この発明は、例えば車両(自動車)用自動変速装置として利用する、トロイダル型無段変速機を組み込んだ無段変速装置の改良に関し、低速モードと高速モードとのモード切換を滑らかに行なえる構造を、低コストで実現するものである。
自動車用変速装置としてトロイダル型無段変速機を使用する事が、例えば特許文献1、2、非特許文献1、2等の多くの刊行物に記載され、且つ、一部で実施されて周知である。又、変速比の変動幅を大きくすべく、トロイダル型無段変速機と遊星歯車式変速機とを組み合わせた無段変速装置も、例えば特許文献3〜8に記載される等により従来から広く知られている。このうちの特許文献3〜4には、トロイダル型無段変速機のみで動力を伝達するモード(低速モード)と、差動ユニットである遊星歯車式変速機により主動力を伝達し、上記トロイダル型無段変速機により変速比の調節を行なう、所謂パワースプリット状態を実現するモード(高速モード)とを備えた無段変速装置が記載されている。又、上記特許文献5〜8には、入力軸を一方向に回転させたまま、出力軸の回転状態を、停止状態を挟んで正転、逆転に切り換えられる、所謂ギヤードニュートラル状態を実現できるモード(低速モード)を備えた無段変速装置が記載されている。
図10〜11は、特許文献7〜8に記載されたギヤードニュートラル状態を実現できるモードを備えた無段変速装置を示している。このうちの図10は無段変速装置のブロック図を、図11は、この無段変速装置を制御する油圧回路を、それぞれ示している。エンジン1の出力は、ダンパ2を介して、入力軸3に入力される。この入力軸3に伝達された動力は、直接又はトロイダル型無段変速機4を介して、差動ユニットである遊星歯車式変速機5に伝達される。そして、この遊星歯車式変速機5の構成部材の差動成分が、クラッチ装置6、即ち、図11の低速用、高速用各クラッチ7、8を介して、出力軸9に取り出される。
又、上記トロイダル型無段変速機4は、入力側、出力側各ディスク10、11と、複数個のパワーローラ12と、複数個のトラニオン(図示省略)と、アクチュエータ13(図11)と、押圧装置14と、変速比制御ユニット15とを備える。このうちの入力側、出力側各ディスク10、11は、互いに同心に、且つ相対回転自在に配置されている。又、上記各パワーローラ12は、互いに対向する上記入力側、出力側各ディスク10、11の内側面同士の間に挟持されて、これら入力側、出力側各ディスク10、11同士の間で動力を伝達する。又、上記各トラニオンは、上記各パワーローラ12を回転自在に支持している。
又、上記アクチュエータ13は、油圧式のもので、上記各パワーローラ12を支持した上記各トラニオンを、それぞれの両端部に設けた枢軸の軸方向に変位させて、上記入力側ディスク10と出力側ディスク11との間の変速比を変える。又、上記押圧装置14は、油圧式のもので、上記入力側ディスク10と上記出力側ディスク11とを互いに近付く方向に押圧する。又、上記変速比制御ユニット15は、上記入力側ディスク10と出力側ディスク11との間の変速比を所望値にする為に、上記アクチュエータ13の変位方向及び変位量を制御する。
図示の例の場合、上記変速比制御ユニット15は、制御器16と、この制御器16からの制御信号に基づいて切り換えられる、ステッピングモータ17と、ライン圧制御用電磁開閉弁18と、電磁弁19と、シフト用電磁弁20と、これら各部材17〜20により作動状態を切り換えられる制御弁装置21とにより構成している。尚、この制御弁装置21は、変速比制御弁22と、差圧シリンダ23と、補正用制御弁24a、24bと、高速クラッチ用、低速クラッチ用各切換弁25、26(図11)とを合わせたものである。このうちの変速比制御弁22は、上記アクチュエータ13への油圧の給排を制御するものである。又、上記差圧シリンダ23は、前記トロイダル型無段変速機4を通過するトルク(通過トルク)に応じて、このトロイダル型無段変速機4の変速比を補正すべく、上記変速比制御弁22の切換状態を調節する為のものである。又、上記補正用制御弁24a、24bは、上記差圧シリンダ23への圧油の給排を制御するものである。更に、上記高速クラッチ用、低速クラッチ用各切換弁25、26は、前記低速用、高速用各クラッチ7、8への圧油の導入状態を切り換えるものである。
又、前記ダンパ2部分から取り出した動力により駆動されるオイルポンプ27(図11の27a、27b)から吐出した圧油は、上記制御弁装置21や上記押圧装置14等に送り込まれる。即ち、油溜28(図11)から吸引されて上記オイルポンプ27a、27bにより吐出された圧油を、調圧弁29a、29bで所定圧に調整自在としている。又、これら両調圧弁29a、29bのうち、上記押圧装置14並びに手動油圧切換弁30側に送る油圧を調整する為の調圧弁29aによる調整圧を、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉に基づいて調節自在としている。そして、上記両調圧弁29a、29bにより圧力を調整された圧油を、前記変速比制御弁22を介して前記アクチュエータ13に送り込み自在とする他、前記差圧シリンダ23のストロークを調節する為の前記補正用制御弁24a、24bに、前記電磁弁19の開閉に基づいて送り込み自在としている。
又、この圧油は、上記手動油圧切換弁30と、前記高速クラッチ用切換弁25又は低速クラッチ用切換弁26とを介して、前記低速用クラッチ7又は高速用クラッチ8の油圧室内に送り込み自在としている。又、これら低速用、高速用各クラッチ7、8のうちの低速用クラッチ7は、減速比を大きくする{変速比無限大(ギヤードニュートラル状態)を含む}低速モードを実現する際に接続されると共に、減速比を小さくする高速モードを実現する際に接続を断たれる。これに対して、上記高速用クラッチ8は、上記低速モードを実現する際に接続を断たれると共に高速モードを実現する際に接続される。又、これら低速用、高速用各クラッチ7、8への圧油の給排状態は、前記シフト用電磁弁20の切り換えに応じて切り換えられる。
