この発明のハイブリッド車の制御装置は、入力部材に内燃機関が連結され、出力部材に電動機および駆動輪が連結された変速機構を搭載したハイブリッド車において、走行中に駆動輪側から変速機構へ入力される外乱トルクを検出する外乱入力検出手段と、その外乱入力検出手段により外乱トルクが検出された場合に、その外乱トルクを打ち消す逆トルクを電動機により出力する逆トルク出力手段とを備えている。
さらに、この発明では、電動機により出力される逆トルクが、外乱トルクと大きさが等しくかつ回転方向が反対のトルクであることが好ましい。
そうすることにより、外乱トルクが検出もしくは推定されると、変速機構の出力部材に連結された電動機の回転が制御されて、外乱トルクと大きさが同じで回転方向が逆方向のトルクが、電動機から出力される。そのため、駆動輪側からの外乱トルクが発生した場合であっても、電動機から出力される逆トルクによって外乱トルクが打ち消され、外乱トルクによる過大なトルクが変速機構へ入力されてしまうことを適切に回避することができる。
また、外乱入力検出手段が、電動機の角加速度に基づいて外乱トルクを検出する手段を含むことが好ましい。
そうすることにより、変速機構の出力部材に連結された電動機の回転数が検出され、その電動機の回転数に基づいて外乱トルクが検出もしくは推定される。そのため、外乱トルクを容易に、かつ、精度良く検出もしくは推定することができる。
また、外乱トルクが、電動機の回転数変化の絶対値が所定値よりも大きい場合に外乱入力検出手段により検出されるトルクであることが好ましい。
そうすることにより、変速機構の出力部材に連結された電動機の回転数が検出され、例えば、その電動機の回転数の変化率や変化量などの、電動機の回転変化の絶対値の大小に基づいて外乱トルクが検出もしくは推定される。そのため、外乱トルクを容易に、かつ、より精度良く検出もしくは推定することができる。
また、駆動輪と走行路面との接触状態に応じて、駆動輪が走行路面に対してスリップしている場合の慣性モーメントと、駆動輪が走行路面に対してグリップしている場合の慣性モーメントとを選択的に設定し、その設定された慣性モーメントと電動機の角加速度とに基づいて外乱トルクを検出する手段を含むことが好ましい。
そうすることにより、車両の走行状態が、駆動輪が走行路面に対してスリップしている状態と、駆動輪が走行路面に対してグリップしている状態とに区別され、それぞれの状態における慣性モーメントを考慮して外乱トルクが検出もしくは推定される。そのため、外乱トルクをより精度良く検出もしくは推定することができる。
そして、逆トルク出力手段が、運転者のアクセル操作に基づく要求駆動力が所定値以上の場合、もしくは、運転者の制動操作が行われた場合に、逆トルクの出力を禁止する手段を含むことが好ましい。
そうすることにより、例えばアクセルペダルの踏み込み操作などの運転者のアクセル操作に応じて設定される要求駆動力が所定値以上の場合、もしくは、例えばブレーキペダルの踏み込み操作などの運転者の制動操作が実行された場合には、外乱トルクに対する電動機による逆トルクの出力が禁止される。そのため、運転者の加速要求もしくは制動要求に基づく電動機の回転制御と、逆トルクの出力のための電動機の回転制御との干渉を回避することができる。
つぎに、この発明を具体例に基づいて説明する。先ず、この発明で対象とするハイブリッド車の駆動装置について説明すると、この発明で対象とするハイブリッド車の駆動装置は、一例として図10に示すように、車両Veに搭載されるものであって、主動力源としての内燃機関1のトルクが、伝動機構2を介して変速機構3の入力部材3iに伝達され、変速機構3の出力部材3oからデファレンシャル4を介して駆動輪5に伝達される。したがって、内燃機関1と出力部材3oとの間で伝達トルクを変速機構3で設定する変速比に応じて増減するようになっている。一方、走行のための駆動力を出力する力行制御あるいはエネルギを回収する回生制御の可能な電動機6が、変速機構3の出力部材3o側に設けられていて、その電動機6と駆動輪5との間で、出力部材3oおよびデファレンシャル4を介してトルクの伝達が行われるようになっている。
具体的に説明すると、内燃機関(以下、エンジンと記す)1は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する公知の動力装置であって、スロットル開度(吸気量)や燃料供給量、点火時期などの運転状態を電気的に制御できるように構成されている。
また、伝動機構2は、この実施例では、複数の摩擦係合装置の係合・解放状態を切り換えることにより、車両Veの前進状態と後進状態とを切り換える、後述する前後進切換機構15に相当するものであり、したがって、複数の摩擦係合装置とは、ここでは、それぞれ、後述する前後進切換機構15のフォワードクラッチ(前進クラッチ)31およびリバースブレーキ(後進ブレーキ)32に相当している。これらフォワードクラッチ31およびリバースブレーキ32としては、例えば、多板形式の係合装置あるいはバンド形式の係合装置などを採用することができる。
また、変速機構3は、この実施例では、ベルト式無段変速機3であり、ベルトを巻掛けたプーリの溝幅を変更することにより、プーリの有効径すなわちベルトが巻き掛かっている半径を変更して変速比を無段階に設定することのできる変速機である。したがって駆動側(あるいは入力側)すなわち入力部材3i側のプーリ、および従動側(あるいは出力側)すなわち出力部材3o側のプーリを、固定シーブとその固定シーブに対して軸線方向に前後動する可動シーブとによって構成し、その可動シーブを例えば油圧などの外力で移動させることにより、各プーリの溝幅を変化させ、ベルトの巻き掛け半径を連続的に変更できるように構成されている。
また、電動機6は、いわゆるモータ・ジェネレータ6であり、一例として同期電動機であって、モータとしての機能と発電機としての機能とを生じるように構成されている。そして、モータ・ジェネレータ6は、インバータ7を介してバッテリなどの蓄電装置8に接続されていて、そのインバータ7を制御することにより、モータ・ジェネレータ6の出力トルクあるいは回生トルクを適宜に設定するようになっている。また、この実施例では、モータ・ジェネレータ6は、そのロータ6aが、上記のベルト式無段変速機3の出力部材3o側に、例えばベルト式無段変速機3の従動プーリの固定シーブに一体的に連結されている。
