図1乃至図3及び図11と図12によってカップリング1(本発明の第1実施形態)の説明をする。
図1はカップリング1を示し、図11と図12はカップリング1を用いた四輪駆動車の動力系を示している。又、左右の方向はこれらの車両の左右の方向であり、図1と図2の左方は各車両の前方に相当する。
以下、図11の車両にカップリング1を搭載した場合を例にして説明する。
図11のように、この動力系は、横置きのエンジン3とトランスミッション5、トランスファ7、フロントデフ9、前車軸11、13、左右の前輪15、17、後輪側のプロペラシャフト19、カップリング1、リヤデフ21、後車軸23、25、左右の後輪27、29などから構成されている。
このように、カップリング1は後輪側の動力伝達系に配置されており、後輪27、29の連結と切り離し、及び、後輪側に伝達される駆動力の制御を行う。
エンジン3の駆動力は、トランスミッション5の出力ギヤ31からリングギヤ33を介してフロントデフ9のデフケース35に伝達され、フロントデフ9から前車軸11、13を介して左右の前輪15、17に配分され、更に、デフケース35からトランスファ7を介してプロペラシャフト19を回転させ、カップリング1に伝達される。
カップリング1が連結されると、エンジン3の駆動力は、リヤデフ21から後車軸23、25を介して左右の後輪27、29に配分され、車両は四輪駆動状態になる。
又、カップリング1の連結が解除されると、リヤデフ21以下の後輪側が切り離されて車両は二輪駆動状態になる。
図11のように、リヤデフ21はデフキャリヤ37(静止側のケーシング)に収容されている。このデフキャリヤ37はキャリヤ本体39(静止側ケーシングの本体)とフロントカバー41(静止側ケーシングの蓋部材)とをボルト43で連結して構成されている。
又、ボルト43で固定する前に、キャリヤ本体39とフロントカバー41は、ノックピンによってセンタリングされる。
図1と図11のように、カップリング1はフロントカバー41側に収容されており、リヤデフ21はキャリヤ本体39側に収容されている。
図1のように、カップリング1は、回転ケース45(ケース状トルク伝達部材)、インナーシャフト47(軸状トルク伝達部材)、多板式のメインクラッチ49及びコントロールクラッチ51、カムリング53、ボールカム55(カム)、プレッシャプレート57、アーマチャ59、リング状の電磁石61、コントローラなどから構成されている。
なお、コントロールクラッチ51のみによっても、クラッチを構成可能であるが、本実施形態では、コントロールクラッチ51、ボールカム55、プレッシャプレート57、多板式のメインクラッチ49を総じてクラッチを構成するものとする。
回転ケース45は、前側のフランジ部材63と中央の円筒状ケース65と後側のロータ67とから構成されている。
ケース65は非磁性材料で作られており、ロータ67は磁性材料で作られている。
フランジ部材63とケース65はボルト69で固定されている。又、フランジ部材63とケース65は互いの間に設けられたセンタリング部71によって互いにセンタリングされている。これらの間にはシールリング73が配置されており、オイル漏れと、水分や塵のような異物の侵入とを防止している。
フランジ部材63には連結軸75が一体に形成されており、この連結軸75はフロントカバー41の前方に設けられた開口77から外部に突き出しており、その先端部にはコンパニオンフランジ79のハブ部81がセレーション連結され、ナット83で固定されている。
図11のように、このコンパニオンフランジ79は継ぎ手85側のフランジ87にボルトで連結されており、回転ケース45をプロペラシャフト19側に連結している。
ケース65と後側ロータ67は、互いの間に設けられた噛み合い部89によって回転方向に連結されている。又、これらは互いの間に設けられたセンタリング部91でセンタリングされると共に、突き当たり部93と、ケース65に取り付けられたスナップリング95とによって軸方向に位置決めされている。
ケース65と後側ロータ67との間にはシールリング97が配置されており、オイル漏れと、水分や塵のような異物の侵入とを防止している。
電磁石61のコア99は、キャリヤ本体39との間に設けられた嵌合部101でキャリヤ本体39に嵌合され、センタリング(径方向の位置決め)されている。
又、電磁石61のリード線103はキャリヤ本体39とフロントカバー41との接合部105に取り付けられたグロメット107から外部に引き出されており、コネクター109によって車載バッテリ側のコネクターに接続されている。
回転ケース45の前部(連結軸75)は、両側シールのベアリング111を介してフロントカバー41に支承されており、後部(後側ロータ67)は、両側シールのベアリング113によりコア99を介してキャリヤ本体39に支承されている。
