JP4895383B2 - 充填度検査装置及び充填度検査方法 - Google Patents

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Description

本発明は、高速道路等の橋梁等のコンクリート構造体の内部に設置されている鋼材を用いたシース管のグラウトの充填度を検査するための充填度検査装置及び充填度検査方法に関し、特にコンクリートをはつることなくシース管内のグラウトの充填度を正確に検査することができる技術に関する。
高速道路等の橋梁内部には、橋梁にプレストレスを加えるためのシース管が設けられている。このシース管内には緊張材であるPC鋼線やPC鋼棒等(プレストレスを与えるために使用するPC鋼材)が設けられている。このようなシース管のPC鋼線やPC鋼棒等は、シース管内に空洞があると腐食してしまうため、シース管内に腐食を防ぐためのグラウトが充填されている。
しかし、施工不良等のため、シース管内部に空洞や気泡が残って(以下、「グラウト未充填」と称する)、PC鋼線やPC鋼棒等が腐食すると、PC鋼線やPC鋼棒により与えられていたプレストレス力が設計通りに機能しなくなり、橋梁の耐久性が低下する虞がある。シース管内部のグラウト未充填の状態は、既に建設された橋梁等でも見受けられるため、橋梁を破壊することなく、グラウト未充填箇所の検査が可能な非破壊検査技術(シース管内グラウト充填度検査装置及び方法)が求められている。
図18は従来のシース管内グラウトの充填度検査装置200の原理を示す模式図、図19は同充填度検査装置200で検出した結果を示すグラフ、図20は同充填度検査装置200での橋梁検査の一例を示す説明図である。図中Eは弾性波の伝播を示している。なお、図18において、説明の便宜上シース管220及び220Aは並べて示している。
図18に示すように、シース管内グラウトの充填度検査を行う場合の試験体は、コンクリート210に埋め込まれたシース管220と、シース管220に設けられ端部がコンクリート210から露出している鋼棒221と、シース管220と鋼棒221の間に充填されたグラウト222とを有する。
なお、同充填度検査の説明の便宜上、正常に充填されたシース管220の他に、グラウト222が充填されていないシース管220Aも図18に示す。
図18に示すように、充填度検査装置200は、鋼棒221の端部に衝撃を印加するための例えばハンマや鋼球等の衝撃印加器230と、この衝撃印加器230による衝撃印加点の近傍であり、かつ、シース管220、220A端部の近傍に設けられたトリガ波形受信用センサ240と、トリガ波形受信用センサ240を設置した側のシース管220、220A端部とは他方のシース管220、220A端部の中央部に設けられた伝播波形受信用センサ250と、伝播波形受信用センサ250に接続されたフィルタ260と、フィルタ260に接続された増幅器270と、増幅器270に接続された例えばオシロスコープ等であり第1CH281及び第2CH282を有する検出器280とを備えている。
トリガ波形受信用センサ240は第1CH281に接続されており、また、伝播波形受信用センサ250は第2CH282に接続されている。
このように構成されたシース管内グラウト充填度検査装置200では、まず、衝撃印加器230により鋼棒221に衝撃が印加される。このとき、トリガ波形を衝撃印加点近くに設けられたトリガ波形受信用センサ240により受信する。鋼棒221に衝撃が印加されることにより、鋼棒221中を弾性波の伝播Eが発生する。このように伝播された弾性波(伝播波形)を伝播波形受信センサ250により受信する。
トリガ波形は検出器280の第1CH281で検出される。一方、伝播波形はフィルタ260と増幅器270を介することによりノイズが除去され、波形が増幅されるため、SN比が向上される。そして、SN比が良好な状態の伝播波形が検出器280の第2CH282で検出される。このようにトリガ波形と伝播波形とを検出する。
図19では、検出器280で検出されたトリガ波形は上側に示し、伝播波形は下側に示している。伝播波形は時間Toから検出されるため、トリガ波形が検出されてから伝播波形が時間Toで検出されるまでの時間を伝播時間Tとする。さらに、鋼棒の長さをLとすると、伝播する波形の伝播速度Vは、
