この発明のハイブリッド車の制御装置は、内燃機関の出力によりベルト式無段変速機が駆動される際のベルト式無段変速機のプーリの回転方向と反対方向にプーリが回転するプーリの逆回転を検出するプーリ逆回転検出手段と、プーリの逆回転検出手段によりプーリの逆回転が検出された場合に、ベルト式無段変速機の入力トルクを制限する入力トルク制限手段と、入力トルク制限手段による入力トルクの制限に伴うベルト式無段変速機から出力部材へ伝達されるトルクの減少を、電動機の出力により補償する出力トルク補償手段とを備えている。
そしてこの発明では、内燃機関の出力によりハイブリッド車を走行させる内燃機関走行領域と、電動機の出力によりハイブリッド車を走行させる電動機走行領域とを選択的に設定する走行領域設定手段を更に備え、走行領域設定手段が、プーリ逆回転検出手段によりプーリの逆回転が検出もしくは推定された場合に、電動機走行領域を拡大する手段を含むことが好ましい。
そうすることにより、ベルト式無段変速機におけるプーリの逆回転が検出もしくは推定されると、通常時に設定されている領域に対して、電動機走行領域が拡大される。したがって、車両のずり下がり、すなわちプーリの逆回転が生じるような場合には、電動機の出力により走行する比率が高められるとともに、内燃機関の出力により走行する比率が低められる。そのため、内燃機関の大きな出力がベルト式無段変速機へ入力されることによってベルト滑りが発生し易くなる車両のずり下がりが生じるような場合に、内燃機関の出力により走行する比率が低められ、その結果ベルト滑りが発生する可能性を低減することができる。また、電動機の出力により走行する比率が高められ、その結果電動機の出力によるベルト式無段変速機の出力トルクの補償を容易に行うことができる。
また、プーリ逆回転検出手段によりプーリの逆回転が検出もしくは推定された場合に、ベルト式無段変速機の変速比を推定する変速比推定手段を更に備え、入力トルク制限手段が、変速比推定手段により推定した変速比に基づいて入力トルクを制限する手段を含むことも好ましい。
そうすることにより、ベルト式無段変速機におけるプーリの逆回転が検出もしくは推定されると、その場合にベルト式無段変速機で設定される変速比が推定されて求められる。そして、その変速比に基づいて、内燃機関からベルト式無段変速機へ入力されるトルクが制限される。そのため、車両のずり下がり、すなわちプーリの逆回転が生じるような場合に、駆動側のプーリと従動側のプーリとの推力のバランスが変化してベルト式無段変速機の変速比が変化する場合であっても、その変速比の変化に即して、ベルト式無段変速機の入力トルクを適切に制限することができる。
また、プーリ逆回転検出手段によりプーリの逆回転が検出もしくは推定された場合に、プーリの逆回転に関与するハイブリッド車の諸状態を検出する車両状態検出手段を更に備え、変速比推定手段が、車両状態検出手段により検出された諸状態に基づいて変速比を推定する手段を含むことも好ましい。
そうすることによりベルト式無段変速機におけるプーリの逆回転が検出もしくは推定されると、そのプーリの逆回転の発生に寄与しているハイブリッド車の諸状態が検出される。そして、その検出された諸状態に基づいて、ベルト式無段変速機で設定される変速比が推定されて求められる。そのため、車両のずり下がり、すなわちプーリの逆回転が生じるような場合にベルト式無段変速機で設定される変速比を、精度良く推定することができる。
そして、諸状態が、ハイブリッド車が位置している路面の勾配、およびハイブリッド車の制動力、およびプーリの逆回転の継続時間であることも好ましい。
そうすることにより、ベルト式無段変速機におけるプーリの逆回転が検出もしくは推定されると、そのプーリの逆回転の発生に寄与しているハイブリッド車の諸状態として、ハイブリッド車が位置している路面勾配、およびハイブリッド車の制動力、およびプーリの逆回転が発生してからの継続時間が検出される。そして、それら検出された路面勾配、制動力、プーリの逆回転の継続時間に基づいて、ベルト式無段変速機で設定される変速比が推定されて求められる。そのため、車両のずり下がり、すなわちプーリの逆回転が生じるような場合に、ベルト式無段変速機で設定される変速比を、より一層精度良く推定することができる。
つぎに、この発明を具体例に基づいて説明する。先ず、この発明で対象とするハイブリッド車の駆動装置について説明すると、この発明で対象とするハイブリッド車の駆動装置は、一例として図5に示すように、車両Ve1に搭載されるものであって、主動力源としての内燃機関1のトルクが、伝動機構2を介してベルト式無段変速機3の入力部材3iに伝達され、ベルト式無段変速機3の出力部材3oからデファレンシャル4を介して駆動輪5に伝達される。したがって、内燃機関1と出力部材3oとの間で伝達トルクをベルト式無段変速機3で設定する変速比に応じて増減するようになっている。一方、走行のための駆動力を出力する力行制御あるいはエネルギを回収する回生制御の可能な電動機6が、ベルト式無段変速機3の出力部材3o側に設けられていて、その電動機6と駆動輪5との間で、出力部材3oおよびデファレンシャル4を介してトルクの伝達が行われるようになっている。
具体的に説明すると、内燃機関(以下、エンジンと記す)1は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する公知の動力装置であって、スロットル開度(吸気量)や燃料供給量、点火時期などの運転状態を電気的に制御できるように構成されている。