カップリング1の前端側では、フロントカバー41の開口77とコンパニオンフランジ79のハブ部81との間に、オイルシール115が配置されており、後端側では、後側ロータ67とキャリヤ本体39との間に、オイルシール117が配置されている。
これらのオイルシール115、117によって、デフキャリヤ37とカップリング1との間に大気室119が形成されており、オイルシール115は大気室119を大気から区画し、オイルシール117は大気室119をキャリヤ本体39の部分に封入されている潤滑用オイルから遮断している。
又、コンパニオンフランジ79のハブ部81にはダストカバー121が取り付けられている。ダストカバー121の先端は、フロントカバー41の外周側まで延びており、コンパニオンフランジ79とフロントカバー41との間を覆って、走行中に飛来する障害物とオイルシール115との衝突を防止し、オイルシール115を保護する。
インナーシャフト47は回転ケース45の内部に配置されており、その前端部はボールベアリング123を介してフランジ部材63に支承され、後端部はニードルベアリング125を介して後側ロータ67に支承されている。又、インナーシャフト47と後側ロータ67との間には断面がX字状のシールであるXリング127が配置されている。
又、インナーシャフト47にはドライブピニオンシャフト129がセレーション連結されている。このドライブピニオンシャフト129はアンギュラーコンタクトベアリング131、133を介してキャリヤ本体39に支承されている。各ベアリング131、133はロックナット135によってそれぞれの径方向の隙間を適正に調整されてセンタリングされていると共に、軸方向の移動を規制されている。
このように、回転ケース45は、ドライブピニオンシャフト129を介して大容量のアンギュラーコンタクトベアリング131、133に支持されているから、径方向と軸方向の両方で適正に位置決めされる。
又、ドライブピニオンシャフト129に形成されたドライブピニオンギヤ137はリヤデフ21側のリングギヤ139と噛み合っており、インナーシャフト47をリヤデフ21側に連結している。
メインクラッチ49は、回転ケース45とインナーシャフト47との間に配置されている。
又、メインクラッチ49とケース65との間にはプレート141が配置されている。このプレート141はメインクラッチ49の押圧力を受けると共に、厚さの異なるものと交換することによって、メインクラッチ49のアウタープレートとインナープレートの隙間を調整したり、伝達トルク容量を変えるためにメインクラッチ49のアウタープレートやインナープレートの構成枚数を調整することができる。
コントロールクラッチ51は、回転ケース45の内周とカムリング53の外周との間に配置されており、後述のように、アーマチャ59によって回転ケース45の後側ロータ67に押圧され、締結される。
ボールカム55は、カムリング53とプレッシャプレート57との間に配置されている。プレッシャプレート57は内周の係合部143で、インナーシャフト47の外周に形成されたスプライン部145に軸方向移動自在に連結されている。このスプライン部145にはメインクラッチ49のインナープレートが係合している。
又、カムリング53と後側ロータ67との間には、ボールカム55のカム反力を受けるスラストベアリング147とワッシャ149とが配置されている。
円板状のアーマチャ59は、コントロールクラッチ51とプレッシャプレート57との間に軸方向移動自在に配置されている。
アーマチャ59は内周側をプレッシャプレート57に対し微小な所定間隔を隔てて対向しており、コントロールクラッチ51から離れないように位置を規制されている。又、アーマチャ59はコントロールクラッチ51とメインクラッチ49の各アウタープレートが係合する回転ケース45内周のスプライン部151の先端に外周側の位置を規制されており、電磁石61による引き付けコントロール性を高めている。
電磁石61のコア99は後側ロータ67に設けられている凹部153に嵌入して、エアギャップ155を形成している。
又、このエアギャップ155は、アーマチャ59が充分な強さで吸引されるように、コア99とベアリング113と後側ロータ67との軸方向取り付け位置を変えることによって、最適値に調整されている。
回転ケース45は、フランジ部材63とケース65の間のシールリング73と、ケース65と後側ロータ67の間のシールリング97と、インナーシャフト47と後側ロータ67の間のXリング127とによって密封状態にされ、内部に密封空間が形成されている。
この密封空間には、フランジ部材63に設けられたオイル供給流路157からオイルが注入される。このオイル供給流路157はオイルを注入した後密封ボール159を圧入してシールされている。又、このオイルにはキャリヤ本体39のオイルと異なった専用のオイルが用いられている。
