車両(自動車)用変速装置としてトロイダル型無段変速機を使用する事が、例えば多くの刊行物に記載され、且つ、一部で実施されて周知である。又、変速比の変動幅を大きくすべく、トロイダル型無段変速機と差動ユニット(例えば歯車式の差動ユニットである遊星歯車式変速機)とを組み合わせた無段変速装置も、例えば特許文献1〜4に記載される等により従来から広く知られている。図7は、このうちの特許文献3〜4に記載された、入力軸3を一方向に回転させたまま出力軸7を停止させられる、所謂ギヤードニュートラル状態(GN状態)を実現できる運転モードを備えた無段変速装置を示している。
エンジン1の出力は、ダンパ2を介して、入力軸3に入力される。この入力軸3に伝達された動力は、直接又はトロイダル型無段変速機4を介して、差動ユニットである遊星歯車式変速機5に伝達される。そして、この遊星歯車式変速機5の構成部材の差動成分が、クラッチ装置6(例えば、低速用、高速用各クラッチ)を介して、出力軸7に取り出される。又、上記トロイダル型無段変速機4は、入力側、出力側各ディスク8、9と、複数個のパワーローラ10と、それぞれが支持部材に相当する複数個のトラニオン(図示省略)と、アクチュエータ(図示省略)と、押圧装置11と、変速比制御ユニット12とを備える。
このうちの入力側、出力側各ディスク8、9は、互いに同心に、且つ相対回転自在に配置されている。又、上記各パワーローラ10は、互いに対向する上記入力側、出力側各ディスク8、9の内側面同士の間に挟持されて、これら入力側、出力側各ディスク8、9同士の間で動力(力、トルク)を伝達する。又、上記各トラニオンは、上記各パワーローラ10を回転自在に支持している。又、上記アクチュエータは、例えば油圧式のもので、上記各パワーローラ10を支持した上記各トラニオンを、それぞれの両端部に設けた枢軸の軸方向に変位させて、上記入力側ディスク8と出力側ディスク9との間の変速比を変える。又、上記押圧装置11は、油圧の導入に伴ってこの油圧に比例した押圧力を発生させる油圧式のもので、上記入力側ディスク8と上記出力側ディスク9とを互いに近付く方向に押圧する。又、上記変速比制御ユニット12は、上記入力側ディスク8と出力側ディスク9との間の変速比を所望値にする為に、上記アクチュエータの変位方向及び変位量を制御する。
図示の例の場合、上記変速比制御ユニット12は、制御器(ECU)13と、この制御器13からの制御信号に基づいて切り換えられる、ステッピングモータ14と、ライン圧制御用電磁開閉弁15と、変速比補正用電磁弁16と、モード切換用電磁弁17と、これら各部材14〜17により作動状態を切り換えられる制御弁装置18とにより構成している。尚、この制御弁装置18は、例えば、図示しない変速比制御弁や、差圧シリンダ(補正シリンダ)、補正用制御弁、高速クラッチ用、低速クラッチ用各切換弁、ライン圧調整弁(押圧力調整弁)等により構成される。このうちの変速比制御弁は、上記アクチュエータへの油圧の給排を制御するものであり、上記ステッピングモータ14によりその流路を切り換えられる。又、上記差圧シリンダは、例えば前記トロイダル型無段変速機4を通過する力(通過トルク)に応じて、このトロイダル型無段変速機4の変速比を補正すべく、上記変速比制御弁の切換状態を調節(微調節、補正)する為のものである。この様な差圧シリンダは、上記変速比補正用電磁弁16により切り換えられる、上記補正用制御弁により、圧油の給排状態が制御される。更に、上記高速クラッチ用、低速クラッチ用各切換弁は、前記クラッチ装置6を構成する低速用、高速用各クラッチへの圧油の導入状態を切り換えるもので、上記モード切換用電磁弁17の切り換えに基づいて切り換えられる。
又、前記ダンパ2部分から取り出した動力により駆動されるオイルポンプ19から吐出した圧油は、上記制御弁装置18や上記押圧装置11、上記クラッチ装置6(低速用、高速用各クラッチ)等に送り込まれる。この様な制御弁装置18等に送り込まれる圧油の調整(調圧)は、この制御弁装置18を構成し、上記ライン圧制御用電磁開閉弁15の開閉に基づいてその開弁圧が調節される、上記ライン圧調整弁(押圧力調整弁)により行われる。又、この様にライン圧調整弁(押圧力調整弁)により調整された圧油は、運転者の操作に応じて切り換えられる手動油圧切換弁、上記高速クラッチ用、低速クラッチ用各切換弁を介して、上記クラッチ装置6を構成する低速用クラッチ又は高速用クラッチに送り込まれる。これら低速用、高速用各クラッチのうちの低速用クラッチは、減速比を大きくする{変速比無限大(ギヤードニュートラル状態、GN状態)を含む}低速モードを実現する際に接続されると共に、減速比を小さくする高速モードを実現する際に接続を断たれる。これに対して、上記高速用クラッチは、上記低速モードを実現する際に接続を断たれると共に高速モードを実現する際に接続される。尚、これら低速用、高速用各クラッチへの圧油の給排状態は、前記モード切換用電磁弁17の切り換えに応じて切り換えられる。
