JP4693014B2 - グリコサミノグリカン二糖の製造方法。 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、コンドロイチンモチーフ(基本骨格)を含む微生物とくに海洋微生物の生産するグリコサミノグリカンを酸処理して得られるグリコサミノグリカン二糖の製造法に関する。本発明により分離、採取されたクリコサミノグリカン二糖は、医薬品、化粧品、食品添加物などの工業製品に安価に広く利用することができる。
【0002】
【従来の技術】
グルクロン酸とN-アセチル-ガラクトサミンを構成糖とするコンドロイチンやコンドロイチン硫酸などのグリコサミノグリカンは、変形性関節症の治療などヒトにおける結合組織疾病の治療や予防のために用いられ近年とくに需要が著しく増大している。しかし、コンドロイチン及びコンドロイチン硫酸の製造はウシ軟骨、サメ軟骨など動物由来に限られ、品質と供給が不安定になっている。
【0003】
近年、アミノ糖の生体における重要性とその摂取による種々の有用な効果が確かめられている。アミノ糖は、生体中の様々な複合糖質中に構成単位として存在し、その代表的なものがコンドロイチン硫酸やヒアルロン酸などのグリコサミノグリカンを含むプロテオグリカンであり、結合組織や皮膚組織、軟骨、関節液などに多く分布している。これらは、細胞の機能や形態を維持し滑剤として変形性関節症の緩和作用や皮膚組織の保湿性、柔軟性を持たせる機能が報告されている(Fortschr Medicine, 98, 801〜806, 1980及びNew Food Industry, 41, 1〜4, 1999を参考)。
【0004】
一方、アミノ糖の生理機能は、主にプロテオグリカンの前駆物質としての働きにあると考えられ(Journal of Biological Chemistry, 249, 3091〜3097, 1974)、皮膚の弾力性などを指標とした美容食品としては分子量の大きいグリコサミノグリカンよりも構成最小単位であるアミノ糖がより有効なことが認められている(特開2000-50842)。
【0005】
又有機合成法により作成したグリコサミノグリカン二糖〜オリゴ糖にも結合組織再生などの生物学的活性のあることが分かっている(特開平5-262783)。
【0006】
コントドロイチンモチーフと呼ばれるN-アセチル-D-ガラクトサミンとD-グルクロン酸の結合したグリコサミノグリカン二糖及びその硫酸化物は、生体内において上記コンドロイチンなどのグリコサミノグリカン合成の前駆体となることが知られている(International Journal of Clinical Pharmacology Research, 13, 27〜34, 1993, 及び 特開平5-262783を参考)。
【0007】
一方、シユードモナス(Pseudomonas)に属する微生物により生産されるグルクロン酸とN-アセチル-ガラクトサミンを構成糖とするグリコサミノグリカンについて報告がなされている[マツダ(M.Matsuda)ら:Fisheries Science, 63, 983〜988(1997)]。そして本発明者らは、このグリコサミノグリカンを選択的に大量採取することを可能にする微生物の培養方法を提案した(特願2000-265079)。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
グリコサミノグリカンを結合組織疾患の治療に利用する技術開発を見ると、経口摂取では生体内の消化酵素による分解の弱さ、腸管などからの吸収効率の低さなどによる目的とする組織への取り込みの低さの問題があり、グリコサミノグリカン摂取の有効性については十分な証明は得られていない(Archives of Immuno Therapy, 25, 895〜903, 1977)。
【0009】
従って、本発明の目的は、グリコサミノグリカンを経口摂取した場合の問題点を解決し、その薬効を十分期待できるグリコサミノグリカン二糖を容易に大量にかつ安価に製造する方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく、鋭意検討した結果、海洋性シュードモナス(Pseudomonas)属の微生物の培養物中に生産、蓄積するグリコサミノグリカンから導かれるグリコサミノグリカン二糖がその目的に合致することを見出し、本発明に到達した。なお、本発明の方法は、海洋微生物多糖を原料として確認されたものであるが、海洋微生物多糖に限られず、コンドロイチンモチーフを含む他の微生物生産によるグリコサミノグリカンを用いるグリコサミノグリカン二糖の製造にも広く適用できるものである。本発明で使用するグリコサミノグリカンは、次の構造式(I)で示される。
【0011】
【化1】
【0012】
そして本発明のグリコサミノグリカン二糖は、構造式(I)で示されるグリコサミノグリカンを酸性条件下で加水分解して得ることができる。
【0013】
本発明で使用されるグリコサミノグリカン及びグリコサミノグリカン二糖の分子量、構成糖の種類、構成比、結合様式などは、各種のクロマトグラフィー、メチル化分析、核磁気共鳴分析などにより、特定が可能である。具体的には、以下のような特定方式が例示される。
【0014】