この専用オイルの充填率は、密封空間の全容量に対して50%〜90%のレベルであり、好ましくは70%〜85%のレベルである。又、密封空間の残りの部分は空気で占められている。
この充填率は、回転ケース45が回転している状態で、コントロールクラッチ51の内周側、つまり、カムリング53の外周のスプライン部161が浸るオイルレベルであること、及び、回転ケース45の温度が上昇したときの内圧を吸収できること、などの諸条件を満たすように決定される。
又、フロントカバー41側(大気室119)にオイルを封入する場合は、キャリヤ本体39側のオイルと混ざり合うことがオイルシール117によって防止されるから、フロントカバー41とキャリヤ本体39にはそれぞれの用途に適したオイルが選択されている。
インナーシャフト47には、大径と小径の同軸孔163、165によって容量増大空間167が形成されている。この容量増大空間167には、封入オイルや空気が収容される。
又、インナーシャフト47には、容量増大空間167とメインクラッチ49側とを連通する径方向のオイル流路169が4本設けられている。
又、同軸孔165はフランジ部材63側に開口しており、フランジ部材63との間には回転ケース45の密封空間と容量増大空間167とを連通する連通流路171が形成され、密封空間のオイル容量を増加させている。
カップリング1が回転すると、容量増大空間167のオイルはオイル流路169から流出してメインクラッチ49を潤滑する。又、容量増大空間167のオイルは連通流路171から密封空間に流出し、メインクラッチ49及びコントロールクラッチ51の各プレートの摺動面、カムリング53とインナーシャフト47との摺動面、ボールカム55、ボールベアリング123、スラストベアリング147などを潤滑し、冷却する。
カップリング1の遠心力はこのオイルの流れと拡散、つまり、オイル循環作用を促進し、潤滑性と冷却性を大きく向上させる。
容量増大空間167によって密封空間のオイル容量を増加させたことにより、密封空間内部の潤滑効果と冷却効果とがそれだけ向上している。
又、メインクラッチ49のインナープレートには開口173が設けられており、プレッシャプレート57には貫通孔175が設けられている。
これらの開口173と貫通孔175によってオイルの移動が促進され、潤滑と冷却の効果を更に向上させている。
又、プレッシャプレート57の貫通孔175は、プレッシャプレート57が受けるオイルの抵抗を低減してメインクラッチ49の押圧レスポンスを向上させると共に、メインクラッチ49側にオイルを移動し易くし、メインクラッチ49の潤滑性と冷却性を向上させている。
なお、インナーシャフト47の同軸孔163、165は、上記のように開口しているから、例えば、ドリルによって容易に加工できる。
コントローラは、車速、操舵角、横Gなどから旋回走行を検知し、あるいは、路面状態などに応じて、電磁石61の励磁、励磁電流の制御、励磁停止などを行う。
電磁石61が励磁されると、磁気回路に磁力のループ177が形成されてアーマチャ59が吸引され、回転ケース45の後側ロータ67との間でコントロールクラッチ51を押圧して締結させる。コントロールクラッチ51が締結されると、回転ケース45とインナーシャフト47間のトルクがボールカム55に掛かり、生じたカムスラスト力によりプレッシャプレート57を介してメインクラッチ49が押圧され、締結する。
こうしてカップリング1が連結されると、エンジンの駆動力が後輪に送られて車両は四輪駆動状態になり、悪路などの走破性や、車体の安定性が向上する。
又、電磁石61の励磁電流を制御すると、コントロールクラッチ51の滑りに応じてボールカム55のカムスラスト力が変化し、メインクラッチ49の連結力(カップリング1の伝達トルク)が変化して後輪の駆動力が調整される。
このようにして、前後輪間の駆動力配分比を制御すると、例えば、旋回走行中の車両の操縦性や安定性などが向上する。
又、電磁石61の励磁を停止すると、コントロールクラッチ51が開放されてボールカム55のカムスラスト力が消失し、メインクラッチ49が開放されてカップリング1の連結が解除され、車両は二輪駆動状態になる。
回転ケース45の後側ロータ67にはステンレス鋼のような非磁性材料のリング179が配置されており、後側ロータ67をリング179の外側と内側で磁気的に絶縁している。更に、コントロールクラッチ51の各プレートには開孔181及びブリッジ部が形成されている。
これらのリング179と開孔181によって、磁力ループ177からの磁気漏れが防止され、電磁石61の磁力がアーマチャ59に集中する。
