実施の形態1.
[可変動弁装置の構成]
図1は、本発明の実施の形態1の可変動弁装置1において、駆動カムとバルブとの間に介在する機構を説明するための図である。ここでは、内燃機関の個々の気筒に2つの吸気弁と2つの排気弁とが備わっているものとする。そして、図1に示す構成は、単一の気筒に配設された2つの吸気弁、或いは2つの排気弁を駆動する装置として機能するものとする。
図1に示すように、本可変動弁装置1のカム軸10には、1気筒当たり2つの駆動カム12、14が設けられている。そして、一方の駆動カム12を中心として左右対称に2つのバルブ16L、16Rが配置されている。第1駆動カム12と各バルブ16L、16Rとの間には、第1駆動カム12の回転運動に各バルブ16L、16Rのリフト運動を連動させる可変動弁機構20L、20Rがそれぞれ設けられている。
もう一方の駆動カム14は、第1駆動カム12との間で第2バルブ16Rを挟むようにして配置されている。第2駆動カム14と第2バルブ16Rとの間には、第2駆動カム14の回転運動に第2バルブ16Rのリフト運動を連動させる固定動弁機構30が設けられている。本可変動弁装置1は、第2バルブ16Rのリフト運動の連動先を可変動弁機構20Rと固定動弁機構30との間で選択的に切り替えることができるようになっている。
(1)可変動弁機構の詳細構成
次に、先ず、図2を参照して、可変動弁機構20L、20Rの詳細な構成について説明する。図2は、図1に示す可変動弁機構20をカム軸10の軸方向から見た図である。尚、左右の可変動弁機構20L、20Rは、基本的には、第1駆動カム12に関して対称形であるので、ここでは左右の可変動弁機構20L、20Rを区別することなくその構成を説明する。また、本明細書および図面では、左右の可変動弁機構20L、20Rを区別しないときには、単に可変動弁機構20と表記する。同様に、可変動弁機構20L、20Rの各構成部品やバルブ16L、16R等の対称に配置されている部品については、特に区別をする必要がある時以外は、左右を区別するL、Rの記号は付けないものとする。
図2に示すように、本可変動弁装置1では、ロッカーアーム32はバルブ16によって支持されている。可変動弁機構20は、第1駆動カム12とロッカーアーム32との間に介在し、第1駆動カム12の回転運動とロッカーアーム32の揺動運動との連動状態を連続的に変化させるようになっている。
可変動弁機構20は、以下に説明するように、制御軸34、制御アーム36、リンクアーム38、揺動カムアーム40、第1ローラ42、および第2ローラ44を主たる構成部材として構成されている。制御軸34はカム軸10に平行に配置されている。制御軸34の回転角度は、図示しないアクチュエータ(例えばモータ等)によって任意の角度に制御することができる。
制御アーム36は、ボルト46(図1参照)によって制御軸34に一体的に固定されている。制御アーム36は、制御軸34の径方向に突出しており、その突出部に弧状のリンクアーム38が取り付けられている。リンクアーム38の後端部は、ピン48によって制御アーム36に回転自在に連結されている。ピン48の位置は制御軸34の中心から偏心しており、このピン48がリンクアーム38の揺動支点となる。
揺動カムアーム40は、制御軸34に揺動可能に支持され、その先端を第1駆動カム12の回転方向の上流側に向けて配置されている。揺動カムアーム40における駆動カム12に対向する側には、第2ローラ44に接触するスライド面50が形成されている。スライド面50は、第2ローラ44が揺動カムアーム40の先端側から制御軸34の軸中心側に向かって移動するほど、第1駆動カム12との間隔が徐々に狭まるような曲面で形成されている。また、スライド面50の反対側には、揺動カム面52が形成されている。揺動カム面52は、揺動カムアーム40の揺動中心からの距離が一定となるように形成された非作用面52aと、非作用面52aから離れた位置ほど制御軸34の軸中心からの距離が遠くなるように形成された作用面52bとで構成されている。
揺動カムアーム40のスライド面50と第1駆動カム12の周面との間には、第1ローラ42と第2ローラ44が配置されている。より具体的には、第1ローラ42は、第1駆動カム12の周面と接触し、第2ローラ44は、揺動カムアーム40のスライド面50に接触するように配置されている。第1ローラ42と第2ローラ44は、共に前述のリンクアーム38の先端部に固定された連結軸54によって回転自在に支持されている。リンクアーム38は、ピン48を支点として揺動できるので、これらのローラ42、44もピン48から一定距離を保ちながらスライド面50および第1駆動カム12の周面に沿って揺動することができる。
また、揺動カムアーム40には、図示しないロストモーションスプリングが掛けられている。ロストモーションスプリングは圧縮バネであり、ロストモーションスプリングからの付勢力は、スライド面50が第2ローラ44を付勢し、更に、第1ローラ42を第1駆動カム12に押し当てる力として作用する。これにより、第1ローラ42および第2ローラ44は、スライド面50と第1駆動カム12の周面とに両側から挟み込まれた状態で位置決めされる。尚、ロストモーションスプリングは、上記の圧縮バネに限らず、例えば、ねじりバネであってもよい。
揺動カムアーム40の下方には、前述のロッカーアーム32が配置されている。ロッカーアーム32には、揺動カム面52に対向するようにロッカーローラ56が配置されている。ロッカーローラ56は、ロッカーアーム32の中間部に回転自在に取り付けられている。ロッカーアーム32の一端は、バルブ16のバルブシャフト58によって支持されており、ロッカーアーム32の他端は、油圧式ラッシュアジャスタ60によって回転自在に支持されている。リフト作動の際において、バルブシャフト58は、図示しないバルブスプリングによって、閉方向、すなわち、ロッカーアーム32を押し上げる方向に付勢されており、更に、ロッカーローラ56は、この付勢力と油圧式ラッシュアジャスタ60によって揺動カムアーム40の揺動カム面52に押し当てられている。
上述した可変動弁機構20の構成によれば、第1駆動カム12の回転に伴って、第1駆動カム12の押圧力が第1ローラ42および第2ローラ44を介してスライド面50に伝達される。その結果、揺動カム面52とロッカーローラ56との接点が非作用面52aから作用面52bにまで及ぶと、ロッカーアーム32が押し下げられ、バルブ16が開弁する。