また、伝動機構2は、この実施例では、複数の摩擦係合装置の係合・解放状態を切り換えることにより、車両Ve1の前進状態と後進状態とを切り換える、後述する前後進切換機構15に相当するものであり、したがって、複数の摩擦係合装置とは、ここでは、それぞれ、後述する前後進切換機構15のフォワードクラッチ(前進クラッチ)31およびリバースブレーキ(後進ブレーキ)32に相当している。これらフォワードクラッチ31およびリバースブレーキ32としては、例えば、多板形式の係合装置あるいはバンド形式の係合装置などを採用することができる。
また、ベルト式無段変速機3は、ベルトを巻掛けたプーリの溝幅を変更することにより、プーリの有効径すなわちベルトが巻き掛かっている半径を変更して変速比を無段階に設定することのできる変速機である。したがって駆動側(あるいは入力側)すなわち入力部材3i側のプーリ、および従動側(あるいは出力側)すなわち出力部材3o側のプーリを、固定シーブとその固定シーブに対して軸線方向に前後動する可動シーブとによって構成し、その可動シーブを例えば油圧などの外力で移動させることにより、各プーリの溝幅を変化させ、ベルトの巻き掛け半径を連続的に変更できるように構成されている。
また、電動機6は、いわゆるモータ・ジェネレータ6であり、一例として同期電動機であって、モータとしての機能と発電機としての機能とを生じるように構成されている。そして、モータ・ジェネレータ6は、インバータ7を介してバッテリなどの蓄電装置8に接続されていて、そのインバータ7を制御することにより、モータ・ジェネレータ6の出力トルクあるいは回生トルクを適宜に設定するようになっている。また、この実施例では、モータ・ジェネレータ6は、そのロータ6aが、上記のベルト式無段変速機3の出力部材3o側に、例えばベルト式無段変速機3の従動プーリの固定シーブに一体的に連結されている。
そして、上記のエンジン1の運転状態の制御、あるいは伝動機構2すなわち前後進切換機構15のフォワードクラッチ31およびリバースブレーキ32の係合・解放状態の制御、あるいはベルト式無段変速機3の変速制御、あるいはモータ・ジェネレータ6の回転制御などを行うコントローラとして電子制御装置(ECU)9が設けられている。
この電子制御装置9には、例えば、車速センサの信号、加速要求検知センサ(例えばアクセルペダルの踏み込み量もしくは踏み込み力を検知するアクセルペダルセンサ)の信号、制動要求検知センサ(例えばブレーキペダルの踏み込み量もしくは踏み込み力を検知するブレーキペダルセンサ)の信号、エンジン回転数センサの信号、蓄電装置8の充電量(S.O.C.)を検知するセンサの信号、モータ・ジェネレータ6の回転数を検知するセンサの信号、シフトポジションセンサの信号、ベルト式無段変速機3の入力回転数および出力回転数を検知するセンサの信号、エンジン1および前後進切換機構15およびベルト式無段変速機3の油温を検知するセンサ、車両Ve1の前後加速度を検知する前後加速度センサの信号、車両Ve1が位置する路面の勾配を検知する勾配センサの信号などが入力される。これに対して、電子制御装置9からは、例えば、エンジン1を制御する信号、インバータ7を介してモータ・ジェネレータ6を制御する信号、前後進切換機構15のフォワードクラッチ31およびリバースブレーキ32を制御する信号などが出力される。
この実施例における上記のベルト式無段変速機3について、より具体的に説明する。図6は、上記のベルト式無段変速機3を適用したFF車(フロントエンジンフロントドライブ;エンジン前置き前輪駆動車)のスケルトン図である。図6において、エンジン1のクランクシャフト1aが車両Ve1の幅方向に配置されている。
エンジン1の出力側には、トランスアクスル10が設けられている。このトランスアクスル10は、エンジン1の後端側(図6での左側)に取り付けられたトランスアクスルハウジング11と、トランスアクスルハウジング11におけるエンジン1とは反対側(図6での左側)の開口端に取り付けられたトランスアクスルケース12と、トランスアクスルケース12におけるトランスアクスルハウジング11とは反対側(図6での左側)の開口端に取り付けられたトランスアクスルリヤカバー13とを有している。
トランスアクスルハウジング11の内部には、トルクコンバータ14が設けられており、トランスアクスルケース12およびトランスアクスルリヤカバー13の内部には、前後進切換機構15およびベルト式無段変速機構3aおよびデファレンシャル4が設けられている。
トルクコンバータ14は、クランクシャフト1aと同一の軸線を中心として回転可能なインプットシャフト16が設けられており、インプットシャフト16におけるエンジン1側(図6での右側)の端部にはタービンランナ17が取り付けられている。一方、クランクシャフト1aの後端にはドライブプレート18を介してフロントカバー19が連結されており、フロントカバー19にはポンプインペラ20が接続されている。これらタービンランナ17とポンプインペラ20とは互いに対向して配置され、タービンランナ17およびポンプインペラ20の内側にはステータ21が設けられている。このステータ21には、一方向クラッチ22を介して中空軸23が接続されている。中空軸23はトランスアクスルケース12側に回転が不可能な状態で固定されていて、その中空軸23の内部に前記のインプットシャフト16が配置されている。