又、上記のように、アーマチャ59は隣接部材との間で軸方向と径方向に位置決めされているフリー部材ではあるが、プレッシャプレート57との微小な所定隙間を有する部分は磁力ループ177に対して磁束密度の低い内周側外端部であるから、アーマチャ59の吸引力には実質的に影響を与えない。
カップリング1が連結されたとき、エンジン3の駆動力は連結軸75(フランジ部材63)とケース65からメインクラッチ49を通ってインナーシャフト47に伝達され、又、ケース65からコントロールクラッチ51、ボールカム55、プレッシャプレート57を通ってインナーシャフト47に伝達される。
このように、後側ロータ67は、非磁性材料のリング179を含めてトルク伝達経路から除外されており、トルクの伝達には関与しない。
従って、後側ロータ67は強度上の要求から解放され、磁気透過性に優れた材料を選択することが可能になる。
一方、磁気回路から除外されたフランジ部材63はトルク伝達経路になり、磁気透過性上の要求から解放され、強度に優れた材料を選択することが可能になる。
そこで、フランジ部材63には、静的強度と衝撃強度とを増すために、浸炭処理が施されている。
このように、後側ロータ67とフランジ部材63は、それぞれが過大な要求から解放され、磁気透過性や強度などの要求に従って材質を選定することが可能になるから、カップリング1の性能がそれだけ向上すると共に、高価な材料を用いなくてすみ、低コストになる。
上記のように、電磁石61のコア99は、嵌合部101でデフキャリヤ37のキャリヤ本体39に嵌合され、センタリングされている。
この嵌合部101には、廻り止め手段183が設けられており、キャリヤ本体39にコア99を廻り止めしており、この廻り止めによって電磁石61のリード線103やグロメット107の破損を防止している。
図2と図3のように、この廻り止め手段183は、コア99に溶接された廻り止め部材185(回転方向の係合部:凸部)と、キャリヤ本体39の2箇所の凸部187の間に形成された係合部189(回転方向の係合部:凹部)から構成されている。
又、この廻り止め部材185には、切り欠き191が設けられており、リード線103はこの切り欠き191を通って保持され、グロメット107に導かれている。
図2と図3のように、この廻り止め手段183(廻り止め部材185と係合部189)はキャリヤ本体39とコア99の間に形成された嵌合部101の周上に設けられており、嵌合部101の近傍に隣接して配置構成されている。
従って、廻り止め手段183と嵌合部101は、一目でこれらを視認することが可能であり、視認性がよい。
更に、廻り止め手段183は、コア99をキャリヤ本体39に嵌合させるとき、コア99を図1と図2の右方に移動させる(嵌合部101の方向に相対移動させる)と、コア99のこの移動に伴って廻り止め部材185が係合部189に係合するように構成されている。
従って、コア99を嵌合させると、廻り止めも同時に完了する。
又、この嵌合工程で、廻り止め部材185と係合部189の位置が合わないと、嵌合作業が行えないから、このことが、誤作業防止機能になり、嵌合のやり直しが防止される。
なお、カップリング1は、図11の矢印191が示すように、トランスファ7とプロペラシャフト19との間に配置してもよい。
この場合、プロペラシャフト19とリヤデフ21との間に配置した場合と同様にして後輪27、29の連結と切り離しとを行う。
又、カップリング1は、矢印193、195が示すように、フロントデフ9と前車軸11、13との間に配置してもよく、又、矢印197が示すように、トランスファ7内のギヤ機構と組み合わせて配置してもよく、更に、矢印199、200が示すように、リヤデフ21と後車軸23、25との間に配置してもよい。
矢印191、193、195の位置に配置した場合は、カップリング1を連結すると車両は四輪駆動状態になり、連結を解除すると、フロントデフ9の差動回転が自由になり、前輪15、17への駆動力伝達が停止されて、車両は二輪駆動状態になる。
又、矢印197の位置に配置した場合は、上記のようにプロペラシャフト19とリヤデフ21との間に配置した場合と同等の機能が得られる。
又、矢印199、200の位置に配置した場合は、カップリング1を連結すると車両は四輪駆動状態になり、連結を解除すると、リヤデフ21の差動回転が自由になり、後輪27、29への駆動力伝達が停止されて、車両は二輪駆動状態になる。
なお、この場合には、トランスファ7に駆動力断続用のクラッチを設ければ、プロペラシャフト19を完全に静止状態に保つことが可能となり、エンジン3の燃費が向上する。
又、図12は、図11の四輪駆動車と異なった構成の動力系を持つ四輪駆動車を示している。
