車両(自動車)用変速装置としてトロイダル型無段変速機を使用する事が、例えば多くの刊行物に記載され、且つ、一部で実施されて周知である。又、変速比の変動幅を大きくすべく、トロイダル型無段変速機と差動ユニット(例えば歯車式の差動ユニットである遊星歯車式変速機)とを組み合わせた無段変速装置も、例えば特許文献1〜4に記載される等により従来から広く知られている。このうちの特許文献1〜2には、トロイダル型無段変速機のみで動力を伝達するモード(低速モード)と、差動ユニットである遊星歯車式変速機により主動力を伝達し、上記トロイダル型無段変速機により変速比の調節を行う、所謂パワースプリット状態を実現するモード(高速モード)とを備えた無段変速装置が記載されている。又、特許文献3〜4には、入力軸を一方向に回転させたまま、出力軸の回転状態を、停止状態を挟んで正転、逆転に切り換えられる、所謂ギヤードニュートラル状態を実現できるモード(低速モード)を備えた無段変速装置が記載されている。
図8〜9は、上記特許文献3〜4に記載された、ギヤードニュートラル状態を実現できるモードを備えた無段変速装置を示している。このうちの図8は無段変速装置のブロック図を、図9は、この無段変速装置を制御する油圧回路を、それぞれ示している。エンジン1の出力は、ダンパ2を介して、入力軸3に入力される。この入力軸3に伝達された動力は、直接又はトロイダル型無段変速機4を介して、差動ユニットである遊星歯車式変速機5に伝達される。そして、この遊星歯車式変速機5の構成部材の差動成分が、クラッチ装置6、即ち、図9の低速用、高速用各クラッチ7、8を介して、出力軸9に取り出される。又、上記トロイダル型無段変速機4は、それぞれが第一、第二のディスクに相当する入力側、出力側各ディスク10、11と、複数個のパワーローラ12と、それぞれが支持部材に相当する複数個のトラニオン(図示省略)と、アクチュエータ13(図9)と、押圧装置14と、変速比制御ユニット15とを備える。
このうちの入力側、出力側各ディスク10、11は、互いに同心に、且つ相対回転自在に配置されている。又、上記各パワーローラ12は、互いに対向する上記入力側、出力側各ディスク10、11の内側面同士の間に挟持されて、これら入力側、出力側各ディスク10、11同士の間で動力(力、トルク)を伝達する。又、上記各トラニオンは、上記各パワーローラ12を回転自在に支持している。又、上記アクチュエータ13は、油圧式のもので、上記各パワーローラ12を支持した上記各トラニオンを、それぞれの両端部に設けた枢軸の軸方向に変位させて、上記入力側ディスク10と出力側ディスク11との間の変速比を変える。又、上記押圧装置14は、油圧の導入に伴ってこの油圧に比例した押圧力を発生させる油圧式のものであり、上記入力側ディスク10と上記出力側ディスク11とを互いに近付く方向に押圧する。又、上記変速比制御ユニット15は、上記入力側ディスク10と出力側ディスク11との間の変速比を所望値にする為に、上記アクチュエータ13の変位方向及び変位量を制御する。
図示の例の場合、上記変速比制御ユニット15は、制御器(ECU)16と、この制御器16からの制御信号に基づいて切り換えられる、ステッピングモータ17と、ライン圧制御用電磁開閉弁18と、電磁弁19と、シフト用電磁弁20と、これら各部材17〜20により作動状態を切り換えられる制御弁装置21とにより構成している。尚、この制御弁装置21は、変速比制御弁22と、差圧シリンダ23と、補正用制御弁24a、24bと、高速クラッチ用、低速クラッチ用各切換弁25、26(図9)とを合わせたものである。このうちの変速比制御弁22は、上記アクチュエータ13への油圧の給排を制御するものである。又、上記差圧シリンダ23は、前記トロイダル型無段変速機4を通過する力(通過トルク)に応じて、このトロイダル型無段変速機4の変速比を補正すべく、上記変速比制御弁22の切換状態を調節する為のものである。又、上記補正用制御弁24a、24bは、上記差圧シリンダ23への圧油の給排を制御するものである。更に、上記高速クラッチ用、低速クラッチ用各切換弁25、26は、前記低速用、高速用各クラッチ7、8への圧油の導入状態を切り換えるものである。
又、前記ダンパ2部分から取り出した動力により駆動されるオイルポンプ27(図9の27a、27b)から吐出した圧油は、上記制御弁装置21や上記押圧装置14等に送り込まれる。即ち、油溜28(図9)から吸引されて上記オイルポンプ27a、27bにより吐出された圧油は、押圧力調整弁29、及び、低圧側調整弁30(図9)により、所定圧に調整自在としている。これら両調整弁29、30のうち、上記押圧装置14並びに手動油圧切換弁31側に送る油圧を調整する為の上記押圧力調整弁29は、例えば特許文献5等にも詳しく記載されている様に、リリーフ弁としての機能を備えたもので、第一〜第三のパイロット部32〜34を備える。このうちの第一、第二のパイロット部32、33は、前記トロイダル型無段変速機4を通過する力(通過トルク)の大きさに応じて、この押圧力調整弁29の開弁圧を調節する為のものである。この為に、前記パワーローラ12を支持する支持部材(トラニオン)を枢軸の軸方向に変位させる為のアクチュエータ13にピストン35を挟んで設けた、1対の油圧室36a、36b同士の間に存在する油圧の差(差圧)を、差圧取り出し弁37を介して、上記第一、第二のパイロット部32、33に導入している。
これに対して、第三のパイロット部34は、上記トロイダル型無段変速機4の変速比、このトロイダル型無段変速機4の内部に存在する潤滑油(トラクションオイル)の温度、駆動源であるエンジン1の回転速度等、上記通過トルク(に対応する差圧)以外の運転条件に応じて、上記押圧力調整弁29の開弁圧を調節する為のものである。即ち、この押圧力調整弁29の開弁圧を、上記通過トルク(に対応する差圧)に応じて調節される(第一、第二のパイロット部32、33により調節される)値から、この通過トルク(に対応する差圧)以外の運転条件に応じて、上記押圧装置14に発生させるべき最適な押圧力に対応する目標値に調節(減圧)する。この為に、前記制御器16からの指令により制御されるライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉(デューティー比制御)に基づき、上記第三のパイロット部34に所定圧の圧油を導入している。そして、上記第一〜第三のパイロット部32〜34に導入する油圧を適切に調節する事により{第一、第二のパイロット部32、33に通過トルク(差圧)の大きさに応じた油圧を導入すると共に、第三のパイロット部34に制御器16の指令に基づいて調節された油圧を導入する事により}、上記押圧力調整弁29の開弁圧、延いては、上記押圧装置14が発生する押圧力を、上記トロイダル型無段変速機4の運転状況に応じて、適正に規制している。
例えば、図10は、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度(単位時間当たりの開いている時間の割合)と減圧量(押圧力調整弁29の開弁圧の低下量)との関係の1例を示している。上記制御器16は、この様な関係を基に、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉を調節(デューティー比制御)し、上記押圧力調整弁29の開弁圧、延いては上記押圧装置14に導入する油圧を上記目標値に調節する事により、この押圧装置14が発生する押圧力を適正に規制している。
又、上記押圧力調整弁29により調整された圧油は、前記手動油圧切換弁31、並びに、減圧弁38、前記高速クラッチ用切換弁25又は低速クラッチ用切換弁26を介して、前記低速用クラッチ7又は高速用クラッチ8の油圧室52a、52b内に送り込み自在としている。又、これら低速用、高速用各クラッチ7、8のうちの低速用クラッチ7は、減速比を大きくする{変速比無限大(ギヤードニュートラル状態)を含む}低速モードを実現する際に接続されると共に、減速比を小さくする高速モードを実現する際に接続を断たれる。これに対して、上記高速用クラッチ8は、上記低速モードを実現する際に接続を断たれると共に高速モードを実現する際に接続される。又、これら低速用、高速用各クラッチ7、8への圧油の給排状態は、前記シフト用電磁弁20の切り換えに応じて切り換えられる。
図11は、トロイダル型無段変速機4の変速比(増速比)と無段変速装置全体としての速度比(増速比)との関係の1例を示している。例えば、上記低速用クラッチ7が接続され、上記高速用クラッチ8の接続が断たれた低速モードでは、実線αで示す様に、トロイダル型無段変速機4の変速比を、GN状態を実現できる値(GN値)から減速する程、無段変速装置全体としての速度比を停止状態(速度比0の状態)から前進方向(+:正転方向)に増速させられる。又、同じくGN値から増速する程、同じく停止状態から後退方向(−:逆転方向)に増速させられる。一方、上記高速用クラッチ8が接続され、上記低速用クラッチ7の接続が断たれた高速モードでは、実線βで示す様に、上記トロイダル型無段変速機4の変速比を増速する程、上記無段変速装置全体としての速度比を(前進方向に)増速させられる。