図8は、トロイダル型無段変速機4の変速比(増速比)と無段変速装置全体としての速度比(増速比)との関係の1例を示している。例えば、上記低速用クラッチが接続され、上記高速用クラッチの接続が断たれた低速モードでは、実線αで示す様に、トロイダル型無段変速機4の変速比を、GN状態を実現できる値(GN値)から減速する程、無段変速装置全体としての速度比を停止状態(速度比0の状態)から前進方向(+:正転方向)に増速させられる。又、同じくGN値から増速する程、同じく停止状態から後退方向(−:逆転方向)に増速させられる。一方、上記高速用クラッチが接続され、上記低速用クラッチの接続が断たれた高速モードでは、実線βで示す様に、上記トロイダル型無段変速機4の変速比を増速する程、上記無段変速装置全体としての速度比を(前進方向に)増速させられる。
尚、一般的には、「変速比」は減速比であり、「速度比」は増速比であり、「変速比」の逆数が「速度比」となる(「速度比」=1/「変速比」)。但し、本明細書並びに特許請求の範囲では、トロイダル型無段変速機に関する入力側と出力側との間の比(入力側ディスク8と出力側ディスク9との間の比)に就いて「変速比」の言葉を用い、無段変速装置全体に関する入力側と出力側との間の比(入力軸3と出力軸7との間の比)に就いて「速度比」の言葉を用いている。この理由は、トロイダル型無段変速機の比なのか、無段変速装置全体としての比なのかを明確にし易くする為である。従って、本明細書並びに特許請求の範囲では、「変速比」が減速比に、「速度比」が増速比に、必ずしも対応するものではない。
上述した様な無段変速装置を組み込んだ車両では、アクセルペダルの操作(アクセル開度)や車両の走行速度(車速)から得られる、その時点での車両の走行状態(運転状況)に基づいて、制御器13により、上記無段変速装置の最適な速度比(目標速度比)を求める。そして、この目標速度比を実現すべく、上記制御器13の制御信号に基づいてステッピングモータ14を駆動し、変速比制御弁を切り換える事により、トロイダル型無段変速機4の変速比を、上記目標速度比に対応する目標変速比に調節する。又、これと共に、無段変速装置の目標速度比に応じて、モード切換用電磁弁17を切り換える事により、上記低速用、高速用各クラッチの断接状態を切り換え、必要な走行モード(低速モード或いは高速モード)を選択する。これらにより、上記無段変速装置の速度比を、その時点での車両の走行状態に応じた最適な値(目標速度比)に調節する。
又、前記特許文献1〜2には、上述の様な、無段変速装置の速度比を車両の走行状態(運転状況)に基づいてその時点の最適な値に自動的に調節する自動変速モードの他、運転者の意思(操作)に応じて上記速度比を有段式に変化させる手動変速モード(マニュアル変速モード)でも運転を行える様にした構造が記載されている。そして、この様な特許文献1〜2に記載された構造の場合も、上述の図7に示した従来構造と同様に、入力軸3を一方向に回転させたまま出力軸7を停止させられる、ギヤードニュートラル状態を実現できるものとしている。この為、従来から普及している自動変速装置とは異なり、上述の図7に示した従来構造と同様に、トルクコンバータを省略する事ができる。
但し、この様にトルクコンバータを省略した構造の場合、例えば車両が停止している状態で運転者の操作に基づき手動変速モードの第1段(第1速)が選択された場合に、そのまま無段変速装置の速度比をこの第1段に対応する速度比に調節する事は好ましくない。この理由は、上記トルクコンバータを備えた従来の自動変速装置の場合とは異なり、このトルクコンバータにより、エンジンのトルクを吸収する事ができない為である。即ち、そのまま上記第1段に対応する速度比に調節した場合には、上記エンジンでノッキングが発生したり、著しい場合にはこのエンジンが停止(エンスト)してしまう可能性がある。上記特許文献1〜2に記載された構造の場合には、上記手動変速モードの第1段が選択された場合に、トロイダル型無段変速機の変速比を、GN状態を実現できる値(GN値)から連続的に変化させる事で、車両の発進を行う様にしていると考えられる。
但し、この様な特許文献1〜2に記載された技術を採用しても、上述した様なエンジンのノッキングやエンストを十分に防止する事ができず、円滑な発進動作や低速走行、減速走行、停止を行えない可能性がある。即ち、上記特許文献1〜2に記載された技術の場合は、手動変速モードで第1段に操作されると、上記変速比を単にGN値から連続的に変化させるだけである。この為、例えば制動装置(ブレーキ装置)を作動させた状態で{サービスブレーキを作動させたり(ブレーキペダルを踏み込んだり)、パーキングブレーキを作動させたまま}上記第1速に操作された場合、上記変速比をGN値から連続的に変化させている途中で、上記エンジンがノッキングしたりエンストしたりする可能性がある。そして、この状態から上記制動装置を解除しても、上記車両を円滑に発進させる事ができなかったり、低速で走行させる事ができない可能性がある。
又、上記車両を停止させるべく減速している途中や、低速で走行している途中で、例えば自動変速モードや手動変速モードの第2段に選択されている状態からこの手動変速モードの第1段に操作した場合に、車両が停止していないにも拘らずGN値に変速させられ、この車両が運転者が意図していないのに停止してしまう可能性がある。又、この様にGNポイントの状態で車両が一旦停止した状態から、変速比が連続的に変化する事で、この車両が発進し始め、運転者の意思と車両の挙動とが合致しなくなる可能性がある。この為、上述の様な特許文献1、2に記載された技術を採用しても、円滑な発進動作や低速走行、減速走行、停止を行えない可能性がある。