この動力系は、縦置きのエンジン201及びトランスミッション203、トランスファ205、前輪側のプロペラシャフト207、フロントデフ209、前車軸211、213、左右の前輪215、217、後輪側のプロペラシャフト219、リヤデフ221、後車軸223、225、左右の後輪227、229などから構成されている。
エンジン201の駆動力は、トランスミッション203からトランスファ205を介して、それぞれ前輪側と後輪側の各プロペラシャフト207、219を回転させる。
前輪側プロペラシャフト207の回転は、フロントデフ209から前車軸211、213を介して左右の前輪215、217に配分され、後輪側プロペラシャフト219の回転は、カップリング1が連結されると、リヤデフ221から後車軸223、225を介して左右の後輪227、229に配分される。
図5の車両では、カップリング1は、矢印231、233が示すように、トランスファ205と後輪側プロペラシャフト219との間、あるいは、プロペラシャフト219とリヤデフ221との間に配置してもよい。
又、カップリング1は、矢印235、237が示すように、トランスファ205と前輪側プロペラシャフト207との間、あるいは、プロペラシャフト207とフロントデフ209との間に配置してもよい。
図11の動力系と同様に、後輪227、229側に配置した場合は、これらの連結と切り離しとを行い、前輪215、217側に配置した場合は、これらの連結と切り離しとを行う。
又、カップリング1を前輪側に配置した場合、前車軸211、213と前輪215、217との間にハブクラッチ239、241を配置し、これらの連結をカップリング1と連動して解除すれば、カップリング1から前輪215、217までの動力伝達系が、エンジン201の回転と前輪215、217による連れ回りの両方から遮断され、回転が停止して騒音、振動、摩耗などが大きく軽減されると共に、エンジン201の燃費が向上する。
又、カップリング1は、矢印243、245が示すように、フロントデフ209と前車軸211、213との間に配置してもよく、矢印247、249が示すように、リヤデフ221と後車軸223、225との間に配置してもよい。
前車軸211、213上に配置した場合は、カップリング1を連結すると車両は四輪駆動状態になり、連結を解除すると、フロントデフ209の差動回転が自由になり、前輪215、217への駆動力伝達が停止され、車両は二輪駆動状態になる。
又、後車軸223、225上に配置した場合は、カップリング1を連結すると車両は四輪駆動状態になり、連結を解除すると、リヤデフ221の差動回転が自由になり、後輪227、229への駆動力伝達が停止され、車両は二輪駆動状態になる。
こうして、カップリング1が構成されている。
上記のように、カップリング1は、電磁石61のコア99が嵌合部101でキャリヤ本体39に嵌合してセンタリングされ、廻り止め手段183によって廻り止めされていると共に、この廻り止め手段183が嵌合部101の近傍に隣接して設けられている。
又、廻り止め手段183は、コア99をキャリヤ本体39に嵌合させるとき、コア99の移動に伴って廻り止め部材185が係合部189に係合するから、コア99を嵌合させると、廻り止めも同時に完了する。
従って、コアの嵌合と廻り止めとを互いに離れた個所でそれぞれ行う従来例と異なり、コアの嵌合作業と廻り止め作業とを同一の工程で行えるから、組付け性が大きく向上し、作業コストが低減される。
又、廻り止め手段183を嵌合部101の近傍に隣接して配置したことにより、デフキャリヤ37のキャリヤ本体39に廻り止め手段183と嵌合部101の両方を設けることが可能になり、嵌合と廻り止めとを異なった部材上で行う従来例と異なって、組付け性が更に向上し、作業コストが下がると共に、キャリヤ本体39、フロントカバー41の形状の複雑化、大型化を避けることができる。
なお、廻り止め手段183と嵌合部101は、デフキャリヤ37のフロントカバー41に設けてもよい。
又、廻り止めと嵌合のために異なった部材の両方を加工する必要がある従来例と異なって、このように、加工はキャリヤ本体39かフロントカバー41のいずれか一方にだけ行えばよいから、それだけ加工コストが低減される。
又、デフキャリヤ421に嵌合部429と係合孔433の両方を設け、コア427に係合溝431を設けた従来例と異なって、デフキャリヤ37(キャリヤ本体39およびフロントカバー41)とコア99の形状の複雑化、大型化が避けられ、コストが更に低減される。
又、上記のように、嵌合工程で、廻り止め部材185と係合部189の位置が合わないと嵌合作業が行えないから、誤作業が防止される。
又、廻り止め手段183を嵌合部101の近傍に隣接して設けたから、これらが離れている従来例と異なって、視認性が大きく向上し、廻り止めの位置を確認しながら嵌合作業が行える。