インプットシャフト16におけるフロントカバー19側(図6での右側)の端部には、ダンパ機構24を介してロックアップクラッチ25が設けられている。上記のように構成されたフロントカバー19およびポンプインペラ20などにより形成されたケーシング(図示せず)内に、作動流体としてのオイルが供給されている。
上記構成により、エンジン1の動力(トルク)がクランクシャフト1aからフロントカバー19に伝達される。この時、ロックアップクラッチ25が解放されている場合は、ポンプインペラ20のトルクが流体によりタービンランナ17に伝達され、ついでインプットシャフト16に伝達される。なお、ポンプインペラ20からタービンランナ17に伝達されるトルクを、ステータ21により増幅することもできる。一方、ロックアップクラッチ25が係合されている場合は、フロントカバー19のトルクが機械的にインプットシャフト16に伝達される。
トルクコンバータ14と前後進切換機構15との間には、オイルポンプ26が設けられている。このオイルポンプ26のロータ27と、前記ポンプインペラ20とが円筒形状のハブ28により接続されている。また、オイルポンプ26のボデー29は、トランスアクスルケース12側に固定されている。この構成により、エンジン1の動力がポンプインペラ20を介してロータ27に伝達され、オイルポンプ26を駆動することができる。
前後進切換機構15は、インプットシャフト16とベルト式無段変速機構3aとの間の動力伝達経路に設けられている。この前後進切換機構15は、エンジン1の回転方向が一方向に限られていることに伴って採用されている機構であって、入力されたトルクをそのまま出力する、もしくは反転して出力するように構成されている。具体的には、この前後進切換機構15は、主に、ダブルピニオン形式の遊星歯車装置30およびフォワードクラッチ31ならびにリバースブレーキ32により構成されている。
この前後進切換機構15の構成の一例を説明すると、遊星歯車装置30は、インプットシャフト16のベルト式無段変速機構3a側(図6での左側)の端部に設けられたサンギヤ33と、このサンギヤ33の外周側に、サンギヤ33と同心状に配置されたリングギヤ34と、サンギヤ33に噛み合わされたピニオンギヤ35と、このピニオンギヤ35およびリングギヤ34に噛み合わされたピニオンギヤ36と、ピニオンギヤ35,36を自転可能に保持し、かつ、ピニオンギヤ35,36を、サンギヤ33の周囲で一体的に公転可能な状態で保持したキャリヤ37とを有している。
そして、このキャリヤ37と、後述するベルト式無段変速機構3aの入力軸であるプライマリシャフト38とが連結され、サンギヤ33と、ダンパ機構24に連結されたインプットシャフト16とが連結されている。また、リングギヤ34の回転・固定を制御するリバースブレーキ32が、トランスアクスルケース12に設けられている。さらに、サンギヤ33と、キャリヤ37との間の動力伝達経路を接続・遮断するフォワードクラッチ31が設けられている。
この前後進切換機構15においては、前進ポジションが選択された場合は、フォワードクラッチ31が係合され、かつ、リバースブレーキ32が解放されて、キャリヤ37と、サンギヤ33すなわちインプットシャフト16とが一体回転する。キャリヤ37とサンギヤ33とが一体回転することによって、リングギヤ34もそれらキャリヤ37およびサンギヤ33と一体回転する。すなわち、インプットシャフト16とプライマリシャフト38とが直結状態になる。そして、エンジン1のトルクが、後述するベルト式無段変速機構3aのプライマリシャフト38およびセカンダリシャフト39などの回転部材を経由して駆動輪5に伝達され、車両Ve1が前進する。
これに対して、後進ポジションが選択された場合は、フォワードクラッチ31が解放され、かつ、リバースブレーキ32が係合されて、リングギヤ34が固定される。すると、インプットシャフト16の回転に伴ってサンギヤ33が回転し、リングギヤ34を反力要素としてキャリヤ37がインプットシャフト16の回転方向とは逆の方向に回転する。その結果、後述するプライマリシャフト38およびセカンダリシャフト39などの回転部材が、前進ポジションの場合とは逆方向に回転して車両Ve1が後進する。
ベルト式無段変速機構3aは、プライマリシャフト38およびセカンダリシャフト39を有している。すなわち、ベルト式無段変速機構3aは、インプットシャフト16と同心状に配置されたプライマリシャフト38と、プライマリシャフト38と相互に平行に配置されたセカンダリシャフト39とを有している。プライマリシャフト38側にはプライマリプーリ(すなわち駆動プーリ)40が設けられており、セカンダリシャフト39側にはセカンダリプーリ(すなわち従動プーリ)41が設けられている。
プライマリプーリ40は、プライマリシャフト38の外周に一体的に形成もしくは固定された固定シーブ42と、プライマリシャフト38の軸線方向に移動できるように構成された可動シーブ43とを有している。また、これら固定シーブ42と可動シーブ43との対向面間に、すなわち固定シーブ42のテーパ面42aと可動シーブ43のテーパ面43aとの間に、V字形状の溝(ベルト巻き掛け溝)44が形成されている。そして、可動シーブ43をプライマリシャフト38の軸線方向に動作させ、可動シーブ43と固定シーブ42とを接近・離隔させる油圧アクチュエータ45が設けられている。