そして、上記のエンジン1の運転状態の制御、あるいは伝動機構2すなわち前後進切換機構15のフォワードクラッチ31およびリバースブレーキ32の係合・解放状態の制御、あるいはベルト式無段変速機3の変速制御、あるいはモータ・ジェネレータ6の回転制御などを行うコントローラとして電子制御装置(ECU)9が設けられている。
この電子制御装置9には、例えば、車速センサの信号、加速要求検知センサ(例えばアクセルペダルの踏み込み量もしくは踏み込み力を検知するアクセルペダルセンサ)の信号、制動要求検知センサ(例えばブレーキペダルの踏み込み量もしくは踏み込み力を検知するブレーキペダルセンサ)の信号、エンジン回転数センサの信号、蓄電装置8の充電量(SOC)を検知するセンサの信号、モータ・ジェネレータ6の回転数を検知するセンサの信号、シフトポジションセンサの信号、ベルト式無段変速機3の入力回転数および出力回転数を検知するセンサの信号、エンジン1および前後進切換機構15およびベルト式無段変速機3の油温を検知するセンサ、車両Veの前後加速度を検知する前後加速度センサの信号、車両Veが位置する路面の勾配を検知する勾配センサの信号などが入力される。これに対して、電子制御装置9からは、例えば、エンジン1を制御する信号、インバータ7を介してモータ・ジェネレータ6を制御する信号、前後進切換機構15のフォワードクラッチ31およびリバースブレーキ32を制御する信号などが出力される。
この実施例における上記のベルト式無段変速機3について、より具体的に説明する。図11は、上記のベルト式無段変速機3を適用したFF車(フロントエンジンフロントドライブ;エンジン前置き前輪駆動車)のスケルトン図である。図11において、エンジン1のクランクシャフト1aが車両Veの幅方向に配置されている。
エンジン1の出力側には、トランスアクスル10が設けられている。このトランスアクスル10は、エンジン1の後端側(図11での左側)に取り付けられたトランスアクスルハウジング11と、トランスアクスルハウジング11におけるエンジン1とは反対側(図11での左側)の開口端に取り付けられたトランスアクスルケース12と、トランスアクスルケース12におけるトランスアクスルハウジング11とは反対側(図11での左側)の開口端に取り付けられたトランスアクスルリヤカバー13とを有している。
トランスアクスルハウジング11の内部には、トルクコンバータ14が設けられており、トランスアクスルケース12およびトランスアクスルリヤカバー13の内部には、前後進切換機構15およびベルト式無段変速機構3aおよびデファレンシャル4が設けられている。
トルクコンバータ14は、クランクシャフト1aと同一の軸線を中心として回転可能なインプットシャフト16が設けられており、インプットシャフト16におけるエンジン1側(図11での右側)の端部にはタービンランナ17が取り付けられている。一方、クランクシャフト1aの後端にはドライブプレート18を介してフロントカバー19が連結されており、フロントカバー19にはポンプインペラ20が接続されている。これらタービンランナ17とポンプインペラ20とは互いに対向して配置され、タービンランナ17およびポンプインペラ20の内側にはステータ21が設けられている。このステータ21には、一方向クラッチ22を介して中空軸23が接続されている。中空軸23はトランスアクスルケース12側に回転が不可能な状態で固定されていて、その中空軸23の内部に前記のインプットシャフト16が配置されている。
インプットシャフト16におけるフロントカバー19側(図11での右側)の端部には、ダンパ機構24を介してロックアップクラッチ25が設けられている。上記のように構成されたフロントカバー19およびポンプインペラ20などにより形成されたケーシング(図示せず)内に、作動流体としてのオイルが供給されている。
上記構成により、エンジン1の動力(トルク)がクランクシャフト1aからフロントカバー19に伝達される。この時、ロックアップクラッチ25が解放されている場合は、ポンプインペラ20のトルクが流体によりタービンランナ17に伝達され、ついでインプットシャフト16に伝達される。なお、ポンプインペラ20からタービンランナ17に伝達されるトルクを、ステータ21により増幅することもできる。一方、ロックアップクラッチ25が係合されている場合は、フロントカバー19のトルクが機械的にインプットシャフト16に伝達される。
トルクコンバータ14と前後進切換機構15との間には、オイルポンプ26が設けられている。このオイルポンプ26のロータ27と、前記ポンプインペラ20とが円筒形状のハブ28により接続されている。また、オイルポンプ26のボデー29は、トランスアクスルケース12側に固定されている。この構成により、エンジン1の動力がポンプインペラ20を介してロータ27に伝達され、オイルポンプ26を駆動することができる。
前後進切換機構15は、インプットシャフト16とベルト式無段変速機構3aとの間の動力伝達経路に設けられている。この前後進切換機構15は、エンジン1の回転方向が一方向に限られていることに伴って採用されている機構であって、入力されたトルクをそのまま出力する、もしくは反転して出力するように構成されている。具体的には、この前後進切換機構15は、主に、ダブルピニオン形式の遊星歯車装置30およびフォワードクラッチ31ならびにリバースブレーキ32により構成されている。
この前後進切換機構15の構成の一例を説明すると、遊星歯車装置30は、インプットシャフト16のベルト式無段変速機構3a側(図11での左側)の端部に設けられたサンギヤ33と、このサンギヤ33の外周側に、サンギヤ33と同心状に配置されたリングギヤ34と、サンギヤ33に噛み合わされたピニオンギヤ35と、このピニオンギヤ35およびリングギヤ34に噛み合わされたピニオンギヤ36と、ピニオンギヤ35,36を自転可能に保持し、かつ、ピニオンギヤ35,36を、サンギヤ33の周囲で一体的に公転可能な状態で保持したキャリヤ37とを有している。
そして、このキャリヤ37と、後述するベルト式無段変速機構3aの入力軸であるプライマリシャフト38とが連結され、サンギヤ33と、ダンパ機構24に連結されたインプットシャフト16とが連結されている。また、リングギヤ34の回転・固定を制御するリバースブレーキ32が、トランスアクスルケース12に設けられている。さらに、サンギヤ33と、キャリヤ37との間の動力伝達経路を接続・遮断するフォワードクラッチ31が設けられている。