V=L/T
で求められる。
ここで、グラウトの充填率と伝播速度との関係は、グラウトの充填率が大きくなるほど伝播速度は遅くなる。すなわち、グラウトが充填されている場合の伝播速度Vjは、グラウトが未充填の場合の伝播速度Vmより遅い。例えば、グラウトが全く充填されていない場合の伝播速度Vmを5500m/sとすると、グラウトが完全に充填されている場合の伝播速度Vjは5225m/sとなる。したがって、グラウトが充填されたシース管220とグラウトが未充填のシース管220Aとの伝播速度の差は大体5〜8%程度となる。
グラウト充填・未充填による伝播速度の差5〜8%程度を基準として、実際の橋梁に用いられているシース管の検査を行い、橋梁に用いられているシース管の検査結果と、伝播速度の差5〜8%とを比較することにより、シース管にグラウトが充填されているか未充填かを判断することが出来る。
また、受信した波形の減衰定数を求めるシース管内グラウト充填度検査方法も知られている(例えば特許文献1参照)。この検査方法は、グラウトが充填されている場合は、減衰定数は大きいが、グラウトが未充填の場合は減衰定数が小さいという特性から、この減衰定数の大小をグラウトの充填・未充填の判別に用いる。ここで、減衰定数は図19に示す伝播波形の振動継続時間に対応しており、減衰定数が小さい場合は、伝播波形の振動減衰時間は長くなり、減衰定数が大きい場合は、伝播波形の振動減衰時間は短くなる。このように、振動減衰時間(減衰定数)により、グラウトの充填・未充填を判断する検査を行う方法である。
上述したような、伝播速度を比較する方法と、伝播波形の減衰定数を求める方法とが、シース管内グラウト充填度検査方法の主流となっている。実際の橋梁でこれらの検査方法を行う場合は、図20に示すように、コンクリート210の一部210Aをはつり、鋼棒221をコンクリート210表面に露出させる。露出した鋼棒221に衝撃印加器230で直接衝撃を印加し、衝撃印加により発生した伝播波形を伝播波形用受信センサ250で受信することにより検査する。
特開2000−105227号公報
上述したシース管内グラウト充填度検査方法では、次のような問題があった。すなわち、伝播速度を比較する方法では、実際の橋梁での検査で鋼棒の長さLが正確に分からない場合があり、また、衝撃印加器による衝撃エネルギが比較的小さいため、伝播波形とノイズの識別が難しい。さらに、伝播速度Vmと伝播速度Vjとの差はわずか5〜8%であり、計測精度が要求される。これらのことにより、誤差が発生し、正確な検査ができない虞がある。
また、減衰定数を求める方法では、伝播する種類の波形には様々なモード波等があり、現在どのモード波であるのかを測定者が把握していないと誤った判定をしてしまう可能性がある。しかも、どのモード波を使用しているのかは現場で判断するのが困難である。また、これらの検査方法では絶対的な評価ができないということもある。
さらに、上記いずれの検査方法でも、コンクリートをはつり、シース管端部を露出させる必要があるため、検査に必要なコストと時間とが必要となり、検査後の補修も必要である。補修状態によっては、経年劣化等により、雨水等がシース管まで浸透する可能性もある。
図21はシース管220に鋼線(PC鋼線)223を用いた従来の充填度検査装置200による検査方法の一例を示す説明図である。図21に示すように、シース管220に用いられているPC鋼材が鋼線223であると、形状、使用本数の関係から、他の鋼線223に干渉しないように、衝撃印加器230の大きさを小さくしなければならない。しかし、衝撃印加器230を小さくすると、衝撃も小さくなってしまうため、SN比が悪くなり、検査精度が低下してしまう。さらに、鋼材径が7mm程度の細い鋼材を用いた場合には、上記検査方法を適用するのが原理的に難しいという問題があった。
そこで本発明は、コンクリートをはつらなくてもシース管内のグラウトの充填度を正確に検査することができるシース管内グラウト充填度検査装置及びシース管内グラウト充填度検査方法を提供することを目的としている。
前記課題を解決し目的を達成するために、本発明の充填度検査装置及び充填度検査方法は次のように構成されている。
