JP4944412B2 - 前駆脂肪細胞分化抑制剤及びその製造方法 - Google Patents
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Description
(1)酸性ムコ多糖類のO-アシル誘導体又はその生理学的に許容される塩を有効成分とする前駆脂肪細胞分化抑制剤であって、上記酸性ムコ多糖類は、次の構造式で示される化合物である前駆脂肪細胞分化抑制剤。
(2)酸性ムコ多糖類のO-アシル誘導体は、Oアセチル誘導体である上記(1)に記載の前駆脂肪細胞分化抑制剤。
(3)酸性ムコ多糖類は、微生物により生産された酸性ムコ多糖類である(1)又は(2)に記載の前駆脂肪細胞分化抑制剤。
(4)微生物は、シュードモナス属(Pseudomonas)に属する細菌である(1)〜(3)のいずれかに記載の前駆脂肪細胞分化抑制剤。
(5)次の構造式で示される酸性ムコ多糖類を、O-アシル化して前記酸性ムコ多糖類のO-アシル誘導体を得る工程を備える前駆脂肪細胞分化抑制剤の製造方法。
本発明者らは、転写レベルで優れた前駆脂肪細胞分化抑制効果を有する物質を見出すべく、ヒト皮下前駆脂肪細胞株を用いて検索した。その結果、海洋細菌が生産する酸性ムコ多糖類のO-アシル誘導体が、PPARγ(peroxisome proliferator - activated receptor γ/ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γ)アゴニスト活性化阻害による前駆脂肪細胞分化抑制活性を有することを知見した。また、上記酸性ムコ多糖類のO-アシル誘導体は、前駆脂肪細胞分化を抑制すると共に、細胞毒性が極めて弱く、前駆脂肪細胞分化抑制剤として極めて有効であることを見出した。即ち、本発明は、上記知見に基づいて完成されたものであり、海洋細菌が生産する酸性ムコ多糖類のO-アシル誘導体を有効成分として含有する前駆脂肪細胞分化抑制剤に関する。
尚、酸性ムコ多糖類のO-アシル誘導体が前駆脂肪細胞の分化を抑制する活性を有することや上記活性を利用した前駆脂肪細胞分化抑制剤に関する報告はされていない。更に、海洋細菌を用いて製造した酸性ムコ多糖類を用いた前駆脂肪細胞分化抑制剤も報告されていない。
酸性ムコ多糖類のO-アシル誘導体は、例えば、酸性ムコ多糖類を希酸水溶液中、均一系で無水酢酸、あるいは酸塩化物で処理することにより行うことができる。又は、ホルムアミド等の有機溶媒に可溶な場合は、ピリジン及び無水酢酸で処理して酸性ムコ多糖類のO-アセチル誘導体を得ることができる。その他例えば特開平3―143540号公報に記載の方法、特開平6―9707号公報に記載の方法により調製することもできる。O-アセチル化率は、アシル化の方法によって異なるが、本酸性ムコ多糖類の各繰り返し単位に1個以上、好ましくは3個以上、さらに好ましくは4個以上のO-アセチル基が導入されている。
上記培地と微生物を用いて従来法を用いて微生物を培養することにより、WAK-1-Aが効率的に生産される。
次に、WAK-1-AのO-アシル誘導体の製造方法について、実施形態を挙げて説明する。尚、WAK-1-AのO-アシル誘導体生産方法は以下の製法に限定されない。
実施形態にかかるWAK-1-Aの製造方法は、(a)高濃度の塩化ナトリウムを含有する培地を調製する工程と、(b)上記培地において微生物を培養し多糖類を生産する工程と、(c)生産されたWAK-1-Aを抽出・回収する工程と、任意の工程として(d)生産されたWAK-1-Aを分離・回収する工程と、(e)緩やかな攪拌又は弱い嫌気条件で培養を行う工程と、(f)O-アシル化の工程とを有する。上記実施形態を各工程毎に詳細に説明する。