一方、セカンダリプーリ41は、セカンダリシャフト39の外周に一体的に形成もしくは固定された固定シーブ46と、セカンダリシャフト39の軸線方向に移動できるように構成された可動シーブ47とを有している。また、これら固定シーブ46と可動シーブ47との対向面間に、すなわち固定シーブ46のテーパ面46aと可動シーブ47のテーパ面47aとの間に、V字形状の溝(ベルト巻き掛け溝)48が形成されている。そして、可動シーブ47をセカンダリシャフト39の軸線方向に動作させ、可動シーブ47と固定シーブ46とを接近・離隔させる油圧アクチュエータ49が設けられている。さらに、上記構成のプライマリプーリ40のベルト巻き掛け溝44およびセカンダリプーリ41のベルト巻き掛け溝48に対して、伝動ベルト50が巻き掛けられている。
このように、ベルト式無段変速機構3aは、互いに平行に配置されたプライマリプーリ(駆動プーリ)40とセカンダリプーリ(従動プーリ)41とのそれぞれが、固定シーブ38,46と、油圧アクチュエータ44,49によって軸線方向に前後動させられる可動シーブ43,47とによって構成されている。したがって各プーリ40,41のベルト巻き掛け溝44,48の幅が、可動シーブ43,47を軸線方向に移動させることにより変化し、それに伴って各プーリ40,41に巻掛けた伝動部材としての伝動ベルト50の巻掛け半径(各プーリ43,47の有効径)が連続的に変化し、変速比が無段階に変化するようになっている。
なお、セカンダリプーリ41における油圧アクチュエータ49には、ベルト式無段変速機構3aに入力されるトルクに応じた油圧(ライン圧もしくはその補正圧)が供給されている。したがって、セカンダリプーリ41における各シーブ46,47が伝動ベルト50を挟み付けることにより、伝動ベルト50に張力が付与され、各プーリ40,41と伝動ベルト50との挟圧力(接触圧力)が確保されるようになっている。言い換えれば、挟圧力に応じた伝達トルク容量(許容トルク)が設定される。これに対してプライマリプーリ40における油圧アクチュエータ45には、設定するべき変速比に応じた圧油が供給され、目標とする変速比に応じた溝幅(有効径)に設定するようになっている。
ベルト式無段変速機構3aの入力部材であるプライマリプーリ40が、前後進切換機構15における出力要素であるキャリヤ37に連結され、ベルト式無段変速機構3aの出力部材であるセカンダリプーリ41が、ギヤ対51およびデファレンシャル4に連結され、さらにそのデファレンシャル4が駆動輪5に連結されている。
そして、この実施例におけるベルト式無段変速機構3aは、セカンダリプーリ41の固定シーブ46に、モータ・ジェネレータ6が連結されている。そして、その連結部分は、固定シーブ46にモータ・ジェネレータ6を連結してユニット化するにあたり、ベルト式無段変速機構3aのプーリ軸方向(図6での左右方向)の形状・寸法をコンパクト化して、車両搭載性を向上することができるように、固定シーブ46とモータ・ジェネレータ6とが、半径方向(図6での上下方向)にオーバーラップして配置されて連結されている。
具体的には、固定シーブ46の背面46bとモータ・ジェネレータ6のロータ6aとが一体的に固定されている。すなわち、セカンダリプーリ41の固定シーブ46と、モータ・ジェネレータ6のロータ6aとが一体化されている。そのため、ベルト式無段変速機構3aのプーリ軸方向の形状・寸法をコンパクト化して、車両搭載性を向上することができる。また、セカンダリプーリ41の固定シーブ46およびモータ・ジェネレータ6のロータ6aの構成を簡素化し、また部品点数を削減して、低コスト化を図ることができる。
このように構成されたベルト式無段変速機3によれば、入力回転数であるエンジン回転数を無段階に(言い換えれば、連続的に)制御できるので、これを搭載した車両の燃費を向上できる。例えば、アクセル開度などによって表される要求駆動量と車速とに基づいて目標駆動力が求められ、その目標駆動力を得るために必要な目標出力が目標駆動力と車速とに基づいて求められ、その目標出力を最適燃費で得るためのエンジン回転数が予め用意したマップに基づいて求められ、そして、そのエンジン回転数となるように変速比が制御される。
そのような燃費向上の利点を損なわないために、ベルト式無段変速機3における動力の伝達効率が良好な状態に制御される。具体的には、ベルト式無段変速機3の伝達トルク容量すなわち挟圧力が、エンジントルクに基づいて決まる目標トルクを伝達でき、かつ伝動ベルト50の滑りが生じない範囲で可及的に低い挟圧力になるよう制御される。例えば、加減速が比較的頻繁に行われたり、路面の凹凸もしくは起伏がある悪路を走行している場合などのいわゆる非定常走行状態では、挟圧力が、前記制御状態に比べ相対的に高い挟圧力になるように制御される。
これに対して、平坦路をある程度以上の車速で定速走行しているなどの定常走行状態もしくはこれに準ずる準定常走行状態では、滑りを生じずに入力トルクを伝達できる最低の圧力すなわち限界挟圧力を検出するために、挟圧力が徐々に低下される。そしてその挟圧力が、検出された限界挟圧力に所定の安全率もしくは滑りに対する余裕伝達トルクを設定する圧力を加えた挟圧力に設定される。そして、このベルト式無段変速機3における挟圧力は、滑りを生じることなくトルクを伝達できる範囲で可及的に低い圧力であることが好ましい。
上記のように、この発明におけるハイブリッド車は、エンジン1を可及的に効率の良い状態で運転されるように制御し、一方で、エンジン1の出力トルクやエンジンブレーキ力の過不足を補うため、さらには車両Ve1の減速時や制動時にエネルギの回生を行うために、モータ・ジェネレータ6を回生制御することにより、ハイブリッド車の動力伝達効率を向上させ、燃費の向上を図ることができるように構成されている。
