JP4911844B2 - 液晶フィルムの製造方法、光学フィルムおよび液晶表示装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な重合可能な液晶性オキセタン化合物、該液晶性オキセタン化合物を含有する重合性液晶性組成物、該重合性液晶性組成物を用いた液晶フィルムの製造法、該方法により製造した液晶フィルムからなる光学フィルムおよび該光学フィルムを搭載した液晶表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
液晶化合物を光学材料に適用するための研究開発が活発に行われており、すでに実用化されているものも数多くある。液晶化合物を光学材料に適用する場合は、その配向構造を固定化し、実使用条件下で保持させることが必須となる。液晶の配向構造を保持させる方法としては、重合性の液晶化合物を用いる方法、高分子液晶化合物を用いる方法、架橋しうる反応基を有する高分子液晶化合物を用いる方法などが提案されている。
【0003】
架橋しうる反応基を有する高分子液晶化合物を用いる方法としては、特開平11−080081号などに、2個以上のベンゼン環乃至類似の環からなるメソゲン部と炭化水素鎖からなるスペーサー部と両末端乃至片末端に(メタ)アクリレート基などのラジカル重合性の反応性基を有する重合性液晶化合物が挙げられている。この方法では、これらの重合性液晶化合物を加熱融解もしくは溶液として塗布後、必要により乾燥して、配向基板上に液晶層を形成せしめ、加熱などの手段を用いて液晶を配向させた状態で、光照射による重合を行い、その液晶配向を固定化している。しかしながら、この方法は、空気中の酸素による重合阻害作用を抑制しなければならず、不活性ガス雰囲気下で光照射を行うなどの煩雑な操作やそれに伴う装置の改良などが必要となる。また、(メタ)アクリレート基は光や熱により重合しやすいため、合成時に細心の注意が必要となる。
【0004】
高分子液晶化合物を用いる方法としては、例えば特開平11−158258号に開示されているように、配向保持能に優れた液晶性ポリエステルが提案されている。しかしながら、モバイル機器の普及に伴い、これらの液晶性ポリエステルからなる光学フィルムに対して、より厳しい使用環境での配向保持能、より優れた機械的強度が求められている。
【0005】
一方、重合性の反応基を有する高分子液晶化合物を用いる方法としては、例えば特開平9−3454号などでは、高分子主鎖に重合性反応基を導入する方法、側鎖に重合性反応基を有するモノマー単位を導入する方法が提案されているが、これらいずれの方法においても液晶性を低下させるため、機械的強度を十分に高めることができるまでに多量の重合性反応基の導入には限度があり、他の手法が求められている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、(メタ)アクリレート基やエポキシ基のような合成が困難な官能基を含まない重合性の液晶性化合物を提供し、該化合物を用いることにより、不活性ガス雰囲気下での光照射のような煩雑な工程を必要とせず、液晶配向固定化後の配向保持能および機械的強度に優れた光学フィルムを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、合成が容易でありかつ液晶配向性も良好な重合性の液晶性化合物について検討した結果、重合性反応基としてカチオン重合性のオキセタン基を有する重合性の液晶性化合物を見いだし、該重合性の液晶性化合物を液晶配向後、重合してフィルム化することにより、液晶配向固定化後の配向保持能、機械的強度に優れる新たな光学フィルムを開発したものである。
【0008】
すなわち本発明の第1は、下記式(1)で表される液晶性オキセタン化合物に関する。
Z1-(CH2)n-L1-P1-L2-P2-L3-P3-L4-(CH2)m-Z2 (1)
(式(1)中、Z1およびZ2は、それぞれ個別に、下記式(2)〜(4)のいずれかを表し、L1、L2、L3およびL4は、それぞれ個別に、単結合、−O−、−O−CO−、または−CO−O−のいずれかを表し、P1およびP2は、それぞれ個別に、下記式(5)を表し、P3は、単結合または下記式(5)を表し、式(5)中、Xは水素原子、メチル基またはハロゲン原子を表し、nおよびmは、それぞれ0〜8の整数を示す。)
【0009】
【化2】
【0010】
本発明の第2は、本発明の第1において、Z1およびZ2がそれぞれ式(2)で示される基であり、L1およびL4がそれぞれ−O−であり、L2が−CO−O−であり、L3が−O−CO−であり、P1およびP3がそれぞれ1,4−フェニレン基であり、P2が1,4−フェニレン基またはメチル基置換1,4−フェニレン基であることを特徴とする液晶性オキセタン化合物に関する。
【0011】
本発明の第3は、本発明の第1に記載された液晶性オキセタン化合物を少なくとも10質量%以上含有することを特徴とする重合性液晶性組成物に関する。
本発明の第4は、本発明の第3に記載の重合性液晶性組成物において、光カチオン発生剤および/または熱カチオン発生剤を含有することを特徴とする重合性液晶性組成物に関する。
本発明の第5は、本発明の第3または第4に記載された重合性液晶性組成物の層を、配向能を有するフィルム上に形成し、重合性液晶性組成物を配向せしめた後、光および/または熱により重合を行わせしめるることにより前記重合性液晶性組成物の配向を固定化することを特徴とする液晶フィルムの製造方法に関する。
【0012】
本発明の第6は、本発明の第5に記載の方法により製造された液晶フィルムからなる光学フィルムに関する。
本発明の第7は、本発明の第6に記載の光学フィルムが、一軸あるいはねじれ位相差フィルム、コレステリック配向型円偏光反射フィルム、およびネマチックハイブリッド配向型補償フィルムのうちのいずれかの機能を有することを特徴とする光学フィルムに関する。