この前後進切換機構15においては、前進ポジションが選択された場合は、フォワードクラッチ31が係合され、かつ、リバースブレーキ32が解放されて、キャリヤ37と、サンギヤ33すなわちインプットシャフト16とが一体回転する。キャリヤ37とサンギヤ33とが一体回転することによって、リングギヤ34もそれらキャリヤ37およびサンギヤ33と一体回転する。すなわち、インプットシャフト16とプライマリシャフト38とが直結状態になる。そして、エンジン1のトルクが、後述するベルト式無段変速機構3aのプライマリシャフト38およびセカンダリシャフト39などの回転部材を経由して駆動輪5に伝達され、車両Veが前進する。
これに対して、後進ポジションが選択された場合は、フォワードクラッチ31が解放され、かつ、リバースブレーキ32が係合されて、リングギヤ34が固定される。すると、インプットシャフト16の回転に伴ってサンギヤ33が回転し、リングギヤ34を反力要素としてキャリヤ37がインプットシャフト16の回転方向とは逆の方向に回転する。その結果、後述するプライマリシャフト38およびセカンダリシャフト39などの回転部材が、前進ポジションの場合とは逆方向に回転して車両Veが後進する。
ベルト式無段変速機構3aは、プライマリシャフト38およびセカンダリシャフト39を有している。すなわち、ベルト式無段変速機構3aは、インプットシャフト16と同心状に配置されたプライマリシャフト38と、プライマリシャフト38と相互に平行に配置されたセカンダリシャフト39とを有している。プライマリシャフト38側にはプライマリプーリ(すなわち駆動プーリ)40が設けられており、セカンダリシャフト39側にはセカンダリプーリ(すなわち従動プーリ)41が設けられている。
プライマリプーリ40は、プライマリシャフト38の外周に一体的に形成もしくは固定された固定シーブ42と、プライマリシャフト38の軸線方向に移動できるように構成された可動シーブ43とを有している。また、これら固定シーブ42と可動シーブ43との対向面間に、すなわち固定シーブ42のテーパ面42aと可動シーブ43のテーパ面43aとの間に、V字形状の溝(ベルト巻き掛け溝)44が形成されている。そして、可動シーブ43をプライマリシャフト38の軸線方向に動作させ、可動シーブ43と固定シーブ42とを接近・離隔させる油圧アクチュエータ45が設けられている。
一方、セカンダリプーリ41は、セカンダリシャフト39の外周に一体的に形成もしくは固定された固定シーブ46と、セカンダリシャフト39の軸線方向に移動できるように構成された可動シーブ47とを有している。また、これら固定シーブ46と可動シーブ47との対向面間に、すなわち固定シーブ46のテーパ面46aと可動シーブ47のテーパ面47aとの間に、V字形状の溝(ベルト巻き掛け溝)48が形成されている。そして、可動シーブ47をセカンダリシャフト39の軸線方向に動作させ、可動シーブ47と固定シーブ46とを接近・離隔させる油圧アクチュエータ49が設けられている。さらに、上記構成のプライマリプーリ40のベルト巻き掛け溝44およびセカンダリプーリ41のベルト巻き掛け溝48に対して、伝動ベルト50が巻き掛けられている。
このように、ベルト式無段変速機構3aは、互いに平行に配置されたプライマリプーリ(駆動プーリ)40とセカンダリプーリ(従動プーリ)41とのそれぞれが、固定シーブ38,46と、油圧アクチュエータ44,49によって軸線方向に前後動させられる可動シーブ43,47とによって構成されている。したがって各プーリ40,41のベルト巻き掛け溝44,48の幅が、可動シーブ43,47を軸線方向に移動させることにより変化し、それに伴って各プーリ40,41に巻掛けた伝動部材としての伝動ベルト50の巻掛け半径(各プーリ43,47の有効径)が連続的に変化し、変速比が無段階に変化するようになっている。
なお、セカンダリプーリ41における油圧アクチュエータ49には、ベルト式無段変速機構3aに入力されるトルクに応じた油圧(ライン圧もしくはその補正圧)が供給されている。したがって、セカンダリプーリ41における各シーブ46,47が伝動ベルト50を挟み付けることにより、伝動ベルト50に張力が付与され、各プーリ40,41と伝動ベルト50との挟圧力(接触圧力)が確保されるようになっている。言い換えれば、挟圧力に応じた伝達トルク容量(許容トルク)が設定される。これに対してプライマリプーリ40における油圧アクチュエータ45には、設定するべき変速比に応じた圧油が供給され、目標とする変速比に応じた溝幅(有効径)に設定するようになっている。
ベルト式無段変速機構3aの入力部材であるプライマリプーリ40が、前後進切換機構15における出力要素であるキャリヤ37に連結され、ベルト式無段変速機構3aの出力部材であるセカンダリプーリ41が、ギヤ対51およびデファレンシャル4に連結され、さらにそのデファレンシャル4が駆動輪5に連結されている。
そして、この実施例におけるベルト式無段変速機構3aは、セカンダリプーリ41の固定シーブ46に、モータ・ジェネレータ6が連結されている。そして、その連結部分は、固定シーブ46にモータ・ジェネレータ6を連結してユニット化するにあたり、ベルト式無段変速機構3aのプーリ軸方向(図11での左右方向)の形状・寸法をコンパクト化して、車両搭載性を向上することができるように、固定シーブ46とモータ・ジェネレータ6とが、半径方向(図11での上下方向)にオーバーラップして配置されて連結されている。
具体的には、固定シーブ46の背面46bとモータ・ジェネレータ6のロータ6aとが一体的に固定されている。すなわち、セカンダリプーリ41の固定シーブ46と、モータ・ジェネレータ6のロータ6aとが一体化されている。そのため、ベルト式無段変速機構3aのプーリ軸方向の形状・寸法をコンパクト化して、車両搭載性を向上することができる。また、セカンダリプーリ41の固定シーブ46およびモータ・ジェネレータ6のロータ6aの構成を簡素化し、また部品点数を削減して、低コスト化を図ることができる。