また、この発明におけるハイブリッド車は、上記のように入力部材にエンジン1が連結されたベルト式無段変速機3を搭載しているが、このベルト式無段変速機3を搭載している車両Ve1では、前述したように、例えば登坂路途中で、前進レンジに設定されている車両Ve1が後退するいわゆる車両のずり下がりが生じる際に、ベルト式無段変速機3の各プーリ40,41が、ベルト式無段変速機3でエンジン1のトルクをそのまま出力する際の回転方向と反対方向に回転してしまう、いわゆるプーリの逆回転が生じてしまう場合がある。言い換えると、車両のずり下がりが生じると、ベルト式無段変速機3では前進状態に設定されているにも拘わらず各プーリ40,41が後退方向に回転してしまう場合がある。
このようなプーリの逆回転が発生すると、ベルト式無段変速機3ではベルト滑りが発生し易くなるため、そのベルト滑りを防止するために、通常、ベルト式無段変速機3の入力トルクを制限する制御、例えばエンジン1の出力トルクを制限する制御すなわちエンジン1のトルクダウン制御が行われる。しかしながら、エンジン1のトルクダウン制御が行われることで、そのエンジン1の出力トルクによってベルト式無段変速機3の制限された入力トルクの補償を行うことが難しくなり、その結果、運転者に違和感やショックを与えてしまうなど、いわゆるドライバビリティが低下してしまう場合がある。
そこでこの発明における制御装置は、いわゆる車両のずり下がりが生じるような場合に、ベルト式無段変速機3でのベルト滑りの発生を防止するとともに、車両Ve1のドライバビリティの低下を防止することができるように構成されている。その制御の具体例を以下に説明する。
図1は、この発明における制御装置の制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図1において、先ず、車両Ve1が停止している際の勾配抵抗Tslopeが求められる(ステップS1)。この勾配抵抗Tslopeは、勾配センサあるいは前後加速度センサなどによって検出される車両Ve1が位置している路面の勾配、およびベルト式無段変速機3で設定されている変速比などに基づいて算出することができる。
続いて、車両Ve1の制動トルク(ブレーキトルク)Tbrakeが求められる(ステップS2)。この制動トルクTbrekeは、例えば、ブレーキペダルセンサの検出値やブレーキ液圧値に基づいて算出することができる。
勾配抵抗Tslopeおよび制動トルクTbrakeが求められると、勾配抵抗Tslopeと制動トルクTbrakeとの偏差D(Tslope−Tbrake)が所定値αよりも大きく、かつ、その「偏差D>所定値α」の状態が所定時間βの間継続しているか否かが判断される(ステップS3)。この判断ステップは、車両のずり下がり、特に、例えばピックアップコイルを用いた車輪速センサなどで車速を検出することが困難な微速で車両が後退する、車両の微速ずり下がりが生じる可能性を推定する制御である。
車両のずり下がり、すなわちプーリの逆回転が生じると、ベルト式無段変速機3のプライマリプーリ40とセカンダリプーリ41との推力のバランスが変化し、ベルト式無段変速機3の変速制御として発進時に設定される最大変速比γmaxが保持されなくなる場合がある。すなわち、プライマリプーリ40とセカンダリプーリ41との推力のバランスが変化することによって、ベルト式無段変速機3ではアップシフトが行われる場合がある。一方、その後車速の上昇に伴って車速が検知されると、ベルト式無段変速機3ではダウンシフトが行われることになり、このとき、プライマリプーリ40に供給される油圧は減圧されることになるため、プライマリプーリ40においてベルト滑りが発生する可能性がある。
このようなベルト滑りは、上記の「偏差D>所定値α」の状態が継続する時間tが長くなるほど、その発生の可能性が高くなる。そこで、このステップS3の制御により、「偏差D>所定値α」の状態の継続時間tを判断することにより、ベルト滑りの発生の可能性を判断すること、言い換えると、ベルト滑りの発生を推定することができる。
偏差Dが所定値α以下であること、あるいは、偏差Dが所定値αよりも大きく、かつ、その「偏差D>所定値α」の状態が、未だ所定時間β以上継続していないことにより、このステップS3で否定的に判断された場合は、ベルト滑りは発生しないと推定することができるため、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、偏差Dが所定値αよりも大きく、かつ、その「偏差D>所定値α」の状態が、所定時間β以上継続していることにより、ステップS3で肯定的に判断された場合には、ステップS4へ進み、車両Ve1の走行判断用のマップ(閾値テーブル)が一時的に変更される。具体的には、図3に示すように、車両Ve1をエンジン1の出力により走行させるエンジン(ENG)走行領域Reと、車両Ve1をモータ・ジェネレータ6の出力により走行させるモータ(EV)走行領域Rmとを隔てているエンジン起動閾値THが、一時的にエンジン走行領域Re側に移動した状態に設定される。言い換えると、エンジン走行を行うか、もしくはモータ走行を行うかを判断するための走行判断用のマップが、通常走行時の状態から、一時的に、エンジン走行領域Reが減少されるとともに、モータ走行領域Rmが拡大された状態に設定される。