また、可変動弁機構20の構成によれば、制御軸34の回転角度を変化させると、スライド面50上における第2ローラ44の位置が変化し、リフト動作時の揺動カムアーム40の揺動範囲が変化する。より具体的には、制御軸34を図2における反時計回り方向に回転させると、スライド面50上における第2ローラ44の位置が揺動カムアーム40の先端側に移動する。そうすると、第1駆動カム12の押圧力が伝達されることで揺動カムアーム40が揺動動作を開始した後に、現実にロッカーアーム32が押圧され始めるまでに要する揺動カムアーム40の回転角度は、制御軸34が図2における反時計回り方向に回転するほど大きくなる。つまり、可変動弁機構20によれば、制御軸34を図2における反時計回り方向に回転させることにより、バルブ16の作用角およびリフト量を小さくすることができ、また、制御軸34をその逆の方向に回転させることにより、バルブ16の作用角およびリフト量を大きくすることができる。
(2)固定動弁機構の詳細構成
次に、上記の図1に加え、図3をも参照して、固定動弁機構30の詳細な構成について説明する。
図1に示すように、固定動弁機構30は、第2駆動カム14と第2揺動カムアーム40Rとの間に介在している。固定動弁機構30は、第2揺動カムアーム40Rの揺動運動を第2駆動カム14の回転運動に連動させるものであり、第2駆動カム14によって駆動される大リフトアーム70と、大リフトアーム70を第2揺動カムアーム40Rに結合するアーム結合機構72(図3参照)とを備えている。
大リフトアーム70は、制御軸34上に第2揺動カムアーム40Rと並んで配置され、第2揺動カムアーム40Rとは独立して回転可能となっている。大リフトアーム70には、第2駆動カム14の周面に接触する入力ローラ74が回転可能に支持されている。大リフトアーム70には図示しないロストモーションスプリングが掛けられており、そのバネ力は、入力ローラ74を第2駆動カム14の周面に押し当てる付勢力として作用している。
図3は、図1に示す可変動弁機構20および固定動弁機構30の分解斜視図である。図3に示すように、大リフトアーム70には、第2揺動カムアーム40Rに向けて出し入れ可能なピン76が備えられている。大リフトアーム70には、第2揺動カムアーム40R側に開口部を有する油圧室78が形成されており、ピン76はこの油圧室78内に嵌め込まれている。油圧室78には、図4を参照して後述する油圧回路100を介して作動油が供給される。このような構成によって油圧室78内の油圧が高められた場合に、ピン76は、その油圧によって油圧室78から第2揺動カムアーム40Rに向けて押し出されるようになっている。
一方、第2揺動カムアーム40Rには、大リフトアーム70側に開口部を有するピン穴80が形成されている。ピン76とピン穴80は、制御軸34を中心とする同じ円弧上に配置されている。これにより、第2揺動カムアーム40Rが大リフトアーム70に対して所定の回転角度に位置したとき、ピン穴80の位置とピン76の位置とが一致するようになっている。ピン穴80内には、その奥側からリターンスプリング82とピストン84とが配置される。
上記の構成によれば、ピン穴80の位置とピン76の位置とが一致したとき、ピン76はピストン84に当接する。このとき、リターンスプリング82がピストン84を押す力よりも、油圧室78内の油圧がピン76を押す力の方が大きければ、ピン76は、ピストン84をピン穴80の奥に押し込むようにしてピン穴80内に進入する。ピン76がピン穴80内に挿入されることで、揺動カムアーム40Rと大リフトアーム70は、ピン76を介して結合されることになる。つまり、上記のピン76、作動油が供給される油圧室78、ピン穴80、リターンスプリング82、およびピストン84によって、アーム結合機構72が構成されている。
本可変動弁装置1では、ピン76とピン穴80とは、揺動カムアーム40Rが大リフトアーム70に対して所定の回転角度に位置したとき、互いの位置が一致するようになっている。ピン76とピン穴80の各位置が重なると、ピン76がピン穴80に挿入され、大リフトアーム70は、第2揺動カムアーム40Rに結合される。本可変動弁装置1では、アーム結合機構72によって大リフトアーム70を第2揺動カムアーム40Rに結合することで、第2バルブ16Rのリフト運動の連動先を可変動弁機構20Rから固定動弁機構30へ切り替えることができる。逆に、アーム結合機構72による大リフトアーム70と第2揺動カムアーム40Rの結合を解除することで、第2バルブ16Rのリフト運動の連動先を固定動弁機構30から可変動弁機構20Rへ切り替えることができる。
大リフトアーム70と第2揺動カムアーム40Rとが結合されていない場合、カム軸10の回転運動は、第1駆動カム12から第1ローラ42および第2ローラ44を介して、第1揺動カムアーム40Lおよび第2揺動カムアーム40Rのそれぞれのスライド面50に伝達される。従って、この場合は、制御軸34の回転に連動させて、第1バルブ16Lおよび第2バルブ16Rの作用角およびリフト量が同一特性となるように制御することができる(両弁可変制御)。
一方、大リフトアーム70と第2揺動カムアーム40Rとが結合されている場合、第2揺動カムアーム40Rには、カム軸10の回転運動が第2駆動カム14から大リフトアーム70を介して伝達される。大リフトアーム70と第2揺動カムアーム40Rとは、制御軸34を回転させ、スライド面50R上における第2ローラ44Rの位置を、ピン76とピン穴80とが一致する位置まで移動させた状態で結合される。このため、この場合の第2バルブ16Rの開弁特性は、第2駆動カム14、大リフトアーム70および第2揺動カムアーム40Rの形状及び位置関係によって機械的に決まり、制御軸34の回転角度に関係なく常に一定の開弁特性に固定される。これに対し、第1揺動カムアーム40Lには、第1駆動カム12から第1ローラ42および第2ローラ44Lを介してカム軸10の回転運動が伝達される。従って、この場合の第1バルブ16Lの開弁特性は、大リフトアーム70と揺動カムアーム40Rとが結合されていない場合と同様、制御軸34の回転角度に連動して変化することになる。
以上説明したように、本可変動弁装置1によれば、大リフトアーム70と第2揺動カムアーム40Rとが結合されている状態で、第1バルブ16Lのみの開弁特性を可変制御することが可能になる(片弁固定制御)。
[実施の形態1の特徴部分]
図4は、図3に示す油圧室78に作動油を供給する機能を有する内燃機関の油圧回路100の構成を説明するための図である。尚、本実施形態の内燃機関は、#1〜#4の4つの気筒を備えているものとする。図4においては、#1気筒のアーム結合機構72のみを代表して図示し、他の#1〜#3気筒のアーム結合機構72についてはその図示を省略している。
