以下、図面を参照しつつ、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係るブレーキ制御装置20を示す系統図である。
ブレーキ制御装置20は、車両用の電子制御式ブレーキシステム(ECB)を構成しており、車両に設けられた4つの車輪に付与される制動力を制御する。ブレーキ制御装置20は、例えば走行駆動源として電動モータと内燃機関とを備えるハイブリッド車両に搭載される。このようなハイブリッド車両においては、車両の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって車両を制動する回生制動と、ブレーキ制御装置20による液圧制動とのそれぞれを車両の制動に用いることができる。本実施形態における車両は、これらの回生制動と液圧制動とを併用して所望の制動力を発生させるブレーキ回生協調制御を実行することができる。
ブレーキ制御装置20は、各車輪に対応して設けられたディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLと、マスタシリンダユニット27と、動力液圧源30と、液圧アクチュエータ40と、それらをつなぐ液圧回路とを含む。
ディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。マニュアル液圧源としてのマスタシリンダユニット27は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル24の運転者による操作量に応じて加圧されたブレーキフルードをディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出する。動力液圧源30は、動力の供給により加圧された作動液としてのブレーキフルードを、運転者によるブレーキペダル24の操作から独立してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出することが可能である。液圧アクチュエータ40は、動力液圧源30またはマスタシリンダユニット27から供給されたブレーキフルードの液圧を適宜調整してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに送出する。これにより、液圧制動による各車輪に対する制動力が調整される。
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ23FR〜23RLを含む。そして、各ホイールシリンダ23FR〜23RLは、それぞれ異なる流体通路を介して液圧アクチュエータ40に接続されている。なお以下では適宜、ホイールシリンダ23FR〜23RLを総称して「ホイールシリンダ23」という。
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLにおいては、ホイールシリンダ23に液圧アクチュエータ40からブレーキフルードが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。なお、本実施形態においてはディスクブレーキユニット21FR〜21RLを用いているが、例えばドラムブレーキ等のホイールシリンダ23を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。
マスタシリンダユニット27は、本実施形態では液圧ブースタ付きマスタシリンダであり、液圧ブースタ31、マスタシリンダ32、レギュレータ33、およびリザーバ34を含む。液圧ブースタ31は、ブレーキペダル24に連結されており、ブレーキペダル24に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ32に伝達する。動力液圧源30からレギュレータ33を介して液圧ブースタ31にブレーキフルードが供給されることにより、ペダル踏力は増幅される。そして、マスタシリンダ32は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。
マスタシリンダ32とレギュレータ33との上部には、ブレーキフルードを貯留するリザーバ34が配置されている。マスタシリンダ32は、ブレーキペダル24の踏み込みが解除されているときにリザーバ34と連通する。一方、レギュレータ33は、リザーバ34と動力液圧源30のアキュムレータ35との双方と連通しており、リザーバ34を低圧源とすると共に、アキュムレータ35を高圧源とし、マスタシリンダ圧とほぼ等しい液圧を発生する。レギュレータ33における液圧を以下では適宜、「レギュレータ圧」という。なお、マスタシリンダ圧とレギュレータ圧とは厳密に同一圧にされる必要はなく、例えばレギュレータ圧のほうが若干高圧となるようにマスタシリンダユニット27を設計することも可能である。
動力液圧源30は、アキュムレータ35およびポンプ36を含む。アキュムレータ35は、ポンプ36により昇圧されたブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギとして、例えば14〜22MPa程度に変換して蓄えるものである。ポンプ36は、駆動源としてモータ36aを有し、その吸込口がリザーバ34に接続される一方、その吐出口がアキュムレータ35に接続される。また、アキュムレータ35は、マスタシリンダユニット27に設けられたリリーフバルブ35aにも接続されている。アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ35aが開弁し、高圧のブレーキフルードはリザーバ34へと戻される。
上述のように、ブレーキ制御装置20は、ホイールシリンダ23に対するブレーキフルードの供給源として、マスタシリンダ32、レギュレータ33およびアキュムレータ35を有している。そして、マスタシリンダ32にはマスタ配管37が、レギュレータ33にはレギュレータ配管38が、アキュムレータ35にはアキュムレータ配管39が接続されている。これらのマスタ配管37、レギュレータ配管38およびアキュムレータ配管39は、それぞれ液圧アクチュエータ40に接続される。
液圧アクチュエータ40は、複数の流路が形成されるアクチュエータブロックと、複数の電磁制御弁を含む。アクチュエータブロックに形成された流路には、個別流路41、42,43および44と、主流路45とが含まれる。個別流路41〜44は、それぞれ主流路45から分岐されて、対応するディスクブレーキユニット21FR、21FL,21RR,21RLのホイールシリンダ23FR、23FL,23RR,23RLに接続されている。これにより、各ホイールシリンダ23は主流路45と連通可能となる。