コンクリート構造体内部に設置され、鋼材を有するシース管のグラウトの充填度を検査する充填度検査装置において、上記シース管の一方の端部に対向する上記コンクリート表面に衝撃を与える衝撃印加手段と、上記シース管の他方の端部に対向する上記コンクリート表面に設けられ、上記衝撃によって上記シース管内に発生した振動を伝播波形として検出する伝播波形受信用センサと、上記伝播波形に基づいてゼロクロス時間を算出するゼロクロス時間算出手段と、算出されたゼロクロス時間に基づいてゼロクロス周波数を算出するゼロクロス周波数算出手段と、算出されたゼロクロス周波数を規格化してゼロクロス周波数規格化値を算出するゼロクロス周波数規格化値算出手段と、算出されたゼロクロス周波数規格化値に基づいて上記グラウトの充填度を判別する判別手段とを備えていることを特徴とする。
コンクリート構造体内部に設置され、鋼材を有するシース管のグラウトの充填度を検査する充填度検査方法において、上記シース管の一方の端部に対向する上記コンクリート表面に衝撃を与える衝撃印加工程と、上記シース管の他方の端部に対向する上記コンクリート表面に設けられ、上記衝撃によって上記シース管内に発生した振動を伝播波形として検出する伝播波形受信工程と、上記伝播波形に基づいてゼロクロス時間を算出するゼロクロス時間算出工程と、算出されたゼロクロス時間に基づいてゼロクロス周波数を算出するゼロクロス周波数算出工程と、算出されたゼロクロス周波数を規格化してゼロクロス周波数規格化値を算出するゼロクロス周波数規格化値算出工程と、算出されたゼロクロス周波数規格化値に基づいて上記グラウトの充填度を判別する判別工程とを備えていることを特徴とする。
本発明によれば、コンクリートをはつらなくてもシース管内のグラウトの充填度を正確に検査することが可能となり、はつり及びはつり後の補修等の行程が減少し、これにより測定にかかる費用が大幅に低減され、測定効率が向上する。また、はつり後の補修等による雨水等の侵入を防止できる。
さらに、PC鋼材の長さ、材質及び鋼線・鋼棒等による影響を受けずに検査することができる。
また、充填未充填の判断は受信した波形を目視するのみの判断、又は、自動判定が可能であり、測定者によるばらつきの発生を抑制し、さらに、測定用治具により測定が効率的となる。
図1は本発明の一実施の形態に係るシース管内グラウトの充填度検査装置1を示す模式図、図2は同充填度検査装置1の打撃用治具10を示す模式図、図3は同打撃用治具10の正面図、図4は本充填度検査装置1におけるグラウト充填の検査データの一例を示すグラフ、図5はグラウト未充填の検査データの一例を示すグラフ、図6は充填度検査装置1の検査工程を示すフローチャート、図7は本発明の衝撃の伝播状態を示す説明図である。なお、図7中Dは打撃により発生する弾性波を模式的に示している。
充填度検査装置1による検査対象は、例えば高速道路(コンクリート構造体)100の橋梁の内部に設けられたシース管90である。シース管90は、内部に例えば鋼線91が複数設けられており、鋼線91が腐食しないようにグラウト92が充填されている。このようなシース管90において、グラウト92の未充填を判別するものである。シース管内部には上記した鋼線91より径が大きい鋼棒が用いられる場合もあるが本実施例では鋼線の場合で説明を実施する。
図1に示すように、シース管内グラウト充填度検査装置1は、シース管90の端部中央部に対向する位置のコンクリート101の表面に接合された打撃用治具10と、打撃用治具10に衝撃を印加可能に設けられた衝撃印加器20と、打撃用治具10の近傍に設けられたトリガ波形受信用センサ30と、打撃用治具10を設置したシース管90端部側とは他方のシース管90端部に対向するコンクリート101の表面に設けられた伝播波形受信用センサ40と、トリガ波形受信用センサ30及び伝播波形受信用センサ40に接続された例えばオシロスコープ等の検出器(判別手段)50とを備えている。
図2及び図3に示すように、打撃用治具10は、衝撃印加器20により衝撃が印加される正方形の打撃用金属板11と、打撃用金属板11をコンクリート101表面に支持できるよう端部3箇所に設けられた支持アーム12と、支持アーム12の先端であり、コンクリート101表面に吸着可能に設けられた吸盤13とを有している。また、コンクリート101表面と打撃用治具10との間には、粘着性を有し、かつ、係合している面へ弾性波を効率よく入射できる性質を有する粘着性媒体60が設けられている。この粘着性媒体60の、一方の面はコンクリート101表面へ接着又は接合され、他方の面は打撃用治具10の打撃用金属板11に接合されている。