図4に示す油圧回路100は、オイルパン102内のオイルを内燃機関の各部に供給するための油圧通路104を備えている。油圧通路104の途中には、オイルを圧送するためのオイルポンプ106が配置されている。オイルポンプ106は、内燃機関の軸トルクを駆動力として作動するものである。従って、オイルポンプ106により圧送される油量は、エンジン回転数の増大に比例して多くなるため、内燃機関の各部に供給される油圧(エンジン油圧)も、基本的には、エンジン回転数の増大に比例して高くなる。
また、油圧通路104には、オイルポンプ106を跨ぐようにして、オイルリリーフ通路108が連通している。オイルリリーフ通路108の途中には、オイルの圧力が規定値以上になると開くように構成されたリリーフ弁110が配置されている。このような構成によれば、内燃機関の各部に供給される油圧が、高エンジン回転時に必要以上に高くなるのを防止することができる。
オイルポンプ106により汲み上げられたオイルは、潤滑などの目的で内燃機関の各部に供給されるとともに、図4に示すように、可変動弁装置1に対しても供給される。油圧通路104には、各気筒の油圧室78へのオイル(作動油)の供給を制御するための油圧切り替え弁112(以下、「OCV112」と略する)が配置されている。OCV112は、電磁式のバルブである。OCV112は、オイルポンプ106から作動油の供給を受ける供給ポート112aと、デリバリパイプ114と連通するデリバリポート112bとを備えている。デリバリパイプ114は、分岐油路116を介して各気筒の油圧室78に向けて分岐されている。OCV112は、更に、デリバリパイプ114および各気筒の油圧室78に供給された作動油を外部(シリンダヘッド内)に排出するためのドレーンポート112cを備えている。
OCV112には、内燃機関の運転状態を制御するECU(Electronic Control Unit)118が接続されている。OCV112は、ECU118からの指令を受けて、作動油がオイルポンプ106からデリバリパイプ114に供給される状態と、デリバリパイプ114および各油圧室78内の作動油がドレーンポート112cを介して外部に排出される状態とを切り替えることができる。
本実施形態の油圧回路100は、OCV112の下流側に、言い換えると、OCV112と各気筒の油圧室78との間に、各気筒の油圧室78に供給される油圧を調整するための調圧弁120を更に備えたという点に特徴を有している。より具体的には、調圧弁120は、デリバリパイプ114上に配置されており、各気筒の油圧室78は、OCV112と調圧弁120との間で、デリバリパイプ114から分岐した分岐油路116と連通している。
調圧弁120の内部には、デリバリパイプ114と連通する調圧用油圧室120aが形成されている。また、調圧弁120の内部には、ピストン122が配置されており、ピストン122は、リターンスプリング124によって、調圧用油圧室120aの容積を縮小させる方向に付勢されている。また、調圧用油圧室120aには、調圧用油圧室120a内のオイルを外部(シリンダヘッド内)に排出するための油排出路126が連通している。
ピストン122の頂面には、調圧用油圧室120a内の油圧が作用する。このような調圧弁120の構成によれば、調圧用油圧室120a内の油圧が所定の規定値(開弁圧)に到達すると、リターンスプリング124がピストン122を押す力よりも、調圧用油圧室120a内の油圧がピストン122を押す力の方が大きくなる。その結果、ピストン122は、調圧用油圧室120aの容積が拡大される方向に移動する。上述した油排出路126は、調圧用油圧室120a内の油圧がそのような規定値に達しない場合には、ピストン122によって閉塞され、一方、調圧用油圧室120a内の油圧が規定値に達した場合には、開放されるように構成されている。このような動作が実現されるように、ピストン122の径やリターンスプリング124のバネ力が調整されている。
図5は、上記図4に示す油圧回路100によって実現されるアーム結合機構72の作動特性を説明するための図である。図5中に太い実線で示す直線は、アーム結合機構72のピン76の切り替え動作が実行される油圧値tを示している。このように、ピン76の切り替え動作は、油圧が一定の規定値(ピン作動油圧t)に達した場合に実行されるのに対し、オイルポンプ106が発生させるエンジン油圧は、リリーフ弁110による調圧が開始されるまでの間は、エンジン回転数に依存して大きくなる。
従って、本実施形態のような調圧弁120を備えていない場合には、エンジン回転数が高い領域では、ピン76の作動油圧tに対してエンジン油圧が過剰となるため、ピン76の結合を解除する際の応答性が悪化することとなる。ピン76の作動応答性が悪化すると、燃料噴射時期やEGR等の他のエンジン制御の実施タイミングと、ピン76の切り替え動作の実施タイミングとを一致させることが困難となり、過渡時のエンジン制御が円滑にできなくなることが考えられる。
これに対し、本実施形態では、アーム結合機構72の油圧室78に作用する油圧がピン76の作動油圧よりも少しだけ高くなった際に、OCV112の下流側に備えた調圧弁120が開弁する(油排出路126が開放される)ように、調圧弁120の開弁圧が設定されている。
以上説明した本実施形態の構成によれば、エンジン油圧が調圧弁120の設定開弁圧よりも高くなると、油圧が油排出路126を介してシリンダヘッドに排出されるため、アーム結合機構72の油圧室78に作用する油圧を一定に保つことができるようになる。このため、エンジン回転数の変化に伴う油圧源の変動に関わらず、アーム結合機構72の油圧室78に作用する油圧が過剰油圧となるのを防止することができる。このため、アーム結合機構72によるピン76の切り替え動作の応答性を、より具体的には、ピン76の結合を解除する際の作動応答性を、良好に確保することができる。これにより、ピン76の作動応答性のばらつきに起因して、内燃機関の燃焼状態が悪化するのを好適に回避することができる。
ところで、上述した実施の形態1においては、OCV112の下流側のデリバリパイプ114上に調圧弁120を備えているが、このような調圧弁120は、上記図4に示す配置に限らず、例えば、OCV112から各気筒の油圧室78までの油路長さによっては複数個備えるようにしてもよく、また、分岐油路116上に気筒毎に備えてもよい。
尚、上述した実施の形態1においては、ピストン122が前記第2の発明における「開閉部材」に、リターンスプリング124が前記第2の発明における「調圧用付勢手段」に、それぞれ相当している。
実施の形態2.