また、個別流路41,42,43および44の中途には、ABS保持弁51,52,53および54が設けられている。各ABS保持弁51〜54は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされた各ABS保持弁51〜54は、ブレーキフルードを双方向に流通させることができる。つまり、主流路45からホイールシリンダ23へとブレーキフルードを流すことができるとともに、逆にホイールシリンダ23から主流路45へもブレーキフルードを流すことができる。ソレノイドに通電されて各ABS保持弁51〜54が閉弁されると、個別流路41〜44におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
更に、ホイールシリンダ23は、個別流路41〜44にそれぞれ接続された減圧用流路46,47,48および49を介してリザーバ流路55に接続されている。減圧用流路46,47,48および49の中途には、ABS減圧弁56,57,58および59が設けられている。各ABS減圧弁56〜59は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。各ABS減圧弁56〜59が閉状態であるときには、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて各ABS減圧弁56〜59が開弁されると、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通が許容され、ブレーキフルードがホイールシリンダ23から減圧用流路46〜49およびリザーバ流路55を介してリザーバ34へと還流する。なお、リザーバ流路55は、リザーバ配管77を介してマスタシリンダユニット27のリザーバ34に接続されている。
主流路45は、中途に分離弁60を有する。この分離弁60により、主流路45は、個別流路41および42と接続される第1流路45aと、個別流路43および44と接続される第2流路45bとに区分けされている。第1流路45aは、個別流路41および42を介して前輪用のホイールシリンダ23FRおよび23FLに接続され、第2流路45bは、個別流路43および44を介して後輪用のホイールシリンダ23RRおよび23RLに接続される。
分離弁60は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。分離弁60が閉状態であるときには、主流路45におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて分離弁60が開弁されると、第1流路45aと第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
また、液圧アクチュエータ40においては、主流路45に連通するマスタ流路61およびレギュレータ流路62が形成されている。より詳細には、マスタ流路61は、主流路45の第1流路45aに接続されており、レギュレータ流路62は、主流路45の第2流路45bに接続されている。また、マスタ流路61は、マスタシリンダ32と連通するマスタ配管37に接続される。レギュレータ流路62は、レギュレータ33と連通するレギュレータ配管38に接続される。
マスタ流路61は、中途にマスタカット弁64を有する。マスタカット弁64は、マスタシリンダ32から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。マスタカット弁64は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたマスタカット弁64は、マスタシリンダ32と主流路45の第1流路45aとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに規定の制御電流が通電されてマスタカット弁64が閉弁されると、マスタ流路61におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
また、マスタ流路61には、マスタカット弁64よりも上流側において、シミュレータカット弁68を介してストロークシミュレータ69が接続されている。すなわち、シミュレータカット弁68は、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69とを接続する流路に設けられている。シミュレータカット弁68は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により開弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。シミュレータカット弁68が閉状態であるときには、マスタ流路61とストロークシミュレータ69との間のブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されてシミュレータカット弁68が開弁されると、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69との間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
ストロークシミュレータ69は、複数のピストンやスプリングを含むものであり、シミュレータカット弁68の開放時に運転者によるブレーキペダル24の踏力に応じた反力を創出する。ストロークシミュレータ69としては、運転者によるブレーキ操作のフィーリングを向上させるために、多段のバネ特性を有するものが採用されると好ましい。
レギュレータ流路62は、中途にレギュレータカット弁65を有する。レギュレータカット弁65は、レギュレータ33から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。レギュレータカット弁65も、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたレギュレータカット弁65は、レギュレータ33と主流路45の第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてレギュレータカット弁65が閉弁されると、レギュレータ流路62におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
液圧アクチュエータ40には、マスタ流路61およびレギュレータ流路62に加えて、アキュムレータ流路63も形成されている。アキュムレータ流路63の一端は、主流路45の第2流路45bに接続され、他端は、アキュムレータ35と連通するアキュムレータ配管39に接続される。