このように構成されたベルト式無段変速機3によれば、入力回転数であるエンジン回転数を無段階に(言い換えれば、連続的に)制御できるので、これを搭載した車両の燃費を向上できる。例えば、アクセル開度などによって表される要求駆動量と車速とに基づいて目標駆動力が求められ、その目標駆動力を得るために必要な目標出力が目標駆動力と車速とに基づいて求められ、その目標出力を最適燃費で得るためのエンジン回転数が予め用意したマップに基づいて求められ、そして、そのエンジン回転数となるように変速比が制御される。
そのような燃費向上の利点を損なわないために、ベルト式無段変速機3における動力の伝達効率が良好な状態に制御される。具体的には、ベルト式無段変速機3の伝達トルク容量すなわち挟圧力が、エンジントルクに基づいて決まる目標トルクを伝達でき、かつ伝動ベルト50の滑りが生じない範囲で可及的に低い挟圧力になるよう制御される。例えば、加減速が比較的頻繁に行われたり、路面の凹凸もしくは起伏がある悪路を走行している場合などのいわゆる非定常走行状態では、挟圧力が、前記制御状態に比べ相対的に高い挟圧力になるように制御される。
これに対して、平坦路をある程度以上の車速で定速走行しているなどの定常走行状態もしくはこれに準ずる準定常走行状態では、滑りを生じずに入力トルクを伝達できる最低の圧力すなわち限界挟圧力を検出するために、挟圧力が徐々に低下される。そしてその挟圧力が、検出された限界挟圧力に所定の安全率もしくは滑りに対する余裕伝達トルクを設定する圧力を加えた挟圧力に設定される。そして、このベルト式無段変速機3における挟圧力は、滑りを生じることなくトルクを伝達できる範囲で可及的に低い圧力であることが好ましい。
上記のように、この発明におけるハイブリッド車は、エンジン1を可及的に効率の良い状態で運転されるように制御し、一方で、エンジン1の出力トルクやエンジンブレーキ力の過不足を補うため、さらには車両Veの減速時や制動時にエネルギの回生を行うために、モータ・ジェネレータ6を回生制御することにより、ハイブリッド車の動力伝達効率を向上させ、燃費の向上を図ることができるように構成されている。
また、この発明におけるハイブリッド車は、上記のように入力部材にエンジン1が連結されたベルト式無段変速機3を搭載しているが、このベルト式無段変速機3を搭載している車両Veでは、前述したように、例えば、車両Veが走行中に縁石等に乗り上げた場合や、悪路を走行中に駆動輪5がスリップし、その後再び駆動輪5と路面とがグリップした場合などに、それら路面の凹凸などに起因する外乱による過大なトルクいわゆる外乱トルクが、駆動輪5側からベルト式無段変速機3へ入力されてしまう場合がある。
このような外乱トルクが駆動輪5側からベルト式無段変速機3へ入力されると、外乱トルクが挟圧力に応じて設定されるベルト式無段変速機3の余裕伝達トルクよりも大きい場合、ベルト式無段変速機3ではベルト滑りが発生してしまう。そこでこの発明における制御装置は、いわゆる外乱トルクが、駆動輪5側からベルト式無段変速機3へ入力される場合に、ベルト式無段変速機3でのベルト滑りの発生を防止することができるように構成されている。その制御の具体例を以下に説明する。
(第1の制御例)
図1は、この発明における制御装置の第1の制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図1において、先ず、ブレーキスイッチがONであるか否かが判断される(ステップS11)。ブレーキスイッチは、例えば運転者によるブレーキペダルの踏み込み量(もしくは踏み込み角度)が所定値以上ある場合にONとなるスイッチであり、したがってこのステップS11では、運転者による制動操作の有無、言い換えると、運転者の制動意志の有無について判断される。
ブレーキスイッチがONであることにより、このステップS11で肯定的に判断された場合、すなわち運転者に制動意志があると判断された場合は、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。すなわち、運転者の制動意志がある場合には、その制動操作による制御との干渉を避けるため、以降の制御の実行が禁止される。
一方、ブレーキスイッチがOFFであることにより、ステップS11で否定的に判断された場合、すなわち運転者に制動意志がないと判断された場合には、ステップS12へ進み、アクセル開度が所定値α未満か否かが判断される。アクセル開度は、例えば運転者によるアクセルペダルの踏み込み量(もしくは踏み込み角度)に応じて設定されるようになっていて、したがってこのステップS12では、運転者によるアクセル操作の有無、言い換えると、運転者による加速要求の有無について判断される。
アクセル開度が所定値α以上であることにより、このステップS12で否定的に判断された場合、すなわち運転者に所定量以上の加速要求があると判断された場合は、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。すなわち、運転者の所定量以上の加速要求がある場合には、その加速要求による制御との干渉を避けるため、以降の制御の実行が禁止される。
一方、アクセル開度が所定値α未満であることにより、ステップS12で肯定的に判断された場合、すなわち運転者に加速要求がないと判断された場合には、ステップS13へ進み、モータ・ジェネレータ6の回転数変化が求められる。ここでは、モータ・ジェネレータ6の回転数変化として、モータ・ジェネレータ6の角加速度ωmgが算出される。
続いて、角加速度ωmgの絶対値が、所定値βより大きいか否かが判断される(ステップS14)。前述したように、走行中にいわゆる外乱トルクが駆動輪5側からベルト式無段変速機3へ入力されると、ベルト式無段変速機3ではベルト滑りが発生してしまう場合がある。そのような外乱トルクは、例えば、車両Veが走行中に縁石や悪路の凸部分に乗り上げたり、あるいは凹凸のある路面や湿潤もしくは凍結した路面を走行中に駆動輪5がスリップし、その後路面に対して駆動輪5が再びグリップした場合などに、急激な回転数変化を伴って、駆動輪5からベルト式無段変速機3の出力部材3oおよびモータ・ジェネレータ6へ入力されることになる。そして、そのような急激な回転数変化を伴う外乱トルクの入力により、モータ・ジェネレータ6の回転数も大きく変化する。すなわち、モータ・ジェネレータ6の角加速度ωmgの絶対値が大きくなる。