伝播波形受信用センサ40と検出器50との間には、伝播波形受信用センサ40で受信した伝播波形のノイズを除去させるためのフィルタ70と、伝播波形を増幅させる増幅器80とが接続されている。これによりSN比が向上する。
検出器50は、トリガ波形を検出する第1CH51と、伝播波形を検出する第2CH52とを有しており、トリガ波形と伝播波形を比較することが可能となっている。さらに、検出器50は検出した波形に基づいて後述するような処理を行って充填・未充填を判別する。また、検出器50は判別結果を表示するだけではなく、検出した波形を処理した結果をグラフとして表示することで、作業者が充填度を判断することが可能に構成されている。
このように構成されたシース管内グラウト充填度検査装置1では次のような原理に基づいて充填度検査を行う。すなわち、打撃用治具10の打撃用金属板11に衝撃印加器20で衝撃を印加することで、衝撃印加により発生した弾性波は、コンクリート101内面を伝播し、シース管90の鋼線91へ伝播される。このとき、トリガ波形受信用センサ30で衝撃印加時のトリガ波形を受信し、受信したトリガ波形を検出器50の第1CH51で検出する。
伝播波形受信用センサ40では、鋼線91を伝播してきた伝播波形を受信し、受信した伝播波形を、フィルタ70を通しノイズを除去し、増幅器80で伝播波形を増幅させ、伝播波形を検出器50の第2CH52で検出する。
シース管90のグラウト92が充填されている場合は、図4に示すように、伝播波形が到達した時間Toを計測できる。これに対し、シース管90のグラウト92が未充填の場合には、図5に示すように、伝播波形が到着した時間To近傍の伝播波形が高い周波数を示している。すなわち、グラウト92が充填されている場合と未充填の場合では、伝播波形に明らかな相違が発生することから、この相違を解析することで、シース管90のグラウト92の充填・未充填が判断できる。
次に、図6のフローチャートを用いて、シース管内グラウト充填度検査手法の説明を行う。なお、説明の便宜上、グラウト充填・未充填の一例として用いるグラフは、必ずしも同一のデータを用いているものではない。
高速道路100の橋梁内部に設けられたシース管90の端部の中央に相当するコンクリート101表面に粘着性媒体60を塗布する。次に、打撃用治具10をコンクリート101表面に、コンクリート101表面に塗布された粘着性媒体60と、打撃用治具10に設けられた吸盤13とにより設置する。さらに、打撃用治具10の近傍のコンクリート101表面にトリガ波形受信センサ30を設置する(第1工程P1)。
図1に示すように、打撃用治具10を設置したシース管90端部とは他方の、シース管90端部の中央部に相当するコンクリート101表面に伝播波形受信用センサ40を取り付ける(第2工程P2)。
衝撃印加器20で打撃用治具10の打撃用金属板11に衝撃を印加する(第3工程P3)。例えば、衝撃印加器20は人力でハンマを使用するものでもよい。打撃用治具10に加わった衝撃は、粘着性媒体60を介してコンクリート101へと入射される。図7に示すように、衝撃印加によりコンクリート101へ入射された弾性波Dは放射状に広がりシース管90へと伝わる。弾性波Dにより、後述するあらたな振動波がシース管90内部で発生し、衝撃印加側と対向したコンクリート101表面側、すなわち、伝播波形受信センサ40へと伝播される。
第3工程P3で伝播波形受信センサ40へ鋼線91内を伝播した弾性波(伝播波形)を伝播波形受信センサ40で受信し、フィルタ70、増幅器80を介して伝播波形を検出器50の第2CH52で検出させる。また、衝撃印加時のトリガ波形をトリガ波形受信センサ30で受信し、検出器50の第1CH51で検出させる(第4工程P4)。
検出した伝播波形のゼロクロス時間Zn(n=1,2,3,…)を求める(第5工程P5)。図8はゼロクロス時間の説明を示すグラフである。伝播波形のゼロクロス時間Znとは、図8に示すように、時間軸上で、伝播波形の振幅がマイナスからプラスに移行する間の、伝播波形の振幅値が0の位置での時間のことであり、伝播波形が到達した時間Toをゼロクロス時間Z0とする。伝播波形が到達した時間Toから最も時間が近いゼロクロス時間ZnをZ1とし、それ以降のゼロクロス時間をZ2、Z3、Z4、…と定義する。