アキュムレータ流路63は、中途に増圧リニア制御弁66を有する。また、アキュムレータ流路63および主流路45の第2流路45bは、減圧リニア制御弁67を介してリザーバ流路55に接続されている。増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67とは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。以下の説明においては適宜、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67を総称して単に「リニア制御弁」ということがある。
増圧リニア制御弁66は、各車輪に対応して複数設けられた各ホイールシリンダ23に対して共通の増圧制御弁として設けられている。また、減圧リニア制御弁67も同様に、各ホイールシリンダ23に対して共通の減圧制御弁として設けられている。つまり、本実施形態においては、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、動力液圧源30から送出される作動流体を各ホイールシリンダ23へ給排制御する1対の共通の制御弁として設けられている。このように増圧リニア制御弁66等を各ホイールシリンダ23に対して共通化すれば、ホイールシリンダ23ごとにリニア制御弁を設けるのと比べて、コストの観点からは好ましい。
なお、ここで、増圧リニア制御弁66の出入口間の差圧は、アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力と主流路45におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応し、減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧は、主流路45におけるブレーキフルードの圧力とリザーバ34におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応する。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力に応じた電磁駆動力をF1とし、スプリングの付勢力をF2とし、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧に応じた差圧作用力をF3とすると、F1+F3=F2という関係が成立する。従って、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力を連続的に制御することにより、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧を制御することができる。
ブレーキ制御装置20において、動力液圧源30および液圧アクチュエータ40は、本実施形態における制御部としてのブレーキECU70により制御される。ブレーキECU70は、CPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。そして、ブレーキECU70は、上位のハイブリッドECU(図示せず)などと通信可能であり、ハイブリッドECUからの制御信号や、各種センサからの信号に基づいて動力液圧源30のポンプ36や、液圧アクチュエータ40を構成する電磁制御弁51〜54,56〜59,60,64〜68を制御する。
また、ブレーキECU70には、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、および制御圧センサ73が接続される。レギュレータ圧センサ71は、レギュレータカット弁65の上流側でレギュレータ流路62内のブレーキフルードの圧力、すなわちレギュレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。アキュムレータ圧センサ72は、増圧リニア制御弁66の上流側でアキュムレータ流路63内のブレーキフルードの圧力、すなわちアキュムレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。制御圧センサ73は、主流路45の第1流路45a内のブレーキフルードの圧力を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。各圧力センサ71〜73の検出値は、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。
分離弁60が開状態とされて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通している場合、制御圧センサ73の出力値は、増圧リニア制御弁66の低圧側の液圧を示すと共に減圧リニア制御弁67の高圧側の液圧を示すので、この出力値を増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の制御に利用することができる。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67が閉鎖されていると共に、マスタカット弁64が開状態とされている場合、制御圧センサ73の出力値は、マスタシリンダ圧を示す。更に、分離弁60が開放されて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通しており、各ABS保持弁51〜54が開放される一方、各ABS減圧弁56〜59が閉鎖されている場合、制御圧センサの73の出力値は、各ホイールシリンダ23に作用する作動流体圧、すなわちホイールシリンダ圧を示す。
さらに、ブレーキECU70に接続されるセンサには、ブレーキペダル24に設けられたストロークセンサ25も含まれる。ストロークセンサ25は、ブレーキペダル24の操作量としてのペダルストロークを検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。ストロークセンサ25の出力値も、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。なお、ストロークセンサ25以外のブレーキ操作状態検出手段をストロークセンサ25に加えて、あるいは、ストロークセンサ25に代えて設け、ブレーキECU70に接続してもよい。ブレーキ操作状態検出手段としては、例えば、ブレーキペダル24の操作力を検出するペダル踏力センサや、ブレーキペダル24が踏み込まれたことを検出するブレーキスイッチなどがある。