本発明の第8は、本発明の第6または第7に記載の光学フィルムを少なくとも1枚搭載したことを特徴とする液晶表示装置に関する。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の液晶性オキセタン化合物は、下記式(1)で表される液晶性オキセタン化合物である。
Z1-(CH2)n-L1-P1-L2-P2-L3-P3-L4-(CH2)m-Z2 (1)
上記式(1)中、Z1およびZ2は、それぞれ個別に、下記式(2)〜(4)のいずれかを表し、L1、L2、L3およびL4は、それぞれ個別に、単結合、−O−、−O−CO−、または−CO−O−のいずれかを表し、P1およびP2は、それぞれ個別に、下記式(5)を表し、P3は、単結合または下記式(5)を表し、式(5)中、Xは水素原子、メチル基またはハロゲン原子を表し、nおよびmは、それぞれ0〜8の整数を示す。
【化3】
【0014】
すなわち、本発明の液晶性オキセタン化合物は、芳香族エステルなどからなるメソゲン部分とそれと結合した主に炭化水素鎖からなるスペーサ部分と両末端の反応性のオキセタン基部分を構成単位として含み、液晶性を示すことを特徴とする化合物である。
【0015】
まず、各構成単位から説明する。
本発明では、式(1)において「-L1-P1-L2-P2-L3-P3-L4-」で表されるメソゲン部分は、2個ないし3個の芳香環が1,4−位で直接結合(単結合)、エーテル結合またはエステル結合を介して結合した構造をしており、芳香環には、メチル基や、フッ素原子や塩素原子などのようなハロゲン原子が置換されていてもよい。
【0016】
式(1)において、L1、L2、L3およびL4は、それぞれ独立に、単結合(ここでは、Lで表される基を介さずに直接両側の基が結合する場合をいう。)、−O−、−O−CO−、または−CO−O−のいずれかを表し、P1およびP2は、それぞれ独立に、前記した式(5)を表し、P3は、単結合(ここでは、P3で表される基を介さずに直接両側の基(L3およびL4)が結合する場合をいう。)または前記した式(5)を表す。
前記式(5)の具体例としては、1,4−フェニレン基、メチル基置換1,4−フェニレン基、フッ素置換1,4−フェニレン基、塩素置換1,4−フェニレン基などが挙げられる。
本発明の液晶性オキセタン化合物のメソゲン部分としては、具体的には、下記式で表されるような構造のものが好ましい。
【0017】
【化4】
【0018】
本発明において、式(1)中の「-(CH2)n-」および「-(CH2)m-」で表されるスペーサ部分は、単結合(ここでは、nあるいはmが0の場合をいう。)または炭素数が1〜8の2価の直鎖状炭化水素基である。目的とする化合物が液晶性を持つなら、前述のように直鎖状炭化水素基であるスペーサ部分は存在せずに、メソゲン部分とオキセタン基部分が直接結合(単結合)していてもよい。一般に、スペーサ部分が短すぎると液晶性が発現する温度領域が狭くなる恐れが有り、またスペーサ部分が長すぎても、硬化後のフィルムの耐熱性が悪化する恐れがあるため、スペーサ部分の炭素数は2から6であることが好ましい。
【0019】
反応性のオキセタン部分は、合成の容易さなどから、下記式のいずれかであることが好ましい。
【化5】
【0020】
本発明の液晶性オキセタン化合物の合成法としては、通常の有機化学で用いられる方法を適用することができ、特に限定されるものではない。たとえば、まずオキセタン基部分とスペーサ部分をWilliamsonのエーテル合成などの方法で結合したのち、あらかじめDCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)などの縮合剤を用いるエステル合成法で合成しておいたメソゲン部分と、同様のエステル合成法で結合させる方法や、オキセタン基部分とスペーサ部分を結合させた後、さらにエーテル合成などの方法でカルボキシル基を有する芳香環を1つ結合させ、最後にヒドロキノンとのエステル合成法で、合成する方法などが挙げられる。
【0021】
この際、両末端のオキセタン基部分はカチオン重合性を有するため、強い酸性条件下では、重合や開環などの副反応を起こすことを考慮にいれて、反応条件を選ぶ必要がある。なお、オキセタン基は類似のカチオン重合性官能基であるエポキシ基などと比べて、副反応を起こす可能性が低い。さらに、類似したアルコール、フェノール、カルボン酸などの各種化合物をつぎつぎに反応させることもあり、適宜保護基の活用を考慮してもよい。合成された粗液晶性オキセタン化合物は、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの方法で精製してもよい。特に結晶性がある程度高いものについては、再結晶は有効な手段であり、常温で再結晶が不可能な化合物についても、−20℃などの低温に冷却することで再結晶が可能になることもある。このようにして得られた粗液晶性オキセタン化合物は、主に1H−NMR(核磁気共鳴法)などの分析手段により、同定が可能である。
【0022】
本発明の液晶性オキセタン化合物としては、一般式(1)において、Z1およびZ2がそれぞれ式(2)で示される基であり、L1およびL4がそれぞれ−O−であり、L2が−CO−O−であり、L3が−O−CO−であり、P1およびP3がそれぞれ1,4−フェニレン基であり、P2が1,4−フェニレン基またはメチル基置換1,4−フェニレン基であるものが特に好ましい。
【0023】
つづいて、本発明の液晶性オキセタン化合物を含む重合性液晶性組成物について説明する。
本発明の重合性液晶性組成物は、本発明の液晶性オキセタン化合物を少なくとも10質量%以上、好ましくは30質量%以上含む重合性液晶性組成物である。
本発明において液晶性オキセタン化合物の含有量が10質量%未満では組成物中に占める重合性基濃度が低くなり、重合後の機械的強度が必ずしも不十分にであるなどして好ましくない。
【0024】
本発明の重合性液晶性組成物は、本発明の液晶性オキセタン化合物と、該液晶性オキセタン化合物の液晶性を損なわずに混和し得る種々の化合物からなる。
