン圧を増大させるライン圧増大手段を備えていることを特徴とするものである。
請求項6の発明は、請求項5の発明において、前記ライン圧増大手段は、前記トロイダル型無段変速機が搭載された車両の車速が予め定めた基準車速より低車速でかつ前記入力トルクもしくは要求駆動力が予め定めた基準値より大きい場合に、前記ライン圧を増大させる手段を含むことを特徴とするトロイダル型無段変速機の変速制御装置である。
請求項7の発明は、請求項5または6の発明において、前記ライン圧増大手段は、前記車両が発進する際に前記制御ゲインを増大させる手段を含むことを特徴とするトロイダル型無段変速機の変速制御装置である。
そして、請求項8の発明は、請求項2ないし7のいずれかの発明において、前記ライン圧は、前記アクチュエータを動作させるのに必要とする圧力と前記各ディスクがパワーローラを挟み付けるのに必要とする挟圧力に応じた圧力とのうちの高い方の圧力に設定されることを特徴とするトロイダル型無段変速機の変速制御装置である。
請求項1の発明においては、パワーローラをその回転面に沿う方向にアクチュエータの推力が作用し、トルクの伝達に起因してパワーローラに作用する接線力と前記推力とがバランスすることにより、パワーローラが中立位置に保持される。その状態で入力トルクが増大する場合には、アクチュエータにおける流体圧を調圧する制御ゲインが増大させられる。そのため、そのアクチュエータによる推力が迅速に応答して変化する。すなわち、入力トルクの増大に伴う接線力の増大に対応して推力が増大するので、パワーローラが中立位置から大きくオフセットして変速が生じるなどの事態を防止もしくは抑制することができる。また、流体圧の給排を制御することがないので、変速制御の自由度が制限されることを回避できる。
また、請求項2または5あるいは8の発明によれば、元圧であるライン圧が増大させられることにより、前記アクチュエータにおける油圧の調圧のための制御量に対する油圧の変化量が増大する。すなわち、油圧の制御ゲインが増大するので、請求項1の発明と同様の効果を得ることができる。
さらに、請求項3または6あるいは8の発明によれば、車速が基準車速より低車速で、かつ入力トルクもしくは要求駆動力が基準値より大きい場合に、ライン圧を、要求駆動力に応じた圧力より高くするので、請求項1または2の発明と同様の効果に加えて、ライン圧を相対的に高くする期間が短くなり、車両のエネルギ効率あるいは燃費の悪化を防止もしくは抑制することができる。
そして、請求項4または7あるいは8の発明によれば、発進のための要求駆動力が増大した場合に、パワーローラを中立位置に維持できるので、パワーローラが限界まで傾転してストッパーに当接するなどの事態を未然に防止することができる。
つぎに、この発明をより具体的に説明する。この発明で対象とするトロイダル型無段変速機は、入力側のディスクと出力側のディスクとを同一軸線上に対向させて配置するとともに、これらのディスクの間に、回転中心軸線が、各ディスクの回転中心軸線に対してほぼ直交するようにパワーローラを配置して挟み込み、そのパワーローラを介して各ディスクの間でトルクを伝達するように構成した無段変速機である。特に、各ディスクの対向面がトロイダル面を形成している無段変速機であり、対向するトロイダル面の曲率中心が各ディスクの外周縁の近辺もしくはその外側にあるいわゆるハーフトロイダル型のものや、その曲率中心が各ディスクの外周縁より内側にあるタイプのもののいずれであってもよい。さらに、一対のディスクを備えたいわゆるシングルキャビティ型の無段変速機に限らず、二対のディスクを備えたダブルキャビティ型の無段変速機であってもよい。そして、入力側のディスクと出力側のディスクとの間に挟み込むパワーローラは、ディスクの円周方向に等間隔に複数設けられていればよく、一対のパワーローラを備えた構成に限られない。
また、この発明で対象とするトロイダル型無段変速機は、パワーローラを挟み付けるいわゆる挟圧力を油圧によって発生させるように構成したものであってよい。あるいはパワーローラを中立位置から変位させ、また中立位置に復帰させる操作を、パワーローラの回転面に沿う方向に推力を発生するアクチュエータによって行うように構成したものであってよい。そのアクチュエータとしては、油圧シリンダや電動シリンダなどを採用することができ、その推力に応じてパワーローラが中立位置から変位させられてその傾転および変速が生じる。また、この発明では、パワーローラの変位もしくは傾転の制御のための構成として、機械的なフィードバック機構を使用せずに、圧油を直接フィードバック制御するように構成する。