次に、図6および図7を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。
図6は、本発明の実施の形態2における油圧回路130の構成を説明するための図である。尚、本実施形態の可変動弁装置は、油圧回路130の構成が上記油圧回路100の構成と異なる点を除き、上述した実施の形態1と同様に構成されているものとする。このため、図6において、上記図4に示す構成要素と同一の要素については、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。また、図6においては、OCV112の上流側の構成(オイルポンプ106等)の図示を省略している。
上述した実施の形態1の油圧回路100の構成によれば、調圧弁120の設定油圧は、エンジン回転数に依らずに一定となる。従って、アーム結合機構72のピン76が結合される際の応答時間は、エンジン回転数に依らずに一定となる。ところで、エンジン回転数が高くなるにつれ、クランク軸の一回転に要する時間は短くなる。従って、エンジン回転数が高くなるにつれ、ピン76の結合時の応答性が高められていることが望ましい。そこで、本実施形態では、上述した実施の形態1の調圧弁120と同様の機能を調圧弁132に持たせることにより、エンジン回転数の変化に伴う油圧源の変動に関係なしにピン76の結合の解除時の応答性を良好に確保したうえで、エンジン回転数の変化に関係なく、ピン76の結合時の応答性を好適に確保すべく、以下に説明する構成を更に備えることとした。
図6に示すように、油圧回路130は、調圧弁132の構成が上記調圧弁120の構成と異なる点と、油圧通路134が新たに備えられた点とを除き、上記油圧回路100と同様に構成されている。調圧弁132の内部には、大径部136aと、当該大径部136aに比して径の小さい小径部136bとを有するピストン136が配置されている。より具体的には、ピストン136は、大径部136a側において、調圧用油圧室132aと対向しており、油排出路126は、この大径部136aとの間で閉塞および開放が調整される。また、ピストン136は、小径部136b側において、対向するリターンスプリング124によって付勢されている。
また、調圧弁132には、ピストン136の大径部136aと小径部136bとの段差部に、作動油が供給される背圧室132bが形成されている。上記の油圧通路134は、その一端において背圧室132bと連通し、その他端においてOCV112より上流の油圧通路104と連通している。
図7は、上記図6に示す油圧回路130によって実現されるアーム結合機構72の作動特性を説明するための図である。以上説明した図6に示す構成によれば、デリバリパイプ114側にオイルを供給するようにOCV112が制御されている状態では、エンジン油圧は、デリバリパイプ114を介して調圧弁132の調圧用油圧室132aに作用するとともに、油圧通路134を介して背圧室132bにも作用する。ピストン136における受圧面積は背圧室132b側に比して調圧用油圧室132a側の方が広いため、ピストン136は、リターンスプリング124の付勢力に抗しながら調圧弁132を開弁させる方向に移動しようとする。そして、背圧室132bに作用する油圧がエンジン回転数が高くなるに従って高くなるため、エンジン回転数が高くなるに従ってピストン136を調圧用油圧室132a側に押す力が強くなる。
従って、以上の構成によれば、図7に示すように、調圧弁132の開弁圧を、エンジン回転数が高くなるに従って高くなるように設定することができる。このため、本実施形態の構成によれば、エンジン回転数の変化に伴う油圧源の変動に関係なしにピン76の結合の解除時の応答性を良好に確保したうえで、エンジン回転数の変化に関係なく、ピン76の結合時の応答性を好適に確保することができる。
実施の形態3.
次に、図8を参照して、本発明の実施の形態3について説明する。
図8は、本発明の実施の形態3における油圧回路140の構成を説明するための図である。尚、図8において、上記図4に示す構成要素と同一の要素については、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。また、図8においては、OCV112の上流側の構成(オイルポンプ106等)の図示を省略している。
図8に示す油圧回路140は、OCV112の上流側に配置された油圧通路104上に、オイルの流量を制限する絞り部142が設けられている点を除き、上記図4に示す油圧回路100と同様の構成を有している。絞り部142は、デリバリパイプ114側にオイルを供給するようにOCV112が制御された際のピン76の作動応答性を悪化させない程度の絞りとされている。
上記図4に示す油圧回路100では、デリバリパイプ114側にオイルを供給するようにOCV112が制御されている状態では、デリバリパイプ114には常時エンジン油圧がかかることとなる。従って、調圧弁120が作動するようになるエンジン回転数領域では、オイルを油排出路126から常時排出するようになる。このため、オイルポンプ106の容量を増加させる必要が生ずる。また、デリバリパイプ114側にオイルを供給するようにOCV112が急激に制御された際には、調圧弁120の調圧用油圧室120aに高い油圧がかかることになる。この油排出路126から排出されるオイル量は、オイルポンプ106の容量に比例して大きくなる。
上記の問題に対して、本実施形態の構成では絞り部142を備えることにより、高エンジン回転数時に油排出路126からのオイルの排出量を減らすことができる。そして、デリバリパイプ114側にオイルを供給するようにOCV112が制御される初期時の油圧の急激な立ち上がりのピーク値を抑えることができる。アーム結合機構72のピン76の切り替え動作を実行するためには、本来的には、その動作を円滑に行えるようにするための油圧が必要なのであって、オイルの流量を多く必要としているわけではない。従って、本実施形態の構成によれば、オイルポンプ106の容量増加を防止しつつ、ピン76の作動応答性を良好に確保することができる。
また、絞り部142を備えることにより、調圧弁120による調圧の影響をOCV112の上流側に伝えにくくすることもできる。
実施の形態4.
次に、図9乃至図13を参照して、本発明の実施の形態4について説明する。
図9は、本発明の実施の形態4における油圧回路150の構成を説明するための図である。尚、図9において、上記図4に示す構成要素と同一の要素については、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。また、図9においては、OCV112の上流側の構成(オイルポンプ106等)の図示を省略している。
図9に示す油圧回路150では、OCV112よりも下流側における油圧を検出するための圧力センサ152が、デリバリパイプ114上に取り付けられている。この圧力センサ152は、ECU118に接続されている。ECU118は、圧力センサ152の信号をフィードバックして、所望のデューティ比でOCV112をデューティ制御することで、OCV112の下流側の油路(デリバリパイプ114)の油圧を、以下の図10に示すような所定値に制御することを特徴としている。つまり、本実施形態では、このようなOCV112のデューティ制御によって、ピン76の切り替え動作を制御することとしている。
図10は、本実施形態におけるピン76の切り替え動作時の油圧の設定を説明するための図である。図10に示すように、本実施形態では、ピン76の結合動作の開始時(ピン作動油圧tよりも低圧側から高圧側へ油圧を制御する際)には、OCV112の下流側の油圧を、ピン76の作動が行われるピン作動油圧tからの偏差の大きい設定油圧aとする。より具体的には、設定油圧aは、ピン76結合時の作動応答性を十分に確保できるような油圧値とされる。
そして、ピン76の結合動作の開始後に所定時間が経過した場合には、上記設定油圧aよりもピン作動油圧tに近い設定油圧bとする。より具体的には、設定油圧bは、ピン76を結合状態に維持できる程度の油圧値である。また、ここでいう所定時間とは、すべての気筒のピン76の結合動作が確実に行われるために要する時間(4ストロークエンジンではクランク軸2回転分の時間)を意味する。
また、本実施形態では、ピン76結合の解除動作を行う際(ピン作動油圧tよりも高圧側から低圧側へ油圧を制御する際)には、OCV112の下流側の油圧を、ピン作動油圧tよりも低い値であって、ピン76結合の解除時の作動応答性を十分に確保できるような油圧値である設定油圧cとする。
図11は、図10におけるA回転時でのピン切り替え動作を説明するためのタイムチャートである。より具体的には、図11(A)は、ECU118が油圧を保持するためにOCV112に出力する制御信号の波形を、図11(B)は、ECU118が片弁固定(すなわち、ピン76の結合)のためにOCV112に出力する制御信号の波形を、図11(C)は、OCV112のデューティ制御により制御される油圧を表す波形を、それぞれ示している。
