JP4304745B2 - パワートレインの制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は車両用パワートレイン、特に無段変速機構を用いたパワートレインの制御装置に関し、車両用駆動装置の技術分野に属する。
【0002】
【従来の技術】
近年、車両に搭載されるパワートレインとして無段変速機構を用いたものが実用化されつつあり、その一例として特開平9−210191号公報に開示されているものがある。これは、トロイダル式無段変速機構と遊星歯車機構とを備えると共に、エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路として、これらの無段変速機構と遊星歯車機構との両機構を経由する第1の経路と、無段変速機構のみを経由する第2の経路とを設けて、各経路達成用の摩擦要素を選択的に締結させることにより、第1、第2の経路のいずれか一方を用いてエンジンと駆動輪との間で動力を伝達するように構成したものである。
【0003】
そして、第1の経路が選択された状態で無段変速機構の変速比を所定の変速比に制御することにより駆動輪側への出力回転がゼロとなるギヤードニュートラルの状態が得られると共に、無段変速機構の変速比をその所定変速比から大きくするか又は小さくすることによってパワートレインとしての最終変速比が比較的低い前進状態又は後退状態が得られる(ローモード)。一方、第2の経路が選択された状態ではパワートレインとしての最終変速比が無段変速機構の変速比のみに応じて変化する比較的変速比の高い前進状態が得られる(ハイモード)。
【0004】
このとき、いずれの経路においても、結局パワートレインとしての最終変速比の制御は無段変速機構の変速比を制御することによって行なわれるが、一般に、ローモードにおいては無段変速機構の変速比を大きくする(減速、ロー側)に従ってパワートレインの最終変速比が小さくなり(増速、ハイ側)、一方、ハイモードにおいては無段変速機構の変速比を小さくする(増速)に従ってパワートレインの最終変速比が小さくなる(増速)ように構成することが知られている。したがって、ローモードとハイモードとでは、たとえ同じハイ側又はロー側への最終変速比の制御であっても、無段変速機構の変速比は相互に逆方向に変化させることになり、その結果、無段変速機構の変速比においてロー側に存在する所定のモード切換ポイントを挟んで、ローモードからハイモードへの切換え時又はハイモードからローモードへの切換え時のいずれにおいても、無段変速機構の変速比はロー側への変化からハイ側への変化に転換することになる。
【0005】
このとき、ローモードにおける無段変速機構の変速比とパワートレインの最終変速比との変化の関係を表す特性と、ハイモードにおける同特性とは、上記の無段変速機構の変速比においてロー側に存在する所定のモード切換ポイントにおいて一致し、このポイントではローモードとハイモードとのいずれにおいても同じ無段変速機構の変速比で同じパワートレインの最終変速比が得られる。したがって、このモード切換ポイントの変速比に無段変速機構の変速比が到達した時点で各モード達成用の摩擦要素を掛け替えることによって、モード切換えの前後で最終変速比が著しく変動することが抑制され、ショックを回避することができる。
【0006】
しかしながら、単に、無段変速機構の変速比がモード切換ポイントに到達したときに摩擦要素の掛替えを開始するだけでは、摩擦要素の掛替え動作中に無段変速機構の変速比がモード切換ポイントを越えてさらに変化し、パワートレインの最終変速比が切換ポイントの変速比からずれて、モード切換後に変速比変動に伴う変速ショックが生じる可能性がある。これに対処するためには、モード切換動作中、無段変速機構の変速比をモード切換ポイントの変速比に保持しておけばよいのであるが、特に上記公報には、その場合に、ローモード達成用の摩擦要素とハイモード達成用の摩擦要素との両方を共に締結状態とすることが開示されている。両摩擦要素を共に締結状態とすることによって、ローモードとハイモードとで特性が一致する切換ポイントが堅持され、そののちに一方の摩擦要素を解放してモード切換えを終了させたときのショックが確実に回避される。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、例えば、上記公報開示のトロイダル式無段変速機構の場合、その変速比制御は、一般に、トロイダル面を有する入力ディスクと出力ディスクとの間に介設したパワーローラの両ディスクに対する傾転角を制御することにより行なわれる。そして、その場合に、パワーローラの傾転角制御は、該ローラを支持する支持部材を、ローラがディスクの回転力を受けずに傾転が進行しない所定の中立位置から、ローラがディスクの回転力を受けて所定の方向に所定の角度だけ傾転が進行するようにディスクに対して移動させることによって行なわれることがある。また、その支持部材の移動量制御は、該支持部材に供給する油圧の制御を介して達成され、さらに、その油圧制御が、該油圧を生成する三層弁のスリーブ制御によって実現される場合がある。その結果、無段変速機構の変速比制御、ないしパワートレインとしての最終変速比の制御の具体的動作としては、直接的には、上記三層弁のスリーブ位置をフィードバック制御することになる。
【0008】
このとき、無段変速機構の変速比と、上記三層弁のスリーブ位置や、支持部材への供給油圧、あるいはローラの傾転角等といった各物理量とはそれぞれ理論的に対応する。したがって、上記のモード切換時には、モード切換ポイントの変速比に対応するスリーブの位置に三層弁のスリーブが位置したときに、モードを切り換えるべき時期であると判断して、モードの切換動作を開始することになる。あるいは、入力ディスクの回転数と出力ディスクの回転数とから無段変速機構の実変速比を検出して、その実変速比がモード切換ポイントの変速比に到達したときに、同じくモードを切り換えるべき時期であると判断して、モードの切換動作を開始することになる。
【0009】
しかしながら、一般に、このモード切換ポイント付近においては、無段変速機構の変速比が該切換ポイントに近づいている状況であり、パワーローラがハイ側からロー側に傾転し続けている状況である。それゆえ、たとえ三層弁のスリーブを、該スリーブが切換ポイント対応位置に到達したとき、あるいは実変速比が切換ポイント変速比に到達したときに、該切換ポイント対応位置に固定したとしても、パワーローラの傾転は該切換ポイントで停止せず、慣性によりロー側に行き過ぎてしまい、その結果、モードの切換動作が本来の切換ポイントからずれたポイントで開始される。一方、締結側摩擦要素を締結させていった際には、変速比が上記の切換ポイントの理論値に強制的に移動されるので、該締結側摩擦要素を締結させた際に著しい変速比の変動が起き、ここで切換ショックが発生するのである。
【0010】
本発明はこのような現状に鑑みてなされたもので、ローモードとハイモードとの切換動作の開始時には、無段変速機構の変速比をモード切換ポイントの変速比に確実に安定して保持し、もって切換ショックを解消することを課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明は次のような手段を用いる。
【0012】
まず、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載の発明は、無段変速機構と歯車機構とを経由する第1の経路と、無段変速機構のみを経由する第2の経路とが設けられ、上記無段変速機構が、入力ディスク及び出力ディスクと、これらの両ディスク間に介設されたパワーローラと、このパワーローラを支持するトラニオンとを有する構成であると共に、車両の走行状態に基づいて目標変速比を設定する目標変速比設定手段と、該設定手段で設定された目標変速比が実現するように上記無段変速機構の変速比と経路の切換えとを制御する変速制御手段とを有するパワートレインの制御装置であって、上記変速制御手段が、無段変速機構の変速比に対応する所定の物理量を制御することにより上記トラニオンの上記ディスクに対する移動制御を介して無段変速機構の変速比を制御するように構成されていると共に、上記所定物理量が、第1の経路と第2の経路とで同じ最終変速比が得られる無段変速機構の切換変速比に対応する値に到達する前の該値と異なる所定値に到達したときに無段変速機構の変速比が上記切換変速比に到達したと判定して経路の切換を開始すると共に上記所定物理量を上記切換変速比に対応する値と異なる所定値に固定し、この所定物理量の固定を所定時間維持したのち、経路の切換が終了するまでに、上記所定物理量を、経路の切換前後で無段変速機構を通過するトルクの伝達方向が反転することに起因して上記切換変速比に対応する所定物理量の値が経路の切換前後で変化することを考慮して設定された、上記所定値と異なる第2の所定値に修正するように構成されていることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、入力ディスク及び出力ディスクと、これらの両ディスク間に介設されたパワーローラと、このパワーローラを支持するトラニオンとを有する構成である無段変速機構において、該無段変速機構の変速比に対応する、例えば前述の三層弁のスリーブ位置等の所定の物理量を制御することによって、上記トラニオンの上記ディスクに対する移動制御を介して無段変速機構の変速比を制御するような場合に、その物理量が本来のモード切換ポイントに対応する値に到達したときに無段変速機構の変速比がモード切換変速比に到達したとは判定されず、その物理量が本来のモード切換ポイントに対応する値からずれた所定値に到達したときにモード切換変速比に到達したと判定される。それゆえ、無段変速機構の変速比が慣性により切換ポイントを行き過ぎてしまい、モードの切換動作が本来の切換ポイントからずれたポイントで開始されるという不具合が回避されて、その結果、切換ショックの発生が低減される。
【0015】
特に、この発明によれば、直接の制御対象である物理量が本来のモード切換ポイントに対応する値から手前側にずれた所定値に到達したときにモード切換変速比に到達したと判定される。それゆえ、制御自体はそこで停止したとしても、無段変速機構の変速比が慣性によりさらにモード切換ポイントに近づき、その結果、無段変速機構の実変速比が本来のモード切換ポイントに到達することになる。
【0017】
また、この発明によれば、切換ポイントに到達したと判定された場合には、直接の制御対象である物理量がそこで固定される。それゆえ、無段変速機構の変速比の側においてもまた本来のモード切換ポイントに固定され、その結果、モード切換後の変速比変動に伴う切換えショックが回避される。
加えて、この発明によれば、所定物理量の固定を所定時間維持したのち、経路の切換が終了するまでに、上記所定物理量を上記所定値と異なる第2の所定値に修正するようにしたから、経路切換後に変速比が切換変速比からずれることがなく、著しい変速比の変動が起こらず、不快なショックの発生が抑制され、エンジン回転数の不必要な上昇が抑制されることになる。
次に、請求項2に記載の発明は、上記請求項1に記載の発明において、変速制御手段は、経路の切換中は、所定物理量のフィードバック制御を停止し、第2の所定値への所定物理量の修正をフィードフォワード制御によって行うことを特徴とする。