尚、一般的には、「変速比」は減速比であり、「速度比」は増速比であり、「変速比」の逆数が「速度比」となる(「速度比」=1/「変速比」)。但し、本明細書並びに特許請求の範囲では、トロイダル型無段変速機に関する入力側と出力側との間の比に就いて「変速比」の言葉を用い、無段変速装置全体に関する入力側と出力側との間の比に就いて「速度比」の言葉を用いている。この理由は、トロイダル型無段変速機の比なのか、無段変速装置全体としての比なのかを明確にし易くする為である。従って、本明細書並びに特許請求の範囲では、「変速比」が減速比に、「速度比」が増速比に、必ずしも対応するものではない。
上述した様な無段変速装置を組み込んだ車両では、アクセルペダルの操作(アクセル開度)や車両の走行速度(車速)から得られる、その時点での車両の走行状態(運転状況)に基づいて、制御器16により、上記無段変速装置の最適な速度比(目標速度比)を求める。そして、この目標速度比を実現すべく、上記制御器16の制御信号に基づいてステッピングモータ17を駆動し、変速比制御弁22を切り換える事により、トロイダル型無段変速機4の変速比を、上記目標速度比に対応する目標変速比に調節する。又、これと共に、必要に応じて(無段変速装置の目標速度比に応じて)シフト用電磁弁20を切り換える事により、上記低速用、高速用各クラッチ7、8の断接状態を切り換え、必要な走行モード(低速モード或いは高速モード)を選択する。これらにより、上記無段変速装置の速度比を、その時点での車両の走行状態に応じた最適な値(目標速度比)に調節する。
ところで、上述の様な、トロイダル型無段変速機4と遊星歯車式変速機5とをクラッチ装置6(7、8)を介して組み合わせて成り、低速モード(第一のモード)と高速モード(第二のモード)とを有する無段変速装置の場合、上述したギヤードニュートラル状態を実現できるものにしても、前記特許文献1〜2に記載された様なパワースプリット状態を実現できるものにしても、低速モードと高速モードとの間のモード切換時に、このモード切換を滑らかに行う事が、乗り心地性能(乗り心地の良さ)や耐久性を確保する面等から重要になる。この様なモード切換を滑らかに行う技術として、例えば特許文献6には、このモード切換時に、それまで接続されていなかったクラッチと、それまで接続されていたクラッチとを、同時に接続させる技術が記載されている。この様な技術を採用すれば、例えば加速中のモード切換時に、低速用、高速用両クラッチの接続が同時に断たれる事による、エンジンの回転速度の急上昇(吹け上がり)を防止できる。又、この急上昇後の高速用クラッチの接続に伴う変速ショック(トルク抜け感、押し出し感)も防止でき、運転者を初めとする乗員に違和感を与える事を防止できる。又、モード切換時に構成各部に加わる衝撃を緩和して、耐久性の確保も図れる。
又、前述の図8〜9に示した無段変速装置の場合は、押圧装置14の発生する押圧力を、トロイダル型無段変速機4を通過するトルク(通過トルク)に応じて調節する為に、アクチュエータ13を構成する1対の油圧室36a、36b同士の間の油圧の差(差圧)に対応する油圧を、(差圧取り出し弁37を介して)押圧力調整弁29(の第一、第二のパイロット室32、33)に導入している。一方、この様な押圧力調整弁29に差圧を直接導入する構造に代えて、アクチュエータ13を構成する1対の油圧室36a、36bにそれぞれ設けた油圧センサ39a、39b(図8の39)により差圧を検出し、この差圧(乃至はこの差圧から求められる通過トルク)に基づいて、上記押圧装置14の発生する押圧力を調節する事も考えられる。この様な構成を採用した場合には、後述する実施の形態の1例を記載した図2に示す様に、アクチュエータ13を構成する各油圧室36a、36bと押圧力調整弁29とを連通する為の油圧回路{差圧取り出し弁37(図9)や油圧配管等}を省略できる。
上述の様な構成を採用した場合、制御器16により、上記各油圧センサ39a、39bにより検出された差圧(通過トルク)と、上記トロイダル型無段変速機4の変速比と、必要に応じてこのトロイダル型無段変速機4内を循環する油温等の他の状態量とに応じて、上記押圧装置14の油圧室51に導入すべき油圧の目標値を設定(算出)する。この場合に、上記変速比は、例えば入力側、出力側各ディスク10、11の回転速度を検出する為の入力側、出力側各回転速度センサ40、41により(両ディスク10、11の回転速度の比として)検出できる。又、上記油温は、例えば上記トロイダル型無段変速機4のケーシング内に設けた油温センサ42により検出できる。又、上記目標値は、例えば上記差圧(通過トルク)や変速比、油温等の値と、これらの値に対応する上記目標値との相関関係として、予め実験や計算により求めておき、上記制御器16のメモリにマップ(MAP)や計算式として記憶させておく。この様な制御器16は、これらマップや計算式を用いて、その時点での上記差圧(通過トルク)、変速比、油温等に対応する、上記目標値を設定する(算出する、求める)と共に、この目標値に調節すべく、ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉を調節(デューティー比制御)する。そして、この開閉調節に基づき、上記押圧力調整弁29の開弁圧、延いては上記押圧装置14の油圧室51に導入する油圧を上記目標値に調節し、この押圧装置14が発生する押圧力を適正に規制する。
ところで、前述の図8〜9に示した構造の場合、押圧力調整弁29により調整されたプライマリーライン50の圧油を、押圧装置14の他、手動油圧切換弁31、並びに、減圧弁38、低速クラッチ用、高速クラッチ用各切換弁25、26を介して、低速用、高速用各クラッチ7、8にも導入している。即ち、上記押圧力調整弁29により調整されたプライマリーライン50の圧油を、上記減圧弁38により所定圧(例えば図9の油圧回路では1.4[MPa])に減圧した状態で、上記低速用、高速用各クラッチ7、8に導入する事により、これら低速用、高速用各クラッチ7、8の接続を行っている。
図12は、無段変速装置全体としての速度比と、最大トルク時に於ける、押圧装置14の油圧室51に導入すべき油圧に対応するローディング圧、並びに、低速用、高速用各クラッチ7、8の油圧室52a、52bに導入すべき油圧に対応する必要クラッチ圧との関係の1例を示している。尚、上記ローディング圧は、上記差圧(通過トルク)に応じて調節されるプライマリーライン50の油圧に対応する。又、上記必要クラッチ圧は、上記低速用、高速用各クラッチ7、8に発生させるべき締結圧に見合う油圧(低速用、高速用各クラッチ7、8で滑りを生じる事なく動力の伝達を行う為に必要な油圧)に対応する。この様な必要クラッチ圧は、例えば非特許文献1に記載されている様に、下記の式(1)から求める事ができる。
この式(1)中、Tc はクラッチ装置の伝達トルク[Nm]に、nはクラッチ摩擦面の数に、μは摩擦係数に、Pc は作動油圧[Pa]に、Dpoはクラッチ装置を構成するピストンの外径[m]に、Dpiは同じくピストンの内径[m]に、Fr はピストンのリターンスプリングのセット荷重[N]に、Do はクラッチ摩擦面の外径[m]に、Di はクラッチ摩擦面の内径[m]に、それぞれ対応する。この様な式(1)の伝達トルクTc [Nm]と作動油圧Pc [Pa]との関係から、最大トルク時の伝達トルク[Nm]に対応する作動油圧[Pa]として、上記必要クラッチ圧を求める事ができる。
上述の様な図12に示す関係を有する構造の場合、最大トルク時の必要クラッチ圧の最大値が1.4[MPa]程度(図12の点イ)になる。この様な構造の場合、減圧弁38の設定を1.4[MPa]にすれば、上記ローディング圧に調節されるプライマリーライン50の油圧が上記最大値(1.4[MPa])を超える場合でも、上記低速用、高速用各クラッチ7、8に、この最大値よりも大きい油圧が導入される事を防止しつつ、クラッチ締結部(動力伝達部)で滑り(クラッチ板の滑り)を生じる事を防止できる。但し、この様な構造の場合、逆に言えば、上記低速用、高速用各クラッチ7、8に導入される油圧が、常に(その時点での運転状況に拘わらず)最大トルク時(エンジン1の最大出力時)の必要クラッチ圧の最大値(1.4[MPa])に調節(調圧)される。
即ち、例えばエンジン1の出力を小さくして(低トルクで)高速運転(高速走行)している状態でも、上記低速用、高速用各クラッチ7、8には、最大トルク時の高い油圧(最大必要クラッチ圧)が導入される。この様な構造の場合、その時点での運転状態によっては、上記低速用、高速用各クラッチ7、8に必要以上に高い油圧が導入され、その分、これら両クラッチ7、8を構成する各部材(例えば、低速用、高速用各クラッチ7、8を構成する回転軸や転がり軸受、或は、これら両クラッチ7、8に圧油を導入する為の油路、油圧の導入状態を切り換える制御弁等)に必要以上の負荷が加わる。そして、この様な負荷に耐え得る様にすべく、上記低速用、高速用各クラッチ7、8の構造が大型化したり、上記必要以上に高い油圧を導入する分、ポンプロスの増大により、無段変速装置全体としての伝達効率が低下する可能性がある。