上述の様な図10〜11に示した無段変速装置の運転時、前記制御器16の制御信号に基づき上記シフト用電磁弁20を切り換える事により、上記低速用、高速用各クラッチ7、8の断接状態を切り換えて、低速モードと高速モードとの切り換えを行なう。ところで、トロイダル型無段変速機と遊星歯車式変速機とをクラッチ装置を介して組み合わせて成り、低速モードと高速モードとを有する無段変速装置の場合、上述した様なギヤードニュートラル状態を実現できるものにしても、前記特許文献3〜4に記載されたパワースプリット状態を実現できるものにしても、低速モードと高速モードとのモード切換時に、このモード切換を滑らかに行なう事が、乗り心地性能(乗り心地の良さ)や耐久性等を確保する面で重要になる。この様なモード切換を滑らかに行なう技術として、例えば特許文献9には、このモード切換時に、それまで接続されていなかったクラッチと、それまで接続されていたクラッチとを、同時に接続させる技術が記載されている。
この様な技術を採用すれば、例えば加速中に低速モードから高速モードに切り換える際は、図12(A)に示す様に、それまで接続されていなかった高速用クラッチが接続されてから、それまで接続されていた低速用クラッチの接続が断たれる。この為、モード切換時にこれら低速用、高速用両クラッチの接続が同時に断たれる事による、エンジンの回転速度の急上昇(吹け上がり)や、この急上昇後の高速用クラッチの接続に伴う変速ショック(トルク抜け感、押し出し感)を防止して、運転者を初めとする乗員に違和感を与える事を防止できる。又、モード切換時に構成各部に加わる衝撃を緩和して、耐久性を確保できる。又、特許文献10には、パワースプリット状態を実現できる無段変速装置で、高速モードから低速モードに切り換える際の高速用クラッチを断つタイミングに比べ、低速モードから高速モードに切り換える際の低速用クラッチを断つタイミングを長くする事により、このモード切換時に両クラッチが接続されている時間を確保する発明が記載されている。又、特願2004−185277号には、低速用、高速用各クラッチの断接を切り換える為の低速クラッチ用、高速クラッチ用各切換弁の切り換えに遅延時間を設定する事により、モード切換時に両方のクラッチを同時に接続させる時間を造り出す発明が開示されている。
ところで、上述した各特許文献に記載された従来技術や特願2004−185277号に開示された先発明の場合、モード切換時に、低速用、高速用各クラッチが同時に接続されたか否かの判定は行なってはいない。一方、モード切換時にこれら低速用、高速用各クラッチは、その切換時の状態、例えば油温やこれら低速用、高速用各クラッチを構成する摩擦材の温度特性等に応じて、接続が開始されてから接続し切る(動力の伝達をできる状態となる)までの時間が異なる。この為、上述の様にモード切換時に、それまで接続されていなかった高速用クラッチを接続してから、それまで接続されていた低速用クラッチの接続を断つ様に、これら各クラッチへの圧油の給排状態を切り換える為の低速クラッチ用、高速クラッチ用各切換弁の切り換え状態を切り換えても、上記油温等によっては、これら両クラッチが同時に接続されない可能性がある。
即ち、上記油温が低く、油の粘性が高い場合には、通油路中を圧油が流動する事に対する抵抗が高くなる為、上記モード切換時に上記低速用、高速用各クラッチの接続が開始されてから接続し切るまでの時間が長くなる。この様な場合、図12(B)に示す様に、それまで接続されていなかったクラッチが接続し切る以前に、それまで接続されていたクラッチの接続が断たれる可能性がある。そして、この様な場合に、上記低速用、高速用両クラッチが同時に接続を断たれ、上述した様な、エンジンの回転速度の急上昇(吹け上がり)や、この急上昇後のクラッチの接続に伴う変速ショックを生じ、運転者を初めとする乗員に違和感を与える可能性がある。
この様な不都合を防止すべく、上記低速用、高速用各クラッチが同時に接続されているか否かを判定してから、接続を断つべきクラッチの接続を断つ事が考えられる。例えば、接続すべきクラッチが接続をされたか否かの判定を、これら各クラッチに導入される油圧を検出する事により、或いは、これら各クラッチを構成するピストン等の変位を検出する事により行なう事が考えられる。但し、この様な場合は、上記油圧を検出する為の油圧センサや油圧スイッチ、或いは、上記ピストン等の変位を検出する為の変位センサ(ストロークセンサ)を別に設ける必要があり、装置が複雑になると共に、コストが増大する可能性がある。
一方、上述の様な接続すべきクラッチが接続をされたか否かの判定を行なわずに、モード切換時に、上記油温等の車両の状態に応じて、上記各クラッチの断接のタイミングを調節する事も考えられる。例えば、上記油温を検出する油温センサを設け、この検出される油温に応じて、各クラッチの断接タイミングを変える事により、この油温に拘らず、上記低速用、高速用両クラッチが同時に接続する時間を造り出す事が考えられる。但し、この様な構造を採用した場合には、上記油温とこの油温に対応する最適な断接タイミングとの相関関係を予め求めると共に、この相関関係を、制御器のメモリにマップや式等として記憶させておく必要がある。そして、この様な相関関係に基づいて上記各クラッチの断接を行なう為、これら各クラッチの断接制御が複雑になる可能性がある。
又、特許文献11、12にも、モード切換を滑らかに行なう技術(モード切換時の変速ショックを低減する技術)が記載されている。このうちの特許文献11には、モード切換を行なうべき変速比と実際の変速比とのずれに拘らず、変速ショックを防止する技術が記載されている。即ち、上記特許文献11には、モード切換時に、無段変速装置全体の変速比と入力軸の回転速度とから上記変速比のずれを検出し、このずれに応じてエンジントルクを増減する(目標エンジントルクを制限する)技術が記載されている。但し、この様な特許文献11に記載された技術の場合は、モード切換開始時の上記変速比のずれに応じて上記エンジントルクを制御するのみであり、モード切換時のクラッチの断接状態に応じて上記エンジントルクを制御する事はできない。この為、上述の様に低速用、高速用両クラッチが同時に接続を断たれた場合に、エンジンの回転速度の急上昇に伴う変速ショックを低減する事はできない。