該液晶性オキセタン化合物に配合できる化合物としては、たとえば、少なくとも1個のオキセタン基を結合した化合物(ただし、本発明の液晶性オキセタン化合物を除く。)、オキセタン基以外のカチオン重合性官能基であるエポキシ基やビニルエーテル基を少なくとも1個以上結合した化合物、フィルム形成能を有する各種の高分子化合物、ネマチック液晶性、コレステリック液晶性やディスコティック液晶性を示す各種の低分子液晶性化合物や高分子液晶性化合物などが挙げられる。さらに本発明の目的を損なわない範囲でフィルム形成能を有する各種高分子を配合することもできる。また、本発明の重合性液晶性組成物にコレステリック液晶性を発現させる目的で、液晶性の有無を問わず各種の光学活性化合物を配合することもできる。これらの中でもカチオン重合性官能基が結合した化合物は、本発明の重合性液晶性組成物を重合させる際に、前記重合性液晶性組成物を構成する液晶性オキセタン化合物と共重合するため好ましい。
【0025】
本発明の重合性液晶性組成物が含有してもよい光カチオン発生剤および/または熱カチオン発生剤(以下、両者を合わせてカチオン発生剤ということがある。
)について説明する。
本発明の重合性液晶性組成物はカチオン重合性のオキセタン基を有する化合物からなるため、その重合(硬化)にはカチオン発生剤の添加が好ましい。これらのカチオン発生剤は、光および/または熱などの外部刺激でカチオンを発生し得る化合物が好ましく、例えばトリクロロメチル基やキノンジアジド基を有する化合物、有機スルフォニウム塩系、ヨードニウム塩系、フォスフォニウム塩等が挙げられる。必要によっては各種の増感剤を併用してもよい。
【0026】
より詳細に説明すれば、本発明で言う光カチオン発生剤とは、適当な波長の光を照射することによりカチオンを発生できる化合物を意味し、有機スルフォニウム塩系、ヨードニウム塩系、フォスフォニウム塩系などを例示することが出来る。これら化合物の対イオンとしては、アンチモネート、フォスフェート、ボレートなどが好ましく用いられる。具体的な化合物としては、Ar3S+SbF6 -、Ar3P+BF4 -、Ar2I+PF6 -(ただし、Arはフェニル基または置換フェニル基を示す。)などが挙げられる。また、スルホン酸エステル類、トリアジン類、ジアゾメタン類、β−ケトスルホン、イミノスルホナート、ベンゾインスルホナートなども用いることができる。
【0027】
また、本発明で言う熱カチオン発生剤とは、適当な温度に加熱されることによりカチオンを発生できる化合物であり、例えば、ベンジルスルホニウム塩類、ベンジルアンモニウム塩類、ベンジルピリジニウム塩類、ベンジルホスホニウム塩類、ヒドラジニウム塩類、カルボン酸エステル類、スルホン酸エステル類、アミンイミド類、五塩化アンチモン−塩化アセチル錯体、ジアリールヨードニウム塩−ジベンジルオキシ銅、ハロゲン化ホウ素−三級アミン付加物、などを挙げることができる。
【0028】
また、ルイス酸などのカチオンを発生する化合物を予め添加した重合性液晶性組成物を調製し、液晶配向形成後、あるいは液晶配向形成と同時にオキセタン基を重合させる方法を採ることも出来るが、液晶配向工程と重合工程を分離できた方が、十分な液晶配向と重合度とを両立できることが多く、実際には以下に示すように熱あるいは光などにより顕在化するカチオン発生剤を用いることがより好ましい。
【0029】
熱カチオン発生剤を用いる場合には、熱カチオン発生剤の活性化温度(通常用いられる指標としては、50%解離温度)よりも低い温度で前記重合性液晶性組成物の配向のため熱処理を行い、ついで本工程において活性化温度以上に加熱することにより、用いた熱カチオン発生剤を解離させ、発生したカチオンによりオキセタン基を反応させることが出来る。この方法のメリットとしては、熱処理設備のみにより液晶配向と重合反応を行うことが出来る点が挙げられる。しかしながら、反面、熱(温度の違い)のみにより配向と重合の工程を分離しているため、配向時に若干重合反応が進行してしまったり、あるいは重合工程においても十分反応が進行しない場合があるなどのデメリットも挙げられる。
【0030】
光カチオン発生剤を用いた場合、液晶配向のための熱処理を暗条件(光カチオン発生剤が解離しない程度の光遮断条件)で行えば、重合性液晶性組成物は配向段階で重合や分解をすることなく、十分な流動性をもって配向することが出来る。この後、適当な波長光を発する光源からの光を照射することによりカチオンを発生させ、重合性液晶性組成物を重合(硬化)させればよい。
【0031】
これらのカチオン発生剤の重合性液晶性組成物中への添加量は、用いる液晶性オキセタン化合物を構成するメソゲン部分やスペーサ部分の構造や、オキセタン基当量、液晶の配向条件などにより異なるため一概には言えないが、液晶性オキセタン化合物に対する質量比にして通常100ppm〜20%、好ましくは1000ppm〜10%、より好ましくは0.2%〜7%、最も好ましくは0.5%〜5%の範囲である。100ppmよりも少ない場合には、発生するカチオンの量が十分でなく重合が進行しないおそれがあり、また20%よりも多い場合には、重合性液晶性組成物の液晶性が低下して液晶の配向が不完全になったり、得られるフィルム中に残存するカチオン発生剤の分解残存物等が多くなり耐光性などが悪化するおそれがあるため、どちらの場合も好ましくない。
前記のカチオン発生剤の中では、光でカチオンを発生しうる光カチオン発生剤は、前記の重合性液晶性組成物が液晶相を発現する任意の温度でカチオンを発生させて重合(硬化)を行うことができるため、特に好ましい。
【0032】
次に、本発明の重合性液晶性組成物を用いた液晶フィルムの製造方法について説明する。液晶フィルム製造の方法としてはこれらに限定されるものではないが、下記方法に示される各工程を踏むことが望ましい。
本発明の重合性液晶性組成物から製造される液晶フィルムは、配向基板上に形成されたままの形態(配向基板/(配向膜)/液晶フィルム)、配向基板とは異なる透明基板フィルム等に液晶フィルムを転写した形態(透明基板フィルム/液晶フィルム)、または液晶フィルムに自己支持性がある場合には液晶フィルム単層形態(液晶フィルム)のいずれの形態であってもよい。