まず、海水よりも高濃度の塩化ナトリウムを含有する培地を調製する。この場合、培地中の塩化ナトリウム濃度が5.5〜8.0%(W/V)となるように調製することが好ましい。さらに好ましくは上記した本発明の培地を用いることが望ましく、その際に炭素源として蔗糖、窒素源としてペプトン、酵母エキスを用いることがより望ましい。
上記のようにして調製した培地を用いて微生物を培養して目的の多糖類を生産するわけであるが、WAK-1-Aを得るためには微生物としてシュードモナス(Pseudomonas)属を用いることが好ましい。さらに好ましくはシュードモナス・エスピーWAK-1(Pseudomonas sp.WAK-1)菌株又はその変異株を用いることが望ましい。微生物としてシュードモナス・エスピーWAK-1(Pseudomonas sp.WAK-1)菌株又はその変異株を用いることで、WAK-1-Aを効率的に生産することができる。
そして、以下に説明する抽出・回収工程を経ることにより高純度のWAK-1-A及びそのO-アシル誘導体を高収率で得ることが可能となる。
上記製造方法で得られた培養液からWAK-1-Aを抽出する方法としては、従来公知の方法を用いることができる。例えば、培養液をそのまま、あるいは高温で殺菌した後で、遠心分離により菌体を除去し、これをそのまま、あるいは濃縮してから、2〜3倍量のエタノール、イソプロパノール、あるいはアセトン等を加え、沈殿を生じさせる。この沈殿物を再度、水あるいは1〜15重量%塩化ナトリウム溶液に溶解させた後で、アルコール等による沈殿を2〜3回繰り返し、水で透析を行い、噴霧乾燥や凍結乾燥機等を用いて乾燥させることにより、WAK-1-Aを得る。これ以外にも電気透析法や限外濾過法も利用することができる。さらに精製するためには、イオン交換、ゲル濾過等の各種クロマトグラフィーや第4級アンモニウム塩による沈殿や塩析などを用いることができる。培養液から菌体の除去に際しては、孔径が0.2μmの中空糸モジュールを備えた膜分離装置を用いることができる。
上記した抽出・回収方法により、多糖類を抽出・回収することが可能である。しかし、任意の工程として、本発明者らが先に出願した特開2002-065292号に開示された、シュードモナス属に属し、WAK-1-Aを生産する能力のある細菌を液体培地中実質的に静置の条件で培養し、培養物中にWAK-1-Aを生産蓄積させ、これを採取することを特徴とするWAK-1-Aの分離方法を併用してもよい。かかる分離方法を併用することにより、効率的にWAK-1-Aを分離回収することができる。以上によりWAK-1-Aが生産及び回収されることになる。
上記知見より、本発明はさらに任意の工程として(e)緩やかな攪拌又は弱い嫌気条件で培養する工程を有してもよい。
酸性ムコ多糖類のO-アシル誘導体は、公知の方法により調製することができる。例えば、酸性ムコ多糖類を希酸水溶液中、均一系で無水酢酸、あるいは酸塩化物で処理することにより行うことができる。又は、ホルムアミド等の有機溶媒に可溶な場合は、ピリジン及び無水酢酸で処理して酸性ムコ多糖類のO-アセチル誘導体を得ることができる。その他例えば特開平3―143540号公報に記載の方法、特開平6―9707号公報に記載の方法により調製することもできる。O-アセチル化率は、アシル化の方法によって異なるが、本酸性ムコ多糖類の各繰り返し単位に1個以上、好ましくは3個以上、さらに好ましくは4個以上のO-アセチル基が導入されている。