上述のように構成されたブレーキ制御装置20は、ブレーキ回生協調制御を実行することができる。ブレーキ制御装置20は制動要求を受けて制動を開始する。制動要求は、例えば運転者がブレーキペダル24を操作した場合など、車両に制動力を付与すべきときに生起される。制動要求を受けてブレーキECU70は要求制動力を演算し、要求制動力から回生による制動力を減じることによりブレーキ制御装置20により発生させるべき制動力である要求液圧制動力を算出する。ここで、回生による制動力は、ハイブリッドECUからブレーキ制御装置20に供給される。そして、ブレーキECU70は、算出した要求液圧制動力に基づいて各ホイールシリンダ23FR〜23RLの目標液圧である目標ホイールシリンダ圧を算出する。ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧が目標ホイールシリンダ圧となるように、フィードバック制御則により増圧リニア制御弁66や減圧リニア制御弁67に供給する制御電流の値を決定する。
その結果、ブレーキ制御装置20においては、ブレーキフルードが動力液圧源30から増圧リニア制御弁66を介して各ホイールシリンダ23に供給され、車輪に制動力が付与される。また、各ホイールシリンダ23からブレーキフルードが減圧リニア制御弁67を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される制動力が調整される。本実施形態においては、動力液圧源30、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67等を含んでホイールシリンダ圧制御系統が構成されている。ホイールシリンダ圧制御系統によりいわゆるブレーキバイワイヤ方式の制動力制御が行われる。ホイールシリンダ圧制御系統は、マスタシリンダユニット27からホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路に並列に設けられている。
具体的には、ブレーキECU70は、ABS保持弁51〜54の上流圧(「保持弁上流圧」ともいう)の目標値である目標液圧と、その実際の液圧である実圧との偏差に応じ、増圧モード、減圧モード、及び保持モードのいずれかを選択し、その保持弁上流圧を制御する。ブレーキECU70は増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67を制御することにより保持弁上流圧を制御する。ブレーキECU70は、偏差が増圧必要閾値を超える場合に増圧モードを選択し、偏差が減圧必要閾値を超える場合に減圧モードを選択し、偏差が増圧必要閾値にも減圧必要閾値にも満たない場合すなわち設定範囲内にある場合には保持モードを選択する。なおここで偏差は例えば目標液圧から実液圧を差し引いて求められる。実液圧として例えば制御圧センサ73の測定値が用いられる。目標液圧としては保持弁上流圧、すなわち主流路45における液圧の目標値が用いられる。
本実施形態において増圧モードが選択されている場合、ブレーキECU70は偏差に応じたフィードバック電流を増圧リニア制御弁66に供給する。減圧モードが選択されている場合、ブレーキECU70は偏差に応じたフィードバック電流を減圧リニア制御弁67に供給する。保持モードが選択されている場合には、ブレーキECU70は増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67に電流を供給しない。すなわち、増圧モードにおいては増圧リニア制御弁66を介してホイールシリンダ圧が増圧され、減圧モードにおいては減圧リニア制御弁67を介してホイールシリンダ圧が減圧される。保持モードにおいてはホイールシリンダ圧が保持される。本実施形態において、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67が「調圧用制御弁」に該当する。
ブレーキバイワイヤ方式の制動力制御を行う場合には、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65を閉状態とし、レギュレータ33から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23へ供給されないようにする。更にブレーキECU70は、マスタカット弁64を閉状態とするとともにシミュレータカット弁68を開状態とする。これは、運転者によるブレーキペダル24の操作に伴ってマスタシリンダ32から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23ではなくストロークシミュレータ69へと供給されるようにするためである。
なお、本実施形態に係るブレーキ制御装置20は、回生制動力を利用せずに液圧制動力だけで要求制動力をまかなう場合にも、ホイールシリンダ圧制御系統により制動力を制御することができる。また、このように液圧制動力だけで要求制動力をまかなう場合には、マスタシリンダ圧またはレギュレータ圧をホイールシリンダにそのまま導入してもよい。例えば、レギュレータカット弁65及び分離弁60を開弁し、マスタカット弁64,増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67を閉弁してレギュレータ圧によって各車輪に制動力を付与するようにしてもよい。レギュレータ33には動力液圧源30が高圧側として接続されているので、動力液圧源30における蓄圧を有効に活用して制動力を発生させることができる。また、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67の動作頻度を低減させて、その耐用期間を向上させることができる。
また、ホイールシリンダ圧制御系統による制御中に、ホイールシリンダ圧の制御応答に異常があると判定された場合には、マニュアル液圧源を用いて機械的に制動力を付与するフェイルセーフ処理が行われる。ブレーキECU70は、このとき全ての電磁制御弁への制御電流の供給を停止する。その結果、ブレーキフルードの供給経路はマスタシリンダ側とレギュレータ側との2系統に分離される。マスタシリンダ圧が前輪用のホイールシリンダ23FR及び23FLへと伝達され、レギュレータ圧が後輪用のホイールシリンダ23RR及び23RLへと伝達される。
ブレーキ制御装置20は、運転者からの要求制動力を発生させる以外に例えば、各車輪の路面に対する滑りを抑制して車両の挙動を安定化させるためのABS制御、TRC制御、VSC(Vehicle Stability Control)制御などを実行することができる。ABS制御は、急ブレーキ時や滑りやすい路面でブレーキをかけたときに起こるタイヤのロックを抑制するための制御である。VSC制御は、車両の旋回時における車輪の横滑りを抑制するための制御である。TRC制御は、車両の発進時や加速時に駆動輪の空転を抑制するための制御である。また、緊急ブレーキ時に運転者によるペダル踏力を補完して制動力を高めるブレーキアシスト制御もリニア制御モードにおいて実行される場合がある。