図3および図4には、ダブルキャビティ式のハーフトロイダル型無段変速機の一例を模式的に示してあり、トロイダル面を対向させた入力ディスク1と出力ディスク2とが、二対、同一軸線上に配置されている。これらの図に示す例では、軸線方向での左右両端部に入力ディスク1が配置され、中央部に出力ディスク2が、いわゆる背合わせに配置され、これらの出力ディスク2の間に出力部材としての出力ギヤ3が配置されている。
各ディスク1,2および出力ギヤ3の中心部を入力軸4が貫通しており、各入力ディスク1はこの入力軸4に一体となって回転し、かつ軸線方向に移動できるように取り付けられている。これに対して出力ディスク2および出力ギヤ3は、入力軸4に対して回転自在に嵌合しており、かつ各出力ディスク2と出力ギヤ3とは一体となって回転するように連結されている。入力軸4の一方の端部(図3の左側の端部)には、入力ディスク1を抜け止めするためのロック部材としてのロックナット5が取り付けられている。これとは反対側の端部(図3での右側の端部)には、油圧シリンダ6が取り付けられている。
この油圧シリンダ6は、各対の入力ディスク1と出力ディスク2とを互いに接近させる方向に押圧する挟圧力を生じさせるための挟圧力発生機構であって、シリンダ7が入力軸4に固定されるとともに、そのシリンダ7の内部に軸線方向に移動可能に収容したピストン8が、入力ディスク1の背面に当接させられている。したがって、そのシリンダ7とピストン8との間に油圧を供給することにより、ピストン8が一方の入力ディスク1をこれとは反対側に配置されている入力ディスク1側に向けて押圧するように構成されている。この油圧シリンダ6に供給される油圧はライン圧であって、トロイダル型無段変速機で伝達するべきトルクに応じた油圧が供給される。なお、この挟圧力発生機構は、油圧シリンダ6に替えて、トルクを軸線方向の推力に変化させるカム機構やネジ機構などの他の機構によって構成してもよい。
各対の入力ディスク1と出力ディスク2との間にそれぞれ複数のパワーローラ9が挟み込まれている。これらのパワーローラ9は、入力ディスク1と出力ディスク2との間でのトルクの伝達を媒介するいわゆる伝動部材であって、ほぼ円盤状をなし、入力ディスク1と出力ディスク2との間に、各ディスク1,2の円周方向に等間隔に配置されている。各パワーローラ9は、各ディスク1,2の回転に伴って自転し、また各ディスク1,2の間で傾く(傾転する)ように、それぞれトラニオン10によって保持されている。ここで、傾転とは、より詳しくは、パワーローラ9の各ディスク1,2に対する接触点を結んだ線と、各ディスク1,2の回転中心軸線とのなす角度(すなわち傾転角度)が変化する挙動である。
各トラニオン10は、パワーローラ9を自転かつ傾転自在に保持するためのものであって、中心側を向く面を平坦面とした保持部11の上下両側にトラニオン軸12が延びて形成されている。図4での上側のトラニオン軸12が軸受を介してアッパーヨーク13に嵌合させられ、また図4での下側のトラニオン軸12が軸受を介してロアーヨーク14に嵌合させられている。したがって各トラニオン10は、それぞれトラニオン軸12を中心にして回転できるように各ヨーク13,14によって互いに連結されている。したがってトラニオン軸12の中心軸線が傾転軸となっている。
各パワーローラ9は各トラニオン10における前記保持部11に取り付けたピボットシャフト15によって回転自在に保持され、また各パワーローラ9とそれぞれのトラニオン10との間にはスラスト軸受16が介装されている。これらトラニオン10やピボットシャフト15、スラスト軸受16などが、パワーローラを傾転可能に保持する保持部材になっている。