尚、本発明に関連する先行技術文献として、上述した様な特許文献1〜4の他、例えば特許文献5〜7が挙げられる。
特開2000−193077号公報
特開2001−165296号公報
特開2004−225888号公報
特開2004−211836号公報
特開2006−349159号公報
特開2007−211812号公報
特開2006−316981号公報
図1〜6は、本発明の実施の形態の1例を示している。尚、本例の特徴は、運転者の操作に応じて所定の速度比(変速段)に調節される手動変速機能に基づいて運転を行っている(手動変速モードで運転を行っている)場合でも、円滑な発進動作や低速走行、減速走行、停止を行える様にすべく、トロイダル型無段変速機4の(入力側、出力側両ディスク8、9同士の間の)変速比、延いては、無段変速装置全体としての(入力軸3と出力軸7との間の)速度比を調節するパターンを工夫した点にある。その他の部分の構造及び作用は、前述の図7に示した従来構造と同様であるから、重複する説明を省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。尚、本例の場合は、無段変速装置全体としての速度比(増速比)とトロイダル型無段変速機4の変速比(増速比)との関係を、前述した図8に示す様に設定している。この様な設定は、例えば遊星歯車式変速機5等の減速比や伝達歯車の歯数比を規制する事により行う。
本例の場合も、前述の図7に示した従来構造と同様に、制御器13の制御信号に基づいてクラッチ装置6を構成する低速用、高速用各クラッチの断接状態を切り換える事により、減速比を大きくする(ギヤードニュートラル状態を含む)低速モードと、減速比を小さくする高速モードとを実現する。この為に、上記低速用、高速用各クラッチの断接状態を、上記制御器13の制御信号に基づいて通電状態を制御されるモード切換用電磁弁17により、切換を自在としている。又、上記制御器13に、入力側、出力側各回転センサ20、21並びに出力軸回転センサ22の検出信号と、油圧センサ23並びに油温センサ24の検出信号と、アクセルセンサ25並びにブレーキスイッチ26、パーキングブレーキスイッチ27、ポジションスイッチ28の検出信号とを入力している。このうちの入力側回転センサ20は、入力側ディスク8の回転速度を、出力側回転センサ21は出力側ディスク9の回転速度を、出力軸回転センサ22は出力軸7の回転速度を、それぞれ測定するものである。そして、これら各センサ20、21、22が測定する各回転速度に基づいて、トロイダル型無段変速機4の変速比、並びに、車両の走行速度(車速)を算出する。
又、上記油圧センサ23は、例えばパワーローラ10を支持するトラニオンを、その両端部に設けた枢軸の軸方向に変位させる、油圧式のアクチュエータに設けた1対の油圧室の圧力(油圧)を測定するものである。即ち、これら両油圧室の油圧の差(差圧)、延いては、この差圧に対応する、上記トロイダル型無段変速機4を通過するトルク(通過トルク)を、検出乃至は算出自在としている。又、上記油温センサ24は、上記トロイダル型無段変速機4乃至は無段変速装置内を循環する潤滑油(トラクションオイル)の温度(油温)を測定するものである。又、上記アクセルセンサ25は、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検出するものである。又、上記ブレーキスイッチ26は、制動装置を構成するサービスブレーキ(常用ブレーキ、例えばフットブレーキ)が操作された事(例えばブレーキペダルが踏まれた事)を検出して、その事(必要に応じて踏み込み量)を表す信号を発するものである。又、上記パーキングブレーキスイッチ27は、同じく制動装置を構成するパーキングブレーキが操作された事(例えば、パーキングブレーキペダルが踏み込まれた事、又は、サイドレバーが引かれたこと)を検出して、その事(例えばON・OFF)を表す信号を発するものである。又、上記ポジションスイッチ28は、運転席に設けられたシフトレバー(操作レバー、セレクトレバー)の選択位置を表す信号を発するものである。
又、上記各センサ20〜25並びに上記スイッチ26〜28からの検出信号が入力される上記制御器13は、少なくとも、上記出力軸回転センサ22(又は運転席の速度メータ用の速度センサ)の出力信号から検出される車両の走行速度(車速)と、上記アクセルセンサ25の出力信号から検出されるアクセル開度とから得られる、その時点での車両の走行状態に基づいて、無段変速装置の目標速度比(その時点での走行状態に応じた最適な速度比)に対応する、トロイダル型無段変速機4の目標変速比を求め、このトロイダル型無段変速機4の変速比(延いては無段変速装置の速度比)を、この目標変速比(目標速度比)に調節する機能(自動変速機能)を有する。尚、上記車速並びにアクセル開度(走行状態を表す状態量)と目標速度比(目標変速比)との相関関係は、上記制御器13のメモリに予めマップ(後述する図6に示す様な変速マップ)や計算式として記憶させておく。そして、この様なマップ(MAP)や計算式を用いて、その時点での状態量(車速、アクセル開度)に応じた目標速度比(目標変速比)に調節する。又、この様なトロイダル型無段変速機4の変速比(延いては無段変速装置全体としての速度比)の調節は、上記制御器13からの制御信号により、ステッピングモータ14を駆動し、前記アクチュエータへの油圧の給排を切り換えると共に、必要に応じて前記モード切換用電磁弁17の切り換えに基づき、前記低速用、高速用両クラッチの断接状態(高速、低速各モード)を切り換える事により行う。