又、上記特許文献12には、エンジントルクを、トロイダル型無段変速機の変速比から算出される目標エンジントルクに制御する技術が記載されている。そして、この特許文献12に記載された技術の場合は、モード切換時にエンジンの回転速度が急上昇した場合に、実際に検出されるトロイダル型無段変速機の変速比を補正し、この補正した変速比に対応する目標エンジントルクに制御する。この様な技術を採用すれば、上記エンジンの回転速度が急上昇しても、このエンジントルクが過度に減少する事を防止して、変速ショックを低減できると考えられる。但し、この様な従来技術の場合、モード切換時に、トロイダル型無段変速機の変速比を検出すると共に、この変速比を補正し、この補正された変速比に基づいて目標エンジントルクを算出し、更にこの目標エンジントルクにエンジントルクを制御する等の、多くの作業を必要とし、このエンジントルクの制御が複雑になる事が避けられない。
特許第2734583号公報
特開平5−39850号公報
特開平10−196759号公報
特開2003−194207号公報
特開2003−307266号公報
特開2000−220719号公報
特開2004−225888号公報
特開2004−211836号公報
特開平9−210191号公報
特開2003−207042号公報
特開2002−264698号公報
特開2002−362193号公報
青山元男著、「別冊ベストカー 赤バッジシリーズ245/クルマの最新メカがわかる本」、株式会社三雄社/株式会社講談社、平成13年12月20日、p.92−93
田中裕久著、「トロイダルCVT」、株式会社コロナ社、2000年7月13日
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、モード切換時に低速用、高速用両クラッチが同時に接続されない場合でも、エンジンの回転速度の急上昇に伴う変速ショックを防止できる構造を、複雑な構成、機構、装置等を必要とする事なく、低コストで実現すべく発明したものである。
本発明の無段変速装置は、従来から知られている無段変速装置と同様に、トロイダル型無段変速機と遊星歯車式変速機とをクラッチ装置を介して組み合わせて成る。
このうちのクラッチ装置は、減速比を大きくする低速モードを実現する際に接続されて同じく小さくする高速モードを実現する際に接続を断たれる低速用クラッチと、この高速モードを実現する際に接続されて上記低速モードを実現する際に接続を断たれる高速用クラッチと、これら各クラッチの断接状態を切り換える制御器とから成る。
又、この制御器は、上記各クラッチの断接を制御する事により、変速状態を上記低速モードと上記高速モードとのうちの何れかのモードにするものである。
そして、上記制御器に、上記低速モードと上記高速モードとのモード切換時に、上記低速用クラッチと上記高速用クラッチとのうちの一方のクラッチでそれまで接続されていなかったクラッチを接続してから、同じく他方のクラッチでそれまで接続されていたクラッチの接続を断つ機能を持たせる事により、これら両クラッチが同時に接続されている時間を設定している。
特に、本発明の無段変速装置に於いては、上記制御器に、上記モード切換が開始された事を条件に、エンジンの回転速度を、このエンジンの燃料噴射量を調節する事に基づいて、運転者のアクセル操作と独立して調節する機能を持たせる。又、これと共に、上記モード切換が終了した事を条件に、上記エンジンの回転速度を、このエンジンの燃料噴射量を調節する事に基づいて、運転者のアクセル操作に応じたものに(円滑に、徐々に)戻す機能を持たせる。
尚、上記モード切換の開始は、それまで接続していなかった一方のクラッチの接続を開始した時点とする事ができる。又、この一方のクラッチの接続を開始した後で、それまで接続していた他方のクラッチの接続を断ち始めた時点とする事もできる。この理由は、モード切換時に一方のクラッチの接続を開始してから他方のクラッチの接続を断つ場合、両クラッチが同時に接続を断たれる可能性があるのは、それまで接続していた上記他方のクラッチの接続を断ち始めた後になる為である。何れにしても、上記一方のクラッチの接続開始(或いは他方のクラッチの接続の断ち始め)は、例えば、この一方のクラッチ(或いは他方のクラッチ)の接続状態を切り換える為の電磁切換弁に、上記制御器から接続を開始する旨(或いは接続を断つ旨)の指令信号を出力した時点とする事ができる。
一方、上記モード切換の完了は、上記一方のクラッチの接続が完了した時点とする事ができる。この様な一方のクラッチの接続の完了は、トロイダル型無段変速機を通過するトルク(動力、伝達トルク、通過トルク)の変化から、より具体的には、このトロイダル型無段変速機を通過するトルクと相関関係を有する、アクチュエータを構成する1対の油圧室同士の圧力差に基づいて判定する事ができる。即ち、各パワーローラを回転自在に支持する各支持部材(トラニオン)をそれぞれの両端部に設けた枢軸の軸方向に変位させて、上記トロイダル型無段変速機の変速比を変える為の、上記アクチュエータに設けた1対の油圧室同士の圧力差(差圧)を、例えば油圧センサにより検出し、この圧力差の変化から判定できる。例えば、上記圧力差の正負が0を越えて反転し(更に予め設定した閾値を跨いで変化し)た事を検出する事により、上記一方のクラッチの接続が完了した事を判定できる。
上述の様に、本発明の無段変速装置の場合は、モード切換が開始されると、エンジンの回転速度を、このエンジンの燃料噴射量を調節する事に基づいて、運転者のアクセル操作と独立して調節する。この為、モード切換時に低速用、高速用両クラッチが同時に接続を断たれた場合でも、上記エンジンの回転速度が急上昇する事を防止できる。即ち、上記エンジンの回転速度を、運転者のアクセル操作に応じて調節している状態で、例えば油温が低い等に伴い上記低速用、高速用両クラッチの接続が同時に断たれると、上記エンジンに負荷されているトルクが解除され(トルクが抜け)、このエンジンに関して特別な制御を行なっていないと、このエンジンの回転速度が急上昇する。そして、この様にエンジンの回転速度が急上昇する分、一方のクラッチが接続された瞬間に変速ショックを生じる。