【0033】
本発明に用いることのできる配向基板の例としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、トリアセチルセルロース、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のフィルムおよびこれらフィルムの一軸延伸フィルム等が例示できる。これらフィルムは製造方法によっては改めて配向能を発現させるための処理を行わなくとも本発明の重合性液晶性組成物に対して十分な配向能を示すものもあるが、配向能が不十分、または配向能を示さない等の場合には、必要によりこれらのフィルムを適度な加熱下に延伸する、フィルム面をレーヨン布等で一方向に擦るいわゆるラビング処理を行う、フィルム上にポリイミド、ポリビニルアルコール、シランカップリング剤等の公知の配向剤からなる配向膜を設けてラビング処理を行う、酸化珪素等の斜方蒸着処理、あるいはこれらを適宜組み合わせるなどして配向能を発現させたフィルムを用いても良い。また表面に規則的な微細溝を設けたアルミニウム、鉄、銅などの金属板や各種ガラス板等も配向基板として使用することができる。
【0034】
配向基板として光学的に等方でない、あるいは得られる光学フィルムが最終的に目的とする使用波長領域において不透明な配向基板を使用した場合は、配向基板上で形成された形態から光学的に等方なフィルムや最終的に使用される波長領域において透明な基板上に転写した形態も使用し得る。該転写方法としては、例えば特開平4−57017号公報や特開平5−333313号公報に記載されているように液晶フィルム層を粘・接着剤を介して、配向基板とは異なる他の透明な基板を積層した後に、必要により粘・接着剤に硬化処理を施し、該積層体から配向基板を剥離することで液晶フィルムのみを転写する方法等を挙げることができる。
【0035】
前記透明な基板としては、例えばフジタック(富士写真フィルム(株)製品)、コニカタック(コニカ(株)製品)などのトリアセチルセルロースフィルム、TPXフィルム(三井化学(株)製品)、アートンフィルム(JSR(株)製品)、ゼオネックスフィルム(日本ゼオン(株)製品)、アクリプレンフィルム(三菱レーヨン(株)製品)等が挙げられ、また必要によっては透明な基板として偏光板を使用することもできる。さらに、石英板やガラス板を使用することもある。なお、前記偏光板は保護層の有無を問わず使用することができる。
【0036】
転写に使用される粘・接着剤は光学グレードのものであれば特に制限はなく、例えば、アクリル系、エポキシ樹脂系、エチレン−酢酸ビニル共重合体系、ゴム系、ウレタン系およびこれらの混合物系や、熱硬化型および/または光硬化型、電子線硬化型等の各種反応性のものを挙げることができる。
前記反応性のものの反応(硬化)条件は、粘・接着剤を構成する成分、粘度や反応温度等の条件により変化するため、それぞれに適した条件を選択して行えばよい。例えば、光硬化型の場合は後述の光カチオン発生剤の場合と同様な光源を使用し同様な照射量でよく、電子線硬化型の場合の加速電圧は、通常25kV〜200kV、好ましくは50kV〜100kVである。
【0037】
液晶フィルムは、重合性液晶性組成物を溶融状態で配向基板上に塗布する方法や、重合性液晶性組成物の溶液を配向基板上に塗布する方法等により製造することができる。配向基板上に塗布された塗膜は、乾燥、熱処理(液晶の配向)および光照射および/または加熱処理(重合)を経て、液晶フィルムとなる。
【0038】
重合性液晶性組成物の溶液の調製に用いる溶媒に関しては、本発明の液晶性オキセタン化合物や重合性液晶性組成物を構成する成分等を溶解でき、適当な条件で留去できる溶媒であれば特に制限は無く、一般的にアセトン、メチルエチルケトン、イソホロンなどのケトン類、ブトキシエチルアルコール、ヘキシルオキシエチルアルコール、メトキシ−2−プロパノールなどのエーテルアルコール類、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールエーテル類、酢酸エチル、酢酸メトキシプロピル、乳酸エチルなどのエステル系、フェノール、クロロフェノールなどのフェノール類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系、クロロホルム、テトラクロロエタン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系などやこれらの混合系が好ましく用いられる。また、配向基板上に均一な塗膜を形成するために、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤等を溶液に添加しても良い。さらに、着色を目的として液晶性の発現を妨げない範囲内で二色性染料や通常の染料や顔料等を添加することもできる。
【0039】
塗布方法については、塗膜の均一性が確保される方法であれば、特に限定されることはなく公知の方法を採用することができる。例えば、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、カーテンコート法、スピンコート法などを挙げることができる。塗布の後に、ヒーターや温風吹きつけなどの方法による溶媒除去(乾燥)工程を入れても良い。
【0040】