この発明によれば、経路切換中の意味のない所定物理量のフィードバック制御が停止されると共に、所定物理量が応答性よく速やかに第2の所定値に修正される。
【0018】
次に、請求項に記載の発明は、上記請求項1に記載の発明において、トルクを検出するトルク検出手段が設けられ、変速制御手段は、この検出手段で検出されるトルクが大きいほど、所定物理量が切換変速比に対応する値と大きく異なる所定値に到達したときに無段変速機構の変速比が上記切換変速比に到達したと判定することを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、トルクが大きいほど、直接の制御対象である物理量が本来のモード切換ポイントに対応する値からより大きくずれた所定値に到達したときにモード切換変速比に到達したと判定される。それゆえ、トルクが大きく、無段変速機構の変速比が慣性によって行き過ぎる量が大きい場合においても適切に対処することができ、無段変速機構の変速比をモード切換ポイントの変速比に常に確実に安定して保持し、もって切換ショックの発生を確実に回避することができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、発明の実施の形態を通して本発明をさらに詳しく説述する。
【0026】
図1および図2に示すように、本実施の形態に係るパワートレイン10は、エンジン1の出力軸2にトーショナルダンパ3を介して連結されたインプットシャフト11と、該シャフト11の外側に遊嵌合された中空のプライマリシャフト12と、これらのシャフト11,12に平行に配置されたセカンダリシャフト13とを有し、これらのシャフト11〜13が、いずれも当該車両の横方向に延びるように配置されている。
【0027】
また、上記インプットシャフト11およびプライマリシャフト12の軸線上には、トロイダル式の第1、第2無段変速機構20,30と、これらに軸方向の荷重を付与して動力伝達を可能とするローディングカム機構40とが配設されていると共に、セカンダリシャフト13の軸線上には、遊星歯車機構50と、ロークラッチ60およびハイクラッチ70とが配設されている。さらに、インプットシャフト11およびプライマリシャフト12の軸線と、セカンダリシャフト13の軸線との間に、ローモードギヤ列80と、ハイモードギヤ列90とが介設されている。
【0028】
上記第1、第2無段変速機構20,30はほぼ同一の構成であり、いずれも、対向面がトロイダル面とされた入力ディスク21,31と出力ディスク22,32とを有し、これらの各対向トロイダル面間に、両ディスク21,22間および31,32間でそれぞれ動力を伝達するパワーローラ23,33が2つづつ介設されている。
【0029】
そして、エンジン1から遠い方に配置された第1無段変速機構20は、入力ディスク21が反エンジン側に、出力ディスク22がエンジン側に配置され、また、エンジン1に近い方に配置された第2無段変速機構30は、入力ディスク31がエンジン側に、出力ディスク32が反エンジン側に配置されており、かつ、両変速機構20,30の入力ディスク21,31はプライマリシャフト12の両端部にそれぞれ結合され、また、出力ディスク22,32は一体化されて、該プライマリシャフト12の中間部に回転自在に支持されている。
【0030】
また、インプットシャフト11の反エンジン側の端部には上記ローモードギヤ列80を構成する第1ギヤ81が結合され、該第1ギヤ81と第1無段変速機構20の入力ディスク21との間に上記ローディングカム機構40が介設されており、さらに、第1、第2無段変速機構20,30の一体化された出力ディスク22,32の外周に、上記ハイモードギヤ列90を構成する第1ギヤ91が設けられている。
【0031】
一方、セカンダリシャフト13の反エンジン側の端部には、上記ローモードギヤ列80を構成する第2ギヤ82が回転自在に支持されて、アイドルギヤ83を介して上記第1ギヤ81に連結されていると共に、該セカンダリシャフト13の中間部には上記遊星歯車機構50が配設されている。そして、該遊星歯車機構50のピニオンキャリヤ51と上記ローモードギヤ列80の第2ギヤ82との間に、これらを連結しもしくは切断するロークラッチ60が介設されている。
【0032】
また、遊星歯車機構50のエンジン側には、ハイモードギヤ列90を構成する第2ギヤ92が回転自在に支持されて、上記第1、第2無段変速機構20,30における出力ディスク22,32の外周に設けられた第1ギヤ91に噛み合わされていると共に、該第2ギヤ92と遊星歯車機構50のサンギヤ52とが連結されており、さらに該遊星歯車機構50のインターナルギヤ53がセカンダリシャフト13に結合されている。そして、該遊星歯車機構50のエンジン側に、上記ハイモードギヤ列90の第2ギヤ92とセカンダリシャフト13とを連結しもしくは切断するハイクラッチ70が介設されている。
【0033】
さらに、上記セカンダリシャフト13のエンジン側の端部に、第1、第2ギヤ4a,4bとアイドルギヤ4cとでなる出力ギヤ列4を介してディファレンシャル装置5が連結されており、このディファレンシャル装置5から左右に延びる駆動軸6a,6bが左右の駆動輪(図示せず)に連結されている。
【0034】
なお、インプットシャフト11の反エンジン側の端部にはオイルポンプ100が配置され、該インプットシャフト11により上記ローモードギヤ列80の第1ギヤ81を介して駆動されるようになっている。
【0035】
次に、上記第1、第2無段変速機構20,30の構成を第1無段変速機構20を例にとってさらに詳しく説明する。
【0036】
図3に示すように、一対のパワーローラ23,23は、入、出力ディスク21,22のほぼ半径方向に延びるシャフト24,24を介してトラニオン25,25にそれぞれ支持され、入、出力ディスク21,22の互いに対向するトロイダル面の円周上の180°反対側にほぼ水平姿勢で上下に平行に配置されており、その周面の180°反対側の2箇所で上記両ディスク21,22のトロイダル面にそれぞれ対接している。
【0037】
また、上記トラニオン25,25は、当該パワートレイン10のケース101に取り付けられた左右の支持部材26,26間に支持され、両ディスク21,22の接線方向であってパワーローラ23,23のシャフト24,24に直交する水平方向の軸心X,X回りの回動および該軸心X,X方向の直線往復運動が可能とされている。そして、これらのトラニオン25,25に、上記軸心X,Xに沿って一側方に延びるロッド27,27が連設されていると共に、上記ケース101の側面には、これらのロッド27,27およびトラニオン25,25を介して上記パワーローラ23,23を傾転させる変速制御ユニット110が取り付けられている。
【0038】
この変速制御ユニット110は、油圧制御部111とトラニオン駆動部112とを有し、トラニオン駆動部112には、上下のトラニオン25,25のロッド27,27のそれぞれに対向状に取り付けられた増速用および減速用のピストン113,114が配置され、各対向するピストン113,114により、増速用および減速用油圧室115,116がそれぞれ形成されている。
【0039】
なお、上方に位置するトラニオン25については、増速用油圧室115がパワーローラ23側に、減速用油圧室116が反パワーローラ23側にそれぞれ配置され、また、下方に位置するトラニオン25については、増速用油圧室115が反パワーローラ23側に、減速用油圧室116がパワーローラ23側にそれぞれ配置されている。
【0040】
そして、上記油圧制御部111で生成された増速用油圧PHが、油路117,118を介して上下のトラニオン25,25の増速用油圧室115,115に供給され、また、同じく油圧制御部111で生成された減速用油圧PLが、図示しない油路を介して上下のトラニオン25,25の減速用油圧室116,116に供給され、これらの油圧PH,PLの制御により、当該変速機構20,30の変速比が制御されるようになっている。
【0041】
ここで、第1無段変速機構20について変速比制御の具体的動作を説明すると、まず、図3に示す油圧制御部111により、上下のトラニオン25,25の増速用油圧室115,115に供給されている増速用油圧PHが、減速用油圧室116,116に供給されている減速用油圧PLに対して所定の釣り合い状態より相対的に高くされると、上方のトラニオン25は図面上、右側に、下方のトラニオン25は左側にそれぞれ水平移動することになる。
【0042】
このとき、図示されている出力ディスク22がc方向に回転しているものとすると、上方のパワーローラ23は、右側への移動により該出力ディスク22から下向きの力を受け、図面の手前側にあって反c方向に回転している入力ディスク21からは上向きの力を受けることになる。また、下方のパワーローラ23は、左側への移動により、出力ディスク22から上向きの力を受け、入力ディスク21からは下向きの力を受けることになる。
【0043】
その結果、上下のパワーローラ23,23とも、入力ディスク21との接触位置は半径方向の外側に、出力ディスク22との接触位置は半径方向の内側に移動するように傾転し、当該変速機構20の変速比が小さくなる(増速)。
【0044】
また、上記とは逆に、上下のトラニオン25,25の減速用油圧室116,116に供給されている減速用油圧PLが、増速用油圧室115,115に供給されている増速用油圧PHに対して所定の釣り合い状態より相対的に高くされると、上方のトラニオン25は図面上、左側に、下方のトラニオン25は右側にそれぞれ水平移動することにより、上方のパワーローラ23は出力ディスク22から上向きの力を、入力ディスク21から下向きの力を受け、また、下方のパワーローラ23は、出力ディスク22から下向きの力を、入力ディスク21から上向きの力を受けることになる。その結果、上下のパワーローラ23,23とも、入力ディスク21との接触位置は半径方向の内側に、出力ディスク22との接触位置は半径方向の外側に移動するように傾転し、当該変速機構20の変速比が大きくなる(減速)。
【0045】
なお、このような油圧制御部111による増速用および減速用油圧PH,PLの供給制御については、後述する油圧制御回路の説明においてさらに説明する。
【0046】
以上のような第1無段変速機構20についての構成および作用は、第2無段変速機構30についても同様である。そして、図1、図2に示すように、インプットシャフト11上に遊嵌合された中空のプライマリシャフト12の両端部に、第1、第2無段変速機構20,30の入力ディスク21,31がそれぞれスプライン嵌合されて、これらの入力ディスク21,31が常に同一回転するようになっており、また、前述のように、両変速機構20,30の出力ディスク22,32は一体化されているので、両変速機構20,30の出力側の回転速度も常に同一となる。したがって、上記のようなパワーローラ23,33の油圧制御による第1、第2無段変速機構20,30の変速比制御も、変速比が常に同一に保持されるように行われることになる。
【0047】
次に、上記変速制御ユニット110と、ケース101の下部に取り付けられたクラッチ制御ユニット120(図3参照)とによって構成される当該パワートレイン10の油圧制御回路について説明する。
【0048】