尚、本例の場合は、上記トロイダル型無段変速機4の目標変速比を、上記制御器13に予め記憶させた、図6に示す様な変速マップに基づいて求める。この変速マップ(Shift MAP )は、車両の走行速度(横軸)と、最適な減速力又は駆動力を得る為に必要な無段変速装置の速度比に対応する上記目標変速比(縦軸)との相関関係を、アクセル開度毎に表したものである。又、このアクセル開度毎にそれぞれ表された、上記車両の走行速度と上記目標変速比との相関関係に対応する各線は、それぞれモード切換ポイントを挟んで低速側(図6の左側)が「低速モード用変速マップ」に、同じく高速側(図6の右側)が「高速モード用変速マップ」に、それぞれ相当する。この様な本例の場合は、上記低速用クラッチが接続されると共に、上記高速用クラッチの接続を断たれた低速モード状態では、上記低速モード用変速マップを用いて、その時点でのアクセル開度と車両の走行速度とに対応する上記目標変速比を求め、上記トロイダル型無段変速機4の変速比をその目標変速比に調節する。一方、上記高速用クラッチが接続されると共に、上記低速用クラッチの接続を断たれた高速モード状態では、上記高速モード用変速マップを用いて、その時点でのアクセル開度と車両の走行速度とに対応する上記目標変速比を求め、上記トロイダル型無段変速機4の変速比をその目標変速比に調節する。
尚、上述の様な変速マップに基づいて求められる目標変速比は、前記油圧センサ23や油温センサ24等により検出される、その時点での差圧(通過トルク)や油温等に応じて補正(微調整)する事ができる。この様に差圧(通過トルク)や油温等に応じて目標変速比を補正すれば、その時点の運転状況により合致した変速比(延いては速度比)の調節(変速制御)を行える。又、前述の図7に示した従来構造の場合には、変速比補正用電磁弁16(図7参照)を設け、この変速比補正用電磁弁16により差圧シリンダ(を構成するロッド)を変位させ、変速比制御弁の流路を切り換える事により、例えば車両の停止時並びに発進時等の、ギヤードニュートラル状態乃至はその近傍の状態で必要とされる変速比の補正(微調整)を行っていた。これに対して、本例の場合には、この様な補正を行う為の変速比補正用電磁弁16や差圧シリンダを設けていない。但し、本例の場合には、上述の様な、車両の停止時や発進時等の、ギヤードニュートラル状態乃至はその近傍の状態で必要とされる変速比の補正(微調整)を、前記ステッピングモータ14で行える様にしている。即ち、必要な変速比の補正量(油温等に基づく補正も含む)を制御器13で算出すると共に、この算出された補正量に応じて上記目標変速比を補正し、この補正した目標変速比に調節すべく、上記ステッピングモータ14を駆動する様にしている。
又、本例の場合には、上記トロイダル型無段変速機4の変速比(延いては無段変速装置の速度比)の調節を、上述の様な、その時点での運転状態に応じた最適な値に自動的に調節する自動変速機能により行える他、図4、5に示す様な、それぞれが予め設定された互いに異なる速度比である複数段の値の何れかに、運転者の操作に基づいて調節する手動変速機能によっても行える様にしている{自動変速モード(オート変速モード)と手動変速モード(マニュアル変速モード)とを備えている}。そして、少なくとも上記運転者の操作に基づいて選択される、上記自動変速機能(自動変速モード)と手動変速機能(手動変速モード)とのうちの何れかの機能(変速モード)に基づいて、上記変速比延いては速度比の調節を行える様にしている。この為に、本例の場合は、運転者が所望の変速段を選択する為(変速段を増速したり減速したりする為)のパドルシフトを設けている。そして、このパドルシフトの操作状況{増速(UP)、減速(DOWN)}を検出する為のパドルシフトスイッチ29の検出信号を、前記制御器13に入力自在としている。又、これと共に、この検出信号に基づいて、この制御器13により、当該選択された変速段に対応する変速比延いては速度比に調節する様にしている。尚、この様なパドルシフトに代えて、シフトレバーやステアリングホイール自体に設けたスイッチにより、変速段を選択{増速(UP)、減速(DOWN)}する様にしても良い。何れの場合にも、上記制御器13により、上記運転者の選択した変速段を検出し、この選択された変速段に対応する変速比延いては速度比に、前記ステッピングモータ14の駆動に基づいて調節する。
但し、上記手動変速機能に基づいて変速比延いては速度比の調節を行っている場合に、上記運転者が選択した変速段に対応する変速比延いては速度比に単に調節するだけでは、この運転者の操作によっては、エンジン1の回転速度が許容最大回転速度を超えてこのエンジン1を損傷する原因となったり、或は、これとは逆に過度に回転速度が小さくなり、ノッキングやエンストを招く可能性がある。又、前述した様に、上記運転者が前進側第1段又は後退側第1段に操作した状態で、例えば前述した特許文献1、2に記載された発明の様に、上記トロイダル型無段変速機4の変速比を、GN状態を実現できる値(GN値)から連続的に変化させるだけでは、同じく前述した通りノッキングやエンストを十分に防止できず、円滑な発進動作や低速走行、減速走行、停止を行えなくなる可能性がある。
