車両用の自動変速装置(AT:Automatic Transmission)として、歯車式で有段(例えば前進4〜8段、後進1〜2段等)の変速機構を有する(走行中の変速比を無段階には調整できない)有段変速装置が、従来から使用されている。この様な有段変速装置としては、例えば、トルクコンバータと遊星歯車機構とにより構成するもの(一般的なAT)、或は、制御器により制御される油圧式或いは電動式のアクチュエータにより、有段式の(手動)変速機の変速操作(シフトダウン、シフトアップ)とクラッチの断接操作とを自動的に行うもの(AMT:Automated Manual Transmission )が知られている。
又、ベルト式無段変速機、トロイダル型無段変速機等の、変速比を無段階に調節できる無段変速機構により構成した無段変速装置(CVT:Continuously Variable Transmission)に就いても、近年使用する場合が増えている。更には、この様なトロイダル型無段変速機等の無段変速機構と歯車式の差動機構(例えば遊星歯車式変速機)とを、クラッチ装置により動力の伝達経路を切り換え自在とした状態で組み合わせた無段変速装置(IVT:Infinitely Variable Transmission)に関しても、従来から知られている。この様な無段変速装置や上述の様な有段変速装置を組み込んだ車両では、アクセルペダルの操作(アクセル開度)や車両の走行速度(車速)から得られるその時点での走行状態に応じて、最適な変速段や変速比(目標変速段、目標変速比)に調節する為の変速制御を行うと共に、トルクコンバータのロックアップクラッチ制御や必要なクラッチの断接制御を行っている。
ところで、上述の様な自動変速装置の場合、クラッチを接続する際やその接続を断つ際のショックを防止する事が、乗り心地性能(乗り心地の良さ)等を確保する上で重要になる。例えば、特許文献1には、車両発進時の半クラッチ制御中に、所謂ブルブル振動が生じる事を防止する為に、クラッチストロークセンサの検出値に応じて、クラッチの断接を行う流体圧アクチュエータをフィードバック制御する技術が記載されている。又、特許文献2には、車両発進時の半クラッチ制御中に、クラッチ伝達トルク特性を学習し、この学習結果に応じてクラッチ伝達トルク特性を補正する事により、発進性能の向上を図る技術が記載されている。又、特許文献3には、ロックアップクラッチの締結時に於けるトルクショック(エンジン回転落ち込み)を防止すべく、車両の減速度に応じてロックアップクラッチの締結力(スリップ量)を補正する技術が記載されている。又、特許文献4には、ベルト式無段変速機のライン油圧に基づいて、クラッチに導入する油圧を補正する技術が記載されている。但し、これら特許文献1〜4に記載された技術の場合には、運転者が制動装置(例えばサービスブレーキやパーキングブレーキ等)を操作した際に、円滑な走行、減速、停止を可能にする事は考慮していない。
即ち、トロイダル型無段変速機等の、変速比を無段階に調節できる無段変速装置の場合は、走行中に車両を減速させるべく、運転者により制動装置が操作されると、その時点での車両の速度(車速)の低下に応じて無段変速装置の速度比を減速側に変速する。無段変速装置の場合、有段式の自動変速装置に比べ、その時点での車速に最適な速度比に変速する事が可能であるが、トルクコンバータの様な回転差を吸収する機構が無い場合には、その時点での車速と速度比とが一致しないと、次の様な問題を生じる可能性がある。即ち、例えば運転者が制動装置を操作した場合等、車両の減速度が大きい場合に、車速の低下に比べて無段変速装置の速度比の減速が遅れると(車速に対し速度比が増速側にずれると)、駆動源であるエンジンがノッキングし、車両の挙動がギクシャクする(円滑でなくなる)可能性がある。又、これとは逆に、車両の速度の低下に比べて速度比の減速が速いと、運転者の意図しないエンジンブレーキが加わり、運転者に違和感(意図しない減速感)を与える可能性がある。
又、例えば、上述の様な減速中に、路面の凹凸等に起因する、車輪側から伝わる外乱(トルク変動)に伴い、車両の速度(車速)が変動(微小変化)する可能性があるが、そのままこの車速の変動に応じて無段変速装置の速度比の変速を行うと、車両の挙動が更にギクシャクする(ギクシャク感が増大する)可能性がある。この様な車速の変動に伴うギクシャク感の増大を防止すべく、車速検出信号をフィルターに通過させ、速度比の変速制御を鈍らせる事が考えられる。但し、このフィルターの設定(フィルタリング)が不適切な場合には、変速レスポンスが悪化する(応答性が悪くなる)可能性がある。
何れにしても、その時点での(現在の)車速に対し無段変速装置全体としての速度比が最適な値に調節されないと、車両の挙動が安定せず、特に運転者が制動装置を操作した場合の減速中に、そのギクシャク挙動が顕著になる可能性がある。そして、前述した特許文献1〜4に記載された技術を採用しても、上述の様な運転者が制動装置を操作した場合に、円滑な走行、減速、停止を確保できない可能性がある。尚、例えば加速中や坂道走行中等の、出力軸に大きなトルクが加わっている状態で、クラッチの接続を断つと、トルクが一気に開放され、このトルクの開放に伴いショックを生じるが、このショックを防止すべく、クラッチの接続を緩徐に断つ技術も知られている。但し、この技術を採用しても、上述の様な運転者が制動装置を操作した場合に、円滑な走行、減速、停止を確保できない可能性がある。
又、例えば特許文献5〜7等には、トロイダル型無段変速機等の無段変速機構と歯車式の差動機構とを、クラッチ装置により動力の伝達経路を切り換え自在とした状態で組み合わせた無段変速装置が記載されている。このうちの特許文献5には、トロイダル型無段変速機のみで動力を伝達するモード(例えば、第一のモード、低速モード)と、差動ユニットである遊星歯車式変速機により主動力を伝達し、上記トロイダル型無段変速機により変速比の調節を行う、所謂パワースプリット状態を実現するモード(例えば、第二のモード、高速モード)とを備えた無段変速装置が記載されている。又、上記特許文献6〜7には、入力軸を一方向に回転させたまま、出力軸の回転状態を停止させる、所謂ギヤードニュートラル(GN)状態を挟んで、この出力軸の回転状態を正転、逆転に切り換えられるモード(例えば、第一のモード、低速モード)を備えた無段変速装置が記載されている。
この様な、トロイダル型無段変速機と遊星歯車式変速機とをクラッチ装置を介して組み合わせて成り、低速モード(第一のモード)と高速モード(第二のモード)とを有する無段変速装置の場合、低速用クラッチ(第一のクラッチ)と高速用クラッチ(第二のクラッチ)との接続状態を切り換える事により、低速モードと高速モードとの間のモード切換が行われる。この様な低速モードと高速モードとの間でモード切換を行う構造の場合、このモード切換を滑らか(円滑)に行う事が、乗り心地性能(乗り心地の良さ)等を確保する面で重要になる。この様なモード切換を滑らかに行う技術として、例えば特許文献8には、モード切換時に、それまで接続されていたクラッチとそれまで接続を断たれていたクラッチとの両方のクラッチを同時に接続させてから、それまで接続されていたクラッチの接続を断つ技術が記載されている。この様な技術を採用すれば、例えば加速中のモード切換時に高速用、低速用各クラッチの接続が同時に断たれる事による、エンジンの回転速度の急上昇(吹け上がり)や、この急上昇後の高速用クラッチの接続に伴う変速ショック(トルク抜け感、押し出し感)を防止して、運転者を初めとする乗員に違和感を与える事を防止できる。
又、特許文献9には、トロイダル型無段変速機を通過して遊星歯車式変速機に入力される動力の回転速度と、このトロイダル型無段変速機を通過せずにこの遊星歯車式変速機に入力される動力の回転速度とを一致させた状態で、モード切換を行う事により、このモード切換時のクラッチの接続を滑らかに行う技術が記載されている。又、特許文献10には、モード切換時のトロイダル型無段変速機の変速比の変化量(トルクシフト量)を見込んで、クラッチの断接のタイミングを補正(調節)する事により、モード切換の前後で無段変速装置全体の速度比を一致させる技術が記載されている。又、特許文献11には、モード切換中にトロイダル型無段変速機を通過するトルクに基づく変速比調節機能を停止する事により、モード切換を円滑に行わせる技術が記載されている。又、特許文献12には、モード切換時に、低速用、高速用両クラッチが同時に接続された事を、パワーローラを支持する支持部材(トラニオン)を枢軸の軸方向に変位させる油圧式のアクチュエータに設けた、1対の油圧室同士の間の差圧に基づいて推定する技術が記載されている。
又、特許文献13には、低速用、高速用両クラッチが同時に接続された状態で、トロイダル型無段変速機の変速比をトルクシフト分補正してから、次に接続を断つべきクラッチの接続を断つ技術が記載されている。又、特許文献14には、低速用、高速用両クラッチを同時に接続する時間を、運転状況に応じて調節する技術が記載されている。又、特許文献15には、モード切換を開始するトロイダル型無段変速機の変速比の値を、設計上の値である目標変速比よりも増速側にずらす技術が記載されている。但し、これら特許文献5〜15に記載された技術の場合は、運転者が制動装置(例えばサービスブレーキやパーキングブレーキ等)を操作した際に、高速モードから低速モードへのモード切換を円滑に行う事は考慮していない。