これに対し、本発明の場合は、上記エンジンの回転速度の調節を、このエンジンの燃料噴射量を調節する事に基づいて、上記運転者のアクセル操作と独立して、上記回転速度が急上昇しない様に行なう(例えば回転速度を一定のまま維持したり、所定速度で増減させる)。この為、モード切換時に上記低速用、高速用両クラッチが同時に接続を断たれた場合でも、上記エンジンの回転速度が急上昇する事がない。従って、このエンジンの回転速度の急上昇に伴う変速ショックの発生を防止できる。又、モード切換が終了した後は、上記エンジンの回転速度を、このエンジンの燃料噴射量を調節する事に基づいて、運転者のアクセル操作に応じたものに円滑に(例えば徐々に)戻す事で、運転者の意図する走行に違和感を与える事なく復帰できる。しかも、上述の様にエンジンの回転速度を運転者のアクセル操作と独立して調節したり、この回転速度を運転者のアクセル操作に応じたものに円滑に(徐々に)戻したりする為に、複雑な構成、機構、装置等を必要としない。この為、モード切換時にエンジンの回転速度の急上昇に伴う変速ショックを防止できる構造を、安価に構成できる。
本発明を実施する場合に好ましくは、一方のクラッチの接続が開始された事を条件に、エンジンの回転速度を、この一方のクラッチの接続が開始された時点の値のまま維持する(請求項2)。或いは、エンジンの回転速度が変化する程度を、上記一方のクラッチの接続が開始される直前の変化速度のまま維持する(請求項3)。そして、この一方のクラッチの接続が完了した事を条件に、上記エンジンの回転速度を、運転者のアクセル操作に応じたものに戻す。この際、好ましくは、請求項4に記載した様に、上記一方のクラッチの接続が完了した事を条件に、その時点のアクセル開度と車速とに基づいてエンジンの目標回転速度を求め、この目標回転速度に(例えば徐々に)調節する事で、このエンジンの回転速度を運転者のアクセル操作に応じたものに(円滑に)戻す。
この様に構成すれば、モード切換時に低速用、高速用両クラッチが同時に接続を断たれた場合でも、エンジンの回転速度が急上昇する事はない。又、モード切換終了時に、運転者の意図する走行に、違和感を与える事なく、円滑に復帰できる。しかも、上述の様なエンジンの回転速度の調節に、複雑な構成、機構、装置等を必要としない為、安価に構成できる。
又、本発明を実施する場合に好ましくは、請求項5に記載した様に、低速モードから高速モードへ切り換える際に、高速用クラッチの接続が開始された事を条件に、アクセル開度を、この高速用クラッチの接続が開始された時点の値から所定の値低下させ、そのアクセル開度でエンジンの回転速度を維持する。又、これと共に、この高速用クラッチの接続が完了した事を条件に、上記アクセル開度を、その時点の運転者のアクセル操作に応じた実際のアクセル開度に(例えば徐々に)戻す。更には、請求項6に記載した様に、高速モードから低速モードへ切り換える際に、低速用クラッチの接続が開始された事を条件に、アクセル開度を、この低速用クラッチの接続が開始された時点の値から所定の値増大させ、そのアクセル開度でエンジンの回転速度を維持する。又、これと共に、この低速用クラッチの接続が完了した事を条件に、上記アクセル開度を、その時点の運転者のアクセル操作に応じた実際のアクセル開度に(例えば徐々に)戻す。
この様に構成した場合も、モード切換時のエンジンの回転速度の急上昇を防止できると共に、モード切換終了時に運転者の意図する走行に違和感を与える事なく円滑に復帰できる。しかも、上述の様なアクセル開度の調節に、複雑な構成、機構、装置等を必要としない為、安価に構成できる。
又、本発明を実施する場合に好ましくは、請求項7に記載した様に、入力軸を一方向に回転させたまま出力軸を停止させる、ギヤードニュートラル状態を実現できるモードを備えたものとする。
この様な、ギヤードニュートラル状態を実現できるモードを備えた無段変速装置の場合は、低速モードと高速モードとの間のモード切換が、低速で行なわれる。この為、このモード切換が、発進、停止の度に、頻繁に行なわれる事になり、モード切換を滑らかに行なう必要性が高く、本発明の効果を顕著に得られる。
図1〜4は、請求項1、2、4、7に対応する、本発明の実施例1を示している。尚、本実施例の特徴は、モード切換時に、クラッチ装置6である低速用、高速用両クラッチ7、8が同時に接続が断たれた場合でも、エンジン1の回転速度が急上昇する事を防止して、運転者に違和感を与えたり、構成部品の耐久性を損なう様な、変速ショックが生じる事を防止する点にある。その他の部分の構造及び作用は、前述の図10〜11に示した従来構造と同様であるから、重複する説明を省略若しくは簡略にし、以下、本実施例の特徴部分を中心に説明する。
本実施例の場合も、制御器16の制御信号に基づいて上記低速用、高速用各クラッチ7、8の断接状態を切り換える事により、減速比を大きくする(ギヤードニュートラル状態を含む)低速モードと、減速比を小さくする高速モードとを実現する。この為に、上記低速用、高速用各クラッチ7、8の断接状態を、上記制御器16の制御信号に基づいて通電状態を制御される、低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁切換弁31、32により、切り換え自在としている。即ち、これら低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁切換弁31、32は、ソレノイドへの通電に基づいてスプールをそれぞれ変位させるもので、このスプールの変位に基づき、上記低速用、高速用各クラッチ7、8の油圧室内への圧油の導入状態を切り換える事により、これら低速用、高速用各クラッチ7、8の断接状態を切り換える。