(1) 分子量の測定:たとえば、アサヒパックGFA-7M カラム(7.6×500mm、旭化成工業製)によるサイズ排除HPLC(高速液体クロマトグラフィー)により測定する。すなわち、0.1M塩化ナトリウムを移動相として、流速0.4mL/minで溶出されるグリコサミノグリカンのピークを示差屈折計で検出し、各種分子量サイズのプルランを基準として分子量を算出する。
(2) 構成糖及びその構成比:上記グリコサミノグリカンのウロン酸残基におけるカルボキシル基を還元したグリコサミノグリカンに対し、2Mトリフルオロ酢酸(TFA)及び4NHClを使用して、100℃, 12時間の条件の下に酸加水分解を行ってアルジトールアセテート誘導体としてガスクロマトグラフィー分析を行う。その他分析方法の詳細については、文献[マツダ(M.Matsuda)ら:Nippon Suisan Gakkaishi, 58, 1735〜1741(1992)]に記載の方法で行えばよい。
(3) 遊離ピルビン酸濃度の測定: 加水分解により遊離したピルビン酸の濃度は、有機酸分析用カラムShimpak SCR-101H(7.9×300mm, 島津製作所製)を用いてHPLCにより測定する。すなわち、5mM過塩素酸を移動相として、流速0.8mL/minで溶出されたピルビン酸を電気伝導度計で検出し、標準溶液を用いて作成した検量線から溶液中の遊離ピルビン酸濃度を算出する。
(4) 遊離ガラクトサミン濃度の測定:加水分解により遊離したガラクトサミンの濃度は、アミノ酸自動分析機により測定する。
(5) グリコサミノグリカン二糖の分析:加水分解により遊離したグリコサミノグリカン二糖とアミノ糖の同時分析は、加水分解物をN-アセチル化後水素化ホウ素ナトリウムで還元して糖分析用カラム、例えばWakopak WBT-130E(和光純薬製)を用いてHPLCにより分析する。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態について説明する。本発明で使用するグリコサミノグリカンはコンドロイチンモチーフを含み、酸性下で加水分解することにより単糖類と共にグリコサミノグリカン二糖を遊離する。
【0016】
本発明で使用するグリコサミノグリカンは、微生物として、たとえばシュードモナス・エスピーWAK-1(Pseudomonas sp. WAK-1)[上記マツダ(M.Matsuda)ら:1992]または、その変異株による微生物培養により、その培養物から採取される。
【0017】
本発明で用いるグリコサミノグリカンを製造するための微生物を培養する培地としては、本微生物の増殖が良好であり、かつグリコサミノグリカンの生産が良好な培地を使用することが好ましいが、海洋性シュードモナス(Pseudomonas)に属する微生物が生育でき、上記グリコサミノグリカンを生産する炭素源、窒素源、無機塩類及び微量栄養源を適量含有するものであれば特に制限されない。
【0018】
そして炭素源としては、グルコース、フラクトース、シュクロースなどが使用される。窒素源としては、硝酸塩、アンモニウム塩などの合成化合物、ポリペプトン、酵母エキス、肉エキス、アミノ酸などの天然有機物が使用される。無機塩としては、リン酸塩、カリウム塩、ナトリウム塩などが使用される。培地には必要に応じ、鉄塩、カルシウム塩、マンガン塩などを添加することができる。また、微量栄養源としては、酵母エキス、各種ビタミン類などが使用される。
【0019】
培地の状態は、固体でも液体でも構わないが、液体培地を使用する場合には、実質的に静置的な培養により選択的に目的とするグリコサミノグリカンが高純度、高収量で得ることができる。
【0020】
培養時のpHは、微生物が生育でき、上記グリコサミノグリカンを生産し得るpHであれば特に制限されないが、通常は、6.0〜8.0のpHが適切である。培養温度においても特に制限されないが、通常は20〜30℃が適切である。培養時間は、本発明で用いるグリコサミノグリカンの生産が最大に達する期間が選ばれるが、通常は2〜6日が適切である。
【0021】
上記の培養方法で得られた培養物から、本発明で用いるグリコサミノグリカンを採取する方法としては、従来公知の方法を採用することができる。たとえば、先ず、遠心分離や濾過などにより、培養物から菌体を除去した後、得られた培養液にメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトンなどの有機溶媒を加えて沈殿を生じさせる。次いで、沈殿物を水に溶解させた後、水に対して透析を行い、通風乾燥、熱風乾燥、噴霧乾燥、ドラム乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥などの方法により透析内液を乾燥してグリコサミノグリカンを回収する。
【0022】
上記の採取方法の他に、限外濾過により上記培養液から、多糖類以外の成分を除去し、得られた濃縮液を上述の乾燥工程に供する方法を採用しても良い。さらに、必要に応じ、通常の多糖類の精製方法にしたがって精製することにより、高純度精製品を得ることもできる。精製法としては、イオン交換、ゲル濾過などの各種のクロマトグラフィー、第四級アンモニウム塩による沈殿や塩析、有機溶媒による沈殿などが採用される。
【0023】