そこで、本例の場合には、無段変速装置の組み込んだ車両の速度が所定の速度(例えば後述する所定速度V1 、又は、それぞれの変速段毎に設定されるアンダーラン速度)以下の場合に、上記運転者の操作に基づき上記手動変速機能が選択されていても(運転者が複数の変速段のうちの何れかの変速段を選択していても)、この選択に拘らず、前記自動変速機能に基づいて上記変速比延いては速度比の調節(後述するギヤードニュートラル制御、又は、当該変速段に対応する速度比からの減速制御)を行う様にしている。又、これと共に、上記無段変速装置を組み込んだ車両の速度が所定の速度(例えば後述する、それぞれの変速段毎に設定されるオーバーラン速度)以上の場合に、上記運転者の操作に基づき上記手動変速機能が選択されていても(運転者が複数の変速段のうちの何れかの変速段を選択していても)、この選択に拘らず、前記自動変速機能に基づいて上記変速比延いては速度比の調節(当該変速段に対応する速度比からの増速制御)を行う様にしている。
この様な変速比延いては速度比の調節を行う為に、前記制御器13が備える機能(変速制御機能)に就いて、図2のフローチャートを参照しつつ説明する。尚、このフローチャートに示した作業は、運転者の操作に基づき手動変速機能(マニュアル変速モード)が選択されている間{例えば、シフトレバーが手動変速機能に基づく変速を行える位置(シフトレバーにより変速段の増速、減速が行える位置、或は、パドルシフトで変速を行う旨の選択位置)に切り換えられている間、或は、パドルシフトの操作が開始されてから所定の条件を満たすまで(例えば所定時間経過するまで、又は、その時点での変速段に対応するアンダーライン速度又はオーバーラン速度に達するまで)の間}、繰り返し(自動的に)行われる。
先ず、上記制御器13は、ステップ1で、車両の速度(車速)が所定の速度V1 を超えている(車速>V1 )か否(車速≦V1 )かを判定する。この判定は、例えば車輪の回転速度に比例する前記出力軸7の回転速度を検出する為の、前記出力軸回転センサ22の検出信号、或は、運転席の速度メータ用の速度センサの検出信号等に基づいて行う。尚、上記所定の速度V1 は、例えば10Km/h程度のチューニング値とし、前述した変速マップ(車速と変速比とアクセル開度との関係)や予め設定される前進側第1段又は後退側第1段の変速比延いては速度比に応じて、所望の性能を発揮できる値(ノッキングやエンストを防止できる値)に設定する。例えば、上記所定の速度V1 は、前進側第2段のアンダーラン速度(前進側第2段に対応する速度比で走行したと仮定した場合に、エンジン1の回転速度が過小になる為に運転者の選択に拘らず、この前進側第2段に対応する速度比から減速を開始すべき速度として設定される速度)以下に設定する。
この様なステップ1で、上記車速が所定の速度V1 を超えている(車速>V1 )と判定された場合には、ステップ2に進み、通常の手動変速制御(マニュアル変速制御)を行う。このステップ2の通常の手動変速制御は、例えば図3のフローチャートに基づいて行う。尚、この図3のフローチャートに示した作業は、運転者の変速操作(増速操作又は減速操作)の検出を条件に開始される。即ち、このステップ2に達した時点で、運転者の変速操作の検出がなければ、上記図3のフローチャートに示す作業は行わずに、このステップ2は単に通過し、図2のフローチャートの「終了」に進むと共に、「開始」に戻る。一方、このステップ2に達した時点で、運転者の変速操作(増速操作又は減速操作)を検出した場合には、この図3のフローチャートに示す作業を行う。即ち、先ず、この図3のステップ2−1〜2−7で運転者が選択した(操作した)変速段を判定し、その変速段に対応する続くステップ2−8〜2−14に進む。例えば、上記ステップ2−6で運転者が選択した変速段が第5段(5速)であると判定された場合には、続くステップ2−13に進む。この様な判定に基づきステップ2−8〜2−14の何れかに進んだならば、これら各ステップ2−8〜2−14で、当該選択された変速段への変速を許可するか否かの判定(変速可否チェック)を行う。
上記各ステップ2−8〜2−14では、例えば、上記運転者の操作が増速操作(1段増速側に変速操作)の場合は、その時点での車両の速度が、この1段増速された変速段に対応するアンダーラン速度(この速度以下で走行すると、エンジン1の回転速度が過小になりこのエンジン1が止まってしまう可能性があると考えられる速度、即ち、アンダーラン閾値)を超えているか否かを判定する。即ち、例えば第4段(4速)で走行中に第5段(5速)に変速(増速)する場合を考えると、図4に示す様に、上記車速がaの範囲であるか否かを判定する。そして、このaの範囲であると判定された場合には、続くステップ2−15〜2−21(第5段に変速の場合はステップ2−20)で変速を許可する旨(変速OK)の判定をし、続くステップ2−22〜2−28(第5段に変速の場合はステップ2−27)で上記速度比を1段増速側に変速する(第5段に対応する速度比に変速する)。