例えば、上記低速用クラッチ7を接続すると共に上記高速用クラッチ8の接続を断つ場合(低速モードを実現する場合)には、上記低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁切換弁31、32を非通電状態(OFF)にし、これら各電磁切換弁31、32のスプールを、ばねの弾力に基づいて図2の右方(各スプールを表す回路のうちの左半部の状態)に変位させる。この結果、上記低速用クラッチ7の油圧室に圧油が導入され、この低速用クラッチ7が接続されると共に、上記高速用クラッチ8の油圧室が油溜28に通じ、この高速用クラッチ8の接続が断たれる。
一方、上記低速用クラッチ7の接続を断つと共に上記高速クラッチ8を接続する場合(高速モードを実現する場合)には、上記低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁切換弁31、32を通電状態(ON)にし、これら各電磁切換弁31、32のスプールを、ばねの弾力に抗して、図2の左方(各スプールを表す回路のうちの右半部の状態)に変位させる。この結果、上記低速用クラッチ7の油圧室が油溜28に通じ、この低速用クラッチ7の接続が断たれると共に、上記高速用クラッチ8の油圧室に圧油が導入され、この高速用クラッチ8が接続される。
又、本実施例の場合、前記制御器16に、低速モードと高速モードとのモード切換時に、上記低速用クラッチ7と上記高速用クラッチ8とのうちの一方のクラッチでそれまで接続されていなかったクラッチ7(8)を接続してから、同じく他方のクラッチでそれまで接続されていたクラッチ8(7)の接続を断つ機能を持たせている。即ち、低速モードから高速モードにモード切換する場合には、上記高速用クラッチ8を接続(高速クラッチ用電磁切換弁32をON)してから、上記低速用クラッチ7の接続を断つ(低速クラッチ用電磁切換弁31をONする)様にすると共に、高速モードから低速モードにモード切換する場合には、上記低速用クラッチ7を接続(低速クラッチ用電磁切換弁31をOFF)してから、上記高速用クラッチ8の接続を断つ(高速クラッチ用電磁切換弁32をOFFする)様にしている。
更に、本実施例の場合は、上記制御器16に、モード切換開始を条件に、エンジン1の回転速度を、運転者のアクセル操作と独立して調節する機能を持たせている。より具体的には、上記低速用クラッチ7と高速用クラッチ8とのうちでそれまで接続されていなかった一方のクラッチ7(8)の接続が開始された事を条件に、上記エンジン1の回転速度を、この一方のクラッチ7(8)の接続が開始された時点の値のまま維持する様にしている。又、これと共に、モード切換終了を条件に、上記エンジン1の回転速度を、運転者のアクセル操作に応じたものに戻す機能を持たせている。より具体的には、上記一方のクラッチ7(8)の接続が完了した事を条件に、その時点のアクセル開度と車速とに基づいて上記エンジン1の目標回転速度を求め、この目標回転速度に円滑に(徐々に)調節する様にしている。
この様な制御器16が備える機能に就いて、図3のフローチャートを参照しつつ説明する。尚、このフローチャートに示した作業は、イグニッションスイッチがONされてからOFFされるまでの間で、手動油圧切換弁30により前進走行状態(D、Lレンジ)を選択している間、より好ましくは、トロイダル型無段変速機4の変速比がモード切換を行なう値{例えば最大減速比(変速比が最小の値)}近傍で運転されている間、繰り返し(自動的に)行なわれる。
先ず、上記制御器16は、ステップ1で、モード切換を行なう条件が成立しているか否かを判定する。この判定は、例えばトロイダル型無段変速機4の変速比が所定の値(例えば最大減速比=0.46)であるか否かを、入力側、出力側両回転センサ35、36により検出される入力側、出力側各ディスク10、11の回転速度の比に基づいて、或いは、予め求めたステッピングモータ17のステップ位置と変速比との相関関係に基づいて、判定する。この様なステップ1で、上記トロイダル型無段変速機4の変速比が所定の値ではないと判定された場合は、モード切換は行なわずに終了する(開始に戻る)。
一方、上記ステップ1で、上記トロイダル型無段変速機4の変速比が所定の値であり、モード切換を行なう条件が成立していると判定された場合には、続くステップ2に示す様に、現在の走行モードが低速モードか否かを判定する。この判定は、この判定の直前に、上記制御器16が前記低速クラッチ用、高速クラッチ用両電磁切換弁31、32に出力した制御信号に基づいて行なう。この様なステップ2で、上記制御器16が直前に出力した制御信号が、低速モードを実現するもの(低速用クラッチ7を接続すると共に高速用クラッチ8の接続を断つもの)であれば、現在の走行モードが低速モードであると判定する。そして、この様に現在の走行モードが低速モードであると判定された場合は、ステップ3で、高速用クラッチ8を接続させるべく、上記高速クラッチ用電磁切換弁32を切り換える(通電状態をONにする)。この様にステップ3で高速クラッチ用電磁切換弁32を切り換えたならば、続くステップ4に示す様に、前記エンジン1の回転速度を、この高速クラッチ用電磁切換弁32の切り換えを開始した時点(通電状態をONした時点)の値のまま維持する。
そして、この様にエンジン1の回転速度を一定の値のまま維持した状態で、続くステップ5に進み、上記高速クラッチ用電磁切換弁32の切り換えを開始した時点から所定時間経過したか否かを判定する。この所定時間は、上記高速用クラッチ8の接続を開始してから上記低速用クラッチ7の接続を断ち始めるまでの時間である。この様な所定時間は、モード切換時に低速用、高速用両クラッチ7、8が同時に接続される時間を確保できる様に、予め実験等により求め、設定しておく。尚、この所定時間を、上記低速用、高速用両クラッチ7、8に導入する油(潤滑油、トラクションオイル)の温度等に応じて調節する事により、この油温等に拘らず、モード切換時に上記低速用、高速用両クラッチ7、8を同時に接続する時間を確実に造り出す事も可能である。具体的には、上記油温が低いほど、上記所定時間を長くする事が考えられる。但し、後述する様に本実施例の構造は、変速動作を素早く行なうべく、上記所定時間を短くして、その結果、上記低速用、高速用両クラッチ7、8が同時に接続を断たれる瞬間が出現した場合でも、上記エンジン1の回転速度が急上昇する事を防止できる。この為、本実施例の場合は、上記所定時間を上記油の油温に応じて調節する事は行なわない(必要に応じて所定時間を油温に応じて調節しても良い)。
