JP4890981B2 - 中心偏析の少ないスラブ鋼の連続鋳造方法 - Google Patents
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上記の計算条件のうち特にその計算結果に大きく影響を与えるものとして、(1)(物性データ)凝固潜熱と、(2)(外部からの抜熱条件)2次冷却帯における熱伝達係数/ロール冷却による熱伝達係数と、が挙げられる。
しかし、当該2次冷却帯におけるスプレー/ミスト冷却の熱伝達係数は多種のパラメータが連関する複雑な関数として表されることが報告されている(三塚ら:鉄と鋼、69(1983)、262/三塚:鉄と鋼、91(2005)、1を参照)。当該パラメータは例えば、スプレー流量/水滴のサイズ及び運動量/エアーの量及び圧力/鋳片の表面温度などのことである。
そして上記熱伝達係数は、これらのパラメータが適宜に決定されたとしても測定条件によって結局は大きくバラついているのが現状である。
加えて、上記の実験では、(a)鋳片の上下面における冷却能の差異の、鋳片の移動に伴う変化や、(b)浸漬ノズルの詰まりによる影響、(c)ガイドロール間の溜り水による影響、(d)低温ロールからの冷却による影響、(e)鋳片の酸化具合(スケールの付着厚み)による影響、など実機において発生し得る種々の影響を見積もることが当然できない。
参考として、凝固伝熱計算の計算結果の一例を図7に示す。本図は、前述した三塚らの文献に記載された予測式を用い、上記凝固潜熱を55又は65cal/gとして計算してみたものである。本図において、実線は当該凝固潜熱を65cal/gとして計算したものであり、破線は55cal/gとして計算したものである。本図から判る通り、前記凝固潜熱を略主観的に決定している現状では、結果として、当該固相率とメニスカス距離との関係に、例えば数mオーダにまで及ぶ大きなズレが生じてしまうのである。また、前述した三塚らの予測式が全ての鋳造条件に適合するとは考え難く、何れの予測式を採用するかによっても、同様に当該固相率とメニスカス距離との関係に大きなズレが生じることが容易に推測される。
・鋳型の上端における鋳型厚D[mm]を280≦D≦310とする。
・鋳造速度Vc[m/min]を0.9≦Vc<1.10とする。
・比水量Wt[L/kgSteel]を0.5≦Wt≦1.5とする。
・前記鋳型内に注湯される溶鋼の湯面を起点とし、メニスカス距離M[m]が23〜32である区間としての第1区間Int1におけるロール圧下勾配GRD[mm/m]を0.5〜1.2とする。
先ず、本明細書中において用いる「ロール圧下勾配」を以下の如く定義する。図1は、ロール圧下勾配の定義を説明するための模式図である。
即ち、鋳造経路に沿って複数並設されるロール対のうち、任意のロール対と、該ロール対に対して前記鋳造経路の下流側に隣り合うように配設されるロール対と、の間のロール圧下勾配GRD1-2は、前者ロール対のロールギャップG1[mm]と、後者ロール対のロールギャップG2[mm]と、両ロール対のロールピッチL1-2と、に基づいて下記式により求められるものとする。
GRD1-2=(G1−G2)/L1-2
なお、ロールギャップG[mm]とは、鋳片を挟んで一対で設けられる両ロールの面間最短距離[mm]のことである。
次に、本明細書中において用いる「メニスカス距離M[m]」の定義に関して説明する。本明細書中において「メニスカス距離M[m]」とは、注湯された溶鋼を冷却して所定の形状の凝固シェルを形成するための鋳型内に収容されている溶鋼の湯面を起点とし、鋳造経路に沿った距離[m]とする。
2.前述した図略のタンディッシュから鋳型1へ所定の流量で溶鋼を注湯する。
3.鋳型1内に所定量の溶鋼が注湯されたら、前記のダミーバーを鋳造経路の下流側へ所定の速度で引き抜く。
4.所定のメニスカス距離において上記ダミーバーを適宜の手段により回収し、もって、スラブ鋼は、連続的に鋳造され始める。
また、前記の鋳型1の上端における鋳型厚D[mm]は、280≦D≦310としている。
また、上記の2次冷却帯に設けられている複数の冷却スプレー4・4・・・によって噴霧される冷却水の量としての所謂比水量Wt[L/kgSteel]は、0.5≦Wt≦1.5としている。