即ち、高速モードから低速モードへのモード切換を円滑に行なう為には、トロイダル型無段変速機の変速比がモード切換をすべき値(モード切換ポイント)に調節されている状態で行う事が好ましい。そして、例えば運転者が制動装置を操作していない場合等、無段変速装置の速度比の変速を緩徐に行える場合には、モード切換時にモード切換ポイントからの変速比のずれ量を略0にできる為、モード切換を円滑に行える(フィーリングは悪化しない)。但し、例えば運転者が制動装置を操作した(ブレーキペダルを踏込んだ)場合等、減速度が大きく、無段変速装置の速度比を最速で減速側に変速する必要がある場合、トロイダル型無段変速機の変速比がモード切換ポイントからずれた状態でモード切換が行われる可能性がある。この様な場合、この変速比のずれに伴うトルク変動を生じ、このモード切換を円滑に行えなくなる可能性がある。
尚、上述の様にモード切換ポイントからずれた状態でモード切換が行なわれる原因は、次の様に考えられる。
(1)トルクシフトによる変速比のずれ
即ち、トロイダル型無段変速機にトルクが加わると、構成各部材の弾性変形等に伴ないトルクシフトが発生し、現在実現しようとしている変速比と実際の変速比とに差を生じる。そして、この差に基づいて、上記変速比がモード切換ポイントからずれた状態で、モード切換が行われる可能性がある。
(2)変速比の検出遅れ
トロイダル型無段変速機の入力側と出力側との回転速度の比に基づいて変速比を算出する場合に、この回転速度を単位時間当たりのパルス数から検出すると、このパルスカウント時間分だけ検出が遅れる。そして、現在検出している変速比と実際の変速比とに差を生じ、この差に基づいて、上記変速比がモード切換ポイントからずれた状態で、モード切換が行われる可能性がある。特に、運転者により制動装置が操作され、車両の減速度が大きい場合に、トロイダル型無段変速機の変速比が最速で変速されるが、この様な場合に、上述のパルスカウント時間の検出遅れが、モード切換のフィーリング悪化に繋がる可能性がある。
この様な原因に基づくずれを防止する為には、厳密なトルクシフト特性の判定や、バラツキの管理を行ったり、高性能のセンサや制御器(コントローラ)を使用する事が考えられるが、コストが増大する他、制御プログラムが複雑化する可能性がある。又、モード切換時に低速側、高速側両クラッチを同時に接続する場合、そのままでは、路面の凹凸等に起因する、車輪側から伝わる外乱(トルク変動)に伴い、車速が変動(微小変化)する可能性がある。そして、そのままこの車速の変動に応じて無段変速装置の速度比の変速を行うと、車両の挙動が更にギクシャクする(ギクシャク感が増大する)可能性がある。
何れにしても、モード切換時に、トロイダル型無段変速機の変速比がモード切換ポイントに調節されないと、車両の挙動が安定せず、特に運転者が制動装置を操作した場合の減速中に、そのギクシャク挙動が顕著になる可能性がある。そして、前述した特許文献5〜15に記載された技術を採用しても、上述の様な運転者が制動装置を操作した場合に、高速モードから低速モードへの円滑なモード切換を行えない可能性がある。
[本発明に関する参考例の第1例]
図1〜5は、本発明に関する参考例の第1例を示している。このうちの図1は、トロイダル型無段変速機4と遊星歯車式変速機5とを組み合わせる事により、入力軸3を回転させた状態のまま出力軸9を停止させられる、所謂無限大の変速比(ギヤードニュートラル状態、速度比0の状態)を実現できる無段変速装置のブロック図を示している。又、図2は、同じくこの無段変速装置を制御する為の油圧回路を示している。本参考例の場合は、この様な無段変速装置の速度比を、シフトレバーがその時点の走行方向と逆方向の選択位置に操作された場合に、予め設定した条件に沿って変化させる様に構成している。
エンジン1の出力は、ダンパ2を介して、入力軸3に入力される。この入力軸3に伝達された動力は、直接又はトロイダル型無段変速機4を介して、差動機構である遊星歯車式変速機5に伝達される。そして、この遊星歯車式変速機5の構成部材の差動成分が、クラッチ装置6、即ち、図2の低速用、高速用各クラッチ7、8を介して、出力軸9に取り出される。又、上記トロイダル型無段変速機4は、入力側、出力側各ディスク10、11と、複数個のパワーローラ12と、それぞれが支持部材に相当する複数個のトラニオン(図示省略)と、アクチュエータ13(図2)と、押圧装置14と、変速比制御ユニット15とを備える。
このうちの入力側、出力側各ディスク10、11は、互いに同心に、且つ相対回転自在に配置されている。又、上記各パワーローラ12は、互いに対向する上記入力側、出力側各ディスク10、11の内側面同士の間に挟持されて、これら入力側、出力側各ディスク10、11同士の間で動力(力、トルク)を伝達する。又、上記各トラニオンは、上記各パワーローラ12を回転自在に支持している。又、上記アクチュエータ13は、油圧式のもので、上記各パワーローラ12を支持した上記各トラニオンを、それぞれの両端部に設けた枢軸の軸方向に変位させて、上記入力側ディスク10と出力側ディスク11との間の変速比を変える。又、上記押圧装置14は、油圧の導入に伴ってこの油圧に比例した押圧力を発生させる油圧式のものであり、上記入力側ディスク10と上記出力側ディスク11とを互いに近付く方向に押圧する。又、上記変速比制御ユニット15は、上記入力側ディスク10と出力側ディスク11との間の変速比を所望値にする為に、上記アクチュエータ13の変位方向及び変位量を制御する。
図示の例の場合、上記変速比制御ユニット15は、制御器(ECU)16と、この制御器16からの制御信号に基づいて切り換えられる、ステッピングモータ17と、ライン圧制御用電磁開閉弁18と、低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁19、20と、これら各部材17〜20により作動状態を切り換えられる制御弁装置21とにより構成している。尚、この制御弁装置21は、図2の変速比制御弁22と押圧力調整弁23とに相当する。又、このうちの変速比制御弁22は、上記アクチュエータ13への油圧の給排を制御するものである。又、上記低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁19、20は、前記低速用、高速用各クラッチ7、8への圧油の導入状態を切り換えるものである。
又、前記ダンパ2部分から取り出した動力により駆動されるオイルポンプ24から吐出した圧油は、上記制御弁装置21並びに前記押圧装置14に送り込まれる。即ち、油溜25(図2)から吸引されて上記オイルポンプ24により吐出された圧油は、上記押圧力調整弁23により所定圧に調整される。本参考例の場合は、前記アクチュエータ13の各油圧室26a、26bにそれぞれ設けた1対の油圧センサ27a、27b(図1の27)の検出信号を、前記制御器16に入力している。そして、この制御器16は、これら各油圧センサ27a、27bにより検出される上記各油圧室26a、26b同士の差圧{この差圧に対応する、トロイダル型無段変速機4を通過するトルク(通過トルク)}と、油温センサ28や入力側、出力側各回転センサ29、30、出力軸回転センサ31、アクセルセンサ32等により検出される他の状態量(変速比や油温、アクセル開度、車速等)とに基づいて、前記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉状態を切り換える。そして、この開閉状態の切換に基づき、上記押圧力調整弁23の開弁圧を調節し、プライマリーライン33、延いては、上記押圧装置14が発生する押圧力を、運転状況に応じた最適な値に規制する。
又、上記押圧力調整弁23により調整された圧油は、手動油圧切換弁34、並びに、減圧弁35、前記低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁19、20を介して、前記低速用クラッチ7又は高速用クラッチ8の油圧室内に送り込まれる。又、これら低速用、高速用各クラッチ7、8のうちの低速用クラッチ7は、減速比を大きくする{変速比無限大(ギヤードニュートラル状態)を含む}低速モード(第一のモード)を実現する際に接続されると共に、減速比を小さくする高速モード(第二のモード)を実現する際に接続を断たれる。これに対して、上記高速用クラッチ8は、上記低速モード(第一のモード)を実現する際に接続を断たれると共に上記高速モード(第二のモード)を実現する際に接続される。尚、上記低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁19、20の切り換え(開閉)は、前記制御器16により制御される。