図4に示すように、この油圧制御回路200には、オイルポンプ100から吐出される作動油の圧力を所定のライン圧に調整してメインライン201に出力するレギュレータバルブ202と、該メインライン201から供給されるライン圧を元圧として所定のリリーフ圧を生成し、これをリリーフ圧ライン203に出力するリリーフバルブ204と、運転者の切り換え操作によってDレンジ、Rレンジ、NレンジおよびPレンジの選択を可能とするマニュアルバルブ205とが備えられている。
【0049】
これらのバルブのうち、マニュアルバルブ205は、上記メインライン201を、Dレンジでは第1、第2出力ライン206,207に、Rレンジでは第1、第3出力ライン206,208にそれぞれ連通させると共に、NレンジおよびPレンジではライン圧を遮断するように動作する。
【0050】
また、上記レギュレータバルブ202およびリリーフバルブ204には、ライン圧制御用リニアソレノイドバルブ209およびリリーフ圧制御用リニアソレノイドバルブ210がそれぞれ備えられていると共に、上記ポンプ100の吐出圧を元圧として一定圧を生成するレデューシングバルブ211が備えられ、このレデューシングバルブ211で生成された一定圧に基づいて、上記リニアソレノイドバルブ209,210がそれぞれ制御圧を生成するようになっている。
【0051】
そして、これらの制御圧が上記レギュレータバルブ202およびリリーフバルブ204の制御ポート202a,204aに供給されることにより、ライン圧およびリリーフ圧が、各リニアソレノイドバルブ209,210に出力される制御信号によってそれぞれ調整されることになる。
【0052】
さらに、レデューシングバルブ211で生成された一定圧は、フェールセーフバルブ212を作動させるオンオフソレノイドバルブ213にも導かれている。このオンオフソレノイドバルブ213は、通常時はオンとされて上記一定圧をフェールセーフバルブ212の制御ポート212aに供給し、これにより該バルブ212のスプールを右側に移動させている一方、フェールセーフ時等にオフとされたときには上記一定圧をフェールセーフバルブ212の制御ポート212aからオフドレインし、これにより該バルブ212のスプールを左側に移動させる。
【0053】
また、この油圧制御回路200には、変速制御用として、上記ライン圧およびリリーフ圧に基づいて、前進時および後退時のそれぞれにおいて、増速用油圧PHおよび減速用油圧PLを生成する前進用三層弁220および後退用三層弁230と、これらの三層弁220,230を選択的に作動させるシフトバルブ240とが備えられている。
【0054】
このシフトバルブ240は、一端の制御ポート240aに制御圧としてライン圧が供給されるか否かによりスプールの位置が決定され、ライン圧が供給されていないときは、該スプールが右側に位置して、上記メインライン201を前進用三層弁220に通じるライン圧供給ライン241に連通させ、また、ライン圧が供給されたときには、スプールが左側に位置して、メインライン201を後退用三層弁230に通じるライン圧供給ライン242に連通させるように作動する。
【0055】
ここで、シフトバルブ240の制御ポート240aにライン圧が供給されるのは、通常時においては、スプールが右側に移動した上記フェールセーフバルブ212および第3出力ライン208を介して、マニュアルバルブ205がRレンジに位置したときである。これに対し、通常時であってフェールセーフバルブ212のスプールが右側に移動していても、マニュアルバルブ205がDレンジに位置したときには、シフトバルブ240の制御ポート240aにはライン圧が供給されない。また、フェールセーフ時には、フェールセーフバルブ212のスプールが左側に移動し、シフトバルブ240と第3出力ライン208とが遮断されるから、マニュアルバルブ205がRレンジに位置していても、シフトバルブ240の制御ポート240aにはライン圧が供給されない。
【0056】
上記前進用および後退用の三層弁220,230は同一の構成であって、ボア221,231に軸方向に移動可能にスリーブ222,232を嵌合すると共に、該スリーブ222,232に同じく軸方向に移動可能にスプール223,233をそれぞれ嵌合した構成とされ、いずれも、図3に示す変速制御ユニット110における油圧制御部111のバルブボディ111aに収納されている。
【0057】
また、これらの三層弁220,230の中央部には、上記シフトバルブ240から導かれたライン圧供給ライン241,242が接続されたライン圧ポート224,234が設けられていると共に、両端部には、上記リリーフ圧ライン203が分岐されてそれぞれ接続された第1、第2リリーフ圧ポート225,226,235,236が設けられている。さらに、上記ライン圧ポート224,234と第1リリーフ圧ポート225,235との間には増速圧ポート227,237が、同じくライン圧ポート224,234と第2リリーフ圧ポート226,236との間には減速圧ポート228,238がそれぞれ設けられている。
【0058】
そして、前進用および後退用三層弁220,230の増速圧ポート227,237からそれぞれ導かれたライン243,244と、同じく前進用および後退用三層弁220,230の減速圧ポート228,238からそれぞれ導かれたライン245,246とが上記シフトバルブ240に接続されており、該シフトバルブ240のスプールが右側に位置するときに、前進用三層弁220の増速圧ポート227および減速圧ポート228から導かれたライン243,245が増速用ライン247および減速用ライン248にそれぞれ接続され、上記増速用油圧室115,115および減速用油圧室116,116にそれぞれ連通する。
【0059】
また、シフトバルブ240のスプールが左側に位置するときは、後退用三層弁230の増速圧ポート237および減速圧ポート238から導かれたライン244,246が上記増速用ライン247および減速用ライン248にそれぞれ接続されて、上記増速用油圧室115,115および減速用油圧室116,116にそれぞれ連通するようになっている。
【0060】
ここで、これらの三層弁220,230の作動を図5を用いて説明する。なお、図5においては、三層弁220,230の向きが図4とは左右反対になっている。図示したように、スリーブ222とスプール223の位置関係が中立位置にある状態から、例えば前進用三層弁220のスリーブ222が相対的に図面上、左側(矢印g方向)に移動すると、ライン圧ポート224と増速圧ポート227との連通度、および第2リリーフ圧ポート226と減速圧ポート228との連通度がそれぞれ増大し、逆にスリーブ222が相対的に右側(矢印h方向)に移動すると、上記ライン圧ポート224と減速圧ポート228との連通度、および第1リリーフ圧ポート225と増速圧ポート227との連通度がそれぞれ増大する。したがって、前者の場合は、増速用油圧PHが上昇して減速用油圧PLが低下し、後者の場合は、減速用油圧PLが上昇して増速用油圧PHが低下することになる。
【0061】
そして、上記の作用は後退用三層弁230についても同様であり、これらの三層弁220,230のスリーブ222,232を上記のように作動させるステップモータ251,252が備えられ、それぞれリンク部材253,254を介して前進用および後退用三層弁220,230のスリーブ222,232に連結されている。
【0062】
また、これらのステップモータ251,252によるスリーブ222,232の移動に応じて、スプール223,233をスプリング229,239のバネ力に抗して軸方向に移動させるカム機構260が備えられている。
【0063】
このカム機構260は、図5、図6に示すように、一方の端面が螺旋面状のカム面261aとされて、第2無段変速機構30の上方に位置するトラニオン35のロッド37の端部に取り付けられたプリセスカム261と、前進用および後退用三層弁220,230のスプール223,233の一端側にこれらに直交する方向に配置されて、油圧制御部111のバルブボディ111aに回動自在に支持されたシャフト262と、このシャフト262の一端部に取り付けられて、揺動端が上記プリセスカム261のカム面261aに当接された従動レバー263と、同じくシャフト262に取り付けられて、揺動端が上記前進用および後退用三層弁220,230のスプール223,233の一端に設けられた切り込み223a,233aに係合された前進用および後退用の駆動レバー264,265とで構成されている。
【0064】
そして、上記増速用油圧PHおよび減速用油圧PLの制御によって第2無段変速機構30における上方のパワーローラ33が傾転したときに、これに伴って上方に位置するトラニオン35およびロッド37が軸心X回りに一体的に回転することにより、上記プリセスカム261もこれらと一体的に回動し、そのカム面261aに揺動端が当接した従動レバー263が所定量揺動すると共に、シャフト262を介して前進用および後退用の駆動レバー264,265も同じ角度だけ揺動し、その結果、その揺動角度に応じた量だけ前進用および後退用三層弁220,230のスプール223,233が軸方向に移動することになる。
【0065】
したがって、これらのスプール223,233の位置は、第2無段変速機構30のパワーローラ33(および第1無段変速機構20のパワーローラ23)の傾転角、換言すればこれらの変速機構20,30の変速比に常に対応することになる。
【0066】
ここで、無段変速機構20,30の変速比(トロイダルレシオRt)の制御動作を、前進時を例にとって説明する。
【0067】
まず、油圧制御回路200におけるライン圧制御用リニアソレノイドバルブ209およびリリーフ圧制御用リニアソレノイドバルブ210により、レギュレータバルブ202およびリリーフバルブ204の制御圧が生成されて、その制御圧に応じたライン圧とリリーフ圧とが生成される。
【0068】
これらの油圧のうち、ライン圧は、メインライン201からシフトバルブ240およびライン241を介して三層弁220のライン圧ポート224に供給される。また、リリーフ圧は、ライン203を介して三層弁220の第1、第2リリーフ圧ポート225,226に供給される。そして、このライン圧とリリーフ圧とに基づき、ステップモータ251による三層弁220の制御により変速制御ユニット110の増速用油圧室115,115および減速用油圧室116,116にそれぞれ供給される増速用油圧PHおよび減速用油圧PLの差圧ΔP(=PH−PL)の制御が行われる。
【0069】
この差圧制御は、図6に示すように、無段変速機構20,30のトラニオン25,35ないしパワーローラ23,33を、該トラニオン25,35に作用するトラクション力T1又はT2に抗して、ローラ23,33がディスク21,22,31,32の回転を受けずに傾転が進行しない所定の中立位置に保持すると共に、その中立位置から、トラニオン25,35ないしパワーローラ23,33を、ローラ23,33がディスク21,22,31,32の回転を受けて傾転が進行する(トロイダルレシオが変化する)ように、軸心X,X方向に沿って移動させる制御である。
【0070】