尚、クラッチ装置に導入する油圧を制御する技術として、例えば特許文献7、8に記載された発明が知られている。このうちの特許文献7には、ギヤードニュートラル状態を実現できる無段変速装置に関し、車両が発進した事を検出してから所定時間、動力循環用クラッチ(ギヤードニュートラル状態を含むモードを実現する為のクラッチ)に導入する油圧を、エンジンからトロイダル型無段変速機に入力されるトルクに応じて調節(徐々に増大)する技術が記載されている。この様な技術を採用すれば、車両の発進時に、上記エンジンの出力トルクが小さく、しかも、上記トロイダル型無段変速機の変速比がGN値から外れている様な場合でも、上記動力循環クラッチに導入する油圧を小さくする事で、この動力循環クラッチで滑りを生じさせ(半クラッチ状態とし)、上記エンジンが停止(エンスト)する事を防止できる。又、これと共に、上記エンジンの出力トルクの増大に伴って、上記油圧を徐々に増大する事で、車両を円滑に発進させられる。
又、上記特許文献8には、トロイダル型無段変速機の発進クラッチ制御装置に関し、発進クラッチの締結時に、この発進クラッチの半クラッチ状態を、パワーローラの傾転角を制御するアクチュエータの差圧とエンジントルクとに応じて制御する(棚圧の大きさや半クラッチ状態の時間を調節する)技術が記載されている。この様な技術を採用すれば、車両の発進時に、上記発進クラッチで過度の滑りを生じる事を防止できると共に、クラッチが完全に締結される際のショック(衝撃)を低減できる(滑らかなクラッチの接続を行える)。但し、この様な特許文献8に記載された技術にしても、上記特許文献7に記載された技術にしても、何れも車両の発進時の半クラッチ状態を制御する(クラッチの滑りを制御する)ものであり、発進時以外の状態、即ち、例えば低速モードや高速モードで走行中に、クラッチ装置に導入する油圧(クラッチ装置の締結圧)を適切に規制するものではない。この為、前述した様な、クラッチ装置に導入される油圧が必要以上に高くなる(締結圧が必要以上に大きくなる)事による不都合(装置の大型化、伝達効率の低減等)を防止できるものではない。
特開平10−196759号公報
特開平11−108147号公報
特開2004−225888号公報
特開2004−211836号公報
特開2004−76940号公報
特開平9−210191号公報
特開2000−249226号公報
特開平6−265001号公報
守本佳郎著、「無段変速機CVT入門」、株式会社グランプリ出版、2004年10月、p93〜p95
本発明の無段変速装置は、上述の様な事情に鑑みて、クラッチ装置(例えば、発進クラッチ、低速用クラッチ、高速用クラッチ等)の締結圧を運転状況に応じて適切に規制できる構造を実現すべく発明したものである。
本発明の無段変速装置は、トロイダル型無段変速機とクラッチ装置(例えば、発進クラッチ、低速用クラッチ、高速用クラッチ等)とを備える。
このうちのトロイダル型無段変速機は、第一、第二のディスク(例えば入力側、出力側各ディスク)と、複数のパワーローラと、複数個の支持部材(例えばトラニオン)と、アクチュエータとを備える。
このうちの第一、第二のディスクは、互いに同心に、且つ相対回転自在に配置されている。
又、上記各パワーローラは、互いに対向する上記第一、第二のディスクの内側面同士の間に挟持されて、これら第一、第二のディスク同士の間で動力(力、トルク)を伝達する。
又、上記各支持部材は、上記各パワーローラを回転自在に支持する。
又、上記アクチュエータは、上記各支持部材を、それぞれの両端部に設けた枢軸の軸方向に変位させて、上記第一のディスクと上記第二のディスクとの間の変速比を変える。
又、上記クラッチ装置は、油圧の導入に基づいてその接続を行う油圧式のもの(油圧の導入に伴ってこの油圧に比例した締結圧を発生させるもの)である。
特に本発明の無段変速装置に於いては、上記クラッチ装置に導入する油圧を、その時点での運転状況に応じて調整する為のクラッチ油圧調整手段を備える。
又、このクラッチ油圧調整手段は、上記クラッチ装置に導入すべき油圧に対応するクラッチ目標値を、少なくとも上記トロイダル型無段変速機を通過する力(トルク、動力)に基づいて求める(算出する、出力する)第一の機能と、少なくともこのトロイダル型無段変速機と接続した駆動源(エンジン、電動モータ等)から出力される力(トルク、動力)に基づいて求める(算出する、出力する)第二の機能とを備える。
そして、上記第一の機能に基づいて求められる(算出される、出力される)第一のクラッチ目標値と、上記第二の機能に基づいて求められる(算出される、出力される)第二のクラッチ目標値とを比較し、このうちの大きい値を実際のクラッチ目標値(実目標値)として設定し、このクラッチ目標値(実目標値)に油圧を調節する。
要するに、上記トロイダル型無段変速機を通過する力(通過トルク)に基づいて設定される第一のクラッチ目標値と、上記駆動源(エンジン、電動モータ等)から出力される力(出力トルク、エンジントルク)に基づいて設定される第二のクラッチ目標値とを比較し、大きい値のクラッチ目標値を実際のクラッチ目標値(実目標値)に設定し、このクラッチ目標値(実目標値)に油圧を調節する。尚、「大きい値の目標値に設定する」とは、第一のクラッチ目標値よりも第二のクラッチ目標値が大きい場合は、この第二のクラッチ目標値を実際のクラッチ目標値(実目標値)に設定し、この第二のクラッチ目標値よりも上記第一のクラッチ目標値が大きい場合は、この第一のクラッチ目標値を実際のクラッチ目標値に設定する事を意味する。又、これら第一のクラッチ目標値と第二のクラッチ目標値とが同じ場合は、何れでも良い(実目標値を第一のクラッチ目標値に設定しても良いし、第二のクラッチ目標値に設定しても良い)。
尚、上記「トロイダル型無段変速機を通過する力(通過トルク)」は、例えば、前述の[背景技術]の欄でも説明した様に、アクチュエータ13を構成する1対の油圧室36a、36b(図9参照)同士の間の油圧の差(差圧)に基づいて求められる(算出される、推定される)力(動力、トルク)に対応するものである。又、上記「駆動源(エンジン、電動モータ等)から出力される力(出力トルク、エンジントルク)」は、例えば、この駆動源(エンジン、電動モータ等)の出力を調節する為のアクセル装置の操作量(アクセル操作量、アクセル開度、アクセルペダルの踏み込み量)に基づいて求められる(算出される、推定される)もの、即ち、この駆動源から出力される(乃至は出力されると予測される)力(動力、トルク)に対応するものである。
そこで、請求項2に記載した様に、上記アクチュエータを油圧式のものとし、上記「通過トルク」を、上記アクチュエータに設けた1対の油圧室同士の間の油圧の差(差圧)に基づいて求める(算出する、推定する)。この場合に、この差圧と上記第一のクラッチ目標値とを直接対応させる事もできる。又、これと共に、上記「出力トルク(エンジントルク)」を、この駆動源の出力を調節する為のアクセル装置の操作量に基づいて求める(算出する、推定する)。この場合に、この出力トルクと上記第二のクラッチ目標値とを直接対応させる事もできる。尚、この「出力トルク(エンジントルク)」は、上記操作量(アクセル操作量、アクセル開度、アクセルペダルの踏み込み量)だけでなく、この操作量と上記駆動源(エンジン、電動モータ等)の駆動軸の回転速度(エンジン回転速度)とに基づいて求める(算出する、推定する、第二のクラッチ目標値と対応させる)事もできる。
何れにしても、上記クラッチ目標値の設定(算出)は、少なくとも「通過トルク」又は「出力トルク(エンジントルク)」を用いる。尚、この「少なくとも」とは、上記クラッチ目標値の設定(算出)に当たり、上記「通過トルク」、又は、上記「出力トルク(エンジントルク)」だけでなく、これら「通過トルク」又は「出力トルク(エンジントルク)」の他、その時点での、トロイダル型無段変速機の変速比(第一のディスクと第二のディスクとの間の変速比)、無段変速装置の速度比、上記トロイダル型無段変速機内を循環する潤滑油(トラクションオイル)の油温、エンジン内を循環するエンジンオイル、冷却水の温度(油温)、大気圧、湿度等の他の状態量を、上記「通過トルク」又は「出力トルク(エンジントルク)」と共に用いる事を排除しない事を意味する。例えば、上記クラッチ目標値の設定を、上記「通過トルク」又は「出力トルク(エンジントルク)」と上記変速比(速度比)と(必要に応じて油温等と)に基づいて行う事が、より好ましい。
又、上述の様な本発明の無段変速装置を実施する場合に好ましくは、請求項3に記載した発明の様に、トロイダル型無段変速機と差動ユニット(例えば歯車式の差動ユニットである遊星歯車式変速機)とをクラッチ装置を介して組み合わせて成るものとする。