この様なステップ5で、上記所定時間経過していないと判定した場合には、前記ステップ4に戻り、上記エンジン1の回転速度を一定のまま維持すると共に、この作業を上記所定時間経過するまで繰り返す。そして、上記ステップ5で、上記所定時間経過したと判定した場合に、ステップ6に進み、前記低速用クラッチ7の接続を断つべく、前記低速クラッチ用電磁切換弁31を切り換える(通電状態をONにする)。次いで、続くステップ7に進み、前記高速用クラッチ8の接続が完了したか否かを判定する。この判定は、トロイダル型無段変速機4を通過するトルクの変化を表す、アクチュエータ13の油圧室33a、33b同士の間の差圧に基づいて判定する。
即ち、上記高速用クラッチ8が接続されると、それまでの低速用クラッチ7が接続されていた状態から、上記トロイダル型無段変速機4を通過するトルク(動力、伝達トルク、通過トルク)が反転する。そして、このトルクと相関関係を有する上記差圧も、それまでの値から0を越えて正負が反転する。この為、この様な差圧の変化を、上記各油圧室33a、33bに設けた1対の油圧センサ34a、34b(図1の34)により検出すれば、この差圧の変化に基づき、上記高速用クラッチ8が接続された事を判定できる。この様なステップ7で、上記高速用クラッチ8の接続が完了したと判定された場合に、後述するステップ13に進む。この様にステップ13に進むまでは、上記エンジン1の回転速度は一定のまま維持しておく。
一方、上記ステップ2で、上記制御器16が直前に出力した制御信号が高速モードを実現するもの(低速用クラッチ7の接続を断つと共に高速用クラッチ8を接続させるもの)であれば、現在の走行モードが高速モードであると判定する。そして、この様に現在の走行モードが高速モードであると判定された場合は、ステップ8で、低速用クラッチ7を接続させるべく、低速クラッチ用電磁切換弁31を切り換える(通電状態をOFFにする)。この様にステップ8で低速クラッチ用電磁切換弁32を切り換えたならば、続くステップ9に示す様に、エンジン1の回転速度を、この低速クラッチ用電磁切換弁31の切り換えを開始した時点(通電状態をOFFした時点)の値のまま維持する。
そして、この様にエンジン1の回転速度を一定の値のまま維持した状態で、続くステップ10に進み、上記高速クラッチ用電磁切換弁32の切り換えを開始した時点から所定時間経過したか否かを判定する。この所定時間は、上記低速用クラッチ7の接続を開始してから上記高速用クラッチ8の接続を断ち始めるまでの時間である。この様な所定時間は、モード切換時に低速用、高速用両クラッチ7、8が同時に接続される時間を確保できる様に、予め実験等により求め、設定しておく。この様なステップ10は、接続するクラッチが低速用クラッチ7で接続を断つクラッチが高速用クラッチ8である点以外は、前述したステップ5と同様である。この様なステップ10で、上記所定時間経過したと判定したならば、続くステップ11に進み、高速用クラッチ8の接続を断つべく、高速クラッチ用電磁切換弁32を切り換える(通電状態をOFFにする)。次いで、続くステップ12に進み、上記低速用クラッチ7の接続が完了したか否かを判定する。この様なステップ12に就いても、接続するクラッチが低速用クラッチ7で接続を断つクラッチが高速用クラッチ8である点以外は、前述したステップ7と同様である。
この様なステップ12で、低速用クラッチ7の接続が完了したと判定されたならば、或いは、前述のステップ7で、高速用クラッチ8の接続が完了したと判定されたならば、続くステップ13で、その時点のアクセル開度と車速(車両の速度)とに基づき、適切なエンジンの目標回転速度を求め、この目標回転速度に円滑に(例えば徐々に)調節する。尚、上記アクセル開度は、例えばアクセルペダルの操作量(踏み込み量、開放量)を検出する為のアクセルセンサ37により検出する。又、上記車速は、出力軸9の回転速度を検出する為の出力軸回転センサ38、或は、別途設けた車速センサにより検出する。この様なセンサ37、38により検出される車速並びにアクセル開度に基づいて、上記目標回転速度を求め、この目標回転速度にすべくアクセル開度を調節する。
そして、この様にアクセル開度を調節したならば、続くステップ14で、実際の回転速度が目標回転速度に達した(目標回転速度と一致した)か否かを判定する。この様なステップ14で、実際の回転速度が目標回転速度と一致していないと判定された場合は、上記ステップ13に戻り、この目標回転速度に達するまで(一致するまで)繰り返す。そして、上記ステップ14で、上記実際の回転速度が上記目標回転速度に達したと判定された場合は、本制御を終了し、通常のエンジン制御、即ち、運転者のアクセル操作に応じたエンジン制御に復帰する。
上述の様に本実施例によれば、モード切換が開始されると、エンジン1の回転速度を、運転者のアクセル操作と独立して調節する。具体的には、低速用クラッチ7と高速用クラッチ8とのうちで、それまで接続されていなかった一方のクラッチ7(8)の接続が開始された事を条件に、上記エンジン1の回転速度を、この一方のクラッチ7(8)の接続が開始された時点の値のまま維持する。この為、モード切換時に低速用、高速用両クラッチ7、8が同時に接続を断たれた場合でも、上記エンジン1の回転速度が急上昇する事を防止できる。即ち、図4の(B)に示す様に、モード切換時に上記エンジン1の回転速度を、運転者のアクセル操作に応じて調節している状態で、例えば油温が低い等に伴い上記低速用、高速用両クラッチ7、8の接続が同時に断たれると、上記エンジン1に負荷されているトルクが解除され(トルクが抜け)、このエンジン1の回転速度が急上昇する。そして、この様にエンジンの回転速度が急上昇する分、一方のクラッチ(高速用クラッチ8)が接続された瞬間に変速ショックを生じる。