ブレーキECU70は、ABS制御等を実行するために必要な演算等を行う。ブレーキECU70は、車両減速度やスリップ率等に基づいて公知の手法により算出された所定のデューティ比でABS保持弁51〜54、ABS減圧弁56〜59を個別的に反復的に開閉する。ABS保持弁51〜54が開状態であるときはABS保持弁51〜54の上流に設けられた共通の制御弁である増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67により調圧されたブレーキフルードが各ホイールシリンダ23に供給される。また、ABS減圧弁56〜59が開状態であるときは各ホイールシリンダ23のブレーキフルードがリザーバ34へと排出される。これにより各ホイールシリンダ23に対して個別的にブレーキフルードが給排され、車輪の滑りが抑制されるよう各車輪に付与される制動力が制御される。
次に、本実施形態におけるブレーキ制御方法について詳細に説明する。
上述のように、ブレーキ制御装置20は、ブレーキペダル24の操作量に基づいて算出される要求制動力から回生制動力を減算して得られる要求液圧制動力に基づき、各ホイールシリンダ23FR〜23RLの目標液圧を算出する。ABS保持弁51〜54やABS減圧弁56〜59(「保持弁等」ともいう)が4輪について同様の動作を行うように制御される通常ブレーキモードにおいては、ABS保持弁51〜54の上流圧(保持弁上流圧)が各輪のホイールシリンダ圧に対応する。このため、各目標ホイールシリンダ圧は、実質的に保持弁上流圧の目標液圧になる。このため、ブレーキ制御装置20は、保持弁上流圧が目標液圧となるように、フィードバック制御則により増圧リニア制御弁66や減圧リニア制御弁67に供給する制御電流の値を決定する。
本実施形態のような液圧回路構成においては、特に制動初期や増減圧初期においては、保持弁上流圧を検出する制御圧センサ73がその圧力変動に敏感に反応してしまうため、そのセンサ値が実際のホイールシリンダ圧(「実圧」ともいう)に収束するまでに応答遅れが生じる。このため、その圧力変動によるノイズを除去して制御圧センサ73によるセンシングの応答性を高めるために、リニア制御弁による増減圧能力を加味したモデル推定を行っている。すなわち、キャリパ油量特性とリニア制御弁による作動液の給排能力とから推定される増減圧勾配のガード値を設定することで、検出された保持弁上流圧(センサ値)からノイズを除去するフィルタリング処理を施し、実圧を推定する。
一方、ABS制御やTRC制御等の作動時においてはリニア制御弁により液圧が制御されるホイールシリンダの数が逐次変化する。すなわち、ABS制御が行われる場合、保持弁等が個別的に反復開閉されるため、リニア制御弁の制御対象となる容積が動的に変動する。また、TRC制御が実行される場合においても駆動輪のスリップ抑制のために各駆動輪のホイールシリンダ圧を独立に制御することとなるため、同様にリニア制御弁の制御対象となる容積が動的に変動する。このため、通常ブレーキモードのように増減圧勾配のガード値を一律に設けるようでは保持弁上流圧の正確な制御を行うことが難しい。
より詳細には、ABS制御等のアプリケーションが実行されて保持弁等が作動すると、制御圧センサ73により検出される保持弁上流圧と各ホイールシリンダ圧との間に差が生じる。このため、通常ブレーキモードと同様に目標液圧と保持弁上流圧との偏差を用いたフィードバック制御を実行しても、実圧の追従能力が劣ることがある。例えば、保持弁上流圧のセンサ値が高くて目標液圧との偏差が小さい場合であっても、ABS制御により実圧を一旦開放して減圧して再度昇圧させる制御の初期においては通常よりも多くの液量が要される。このため、増圧リニア制御弁66に印加する電流値を大きくしなければ保持弁上流圧を目標液圧に保持することができない。上述したキャリパ油量特性は非線形であるため、実圧の制御帯域を考慮したうえで保持弁に印加するフィードバック分の電流値を設定する必要がある。この場合、例えば開弁されている保持弁数に応じてリニア制御弁の制御ゲインを一律に変更する制御を行っても、本来要される実圧が異なる場合には、制御の追従性は劣ってしまうことになる。
また、例えばブレーキング時において車両の積載重量が大きいような場合、前輪のブレーキ力を弱めて前輪への荷重移動を緩めるピッチング抑制制御を行うとともに、後輪のロックを防止するためにそのブレーキ力を加減するEBD(Electronic Brake force Distribution)が行われることがある。このようなピッチング抑制制御やEBDが行われる場合、あるいはTRC制御が行われる場合において4つの増圧リニア制御弁66が全て閉じるような場合、保持弁上流圧のセンサ値に基づく制御を行うと、見た目上、目標液圧に対してセンサ値がオーバーシュートすることが多い。これを防止するために保持弁上流圧を減圧あるいは保持すると、次の増圧制御時においてブレーキフルードの供給が遅れる可能性がある。
そこで、本実施形態では、このように保持弁等が個別的に開閉制御される制御モード(以下、「特別ブレーキモード」という)においても高い制御性能を得るために、保持弁の動作状態に応じたフィルタリング処理を行う。
図2は、ブレーキECU70が備える機能を模式化したブロック図である。図3は、実圧推定値を算出する際に用いられる制御マップの例を表す図である。
図2に示すように、ブレーキECU70は、車両状態取得部110、アプリケーション部120、調停部130およびバルブ動作演算部140を有する。
車両状態取得部110は、上述したストロークセンサ25、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、制御圧センサ73等のほか、各車輪の車輪速を検出する図示しない車輪速センサ等の検出値(センサ値)を取得する。車両状態取得部110は、取得したセンサ値をアプリケーション部120に出力する。
アプリケーション部120は、基本制御部122、ABS制御部124、VSC制御部126およびTRC制御部128を含む。基本制御部122は、上述した通常ブレーキモードにおいて基本的なブレーキ制御を実行する際の演算処理を行う。ABS制御部124は、ABS制御を実行する際の演算処理を行う。VSC制御部126は、VSC制御を実行する際の演算処理を行う。TRC制御部128は、TRC制御を実行する際の演算処理を行う。各制御部は、入力されたセンサ値等に基づいて車両状態が各アプリケーション(各制御のソフト)の実行条件を満たしたときに、各輪の目標ホイールシリンダ圧を計算したうえで保持弁上流圧についての目標液圧の設定や、保持弁等に供給する電流の出力パターンの決定などを行う。