又、このうちのクラッチ装置は、第一のクラッチ(例えば低速用クラッチ)と、第二のクラッチ(例えば高速用クラッチ)とを備えたものとする。
そして、このうちの第一のクラッチ(低速用クラッチ)は、減速比を大きくする第一のモード(例えば低速モード)を実現する際に接続されて、同じく小さくする第二のモード(例えば高速モード)を実現する際に接続を断たれるものとする。
又、上記第二のクラッチ(高速用クラッチ)は、上記第二のモード(高速モード)を実現する際に接続されて、上記第一のモード(低速モード)を実現する際に接続を断たれるものとする。
そして、上記第一のモード(低速モード)又は上記第二のモード(高速モード)で運転中に、上記第一の機能に基づいて求められる(算出される)、現在の走行モードに対応する第一のクラッチ目標値と、上記第二の機能に基づいて求められる(算出される)、現在の走行モードに対応する第二のクラッチ目標値とを比較し、このうちの大きい値を実際のクラッチ目標値(実目標値)として設定し、このクラッチ目標値(実目標値)に油圧を調節する。
又、この様な請求項3に記載した無段変速装置の発明を実施する場合に好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、上記クラッチ装置を、上記第一のモード(低速モード)と上記第二のモード(高速モード)との間のモード切換時に、上記第一のクラッチ(低速用クラッチ)と上記第二のクラッチ(高速用クラッチ)とのうちの一方のクラッチでそれまで接続されていなかったクラッチを接続してから、同じく他方のクラッチでそれまで接続されていたクラッチの接続を断つ事により、これら両クラッチが同時に接続される時間を設定したものとする。
そして、上記第一のモード(低速モード)と上記第二のモード(高速モード)との間のモード切換時(モード切換中)、例えば、モード切換を行うべく、それまで接続されていなかった一方のクラッチの接続を開始してから、それまで接続されていた他方のクラッチの接続を断つまで(断ち始めるまで)の間(少なくとも第一、第二両クラッチが同時に接続されている間)、上記第二の機能に基づいて、現在の走行モードに対応する目標値と、次に実現すべき走行モードに対応する目標値とを、それぞれ求め(算出し)、これら両目標値のうちの大きい値を実際のクラッチ目標値(実目標値)として設定し、このクラッチ目標値(実目標値)に油圧(少なくとも一方のクラッチに導入する油圧)を調節する。
尚、その時点での運転状況等に応じて、上記モード切換を開始する前から上記第二の機能に基づき目標値を設定し、この目標値に油圧を調節している場合には、モード切換時(モード切換中)も、そのままこの第二の機能に基づき目標値を設定し、この目標値に油圧(少なくとも一方のクラッチに導入する油圧)を調節する。
上述の様に構成する本発明の無段変速装置によれば、クラッチ装置(例えば、発進クラッチ、低速用クラッチ、高速用クラッチ等)の締結圧を運転状況に応じて適切に規制できる。
即ち、クラッチ装置に導入する油圧を調整する為のクラッチ油圧調整手段は、このクラッチ装置に導入すべき油圧に対応するクラッチ目標値を、その時点での、トロイダル型無段変速機を通過する力(通過トルク、通過トルクに対応する差圧)と、このトロイダル型無段変速機と接続した駆動源(エンジン、電動モータ等)から出力される力(出力トルク、出力トルクに対応するアクセル操作量)とに基づいて、それぞれ求める。そして、このうちの大きい目標値を実際のクラッチ目標値(実目標値)として設定し、上記クラッチ装置に導入する油圧をこの実目標値に調節する。
この様に「通過トルク(差圧)」と「出力トルク(アクセル操作量)」との両方の状態量に基づいてクラッチ目標値を設定する為、常に上記クラッチ装置の締結圧を、その時点の運転状況に応じた適切なものにできる。例えば、上記「通過トルク(差圧)」乃至は「出力トルク(アクセル操作量)」が大きい状態では、上記クラッチ装置の締結圧を大きくして、クラッチ締結部(動力伝達部)で滑りを生じる事を防止できる。一方、上記「通過トルク(差圧)」乃至は「出力トルク(アクセル操作量)」が小さい状態では、上記クラッチ装置の締結圧を(滑りが生じない範囲で)小さくして、この締結圧が必要以上に大きくなる事を防止できる。この為、運転状況に拘わらず(何れの運転状況でも、「通過トルク(差圧)」乃至は「出力トルク(アクセル操作量)」が大きくなっても小さくなっても)、上記クラッチ締結部(動力伝達部)で滑りを生じる事を防止できる。又、これと共に、クラッチ装置を小型に構成できる他、伝達効率の向上も図れる。
しかも、上記クラッチ目標値の設定(算出)を、「通過トルク(差圧)」と「出力トルク(アクセル操作量)」との何れか一方の値のみに基づいて行わない(両方の値で行う)為、上記クラッチ締結部(動力伝達部)で滑りが生じる事を確実に防止しつつ、上記目標値の設定をより運転状況に即したものにできる。即ち、急加速時やエンジンブレーキに基づく急減速時等の動力の急変動時等、現在の運転状況が「通過トルク(差圧)」と「出力トルク(アクセル操作量)」とのうちの何れかの値に、その変化として迅速に現れにくい様な状況でも、このうちの変化が迅速に現れる値(大きい値のクラッチ目標値)に基づいて締結圧を調節できる。この為、この締結圧をより運転状況に即したものにできると共に、クラッチ締結部(動力伝達部)で滑りを生じる事を確実に防止できる。
又、請求項4に記載した発明の場合には、モード切換中に、クラッチ目標値を、第一の機能、即ち、「通過トルク(差圧)」に基づいて求める(算出する)事はしない{モード切換中は、第二の機能、即ち、「出力トルク(アクセル操作量)」に基づいて求める(算出する)}。この為、モード切換中でも(第一、第二両クラッチが同時に接続された状態でも)、第一、第二両クラッチの締結圧を、その時点での運転状況に即した適切な値に調節できる。即ち、上記第一、第二両クラッチが同時に接続された状態で、トロイダル型無段変速機の通過トルク(差圧)は、その時点での駆動源(エンジン、電動モータ等)から出力される力(動力、トルク)に対応しなくなる(無関係になる)。例えば、上記トロイダル型無段変速機の変速比がモード切換ポイントに完全に一致した状態で、上記第一、第二両クラッチが同時に接続された場合には、上記通過トルク(差圧)は0になる。
この様な場合に、そのままこの通過トルク(差圧)のみ(第一の機能のみ)に基づいてクラッチ目標値を調節すると、モード切換中乃至はその完了直後(それまで接続されていた他方のクラッチの接続が断たれた直後)の締結圧(乃至はクラッチ目標値)が過度に小さくなり(その時点で必要な値よりも小さくなり)、クラッチ締結部(動力伝達部)で滑りを生じる可能性がある。これに対して、請求項4に記載した発明の場合には、上述した様にモード切換中に、クラッチ目標値を第二の機能、即ち、「出力トルク(アクセル操作量)」に基づいて求める(算出する)為、上記第一、第二両クラッチが同時に接続された状態でも、その時点での駆動源(エンジン、電動モータ等)から出力される力(動力、トルク)に対応した適切な締結圧を維持できる。しかも、モード切換時に、トロイダル型無段変速機を通過するトルク(通過トルク)の方向が反転する事(差圧が0になる事)に伴う、上記締結圧の低下(不足)も防止できる。この為、この締結圧の不必要な変動を低減する事もでき(締結圧が大きく変動しなくなり)、この締結圧の変動に伴うトルクシフトの低減も図れる。
更に、上記請求項4に記載した発明の場合には、モード切換中に、第二の機能に基づいて、現在の走行モード、並びに、次に実現すべき走行モードに対応するクラッチ目標値をそれぞれ求める。そして、このうちの大きい値を実際のクラッチ目標値(実目標値)として設定し、このクラッチ目標値(実目標値)に油圧を調節する。この為、モード切換の前後で必要クラッチ圧が異なる場合でも、このモード切換の開始から完了直後に至るまで、第一、第二両クラッチの締結圧が不足する事を確実に防止できる。
図1〜7は、本発明の実施の形態の1例を示している。尚、本例の特徴は、接続すべきクラッチ装置6(低速用、高速用各クラッチ7、8)の締結圧を確保する為に、このクラッチ装置6に導入する油圧を調節する部分(クラッチ油圧調整手段)の構造、並びに、その調節の手順を工夫すると共に、合わせて、動力を伝達するトラクション部(転がり接触部)で適切な押し付け力を付与すべく、押圧装置14に導入する油圧を調節する部分の構造等も工夫した点にある。その他の部分の構造及び作用は、前述の図8〜9に示した従来構造と同様であるから、重複する説明を省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。尚、本例の場合は、無段変速装置全体としての速度比(増速比)とトロイダル型無段変速機4の変速比(増速比)との関係を、例えば前述の図11に示す様に設定している。この様な設定は、例えば遊星歯車式変速機5等の減速比や伝達歯車の歯数比等を規制する事により行える。