続いて、必要なら熱処理などにより液晶配向を形成し、光照射および/または加熱処理で重合(硬化)を行う。この加熱処理では、使用した重合性液晶性組成物の液晶相発現温度範囲に加熱することにより、該液晶性組成物が本来有する自己配向能により液晶を配向させる。熱処理の条件としては、用いる重合性液晶性組成物の液晶相挙動温度(転移温度)により最適条件や限界値が異なるため一概には言えないが、通常10〜200℃、好ましくは20〜150℃の範囲である。あまり低温では、液晶の配向が十分に進行しないおそれがあり、また高温では、オキセタン基や基板に悪影響を与えるおそれがある。また、熱処理時間については、通常3秒〜30分、好ましくは10秒〜10分の範囲である。3秒よりも短い熱処理時間では、液晶の配向が十分に完成しないおそれがあり、また30分を超える熱処理時間では、生産性が極端に悪くなるため、どちらの場合も好ましくない。該液晶性組成物が熱処理などにより液晶の配向が完成したのち、そのままの状態で配向基板上の液晶性組成物を重合反応により硬化させる。本発明における重合・硬化工程とは、完成した液晶配向を重合・硬化反応により液晶配向状態を固定化し、より強固な膜に変成することを目的としている。
【0041】
本発明の重合性液晶性組成物はカチオン重合性であるため、重合・硬化には前述のようにしかるべきカチオン発生剤を用いることが好ましい。これらのカチオン発生剤や使用方法などについては、前記の重合性液晶性組成物に関するところで既に説明したとおりである。
【0042】
光カチオン発生剤を用いた場合、カチオンを発生させるためには、適当な波長光を発する光源からの光を照射すればよい。光照射の方法としては、用いる光カチオン発生剤の種類や量により照射波長、照射強度、照射時間等の最適値が異なるが、光カチオン発生剤の吸収波長領域付近にスペクトルを有するようなメタルハライドランプ、高圧水銀灯、低圧水銀灯、キセノンランプ、アークランプ、レーザー、シンクロトロン放射光源などの光源からの光を照射し、光カチオン発生剤を解裂させる。単位面積(1平方センチメートル)当たりの照射量としては、積算照射量として通常1〜2000mJ、好ましくは10〜1000mJの範囲である。ただし、光カチオン発生剤の吸収領域と光源のスペクトルが著しく異なる場合や、あるいは重合性液晶性組成物自身に光源波長の吸収能がある場合などにはこの限りではない。これらの場合には、適当な光増感剤や、あるいは吸収波長の異なる2種以上の光カチオン発生剤を混合して用いるなどの方法を採ることも出来る。
【0043】
以上のような工程により製造した液晶性組成物層(液晶フィルム)は、十分強固な膜になっている。具体的には、硬化反応によりメソゲンが3次元的に結合され、硬化前に比べて耐熱性(液晶配向保持の上限温度)が向上するのみでなく、耐スクラッチ性、耐摩耗性、耐クラック性などの機械的強度に関しても大幅に向上する。本発明は、液晶配向という緻密な配向制御と、熱的・機械的強度の向上という相反する目的を同時に達成できる方法を提供する意味で工業的な意義が大きい。
【0044】
なお、本発明の液晶性オキセタン化合物からなる重合性液晶性組成物は、必要に応じて配合する化合物を適宜選定することにより、その配向構造を制御することができ、ネマチック配向、ねじれネマチック配向、コレステリック配向、ネマチックハイブリッド配向等を固定化した光学フィルムを製造することが可能であり、その配向構造によって種々の用途がある。
【0045】
これらの光学フィルムのなかで、例えばネマチック配向、ねじれネマチック配向を固定化した光学フィルムは位相差フィルムとして機能し、STN型、TN型、OCB型、HAN型等の透過または反射型液晶表示装置の補償板として使用できる。コレステリック配向を固定化した光学フィルムは、輝度向上用の偏光反射フィルム、反射型のカラーフィルター、選択反射能に基因する視角による反射光の色変化を生かした各種の装飾フィルムなどに利用できる。またネマチックハイブリッド配向を固定化したフィルムは、正面から見たときのリターデーションを利用して、位相差フィルムや波長板として利用でき、またリターデーション値の向き(フィルムの傾き)による非対称性を生かしてTN型液晶表示装置の視野角改善フィルムなどに利用できる。また、1/4波長板機能を有する光学フィルムは、偏光板と組み合わせ、反射型の液晶表示装置やEL表示装置の反射防止フィルターとして用いることができる。
【0046】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例で用いた各分析方法は以下の通りである。
【0047】
(1)1H−NMRの測定
化合物を重水素化クロロホルムに溶解し、400MHzの1H−NMR(日本電子社製JNM−GX400)で測定した。
(2)相挙動の観察
相挙動はメトラー社製ホットステージ上で、試料を加熱しつつ、オリンパス光学(株)製BH2偏光顕微鏡で観察した。
相転移温度は、Perkin−Elmer社製示差走査熱量計DSC7により測定した。
相挙動の記載において、Cは結晶相を、Nmはネマチック相を、Isoは等方性液体相を表す。
(3)液晶フィルムのパラメータ測定
ネマチック配向のリタデーション測定は、王子計測器(株)製のKOBRA−20ADHを用いた。
ねじれネマチック構造のねじれ角及びリタデーションは、シンテック(株)製のOptiproを用いて測定した。
【0048】
実施例1(液晶性オキセタン化合物1の合成)
2Lなす形フラスコに3−ヒドロキシメチル−3−エチルオキセタン(東亜合成(株)製、製品名OXT−101)46.3g(0.40mol)、1,4−ジブロモブタン(東京化成(株)製、試薬)250.3g(1.16mol)およびヘキサン275mlを仕込み、2gのテトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド(東京化成(株)製、試薬)を含む、500mlの33%水酸化ナトリウム水溶液を加えて、5時間激しく攪拌した。その後さらに、80℃で1時間加熱還流させた後、500mlの脱イオン水を加え、分液して、水層から160mlのヘキサンで3回抽出した。有機層と抽出層を合わせて、硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶剤を減圧で留去した。得られた透明な液体を減圧蒸留して、109℃/532Paの留分として、3−[(4−ブロモブトキシ)メチル]−3−エチルオキセタン44.5g(0.18mol)を得た(収率44%、1H−NMRにて同定)。
【0049】