調停部130は、アプリケーション部120の各制御部からの実行要求に対して調停を行い、いずれのアプリケーションを実行するかを決定する。そして、決定されたアプリケーションを実行するために、該当する制御部が設定した目標ホイールシリンダ圧や保持弁等に供給する電流の出力パターン等をバルブ動作演算部140に出力する。調停部130は、さらにブレーキペダル24の踏み込みによる制動要求があった場合、これを考慮した目標液圧等の情報をバルブ動作演算部140に出力する。
バルブ動作演算部140は、フィードバック制御においてフィードバックする実圧を推定する。この実圧の推定においては、後に詳述するように、フィルタリング処理における増減圧の限界勾配値が保持弁等の状態に応じて変更される。すなわち、バルブ動作演算部140は、所定のサンプリング間隔で保持弁上流圧を取得し、増圧リニア制御弁66または減圧リニア制御弁67の通電制御に際してフィードバックすべき実圧推定値を算出するが、その際、演算上のノイズを削除するためのフィルタリング処理を実行する。具体的には、サンプリング間隔において変化しうる液圧勾配の限界値を限界勾配値として設定し、それを超えるセンサ値はノイズと判定して無効にする。このようにセンサ値を無効にした場合、前回算出された実圧値にその限界勾配値に相当する液圧を加減することにより、今回の実圧推定値を算出する。
図3に示すように、増圧リニア制御弁66が開弁されて増圧過程にあるときの限界勾配値α_maxと、減圧リニア制御弁67が開弁されて減圧過程にあるときの限界勾配値β_maxとが、保持弁等の制御状態に応じて設定されている。各限界勾配値は、対応するリニア制御弁が全開状態にあるときに、そのサンプリング間隔時間内において保持弁上流圧が変化しうる最大液圧勾配を実験等により予め取得して設定される。図示の例では限界勾配値α_maxと限界勾配値β_maxが等しく、4輪全てのABS保持弁51〜54が開弁状態にあるときに100Mpa、左右前輪のABS保持弁51,52のみが開弁状態にあるときに150Mpa、左右前輪のABS保持弁51,52のいずれか一方のみが開弁状態にあるときに200Mpa、4輪全てのABS保持弁51〜54が閉弁状態にあるときに1000Mpaに設定されている。これは、閉弁状態にあるABS保持弁が多いほど、制御対象容積が小さくなるために増減圧勾配が大きくなるため、これをノイズと誤認しないようにするためである。変形例においては、限界勾配値α_maxと限界勾配値β_maxとを異なるように設定してもよい。なお、各限界勾配値は、実際にはキャリパの油量剛性(P−V特性)に応じて変化することになる(図7参照)。そのため、実際には保持弁上流圧の現在の値(範囲)に応じた数だけ図3に示す制御マップが設定されるが、便宜上その詳細な説明については省略する。
バルブ動作演算部140は、ブレーキペダル24の操作量に基づいて算出される要求制動力から回生制動力を減算して得られる要求液圧制動力に基づき、各ホイールシリンダ圧の目標値を算出し、その目標値に応じて保持弁上流圧の目標液圧を設定する。そして、保持弁上流圧がその目標液圧となるよう、フィードバック制御則により増圧リニア制御弁66または減圧リニア制御弁67に供給する制御電流の値を決定する。すなわち、目標液圧と実圧推定値との偏差に応じたフィードバック電流値を算出する。そして、バルブ電流ドライバ150(駆動回路)にその電流指令を出力し、各リニア制御弁へ制御電流を供給させる。バルブ動作演算部140は、ABS保持弁51〜54、ABS減圧弁56〜59、分離弁60、マスタカット弁64、レギュレータカット弁65、シミュレータカット弁68等についても通電制御を行い、これらを所定のタイミングにて開閉させる。
図4は、ブレーキ制御処理を示すフローチャートである。
ブレーキECU70は、同図に示される処理をリニア制御モードの実行中に例えば数msecの周期で繰り返し実行する。ブレーキECU70は、まず、ABS保持弁51〜54の制御状態を取得する(S10)。そして、図3に示した制御マップを参照し、その制御状態に応じた限界勾配値α_max,β_maxを設定し(S20)、制御圧センサ73により検出された保持弁上流圧Psensを取得する(S30)。続いて、今回検出された保持弁上流圧Psensと前回算出された実圧推定値PFr_refvalとの差、つまりサンプリング間の圧力勾配が限界勾配値α_maxを超えているか否かを判定する(S40)。増圧過程にあり、その増圧勾配が限界勾配値α_maxよりも大きい場合には(S40のY)、実圧推定値PFr_refvalとして、前回算出された実圧推定値PFr_refvalに限界勾配値α_maxを加算した値を今回の実圧推定値PFr_refvalとして設定する(S50)。そして、設定された実圧推定値PFr_refvalを実圧としてフィードバックし、制御電流の値を決定する(S60)。すなわち、保持弁上流圧の目標液圧Prから実圧推定値PFr_refvalを差し引いて偏差Peを演算し、その偏差Peに応じたフィードバック電流値を算出する。
この増圧モードにおいては、増圧リニア制御弁66への制御電流は、制御弁出入口間の差圧(つまりアキュムレータ圧と保持弁上流圧との差圧)に応じて定まる開弁電流Ia0と偏差Peに応じて定まるフィードバック電流との和である。開弁電流は差圧を変数とする1次関数で表され、通常フィードフォワード電流として与えられる。フィードバック電流は、偏差PeとフィードバックゲインGaとの積により与えられる。すなわちブレーキECU70は、増圧モードにおいて増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67にそれぞれ次式の制御電流Ia及びIrを供給する。
Ia=Ia0+Pe・Ga
Ir=0
なお、増圧モードにおいては減圧リニア制御弁67の制御電流Irがゼロとされるので、直前の制御周期において減圧リニア制御弁67に通電されていたとしても確実に電流が遮断され、減圧リニア制御弁67を閉弁することができる。よって、減圧リニア制御弁67の閉弁が保証された状態で増圧リニア制御弁66による増圧を行うことができる。
S40において、増圧勾配が限界勾配値α_max以下の場合には(S40のN)、続いて、圧力勾配が限界勾配値β_maxを超えているか否かを判定する(S40)。減圧過程にあり、その減圧勾配が限界勾配値β_maxよりも大きい場合には(S70のY)、実圧推定値PFr_refvalとして、前回算出された実圧推定値PFr_refvalから限界勾配値β_maxを減算した値を今回の実圧推定値PFr_refvalとして設定する(S80)。そして、設定された実圧推定値PFr_refvalを実圧としてフィードバックし、制御電流の値を決定する(S60)。