そして、図3のフローチャートの「終了」、並びに、図2のフローチャートの「終了」を介して、この図2の「開始」に戻る。これに対して、上記車両の速度がアンダーラン速度以下である、即ち、同じく第4段(4速)で走行中の場合を考えると、この車速が上記図4のbの範囲であると判定された場合には、続くステップ2−15〜2−21(第5段に変速の場合はステップ2−20)で変速を許可しない旨(NO)の判定をし、続くステップ2−29で上記速度比を現在の変速段(第4段)に対応する速度比のまま維持する。そして、図3のフローチャートの「終了」、並びに、図2のフローチャートの「終了」を介して、この図2の「開始」に戻る。尚、上記図4で、車速cの範囲は、第4段(4速)に対応する速度比を維持したまま走行可能な車速の範囲に、車速dの範囲は、第5段(5速)に対応する速度比を維持したまま走行可能な車速の範囲に、それぞれ対応する。
一方、上記運転者の操作が減速操作(1段減速側に変速操作)の場合には、上記ステップ2−8〜2−14では、その時点での車両の速度が、この1段減速された変速段に対応するオーバーラン速度(この速度以上で走行すると、エンジン1の回転速度が過大になりこのエンジン1の許容最大回転速度を超えてしまう可能性があると考えられる速度、即ち、オーバーラン閾値)未満であるか否かを判定する。即ち、例えば第4段(4速)で走行中に第3段(3速)に変速(減速)する場合を考えると、上記図4に示す様に、上記車速がeの範囲であるか否かを判定する。そして、このeの範囲であると判定された場合には、続くステップ2−15〜2−21(第3段に変速の場合はステップ2−18)で変速を許可する旨(変速OK)の判定をし、続くステップ2−22〜2−28(第3段に変速の場合はステップ2−25)で上記速度比を1段減速側に変速する(第3段に対応する速度比に変速する)。そして、図3のフローチャートの「終了」、並びに、図2のフローチャートの「終了」を介して、この図2の「開始」に戻る。
これに対して、上記車両の速度がオーバーラン速度以上である、即ち、同じく第4段(4速)で走行中の場合を考えると、この車速が上記図4のfの範囲であると判定された場合には、続くステップ2−15〜2−21(第3段に変速の場合はステップ2−18)で変速を許可しない旨(NO)の判定をし、続くステップ2−29で上記速度比を現在の変速段(第4段)に対応する速度比のまま維持する。そして、図3のフローチャートの「終了」、並びに、図2のフローチャートの「終了」を介して、この図2の「開始」に戻る。尚、上記図4で、車速gの範囲は、第3段(3速)に対応する速度比を維持したまま走行可能な車速の範囲に対応する。又、それぞれの変速段毎に設定される、上記アンダーラン速度(アンダーラン閾値)並びにオーバーラン速度(オーバーラン閾値)は、上記エンジン1の性能との関係で、予め実験や計算により求めておき、制御器13の記憶装置(メモリ)に記憶させておく。
尚、上記図2に示すステップ2で、運転者の変速操作の検出に基づき上述した図3に示すフローチャートの作業を行う場合も、この運転者の変速操作の検出がなくこの図3に示すフローチャートの作業を行わない場合(ステップ2を単に通過するだけの場合)も、このステップ2に続く「終了」に進む前に、次の判定を行う事が好ましい。即ち、現在の車速が、現在の選択されている変速段に対応する速度比で走行可能であるか否か(そのままの変速段の速度比のまま走行し続ける事ができるか否か)の判定を行う事が、好ましい。要するに、現在の車速が、当該選択されている変速段のアンダーラン速度を超えており、且つ、オーバーラン速度未満であるか否かを判定する。例えば、現在の変速段(乃至はステップ2で変速された後の変速段)が第4段(4速)である場合を考えると、現在の車速が、図4のcの範囲内であるか否かを判定する。そして、この図4のcの範囲内であると判定された場合には、上記第4段(4速)に対応する速度比を維持したまま「終了」に進み「開始」に戻る一方、上記cの範囲内でないと判定された場合には、この第4段(4速)に対応する速度比から減速又は増速する。即ち、現在の速度がアンダーラン速度以下の場合には自動変速機能に基づき自動的に減速制御し、同じくオーバーラン速度以上の場合には同じく自動変速機能に基づき自動的に増速制御する。尚、この様な減速や増速を開始する為のアンダーラン速度やオーバーラン速度は、その時点のアクセル開度に応じて変化させる事もできる。
一方、前記ステップ1で、上記車速が所定の速度V1 以下である(車速≦V1 )と判定された場合には、ステップ3に進む。このステップ3では、車両が実質的に停止している{例えば車両の速度(車速)が1km/h以下である}か否かを判定する。尚、このステップ3では必要に応じて、車両に制動力を付与する為の制動装置(ブレーキ装置、例えばサービスブレーキやパーキングブレーキ等)が操作されている(ブレーキペダルが踏み込まれている、パーキングブレーキペダルが踏み込まれている、サイドレバーが引かれている)か否の判定を行う事もできる。この場合には、上記制動装置の操作を、前記ブレーキスイッチ26やパーキングブレーキスイッチ27の検出信号に基づいて判定する。何れにしても、上記ステップ3で、車両が停止中(車速が1km/h以下である、必要に応じてブレーキ装置が操作されている)と判定された場合には、ステップ4に進み、停止中のギヤードニュートラル制御を行う。即ち、運転者の操作に基づき手動変速機能が選択されていても(前進側第1段又は後退側第1段が選択されていても)、この選択された変速段に対応する変速比延いては速度比に調節せずに、自動変速機能に基づいてこの変速比延いては速度比を調節する。