上記前駆脂肪細胞分化抑制剤を前駆脂肪細胞分化抑制組成物として用いる場合、有効成分であるWAK-1-AのO-アシル誘導体と医薬品、食品又は化粧品に一般に用いられている各種成分、例えば、油分、保湿剤、防腐剤、殺菌剤、色剤、粉末、香料、増粘剤、緩衝剤などを、その剤形にあわせ、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することにより調製される。また、上記前駆脂肪細胞分化抑制組成物に、WAK-1-AのO-アシル誘導体を配合するに当たっては、これら化合物の前駆脂肪細胞分化抑制効果を考慮することが好ましく、一般にはこれら化合物を有効成分として少なくとも0.001重量%以上、好ましくは0.01〜20.0重量%程度添加すればよい。必ずしも有効成分を単離して使用する必要はなく、必要に応じて本実施形態の効果を損なわない範囲で、WAK-1-AのO-アシル誘導体を含む粗精製物を使用することができる。前駆脂肪細胞分化抑制組成物の剤型は任意であり、例えばカプセル剤、錠剤、丸剤、顆粒剤、ドリンク剤等の可溶化系、乳液またはクリーム等の乳化系、あるいは軟膏または分散液などの剤型をとることができる。
本実施形態の変形例としては、(1)WAK-1-AのO-アシル誘導体を有効成分とする肥満及び生活習慣病又はそれらに起因する疾病の予防又は治療剤、(2)WAK-1-AのO-アシル誘導体を有効成分とする化粧料組成物、(3)WAK-1-AのO-アシル誘導体を有効成分とする飲食品が提供される。
(参考例1)
ペプトン0.5%、 酵母エキス0.1%、蔗糖3%の組成を有し海水で調製した培地を、温度121℃としたオートクレーブ中で20分間滅菌し、シュードモナス・エスピーWAK-1 (Pseudomonas sp. WAK-1)菌株の保存用斜面培養から、1白金耳を試験管中の上記滅菌培地(10ml)に接種し、25℃の温度で24時間振とう培養を行った。次いで、この前培養液を500ml容の三角フラスコ中に上記組成に食塩3%を追加した組成を有し海水で調製した滅菌培地200ml(121℃、20分間)に接種し、25℃の温度で3日間の静置培養を行った。培養後培養液を濾過助剤(セライト)を用いて濾過し、菌体を除いた上澄液に、2倍量のエタノールを加えて白色沈殿を得た。この沈殿物を採取して水200ml中に溶解し、この溶液に再度2倍量のエタノールを加えて多糖類を沈殿させ、凍結乾燥により粉末化とした。これをM/100 リン酸緩衝液(pH=7.0)に溶解し、予め同緩衝液で平衡化したDEAE−セルロースイオン交換カラムクロマトグラフィーにより吸着した画分から0.4M NaClで溶出される画分を集め、透析後凍結乾燥して酸性ムコ多糖類粉末を得た。
このようにして得られた多糖類については、セルロースアセテート膜電気泳動法を用いて均一性を確認すると共に、化学分析、核磁気共鳴分析により、多糖類WAK-1-Aであることを確認した。
前培養までは参考例1と同様に処理し、次いでこの前培養液を500ml容の三角フラスコ中に上記組成を有する海水から調製した滅菌培地200ml(121℃、20分間)に接種し、25℃の温度で3日間緩やかな振とう培養を行った。培養後培養液を孔径0.2μmである中空糸MF膜モジュール(スペクトラム(Spectrum)社製)を備えた膜濾過装置を用いて菌体を除き、この溶液から分子量5万カットの中空糸UF膜モジュール(スペクトラム(Spectrum)社製)を備えた膜濾過装置により得られる高分子画分を短時間のうちに濃縮、脱塩回収し、凍結乾燥により粉末化した。これをM/100リン酸緩衝液 (pH=7.0)に溶解し、予め同緩衝液で平衡化したDEAE−セルロースイオン交換カラムクロマトグラフィーにより吸着した画分から0.4MNaClで溶出される画分を集め、透析後凍結乾燥して酸性ムコ多糖類粉末を得た。なお、上記膜濾過装置は東洋紡エンジニアリング社製SYLS-SB04型を用いた。
このようにして得られた多糖類については、セルロースアセテート膜電気泳動法を用いて均一性を確認すると共に、化学分析、核磁気共鳴分析により、多糖類WAK-1-Aであることを確認した。