即ち、このスラブ鋼のC含有量C[wt%]は、0.08〜0.55とする。以下、簡単に表記する。
・Si[wt%]:0.02〜0.60
・Mn[wt%]:0.3〜1.5
これらの3成分(これらの3成分の偏析具合)は、スラブ鋼を例えば最終製品板厚20mm以上の所謂厚板鋼板として使用する場合、その品質(例えばUT欠陥)に対して特に影響を及ぼすものとされている。
・Cu[wt%]:0〜0.50
・Al[wt%]:0〜0.08
・Ni[wt%]:0〜1.0
・Cr[wt%]:0〜1.0
・Mo[wt%]:0〜0.60
・V[wt%]:0〜0.10
・Nb[wt%]:0〜0.05
・Ti[wt%]:0〜0.10
・B[wt%]:0〜0.002
・Ca[wt%]:0〜0.002
・P[wt%]:≦0.03
・S[wt%]:≦0.015
同様に、説明の都合上、上記夫々のロール対2・2・・・(2iや2i+jなど)のメニスカス距離Mは、各ロール対2・2・・・の符号に付される添え字を伴って表記することとする。例えば、上記のロール対2iのメニスカス距離Mはメニスカス距離Miと表記し、ロール対2i+jのメニスカス距離Mはメニスカス距離Mi+jと表記することとする。
(1) メニスカス距離Mi[m]に配置されているロール対2iのロールギャップGiを測定する。
例:Gi[mm]=290
(2) メニスカス距離Mi+j[m]に配置されているロール対2i+jと、前記のロール対2iと、の間の距離(Mi+j−Mi)[m]を測定する。
例:Mi+j−Mi[m]=1.5
(3) 下記式に示す如く、前記のロール対2i+jのロールギャップGi+jを求める。そして、鋳片を挟むように一対で設けられる前記のロールスタンドのうち少なくとも一方を適宜の手段により移動操作することにより、求められたロールギャップGi+jを前記のロール対2i+jに対して適用する。
Gi+j=Gi−GRD×(Mi+j−Mi)
例:GRD[mm]=0.6、Gi+j[mm]=290−0.6×1.5=289.1
(4) メニスカス距離Mi+j[m]に配置されているロール対2i+jと、下流側のロールスタンドに支持されている複数のロール対2・2・・・のうち最も上流側のロール対2i+1と、の間の距離(Mi+j−Mi+1)[m]を求める。
例:(Mi+j−Mi+1)[m]=1.2
(5) 下記式に示す如く、前記のロール対2i+1に対して適用すべきロールギャップGi+1を求める。そして、鋳片を挟むように一対で設けられる前記のロールスタンドのうち少なくとも一方を同様に適宜の手段により移動操作することにより、求められたロールギャップGi+1を前記のロール対2i+1に対して適用する。
Gi+1=Gi+j+GRD×(Mi+j−Mi+1)
例:Gi+1[m]=289.1+0.6×1.2=289.8
即ち、第1に、鋳片を長手方向に対して垂直に切断する。
第2に、該切断面に現れた前記の第1偏析痕に沿って、複数の小サンプルを10mm間隔で採取する。より具体的には、該切断面に対して垂直にドリル(φ5mm)をあてがい、鋳片を深さ20mm程度に穿孔する。
第3に、第2の穿孔により採取した小サンプルとしての切粉のC含有量C[wt%]を燃焼赤外線吸収法により測定する。
第4に、一の鋳片から採取された各小サンプルのうち最もC含有量C[wt%]の高い小サンプルの該C含有量C[wt%](Cmax[wt%])を記録する。
第5に、本評価の対象たる鋳片の鋳造に対応する取鍋チャージのC含有量C[wt%]であって、タンディッシュ内で鋳造中に別途測定しておいたC含有量C[wt%](Co[wt%])と、上記第4のCmax[wt%]と、を比較して、これらの比Cmax/Coを算出して記録する。
第6に、当該比Cmax/Coが1.2以下だった試験を「◎(中心偏析極少)」と、同じく1.3以下だった試験を「○(中心偏析少)」と、同じく1.4以上だった試験を「×(中心偏析顕著)」と、評価した。
なお、下記表1に示す如くSi及びMnの偏析に関しても同様に評価した。即ち、下記表1中、Simax/Sio及びMnmax/Mnoの列が夫々の偏析評価に対応している。