又、本例の図2、3にそれぞれ示した油圧回路の構成は、差圧取り出し弁37(図3参照)が設けられているか否かの点で互いに異なる。即ち、図3の油圧回路の場合は、前述の図8に示した油圧回路の場合と同様の差圧取り出し弁37を設けているのに対して、図2の油圧回路の場合には、この様な差圧取り出し弁37を設けていない(省略している)。但し、図3の油圧回路の場合は、上記差圧取り出し弁37のパイロット室43を油溜28に通じさせると共に、この差圧取り出し弁37と押圧力調整弁29との間の油路44a、44bを盲栓で塞ぐ等、この差圧取り出し弁37が機能しない様に(差圧に対応する油圧が押圧力調整弁29に導入されない様に)している。即ち、この図3の油圧回路は、差圧取り出し弁37を省略した図2の油圧回路と実質的に同じものである。従って、以下の説明は、図2の構造と図3の構造とを区別せずに行う(以下の説明は、図2と図3との両方の構造に対応する)。
又、前述の図8〜9に示した従来構造の場合は、低速用、高速用各クラッチ7、8の接続状態の切り換え(低速モードと高速モードとの切り換え)を、1個のシフト用電磁弁20(図8〜9)により行っていたのに対して、本例の場合には、低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁45、46(2個の電磁弁45、46)により行う。又、これと共に、本例の場合は、前述の図8〜9に示した従来構造の様な、押圧力調整弁29により調整(調圧)されるプライマリーライン50の圧油を低速用、高速用各クラッチ7、8に導入すると言った構成(図8〜9参照)は、採用していない。即ち、本例の場合には、後で詳しく説明する様に、プライマリーライン50に圧油を送り込むオイルポンプ27aとは別に、クラッチ用ポンプ53を設け、このクラッチ用ポンプ53を通じて、上記低速用、高速用各クラッチ7、8に圧油を送り込む様にしている。要するに、これら低速用、高速用各クラッチ7、8に導入する圧油と、上記プライマリーライン50を通じて押圧装置14に導入する圧油とを、それぞれ別系統で供給している(低速用、高速用各クラッチ7、8に導入される圧油と押圧装置14に導入される圧油とを、それぞれ別々に調整できる様にしている)。
又、本例の場合は、前述の図8〜9に示した従来構造の様な、トロイダル型無段変速機4の変速比の補正を行う為の電磁弁19、並びに、差圧シリンダ23、補正用制御弁24a、24b、前後進切り換え弁47(図9参照)を設けていない(省略している)。但し、この様な変速比の補正を行う為の構造を、必要に応じて設ける事もできる。更に、本例の場合は、同じく前述の図8〜9に示した従来構造の様な、押圧装置14に導入する油圧を調整する為の押圧力調整弁29に、アクチュエータ13を構成する1対の油圧室36a、36b同士の間の油圧の差(差圧)を直接導入すると言った構成(図8〜9参照)は、採用していない。即ち、本例の場合は、上記各油圧室36a、36bに設けた1対の油圧センサ39a、39b(図1の39)により上記差圧を検出し、この検出された差圧(に対応する「通過トルク」)に基づいて、上記押圧装置14に導入する油圧(押圧装置14の発生する押圧力)を、制御器16、ライン圧制御用電磁開閉弁18、並びに、押圧力調整弁29を用いて調節する様にしている。
但し、この様に差圧に基づいて調節するだけでは、例えばモード切換時に、上記押圧装置14の発生する押圧力が過大になったり、或は、過小になったりする可能性がある。又、モード切換時以外(低速モード又は高速モードの状態)でも、急加速時(アクセルペダルを急に踏み込んだ際)等の動力の急変動時に、上記差圧を検出するセンサや切換弁等の応答遅れ等に伴い、上記押圧装置14の発生する押圧力が不足する可能性がある。そこで、本例の場合には、上記押圧装置14に導入する油圧(押圧装置14の発生する押圧力)を、上記差圧(に対応する「通過トルク」)の他、上記トロイダル型無段変速機4と接続したエンジン1の「出力トルク」に基づいて調節できる様にしている。より具体的には、この「出力トルク」に対応する、上記エンジン1の出力を調節する為のアクセル装置の操作量(アクセル操作量、アクセル開度、アクセルペダルの踏み込み量)と、このエンジン1の駆動軸(クランク軸)の回転速度(エンジン回転速度)とに基づいて、上記押圧装置14に導入する油圧を調節できる様にしている。尚、この様な押圧装置14に導入する油圧を調節する部分の構造、並びに、その調節の手順等に関しては、例えば特願2008−14722(平成20年1月25日出願、整理番号:NSK071473)に開示しており、本発明の要旨とも直接関連するものではない為、詳しい説明は省略する。
本例の場合、上述の様に調節される、押圧装置14に導入される油圧(プライマリーライン50の油圧)とは別系統で、低速用、高速用各クラッチ7、8に油圧を導入する。即ち、本例の場合には、前述した様に、プライマリーライン50に圧油を送り込むオイルポンプ27aとは別にクラッチ用ポンプ53を設け、このクラッチ用ポンプ53から吐出される圧油を、手動油圧切換弁31、減圧弁38a、低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁45、46を介して、上記低速用、高速用各クラッチ7、8に送り込む様にしている。尚、本例の場合は、上記クラッチ用ポンプ53と、上記低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁45、46と、前記制御器16とにより、特許請求の範囲に記載したクラッチ油圧調整手段を構成している。
この様な本例の場合、低速モードと高速モードとの間のモード切換を、次の様に行う。即ち、低速モード(低速用クラッチ7のみが接続された状態)で走行中、この低速モードから高速モードにモード切換を行う場合は、後述する図6に示す様に、先ず、それまで接続されていなかった高速用クラッチ8を接続(ON)すべく、制御器16から上記高速クラッチ用電磁弁46に、この高速用クラッチ8を接続する旨の指令(制御信号)を発する。その後、それまで接続されていた低速用クラッチ7の接続を断つべく(OFFすべく)、上記制御器16から上記低速クラッチ用電磁弁45に、この低速用クラッチ7の接続を断つ旨の指令(制御信号)を発する。
一方、高速モード(高速用クラッチ8のみが接続された状態)で走行中、この高速モードから低速モードにモード切換を行う場合は、後述する図7に示す様に、先ず、それまで接続されていなかった低速用クラッチ7を接続(ON)すべく、上記制御器16から上記低速クラッチ用電磁弁45に、この低速用クラッチ7を接続する旨の指令(制御信号)を発する。その後、それまで接続されていた高速用クラッチ8の接続を断つべく(OFFすべく)、上記制御器16から上記高速クラッチ用電磁弁46に、この高速用クラッチ8の接続を断つ旨の指令(制御信号)を発する。
又、本例の場合、上記低速モード又は高速モードで走行中に、上記低速用、高速用各クラッチ7、8に導入する油圧を、その時点での運転状況に応じて調節する。即ち、これら低速用、高速用各クラッチ7、8に導入する油圧(低速用、高速用各クラッチ7、8の締結圧)を、トロイダル型無段変速機4を通過するトルク(通過トルク)、並びに、このトロイダル型無段変速機4と接続したエンジン1から出力されるトルク(出力トルク)に基づいて調節する。この為に、本例の場合には、ソレノイド弁(電磁弁)である上記低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁45、46に、上記制御器16から制御信号(指令信号)をPWM出力(パルス幅変調出力)し(PWM方式で制御し)、これら低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁45、46を比例制御弁として用いる。即ち、これら低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁45、46の開閉量をPWM制御で調節し、上記低速用、高速用各クラッチ7、8に導入する油圧を、上記制御器16から出力される信号(パルス幅)に応じた値に調節自在(可変自在)としている。
又、これと共に、上記制御器16は、上記差圧から求められる(推定される、算出される)、上記トロイダル型無段変速機4を通過するトルク(通過トルク)の大きさと、このトロイダル型無段変速機4の変速比(無段変速装置に速度比)とに基づいて、上記低速用、高速用各クラッチ7、8に導入すべき油圧(低速用、高速用各クラッチ7、8に発生させるべき締結圧に見合う油圧)に対応するクラッチ目標値を設定(算出)する機能(第一の機能)を備えている。尚、上記トロイダル型無段変速機4の変速比は、入力側、出力側各回転速度センサ40、41により(入力側、出力側各ディスク10、11の回転速度の比として)検出できる他、各パワーローラ12を支持する支持部材(トラニオン)の傾斜角(枢軸を中心とする回転角)を計測する事により求める事もできる。又、無段変速装置の速度比を用いる必要がある場合は、上記トロイダル型無段変速機4の変速比と現在の走行モードとから求める事ができる。