この減圧モードにおいては、ブレーキECU70は、増圧リニア制御弁66には制御電流を供給せずに減圧リニア制御弁67に制御電流を供給する。よって、増圧リニア制御弁66は閉弁され減圧リニア制御弁67は開弁されて保持弁上流圧が減圧される。減圧リニア制御弁67への制御電流は、制御弁出入口間の差圧(つまり保持弁上流圧)に応じて定まる開弁電流Ir0と偏差Peに応じて定まるフィードバック電流との和である。開弁電流は差圧を変数とする1次関数で表され、通常フィードフォワード電流として与えられる。フィードバック電流は、偏差PeとフィードバックゲインGrとの積により例えば与えられる。すなわちブレーキECU70は、減圧モードにおいて増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67にそれぞれ次式の制御電流Ia及びIrを供給する。
Ia=0
Ir=Ir0+Pe・Gr
一方、S70において、圧力勾配が限界勾配値β_max以下の場合には(S70のN)、今回検出された保持弁上流圧Psensは正常とみなせるが、ここではさらに平均化フィルタリング(1/4など)を行って今回の実圧推定値PFr_refvalとして設定する(S90)。具体的には、今回検出された保持弁上流圧Psensと、直近に算出された過去複数回分の実圧推定値PFr_refvalの平均値を今回の実圧推定値PFr_refvalとして設定する。そして、設定された実圧推定値PFr_refvalを実圧としてフィードバックし、制御電流の値を決定する(S60)。なお、本実施形態の保持モードにおいては、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67への通電は遮断される。
図5は、第1実施形態の効果を表す図である。図6は、比較例として保持弁の動作状態によらず増減圧の限界勾配値を固定した場合の効果を表す図である。両図において、縦軸は各液圧を表し、横軸は時間の経過を表している。図中の実線は実圧推定値PFr_refvalを表し、一点鎖線は制御圧センサ73が検出した保持弁上流圧(センサ値)を表している。また、二点鎖線は目標液圧を表し、破線はいずれかのホイールシリンダ圧の例を表している。なお、点線にて減圧リニア制御弁67に供給する制御電流の変化が示されている。図7は、ABS保持弁の稼働状態による液圧剛性の違いを表す説明図である。同図の縦軸は主流路45における消費液量を表し、横軸は液圧を表している。図中の実線は4輪全ての保持弁が稼働状態にある場合を示し、一点鎖線は左右前輪の保持弁が稼働状態にある場合を示している。
図5および図6に示す例では時刻t1において、上述したピッチング抑制制御およびEBDが行われており、時刻t2において、運転者によるペダル抜き操作(ブレーキペダル24を引く動作)が行われている。
すなわち、時刻t1において通常ブレーキモードから特別ブレーキモードに切り替わっているが、図5に示すように、本実施形態においてはセンサ値からノイズを除去するために保持弁の動作状態に応じた限界勾配値が選択されるため、実圧推定値PFr_refvalが保持弁上流圧(センサ値)と精度良く対応している。その結果、運転者のペダル抜き操作により減圧リニア制御弁67への通電がなされて減圧が開始さた場合においても、実圧が速やかにこれに追従できている。すなわち、特別ブレーキモードにおける初期増圧時における実圧応答性を確保しつつ、良好な制御性が維持される。また、応答性が良好であるため、主流路45への不要な液量供給が防止される。なお、この場合の減圧は、目標液圧の勾配が負に切り替わり、かつ実圧が目標液圧を上回ったときに実行されるものである。
これに対し、図6に示すように、比較例においては保持弁の動作状態によらず限界勾配値が一定に設定されるため、時刻t1以降において実圧推定値PFr_refvalが保持弁上流圧(センサ値)に対して大きく乖離している。その結果、運転者のペダル抜き操作により減圧が開始されても実圧が速やかに低下せず、不要な液量供給が行われている。これにより、予測困難な制動状態を招く可能性がある。これは、通常ブレーキモードから特別ブレーキモードに切り替わった結果、保持弁の動作状態が4輪全てから左右前輪のみになり、図7に示すように消費液量が変化したにもかかわらず、これに合わせて増圧リニア制御弁66への印加電流が調整されていないためである。
以上に説明したように、本実施形態においては、保持弁の動作状態に応じた限界勾配値が選択され、それにより実圧が精度良く推定されるため、各輪ごとに保持弁の開閉状態が変化される制御の実行時においても、ホイールシリンダ圧をその目標値に正確に追従させることができる。
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、各保持弁等の状態に基づいて各輪の実圧を推定するとともに各輪の目標液圧を仮想的に設定し、その仮想目標液圧と実圧との偏差を考慮してフィードバック電流を決定し、リニア制御弁に印加するものである。本実施形態において第1実施形態と共通する構成部分については必要に応じて同一の符号を付す等して適宜その説明を省略する。
図8〜図10は、第2実施形態にかかるブレーキ制御処理を示すフローチャートである。図11〜図13は、ブレーキ制御において用いられる制御マップの例を示す図である。 ブレーキECU70は、図8に示される処理をリニア制御モードの実行中に例えば数msecの周期で繰り返し実行する。
ブレーキECU70は、上述した特別ブレーキモードのアプリケーションが実行中なければ(S210のN)、通常ブレーキ制御処理を実行する(S220)。一方、特別ブレーキモードのアプリケーションが実行中であれば(S210のY)、特別ブレーキ制御処理を実行する(S230)。
図9は、図8におけるS220の通常ブレーキ制御処理を示すフローチャートである。 通常ブレーキ制御処理において、ブレーキECU70は、まず、制御圧センサ73が検出した保持弁上流圧PFr_refvalを取得して記憶しておく(S221)。この保持弁上流圧は、次周期の処理において特別ブレーキモードへ移行された場合に用いられる。
続いて、ブレーキECU70は、ブレーキペダル24の操作量に基づいて算出される要求制動力から回生制動力を減算して得られる要求液圧制動力に基づき、各ホイールシリンダ23FR〜23RLの液圧である目標ホイールシリンダ圧を算出する。そして、各目標ホイールシリンダ圧が得られるように保持弁上流圧の目標液圧Pref_wc_Mを設定する(S222)。そして、目標液圧Pref_wc_Mと保持弁上流圧PFr_refvalとの偏差P_err_PFrを算出する(S223)。また一方で、上流圧用のゲインGain_PFr_Mを設定し(S224)、偏差分の電流出力値Gain_PFr_M・P_err_PFrを用いて制御電流値を設定し、上述したフィードバック制御を実行する(S225)。
図10は、図8におけるS230の特別ブレーキ制御処理を示すフローチャートである。