図3は、トロイダル型無段変速機4の変速比(増速比)と無段変速装置全体としての速度比(増速比)との関係の1例を示している。例えば、上記低速用クラッチ7が接続され、上記高速用クラッチ8の接続が断たれた低速モードでは、実線αで示す様に、トロイダル型無段変速機4の変速比を、ギヤードニュートラル状態を実現できる値(GN値)から減速する程、無段変速装置全体としての速度比を停止状態(速度比0の状態)から前進方向(+:正転方向)に増速させられる。又、同じくGN値から増速する程、同じく停止状態から後退方向(−:逆転方向)に増速させられる。一方、上記高速用クラッチ8が接続され、上記低速用クラッチ7の接続が断たれた高速モードでは、実線βで示す様に、上記トロイダル型無段変速機4の変速比を増速する程、上記無段変速装置全体としての速度比を(前進方向に)増速させられる。
尚、一般的には、「変速比」は減速比であり、「速度比」は増速比であり、「変速比」の逆数が「速度比」となる(「速度比」=1/「変速比」)。但し、本明細書並びに特許請求の範囲では、トロイダル型無段変速機に関する入力側と出力側との間の比に就いて「変速比」の言葉を用い、無段変速装置全体に関する入力側と出力側との間の比に就いて「速度比」の言葉を用いている。この理由は、トロイダル型無段変速機の比なのか、無段変速装置全体としての比なのかを明確にし易くする為である。従って、本明細書並びに特許請求の範囲では、「変速比」が減速比に、「速度比」が増速比に、必ずしも対応するものではない。
上述した様な無段変速装置を組み込んだ車両では、アクセルペダルの操作(アクセル開度)や車両の走行速度(車速)から得られる、その時点での車両の走行状態(運転状況)に基づいて、前記制御器16により、上記無段変速装置の最適な速度比(目標速度比)を求める。そして、この目標速度比を実現すべく、上記制御器16の制御信号に基づいてステッピングモータ17を駆動し、変速比制御弁22を切り換える事により、トロイダル型無段変速機4の変速比を、上記目標速度比に対応する目標変速比に調節する。又、これと共に、必要に応じて(無段変速装置の目標速度比に応じて)低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁19、20を切り換える事により、上記低速用、高速用各クラッチ7、8の断接状態を切り換えて、必要な走行モード(低速モード或いは高速モード)を選択する。これらにより、上記無段変速装置の速度比を、その時点での車両の走行状態に応じた最適な値(目標速度比)に調節する。
尚、本参考例の場合は、上記低速用、高速用各クラッチ7、8の接続状態の切り換え(低速モードと高速モードとの切り換え)を、上記低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁19、20により行う。即ち、これら低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁19、20を、ソレノイドへの通電に基づいてスプールをそれぞれ変位させるもの(電磁ソレノイド)とし、このスプールの変位に基づき、上記低速用、高速用各クラッチ7、8の油圧室内への圧油の導入状態を調節し、これら低速用、高速用各クラッチ7、8の断接状態を切り換える様にしている。
この様な本参考例の場合は、低速モードと高速モードとの間のモード切換を、次の様に行う。即ち、低速モード(低速用クラッチ7のみが接続された状態)で走行中、この低速モードから高速モードにモード切換を行う場合は、先ず、それまで接続を断たれていた高速用クラッチ8を接続してから、それまで接続されていた低速用クラッチ7の接続を断つ。一方、高速モード(高速用クラッチ8のみが接続された状態)で走行中、この高速モードから低速モードにモード切換を行う場合は、先ず、それまで接続を断たれていた低速用クラッチ7を接続してから、それまで接続されていた高速用クラッチ8の接続を断つ。この様に、それまで接続を断たれていた一方のクラッチ(高速用クラッチ8、又は、低速用クラッチ7)を接続してから、同じくそれまで接続されていた他方のクラッチ(低速用クラッチ7、又は、高速用クラッチ8)の接続を断つ機能を持たせる事により、モード切換時にこれら両クラッチ7、8が同時に接続されている時間を設定している。
又、本参考例の場合は、前記制御器16に、次の機能を持たせている。即ち、制動装置(例えばサービスブレーキ、パーキングブレーキ等)の作動(例えばサービスブレーキの操作、より具体的には、ブレーキペダルの踏み込み)を条件に、接続すべきクラッチ{その時点で(現在)接続されている低速用クラッチ7、又は、高速用クラッチ8)の締結圧を、その時点の運転状況に応じた必要最小限の動力を伝達できる値に調節する機能を持たせている。尚、必要最小限の動力を伝達できる締結圧とは、例えばその時点でのエンジン1のトルク、即ち、その時点でのエンジン1の回転速度に対応してこのエンジン1から出力されるトルク(必要とされるエンジンブレーキ力も含む)を伝達できる{が、それを超えるトルクは伝達できない(互いに当接するクラッチ板同士が滑る)}値を言う。
何れにしても、本参考例の場合には、運転者が制動装置を操作していない場合は、突然アクセルペダルが踏み込まれる事により、急激にエンジン1のトルクが上昇する可能性がある為、その時点で接続されているクラッチ7、8が滑らない様に、当該クラッチ7、8の締結圧を最大とする。ここでクラッチ7、8の締結圧は、使用しているクラッチ材の摩擦係数やクラッチ板の大きさ、これらクラッチ7、8の締結圧を制御するクラッチピストン内の圧力によって決まる。そして、前記制御器16は、制動装置が操作されていない(ブレーキペダルの踏み込みがない)場合、クラッチピストン内の圧力が最大となる様に、ソレノイドバルブである、低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁19、20を駆動する。一方、運転者が制動装置を操作している場合は、突然アクセルペダルが踏み込まれる事により、急激にエンジン1のトルクが上昇する可能性は低い為、その時点での(現在の)エンジン1が出力しているエンジントルクから必要締結圧(必要クラッチ圧)を算出し、その締結圧(必要クラッチ圧)となる様に、上記低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁19、20を駆動する。
この様な低速用、高速用各クラッチ7、8の締結圧の調節を行う為に、前記制御器16が備える機能に就いて、図4のフローチャートを参照しつつ説明する。尚、このフローチャートに示した作業は、例えばイグニッションスイッチがONされてからOFFされるまでの間、繰り返し(自動的に)行われる。
先ず、上記制御器16は、ステップ1で、シフトレバーの選択位置が走行位置(例えばD、M、S、L、Rレンジ)か否かを判定する。この判定は、例えばシフトレバーの選択位置を検出するポジションスイッチ36(図1参照)の検出信号に基づいて行なう。この様なステップ1で、上記シフトレバーの選択位置が走行位置でない{非走行位置(例えばP、Nレンジ)である}と判定された場合には、ステップ2に進み、低速用クラッチ(K1)への圧油の給排状態を切り換える為の低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度(単位時間当たりの開いている時間の割合)を0%とする(低速用クラッチ7の接続を完全に断つ)と共に、高速用クラッチ(K2)への圧油の給排状態を切り換える為の高速クラッチ用電磁弁20のDuty開度も0%とする(高速用クラッチ8の接続を完全に断つ)。そして、終了を介して、開始に戻る。
一方、上記ステップ1で、上記シフトレバーの選択位置が走行位置であると判定された場合には、ステップ3に進み、必要なクラッチ圧の算出を行う。このクラッチ圧の算出は、その時点での(現在の)エンジントルクを、その時点でのアクセル開度から、図6のマップ(MAP)に基づいて求め、そのエンジントルクに対応する必要クラッチ圧を求める。ここで求めた必要クラッチ圧、即ち、低速用クラッチ7の必要クラッチ圧は、「TRGT_K1」とし、高速用クラッチ8の必要クラッチ圧は、「TRGT_K2」とする。尚、この必要クラッチ圧は、当該クラッチにより、その時点でのエンジントルクを伝達できる(互いに当接するクラッチ板同士が滑らない)締結圧に対応する。又、その時点での(現在の)エンジントルクは、例えばエンジンコントローラ38(図1参照)との通信により判定する事ができる他、上記図6に示す様なエンジンMAPを、例えばCVTコントローラ等の制御器16に予め記憶させておき、このエンジンMAPから求める事もできる。何れにしても、上述の様に必要クラッチ圧(TRGT_K1、TRGT_K2)を求めたならば、続くステップ4に進み、車両が(実質的に)走行中であるか否かを判定する。