各トラニオン10における図4での下側のトラニオン軸12は、直線的な前後動作を行うアクチュエータに連結されている。そのアクチュエータは、流体圧シリンダや、トルクを推力に変化させて出力する電動シリンダなどによって構成されており、図に示す例では、油圧シリンダ17が採用されている。具体的には、前記トラニオン軸12は、各パワーローラ9に対応して設けた油圧シリンダ17のピストン18に連結されている。これらの油圧シリンダ17は、一方のパワーローラ9を図4での上側に移動させると同時に他方のパワーローラ9を図4での下側に移動させるように構成されている。例えば、図4での左側の油圧シリンダ17におけるピストン18より上側の油圧室が変速比の小さい高速側に変速させるためのハイ油室17Hであり、これとは反対の下側の油圧室が変速比の大きい低速側に変速させるためのロー油室17Lとなっている。また、図4での右側の油圧シリンダ17におけるピストン18より上側の油圧室が変速比の大きい低速側に変速させるためのロー油室17Lであり、これとは反対の下側の油圧室が変速比の小さい高速側に変速させるためのハイ油室17Hとなっている。そして、ハイ油室17H同士、およびロー油室17L同士が互いに連通されている。
上記のパワーローラ9を中立位置からアップシフト側あるいはダウンシフト側に変位(オフセット)させて変速を実行するための機構について説明すると、その機構は前記油圧シリンダ17などのアクチュエータを動作させるように構成された機構であり、図に示す例では、デューティ制御される電磁弁19によって構成されている。なお、この種の制御弁は、電流制御される電磁弁であってもよく、また前述したハイ油室17Hに対する油圧の給排を制御する弁とロー油室17Lに対する油圧の給排を制御する弁との二本を設けてもよく、あるいは一本の制御弁で各油室17H,17Lに対する油圧の給排を同時に制御するように構成してもよい。
図に示す電磁弁19は、前記ハイ油室17Hに連通するハイ側ポート20と、前記ロー油室17Lに連通するロー側ポート21と、ライン圧が入力される入力ポート22と、二つのドレーンポート23,24と、ソレノイド25およびその反対側に配置されたスプリング26によって軸線方向に移動させられてこれらのポートの連通状態を切り替えるスプール27とを有している。そして、そのスプール27は、入力ポート22および各ドレーンポート23,24をハイ側ポート20およびロー側ポート21のいずれに対しても閉じた状態、入力ポート22をハイ側ポート20に連通させると同時にロー側ポート21をドレーンポート24に連通させたアップシフト状態、これとは反対にロー側ポート21を入力ポート22に連通させると同時にハイ側ポート20をドレーンポート23に連通させたダウンシフト状態とに切り替えるように構成されている。なお、ライン圧は、トロイダル型無段変速機を制御する油圧全体の元圧であり、上記のトロイダル型無段変速機が搭載された車両のアクセル開度もしくはスロットル開度、あるいは車速を設定車速に維持する制御を行うクルーズコントロールシステムからの要求信号などで代表される要求駆動力に応じて設定される。
したがって、電磁弁19によってハイ油室17Hおよびロー油室17Lに圧油を適宜に給排することにより、これらの油室17H,17Lに差圧が生じ、その差圧に応じた推力が油圧シリンダ17からトラニオン10に作用する。具体的には、その差圧とピストン18の受圧面積との積が推力となる。一方、パワーローラ9には、トルクを伝達することに伴う接線力が作用し、その合力が前記推力に対向する方向の荷重となる。したがって、前記推力と前記荷重とのいずれかが大きければ、パワーローラ9が変位し、両者がバランスすれば、パワーローラ9が変位せずに所定の位置に維持される。
上記の電磁弁19を使用した変速制御を電気的に実行するように構成されている。すなわち、各パワーローラ9の位置をトラニオン10の位置もしくは変位量として検出するためにストロークセンサ28が設けられている。このストロークセンサ28は一例として、一方のトラニオン10のトラニオン軸12に取り付けられており、その軸線方向の変位量を電気的に検出して検出信号として出力するように構成されている。ここで変位量とは、パワーローラ9に対してサイドスリップ力もしくは傾転力が作用しない中立位置からの前記傾転軸方向の移動量である。
さらに、いずれかの入力ディスク1の回転数を検出して電気的な信号を出力する入力回転数センサ30と、いずれかの出力ディスク2の回転数を検出して電気的な信号を出力する出力回転数センサ31とが設けられている。したがって、これらの回転数センサ30,31で検出された各回転数に基づいて、実際の変速比を求めることができる。また、特には図示しないが、上記のロー油室17Lの油圧およびハイ油室17Hの油圧を検出する油圧センサを設けてもよい。