図9はゼロクロス時間Znを説明する一例を示している。図9に示すように、ゼロクロス時間Znが9個検出され、伝播波形が到達した時間ToをZ0とし、順次Z1、Z2、Z3、…、Z9とした。図9に示す伝播波形は、図5に示すシース管90のグラウト92が未充填の伝播波形であり、ゼロクロス時間Z0近傍のゼロクロス時間Z1〜Z6までが高い周波数となっている。
第5工程P5にて算出されたゼロクロス時間Znを基に、ゼロクロス周波数fzn(n=1,2,3,…)を算出する(第6工程P6)。
まずゼロクロス周期Tzn(n=1,2,3,…)を、
Tzn=Zn−Z(n−1)
から求める。ゼロクロス周期Tznは隣り合うゼロクロス時間の差を示している。
次にゼロクロス周期Tznからゼロクロス周波数fznを求めると、
fzn=1/Tzn
となる。
図10はゼロクロス周波数fznの一例を示すグラフである。ここで、グラウト92が未充填の伝播波形のゼロクロス周波数をfazn(n=1,2,3,…)、グラウト92が充填された伝播波形のゼロクロス周波数をfbzn(n=1,2,3,…)とする。また、図10のグラフの縦軸は最大値を1と規格化したゼロクロス周波数fznを、横軸はゼロクロス時間Znの変数nを示している。
図10に示すように、変数nが1〜7の間で、ゼロクロス周波数faznはゼロクロス周波数fbznより約9〜10倍高い周波数を示している。このように、シース管90にグラウト92が未充填の場合のゼロクロス周波数faznはグラウト92が充填されたゼロクロス周波数fbznよりも高い周波数を示すため、ゼロクロス周波数fznを検出・解析することにより、容易にシース管90のグラウト92の充填・未充填を判定することが可能となる。
第6工程までは、測定者等により人為的に検査結果を判定する場合であり、これ以降は例えばパーソナルコンピュータ等により、検査結果を自動判定させるために必要なデータを算出する算出方法を述べる。図10のグラフに示す検査結果では、変数nが7から8へ移行するとき、ゼロクロス周波数fznは大きく変化している。この図10のグラフを検出器50に表示させることで、作業者が充填・未充填を判断してもよい。
さらに、自動的に解析する場合には、このような変化について規格化を行い、グラウト92の充填・未充填を判断する。
図10に示しているゼロクロス周波数faznの隣り合うfazn(n=1,2)、(n=2,3)、…の差分の絶対値FFazn(n=1,2,3,…)を、
FFazn=|faz(n)−faz(n−1)|
と算出し、同様にゼロクロス周波数fbznの隣り合うfbzn(n=1,2)、(n=2,3)、…の差分の絶対値FFbzn(n=1,2,3,…)を、
FFbzn=|fbz(n)−fbz(n−1)|
と算出する。
図11は規格化されたFFzn(n=1,2,3,…)を示すグラフである。ここで、FFznは最大値を1として規格化されており、グラフの縦軸にこの差分の絶対値FFznを、横軸にはゼロクロス時間Zn等の変数nを示している。グラウト92が未充填時の伝播波形の、ゼロクロス周波数の隣り合う差分faznの絶対値FFazn、及び、グラウト92が充填された伝播波形のゼロクロス周波数の隣り合う差分fbznの絶対値FFbznをグラフに入力する(第7工程P7)。
図11では充填時と未充填時の比較をしているが、実際にシース管90を検査した場合には、検査グラウト92の充填度検査時に検出した伝播波形のゼロクロス周波数fznの差分の絶対値FFznを算出して、図11に示すグラフへと検査情報を入力する。
図11に示す例では、変数nが7の場合で、グラウト92が未充填時のときのFFazn(n=7)の値が、他の値より9〜10倍程度大きいことが判断できる。また、グラウト92が充填されているときのFFbznの値はほとんど変化がないことが判断できる。