これに対し、本実施例の場合は、同図(A)に示す様に、モード切換時に上記低速用、高速用両クラッチ7、8が同時に接続を断たれた場合でも、上記エンジン1の回転速度は急上昇しない。又、モード切換が終了した後(図4で高速用クラッチの接続が完了した後)は、上記エンジン1の回転速度を運転者のアクセル操作に応じたものに徐々に戻す(目標エンジン回転速度に徐々に調節する)為、運転者の意図する走行に違和感を与える事なく円滑に復帰できる。しかも、上記エンジン1の回転速度を一定のまま維持したり、この回転速度を運転者のアクセル操作に応じたものに徐々に戻したりする為に、複雑な構成、機構、装置等を必要としない。この為、モード切換時にエンジンの回転速度の急上昇に伴う変速ショックを防止できる構造を、安価に構成できる。
尚、本実施例の場合は、制御器16により制御される低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁切換弁31、32の切換に基づき、低速用クラッチ7及び高速用クラッチ8の断接状態を、それぞれ独立して切換自在としている。この様に低速用、高速用各クラッチ7、8の断接状態を独立して切り換える構造としては、上記低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁切換弁31、32により上記低速用、高速用各クラッチ7、8の各油圧室に送り込む油圧を制御する他、電磁比例弁や、モータ等のアクチュエータにより制御する事もできる。又、上記低速用、高速用各クラッチの断接を直接、モータ等のアクチュエータや切換弁により制御する事もできる。要は、上記低速用、高速用各クラッチ7、8の断接状態をそれぞれ独立して切り換える事ができれば、何れの構造も採用可能である。又、前述の様に本実施例の場合は、低速モードを実現する際に、低速クラッチ用、高速クラッチ用両電磁切換弁31、32を非通電状態にすると共に、高速モードを実現する際にこれら両電磁切換弁31、32を通電状態にする。この為、何らかの故障でこれら各電磁切換弁31、32に通電を行なえなくなった場合でも、低速モードでの走行を確保でき、フェールセーフ化(故障時の安全性能の向上)を図れる。
図5、6は、請求項1、3、4に対応する、本発明の実施例2を示している。上述した実施例1の場合は、低速用クラッチ7と高速用クラッチ8(図2参照)とのうちでそれまで接続されていなかった一方のクラッチ7(8)の接続が開始された事を条件に、エンジン1(図1参照)の回転速度を、この一方のクラッチ7(8)の接続が開始された時点の値のまま維持する。これに対して、本実施例の場合は、一方のクラッチ7(8)の接続が開始された事を条件に、上記エンジン1の回転速度が変化する速度を、この一方のクラッチ7(8)の接続が開始される直前の変化速度のまま維持する。この為に、本実施例の場合は、フローチャートのステップ4並びにステップ9で、上記エンジン1の回転速度が変化する速度を、高速クラッチ用電磁切換弁32の切り換えを開始した時点(通電状態をONした時点)、或いは、低速クラッチ用電磁切換弁31(図1、2参照)の切り換えを開始した時点(通電状態をOFFした時点)の直前の変化速度のまま維持する。
この様な本実施例の場合も、図6に示す様に、モード切換時に上記低速用、高速用両クラッチ7、8が同時に接続を断たれた場合でも、上記エンジン1の回転速度は急上昇しない。又、モード切換が終了した後、即ち、図6で高速用クラッチの接続が完了した後は、上記エンジン1の回転速度を運転者のアクセル操作に応じたものに円滑に戻す(目標エンジン回転速度制御を行なう)為、運転者の意図する走行に違和感を与える事なく復帰できる。
その他の構成及び作用は、前述した実施例1と同様であるから、重複する説明は省略する。
図7、8は、請求項1、4、5、6に対応する、本発明の実施例3を示している。上述した実施例2の場合は、低速用クラッチ7と高速用クラッチ8(図2参照)とのうちでそれまで接続されていなかった一方のクラッチ7(8)の接続が開始された事を条件に、エンジン1(図1参照)の回転速度が変化する速度を、この一方のクラッチ7(8)の接続が開始される直前の変化速度のまま維持する。これに対して、本実施例の場合は、低速モードから高速モードへ切り換える際に、上記一方のクラッチである高速用クラッチ8の接続が開始された事を条件に、アクセル開度を、この高速用クラッチ8の接続が開始された時点の値から所定の値低下させ、そのアクセル開度で上記エンジン1の回転速度を維持する。即ち、フローチャートのステップ4で、アクセル開度を、その時点の値から所定値α(図8の実アクセル開度の線図参照)分低下させる。
この様な所定値αは、モード切換時にアクセル開度を低下させても運転者に違和感を与えない範囲で設定(チューニング)するもので、予め実験等により求めておく。一方、高速モードから低速モードに切り換える際には、上記一方のクラッチである低速用クラッチ7の接続が開始された事を条件に、アクセル開度を、この低速用クラッチ7の接続が開始された時点の値から所定の値増大させ、そのアクセル開度で上記エンジン1の回転速度を維持する。即ち、フローチャートのステップ9で、アクセル開度を、その時点の値から所定値α分増大させる。この様な所定値αも、モード切換時にアクセル開度を増大さても運転者に違和感を与えない範囲で設定(チューニング)するもので、予め実験等により求めておく。
又、本実施例の場合は、ステップ7で、高速用クラッチ8の接続が完了したと判定された場合、又は、ステップ12で、低速用クラッチ7の接続が完了したと判定された場合に、続くステップ13で、上記アクセル開度を、その時点の運転者のアクセル操作に応じた実際のアクセル開度に徐々に戻す(図8の実アクセル開度の線図参照)。そして、この様に実際のアクセル開度に徐々に戻す事により、運転者の意図する走行に違和感を与える事なく円滑に復帰させる。
その他の構成及び作用は、前述した実施例1、2と同様であるから、重複する説明は省略する。