より具体的には、この変速比延いては速度比を、例えば図5に実線イ、ロでそれぞれ示す様に、入力軸3を一方向に回転させたまま出力軸7を停止させられる値(GN値)から、選択された進行方向に対応する方向に発進並びに低速で走行させられる程度の駆動力(最適駆動力、最適クリープ力)を、エンジン1が停止する事なく上記出力軸7から出力させられる値に調節する。尚、上記最適駆動力(最適クリープ力)を出力軸7から出力させられる値とは、上記入力軸3を一方向に回転させたままこの出力軸7に大きな負荷を加えた場合でも、トロイダル型無段変速機4のトルクシフトに基づいて上記入力軸3を一方向に回転させたまま上記出力軸7を停止させられる状態を上記エンジン1を停止する事なく実現できる値の範囲内で、上記選択された進行方向に応じた駆動力(クリープ力)を上記出力軸7から出力できる値を言う。尚、最適クリープ力に対応する値(変速比)や、上記車両が停止している場合の変速比延いては速度比の調節(自動変速機能)に関しては、例えば前記特許文献5にも記載されている為、これ以上の詳しい説明は省略する。何れにしても、上記変速比延いては速度比の調節は、制御器13によりステッピングモータ14を駆動する事により行う。
一方、上記ステップ3で、車両が停止していない(車速が1km/hを超えている、必要に応じてブレーキ装置が操作されていない)と判定された場合には、ステップ5以降に進み、走行中のギヤードニュートラル制御を行う。即ち、このステップ5以降では、運転者の操作に基づき手動変速機能が選択されていても(前進側第1段又は後退側第1段が選択されていても)、必要に応じて、この選択された変速段に対応する変速比延いては速度比に調節せずに、自動変速機能に基づいてこの変速比延いては速度比を調節する。即ち、上記ステップ5で、自動変速機能に基づいて目標速度比を求めると共に、続くステップ6で、この目標速度比の絶対値が、選択された変速段(前進側第1段又は後退側第1段)に対応する速度比(固定速度比)の絶対値以上(|目標速度比|≧|固定速度比|)であるか否かを判定する。そして、このステップ6で、上記自動変速機能に基づいて求められた目標速度比の絶対値が上記固定速度比の絶対値以上の場合には、ステップ2に進み、前述したステップ2と同様の手動変速制御を行う。即ち、上記無段変速装置全体としての速度比を、上記選択された変速段(前進側第1段又は後退側第1段)に対応する速度比(固定速度比)に維持する。これに対して、上記ステップ6で、上記自動変速機能に基づいて求められた目標速度比の絶対値が上記固定速度比の絶対値未満の場合には、ステップ7に進み、上記無段変速装置全体としての速度比をこの目標速度比に調節する。尚、上記ステップ6で速度比の絶対値で比較する理由は、前進と後退とで速度比の正負(+、−)が、0(ギヤードニュートラル状態)を挟んで逆になる為である。但し、対応する進行方向に応じたトロイダル型無段変速機4の変速比を比較する事もできる。
この様なステップ5〜7では、自動変速機能に基づき、例えば次の様な変速比延いては速度比の調節を行える。即ち、上記車両が(所定の速度以下で)動いている事、又は、上記制動装置が解除されている事を条件に、図5の鎖線ハ、ニに示す様に、前進側第1段又は後退側第1段に対応する変速比延いては速度比を目標に(この目標となる値と最適クリープ力に対応する値との間で)、その時点での上記トロイダル型無段変速機を通過するトルク(通過トルク、差圧)に応じて(例えば通過トルク又は差圧が所定の値に維持される様に)、上記変速比延いては速度比を調節する事ができる。
この場合に、例えば、次の様に無段変速装置全体としての速度比を調節(増速、減速)する。
(1)通過トルク(差圧)が所定値Aよりも小さい場合は、速やかに増速する。
(2)通過トルク(差圧)が所定値A以上、所定値B以下の場合は、所定の速度{(1)の増速速度よりも遅い速度、且つ、一定速度}で増速する。
(3)通過トルク(差圧)が所定値Bよりも大きい場合は、変速を一旦(所定値B以下になるか次述する所定値Cよりも大きくなるまで)停止する(その時点の速度比のまま維持する)。
(4)通過トルク(差圧)が所定値Cよりも大きい場合は、例えば、車両が位置する路面が上り坂(或は、これとは逆に下り坂)と予測できる為、必要な駆動力(或はエンジンブレーキ)を得られる様にすべく、減速する。