この視認性の高さと誤作業防止機能によって、嵌合と廻り止めの両作業を、間違いなく行うことができるから、誤作業によって再嵌合作業を頻繁に行う必要がある従来例と異なって、無駄な作業と、これによる余分なコストとが防止され、組付け性が大きく向上し、作業コストが大幅に低減される。
又、コア99と一体の廻り止め部材185(凸部)とキャリヤ本体39に設けた係合部189(凹部)とで廻り止め手段183を構成したことにより、コア99とキャリヤ本体39とを連結するための連結部材が不要になるから、それだけ部品点数が少なくなり、低コストに構成できる。
なお、凹部をコア99に設け凸部を静止側ケーシングに設けても、あるいは、凸部をコア99に設け凹部を静止側ケーシングに設けてもよい。
又、廻り止め手段183はコア99に溶接するものに限らず、例えば、ピン形状のものをコア外周上に設けた径方向穴に挿入固定し、デフキャリヤ37(キャリヤ本体39またはフロントカバー41)に設けた係合凹部に係合させるものであってもよい。
又、廻り止め手段183はキャリヤ本体39とコア99の間に形成された嵌合部101の周上の一部に構成してもよい。
又、電磁石61のリード線103を廻り止め部材185に係合させて位置を保持し、移動を防止すれば、回転ケース45との干渉を防止して、リード線103を保護することができる。
次に、図4乃至図6及び図11と図12によってカップリング251(本発明の第2実施形態)の説明をする。左右の方向は図11と図12の各四輪駆動車の左右の方向であり、図4と図5の左方はこれらの車両の前方に相当する。
カップリング251は、上記実施形態のカップリング1と同様に、図11と図12の車両の後輪側プロペラシャフト19、219とリヤデフ21、221との間に配置されており、後輪27、29、227、229側の連結と切り離し及び伝達トルクの制御を行う。
以下、カップリング1と同機能部材には同一の符号を与えて引用しながら主に相違点を説明する。
カップリング251は、回転ケース45、インナーシャフト47、メインクラッチ49、コントロールクラッチ51、カムリング53、ボールカム55、プレッシャプレート57、アーマチャ59、リング状の電磁石61、コントローラなどから構成されている。
電磁石61のコア99は、嵌合部101でデフキャリヤ37のキャリヤ本体39に嵌合され、センタリング(径方向の位置決め)されている。
この嵌合部101には、廻り止め手段253が設けられており、コア99を廻り止めし、電磁石61のリード線103やグロメット107の破損を防止している。
図5と図6のように、この廻り止め手段253は、コア99に設けられた凹部255と、キャリヤ本体39に設けられた凹部257と、これらに係合するピン259(係合部材)とで構成されている。
ピン259がこれらの凹部255、257に係合すると、コア99とキャリヤ本体39とが回転方向に連結され、コア99が廻り止めされる。
図5と図6のように、この廻り止め手段253(凹部255、257とピン259)はキャリヤ本体39とコア99の嵌合部101の近傍としての周上にあって、嵌合部101の一部を構成している。
従って、廻り止め手段253と嵌合部101とは、一目で視認することが可能であり、視認性がよい。
更に、廻り止め手段253は、コア99をキャリヤ本体39に嵌合させるとき、例えば、ピン259をキャリヤ本体39の凹部257に差し込んだ状態で、コア99を図4と図5の右方に移動させる(嵌合部101の方向に相対移動させる)と、コア99のこの移動に伴ってコア99の凹部255にピン259が係合して、廻り止め手段253が作動するように構成されている。
このように、コア99の嵌合工程で、廻り止めも同時に完了する。
又、この嵌合工程で、各凹部255、257とピン259の位置が合わないと、嵌合作業が行えないから、このことが誤作業防止機能になり、嵌合のやり直しが防止される。
なお、カップリング251も、第1実施形態のカップリング1と同様に、図11の矢印191、193、195、197、199、200の各位置に配置可能であり、図12の矢印231、233、235、237、243、245、247、249の各位置に配置可能であり、いずれの場合もカップリング1と同等の機能によって、前輪や後輪への駆動力伝達を断続し、伝達される駆動力を制御する。
こうして、カップリング251が構成されている。
上記のように、カップリング251は、電磁石61のコア99をキャリヤ本体39に嵌合する嵌合部101の近傍としての周上の一部に、廻り止め手段253を設けると共に、コア99をキャリヤ本体39に嵌合させる工程で、廻り止めも同時に完了する。
又、廻り止め手段253に、コア99の凹部255とキャリヤ本体39の凹部257とに係合するピン259を用いたことにより、廻り止め手段をコア99とキャリヤ本体39だけで構成する場合と較べて、コア99とキャリヤ本体39の形状と構造が簡単になり、それだけ低コストに実施できる。