そのため、このステップS14で、精度良く求めることができるモータ・ジェネレータ6の回転数に基づいて角加速度ωmgを算出し、その角加速度ωmgの絶対値の大きさを判断することによって、駆動輪5側からベルト式無段変速機3へ入力される外乱トルクの大きさを推定することができる。
したがって、角加速度ωmgの絶対値が所定値β以下であることにより、このステップS14で否定的に判断された場合は、駆動輪5側からベルト式無段変速機3へ入力される外乱トルクは、ベルト式無段変速機3でベルト滑りを生じさせる程は大きくないと判断することができるため、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、角加速度ωmgの絶対値が所定値βよりも大きいことにより、ステップS14で肯定的に判断された場合には、駆動輪5側からベルト式無段変速機3へ入力される外乱トルクによりベルト式無段変速機3でベルト滑りが生じる可能性があると判断することができるため、次のステップS15,S16へ進み、外乱トルクを打ち消すための逆トルクをモータ・ジェネレータ6によって出力するための制御が実行される。
すなわち、ステップS15では、モータ・ジェネレータ6の回転数変化として求められた角加速度ωmgと、駆動輪5からモータ・ジェネレータ6のロータ6aまでの間の動力伝達系統における慣性モーメントIvとから、路面入力Tbackすなわち外乱トルクTbackが算出される。
そして、ステップS16で、外乱トルクTbackと大きさが等しく、かつ回転方向が反対である逆トルクTmg(すなわち、Tmg=−Tback)が求められ、その逆トルクTmgを出力するようにモータ・ジェネレータ6の回転が制御される。したがって、モータ・ジェネレータ6から逆トルクTmgが出力されることにより、外乱トルクTbackと逆トルクTmgとが相殺し、言い換えると、外乱トルクTbackが逆トルクTmgによって打ち消され、その結果、外乱トルクTbackがベルト式無段変速機3へ入力されることが回避される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
(第2の制御例)
図2は、この発明における制御装置の第2の制御例を説明するためのフローチャートである。この第2の制御例は、上記の図1のフローチャートに示す第1の制御例に対して、外乱トルクTbackを算出する際に用いられる慣性モーメントIvを、駆動輪5が走行路面に対してスリップしている状態での慣性モーメントIv1と、駆動輪5が走行路面に対してグリップしている状態での慣性モーメントIv2とのいずれかに選択的に切り替えて、外乱トルクTbackを算出するようにした制御例である。
すなわち、図2は、図1のフローチャートのステップS14とステップS15との間に、ステップS21の制御内容を追加したフローチャートとなっている。したがって、この第2の制御例は、ステップS21の制御内容以外は、第1の制御例の制御内容と同じであるため、その部分の制御内容の詳細な説明は省略する。
図2において、ステップS21で、その時点での車両Veの走行状態に応じて、外乱トルクTbackを算出する際に用いる慣性モーメントIvとして、駆動輪5が走行路面に対してスリップしている状態での慣性モーメントIv1と、駆動輪5が走行路面に対してグリップしている状態での慣性モーメントIv2とのいずれかが選択される。すなわち、車両Veの駆動輪5にスリップが生じている場合には、慣性モーメントIvとして慣性モーメントIv1が選択される。これに対して、車両Veの駆動輪5が走行路面にグリップしている場合には、慣性モーメントIvとして慣性モーメントIv2が選択される。
慣性モーメントIv1は、駆動輪5からモータ・ジェネレータ6のロータ6aまでの間の動力伝達系統における慣性モーメント(イナーシャモーメント)であり、車両Veの慣性質量を考慮せずに求められた慣性モーメントである。一方、慣性モーメントIv2は、車両Veの慣性質量を考慮して求められた、駆動輪5からモータ・ジェネレータ6のロータ6aまでの間の動力伝達系統における慣性モーメントである。
そして、ステップS21で、駆動輪5のスリップの有無に応じて慣性モーメントIv1と慣性モーメントIv2とのいずれかが選択されて、慣性モーメントIvとして設定されると、前述の第1の制御例と同様に、ステップS15,S16で、外乱トルクTbackを打ち消すための逆トルクTmgをモータ・ジェネレータ6によって出力するための制御が実行される。
図3のタイムチャートは、上記の図1,図2のフローチャートで示す制御を実行した場合のモータ・ジェネレータ6の出力トルクや、駆動輪5側からベルト式無段変速機3への入力トルク(外乱トルク)などの状態を示している。図3に示すように、アクセル開度一定で車両Veが走行中に、時刻tの時点において、例えば車両Veが縁石に乗り上げた場合などのような外乱が発生すると、その外乱によるトルクが駆動輪5からドライブシャフトに伝達され、それに伴ってモータ・ジェネレータ6に急激な回転数の変化が生じる。その回転数変化は、モータ・ジェネレータ6の角加速度の大きさとして表される。そして、モータ・ジェネレータ6の角加速度に基づいて外乱トルクが算出され、その外乱トルクを打ち消す逆トルクがモータ・ジェネレータ6により出力される。その結果、駆動輪5側からベルト式無段変速機3へ入力される外乱トルクを、モータ・ジェネレータ6により逆トルクを出力しない場合(図3で一点鎖線で示す状態)に対して低減することができる。
このように、上記の第1,第2の制御例に示す制御を実行するよう構成したこの発明の制御装置によれば、出力部材3oにモータ・ジェネレータ6が連結されたベルト式無段変速機3を搭載したハイブリッド車Veにおいて、例えば、走行中に車輪が縁石等に乗り上げた場合や、駆動輪5がスリップした後に再び路面にグリップした場合などに、ベルト式無段変速機3の出力部材3o側から、すなわち駆動輪5側からベルト式無段変速機3へ入力される外乱トルクTbackが求められる。そして、その外乱トルクTbackに基づいて、その外乱トルクTbackを打ち消すための逆トルクTmgが算出される。具体的には、外乱トルクTbackと大きさが同じで回転方向が逆方向の逆トルクTmgが算出される。そして、その逆トルクTmgを出力するように、ベルト式無段変速機3の出力部材3oに連結されたモータ・ジェネレータ6の回転が制御される。