第7工程P7においてグラフ化された図11に、例えば実験等で充填及び未充填の境目の値FFoを設定する。第7工程P7にて算出されたFFznの値が設定値FFoを超えている場合には、計測したシース管90内のグラウト92は未充填であると判断する。また、設定値FFoを超えていない場合は計測したシース管90内のグラウト92は充填していると判断する。(第8工程P8)このように、図10から図11に座標変換することにより、容易に判定が可能となる。
なお、座標変換ではなく、図10のfazn及びfbznそれぞれの面積を求め、面積が大きい場合はグラウト92が未充填であると判断する手法でもよい。
次に、シース管90に設けられたグラウト92が未充填の場合に、伝播受信用センサ40で受信する波形が、衝撃印加により発生する弾性波の周波数より高い周波数の波形となる理由を説明する。図12は衝撃を印加したときのコンクリート101及びシース管90(未充填時)の弾性波の伝播を示す説明図である。図12中Dは弾性波を、Kは鋼線91の振動(鋼線振動)を、Sはシース管90の振動(シース管振動)を、Tはコンクリート101内を伝播する弾性波を、Uは後述する現象により発生した弾性波を示す。また、図12に示すシース管90は説明の便宜上、グラウト充填部94とグラウト未充填部95とを明白に表し、さらに、鋼線91の本数は実際のシース管とは異なる可能性のある4本とした。
図12に示すように、打撃用治具10に衝撃印加器20により衝撃が与えられる。この衝撃は弾性波Dとなり、コンクリート内部に入射される。入射された弾性波Dはコンクリート101内を伝播する弾性波Tと、コンクリート101内からシース管90を振動させる弾性波とに分れる。
シース管90の長さはシース管90の直径に比べて約220倍(例えばシース管90直径φ=45mm、長さ=10mの場合)と大きいため、シース管振動Sのようにシース管90が振動することで、シース管90内部に気柱共鳴が発生する。この気柱共鳴は、シース管90のグラウト未充填部95で発生し鋼線91を振動させる。鋼線91は、音叉の共鳴現象のように、それぞれの鋼線91で、順次鋼線振動Kが発生する。このとき、鋼線91はお互いに振動を増幅させるため、振動周波数が高くなっていく。この高くなった振動周波数の弾性波Uが鋼線91内を伝播し、さらにコンクリート101を伝播して伝播波形受信用センサ40にて受信される。
このように、シース管90がグラウト未充填部95を有すると、衝撃印加により発生する弾性波領域の周波数より高い周波数の波形が発生する。この高い周波数の弾性波Uが伝播波形受信用センサ40に受信された後、コンクリート101内を伝播した弾性波Tが伝播波形受信用センサ40に受信される。このため、図5や図9に示されるように、グラウト92が未充填の(シース管90がグラウト未充填部95を有する)場合に、伝播波形が到達した時間To近傍で高い周波数の伝播波形が検出され、グラウト92が充填されている(シース管90がグラウト未充填部95を有さない)場合には高い周波数の伝播波形は観測されない。
なお、説明の便宜上鋼線91を有するシース管90で説明をしたが、鋼線91だけではなく鋼棒でも同様の作用が発生するため、本発明によるシース管内グラウト充填度検査装置1を用いることで、鋼棒又は鋼線91を有するシース管90に対応できる。
上述したように、本実施の形態に係るシース管内グラウト充填度検査装置1によれば、コンクリート101をはつり、PC鋼材を露出させる必要がないため、検査費用が大幅に削減でき、検査効率も向上する。さらに、はつり後の補修も必要ないため、補修費が必要なく、補修箇所の経年劣化や補修のミスにより雨水等がシース管まで浸透する虞がない。また、PC鋼材の寸法や材質等に影響を受けず、さらに、鋼線及び鋼棒等のPC鋼材を有するシース管に対応している検査方法であるため、現在橋梁等に用いられているシース管に使用できる。また、検査時の充填・未充填の判断は受信した伝播波形を目視するか、例えばパーソナルコンピュータ等により自動判断が可能であるので、測定者の能力如何にかかわらず精度よく検査することが可能である。
さらに、検出した波形形状からグラウト92の充填・未充填を識別できるため絶対的評価が可能である。これは、例えば100本のシース管を検査して、この中で異常な検査結果が計測されたシース管を未充填と判断するような相対的評価ではなく、伝播波形の形状でグラウト92の充填・未充填が判断できる絶対評価であるため、充填度検査装置1を用いることで、検査精度や判定誤差等を極力減らすことができる。さらに、各種測定用治具を開発したため、測定の効率化の向上が可能となる。