これに加えて、カップリング251は、第1実施形態のカップリング1の特徴を除き、これと同等の効果を得る。
次に、図7と図8及び図11と図12によってカップリング301(本発明の第3実施形態)の説明をする。左右の方向は図11と図12の各四輪駆動車の左右の方向であり、図7と図8の左方はこれらの車両の前方に相当する。
カップリング301は、上記各実施形態のカップリング1、251と同様に、図11と図12の車両の後輪側プロペラシャフト19、219とリヤデフ21、221との間に配置されており、後輪27、29、227、229側の連結と切り離し及び伝達トルクの制御を行う。
以下、カップリング1と同機能部材には同一の符号を与えて引用しながら主に相違点を説明する。
カップリング301は、回転ケース45、インナーシャフト47、メインクラッチ49、コントロールクラッチ51、カムリング53、ボールカム55、プレッシャプレート57、アーマチャ59、リング状の電磁石61、コントローラなどから構成されている。
図7のように、デフキャリヤ37のキャリヤ本体39とフロントカバー41はボルト303によって固定されており、固定される前に、キャリヤ本体39とフロントカバー41はノックピン305によって位置決めされ、センタリングされる。
回転ケース45は、前側のロータ67とケース65と後側のフランジ部材307とから構成されている。
前側ロータ67はケース65のねじ部309に螺着され、互いの間に設けられた突き当たり部311によって位置決めされており、更に、ねじ部309に螺着されたナット313により、設計手段としては一般的であるダブルナット機能によって固定されている。
又、ケース65と前側ロータ67との間にはシールリング315が配置され、オイル漏れと、水分や塵のような異物の侵入とを防止している。
ケース65の後端には側壁部317が形成されており、フランジ部材307はこの側壁部317に重ねた状態で、ボルト69によってケース65に固定されている。
又、フランジ部材307と側壁部317は、互いの間に形成されたインロー部319によってセンタリングされている。
フランジ部材307のハブ部321にはドライブピニオンシャフト129がスプライン連結されており、このスプライン連結によって互いにセンタリングされている。
又、トルク伝達部材であるフランジ部材307には、静的強度と衝撃強度とを増すために浸炭処理が施されている。
図7のように、ドライブピニオンシャフト129を支承するアンギュラーコンタクトベアリング131、133のロックナット135は、ケース65の側壁部317とフランジ部材307との間に配置されている。
ロックナット135はフランジ部材307のハブ部321を介して各ベアリング131、133にスラスト力を与え、それぞれの径方向の隙間を適正に調整してセンタリングし、軸方向の移動を規制している。
このように、回転ケース45は、ドライブピニオンシャフト129を介して容量の大きいアンギュラーコンタクトベアリング131、133に支持されていると共に、ロックナット135がフランジ部材353を介して回転ケース45をドライブピニオンシャフト91に固定するから、回転ケース45のスラスト力がベアリング131、133に効果的に負荷され、回転ケース45は径方向と軸方向の両方で適正に、又、強固に位置決めされる。
従って、回転ケース45(カップリング301)は、径方向と軸方向の両方で移動や振動が防止される。
電磁石61のコア99は、フロントカバー41との間に設けられた嵌合部323でフロントカバー41に嵌合され、センタリングされている。又、電磁石61のリード線103は、フロントカバー41に取り付けられたグロメット325を介して外部に引き出されている。
前側ロータ67(回転ケース45)は、両側シールのベアリング327とコア99とを介してフロントカバー41に支承されている。
又、連結軸75はインナーシャフト47に形成され、フロントカバー41から前方に突き出しており、セレーション連結されたコンパニオンフランジ79を介してインナーシャフト47をプロペラシャフト19、219側に連結している。
又、コンパニオンフランジ79に取り付けられたダストカバー121の先端は、フロントカバー41に形成された凹部329に貫入し、コンパニオンフランジ79とフロントカバー41との間を覆って、走行中に飛来する障害物からオイルシール115を保護する。
電磁石61を励磁すると、アーマチャ59によってコントロールクラッチ51が押圧され、ボールカム55によってメインクラッチ49が押圧され、カップリング301が連結される。
カップリング301が連結されると車両は四輪駆動状態になり、悪路などの走破性や車体の安定性が向し、励磁電流によってカップリング301から後輪27、29に伝達されるトルクを調整すると、旋回走行中の車両の操縦性や安定性などが向上する。