上述した微生物培養により、その培養液から採取される本発明で用いるグリコサミノグリカンは、上記構造式(I)で示される。
【0024】
次にこの公知のグリコサミノグリカンを酸性条件下で加熱処理する。例えば、このグリコサミノグリカンを水に溶解した後、塩酸を最終濃度が約0.5N〜1.0Nとなるように添加し、100℃で6〜12間加熱する。反応終了後、水酸化ナトリウム等を添加して中和する。そして、必要に応じて加水分解により遊離したピルビン酸や中和により生じた塩類等を限外濾過や透析、ゲル濾過等の処理で除去した後、アルコール沈殿法、ゲル濾過クロマト法などにより単糖類と分別採取し濃縮、乾燥してグリコサミノグリカン二糖を得ることができる。
【0025】
【参考例】
本発明に使用するグリコサミノグリカンの製造法については、上記マツダ[M.Matsuda:1992]らにより記載されているが、参考例により説明する。
ペプトン0.5%、酵母エキス0.1%の組成を有する海水から調製した培地を、121℃にて20分間オートクレーブで滅菌した。シュードモナス・エスピーWAK-1(Pseudomonas sp.WAK-1, 香川大学農学部生物資源食糧化学科松田研究室保存菌株No.WAK-1)の保存用斜面培養から1白金耳を試験管中の上記滅菌培地(10mL)に接種し、28℃にて72時間振盪培養を行った。ついで、この前培養液を500mL容の三角フラスコ中の3%ショ糖加上記滅菌培地(200mL)に接種し、28℃にて72時間実質的に静置的な培養を行った。培養後、培養終了液を遠心分離して菌体を除いた上澄液に2倍量のエタノールを加え、白色沈殿を得た。この沈殿物を採取し、水(200mL)中に溶解し、この溶液に、再度2倍量のエタノールを加えてグリコサミノグリカンを沈殿させた。得られた沈殿物を水に溶解し、水に対して透析後、凍結乾燥を行い、グリコサミノグリカン(約0.1g)を得た。本グリコサミノグリカンをさらに精製するため、このグリコサミノグリカン(108mg)を0.01Mリン酸塩緩衝液(pH7.0)100mLに溶解し0.01Mリン酸緩衝液(pH7.0)で平衡させたDEAE-セルロースカラム(2.3×22.5cm)に充填した。0.01Mリン酸緩衝液(pH7.0)中の0.2M塩化ナトリウムで溶出される画分を除いた後、0.4M塩化ナトリウムで溶出される画分を集め透析し、次いで凍結乾燥しグリコサミノグリカン(72mg)を得た。このようにして得られたグリコサミノグリカンについては、セルロースアセテート膜電気泳動法を用いて均一性を確認すると共に、糖組成分析、ピルビン酸含量分析、及び核磁気共鳴分析等により構造式(I)で示されるグリコサミノグリカンであることを確認した[上記マツダ(M.Matsuda)ら:(1997)]。
【0026】
【実施例】
次に実施例で本発明を説明するが、本発明はこれに限られたものではない。
参考例で得られた構造式(I)で示されるグリコサミノグリカンを水に溶解して1.0%(重量%)溶液とし、0.5N塩酸濃度、加熱温度を100℃で12時間加熱を行い、加水分解終了後、反応液を直ちに冷却して水酸化ナトリウムで中和し、ゲル濾過Bio-GelP2カラム(2.5×100cm)を用いてグリコサミノグリカン二糖を無機塩類及び単糖類と分別、採取した。Bio-GelP2カラムクロマトグラフィーは、溶離液に緩衝液(水:ピリジン:酢酸=500:5:2)を用い、4.0mL/30minの流速で展開し、各4.0mLを分画した。各フラクションのグリコサミノグリカン二糖及びガラクトサミンの検出には各フラクションから一定量を採取してN-アセチル化後還元しWakopak WBT-130Eカラム(7.8×300mm)にアプライした。溶離液に水を用い60℃で0.5mL/minの流速で展開し、示差屈折計で測定した。グリコサミノグリカン二糖のみが含まれるフラクションを集めて凍結乾燥した。図1にグリコサミノグリカンから遊離したガラクトサミン(12.98分)及びグリコサミノグリカン二糖(11.04分)の分析図を示す。
【0027】
【図1】
【0028】
【発明の効果】
海洋微生物を培養することにより培養物として得られるグリコサミノグリカンを酸性下で加水分解することにより、結合組織疾患の予防と治療薬及び化粧品の原料として効果を有することが知られているグリコサミノグリカン二糖を大量に安定して、かつ安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 HPLCによるグリコサミノグリカン二糖と単糖類の分析
Claims (1)
- グルクロン酸とガラクトサミンからなるグリコサミノグリカン二糖(beta-D-GlcUA1-3-D-GalN)の製造方法であって、シュードモナス・エスピーWAK-1(Pseudomonas sp. WAK-1)の培養物から採取されるグリコサミノグリカンを水に溶解した後、塩酸を最終濃度が約0.5N〜1.0Nとなるように添加し、100℃で6〜12間加熱して加水分解することにより単糖類と共に該グリコサミノグリカン二糖を遊離し、その後、水酸化ナトリウムを添加して中和し、さらに該グリコサミノグリカン二糖を単離することを特徴とする製造方法。
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