図13は充填度検査装置1の第1の変形例に係る打撃用金属板14を示す正面図である。なお、図13中において、図2と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
打撃用金属板14は、粘着性媒体60に接する面の角部に丸み14aを有している。このような打撃用金属板14を用いることにより、衝撃印加器20により衝撃を印加されても、角部によるノイズ発生を抑制することが可能となる。
図14は充填度検査装置1の第2の変形例に係る打撃用金属板15を示す正面図である。なお、図14中において、図3と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
打撃用金属板15は、打撃用金属板15の対角線上や側面辺上に例えば、斜形の貫通孔15a及び貫通孔15bを備えている。このように、貫通孔15a及び貫通孔15bを設けることにより、衝撃印加時に正方形の4辺及び対角線上に生じるノイズの原因となる定在波の発生を抑制することが可能となる。
図15は充填度検査装置1の第3の変形例に係る打撃用金属板16を示す正面図である。なお、図15中において、図3と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
打撃用金属板16は、長方形状に形成されている。このように打撃用金属板16を形成することにより、打撃用金属板16は、正方形の打撃用金属板15に比べ、4辺の長さを半長波とする定在波を抑制させることが可能となる。
図16は充填度検査装置1の第4の変形例に係る打撃用金属板17を示す正面図である。なお、図16中において、図3と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
打撃用金属板17は、円形状に形成されている。このように打撃用金属板17を形成することにより、方形の4辺及び対角線が存在しないため定在波の発生を抑制することが可能となる。
図17は充填度検査装置1の第5の変形例に係る打撃用金属板18を示す正面図である。なお、図17中において、図3と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
打撃用金属板18は、楕円形状に形成されている。このように打撃用金属板18を形成することにより、方形の4辺及び対角線が存在せず、また、円形より定在波が発生しにくい形状であるため、定在波の発生を抑制することが可能となる。
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではない。例えば、上述した支持アーム12は、打撃用金属板11の端部3箇所に設けられていると説明したが、3箇所でなくても適用できる。また、打撃用治具10と衝撃印加器20とを別にして説明したが、打撃用治具と衝撃印加器を一体に形成しても適用できる。この他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能である。
本発明の一実施の形態に係るシース管内グラウトの充填度検査装置を示す模式図。 同充填度検査装置の打撃用治具を示す模式図。 同打撃用治具の正面図。 本充填度検査装置におけるグラウト充填の検査データの一例を示すグラフ。 本充填度検査装置におけるグラウト未充填の検査データの一例を示すグラフ。 充填度検査装置の検査工程を示すフローチャート。 本発明の衝撃の伝播状態を示す説明図。 ゼロクロス時間の説明を示すグラフ。 ゼロクロス時間Znの説明を示すグラフ。 ゼロクロス周波数fznの一例を示すグラフ。 規格化されたFFznを示すグラフ。 同発明に衝撃を印加したときのコンクリート及びシース管(未充填時)の弾性波の伝播を示す説明図。 本発明の第1の変形例に係る打撃用金属板を示す正面図。 同発明の第2の変形例に係る打撃用金属板を示す正面図。 同発明の第3の変形例に係る打撃用金属板を示す正面図。 同発明の第4の変形例に係る打撃用金属板を示す正面図。 同発明の第5の変形例に係る打撃用金属板を示す正面図。 従来のシース管内グラウト充填度検査装置の原理を示す説明図。 同充填度検査装置で検出した結果の一例を示すグラフ。 同充填度検査装置での橋梁検査の一例を示す説明図。 同充填度検査装置での橋梁検査の一例を示す説明図。