又、電磁石61の励磁を停止すると、カップリング301の連結が解除され、車両は二輪駆動状態になる。
上記のように、電磁石61のコア99は、嵌合部323でデフキャリヤ37のフロントカバー41に嵌合され、センタリングされている。
この嵌合部323には、廻り止め手段341が設けられており、フロントカバー41にコア99を廻り止めし、電磁石61のリード線103やグロメット325の破損を防止している。
図7と図8のように、この廻り止め手段341は、フロントカバー41に設けられた凹部343(回転方向の係合部)と、コア99に設けられた凸部345(回転方向の係合部)とで構成されている。
図7のように、この廻り止め手段341(凹部343と凸部345)はフロントカバー41とコア99の間に形成された嵌合部323の近傍としての周上にあって、嵌合部323の一部を構成している。
従って、廻り止め手段341と嵌合部323とは、一目で視認することが可能であり、視認性がよい。
更に、廻り止め手段341は、コア99を嵌合部323でフロントカバー41に嵌合させるとき、コア99を図7と図8の左方に移動させる(嵌合部323の方向に相対移動させる)と、コア99のこの移動に伴って凸部345が凹部343に係合するように構成されている。
従って、コア99を嵌合させると、廻り止めも同時に完了する。
又、この嵌合工程で、凸部345と凹部343の位置が合わないと、嵌合作業が行えないから、この誤作業防止機能によって、嵌合のやり直しが防止される。
又、廻り止め手段341と、コア99のリード線103取り出し部347とは、周上に充分離れて設けられており、互いに干渉しない。
なお、カップリング301も、第1実施形態のカップリング1、251と同様に、図11の矢印191、193、195、197、199、200の各位置に配置可能であり、図12の矢印231、233、235、237、243、245、247、249の各位置に配置可能であり、いずれの場合もカップリング1と同等の機能によって、前輪や後輪への駆動力伝達を断続し、伝達される駆動力を制御する。
こうして、カップリング301が構成されている。
上記のように、カップリング301は、電磁石61のコア99が嵌合部323でフロントカバー41に嵌合し、廻り止め手段341によって廻り止めされており、この廻り止め手段341を嵌合部323の一部に設けたことによって、第1実施形態のカップリング1と同等の効果を得る。
次に、図9と図10によって第4実施形態を説明する。
この実施形態は、第3実施形態のカップリング301において、廻り止め手段341を、廻り止め手段349に変えたものである。
この廻り止め手段349は、フロントカバー41に設けられた凸部351(回転方向の係合部)と、コア99に設けられた凹部353(回転方向の係合部)とで構成されている。
図9のように、この廻り止め手段349(凸部351と凹部353)はフロントカバー41とコア99の間に形成された嵌合部323の近傍としての周上にあって、嵌合部323の一部を構成している。
従って、廻り止め手段349と嵌合部323とは、一目で視認することが可能であり、視認性がよい。
又、廻り止め手段349は、コア99を嵌合部323でフロントカバー41に嵌合させるとき、コア99を図9と図10の左方に移動させる(嵌合部323の方向に相対移動させる)と、コア99のこの移動に伴って凸部351が凹部353に係合するように構成されている。
このように、コア99を嵌合させると、廻り止めも同時に完了するから、極めて組付け性がよい。
これに加えて、第4実施形態は、第3実施形態のカップリング301と同等の効果を得る。
なお、請求項1の発明は、各実施形態のようにカムによってクラッチの連結操作力を増幅するカップリングではなく、電磁石によって操作されるクラッチで一対のトルク伝達部材の連結を断続するカップリングであり、各実施形態と同様の効果を得る。
又、本発明のカップリングは、図11、図12におけるプロペラシャフト19、219上にこれらを分断するように配置し、静止側ケーシングを、ゴム、バネ、粘性ダンパなどを介して車体フレーム側に取り付け、固定してもよい。
又、静止側ケーシング(特に蓋部材)については、プレス成型した板金製のものを用いて軽量化し、更に、波状部のような凹凸部を形成することによって放熱性を向上させることもできる。
又、本発明の各装置において、クラッチは多板クラッチに限らず、他の形式の摩擦クラッチでもよい。
又、本発明の各装置は第1〜第4実施形態で説明したような車両用には限らず、例えば電気自動車のモータ駆動経路断続用の装置や、産業機械用断続装置、搬送設備、巻き上げ装置などに広く適用可能である。