又、上記クラッチ目標値は、例えばこのクラッチ目標値と上記差圧(通過トルク)並びに上記変速比(速度比)との相関関係として、予め実験や計算により求めておき、上記制御器16のメモリに、マップや計算式、線図として記憶させておく。尚、この様な相関関係としては、例えば、前述の式(1)を用いる事ができる(通過トルクを伝達トルクTc [Nm]に、クラッチ目標値を作動油圧Pc [Pa]に対応させる)。又、この式(1)を用いて求めた、最大トルク時のクラッチ目標値(必要クラッチ圧)と無段変速装置全体の速度比との相関関係を表す線図を、図5に示す。この図5には、上記クラッチ目標値(必要クラッチ圧)を、安全率を1.0とした場合と、同じく1.1とした場合とを示している。何れを用いるかは、使用状況等に応じて決定する。
尚、上述の様な式(1)や図5の線図の他にも、例えば実験や計算により求めた、上記差圧(通過トルク)と上記低速用、高速用各クラッチ7、8に導入すべき油圧(必要クラッチ圧)との関係を表すMAPや線図等を用いる事ができる。この場合には、低速モードと高速モードとで共通するものを用いる事ができる他、低速モードに対応するもの(例えば低速モード用MAPや線図等)と高速モードに対応するもの(例えば高速モード用MAPや線図等)とでそれぞれ別々のものを用いる事もできる。何れにしても、上記制御器16は、この様なマップや計算式、線図等に基づいて、その時点での差圧(通過トルク)と変速比(傾転角)とに対応する、上記クラッチ目標値を設定すると共に、このクラッチ目標値に調節すべく、上記低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁45、46に、このクラッチ目標値に応じた信号を出力(PWM出力、パルス幅変調出力)する。そして、この出力に基づくこれら低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁45、46の開閉(切換)に基づき、上記低速用、高速用各クラッチ7、8の油圧室52a、52bに導入する油圧を上記クラッチ目標値に調節し、これら低速用、高速用各クラッチ7、8の締結圧を適正に規制する。
但し、この様に差圧(通過トルク)のみに基づいて目標値を設定するだけでは、例えばモード切換時に、上記低速用、高速用各クラッチ7、8の締結圧が過大になったり、或は、過小になったりする可能性がある。又、モード切換時以外(低速モード又は高速モードの状態)でも、急加速時(アクセルペダルを急に踏み込んだ際)等の動力の急変動時に、上記差圧(通過トルク)を検出するセンサ(油圧センサ39、39a、39b)等の応答遅れ等に伴い、上記低速用、高速用各クラッチ7、8の締結圧が不足する可能性がある。そこで、本例の場合には、上記クラッチ目標値を、上記差圧(通過トルク)の他、上記トロイダル型無段変速機4と接続したエンジン1から出力される力(出力トルク、エンジントルク)に基づいて求められる様にしている。より具体的には、上記クラッチ目標値を、上記エンジン1の出力を調節する為のアクセル装置の操作量(アクセル操作量、アクセル開度、アクセルペダルの踏み込み量)と、このエンジン1の駆動軸(クランク軸)の回転速度(エンジン回転速度)とに基づいて求められる様にしている。
要するに、本例の場合には、上記制御器16に、上記低速用、高速用各クラッチ7、8に導入する油圧を設定する為に必要な、この低速用、高速用各クラッチ7、8で伝達される動力(力、トルク)の大きさを、上記差圧に基づいて求める機能だけでなく、上記アクセル装置の操作量(アクセル開度)とエンジン1の駆動軸の回転速度(エンジン回転速度)とに基づいて求める機能も持たせている。そして、必要に応じて(例えば、モード切換時や急加速時等の動力の急変動時等に)、上記操作量(アクセル開度)と回転速度(エンジン回転速度)とに基づき、上記低速用、高速用各クラッチ7、8に導入すべき油圧の目標値(クラッチ目標値)を設定する。尚、上記アクセル装置の操作速度、操作量は、アクセルペダルの操作量(踏み込み量、踏み増し量、開放量)を検出する為のアクセルセンサ48により検出できる。又、上記エンジン1の回転速度は、例えばこのエンジン1の駆動軸(クランク軸)の回転速度を検出する為の図示しない回転速度センサ(或いはタコメータ用の信号)により検出できる(入力側回転速度センサ40を用いる事も可能である)。
何れにしても、上記制御器16は、上記アクセル装置の操作量(アクセル開度)とエンジン1の駆動軸の回転速度(エンジン回転速度)とに基づいて、このエンジン1から出力される(乃至は出力されると予測される)力(出力トルク、エンジントルク)の大きさを算出(推定)自在としている。この為に、上記制御器16のメモリに、車両に搭載されるエンジン1の特性、例えばアクセル開度[%]とエンジン回転速度[min-1 ]とに応じたエンジントルク[Nm]の特性を、例えばマップや計算式、線図として記憶させておく(プログラムしておく)。そして、上記制御器16は、上述の様なエンジン特性に基づき、その時点でのアクセル開度とエンジン回転速度とに対応する、上記エンジントルクを算出(推定)する。尚、上記エンジン1を制御する為のエンジンコントローラ49と上記制御器16との間で、例えばCAN(Controller Area Network )等を用いて通信ができる場合には、このエンジンコントローラ49からアクセル開度に応じたエンジントルクデータを入手する事もできる。但し、通信の際に時間的遅れを生じる可能性がある他、通信ができない(又は通信手段がない)車両の場合には、この様な手段を採用できない。この為、上述の様な、アクセル開度とエンジン回転速度とから、マップや計算式、線図等を用いてエンジントルクを算出(推定)する事が、より好ましい。
上述の様に出力トルク(エンジントルク)を求めたならば、上記制御器16により、この出力トルク(エンジントルク)と、前記トロイダル型無段変速機4の変速比とに基づいて、上記低速用、高速用各クラッチ7、8に導入すべき油圧(低速用、高速用各クラッチ7、8に発生させるべき締結圧に見合う油圧)に対応するクラッチ目標値を設定(算出)する。尚、この様に出力トルク(エンジントルク)と変速比とに基づいてクラッチ目標値を設定する場合にも、このクラッチ目標値と上記出力トルク(エンジントルク)並びに上記変速比との相関関係を、上記制御器16のメモリに、MAPや計算式、線図として記憶させておき、この様なMAPや計算式、線図等を用いて設定(算出)する。尚、この様な相関関係としては、例えば、前述の式(1)を用いる事ができる(出力トルクを伝達トルクTc [Nm]に、クラッチ目標値を作動油圧Pc [Pa]に対応させる)。又、この式(1)を用いて求めた、最大トルク時のクラッチ目標値(必要クラッチ圧)と無段変速装置全体の速度比との相関関係は、前述の図5に示した通りである。尚、上述の様な式(1)や図5の線図の他にも、例えば実験や計算により求めた、上記出力トルク(アクセル開度、エンジン回転速度)と上記低速用、高速用各クラッチ7、8に導入すべき油圧との関係を表すMAPや線図等を用いる事ができる。この場合には、低速モードと高速モードとで共通するものを用いる事ができる他、低速モードに対応するもの(例えば低速モード用MAPや線図等)と高速モードに対応するもの(例えば高速モード用MAPや線図等)とでそれぞれ別々のものを用いる事もできる。
又、例えば上記MAPや計算式、線図等で用いる上記エンジントルク(出力トルク)は、トロイダル型無段変速機4に入力されるトルク(入力トルク)に対応させて算出(作成)する事が好ましい。この場合に、上記エンジントルクから上記トロイダル型無段変速機4に入力されるトルクを算出するには、エンジン1とこのトロイダル型無段変速機4との間に設けられた部材(トルクが通過する歯車等)の効率を考慮する必要がある。この効率は、上記トロイダル型無段変速機4の変速比や走行モード(低速モード/高速モード)に応じて異なる為、厳密に算出する事は難しい。この為、上述の様なMAPや線図は、例えば実験により求める(実験値を用いて作成する)。尚、上記エンジン1と上記トロイダル型無段変速機4との間の効率を求める事が可能であれば、上述の様なMAPや線図等に代えて、この効率を用いた計算式を使用する事もできる。