300ml三つ口フラスコ中で、p−ヒドロキシ安息香酸エチル5.2g(31mmol)、無水炭酸カリウム4.7g(34mmol)および3−[(4−ブロモブトキシ)メチル]−3−エチルオキセタン7.8g(31mmol)を50mlのジメチルホルムアミドに溶かした。溶液が濁った状態のまま80℃に加熱して4時間攪拌した後、溶媒を減圧で完全に留去した。得られた黄色の油状物質に7%水酸化ナトリウム水溶液15mlとメタノール15mlを加え、2時間半加熱還流した。1規定塩酸を加えてpHを3程度に調節し、析出した白色沈殿を濾過、真空乾燥して、4−[7−(3−エチル−3−オキセタニル)−1,6−ジオキサヘプチル]安息香酸8.6g(28mmol)を得た(収率89%、1H−NMRにて同定)。得られた化合物はこれ以上の精製を行わずに次の反応に用いた。
【0050】
100ml三つ口フラスコに、メタンスルホン酸クロリド1.1g(9.6mmol)、ニトロベンゼン0.1gおよびテトラヒドロフラン10mlを仕込み、氷冷しながら、4−[7−(3−エチル−3−オキセタニル)−1,6−ジオキサヘプチル]安息香酸3.1g(10mmol)をジイソプロピルエチルアミン1.3g(10mmol)と10mlのテトラヒドロフランに溶かした溶液を加えた。常温に戻して2時間攪拌した後、ヒドロキノン0.54g(4.8mmol)を8mlのテトラヒドロフランに溶かした溶液、0.3gのジメチルアミノピリジン、1.0gのトリエチルアミンを加えて、さらに3時間加熱還流した。冷却した後、発生した白色沈殿をメタノールから再結晶して1.9g(2.8mmol)の目的とする液晶性オキセタン化合物1(構造:下式)を得た(収率55%、1H−NMRにて同定)。
【0051】
【化6】
【0052】
得られた液晶性オキセタン化合物1の1H−NMRスペクトルを図1に示す。また、得られた液晶性オキセタン化合物の相挙動および相転移温度は、次の通りであった。
〔液晶相挙動および相転移温度〕
C−65℃−Nm−94℃−Iso
【0053】
実施例2(液晶性オキセタン化合物2の合成)
実施例1と同様にして、粗4−[7−(3−エチル−3−オキセタニル)−1,6−ジオキサヘプチル]安息香酸を合成した。更に、100ml三つ口フラスコに、メタンスルホン酸クロリド1.1g(9.6mmol)、ニトロベンゼン0.1gおよびテトラヒドロフラン10mlを仕込み、氷冷しながら、4−[7−(3−エチル−3−オキセタニル)−1,6−ジオキサヘプチル]安息香酸3.1g(10mmol)をジイソプロピルエチルアミン1.3g(10mmol)と10mlのテトラヒドロフランに溶かした溶液を加えた。常温に戻して2時間攪拌した後、メチルヒドロキノン0.6g(4.8mmol)を8mlのテトラヒドロフランに溶かした溶液、0.3gのジメチルアミノピリジン、1.0gのトリエチルアミンを加えて、さらに3時間加熱還流した。冷却後、反応液に飽和塩化ナトリウム溶液20mlと塩化メチレン50mlを加えて分液を行い、水層から塩化メチレン20mlで2回抽出を行った。有機層と抽出層を合わせて、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧で溶剤を留去して、透明な油状物を得た。この油状物を、ヘキサン−酢酸エチルの混合溶媒(容量比でヘキサン:酢酸エチル=2:1)を展開溶媒としたシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、2.8g(4.0mmol)の目的とする液晶性オキセタン化合物2(構造:下式)を得た(収率83%、1H−NMRにて同定)。
【0054】
【化7】
【0055】
実施例3(液晶性オキセタン化合物3の合成)
300ml三つ口フラスコに、25.4gの2、3−ジヒロドロピラン(東京化成(株)製試薬)、41.4gのp−ヒドロキシ安息香酸(東京化成(株)製試薬)と3.7gのp−トルエンスルフォン酸ピリジニウム塩(東京化成(株)製試薬)を仕込み、20mlの塩化メチレンと80mlの無水エーテルを加えて溶かした。約3時間激しく攪拌して反応させた後、10%水酸化ナトリウム水溶液70mlで3回抽出した。得られた抽出液を1規定塩酸でpH=6になるまで中和して得られた析出物を濾過し、真空で乾燥して、57.4gの粗p−テトラヒドロピラニロキシ安息香酸を得た。
【0056】
メカニカルスターラーと滴下ロートとジムロート冷却管をつけた500ml三つ口フラスコに、5.73gのメタンスルフォニルクロリド、0.6gのニトロベンゼンと20gのテトラヒドロフランを仕込み、氷冷しながら、11.1gの粗p−テトラヒドロピラニロキシ安息香酸を6.46gのジイソプロピルエチルアミンと50gのテトラヒドロフランに溶かした溶液を滴下ロートを通して加えた。氷冷下1時間攪拌したのち、氷冷したまま12.2gのp−オクチロキシフェノール(関東化学(株)製試薬)を6.67gのトリエチルアミンと50gのテトラヒドロフランに溶かした溶液を加え、1時間加熱還流した。反応液を冷却した後、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を1規定塩酸で3回、塩化ナトリウム水溶液で1回洗浄した後、溶剤を減圧で留去した。得られた油状物に20mlのテトラヒドロフランと20mlの1規定塩酸を加え、1時間加熱還流した。反応液に50mlの塩化メチレンを加えて、有機層を分離し、1規定塩酸、塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、濾過して、溶剤を減圧で留去した。得られた粗p−ヒドロキシ安息香酸−p−オクチロキシフェノールエステルを酢酸エチル/ヘキサンから再結晶して、5.13gの粗p−ヒドロキシ安息香酸−p−オクチロキシフェノールエステルを得た。得られた化合物は1H−NMRで同定した。
【0057】