内燃機関の運転条件に基づいて片弁固定制御の実施要求が出された際には、図11(B)に示すように、片弁固定制御信号がONとされ、油圧が設定油圧aにまで速やかに高められるようにすべく、比較的高いデューティ比でOCV112の開弁時間が制御される。そして、油圧が設定油圧aに達した後に上記所定時間が経過すると、油圧保持制御信号がONとされ、油圧を設定油圧bで保持すべく、上記よりも下げられたデューティ比でOCV112の開弁時間が制御される。その後、片弁固定制御を停止する要求が出された場合には、片弁固定制御信号および油圧保持制御信号がともにOFFとされ、油圧室78内の作動油を速やかに排出させるべく、デューティ比がゼロとされる。
以上説明したピン76の切り替え動作時の設定油圧a、bの設定によれば、ピン76の結合動作の開始時には、ピン作動油圧tを基準としてオーバーシュート気味に油圧を設定することにより、ピン76の作動応答性を向上させることができる。また、その後は、すべての気筒のピン76の結合が完了したと判断できる時点で、設定油圧aよりも低く、かつピン作動油圧tに近い設定油圧bとなるように油圧を保持する待機油圧制御を実施することで、過剰油圧によるピン76の結合の解除時の作動応答性の遅れを防止することができる。以上の制御により、ピン76の作動応答性のばらつきに起因して、内燃機関の燃焼状態の悪化やエンジン騒音の悪化を好適に回避することができる。
図12は、片弁固定制御の実施要求が出される際に、本実施の形態4においてECU118が実行するルーチンのフローチャートである。図12に示すルーチンでは、先ず、片弁固定制御の実施要求があるか否かが、内燃機関の運転条件に基づいて判別される(ステップ100)。その結果、片弁固定制御の実施要求があると判定された場合には、OCV112の下流側の油圧pが、ピン作動油圧tより低いか否かが判別される(ステップ102)。その結果、油圧p<ピン作動油圧tが成立する場合には、次いで、油圧p<設定油圧aが成立するか否かが判別される(ステップ104)。
上記ステップ104において、油圧p<設定油圧aが成立すると判定された場合には、設定油圧aと現在の油圧pとの油圧差分(a−p)を解消させるために必要なOCV112のデューティ非が算出される(ステップ106)。そして、算出されたデューティ比に従ってOCV112が駆動される(ステップ108)。
次に、現在の油圧pが設定油圧aと等しくなったか否かが判別される(ステップ110)。油圧p=設定油圧aに達するまでの間は、油圧差分(a−p)の解消に必要なデューティ比でOCV112が駆動され、油圧p=設定油圧aに達したと判定された場合には、次いで、待機油圧信号(図11における油圧保持制御信号)がONであるか否かが判別される(ステップ112)。待機油圧信号は、油圧p=設定油圧aに達した後に内燃機関の1サイクルが経過してからONとされる信号である。
上記ステップ112において、待機油圧信号がONであると判定された場合、つまり、すべての気筒のピン76が確実に結合状態にあると判断できる場合には、現在の油圧pと設定油圧bとの油圧差分(p−b)を解消させるために必要なデューティ比が算出される(ステップ114)。そして、算出されたデューティ比に従ってOCV112が駆動される(ステップ116)。次に、現在の油圧pが設定油圧bと等しくなったか否かが判別される(ステップ118)。その結果、油圧p=設定油圧bに達するまでの間は、油圧差分(p−b)の解消に必要なデューティ比でOCV112が駆動され、油圧p=設定油圧bに達したと判定された場合には、本ルーチンの処理が速やかに終了される。
図13は、片弁固定制御の停止要求が出される際に、本実施の形態4においてECU118が実行するルーチンのフローチャートである。図13に示すルーチンでは、先ず、片弁固定制御を停止する要求があるか否かが判別される(ステップ200)。その結果、片弁固定制御の停止要求があると判定された場合には、油圧p>ピン作動油圧tが成立するか否かが判別される(ステップ202)。
上記ステップ202において、油圧p>ピン作動油圧tが成立すると判定された場合には、現在の油圧と設定油圧cとの油圧差分(p−c)の解消に必要なデューティ比が算出される(ステップ204)。そして、算出されたデューティ比に従ってOCV112が駆動される(ステップ206)。次に、現在の油圧pが設定油圧cと等しくなったか否かが判別される(ステップ208)。その結果、油圧p=設定油圧cに達するまでの間は、油圧差分(p−c)の解消に必要なデューティ比でOCV112が駆動され、油圧p=設定油圧cに達したと判定された場合には、本ルーチンの処理が速やかに終了される。
実施の形態5.
次に、図14乃至図16を参照して、本発明の実施の形態5について説明する。
本実施形態のシステムは、図1〜3、9に示すハードウェア構成を用いて、ECU118に図13に示すルーチンに代えて後述する図16に示すルーチンを実行させることにより実現することができるものである。
図14は、本実施形態におけるピン76の切り替え動作時の油圧の設定を説明するための図である。図14に示すように、本実施形態の油圧の設定は、ピン76の結合が解除状態にあるときに、片弁固定制御の実施要求に先立って、設定油圧cよりもピン作動油圧tに近い設定油圧dとされる点に特徴を有している。より具体的には、ピン76結合の解除動作の開始後に所定時間が経過した後に、設定油圧cから設定油圧dに変更される。設定油圧dは、ピン76を解除状態に維持できる程度の油圧値である。また、ここでいう所定時間とは、すべての気筒のピン76の解除動作が確実に行われるために要する時間(4ストロークエンジンではクランク軸2回転分の時間)を意味する。尚、その他の設定油圧は、上述した実施の形態4と同様である。
図15は、図14におけるA回転時でのピン切り替え動作を説明するためのタイムチャートである。ここでは、上述した実施の形態4と異なる動作、すなわち、片弁固定制御を停止する要求が出された際の動作について説明を行う。片弁固定制御を停止する要求が出された際には、図15(A)および(B)に示すように、片弁固定制御信号および油圧保持制御信号がともにOFFとされ、油圧pが設定油圧cに制御される。その後に、上記所定時間が経過すると、油圧保持制御信号がONとされ、油圧pを設定油圧dで保持すべく、所定のデューティ比にまで高められる。このように、本実施形態では、片弁固定制御信号および油圧保持制御信号のそれぞれのON、OFF状態に応じて、設定油圧がa〜dの間で決定される。
以上説明したピン76の切り替え動作時の設定油圧c、dの設定によれば、ピン76結合の解除動作の開始時には、ピン作動油圧tを基準としてオーバーシュート気味に油圧を設定することにより、ピン76の作動応答性を向上させることができる。また、その後は、すべての気筒のピン76結合の解除が完了したと判断できる時点で、設定油圧cよりも高く、かつピン作動油圧tに近い設定油圧dとなるように油圧を保持する待機油圧制御を実施することで、次回のピン76結合時の作動応答性を更に向上することが可能となる。
図16は、片弁固定制御の停止要求が出される際に、本実施の形態5においてECU118が実行するルーチンのフローチャートである。尚、図16において、実施の形態4における図13に示すステップと同一のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。また、本実施形態において、片弁固定制御の実施要求が出される際にECU118が実行するルーチンは、上記図12と同様である。
図16に示すルーチンでは、上記ステップ208において、油圧p=設定油圧cに達したと判定された場合には、次いで、待機油圧信号(図15における油圧保持制御信号)がONであるか否かが判別される(ステップ300)。待機油圧信号は、油圧p=設定油圧cに達した後に内燃機関の1サイクルが経過してからONとされる信号である。
上記ステップ300において、待機油圧信号がONであると判定された場合、つまり、すべての気筒のピン76の結合が確実に解除状態にあると判断できる場合には、設定油圧dと現在の油圧pとの油圧差分(d−a)を解消させるために必要なデューティ比が算出される(ステップ302)。そして、算出されたデューティ比に従ってOCV112が駆動される(ステップ304)。次に、現在の油圧pが設定油圧dと等しくなったか否かが判別される(ステップ306)。その結果、油圧p=設定油圧dに達するまでの間は、油圧差分(d−a)の解消に必要なデューティ比でOCV112が駆動され、油圧p=設定油圧dに達したと判定された場合には、本ルーチンの処理が速やかに終了される。
実施の形態6.