いま、例えば、トルクが変速機構20,30を、入力ディスク21,31側から出力ディスク22,32側に通過する場合、入力ディスク21,31のa,a方向の回転によりパワーローラ23,33がb,b方向に駆動されるから、該パワーローラ23,33およびこれを支持するトラニオン25,35には、これらを入力ディスク21,31の回転方向a,aと同方向に引きずろうとする力が作用する。また、このパワーローラ23,33のb,b方向の回転により出力ディスク22,32がc,c方向に駆動されるから、その反力として、出力ディスク22,32の回転方向c,cと反対方向の力が該パワーローラ23,33ないしトラニオン25,35に作用する。その結果、パワーローラ23,33およびトラニオン25,35には、トラニオン駆動部112へ近づく方向のトラクション力T1,T1が作用することになる。
【0071】
逆に、例えば、トルクが変速機構20,30を、出力ディスク22,32側から入力ディスク21,31側に通過する場合、出力ディスク22,32のc,c方向の回転によりパワーローラ23,33がb,b方向に駆動されるから、該パワーローラ23,33およびこれを支持するトラニオン25,35には、これらを出力ディスク22,32の回転方向c,cと同方向に引きずろうとする力が作用する。また、このパワーローラ23,33のb,b方向の回転により入力ディスク21,31がa,a方向に駆動されるから、その反力として、入力ディスク21,31の回転方向a,aと反対方向の力が該パワーローラ23,33ないしトラニオン25,35に作用する。その結果、パワーローラ23,33およびトラニオン25,35には、トラニオン駆動部112から離れる方向のトラクション力T2,T2が作用することになる。
【0072】
そこで、このトラクション力T1又はT2に抗してパワーローラ23,33を中立位置に保持するために、各トラニオン25,35に設けられた増速用および減速用油圧室115,116に、差圧ΔPが上記トラクション力Tと釣り合う大きさとなるように、増速用油圧PHと減速用油圧PLとをそれぞれ供給するのである。
【0073】
そして、いま、この中立状態から例えばトロイダルレシオを小さく(増速)するものとし、ステップモータ251により、前進用三層弁220のスリーブ222を、図5、図6において左側(g方向)に移動させれば、該三層弁220のライン圧ポート224と増速圧ポート227との連通度、および第2リリーフ圧ポート226と減速圧ポート228との連通度が大きくなることにより、図4に示す増速圧ライン247から上記増速用油圧室115,115に供給されている増速用油圧PHは増圧され、減速圧ライン248から上記減速用油圧室116,116に供給されている減速用油圧PLは減圧されて、差圧ΔPが大きくなり、その結果、トラニオン25,35ないしパワーローラ23,33が図6に示すd1,d1方向に移動することになる。
【0074】
そして、この移動により、パワーローラ23,33は、入力ディスク21,31との接触位置が半径方向の外側に、出力ディスク22,32との接触位置が半径方向の内側にそれぞれ変位する方向に傾転して、第1、第2無段変速機構20,30が増速され、トロイダルレシオが小さくなるのである。
【0075】
また、第2無段変速機構30におけるパワーローラ33の上記のような傾転により、カム機構260におけるプリセスカム261が同方向(図5に示すe方向)に同じ角度だけ回転し、これに伴って該カム機構260における従動レバー263、シャフト262および駆動レバー264がいずれも図6に示すf方向に回動する。
【0076】
その結果、三層弁220のスプール223は、スプリング229のバネ力によってg方向、即ち図5、図6の左方向に移動することになるが、この方向は上記ステップモータ251によりスリーブ222を移動させた方向であり、したがって、上記のように、一旦、増大したライン圧ポート224と増速圧ポート227との連通度、および第2リリーフ圧ポート226と減速圧ポート228との連通度が当初の中立状態に復帰することになる。
【0077】
これにより、上記差圧ΔPは再び小さくなって上記のような変速動作が終了し、無段変速機構20,30の変速比、即ちトロイダルレシオが所定量変化したうえで、ローラ23,33が中立位置に再び復帰し、保持されることになる。
【0078】
その場合に、この変速動作は、上記スプール223がスリーブ222との位置関係において所定の中立状態となる位置まで移動した時点で終了することになるが、その位置はステップモータ251によりスリーブ222を移動させた位置であり、また、カム機構260を介してパワーローラ23,33およびトラニオン25,35の傾転角に対応付けられた位置であるから、スリーブ222の位置がパワーローラ23,33およびトラニオン25,35の傾転角に対応することになる。その結果、ステップモーター251の制御量が第1、第2無段変速機構20,30の変速比に対応することになり、該ステップモーター251に対するパルス制御により、トロイダルレシオが制御されることになる。
【0079】
なお、以上の動作はステップモータ251により三層弁220のスリーブ222を図5、図6において反対方向の右側(h方向)に移動させた場合も同様に行われ、この場合、トラニオン25,35ないしパワーローラ23,33が図6に示すd2,d2方向に移動して、トロイダルレシオは大きくなる(減速)。
【0080】
一方、図4に示すように、上記油圧制御回路200には、以上のような変速比制御用の構成に加えて、ロークラッチ60およびハイクラッチ70の制御用として、2個のデューティソレノイドバルブ271,272が備えられており、上記マニュアルバルブ205から導かれた第1出力ライン206がロークラッチ用デューティソレノイドバルブ271に、第2出力ライン207がハイクラッチ用デューティソレノイドバルブ272にそれぞれ接続されている。
【0081】
そして、ロークラッチ用デューティソレノイドバルブ271により、上記第1出力ライン206からのライン圧が調整されてロークラッチ60の締結圧(ロークラッチ圧)が生成され、これが、正常時には、フェールセーフバルブ212およびロークラッチライン274を介してロークラッチ60の油圧室に供給されることにより、その大きさに応じた締結力でロークラッチ60が締結される。また、ハイクラッチ用デューティソレノイドバルブ272の作動により、上記第2出力ライン207からのライン圧が調整されてハイクラッチ70の締結圧(ハイクラッチ圧)が生成され、これがハイクラッチライン275を介してハイクラッチ70の油圧室に供給されることにより、その大きさに応じた締結力でハイクラッチ70が締結されるようになっている。
【0082】
その場合に、これらのデューティソレノイドバルブ271,272は、その制御信号のデューティ率が0%のときにはクラッチ圧を出力せず(全閉)、100%のときに供給されるライン圧をそのままクラッチ圧として出力する(全開)。そして、その中間のデューティ率では、その値に応じたクラッチ圧を生成するようになっている。
【0083】
ここで、上記ロークラッチライン274およびハイクラッチライン275にはそれぞれアキュムレータ276,277が備えられ、ロークラッチ60およびハイクラッチ70への締結圧の供給を緩やかに行わせることにより、これらのクラッチ60,70の締結時におけるショックの発生を抑制するようになっている。
【0084】
また、マニュアルバルブ205から導かれた第3出力ライン208は、前述したように、正常時には、上記フェールセーフバルブ212を介してシフトバルブ240の制御ポート240aに接続され、上記マニュアルバルブ205がRレンジの位置に移動したときに、ライン圧が上記シフトバルブ240の制御ポート240aに供給されて、該シフトバルブ240のスプールを左側、即ち後退時用の位置に移動させるようになっている。
【0085】
さらに、フェールセーフ時等には、上記フェールセーフバルブ212を作動させるオンオフソレノイドバルブ213がオフとなって、上記フェールセーフバルブ212のスプールが左側に移動し、これにより、上記ロークラッチ用デューティソレノイドバルブ271とロークラッチライン274との間、および第3出力ライン208とシフトバルブ240との間がそれぞれ遮断されるようになっている。このとき、特に、ロークラッチ60の油圧室に通じるロークラッチライン274は、フェールセーフバルブ212のドレインポート212bと連通し、ロークラッチ圧が該ドレインポート212bから速やかに排出される。
【0086】
なお、以上の構成に加えて、図4に示す油圧制御回路200には、レギュレータバルブ202のドレインポートから導かれた潤滑ライン281が設けられており、この潤滑ライン281に、潤滑油圧を所定値に調整するリリーフバルブ282や、第1、第2開閉バルブ283,284等が配置されて、第1、第2無段変速機構20,30や遊星歯車機構50等のパワートレイン各部に対する潤滑油の供給を制御するようになっている。
【0087】
この実施の形態に係るパワートレイン10は、以上のような機械的構成と油圧制御回路200とを有すると共に、この油圧制御回路200を用いて第1、第2無段変速機構20,30の変速比制御およびクラッチ60,70の締結制御を行うことにより、パワートレイン10の全体としての変速比(ユニットレシオRu)の制御を行うコントロールユニットを備えている。
【0088】
図7に示すように、このコントロールユニット300は、当該車両の車速を検出する車速センサ301、エンジンの回転数を検出するエンジン回転数センサ302、スロットル開度を検出するスロットル開度センサ303、運転者によって選択されているレンジを検出する選択レンジセンサ304、アクセルペダルの非踏み込みを検出するアイドルスイッチ305、作動油の温度を検出する油温センサ306、並びに入力ディスク21,31および出力ディスク22,32の回転数を検出する入力回転数センサ307および出力回転数センサ308(図1参照)等からの信号を入力する一方、これらのセンサやスイッチ301〜308からの信号が示す当該車両の走行状態ないしエンジンの運転状態に応じて、ライン圧制御用およびリリーフ圧制御用のリニアソレノイドバルブ209,210、オンオフソレノイドバルブ213、ロークラッチ60用およびハイクラッチ70用のデューティソレノイドバルブ271,272、前進用三層弁220用および後退用三層弁230用のステップモータ251,252、並びにエンジン1の点火プラグ309等に制御信号を出力する。
【0089】
次に、本発明の特徴部分を説述していく。
【0090】
この無段変速機構20,30を搭載したパワートレイン10では、Nレンジが選択されているときは、ロークラッチ60及びハイクラッチ70の両者が解放状態とされる。そのため、インプットシャフト11側からセカンダリシャフト13側に伝達される動力は、遊星歯車機構50や該セカンダリシャフト13には伝達されず、したがって、差動装置5から駆動輪へ動力が出力されることはない。
【0091】
このとき、遊星歯車機構50においては、ハイモードギヤ列90からの動力によりサンギヤ52が駆動されるが、ローモードギヤ列80からの動力はロークラッチ60の入力側の回転部材60a(図1参照)まで伝達されるだけで、ピニオンキャリヤ51へは伝達されず、また、セカンダリシャフト13に結合されたインターナルギヤ53は固定されているから、上記ピニオンキャリヤ51は、サンギヤ52の回転に連動して無負荷状態で回転している状態にある。
【0092】