この判定は、例えば前記出力軸回転センサ31(図1参照)の検出信号により、前記出力軸9の回転速度から分かる、上記車両の走行速度が、1km/h以上である(車速≧1km/h)か否かにより判定する。このステップ4で、上記車両が走行中でない(停止中)と判定された場合には、ステップ5に進み、低速用クラッチ7の接続が断たれているか否かを判定する。この判定は、前記低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度が10%以下であるか否かにより判定する。このステップ5で、上記低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度が10%以下であると判定された場合には、ステップ6に進み、上記低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度を100%とする(低速用クラッチ7を完全に接続する)と共に、前記高速クラッチ用電磁弁20のDuty開度を0%とする(高速用クラッチ8の接続を完全に断つ)。そして、終了を介して、開始に戻る。
一方、上記ステップ5で、上記低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度が10%を超えていると判定された場合には、ステップ7に進み、上記低速用クラッチ7がその時点で必要とされる締結圧(必要クラッチ圧)を十分に超えた状態(例えば必要とされる値+10%を超えた状態)で接続されているか否かを判定する。この判定は、上記低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度がTRGT_K1+10%を超えているか否かにより判定する。このステップ7で、この低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度がTRGT_K1+10%を超えていると判定された場合には、上記ステップ6に進み、この低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度を100%とする(低速用クラッチ7を完全に接続する)と共に、高速クラッチ用電磁弁20のDuty開度を0%とする(高速用クラッチ8の接続を完全に断つ)。そして、終了を介して、開始に戻る。
一方、上記ステップ7で、上記低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度がTRGT_K1+10%を超えていないと判定された場合には、丸付き数字1を介してステップ8に進み、低速用クラッチ7の締結圧を徐々に大きくしていく為のSLOWクラッチ接制御を行う。即ち、このステップ8では、上記低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度を、その時点の開度をK1とした場合に、K1+INC%にする(低速用クラッチ7の締結圧をその時点の値から、その時点のアクセル開度に応じて大きくする)。尚、このINCは、その時点でのアクセル開度との関係で、下記の表1に示す値となる。又、図7は、下記の表1をグラフにしたものである。
この様なステップ8では、上述の様に低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度をK1+INC%にすると共に、上記高速クラッチ用電磁弁20のDuty開度を0%とする(高速用クラッチ8の接続を完全に断つ)。そして、終了を介して、開始に戻る。一方、前記ステップ4で、前記車両が走行中であると判定された場合には、ステップ9に進み、現在低速モードであるか否かを判定する。この判定は、例えば上記低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁19、20の開閉状態により判定する。この様なステップ9で、現在低速モードであると判定された場合には、ステップ10に進み、現在低速モードから高速モードへのモード切換中であるか否かを判定する。このステップ10で、現在モード切換中であると判定された場合には、ステップ11に進み、上記低速クラッチ用、高速クラッチ用両電磁弁19、20のDuty開度を100%とする(低速用、高速用両クラッチ7、8を同時に接続する)。そして、終了を介して、開始に戻る。一方、上記ステップ10で、現在モード切換中でないと判定された場合には、ステップ12に進み、制動装置が操作されている(例えばブレーキペダルが踏み込まれている)か否かを判定する。この判定は、例えばブレーキスイッチ37(図1参照)により判定できる。
この様なステップ12で、制動装置が操作されていない(ブレーキペダルが開放されている)と判定された場合には、ステップ13に進み、上記低速用クラッチ7がその時点で必要とされる締結圧(必要クラッチ圧)に対し十分に超えた状態(例えば必要とされる値+10%を超えた状態)で接続されているか否かを判定する。この判定は、前記ステップ7と同様に、上記低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度がTRGT_K1+10%を超えているか否かにより判定する。この様なステップ13で、上記低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度がTRGT_K1+10%を超えていると判定された場合には、ステップ14に進み、上記低速用クラッチ7を完全に接続する為のクラッチ完接制御を行う。即ち、上記低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度を100%とする(低速用クラッチ7を完全に接続する)と共に、上記高速クラッチ用電磁弁20のDuty開度を0%とする(高速用クラッチ8の接続を完全に断つ)。そして、終了を介して、開始に戻る。一方、上記ステップ13で、上記低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度がTRGT_K1+10%を超えていないと判定された場合には、前記ステップ8に進み、上記低速用クラッチ7の締結圧を徐々に大きくしていく為のSLOWクラッチ接続制御を行う。このステップ8での動作は、上述した通りである。
一方、上記ステップ12で、制動装置が操作されている(ブレーキペダルが踏み込まれている)と判定された場合には、ステップ15に進み、上記低速用クラッチ7がその時点で必要とされる締結圧(必要クラッチ圧)に対し十分に超えた状態(例えば必要とされる値+10%を超えた状態)で接続されているか否かを判定する。この判定は、前記ステップ7及び上記ステップ13と同様に、上記低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度がTRGT_K1+10%を超えているか否かにより判定する。この様なステップ15で、上記低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度がTRGT_K1+10%を超えていると判定された場合には、ステップ16に進み、上記低速用クラッチ7の締結圧を必要な締結圧(必要クラッチ圧)に近付けるべく、クラッチ一発断制御を行う。即ち、上記低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度をTRGT_K1+10%とすると共に、上記高速クラッチ用電磁弁20のDuty開度を0%とする。そして、終了を介して、開始に戻る。一方、上記ステップ15で、上記低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度がTRGT_K1+10%を超えていないと判定された場合には、ステップ17に進み、上記低速用クラッチ7が必要な締結圧(必要クラッチ圧)で接続されているか否かを判定する。この判定は、上記低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度がTRGT_K1以下であるか否かにより判定する。
この様なステップ17で、上記低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度がTRGT_K1以下であると判定された場合には、ステップ18に進み、上記低速用クラッチ7をその時点で必要な締結圧(必要クラッチ圧)で接続すべく、必要クラッチ圧制御を行う。即ち、上記低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度をTRGT_K1%とする(低速用クラッチ7をその時点で必要な締結圧で接続する)と共に、上記高速クラッチ用電磁弁20のDuty開度を0%とする(高速用クラッチ8の接続を完全に断つ)。そして、終了を介して、開始に戻る。一方、上記ステップ17で、上記低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度がTRGT_K1以下でない(TRGT_K1を超えている)と判定された場合には、ステップ19に進み、低速用クラッチ7の締結圧を徐々に小さくしていく為のSLOWクラッチ断制御を行う。即ち、このステップ19では、上記低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度を、その時点での開度をK1とした場合に、K1−DEC%にする(低速用クラッチ7の締結圧をその時点での値から、その時点のアクセル開度に応じて低くする)。尚、このDECは、その時点でのアクセル開度との関係で、下記の表2に示す値となる。