滴下ロートとジムロート冷却管をつけた200ml三つ口フラスコに、東亜合成製3−エチル−3−ヒドロキシメチル−オキセタン(商品名OXT−101)20g、トリエチルアミン17.4g、ジエチルエーテル50mlを仕込み、氷浴で冷却する。メタンスルフォニルクロリド19.7gをジエチルエーテルに溶かして25mlとした溶液を滴下ロートを通してゆっくり加える。氷浴をはずして、1時間攪拌した後、析出したアミン塩を濾過で除き、残りの反応液を減圧で濃縮し、粗メシル酸塩を得た。
【0058】
メカニカルスターラーとジムロート冷却管をつけた200mlの三つ口フラスコに、粗メシル酸塩を入れ、さらにp−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル(東京化成(株)製試薬)23.8g、炭酸カリウム(和光純薬(株)製1級試薬)29.7gを加え、最後にジメチルホルムアミドを加えて総量180mlとした。100℃に加熱して、メカニカルスターラーで4時間攪拌した。反応後室温まで冷却し析出した塩を濾過で除いたのち、減圧で溶剤を留去し、さらに真空で乾燥し、粗エステル体を得た。
【0059】
一方、ジムロート冷却管をつけた200mlなす形フラスコに、粗エステル体と、18.5%水酸化カリウム水溶液50ml(61.4g)を加えて、3時間加熱還流した。反応液を2Lのビーカーに入れた700mlの氷水中に注ぎ透明な溶液とする。この溶液を2Lのビーカーに入れた39%硫酸水素ナトリウム水溶液40ml(65.8g)に攪拌しながら加えた。沈殿が析出するので、その沈殿を濾過して粗p−(3−エチル−3−オキセタニル)−メトキシ安息香酸を得た。この粗結晶を、水/アセトニトリルから再結晶した後、真空乾燥して、29.3gのp−(3−エチル−3−オキセタニル)−メトキシ安息香酸を得た。
【0060】
メカニカルスターラーと滴下ロートとジムロート冷却管をつけた200ml三つ口フラスコに、1.72gのメタンスルフォニルクロリド、0.2gのニトロベンゼンと10mlのテトラヒドロフランを仕込み、氷浴で冷却した。滴下ロートから、3.54gのp−(3−エチル−3−オキセタニル)−メトキシ安息香酸を1.94gのジイソプロピルエチルアミンと20mlのテトラヒドロフランに溶かした溶液をゆっくりと加えた後、氷浴をはずして、1時間攪拌した。さらに、5.13gの粗p−ヒドロキシ安息香酸−p−オクチロキシフェノールエステルを1.82gのトリエチルアミンと20mlのテトラヒドロフランに溶かした溶液を加えて、70℃で1時間加熱攪拌した。反応液を冷却した後、1規定塩酸とジエチルエーテルを加えて分液し、有機層を塩化ナトリウム水溶液で3回洗浄してから、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過した後、減圧で溶剤を留去して白色固体を得た。得られた固体を酢酸エチル/メタノールから再結晶した後、真空で乾燥して、6.1gの液晶性オキセタン化合物3を得た。液晶性オキセタン化合物3(構造:下式)の1H−NMRスペクトルを図2に示す。液晶性オキセタン化合物3の相挙動および相転移温度は、つぎの通りであった。
〔液晶相挙動および相転移温度〕
C−98℃−Nm−137℃−Iso
【0061】
【化8】
【0062】
実施例4(重合性液晶性組成物4の調製)
実施例1で合成した液晶性オキセタン化合物1の1.0gと実施例3で合成した液晶性オキセタン化合物3の1.0gとを10mlの塩化メチレンに溶かして均一とした後、減圧で溶剤を留去して、重合性液晶性組成物4を得た。得られた重合性液晶性組成物4の相挙動および相転移温度は、つぎの通りであった。
〔液晶相挙動および相転移温度〕
C−46℃−Nm−82℃−Iso
【0063】
実施例5(液晶性オキセタン化合物1を用いた液晶フィルムの作成)
実施例1で合成した液晶性オキセタン化合物1の0.25gを2.5mlのシクロヘキサノンに溶かし、暗所でトリアリルスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネート50%プロピレンカーボネート溶液(アルドリッチ社製、試薬)0.02g加えた後、孔径0.45μmのポリテトラフロオロエチレン製フィルターで不溶分を濾過して重合性液晶性組成物の溶液を調製した。
【0064】
この溶液を、表面をレーヨン布によりラビング処理した厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)T−60(東レ(株)製品名)上にスピンコート法を用いて塗布し、塗布後、60℃のホットプレート上で乾燥させた。得られたPETフィルム上の重合性液晶性組成物層を75℃に加熱しながら、空気雰囲気下、高圧水銀ランプにより積算照射量450mJ/cm2の紫外線光を照射した後、冷却して硬化した液晶性組成物層(液晶フィルム)を得た。
【0065】
基板として用いたPETフィルムは大きな複屈折を持ち光学用フィルムとして好ましくないため、得られたフィルムを紫外線硬化型接着剤UV−3400(東亜合成(株)製)を介して、トリアセチルセルロース(TAC)フィルムに転写し光学フィルムaを得た。すなわち、PETフィルム上の硬化した液晶性組成物層の上に、UV−1394を5μm厚となるように塗布し、TACフィルムでラミネートして、TACフィルム側から400mJ/cm2の紫外線光を照射して接着剤を硬化させた後、PETフィルムを剥離し光学フィルムaを得た。
【0066】
得られた光学フィルムaを偏光顕微鏡下で観察すると、ディスクリネーションなどがないモノドメインの均一なネマチック液晶配向が観察され、そのリタデーション(複屈折と液晶性組成物層厚みとの積)は115nmであった。さらに光学フィルムaの液晶性組成物層部分のみをかきとり、DSCを用いてガラス転移点(Tg)を測定したところ、Tgは105℃であった。また光学フィルムaの液晶性組成物層表面の鉛筆硬度は2H程度であり、充分に強固な膜が得られた。このように、液晶性オキセタン化合物1を用いることで、良好な液晶配向性を有し、液晶配向固定化後の熱安定性と強度に優れたフィルムが作成できることがわかった。
【0067】
実施例6(重合性液晶性組成物4を用いた液晶フィルムの作成)