尚、上記各所定値A〜Cは、所定値A<所定値B<所定値Cの関係を有する。又、上記通過トルク(差圧)は、トロイダル型無段変速機4を通過する方向、即ち、エンジン1側から加わるトルクであるか車輪側から加わるトルクであるかに応じて、その値の正負(+、−)が異なる(正負が反転する)。但し、この様な通過トルク(差圧)の比較は、発進時の場合には、絶対値で行う事ができる。この理由は、次の通りである。即ち、通過トルク(差圧)の絶対値が例えば所定値Cよりも大きい場合は、路面状況が例えば2通り考えられる。即ち、上り坂の場合等、車両の進行に対する抵抗(妨げ)が大きい為、エンジン1側から加わるトルクに基づき通過トルク(差圧)が大きくなっている状況と、下り坂等、車両を進行させる力(トルク)が車輪から加わり、この車輪側から加わるトルクに基づいて通過トルク(差圧)が大きくなっている状況とが考えられる。但し、何れの場合にも{通過トルク(差圧)の正負に拘らず}、速度比を減速する事で、必要な駆動力(クリープ力)やエンジンブレーキを得られる。この為、発進時には、通過トルク(差圧)を絶対値で比較する事ができる。又、上記各所定値A〜Cは、予め実験や計算により、所定の性能を発揮{ノッキングやエンスト、回転速度が過大になる事等を防止でき、しかも、車両の位置する路面状況(例えば上り坂、下り坂、砂利路、段差路等)に応じた適切な駆動力(クリープ力)を出力軸7から出力}できる値にそれぞれ設定しておく。尚、発進時の通過トルク(差圧)に応じて行う速度比の調節は、例えば前記特許文献6にも記載されている他、特願2007−333474に開示されている為、これ以上の詳しい説明は省略する。
又、例えば、エンジン1の出力を調節する為のアクセル装置が操作(アクセルペダルの踏み込みが開始)された事(例えばアクセルセンサ25によりその旨を検出した事)を条件に、図5の鎖線ホ、ヘに示す様に、上記通過トルク(差圧)に拘わらず、選択された変速段(前進側第1段又は後退側第1段)に対応する変速比延いては速度比に速やかに調節する事もできる。尚、この場合の変速速度は、例えば最大変速速度(例えば、トラニオンを枢軸の軸方向に変位させる為のアクチュエータへの圧油の給排状態を切り換える変速比制御弁の切り換え状態を変更するステッピングモータ14の最大駆動速度)とする事ができる。
又、例えば、制動装置が操作された(ブレーキペダルが踏み込まれた、パーキングブレーキペダルが踏み込まれた、サイドレバーが引かれた)事を条件に、図5の鎖線ト、チに示す様に、選択された進行方向に対応する方向に発進並びに低速で走行させられる程度の駆動力(最適クリープ力)を、エンジン1が停止する事なく出力軸7から出力させられる値を目標に(この目標となる値と前進側第1段又は後退側第1段に対応する値との間で)、その時点での通過トルク(差圧)に応じて(例えば通過トルク又は差圧が所定の値に維持される様に)、上記変速比延いては速度比を調節する事ができる。
この場合に、例えば、次の様に無段変速装置全体としての速度比を調節(増速、減速)できる。
(1)通過トルク(差圧)が所定値Dよりも小さい場合は、速やかに減速する。
(2)通過トルク(差圧)が所定値D以上、所定値E以下の場合は、所定の速度{(1)の減速速度よりも遅い速度、且つ、一定速度}で減速する。
(3)通過トルク(差圧)が所定値Eよりも大きい場合は、変速を一旦(所定値D以下になるか次述する所定値Fよりも大きくなるまで)停止する(その時点の速度比のまま維持する)。即ち、変速を停止する事により、例えば下り坂で必要なエンジンブレーキを得られる様にする。
(4)通過トルク(差圧)が所定値Fより大きい場合は、増速(或は減速)する。即ち、例えば、エンジンブレーキが効き過ぎて(車速に対して減速が速すぎて)、通過トルクが大きくなったと考えられる場合は、増速する事により、エンジン1の回転速度が大きくなり過ぎる事を防止する。或は、これとは逆に、車速に対して減速が遅すぎて、エンジン1のノッキングに基づき通過トルクが大きくなっていると考えられる場合には、減速する事により、エンジンの回転速度を大きくし、ノッキング延いてはエンストを防止する。これら何れの状況であるか(減速する必要があるか増速する必要があるか)の判断は、上記通過トルク(差圧)の方向{正負(+、−)}に応じて行う。
尚、上記各所定値D〜Fは、所定値D<所定値E<所定値Fの関係を有する。又、上述の様に減速時(制動装置が操作されている場合)には、通過トルク(差圧)の比較を絶対値で行うだけでなく、その方向(正負)に関しても行う事が好ましい。又、上記各所定値D〜Fも、予め実験や計算により、所定の性能を発揮{ノッキングやエンスト、回転速度が過大になる事等を防止でき、しかも、車両の位置する路面状況(例えば上り坂、下り坂、砂利路、段差路等)に応じた適切な駆動力(クリープ力)を出力軸7から出力}できる値に、それぞれ設定しておく。尚、制動装置が操作された場合の通過トルク(差圧)に応じて行う速度比の調節は、例えば特許文献7にも記載されている為、これ以上の詳しい説明は省略する。
上述の様な本例の場合には、運転者の操作に基づき手動変速機能が選択されていても、車両の速度が所定の速度以下の場合に、自動変速機能に基づいてトロイダル型無段変速機4の変速比延いては無段変速装置全体としての(入力軸3と出力軸7との間の)速度比の調節が行われる。この自動変速機能に基づく変速比延いては速度比の調節は、その時点での運転状態、即ち、その時点での運転状態を表す状態量{車速、アクセル開度、油温、通過トルク(差圧)、エンジントルク等}、アクセル装置の操作状況、制動装置の操作状況等に応じて調節されるものである為、円滑な発進動作や低速走行、減速走行、停止を行える。