そのため、駆動輪5側からの外乱トルクTbackが発生した場合であっても、モータ・ジェネレータ6から出力される逆トルクTmgによって外乱トルクTbackが打ち消され、外乱トルクTbackによる過大なトルクがベルト式無段変速機3へ入力されてしまうことが回避される。その結果、駆動輪5側からベルト式無段変速機3への過大なトルクの入力に起因するベルト滑りの発生を防止もしくは抑制することができる。
また、外乱トルクTbackを算出する際には、モータ・ジェネレータ6の回転数変化、例えばモータ・ジェネレータ6の角加速度ωmgの大きさに基づいて、外乱トルクTbackが算出される。そのため、外乱トルクTbackを容易に、かつ、精度良く求めることができる。
さらに、外乱トルクTbackを算出する際には、車両Veの走行状態が、駆動輪5が走行路面に対してスリップしている状態と、駆動輪5が走行路面に対してグリップしている状態とに区別され、それぞれの状態における慣性モーメントIv1と慣性モーメントIv2とが考慮されて外乱トルクTbackが算出される。そのため、外乱トルクTbackをより精度良く検出もしくは推定することができる。
そして、例えばブレーキペダルの踏み込み操作などの運転者の制動操作が実行された場合、もしくは、所定量以上のアクセルペダルの踏み込み操作が実行された場合には、外乱トルクTbackに対するモータ・ジェネレータ6による逆トルクTmgの出力が禁止される。そのため、運転者の加速要求もしくは制動要求に基づくモータ・ジェネレータ6の回転制御と、逆トルクTmgの出力のためのモータ・ジェネレータ6の回転制御とが互いに干渉してしまうことを回避することができる。
(第3の制御例)
図4は、この発明における制御装置の第3の制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。この第3の制御例は、例えば車両Veの始動直後や、キックダウンによる変速時、あるいは油圧系統の異常発生時など、ベルト式無段変速機3の挟圧力を設定するための油圧が不足する場合に、ベルト式無段変速機3でのベルト滑りを防ぎ、伝動ベルト50およびプーリ40,41の保護を目的とする制御である。
図4において、先ず、運転者のアクセル操作によるドライバ要求トルクTpが求められ(ステップS31)、そのドライバ要求トルクTpに基づいてエンジン1に要求されるエンジン要求出力(パワー)Peが求められる(ステップS32)。ドライバ要求トルクTpは、例えば、車速センサの検出値、およびアクセルペダルセンサの検出値、およびベルト式無段変速機3で設定されている変速比などに基づいて算出することができる。
続いて、車両Veがエンジン1の出力により走行する状態であるか否かが判断される(ステップS33)。車両Veがエンジン1の出力により走行する状態ではないことにより、このステップS33で否定的に判断された場合、すなわち車両Veがモータ・ジェネレータ6の出力により走行する状態である場合は、ベルト滑りは発生しないと推定することができるため、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、車両Veがエンジン1の出力により走行する状態であることにより、ステップS33で肯定的に判断された場合には、ステップS34へ進み、上記のステップS31,S32で求められたドライバ要求トルクTpおよびエンジン要求出力Peに基づいて、エンジン動作点(運転点)、すなわちエンジン1を制御するためのエンジントルクTetmp、およびエンジン回転数Netmpが求められる。
そして、ベルト式無段変速機3の許容トルクTlimが求められる(ステップS35)。この許容トルクTlimは、例えば、車速センサの検出値、およびプライマリプーリ40の回転数、およびプライマリプーリ40に供給される油圧、およびベルト式無段変速機3で設定される変速比などに基づいて算出することができる。
続いて、エンジン1の出力トルクが制限される(ステップS36)。すなわちエンジン1のトルクダウン制御が行われる。具体的には、エンジントルクTeが、前述のステップS34で求められるエンジン動作点のエンジントルクTetmpと上記の許容トルクTlimとを比較して小さい方に設定される。そしてその後、そのエンジントルクTeに基づいてエンジン1が制御される。
そして、上記のエンジントルクTeと、前述のステップS31で求められたドライバ要求トルクTpとから、モータ・ジェネレータ6を制御するためのモータトルクTmが求められる。具体的には、モータ・ジェネレータ6を制御するためのモータトルクTmが、ドライバ要求トルクTpとエンジントルクTeとの偏差として算出される。その後、そのモータトルクTmに基づいてモータ・ジェネレータ6が制御される(ステップS37)。
そして、算出されたモータトルクTmにより、モータ・ジェネレータ6が制御されると、その後、このルーチンを一旦終了する。
(第4の制御例)
図5は、この発明における制御装置の第4の制御例を説明するためのフローチャートである。この第4の制御例は、上記の図4に示す第3の制御例に対して、エンジン1のトルクダウン制御を行うために算出されるエンジントルクTeに、車両Veの走行状況に応じたフィルタリング処理を施すことにより、エンジン1のトルクダウン制御およびモータ・ジェネレータ6によるトルク補償制御(トルクアシスト制御)を適切に行うようにした制御例である。
すなわち、図5は、図4のフローチャートのステップS36とステップS37との間に、ステップS41の制御内容を追加したフローチャートとなっている。したがって、この第4の制御例は、ステップS41の制御内容以外は、第3の制御例の制御内容と同じであるため、その部分の制御内容の詳細な説明は省略する。
図5において、ステップS36’でエンジントルクTe’が求められると、ステップS41において、エンジントルクTe’に対して一次遅れ系のフィルタリング処理が施され、エンジントルクTeが求められる。具体的には、フィルタリング係数をTfilter、ラプラス演算子をsとすると、エンジントルクTeは、
Te ={1/(Tfilter・s+1)}・Te’
として求められる。