これら各センサ28,30,31は、変速比や前述した挟圧力を制御するための電子制御装置(ECU)32に電気的に接続されている。この電子制御装置32は、マイクロコンピュータを主体として構成されたものであって、入力された信号および予め記憶しているデータならびにプログラムに従って各種の演算を行い、その演算結果に基づいて制御指令信号を出力するように構成されている。上記のトロイダル型無段変速機は、車両に搭載することができ、その場合、この電子制御装置32には、上記の各センサ28,30,31からの信号に加えて、アクセル開度や車速、エンジン回転数などの各種の検出信号が入力される。
上記のトロイダル型無段変速機によるトルクの伝達および変速について説明する。エンジンなどの動力源から入力ディスク1にトルクが入力されると、その入力ディスク1にトラクションオイルを介して接触しているパワーローラ9にトルクが伝達され、さらにそのパワーローラ9から出力ディスク2にトラクションオイルを介してトルクが伝達される。その場合、トラクションオイルは加圧されることによりガラス転移し、それに伴う大きい剪断力によってトルクを伝達するので、各ディスク1,2は入力トルクに応じた圧力がパワーローラ9との間に生じるように押圧される。
また、パワーローラ9の周速と各ディスク1,2のトルク伝達点(パワーローラ9がトラクションオイルを介して接触している点)の周速とが実質的に同じであるから、パワーローラ9が傾転して入力ディスク1との間のトルク伝達点の回転中心軸線からの半径と、出力ディスク2との間のトルク伝達点の回転中心軸線からの半径とに応じて各ディスク1,2の回転数(回転速度)が異なり、その回転数(回転速度)の比率が変速比となる。
このようにして変速比を設定するパワーローラ9の傾転は、パワーローラ9を図4の上下方向に移動させることにより生じる。例えば、前記電磁弁19を制御して油圧シリンダ17のハイ油室17Hにライン圧を供給すると、各油室17H,17Lの圧力差に基づく推力とパワーローラ9の接線力との差によって、図4の左側のパワーローラ9が下側に移動し、かつ図4の右側のパワーローラ9が上側に移動する。その結果、各パワーローラ9にはこれを傾転させる力(サイドスリップ力)がディスク1,2との間に生じ、各パワーローラ9が傾転する。パワーローラ9の変位量は、実際の傾転角と目標とする傾転角との偏差に基づいて制御され、したがってパワーローラ9が次第に傾転して目標傾転角に一致すると、パワーローラ9は中立位置に復帰させられ、その傾転が止まる。その結果、目標とする変速比が設定される。この中立位置では、前記差圧は、これに基づく推力とパワーローラ9の接線力とがバランスするように制御される。
上記の電子制御装置32は、スロットル開度などで代表される要求駆動量や車速などに基づいて目標とする変速比に対応する傾転角度を求め、その傾転角度を達成するように電磁弁19に指令信号を出力する。その目標傾転角度は、パワーローラ9をトラニオン10と共にストロークさせることにより達成できるので、パワーローラ9のオフセット量を前記ストロークセンサ28によって検出し、その検出したオフセット量とストローク指令量との偏差を制御偏差として電磁弁19に対する指令信号(例えばデューティ比)がフィードバック制御される。
上記の基本的な変速制御を図5にブロック図によって概念的に示してある。図5において、先ず、目標変速比に相当する目標傾転角度φoと実際の傾転角度φとの偏差が求められる。その目標変速比およびこれに対応する目標傾転角度の算出は、従来、トロイダル型無段変速機での変速制御で実行されているのと同様にしておこなうことができる。例えば、アクセル開度などで表される要求駆動量と車速とに基づいて要求駆動力が算出され、その要求駆動力と車速とから目標出力が求められ、その目標出力を最小の燃費で達成する内燃機関の回転数が求められ、無段変速機の入力回転数がその内燃機関の回転数に相当する回転数となるように目標変速比および目標傾転角度φoが求められる。
その偏差に所定のゲインK1による処理を施してパワーローラ9のオフセット量(一例として中立点からのオフセット量)Xoが求められる。そのオフセット量Xoと実際のオフセット量Xとの偏差に所定のゲインK2による処理が施されて、前記電磁弁19について指令信号(例えばデューティ比)が求められ、その電磁弁19の出力する油圧によってパワーローラ9が変位し、かつそれに伴ってパワーローラ9が傾転することにより、無段変速機(CVT)が変速動作する。