次に、図17および図18を参照して、本発明の実施の形態6について説明する。
本実施形態のシステムは、図1〜3、9に示すハードウェア構成を用いて、ECU118に図16に示すルーチンに代えて後述する図18に示すルーチンを実行させることにより実現することができるものである。
図17は、本実施形態におけるピン76の切り替え動作時の油圧の設定を説明するための図である。図17に示すように、本実施形態の油圧の設定は、ピン76の結合が解除状態にあるときに、エンジン回転数が低い領域では設定油圧dを用いないようにしたという点に特徴を有している。尚、その他の設定油圧は、上述した実施の形態5と同様である。
上記の油圧の設定によれば、待機油圧制御を実施する領域を、ピン76の作動の高応答性が強く要求される高エンジン回転数領域に限定したことにより、ピン76の作動応答性の要求を十分に満足させつつ、OCV112の作動による消費電力を抑えることで、燃費悪化を防止することができる。また、低エンジン回転数領域におけるオイル循環量の低減を図ることもできる。
図18は、片弁固定制御の停止要求が出される際に、本実施の形態6においてECU118が実行するルーチンのフローチャートである。尚、図18において、実施の形態5における図16に示すステップと同一のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。また、本実施形態において、片弁固定制御の実施要求が出される際にECU118が実行するルーチンは、上記図12と同様である。
図18に示すルーチンでは、上記ステップ208において、油圧p=設定油圧cに達したと判定された場合には、次いで、現在のエンジン回転数nが所定値n1より高いか否かが判別される(ステップ400)。所定値n1は、現在のエンジン回転数nの領域がピン76の作動の高応答性が要求される領域であるか否かを判別するための値である。図18に示すルーチンでは、本ステップ400の判定が成立する場合にのみ、以後のステップ300〜306の処理が実行される。
実施の形態7.
次に、図19および図20を参照して、本発明の実施の形態7について説明する。
本実施形態のシステムは、図1〜3、9に示すハードウェア構成を用いて、ECU118に図16に示すルーチンに代えて後述する図20に示すルーチンを実行させることにより実現することができるものである。
図19は、本実施形態におけるピン76の切り替え動作時の油圧の設定を説明するための図である。図19に示すように、本実施形態の油圧の設定は、ピン76の結合が解除状態にあるときに設定油圧dが用いられるエンジン回転数領域を、片弁固定制御が必要となるエンジン回転数領域(n1〜n2)と当該領域よりも少し高いエンジン回転数領域(n2〜n3)とに限定したという点に特徴を有している。尚、その他の設定油圧は、上述した実施の形態5と同様である。
片弁固定制御が必要となるエンジン回転数領域(n1〜n2)とは、スワールを強くさせたい領域であり、より具体的には、燃費や排気エミッションの向上を優先とする低中速領域がその対象となる。これに対し、高速域では、吸入空気量を多く必要とするため、片弁固定制御は必要とされない。そこで、本実施形態では、片弁固定制御を必要としない高速域では、ピン76の結合が解除状態にあるときには、基本的には設定油圧dを用いないようにした。そのうえで、片弁固定制御が必要となるエンジン回転数領域(n1〜n2)よりも少し高いエンジン回転数領域(n2〜n3)においては、内燃機関の運転条件が高速側から低速側に移り変わる際に片弁固定制御の実施要求が出されるケースを想定して、設定油圧dを用いるようにした。
上記の油圧の設定によれば、待機油圧制御を実施する領域を、片弁固定制御が必要とされるエンジン回転数領域に限定したことにより、ピン76の作動応答性の要求を十分に満足させつつ、OCV112の作動による消費電力を抑えることで、燃費悪化を防止することができる。また、エンジン回転数が低い領域におけるオイル循環量の低減を図ることもできる。
また、高速域から片弁固定制御が必要な中速域に復帰する際に、ピン76の作動応答性を確保することができ、安定したエンジン制御を行うことができるようになる。
図20は、片弁固定制御の停止要求が出される際に、本実施の形態7においてECU118が実行するルーチンのフローチャートである。尚、図20において、実施の形態5における図16に示すステップと同一のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。また、本実施形態において、片弁固定制御の実施要求が出される際にECU118が実行するルーチンは、上記図12と同様である。
図20に示すルーチンでは、上記ステップ200において、片弁固定制御の停止要求があると判定された場合には、次いで、現在のエンジン回転数nが所定値n2より高いか否かが判別される(ステップ500)。所定値n2は、片弁固定制御を必要とするエンジン回転数領域の上限値である。その結果、エンジン回転数n>n2が不成立である場合には、以後のステップ202〜208の処理が実行される。
一方、上記ステップ500において、エンジン回転数n>n2が成立すると判定された場合には、次いで、現在のエンジン回転数nが所定値n1〜n3の範囲内にあるか否かが判別される(ステップ502)。その結果、本ステップ502の判定が成立する場合にのみ、以後のステップ300〜306の処理が実行される。
実施の形態8.