このとき、車両Veの走行状況に応じてフィルタリング係数Tfilterの大きさが変更される。例えば、車両Veの始動時などの、それほど速い制御応答性が要求されない状況では、Tfilterが相対的に大きな値に設定される。それに対して、キックダウンによるダウンシフト時などの、速い制御応答性が要求される状況では、Tfilterが相対的に小さな値に設定される。
エンジントルクTeが求められると、そのエンジントルクTeに基づいてエンジン1が制御される。そして、エンジントルクTeとドライバ要求トルクTpとから、モータ・ジェネレータ6を制御するためのモータトルクTmが求められ、そのモータトルクTmに基づいてモータ・ジェネレータ6が制御される(ステップS37)。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
(第5の制御例)
図6は、この発明における制御装置の第5の制御例を説明するためのフローチャートである。この第5の制御例は、前述の図4に示す第3の制御例に対して、過渡的にベルト式無段変速機3の挟圧力が不足する領域では、一時的にモータ・ジェネレータ6の出力による車両Veの走行を優先させるように、すなわち、一時的に車両Veをモータ・ジェネレータ6の出力により走行させるモータ(EV)走行領域を拡大するようにした制御例である。
すなわち、図6は、図4のフローチャートの制御内容を一部変更したフローチャートとなっていて、したがってこの第5の制御例において、第3の制御例の制御内容と同じ部分については、その制御内容の詳細な説明を省略する。
図6において、ドライバ要求トルクTpおよびエンジン要求出力Peが求められると、ステップS51で、車両Veをエンジン1の出力により走行させることを前提として、上記のドライバ要求トルクTpおよびエンジン要求出力Peに基づいて、エンジン動作点(運転点)、すなわちエンジン1を制御するためのエンジントルクTetmp’、およびエンジン回転数Netmp’が求められる。
そして、ステップS51で仮に求められたエンジン動作点でエンジン1を運転した場合に、ベルト式無段変速機3へ入力されるエンジントルクTetmp’が、ベルト式無段変速機3の許容トルクTlimを超過するか否かが判断される(ステップS52)。エンジントルクTetmp’が許容トルクTlim未満であることにより、このステップS52で否定的に判断された場合は、ベルト滑りは発生しないと推定することができるため、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、エンジントルクTetmp’が許容トルクTlimを超過することにより、ステップS52で肯定的に判断された場合には、車両Veの走行判断用のマップ(閾値テーブル)が一時的に変更される。具体的には、図7に示すように、車両Veをエンジン1の出力により走行させるエンジン(ENG)走行領域Reと、車両Veをモータ・ジェネレータ6の出力により走行させるモータ(EV)走行領域Rmとを隔てているエンジン起動閾値THが、一時的にエンジン走行領域Re側に移動した状態に設定される。言い換えると、通常時の走行判断用のマップに対して、一時的に、エンジン走行領域Reが減少されるとともに、モータ走行領域Rmが拡大された状態に設定される。
ベルト式無段変速機3においては、主に、エンジン1から入力されるトルクがベルト式無段変速機3のトルク容量を超過した場合にベルト滑りが発生するが、上記のように「エンジントルクTetmp’>許容トルクTlim」となった場合に、車両Veのエンジン走行領域Reを減少することによって、ベルト式無段変速機3へエンジン1の大きな出力トルクが入力されてベルト滑りが生じてしまうことを回避できる。
そして、前述したように、この車両Veは、ベルト式無段変速機3の出力部材3o側に、具体的には、セカンダリプーリ41の固定シーブ46にモータ・ジェネレータ6が連結されているため、モータ・ジェネレータ6の出力によりベルト式無段変速機3でベルト滑りが発生することはない。したがって、ベルト滑りの発生の可能性が高くなる場合に、上記のように、モータ走行領域Rmが拡大されることによって、ベルト滑りが生じてしまう可能性を低減することができる。
ステップS53で、車両Veの走行判断用のマップが、エンジン走行領域Reが減少されるとともに、モータ走行領域Rmが拡大された状態になるように変更されると、前述の図4のフローチャートのステップS34からステップS37に示す制御が同様に実行される。
このように、上記の第3,第4,第5の制御例に示す制御を実行するよう構成したこの発明の制御装置によれば、出力部材3oにモータ・ジェネレータ6が連結されたベルト式無段変速機3を搭載したハイブリッド車Veにおいて、エンジン1の出力により車両Veを走行させる場合、ベルト式無段変速機3でのベルト滑りを防止するために、ベルト式無段変速機3の許容トルクTlimに応じてエンジン1のトルクダウン制御が行われ、エンジン1からベルト式無段変速機3へ入力されるトルクが制限される。また併せて、ベルト式無段変速機3の出力側に連結されているモータ・ジェネレータ6の出力によりベルト式無段変速機3からの出力トルクが補償される。言い換えると、トルクアシストされる。そのため、ベルト式無段変速機3の挟圧力を設定するための油圧が不足する場合であっても、ベルト式無段変速機3でのベルト滑りを防ぎ、伝動ベルト50およびプーリ40,41を保護することができる。また、ベルト滑りを防止するためのエンジン1のトルクダウン制御が行われた場合であっても、ベルト式無段変速機3でのベルト滑りを防止もしくは抑制するとともに、出力トルクが不足してしまうことによるドライバビリティの低下を回避することができる。
また、エンジン1のトルクダウン制御を実行する場合に求められる制御指令値であるエンジントルクTeに対して、車両Veの運転状況、あるいは走行状況に応じて変更されるフィルタリング処理が施される。そのため、例えば車両Veの始動時などの、それほど速い制御応答性が要求されない状況では、制御の応答性を相対的に遅くすることにより、制御のハンチングなどによる運転者への違和感を防止し、ドライバビリティの低下を回避することができる。また、例えばキックダウンによるダウンシフト時などの、速い制御応答性が要求される状況では、制御の応答性を相対的に速くすることにより、エンジン1のトルクダウン制御およびモータ・ジェネレータ6によるトルクアシスト制御を適切に行うことができる。