尚、前述並びに上述した各実施例は何れも、モード切換開始を条件に、運転者のアクセル操作(実アクセル開度)とは独立して、エンジン1(図1参照)の燃料噴射量が調節(制御)される。前述した実施例1、2の場合は、図9(A)に示す様に、モード切換開始を条件に、無段変速装置を制御する為の変速装置用制御器39(=制御器16)から上記エンジン1を制御する為のエンジン用制御器(エンジンコントローラ)40に、このエンジン1の回転速度を一定に維持する旨の信号(実施例1)、或いは、このエンジン1の回転速度の変化速度を一定に維持する旨の信号(実施例2)が出力される。そして、上記エンジン用制御器40は、この様な信号に基づき上記エンジン1の燃料噴射量を調節(制御)し、このエンジン1の回転速度を一定に維持、或いは、回転速度の変化速度を一定に維持する。この状態では、運転者のアクセル操作に基づきアクセルセンサ37から出力される、実アクセル開度の信号は無視される。そして、モード切換終了を条件に、上記エンジン1の回転速度を運転者のアクセル操作に応じたものに戻す。この為、上記実施例1の図4(A)に示した実アクセル開度の線図と、上記実施例2の図6に示した実アクセル開度の線図とが同じに表されているが(運転者のアクセル操作に基づくアクセル開度を表す線図が実施例1と実施例2とで同じではあるが)、上述の様にエンジン用制御器40が上記エンジン1の燃料噴射量を、上記変速装置用制御器39から出力される信号に応じて調節(制御)する為、上記エンジン1の回転速度の変化はそれぞれ異なる。
又、前述した実施例3の場合は、図9(B)に示す様に、アクセルセンサ37から出力される実アクセル開度の信号が、変速装置用制御器39を介してエンジン用制御器40に送られる。通常の運転時には、運転者のアクセル操作に応じた実アクセル開度の信号が、そのまま上記エンジン用制御器40に送られる。一方、モード切換時には、このモード切換開始を条件に、上記変速装置用制御器39から出力される実アクセル開度の信号が、上記運転者のアクセル操作に応じた信号とは異なるものとなる。即ち、上記実施例3の図8の実アクセル開度の線図に示す様に、モード切換開始を条件に、運転者のアクセル操作に応じた信号が破線に相当するものになるのに対して、上記変速装置用制御器39から出力される実アクセル開度の信号は実線に相当するものになる。そして、この様に変速装置用制御器39から出力される信号(実線に相当する信号)に応じて、上記エンジン1の燃料噴射量が調節され、このエンジン1の回転速度が同図に表されるものになる。この様な図8の実エンジン回転速度の線図と、上記図4(A)の実エンジン回転速度の線図とが同じに表されているのに対して、それぞれの実アクセル開度の線図が異なるのは、上述の様に実施例3の場合が、上記変速装置用制御器39から出力される実アクセル開度の信号に応じてエンジン1の燃料噴射量を調節している為である。
以上の説明は、本発明を、トロイダル型無段変速機と遊星歯車式変速機とを組み合わせると共に、入力軸を一方向に回転させたまま、出力軸の回転状態を、停止状態を挟んで正転、逆転に切り換えられる、所謂ギヤードニュートラル状態を実現できるモード(低速モード)を備えた無段変速装置に適用した場合に就いて説明した。但し、本発明は、トロイダル型無段変速機と遊星歯車式変速機とを組み合わせると共に、トロイダル型無段変速機のみで動力を伝達するモード(低速モード)と、差動ユニットである遊星歯車式変速機により主動力を伝達し、上記トロイダル型無段変速機により変速比の調節を行なう、所謂パワースプリット状態を実現するモード(高速モード)とを備えた無段変速装置に適用する事もできる。又、自動車用の自動変速機としてだけでなく、各種産業用機械装置の変速機としても利用できる。又、トロイダル型無段変速機の構造に関しては、ハーフトロイダル型、フルトロイダル型の何れでも良い。
本発明の実施例1を示す、無段変速装置のブロック図。
この無段変速装置に組み込む油圧回路図。
実施例1の特徴となる動作を示すフローチャート。
(アクセルペダルを踏み込んだ状態で)加速中に低速モードから高速モードに切り換える際の、低速用、高速用各クラッチの油圧と、実アクセル開度並びに実エンジン回転速度との関係を示す線図で、(A)は本実施例の制御を行なった場合を、(B)は従来の制御の場合を、それぞれ示している。
本発明の実施例2を示す、図3と同様の図。
加速中に低速モードから高速モードに切り換える際の、低速用、高速用各クラッチの油圧と、実アクセル開度並びに実エンジン回転速度との関係を示す、図4の(A)と同様の線図。
本発明の実施例3を示す、図3と同様の図。
加速中に低速モードから高速モードに切り換える際の、低速用、高速用各クラッチの油圧と、実アクセル開度並びに実エンジン回転速度との関係を示す、図4の(A)と同様の線図。
運転者のアクセル操作と独立してエンジンの制御が行なわれる状態を説明する為の図で、(A)は実施例1、2に対応する図を、(B)は実施例3に対応する図を、それぞれ示している。
従来の無段変速装置のブロック図。
この無段変速装置に組み込む油圧回路図。
低速用、高速用各クラッチの接続状態と、低速用、高速用各切換弁の切り換え状態との関係の2例を示す線図。
符号の説明
1 エンジン
2 ダンパ
3 入力軸
4 トロイダル型無段変速機
5 遊星歯車式変速機
6 クラッチ装置
7 低速用クラッチ
8 高速用クラッチ
9 出力軸
10 入力側ディスク
11 出力側ディスク
12 パワーローラ
13 アクチュエータ
14 押圧装置
15 変速比制御ユニット
16 制御器
17 ステッピングモータ
18 ライン圧制御用電磁開閉弁
19 電磁弁
20 シフト用電磁弁
21 制御弁装置
22 変速比制御弁
23 差圧シリンダ
24a、24b 補正用制御弁
25 高速クラッチ用切換弁
26 低速クラッチ用切換弁
27、27a、27b オイルポンプ
28 油溜
29a、29b 調圧弁
30 手動油圧切換弁
31 低速クラッチ用電磁切換弁
32 高速クラッチ用電磁切換弁
33a、33b 油圧室
34、34a、34b 油圧センサ
35 入力側回転センサ
36 出力側回転センサ
37 アクセルセンサ
38 出力軸回転センサ
39 変速装置用制御器
40 エンジン用制御器