そして、この状態で、トロイダルレシオを所定値に設定することにより、上記ピニオンキャリヤ51の回転速度を、ロークラッチ60の入、出力側回転部材60a,60b(図1参照)の回転速度が等しくなる速度に制御することができる。換言すれば、トロイダルレシオを上記所定値に制御することにより、ロークラッチ60を接続しても、インターナルギヤ53ないしセカンダリシャフト13の回転をゼロとすることができるのである。これにより、所謂ギヤードニュートラル(GN)の状態が得られる。
【0093】
ここで、ステップモータ251,252に出力する制御信号のパルス数(N)とトロイダルレシオ(Rt)との関係は例えば図8に示すような特性を有する。
【0094】
すなわち、パルス数が増加(プラス側に変化)すると、トロイダルレシオが小さくなる(増速側に変化する)。このとき、三層弁220,230のスリーブ222,232は、前述したように、図5、図6に示した矢印g方向に移動する。なお、このときのスリーブ222,232のパルスモータ251,252から離れる方向gへの移動をプラス側とする。
【0095】
逆に、パルス数が減少(マイナス側に変化)すると、トロイダルレシオが大きくなる(減速側に変化する)。このとき、三層弁220,230のスリーブ222,232は、前述したように、図5、図6に示した矢印h方向に移動する。なお、このときのスリーブ222,232のパルスモータ251,252に近づく方向hへの移動をマイナス側とする。
【0096】
ギヤードニュートラルの状態が得られるときのトロイダルレシオ(GNレシオRtn)は1より小さく、また、そのGNレシオRtnを実現させるパルス数(GNパルス数Nn)は相対的にプラス側にある。
【0097】
一方、ステップモータ251,252に出力する制御信号のパルス数(N)とユニットレシオ(Ru)との関係は例えば図9に示すような特性を有する。
【0098】
すなわち、パルス数がGNパルス数(Nn)にあるときは、ユニットレシオは、符号ア又はイで示すように無限大となる。このGNパルス数(Nn)からパルス数が減少(マイナス側に変化)して、トロイダルレシオが大きくなると(減速側に変化すると)、サンギヤ52への入力回転速度が低下することにより、遊星歯車機構50のインターナルギヤ53が前進方向に回転し始める。すなわち、パルス数の減少、ないしスリーブ位置のマイナス側への移動、及びトロイダルレシオの増大に伴って、ユニットレシオが小さくなっていく(増速側に変化していく)前進ローモード特性LFが実現する。
【0099】
逆に、GNパルス数(Nn)からパルス数が増加(プラス側に変化)して、トロイダルレシオが小さくなると(増速側に変化すると)、サンギヤ52への入力回転速度が上昇することにより、遊星歯車機構50のインターナルギヤ53が後退方向に回転し始める。すなわち、パルス数の増加、ないしスリーブ位置のプラス側への移動、及びトロイダルレシオの減少に伴って、ユニットレシオが大きくなっていく(減速側に変化していく)Rレンジでの後退ローモード特性LRが実現する。
【0100】
また、前進ローモードLFで発進したのち、パルス数が減少していって、ユニットレシオが小さくなっていき、図8、図9に符号ウで示すように、所定の切り換えポイント(パルス数Nm,トロイダルレシオRtm,ユニットレシオRum)に到達すると、ロークラッチ60が切断されると共にハイクラッチ70が締結される。即ち、クラッチ60,70の掛け替えが行なわれる。これにより、インプットシャフト11からの動力が、第1、第2無段変速機構20,30、ハイモードギヤ列90およびハイクラッチ70を介してセカンダリシャフト13に伝達される。この状態では、ハイモードギヤ列90のギヤ比が1であるとすれば、ユニットレシオはトロイダルレシオに等しくなり、図8に示すトロイダルレシオの特性とほぼ同じとなる。すなわち、パルス数の増加、ないしスリーブ位置のプラス側への移動、及びトロイダルレシオの減少に伴って、ユニットレシオが小さくなっていく(増速側に変化していく)前進ハイモード特性HFが実現する。
【0101】
ここで、図10に示すように、前進ローモードLFにおいてエンジン1により車両を駆動している正駆動状態にあるときには循環トルクが発生する。つまり、矢印iで示すように、エンジン1からのトルクがインプットシャフト11の反エンジン側の端部からローモードギヤ列80を介してセカンダリシャフト13側へ伝達される一方で、該セカンダリシャフト13上の遊星歯車機構50で生じる反力としてのトルクが矢印jで示すようにハイモードギヤ列90を介して無段変速機構20,30の出力ディスク22,32に還流される。そして、この還流トルクが、矢印kで示すように、入力ディスク21,31、プライマリシャフト12及びローディングカム機構40等を介して上記ローモードギヤ列80側に再び伝達されるのである。したがって、この前進ローモードLFでは、変速機構20,30においては、正駆動状態で、トルクは出力ディスク22,32側から入力ディスク21,31側へ伝達されることになり、パワーローラ23,33およびトラニオン25,35には、トロイダルレシオを小さくしようとする図6に示す増速方向のトラクション力T2,T2が作用することになる。
【0102】
一方、前進ハイモードHFにおいて正駆動状態にあるときには、インプットシャフト11に入力されたエンジン1からの回転は、ローディングカム機構40から無段変速機構20,30の入力ディスク21,31に入力され、それぞれパワーローラ23,33を介して出力ディスク22,32に伝達されると共に、さらに、ハイモードギヤ列90からハイクラッチ70を介してセカンダリシャフト13に伝達される。したがって、このハイモードHFでは、変速機構20,30においては、正駆動状態で、トルクは入力ディスク21,31側から出力ディスク22,32側へ伝達されることになり、パワーローラ23,33およびトラニオン25,35には、トロイダルレシオを大きくしようとする図6に示す減速方向のトラクション力T1,T1が作用することになる。
【0103】
また、前進ローモードLFにおいてエンジン1が車両の走行慣性により駆動されている逆駆動状態にあるときは、正駆動状態にあるときとは逆に、トルクが入力ディスク21,31側から出力ディスク22,32側へ伝達され、パワーローラ23,33およびトラニオン25,35には減速方向のトラクション力T1,T1が作用し、さらに、前進ハイモードHFにおいて逆駆動状態にあるときも、正駆動状態にあるときとは逆に、トルクが出力ディスク22,32側から入力ディスク21,31側へ伝達され、パワーローラ23,33およびトラニオン25,35には増速方向のトラクション力T2,T2が作用する。
【0104】
したがって、例えば、正、逆いずれかの同一駆動状態のままで、ロー、ハイのモードの切換えが起こったときや、ロー、ハイいずれかの同一モードのままで、正、逆の駆動状態の切換えが起こったときには、変速機構20,30を通過するトルクの伝達方向が反転し、それに伴って、パワーローラ23,33およびトラニオン25,35に作用するトラクション力の方向もまた反転する。
【0105】
このとき、前述の図6を参照して説明したように、各無段変速機構20,30のトラニオン25,35にはトラクション力T1又はT2に対抗し得るだけの差圧ΔPが供給されて中立位置に保持されているのではあるが、現実には、そのような差圧ΔPを直接受けているのはトラニオン駆動部112に配置されたピストン113,114及びその近傍部分だけであるので、それ以外の例えば入出力ディスク21,22,31,32に近い位置に配置されているロッド27,37や、トラニオン本体25,35、あるいはこれらの連設部分、ないしはローラ支持シャフト24,24、さらには該シャフト24,24とトラニオン25,35との連結部分等は、トラクション力T1又はT2によって引きずられるように撓んだり、歪んだりして物理的変形を生じ、その結果、パワーローラ23,33が中立位置から増速方向(d1方向:トラクション力T2の場合)又は減速方向(d2方向:トラクション力T1の場合)に若干オフセットしているのである。
【0106】
それゆえ、例えば、具体的一例として、正駆動状態のままでローモードLFからハイモードHFへの切換えが起こったときには、パワーローラ23,33は、トラクション力T2,T2によって増速方向にオフセットした位置から、トラクション力T1,T1によって減速方向にオフセットした位置へ、本来の中立位置を挟んで、瞬間的に移動することになる。
【0107】
図11に、モード切換ポイントトロイダルレシオRtmを実現し得るパルス数ないしスリーブ位置が変速機構20,30を通過する伝達トルク(入力トルク)によってどのように変化するかを調べた実験結果をグラフで示す。
【0108】
この図11から明らかなように、トルクがゼロのときは、ローモードLFのときも、ハイモードHFのときも、あるいは正駆動のときも、逆駆動のときも、前述した理論値としてのモード切換ポイントパルス数Nmないしモード切換ポイントスリーブ位置Smにおいて、モード切換ポイントトロイダルレシオRtmが実現する。
【0109】
しかし、トルクが大きくなるに従って、モード切換ポイントトロイダルレシオRtmを実現することのできるパルス数ないしスリーブ位置が、上記理論値Nm,Smから大きくずれていく。例えば、ローモードLFの正駆動状態(図中のf1の特性ライン)では、トルクの増大に伴い、パルス数ないしスリーブ位置を上記理論値Nm,Smから次第に減速方向に大きくずらしていかないと、モード切換ポイントトロイダルレシオRtmが実現しないことになる。このことは、ローモードLFの正駆動状態で、前述したように、パワーローラ23,33が増速方向にオフセットしており、かつそのオフセット量がトルクに応じて変化するものであることを示す。このような特性は、他の3種の状態(図中のf2,f3,f4の各特性ライン)においても同様である。
【0110】
したがって、例えば、モードの切換時に、ローモードLFの正駆動状態でのトルクがTr1で、ハイモードHFの正駆動状態でのトルクがTr2であれば、両者間でのパルス数の偏差Δn(N2−N1)を埋め合わせしないと、モードの切換えと同時に著しいトロイダルレシオないしユニットレシオの変動が起こり、不快なショックが発生することになる。
【0111】
この実施の形態に係る無段変速機構20,30を搭載したパワートレイン10においては、このような不具合を解消するための対策が講じられている。
【0112】
なお、上記の4種の特性ラインf1〜f4は、それぞれトルクの関数として次のような近似式が与えられる。なお、Xはトルク、K11〜K14、K21〜K24、K31、K41、α、及びβはそれぞれ定数である。
【0113】
【数1】
Figure 0004304745
【0114】
【数2】
Figure 0004304745
【0115】
【数3】
Figure 0004304745
【0116】
【数4】
Figure 0004304745