上述した目標変速比や目標傾転角度は、要求駆動力などに基づいて求められるのに対して、実際の変速比や傾転角度は、パワーローラ9が各ディスク1,2のトロイダル面に接触している範囲で設定される。そこで、パワーローラ9が各ディスク1,2のトロイダル面を外れて傾転しないようにするために、目標変速比もしくは目標傾転角度に制御上の制限が設定しており、また機構上、パワーローラ9の過度な傾転を制限するストッパー33が設けられている。図6にその一例を模式的に示してあり、ストッパー33はトラニオン10の外面を当接させてその傾転動作を制限するように構成されている。より具体的には、前述した上下いずれか、もしくは上下両方のヨーク13,14にトラニオン10の外面を当接させる突起を設け、これをストッパー33とすることができる。
上述したように、前記ハイ油室17Hもしくはロー油室17Lに圧油を供給することによりパワーローラ9がストロークして変速が生じる。これは、油圧シリンダ17による推力が、トルクを伝達することに伴ってパワーローラ9に作用する接線力より大きくなり、あるいは反対に小さくなるからである。このような圧油の給排を行う意図的な変速以外に、入力トルクの変化によって変速が生じることがある。これはトルクシフトと称される変速であって、例えば入力トルクが急激に増大すると、パワーローラ9に作用する接線力が増大するので、パワーローラ9を中立位置に保持する推力の増大が遅れれば、その間にパワーローラ9がストロークしてしまい、変速が生じることになる。このような変速は、変速比が増大するダウンシフトであるために、変速比を最大値に設定している停車状態からの発進の際にそのような変速が生じると、パワーローラ9の傾転角度が更に増大してストッパー33に当接する可能性がある。そこで、この発明に係る変速制御装置は、変速制御用の油圧の制御応答性を高くして、入力トルクの急激な増大による変速を可及的に抑制するように構成されている。
図1は、そのための制御例を示すフローチャートであって、前記油圧シリンダ17に給排する油圧の制御ゲインを、入力トルクが急激に増大する場合には、他の場合よりも大きく増大させるように構成した例である。図1において、先ず、車速Vが予め定めた基準車速Xvより低車速か否かが判断される(ステップS1)。これは、上記のトロイダル型無段変速機が搭載された車両の発進時か否かを判定するためのものであり、したがって基準車速Xvとしては、車両の発進を判定できる程度に小さい値が設定される。このステップS1で肯定的に判断された場合には、トロイダル型無段変速機に対する入力トルクTinが、予め定めた基準トルクXtより大きいか否かが判断される(ステップS2)。このステップS2は、入力トルクTinの増大がトルクシフトを生じさせる程度のものか否か、もしくは入力トルクTinの増大が変速比の変化に大きく影響するか否かを判定するためのものであり、したがって基準トルクXtは、実験やシミュレーションによって、その判定の目的を達成できる程度の値に予め設定される。
このステップS2で肯定的に判断された場合には、ライン圧Plineを予め定めた所定圧α、増圧する(ステップS3)。ここで、ライン圧Plineは、トロイダル型無段変速機の全体の元圧であり、エンジンや走行用モータなどの動力源で発生させられた油圧あるいは電動オイルポンプで発生させられた油圧を、その時点のアクセル開度や車速などで求められる要求駆動力もしくはこれに基づく要求出力に応じて調圧して設定される油圧である。より具体的には、入力されたトルクを、滑りを生じることなく伝達するように前記油圧シリンダ6による挟圧力を発生させる油圧と、変速を実行するために前記油圧シリンダ17で必要とする油圧のうち、高い方の油圧がライン圧とされる。
これに加えられる所定圧αは、入力トルクTinの増大に伴うパワーローラ9の接線力の増大に、迅速に応答して油圧シリンダ17の推力を増大させるための圧力であり、予め定められた一定値、もしくは車速が低車速ほど、また入力トルクTinが大きいほど、大きい値に予め設定された値である。このようにライン圧Plineを増大させることにより、油圧シリンダ17の油圧、特にハイ油室17Hの油圧を制御する制御ゲインが増大する。