この様なステップ19では、上述の様に低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度をK1−DEC%にすると共に、上記高速クラッチ用電磁弁20のDuty開度を0%とする(高速用クラッチ8の接続を完全に断つ)。そして、終了を介して、開始に戻る。又、前述のステップ9で、現在高速モードであると判定された場合には、図4の丸付き数字2、並びに、図5の丸付き数字2を介して、図5のステップ20に進み、現在高速モードから低速モードへのモード切換中であるか否かを判定する。このステップ20で、現在モード切換中であると判定された場合には、ステップ21に進み、低速クラッチ用、高速クラッチ用両電磁弁19、20のDuty開度を100%とする(低速用、高速用両クラッチ7、8を同時に接続する)。そして、図5の終了を介して、図4の開始に戻る。一方、上記ステップ20で、現在モード切換中でないと判定された場合には、ステップ22に進み、制動装置が操作されている(例えばブレーキペダルが踏み込まれている)か否かを判定する。この判定も、前述のステップ12と同様に、前記ブレーキスイッチ37により判定できる。
この様なステップ22で、制動装置が操作されていない(ブレーキペダルが開放されている)と判定された場合には、ステップ23に進み、高速用クラッチ8がその時点で必要とされる締結圧(必要クラッチ圧)に対し十分に超えた状態(例えば必要とされる値+10%を超えた状態)で接続されているか否かを判定する。この判定は、高速クラッチ用電磁弁20のDuty開度がTRGT_K2+10%を超えているか否かにより判定する。この様なステップ23で、上記高速クラッチ用電磁弁20のDuty開度がTRGT_K2+10%を超えていると判定された場合には、ステップ24に進み、上記高速用クラッチ8を完全に接続する為のクラッチ完接制御を行う。即ち、上記高速クラッチ用電磁弁20のDuty開度を100%とする(高速用クラッチ8を完全に接続する)と共に、上記低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度を0%とする(低速用クラッチ7の接続を完全に断つ)。そして、図5の終了を介して、図4の開始に戻る。
一方、上記ステップ23で、上記高速クラッチ用電磁弁20のDuty開度がTRGT_K2+10%を超えていないと判定された場合には、ステップ25に進み、上記高速用クラッチ8の締結圧を徐々に大きくしていく為のSLOWクラッチ接制御を行う。即ち、このステップ25では、上記高速クラッチ用電磁弁20のDuty開度を、その時点の開度をK2とした場合に、K2+INC%にする(高速用クラッチ8の締結圧をその時点の値から、その時点のアクセル開度に応じて高くする)。尚、上記INCは、前述のステップ8と同様である。又、これと共に、上記低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度を0%とする(低速用クラッチ8の接続を完全に断つ)。そして、図5の終了を介して、図4の開始に戻る。
一方、上記ステップ22で、制動装置が操作されている(ブレーキペダルが踏み込まれている)と判定された場合には、ステップ26に進み、上記高速用クラッチ8がその時点で必要とされる締結圧(必要クラッチ圧)に対し十分に超えた状態(例えば必要とされる値+10%を超えた状態)で接続されているか否かを判定する。この判定は、上記ステップ23と同様に、上記高速クラッチ用電磁弁20のDuty開度がTRGT_K2+10%を超えているか否かにより判定する。この様なステップ26で、上記高速クラッチ用電磁弁20のDuty開度がTRGT_K2+10%を超えていると判定された場合には、ステップ27に進み、上記高速用クラッチ8の締結圧を必要な締結圧(必要クラッチ圧)に近付けるべく、クラッチ一発断制御を行う。即ち、上記高速クラッチ用電磁弁20のDuty開度をTRGT_K2+10%とすると共に、上記低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度を0%とする。そして、図5の終了を介して、図4の開始に戻る。一方、上記ステップ26で、上記高速クラッチ用電磁弁20のDuty開度がTRGT_K2+10%を超えていないと判定された場合には、ステップ28に進み、上記高速用クラッチ8が必要な締結圧(必要クラッチ圧)で接続されているか否かを判定する。この判定は、上記高速クラッチ用電磁弁20のDuty開度がTRGT_K2以下であるか否かにより判定する。
この様なステップ28で、上記高速クラッチ用電磁弁20のDuty開度がTRGT_K2以下であると判定された場合には、ステップ29に進み、上記高速用クラッチ8をその時点で必要な締結圧(必要クラッチ圧)で接続すべく、必要クラッチ圧制御を行う。即ち、上記高速クラッチ用電磁弁20のDuty開度をTRGT_K2%とする{高速用クラッチ8をその時点で必要な締結圧(必要クラッチ圧)に接続する}と共に、上記低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度を0%とする(低速用クラッチ7の接続を完全に断つ)。そして、図5の終了を介して、図4の開始に戻る。一方、上記ステップ28で、上記高速クラッチ用電磁弁20のDuty開度がTRGT_K2以下でない(TRGT_K2を超えている)と判定された場合には、ステップ30に進み、上記高速用クラッチ8の締結圧を徐々に小さくしていく為のSLOWクラッチ断制御を行う。即ち、このステップ30では、上記高速クラッチ用電磁弁20のDuty開度を、その時点の開度をK2とした場合に、K2−DEC%にする(高速用クラッチ8の締結圧をその時点の値から、その時点のアクセル開度に応じて小さくする)。尚、このDECは、前述のステップ19の場合と同様である。又、これと共に、上記低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度を0%とする(低速用クラッチ7の接続を完全に断つ)。そして、図5の終了を介して、図4の開始に戻る。
この様な、本参考例の場合には、走行中に制動装置が操作されると、この制動装置が操作されている間は、ステップ17〜19、並びに、ステップ28〜30に示す様に、前記ステップ3で算出された必要クラッチ圧となる様に、低速用、高速用各クラッチ7、8の締結圧が調節される。又、車両が停止した(車速<1km/hとなった)場合には、ステップ5〜8に示す様に、所定の速度(その時点でのアクセル開度に対応するINCに応じた速度)でクラッチ締結圧を上昇させ、最大締結圧(DUTY100%)までゆっくり戻す。又、制動装置の操作がない(ブレーキペダルの踏み込みがない)まま車両が停車した場合には、上述の様な低速用、高速用各クラッチ7、8の締結圧の調節は行われず、最大締結圧(DUTY100%)のまま維持される。又、停車中に、シフトレバーを非走行状態(P、N)から走行状態(D、R、M、L)に操作した場合も、ステップ4〜6に示す様に、素早く必要なクラッチ7、8を接続できる(最大締結圧となるDUTY100%を出力する)。又、制動装置を操作した(ブレーキペダルが踏み込まれた)状態で、(例えば下り坂等により)車両が動き始めた場合には、車速が1km/h未満では最大締結圧(DUTY100%)を維持し、車速が1km/h以上となった時点で、ステップ9以降に進み、その時点の運転状況に応じた低速用、高速用各クラッチ7、8の締結圧の調節が行われる。又、制動装置を操作している状態からその操作を止めた(ブレーキペダルの踏み込みを開放した)場合も、所定の速度(その時点でのアクセル開度に対応するINCに応じた速度)でクラッチ締結圧を増加させ、最大締結圧(DUTY100%)までゆっくり戻す。
上述の様に構成する本参考例の場合には、図9に示す様に、制動装置が操作された(フットブレーキが踏み込まれた)際に、突発的な外乱(例えば、エンジン1側から加わる不必要なトルクの変動、エンジン1のノッキング、車輪側からの路面凹凸に基づくトルク変動等)に拘らず、円滑な走行、減速、停止を実現できる。
即ち、トルクコンバータのような発進デバイスを搭載した車両(一般的なAT)では、エンジン側(入力側)とトランスミッション側(出力側)が流体で接続されている為、上述の様な外乱などによるトルク変動は、このトルクコンバータによって吸収する事ができる。しかしながら、この様なトルクコンバータを用いる場合には、流体で動力を伝達する為、発進時(ロックアップされるまで)の動力伝達ロスが大きく、燃費悪化、発進フィーリングの違和感(エンジン回転だけが上昇して加速が遅れる)等、効率向上やフィーリング向上の面からは好ましくない。一方、本参考例の様に、ギヤードニュートラル状態を実現できる無段変速装置の場合には、車両の発進を、トロイダル型無段変速機4の変速操作により行なえる為、エンジントルクをロスさせる事はなく、ダイレクト感を実現しながら発進する事が可能になる。