ベルト式無段変速機3においては、主に、エンジン1から入力されるトルクがベルト式無段変速機3のトルク容量を上回った場合にベルト滑りが発生する。したがって、前述したように「偏差D>所定値α」の状態の継続時間tが長くなり、ベルト滑りの発生の可能性が高くなる場合に、上記のように、車両Ve1のエンジン走行領域Reが減少されることによって、車両Ve1の発進時にエンジン1の大きな出力トルクがベルト式無段変速機3へ入力されてベルト滑りが生じてしまう可能性を低減することができる。
そして、前述したように、この車両Ve1は、ベルト式無段変速機3の出力部材3o側に、具体的にはセカンダリプーリ41の固定シーブ46に、モータ・ジェネレータ6が連結されているため、モータ・ジェネレータ6の出力によりベルト式無段変速機3でベルト滑りが発生することはない。したがって、ベルト滑りの発生の可能性が高くなる場合に、上記のように、モータ走行領域Rmが拡大されることによっても、ベルト滑りが生じてしまう可能性を低減することができる。
車両Ve1の走行判断用のマップが変更されると、その変更された走行判断用のマップを基に、車両Ve1がエンジン1の出力により走行する状態であるか否かが判断される(ステップS5)。ハイブリッド車Ve1においては、発進は基本的にモータ・ジェネレータ6の出力によって行われるが、例えばモータ・ジェネレータ6を駆動するための蓄電装置8の充電量(S.O.C.)が所定の充電量よりも少ない場合には、エンジン1の出力により車両Ve1の発進が行われる場合がある。したがって、このステップS5では、蓄電装置8の充電量の検出値などに基づいて、車両Ve1がエンジン1の出力により発進するのか、あるいはモータ・ジェネレータ6の出力により発進するのかが判断される。
車両Ve1がエンジン1の出力により走行する状態ではないことにより、このステップS5で否定的に判断された場合、すなわち車両Ve1がモータ・ジェネレータ6の出力により走行する状態である場合は、ベルト滑りは発生しないと推定することができるため、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、車両Ve1がエンジン1の出力により走行する状態であることにより、ステップS5で肯定的に判断された場合には、次の図2のフローチャートで示すルーチンのステップS11へ進み、運転者のアクセル操作によるドライバ要求トルクTpが求められる。この要求トルクTpは、車速センサの検出値、およびアクセルペダルセンサの検出値、およびベルト式無段変速機3で設定されている変速比などに基づいて算出することができる。
続いて、エンジン1に要求されるエンジン要求出力(パワー)Peが求められ(ステップS12)、それらドライバ要求トルクTpおよびエンジン要求出力Peに基づいて、エンジン動作点(運転点)、すなわちエンジン1を制御するためのエンジントルクTetmp、およびエンジン回転数Netmpが求められる(ステップS13)。
そして、車両Ve1のずり下がり、あるいは推定されたずり下がりが発生した際のベルト式無段変速機3の変速比γe、すなわちベルト式無段変速機3の入力部材3i(もしくはプライマリプーリ40)と出力部材3o(もしくはセカンダリプーリ41)との間の変速比γeが推定される(ステップS14)。前述したように、車両Ve1のずり下がりが発生した場合に、ベルト式無段変速機3のプライマリプーリ40とセカンダリプーリ41との推力のバランスが変化し、ベルト式無段変速機3で設定される変速比が通常の変速比制御に基づかずに変化する場合がある。そこで、このステップS14では、前述のステップS1,S2で求めた、勾配抵抗Tslopeおよび制動トルクTbrake、およびそれらの偏差D(Tslope−Tbrake)が「偏差D>所定値α」の状態の継続時間tなどに基づいて、車両Ve1のずり下がりが発生した場合のベルト式無段変速機3の推定変速比γeが求められる。例えば、図4に示すようなマップなどから求めることができる。
ベルト式無段変速機3の推定変速比γeが求められると、それに応じて変動するベルト式無段変速機3の許容トルクTlimが求められる。この許容トルクTlimは、例えば、車速センサの検出値、およびプライマリプーリ40の回転数、およびプライマリプーリ40に供給される油圧などに基づいて算出することができる。
続いて、エンジン1の出力トルクが制限される(ステップS16)。すなわちエンジン1のトルクダウン制御が行われる。具体的には、前述のステップS13で求められるエンジン動作点のエンジントルクTetmpが、そのエンジントルクTetmpと上記の許容トルクTlimとを比較して小さい方に設定される。また、エンジントルクTetmpに対して一次遅れ系のフィルタリング処理を施したエンジントルクTeが求められ、その後、そのエンジントルクTeに基づいてエンジン1が制御される(ステップS17)。
そして、そのエンジントルクTeと、前述のステップS11で求められたドライバ要求トルクTpとから、モータ・ジェネレータ6を制御するためのモータトルクTmが求められる。具体的には、モータ・ジェネレータ6を制御するためのモータトルクTmが、ドライバ要求トルクTpとエンジントルクTeとの偏差として算出される。その後、そのモータトルクTmに基づいてモータ・ジェネレータ6が制御される(ステップS18)。