そして、ベルト式無段変速機3の挟圧力を設定するための油圧が不足する場合に、エンジン1の出力により車両Veを走行させるエンジン走行領域Reと、モータ・ジェネレータ6の出力により車両Veを走行させるモータ走行領域Rmとが、通常時にそれぞれ設定されている領域に対して、エンジン走行領域Reが減少されるとともに、モータ走行領域Rmが拡大される。言い換えると、モータ・ジェネレータ6の出力により走行する比率が高められるとともに、エンジン1の出力により走行する比率が低められる。そのため、挟圧力を設定する油圧が不足してベルト滑りが発生し易くなる場合に、エンジン1の出力により走行する比率が低められ、その結果、エンジン1の大きな出力がベルト式無段変速機3へ入力されることによるベルト滑りの発生の可能性を低減することができる。また、モータ・ジェネレータ6の出力により走行する比率が高められることにより、モータ・ジェネレータ6の出力によるベルト式無段変速機3の出力トルクの補償を容易に行うことができる。
(第6の制御例)
図8は、この発明における制御装置の第6の制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。この第6の制御例は、低温時などに、ベルト式無段変速機3の挟圧力を設定するための油圧が不足する場合に、ベルト式無段変速機3でのベルト滑りを防ぎ、伝動ベルト50およびプーリ40,41を保護するとともに、運転者の要求駆動力を満足させることを目的とする制御である。
図8において、先ず、運転者のアクセル操作によるドライバ要求トルクTpが求められる(ステップS61)。ドライバ要求トルクTpは、例えば、車速センサの検出値、およびアクセルペダルセンサあるいはアクセル開度の検出値、およびベルト式無段変速機3で設定されている変速比などに基づいて算出することができる。
ドライバ要求トルクTpが求められると、ベルト式無段変速機3のオイル(ATF)の温度Hが所定値εよりも低いか否かが判断される(ステップS62)。ATFの温度Hが所定値ε以上であることにより、このステップS62で否定的に判断された場合は、ベルト式無段変速機3は正常に作動し、ATFの温度が低いことに起因する挟圧力不足が発生することもないと判断できるため、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、ATFの温度Hが所定値εよりも低いことにより、ステップS62で肯定的に判断された場合には、先ず、ステップS63へ進み、モータ・ジェネレータ6を制御するためのモータトルクTmが求められ、そのモータトルクTmに基づいてモータ・ジェネレータ6が制御される。ここで、モータトルクTmは、車速、および蓄電装置8の充電量(SOC)、および蓄電装置8の温度などの検出値に基づいて、例えば、図9に示すようなマップから求めることができる。
続いて、エンジン1を制御するためのエンジントルクTeが求められ、そのエンジントルクTeに基づいてエンジン1が制御される(ステップS64)。なお。ここでのエンジントルクTeは、上記のステップS61,S63で求めたドライバ要求トルクTpおよびモータトルクTmから、
Te =Tp−Tm
として算出される。すなわち、ドライバ要求トルクTpに対するモータ・ジェネレータ6による出力の不足分をエンジン1によって補うようことができるようにエンジン1が制御される。
そして、上記で求められたエンジントルクTeを基にベルト式無段変速機3でのCVT伝達トルクTcvtが求められ、すなわち、CVT伝達トルクTcvtが、
Tcvt =Te
として設定されて、そのCVT伝達トルクTcvtに基づいて、ベルト式無段変速機3の挟圧力制御が実行される(ステップS65)。なお、この挟圧力制御の実行とともに、ベルト式無段変速機3のベルト滑りを防止するため、CVT伝達トルクTcvtとベルト式無段変速機3の挟圧力とに応じて、エンジン1の出力トルクを制限するベルト保護制御(エンジントルクダウン制御)も併せて実行される。
上記のようにベルト式無段変速機3の挟圧力制御、およびベルト保護制御が実行されると、その後、このルーチンを一旦終了する。
このように、上記の図8に示す制御を実行するよう構成したこの発明の制御装置によれば、出力部材3oにモータ・ジェネレータ6が連結されたベルト式無段変速機3を搭載したハイブリッド車Veにおいて、冬期や寒冷地における低温時に車両Veを走行させる場合、可及的にモータ・ジェネレータ6の出力により車両Veが走行するように、すなわち、エンジン1が出力するトルクが可及的に小さくなるように、モータ・ジェネレータ6およびエンジン1が制御される。
そのため、ATFの粘性が高くなることなどによりベルト式無段変速機3の挟圧力を設定するための油圧が不足し、あるいは油圧の立ち上がりが遅延して、挟圧力が不足しがちになる低温時に、エンジン1の出力トルクが極力抑制されることにより、ベルト式無段変速機3に入力(伝達)されるトルクを少なくして、ベルト滑りの発生を防止もしくは抑制することができる。
また、低温時にモータ・ジェネレータ6が優先的に駆動されることにより、ベルト式無段変速機3への伝達トルクを低減してベルト滑りを防止もしくは抑制するとともに、モータ・ジェネレータ6が駆動される際の発熱によって、ATFおよび蓄電装置8などの昇温を促進することができる。
ここで上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、前述したステップS13ないしS15,ステップS21の機能的手段が、この発明の外乱入力検出手段に相当する。また、ステップS11,S12,S16の機能的手段が、この発明の逆トルク出力手段に相当する。
なお、この発明は、上述した具体例に限定されないのであって、具体例では、入力部材に内燃機関が連結されるとともに、出力部材に発電機能を有する電動機が連結された変速機構として、ベルト式無段変速機を用いた例を示しているが、例えば、トロイダル式の無段変速機であってもよく、また、油圧により摩擦係合させられるクラッチやブレーキを備え、伝達トルク容量を変更可能な有段式の自動変速機などを採用することもできる。
1…内燃機関(エンジン)、 2…伝動機構、 3…変速機構(ベルト式無段変速機)、 3i…入力部材、 3o…出力部材、 5…駆動輪、 6…電動機(モータ・ジェネレータ)、 9…電子制御装置(ECU)、 Ve…車両。