すなわち、油圧シリンダ17の油圧を制御する前記電磁弁19のデューティ比とその出力圧(調圧値)との関係である調圧特性は、図2に示すようになっている。図2で横軸がデューティ比を示し、縦軸が油圧を示し、さらにPsが元圧(ライン圧もしくはライン圧を補正した油圧)を示している。前記電磁弁19の調圧特性は、デューティ比が所定の値D1まで増大すると、油圧が増大し始め、その後、更に大きいデューティ比D2になるまで、デューティ比に応じて油圧が高くなり、そのデューティ比D2で元圧PSをそのまま出力するようになる。元圧PSをそのまま出力するデューティ比D2は、元圧PSの高低に関係せずに一定であるから、デューティ比に応じて増大する油圧の勾配は、元圧PSが高いほど、大きい勾配(急な勾配)となる。
一方、油圧の制御応答性すなわち制御ゲインは、デューティ比の変化量に対する油圧の変化量で表すことができる。したがって、上記の電磁弁19による油圧リンダ17の油圧(特にハイ油室17Hの油圧)の制御ゲインは、元圧Psが高いほど増大する。
また、パワーローラ9の中立位置あるいはオフセット量は、中立位置と実際のオフセット量との偏差もしくは目標オフセット量と実際のオフセット量との偏差に基づくフィードバック制御によって制御されている。したがって、低車速で入力トルクTinが増大した場合、その入力トルクTinの増大に起因するパワーローラ9の接線力の増大によってパワーローラ9がオフセットしようとするが、パワーローラ9がオフセットしようとすると、油圧シリンダ17による推力が、パワーローラ9の接線力の増大に対応して迅速に増大する。その結果、パワーローラ9は殆どオフセットすることがなく、中立位置に保持され、変速比が変化しない。入力トルクTinの増大に起因するトルクシフトは変速比の増大するダウンシフトであるが、車両の発進時に上記のようにライン圧Plineが制御されることにより、停車状態での最大変速比から更に変速比が増大する事態が防止もしくは抑制され、そのため、パワーローラ9がストッパー33に当接するなどの事態が防止される。
なお、車速Vが基準車速Xv以上であることによりステップS1で否定的に判断された場合には、車速やスロットル開度などの走行状態に基づく変速制御が行われていて、変速用の油圧の制御応答性を特に増大させる必要がないので、ライン圧Plineは通常と同様に制御される(ステップS4)。また、入力トルクTinが基準トルクXt以下であることによりステップS3で否定的に判断された場合には、急激なトルクシフトの可能性が低いので、ライン圧Plineは通常と同様に制御される(ステップS4)。
ここで、上記の具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、図1に示すステップS3を実行する機能的手段が、この発明のゲイン増大手段あるいはライン圧増大手段に相当する。
なお、この発明は、上述した具体例に限定されないのであって、この発明におけるゲイン増大手段は、要は、入力トルクが増大する場合のいわゆるトルクシフトを防止もしくは抑制するように油圧シリンダの油圧を制御する制御応答性を増大させるように機能するものであればよく、したがって例えば油圧シリンダに圧油を給排する油路の断面積を大小に切り替えるバルブ機構もしくはその制御機構であってもよく、ライン圧を増大させる替わりに、ライン圧を調圧して前記元圧Psとし、その元圧Psを高くするように構成した油圧機構などであってもよい。
1…入力ディスク、 2…出力ディスク、 4…入力軸、 9…パワーローラ、 10…トラニオン、 17…油圧シリンダ、 17H…ハイ油室、 17L…ロー油室、 19…電磁弁、 30…入力回転数センサ、 31…出力回転数センサ、 32…電子制御装置(ECU)、 33…ストッパー。
Claims (8)
- 同一軸線上に互いに対向して配置されて回転する入力ディスクと出力ディスクとの間にパワーローラを挟み込み、そのパワーローラが各ディスクにトルク伝達可能に接する接点を結んだ線と前記各ディスクの中心軸線とのなす角度が変化するように前記パワーローラを傾転させて変速比を設定し、かつ前記パワーローラを傾転させるべくパワーローラをその回転面に沿う方向に移動させる推力を生じさせる流体圧式のアクチュエータを有し、そのアクチュエータの流体圧を所定の元圧を調圧して設定するように構成されたトロイダル型無段変速機の変速制御装置において、