すなわち、このステップS18は、車両Ve1のずり下がりが生じるとベルト式無段変速機3ではベルト滑りが発生し易くなるため、そのベルト滑りを防止するためのエンジン1のトルクダウン制御が行われるが、そのエンジントルクダウンによって制限されたトルクを、モータ・ジェネレータ6の出力によって補償するための制御である。このように、モータ・ジェネレータ6の出力によって制限されたトルクの補償を行うことにより、エンジン1がトルクダウンされてそのエンジン1の出力によって制限されたトルクの補償を行うことが困難な場合であっても、モータ・ジェネレータ6により容易にトルクの補償を行うことができる。
そして、算出されたモータトルクTmにより、モータ・ジェネレータ6が制御されると、その後、このルーチンを一旦終了する。
このように、上記の図1,図2に示す制御を実行するよう構成したこの発明の制御装置によれば、出力部材3oにモータ・ジェネレータ6が連結されたベルト式無段変速機3を搭載したハイブリッド車Ve1において、いわゆる車両のずり下がりが生じるような場合、すなわちベルト式無段変速機3におけるプーリ40,41の逆回転が生じるような場合に、そのプーリ40,41の逆回転が検出、もしくはプーリ40,41の逆回転が発生することが推定される。そして、プーリ40,41の逆回転が検出もしくは推定されると、エンジン1の出力により車両Ve1を走行させるエンジン走行領域Reと、モータ・ジェネレータ6の出力により車両Ve1を走行させるモータ走行領域Rmとが、通常時にそれぞれ設定されている領域に対して、エンジン走行領域Reが減少されるとともに、モータ走行領域Rmが拡大される。
したがって、車両のずり下がりが生じるような場合に、モータ・ジェネレータ6の出力により走行する比率が高められるとともに、エンジン1の出力により走行する比率が低められる。そのため、車両のずり下がりが生じた際に、エンジン1の大きな出力がベルト式無段変速機3へ入力されることによってベルト滑りが発生し易くなる場合に、エンジン1の出力により走行する比率が低められ、その結果、ベルト滑りが発生する可能性を低減することができる。また、モータ・ジェネレータ6の出力により走行する比率が高められ、その結果、モータ・ジェネレータ6の出力によるベルト式無段変速機3の出力トルクの補償を容易に行うことができる。
また、プーリ40,41の逆回転が検出もしくは推定されると、そのプーリ40,41の逆回転の発生に寄与しているハイブリッド車Ve1の走行状態として、車両Ve1が位置している路面勾配、および車両Ve1の制動力、およびプーリ40,41の逆回転が発生してからの継続時間tなどに基づいて、ベルト式無段変速機3で設定される変速比γeが推定されて求められる。そのため、車両Ve1のずり下がり、すなわちプーリ40,41の逆回転が生じるような場合に、ベルト式無段変速機3で設定される変速比γeを、より一層精度良く推定することができる。
そして、その推定変速比γeに基づいて、エンジン1からベルト式無段変速機3へ入力されるトルクが制限される。そのため、車両のずり下がりが生じるような場合に、プライマリプーリ40とセカンダリプーリ41との推力のバランスが変化してベルト式無段変速機3の変速比が変化する場合であっても、その変速比の変化に即して、ベルト式無段変速機3の入力トルクを適切に制限することができる。
そして、プーリ40,41の逆回転が検出もしくは推定されると、ベルト式無段変速機3でのベルト滑りを防止するために、エンジン1のトルクダウン制御が行われ、エンジン1からベルト式無段変速機3へ入力されるトルクが制限されるとともに、ベルト式無段変速機3の出力側に連結されているモータ・ジェネレータ6の出力によりベルト式無段変速機3からの出力トルクが補償される。そのため、いわゆる車両のずり下がりが生じるような場合であっても、ベルト式無段変速機3でのベルト滑りを防止もしくは抑制するとともに、出力トルクが不足してしまうことによるドライバビリティの低下を回避することができる。
つぎに、この発明を用いることの可能なハイブリッド車の他の実施例を、図7に基づいて説明する。図7に示す構成において、上記の図5に示された構成と同じ構成の部分については、図5と同じ符号を付してある。図7に示す車両Ve2においては、主動力源としてのエンジン1のトルクが、伝動機構2を介してベルト式無段変速機3の入力部材3iに伝達され、ベルト式無段変速機3の出力部材3oから第1の駆動輪としての前輪5fに伝達される。したがって、エンジン1と出力部材3oとの間で伝達トルクをベルト式無段変速機3で設定する変速比に応じて増減するようになっている。
なお、上記の伝動機構2は、前述の実施例と同様に、複数の摩擦係合装置の係合・解放状態を切り換えることにより、車両Ve2の前進状態と後進状態とを切り換える前後進切換機構15に相当するものであり、したがって、複数の摩擦係合装置とは、ここでは、それぞれ、前後進切換機構15のフォワードクラッチ(前進クラッチ)31およびリバースブレーキ(後進ブレーキ)32に相当している。これらフォワードクラッチ31およびリバースブレーキ32としては、例えば、多板形式の係合装置あるいはバンド形式の係合装置などを採用することができる。
一方、走行のための駆動力を出力する力行制御あるいはエネルギを回収する回生制御の可能なモータ・ジェネレータ6が、変速機構3rを介して第2の駆動輪としての後輪5rに連結されていて、したがって、そのモータ・ジェネレータ6と後輪5rとの間でトルクの伝達が行われるようになっている。すなわち、この車両Ve2は、エンジン1から前輪5fへ至る第1の駆動系統と、モータ・ジェネレータ6から後輪5rへ至る第2の駆動系統とを備え、エンジン1が出力するトルクにより前輪5fを駆動するとともに、モータ・ジェネレータ6が出力するトルクにより後輪5rを駆動することができる四輪駆動車両である。