但し、この様にトルク伝達にロスが発生しないという事は、余分な外乱(トルク変動)も伝達してしまい、特に減速時や停車時の車両フィーリングが悪化する、即ち、車両の挙動がギクシャクする(円滑でなくなる)可能性がある。これに対して、本参考例の場合には、制動装置の作動(例えばサービスブレーキの操作、より具体的には、ブレーキペダルの踏み込み)を条件に、接続すべきクラッチ7、8の締結圧を、その時点の運転状況に応じた必要最小限の動力を伝達できる値に調節する為、このクラッチ7、8により上記外乱を吸収できる(クラッチ板同士の滑りにより外乱を許容できる)。この為、発進時のダイレクト感をそのまま残し、トルクコンバータ付車両のような円滑な(スムーズな)走行、減速、停止を実現できる。
又、本参考例の場合には、急制動時でも有効な効果を発揮できる。即ち、無段変速装置の場合、車速の低下に応じて速度比を減速できないと、駆動源であるエンジン1がノッキングし、車両の挙動がギクシャクする等、円滑な減速感を得られない可能性がある。例えば、運転者が急ブレーキ操作を行ない、急制動状態が検出された場合、減速側への変速を最大速度で行なうが、例えば低μ路路面等では変速速度より車輪の減速が速くなる(減速側への変速が遅れる)可能性がある。この様な場合には、上記エンジン1がノッキングし、車両の挙動がギクシャクする(円滑でなくなる)他、著しい場合には、このエンジン1がストップ(エンスト)する可能性がある。尚、急制動状態を検出した場合、クラッチ7、8を完全に切断すれば、エンストを防止する事は可能になるが、この場合には、動力が完全に遮断されてしまう為、例えばその後の再加速時にクラッチ7、8の接続が遅れ、上記エンジン1が吹け上がる可能性がある。又、車速が0km/hと判定されている場合に、車両が停車しているのか、或は、車輪がロック状態で車両は動いているのかを判定できない場合には、上記クラッチ7、8の再接続を何時すれば良いかの判定が困難になる可能性もある。
尚、急減速状態の判定は以下の様に行える。
(1) ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)の作動状態をモニターする。即ち、ABSランプ点灯を検出したり、ABSコントローラと通信制御する事により急減速状態を判定する。
(2) ブレーキペダル踏み込み圧力を検出する。例えば、ブレーキペダル踏込み圧力が、予め設定したA[kPa]よりも大きいか否かにより判定できる。
(3) ブレーキペダルの踏み込み圧上昇速度を検出する。例えば、ブレーキペダルの踏み込み圧上昇速度が、予め設定したB[kPa]/msよりも大きいか否かにより判定できる。
(4) パニックブレーキスイッチを検出する。例えは、ブレーキペダルを強く踏んだ時のみONするパニックブレーキスイッチがONされたか否かにより判定できる。
(5)異なるブレーキ踏み込み圧で作動する二つ以上の圧力スイッチの作動タイミング時間を検出する。例えば、このタイミングが所定時間より短いか否かにより判定できる。
(6)車両の減速度を検出する。例えば、車両の減速度が、予め設定したC[km/h]/msよりも大きいか否かにより判定できる。
何れにしても、本参考例の場合には、例えば運転者が制動装置を操作し、車両の減速度が大きい場合に、車速の低下に比べて無段変速装置の速度比の減速が遅れても(車速に対し速度比が増速側にずれても)、必要最小限の締結圧で接続されているクラッチ7、8により、余分な駆動力がエンジン1に伝達される事を防止して(現在接続しているクラッチ7、8で余分な駆動力を吸収する事ができ)、このエンジン1がノッキングし、車両の挙動がギクシャクする(円滑でなくなる)事を防止できる。又、これとは逆に、車両の速度の低下に比べて速度比の減速が速くなっても、必要最小限の締結圧で接続されているクラッチ7、8により余分なエンジンブレーキ力を吸収できる為、運転者の意図しないエンジンブレーキが加わり、運転者に違和感(意図しない減速感)を与える事を防止できる。更には、路面の凹凸等に起因する、車輪側から伝わる外乱(トルク変動)に伴い、車速が変動(微小変化)し、この変動に応じて変速制御を行っても、必要最小限の締結圧で接続されているクラッチ7、8によりこの変動に基づく余分なトルク変動を吸収でき、車両ギクシャク感が増大する事を防止できる。
この様に本参考例の場合には、運転者が制動装置を操作している場合に、現在接続しているクラッチ7、8の締結圧を、その時点の運転状況に応じた必要最小限の動力を伝達できる値に調節する為、外部からの余分なトルク変動を吸収できる。即ち、タイヤロック等による外部からのトルク変動を吸収でき、エンストの防止が可能な上、スムーズな減速、及び車両停止を実現できる。又、上記クラッチ7、8を完全に切断しない為、このクラッチ7、8の接続を断つ事に伴ってショックが発生する事を防止でき、例えば制動装置の操作が繰り返し行われる様な場合でも、走行フィーリングが変化する事を防止できる。
尚、本参考例の場合には、前記ステップ3で算出した、その時点でのエンジントルクに応じた必要クラッチ圧(TRGT_K1、TRGT_K2)に調整しているが、前述した様な急制動状態を検出した場合に、より確実にエンストを防止すべく、更に低い締結圧に補正する事もできる。例えば、急制動状態と判定される場合には、この締結圧を、上記必要クラッチ圧(TRGT_K1、TRGT_K2)の50〜90%とする事もできる。又、図8に示す様に、車両の減速度や、ブレーキ踏み込み圧力、油温等に応じてクラッチ締結圧を補正する事もできる。即ち、車両減速度に応じて締結圧を補正する場合には、図8(イ)に示す様な補正値に応じて、締結圧を必要クラッチ圧から補正値分引いた値とする事ができる。又、ブレーキ踏み込み圧力に応じて締結圧を補正する場合には、図8(ロ)に示す様な補正値に応じて、締結圧を必要クラッチ圧から補正値分引いた値とする事ができる。又、油温に応じて締結圧を補正する場合には、図8(ハ)に示す様な補正値に応じて、締結圧を必要クラッチ圧から補正値分引いた値とする事ができる。
尚、図10は、本参考例のクラッチ制御を行った場合の車両の挙動を、図11は、従来のクラッチ制御を行った場合の車両の挙動を、それぞれ示している。この様な車両の挙動を示すグラフから明らかな様に、本参考例のクラッチ制御を行った場合には、制動装置が操作された際に、突発的な外乱に拘らず、円滑な走行、減速、停止を実現できる。
[本発明に関する参考例の第2例]
図12〜13は、本発明に関する参考例の第2例を示している。本参考例の場合も、上述の実施の形態の第1例と同様に、制御器16(図1参照)に、低速モードと高速モードとの間のモード切換時に、低速用クラッチ7と高速用クラッチ8(図2参照)とのうちのそれまで接続を断たれていた一方のクラッチ7、8を接続してから、同じくそれまで接続されていた他方のクラッチ8、7の接続を断つ機能を持たせる事により、これら両クラッチ7、8が同時に接続されている時間を設定している。更に、本参考例の場合には、制動装置(例えばサービスブレーキ、パーキングブレーキ等)の作動(例えばサービスブレーキの操作、より具体的には、ブレーキペダルの踏み込み)を条件に、上記両クラッチ7、8を同時に接続する際の、これら両クラッチ7、8の締結圧を、その時点の運転状況に応じた必要最小限の動力を伝達できる値に調節する機能も、上記制御器16に持たせている。
この為に、本参考例の場合は、図13のステップ20、22−1に示す様に、高速モードから低速モードへのモード切換時に、制動装置が操作されている(ブレーキペダルが踏み込まれている)と判定された場合には、同じくステップ21−2に示す様に、低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度をTRGT_K1%とすると共に、高速クラッチ用電磁弁20のDuty開度をTRGT_K2%とする。一方、上記ステップ22−1で、制動装置が操作されていない(ブレーキペダルの踏み込みが開放されている)と判定された場合には、ステップ21−1に進み、低速クラッチ用、高速クラッチ用両電磁弁19、20のDuty開度を100%とする。この様に最大締結力で両クラッチ7、8を接続する理由は、制動装置が操作されていない場合には、アクセルペダルが踏み込まれ、エンジントルクが上昇する可能性がある為である。尚、図12〜13に示すステップ数は、前述の図4〜5に示したステップ数にそれぞれ対応させている。