入力トルクが増大する場合に、前記アクチュエータの調圧を行う制御ゲインを増大させるゲイン増大手段を備えていることを特徴とするトロイダル型無段変速機の変速制御装置。 - 前記元圧は、前記トロイダル型無段変速機の全体の元圧であるライン圧を含み、
前記ゲイン増大手段は、前記ライン圧を増大させる手段を含む
ことを特徴とする請求項1に記載のトロイダル型無段変速機の変速制御装置。 - 前記ゲイン増大手段は、前記トロイダル型無段変速機が搭載された車両の車速が予め定めた基準車速より低車速でかつ前記入力トルクもしくは要求駆動力が予め定めた基準値より大きい場合に、前記制御ゲインを増大させる手段を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のトロイダル型無段変速機の変速制御装置。
- 前記ゲイン増大手段は、前記車両が発進する際に前記制御ゲインを増大させる手段を含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のトロイダル型無段変速機の変速制御装置。
- 同一軸線上に互いに対向して配置されて回転する入力ディスクと出力ディスクとの間にパワーローラを挟み込み、そのパワーローラが各ディスクにトルク伝達可能に接する接点を結んだ線と前記各ディスクの中心軸線とのなす角度が変化するように前記パワーローラを傾転させて変速比を設定し、かつ前記パワーローラを傾転させるべくパワーローラをその回転面に沿う方向に移動させる推力を生じさせる流体圧式のアクチュエータを有し、そのアクチュエータの流体圧を所定の元圧を調圧して設定するように構成されたトロイダル型無段変速機の変速制御装置において、
入力トルクが増大する場合に、前記トロイダル型無段変速機の全体の元圧である前記ライン圧を増大させるライン圧増大手段を備えていることを特徴とするトロイダル型無段変速機の変速制御装置。 - 前記ライン圧増大手段は、前記トロイダル型無段変速機が搭載された車両の車速が予め定めた基準車速より低車速でかつ前記入力トルクもしくは要求駆動力が予め定めた基準値より大きい場合に、前記ライン圧を増大させる手段を含むことを特徴とする請求項5に記載のトロイダル型無段変速機の変速制御装置。
- 前記ライン圧増大手段は、前記車両が発進する際に前記制御ゲインを増大させる手段を含むことを特徴とする請求項5または6に記載のトロイダル型無段変速機の変速制御装置。
- 前記ライン圧は、前記アクチュエータを動作させるのに必要とする圧力と前記各ディスクがパワーローラを挟み付けるのに必要とする挟圧力に応じた圧力とのうちの高い方の圧力に設定されることを特徴とする請求項2ないし7のいずれかに記載のトロイダル型無段変速機の変速制御装置。
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JP2006018231A JP2007198511A (ja) | 2006-01-26 | 2006-01-26 | トロイダル型無段変速機の変速制御装置 |
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JP2006018231A JP2007198511A (ja) | 2006-01-26 | 2006-01-26 | トロイダル型無段変速機の変速制御装置 |
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JP2007198511A true JP2007198511A (ja) | 2007-08-09 |
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JP2006018231A Pending JP2007198511A (ja) | 2006-01-26 | 2006-01-26 | トロイダル型無段変速機の変速制御装置 |
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2006
- 2006-01-26 JP JP2006018231A patent/JP2007198511A/ja active Pending
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