なお、上記の第2の駆動系統における変速機構3rは、例えば有段式の自動変速機や無段変速機などを採用するこことができる。あるいは、変速機構3rを廃止し、モータ・ジェネレータ6と後輪5rとを、直接連結するように構成することも可能である。
そして、上記のエンジン1の運転状態の制御、あるいは摩擦係合装置2の係合・解放状態の制御、あるいは変速機構3,3rの変速制御、あるいはモータ・ジェネレータ6の回転制御などを行うコントローラとして電子制御装置(ECU)9が設けられている。
この他の実施例におけるハイブリッド車の制御装置においても、前述の実施例と同様に、車両Ve2の減速時や制動時に、モータ・ジェネレータ6での回生制御における回生効率の低下を防止もしくは抑制するとともに、変速機構の伝達トルク容量に過不足が生じてしまうことを回避もしくは抑制することができるように構成されている。その制御内容は、前述の実施例におけるハイブリッド車の制御装置の場合と同様である。すなわち、この他の実施例における制御内容は、前述の図1,図2のフローチャートで示す制御内容の説明において、車両Ve1を車両Ve2に読み替えることで説明ができるため、ここでは詳細な説明を省略する。
したがって、この他の実施例におけるハイブリッド車の制御装置においても、ベルト式無段変速機3を搭載したハイブリッド車Ve2において、いわゆる車両のずり下がりが生じるような場合、すなわちベルト式無段変速機3におけるプーリ40,41の逆回転が生じるような場合に、そのプーリ40,41の逆回転が検出、もしくはプーリ40,41の逆回転が発生することが推定される。そして、プーリ40,41の逆回転が検出もしくは推定されると、エンジン1の出力により車両Ve2を走行させるエンジン走行領域Reと、モータ・ジェネレータ6の出力により車両Ve2を走行させるモータ走行領域Rmとが、通常時にそれぞれ設定されている領域に対して、エンジン走行領域Reが減少されるとともに、モータ走行領域Rmが拡大される。
したがって、車両のずり下がりが生じるような場合に、モータ・ジェネレータ6の出力により走行する比率が高められるとともに、エンジン1の出力により走行する比率が低められる。そのため、車両のずり下がりが生じた際に、エンジン1の大きな出力がベルト式無段変速機3へ入力されることによってベルト滑りが発生し易くなる場合に、エンジン1の出力により走行する比率が低められ、その結果、ベルト滑りが発生する可能性を低減することができる。また、モータ・ジェネレータ6の出力により走行する比率が高めら、その結果、モータ・ジェネレータ6の出力によるベルト式無段変速機3の出力トルクの補償を容易に行うことができる。
また、プーリ40,41の逆回転が検出もしくは推定されると、そのプーリ40,41の逆回転の発生に寄与しているハイブリッド車Ve2の走行状態として、車両Ve2が位置している路面勾配、および車両Ve2の制動力、およびプーリ40,41の逆回転が発生してからの継続時間tなどに基づいて、ベルト式無段変速機3で設定される変速比γeが推定されて求められる。そのため、車両Ve2のずり下がり、すなわちプーリ40,41の逆回転が生じるような場合に、ベルト式無段変速機3で設定される変速比γeを、より一層精度良く推定することができる。
そして、その推定変速比γeに基づいて、エンジン1からベルト式無段変速機3へ入力されるトルクが制限される。そのため、車両のずり下がりが生じるような場合に、プライマリプーリ40とセカンダリプーリ41との推力のバランスが変化してベルト式無段変速機3の変速比が変化する場合であっても、その変速比の変化に即して、ベルト式無段変速機3の入力トルクを適切に制限することができる。
そして、プーリ40,41の逆回転が検出もしくは推定されると、ベルト式無段変速機3でのベルト滑りを防止するために、エンジン1のトルクダウン制御が行われ、エンジン1からベルト式無段変速機3へ入力されるトルクが制限されるとともに、ベルト式無段変速機3の出力側に連結されているモータ・ジェネレータ6の出力によりベルト式無段変速機3からの出力トルクが補償される。そのため、いわゆる車両のずり下がりが生じるような場合であっても、ベルト式無段変速機3でのベルト滑りを防止もしくは抑制するとともに、出力トルクが不足してしまうことによるドライバビリティの低下を回避することができる。
ここで上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、前述したステップS1ないしS3の機能的手段が、この発明のプーリ逆回転検出手段に相当する。また、スップS16,S17の機能的手段が、この発明の入力トルク制限手段に相当し、ステップS18の機能的手段が、この発明の出力トルク補償手段に相当する。そして、ステップS4の機能的手段が、この発明の走行領域設定手段に相当し、ステップS14の機能的手段が、この発明の変速比推定手段に相当する。
1…内燃機関(エンジン)、 2…伝動機構、 3…ベルト式無段変速機、 3i…入力部材、 3o…出力部材、 5…駆動輪、 5f…第1の駆動輪(前輪)、 5r…第2の駆動輪(後輪)、 6…電動機(モータ・ジェネレータ)、 9…電子制御装置(ECU)、 Ve1,Ve2…車両。