上述の様な線図や計算式、MAP等を用いて、その時点での出力トルク(エンジントルク)と変速比とに対応する、上記クラッチ目標値を設定したならば、上記制御器16は、このクラッチ目標値に調節すべく、上記低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁45、46に、このクラッチ目標値に応じた信号を出力{PWM出力、パルス幅変調出力}する。そして、この出力に基づくこれら低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁45、46の開閉(切換)に基づき、上記低速用、高速用各クラッチ7、8の油圧室52a、52bに導入する油圧を上記クラッチ目標値に調節し、これら低速用、高速用各クラッチ7、8の締結圧を適正に規制する。尚、必要に応じて、上記クラッチ目標値、延いては、上記低速用、高速用各クラッチ7、8の油圧室52a、52bに実際に導入される油圧、更には、上記低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁45、46の開閉量(PWM出力量)を、その時点での油温{トロイダル型無段変速機4内を循環する潤滑油(トラクションオイル)の温度}に応じて補正する事が好ましい。
この場合には、例えば、油温毎に求めた、上記クラッチ目標値と上記低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁45、46の開閉量との関係を用いて、その時点の油温に応じた開閉量に調節(補正)する。この様に構成すれば、上記低速用、高速用各クラッチ7、8の油圧室52a、52bに実際に導入される油圧(実際の締結圧)を、その時点での摩擦係数や各部品の温度特性(例えば弾性変形量等)に応じた値(より最適な値)に規制できる。又、潤滑油の粘性変化に拘らず、目標とする油圧を導入できる。尚、前述した差圧(通過トルク)に基づいてクラッチ目標値を設定する場合にも、その時点での油温に対応した、上記低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁の開閉量(PWM出力量)の調節(補正)を行う事ができる。
上述の様に、本例の場合は、上記押圧装置14に導入する油圧の調節を、第一の機能(差圧)の他、第二の機能{アクセル装置の操作量(アクセル開度)とエンジン1の駆動軸の回転速度(エンジン回転速度)と}に基づいて行える様にしている。そして、上記制御器16に、その時点の運転状況に応じて、何れのクラッチ目標値で油圧の調節を行うかを選択する為の機能を持たせている。具体的には、低速モード、並びに、高速モードで運転中は、上記第一の機能に基づいて設定される目標値(第一のクラッチ目標値)と、上記第二の機能に基づいて設定される目標値(第二のクラッチ目標値)とを比較し、このうちの大きい値の目標値を実際の目標値(実目標値)として設定し、この目標値(実目標値)に油圧を調節する機能を持たせている。又、これと共に、上記低速モードと高速モードとの間のモード切換時、即ち、モード切換を行うべく、それまで接続されていなかった一方のクラッチ7(8)の接続を開始してから{一方のクラッチ7(8)を接続する為のクラッチ用切換弁45(46)に当該クラッチ7(8)を接続する旨の指令(制御信号)が制御器16から発せられてから}、それまで接続されていた他方のクラッチ8(7)の接続が断たれるまで{他方のクラッチ8(7)を接続する為のクラッチ用切換弁46(45)に当該クラッチ8(7)の接続を断つ旨の指令(制御信号)が制御器16から発せられるまで}の間は、上記第二の機能のみに基づいて、上記低速用、高速用各クラッチ7、8に導入する油圧の目標値(第二のクラッチ目標値)を設定し、この目標値に油圧を調節する機能を持たせている。
上述の様な制御器16が備える機能(クラッチ圧制御)に就いて、図4のフローチャートを参照しつつ説明する。尚、このフローチャートに示した作業は、例えばシフトレバーが走行状態(D、L、Rレンジ)に操作されている場合に、繰り返し(自動的に)行われる。これに対して、シフトレバーが非走行状態(N、Pレンジ)に操作されている場合は、行われない。
先ず、上記制御器16は、ステップ1で、現在の走行モードが低速モードであるか否かを判定する。この判定は、例えば、その時点での、高速クラッチ用、低速クラッチ用各電磁弁45、46の切換状態(通電状態)や、低速用、高速用各クラッチ7、8の断接状態を判定する事により行う。このステップ1で、現在の走行モードが低速モードであると判定された場合には、ステップ2に進む。このステップ2では、現在低速モードから高速モードへのモード切換中か否かを判定する。この判定は、例えば、上記低速用クラッチ7を接続すべく、上記低速クラッチ用電磁弁45が、この低速用クラッチ7に圧油を導入する状態に切り換えられており、且つ、上記高速用クラッチ8を接続すべく、上記高速クラッチ用電磁弁46も、この高速用クラッチ8に圧油を導入する状態に切り換えられている(切り換える為の指令が発せられている)か否かを判定する事により行う。
この様なステップ2で、現在低速モードから高速モードへモード切換中でない、即ち、低速モードで運転中である(低速クラッチ用電磁弁45だけにクラッチを接続する旨の指令が発せられている)と判定された場合には、ステップ3に進む。このステップ3からステップ8(ステップ7を除く)では、低速用クラッチ7に導入する油圧を、前記第一、第二両機能に基づいて設定する。より具体的には、第二の機能(出力トルク)に基づいて設定されるクラッチ目標値(第二のクラッチ目標値AL )と、第一の機能(通過トルク)に基づいて設定されるクラッチ目標値(第一のクラッチ目標値BL )とを比較し、このうちの大きい値の目標値を、実際のクラッチ目標値(実目標値)として設定する。この為に、先ず、上記ステップ3で、第二の機能に基づいてクラッチ目標値(第二のクラッチ目標値AL )の算出を行う。即ち、このステップ3では、その時点での出力トルク(アクセル開度、エンジン回転速度)とトロイダル型無段変速機4の変速比(無段変速装置の速度比)とに基づいて、上記クラッチ目標値(第二のクラッチ目標値AL )を算出する。このステップ3では、低速モードで運転中である為、例えば低速モード用MAPを用いて、第二のクラッチ目標値AL を算出する。
この様にステップ3で、低速モード用MAPを用いて、その時点での出力トルクと変速比(速度比)とに対応する、上記第二のクラッチ目標値AL を算出したならば、続くステップ4で、第一の機能に基づいて、クラッチ目標値(第一のクラッチ目標値BL )の算出を行う。即ち、このステップ4では、その時点での通過トルク(差圧)とトロイダル型無段変速機4の変速比(無段変速装置の速度比)とに基づいて、上記クラッチ目標値(第一のクラッチ目標値BL )を算出する。このステップ4では、低速モードで運転中である為、例えば低速モード用MAPを用いて第一のクラッチ目標値BL を算出する。
上述の様にステップ3で第二の機能に基づいて第二のクラッチ目標値AL の算出を行うと共に、上記ステップ4で第一の機能に基づいて第一のクラッチ目標値BL の算出を行ったならば、続くステップ5で、これら第一のクラッチ目標値BL と第二のクラッチ目標値AL とを比較する。具体的には、この第二のクラッチ目標値AL が上記第一のクラッチ目標値BL 以上(AL ≧BL )であるか否かを判定する。このステップ5で、上記第二のクラッチ目標値AL が上記第一のクラッチ目標値BL 以上(AL ≧BL )であると判定された場合には、ステップ6に進み、このうちの第二のクラッチ目標値AL を実目標値に設定する。そして、ステップ7に進み、この第二のクラッチ目標値AL に油圧を調節すべく、前記低速クラッチ用電磁弁45の開閉状態を調節(PWM制御)する。一方、上記ステップ5で、上記第二のクラッチ目標値AL が上記第一のクラッチ目標値BL 以上でない、即ち、この第二のクラッチ目標値AL が上記第一のクラッチ目標値BL よりも小さい(AL <BL )と判定された場合には、ステップ8に進み、このうちの第一のクラッチ目標値BL を実目標値に設定する。そして、上記ステップ7に進み、この第一のクラッチ目標値BL に油圧を調節すべく、前記低速クラッチ用電磁弁45の開閉状態を調節(PWM制御)する。
一方、前記ステップ2で、現在低速モードから高速モードへモード切換中である、即ち、上記低速クラッチ用電磁弁45だけでなく、前記高速クラッチ用電磁弁46にも、当該クラッチを接続する旨の指令が発せられている(低速用、高速用両クラッチ7、8を同時に接続している、乃至は、その為の指令が発せられている)と判定された場合には、ステップ9に進む。このステップ9からステップ13では、少なくとも高速用クラッチ8(次に実現すべき走行モードである高速モードを実現する為のクラッチ)に導入する油圧の目標値(クラッチ目標値)を、第二の機能に基づいて設定する。この為に、先ず、上記ステップ9で、その時点での出力トルク(エンジン回転速度、アクセル開度)とトロイダル型無段変速機4の変速比とに基づいて、第二のクラッチ目標値AL を算出する。尚、このステップ9では、現在の走行モード、即ち、低速モードに対応するクラッチ目標値AL を算出すべく、例えば低速モード用MAPを用いてこの算出を行う。又、続くステップ10では、高速モード用MAPを用いて、高速モードに対応するクラッチ目標値AH を算出する。