次に、図21および図22を参照して、本発明の実施の形態8について説明する。
本実施形態のシステムは、図1〜4に示すハードウェア構成を用いて、ECU118に後述する図21に示すルーチンを実行させることにより実現することができるものである。
既述したように、本可変動弁装置1を備える内燃機関においては、運転状態に応じて、両弁可変制御と片弁固定制御とを切り替えるようにしている。エンジン油圧が適正な状態にある場合には、デリバリパイプ114内に作動油が供給されるようにOCV112を制御させた際、OCV112を作動させてから内燃機関が1サイクルを経過した時点ですべての気筒におけるピン76の結合動作が完了することになる。
しかしながら、エンジン回転数が低い状況下や作動油の温度が高い状況下では、油圧が低くなる。このため、ピン76の結合動作を行う際に、OCV112が作動してから実際にピン76の結合が完了するまでに内燃機関のサイクル数を多く要してしまう。また、エンジン回転数が高い状況下では、1サイクル間の時間が短くなるため応答速度が遅いと、同様の結果を招いてしまう。更に、極低温状態ではオイルの流動性が悪化するため、同様の結果を招いてしまう。その結果、ピン76の結合動作が実際に完了するタイミングと、両弁可変制御から片弁固定制御への変化に伴って実施される燃料噴射条件の変更タイミングとにずれが生じてしまい、燃焼状態が悪化してしまうおそれがある。
そこで、本実施形態では、OCV112の作動後に実際にピン76の結合動作が完了する(すなわち、動弁機構が実際に切り替わる)実切り替わりタイミングを推定し、その推定された実切り替わりタイミングに応じて、内燃機関の燃焼制御(ディーゼル機関を想定する本実施形態では、燃料噴射量や燃料噴射時期などの燃料噴射条件)の切り替えタイミングを制御するようにした。尚、ガソリン機関であれば、点火などの切り替えタイミングを併せて制御するようにしてもよい。
図21は、上記の機能を実現するために、本実施の形態8においてECU118が実行するルーチンのフローチャートである。尚、図21に示すルーチンにおいて、実施の形態4における図12に示すステップと同一のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。
図21に示すルーチンでは、上記ステップ100において、片弁固定制御の実施要求があると判定された場合には、次いで、エンジン回転数および冷却水温度に基づいて、OCV112を作動してから実際にピン76の結合動作が完了するまでの遅れサイクル数が取得される(ステップ600)。ECU118は、図22に示すように、そのような遅れサイクル数を、エンジン回転数と冷却水温度との関係で定めたマップを記憶している。
上述した理由により、エンジン回転数が低い状況下や作動油の温度が高い状況下、エンジン回転数が高い状況下、および極低温状況下では、ピン76の結合動作の完了までに多くのサイクル数を要する。図22に示すマップでは、所定の基準回転数に対し、エンジン回転数が低くなるにつれ、遅れサイクル数が大きくなるように設定されている。また、その基準回転数に対し、エンジン回転数が高い領域でも、遅れサイクル数が大きくなるように設定されている。また、冷却水温度が高くなるにつれ、遅れサイクル数が大きくなるように設定されている。尚、ここでは、作動油の温度情報を冷却水温度で代替して取得するようにしているが、油温センサを備えているのであれば、冷却水温度に代え、エンジン回転数と油温との関係で遅れサイクル数を定めたマップを用いるようにしてもよい。
次に、上記のように取得された遅れサイクル数を考慮して、燃料噴射条件の切り替えタイミングが決定される(ステップ602)。より具体的には、遅れサイクル数が0である場合には、OCV112が作動してから1サイクルが経過した気筒から燃料噴射条件が切り替わるように切り替えタイミングが決定される。また、遅れサイクル数が1以上である場合には、OCV112が作動してからのサイクル数として、1サイクルに遅れサイクル数を加えたサイクル数が経過した気筒から燃料噴射条件が切り替わるように切り替えタイミングが補正される。
以上説明した図21に示すルーチンによれば、エンジン回転数および冷却水温度(油温)に基づいて予め設定された遅れサイクル数マップに従って、燃料噴射条件の切り替えタイミングが、実際の動弁機構の切り替えに合わせて変化させられる。このため、エンジン回転数や油温の状態に関係なしに、ピン76の結合動作が実際に完了するタイミングと、燃料噴射条件の変更タイミングとを良好に一致させることができ、これにより、燃焼状態の悪化を回避することができる。
実施の形態9.
次に、図23および図24を参照して、本発明の実施の形態9について説明する。
本実施形態のシステムは、図1〜4に示すハードウェア構成を用いて、ECU118に後述する図23に示すルーチンを実行させることにより実現することができるものである。
油圧源であるオイルポンプ106(OCV112)より遠い気筒ほど、油圧の伝わりに遅れが生じ、OCV112が作動してからピン76の切り替え動作(動弁機構の切り替えり)が実際に完了するまでに、より多くの時間を必要とする。
そこで、本実施形態では、油圧源(OCV112)からの距離に基づいて、OCV112の作動後に実際にピン76の切り替動作が完了する(すなわち、動弁機構が実際に切り替わる)実切り替わりタイミングを推定するようにした。そして、その推定された実切り替わりタイミングに応じて、燃焼制御の切り替えタイミングを制御するようにした。
図23は、上記の機能を実現するために、本実施の形態9においてECU118が実行するルーチンのフローチャートである。尚、図23に示すルーチンにおいて、実施の形態4における図12に示すステップと同一のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。
図23に示すルーチンでは、上記ステップ100において、片弁固定制御の実施要求があると判定された場合には、OCV112から油圧室78までの油路長さと油圧に基づいて、OCV112を作動してから実際にピン76の結合動作が完了するまでの遅れサイクル数が取得される(ステップ700)。ECU118は、図24に示すように、そのような遅れサイクル数を、OCV112から油圧室78までの気筒毎の油路長さと油圧との関係で定めたマップを記憶している。
上記図4に示す油圧回路100では、シリンダ番号(#1〜#4)が小さくなるほど、OCV112から油圧室78までの油路長さが長くなる。従って、図24に示すマップでは、シリンダ番号が小さくなるにつれ、遅れサイクル数が大きくなるように設定されている。また、図24に示すマップでは、油圧が低くなるにつれ、遅れサイクル数が大きくなるように設定されている。尚、図24においてハッチングを付した部分は、ピン76の結合動作が実行されない低油圧領域を示している。
次に、上記のように取得された遅れサイクル数を考慮して、燃料噴射条件の切り替えタイミングが決定される(ステップ702)。
以上説明した図23に示すルーチンによれば、OCV112から油圧室78までの気筒毎の油路長さに基づいて予め設定された遅れサイクル数マップに従って、燃料噴射条件の切り替えタイミングが、気筒毎に、実際の動弁機構の切り替えに合わせて変化させられる。このため、油圧源(OCV112)から油圧室78までの気筒毎の油路長さに関係なしに、ピン76の結合動作が実際に完了するタイミングと、燃料噴射条件の変更タイミングとを良好に一致させることができ、これにより、燃焼状態の悪化を回避することができる。
実施の形態10.