次に、図12に示すように、上記モード切換ポイント(ウ)は、ローモードLF及びハイモードHFのいずれにおいても、同じトロイダルレシオ(Rtm)で同じユニットレシオ(Rum)が得られる唯一のポイントであり、したがってこのポイント(ウ)でモードの切換えを行なうことにより、切換え前後でユニットレシオの著しい変動のない、したがって切換えショックの発生しない円滑なモードの切換えが実現する。そして、この切換ポイントトロイダルレシオ(Rtm)を実現させる切換ポイントパルス数(Nm:トルクゼロの場合)ないし切換ポイントスリーブ位置(Sm:トルクゼロの場合)といった各種の物理量が、前述の図8、図9及び図11に示すように、理論的にただ一点対応して定まっている。なお、上記の切換ポイントトロイダルレシオ(Rtm)を実現させる切換ポイントパルス数ないし切換ポイントスリーブ位置がトルクに応じて変化することは前述の通りである。
【0117】
それゆえ、理論上は、実トロイダルレシオが切換ポイントトロイダルレシオ(Rtm)に到達し、したがって、パルス数ないしスリーブ位置が切換ポイントパルス数(Nm)ないし切換ポイントスリーブ位置(Sm)に到達したときに、そのパルス数ないしスリーブ位置の制御を停止すれば、実トロイダルレシオが上記切換ポイントトロイダルレシオ(Rtm)において安定することになるのであるが、このモード切換ポイント(ウ)の近傍においては、該切換ポイントに接近するようにパワーローラ23,33が連続的に傾転しており、したがって、現実には、その連続的な傾転運動による慣性等が働く結果、実トロイダルレシオが切換ポイントトロイダルレシオ(Rtm)に到達してから、パルス数ないしスリーブ位置の制御を停止したのでは、パワーローラ23,33が傾転し過ぎ、その結果、実トロイダルレシオが切換ポイントトロイダルレシオ(Rtm)を越えてより減速側(ローモードLFからハイモードHF、及びハイモードHFからローモードLFのいずれのモード切換えにおいても、トロイダルレシオは、その切換え前は、増速側から減速側に変化している)に行き過ぎることになるのである(図12に鎖線で示す領域に進入する)。
【0118】
そして、ローラ23,33の傾転運動の慣性は伝達トルクが大きくなるに従ってより大きくなるから、上記のローラ23,33の行き過ぎ量も伝達トルクに応じて大きくなる。したがって、モード切換時、特にその開始時に、そのようなパワーローラ23,33の行き過ぎに起因する実レシオの切換ポイントから減速側へのずれを考慮しないと、モード切換動作の進行に伴って著しいトロイダルレシオないしユニットレシオの変動が起こり、不快なショックが発生することになる。
【0119】
この実施の形態に係る無段変速機構20,30を搭載したパワートレイン10においては、このような不具合を解消するための対策もまた講じられている。
【0120】
次に、上記の前進ローモードLFと前進ハイモードHFとの切換時の具体的制御動作を詳しく説明する。この制御は、基本的に、モード切換ポイント(ウ)近傍における制御であり、各モード達成用の摩擦要素としてのロークラッチ60とハイクラッチ70との掛け替えが行なわれる。すなわち、ローモードLFからハイモードHFへの切換えであれば、ロークラッチ60を切断し、ハイクラッチ70を締結する。逆に、ハイモードHFからローモードLFへの切換えであれば、ハイクラッチ70を切断し、ロークラッチ60を締結する。そして、このクラッチ60,70の掛け替え動作は、実トロイダルレシオが切換ポイントトロイダルレシオ(Rtm)に到達することをもって開始され、その掛け替え動作中は、実トロイダルレシオが切換ポイントトロイダルレシオ(Rtm)に一定に保持されるように、前進用ステップモータ251に対するパルス数の制御が行われる。
【0121】
一方、このようなモードの切換時以外の通常時は、基本的に、図13〜図15に示すように、前進ローモードLF、前進ハイモードHF、及び後退ローモードLRのそれぞれにおいて、車速(V)やスロットル開度(TVO)等の車両の走行状態をパラメータとして予め設定された変速線図に基づく変速比(トロイダルレシオ及びユニットレシオ)のフィードバック制御が行なわれている。
【0122】
この変速比制御は、特に図14に示すように、まず実車速(V)と実スロットル開度(TVO)とを上記変速線図にあてはめて目標エンジン回転数(Neo)を求め、次にこの目標エンジン回転数(Neo)と実車速(V)とから目標ユニットレシオ(Ruo)を算出して、さらにこの目標ユニットレシオ(Ruo)が得られる目標トロイダルレシオ(Rto)を設定したのち、この目標トロイダルレシオ(Rto)が実現するように、ステップモータ251,252に対するパルス制御(スリーブ位置制御)を介してトロイダルレシオをフィードバック制御するものである。
【0123】
なお、各変速線図には、モード切換ポイントユニットレシオ(Rum)の傾きを有するモード切換ライン(M)が表されている。
【0124】
図16のタイムチャートを参照してさらに説明する。なお、このタイムチャートは、一例として、例えばアクセルペダルが踏み込まれ続けて、車速が増加していき、その結果、正駆動状態でローモードLFからハイモードHFへの切換えが起こる場合を示している。
【0125】
まず時点t1までの期間中、及び時点t4以降の期間中は、上記の走行状態及び変速線図に基づく通常の変速比のフィードバック(F/B)制御が行なわれ、そして、これらの間の時点t1から時点t4までの期間中にモードの切換制御が実行される。
【0126】
まず時点t1までの期間中はローモードLFが達成されており、したがって、オンオフソレノイドバルブ213がONとされた状態で、ロークラッチ用デューティソレノイドバルブ271に対するデューティ率DLが100%(DL1)とされ、ハイクラッチ用デューティソレノイドバルブ272に対するデューティ率DHが0%(DH1)とされている。これにより、ロークラッチ60の油圧室にはロークラッチ圧(EL)としてライン圧がそのまま供給され、該ロークラッチ60が完全締結状態とされている一方で、ハイクラッチ70の油圧室にはハイクラッチ圧(EH)が供給されておらず、該ハイクラッチ70が完全解放状態とされている。
【0127】
そして、この時点t1までの期間中は、変速比のフィードバック制御により、目標ユニットレシオ(Ruo)が増速側に変化するように設定されていき、したがって図中破線で示すように、目標トロイダルレシオ(Rto)が減速側に変化するように設定されていって、この目標トロイダルレシオ(Rto)が実現するようにトロイダルレシオ(Rt)がフィードバック制御される結果、図中実線で示すように、実トロイダルレシオ(Rtr)が目標トロイダルレシオ(Rto)に追随するように減速側に変化していく。このとき、三層弁220についてのパルス数(N)ないしスリーブ位置(S)は共にマイナス側に変化していく。
【0128】
そして、符号カで示すように、実トロイダルレシオ(Rtr)が、切換ポイントトロイダルレシオ(Rtm)より手前の増速側の所定トロイダルレシオ(Rta)に到達した時点t1において、変速比のフィードバック制御が停止されると共に、パルス数(N)ないしスリーブ位置(S)が、符号キで示すように、その時点t1における所定パルス数(Na)及び所定スリーブ位置(Sa)に固定される。このパルス数(N)等の固定は、時点t1から所定時間Taが経過するまで続けられる。
【0129】
ここで、上記所定トロイダルレシオ(Rta)は、図17に示すように、t1の時点で変速機構20,30を通過するトルク(Tr1)に応じて補正され、該トルク(Tr1)がゼロでパワーローラ23,33の傾転慣性が生じないときは、理論値としての切換ポイントトロイダルレシオ(Rtm)とされるが、上記トルク(Tr1)が大きくなり、したがってパワーローラ23,33の傾転慣性が大きくなるに伴って、より増速側の値に設定される。これにより、パワーローラ23,33は慣性により減速側への傾転を続けたのち停止し、その結果、符号クで示すように、時点t1よりのちの時点txにおいて、実トロイダルレシオ(Rtr)が切換ポイントトロイダルレシオ(Rtm)に到達して、該レシオ(Rtm)で安定する。そして、少なくとも、モードの切換えが終了して再び通常の変速比のフィードバック制御が再開される時点t4が過ぎるまでは、実トロイダルレシオ(Rtr)が上記切換ポイントトロイダルレシオ(Rtm)に安定に固定するように、前進用ステップモータ251へのパルス制御が行われる。これにより、著しい変速比変動及び切換えショックの発生しない円滑なクラッチ60,70の掛け替えが実現することになる。
【0130】
これに対し、実トロイダルレシオ(Rtr)が切換ポイントトロイダルレシオ(Rtm)に到達するまで、符号ケで示すように、パルス数(N)ないしスリーブ位置(S)をマイナス側にフィードバック制御し続け、そして、実トロイダルレシオ(Rtr)が切換ポイントトロイダルレシオ(Rtm)に到達してから、その制御を停止したのでは、符号コで示すように、実トロイダルレシオ(Rtr)が切換ポイントトロイダルレシオ(Rtm)を越えてさらに減速側に行き過ぎ、その結果、変速比が切換ポイント変速比からずれて、クラッチ60,70の掛け替え時に不快なショックが発生したり、又は、符号サで示すように、エンジン回転数(Ne)が不必要に上昇したりするのである。
【0131】
なお、実トロイダルレシオ(Rtr)が所定トロイダルレシオ(Rta)に到達した時点t1における上記所定パルス数(Na)及び所定スリーブ位置(Sa)は、すなわち、上記伝達トルク(Tr1)のもとで所定トロイダルレシオ(Rta)を実現させることのできるパルス数(N)及びスリーブ位置(S)であるということができるが、さらに、前述の図11で説明したトラクション力に起因して発生する目標値からのずれ現象も加味されている。
【0132】
さらに、このt1の時点で、ハイモードHFに切り換わった後に時点t4から再開される変速比のフィードバック制御で用いられるその再開始時の目標トロイダルレシオ(Rtb)が算出される。その場合にも、前述の図11で説明したトラクション力に起因して発生する目標値からのパルス数ないしスリーブ位置のずれ現象が加味される。
【0133】
一方、実トロイダルレシオ(Rtr)が所定トロイダルレシオ(Rta)に到達した時点t1で、ロークラッチ用デューティ率DLが0%(DL2)とされ、ハイクラッチ用デューティ率DHが所定デューティ率(DH2)に設定される。これにより、ロークラッチ60が開放され始める一方、ハイクラッチ70が締結され始める。すなわち、実トロイダルレシオ(Rtr)が所定トロイダルレシオ(Rta)に到達したことをもってクラッチ60,70の掛け替え動作が開始されるのである。
【0134】
ここで、パルス数(N)ないしスリーブ位置(S)が時点t1における所定パルス数(Na)及び所定スリーブ位置(Sa)に固定され続ける上記所定時間Taは、実質的に、このクラッチ60,70の掛け替え動作の開始に伴い、ロー、ハイの両クラッチ60,70ともが、符号タで示すように、締結状態となるのに要する時間とされている。そして、ロー、ハイの両クラッチ60,70ともが締結状態となったときには、パルス数(N)ないしスリーブ位置(S)の如何に拘らず、トロイダルレシオは切換えポイントトロイダルレシオ(Rtm)に堅持される。したがって、t1の時点で実トロイダルレシオ(Rtr)が所定トロイダルレシオ(Rta)に到達さえすれば、あとはクラッチ60,70の掛け替え動作の開始によってトロイダルレシオが切換えポイントトロイダルレシオ(Rtm)に安定的に保持されるから、もはやパルス数(N)等のフィードバック制御は行う意味がなく、それゆえt1の時点で該フィードバック制御が停止されて、パルス数(N)等が上記所定パルス数(Na)等に固定されるのである。