特別ブレーキ制御処理において、ブレーキECU70は、まず、車輪速センサ等の各種センサのセンサ値を取得する(S232)。続いて、実行されるアプリケーションにしたがって、ABS保持弁51〜54およびABS減圧弁56〜59の開閉状態(通電ON/OFF状態)や、その開閉切り替え時間またはデューティ比を決定する(S234)。
そして、これらの決定に基づいて、各輪の仮想の目標ホイールシリンダ圧である仮想目標液圧(Pref_FR,Pref_FL,Pref_RR,Pref_RL)を決定するとともに(S236)、各輪のホイールシリンダ圧の推定値である推定実圧(PFR_e,PFL_e,PRR_e,PRL_e)を決定する(S238)。この推定実圧は、保持弁等の開時間などのオンライン情報や、各輪のキャリパ油量特性等のオフライン情報等に基づいて算出される。例えば、図11に示す制御マップが用いられる。同図の横軸は特別ブレーキモードに切り替わってからの減圧時間を表し、縦軸はその推定実圧が示されている。図中の実線はその切り替わり時点の保持弁上流圧の開始圧がP01であった場合の例を示し、一点鎖線はその切り替わり時点の保持弁上流圧の開始圧がそれより低いP02であった場合の例が示されている。いずれも、切り替わり時点から一旦減圧される例が示されているが、その開始圧の高低により、減圧時間の経過に伴う推定実圧の値が異なっている。図からも明らかなように、開始圧が高いほど推定実圧も高くなる傾向にある。なお、この開始圧には、図9のS221にて記憶した最新の値、つまり通常ブレーキモードから特別ブレーキモードへ切り替わるときの保持弁上流圧のセンサ値が利用される。
一方、仮想目標液圧の決定には、例えば図12に示される制御マップが用いられる。同図の横軸は前回の処理で算出された目標液圧と推定実圧との偏差を表し、縦軸は液圧勾配を表している。図中の実線は車両が摩擦抵抗の高い高μの路面を走行している場合の例を示し、一点鎖線はその摩擦抵抗の低い低μの路面を走行している場合の例を示している。なお、高μか低μかは車両の走行状態から得られる情報を用いた公知の手法により判定される。すなわち、今回算出された偏差と路面状態に基づいてこの制御マップを参照することにより、必要な液圧勾配が求められる。この液圧勾配による液圧の増加分を前回算出された推定実圧に加算することにより、仮想目標液圧を算出することができる。
そして、各輪の仮想目標液圧と推定実圧との偏差(Perr_FR,Perr_FL,Perr_RR,Perr_RL)を算出する(S240)。これらの偏差に基づいてそのアプリケーションの実行に必要な保持弁上流圧の目標液圧Pref_wc_Aを設定する(S242)。また、ブレーキペダル24の操作がなされている場合には、運転者の要求制動力に基づく目標ホイールシリンダ圧を算出し、その目標ホイールシリンダ圧が得られるように保持弁上流圧の目標液圧Pref_wc_Mを設定する(S244)。そして、これら目標液圧Pref_wc_Aおよび目標液圧Pref_wc_Mが満たされる液圧、つまり大きいほうの目標液圧を保持弁上流圧の目標液圧Pref_wcとして設定する(S246)。そして、目標液圧Pref_wcと保持弁上流圧PFr_refvalとの偏差P_err_PFrを算出する(S248)。
また一方で、上流圧用のゲインGain_PFr_Aを設定するとともに(S250)、各保持弁等のゲイン(G_WFR,G_WFL,G_WRR,G_WRL)を設定する。この各保持弁等のゲインは、各輪のキャリパ油量特性を反映し、液圧により可変である各輪の重みゲイン係数マップとして予め設定されている。ここでは、例えば図13に示すゲイン係数マップが用いられる。同図の横軸は各輪の推定実圧を表し、縦軸はゲイン係数値を表している。図中の実線は前輪に適用される特性線図を表し、一点鎖線は後輪に適用される特性線図を表している。すなわち、S238にて決定された推定実圧を用いてこのゲイン係数マップを用いることにより、各保持弁等のゲインを設定することができる(S252)。そして、偏差分の電流出力値(Gain_PFr_A・P_err_PFr+G_WFR・Perr_FR+G_WFL・Perr_FL+G_WRR・Perr_RR+G_WRL・Perr_RL)を用いて制御電流値を設定し(S254)、保持弁上流圧について上述したフィードバック制御を実行する。
図14は、第2実施形態の効果を表す図である。図15は、比較例として保持弁の動作状態によらずに制御を行った場合の効果を表す図である。両図において、縦軸は各液圧を表し、横軸は時間の経過を表している。図中の実線は保持弁上流圧PFr_refvalを表し、二点鎖線は目標液圧を表し、破線はいずれかのホイールシリンダ圧の例を表している。なお、点線にて増圧リニア制御弁66に供給する制御電流の変化が示されている。図14および図15に示す例では、時刻t21においてABS制御が作動され、時刻t22において各輪の増圧が開始されている。
図14に示す本実施形態においては、増圧リニア制御弁66への制御電流を各保持弁よる増圧開始時と同時に印加できているのに対し、図15に示す比較例においては、その印加タイミングが遅れている。すなわち、ABS制御が作動する場合、ホイールシリンダ圧の減圧直前と減圧直後においては保持弁上流圧はほぼ同じ値をとるが、減圧直後からは各輪の増圧が開始されるため、必要な液量が異なるようになる。そのため、推定実圧を用いることにより、この差異を補う電流を増圧リニア制御弁66に供給することにより、各輪のホイールシリンダ圧の昇圧性能を予め確保することができる。本実施形態によれば、増圧リニア制御弁66への制御電流の印加を適切に行うことができるため、各輪の保持弁による増圧開始時の保持弁上流圧の落ち込みを小さくすることができ、各輪のホイールシリンダ圧の増圧勾配を確保することができる。
なお、ピッチング抑制制御が行われるような場合、つまり前輪にかかる液圧の増圧勾配を抑制してロック圧に到る時間を制御するような場合においても、本実施形態を適用することができる。すなわち、増圧リニア制御弁66には、保持弁上流圧を維持するための制御電流と、前輪のピッチング抑制よる後輪側のホイールシリンダ圧の昇圧のための追加の制御電流が印加されるようになるため、保持弁上流圧を安定に制御することができる。
本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
20 ブレーキ制御装置、 23 ホイールシリンダ、 27 マスタシリンダユニット、 30 動力液圧源、 35 アキュムレータ、 45 主流路、 51〜54 ABS保持弁、 56〜59 ABS減圧弁、 66 増圧リニア制御弁、 67 減圧リニア制御弁、 70 ブレーキECU、 72 アキュムレータ圧センサ、 73 制御圧センサ、 110 車両状態取得部、 120 アプリケーション部、 122 基本制御部、 124 ABS制御部、 126 VSC制御部、 128 TRC制御部、 130 調停部、 140 バルブ動作演算部、 150 バルブ電流ドライバ。