次に、図25および図26を参照して、本発明の実施の形態10について説明する。
本実施形態のシステムは、図1〜4に示すハードウェア構成を用いて、ECU118に後述する図25に示すルーチンを実行させることにより実現することができるものである。ただし、本実施形態では、油圧回路100に調圧弁120を備えていないものとする。
ピン76結合の解除動作には、リターンスプリング82のバネ力から油圧室78内に作用する油圧がピストン76を押す力を引いた力が、実際のピン76の作動力となる。従って、ピン76の結合が解除されるようにOCV112が制御された際には、エンジン油圧が高いときほど、ピン76の結合が解除されるようになるまでデリバリパイプ114内から作動油が抜けるのに要する時間が長くなる。
そこで、本実施形態では、油圧に基づいて、OCV112の作動後に実際にピン76結合の解除動作が完了する(すなわち、動弁機構が実際に切り替わる)実切り替わりタイミングを推定するようにした。そして、その推定された実切り替わりタイミングに応じて、燃焼制御の切り替えタイミングを制御するようにした。
図25は、上記の機能を実現するために、本実施の形態10においてECU118が実行するルーチンのフローチャートである。尚、図25に示すルーチンにおいて、実施の形態4における図13に示すステップと同一のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。
図25に示すルーチンでは、上記ステップ200において、片弁固定制御の停止要求があると判定された場合には、エンジン油圧と、OCV112から油圧室78までの油路長さとに基づいて、OCV112を作動してから実際にピン76結合の解除動作が完了するまでの遅れサイクル数が取得される(ステップ800)。
ECU118は、図26に示すように、そのような遅れサイクル数を、OCV112から油圧室78までの気筒毎の油路長さとエンジン油圧との関係で定めたマップを記憶している。図26に示すマップでは、エンジン油圧が高いときほど、遅れサイクル数が大きくなるように設定されている。また、図26に示すマップでは、シリンダ番号が小さくなるにつれ、遅れサイクル数が大きくなるように設定されている。
次に、上記のように取得された遅れサイクル数を考慮して、燃料噴射条件の切り替えタイミングが決定される(ステップ802)。
以上説明した図25に示すルーチンによれば、エンジン油圧に基づいて予め設定された遅れサイクル数マップに従って、燃料噴射条件の切り替えタイミングが、実際の動弁機構の切り替えに合わせて変化させられる。また、上記ルーチンによれば、OCV112から油圧室78までの気筒毎の油路長さに基づいて予め設定された遅れサイクル数マップに従って、燃料噴射条件の切り替えタイミングが、気筒毎に、実際の動弁機構の切り替えに合わせて変化させられる。このため、エンジン油圧の状態や油圧源(OCV112)から油圧室78までの気筒毎の油路長さに関係なしに、ピン76結合の解除動作が実際に完了するタイミングと、燃料噴射条件の変更タイミングとを良好に一致させることができ、これにより、燃焼状態の悪化を回避することができる。
実施の形態11.
次に、図27を参照して、本発明の実施の形態11について説明する。
図27は、本発明の実施の形態11における油圧回路160の特徴的な構成を説明するための図である。尚、本実施形態の可変動弁装置は、油圧回路160の構成が上記油圧回路100の構成と異なる点を除き、上述した実施の形態1と同様に構成されているものとする。このため、図27において、上記図4に示す構成要素と同一の要素については、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。また、図27においては、OCV112の上流側の構成(オイルポンプ106等)の図示を省略している。
図27に示す油圧回路160では、OCV112は、内燃機関が備える4つの気筒の中央付近に配置されている。また、油圧回路160は、OCV112と各気筒の油圧室78とを結ぶ油圧通路162を備えている。油圧通路162は、OCV112から隣接する2つの気筒群(#1と#2)に向かう第1分岐油路164aと、OCV112から隣接する2つの気筒群(#3と#4)に向かう第2分岐油路164bとを備えている。
第1分岐油路164aと第2分岐油路164bとは、同一径であって、等長となるように形成されている。第1分岐油路164aは、非OCV112側の端部において、分岐油路166a、166bによって、#1気筒と第2気筒とに分岐されている。これらの分岐油路166a、166bは、同一径であって、等長となるように形成されている。同様に、第2分岐油路164bは、非OCV112側の端部において、分岐油路166c、166dによって、#3気筒と第4気筒とに分岐されており、これらの分岐油路166c、166dは、同一径であって、等長となるように形成されている。
以上説明した図27に示す構成によれば、OCV112からすべての油圧室78に向かう油路を等長(等容積)とすることができる。このため、ピン76の切り替え動作を行うためにOCV112によって油圧通路162内の油圧を制御した際に、気筒間でピン76の切り替え動作(すなわち、動弁機構の切り替わり)の応答性がばらつくのを回避することができる。これにより、気筒間での燃焼ばらつき等の燃焼状態の悪化を回避することができる。
実施の形態12.
次に、図28を参照して、本発明の実施の形態12について説明する。
図28は、本発明の実施の形態11における油圧回路170の特徴的な構成を説明するための図である。尚、本実施形態の可変動弁装置は、油圧回路170の構成が上記油圧回路100の構成と異なる点を除き、上述した実施の形態1と同様に構成されているものとする。このため、図28において、上記図4に示す構成要素と同一の要素については、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。また、図28においては、OCV112の上流側の構成(オイルポンプ106等)の図示を省略している。
図28に示す油圧回路170では、OCV112は、内燃機関が備える4つの気筒のうちの#1気筒に最も近接して配置されており、また、シリンダ番号が大きい気筒ほど、OCV112に対する油路長さが長くなるように配置されている。また、油圧回路170は、OCV112と各気筒の油圧室78とを結ぶ4つの油圧通路172a〜172dを備えている。
図28に示すように、油圧通路172a〜172dは、OCV112に対する油路長さがより長くなるほど、径が細くなるように形成されている。更に付け加えると、油圧通路172a〜172dは、そのような径への配慮がなされることにより、それらの油路長さに相違があるにも関わらず、互いに油路容積が等しくなるように形成されている。
以上説明した図28に示す構成によれば、ピン76の切り替え動作を行うためにOCV112によって油圧通路172内の油圧を制御した際に、すべての油圧通路172a〜172dにおける油圧の昇圧時間を等しくすることが可能となる。このため、気筒間でピン76の切り替え動作(すなわち、動弁機構の切り替わり)の応答性がばらつくのを回避することができる。これにより、気筒間での燃焼ばらつき等の燃焼状態の悪化を回避することができる。
その他.
ところで、上述した実施の形態1乃至12においては、ピン76に油圧を作用させることでピン76が2つのアーム40R、70間で連結状態となり、一方、ピン76に与える油圧を低下させつつリターンスプリング82のバネ力によってピン76が非連結状態となるように構成されたアーム結合機構72(図3参照)を用いている。しかしながら、本発明において2つの揺動部材間をピンにより連結状態或いは非連結状態とする構成は、上記のものに限定されるものではない。すなわち、ピンに油圧を作用させることで2つの揺動部材間が非連結状態となり、一方、ピンに与える油圧を低下させつつリターンスプリングなどの付勢手段の付勢力によってピンが連結状態となるように構成されたアーム結合機構を用いるものであってもよい。