符号の説明
1…充填度検査装置、10…打撃用治具、20…衝撃印加器、30…トリガ波形受信用センサ、40…伝播波形受信用センサ、50…検出器、51…チャンネル1(第1CH)、52…チャンネル2(第二CH)、70…フィルタ、80…増幅器、90…シース管、91…鋼線、92…グラウト、100…高速道路、101…コンクリート。

Claims (9)

  1. コンクリート構造体内部に設置され、鋼材を有するシース管のグラウトの充填度を検査する充填度検査装置において、
    上記シース管の一方の端部に対向する上記コンクリート表面に衝撃を与える衝撃印加手段と、
    上記シース管の他方の端部に対向する上記コンクリート表面に設けられ、上記衝撃によって上記シース管内に発生した振動を伝播波形として検出する伝播波形受信用センサと、
    上記伝播波形に基づいてゼロクロス時間を算出するゼロクロス時間算出手段と、
    算出されたゼロクロス時間に基づいてゼロクロス周波数を算出するゼロクロス周波数算出手段と、
    算出されたゼロクロス周波数を規格化してゼロクロス周波数規格化値を算出するゼロクロス周波数規格化値算出手段と、
    算出されたゼロクロス周波数規格化値に基づいて上記グラウトの充填度を判別する判別手段とを備えていることを特徴とする充填度検査装置。
  2. 上記判別手段は、上記ゼロクロス周波数規格化値を表示する表示装置であることを特徴とする請求項1に記載の充填度検査装置。
  3. 上記判別手段は、相隣接する上記ゼロクロス周波数規格化値の差分の絶対値と、正常・異常とを区別する閾値とを比較する比較手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の充填度検査装置。
  4. 上記衝撃印加手段は、上記コンクリート表面に設けられた粘着性媒体と、
    この粘着性媒体上に設けられた打撃用治具と、
    この打撃用治具に衝撃印加可能に設けられた衝撃印加器とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の充填度検査装置。
  5. 上記打撃用治具は、衝撃が印加される打撃用金属板と、
    この打撃用金属板に設けられ、この打撃用金属板を上記コンクリート上に支持する支持アームと、
    この支持アームのコンクリートに接する箇所に設けられた吸盤とを備えることを特徴とする請求項4に記載の充填度検査装置。
  6. 上記打撃用金属板は、定在波の発生を抑制する抑制手段が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の充填度検査装置。
  7. コンクリート構造体内部に設置され、鋼材を有するシース管のグラウトの充填度を検査する充填度検査方法において、
    上記シース管の一方の端部に対向する上記コンクリート表面に衝撃を与える衝撃印加工程と、
    上記シース管の他方の端部に対向する上記コンクリート表面に設けられ、上記衝撃によって上記シース管内に発生した振動を伝播波形として検出する伝播波形受信工程と、
    上記伝播波形に基づいてゼロクロス時間を算出するゼロクロス時間算出工程と、
    算出されたゼロクロス時間に基づいてゼロクロス周波数を算出するゼロクロス周波数算出工程と、
    算出されたゼロクロス周波数を規格化してゼロクロス周波数規格化値を算出するゼロクロス周波数規格化値算出工程と、
    算出されたゼロクロス周波数規格化値に基づいて上記グラウトの充填度を判別する判別工程とを備えていることを特徴とする充填度検査方法。
  8. 上記判別工程は、上記ゼロクロス周波数規格化値を表示することを特徴とする請求項7に記載の充填度検査方法。
  9. 上記判別工程は、相隣接する上記ゼロクロス周波数規格化値の差分の絶対値と、正常・
    異常とを区別する閾値とを比較する比較手段を備えていることを特徴とする請求項に記
    載の充填度検査方法。
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