又、本参考例の場合には、図12のステップ10、11に示す様に、低速モードから高速モードへのモード切換時は、低速クラッチ用、高速クラッチ用両電磁弁19、20のDuty開度を100%としている。即ち、本参考例の場合には、図12の左下の「(注1)」に記載している様に、制動装置が操作されている場合には、減速している状態と考え、低速モードから高速モードへのモード切換が行なわれないとしている(低速モードでは、ステップ12、10に示す様に、制動装置が操作されていないと判断された場合にのみ、モード切換中であるか否かの判定をする様にしている)。但し、例えば下り坂を走行中に、制動装置の操作に拘らず、車両が加速し、車速がモード切換を行なうべき値に達する可能性もある。この為、必要に応じて、低速モードから高速モードへのモード切換時に、制動装置が操作されていると判定された場合にも、低速クラッチ用電磁弁19のDuty開度をTRGT_K1%とすると共に、高速クラッチ用電磁弁20のDuty開度をTRGT_K2%とする事もできる。又、図12、13の下部の「(注2)」に記載している様に、接続が断たれているクラッチを仮接続(プリチャージ制御)させる事もできる。即ち、次のモード切換時に接続される一方のクラッチ(現在低速モードであれば高速用クラッチ8、現在高速モードであれば低速用クラッチ7)を、このモード切換を開始する以前に、その時点での運転状況に応じて、そのクラッチ板同士の隙間がなくなる方向に変位させ、これらクラッチ板同士の間で実質的に動力の伝達が行われず、且つ、引き摺りトルクを許容できる締結圧で仮接続させる(例えば、Duty開度を5〜14%とする)事もできる。
この様な本参考例の場合には、高速モードから低速モードへのモード切換時に、両クラッチ7、8を同時に接続する際の、これら両クラッチ7、8の締結圧を、制動装置の操作を条件に、その時点の運転状況に応じた必要クラッチ圧(TRGT_K1%、TRGT_K2%)とする。この為、図14に示す様に、モード切換時にトロイダル型無段変速機4(図1参照)の変速比がモード切換ポイントからずれても、これら両クラッチ7、8により不必要なトルクシフト力を吸収でき、円滑なモード切換を実現できる。尚、図15は、本参考例のクラッチ制御を行った場合の車両の挙動を、図16は、従来のクラッチ制御を行った場合の車両の挙動を、それぞれ示している。この様な車両の挙動を示すグラフからも明らかな様に、本参考例のクラッチ制御を行った場合には、モード切換を円滑に行なえる。又、これと共に、円滑な走行、減速、停止を実現できる。
その他の部分の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例と同様であるから、同等部分に関する図示並びに説明は省略する。
[本発明に関する参考例の第3例]
図17〜20は、本発明に関する参考例の第3例を示している。本参考例は、トロイダル型無段変速機と遊星歯車式変速機とをクラッチ装置を介して組み合わせて成り、このうちのトロイダル型無段変速機を動力が通過しないモードを有する無段変速装置に関するものである。より具体的には、トロイダル型無段変速機により動力を伝達する、特許請求の範囲に記載した一方のモードに相当する第一のモードと、同じく動力が伝達されない、特許請求の範囲に記載した他方のモードに相当する第二のモードとを、クラッチ装置により切換自在とした無段変速装置に関し、この第二のモードから第一のモードへのモード切換を行なう場合に、トロイダル型無段変速機のトラクション部に押し付け力を付与する為の、油圧式の押圧装置が発生する押圧力(ローディング圧力)が、所定の値(所定の閾値)以上となった状態で、上記クラッチ装置の切換(動力の伝達状態の切換)を行う。
そして、この様な構成を採用する事により、次の(1)〜(3)の作用・効果を得られる様にしている。
(1) 押圧装置に圧油を送り込む為の油圧回路等の油圧系の応答遅れの影響を小さくして、クラッチ切換の際のグロススリップを防止して、耐久性の確保を図れる。
(2) クラッチ装置の切換の際に、エンジントルクを絞らなくて済み、乗員に与える違和感を抑制できる。
(3) 運転中に、トロイダル無段変速機のトラクション部に、動力の伝達を行う為に必要な大きな押し付け力を常に加える必要がなくなり、効率低下を防止できる。
先ず、この様な参考例を考えるに至った経緯に就いて、以下に説明する。
例えば、特許文献16には、トラニオンを支持するアクチュエータの油圧室同士の油圧の差(差圧)と変速比(傾転角)とに基づいて、押圧装置の油圧室に導入する油圧、即ち、この押圧装置が発生する押圧力(ローディング圧力)、延いては、トラクション部の押し付け力を制御する技術が記載されている。この様な技術を採用した場合、上記差圧が実際にトロイダル型無段変速機で伝達されているトルクに比例する為、押圧力を効率良く(=厳密に必要な分)付与できる。但し、上記特許文献16には、モード切換時の押圧力の制御に関する具体的な記載はない。
又、特許文献17には、モード切換時に低速用、高速用両クラッチを同時に接続する技術が記載されている。但し、この様に両クラッチが同時に接続されると、トロイダル型無段変速機で動力が伝達されなくなり、この状態で正確な押圧力の制御ができなくなる可能性がある。一方、特願2008−014722には、モード切換中は、アクセル開度から推定されるエンジントルクと変速比とから目標ローディング圧(目標押圧力)を算出し、この算出された目標ローディング圧に調節する技術が開示されている。但し、この特願2008−014722に開示された技術の場合には、例えば特許文献18に記載された様な、トロイダル型無段変速機で動力を伝達しないモードを備えた無段変速装置に関しては考慮していない。
即ち、トロイダル型無段変速機で動力を伝達するモード同士の間でモード切換を行う場合には、このモード切換の前後で押圧力(ローディング圧力)が立ち上がっている為、油圧の応答遅れの影響を受けにくい。これに対して、トロイダル型無段変速機で動力を伝達しないモードを備えた構造の場合、効率確保の面からは、このトロイダル型無段変速機で動力を伝達していないモードの状態で、上記押圧力(ローディング圧力)を小さくする事が好ましい。そして、この様な押圧力(ローディング圧力)を小さくした、トロイダル型無段変速機で動力を伝達しないモードから、同じく動力を伝達するモードに切換を行なう場合に、この押圧力(ローディング圧力)が立ち上がっていない状態から立ち上げる必要があり、油圧の応答遅れの影響を受け易くなる。即ち、油圧の立ち上がりが遅れ、トラクション部で十分な押し付け力を確保しにくくなり、このトラクション部でグロススリップが発生する可能性がある。そして、この様なグロススリップに伴って、トラクション面に損傷を生じ、効率の低下や異音の発生に繋がる可能性がある。
尚、上述の様な油圧の立ち上がり遅れを防止すべく、トロイダル型無段変速機で動力を伝達していないモードの状態でも、同じく動力を伝達しているモードと同様に、動力の伝達に必要な大きな押圧力(ローディング圧力)を付与する事もできる。但し、この場合には、特許文献19に記載されている様に、ポンプロスや軸受でのロスにより効率の低下は免れない。又、モード切換に起因するグロススリップを防ぐ為に、モード切換中に一旦エンジントルクを小さくしてグロススリップの発生を防ぐ事も考えられる。但し、この様にエンジントルクを小さくする場合には、モード切換中に減速する等、走行性能が悪化する可能性がある。尚、特許文献20には、モード切換中に押圧力(ローディング圧力)を制御する技術が記載されている。但し、この技術に関しても、上述の特願2008−014722に開示された技術と同様に、モード切換の前後で(何れのモードでも)トロイダル型無段変速機が動力を伝達している場合を前提としている。
そこで、本参考例の無段変速装置の場合には、次の様な構成を採用している。
即ち、本参考例の無段変速装置は、トロイダル無段変速機と少なくとも1個のクラッチ装置とを備える。
このうちのトロイダル型無段変速機は、トラクション部に押し付け力を付与する為の油圧式の押圧装置を有するものである。
又、上記クラッチ装置は、上記トロイダル型無段変速機で動力の伝達を行う第一のモードと、このトロイダル型無段変速機で動力の伝達を行わない第二のモードとのモード切換を行うものである。
特に、本参考例の無段変速装置に於いては、上記第二のモードから上記第一のモードにモード切換を行う際に、上記押圧装置が発生する押圧力(ローディング圧力)が所定の値(所定の閾値)以上になった事を条件に、上記クラッチの断接(モード切換)を行う。尚、この所定の値(所定の閾値)とは、モード切換後の第一のモードで、トロイダル型無段変速機で動力の伝達を行うために必要な押圧力(必要押圧力、必要ローディング圧力)に対応する。
又、この様な本参考例の無段変速装置を実施する場合により好ましくは、上記モード切換を行う際の、上記所定の値(所定の閾値)に対応する、上記押圧装置が目標とする値(目標押圧力、目標ローディング圧力)を、その時点での、少なくともアクセル開度から推定されるエンジントルクと変速比とから算出する。