【0135】
なお、図18に示すように、上記所定時間Taは、油温が高いほど短くなるように設定される。これは、油温が高いときは作動油ないし潤滑油の粘性が低く、締結側摩擦要素(この場合はハイクラッチ70)の締結動作が応答性よく進行すると共に、また実トロイダルレシオ(Rtr)が切換えポイントトロイダルレシオ(Rtm)に速やかに到達するからである。これにより、このモード切換えに要する制御時間の短縮化が図られる。
【0136】
そして、上記所定時間Taが経過した時点t2以降は、ハイクラッチ用デューティ率DHが100%のデューティ率(DH3)に向けてさらに高められる。これにより、ロー、ハイの両クラッチ60,70ともが締結状態となった状態から、ロークラッチ60の開放動作及びハイクラッチ70の締結動作がさらに進むことになる。すなわち、ローモードからハイモードへの移行が開始されるのである。
【0137】
このとき、時点t2から時点t3までの第2所定時間Tbが経過する間に、パルス数(N)ないしスリーブ位置(S)のフィードフォワード(F/F)制御が実行される。すなわち、時点t1におけるトルク(Tr1)をモード切換え前のローモードLFでのトルクとし、時点t2におけるトルク(Tr2)をモード切換え後のハイモードHFでのトルクとして、前述の図11を参照して説明したように、両モードLF,HFで切換ポイントトロイダルレシオ(Rtm)が保持実現するように、そのRtm実現パルス数N1,N2の偏差Δnだけステップモータ251に対するパルス数(N)を修正するのである。ここで、Rtm実現パルス数の算出には、前述の特性近似式f1〜f4が用いられ、特に、この場合は、ローモードLF、正駆動状態でのRtm実現パルス数N1の算出に特性近似式f1が、またハイモードHF、正駆動状態でのRtm実現パルス数N2の算出に特性近似式f2が用いられる。
【0138】
これにより、符号チで示すように、パルス数(N)は第2所定時間Tbの間にフィードフォワード制御によって応答性よく速やかに偏差Δnだけ増速側にプラスされる。したがって、ロー、ハイの両クラッチ60,70ともが締結状態となった状態からハイモードへの移行が開始され、その結果、パワーローラ23,33が前述のトラクション力T2,T2によって増速方向にオフセットした位置から、反対方向に作用するトラクション力T1,T1によって減速方向にオフセットした位置へ移動することになっても、符号ツで示すように、著しいトロイダルレシオないしユニットレシオの変動が起こらず、不快なショックの発生が抑制されることになる。
【0139】
これに対し、符号テで示すように、パルス数(N)をハイモードへの移行の開始前と同じ値に固持したときには、パワーローラ23,33のオフセット方向の反転に起因する、符号トで示すようなトロイダルレシオの減速方向への変動を回避できず、その結果、変速比が切換ポイント変速比からずれて不快な切換ショックが発生したり、又は、符号ナで示すように、エンジン回転数(Ne)がここでもまた不必要に上昇したりするのである。
【0140】
なお、このパルス数の偏差Δnは、換言すれば、現状の実トロイダルレシオである切換ポイントトロイダルレシオ(Rtm)と、ハイモードHFに切り換わった後に時点t4から再開される変速比のフィードバック制御で用いられる目標トロイダルレシオ(Rtb)との間の差分(Δr)を修正するものである。
【0141】
一方、時点t2から時点t3までの第2所定時間Tbが経過する間、エンジン1の点火時期(Ig)が所定量ΔIgだけリタードされて、入力トルクの低減が図られる。その場合に、上記リタード量ΔIgは、図19に示すように、時点t2における入力トルク(Tr2)に応じて補正され、該トルク(Tr2)が大きくなるほど、リタード量ΔIgが大きく、つまりトルクダウン量が大きくなるように設定される。これにより、ハイクラッチ70の締結ショックが抑制されるばかりでなく、その締結動作の進行に伴うトルク変動が抑制され、したがってパワーローラ23,33のオフセット反転量も低減されて、モード切換えショックがより一層確実に低減されることになる。
【0142】
そして、第2所定時間Tbが経過し、時点t3に至った以降は、パルス数(N)のフィードバック制御は依然として停止される一方、オンオフソレノイドバルブ213がオフとされる。これにより、フェールセーフバルブ212のスプールが左側に移動して、ロークラッチライン274が該バルブ212のドレインポート212bに連通する。それゆえ、符号ハで示すように、ロークラッチ圧がこのドレインポート212bから速やかに排出され、ロークラッチ60が早期に完全開放状態となって、切り換わり後のハイモードHFにおける変速比のフィードバック制御を早期に実行することが可能となる。
【0143】
これに対し、オンオフソレノイドバルブ213がオンのままであると、ロークラッチ圧がデューティソレノイドバルブ271のデューティ率により排出されることになり、符号ヒで示すように、遠心残圧等が残って、ハイモードHFが完全に実現するのに時間がかかることになる。
【0144】
そして、時点t3からの所定時間Tcが経過した段階で、ハイクラッチ70が完全締結され、ロークラッチ60が完全解放されたハイモードHFに完全に切り換わり、上記トロイダルレシオ(Rtb)を目標とする変速比のフィードバック制御が再開されることになる。
【0145】
次に、以上の制御動作を図20以下のフローチャートに沿って説明する。まず、ステップS1からS17までは時点t1に至るまでの制御動作である。
【0146】
まずステップS1で、図7に示す各センサやスイッチ301〜308からの信号に基づき、現時点における車速、エンジン1のスロットル開度、選択されているレンジ、実トロイダルレシオ、油温等の各種の状態量を検出したうえで、ステップS2において入力トルクTrを推定する。この入力トルクTrの推定はエンジン回転数や吸入空気量等から周知の方法により求められる。次いでステップS3でエンジン点火時期タイミングIgを設定する。この点火時期タイミングIgもまたエンジン回転数や吸入空気量等から周知の方法により求められる。
【0147】
次いでステップS4で上記入力トルクTrに応じてモード切換判定レシオ(所定トロイダルレシオ)Rtaを設定する。その場合に、モード切換判定レシオRtaは、前述の図17に示すように、入力トルクTrが大きいほど小さい値(増速側の値)に求められる。
【0148】
次いでステップS5で実トロイダルレシオRtrが上記モード切換判定レシオRtaよりも大きいか否かを判定する。その結果、大きくないとき、つまり実トロイダルレシオRtrがモード切換判定レシオRtaより増速側であるときは、ステップS6に進んで、上記入力トルクTrの値を第1トルク値Tr1とする。
【0149】
次いでステップS7でトロイダルレシオの目標値Rtoをモード切換理論値(切換ポイントトロイダルレシオ)Rtmとし、ステップS8、S9でハイクラッチデューティ率DHを第1デューティ率DH1(0%)とし、ロークラッチデューティ値DLを第1デューティ率DL1(100%)とし、さらにステップS10でオンオフソレノイドバルブ213に対する指示値をオンとする。
【0150】
次いでステップS11では、まず変速線図に基づいて目標ユニットレシオRuoないし目標トロイダルレシオRtoを設定したのち、該目標トロイダルレシオRtoに対する実トロイダルレシオRtrの偏差ΔRtを算出する。
【0151】
ステップS12では、入力トルク、変速比、走行モード、及びレンジに応じて、PID制御の指数Qにおける比例項ゲイン(変速比制御におけるフィードバックゲイン)Gを設定する。この比例項ゲインGは、トルクが大きいほど、またトロイダルレシオがGNレシオ(Rtn)に近いほど小さい値に設定される。さらに、走行モードがローモードLF,LRであるときはハイモードHFであるときに比べて小さい値に設定され、またレンジが後退レンジLrであるときは前進レンジであるときに比べて小さい値に設定される。
【0152】
ステップS13では、まず次式に比例項ゲインGを代入してPID制御指数Qを算出する。
【0153】
【数5】
Figure 0004304745
ここで、Hは積分項ゲイン、及びIは微分項ゲインである。
【0154】
次いで、予め図22に示すように設定されたマップに基づいて、算出した指数Qに応じたステップモータ251,252に出力する制御信号のパルス数偏差ΔNを求める。
【0155】
ここで、上記マップでは、指数Qの絶対値が大きくなるほどパルス数偏差ΔNも大きくなるように設定されている。また、指数Qが正のとき(実トロイダルレシオが目標トロイダルレシオよりも大きいとき)には、パルス数偏差ΔNを正として、パルス数Nを増加させ、これにより実トロイダルレシオを小さくし、逆に、指数Qが負のとき(実トロイダルレシオが目標トロイダルレシオよりも小さいとき)には、パルス数偏差ΔNを負として、パルス数Nを減少させ、これにより実トロイダルレシオを大きくするように設定されている(図8参照)。
【0156】
そして、ステップS14〜S17において、ステップモータ251、デューティソレノイドバルブ271,272、オノフソレノイドバルブ213、及びエンジン1の点火時期をそれぞれ制御することにより、前述したような時点t1までの制御動作が得られる。
【0157】
一方、ステップS5で実トロイダルレシオRtrがモード切換判定レシオRtaに到達したときには、該ステップS5からステップS18に進む。この場合のステップS1からS5及びS18からS24及びS14からS17までの動作は時点t1から時点t2に至るまでの制御動作である。
【0158】
ステップS18で実トロイダルレシオRtrがモード切換判定レシオRtaに到達した直後に限り、第1タイマーtim1をセットする。そして、ステップS19で該タイマーtim1が第1所定期間Taを過ぎたか否かが判定される。その結果、まだ第1所定期間Taを過ぎていないとき、つまり時点t2に至るまでは、ステップS20で入力トルクTrの値を第2トルク値Tr2とする。
【0159】
また、ステップS21でステップモータ251に対するパルス数偏差ΔNとして0を代入し、次いでステップS22、S23でハイクラッチ用デューティ率DHを所定の棚圧である第2デューティ率DH2とし、またロークラッチ用デューティ率DLを0%である第2デューティ率DL2とする。さらにステップS24でオンオフソレノイドバルブ213に対する指示値をオンとする。
【0160】
そして、ステップS14〜S17において、ステップモータ251、デューティソレノイドバルブ271,272、オノフソレノイドバルブ213、及びエンジン1の点火時期をそれぞれ制御することにより、前述したような時点t1から所定時間Taが経過する時点t2までの制御動作が得られる。
【0161】
一方、ステップS19で第1タイマーtim1が第1所定期間Taを過ぎたときは、該ステップS19からS25に進む。この場合のステップS1からS5及びS18,S19及びS25からS32及びS14からS17までの動作は時点t2から時点t3に至るまでの制御動作である。
【0162】