<ロールピッチ>:鋳造経路に沿って複数で並設される前記のロール対2・2・・・の該並設間隔としてのロールピッチは、300mmとした。
<ロール径>:前記のロール対2・2・・・を構成する各ロール2a・2aの外径は、280mmとした。
<特記ない鋳造経路におけるロール圧下勾配>:上記の第1区間Int1以外の区間におけるロール圧下勾配GRD[mm/m]は、特記ない限り、0〜0.25とした。
・鋳型の上端における鋳型厚D[mm]を280≦D≦310とする。
・鋳造速度Vc[m/min]を0.9≦Vc<1.10とする。
・比水量Wt[L/kgSteel]を0.5≦Wt≦1.5とする。
・前記鋳型内に注湯される溶鋼の湯面を起点とし、メニスカス距離M[m]が23〜32である区間としての第1区間Int1におけるロール圧下勾配GRD[mm/m]を0.5〜1.2とする。
即ち、上記の連続鋳造は、計算誤差や操業バラツキに起因して精確には求め得ない中心固相率は基準とせず、凝固速度に対して支配的な具体的操業条件(具体的には、鋳型厚D・鋳造速度Vc・比水量Wt・メニスカス距離Mとロール圧下勾配GRDとの具体的関係)に基づいて実施される。
従って、中心固相率を計算するための高価な機材の導入や高度な計算技術、計算に長けた人員の確保を不要とできるし、現存の如何なる連続鋳造機においても極めて容易にその実施をできる。しかも、技術的効果の再現性(効果の現出安定性)も極めて高い。
即ち、スラブ鋼を母材として圧延により製造される鋼板の中で、中心偏析に起因する欠陥が問題となるのは、所謂圧下比が10以上であって最終製品厚が20mm以上である、造船又は建築、橋梁用の鋼板である。
上記欠陥のうち代表的なものは、超音波探傷試験においてエコーとして検出される内部欠陥としての所謂UT欠陥である。このUT欠陥は、その程度によっては溶接時の開孔欠陥を招いたり、腐食の優先的な進行を促進させてしまう(「腐食の優先的な進行」とは具体的には、「偏析のない部位と比較して、偏析がある部位(UT欠陥がある部位)の所謂腐食速度を大きくする」ことを意味する。)。
従って、上記超音波探傷試験において検出されるUT欠陥に対して所定の合格基準が設けられており、具体的にはJIS-G-0801の合格基準が設けられている。
そして、本願発明の発明者らによる他の試験研究によれば、前述した比Cmax/Co・比Simax/Sio・比Mnmax/Mnoを1.3以下に(より確実には1.2以下に)抑えれば、前記のUT欠陥に係る合格基準を満たせることが判っている。
要するに、上記第1実施形態に係るスラブ鋼の連続鋳造方法によれば、上記各比(比Cmax/Co・比Simax/Sio・比Mnmax/Mno)を1.3以下に抑えられるので、UT欠陥の合格基準を満たすことができる。
これに加えて、図4において斜線領域で示す如く本実施形態においては、メニスカス距離M[m]が20〜23である区間としての第2区間Int2におけるロール圧下勾配GRD[mm/m]を0.1〜1.2としている。なお、この第2区間Int2における該ロール圧下勾配GRD[mm/m]は、この数値範囲内であれば、一定であっても変動するものであっても何れでもよい。
GRD ロール圧下勾配
Claims (2)
- C含有量C[wt%]を0.08〜0.55とし、Si含有量Si[wt%]を0.02〜0.60とし、Mn含有量Mn[wt%]を0.3〜1.5とするスラブ鋼の連続鋳造方法において、
鋳型の上端における鋳型厚D[mm]を280≦D≦310とし、
鋳造速度Vc[m/min]を0.9≦Vc<1.10とし、
比水量Wt[L/kgSteel]を0.5≦Wt≦1.5とし、
前記鋳型内に注湯される溶鋼の湯面を起点とし、メニスカス距離M[m]が23〜32である区間としての第1区間Int1におけるロール圧下勾配GRD[mm/m]を0.5〜1.2とする、
ことを特徴とするスラブ鋼の連続鋳造方法。 - 前記メニスカス距離M[m]が20〜23である区間としての第2区間Int2におけるロール圧下勾配GRD[mm/m]を0.1〜1.2とする、
ことを特徴とする請求項1に記載のスラブ鋼の連続鋳造方法。
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