又、この場合に、例えば押圧装置に導入される油圧の大きさ等から求められる、実際の押圧力(実押圧力、実ローディング圧力)が、第一のモードで動力の伝達を行うのに必要な必要押圧力になる以前に、上記クラッチの断接(モード切換)を行う事もできる。即ち、上記所定の値(所定の閾値)を必要押圧力(必要ローディング圧力)よりも小さく(所定の値<必要押圧力)設定する事ができる。
以下、本参考例のより具体的な構成を、図17〜20を参照しつつ説明する。
本参考例の場合は、トルクコンバータ39と、前後進切換機構40を構成する遊星歯車式変速機41と前進用、後退用各クラッチ42、43と、トロイダル型無段変速機4と、このトロイダル型無段変速機4で動力の伝達を行う第一のモードを実現する際に接続される第一クラッチ44と、このトロイダル型無段変速機4で動力の伝達を行わない第二のモードを実現する際に接続される第二クラッチ(直結クラッチ)45と、出力軸9とを備える。本参考例の場合は、これら第一、第二各クラッチ44、45が、上述のクラッチ装置に対応する。又、上述の様なトロイダル型無段変速機4で動力の伝達を行う第一のモードと、このトロイダル型無段変速機4で動力の伝達を行わない第二のモードとを備えた構造は、図示の例の構造に限定されず、例えば前記特許文献18に記載された構造等を採用する事もできる。
何れにしても、本参考例の場合には、上記トロイダル型無段変速機4に、入力側ディスク10、10と出力側ディスク11とを互いに近付ける方向に押圧する事により、トラクション部に押し付け力を付与する為の、油圧式の押圧装置14を設けている。そして、本参考例の場合には、上記第二のモードから上記第一のモードにモード切換を行う際に、上記押圧装置14が発生する押圧力(ローディング圧力)が所定の値(所定の閾値)以上になった事を条件に、上記第一、第二各クラッチ44、45の断接(モード切換)を行う様にしている。尚、この所定の値(所定の閾値)とは、モード切換後の第一のモードで、トロイダル型無段変速機4で動力の伝達を行うために必要な押圧力(必要押圧力、必要ローディング圧力)に対応する。
この様な本参考例の場合は、トロイダル型無段変速機4の制御を、図18に示す様なフローチャートに基づいて行う。尚、このフローチャートに示した作業は、例えばイグニッションスイッチがONされてからOFFされるまでの間、繰り返し(自動的に)行われる。
先ず、ステップ1で、走行状態の読み込みが行われる。この走行状態の読み込みは、例えば入力側、出力側各回転センサ29、30や出力軸回転センサ31、アクセルセンサ32、油温センサ28、油圧センサ27(図1参照)等により、入力側、出力側各ディスク10、11の回転速度や、変速比、車速、アクセル開度、油温、油圧等を検出する事により行われる。次いで、ステップ2に進み、押圧装置14が発生する押圧力(ローディング圧力)の制御を行う。即ち、上記ステップ1で検出された各種状態量に基づいて、その時点で必要とされる押圧力(目標押圧力、目標ローディング圧力)を算出し、この押圧力となる様に、押圧力調整弁23、ライン圧制御用電磁開閉弁18(図1、2参照)等を制御する。
又、この様なステップ2で、押圧力の制御を行ったならば、ステップ3に進み、トロイダル型無段変速機4の変速比の制御を行う。即ち、上記ステップ1で検出された各種状態量に基づいて、その時点で必要とされる変速比(目標変速比)を算出し、この変速比となる様に、ステッピングモータ17、変速比制御弁22(図1、2参照)等を制御する。又、この様なステップ3で、変速比の制御を行ったならば、ステップ4に進み、クラッチの制御を行う。即ち、上記ステップ1で検出された各種状態量や、上記ステップ3で算出される目標変速比に基づいて、何れのクラッチ44、45を接続すべきか、乃至は、モード切換を行う(第一、第二各クラッチ44、45の断接を行う)べきか否かを判定し、必要に応じてこれら第一、第二各クラッチ44、45の断接制御(モード切換制御)を行う。そして、この様なステップ4で、クラッチの制御を行ったならば、終了を介して、開始(スタート)に戻る。
更に、本参考例の場合には、モード切換の制御を、図19に示す様なフローチャートに基づいて行う。即ち、図19のステップ1で、前述の図18のステップ1と同様に、走行状態の読み込みを行う。次いで、図19のステップ2で、モード切換が必要か否かを判定する。この判定は、例えばトロイダル型無段変速機4の変速比がモード切換ポイントであるか否かにより判定できる。この様な図19のステップ2で、モード切換が必要でないと判定された場合には、終了を介して開始(スタート)に戻る。一方、図19のステップ2で、モード切換が必要と判定された場合には、図19のステップ3に進み、モード切換が、トロイダル型無段変速機4で動力の伝達を行わない第二のモードから、このトロイダル型無段変速機4で動力の伝達を行う第一のモードに切り換えるものであるか否かの判定を行う。この様なステップ3で、第二のモードから第一のモードへのモード切換でない(第一のモードから第二のモードへのモード切換である)と判定された場合には、図19のステップ4に進み、通常のモード切換を行う。即ち、このステップ4で、その時点で(現在)接続されている第一クラッチ44の接続を断つと共に、その時点で接続を断たれている第二クラッチ45の接続を行う。
一方、上記図19のステップ3で、第二のモードから第一のモードへのモード切換であると判定された場合には、図19のステップ5に進み、押圧装置14がその時点で(現在)発生する押圧力(ローディング圧力)が前記所定の値(所定の閾値)以上であるか否かを判定する。即ち、上記押圧装置14が発生する押圧力(ローディング圧力)が、モード切換後の第一のモードで、トロイダル型無段変速機4で動力の伝達を行うために必要な値以上であるか否かを判定する。この様な図19のステップ5で、上記押圧装置14が発生する押圧力(ローディング圧力)が上記所定の値(所定の閾値)以上でないと判定された場合には、図19のステップ6に進み、上記押圧力がこの所定の値(所定の閾値)となる様にすべく、目標押圧力(目標ローディング圧力)をこの所定の値(所定の閾値)に設定する。即ち、この所定の値(所定の閾値)となる様に、上記押圧力の増圧制御を行う。一方、上記図19のステップ5で、上記押圧装置14が発生する押圧力(ローディング圧力)が上記所定の値(所定の閾値)以上であると判定された場合には、図19のステップ7に進み、モード切換を行う。即ち、その時点で(現在)接続されている第二クラッチ45の接続を断つと共に、その時点で接続を断たれている第一クラッチ44の接続を行う。
尚、この様なモード切換を行う際の、上記所定の値(所定の閾値)に対応する、上記押圧装置14が目標とする値(目標押圧力、目標ローディング圧力)は、その時点での、少なくともアクセル開度から推定されるエンジントルクと変速比とから算出する事が好ましい。又、この場合に、接続すべく第一クラッチ44が完全に接続されるまでの時間を考慮して、例えば上記押圧装置14に導入される油圧の大きさ等から求められる、実際の押圧力(実押圧力、実ローディング圧力)が、上記第一のモードで動力の伝達を行うのに必要な必要押圧力になる以前に、上記クラッチの断接(モード切換)を行う事もできる。この場合には、上記所定の値(所定の閾値)を必要押圧力(必要ローディング圧力)よりも小さく(所定の値<必要押圧力)設定する。即ち、第一のクラッチ44が完全に接続される状態で、上記必要押圧力(必要ローディング圧力)になる様に、この必要押圧力になる以前に、次のモードで接続すべきクラッチである第一クラッチ44の接続を開始する事もできる。
この様に本参考例の場合には、図20に示す様に、トロイダル無段変速機4で動力が伝達されない第二のモードから、同じく動力が伝達される第一のモードへのモード切換時に、押圧装置14の発生する押圧力(ローディング圧力)が、モード切換の後の第一のモードで必要とされる値(必要押圧力)に上昇している(乃至はその近傍の状態である)事を確認してから、モード切換のクラッチ制御が行われる。この為、押圧装置14に圧油を送り込む為の油圧回路等の油圧系の応答遅れの影響を小さくでき、クラッチ切換の際のグロススリップを防止して、耐久性の確保を図れると共に、より安定した走行を行える。又、モード切換時にエンジントルクを小さくする必要もない為、走行性能の悪化も低減でき、乗員に与える違和感の低減を図れる。又、トロイダル無段変速機4で動力を伝達しないモードで走行中に、動力の伝達を行う為に必要な大きなローディング圧力を付与しなくて済み、効率の低下も防止できる。
尚、図21は、従来のモード切換の制御のフローチャートを示している。この様なフローチャートに基づいてモード切換の制御を行った場合には、図22に示す様に、押圧装置14の発生する押圧力(ローディング圧力)が、モード切換後の第一のモードで必要とされる値(第一のモードで動力の伝達を行える値)に達するまで、エンジントルクを小さくする必要がある。この理由は、押圧力が十分に立ち上がるまで、エンジントルクを小さくしないと、トラクション部でグロススリップを生じる可能性がある為である。この様な従来構造の場合には、エンジントルクを小さくする分、走行性能が悪化し、乗員に違和感の与える可能性がある。