ステップS25では、第1所定時間Taが経過した直後に限り、上記第1、第2トルク値Tr1,Tr2をそれぞれ前述の特性近似式f1,f2に代入し、パルス数N1,N2、及びその偏差Δnを求める。次いで、ステップS26で、同じく第1所定時間Taが経過した直後に限り、第2タイマーtim2をセットする。
【0163】
そして、ステップS27で、該第2タイマtim2が第2所定時間Tbを過ぎたか否かを判定し、まだ過ぎていないとき、つまり時点t2から時点t3までの間は、ステップS28に進んで、この第2所定時間Tbの間に上記パルス数偏差Δnだけ三層弁220のスリーブ222が移動するように、ステップモータ251への出力信号のパルス数偏差ΔNを設定する。
【0164】
次いで、ステップS29でオンオフソレノイドバルブ213に対する指示値をオンとし、またステップS30で点火時期Igを所定値ΔIgだけリタードしてトルクダウンを図る。
【0165】
次いで、ステップS31でロークラッチデューティ率DLを第2デューティ率DL2とし、またステップS32でハイクラッチデューティ率DHとして、上記第2所定時間Tb及び次の第3所定時間Tcの間に、該ハイクラッチデューティ率DHが上記第2デューティ率DH2から第3デューティ率DH3まで変化するような値に設定する。ここで、この第3デューティ率DH3の値は100%とされている。
【0166】
そして、ステップS14〜S17において、ステップモータ251、デューティソレノイドバルブ271,272、オノフソレノイドバルブ213、及びエンジン1の点火時期をそれぞれ制御することにより、前述したような時点t2から所定時間Tbが経過する時点t3までの制御動作が得られる。
【0167】
一方、上記ステップS27で、第2所定時間Tbが経過したと判定されたときは、該ステップS27からS33に進み、ここで第2タイマーtim2が上記第2所定時間Tbと第3所定時間Tcとの和以上に大きいか否かが判定される。そして、NOのとき、つまり時点t3から時点t4の間は、ステップS34に進み、ここで、再びパルス数偏差ΔNが0とされ、また、ステップS35でオンオフソレノイドバルブ213に対する指示信号としてOFFが設定される。
【0168】
以上の制御により、前述したような時点t3から所定時間Tcが経過する時点t4までの制御動作が得られる。
【0169】
そして、第3所定時間Tcも経過して時点t4に至ったのちは、上記ステップS33でYESと判定されて、該ステップS33からS36に進む。そして、該ステップS36でハイクラッチデューティ率DHが100%の第3デューティ率DH3が代入され、またステップS37でロークラッチデューティ率DLが0%の第2デューティ率DL2に維持される。
【0170】
これにより、ハイクラッチ70が完全締結状態となり、モードが完全にハイモードに切り換わる時点t4以降の制御動作が得られ、変速比の通常のフィードバック制御が再開されて、走行状態に応じた変速比制御が実行されることになる。
【0171】
なお、以上においては、第1所定時間Taを油温によって補正し、且つステップS19でこれを第1タイマーtim1により計時するようにしたが、これに代えて、ローモードクラッチ60とハイモードクラッチ70の両方が締結状態になったか否かを判定するものとして、締結側摩擦要素の油圧が所定値以上に高くなった時点をt2としてもよい。
【0172】
さらに、両クラッチ60,70の入、出力側回転部材60a,60b;70a,70b(図1参照)間の回転のスリップ量がともに所定値以下となったときに、三層弁220のスリーブ222をパルス数偏差Δnだけ移動させるようにしてもよい。
【0173】
その場合は、図1及び図7に示したように、セカンダリシャフト13の回転数を検出する出力軸回転数センサ310を設け、このセンサ310でセカンダリシャフト13の回転数を検出すると共に、入、出力回転数センサ307,308で入、出力ディスク21,22の回転数を検出する。
【0174】
例えば、ロークラッチ60のスリップ量SLP(60)は、その入力側回転部材60aの回転数W(60a)と出力側回転部材60bの回転数W(60b)とから次式のように表される。
【0175】
【数6】
Figure 0004304745
ここで、ロークラッチ60の入力側回転部材60aの回転数W(60a)は、入力ディスク21の回転数W(21)と、ローモードギヤ列80の第1ギヤ81及び第2ギヤ82の歯数Z(81),Z(82)とから次式に従って算出することができる。
【0176】
【数7】
Figure 0004304745
また、ロークラッチ60の出力側回転部材60bの回転数W(60b)は、出力ディスク22の回転数W(22)と、遊星歯車機構50のサンギヤ52及びインターナルギヤ53の歯数Z(52),Z(53)と、ハイモードギヤ列90の第1ギヤ91及び第2ギヤ92の歯数Z(91),Z(92)と、セカンダリシャフト13の回転数W(13)とから次式に従って算出することができる。
【0177】
【数8】
Figure 0004304745
各歯数Zは予め諸元により分かっているから、結局、ロークラッチ60のスリップ量SLP(60)は、セカンダリシャフト13の回転数W(13)と、入、出力ディスク21,22の回転数W(21),W(22)とから算出できることになる。
【0178】
一方、同様に、ハイクラッチ70のスリップ量SLP(70)は、その入力側回転部材70aの回転数W(70a)と出力側回転部材70bの回転数W(70b)とから次式のように表される。
【0179】
【数9】
Figure 0004304745
ここで、ハイクラッチ70の入力側回転部材70aの回転数W(70a)は、出力ディスク22の回転数W(22)と、ハイモードギヤ列90の第1ギヤ91及び第2ギヤ92の歯数Z(91),Z(92)とから次式に従って算出することができる。
【0180】
【数10】
Figure 0004304745
そして、ハイクラッチ70の出力側回転部材70bの回転数W(70b)は、セカンダリシャフト13の回転数W(13)であり、各歯数Zは予め諸元により分かっているから、結局、ハイクラッチ70のスリップ量SLP(70)は、セカンダリシャフト13の回転数W(13)と、出力ディスク22の回転数W(22)とから算出できることになる。
【0181】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、無段変速機構を備えたパワートレインにおいて、実変速比を安定して狙いの変速比に維持することができるから、走行モードを切り換える際のショックが有効に解消される。本発明は例えばトロイダル式無段変速機構を備えたパワートレインに好ましく適用可能で、車両産業一般に広く用いられ得る。
【0182】
【従来の技術】
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態に係るトロイダル式無段変速機の機械的構成を示す骨子図である。
【図2】 同変速機の要部の具体的構造を展開状態で示す平面図である。
【図3】 図2のA−A線に沿う断面図である。
【図4】 同変速機の油圧制御の回路図である。
【図5】 図3のB方向からみた変速制御用三層弁の周辺の部分断面図である。
【図6】 図3のC方向からみた変速制御機構周辺の部分断面図である。
【図7】 パワートレイン全体の制御システムを示すブロック図である。
【図8】 ステップモータのパルス数とトロイダルレシオとの関係を示す特性図である。
【図9】 ステップモーターのパルス数とユニットレシオとの関係を示す特性図である。
【図10】 循環トルクの説明図である。
【図11】 ステップモータのパルス数とトルクとの関係を示す特性図である。
【図12】 ユニットレシオとトロイダルレシオとの関係を示す特性図である。
【図13】 前進ローモードで用いられる変速線図である。
【図14】 前進ハイモードで用いられる変速線図である。
【図15】 後退ローモードで用いられる変速線図である。
【図16】 正駆動状態でローモードからハイモードへの切換制御動作のタイムチャートである。
【図17】 同制御で用いられるトルクとモード切換え開始判定用トロイダルレシオとの関係を示すマップである。
【図18】 同制御で用いられる油温と第1所定時間との関係を示すマップである。
【図19】 同制御で用いられるトルクとリタード量との関係を示すマップである。
【図20】 同制御動作の一部を示すフローチャートである。
【図21】 同じく一部を示すフローチャートである。
【図22】 同制御動作で用いられる指数と、ステップモータへ出力する制御信号のパルス数との関係を示すマップである。
【図23】 同制御動作の一部を示すフローチャートである。
【図24】 同じく一部を示すフローチャートである。
【図25】 同じく一部を示すフローチャートである。
【符号の説明】
1 エンジン
10 パワートレイン
20,30 無段変速機構
50 遊星歯車機構(歯車機構)
60 ロークラッチ
70 ハイクラッチ
200 油圧制御回路
251,252 ステップモータ
300 コントロールユニット(目標変速比設定手段、変速制御手段)
307,308 ディスク回転数センサ(実変速比検出手段)

Claims (3)

  1. 無段変速機構と歯車機構とを経由する第1の経路と、無段変速機構のみを経由する第2の経路とが設けられ、上記無段変速機構が、入力ディスク及び出力ディスクと、これらの両ディスク間に介設されたパワーローラと、このパワーローラを支持するトラニオンとを有する構成であると共に、車両の走行状態に基づいて目標変速比を設定する目標変速比設定手段と、該設定手段で設定された目標変速比が実現するように上記無段変速機構の変速比と経路の切換えとを制御する変速制御手段とを有するパワートレインの制御装置であって、上記変速制御手段が、無段変速機構の変速比に対応する所定の物理量を制御することにより上記トラニオンの上記ディスクに対する移動制御を介して無段変速機構の変速比を制御するように構成されていると共に、上記所定物理量が、第1の経路と第2の経路とで同じ最終変速比が得られる無段変速機構の切換変速比に対応する値に到達する前の該値と異なる所定値に到達したときに無段変速機構の変速比が上記切換変速比に到達したと判定して経路の切換を開始すると共に上記所定物理量を上記切換変速比に対応する値と異なる所定値に固定し、この所定物理量の固定を所定時間維持したのち、経路の切換が終了するまでに、上記所定物理量を、経路の切換前後で無段変速機構を通過するトルクの伝達方向が反転することに起因して上記切換変速比に対応する所定物理量の値が経路の切換前後で変化することを考慮して設定された、上記所定値と異なる第2の所定値に修正するように構成されていることを特徴とするパワートレインの制御装置。
  2. 変速制御手段は、経路の切換中は、所定物理量のフィードバック制御を停止し、第2の所定値への所定物理量の修正をフィードフォワード制御によって行うことを特徴とする請求項1に記載のパワートレインの制御装置。
  3. トルクを検出するトルク検出手段が設けられ、変速制御手段は、この検出手段で検出されるトルクが大きいほど、所定物理量が切換変速比に対応する値と大きく異なる所定値に到達したときに無段変速機構の変速比が上記切換変速比に到達したと判定することを特徴とする請求項1に記載のパワートレインの制御装置。
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