上述の様にステップ9で第二の機能に基づいて現在のモードである低速モードに対応する第二のクラッチ目標値AL の算出を行うと共に、上記ステップ10で同じく第二の機能に基づいて次に実現すべきモードである高速モードに対応する第二のクラッチ目標値AH の算出を行ったならば、続くステップ11で、これら第二の両クラッチ目標値AL 、AH 同士を比較する。具体的には、低速モードに対応する第二のクラッチ目標値AL が高速モードに対応する第二のクラッチ目標値AH 以上(AL ≧AH )であるか否かを判定する。このステップ11で、上記低速モードに対応する第二のクラッチ目標値AL が上記高速モードに対応する第二のクラッチ目標値AH 以上(AL ≧AH )であると判定された場合には、ステップ12に進み、このうちの低速モードに対応する第二のクラッチ目標値AL を実目標値に設定する。そして、前述のステップ7に進み、この低速モードに対応する第二のクラッチ目標値AL に油圧を調節すべく、少なくとも前記高速クラッチ用電磁弁46の開閉状態を調節(PWM制御)する。一方、上記ステップ11で、上記低速モードに対応する第二のクラッチ目標値AL が上記高速モードに対応する第二のクラッチ目標値AH 以上でない、即ち、この低速モードに対応する第二のクラッチ目標値AL が高速モードに対応する第二のクラッチ目標値AH よりも小さい(AL <AH )と判定された場合には、ステップ13に進み、このうちの高速モードに対応する第二のクラッチ目標値AH を実目標値に設定する。そして、上記ステップ7に進み、この高速モードに対応する第二のクラッチ目標値AH に油圧を調節すべく、少なくとも前記高速クラッチ用電磁弁46の開閉状態を調節(PWM制御)する。
一方、前記ステップ1で、現在の走行モードが低速モードでない、即ち、現在の走行モードが高速モードであると判定された場合には、ステップ14に進む。尚、このステップ14からステップ24までは、低速モードである点と高速モードである点とが異なる{低速(L)と高速(H)とが逆になる}以外、上述したステップ2〜6、8〜13と同様である。即ち、上記ステップ14〜24のうち、ステップ14〜19では、高速モードで運転中であるとの判定に基づいて、第二のクラッチ目標値AH と第一のクラッチ目標値BH とのうちの大きい値の目標値を実際のクラッチ目標値(実目標値)として設定する。同じくステップ14、20〜24では、高速モードから低速モードにモード切換を行っているとの判定に基づいて、低速モードに対応する第二のクラッチ目標値AL と高速モードに対応する第二のクラッチ目標値AH とのうちの大きい値の目標値を実際のクラッチ目標値(実目標値)として設定する。そして、何れの場合も、前記ステップ7に進み、この様に設定された目標値に油圧を調節すべく、前記低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁45、46の開閉状態を調節(PWM制御)する。
上述の様に構成する本例の場合には、クラッチ装置6を構成する低速用、高速用各クラッチ7、8の締結圧を運転状況に応じて適切に規制できる。
即ち、制御器16は、上記低速用、高速用各クラッチ7、8に導入すべき油圧に対応するクラッチ目標値を、その時点での、トロイダル型無段変速機4を通過する力(通過トルク)に対応する差圧に基づいて求められる第一の目標値BL (BH )と、駆動源であるエンジン1から出力される力(出力トルク)に対応するアクセル操作量とエンジン回転速度とに基づいて求められる第二の目標値AL (AH )とにより設定する{大きい目標値を実際のクラッチ目標値(実目標値)として設定する}。そして、このクラッチ目標値(実目標値)に応じて、低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁45、46の開閉状態を調節(PWM制御)する事により、上記低速用、高速用各クラッチ7、8に導入する油圧をこのクラッチ目標値(実目標値)に調節する。この様に「通過トルク(差圧)」と「出力トルク(アクセル操作量、エンジン回転速度)」との両方の状態量に基づいてクラッチ目標値を設定する為、常に上記低速用、高速用各クラッチ7、8の締結圧を、その時点の運転状況に応じた適切なものにできる。この為、運転状況に拘わらず(何れの運転状況でも)、上記低速用、高速用各クラッチ7、8のクラッチ締結部(動力伝達部)で滑りを生じる事を防止しつつ、これら低速用、高速用各クラッチ7、8(クラッチ装置6全体のシステム)を小型に構成できると共に、伝達効率の向上も図れる。
特に、本例の場合は、上記クラッチ目標値の設定(算出)を、「通過トルク(差圧)」と「出力トルク(アクセル操作量、エンジン回転速度)」との何れか一方の値のみに基づいて行わない(両方の値で行う)為、上記クラッチ締結部(動力伝達部)で滑りが生じる事を確実に防止しつつ、上記クラッチ目標値の設定をより運転状況に即したものにできる。即ち、急加速時やエンジンブレーキに基づく急減速時等の動力の急変動時等、現在の運転状況が「通過トルク(差圧)」と「出力トルク(アクセル操作量、エンジン回転速度)」とのうちの何れかの値に、その変化として迅速に現れにくい様な状況でも、このうちの変化が迅速に現れる値(大きい値のクラッチ目標値)に基づいて締結圧を調節できる。この為、この締結圧をより運転状況に即したものにできると共に、クラッチ締結部(動力伝達部)で滑りを生じる事を確実に防止できる。
しかも、本例の場合は、モード切換中は、クラッチ目標値を、第二の機能のみ、即ち、「出力トルク(アクセル操作量、エンジン回転速度)」のみに基づいて求める(算出する)。この為、モード切換中でも(低速用、高速用両クラッチ7、8が同時に接続された状態でも)、上記締結圧を、その時点での運転状況に即した適切な値に調節できる。例えば、図6は、アクセルペダルを踏み込んで加速中に、低速モードから高速モードへのモード切換を行った場合の、各部の状態量の変化を模式的に示している。又、図7は、アクセルペダルを開放して減速中に、高速モードから低速モードへのモード切換を行った場合の、各部の状態量の変化を模式的に示している。又、これら図6、7の最下段のクラッチ制御圧の線図では、モード切換中に第二の機能のみ用いる場合(本例の場合)の締結圧(制御圧)の変化を実線で、同じくモード切換中に第一の機能(差圧)のみに基づいて調節した場合の締結圧(制御圧)の変化を破線で、それぞれ示している。
この様な図6、7から明らかな様に、モード切換中に第一の機能(差圧)に基づいて締結圧を調節した場合には、上記低速用、高速用両クラッチ7、8が同時に接続された状態で、この第一の機能で用いられる差圧が、エンジン1の出力トルクと対応しなくなる(不定になる)。本例の場合は、モード切換を、トロイダル型無段変速機4の変速比がモード切換ポイント(例えば増速比で0.46)に調節された状態で行う為、上記低速用、高速用両クラッチ7、8が同時に接続された状態で上記差圧は0に変化する。そして、この差圧の変化に伴って、上記第一の機能(差圧)に基づいて調節される上記締結圧も、上記エンジン1から出力される力(動力、トルク)と関係なく、0になる。この為、この様に第一の機能(差圧)に基づいて締結圧を調節した場合には、モード切換の完了直後{それまで接続されていた一方のクラッチ7(8)の接続が断たれた直後}から、上記締結圧が十分に立ち上がるまでの間(応答遅れ分)、即ち、図6、7にそれぞれ斜線(ハッチング)で示す分、上記締結圧が不足する。そして、この不足が著しい場合には、クラッチ締結部(動力伝達部)で滑りを生じる可能性がある。
これに対して、本例の場合には、上述した様にモード切換中に、クラッチ目標値を第二の機能、即ち、「出力トルク(アクセル操作量、エンジン回転速度)」に基づいて求める(算出する)為、上記低速用、高速用両クラッチ7、8が同時に接続された状態でも、その時点でのエンジン1から出力されるエンジントルクに対応した適切な締結圧を維持できる。しかも、モード切換時に、トロイダル型無段変速機4を通過するトルク(通過トルク)の方向が反転する事(差圧が0になる事)に伴う、上記締結圧の低下(不足)も防止できる。この為、この締結圧の不必要な変動を低減する事もでき(締結圧が大きく変動しなくなり)、この締結圧の変動に伴うトルクシフトの低減も図れる。
又、本例の場合は、図4のフローチャートに示した通り、モード切換中に、第二の機能に基づいて、現在の走行モード、並びに、次に実現すべき走行モードに対応する第二のクラッチ目標値AL 、AH をそれぞれ求める。そして、このうちの大きい値を実際のクラッチ目標値(実目標値)として設定し、このクラッチ目標値(実目標値)に油圧を調節する。この為、モード切換の前後で必要クラッチ圧が異なる場合でも、このモード切換の開始から完了直後に至るまで、第一、第二両クラッチの締結圧が不足する事を確実に防止できる。