実施例4で調製した重合性液晶性組成物4の0.25gを2.5mlのトリエチレングリコールジメチルエーテルに溶かし、暗所でトリアリルスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネート50%プロピレンカーボネート溶液(アルドリッチ社製、試薬)0.02g加えた後、孔径0.45μmのポリテトラフロオロエチレン製フィルターで不溶分を濾過して重合性液晶性組成物の溶液を調製した。
【0068】
この溶液を用いて、実施例5と同様の方法を用いて光学フィルムcを作成した。得られた光学フィルムcを偏光顕微鏡下で観察すると、ディスクリネーションなどがないモノドメインの均一なネマチック液晶配向が観察された。得られた光学フィルムcは、正面から見たとき一軸性のネマチック配向と同様、120nmのリターデーションを有していたが、ラビング方向に沿って斜めから観察したとき、見かけのリターデーションは傾ける方向により異なる値を示し、液晶性組成物層が厚み方向で配向の傾きを変えたハイブリッド配向していることがわかった。図5のような配置で、KOBRA−20ADHを用いて、リタデーション測定を行った結果を図4に示す。さらに光学フィルムcの液晶性組成物層部分のみをかきとり、DSCを用いてガラス転移点(Tg)を測定したところ、Tgは100℃であった。また光学フィルムcの液晶性組成物層表面の鉛筆硬度は2H程度であり、充分に強固な膜が得られた。このように、重合性液晶性組成物4を用いることで、良好な液晶配向性を有し、液晶配向固定化後の熱安定性と強度に優れたハイブリッド配向フィルムが作成できることがわかった。
【0069】
比較例1(液晶性アクリレート化合物5を用いた液晶フィルムの作成)
実施例5で示したのと同じ方法で、液晶性オキセタン化合物1の代わりに液晶性アクリレート化合物5(構造式:下記;Makromol.Chem.,190,2255-2268(1989)に記載された方法に従って合成した。)を、またトリアリルスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネート50%プロピレンカーボネート溶液(アルドリッチ社製、試薬)の代わりに、光重合開始剤イルガキュア−651(チバガイギー社製、商品名)を用いて、同様に光学フィルムの作成を試みた。
【0070】
【化9】
【0071】
空気雰囲気下、高圧水銀ランプにより積算照射量450mJ/cm2の紫外線光を照射した後も、液晶組成物層の十分な硬化が進行しなかったようで、充分に機械的強度のあるフィルムは得られなかった。
【0072】
実施例7
実施例5で作成したリタデーション115nmの光学フィルムaと、液晶性組成物層の厚みを変えて同様に作成したリタデーション265nmの光学フィルムbを、ノンキャリア粘着剤を用いて、その遅相軸が65°の角度をなすように貼りあわせて広帯域λ/4板とし、偏光板と広帯域λ/4板と反射板を有するTFT−TN型液晶セルを組み合わせて、図3に示す配置で液晶表示装置を作成した。その結果、コントラスト比(CR)=8の良好な白黒表示が得られることがわかった。視野角は、通常用いられているArtonフィルム(JSR(株)商品名)から成る広帯域λ/4板を用いた液晶表示装置と比較して、ほとんど変わらなかった。また、該光学フィルムを用いなかった場合、どのように配置してもコントラストが高い表示は得られなかった。
【0073】
【発明の効果】
本発明の液晶性オキセタン化合物とそれを含む重合性液晶性組成物は、配向性が良好であり、該液晶性組成物を硬化することで得られる液晶フィルムおよび光学フィルムは、耐熱性(高ガラス転移点)および硬度が高く、機械的強度に優れ、各種の液晶表示装置用の位相差フィルム等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得られた液晶性オキセタン化合物1のNMRスペクトル図である。
【図2】実施例3で得られた液晶性オキセタン化合物3のNMRスペクトル図である。
【図3】実施例7で用いた液晶表示装置の各軸の配置を含めた斜視図である。
【図4】実施例6で行ったリタデーション測定の結果を示す。
【図5】実施例6で行ったリタデーション測定のための配置図である。
【符号の説明】
1:上偏光板(矢印は吸収軸方向を示す)
2:光学フィルムb(矢印は遅相軸方向(ラビング方向)を示す)
3:光学フィルムa(矢印は遅相軸方向(ラビング方向)を示す)
4:反射板付左ねじれTNセル
41:TNセル上側ラビング方向
42:TNセル下側ラビング方向
43:反射板
Claims (4)
- 下記式(1)で表される液晶性オキセタン化合物を少なくとも10質量%以上含有し、かつ光カチオン発生剤および/または熱カチオン発生剤を含有する重合性液晶性組成物の層を、配向能を有するフィルム上に形成し、重合性液晶性組成物を配向せしめた後、光および/または熱により重合を行わせしめることにより前記重合性液晶性組成物の配向を固定化することを特徴とする液晶フィルムの製造方法。
Z1-(CH2)n-L1-P1-L2-P2-L3-P3-L4-(CH2)m-Z2 (1)
(式(1)中、Z1およびZ2はそれぞれ下記式(2)で示される基であり、L1およびL4がそれぞれ−O−であり、L2が−CO−O−であり、L3が−O−CO−であり、P1およびP3はそれぞれ1,4−フェニレン基であり、P2が1,4−フェニレン基またはメチル基置換1,4−フェニレン基であり、nおよびmは、それぞれ1〜8の整数を示す。)
- 請求項1に記載の方法により製造された液晶フィルムからなる光学フィルム。
- 前記光学フィルムが、一軸あるいはねじれ位相差フィルム、コレステリック配向型円偏光反射フィルム、およびネマチックハイブリッド配向型補償フィルムのうちのいずれかの機能を有することを特徴とする請求項2に記載の光学フィルム。
- 請求項2または3に記載の光学フィルムを少なくとも1枚搭載したことを特徴とする液晶表示装置。
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