前培養までは参考例2と同様に処理し、上記参考例2で述べた蔗糖を含む培地に寒天を1.5%添加した寒天培地250mlを平板(18×26cm)に広げて前培養液を塗沫した。その後、25℃の温度で7日間培養を行った後、寒天平板の表面に生じた粘質物をかきとり、1%フエノール液に懸濁させ、参考例1と同じ方法で菌体を濾過により除いて得られた上澄液にエタノールを加えて沈殿する画分を集め、水に溶解後5%第4級アンモニウム塩 (Cetavlon) 溶液を加えて沈殿する画分を濾過により集めた。これを4MNaClに溶解し再度エタノールを加えて沈殿する画分を集め、水に溶解後透析し凍結乾燥により多糖類を得た。これをM/100リン酸緩衝液(pH=7.0)に溶解し、予め同緩衝液で平衡化したDEAE−セルロースイオン交換カラムクロマトグラフィーにより吸着した画分から0.4MNaClで溶出される画分を集め、透析後凍結乾燥して酸性ムコ多糖類粉末を得た。
上記参考例1〜3で得られたWAK-1-A 1gをホルムアミド200mlに溶解し、これにピリジン40mlと無水酢酸40mlを加え、2日間室温で攪拌した。得られた反応物を流水中で透析し、凍結乾燥した。本実施品のH-1NMRスペクトル図を図-1に示す。観測周波数は、499.8MHz、溶媒はD2O、温度は75℃、基準はTSP-d4(0 ppm)である。1.99〜2.05ppmで示されるシグナルはN-アセチル基を、2.09〜2.20ppmで示されるシグナルは、O-アセチル基をそれぞれ示す。それらのシグナルの積算値から、N-アセチル基に対するO-アセチル基の割合が3:4となり、繰り返し単位当たり4個のO-アセチル基の導入が見られた。
ヒト皮下前駆脂肪細胞における脂肪細胞への分化抑制活性について調べた。ヒト皮下前駆脂肪細胞分化抑制作用の測定は、ゼンバイオ社(Zen−Bio, Inc., U.S.A.)のプロトコールに従い、以下の方法で行った。参考例2で得られたWAK-1-AのO-アシル誘導体を使用して、ヒト皮下前駆脂肪細胞分化抑制作用を調べ、試料無添加の場合と比較して試料添加系での抑制率を求めた。前駆脂肪細胞分化抑制作用は脂肪細胞に蓄積したトリグリセリド濃度を指標とし、PPARγアゴニスト添加による促進効果(陰性コントロール)及びPPARγアゴニストとTNF-α(tumor necrosis factor-α/腫瘍壊死因子-α)の同時添加による抑制効果(陽性コントロール)とを比較した。この結果を図2に示す。図2中、Pは陽性コントロールを、Nは陰性コントロールをそれぞれ示す。
図2から明らかなように、陰性コントロールでは分化誘導が認められた。一方、WAK-1-AのO-アシル誘導体の添加により濃度依存的に分化誘導を抑制し、ヒト皮下前駆脂肪細胞分化抑制作用のあることが認められた。同濃度で細胞毒性に伴う細胞形態の変化は見られなかった。
Claims (5)
- 酸性ムコ多糖類のO-アシル誘導体又はその生理学的に許容される塩を有効成分とする前駆脂肪細胞分化抑制剤であって、
前記酸性ムコ多糖類は、次の構造式で示される化合物であることを特徴とする前駆脂肪細胞分化抑制剤。
- 前記酸性ムコ多糖類のO-アシル誘導体は、Oアセチル誘導体であることを特徴とする請求項1に記載の前駆脂肪細胞分化抑制剤。
- 前記酸性ムコ多糖類は、微生物により生産された酸性ムコ多糖類であることを特徴とする請求項1又は2に記載の前駆脂肪細胞分化抑制剤。
- 前記微生物は、シュードモナス属(Pseudomonas)に属する細菌であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の前駆脂肪細胞分化抑制剤。
- 次の構造式で示される酸性ムコ多糖類を、O-アシル化して前記酸性ムコ多糖類のO-アシル誘導体を得る工程を備えることを特徴とする前駆脂肪細胞分化抑制剤の製造方法。
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